【フォーラム】〈中国都市総合発展指標2018〉 フォーラム

〈中国都市総合発展指標2018〉フォーラムにて

 中国国家発展委員会発展戦略和計画司と雲河都市研究院が主催する「中国都市総合発展指標2018フォーラム」が2018年12月27日、北京・中国科学院学術会堂で開催された。フォーラムでは中国都市総合発展指標2018報告書が発表された。報告書は環境・社会・経済という3つの軸から、298にのぼる中国のすべての地級市以上の都市を評価した。

 同指標は中国国家発展委員会発展戦略和計画司と雲河都市研究院が共同で開発した。報告書の特徴の1つは、中国の都市化の現状に鑑み、毎年メインテーマを定めて報告書を公表することにある。2016年のテーマはメガロポリス発展戦略、2017年は中心都市発展戦略、2018年は大都市圏発展戦略に焦点を絞った。2016年から中国都市総合発展指標におけるすべての地級市以上の都市のランキングは公表している。

 フォーラムではまず、中国都市総合発展指標2018総合ランキング、そして「環境」、「社会」、「経済」三大項目ランキングを発表した。


中国都市発展の質的向上のキーはDID


 中国都市総合発展指標専門家委員長の周牧之東京経済大学教授は、報告書を発表し、中国都市化の特徴として、各機能が高度に大都市に集中していることを取り上げ、解説した。

 周牧之氏はさらに、報告書が独自に導入した「人口集中地区(DID)」という概念を使用し、中国都市発展の質を分析した。「中国では人口規模・密度が都市の環境およびインフラに及ぼす負荷を過度に強調しており、高密度人口が都市発展活力の重要な基礎であるとの認識に欠けている。中国は今後この誤った認識を正し、DIDの規模と質の向上を通じて都市の活力を高めるべきだ」と指摘した。

 報告書は2000〜2016年の中国都市化の重要指標を分析した。これによると、同期間に中国の実質GDPは約4.3倍に、都市部市街地面積は約2.8倍に膨らんだ。しかし、DID人口は僅か20%しか増加しなかった。周牧之氏は「土地の都市化のスピードが人口の都市化のそれをはるかに上回っていた」と説明した。

 またこの期間中、中国の1人当たり実質GDPは約3.9倍となった。GDP単位当たりのエネルギー消費量は40%減少し、GDP単位当たりのCO2排出量は30%減少した。しかし1人当たりのエネルギー消費量が大幅に増加し、1人当たりの電力消費量は4.3倍になった。その結果、CO2排出量が約3.1倍に激増し、中国は世界最大のCO2排出国になった。周牧之氏は「中国は経済発展と都市建設のクオリティを高める必要がある」と指摘した。

北京 VS 東京


 中国都市総合発展指標のもう1つの特徴は、都市の国際比較を可能としたことにある。

 報告書は人口、GDP、CO2排出量、PM2.5など指標について、東アジア2大都市圏である北京都市圏(北京)と東京都市圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)を比較分析した。それによると、北京市の面積は、東京都市圏の約1.2倍であるが、常住人口とDID人口はいずれも東京都市圏の約60%に留まる。北京のGDP規模は東京都市圏の3割程度で、1人当たりGDPも半分前後となっている。しかし北京のGDP当たりエネルギー消費量は東京都の7.4倍で、単位当たりGDPのCO2排出量は東京都市圏の4.7倍となっている。その結果、人口とGDPの規模で東京都市圏を大きく下回る北京だが、CO2排出量はその1.2倍となった。

 周牧之氏は「東京都市圏と比べると、北京は都市圏発展戦略の実施を通じ、DID空間構造、経済構造、ライフスタイルを改善し、資源効率を高めるべきである」と話した。

都市を理解するフレームワーク


 上海浦東新区管理委員会で初の主任を務めた趙啓正中国国務院新聞弁公室元主任はフォーラムへメッセージを寄せた。「報告書は都市を理解する新たな理念とフレームワークを提供した。これは中国の市長にとって極めて役立つ参考書だ」と評価した。

 趙啓正氏はまたメッセージの中で、人の健康を多くの重要指標で測るのと同じように、都市という「大きな体」も指標で測るべきだとした。

 趙啓正氏はまた、「今日の中国都市建設は、中国都市総合発展指標が提供する理念、合理性と総合性の枠組みを必要としている。これは時代の要請だ」と述べた。

都市のハイクオリティ発展を促す指標へ


 中国都市総合発展指標専門家委員会の首席専門家、中国共産党中央財経領導小組弁公室元副主任の楊偉民氏がフォーラムに出席し、基調講演した。楊偉民氏は、環境・社会・経済という3つの軸から都市の発展を評価する同指標を、中国都市の健康状況を見極める総合的な「健診報告」にたとえ、「どの都市が比較的健康で、どの都市がどういった問題を抱えているかが分かる。その意味では指標は、都市の進むべきディレクションを示した」と述べた。

 楊偉民氏は、中国におけるハイクオリティ発展を論じた上で、ハイクオリティ発展を目指した都市間の競争を促す指標が必要とされ、中国都市総合発展指標はすでにこうした機能を備えている」と述べた。楊氏はさらに、同指標を中国都市のハイクオリティな発展を検証する指標体系として明確に位置付けなければならないとし、中国国家発展改革委員会発展戦略和計画司に、そのことを上級指導機関へ報告すると同時に、各都市へも中国都市総合発展指標を推薦すると指示した。

「楽譜」の特徴と今後の展開


 周其仁北京大学教授は、中国都市総合発展指標を都市発展の「楽譜」にたとえ、各都市の市長らはこの「楽譜」を読み込む力を高めることが大切だと指摘した。

 中国統計局元局長の邱暁華氏は、同指標を中国都市発展の羅針盤、年鑑、成績表そして診断表でもあるとし、指標の製作と発表を続けていくことの意義を強調した。

 中国国土資源部(省)元副部長の胡存智氏は、「3×3×3構造」に着目し、指標体系の簡潔さを評価した。また同指標のデータの中で、衛星リモートセンシングデータやビッグデータを取り入れたことの意義を力説した。

 中国国家戦略新興産業発展委員会秘書長の杜平氏も、中国都市総合発展指標を指標構造、データ選定、指標開発、国際比較など4つの特徴から分析した。同指標を先見性と戦略性を持ち、ハイクオリティの発展を求める中国の都市にとって実用性の高い政策・計画ツールであると讃えた。

 さらに、中米グリーンファンド会長の徐林氏、中国科学院創新発展研究センター主任の穆栄平氏、人民出版社副社長の李春生氏、中国国家統計局社会科学技術文化産業司司長の張仲梁氏北京政治協商会議副秘書長の李昕氏らが、同指標の今後の展開について議論した。

 中国国家発展委員会発展戦略和計画司副司長の周南氏が司会を務め、各省庁関係者、都市問題専門家およびメディア関係者ら約50人がフォーラムに出席した。

【フォーラム】北京、上海、深圳がトップ3 中国都市総合発展指標2018が北京にて発表

 中国国家発展改革委員会発展計画司と雲河都市研究院が主催する「中国都市総合発展指標2018フォーラム」が2018年12月27日、北京市で開催された。会議では中国都市総合発展指標2018報告書が発表された。報告書は環境・社会・経済という3つの軸から、中国のすべての地級市以上の都市(298都市)を評価した。
 同報告書は中国国家発展改革委員会発展計画司と雲河都市研究院が共同作成。2016年の「メガロポリス発展戦略」、2017年の「中心都市発展戦略」というテーマに続き、2018年の報告書は「大都市圏発展戦略」に焦点を絞った。中国の大都市圏の発展の現状、直面している課題を整理し、論じた。

 


<中国都市総合発展指標2018> 都市ランキング発表


中国都市総合発展指標2018総合ランキング
中国都市総合発展指標2018総合ランキング

 報告書によると、〈中国都市総合発展指標2018〉総合ランキングでは、昨年同様、北京、上海、深圳がトップ3となった。4−10位は広州、天津、杭州、重慶、成都、南京、武漢となった。

中国都市総合発展指標2018環境ランキング
中国都市総合発展指標2018環境ランキング

 「環境」大項目のトップ3は、これも昨年同様に深圳、三亜、海口。4−10位は普洱、北京、アモイ、広州、上海、福州、重慶となった。北京はPM2.5の状況改善により順位を上げた。

中国都市総合発展指標2018社会ランキング
中国都市総合発展指標2018社会ランキング

 「社会」大項目のトップ3は、やはり昨年同様北京、上海、広州。4−10位は杭州、天津、重慶、成都、深圳、武漢、南京であった。

中国都市総合発展指標2018経済ランキング
中国都市総合発展指標2018経済ランキング

 「経済」大項目のトップ3も昨年同様で、上海、北京、深圳となった。4−10位は広州、天津、蘇州、成都、杭州、重慶、武漢であった。

 

各機能が高度に大都市に集中


 中国都市総合発展指標専門家委員長の周牧之東京経済大学教授は、報告書を発表するにあたり「各指標を総合的に見ると、中国では、各種機能が大都市に高度に集中する傾向があり、都市の二極化が非常に顕著だ」と指摘した。
 GDP規模で見ると、上位30都市が全国GDPに占める比率は42.5%となっている。メインボード上場企業数を見ると、上位30都市が全国に占める比率は69.7%で、うち上位3都市は全国の39.6%を占めている。製造業輻射力を見ると、上位30都市の貨物輸出が全国に占める比率は74.9%に達している。空港利便性を見ると、上位30都市の旅客取扱量は81.3%にのぼる。コンテナ港利便性を見ると、上位30都市のコンテナ取扱量は97.8%に達した。高等教育輻射力を見ると、上位30都市の“211大学”・“985大学”(中国トップ校)の数は全国の92.8%をも占めている。医療輻射力を見ると、上位30都市の“三甲病院”(トップ級病院)の数は全国の約50.2%にのぼる。

 

中国都市発展の質的向上のキーはDID


 報告書の大きな特色の一つは、「人口集中地区(DID)」という概念を導入し、中国都市発展の質を分析した。報告書は人口が1平方キロメートル当たり5000人以上の地区をDIDと定義し、DID人口と主要指標との相関関係を分析した。その結果、DID人口と都市発展の活力及び品質の間に、極めて高い関連性があることを確認した。
 周牧之氏は「中国では人口規模・密度が都市の環境及びインフラに及ぼす負荷を過度に強調しており、高密度人口が都市発展活力の重要な基礎であるとの認識に欠けている。中国は今後この誤った認識を正し、DIDの規模と質の向上を通じて都市の活力を高めるべきだ」と指摘した。

 

中国では人口の都市化より都市エリアの拡張が速い


 周牧之氏は「中国経済の真の大発展は21世紀以降に起きた。その大発展を促した2つの原動力は、WTO加盟後の国際貿易と都市化だ」と述べた。
 報告書は2000−16年の中国都市化の重要指標を分析した。分析によると、この期間に中国の実質GDPは約4.3倍に、都市部市街地面積は約2.8倍に膨らんだ。しかし、DID人口は僅か20%しか増加しなかった。周牧之氏は「土地の都市化のスピードが人口の都市化のそれをはるかに上回っていた」と説明した。
 またこの期間中、中国の一人当たり実質GDPが約3.9倍になった。GDP単位あたりのエネルギー消費量は40%減少し、GDP単位あたりのCO2排出量は30%減少した。しかし1人あたりのエネルギー消費量が大幅に増加し、1人あたりの電力消費量は4.3倍になった。その結果、CO2排出量が約3.1倍に激増し、中国は世界最大のCO2排出国になった。周牧之氏は「中国は経済発展と都市建設のクオリティを高める必要がある」と指摘した。

 

北京 VS 東京


 報告書は人口、GDP、CO2排出量、PM2.5など指標について、東アジア2大都市圏である北京都市圏(北京)と東京都市圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)を比較分析した。それによると、北京市の面積は東京都市圏の約1.2倍であるが、常住人口とDID人口はいずれも東京都市圏の約60%に留まる。北京のGDP規模は東京都市圏の3割程度で、1人あたりGDPも半分前後となっている。しかし北京のGDPあたりエネルギー消費量は東京都の7.4倍で、単位当たりGDPのCO2排出量は東京都市圏の4.7倍となっている。その結果、人口とGDPの規模で東京都市圏を大きく下回る北京だが、CO2排出量はその1.2倍となっている。
 周牧之氏は「東京都市圏と比べると、北京は都市圏発展戦略の実施を通じ、DID空間構造、経済構造、ライフスタイルを改善し、資源効率を高めるべきである」と話した。

 

中国の都市を理解する枠組み


 上海浦東新区管理委員会で初の主任を務めた中国国務院新聞弁公室元主任の趙啓正氏はフォーラムへのメッセージの中で、「報告書は都市を理解する新たな理念と枠組みを提供した。これは中国の市長にとって極めて役立つ参考書だ」と指摘した。
 趙啓正氏はまたメッセージの中で、人の健康を多くの重要指標で測るのと同じように、都市という「大きな体」も指標で測るべきだとした。
 趙啓正氏はまた、「今日の中国都市建設は、中国都市総合発展指標が提供する理念、合理性と総合性の枠組みを必要としている。これは時代の呼び声だ」と述べた。
 中国都市総合発展指標専門家委員会の首席専門家、中国共産党中央財経領導小組弁公室元副主任の楊偉民氏がフォーラムに出席した。楊偉民氏は、「報告書は環境・社会・経済という3つの軸から都市の発展を評価し、どの都市が比較的健康で、どの都市がどういった問題を抱えているかが分かる。その意味では指標は、都市の進むべきディレクションを示した」と述べた。
 北京大学教授の周其仁氏、中国国土資源部(省)元副部長の胡存智氏、中国統計局元局長の邱暁華氏中国国家戦略新興産業発展委員会秘書長の杜平氏中米グリーンファンド会長の徐林氏国家統計局社会科学技術文化産業司司長の張仲梁氏中国国家発展改革委員会発展計画司副司長の周南氏など、都市問題専門家及びメディア関係者50人以上がフォーラムに出席した。

 中国都市総合発展指標の2016年版と2017年版の日本語版は、すでに各々中国都市ランキングー中国都市総合発展指標中国都市ランキング2017―中心都市発展戦略のタイトルで、NTT出版から刊行された。


「中国網日本語版(チャイナネット)」2018年12月30日

【書評】全295都市を精査 データ、図解で活況提示

評者 高橋克秀(国学院大学教授)

 中国のおよそ300の都市を独自の「都市総合発展指標」によってランキングし、上位都市の強みと弱みを分析したリポートである。それぞれの都市を環境、社会、経済など27項目のデータから客観的に評価した点に特徴がある。

 総合ランキング1位は北京市。上海市は僅差の2位となった。北京と上海は別格として、3位に食い込んだのは、いま中国で最も勢いがある新興都市である。長い歴史を誇る広州市と天津市を抑えて、深圳市が堂々の上位に進出した。人口3万人の漁村だった深圳は40年足らずで1000万人都市となり、中国のシリコンバレーに変貌した。

 1980年に経済特区に指定された当初は安価で豊富な労働力を利用した輸出加工拠点として成長し、「世界の工場」のモデルとなった。しかし近年はイノベーション都市に進化した。深圳からはテンセント、ZT E、ドローンのDJI、電気自動車のBYDなど世界的企業が生まれている。

 深圳の強みは若さと起業家精神だ。平均年齢は32.5歳。15歳未満人口は13.4%。生産年齢人口である15歳以上65歳未満が83.2%を占め、65歳以上は3.4%にすぎない。起業マインドが旺盛で、1人当たりの新規登録企業数は北京の3倍だ。

 さらに、広州から深圳を経由して香港に至る広深港高速鉄道が今年9月に全線開通したことで、「珠江デルタ」と呼ばれるこの地域が巨大な経済圏として浮上してきた。東莞、仏山、中山など有力都市も含む珠江デルタの域内GDP(国内総生産)は2025年までに310兆円に達するという試算もある。

 上海の西部に位置する6位の蘇州市は風光明媚な観光地のイメージが強かったが、90年代以降は大規模な工業団地を造成して外資系製造業を造成して外資系積極的に呼び込んで急成長した。しかし、古都の風情は失われた。7位の杭州市も古くから栄えた景勝地だが、99年に設立されたアリババ(中国の情報技術企業)がけん引役となってIT都市へと変貌した。

 一方、8位の重慶市は世界最大級の3000万人の人口を擁しながら人口流出が目立つ。ランキング20位入りした都市は西部沿海部と内陸の拠点都市が大半。東北地方からは大連市が19位に入っただけである。

 現代中国の都市間競争のカギはスタートアップ企業の活力とイノベーションのようだ。本書の残念な点は21位以下のランキング表が載っていないことである。地方都市の情報を盛り込んだ改訂版を期待したい。


【掲載】週刊エコノミスト 2018年10月16日号