雲河都市研究院
■ 世界最大の生産量を誇る中国自動車産業
新型コロナウイルスパンデミックにより、世界の自動車産業も大きな打撃を受けている。2020年の世界自動車生産台数は前年比-15.8%の約7,762万台にまで落ち込んだ。2021年には、生産台数ピークを迎えた2017年の82.4%に当たる約8,015万台にまで回復した。
現在、世界の自動車製造業の中心に位置するのは中国である。図1より、2021年国・地域別自動車生産台数ランキングをみると、トップは圧倒的に中国であり、その生産台数は2,608万台にまで及んだ。これは、世界生産台数の約32.5%に当たり、2位アメリカの約3.1倍の規模である。中国の自動車生産台数は、いまや2〜5位のアメリカ、日本、インド、韓国の合計よりも多い。
図1 2021年国・地域別自動車生産台数ランキング
■ WTO加盟以降、急成長を遂げた中国自動車産業
図2より、2000〜2021年の主要国別自動車生産台数推移をみると、中国の自動車産業は、WTOに加盟した2001年以降、急成長を遂げたことがわかる。自動車産業は中国の高度経済成長を支える主要なエンジンのひとつとなっている。2008年にはアメリカを抜き世界第2位に、翌年の2009年にはリーマン・ショックで世界の自動車生産台数が落ち込む中、中国は日本を抜いて世界トップに躍り出し、以降は独走を続けている。
一方、日本は2006年にアメリカを抜き世界第1位の座を奪い取ったが、2009年に中国に抜かれ、2011年にはアメリカに抜かれて世界3位に転落し、以降は中国及びアメリカとの差が拡大している。
図2 2000〜2021年主要国別自動車生産台数推移
■ 新型コロナウイルスパンデミックでも拡大した中国の自動車輸出
新型コロナウイルスパンデミックは、グローバルサプライチェーンに大打撃を与え、世界の自動車輸出もその例外ではない。図3より、2020年国・地域別自動車輸出額ランキングをみると、上位30国・地域のうち、中国、スロバキアを除く28国・地域はすべてマイナス成長であり、多くの国・地域が2桁台のマイナス成長に陥った。世界全体の自動車輸出は-14.7%成長である中、中国の自動車輸出は3.4%のプラス成長を遂げた。
中国は生産台数が巨大な一方、自動車輸出額ランキングではまだ世界5位に留まる。これに対して東京経済大学の周牧之教授は、「中国で生産された自動車は多くが現状では国内で消費されているが、巨大マーケットに支えられ、やがて世界最大の自動車輸出大国になる」と予測している。
図3 2020年国・地域別自動車輸出額ランキング
■ 自動車市場を支える二大巨頭
図4より、2019年の国・地域別自動車保有台数ランキングをみると、前述した周牧之教授の予測の根拠が分かる。同ランキングの1位と2位はアメリカと中国であり、3位の日本を突き放し、圧倒的な保有台数を誇っている。米中2国が保有する自動車台数は世界を走る自動車の約35%を占め、その規模は3位日本〜13位ポーランドが保有する自動車合計台数とほぼ同規模である。世界の自動車産業は、米中2大巨頭の市場によって支えられている。
図4 2019年国・地域別自動車保有台数ランキング
■ 他国の車を大量に飲み込むアメリカ自動車市場
図5より、2020年国・地域別自動車輸入額ランキングをみると、トップのアメリカは他国を抜きん出ていることがわかる。アメリカは、世界の自動車輸入額の約20%のシェアを有し、2位のドイツのおよそ2.1倍の規模である。アメリカは、自動車生産は世界2位でありながら、ドイツや日本等からなお大量に自動車を輸入している。
同ランキング2位のドイツは、世界最大の自動車輸出大国であると同時に、大量の自動車を輸入している。
中国は、世界自動車輸入市場で3位だが、自動車の輸出額がすでに輸入額を超え、自動車の純輸出国になった。
世界自動車輸入市場で15位の日本は、世界2位の自動車輸出額をたたき出している。自動車は依然として日本の最大の輸出産業である。
図5 2020年国・地域別自動車輸入額ランキング
■ 中国経済の基幹産業にまで発展を遂げた自動車産業
図6より、2019年国・地域別自動車産業付加価値ランキングをみると、トップの中国は他国を抜きん出ている。中国は、世界の自動車産業付加価値の約28.1%のシェアを有し、2位のアメリカとはおよそ2倍の差を付けている。WTO加盟以降飛躍する中国の自動車産業は自国の経済基盤を支える基幹産業にまで発展し、世界の自動車産業をリードする存在になっている。
図6 2019年国・地域別自動車産業付加価値ランキング
■ 2020年、中国で最も自動車産業輻射力が高かった都市は?
〈中国都市総合発展指標〉に基づき、雲河都市研究院は中国全297地級市(地区級市、日本の都道府県に相当)以上の都市をカバーする「中国都市自動車産業輻射力」をモニタリングしている。輻射力とは特定産業における都市の広域影響力を評価する指標である。自動車産業輻射力は都市における自動車産業の従業員・企業集積状況や企業資本・競争力を評価したものである。「2020年中国都市自動車産業輻射力」は、2019年から2020年にかけて中国各都市で公表された「第4回全国経済センサス(第四次全国経済普査)」をベースに算出した。
〈中国都市総合発展指標2020〉で見た「2020年中国都市自動車産業輻射力」ランキングの上位10都市は、上海、長春、重慶、広州、武漢、蘇州、北京、十堰、天津、襄陽となった。特に、トップ3都市の上海、長春、重慶の輻射力は抜きん出ている。同ランキングの上位11〜30都市は、瀋陽、柳州、無錫、成都、南京、蕪湖、寧波、南昌、常州、杭州、揚州、長沙、深圳、済南、温州、西安、青島、仏山、合肥、鎮江である。これらの都市には中国自動車メーカの本社機能や主要工場が立地している。
図7 2020年中国都市自動車産業輻射力ランキング
中国の自動車産業の発展は、1950年代に遡る。1953年、旧ソ連の技術支援により現在の第一汽車が設立されたのを皮切りに、中国各地に多くの自動車メーカーが続々と設立された。改革開放以降は、数多くの海外自動車メーカーが中国に進出し、中国での急激なモータリゼーションと共鳴するように製造拠点を次々と設立した。国内市場の急成長、海外メーカーとの協力及び競争の下で中国の国産メーカーも急成長した。
図8より、2021年時点で中国の自動車メーカーは大きく国有企業系、民営企業系に分けられ、中国各地に立地している。中国政府の自動車産業振興計画では、第一汽車、上海汽車、東風汽車、長安汽車の「四大」と、北京汽車、広州汽車、奇瑞汽車、中国重汽の「四小」という位置づけがある。
図8 中国の主な自動車メーカー
図9より、「2020年中国都市自動車産業輻射力」ランキングトップ30都市の分布をみると、東は上海から西は重慶・成都まで、長江流域に産業集積している。周牧之教授は、「これは、中国建国以来、政府が長江流域に製造業の産業立地を推進した結果である」と解説する。日本では耳慣れない地方都市が自動車産業拠点としてランキング上位に入った理由は、このような歴史的厚みに由来している。
図9 2020年中国都市自動車産業輻射力ランキングトップ30都市分析図
■ 自動車産業拠点都市に進む集中集約
「2020年中国都市自動車産業輻射力」ランキングを分析することで、自動車産業における特定都市への集中集約が浮かび上がる。
図10が示すように、自動車産業従業者数において、「2020年中国都市自動車産業輻射力」ランキングのトップ5都市が全国に占める割合は24.7%、トップ10都市は39.5%、トップ30都市は70.6%を占めている。
図10 2020年中国都市における自動車産業従業者の集中度
図11が示すように、自動車産業企業数において、「2020年中国都市自動車産業輻射力」ランキングのトップ5都市が全国に占める割合は13%、トップ10都市は25%、トップ30都市は63.7%に達している。従業者数と比較して企業の集中度が低くなることは、ランキングトップの都市に大企業が多く集積していることを意味する。
図11 2020年中国都市における自動車産業企業の集中度
図12が示すように、自動車産業営業収入において、「2020年中国都市自動車産業輻射力」ランキングのトップ5都市が全国に占める割合は36.3%、トップ10都市は51.3%、トップ30都市は81.1%を占めている。これらのデータも、ランキングトップの都市に収益力の高い大企業が多く集積していることを裏付ける。
図12 2020年中国都市における自動車産業営業収入の集中度
■ EVで大変革を迎える中国の自動車産業
近年、環境問題が世界的な課題となる中で、電気自動車(EV)が注目を集めている。自動車大国となった中国では、猛烈な勢いでEVの普及と生産に官民一体となって取り組んでいる。
2021年、世界のEV販売台数は前年比108%増の650万台であり、国別では中国が約294万台でダントツ1位となり、世界シェアの45%を占めた。
図13が示すように、世界におけるメーカー別EV販売台数ランキングの1位はテスラで、販売台数は約93.6万台、2位の比亜迪(BYD)は前年比220%増の約59.4万台を販売した。メーカー別ランキング上位20位までの販売台数の合計は476.3万台となり、世界市場全体の73.3%を占めた。
この上位20位以内に入った中国メーカーは、BYD、上汽通用五菱汽車、上海汽車、長城汽車、広州汽車、奇瑞汽車、小鵬汽車、長安汽車の8社だった。テスラも上海に巨大な生産基地を置いているため、これら8社とテスラを合計すると、実に世界全体のEVのうち、およそ4割が中国で製造されている。これに対して日本はトヨタが16位に食い込んだ。
2021年の中国におけるEV輸出台数は、前年比約3倍の約50万台となり、ドイツやアメリカを上回り世界最大となった。中国EVは車載電池など関連部品の産業集積が進み、コスト競争力を高めた新興メーカーが欧州等で販売を伸ばしている。日本でも中国メーカーのEV販売が始まっている。
米国の時価総額調査会社カンパニーズマーケットキャップの資料によると、2022年6月24日現在で中国自動車メーカーBYDの時価総額は1378億ドルとなり、米テスラの同7636億ドル、トヨタの同2191億ドルに次ぐ世界3位の自動車メーカーとなっている。BYDにこれほどの値打ちが付いたのは同社のEVメーカーとしての、そしてEV用バッテリーの優勢が評価されたことによる。
周牧之教授は、「中国はEVで世界自動車市場を席巻することになる」と展望している。
図13 2021年世界でのメーカー別EV販売台数ランキング
日本語版『【ランキング】自動車大国中国の生産拠点都市はどこか?〜2020年中国都市自動車産業輻射力ランキング』(チャイナネット・2022年7月29日掲載)