【刊行によせて】生態都市建設と都市総合発展指標/武内和彦・中央環境審議会会長


武内 和彦
東京大学国際高等研究所サステイナビリティ学連携研究機構機構長・特任教授、中央環境審議会会長、国際連合大学元上級副学長


 都市化が急激に進む中国においては、都市の低炭素化と持続可能な経済発展とをいかに両立させていくのかが大きな課題である。エネルギーの消費が急激に増加し、CO2の排出が世界最大規模になった中国では、居住環境の劣化、交通環境の悪化、水質の汚濁、大気の汚染等、さまざまな問題が生じている。また拡大する都市は生態系に悪影響を及ぼし、生物多様性の減少や、自然資本の劣化をもたらしている。

 中国をはじめ急激に成長するアジア都市では、地球環境問題への対応と地域の環境汚染改善を一体的に考える新しいスキームが求められる。私は、エネルギーの低炭素化(Energy)、水質・大気改善、適正廃棄物処理などの地域環境の改善(Environment)、都市と自然の共生(Ecosystem)を統合的に捉える3Eネクサスのアプローチによる生態都市の創造を提唱している。〈中国都市総合発展指標〉は、こうした3Eネクサスに示されるような、グローバルな視点とローカルな視点を融合させ、国際社会に対しても大きなインパクトをもつ統合的な都市指標である。

 3Eネクサスの考え方を踏まえると、都市の持続可能な発展のためには、三つの大きな社会のビジョンを目指し、それらを統合化させるアプローチをとることが重要である。

 一つ目は低炭素社会で、エネルギーの低炭素化と気候変動の緩和を進めるとともに、地域の水質・大気環境改善との同時達成を目指すものである。とくに成長するアジア都市では、依然としてエネルギー利用が拡大しており、再生可能エネルギーへの大転換やエネルギー効率の飛躍的な向上を図らない限り持続可能性は保証されない。

 二つ目は循環型社会で、天然資源と廃棄物量を最小化し、リデュース、リユース、リサイクルの原則で資源を循環的に利用することにより持続可能性を高めていこうとするものである。アジア都市では、都市内の資源循環を進めるとともに、建築物やインフラストラクチュアーの更新においても、資源の循環利用を進める必要がある。

 三つ目は自然共生社会で、人間と自然がお互いに相乗効果を生み出すことができるような社会をつくりあげていこうというものである。アジア都市の周辺部では、森林や農地などの良好な農村環境が維持される必要がある。都市は、そうした農村環境が提供する生態系サービスを享受する一方、農村に対してさまざまな支援を行っていくことで、両者のバランスが取れた豊かな自然共生社会をつくりあげていくことができる。

 その多くがデルタに位置するアジア巨大都市は、とりわけ気候変動による海面上昇、豪雨・洪水などの極端気象の多発などにより、深刻な被害を受ける可能性が高い。上記3つの社会像の統合による持続可能な社会を目指すことは、こうした被害を軽減するための気候変動適応策としても重要であると考えられる。そうした問題意識を行政や市民と共有し、着実に対策を講じ、その成果をモニタリングしていく必要がある。

 その際、非常に複雑な都市システムを俯瞰的・統合的に捉えることが、行政や市民の理解を促すうえで重要となる。都市を支える人工資本とともに、人的資本や自然資本にも注目し、各都市の現状を捉え、そのあるべき持続可能な将来像に導いていく必要がある。

 本書が扱う〈中国都市総合発展指標〉は、持続可能な開発の三側面である環境、社会、経済を大項目に据え、発展活力、生活品質、自然生態などの中小項目を置いて、中国の都市を評価するとともに、その発展の方向性を具体的に示すものである。

 〈中国都市総合発展指標〉のもう1つの大きな特徴は、表現力に富んだグラフィックを多用することで膨大な情報をわかりやすく提示していることである。このような指標の「見える化」により、中国都市化の現状や各都市の抱える問題と今後のあり方についての認識が高まり、持続可能な都市発展に貢献すると期待される。


プロフィール

武内 和彦(たけうち かずひこ)

 1951年生まれ。東京都立大学助手、東京大学農学部助教授、同アジア生物資源環境研究センター教授を経て、1997年より2012年まで同大学院農学生命科学研究科教授。2012年より同高等研究所サステイナビリティ学連携研究機構機構長・教授。2008年より国際連合大学副学長、2013年より同上級副学長、国際連合事務次長補を併任。日本学術会議副会長、中央環境審議会長、公益財団法人地球環境戦略研究機関理事長、国際学術誌 Sustainability Science(Springer Japan) 編集委員長などを兼任。

 主な著作に、『環境時代の構想』(2003年、東京大学出版会)、『ランドスケープエコロジー』(2006年、朝倉書店)、『地球持続学のすすめ』(2007年、岩波ジュニア新書)、『サステイナビリティ学4生態系と自然共生社会』(2010年、共編著、東京大学出版会)、『世界農業遺産 注目される日本の里地里山』(2013年、祥伝社新書)、『日本の自然環境政策 自然共生社会をつくる』(2014年、共編著、東京大学出版会)など。

(『環境・社会・経済 中国都市ランキング ー中国都市総合発展指標』に収録。肩書は当時