【対談】鈴木正俊 VS 周牧之(Ⅲ): 情報化時代の波にどう乗るか?

東京経済大学創立120周年記念シンポジウム「コロナ危機をバネに大転換」 で講演を行う鈴木正俊・ミライト・ホールディングス元社長

編集ノート:
 NTTドコモ副社長、ミライトホールディングス社長を歴任された鈴木正俊氏は、日本のインターネットの黎明期を支え、IT時代の発展を一貫して引っ張ってこられた経営者の一人だ。東京経済大学の周牧之教授の教室では2025年6月5日、鈴木氏を迎え、情報技術の急速な進化にどう対処するかについて伺った。

※前回の記事はこちらから


情報の歴史は傍受の歴史


鈴木:情報の歴史とは、傍受の歴史だ。傍受とは、盗聴だ。盗聴の歴史で1つだけ、申し上げておきたいことがある。昔のケーブルでの通信ではイギリスと、ヨーロッパのノーザンテレコムが回線を支配していたが、途中で情報が抜かれてしまった。

 電信は江戸時代までは、のろし、飛脚、伝書鳩、手旗信号、鉄道などでやっていたのが、電気でやると、瞬間に情報が伝わるようなった。天候も関係なく、昼でも夜でも関係なく、情報が通じるようになったのが、明治時代。アメリカなどとの国で結ばれた不平等を解消する予備交渉という大義名分を持って、岩倉使節団が明治4年にヨーロッパを視察した。これからの日本を作るためにはどうしたらいいか勉強に行った。

 その時に、横浜からサンフランシスコにたどり着いた視察団が、「ちゃんと無事にサンフランシスコにつきました」という通信を東京に向けて打った。

 当時どういうルートで東京まで届いたかというと、サンフランシスコから、ニューヨークまで大陸の中の通信を使って、電信を使ってニューヨークに行き、ニューヨークからロンドンまで海底線ケーブルに伝わり、ロンドンからまた海底線ケーブルで、ロシアのサンクトペテルブルにつながり、シベリア大陸をずっと横断してウラジオストックに通信が来て、ウラジオストックから海底線で長崎まで来ているという歴史がある。

 当時、長崎から東京までの間を連絡するのは飛脚だった。だから、サンフランシスコから長崎まで、ほぼ一日で通信が来たが、それを東京に送るのに飛脚でやって、計14日かかっている。日本にはそういう通信がなかった。世界の中で日本は閉じていた。海底線自身も海外の会社を引いているため、通信が東京に行かず長崎に行ってしまった。

周:電信の国際通信と飛脚の国内通信との組み合わせだ。

鈴木:歴史を見ると、通信を持っている人間は、必ず途中で情報を見る。岩倉具視がワシントンに行った時に、条約の交渉をしてもいいが、まずは日本国政府から全権の資格をもらえとアメリカ大統領から言われた。交渉できるのであればもらうと言い、岩倉は全権を取ろうとした。ところが、東京は禁止だと言った。アメリカ大統領は全権をもらえと催促してくる。この時点で岩倉は、通信をアメリカに見られていることに気づいたことが、記録に残っている。東京からの返事がいつもノーだという通信が来ていることをアメリカに知られているから、大統領が催促してくるのだと気づいた。催促をするタイミングが良すぎた。

 通信は必ず盗聴されているのだということを前提にやらないとダメだと岩倉は気づいた。太平洋戦争も同様だが、全部盗聴されていく歴史があり、それを互いに防御し合ってきた。

オープンなだけでは戦えない


鈴木:通信は便利だからいい、公明正大にやればそれで済むとは言うが、本当に今、力のある人、アメリカのトップ、中国トップ、ロシアのトップ、大国のトップは、みんな自分で考え、自分でやり、他人を信用しきってやる感じではない。中国は子供のころにお年寄りから「だまされるなよ。だまされてはいけないよ」としっかり教育される。韓国・朝鮮は「負けるなよ、負けてはいけないよ」と教育される。日本人は「とにかくうそをつくな、他人に迷惑をかけるな」と教育されて育つ。日本はうそをつかず、絶えずオープンの場でものを言うよう教わってきた。しかしそれでは今日の国際競争では勝てないというのは半分冗談話ではある。が、日本は社会に頼ってやっている部分が大きいので、ある面、身内にはオープンだ。でも、それだけでは世界で戦えない。会社をシステムだけで運営するというのではいけない。

周:政府やマスコミの話を信じる日本の国民性はこのようにして出来上がったのかもしれない。しかし政府やマスコミは常に正しいとは限らない。政府やマスコミが誤った事を煽る時、日本の国民性はネガティヴに働く。

鈴木:東京経済大学を創始した大倉喜八郎が非常に苦労し、明治時代に自分で稼いだ財力でいろいろな産業をやり、学校を創ったのがこの東京経済大学の前身の商業高校、専門学校だ。財産を成しただけでなく、お金を使い学校を創ったこのモデルは海外のシステムと同様だ。アメリカの会社も稼ぐが、社会とmentionする。

周:財閥で教育機関を設立し、大学に発展させたのは大倉喜八郎だけではないが日本では極めて珍しい。

鈴木:中国も外で行って稼いだ華僑が故郷に投資し、これから生きていく人の役に立っていく。大倉喜八郎がやったような日本のシステムは、非常に海外との親和性がある。戦後日本で、日本国憲法ができてから、いい意味でも悪い意味でも、平等化社会を目指そうとした。

 でも、現実には社会にはある程度の格差がどうしても出来ていき、そのことによって社会が進展するという事実がある。明治時代の財閥の役員の給与は、どう決まっていたか、ある方に訊くと、昔は、利益の半分は役員、半分は従業員に分けた。半分の役員は数が少ないから給与が高い。明治時代の従業員は数が多いから、1人当たりの給与は少なかった。その代わり役員は自分が使う車の運転手もすべて自分個人で調達したと言う。   

 戦前の財閥世界がいいと言っているわけではないが、今は、日本のサラリーマンは接待費を会社で出さなければならない。接待費の基準や役員の待遇など頭を悩ませられ非常に限られた基準になっている。

 情報というのは、自分の活動のために取ることが多いので、日本の情報は、すべてアメリカが見ている。「スノーデン」の告白を見てもわかるように、インターネットでも全部覗かれている。これが日米交渉のプロセスであったということは、はっきりしている。力の世界だから、仕方がないという感じはするが、情報に対する感性はしっかり持ちながらグローバルな世界の中で生きていかなければならない。若い人はいろいろな情報を取りながら勉強したらいいと思う。

周:情報を収集し判断する力は、今の時代に最も必要な能力だ。実はインターネットで公開されている情報の海から十分価値のある情報をキャッチし、それに基づいてかなりの判断が出来る。

鈴木:通信が広がったことによって、AIで自動翻訳ができ、今はニューヨークタイムズは瞬間に日本語に翻訳できる。フェイクメールも区別がつかない。東京電力や銀行からを語ったフェイクメールかどうか区別のつかないようなものが、東京の中でありふれて流れる。それに対する対策もやっていく必要がある。

 言語でだけ認識すると、現実の世界とは違っている。言葉で理解するアメリカと現実のアメリカは違う。アメリカ人はすごく付き合いやすい。フランクな人が多い。それが歴史の過程で社会が違ってきている。今トランプがアメリカは海外に利用され被害者になっているから国を閉じると言っている。しかし現実的に閉じることはできない。サプライチェーンが回っている。

 自国で自給をしていて明るい国もある。食料自給率100%、エネルギー100%のフランスがそうだ。日本のような食料自給率40%、エネルギー自給率3%の国は、海外との交流を断ち切られたら、もうお手上げ状態になる。日本には納豆があるじゃないかなどというが、大豆は90%以上が輸入だ。そういう中で生活が成り立っていることを理解することが、いろいろな面で大事だ。学校にいる時に、情報を集約すれば、実体験はなくても、社会にいろいろなことがあることを、ぜひ知識として持ち関心を持っていただきたい。

東京経済大学・進一層館と創設者・大倉喜八郎像

信用に足る実践こそ肝要


周:鈴木さんは2012年北京で私が主催したシンポジウムに来てくださった。シンポジウム終了後、レセプションに参加せずに「私はこれからヨーロッパに戻ります」とおっしゃったので驚いた。実はその日、鈴木さんはわざわざ出張先のヨーロッパから北京に飛んできてシンポジウムに参加してくださり、また急いでヨーロッパにお戻りになった。鈴木さんは「信用も資本」とおっしゃった。それを鈴木さんは本当に実践されている。

鈴木:信用は大切だ。半導体の会社の社外取締役をいまやっているが、半導体の世界は、軍事技術もあれば、AIの世界的な競争も激しい。半導体の会社のロジックにはさまざまな種類があるが、アメリカでもCEOをやっている人にはインド系、パキスタン系、イラン系、台湾系のアメリカ人が多く、アングロサクソンの人はあまり見ない。競争が激しいので、頭はいいが社会的には恵まれずエリートコースには乗らない人が半導体の世界を引っ張っていることも多い。

 私が役員を務めていた日本の企業のCEOのところに、海外の相手先CEOが来た時、大抵、昼飯か夕飯を一緒にする。いつも飯を食いながら雑談している。世の中がいまどうなっていて、アメリカとの関係をどう考えていて、中国はどうなっていて、日本の中でどう見ているか等、半導体とは関係のない話をしょっちゅうする。

 CEOがそうやって来るようになるのが1つの大事なところだ。CEOが来るとスピードが速くなる。「この半導体の工場を作れるか」と問われ「問題はあるが、やってみる」と返事をすると、ほぼ話は決まる。その中で、やはりこいつは信用できるなと思うようになる。仕事をよく知っているやつだから任せられる。その代わり、信用で契約をして進めても結果として期限までに完成品が作れないことがある。作れなかったら、もう次はない。信用できない。

 だから、信用というのは事実によって裏付けられないといけない。「知り合いだから受注しているのだ」と外から僻む(ひがむ)人間がいるが、そんな生易しいものではない。互いに依存し合って生きているから、自分が立派な技術を実現していかなければ、もう次のステージでは、仲間に入れてもらえない。厳しい世界だ。

 スタート地点で、従来の技術を説明しているだけでは、最先端のことはできない。今はない新しいモノを作り出す必要がある。「おまえを信用して契約する」という世界だ。半導体のような最先端のところから、そうした事実が現れていると実感している。信用されるということは厳しいことで、実際の力がないと、必ず次はダブル返しで持っていかれてしまう。

周:空間的なバリューチェーンを実際につなげているのが信用だ。

鈴木:勘違いする人がいる。友達の友達は友達だとか、どこの高校出身、大学の出身だからあいつはいいやつだよとか、「俺はあの社長を知っているから頼めばなんとかなる」等は、個人や集団によって違いがあるが、そういうものを手段として使う人が現れるが、そんな甘いものではない。1回か2回成功することがあるが、重なると最後まで続かない。そういう人は各国にいるが、日本は特にそういう人が他国と比べて多い。公と私が分かれていない。仕事とプライベートが正直あまり分かれていない。

周:日本人は出身大学、所属企業のブランドを自分の信用力に安易に置き換えていく傾向が確かに強い。本当の信用は自分で勝ち取るものだと解っていない人たちが多い。それは世界では通用しない。25年前、産業政策の大御所の清成忠男法政大学総長と私は、シリコンバレーにおける日本人と中国人のパフォーマンスの違いに関する議論をした。日本人が組織にしがみつくことを清成先生が随分嘆いていらした。

2012年3月24日、北京で開催の国際シンポジウム「中国の生活革命と日本の魅力の再発見」にて交流する鈴木氏と周教授

ビジネスは技術だけでは進まない


周:東京経済大学の昨2024年11月30日開催のシンポジウムに岩本敏男NTTデータ元社長がいらした(【シンポジウム】岩本敏男:ビッグイノベーションIOWN計画でGXをリード)。NTTグループは、いま取り組むIOWNがうまくいけば、再度、世界企業時価総額トップ10入りにもどってくるかも知れないと思っている。そうなるにはどうしたらいいか? ひと昔前、日本の次のドル箱になるべき半導体、太陽光パネル、液晶などが韓国、台湾、中国などによる圧倒的な投資競争に負けた。本来、資本力は日本の方があったはずだ。しかし資本集約産業で何故か日本は負けた。何か問題があるはずだ。今のIOWNに匹敵するような技術の開発には中国も取り組んでいる。国際競争の中どうしたら勝てるのか?液晶の二の舞にならないような、打つ手があるのか?

鈴木:反省も含めてだが典型的な例がある。1970年に大阪万博で展示し10数年かけて第2世代2G、第3世代3G、第4世代4G、今5Gと10年単位で進めた。私がドコモの副社長をしていた時は3Gだった。当時ヨーロッパに行くと通信事業者の集まりの中で「お前たちは何故3Gという進んだ技術をやるのか?」と文句を言われた。「通信モバイルで電話機が小さくなり持ち運べるようになり今、広まっているではないか。3Gだと基地局の方式を新しく転換しなければいけない。投資が必要になる。放っておけば携帯電話は沢山売れる。通信の投資だけでリターンは大きい」と返した。にも関わらず、「お前らは勝手に最先端技術で便利にし、音声以外に文字もファイルで転送できるようになって便利だというが大きな迷惑だ。お前らはビジネスが分かってない」と相当言われた。

 彼らが何を言っているかというと、「ビジネスというのは技術ではない、技術ではあるけれども、技術ではない」ということだ。需要があって投資をしてもリターンがあるということで、営業力、事業の構想力が大事だ。事業をやるために必要なことは何かというと、ものを作る人、運ぶ人、売る人も必要だ。徳川家康が言ったのは、輿に乗る人、担ぐ人、わらじを作る人など、いろいろな役割を持った人が集合しないと物事は動かないということだ。技術開発があり、それをメーカーの人が理解して作る。それを早く運送できる、販売網がどんどんさばいていく、故障したら問い合わせできるネットワークを作る。それをグローバルでどう作るかの知恵がないといけない。それは、技術力という最初のところを擁護しすぎた。技術が進んでいれば、おのずとついてくるといった思想が若干、日本にはあった。

 家電の世界で、ソニーのウォークマンをやったら凄く売れるようになり、事業力があると言われたが、ソニーの人に言わせると「ソニーなんて技術力がないんだ」と。その代わりに、トータルに事業をデザインすることが上手だ。味方を作り販売店を増やせる。  

 ビジネスの成り立ちは、技術はもちろん大事で、技術がだめだと裏切られたときに全然相手にされない。しかし、技術は必要条件だが十分条件ではない。十分な条件とは、いろいろなビジネスプロセスがあるということだ。

 サプライチェーンもできると同時に、儲けをどこで得るか、販売だけが儲けるのではなく、サプライチェーンの途中で儲けることでいいわけだ。正直言うと、利益は必ずしも売った時だけのものが利益ではなく、事業者間の取引の間に、サプライチェーンが儲けることがある。

周:おっしゃるとおりに、技術力に酔ってしまう場合は、すごく良くない。

鈴木:そうだ。

周:実際はマーケティングが要になる。あとは投資の決定権がどこにあるのか、ということも大事だ。私の親友の1人が、10数年前、中国のTVメーカー最大手TCLの社長をやっていた。この人は液晶をシャープと一緒に組んでやりたいと思った。お金は全部TCLが出し、中国で工場を作って世界を制覇しようとした。一生懸命にシャープを説得したが結局振られた。

 当時シャープは自社の技術力に酔っていたのだと思う。「俺たちの技術は世界一だ」と。しかし、相手は巨大なマーケットを持っていた。その後、あまり時間が経たないうちにシャープの経営は行き詰まり台湾の鴻海精密工業に身売りされた。ちなみにTCLはいま世界の液晶生産のトップメーカーの一つに大成長した。

経営者にはIT技術進歩のリズム感が重要


鈴木:周先生の話は本質をついている。そこに最近は規模というのが出てきた。GAFAM5社は東京証券取引所に出ている約2,000社の時価総額に匹敵する。投資能力が違えば、世界的な規模で投資して回収すると、単価規模が10万、100万、1,000万、億の単位になり1個当たりの単価が全然違ってくる。日本が栄えたのは1億2,000万人口という小さくないマーケットで成功したモデルを持っていたからだ。今それをグローバルマーケットに持っていったらまずい。大規模な百万、千万台を相手にすると、いきなり単価の競争力の違いが生じ、規模の経済力で負けてしまう。そうすると、大きい投資をやって失敗したら自分は当然首を切られ、金も貸してもらえない、会社は倒産する。倒産だけは済まなくなる。日本自体の投資規模が、アメリカの会社などと比べると、殆ど小さくなってきた。世界のGDPの15%だったのが今5%ぐらいになってしまった。世界にとっての日本は小さくなって大きな投資はもちろんできなくなる。自分の体力でできるGAFAMはどんどん広げていき、技術的に優秀で、単価の安いものを作る。                   

 それから、人材が今アメリカに集まっていることも日本とは大きな違いだ。日本は技術力、質で勝るものを探し求めているが、なかなか難しい。本当におっしゃるとおり、競争の質が違ってしまっている。

周:日本の半導体産業や液晶産業が失敗した最大の原因は、投資の決断力が韓国、台湾、中国に負けたことだと思う。例えば、韓国の場合は、自国のマーケットを日本ほど持っていないが積極的な投資を続けた。半導体需要の波(シリコンサイクル)を乗り越え勝ち抜いた。日本の各社は投資に慎重し過ぎ、萎縮した。

鈴木:台湾でも、アメリカのテキサスインストルメントに人材を送り、技術担当の副社長になったのを、今度は台湾に戻した。台湾の中で育成されたのではなくアメリカのビジネスをやり副社長になった人を台湾に引っ張り、産業発展を支えてもらう。アメリカのトランプが「台湾に技術を盗まれた」と言っているが、技術を盗んだのではなく、台湾の人が台湾に戻っただけだ。

周:鈴木さんが指しているのはTSMC(台湾積体電路製造)創業者の張忠謀だ。ただ彼は台湾がアメリカに送り出した人材ではない。中国江蘇省寧波で生まれ、自ら渡米しMITの機械工学学士号と修士号、スタンフォード大学の電気工学博士号を取得し、テキサス・インスツルメンツに入社し、副社長に上り詰めた。まさしく自力でアメリカ半導体の世界でトップになった人だ。台湾は張忠謀氏をヘッドハンティングし、TSMCを作らせた。

 トランプの「盗まれた」という言い方、捉え方が良くない。華人がアメリカの半導体発展に多大な貢献をしている。今、アメリカ半導体トップ4社NIVIDIA、Broadcom、AMD、IntelのCEOはすべてチャイニーズ(華人)だ。

 私自身は元々工学系出身なのでどうしても工学系の人の肩を持ちたくなる。日本企業はテックカンパニーであっても経営トップに工学系ではない人も多い。台湾では企業がお金を出し合って協会を結成し、MIT(マサチューセッツ工科大学)に高額な寄付をして最新の技術動向を台湾の人に伝授してもらうことをやっていた。2008年に当時MIT客員教授だった私に声がかかり、同協会の要請でMITを代表して台湾に講演に行った。講演会には台湾のテック企業大手のオーナーがわんさと来た。全員工学系だった。面白かったのは、息子と娘婿は連れて来てもサラリーマン経営者は連れてこなかった。最高で最新の情報は、息子と娘婿だけに聞かせることを徹底させていた(笑)。

鈴木:技術が何か、ということが再び問い直されている。日本では技術というと、製造業をすぐ連想する。ものづくりのところに技術がある。だから、日本は非常に微細加工というが、国際的に限って今の先端技術の、例えば、3ナノとか2ナノと言ってやっているような事だけが技術ではない。Softwareが大事だ。Softwareで半導体の力をいかに活かせるかがポイントになっている。

 匠の技術だけではなくSoftwareの発想力があるかどうかで、物事が動いている。Softwareの技術とは、技術の範囲をもっと広げて考えなければならない。技術の裾野が変わってきている。システムそのものの組み方も技術になっている。

周:おっしゃる通りだ。日本での技術の捉え方を、IT時代の捉え方に置き換えておかないと、うまくいかない。会社の経営陣に技術者をもっと抜擢した方がいいと私は思っている。IT技術進歩のリズム感は文系出身の人にはなかなか理解できないところがあると思う。例えば半導体の進化には「ムーアの法則」がある。「ムーアの法則」では、半導体が1年半ごとに倍の能力をつけ値段は半分になるという。ハイテク技術出身者の皆さんには常にこのスピード感に追われている感覚がある。これは財務、法務出身の皆さんにはなかなか伝わらない感覚だ。

 半導体、通信、AIなどのIT技術が急速に進むことを前提に物事を考えられる。それが、経営者には物凄く大事だと思う。

【激論】武田信二・鈴木正俊・周牧之:コロナ危機で加速する産業のデジタル化(※画像をクリックすると動画ページに移動します)

課題をイメージし解決の組み立てを


鈴木:大変重要だ。私たち現場サイドで考えると、例えば、自動運転の車は今、サンフランシスコで試験を受けて一時止まっていたのが動き出し、先月からロスアンジェルスで自動運転のタクシーが始まることなった。来年はロサンジェルスだけでなくフロリダでこのサービスが進むことになる。

 3〜4年前ぐらいは、自動運転は実現しないという議論がまだあった。バッテリーだから冬になると、ニューヨークから北の寒い地方はバッテリーを使ったらすぐに寿命が来てしまう。だからニューヨークから北のユーザーには売れない車だと言われた。と同時に、ドローンと同様で爆弾を積んで自動運転で走らせれば、走るテロ兵器になる。そんなものを解禁したら、大変なことになると言う。

 例えば自動運転の車に爆弾をセットし、ビルの1階に突っ込ませるとする。遵法で信号があったら待ち、高速道路へ入ったら一定速度で走ると捕まえようがないが、実は載せているのが爆弾で、最後は突っ込むということになる。そんなものはとてもやれない、自動運転はどうしても利用者側のニーズ、国のニーズから言っても限界がある、したがって、技術が進んでも社会的に受け入れないという議論だった。

 そんな極端なことを考えることはなく、日本であればお年寄りを乗せれば、病院に自動的に行ってくれるから、凄く良いサービスだといってプラスの面だけ考える。アメリカはプラスの面からアプローチする力が強い。技術的な進展上の問題という社会の受け止め方の解決を、同時に自分でどんどんやっていける。

 そういうことがイメージできるかどうかだ。社会に入ると、課題をイメージし、1つずつ解決法を組み立てていけることが非常に大切になる。

周:大変に大事な話をしていただいた。やらない理由を言う人たちが、日本では実は非常に多い。技術開発でも、マーケットの開発でも新しい取り組みをするのでも、やらない理由を強烈に並べる人が沢山いる。

 実際、技術者のリズム感は違う。特にエンジニアは問題解決的思考だ。つい最近まではバッテリーは冬に弱いと言われていたが、いまはそんなことはなくなった。

 ロボタクシーをすでに運営している会社は米中に複数ある。テスラの自動運転ソフトのFSDが物凄いスピードで進んでいる。

ラスベガスで運行中のアマゾンの自動運転ロボットタクシー

ネットワーク力が物を言う


鈴木:優秀だということと、仕事ができて仕事をやっている事は、また別の次元という気がする。

周:例えば日本の官僚は優秀だがビジネス経験者からのし上がる人がいない。でかいプロジェクトを実際にやったこともない。だからちょっと違った優秀さだ。

鈴木:それもそうだし、どういう政治家と出会うかといった縁も大事だ。本人が優れているのは基本的なことだが、いい人に巡り合っていくことが大事だ。そういう外的な要因が大きい。かといって、外的な要因で損したとだけ言っている人は多分、本人の力不足がある。私は出会いが大事だったと感じる。

周:鈴木さんのいまの言葉は大事だ。ここで鈴木さんの話が聞ける学生の皆さんは幸せだ。鈴木さんに出会い、そのお話を聞けるということが幸せだ。

鈴木:私は周先生との出会いで学んだことが多い。

周:私が大学生の時に出会った素晴らしい方の一人に、中国の経済学の大御所、于光遠先生がいる。当時の中国の国師のような存在だ。この方との出会いは私の人生を変えた。私が工学から経済学に進んだのは于先生の勧めだった。

 だから学生の皆さんはアンテナを張って鈴木さんの話、さまざまな人の話を聞き、そこから触発されることだ。

鈴木:人生でいろいろ出会った他の世界の人に言われたことが、当時はわからなくても、自分がそのことに直面したときに「ああこれを言っていたのか」と分かる時がある。多少記憶に残ったことがあるベースを持っていると腑に落ちる。自分でわかるまでは仕方がない。日本の教育が立派だと思ったことがある。昔アフリカのことが分からないまま、チュニジアに行ったことがあった。当時は、「そういえばイブン・バートゥータと言う人がここにいたと習ったな」くらいに思っていた。

 それで、現地で秘密警察の人が来てなんだか引っ張られそうになった時に、「この銅像はイブン・バートゥータなのか」と言ったら、周りの人が親切にしてくれた。私はイブン・バートゥータという名前しか知らなかったが、その名を口走ったらいきなり世界が変わってきた(笑)。こんなところで役に立つんだなと思った。

 くだらない話だが、ちょっとした引き金があるかどうかは大事だ。日本の教育は大して深くはない。浅く広くダーッと広げていくのを、試験をやるので覚えている。当時は正直、大して思いがあったわけではないが、それが役に立った。

 でもいっぺんには分からない。やはり自分があちらこちらに分け入って、砂漠の真ん中に行ってようやく分かったというようなことだ。後々付いてくる。そういう意味では本を読むのも、読んだ当時はそう思わなくても、経験に出会うことによって或いはある人に出会うことによって、腹に落ちるようにわかる。それはものすごく大きい。ああそうだったのかと気づく。今役に立つかということではない。

周:静かに人生を変えてくれる。

鈴木:良い言葉だ。

周:鈴木さんのような方と出会えるのは周ゼミのいいところだ(笑)。

鈴木:みなさん、周ゼミで小手川大助さんのような人が登場するというのはめったにないことだ(笑)。

周:平成で最も仕事した官僚のひとりだ。先々週5月22日にも周ゼミにゲスト講義にいらした(【対談】小手川大助 VS 周牧之(Ⅲ):トランプ政権でアメリカ復興成るか?)。

鈴木:小手川さんの話を聞くのは面白い。日本人も実際はしっかりやってきているんだと痛感する。そうした人は沢山おられる。私の尊敬する人で経産省を退官された方がいる。彼はヨーロッパで例えば翌日に国際決議をするに当たり本当に困った時は、夕飯に各国の外交官、審議官らを呼び、飯を食わせるという。そうすると、次の日うまくいく。その夕飯にはよくジューリッシュ(ユダヤ人)を呼ぶそうだ。国が違ってもユダヤ人ネットワークがある。そこにつながるのだと言っておられた。そういう付き合いが出来る役人が日本にいる。そうした人的交流を、どう日本のためにやっていくかが大切だ。

周:国際的な仕事はまさしくそうしたネットワーク力が物を言う。

講義を行う鈴木正俊・ミライト・ホールディングス元社長(右)と周牧之・東京経済大学教授(左)

プロフィール

鈴木 正俊 (すずき まさとし)
NTTドコモ元代表取締役副社長、ミライト・ホールディングス元代表取締役社長

 1951年静岡県生まれ。1975年東北大学経済学部卒業、日本電信電話公社入社。NTTドコモ取締役広報部長、同取締役常務執行役員、同代表取締役副社長。ミライト・ホールディングス代表取締役社長、ミライト代表取締役社長、ミライト・ホールディングス取締役相談役などを歴任。