楊 偉民
全国人民政治協商会議常務委員、中国共産党中央財経領導小組弁公室元副主任
中国国家発展改革委員会発展戦略和計画司と雲河都市研究院の研究成果である〈中国都市総合発展指標〉は、これまで私が目にした中国都市発展状況を測るものの中で、最も時代性、国際性、実用性に富んだ総合評価である。同指標は、中国都市の健康状況を見極める総合的な「健診報告」と言ってもいいだろう。そこから各都市は自分のどの指標が健全で、どこが劣っているかあるいは不健全であるかが見て取れる。各都市はこれによって健康を保持し、都市病を予防し、病症をいち早く治すことができる。
「健診報告」である以上、毎年「健診」を重ねることが肝要である。新しい指標を絶えず追加し、新しい状況を反映させ、新たな課題を見出すことも大切である。
都市化は中国経済社会発展の原動力である。中国の都市化の道のりはまだ遠く、長い。中国経済はすでにハイクオリティを目指す発展段階に至った。都市化とハイクオリティ発展の二つの歴史の潮流が合わさっている。都市は経済発展の主体であり、またハイクオリティ発展の空間でもある。都市のハイクオリティな発展が、中国全体のハイクオリティな発展につながる。
中国は経済発展、社会発展、持続可能な発展の空間均衡をはからなければならない。
いわゆる発展の意味について三つにまとめられる。
1つは経済発展で、主にGDP成長である。2つ目は、人間の開発あるいは社会の発展、とりわけ人々の幸福と、社会の進歩である。3つ目は、持続可能な発展であり、自然再生または生態環境の保護である。
ハイクオリティな発展は経済発展だけで語るべきものではない。ある都市の経済規模が大きくなったとしても、生態環境が破壊され、街がスモッグに覆われているとしたら、それはハイクオリティな発展とは言い難い。
同様に、経済指標が良くても、住民の居住問題さえ解決できず、大勢の人々、特に常住外来人口が、住まいを購入できないどころか賃貸さえままならなければ、社会の発展は語るべくもない。こうした都市は「歪(いびつ)」であり、ハイクオリティとは言えない。
中国は現在、都市のクオリティ向上、効率向上、そして原動力シフトを推し進めている。従来、中国経済のハイスピードな発展は、生産規模の拡大、資本投入の拡大、労働力の無限の提供による輸出の拡大と、不動産投資の拡大に引っ張られてきた。こうした発展は、再生不可能な耕地、エネルギー、鉱山資源を大量に消耗してきた。
クオリティの向上には、量的な生産拡大に頼った発展から、製品の質的向上による発展へと、転換させなければならない。
効率を高めるには、要素投入の規模拡大による成長から、労働効率、資本効率、土地効率、エネルギー効率、環境効率の向上へと転換することが必要である。
原動力も、労働力依存型の成長から、改革開放型成長、科学技術イノベーション型成長にシフトしなければならない。もちろん内需、特に消費拡大という牽引力も欠かせない。
上記の三大変革の主な舞台は都市にある。ハイクオリティを促す指標システムがあれば、各都市は、単純なGDP競争から発展クオリティの向上、効率の向上、原動力のシフトにおける競争へと切り替えられる。
中国では、実体経済、イノベーション、現代金融、人的資源などうまく協働できる現代産業体系を作って行く必要がある。
都市の基礎は産業にあり、都市の繁栄は産業の振興にある。都市の産業発展はフルセット型と決別すると同時に、モノカルチャーになってもいけない。とりわけ製造業と、IT産業との協働が欠かせない。
科学技術イノベーションと実体経済とのタイアップの発展が大切である。科学技術イノベーションと実体経済が別々のものであってはならない。その意味では、イノベーションを評価する際、研究開発の投資規模だけではなく、研究成果が実際の生産力に置き換えられたか否かに、着目するべきである。
金融も実体経済のために役立つことが重要であり、金融の自己循環型発展があってはならない。それゆえGDPに占める金融の比重だけを見て、その都市が金融センターであるかどうかを判断してはいけない。
その意味では教育は、実体経済、科学技術イノベーション、現代金融の発展潮流に追い付くことが必要だ。経済社会発展のニーズに応えなければならない。
不動産開発も住民の支払能力に見合ったものとし、また住民のニーズを満たす形で発展させるべきだ。不動産供給が過剰であれば空き家問題が生じ、過少であれば供給不足に陥る。都市機能や人口集積に適合したものにしなければならない。
中国では、市場メカニズムを有効に働かせ、ミクロが活力に溢れ、マクロコントロールが機能する経済を打ち立てる必要がある。ハイクオリティな発展を推し進めるにはそれに見合った制度環境へのシフトが欠かせない。
世界銀行は「ビジネス環境の現状2019」で、190カ国・地域のランキングにおける中国の順位が第46位と、昨年より32位高まったことを報告した。これは主に北京と上海の状況を反映している。もちろん、ビジネス環境における都市間の違いは極めて大きい。自然環境の差異を除き、その多くは制度における差異である。各都市は、自身の状況に応じて改革のスピードを速め、ハイクオリティな発展段階に見合ったビジネス環境を整えなければならない。
中央経済工作会議は昨年、ハイクオリティの発展を促す指標システムの迅速な開発を求めた。このような指標をもってハイクオリティ発展における都市間の競争を促す必要がある。〈中国都市総合発展指標〉はすでにこうした機能を備えている。今後は下記に掲げる改善点に考慮し、さらに完成度を高めて欲しい。
第一に、さらに一歩、時代性を増すことである。指標は現在、世界の発展潮流と、中国の発展趨勢を反映させ、ハイクオリティ、高効率、協調性、新たな原動力を焦点とする。また、科学技術革新と産業変革の趨勢を反映させ、クラウド、ビックデータ、新エネルギー、スマートシティなどの進歩を焦点とする。さらに、改革開放を反映させ、規制改革、ビジネス環境の改善などを焦点とする。
第二に、科学性をさらに一歩高めることである。目下、中国では都市に関する評価指標は他にも存在する。しかし、その大半が科学性に欠いている。〈中国都市総合発展指標〉の優位性は、環境、社会、経済の3つの角度から都市の発展を評価していることにある。これに、さらにハイクオリティに関する指標を充実させれば、都市ハイクオリティ発展を総合的に評価する、中国初の指標システムとなる。各都市がこぞってこれを参照するような指標システムとなるだろう。
第三に、国際性をさらに強化させることだ。〈中国都市総合発展指標〉の優位性の1つは、国際比較が可能となっていることである。これは決して容易ではない。都市のエリアに関する定義一つを取ってみても、中国の都市では行政地域、都市内部の区と県レベルの行政地域、建成区という3つのレベルがある。後者の二つのエリアは、なかなか国際比較ができないことで国際間の都市比較研究の大きな妨げとなっていた。〈中国都市総合発展指標〉は、衛星リモートセンシングの技術を用いて、行政地域、アーバンエリア、そしてDIDエリアという3つのコンセプトを持ち、国際間の比較を可能とした。こうした努力を一層重ねてほしい。
第四は、実用性をさらに一歩、高めることである。今後、指標の価値をさらに一歩高め、必要とする都市にはハイクオリティ発展の「健診報告」を行うと同時に、評価の範疇は上下へと拡張してほしい。上はメガロポリスと都市圏をカバーし、京津冀の協調発展や、長江デルタの一体化、粤港澳大湾区の評価を可能とすること。下は、県級都市の評価も網羅してほしい。指標は発展の結果を評価したものであり、また、都市発展を進める上での基準でもある。中国各都市のニーズに応えるために、〈中国都市総合発展指標〉を中国都市のハイクオリティな発展を検証する指標体系として明確に位置付けなければならない。そのために、中国国家発展改革委員会発展戦略和計画司は、それを上級指導機関へ報告すると同時に、各都市へも〈中国都市総合発展指標〉を推薦する。
(『環境・社会・経済 中国都市ランキング 2018―大都市圏発展戦略』に収録)
プロフィール
楊 偉民 (Yang Weimin)
1956年生まれ。中国国家発展改革委員会計画司司長、同委員会副秘書長、秘書長を歴任。中国のマクロ政策および中長期計画の制定に長年携わる。第9次〜第12次の各五カ年計画において綱要の編纂責任者。中国共産党第18回党大会、第18回3中全会、同4中全会、同5中全会の報告起草作業に参与した。同党中央第11次五カ年計画、第12次五カ年計画、第13次五カ年計画提案の起草に関わるなど、重要な改革案件に多数参画した。
主な著書に、『中国未来三十年』(2011年、三聯書店(香港)、周牧之と共編)、『第三の三十年:再度大転型的中国』(2010年、人民出版社、周牧之と共編)、『中国可持続発展的産業政策研究』(2004年、中国市場出版社編著)、『計画体制改革的理論探索』(2003年、中国物価出版社編著)。