東京経済大学創立120周年記念シンポジウム
「コロナ危機をバネに大転換」
【動画】東京経済大学創立120周年記念シンポジウム「コロナ危機をバネに大転換」
■ Session 1 ■ 「コロナ危機を転機に」
司 会 周牧之 東京経済大学経済学部教授
パネリスト 中井徳太郎 環境事務次官
大西隆 日本学術会議元会長、豊橋技術科学大学前学長
日時 2020年11月21日(土)13:30〜15:00
周:こんにちは。東京経済大学は1900年に、大倉喜八郎という実業家によって創設されました。激動の時代をくぐり抜け、今年で創立120周年を迎えました。
この記念シンポジウムは本来、海外からも著名な論客を招く予定でしたが、今日の状況に鑑み、オンラインで開催いたします。こうした時期だからこそ、新型コロナウイルスに負けない経済社会をどうつくっていくべきかについて議論して参りたいと思います。
まず、登壇者をご紹介いたします。東京大学名誉教授、日本学術会議元会長の大西隆先生です。どうぞよろしくお願いいたします。環境省の中井徳太郎事務次官です。よろしくお願いいたします。私は司会を務めます、東京経済大学教授の周牧之です。
今日の進め方ですが、まず私が問題提起をして、中井さん、大西先生の順に5、6分ずつお話していただきます。なるべく発言の回数を多く回していきたいと思っています。早速、本題に参ります。
周:第1セッションのテーマは「コロナ危機を転機に」です。今の世の中は大きく変わろうとしています。おそらく、これまで人類が経験したことがないほどのパラダイムシフトが起こっています。
第1グランドでは「社会の大変革を推し進める三大ファクター」についてお話して参ります。この図1から見られるように、今コロナの新規感染者数が急激に増加しています。感染拡大の局面を再び迎えることになり、世界各地でも再びロックダウンラッシュが起こっています。
実は、この新型コロナウイルスパンデミックこそ、世の中の変革を促す一ファクターでもあります。新型コロナウイルスの蔓延で人々の意識、生活のスタイルがかなり変化していき、これからも長期にわたり変わっていくのではないかと思います。
また、もう一つ世の中を変えてきた、今後さらに変えていくファクターは情報革命、そして今日の「DX」つまり「デジタルトランスフォーメーション」です。これも40年間にわたって社会を大きく変えてきています。
40年前、1980年にアメリカの未来学者アルビン・トフラーが、『第三の波』という本を出しました。トフラーは、情報化社会をかなり予言しました。
具体的な社会のありようで、ほとんどトフラーのイマジネーションは当たっています。ただし唯一、少なくとも今日まで当たっていなかったのが、都市問題です。
トフラーは40年前、すでに今日のようなテレワークの時代の到来まで想像していました。しかし彼の予想のように、都市の密度がどんどん低くなり、人々は田舎で生活しながら近代的な仕事をするという場面は、実際には今日まで到来しなかった。
この図で表しているのは、この本が出版されてから約40年間、つまり1980年から去年まで、世界でどのくらい大都市化が進んだかということです。「100万人都市」というのはそもそも大都市です。世界で人口が100万人以上増えた都市はなんと、326カ所もあります。これらの都市の中で、9.5億人も増えた。つまりこの326都市で増えた人口が、10億人近いわけです。
さらに1000万人を超える都市のことを、我々は「メガシティ」と呼んでいます。このメガシティは、1980年はたった5つしかなかったのですが、今日では世界に33都市もあります。メガシティに住んでいる人口は6億人近いです。この点に関しては、トフラーの予想に反した大きな動きがありました。
3点目の、世の中を変えていくこれからの大きなファクターは、2020年10月26日に菅首相が所信表明演説で出された、2050年までに日本の温暖化ガスの排出「実質ゼロ」宣言。これが実は、非常に今後の世の中を変えていく大きなファクターになります。
第1グラウンドでは、まず中井さん、大西先生の順に、この三大ファクターがこれからの世の中をどう変えていくのか、そしてどう変えていくべきかをお話していただきます。どうぞ、中井さん。
コロナ危機と気候危機問題
今まさしくコロナ危機であり、日本でも第三波ということですが、同時に気候危機と言われる状況が広がっています。この「環境白書」とは、日本政府が閣議決定して正式な公式見解を出すものです。この中で従来、気候の問題につきまして「気候変動、温暖化」という表現で扱って参りました。しかし、世界でのいろいろな動きを踏まえ、もはやこれは「気候危機」と表現できるということで、正式な政府の閣議決定の文書で作りました。
これを6月12日に発表いたしまして、即座に小泉環境大臣から環境省として「気候危機宣言」というかたちで宣言をした。コロナ危機と気候危機、まさしくこの2つの危機に今、我々は直面しているのです。
この気候変動でありますが、この図6は世界の異常気象の状況です。2019年、2020年を振り返りましても、昨年ヨーロッパではフランス南部で46度という観測史上最高気温が出ました。
今年はアメリカのカリフォルニア州のデスバレーで、54.4度。シベリアでも38度、南極でも18度という、史上最高気温です。そうした中で、森林火災などもアメリカ、オーストラリアで大変な問題になっている状況です。
日本におきましても、皆さんも日々実感する危険な状況にあります。昨年は台風10号、19号と、房総半島や東北地方を中心に大変な災害がありました。
今年は台風こそあまり来ていませんが、梅雨の時期である7月に豪雨となり、西日本では大変記録的な台風・大雨で大きな被害が出ました。こうした激甚な災害になってしまう大雨、暴風に常に直面する環境であると同時に、温暖化の中で熱中症の危険にもさらされています。
新型コロナについて、どこから発生したのかという議論はいろいろあります。国立環境研究所の五箇先生など知見を有する人によると、この感染症が人間の生物多様性に対する破壊や、気候変動をもたらした今に至るまでの状況と大きく関連している。いわば人間と自然生態系との生物界の棲み分けの状況が変わったため、そうした中で感染症が起きているという文脈で捉えるべきであります。
したがって今回、コロナを何とか乗り越えたとしても、さらに次のコロナ感染症のような危機を我々は常に考えながら、暮らしを築いていかなければならないのです。
過去80万年にわたり、自然の二酸化炭素濃度のサイクルがあります。これが産業革命以降250年、急に上がっている状況が見てとれると思います。300 ppm を超えることがなかったものが、一気に今400 ppm を超えています。
この地球の状況を分かりやすく人間の身体に例えますと、地球が病気で悲鳴を上げている状態です。健康診断で私どもが人間ドックに入って、ガンマGTPの数値が上がる。異常値が出ている。その異常時の明らかな症状として、先ほどのような災害、自然災害の多発です。これはつまり、地球に病気の症状が出ているという発想になろうかと思います。
分かりやすく地球全体の気候危機の問題を自分の身体と捉えると、慢性病の状況であります。これから、どう体質改善をすることができるのか、どう病気と付き合うことができるのか?こうした状況であります。
そうした中で、世界はこの問題に踏み出しております。2015年に気候変動枠組条約を締約する「パリ協定( COP 21)」が開催されました。地球の病気の症状を止めるために、増えた二酸化炭素を増えない状況にしなければいけない。
ただし産業革命以降、すでに1℃の温暖化が進んでいます。これでは病状がなかなか止まらないということで、2℃目標が設定されました。21世紀にあと1℃温暖化することを何とか食い止めたい。
そのために森林など地球の生態系において、植物が光合成で二酸化炭素を酸素に変えてくれる。しかし、このメカニズムを超えて人間が人間活動で化石燃料、地下資源を地上に持ち上げて移動し、燃やし、先ほどの都市化の中で大量の森林、いわば地球の肺に当たるところを切り刻んでいる。そうした中での崩れてしまったバランスを戻そうということです。
ただ、このあと1℃の温暖化に人間が耐えられるか。こうした問題意識の中で、今は1.5℃。あと0.5℃で何とか食い止めたい。それが科学的な知見で可能なのかということは今、ギリギリです。あと30年で二酸化炭素の排出と吸収のバランスを保つ地球の健康体まで行けば、何とかあと0.5℃で留まるのではないか。
こうした中で今、世界中が1.5℃に向かって、2050年までにカーボンフリーにしようという動きがあります。
先ほども周先生が紹介されましたが、まさしく日本は「2050年カーボンニュートラル」の宣言に踏み込みました。菅総理が所信表明演説で、2050年までにカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを高らかに宣言しました。
これは大変大きなメッセージであります。これから産業を支えるさまざまなエネルギーや技術の構造を変えていくと同時に、環境省としては特に地域や生活者、そういう日々の暮らしに直面する視点からカーボンニュートラルの絵を描き、社会変革を目指す。こうしたことを総理のご指示を受けてやっていく渦中の状況です。
この目標がいかに大変かというと、5年連続で二酸化炭素は減っていますが、2030年までに26%減です。現在、これをさらに深掘りする議論を始めました。
そして2050年までに実質ゼロということで、あと30年までにCO2が増えない状況に持っていけるかどうか、体質改善ができるのか?ということであります。
これが経済の足かせになるのかという視点ですが、従来とは発想を変えております。経済が成長する、まさしく移行することで二酸化炭素を減らす。経済と環境の両立という文脈で、この問題に当たっていく発想であります。
まさしく産業革命以降の今までの発想とは全然違うパラダイムシフトであります。冒頭の発言とさせていただきます。
周:ありがとうございます。大西先生、どうぞ。
テレワークの普及と展望
大西:ありがとうございます。冒頭に周先生からいくつかキーワードが与えられました。新型コロナウイルスパンデミック、情報革命、低炭素社会、そして大都市の問題も提起されました。
実は、スライドの2番目にアルビン・トフラーの写真が出てきたので思い出しました。テレワークはここ半年で急に取り上げられ、しかも定着していったライフスタイル、あるいは仕事のワークスタイルでもあると思います。私は、日本ではかなり最初の1992年だったと思いますが、実はテレワークに関する本を出版したのです。
当時はテレワークという言葉が日本語にも、確か英語にもなく、『テレコミューティングが都市を変える』というタイトルで出版しました。要するに、通勤コミューティング。通勤の代わりに遠隔通勤と言いますか、情報手段を使って仕事をするということです。
よって通勤はしないわけですが、自宅から働く、あるいはサテライトオフィスから働くという時代が来る。そういう時代をつくろうという趣旨の本を書きました。
本を書いただけではなく、そのために学会を創り、テレワークを進めようといろんな社会運動もしてきたわけです。最初の狙いは、過密大都市をどう防ぐのか。私は都市計画を専門とする研究者でしたので、過密大都市を防ぐためにテレワークが有効ではないかと思いました。
皆がオフィスの集まる都心に向かって通勤することを前提に、都市に住む必要がなくなれば郊外から、あるいはもっと離れた郊外、もしくは地方からいろんな仕事ができるようになるのではないか? そう思ったのです。
同時に、通勤をしなければ少なくとも交通に関するエネルギーを使いませんので、エネルギーの節約、低炭素にも繋がる。
しかし実際、日本でテレワークが普及したのはその2つの理由ではなく、新型コロナウイルスの影響を避けるためでした。オフィスで皆が密になって仕事をするのを避ける。あるいは通勤電車も大変密な状況ですが、それを避けようとテレワークが急速に普及していったのです。
したがって、私にとっては自分が追求していたテーマ、しかもその狙いであった情報通信をうまく活用して大都市化を防ぐことにより、かつ低炭素な社会生活も実現できることとは全然違う回路です。この新型コロナパンデミックに関連してテレワークが普及したことで、少し意表を突かれたと言うか、こういう展開もあるのかと認識させられたのであります。
改めて考えていくと、現代社会が「第三の波」という一つの社会評論の側面をもっているとすれば、現代社会を捉える時にやはり工場のある場所に皆が集まって働く。工場というのは原材料があるところ、あるいは積出港が近いところが適地だとされていました。
一方では、オフィスで働くというのは人口の集積する場所が適地で、集積が集積を呼ぶという格好で大都市が膨れ上がっていったのです。
このように皆が集まって情報が集中するメリットは残しつつ、しかし皆が集まること自体は避けられるのではないかというのが、テレワークに込められたアイデアだったのです。アイデアとしては存在したのですが、実際に日本の社会で急速に普及していったのは、新型コロナウイルスによるものでした。
将来を展望すると、テレワークが日本社会に本当に定着していくのかどうか。つまり新型コロナが解消された段階で、皆が元の生活に戻ろうと思ったら戻れるという時に、テレワークで享受したさまざまな良い点を忘れることなく新しい生活スタイルとして、あるいは仕事のスタイルとしてテレワークを維持し続けるのかどうかです。
これは一つの大きな鍵を握っていると思います。情報通信手段をいろんな意味で身近に活用していくことと、できるだけ人が移動するために使われるエネルギーを節約してくことも考えていく。
これはテレワークの良い点として残るわけです。これをうまく使いながら、テレワークを社会に定着させていけるかが、非常に大きなこれからの鍵を握ると思います。
私もそういう意味では、自分が研究・発表してきたテーマがなかなかうまくいかなかったわけですが、ここで勢いが出てきたので、ぜひテレワークをさらに普及することをしていきたいと思います。
ただ、もう一つだけ付け加えると、日本はこの3つの社会を変革させるファクターに加えて「人口減少社会」という極めて大きな問題があります。日本は現在、出生者が90万人を切っています。やがて人口が毎年100万人くらいずつ減っていく時代が、10年か20年後にはやって来るとされています。
こうして、目に見えて人口が減っている社会が訪れる恐れがあり、今挙げたようなテレワークの活用、情報手段の活用、あるいは低炭素社会の中でどう人口維持する構造をつくっていくか。人口は少し増えるぐらいの方がやがて良くなるのかもしれませんが、そうした構造をどうつくっていけるかです。
おそらく経済問題から考えていくと、皆がある程度の所得を得て安定した家族生活を営めることが前提になると思います。そうしたことを含めた総合的な政策を、これを機会に考えていくことが大事だと思います。どうもありがとうございます。
周:大西先生、ありがとうございました。大西先生は、日本の初代のテレワーク学会の会長でした。トフラーと同じ夢を見て、テレワークを一つの研究テーマとして追いかけられてきました。
周:第2グラウンドは「大都市の時代と大都市の未来」をテーマに、お二方からお知恵を頂きたいです。実は20年前、私は一つの予測をして、これが当たったのです。
どう予測したかと言うと、中国で「メガロポリス」の時代が来ると予測しました。メガロポリスというのは聞き慣れない言葉かもしれませんが、大都市がいくつかくっついて、中小都市も堆積した大きな都市の塊を表現しています。このメガロポリスが中国で3つ大きなものが沿海部で形成されると、2001年に予言しました。20年後の今は、右のグラフが表しています。中国の人口移動の地図です。グラフの赤いところは、人口をたくさん受け入れているところで、高さはその量を表しています。「三大メガロポリス」と私が名付けている地域は数千万人単位の人口を受け入れ、大きなメガロポリスがすでにこの20年かけて形成されました。私の予測は当たったと喜んでいます。実際になぜそれが出来たかを今日は皆さんに簡単に紹介します。
今から、この〈中国都市総合発展指標〉を使って皆さんに紹介していきます。この指標作りに関しては大西先生、中井次官から多大な協力を頂いております。
次の図にあるのは、中国の製造業輻射力のトップ10の都市と、IT産業輻射力のトップ10の都市の地図です。製造業のトップ10の都市は、ほとんど沿海部にあります。この10都市だけで、中国の輸出の半分稼いでいます。
これら製造業輻射力のトップ10都市は今すべて、世界的なスーパー製造業都市になっています。面白いのは、そのうち7つは20年前まで小さい地方都市で、ごく普通の地方都市、あるいは40年前には、ただの村でした。今や沿海部で巨大なスーパー製造業都市になったのです。
隣の図のIT 産業の輻射力からは、IT産業の2つの特徴が見えます。
まずIT産業の集約度は製造業以上にあります。つまりIT産業は、地方分散型ではないです。
2点目は、IT産業輻射力のトップ10の都市は、深圳以外は全部古くからある中心都市です。首都や地域の中心都市、省都など。これは非常にパターン化しています。この2つの特徴は、実は日本でも同じです。
日本の製造業輻射力と、IT産業輻射力を表した図12から見ると、製造業に強い都道府県は、地方が多いです。IT産業の場合は、東京が断トツ強い。その後はちょいと大阪、神奈川です。IT産業の方が、より中心都市を求める傾向が日本でも中国でも顕著に表れています。
さらに企業の本社所在地の集積パターンはどうでしょうか。中国では香港、深圳、上海の三大金融マーケットがあります。この三大マーケットのメインボードに上場している企業の本社所在地が、トップ10の都市は63%を占めています。
日本の場合はもっと進んでおり、トップ10の都道府県には85%も、東証1部上場企業の本社が集まっています。
最近、フランスの経済学者ジャック・アタリ氏が、多くの企業がこれから大都市を離れて本社を中堅都市に移すということを、おそらくコロナを意識して話して話題を呼んでいます。これは10年後に検証する時どうなっているか、私もちょっと楽しみにしています。大都市に関しては、CO2の排出量も一つ大事な指標です。日本の47都道府県におけるGDPあたりのCO2の排出量からみると、成績が一番いいのは東京です。
その東京におけるGDPあたりCO2排出量は、日本全国平均の8分の1しかないのです。何が言いたいかというと、大都市はさまざまなメリットがあり、特にCO2削減のメリットが今まで軽視されてきたのではないか。我々がCO2削減の話をする時、その多くは技術の話になるのですが、実は都市構造の話も大きなファクターになるのではないかと思います。
大都市に関しての話は、お二方にも伺いたいです。大都市の時代は私から見ると情報革命がつくり出したものです。この流れは止められないし捨てたものではない。そうなる理由もあるし、CO2の削減にも非常に寄与するところもあります。
これからの大都市をどう展開していくべきなのかを、中井さんから大西先生の順にお願いします。
「3つの移行」による経済社会のリデザイン
中井:ありがとうございます。周先生とはずっとこのメガロポリス化、大都市化の話を20年近くやっているのですが、やはり私は大都市化、メガロポリス化は必然だという捉え方をしています。
大都市の中でIT技術も含め、さまざまな効率的なものが多くのビジネスモデルを生んでここに至っている。ところが、そこに至る中で獲得したものを使いながら大都市化、メガロポリス化が生んだ、ある意味でのさまざまな病変に対応するのがこれからです。大都市自体も変わるし、大都市以外の国土も変わります。
今、この状況は地球全体が病気で、大きく変わらなければいけない。大きく社会が変わるのは間違いない。では、どういう方向に変わるのかということで、環境省では現在、小泉大臣を先頭に『「3つの移行」による経済社会のリデザイン(再設計)』として発信しています。今年はCOP26が条約の交渉延期になりましたので、9月にオンラインで会議を行いました。これは、その中でも強く発信して共感を得たところです。
この「3つの移行」とはどういうものか。一つは、このスタンスでカーボンニュートラルを目指す。再生エネルギーなど、エネルギーの構造や技術イノベーションを使って脱炭素を目指す。
これを暮らしや地域の面から言いますと、循環経済(サーキュラーエコノミー)。プラスチックの問題や、ありとあらゆる物質の循環も含めて適切に、効率的に回っていくというものです。そして、新型コロナや災害の多発という状況から踏まえると、ある意味での分散型社会です。
この脱炭素、循環経済、分散型社会。これらの3つで、一つの社会の方向感が出るのではないかと私どもは強く主張しています。これが究極、噛み合うと後ほどのテーマになります「地域循環共生圏」という理想像になる。これを支えるためにはこの地球上、大都市も含めて企業、地域、そうしたすべての暮らしがどう変容していくかが大事になっていきます。
環境省としては現在、人々の生活の場である地域や自治体で、いろいろなお話させていただいています。日本では政府がカーボンニュートラル宣言をいたしました。それに至るプロセスでこの一年、カーボンニュートラルを表明する自治体は、昨年の9月の時点で4自治体だったのが、今や170自治体を超えました。
人口から見ると、8000万人を超えている。こういう文脈の中で、日本としても政府全体でカーボンニュートラルにコミットする動きになっています。
そしてもう一つ。脱炭素、カーボンニュートラルの文脈に、大きなお金の流れでドライブをかけようという動きが今、世界中に広がっています。これを「ESG金融」と申します。世界でESGの市場が拡大していますが、日本もこの3年で約6倍になりました。世界から日本は大変な注目を浴びています。
日本には兼ねてから地域に信用金庫、地銀がありますが、これからはそうしたところも含めてESGというかたちで、社会を変えるドライブになるお金の流れが広がっていくということです。
そのお金を受けて活動する事業体という観点においても、脱炭素経営が大きなうねりになっています。この「TCFD」は、世界に広がる気候変動の情報開示の枠組みです。
自治的な枠組みですが、このコミットメントは日本が世界一です。パリ協定などを踏まえて科学的に目標設定し、中長期の削減を目指す企業。これも、日本が世界で2位、アジアで1位。
また、事業活動全体を再生ネルギー、つまりカーボンニュートラルにしていこうというコミットメントで取り組む企業も、日本は世界で2位、アジアで1位という状況です。
この第2グラウンドの話からすると、大都市になってもまだ発展途上のベースでさらに進む世界があります。先進国中心に、ここで獲得したさまざまな人間の叡智を活用して、大都市も含めて地球に暮らしている人間が今、大きく方向転換しようとしています。
その中には地域という側面から見ても、経済を回している企業の側面から見ても、経済に血を流す金融の側面から見ても、すべて大きく動いている。こういうことであろうかと思います。
周:ありがとうございます。大西先生、どうぞ。
大都市問題と産業・民生・交通
大西:お二人から素晴らしい詳細のスライドを使ってご説明がありました。私は今日、スライドを一枚も使わずに評論するという、わりと気楽な立場におりますが、今のテーマについて2点だけコメントさせていただきたいと思います。
一つは、大都市の問題です。なぜ大都市がさらに大きくなっていくのかは、やや謎めいたところがあります。というのは、初めて大都市問題が世界で取り上げられたのは、おそらく戦後の1960年代です。
この時の大都市とは、ロンドン、パリ、ニューヨーク、東京が中心でした。先進工業国の中心都市の中でも、今挙げたような都市は特に集積が大きい。そこで、いろんな社会問題が出てきたわけです。住宅難、あるいは混雑現象です。
これを解決しなければいけないということで、例えば郊外にニュータウンをつくる。あるいはもうちょっと大胆に地方に拠点をつくり、そこで機能を分担するという政策を、国を挙げて展開したところもあります。特にイギリス、フランスが積極的に取り組んだと思います。
アメリカはどちらかと言うと、そういった国土政策はあまり関心がなかったと思います。日本もイギリスやフランスと同じように、そうした政策に取り組みました。しかし、結果としてどうなったでしょうか。ロンドン、パリ、ニューヨークは、だいたいその頃の水準から集積の規模、人口の規模はあまり変わっていません。それに対し、東京だけがどんどん伸びていったわけです。
先ほど周先生が紹介してくださいましたが、世界の他の地域、アジアであれば中国、あるいは東南アジア、そしてアフリカでも巨大都市が出てきています。さまざまなところから巨大都市が出現し、いわば最初の時代の巨大都市問題の一員であった東京は、引き続き次の時代の巨大都市問題の一員にもなっているのです。
なぜ、ヨーロッパやアメリカの大都市はそれほど大きくなり続けずに、アジアやアフリカ、特にアジアの都市が大きくなり続けているのか? これはなかなか、きちんとした説明ができない問題です。
人と人との距離を人間はどのくらい好むか、嫌がるかという研究があります。西洋人はあまりよく知らない人とは距離を取りたがるけど、よく知っている人とは非常に近い距離で付き合う。物理的な距離です。
しかし東洋人、特に日本人は、知らない人同士で満員電車にぎゅうぎゅう詰めにされても文句は言わない。けれども親しい者同士、最近は違うかもしれませんが、ちょっと距離を置いて三歩下がって歩くなど、そうした習慣もあります。
よって、人間の性格、習性が違うからではないかという説明もありましたが、まだ決着がついてないかもしれません。
ただ、先ほど周先生が大都市に関して少し別の見方をされました。例えば、低炭素という観点から見ると、けっこう成績がいいのではないか。つまり大都市化のメリットもそこにあるのではないかというお話がありましたが、私はちょっとこの点については異論があります。
私もある時期、環境省のお手伝いをしていました。まずは都市をいかに低炭素にしていくかというデータを取り、そのデータに基づいて議論することをやってきました。
都道府県におけるGDPあたりのCO2排出量ですが、GDPと人口はニアリーイコールです。それほど大きく違わないとすれば、人口あたりと考えてもいいでしょう。日本では大分県、山口県、岡山県などがすごく成績が悪いと言いますか。
これらの場所は結局、工場が相対的に多い。人口に比べて、あるいはGDPに占める製造業の割合が高いところです。都市ごとに整理するとより顕著で、コンビナートがある都市がどうしても成績が悪くなるわけです。
そうした問題をどう考えるかです。工場で物を作るということは結局、世界のどこかで行わなければならない作業です。CO2の観点からすれば、最も低炭素に作ることができる低エネルギーと言ってもいいかもしれませんが、エネルギー効率良く作ることができる場所で行うのが一番いい。
世界的に見ればどこでCO2を出しても同じですから、そこで集約的に作るのが一番その製品については世界中のCO2の排出を抑制できるわけです。そう考えると、最も進んだ工場地帯が生産の大部分を引き受けて、そこで生産するのは良いことだと思います。
ただし、結果としてその地域はCO2が出ることになります。世界中からその製品についての製造を引き受けるわけですから。それであなたの地域はCO2が出るから駄目だと言われると、やはり世界的な観点、地球規模の観点から優れていることと、地域にそれをブレイクダウンした時に問題があることが矛盾するわけです。
CO2の問題は、やはり地球規模の話です。どこでCO2が排出されても同じ温室効果があると考えれば、やはり一番優れた生産技術を持っているところで集中的に作り、そこが競争に勝つという原理は重要なのではないかと思います。
さらに、東京は工場があまりないメリットに加えて、公共交通が発達しているというメリットもあります。これは今のところ、集積がもたらす効果です。人が大勢いることで公共交通が支えられ、公共交通が発達する。いわゆる製造部門と交通移動部門。この2つで今、東京が非常に優れているわけです。
しかし、例えばこれから自動車のCO2が減っていくことにもなるでしょう。地方都市の移動において、従来の自動車から電気自動車で移動ができるようになれば、やはりCO2排出量もかなり減っていくと思います。
だから製造業だけで地方都市を悪者にするのではなく、ある意味そこはそこで別勘定をする。そして家庭やオフィスでの民生的な生活で排出されるカーボン、移動によって排出されるカーボンをいかに減らしていくか。
これは偏りなくすべての地域に適応されるべき技術だと思うので、相当、政策的に取り組んでいく必要があるのではないでしょうか。
そういう意味では、日本は公共交通が発達し、世界の中の一つのモデルケースを今のところ形成してきていると思います。一方では、公共交通は大量輸送機関という言葉でも表現されるように、人が大勢いないと成り立たない側面があります。そこで、お客さんがあまりいない公共交通機関をどう作っていけるのか、あるいは移動手段をどう作っていけるのか。
交通についても大きな課題があるし、民生については個々の民生技術の中に低炭素技術をどう入れていくのか、という大きなテーマがあると思います。
周:ありがとうございます。大西先生の産業に関する議論に、私は大賛成です。ただしCO2というのがエネルギー消費にイコールなので、基本的に産業と民生と交通、3分の1ずつくらいの配分で考えればいいです。
大西先生がおっしゃったとおり、大都市は固まって一緒に住むことで交通、民生もエネルギーは節約されます。
もう一つ、大西先生がおっしゃっていた「三密」、要するに密度の話です。私から見るとどうも大都市の一番のメリットは、三密経済なのです。三密社会がもたらすメリットにあるのではないか。
今、三密は悪いイメージがありますが、実際は三密がもたらす情報の交換、感情の交換によって、我々は幸福になる。生産性も、特に知的な生産性も高くなることが十分あり得ます。私はむしろ「三密」大賛成で、どのように新型コロナから我々の「三密」の生活を取り戻すかについて、一生懸命に考えようと思っています。
周:さて、第3グラウンドは、「SATOYAMAイニシアティブ」から、中井さんの取り組む「地域循環共生圏」へ、という話です。
2010年「SATOYAMAイニシアティブ」として、環境省が立ち上げました。今や世界的なコンセプトになっていますが、中井さんはさらに今「地域循環共生圏」というバージョンアップしたものを世界的な共通コンセプトにしようとしています。
中井さんの考えを伺う前に私、ひと言だけ話します。私にとって里山の魅力はどこにあるかと言うと、実は里山の生態の多様性です。この多様性は、原始の自然に比べても豊かなのです。
私のゼミに毎年ゲスト講師としていらっしゃる、NHKのチーフディレクターの小野泰洋さんという方の言葉ですが、「里山は自然に対する人間の適度な介入がもたらした、新しい生態系である」。
私はこれが里山の本質だと思いますし、非常に素晴らしいコンセプトです。里山は我々の文化、生態系、さらに体の中の構造まで影響を与えているものです。これをどう新しいコンセプトにバージョンアップしてくのかをお話しいただきたいと思います。あと2点、まとめて質問します。里山のベースは自然集落です。問題は、この集落は今、急激に消えつつあることです。過去4年間で、日本では164の集落が消えています。
これから10年間で500以上消えます。さらに、3000以上は消滅すると予想されています。これが多いか少ないかは、また別の議論ですが、集落が消えていくと里山も持たないのではないか?適度な介入という、人間と自然との関わりがなくなっていくのではないか?
さらにもう一つは里山に関して、たぶん必ず出てくる話です。先ほどの中井さんのお話の中で出てきた、分散型の話です。我々が分散型になる時に一番キーとなるのは、エネルギーの分散型の供給です。地産地消ができるのかどうか。
日本の輸入の中で、金額の22%ぐらいを占めるのは、実はエネルギー関連です。海外から化石燃料を買ってきて、日本で燃やすというのは今までのパターンです。
これをひっくり返してCO2をゼロにするというのが、中井さんがいつも言っていた「自然の恵みをどう活かすか」ということです。それも含めて、よろしくお願いします。
森里川海の恵みを活かす「地域循環共生圏」
中井:ありがとうございます。今、周先生がおっしゃった「SATOYAMAイニシアティブ」とは、名古屋で生物多様性条約第10回集約国会議「COP10」という会議を行った際に、日本から発信した「生物多様性」という文脈で出た言葉です。
大きく言えば、生物多様性の議論と、脱炭素に向かう気候変動の問題。今や、この2つの根っこは一緒です。SDGsの根っこは全部一緒だという流れになってきています。
来年は中国で「COP15」が開催されるので、生物多様性についてとても大事な年です。「2020年目標」として日本の名古屋で行ったもののバージョンアップを今、世界中が目指そうという打ち合わせをしています。
そうした中、私どもは日本の貢献という「SATOYAMAイニシアティブ」をバージョンアップしたいと思っています。そのコンテンツがまさしく「地域循環共生圏」であり、バージョンアップした「SATOYAMAイニシアティブ」というかたちです。
国内で「地域循環共生圏」をつくり、それを海外へ展開した時には「SATOYAMAイニシアティブ」。世界に通っている言葉がありますので、ベースを移しながらバージョンアップしたいという想いです。
そこで、「地域循環共生圏」とは何かということをお話したいと思います。資料をお願いします。
この図の右下の図が分かりやすいと思います。これは、2018年の環境基本計画第五次で閣議決定した概念です。農山漁村と都市。まさしく都市化の状況を前提に置き、今後どうすべきかについて語っています。
周りにある森、里、川、海という自然資源・生態系サービスは、総称して「森里川海」という言い方をしています。水も空気もエネルギーも、食べ物も観光資源も、人々の健康的なアクティビティの元も、人間はその生態系サービスから頂いています。
考えてみると人間も自然の一部ですから、人間も生態系サービスの仕組みの中の一環である。この原点をもう一回取り戻さないと、新しい文明社会をデザインする時にはどうにもこうにもなりません。根本的な発想の転換をもう一度する必要があります。
現在すでに都市という空間ができ、大都市ができ、この図19のようにビルがたくさん立ち並んでいます。しかし、そこに住んでいる人々は自然の一部であることは間違いなくて、エネルギーも食べ物も要る。
その結果どうなっているかというと、地球に負荷がかかるようなかたちで、中東等の化石燃料を大量に地下から上げて、移動し、燃やす。
一方では、食べ物も含めてさまざまな便利なものを海外に頼っています。日本の場合、特に衣料はほとんど海外依存です。その衣料を作るために何が起きているかと言うと、海外の森林を破壊していることにもなっている。
そこで、人間は森里川海の恵みを受けている発想で、自分の身近なところをもう1度見直そうという原点に立ち至るわけです。農山漁村においては、人がいなくなってお金もありません。こうした中で耕作放棄地が広がり、森林には人の手が掛からない。ところが自然の恵みから言うと、豊かな森林がある。しかし土地は空いている。
そこでは自然エネルギーのポテンシャルが特別高いです。着る物も、実は日本では麻を使っていました。日本の衣料を日本の土地で作ることができないかという課題もあります。
地域の資源という発想で、農山漁村、都市にはどんな資源があるかを考える。ビルの屋根や家の屋根に太陽が降り注いでいても、それを使っていません。庭やベランダでちょっとした菜園をやる、コンポストで堆肥を作る。こうしたものも、地域資源に入ると思います。
それぞれが地域資源を活かし、自分が生態系の一部であるというベースで虚心坦懐、見直す。極力、地産地消、自律分散していく発想です。その時に見える化をしてCO2を減らす。例えば、これはCO2が負荷をかけない健康的なものなのかという発想で購買行動をとる。生産行動に責任を持つ。
そうしたことをそれぞれやった時に、地域で回っていく自律分散型の社会が「地域循環共生圏」のイメージです。今は地球に病気の症状が出ている。それを健康にするための考え方です。この「地域循環共生圏」の農山漁村、都市と言いましたが、もっと分解してみます。人間の体は37兆の細胞から成っています。細胞自体が連携して組織を作り、人間の体をつくっている。地球、地域もすべて生き物である。
そういう文脈で言いますと、ベースとしてはコミュニティでの地域循環。その上には、さらに広域での市町村、河川流域でのようなエネルギーや食べ物、観光という循環型。さらに上には東北全体や九州などのブロックということがあり、さらに超えると環太平洋、アジア全体。こういう発想でものを見るということです。
この「地域循環共生圏」のウィズコロナ、アフターコロナの文脈で今考えているのは、やはり都市化は便利だけれど、一極集中で間違いなく感染率が高いところからリスク分散化の方向があります。それと同時に、デジタル化で地方への動きがあります。
しかし、地方の中で家に閉じこもって物が食べられるのか、エネルギーを供給できるのか? 命の産業としての食べ物やエネルギー、そういうものが地域で回るシステムが必要となります。地域資源が活きるような資本ストックの多様性、健全性を表示していく。それと同時に、分散化と言っても一方的に行政コストやエネルギーコストがかかるようでは非効率です。
図の一番右のところですが、中長期的には集約することも必要です。これを中央環境審議会で議論しており、いわば一極集中分散化だけどヒューマンスケールの集約化、ネットワーク化していく。地下資源依存からで地上資源で地産地消していく発想で、まさしくこの「地域循環共生圏」を深めていこうという議論です。
もう少しだけ実例を言います。例えばエネルギーの事例ですが、台風災害で房総半島が停電になっても、睦沢という町ではマイクログリッド化したことにより、電気と温泉が使えたということです。こういう地域をボトムアップ型でどんどん増やしたいと考えています。
小田原など森里川海の資源豊かなところでは、エネルギーを自分たちでつくっています。これをさらにライフスタイルの移動手段として、EVをシェアリングするというビジネスモデルに投入する動きもあります。
また、広域の動きからすると、横浜のような300万人都市では自分たちのエネルギーを賄えません。そこで東北の岩手、青森の市町村と連携し、東北の古くなった再生可能エネルギーを入れる動きが、もうすでに起きています。
こうした活動をどんどん勃発させる。こういうものを作り込むことによって、ゼロカーボンを目指しながら「地域循環共生圏」をつくっていく方向であります。
周:ありがとうございます。分散化の中の集約化とネットワーク化をはからなければいけませんね。大西先生、どうぞ。
都市に取り入れる「里山的空間」
大西:「地域循環共生圏」という概念は素晴らしいと思います。ぜひこれが進んでいくといいと思います。おそらく環境省が都市づくり、都市の問題に提案するのは、これが3度目になるのではないかと思います。
最初は80年代後半に環境省が「アメニティタウン」というものを提唱し、かなり全国に調査しました。それから先ほども出ましたが「低炭素都市」というものがあり、今回さらに都市の生活まで入り込んで「地域循環共生圏」という概念で整理されています。ぜひ、これを自治体の都市行政、一体となって進めていくと良いと思います。
それで2つ、私からコメントをさせていただければと思います。一つは人口減少という日本が抱える問題からすると、このセッションのキーワードである里山が変わっていくのです。動いていくのだと思います。
先日、福島の被災地の一つで田村市の都路地区というところに視察に行かせていただきました。そこで持ちかけられたテーマの一つは、別荘地の問題です。百何十人の方が別荘を持っていたものの、誰も使わなくなったのでどうしたらいいか困っているということです。
実際に行ってみると傾斜地に別荘が建っているものの、今は使われていないとのことです。なかなか平地ではないので行きにくい場所です。「なぜこんな不便な場所を別荘地にしたのですか?」と聞いたら、「キノコや山菜が採れるので、山菜採りや山の生活が好きな人が別荘にしたのです」とおっしゃいました。
被災で一時は行けなくなったわけですし、さらに高齢になって今は行きづらい。どうしたらいいかと聞かれるので、何人かでいろいろと首をひねって考えました。しかし、なかなか難しい。むしろこの別荘地は、もう山に戻っていくのではないか。そうすると、身近なところでキノコを採るには、もう少し街に近い場所になります。
つまり、人が減って管理が行き届かない分だけ、山の勢力が強くなっていく。同時にイノシシが出る場所も広がっていくので、そこはイノシシに譲って、もう少し人間のテリトリーが萎んでいくのではないか。
そうした戦線の再整理が必要だと思います。里山というのは、いわば人間の居住区域と山の動物、植物の居住区域の境のところだと思うので、里山が移動していくことがあるのではないかと思っています。
そうしたことも考慮し、今まで使っていた土地すべてを守るのではなく、その時代に即した里山の場所や、里山のあり方も考えていく必要があると思います。
もう一つは逆に、都市の中に「里山的空間」をつくるようになってきています。ちょうど数日前、この近くの立川に機会があって出かけました。立川駅から北へ少し行った、GREEN SPRINGS(グリーンスプリングス)というところです。
モノレールの下に50 m から60 m のかなり広い、サンサンロードという道路があります。その脇の区画、4haくらいの区画を、ある地元の事業者が買い取って一大開発をしたわけです。一大開発といっても我々のイメージする開発とは違い、500%の容積率があって高層ビルが相当建つはずですが、170%しか使ってないのです。そのグリーンスプリングスのメインは、ソラノホテルという宿泊施設です。プールの向こうに富士山が浮かんで見えるというプールがあるレストランが一番のウリです。
それ以外にもいろんなウリがあり、エリア全体には緑道があるのです。その緑道と一体化した、自然に極めて近い設計です。すぐ隣は昭和記念公園ですし、都会的な施設やオフィス、店舗、ホテルなどがある。住宅は規制によってできないということで、住宅はありません。
今、都市開発をする時に考えるべきことは、いかにその開発の中に自然的な要素を取り入れるか。しかも取って付けたような自然ではなく、かなり徹底して自然に近づける。
徹底していることで言えば、グリーンスプリングスも同様です。もともと雑草地として放置してあった4haの敷地を国が公募し、その会社が買い取ったわけですが、最初に何をしたかというとヤギを21頭連れてきて、ヤギに雑草を食べてもらったのです。草ぼうぼうだった4haの敷地にヤギを放し飼いにして草を食べてもらい、ひとしきり食べ終わったところで開発を始めたのです。
その間はもちろん開発プランを練る時間となっていたわけですが、ストーリーとしても非常に自然一体的な雰囲気のするものです。
グリーンスプリングスのみならず、東京で今行われている比較的大規模な開発は、その中に自然をどう入れていくか。しかも恒久的な自然として、そこに住んでいる人や働く人が親しむだけではなく、ある種、管理もするのです。
お金を出したり、場合によっては管理の仕事にボランティアで参加するような仕組みもつくったりする。自分の生活の中にできるだけ自然空間を取り込むことは、非常に大きなモチベーションになっているのです。
先ほどイギリスの大都市の話をしましたが、それより少し前の時代では解決策の一つがガーデンシティ、田園都市だったのです。田園都市とは、地方に都市と農村が結合した、結婚したような新しいタイプの空間をつくるということ。日本の場合、そうしたものが大都市の中に今たくさんできていると思います。
ちょうど、この東京経済大学も郊外に差し掛かるような場所にあります。先ほど周先生に連れていっていただいた崖線沿いには池があり、ちょっとした自然が完全に残っているのです。
タヌキもいて、タヌキを飼っている先生もいるということでした。みんなと協調しなければいけない問題があるでしょうが、そうしたことができるような場所を積極的に再評価する時代になってきたということです。
ぜひ、この「地域循環共生圏」という概念をいろんなところで展開していただくと、それぞれ身近なところで自分も参加できるようになっていくのではないかという気がいたします。
周:大西先生、ありがとうございます。まさしく第2グラウンドの話に戻ってきたような議論です。都市の中の里山的な空間、自然を取り入れることは、おそらくこれからの都市や大都市の進化系です。
ぜひ、「地域循環共生圏」の中にこのコンセプトを取り入れていただければ、さらに普遍的な価値になるのではないかと思っています。
周:次の話も、この里山の話の延長線にあります。今パンデミックの中の我々は、まさしく新型コロナウイルスの恐怖感の中で生活しています。
人口10万人あたりの死亡者数で見てみると、アメリカ、イギリス、イタリア、フランス、スペイン等々、欧米の先進諸国は、軒並み2桁です。74人、85人、65人など、大変な数字を出しています。
しかし、日本は今1.5人です。これはどんな要因なのか?このファクターXはどういうものなのか? たくさんの研究がなされていますが、私なりの仮説を無理やり里山にくっつけて、今日は大西先生に批判されるように出してみます。
1997年、ジャレド・ダイヤモンドという人が『銃・病原菌・鉄』という本を出しました。この本で、彼はある仮説を立てています。
ユーラシア大陸は家畜がたくさんいたことで、これらの家畜と長い間、「三密」的な接触によってユーラシア大陸の人々がたくさんのウイルス感染に繰り返し晒されてきました。よって、ある種の免疫を持っていたのです。
一方、ヨーロッパ人がアメリカ大陸に上陸した時、家畜をそれまであまり持たなかった原住民が免疫を持っていなかったため、持ち込まれた病原菌に原住民の皆さんがやられて、壊滅的な打撃を与えられたのです。
私はこの仮設を正しいと思いますが、ただし現在の新型コロナウイルスによる死亡率がヨーロッパの国々と、日本を含めたアジアの国々との間に、大きなギャップがあるのが説明しきれないのです。
だから私は仮説としてはプラスして、稲作という水田を囲んだ我々の生活が大きなファクターとなると提起します。これも稲作的な里山は実は生物多様性、そしてウイルスの病原菌の多様性ともなっている場所であり、ある種の病原菌の巨大な繁殖地になっています。
そこで生活してきた我々の体の中にたくさんの免疫ができている。これらの免疫で、どうも今回の新型コロナウイルスに直接かからなくても、ある程度の交差免疫ができているのではないか。それによって、我々アジアの国々の死亡率が低いのではないかという話になるのです。
日本だけではなく、アジアでは、中国の10万人あたりの新型コロナウイルスによる死亡者数は0.3人です。台湾に至っては、0.03人です。ベトナムは0.04人です。タイは0.9人です。
西洋諸国と比べて、これらの国と地域は決してすべてが医療のリソースが豊かというわけではない。しかし、なぜこんなにコロナウイルスと闘って成績がいいのか。私はこれが、稲作地域の里山の恩恵ではないかと思っています。
だからむしろ、この尺度からも里山の貴重な存在を捉えるべきではないかと思っています。中井さんはどうですか?
生態系で捉える地球とSDGs
中井:ありがとうございます。周先生の「周仮説」への直接のコメントではないですが、ありとあらゆるものをエコシステム、生命系の発想で見ることが大事だというお話をしたいと思います。
「SDGs」は、皆さんもいろんなところで聞かれるようになったと思いますが、COP21のパリ協定と同じ2015年にコミットされました。このSDGsは17のゴールとして、環境経済社会についてバランスよく目標設定されています。
SDGsの前の MDGsという2000年の開発目標は、開発途上の人間の貧困や飢餓、豊かさなど、人間の社会だけで見ていました。これが今回、環境や経済、端的に言うと、13番が気候変動、14番が海の豊かさ、15番が陸の豊かさ、6番がきれいな水、7番がクリーンエネルギーなど、いろいろとたくさん入っています。
なぜこうなったかという背景にあるのが、地球容量の限界「プラネタリー・バウンダリー」という見解です。先ほどから例えているように地球全体を一つのエコシステム、生態系だと捉えた時、負荷を飲み込む強靭性もあるけれど、ある一点を超えると破滅になる。
人間の身体で言うと、お酒を適度に飲んでいる時は肝臓の負担もそれほどなく、週末にお酒を抜けばガンマ GTP 値も下がるけれど、一定量を超えると肝硬変や肝癌になってしまう。
それと同じようなことを地球全体に見立てているのが、今回SDGsの背景にあります。生物の絶滅速度や、リン、窒素、これは人間の都市改変によるもので、気候変動も危なくなってきた。
こうしたことに今、SDGsが気候変動と同じ文脈で、人類、社会、経済をセットで変えようという動きがあります。「地域循環共生圏」の発想から言うと、まさしく地球が人間と同じ一つの生命体である。では、人間は何か?
人間は37兆個の細胞からできている。細胞の一個一個が生き物である。一個の生き物が分裂して、一個一個 DNA があり、全部生きる力を持っている。お父さんお母さん、おじいちゃんおばあちゃんまで辿ると、ありとあらゆるものの遺伝情報を入れて今の細胞がある。それが代謝しているという捉え方です。
そうした、すべてが生き物という発想でものを見ていくことが21世紀のSDGsの、次の世界目標になるのではないかと思います。「地域循環共生圏」と言うとちょっと固い表現ですが、あまねく地球を救うことで広がっていく。
この時点では、環境基本計画で「環境生命文明社会」という言い方をしています。生命系の発想で文明が変わる、文明という概念と生命を両方入れているのです。
次はさらに、そのことを深めていく発想です。「地域循環共生圏」を人間の身体に見立てる。一個一個の細胞のところが自立して生きる。
そこには養分や酸素を入れて代謝をする。それが電気シグナルのネットワーク、つまり神経伝達機能でネットワークしながら、それぞれ全体としては筋肉になり、肺になり、いろんな機能になる。一個一個自立していて、繋がって全体がある。こうしたものの見方は、実は企業のパフォーマンスを上げるティール組織のように、今ありとあらゆるところで語られ、萌芽が出ています。
こうした「地域循環共生」において、生命生態系の発想でものを見る。SDGsの次の発想はまさしくこれで、今回のパンデミックが問う微生物とウイルスとの共生という観点も、必然の話であろうと思います。
周:ありがとうございます。大西先生、どうぞ。
変異種にも備え、いかに自分たちを守るか
大西:周先生のおっしゃった「周仮説」、なかなか興味深いと思います。これはWHOあたりに少し落ち着いた段階で振り返って整理してもらう必要があるでしょう。民族的な食料の習慣や生活習慣、社会習慣などがある種の免疫を作って、それが今回のウイルスにも通用したのかどうかも含めてです。
ただし渦中の人々にとって、10万人中の死者が1.5人というのは世界水準では随分少ないと言われても、1.5人いるということが重要なのです。やはり今後、いかに自分たちを守るのかが課題になるでしょうし、かつ変異もあり得るわけです。病原菌そのものがどんどん性質を変えていくので、交差免疫が通じない病原菌に変異した場合にどうなるのかという不安もあります。
これまで、こういう研究がどれくらい蓄積されてきたか。公衆衛生の一つの分野になると思いますが、こうした研究も並行して進めながら、やはり当面のコロナとどう闘うのか。これ自体はなかなか重い課題として、まだ我々の前に存在していく感じがいたします。
周:新型コロナは今、1年近く経っても未知なところが非常に多いウイルスです。このウイルスに立ち向かうためには、まず自然への畏敬の念、そして知性への敬意を取り戻さなければなりません。
ダボス会議で有名な世界経済フォーラムという国際機関があります。グローバルエリートたちが集まり、さまざまな発言をするところです。
そこで発表された「グローバルリスク報告書2020」によると、今後10年間に世界で発生する可能性のある十大リスクのランキングのトップ10に、なんと感染症は入っていなかったのです。さらに今後10年間で世界に最も影響を与える十大リスクのランキングのトップ10では、感染症は入ったけれども、なんと最下位の第10位です。
不幸にしてこのレポートが出された直後に、彼らの予測に反して新型コロナウイルスパンデミックが起こってしまい、我々人類社会に対してとんでもない打撃を与えています。
この話をなぜ持ち出したかと言うと、これらのグローバルエリートと称する人たちは、ある意味では自然への畏敬の念が足りなかったのではないかと私は思っています。
さらにもう一つ、権力の傲慢の話もして参りたいと思います。この写真に載っている方は、于光遠先生という中国の社会科学院の副院長を務めていた方で、40年前に中国の改革開放の設計図の元を描いた方です。
実は于光遠先生は、私を経済学の世界へ導いてくださった方です。2004年に私は中国のメガロポリスの本を出版する時、巻末に、先生との対談を載せました。対談の中で于光遠先生は、非常に興味深い話をしてくださったのです。権力の傲慢の物語です。
ソビエトの第3代目の最高指導者フルシチョフが総書記の時に、現代美術の展覧会に間違えて入ったそうです。それで展示作品を理解できず、怒り出してしまった。「こんなとんでもない絵を描いている人たちは、どういう仕事をしているのだ!」と怒ったそうです。芸術家たちも負けていなくて、「あなたには分からない」とフルシチョフに言った。
そこでフルシチョフはかの有名な話をしたのです。「私は一介の労働者の時は分からなかったかもしれない。下層の幹部の時は分からなかったかもしれない。でも今、総書記になったから全部分かる。私が駄目といったら駄目なのだ!」と言い切って、去ったわけです。
ここまでなら権力の傲慢の話で留まっていましたが、続きがあります。フルシチョフは亡くなる前に、おそらく遺言を残していたのでしょう。亡くなった後に家族は、喧嘩した芸術家にお墓の設計を依頼しました。現代美術を理解できなかったフルシチョフのお墓は、現代美術の芸術家によって作られた現代美術の作品そのものになったのです。
今の新型コロナウイルスの感染者の勢いです。11月9日には、世界での感染者数が5000万人を超えています。かつ、この感染拡大のスピードは速まっています。
これはとんでもないところまで行くのではないかと危惧していまして、この新型コロナウイルスに対して闘うためには、あらゆる偏見と傲慢を捨てなければいけない。
于光遠先生がフルシチョフの話を持ち出したのは、中国の当時の権威主義に対する警鐘を鳴らしたかったからです。しかし今日、日本を含め世界で権力による傲慢が横行しています。
新型コロナウイルスとの戦いの中で権力の傲慢、縦割りの傲慢、官僚的な発想の傲慢、いろいろな傲慢を捨てないと、おそらく勝ち抜いていくことはなかなか難しい。特に今一度、さらに自然への畏敬の念を取り戻さないといけない。そう思い込んでいるのですが、お二方はいかがですか?
自然の恵みをベースに、脱炭素・循環経済・分散型社会へ
中井:ありがとうございます。新型コロナはこれからまだいろいろ大変だと思います。気候危機と新型コロナに直面しているこの状況をリデザインしていくことで、やはり脱炭素、循環経済、分散型社会。とにかく変わってくのだと具現化するのが「地域循環共生圏」という発想です。周先生がおっしゃるように、「地域循環共生圏」を具現化するには、障壁や縦割りなどと言っている場合ではありません。根本的に人間が自然に生かされ、自然を畏れ、自然に畏敬の念を持ち、生態系の一部であるという中で、ありとあらゆる本来の健康的な状況を皆が覚醒して目指して行く必要があります。
図の一番上に表題で「地域循環共生圏(日本発の脱炭素化・SDGs構想)」と言っていますが、その下は見にくいですが「サイバー空間とフィジカル空間の融合により、地域から人と自然のポテンシャルを引き出す生命系システム」と言っています。
こういう発想であらゆるものにアプローチしていく局面です。経済を動かす経済主体である事業会社や金融も、自治体も、そしていよいよ政府も本格的に動くことになっています。世界もそういう動きになっています。
変化していくこと。変わっていかない安定的なところでのパイの取り合いで、こちらが広がると向こう側がへこむという話ではありません。皆、全体が不健康な状況から健康へと移行する。移行するには真のコラボが必要です。協力、縦割り打破、前例踏襲打破。まさしく今、菅総理が声をかけていまして、環境省も一年前から小泉大臣の下、そうした想いで取り組んでいます。この図28は、周りにいろいろ書いてある曼荼羅と言われる図で一見難しいですが、エネルギーのシステム、移動のシステム、衣食住など、ありとあらゆるものを展開するとこうなります。
これらは全部、連携型の発想です。連携でDXやあらゆる技術を使った中で、人間が叡智を展開して自然の恵みにもう1度ベースを置く。人間も自然の一部であるという原点に価値観を置いて、30年のうちになるべく早くもう一度、人間が次のステージに立つことが問われている。これは使命だと思っています。
周:ありがとうございます。大西先生、どうぞ。
社会に対する丁寧な説明と相互理解を
大西:今日は周先生と中井先生のお二人から、豊富な資料でいろいろ勉強させていただいたことにお礼申し上げたいと思います。新型コロナの1年が、あとひと月余りとなっているわけですが、振り返ると自分にとってはものすごく変化と安定が入り混じった1年だったと思います。
実は、私は今年の3月で学長をしていた大学の仕事が終わり、東京に戻ることが決まっていました。その時に海外の大学の仕事をする話があり、自分の中ではそこに行こうとだいたい決めていたのです。
だからその予定でいくと、今頃はある国に行って働いていたわけですが、それは途中で立ち消えになりました。そして最後に落ち着いて大学の学長のフィニッシュを迎えるところが、コロナですべての行事が中止になる中で4月に入ったわけです。
4月に入ってからは比較的、定職がない状態と新型コロナにより、自宅での自粛生活でした。みんな自粛しているので、「毎日が日曜日」状態になっても目立たないと言いますか、他の人も同じなのでわりと落ち着いてすんなり毎日が日曜日の生活に入ることができたのです。
これはこれでなかなかいいなと思っていたら、少し飛びますが7、8月に会った人から、「あなたは10月から忙しくなりますよ」と言われていたのです。何の話かと思えば、学術会議の問題が9月の終わりから出てきまして、10月2日から私のところにもいろいろ取材連絡が来ました。とにかく在京のすべてのテレビ局に出演して、すべての新聞の取材を受けてという、今までにない体験をこの1カ月半くらいしたわけです。
その1カ月半は少し外出の機会が増えたものの、全体としてこの1年の自分の生活を振り返ると、自宅中心ですから非常に落ち着いた、ゆったりとした生活をしてきました。そういう意味では変わらない生活と、ある意味では変動した部分があります。行くはずの海外に行かなくなり、テレビに出演するようになった。そういう部分が入り混じっているのです。
これは開き直って考えれば、こういう生活パターンがある意味、あるべき生活パターンなのかもしれない。人間は落ち着いて生活するというベース、例えば家庭をつくって子どもを育てるなど、そういうベースになる生活の上で波乱万丈のいろんな社会生活がある。この組み合わせが人間にとっては楽しみでもあるし、満足もできる。そういう状態なのかなとも考えるわけです。
ただ、その社会生活の波乱万丈が何で起こるのか。私にとっては、今年はコロナや学術会議がそうだったわけですが、社会全体として何が起こるかはなかなか分からない。
それで最初の主題に戻りますが、周先生が問題提起された3つのキーワードがありました。新型コロナ、低炭素社、IT 革命。この中で、もちろん新型コロナみたいにわけの分からない敵が襲って来るのは非常に困るわけですが、IT革命も人を煙に巻くところがあります。もちろん、低炭素の問題も押し付けがましくなってはいけない。
やはり、それぞれの問題をお互いに理解することが大切です。社会の皆が理解するように丁寧に説明し、社会の変化を皆でともに歩み、それぞれ歩むことで良さを享受できる。そのギャップに伴う付き合いにくさはできるだけ解消していく。そういうことが必要だろうと思います。
そういう意味では、「権力の傲慢」という言葉は非常に印象的なまとめの言葉であったと思います。やや、政治なり権力を持っている人が、社会に対して説明抜きにいろんなことを押し付けるようになるのは、非常に不健全な社会です。
やはり社会をリードしていく人は丁寧に説明をして、皆がそれを自らの問題として理解し、進んでいける環境をつくっていくことが非常に重要です。
大きな変化であればあるほど、丁寧にやっていく。そういう国であって欲しいと思います。
周:ありがとうございました。本当に総括していただいてありがとうございます。権力の傲慢について、さらに一歩踏み込んで申し上げますと、今世の中には自然への畏敬の念に欠け、ウイルスの在り方自体を理解しようとしない指導者が全世界にけっこういます。これが各国の感染状況と対策で、実は成績表にそのまま現れているのです。
さらに、解決方法に対する知性への理解をしない指導者もたくさんいて、実はけっこう危険な状況です。その意味では、ここで警鐘を鳴らさなければなりません。
大西先生に非常に綺麗にまとめていただいて、私からはそれ以上のまとめがないのですが、本当に自然への畏敬の念、知性への敬意を具現化している中井さんの「地域循環共生圏」、ぜひ成功させていただきたい。さらにこれを世界に発信していただきたいです。中井次官、大西先生、今日は本当にありがとうございました。
これをもちまして、「セッション1 コロナ危機を転機に」を終了させていただきます。それではご視聴の皆さん、どうもありがとうございました。