上海市

CICI2016:第2位  |  CICI2017:第2位  |  CICI2018:第2位  |  CICI2019:第2位


世界に誇る商業都市

 上海市は中国最大の国際商業都市であり、四大直轄市の1つで、長江デルタメガロポリス(「メガロポリス」の詳細は第2部「メガロポリス発展戦略」を参照)の中枢都市である。上海市の面積は約6,340km2で群馬県とほぼ同じ大きさであり、常住人口は約2,426万人と東京都の人口の約2.6倍の規模を誇る。GDPは2.35兆元(約40兆円、1元=約17円)で中国の地級市以上の295都市の中で堂々第1位、国別で比較すればそのGDP規模はコロンビアのGDP(約39.9兆円)を超えている。

 世界有数の金融センターに成長した浦東エリアは、ほんの20数年前まではのどかな田舎だった。1992年に「浦東新区」に指定されたことを契機として次々に摩天楼が建設され、「中国の奇跡」と讃えられるほど急速に発展していった。

 現在、上海市内には証券取引所、商品先物取引所、そして合計8カ所の国家級開発区と、自由貿易試験区、重点産業基地、市級開発区等が設置されている。〈中国都市総合発展指標2016〉の「金融輻射力」においても、上海市は北京市を抜いて第1位の座に輝いている。

 上海市の交流・交易機能も突出しており、本指標の「空港利便性」、「コンテナ港利便性」においても上海市は第1位となっている。上海虹橋国際空港と上海浦東国際空港を合わせた2016年の旅客輸送者数は約9,500万人に達し、航空貨物も約370万トン取り扱われ、いずれも中国随一の処理能力を誇っている。港湾機能も突出しており、コンテナ取扱量は世界で8年連続第1位に輝き、その規模は4,023万TEU(20フィートコンテナ1個を単位としたコンテナ数量)(2017年)に達している。

(2016年度日本語版・トップ10都市分析)


G60科学技術イノベーション回廊(G60上海松江科創走廊)

 現在、上海をはじめとした長江デルタエリアでは、2つの目玉プロジェクトが進行している。その1つとは、「G60科学技術イノベーション回廊(G60上海松江科創走廊)」である。2016年に発足した同プロジェクトは、米国ボストン周辺のルート128にハイテク企業を集積させたことに因み、高速道路G60の上海市松江区から浙江省金華市までの区間沿いに、イノベーション関連企業を集積させる試みである。その後、構想はさらに松江から外側へ延びる他の高速道路や高速鉄道の沿線に広がった。現在、同プロジェクトに参加する都市は、上海(松江)、嘉興、杭州、金華、蘇州、湖州、宣城、蕪湖、合肥の9都市に及んだ。

 この9都市の人口、GDPの合計は、それぞれ約4,900万人、約6.4兆元(約96兆円、2019年)にも達している。同構想は、9都市における環境、ロボット、自動車部品など基幹産業の連帯的な発展を促すためにモデル産業パークの設置や、金融サービスの提携、人材の交流などの施策を打ち出した。また、長江デルタメガロポリスにおける地域協力のモデルとして、9都市間の通勤、通学、物流などを推し進めるためのインフラ整備や制度整備なども行っている。

 雲河都市研究院は同プロジェクトから要請を受け、「長江デルタG60科学技術イノベーション回廊ハイクオリティ発展指数」、「長江デルタG60科学技術イノベーション回廊一体化発展指数」の両指標を開発、プロジェクトの進捗状況を明らかにすると同時に、その方向性づくりに協力している。

(2018年度日本語版・トップ10都市分析)

上海自由貿易試験区臨港新片区

 上海で進むもう1つの目玉プロジェクトは「上海自由貿易試験区臨港新片区」(以下、新片区)開発プロジェクトである。2019年8月に発足した新片区は、上海中心部から南東へ約70キロメートルに位置し、総面積873平方キロメートルの巨大国家プロジェクトである。

 新片区は投資・貿易・資本・輸送・人材の自由化を進め、質の高い外資を誘致し、産業と都市の融合発展を目指す。まずは、スタートエリアとして120平方キロメートルの開発を計画中だ。

 新片区には、すでに、テスラ(Tesla)、シーメンス(Siemens)、キャタピラー(Caterpillar)、そして日本からYKKなどの国際的に名高い企業が進出している。

 なお、新片区は、上海臨港経済発展(集団)有限公司が開発を担っているが、2019年11月下旬、雲河都市研究院は当該集団と戦略提携を結び、同プロジェクトを支援している。

(2018年度日本語版・トップ10都市分析)

映画市場のマイナス成長

 2019年、「第22回上海国際映画祭」が開催された。同映画祭は1993年から隔年で開催され、2002年からは毎年開催されている。毎年この時期には全国から大勢の映画ファンが上海に集結する。〈中国都市総合発展指標2018〉によると、上海市は「映画館・劇場消費指数」第1位の都市である。

 近年、中国の映画市場は右肩上がりで成長し、その規模は2011年には日本を追い抜き、現在ではアメリカに次ぐ世界第2位となっている。日本の作品ではアニメ映画「となりのトトロ」、「千と千尋の神隠し」が中国で上映され、大ヒットを遂げた。

 しかし、2019年に入ると急成長を遂げた中国映画市場に陰りが見え始めた。その最大の要因は、映画チケットに対する補助金制度の廃止である。2014年に開始されたこの制度によって、消費者は安価でチケットを購入することが可能となった。割り引かれた分はチケット販売サイトが負担する。そこに政府が補助する仕組みだった。補助金制度を止めた結果、客足が遠のき、映画館の閉館が相次いだ中国の映画市場は、新型コロナウイルスショックも加わり、下降状況はさらに加速している。

(2018年度日本語版・トップ10都市分析)


改革開放40周年を迎える中国と上海

 中国は2018年、改革開放40周年を迎えた。この40年間で、中国経済の規模は世界第2位に躍進し、1978年に世界11位だった経済規模が、2009年には日本を抜いて堂々世界第2位に達した。2017年のGDPは12.3兆ドル(約1,381兆円)に膨れ上がり、世界経済全体の約15%を占めるまでに成長した。

 改革開放の象徴的な都市は何と言っても「GDP規模」で全国第1位の上海であろう。その上海の中でもとりわけ経済発展を牽引したのが、上海浦東新区である。

 1990年から建設が始まった浦東新区は、わずか28年間で、何もなかっただだっ広い畑が高層ビルの立ち並ぶ国際金融センターへと様変わりした。また、全国ではじめて保税区、自由貿易試験区、保税港区が設置され、浦東新区の経済規模は設立以来およそ160倍にまで拡大した。

 今後も上海は対外開放拡大の牽引役として、またグローバルシティとして、絶えず新しい活力を放出し続けるだろう。

(2017年度日本語版・トップ10都市分析)

第15回上海書展(上海ブックフェア)が開催

 上海市民に人気の恒例「第15回上海書展(上海ブックフェア)」が2018年8月、上海市政府主催により「上海展覧中心」で開催された。展示面積2.3万 m2という巨大規模で、参加した出版社は500社以上、15万冊の書籍展示に加えて読書イベントが1,000回以上行われ、展覧会での売上は5,000万元(約8.1億円)を記録した。このブックフェアは年々評判を増し、今年は30万人以上の来場者があった。

 中国の出版産業は好調である。2016年、中国の書籍小売り市場の規模は701億元(約1.1兆円)で前年比12.3%増の成長であった。そのうち、実店舗での販売規模は336億元(約5,438億円)で前年比2.3%減、 オンラインでの販売規模は365億元(約5,907億円)で前年比30%増であった。2016年に、はじめてオンラインでの書籍販売が実店舗での販売額を超え、特に大型サイトでの書籍販売は年々増加の一途をたどっており、今後もこの勢いは続いていくとみられている。

 大手オンライン書籍販売サイト「当当網」の2017年度書籍販売のフィクション部門トップ10には、海外の翻訳書が7作品ランクインした。第1位には太宰治『人間失格』の翻訳本、第2位には東野圭吾『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の翻訳本、第10位には同じく東野圭吾の『白夜行』の翻訳本が入り、日本人作家の人気の高さを示した。近年、村上春樹、綾辻行人、新海誠など日本の人気小説が次々と中国語に翻訳され出版されている。中でも東野圭吾は絶大な人気があり、『容疑者Xの献身』『ナミヤ雑貨店の奇蹟』は中国で映画化もされているほどである。マンガやアニメに小説が加わり、日本のコンテンツには中国から熱い視線が送られている。

(2017年度日本語版・トップ10都市分析)

第1回中国国際輸入博覧会

 2018年11月、第1回中国国際輸入博覧会が上海市政府ほかの主催により市内「国家会展中心」で開催された。この博覧会は習近平国家主席肝煎りの一大イベントであり、貿易の自由化と経済のグローバル化を推進させ、世界各国との経済貿易交流・協力の強化を促進するための見本市と位置づけられている。博覧会には100数カ国・地域から出品され、中国内外から15万社のバイヤーが参加した。

 世界最大の人口を持ち世界第2位の経済体にまで成長した中国は、消費と輸入が急伸し、すでに世界の第2位の輸入と消費を誇るまでに成長している。今後さらに5年間で10兆ドル以上の商品・サービスを輸入する巨大市場にまで成長することが見込まれている。

 その巨大市場の中心地の一つが上海である。上海は世界最大クラスのメガロポリス「長江デルタ」の中心都市であり、巨大な人口と経済規模を兼ね備え、中国国内で最もサービス業が発達している都市の一つであり、いまや世界中の資源が上海に集中していると言っても過言ではない。上海港のコンテナ取扱量は7年連続世界一を記録し、〈中国都市総合発展指標2017〉では「コンテナ港利便性」は全国第1位を獲得。空港の旅客数は1億人を超え、直行便は世界282都市にまで広がり、「空港利便性」も全国第1位を獲得している。内需主導型経済への移行を目指す中国にとって、上海市での同イベントの成功は、今後の中国にとって一つのシンボルとなるだろう。

(2017年度日本語版・トップ10都市分析)


人口抑制政策

 上海市の流動人口(戸籍のない常住人口)は約987.3万人に達し、常住人口の約4割が外からの流入人口となっている。本指標の「人口流動」項目で、上海市は第1位となっている。2015年末時点では、外国人は約17.8万人、日本人は約4.6万人が居留している。短期滞在者も含めると約10万人もの日本人が暮らしており、日系企業も約1万社が上海に居を構えている。

 2018年1月、市政府は「上海市都市総体計画(2017—2035年)」を発表した。計画の特徴の1つに人口抑制政策が挙げられる。人口集中による弊害を懸念する同市政府は人口を厳しく抑制し、2020年までに常住人口を2,500万人にまで抑え、2040年までその水準を保つことを打ち出した。上海市政府は以前から人口抑制政策を進めており、同市政府発表によると、2017年末の市内の常住人口は2016年末に比べ約1万人減少した。

(2016年度日本語版・トップ10都市分析)

エンターテインメント産業の爆発

 所得水準が向上したことにより、中国の消費者の関心はモノ消費からコト消費に向かっている。一例として中国のテーマパーク産業の急激な発展がある。現在、国内には2,500カ所以上のテーマパークがあり、とりわけ5,000万元(約8.5億円)以上を投資したテーマパークは約300カ所もある。2016年6月、中国で初のディズニーパークとなる「上海ディズニーランド」が開園した。総工費は「東京ディズニーシー」の約2倍となる約55億ドル(約6,500億円)が投じられ、面積は約390ヘクタールで、これも「東京ディズニーランド」(200ヘクタール)の約2倍の広さを誇る。入場者数は開業1年で1,100万人を動員、黒字を実現し、現在も拡張工事が進められている。中国では、「ユニバーサルスタジオ北京」をはじめ、大型テーマパークは2020年までにさらに60カ所以上増えるとされ、総投資額は238億ドル(約2.7兆円)になることが予想されている。

 映画産業の発展も目覚ましい。2017年の中国映画市場の興行収入額は559.1億元(約9,600億円)となり、前年を13.5%上回る伸び率を記録した。2016年の伸び率は3.7%と低調だったが、2017年は3倍以上の伸びとなった。観客数は16.2億人を記録し、上海市が最も興行収入が高かった都市となり34.9億元(約600億円)であった。2016年、中国の映画スクリーン数は41,179スクリーンとなり、初めてアメリカのスクリーン数(40,759スクリーン)を抜いて、世界第1位のスクリーン数を持つ映画大国となった。ちなみに日本は中国の約8.5%にあたる3,472スクリーンであった。

(2016年度日本語版・トップ10都市分析)