雲河都市研究院
編集ノート:
世界で最も経済リカバリーの早い国はどこか? 経済成長と新型コロナウイルス被害にはどのような関係があるのだろうか?中国で最も経済成長の早い都市はどこか?2021年中国都市GDPランキングから何を読み取れるのか?雲河都市研究院が、主要国及び中国各都市のデータを駆使し、詳しく解説する。
1.中国経済の持続発展は世界経済のフレームワークを変えた
世界経済は、2020年に新型コロナウイルスパンデミックにより大きく落ち込んだが、2021年はその反動から大きく伸び、実質GDPは6.0%とプラス成長に転じた。
図1が示すように、2021年国・地域別名目GDPランキングトップ10は、アメリカ、中国、日本、ドイツ、イギリス、インド、フランス、イタリア、カナダ、韓国と続く。コロナショックの反動により、トップ10の国々における2020年の名目GDP成長率は平均5.7%のプラス成長に転じている。中でも、中国、インドは8%以上の成長率となった。それに対して唯一、日本は1.6%の低成長に喘いでいる。世界経済が大きくリバウンドする中、日本経済の回復の遅れは、極めて深刻である。
図1 2021年世界各国・地域GDPランキングトップ30
世界は2021年、新型コロナウイルス感染拡大の波を通年で3度も経験した。2月頃には前年度から引き継いだ波が収束に向かったが、その後、変異株「デルタ株」の影響により、世界的に感染拡大が再び始まり、4月に一度目のピークが、8月に二度目のピークが起こった。その後、一旦、収束傾向が見られたが、11月9日に南アフリカで新たな変異種「オミクロン株」が確認された。以降、年末にかけて爆発的に感染者数が拡大した。結果として、2021年世界の累積感染者数は約2.1億人、累積死亡者数は約356万人に及んだ。致死率は約1.7%となり、2020年の同約2.2%をやや下回った。致死率の低下は新型コロナウイルスの弱毒化、治療法の進展、ワクチンの効果などが考えられる。
図2が示すように、2021年の中国は、ゼロコロナ政策の徹底により、感染拡大の抑え込みに成功した。そのため中国は世界で最も新型コロナ被害の少ない国となった。中国では、感染者が見つかる度に局所的なロックダウン措置等を実施し、感染拡大を防いだ。こうした政策が奏功し、2021年通年の感染者数は1.5万人に留まり、死亡者数はわずか2人であった。中国は同年、新型コロナウイルス致死率を0.01%まで抑え込んだ。
周牧之東京経済大学教授は、「2021年は中国のゼロコロナ政策が最も成功した年であった」とする。
図2 2021年末迄国別新型コロナウイルス累積感染者数及び累積死亡者数
明暁東中国国家発展改革委員会発展戦略和計画司(局)元一級巡視員・中国駐日本国大使館元公使参事官は、「2021年の厳しい国際情勢と新型コロナウイルス禍にありながら、中国はゼロコロナ政策をもって経済のリカバリーを実現し、GDPは110兆人民元を突破した」と指摘。
図3が示すように、2020年に続き中国は、新型コロナ禍にあってなお経済成長を実現した。中国の長年の経済成長は、世界経済のフレームワークを大きく変えた。1990年から2021年までに、世界の経済規模(名目GDP)は4.1倍に膨らんだ。この間、米国の名目GDPも3.9倍に拡大した。過去30年間、世界経済に占めるアメリカの割合は大きく変化していない。2021年は米国がなお23.7%の世界シェアを維持した。
一方、中国は、2001年のWTO加盟を機に世界経済における存在感が急速に増してきた。2021年の中国名目GDP 規模は、1990年の44.7倍にまで達した。世界経済に占める中国のシェアも、1990年の僅か1.7%から、2021年は18.3%にまで急拡大した。
周牧之教授は「その結果、世界経済におけるアメリカと中国の二大巨頭態勢が確立した。米中両国を合わせた経済規模は、2021年の世界経済の42.0%にも達した。日本はGDPランキング世界3位であるものの、世界経済に占める割合はわずか5.1%に過ぎない。米中の経済規模は、3位の日本から25位のスウェーデンまでの23カ国・地域の経済規模の合計に匹敵するほどである」と解説する。
図3 世界GDP及び中国シェアの推移(1990〜2021年)
2.上海、北京、深圳を始めとするトップ10都市は順位が変わらず
2021年中国都市GDPランキングでは、順に上海、北京、深圳、広州、重慶がトップ5を飾った。この5都市の経済規模は他都市を大きく引き離している。6位から10位の都市は、順に蘇州、成都、杭州、武漢、南京の5都市であった。
明暁東元公使参事官は、「2021年GDPランキングトップ10都市の順位は前年度と変わらなかったが、コロナショックでほぼ4%以下を徘徊した前年度より、成長率は大幅に加速した。7%前後の深圳と南京を除き、他の8都市はすべて8%以上の経済成長を実現した。とくにコロナショックを最も受けた武漢市は、前年度4.7%のマイナス成長からリカバリーし、12.2%の高度成長を成し遂げた。
3.一国経済規模に匹敵するまでに至った中国の都市力
中国では北京、上海、重慶、天津の四大直轄市が人口規模、面積そして中枢機能と産業集積などにおいて他都市と比較して格別である。グローバルサプライチェーンの展開をベースにした沿海部都市の発展は著しい。深圳、広州の経済規模はすでに重慶、天津を超え、北京、上海と並び、中国で「一線都市」と呼ばれるようになった。
四つの「一線都市」の経済力は、どれほどなのか?周牧之教授は、「2021年上海の経済規模は世界の国別GDPランキング24位のスウェーデンを超えた。北京は同25位のベルギーを、深圳は同32位のナイジェリアを、広州は同33位のエジプトを超えた。いまや中国の都市は一国の経済力に匹敵するまで成長した」と解説する。
明暁東元公使参事官は、「GDPランキングトップ10都市は、中国の主なイノベーション基地で、国際競争の担い手となっている。この10都市はさらに多くの都市の発展を触発し牽引している」と語っている。
4.中心都市と製造業スーパーシティという二つの大きな存在
改革開放後とくにWTO加盟以来、中国では都市の逆転劇が激しく起こっている。中でも、一漁村から出発した深圳が、過去20年間でその経済規模を18.4倍へと膨れ上がらせ、GDPランキング3位を不動としたのに対し、直轄市の天津はトップ10から脱落したことが象徴的である。
GDPランキングは中国全297地級市(地区級市、日本の都道府県に相当)以上の都市をカバーする。このなかでは四大直轄市、22省都、5自治区首府、5計画単列市からなる36「中心都市」の存在感が際立つ。GDPランキングトップ10には9中心都市、トップ30には19中心都市がランクインし、中心都市の優位性も明らかとなった。まさにこの36中心都市が改革開放以来の中国社会経済の発展を主導したことが見て取れる。
GDPランキング30のもう一つ大きな存在は、「製造業スーパーシティ」である。トップ30には蘇州、無錫、仏山、泉州、南通、東莞、常州、煙台、唐山、徐州、温州といった11の非中心都市がランクインした。とくに蘇州はトップ10の6位に食い込んだ。この11都市は、すべて沿海部に属する製造業スーパーシティである。
周牧之教授は、「改革開放以降、中国の急速な工業化を牽引してきたこれらの製造業スーパーシティは、グローバルサプライチェーンのハブとなっている」と指摘している。
図4 2021年中国都市GDPランキングトップ30
■ 集中と協調
主要都市の重要性はGDPの集中度で見て取れる。2021年のGDPランキングトップ5都市が全国14.9%、トップ10都市が全国23.2%、トップ30都市が全国42.8%のGDPシェアを占めている。中国297都市のうち、上位10%の都市が富の4割以上を稼ぎ出している。
中国経済は大都市へ集中すると同時に、東部地域への集中度は緩和されている。明暁東元公使参事官は、「GDPランキングトップ10都市の中で、東部地域の7都市は早い回復を見せている。とくに上海、北京、広州の3都市は前年比で5%ポイント以上の加速ぶりだった。中部地域の武漢は、10%ポイント以上の加速だった。西部地域の重慶、成都の4%ポイント以上の加速だった。これら中西部都市の発展は中国の地域格差の縮小に重要な役割を果たしている。2021年東部地域と中部、西部地域の一人当たりGDPは其々2012年の1.69、1.87 から、1.53、1.68へと縮小した」と説明した。
図5 2020年中国都市におけるGDPの集中度
■ 三大メガロポリスの存在感は顕著
2021年GDPランキングトップ30では、京津冀(北京・天津・河北)、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスの存在が際立っている。同トップ30には京津冀メガロポリスから2位の北京、11位の天津、27位の唐山がつけた。長江デルタメガロポリスから1位の上海、6位の蘇州、8位の杭州、10位の南京、12位の寧波、14位の無錫、19位の合肥、22位の南通、25位の常州、28位の徐州、30位の温州がランクインした。珠江デルタメガロポリスから3位の深圳、4位の広州、17位の仏山、23位の東莞がランクインした。三大メガロポリスから18都市もGDPランキングトップ30入りした。
周牧之教授は、「これは、製造業スーパーシティが三大メガロポリスに集中した結果である。特に長江デルタ、珠江デルタ両メガロポリスには世界最強のグローバルサプライチェーン型産業集積が展開している」と解説する。
明暁東元公使参事官は、「三大メガロポリスの北京、上海、蘇州、杭州、南京、深圳、広州のGDPは其々4兆元、4.3兆元、2.3兆元、1.8兆元、1.6兆元、3.1兆元、2.8兆元を実現した。これらの都市の総経済規模は中国全体の17.4%に達し、中国ハイクオリティ発展の最前列に位置している。中西部地域の重慶、成都、武漢のGDPは其々2.8兆元、2兆元、1.8兆元を実現した。これらの都市の総経済規模は中国全体の5.7%に達し、地域経済の発展を牽引している」と述べている。
徐林雲河都市研究院副理事長・中国国家発展改革委員会発展計画司元司長は、「周牧之教授の研究チームによる世界における経済発展と新型コロナウイルス政策との関係の研究から、コロナ禍での中国経済のパフォーマンスが浮かびあがった。2021年、中国の各都市の努力により、経済成長だけでなく、コロナ禍のダメージコントロールでも良い成績を収めた。2022年も、厳しいオミクロン株の蔓延を抑え、各都市の持続成長と民生の安定が期待される」とコメントした。
図6 2021年中国GDPランキングトップ30都市分析図
日本語版『【ランキング】世界で最も経済リカバリーの早い国はどこか? 中国で最も経済成長の早い都市はどこか?〜2021年中国都市GDPランキング』(チャイナネット・2022年12月15日)
中国語版『疫情下仍持续增长的中国正在改变世界经济格局』(中国網・2021年4月26日)
英語版『China changes global economic landscape amid COVID-19』(中国国務院新聞弁公室・2022年12月5日、China Daily・2022年12月5日)