CICI2016:第9位 | CICI2017:第9位 | CICI2018:第10位 | CICI2019:第9位
歴史上首都が多く置かれた要塞都市
南京市は江蘇省の省都であり、江蘇省の政治、経済、科学技術、教育、文化の中心となっている。長江の入江から380kmに位置する東西南北を結ぶポジションから、南京市には古くから数多くの王朝の都が設けられてきた。「南京」とは「南の都」という意味をもち、名高い中国古都の1つである。
最初に南京市が首都になったのは、今から約2,800年前、春秋時代の呉の時代であった。その後、東晋、六朝、南唐、明といった十の王朝が帝都と定めた歴史より「十朝都会」と呼ばれている。太平天国や中華民国統治時代には首都として定められた。14世紀から15世紀にかけては、世界最大の都市として栄華を誇った。
南京市は中国の南北の境目という地理的に重要な位置にあり、古来よりこの地は戦略的な要塞であった。そのため、同市には今も立派な城壁がそびえ立っている。明の時代には、全長約35km(山手線の1周分に相当)、高さ14〜21m、13の城門という巨大な城壁が市内を囲むように建設され、まさしく要塞都市であった。
(2016年度日本語版・トップ10都市分析)
ユネスコから「文学都市」
2019年10月、ユネスコは、新たに66の都市を「ユネスコ創造都市ネットワーク」として選出し、南京がアジアで3番目、中国では初となる「文学都市」に選ばれた。
2004年、ユネスコは「創造都市ネットワーク」を設立した。文学、映画、グルメ、デザインなどの7分野に分け、世界の都市間でパートナーシップを結び、国際的なネットワークを作っている。2019年末には世界246の都市が参与している。中でも「文学都市」は現在、39都市が選出されている。その多くは欧米の都市が占め、アジアでは、南京の他に韓国の富川と現州が選出されている。残念ながら、「文学都市」ではまだ日本の都市は選出されていない。
〈中国都市総合発展指標2018〉によると、南京は「社会」項目の「傑出人物輩出指数」ランキングで全国第5位である。古来より文化資源が豊富で、多くの文人が集った。中国初の「文学館」も南京に設立された。
中国最初の詩歌の評論「詩品」が編まれたほか、中国最初の文学評論の「文心雕龍」が編さんされ、最初の児童啓蒙書「千字文」、現存最古の詩文総集「昭明文選」などが、南京で誕生した。
「紅楼夢」、「本草網目」、「永楽大典」、「儒林外史」に代表されるように、南京にゆかりのある中国古典作品は1万作以上ある。
魯迅、巴金、朱自清、兪平伯、張恨水、張愛玲など近代の文豪も南京とつながりが深い。アメリカのノーベル文学賞受賞作家、パール・バックは、代表作「大地」を南京で創作した。
「文学都市」の選出には、出身作家数など以外にも、文学を育む都市の環境も重視され、出版文化、書店文化、図書館の整備、市民の読書量なども評価対象である。南京は同指標「公共図書館蔵書量」ランキングは全国第7位にランクインした。
CNN、BBCなどから「世界で最も美しい書店」と評価された「南京文学客庁」といった24時間営業の書店は、市民に人気の新たな文化スポットとなっている。市内の公園、観光スポット、デパート、ホテル、地下鉄などの場所に無料の読書スペースが150カ所以上設けられ、読書文化を盛り上げている。
(2018年度日本語版・トップ10都市分析)
中国三大博物館の南京博物院
古都・南京には、中国三大博物館に数えられる「南京博物院」がある。北京故宮博物院、台湾故宮博物院と肩を並べる存在となっている。
南京博物院には、「南遷文物」といわれる元は北京故宮博物院にあった文物を所蔵している。日中戦争の戦火を避けるため、1933年、北京故宮博物院から木箱で2万個といわれる大量の文物が南京博物院(当時は中央博物院)に移送された。南京に戦火が及んだ時は、文物は重慶に移されたが、戦後再び南京に戻った。だが、その後の国共内戦の混乱の中で、3千箱が台北に運ばれ、7千箱が北京の故宮博物院に戻された。現在、台北の故宮博物院が所蔵する至宝はこのときに運ばれた文物である。大陸に残った物のうち1万箱が南京博物院にあり、「南遷文物」といわれている。
〈中国都市総合発展指標2018〉では南京は「社会」項目の「博物館・美術館」ランキングは全国第13位であり、市内には一級の博物館が3館、二級は1館、三級は4館、無級は33館の合計41館が存在している。南京訪問の際は、名勝見物と併せて博物館巡りを行えば、より中国の歴史文化への理解が深まっていくだろう。
(2018年度日本語版・トップ10都市分析)
人材獲得施策
〈中国都市総合発展指標2018〉で「経済」の「高等教育輻射力」ランキング全国第4位を獲得した南京は名門大学の集積地であり、人材の宝庫である。その南京では学生が卒業後も市内に留まるよう人材獲得に力を入れてきた。
特に定住を促進させる施策として、不動産購入について学位取得者への様々な優遇政策を施行した。
2020年5月、中国国家統計局は主要70都市の2020年4月の住宅価格動向を発表した。発表によれば、調査対象のうち新築住宅価格が最も上昇したのが南京であった。全国トップの値上がり率は、こうした政策効果の表れかもしれない。
近年、南京は経済規模では蘇州に抜かれ、江蘇省全体のGDPに占める南京の割合が低下するなど、省都としての存在感が薄まっている。人材の獲得により再び省都としての威厳を取り戻せることができるか、注目が集まっている。
(2018年度日本語版・トップ10都市分析)
ラオックスを傘下に置く「蘇寧」
南京を代表する企業に中国家電販売大手の「蘇寧(Suning)」がある。蘇寧は1990年に南京で設立し、中国全土に約1,600の実店舗を持つ。日本では2009年に家電量販店のラオックスを買収したことや、2016年にイタリアの名門サッカークラブ「インテル・ミラノ」を買収したことで知られている。
2018年、同社は「中国民営企業トップ500」の第2位を獲得し、2010年の同リスト発表以来、9年連続でランクインした。年間売上高はこの間に1,170億元から約5,579億元に急増している。また、蘇寧は、2010 年にECサイト「蘇寧易購」を開始し、全国に展開した実店舗との連携や、それらを融合したビジネスモデルを活用し、全国第4位のシェアを誇るまでに成長した。
中国では近年、さまざまな産業やサービスにおいてクラウドやビッグデータを活用する「インターネット+」の動きが急速に進展している。政府の後押しを受け、小売や金融、各種シェアリングサービスをはじめとするB to Cビジネスのほか、公共サービス、物流などB to Bビジネスの分野でもサービスのイノベーションが進んでいる。
こうした中国企業の動向は、日本で同様の新たなサービスを展開する企業の先行事例としても注目される。
(2017年度日本語版・トップ10都市分析)
豊富な教育研究資源
南京は人材輩出の宝庫であり、中国の高等教育の中心地の一つである。〈中国都市総合発展指標2017〉で高等教育パワーを示す指標「高等教育輻射力」では全国第3位であり、「世界トップ大学指数」も全国第3位に輝いている。市内には南京大学、東南大学、南京師範大学など創立100年以上の歴史を持つ名門大学が肩を並べ、国から重点的に経費が分配される「国家重点大学(211大学)」は8校も有している。
〈中国都市総合発展指標2017〉では、市民の教育水準を示す「人口教育構造指数」は全国第2位であり、著名文化人など傑出した人物の輩出度合いを示す「傑出人物輩出指数」は全国第4位、文化人を都市に擁する度合いを示す「傑出文化人指数」は全国第5位、中国の科学技術分野の最高研究機関である中国科学院と技術分野の最高機関である中国工程院のメンバーの輩出度合いを示す「中国科学院・中国工程院院士指数」は全国第3位という輝かしい結果を見せ、南京の教育研究資源の層の厚さを如実に表している。
中国も日本と同じように労働者人口の増加がピークを過ぎ、高齢化社会が眼前に迫るなか、都市の発展のカギを握る若く有能な人材の争奪戦が、全国の都市間でヒートアップしている。
中国では2018年の大学卒業生が過去最高の820万人に達した。南京市政府は、大学卒業生に市内定住のハードルを低くしたり、家賃補助、起業補助を普及したりと、人材を市内に留め置くさまざまな政策を打ち出している。
(2017年度日本語版・トップ10都市分析)
南京vs杭州
上海を主軸として発展してきた長江デルタメガロポリスは、南京と杭州という両翼を擁している。南京と杭州はどちらも歴史的に中国の重要な都市であり、都市の規模や機能面は共通する部分も多く、〈中国都市総合発展指標2017〉の総合ランキングでは杭州は第7位、南京は第9位と、非常に拮抗している。
一方、本書で都市のセンター機能を評価する「中国中心都市指数」(第2部メインレポートを参照)では、杭州が第7位、南京が第10位と、総合ランキングに比べわずかに差が開く結果となった。
「中国中心都市指数」を構成する10大項目のうち、2都市間で順位の差が5位以上開いた項目は「開放交流」「ビジネス環境」「生態環境」の3項目であり、「開放交流」と「生態環境」は杭州が優位であり、「ビジネス環境」は南京が優位であった。特に「生態環境」の差は大きく、杭州は第9位、南京は第22位であった。
この差を生み出している主要因は大気汚染の度合いを示す「空気質指数(AQI)」であり、その順位は杭州が全国第134位、南京が第184位であった。中国で映えある中心都市である両都市ともに今後、空気質の改善が急務である。
(2017年度日本語版・トップ10都市分析)
産業の高度化が進む南京市
南京市のGDPは0.88兆元(約15兆円)に達し、1人当たりGDPも107,359元(約183万円)に達した。
南京市の産業は高度化が進んでいる。南京市は経済規模では蘇州市に引けを取っているものの、教育・科学技術の集積と人材ストックを活かし、知識産業で省都としての立場を挽回しつつある。
従業員数を比較するとそれは顕著となる。たとえば、製造業の従業員数は、南京市は約56万人、蘇州市は約219万人であり、蘇州市は工業都市としての側面が強い。一方、研究開発の従業員数は、南京市は約7.2万人、蘇州市は約2.3万人である。さらにIT関係の従業員数は、南京市は約14.9万人、蘇州市は約4.5万人であった。特にソフトウェア産業において南京市は、北京市、深圳市、上海市に続く中国で4番目の規模を持つ。
本指標の「平均賃金」項目では、南京市は全国第5位、蘇州市は同第15位である。人材の行き先として、蘇州市より南京市が好まれるようだ。
(2016年度日本語版・トップ10都市分析)
蘇州に勝る中心機能
長江デルタ地域に産業集積と人口が増大するなかで、南京は省都として行政、企業、金融、教育、医療等の都市の中枢機能を高めてきた。
上海、深圳、香港のメインボード(主板)市場に上場している企業の総数(2017年末)は、南京市は48企業、蘇州市は20企業であり、2倍以上の差がある。
南京市は文化教育都市として名高く、人材のストックが多い。市内には百年以上の歴史ある名門「南京大学」をはじめ、数多くの一流大学を抱えている。本指標の「高等教育輻射力」項目は南京市が全国第4位で、蘇州市が第237位である。
医療面においては、「医療輻射力」項目では南京市が全国第12位、蘇州市が第43位である。
本指標の「文化・スポーツ・娯楽輻射力」項目では南京市が全国第5位、蘇州市が第160位である。「劇場・映画館」の数では南京市が全国第8位、蘇州市が第46位となっており、その差は歴然である。
南京は中国の一大交通ハブでもある。「空港利便性」項目では南京市が全国第38位、蘇州市が第127位。「都市軌道交通営業距離指数」項目では南京市が全国第4位、蘇州市が第26位。「高速鉄道便数」では南京市が全国第6位、蘇州市が第11位である。
省都としての立場、地政学的な優位性、そして人材ストックなどで培った中心機能は、南京をさらに大きく変貌させるだろう。
(2016年度日本語版・トップ10都市分析)