CICI2016:第7位 | CICI2017:第7位 | CICI2018:第6位 | CICI2019:第6位
IT経済を牽引する都市
浙江省の北部に位置する杭州市は同省の省都であり、浙江省の政治、経済、文化、交通、金融の中心地である。西安、洛陽、南京、北京、開封、安陽、鄭州と並ぶ「中国八大古都」の1つであり、「地上の楽園」と讃えられるほど風光明媚で、古くから栄えた都市である。世界遺産の西湖や京杭大運河をはじめとする著名な観光地が点在し、国内外から多くの観光客を惹きつける観光都市でもある。本指標の「国内旅行客」項目では第7位、「海外旅行客」では第5位であった。
長江デルタメガロポリスの主要都市として発展を続けており、2015年に杭州市のGDPは1兆元の大台を突破し、上海、北京、広州、深圳、重慶、蘇州、天津、武漢、成都とともに中国における「1兆元クラブ」の9大都市にはじめて仲間入りを果たした。
杭州市の2010年〜2015年までの5年間の経済成長率は平均9.6%に達した。1人当たりGDPは、2010年の78,342元(約133万円)から2015年には112,268元(約193万円)に膨らんだ。
中国は現在、世界で最も「キャッシュレス生活」が進んでいると言われ、その牽引役が「Alipay(支付宝)」と「WeChat Pay(微信支付)」の二大サービスである。「Alipay」は、杭州市に本拠地を置くアリババグループ(阿里巴巴集団)が提供するオンライン決済サービスである。世界最大規模の電子取引で知られるアリババグループは、1999年の設立当時から杭州市内に本社を置き、今では同市の経済発展の主役であると言っても過言ではない。2017年11月11日の「独身の日(双十一)」に実施した販促イベントで、アリババの取引額は1,683億元(約2.9兆円)に到達し、前年実績比で約40%増の大幅な伸びを見せつけた。杭州市のIT経済は、さらなる展開が期待されている。
(2016年度日本語版・トップ10都市分析)
スタートアップ都市
杭州に企業の本社機能が集まってきた。〈中国都市総合発展指標2018〉によると、「経済」の指標「メインボード上場企業」で前年度から3都市も追い抜き全国第4位に、同じく「経済」指標の「フォーチュントップ500中国企業」も前年度より順位を1つ上げ全国第4位、さらに「中国民営企業トップ500」は昨年度同様全国トップを守った。
その背景にあるのは、スタートアップの活力だ。中国のスタートアップ都市といえば、北京、上海、深圳というイメージをもつ人が多いだろう。しかし、杭州の活躍はそれらの都市にも劣らない。〈中国都市総合発展指標2018〉の「ユニコーン企業指数」では、杭州は北京、上海に続いて、全国3位という好成績を収めている。ユニコーン企業とは、評価額10億米ドルを超える未上場企業のことである。2019年末、ユニコーン企業は北京に最も多い69社が所在し、第2位が上海の35社、第3位に杭州の20社、第4位に深圳の13社と続く。
なぜ、杭州のスタートアップがここまで躍進を遂げているのか。その理由は杭州がアリババのお膝元だからである。世界最大のユニコーン企業「アント・フィナンシャル」を筆頭に、杭州にはアリババが出資する数々のメガベンチャーが勃興し、一大IT経済圏が形成されている。杭州の企業の活力は、このようなIT企業が牽引している。ちなみに2018年の「メインボード上場企業」のうち、杭州のIT企業数は全国第4位を誇っている。
(2018年度日本語版・トップ10都市分析)
まもなくメガシティへ
都市経済の成長は人口動向に結実する。2018年に杭州の常住人口は981万人に達し、1,000万人到達を目前にしている。杭州の、「経済」の指標「常住人口規模」は全国第18位であるが、2018年の常住人口成長率は全国第6位であり、直近3年間の2016年、2017年、2018年における常住人口純増はそれぞれ17万人、28万人、33.8万人と急成長の状態にある。
こうした杭州の人口増の背景には、上記の本社機能やベンチャー活力の向上と同様、IT企業の躍進がある。デジタル・エコノミーが勃興し、ますます活性化するIT産業を目指して、全国から多くの新卒学生が杭州にやってきている。北京、上海が人口抑制政策を取る中、学生の受け皿として杭州が機能している側面もあるだろう。杭州市政府も人材獲得のため政策を次々と打ち出している。
〈中国都市総合発展指標2018〉によると、トップクラス人材の集積を表す「社会」指標の「傑出人物輩出指数」は前年度から1位順位を上げ全国第4位、「経済」指標の「中国科学院・中国工程院院士指数」は前年度から1位順位を上げ全国第7位となり、人材の量だけではなく、質も向上しつつある。
(2018年度日本語版・トップ10都市分析)
茶の都
杭州は「茶の都」としても名高い。西湖周辺の龍井村を産地とする最高級緑茶「龍井茶」は古くから中国十大銘茶の一つに数えられている。清の乾隆帝が西湖で龍井茶を賞味し、その味を絶賛したエピソードが有名である。毛沢東も周恩来も龍井茶を愛し、外国の賓客へのプレゼントにしばしば選んだことで、世界に名を広げた。
杭州のお茶がおいしい理由の一つに「水」がある。杭州には西湖に代表されるように水源が豊かで、また、気候が温暖かつ降水量が多く、太陽の光も拡散して柔らかい。土壌はやや酸性で、層が深く水はけが良いことから、木々は青々としていて、小川もよく湿っている。年間平均気温は16℃、年間降水量は約1,500ミリと、茶樹の成長には適した気候である。〈中国都市総合発展指標2018〉の「降雨量」は全国第48位である。茶葉が芽を出し続け、摘み取り時期も長く、一年を通して30束ほど摘み取ることが可能であり、お茶の種類の中でも摘み取り頻度が高いといわれている。中でも、春の「清明節」(春分の日から15日後にあたる祝日)の直前に摘む一番茶が最高級とされ、時の皇帝への献上品とされていた。なお最も贅沢なのは、地元の「虎跑」泉などの名水で淹れた龍井であろう。
杭州は古くは南宋の都として栄え、古来より住みやすい地理・気候に恵まれた。江南の美と贅沢を育んだ都市には、国内有数の美術大学の1つ「中国美術学院」もある。豊かな文化都市であると同時に経済も発展し、かつ美食都市としても名高い。〈中国都市総合発展指標2018〉によると、杭州は、「社会」の指標「世界遺産」が全国第4位、「無形文化財」が第3位、「1万人当たり社会消費財小売消費額」が第4位、「海外高級ブランド指数」が第5位、「海外飲食チェーンブランド指数」が第6位、「経済」の指標「トップクラスレストラン指数」が第9位を勝ち取った。
中国国家統計局と中国中央電視台(CCTV)は毎年、全国から「中国幸福感都市」を10都市選んでいる。杭州はその中で選出累積回数が最多だ。いわゆる中国の「幸福感」ナンバー1都市である。
(2018年度日本語版・トップ10都市分析)
「中国民営企業トップ500」ランキングで杭州が全国第1位を獲得
2018年8月、全国の企業団体である中華全国工商連合会(工商連)により「中国民営企業トップ500」が発表された。これは中国民営企業の昨年の営業収入(売上高)に基づいて作成される上位500社のランキングであり、民営企業の動向を占う重要な指標である。2010年から公表されている。
2018年度版のトップ3は、華為投資が売上高6,000億元(約9.7兆円)で首位となり、第2位が蘇寧控股集団、第3位が正威国際集団。昨年の売上高が3,000億元(約4.9兆円)を超えたのは、上位9社だった。なお、テンセントやアリババは筆頭株主が外資のため、中国では外資系企業として扱われており、今回のランキングには含まれていない。
同「トップ500」では杭州の活躍が目覚ましい。同市からは36社がランクインし、都市別では杭州が全国第1位を獲得した。なお、杭州に属する36社のうち、19社が製造業に属し、杭州経済の発展は、製造業の持続的な繁栄いかんにかかっている。
浙江省全体では93社がランクインし、杭州、嘉興、紹興、湖州だけで53社が入った。なお、同省にランクインした93社の中では52社が製造業に属している。長江デルタメガロポリスに属する浙江省全体では製造業が強い。
(2017年度日本語版・トップ10都市分析)
アリババグループのカンファレンス「雲栖大会」が開催
杭州市郊外の雲栖鎮で2018年9月、アリババグループのカンファレンス「雲栖大会」が開催された。このカンファレンスは2009年から毎年開催されているイベントで、グループの戦略や技術動向などを説明する場である。基調講演には、来年2019年9月をもって退任することを電撃発表したアリババ共同創業者で会長の馬雲(ジャック・マー)氏が登壇した。イベントには200社以上のパートナー企業が出展し、4日間で約12万人が来場した。
中国人の生活サービスにあらゆるものを提供している電子商取引の最大手アリババは、昨今のインバウンドブームなどもあり日本でも著名となってきたモバイル決済「アリペイ」を提供している。そのホームタウンである杭州は中国一のキャッシュレスシティを目指している。すでに98%のタクシー、5,000台以上のバス(市内ほぼすべてをカバー)、95%のコンビニやスーパーマーケットがモバイル決済対応となり、市内はほぼキャッシュレスの状況になっている。また、公共サービスでも納税、公共料金、年金などほぼすべての行政サービスをキャッスレスで網羅しており、効率的な行政運営が実現している。
また、杭州市が同グループと協力したスマートシティ化計画「ETシティブレイン(城市大脳)計画」がすでに実行され、「ピーク時渋滞遅延指数」全国第288位の悪名高い杭州の渋滞模様が「ETシティブレイン」によって劇的に改善されたという。
(2017年度日本語版・トップ10都市分析)
2022年・第19回杭州アジア競技大会の準備が始まる
アジアのスポーツの祭典「アジア競技大会(アジア大会)」が、2022年に杭州で開催される予定である。中国では1990年の北京、2010年の広州に次いで3度目の開催となる。
杭州では2017年から大会組織委員会が本格的に稼働しはじめ、「グリーン・スマート・節約・マナー」を開催理念のもと、インフラ整備をはじめ、大会準備作業の計画が着々と進行しつつある。
〈中国都市総合発展指標2017〉では、「スタジアム指数」全国第17位、「文化・スポーツ・娯楽輻射力」全国第8位と、経済規模の大きさと比べて今一つスポーツ関連が伸び悩む杭州であるが、アジア大会を契機にスポーツ都市としての飛躍も目指している。
2018年のアジア大会で話題となった競技は多数あったが、特に注目されたのは「eスポーツ」と言っても過言ではないだろう。eスポーツとはオンラインゲームの総称であり、格闘ゲーム、シューティング、戦略ゲーム、スポーツゲームなど、ジャンルは多種多様である。2018年大会ではあくまで公開競技としてのみの採用だったが、もし2022年の杭州大会でeスポーツの公式種目化が実現すれば、大会の一つの目玉となるのは間違いない。もはやデジタルシティとまで呼ばれるようになった杭州で、スポーツの新たな歴史の幕が開けるかもしれない。
(2017年度日本語版・トップ10都市分析)
人材を惹きつける都市
杭州市政府は2017年、同市が中国で最も人材を受け入れる都市であると発表した。また、同市から海外に留学生として出た数と中国の海外留学帰国者の杭州への居住者数との割合も全国トップであった。北京市、上海市といった国際的な大都市を押さえて同市が第1位になったことは、大きな話題を呼んだ。
中国のエンジニアが大挙して杭州市に押し寄せる理由の1つが、アリババを中心としたIT企業が提供するさまざまな手厚いサポートやケアである。官民一体となってスタートアップ企業のサポートを充実させ、従業員に住宅手当や自動車手当まで支給する制度が整備されている。アリババの創設者、ジャック・マー(馬雲)が創設したビジネススクールも開校し、杭州市は一大IT都市としての勢いをさらに増している。
(2016年度日本語版・トップ10都市分析)
G20杭州サミットと進むコンベンション産業
2016年9月、20カ国・地域(G20)首脳会議「G20杭州サミット」が杭州で開催された。2日間にわたり、「革新、活力、連動、包摂の世界経済構築」をテーマに、多岐にわたった議論が各国の参加者の間で交わされた。
コンベンション産業の経済波及効果は大きく、現在では世界各国がその産業育成に力を入れている。中国政府も、2020年までに同国を国際コンベンション大国にまで成長させる目標を掲げている。「G20杭州サミット」の開催はその最たる動きである。
国際見本市連盟(UFI)の報告によると、中国の会場施設規模、販売展示面積はすでに米国に次いで世界第2位になった。一方で、会場施設の過剰、低稼働率などの問題も指摘されている。施設屋内展示面積(2016年末)は、中国全土では108施設で約560万m2、日本は14施設で約36万m2と、中国は日本の約15.6倍の規模になっている。対して、コンベンション業の推定売上額(2015年末)は、中国の18億ドル(約1,919億円)に対し、日本は9.7億ドル(約1,034億円)と約1.9倍に留まっている。
杭州市は本指標の「国際会議」及び「展示会業発展指数」両項目において、その全国ランキングが第4位、第10位となっている。
2022年には杭州市で「第19回アジア競技大会」が開催される予定である。杭州市は観光、レジャー、コンベンションをツーリズム産業発展の三大エンジンとする政策を打ち出し、コンベンション都市としての発展を目指している。
(2016年度日本語版・トップ10都市分析)