CICI2016:第3位 | CICI2017:第3位 | CICI2018:第3位 | CICI2019:第3位
中国のシリコンバレー
深圳市は広東省の南部に位置し、香港に隣接している珠江デルタメガロポリスの中枢都市である。面積は約1,997km2で大阪府と同規模、常住人口は約1,078万人である。
深圳市はかつて人口規模わずか3万人の漁村だったが、1980年に中国初の「経済特区」に指定されたことをきっかけに、近年では「中国のシリコンバレー」と呼ばれるまでに飛躍的な発展を遂げた。わずか40年間で人口は400倍以上に拡大。その世界史上類を見ない発展の速さは「深圳速度」と言われる。GDPは約1.6兆元(約27.2兆円)に達し、中国国内では第4位の規模となった。国別で比較すれば、これはアイルランドと同じ規模である。
経済特区に指定されて以来、深圳市は輸出加工拠点として急速に発展し「世界の工場」と称されるまでになったが、現在では政策を大きく転換させ、新興ハイテク企業が次々と生まれるイノベーション都市へと脱皮している。メッセンジャーアプリ「微信(WeChat)」を開発したテンセント(騰訊)、通信機器大手のファーウェイ(華為)やZTE(中興)、世界最大手のドローンメーカーDJI(大疆)、自動車メーカーのBYD(比亜迪)といった、深圳市発の世界的に有名なベンチャー企業が続々誕生している。
深圳市の2016年の新規登録企業件数は約38.7万社と前年比約3割も伸び、上海市や北京市を抑えて首位を獲得した。人口1人当たり新規登録企業数は上海市の2.6倍、北京市の3倍強にのぼっている。また、同市に登記されている中小企業の数は約150万社と、市内の企業総数の99.6%を占めている。中国版ナスダックと呼ばれる深圳証券取引所のベンチャー企業向け市場「創業板」がその動きを後押ししている。
また、コンテナ港の発展も著しく、本指標の「コンテナ港利便性」においても深圳市は第2位となっている。2017年の深圳港のコンテナ取扱量は前年比5.1%増の約2,520万TEUに達し、開港以来最高の取扱量を記録した。世界の港湾別コンテナ取扱個数ランキングでも5年連続で第3位に輝いた。
(2016年度日本語版・トップ10都市分析)
経済規模で広州、香港超えに
深圳市はその経済規模が2018年に広州を超え、2019年には香港を超えた。
深圳はかつて小さな漁村だったが、1980年に経済特区に指定され、急速に発展を遂げた。いまや「アジアの奇跡」とも呼ばれる大発展を遂げたIT都市である。
しかし、1人当たりGDPで見ると、深圳は約19万元(約285万円)、広州は約15.6万元(約234万円)であるのに対して、香港は約32.2万元(約483万円)となっている。深圳と香港の1人当たりでの格差はまだ大きい。
2017年に「粤港澳大湾区(広東省・香港・マカオのビッグベイエリア)構想」が公表され、深圳、広州、香港の「3都物語」の展開に注目が集まっている。米中貿易摩擦や香港情勢の不透明さが増す中で、国際大交流をベースとするビッグベイエリア構想の行方が取り沙汰されている。
(2018年度日本語版・トップ10都市分析)
米中貿易摩擦で逆風
2018年から顕在化し始めた米中貿易摩擦が深圳を直撃している。〈中国都市総合発展指標2018〉によると、深圳は「フォーチュントップ500中国企業」第3位、「中国トップ500企業」第3位、「中国民営企業トップ500」第2位、「製造業輻射力」第3位を誇る中国を代表する経済都市である。米中貿易摩擦でやり玉に挙がっている通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)や中興通訊(ZTE)も本社を構えるIT産業の一大拠点である。
深圳は中国における加工貿易の先駆けの都市であり、輸出額ランキングで20年以上全国第1位の座を守り抜いている。深圳にとって米国は2番目に大きい輸出先であった。輸出型経済で成長してきた深圳は、昨今の米中貿易摩擦や新型コロナウイルスショックの逆風を受けている。
しかし、こうした危機は、新たなチャンスの訪れとも捉えられる。それは、よりオープンな国際都市になることで実現可能だ。
深圳が特区になってから40年間、その成果は抜きん出ていたとはいえ、多くの指標では、真の国際都市とはまだいえない。〈中国都市総合発展指標2018〉から見ると、深圳は「経済」の中項目では「ビジネス環境」で第4位、「開放度」で第3位、「社会」の「人的交流」で第5位を勝ち取り、中国国内における開放性や国際化に関する順位は高い。しかし上位の北京や上海に比べれば、その中身にはまだ圧倒的な差がある。例えば、「経済」の「航空輸送指数」の内訳である「航空旅客数」でみれば、北京、上海とは2倍以上の差があり、ニューヨーク、ロンドン、東京といった「世界都市」とは3倍近くの差が開いている。同様に、「社会」の「国際会議」では、上海とは8倍、北京とは約10倍隔たり、東京とは10倍、ニューヨークに至っては13倍近く差を開けられている。
深圳は、開放性をさらに高め、国際化を積極的に推進し、世界都市への脱皮を図ろうとしている。そのためには、隣接する国際都市香港の役割はなお大きい。
(2018年度日本語版・トップ10都市分析)
イノベーション都市を目指して
近年、深圳はアジアを代表するイノベーション都市として声を上げている。〈中国都市総合発展指標2018〉において、「経済」の小項目「イノベーション・起業」は北京、上海に続いて全国第3位であった。歴史の浅いニューシティにしては快挙である。
しかしながら、トップ2都市と比較すると同項目の偏差値指数には、まだ大きな開きがある。その原因の1つは、大学の蓄積がないことにある。中国の名門大学のほとんどは、改革開放以前に創立された。一漁村から加工貿易で身を起こし、爆発的な成長を遂げてきた深圳はこれまで、高等教育機関との縁が薄かった。現在は財力を駆使し、大学誘致に励んでいる。しかし旺盛な人材需要と高等教育のキャパシティとのギャップにより、同市の「経済」の「高等教育輻射力2018」全国ランキングは、ほぼ最下位の73位に甘んじている。
また、国立の研究機関もほとんど立地がなく、北京の中関村のように国の研究機関や名門大学に蓄積された研究者が研究成果を擁して起業していくパターンは、深圳では成し得ない。
それにしても、経済特区としての開放感の中で、全国から集まった人材が研究に励み、次から次へと起業が興っている。ファーウェイや、中興通訊はその代表格だ。深圳のイノベーションは、民間企業中心のモデルとなっている。
しかし、深圳はこれから都市アメニティ(都市の魅力や快適さ)が勝負どころだ。優秀な人材は成功をつかもうとするだけでなく、生活のクオリティも求める。豊かになったいまは、生活の質に深圳の後進性が際立つ。例えば「経済」の「医療輻射力」のランキングは第28位と、深圳の医療態勢はかなり遅れを取っている。
新興都市深圳は、これから都市アメニティでも勝負に出なければならない。
(2018年度日本語版・トップ10都市分析)
広深港高速鉄道と港珠澳大橋が開通
2018年9月、香港と深圳・広州を結ぶ初の高速鉄道「広深港高速鉄道」の香港域内区間が正式に開通した。開通済みの中国本土区間と合わせ、これで全線開通したことになる。区間の最高時速は350 km、深圳から香港までは最速で14分、広州から香港までの走行時間は以前の100分から48分へと半分に短縮された。香港は2.5万 kmを超える中国本土の高速鉄道網と直接連結し、香港から北京までの所要時間は今までの半分の9時間になる。〈中国都市総合発展指標2017〉では深圳の「鉄道利便性」は全国第5位だが、第1位の広州に順位が近づいていくだろう。
広深港高速鉄道の全面開通により、中国政府が進めている巨大ベイエリア構想「粤港澳大湾区(広東・香港・マカオビックベイエリア)計画」に内包される深圳、広州、香港といった主要都市がすべて高速輸送ネットワークでつながった。これにより、今後エリア内外の人的交流がさらに加速していくことが予想される。
同高速鉄道の開通に加え、海上道路では世界最長となる「港珠澳大橋(香港・珠海・マカオ大橋)」も2018年10月23日開通した。これでベイエリア内の交通ネットワークがさらに強化され、ヒト・モノ・カネ・情報の流れが増大していくだろう。〈中国都市総合発展指標2017〉ではすでに「広域中枢機能」は広州が全国第2位、深圳が第3位であり、この順位は今後も揺るがないだろう。
最新の統計では、2017年のGDPにおいて深圳が香港を初めて上回り、深圳が事実上の粤港澳大湾区におけるトップの経済都市となった。大ベイエリアでは、「奇跡の発展」を遂げた深圳が牽引役となっている。
(2017年度日本語版・トップ10都市分析)
加熱するショッピングセンターの開業
米不動産サービス大手CBREの『世界ショッピングセンター発展レポート(Global Shopping Centre Development)』によると、2017年に深圳で着工したショッピングセンターの延床面積は458万 m2で、世界第1位だった。世界全体のショッピングセンターの建設面積のうち、アジア太平洋地域が全体の79%を占めており、なかでも中国における同建設面積は1,970万 m2と群を抜き、そのランキングのトップ20のうち12都市を中国が占めている。とりわけトップ5都市は中国の都市が独占し、第2位に上海、第3位に重慶、第4位に成都、第5位に武漢と続く。特に、上位2都市の深圳と上海が、中国の同建設面積の約40%を占める。
深圳には2017年末までに144件のショッピングセンターが開業しており、2002年に市内にはじめてショッピングモールが開業して以降、毎年平均して10件のショッピングセンターが開業している。2012年からは開業速度が加速し、平均して毎年17件が開業、2017年末までに開業したショッピングセンターの延床面積は986.5万 m2に達した。
急速に膨張する経済規模とともに、加熱するショッピングセンター建設ブームの一方、さまざまな問題も発生している。判を押したように似通ったコンセプト、建築・インテリアデザイン、テナント構成のショッピングセンターが相次いで建設され、過剰な床面積が供給され続けた結果、市内の2017年の空テナント率は平均20.1%に達し、市中心部でも4.5%に達している。また、消費者の需要も多様化し、従来はアパレル一辺倒のテナント構成であったが、現在では飲食、ファミリー・子ども向け商品や生活サービス業のテナントが隆盛になりつつあるという。
〈中国都市総合発展指標2017〉では「卸売・小売業輻射力」全国第8位の深圳にとって、今後、順位を上昇させるためには、新たな取組みが必要だ。
(2017年度日本語版・トップ10都市分析)
自由貿易港の建設
2018年6月、深圳市政府は、深圳港を新たなグローバルハブ港とし、香港港とともに国際海運センターを共同で建設するとの目標を発表した。インフラ整備を行い、2020年末までに自由貿易港を建設する。
深圳港は世界第3位のコンテナ港で、〈中国都市総合発展指標2017〉では「コンテナ港利便性」でも全国第2位を誇る中国国内屈指の港である。深圳市は、香港港との連携を強化し、海運サービスと物流サービスの一体化を図る。
深圳市は粤港澳大湾区内の都市間連携も深め、輸送の申請、検査、通行許可を簡略化し、エリア内の通関の一体化を進めている。
(2017年度日本語版・トップ10都市分析)
移民都市
深圳市は典型的な“移民都市”である。本指標の「人口流動」項目では、全国第1位が北京市、第2位が上海市、深圳市は第3位となっている。深圳市の流動人口は745万人であった。特記すべきは、北京市と上海市では流動人口の常住人口に占める割合が4割前後なのに対し、深圳市常住人口の69.2%が「流動人口」によるものであった。
人口構造からも深圳市の“移民都市”の特質が明らかである。同市政府発表では、2016年末の市内の平均年齢は約32.5歳で、中国で最も平均年齢が若い都市であった。人口を年齢別の割合で見ると、15歳未満人口(年少人口)は13.4%、15歳以上65歳未満人口(生産年齢人口)は83.2%、65歳以上人口(老年人口)はわずか3.4%であり、特に20代の人口が突出している。外部から大量の生産年齢人口を受け入れている北京、上海、広州3都市の生産年齢人口割合がそれぞれ79.6%、77.8%、79.2%であることを考えると、いかに深圳市が若い都市であるかがわかる。
(2016年度日本語版・トップ10都市分析)
「港深創新・科技園」構想
深圳市の発展に香港が果たしてきた役割は大きい。2015年4月、深圳に「自由貿易試験区(広東自貿区)」が開設された。この試験区は香港との協力強化を目的に設けられ、現在までに7,000社以上の香港企業が進出し、同地区の土地の約3分の1が香港企業に供給されている。2017年1月には、香港と深圳両都市が共同で、両地の間を流れる深圳河の河川敷に87ヘクタールのハイテク産業団地「港深創新・科技園」を建設する計画が発表された。2018年中頃には、香港—広東省珠海—マカオを結ぶ海上橋「大橋」の開通と、香港—深圳—広州を結ぶ高速鉄道「広深港高鉄」の開通が見込まれる。深圳と香港とのリンケージは今後も強まっていくであろう。
(2016年度日本語版・トップ10都市分析)