蘇州市

CICI2016:第6位  |  CICI2017:第8位  |  CICI2018:第11位

CICI2019:第11位


トップ10にランクインした唯一「普通」の都市

 蘇州市は江蘇省東南部に位置する。本指標の総合ランキングトップ10都市の中で、直轄市でもなく省都でもなく計画単列市(日本の政令指定都市に相当)でもない、いわゆる「普通」の都市である。蘇州市は悠久の歴史を誇る都市であり、水路が街の縦横無尽にはりめぐらされている。その風光明媚な様子は「東洋のベネチア」と讃えられ、国内外から多くの観光客が訪れている。面積は約8,567 km2と広島県とほぼ同じで、そのうち42.5%が、「上海蟹」の主要産地でもある太湖などの水域である。

 1990年代にはじまった上海の浦東開発を受け、蘇州市は工場誘致を積極的に進めた。それが功を奏し、同市は新興工業都市として飛躍的な発展を遂げた。蘇州市のGDPは、省都の南京市を上回り江蘇省内で第1位であり、全国でも第7位と好成績を上げた。工業産出額は上海に次いで全国第2位、貨物輸出額は全国第3位であった。

 日系企業を含め多くの外資系企業が進出し、蘇州市は実行ベース外資導入額で全国第7位である。2016年末、「フォーチュン・グローバル500」にランクインしている企業のうち150社が蘇州市に進出している。その内訳は、日本が42社、アメリカが34社、フランスとドイツがそれぞれ14社、韓国が12社であった。在留邦人も約7,000人と多く、長江デルタメガロポリスでは上海に次ぎ2校目となる日本人学校も開校している。

(2016年度日本語版・トップ10都市分析)


人工知能産業園が開園

 蘇州の経済拠点「蘇州工業園区」が新たなステージを迎えようとしている。2018年、園区内に「人工知能産業園」が開園した。同園区の総面積は約43万 m2で、同年3月にすでに人工知能産業に関する上場企業は2社、新三板(店頭株式市場)企業が32社集積し、従業員が2万人に達した。

 中国政府は2015年、今後10年間の製造業発展のロードマップ「中国製造2025」を発表し、その中でAI技術のイノベーションによって製造業の高付加価値化を目指している。2017年には「次世代AI産業発展の3カ年計画」を発表し、中国は国家規模でAI産業を推進し、中国経済の次の成長エンジンを育てようとしている。

 キャッシュレス社会の躍進が目立つ一方、中国はハイエンドチップやAI関連の基礎研究などの分野では依然として先進国に比べ後れを取っている。

 〈中国都市総合発展指標2017〉では「製造業輻射力」が全国第2位に輝いた中国製造業の雄たる蘇州も、「科学技術輻射力」は全国第7位、「IT産業輻射力」は全国第17位である。蘇州が新たなステージに到達できるか、これからが正念場である。

(2017年度日本語版・トップ10都市分析)

蘇州が燃料電池自動車の普及を推進

 中国は国を挙げて電気自動車(EV)を育てようとしている。2017年の1年間に中国で販売されたEV車は約58万台にのぼり、普及台数は同年末時点で123万台に達した。その生産台数は世界でおよそ5割のシェアを占めるほどの勢いである。

 中国は、水素燃料電池自動車(FCV)の開発でも覇権を目指している。前述した「中国製造2025」に、FCVの産業化と水素インフラの整備を進めることが明記されており、FCVの普及に向けた体制づくりが進んでいる。その流れを受け、各都市でも水素で全国をリードしようとする動きが活発化しており、蘇州もその一つとなっている。

 蘇州市は2018年、水素エネルギー産業発展に関する指導意見を発表し、2020年までに水素エネルギー産業チェーン関連産業の年間生産高を100億元(約1,600億円)以上とし、水素ステーションを約10カ所建設する。2025年までに、同関連産業の年間生産高を500億元(約8,090億円)以上に拡大、市内のFCV保有台数を1万台にするとした。この野心的な目標に向けて、蘇州は動き始めている。

 FCVの普及には水素ステーションなどのインフラ整備が不可欠であり、そのためには政府の強いリーダーシップが必要である。同分野で先発組の日本も、こうした中国の躍動を受け、水素社会に向けて一層加速していくであろう。

(2017年度日本語版・トップ10都市分析)

中国の世界無形文化遺産「昆劇」が九州で初公演

 2018年10月、「昆劇」の九州初公演が福岡県で開催された。福岡県と友好提携を結ぶ江蘇省から劇団・蘇州昆劇院が来日し、昆劇の演目で最高傑作とされる「牡丹亭」を披露した。

 昆劇は蘇州市発祥の古典舞台芸術で、明の時代から600年以上続き、京劇より古い歴史を持つ。昆劇の舞踊・歌・台詞といった芸術形態は、京劇をはじめとする中国の舞台芸術に大きな影響を与えている。2001年には、日本の能楽と同時に、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界無形文化遺産に選ばれている。

 今でこそ蘇州は工業都市の側面ばかりに注目されるが、蘇州は歴史上蘇南地域の中心都市であり、歴史・文化的造形が深い観光都市でもある。〈中国都市総合発展指標2017〉で蘇州は「歴史遺産」で全国第7位、「無形文化財」で第6位、「国内旅行客」は第9位である。

 現在、蘇州では昆劇の後継者不足が悩みのタネになっているという。都市の総合的発展には文化の活力が欠かせない。商工業都市・蘇州が今後、「文化都市」としても彩られていくためには、蘇州ならではの都市のアイデンティティがますます重要視されるだろう。

(2017年度日本語版・トップ10都市分析)


中国製造業の都・蘇州

 蘇州市が外資系の誘致先として注目されたのは、中央政府が2つの開発区を蘇州市内に建設したからである。ひとつは、旧市街地の西側に設けられた「蘇州高新区」である。同区は1992年に認定を受け、旧市街地の西側に設けられ、上海からは約100 kmに位置する。総面積は258  km2で、同区内には電子通信、精密機械など最先端の技術をもつ企業が進出し、研究開発区、輸出加工区、物流センターなどを内包している。

 もう一つがシンガポールとの協力で建設された「蘇州工業園区」である。同区は1994年に旧市街地の東側に設置され、上海からは80 kmに位置する。総面積は260km2で、同区内には、繊維製品、精密化学工業、製紙工業、電子工業、機械工業などの工場が数多く集積している。

 いずれの開発区も多くの外資メーカーが進出し、蘇州市は外資系の工場が集積する製造業の都となった。蘇州市政府発表では、2015年末の人口構造は、15歳未満人口(年少人口)は9.8%、15歳以上65歳未満人口(生産年齢人口)は79.9%、65歳以上人口(老年人口)は10.3%であり、生産年齢人口の割合がかなり高い。全国各地から若い労働者が流入し、同市の経済発展を牽引している様子が伺える。

(2016年度日本語版・トップ10都市分析)

工場経済からの脱皮

 「世界の工場」として名を馳せた中国はいま、これまでの輸出型製造業重視の政策から、サービス型産業・内需型産業重視へと、政策の舵を大きく切ろうとしている。それは蘇州市も例外ではない。GDPは1.38兆元(約23.2兆円)であり、2010年末時点で41.4%だった第三次産業の比率は47.2%にまで増加している。従業員数ベースでも第三次産業の従業者が36%と前年より8.4%ポイント増加し、産業構造がサービス業にシフトしはじめていることが明らかになった。

 産業構造の高度化につれて、工場への立退き要求などにより、生産停止を余儀なくされるケースが発生している。また近年、人件費の高騰等から多くの企業が戦略転換を余儀なくされ、外資メーカーが蘇州から撤退する事例が相次いでいる。

 日系企業は蘇州市に1,000社以上が進出し、同市には中国に進出した日系企業の3分の1が籍を置いている。だが、日系企業も撤退の波に揉まれている。「チャイナ・フリー(脱中国)」という言葉が新聞紙面を賑わせており、工場を中国から東南アジアなどへ移転させる動きも数多く生じている。

(2016年度日本語版・トップ10都市分析)