雲河都市研究院
■ 世界経済のマイナス成長の中、中国は2.3%成長を実現
新型コロナウイルスパンデミックは、世界経済に大きく影を落とした。世界経済の成長率は2018年の6.3%、2019年の1.6%から、2020年には-2.7%とマイナス成長に転じた。
図1が示すように、2020年国・地域別GDPランキングトップ10は、アメリカ、中国、日本、ドイツ、イギリス、インド、フランス、イタリア、カナダ、韓国と続く。コロナショックで、トップ10の国々は軒並みマイナス成長に陥った。その中で唯一中国はプラス成長し、3.1 %の成長率を実現した。
東京経済大学の周牧之教授は、「逆風の中、中国がプラス成長を維持できたのは、ゼロコロナ政策の成功とグローバルサプライチェーン型産業集積の強靭さ故である」と分析している。
図1 2020年国・地域別GDPランキング
図2が示すように、世界の経済規模は1990年から2020年までに、3.7倍に拡大した。この間、米国のGDPも3.5倍に拡大した。過去30年間、世界経済に占めるアメリカの割合は大きく変化していない。2020年は米国が24.5%の世界シェアを維持した。
一方、中国は、2001年のWTO加盟を機に世界経済における存在感が急速に増してきた。2020年の中国GDP 規模は、1990年の37.3倍にまで達した。世界経済に占める中国のシェアも、1990年は1.7%に過ぎなかったが、2020年は17.3%にまで拡大した。
長期にわたる中国の高度成長により、世界経済におけるアメリカと中国の二大巨頭態勢が確立した。米中両国を合わせた経済規模は、2020年の世界経済の41.7%にも達した。日本はGDPランキング世界3位であるものの、世界経済に占める割合はわずか5.9%に過ぎない。米中の経済規模は、3位の日本から24位のスウェーデンまでの22カ国・地域の経済規模の合計に匹敵するほどである。
図2 1990〜2020年世界GDP推移
■ 一国経済規模に匹敵するまでに至った中国の都市力
2020年中国都市GDPランキングにおいて、順に上海、北京、深圳、広州、重慶がトップ5を飾った。この5都市の経済規模は他都市を大きく引き離している。6位から10位の都市は、順に蘇州、成都、杭州、武漢、南京の5都市であった。
中国では北京、上海、重慶、天津の四大直轄市が人口規模、面積そして中枢機能と産業集積などにおいて他都市と比較して格別である。しかし、グローバルサプライチェーンの展開をベースにした沿海部都市の発展は著しい。深圳、広州の経済規模はすでに重慶、天津を超え、北京、上海と並び、中国で「一線都市」と呼ばれるようになった。
四つの「一線都市」の経済力は、どれほどなのか?2020年上海の経済規模は世界の国別GDPランキング24位のスウェーデンを超えた。北京は同25位のベルギーを、深圳は同31位のアルゼンチンを、広州は同33位のノルウェーを超えた。
周牧之教授は、「いまや中国の都市は一国の経済力に匹敵するまで成長した」と語る。
■ 中心都市と製造業スーパーシティという二つの大きな存在
中国では都市の逆転劇が激しく起こっている。中でも、一漁村から出発した深圳が、過去20年間でその経済規模を17倍へと膨れ上がらせ、GDPランキング3位を不動としたのに対し、直轄市の天津はトップ10から脱落したことが象徴的である。
GDPランキングは中国全297地級市(地区級市、日本の都道府県に相当)以上の都市をカバーする。このなかでは四大直轄市、22省都、5自治区首府、5計画単列市からなる36「中心都市」の存在感が際立つ。GDPランキングトップ10には9中心都市、トップ30には19中心都市がランクインし、中心都市の優位性も明らかとなった。まさにこの36中心都市が改革開放以来の中国社会経済の発展を主導したことが見て取れる。
GDPランキング30のもう一つ大きな存在は、製造業スーパーシティである。トップ30には蘇州、無錫、仏山、泉州、南通、東莞、煙台、常州、徐州、唐山、温州といった11の非中心都市がランクインした。とくに蘇州はトップ10の6位に食い込んだ。この11都市は、すべて沿海部に属する製造業スーパーシティである。
周牧之教授は、「改革開放以降、中国の急速な工業化を牽引してきたこれらの製造業スーパーシティは、グローバルサプライチェーンのハブとなっている」と指摘している。
図3 2020年中国都市GDPランキングトップ30都市
■ 殆どのトップ30都市が経済成長を実現
2020年、新型コロナウイルスパンデミックの中、世界の主要国がマイナス経済成長に陥ったにもかかわらず、中国はゼロ・コロナ政策により2.3%の経済成長を遂げた。
2020年GDPランキングトップ30都市のうち、武漢だけが−4.7%成長であったが他の都市はすべてプラス成長を実現した。主要都市の強靭さが中国経済成長を支えた。
■ GDPランキングトップ30都市は中国経済の半分弱を稼ぐ
GDPの集中度でみると、2020年のGDP規模は、トップ5都市が全国の15.0%、トップ10都市が全国の23.3%、トップ30都市が全国の43.0%を占めている。これは、中国297都市のうち、上位10%の都市に富の半分弱が集中していることを意味する。
図4 2020年中国都市におけるGDPの集中度
■ 三大メガロポリスの存在感は顕著
2020年GDPランキングトップ30の地理的な分布には三つの特徴がある。
ひとつは前述のように、四大直轄市、22省都、5自治区首府、5計画単列市からなる中心都市の優位が顕著である。
二つ目は京津冀(北京・天津・河北)、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスに集中している。
2020年GDPランキングトップ30には京津冀メガロポリスから2位の北京、11位の天津、28位の唐山がつけた。
長江デルタメガロポリスから1位の上海、6位の蘇州、8位の杭州、10位の南京、12位の寧波、14位の無錫、20位の合肥、21位の南通、26位の常州、27位の徐州、30位の温州がランクインした。
珠江デルタメガロポリスから3位の深圳、4位の広州、17位の仏山、24位の東莞がランクインした。
三大メガロポリスから18都市がGDPランキングトップ30に入り、その存在感を誇示している。
周牧之教授は、「これは、製造業スーパーシティが三大メガロポリスに集中することの結果である。特に長江デルタ、珠江デルタ両メガロポリスには世界最強のグローバルサプライチェーン型産業集積が展開している」と解説する。
■ 南強北弱構造が深刻に
2020年GDPランキングトップ30の地理的分布の三つ目の特徴は、南強北弱構造が一層明らかになったことである。
GDPランキングトップ10には北部の都市では首都北京しか残っていない。とくに重化学工業力を誇示していた東北3省の衰退ぶりは凄まじく、いまや大連だけがかろうじて29位に入り、瀋陽、長春、ハルビンといった省都はことごとくトップ30から脱落した。
対照的に、南部とくにその沿海地域の躍進ぶりは華々しい。
周牧之教授は、「深刻さを増す南強北弱構造が中国の国土発展バランスを悩ませる大きな課題となっている」と述べている。