【対談】鈴木正俊 VS 周牧之(Ⅱ): IT革命の本質はテックパワーの民主化

講義を行う鈴木正俊 ミライト・ホールディングス元社長

編集ノート:
 NTTドコモ副社長、ミライトホールディングス社長を歴任された鈴木正俊氏は、日本のインターネットの黎明期を支え、IT時代の発展を一貫して引っ張ってこられた経営者の一人だ。東京経済大学の周牧之教授の教室では2025年6月5日、鈴木氏を迎え、IT革命の本質と行方について伺った。

※前回の記事はこちらから


IT革命が個人の能力を無限大に


周牧之:鈴木さんには前回、デジタル時代、インターネット時代の本質のお話をしていただいた(【講義】鈴木正俊: 激動する時代を生き抜くための要件とは)。この時代の本質は「テックパワーの民主化」だと私は思う。私が通信のパワーを、自分の人生の中で初めて感じたのは1985年、中国の経産省とも言える機械工業部(省)に配属された時だった。自分の机の上に、世界のどこへでもかけられる国際電話があった。当時は、中国ではまだ地域間の通話料金が高く、長距離電話がなかなかかけられなかった。個人が当時、海外へ自由に電話できるような状況にはなかった。机の上から国際電話がかけられるのは凄いパワーだと実感した。

 いまは皆SNSどこへでも通信できる。これは一種の通信パワーの民主化だ。コンピューティングパワーからすると、鈴木さんがおっしゃっていたように今のスマホは、20年前の大型コンピュータの数台分のコンピューティングパワーを持っている。誰でも物凄いテックパワーを持てるようになった。これはテックパワーの民主化だ。

 大学での私の専門はオートメーションだったので、この40年間、IT革命とは何かとずっと考えて研究していた。私はIT革命の本質は、「個人の能力を無限大にすること」と考えている。コンピューティング力、通信力、発信力…。SNSで個人でも数百万のフォロワーを集めることができる。つい最近まで考えられなかったことだ。これは素晴らしい話だ。

 しかし、個人のテックパワーは無限大になったが、格差はむしろ広がっている。大型コンピュータ数台分のパワーを持つ携帯電話を所有するだけで、みんながスーパーマン並みの潜在力を持つこととなった。しかし、このスーパーパワーを十分に使いこなせるかが問題だ。学歴や才覚そして努力を結合させ、テックパワーを活かし、富を作れる人が沢山出てくる。もちろん、こうしたテックパワーを破壊的に使う人もいるだろう。

 テックパワーを活かせる人たちと、潜在力を持っていながら活かせない人たちとの間に、当然格差が起きる。国と関係ない。昔は、日本国民或いはアメリカ国民である以上は、中国やインドの人々よりは、良い生活が保証されていた。今そういう時代ではなくなった。中国にも億万長者はいっぱいいる。インドもいる。新しい産業を興している人たちがどこの国にも現れている。他方、アメリカの白人も貧困化し、スーパーマン的な可能性を持ちながら、貧困が急激に進む人が増えている。こうした中、若い人はどうしたらいいか?

世界で格差問題による分断


鈴木正俊:これは難しい問題だ。いま世界で注目されるトランプ政権の本質的なところは何かを考えたい。アメリカ建国の父が独立宣言で自由と民主主義と書いた。自由で、公平で差別がない世界を目指した。それから200年間経って、差別はなくならない。建国当時は自由と民主主義は、ヨーロッパでは動きがなかった。王がいて、革命勢力がいるかもしれないが、投票で政府が決まっていくこともなかった。アメリカという国を、大きなフロンティアとして、貧しいながらも自由と民主主義の理想的な国を世界に作ると言った。今トランプが掲げた鎖国のような「アメリカンファースト」は、歴史の中でいくつも現れてきた。

周:実はアメリカの独立宣言に民主主義という言葉は書いていない。建国の父とされている人たちの中には、むしろ民主主義に対して強い警戒心や懐疑的な見方を持つ人が多かった。彼らが強調するのは独立だ。一種の「アメリカンファースト」とも言える。

鈴木:モンロー主義のようにアメリカは、ヨーロッパにアメリカの市場を使われているだけだ、関係を断って関与しない、アメリカは独立していなければいけない、と言うことは度々あった。黒人を差別してはいけないとリンカーンは宣言したが、現実を見れば今も相変わらずある。理想と現実のギャップで、みんな悩んでいる。アメリカは、ものすごい金持ちがいる反面、自動車産業の労働者は報われない、いつも差別されている。そこにトランプが登場し、製造業と労働者を主人にしようというギャップを埋める運動が始まった。

周:アメリカの非農業部門の雇用者のうち、製造業で働く人の比率は第二次世界大戦直後の40%弱から一貫して減り続け、現在数%しか残っていない。今からこの傾向を反転させるのはそう簡単ではない。

鈴木:その前の時代の民主党はあまりに理想的だった。米軍の女性士官に日本大使の富田浩司氏が「最近アメリカの女性の司令官がどんどんパージされ、解職させられていく。これは、女性は軍隊にはいられないということなのか」と質問した。「アメリカはDEIすなわちDiversity=Inclusion で、多様性、公平性、公正性を考え、女性士官は勿論、属性を割り当てなければならない。有色人種は黒人も主要なポストに入らなきゃいけない」と答えた。ところがトランプになってから、有色人種の閣僚はいない。黒人の閣僚は1人もいない。女性が軍隊に行っても、女性を登用しなければいけない代わりに、本来登用されるべき男がなれなかったという不満が軍の中でもの凄く多い。しかし世界は変わっている。

 女性を地位につけたことでなるべき人がなれなかったという不満が大変に大きいことで、政府が制度を変えるといったことも起こっている。キャスターが国防長官になるということも出てきた。

 そうした矛盾は、ものすごく出ている。多様性を言ったら建前ばかりになり、そんな政治をするから惨めな人たちが出るとする勢力が大勢いてトランプ革命につながった、と解説をする人が多い。理想と現実のギャップがあり、周先生がおっしゃった格差もある。

 中国も勿論格差がある。インドも世界の金持ち上位10位内に必ずインド人が2〜3人入っている。その格差はものすごく大きい。中国もお金のある方は沢山いる。日本に大勢観光に来ている。

 アメリカも格差が激しい。紙屑だらけの街があり、この通りから向こうは危険なので行ってはいけないとされる街も沢山ある。

周:アメリカの街の中ですら、格差によってかなり分断されている。

鈴木:世界を見れば、微動だにしないような不公平性がある。日本は格差がまだ小さいというが数字的には多少格差が広がってきている。

ニューヨークで行われたDEI支持のデモ

エリートをどう選ぶかが大事


周:鈴木さんは、前の授業で、日本の大卒の初任給がどの人も大体同じことが本当に良いことなのか、と言っていた(【講義】鈴木正俊:通信の世紀、サイバーの時代)。先週、ここでIMFの日本代表理事だった小手川大助さんがゲスト講義をされた時に、日本では相続税が高すぎたかどうかについて学生と議論された。どこの国でも歴史上常に格差と平等の話がある。

 格差を是正するには如何に公平にエリートを抜擢するかが最も大事だ。中国は紀元前356年商鞅の大改革(変法)で秦国に世界で最初の官僚システムをつくった。世襲をする貴族ではなく、官僚が地方を支配し国政をするシステムで、約2370年前のことだ。後に官僚政治の導入で強くなった秦国による中国統一で、秦王朝は官僚制を一気に全国へ導入した。しかし、官僚をどう選ぶかの模索にその後千年もかかった。隋の時代にようやく科挙制度が出来た。科挙試験に参加し成績がよければ、貧乏人でも、外国人でも、選ばれる。遣唐留学生だった阿倍仲麻呂(中国名:晁衡)も科挙に合格した。その後中国では永遠に続く大門閥がなくなった。社会末端の出身者も官僚そして首相にまでなれる道が開かれた。

鈴木:戸籍問題がまだ残っている。

周:中国では戸籍問題は現在だいぶ緩和された。計画経済の中で戸籍問題が一番厳しかった時でさえ、地方貧農の息子でも大学試験に受かれば幹部になれる。試験成績だけではなく、仕事も頑張るヤツが出世するシステムになっている。例えば私は大卒後、機械工業省に入った。何千人ものいる役所の中で課長クラス以上の幹部出身地はどこが多いのかについて、仲間たちが冗談半分で数えたことがある。結果、北京出身の人はほとんどいなかった。地方から出て来た御上りさんたちが出世していたわけだ。

鈴木:日本の役所も一緒だ。

周:日本の初任給が皆な同じことは工業化時代での仕組みだ。しかし情報化時代では 大問題だと思う。才能のある人、結果を出す人を無視するような仕組みは、IT革命以降日本の発展を邪魔している。例えば私は経済学博士号を取っているが、そのことが私の給料に反映したことは一度もない。そうした個人の教育投資を評価しない風潮のせいで、主要国の中でも日本は博士号取得者数が少なく、さらに減少傾向にある。

鈴木:就職する時にアメリカとのギャップで悩むのが、初任給だ。日本では大学を卒業すると、初任給は工学部卒でも経済学部卒でもどの学部でも一緒だ。こんな国は世界にない。IR(Investor Relations:インベスター・リレーションズ)で、仕事に賃金がリンクし、博士号取得者は給与が違うのが当たり前のアメリカやイギリスの投資家に説明に行くときに、日本の初任給の話は通用しない。日本の場合は、会社はドクターだろうがマスターだろうが一律だ。これは海外では説明できない。グローバル化しなければいけないのに困っている状態にある。

 皆さんも就職するときに、会社に行くとしたら、初任給が一律であれば技術を持っている人間は不満なはずだ。日本はいい国だが、非常に特殊なところもたくさんある。

 大学で勉強するときに、国の現実が違うという点は認識をする。日本で働いていても、お客さんは海外かもしれない。遠洋漁業ビジネスもある。近海漁業だけ食べてるわけではない。

2012年3月24日、北京で開催の国際シンポジウム「中国の生活革命と日本の魅力の再発見」にて参加者と交流する鈴木氏と周教授

各国に各社会制度の理由有り


鈴木:確かに平等ではないことがどこの国でもある。イスラム諸国に行ったことがあったが、イスラム文化圏は相続税が無い。だから金持ちの息子に生まれたら金持ちで、いい大学に行けて、社会的地位が高い。日本は三代続くと無一文になる。金持ちの息子は金持ちではなくなる。

周:日本の高い相続税はいいシステムだ。

鈴木:日本はシステム的に珍しい。皇室があるが、こんなに金のない皇室は世界で珍しい。イスラム諸国では大学も国王がお金を出して作っている。自分の私財がある。イギリスの王室も土地を持っている金持ちだ。デンマークもそうだ。国家の予算だけで何も財産を持っていない皇室は珍しい。皇室を讃美するために言っているわけではない。システムとして日本は珍しい国だ。

 力のある人間がいた方がいいと民衆が信じているのは、例えば、ロシアや中国で、トップの人は力がものすごく強い。ある意味独裁制といわれるかもしれない。強い人がいる方が、やはり社会が安定すると思っている。いつも社会が混乱にまみれていると被害を被るのは庶民だと。日本はすぐ内閣総辞職などして総選挙を使ってやるが、人々の間に絶対的な違いのある社会を是とはしない。

周:それぞれの国にそれぞれの社会制度の理由がある。他国の制度を鵜呑みにして導入すると大変なことになる。例えば日本は消費税を上げる議論の時、北欧諸国も消費税が高いじゃないかという話がよく持ち出された。だから日本も消費税を導入するんだ、という結論につなげた。小選挙区導入するときも、北欧の話が取り上げられ根拠にされた。しかしそれは、最初から議論を間違えている。人口数百万人の北欧の国と、人口1億3千万人の日本はサイズが違う。サイズの桁が違う国の制度を一緒に考えてはいけない。これを間違えると大惨事になる。

 中国では、秦という初めての統一帝国があった。官僚制度を導入した帝国だ。秦は中国を統一したが10数年しか持たなかった。なぜ10数年しか持たなかったのか?これはその後2000年間ずっと中国の為政者を悩ませてきた大きなテーマだった。最近、その理由について「サイズ」だという新説が出た。つまり、戦国時代に秦王国は数百年かけて自分の諸侯国で自国の制度を磨いてきた。秦は他の諸侯国を倒し中国を統一したことを機に、自国の制度を一気に中国全土へ導入した。しかし、一諸侯国の制度で、膨らんだ国土と人口を統治しようとした途端、システムはパンクし、王朝崩壊につながった。

 日本は、人口は一億人強だが、人口10億人を超える国の社会制度が自国のそれとはかなり違うことを意識する必要がある。ましてやサイズだけでなく、陸続きのユーラシア大陸の国の在り方と、島国の国の在り方は全然違う。

鈴木:オーストリアの人口は700万人、スイスは900万人。1,000万人以下の国が一国としてみんな成立している。ヨーロッパは、フランス、ドイツ、英国、スペインを除けば小さく少数単位でやっている話し合いの国と、やはり14億人いる国は違う。日本の1億2,000万人は世界で12番目の人口規模で、決して少なくない。

周:少なくない。ただ、小選挙区でうまくいった国はサイズが小さい。村社会型だ。

鈴木:村社会だ。

周:日本は1億人以上が暮らす国で、決して小さい国ではない。税金をたくさん集めてうまくやれるのは小さい国だ。やっていることが皆に見える国だ。人口が1億人ぐらいになると霞ヶ関が、永田町が実際何をやっているのかが人々には見えなくなる。それで予算規模がどんどん大きくなっている。

鈴木:見えない。官僚組織という中間層が多くなって、現場と上の間が全然見えない。台湾ではコロナ禍で、オードリータンというIT大臣がコロナの情報を集約し活躍したが、彼が言っていたのは、台湾は透明性があり、下から見ても上から見ても何をやっているかが分かる。

東京経済大学創立120周年記念シンポジウム「コロナ危機をバネに大転換」 で講演を行う鈴木正俊・ミライト・ホールディングス元社長

小選挙区と消費税導入が日本停滞へ


鈴木:テーマが少しずれてしまうかもしれないが、インターネットの世界ではグローバル化がガンガン進み、国境がないようにも思える。日本企業の例ではカメラのオリンパスは今、主力製品は胃カメラだ。胃カメラで、世界の圧倒的なシェアをオリンパスが持つ。カメラではなく、医療機器でトップを走っている。

 オリンパス本社は東京だが、法務担当はワシントンにいる。何故ワシントンにいるのか?マーケットがグローバルだから、日本の法律担当がいても役に立たない。アメリカの法に触れるかどうかがわかる人が必要だ。健康に対してアメリカは厳しいので、事故が起きて医療機器として安全を守っているかどうか対策をやらなければいけない時に日本でやっていても駄目だ。ワシントンのヘルスケアでOKになれば、グローバルでもOKとなる。だから本社は東京でも、グローバルに適応する法務担当はワシントンにいる。

 マーケットが日本で、会社も日本にあり、社長も日本人で成立するのは、日本に閉じているから成り立つ。だから、Amazonのように、東京で注文すると、注文はアメリカのサーバーに行き、アメリカのサーバーから世田谷に住む鈴木に発送しろという指示だけが千葉の倉庫に飛び、千葉の倉庫に集めたものが配達される。

 政府の審議会で言ったら、それはおかしいと。アメリカに注文したら消費税がかからず日本のスーパーに行ったら消費税がかかるのはどういうことだと。税金を直してもらわなきゃいけないと。当然だが日本の消費税に合わせて、アメリカが修正するわけでもない。税率も違う。

 でもマーケットは世界になり、商品がどこの国のものかよくわからなくなっている。安全、税など社会システムに密着しているものが、国境がグローバルに広がっている中で、端境期の不整合性が今起こっている。

周:日本の消費税は名前と実態がかなりかけ離れていて、実際は取引税だ。関税も取引税だ。これらの取引税金は分業を妨げる。社会の活力を損なわせる。グローバリゼーションで関税が限りなく低くなっていく中、日本は消費税を導入した。その途端、経済成長が止まった。日本の失われた30年の原因についていろいろな人がいろいろな事を言っているが、私はその一番大きな原因は、消費税と小選挙区制の導入だと思う。

【激論】武田信二・鈴木正俊・周牧之:コロナ危機で加速する産業のデジタル化(※画像をクリックすると動画ページに移動します)

■ 利益率低い製造業をアメリカ自ら切り捨てた


周:トランプは持っている帳簿が違う。例えば、日本ではデジタル赤字が今6.7兆円あるが、トランプはその話に触れない。日本のデジタル赤字のほとんどが実はGAFAが稼いでいる。モノの貿易だけに注目しているのが今のトランプ政権だ。アメリカの製造業が衰退したのは、中国のせいでもないし、日本のせいでもない。30年前は日本のせいにして、今は中国のせいにしているがそれは事実ではない。

 クリントン政権の2期目にルービン財務長官がいた。クリントン政権の変質は実に面白かった。1期目は日本の製造業と競争するためドル安円高政策を掲げた。しかし1995年にゴールドマン・サックス会長だったルービンが財務長官になると、ドル高がアメリカの国益だと言い、ドル高政策を進めた。日本では、内閣官房長官だった加藤紘一らがそれに合わせて、円安政策を進めた。

 実はその瞬間、アメリカは製造業を捨てたことになった。つまり、アメリカはお金を世界中から集め、IT産業に突っ込む政策を取った。ITバブルにつながったがIT産業は今やアメリカで大成功した。

 トランプはアメリカ自らが捨てた製造業を、もう一回復活させると躍起になっている。しかしその政策はアメリカの半導体や、ソフトウエアなどの中国への輸出に制約をかけるものとなっている。アメリカのITの王者たちはトランプの政策に困惑している。例えば、INVEDIAのCEOは中国マーケットに入れないことを大いに嘆いている。

鈴木:アメリカのIRを見ればよく分かる。Investor Relationsは、投資家に年に一回、説明に行く。彼らの考えている利益率は違う。利益率が20%ぐらい。日本の中では抜群に高い。しかしアメリカに行くと、お前は経営する能力があるのかと非難される。アメリカの携帯電話会社は利益率30%が当たり前だった。

 日本の当時の製造業の利益率は3%だ。日本の製造業のいろいろなメーカーとはアメリカとはこの辺の価値観が違う。アメリカは利益率が高いところに向かうムーブメントができるのが、経営者として優秀であるとなる。そうすると、製造業は、実際のものを作っているので、利益率が低い。だから、利益率の低いところは、極端に言えば、アメリカにとっては製造業は日本とか中国とかアジアに作らせてやればいい。結局、金融だ。株式投資や投資リターンというものを売る、会社をM&Aをやって買収するなど金融の世界、物の形のない世界の方が、利益率が高い。

廃墟となったデトロイトの自動車工場

周:利益率が低いものづくりをどんどん辞めて利益率が高いハイテクや金融に集中していたのはアメリカ自身の選択でした。

鈴木:モノの形をしたものを製造する時は自分たちで外に出してしまっている。それをトランプになって製造業を戻せと言うが、製造業を戻すとしても技術もないと同時に、経営者としては、そんなに低い利益で国内に持ってくることは出来ない。これは投資家との関係でいけば、自分のポストを自分でクビにするようなものだ。そこでアメリカ自身も矛盾を抱えている。利益率の価値観は国によって、ものすごく違う。

 日本は、稼がなくても社会に貢献しているからいいではないかというのが、十分まかり通っている。逆に、ちょっと利益率が高いと、お前ら暴利を貪っているという。今のコメ騒動もそうだ。なぜ米が出回らない。安くしたら農家が困るからもっと高くしろ、安くすればいいということではない、ということになってしまう。価値観が、国によって物凄く違っているということは、頭に入れておいた方がいい。

周:自国が切り捨てた製造業を取り戻すために全世界に高関税をかけようとするトランプのやり方は理不尽だ。

鈴木:脱線するが、先月息子の嫁さんと孫がカナダのオタワから帰って来た。アメリカではトランプが登場した瞬間に、テスラのイーロンマスクが気に入らないから、アメリカ製品不買運動をやり、テスラは全然売れなくなった。カナダを第51番目の州などと言ったものだから、カナダでは抵抗運動になっている。アメリカ製品のボイコットをやっている。カナダの家の近くのスターバックスはガラガラだ。ボイコットだから、暴力を使っているわけではなく、みんな行かないことで意識を示している。東京に来ると、スターバックスの店が満杯で、日本ではトランプがいいのか悪いのかどうでもいいようで、あまりにも日本人はのんびりしていると言われた(笑)。世の中で起こっていることが、身近なことに置き換えられるというのは、やはり凄いと思う。

周:日本人はもう少し世界の変化に敏感になった方がいいと思う。急激に進むパラダイムシフトは身近な変化につながっている。この自覚のある無しが重要だ。

【対談】鈴木正俊 VS 周牧之(Ⅲ): 情報化時代の波にどう乗るか?に続く)

講義を行う鈴木正俊・ミライト・ホールディングス元社長(左)と周牧之・東京経済大学教授(右)

プロフィール

鈴木 正俊 (すずき まさとし)
NTTドコモ元代表取締役副社長、ミライト・ホールディングス元代表取締役社長

 1951年静岡県生まれ。1975年東北大学経済学部卒業、日本電信電話公社入社。NTTドコモ取締役広報部長、同取締役常務執行役員、同代表取締役副社長。ミライト・ホールディングス代表取締役社長、ミライト代表取締役社長、ミライト・ホールディングス取締役相談役などを歴任。