【コラム】「集中化」と「分散化」のバランスを如何に/李昕・北京市政府参事室任主任

李 昕

北京市政府参事室任主任、中国科学院研究員(教授)、経済学博士


 初めて都市計画に関わったのは、10数年前のことであった。筆者はカナダから帰国し、北京市環境局に入局、当時中国国家建設部(省)大臣であった汪光焘先生が指揮した「北京都市計画と気象条件および大気汚染との関連性に関する調査」に加わった。その後、「北京および周辺五都市における2008年オリンピック大気質量保障措置の研究と制定」を取りまとめた。

 工業化と都市化の急速な進展により、北京では人口が激増し、交通渋滞、水資源の枯渇、公共サービス供給不足と治安問題の頻発などで「都市病」が露呈した。2013年以来、PM2.5によるスモッグの頻発は、人びとの日常生活に一層甚大な被害を与えた。友人の中には汚染問題で国外に移住していった者もいた。

 このとき、北京市門頭溝区の副区長を務めていた筆者は、都市大気汚染低減のため、再び都市計画に取り組むこととなった。エコシティの国際的な事例を参考に、北京市門頭溝区のために、経済発展、社会進歩、生活レベル、資源負荷、環境保護の5つの角度から、34項目の年度発展審査指標を作り、生態優先型経済発展を推し進める総合評価体系を制定した。

 2014年末にはドイツを研究訪問し、都市計画専門家との交流セミナーで、彼等が詳しく述べていた「分散化」のドイツの都市発展モデルに、深い印象を受けた。これは、少数のメガロポリスに人口と経済活動が集中する中国の発展モデルとは明らかに異なっていた。

 2016年に偶然の巡り合いで、幸運にも中国都市総合発展指標2016の出版発表会に参加し、著者の周牧之教授、徐林司長、そして各項目担当の専門家等と知り合った。その後続けて彼らに教えを受け、師としてまたよき友として、お付き合い頂いている。

 周牧之教授は、工業化後発国は都市化において往々にして大都市発展モデルを歩む傾向があるとし、特に第二次世界大戦後、それが世界の趨勢となっていると、述べている。都市の集積効果は、経済発展効率を高め、豊富な都市生活をもたらす。とりわけ、メガロポリスのような大規模高密度の人口集積が、異なる知識と文化を背景とする人々の交流の利便性を高め、知識経済とサービス経済の生産効率を上げる。

 都市病は「過密」がもたらしたものであるとされるのに対して、周牧之教授は「過密」の本質こそが問われるべきだと問題提起している。いわゆる「過密」の原因は都市インフラとマネジメント力の不足にあると言う。

 周牧之教授は東京大都市圏を事例に「過密」問題を解説した。戦後、東京大都市圏が過密問題によりもたらされた大都市病に難儀し、いまの北京と近い発想で、工業や大学などの機能を制限した。しかしインフラ整備を進めた結果、都市圏の人口規模は拡大したにもかかわらず、いわゆる「都市病」は殆ど問題にされなくなった。これは北京の将来を考える際に非常に大切な示唆である。

 周牧之教授は4年以上の時間をかけて、内外の専門家を集め、各国の都市化発展の経験と教訓とをもとに、都市発展を評価する指標作りを試みた。議論を重ね、環境、経済、社会の3つの軸から、中国都市総合発展指標を作り上げた。同指標体系は開放的で、時代の要求に応え、進化可能なシステムである。指標の数は2016年の133項目から、2017年には175項目へと増加した。

 さらに、統計データだけではなく、最新の技術を駆使して衛星リモートセンシングデータやビックデータを大量に取り入れ、GIS技術を活用し、中国の地級市以上の全297都市の分析を行った。このような取り組みは中国では初めてのことである。よって中国の都市は、初めて環境、経済、社会の3つの軸で診断ができるようになった。様々な指標で都市のパフォーマンスが明らかになったことで、都市の課題と潜在力を浮かび上がらせ、より戦略的に都市の発展方向性を定められる。おそらくこれによって中国の都市計画レベルを一気に向上させることができるだろう。

 中国都市総合発展指標から地域ごとの発展も評価できる。これによって、中国の東部、中部、西部地域の都市化進展の違いが確認できた。さらに同指標の2016年のメインレポート(『中国都市ランキング』第5章)では珠江デルタ、長江デルタ、京津冀、成渝の4つのメガロポリスの発展特徴を分析し、その将来性を予見した。同指標を活用し、中国の地域政策も大きく進化するだろう。

 中国都市総合発展指標2017において北京は首都の優位性で連続2年総合ランキングの首位に立った。北京と天津2つのメガシティを中心に、京津冀というメガロポリスも形成された。

 しかし京津冀は、その高密度人口集積に必要なインフラ整備、公共サービス、マネジメント力に欠け、水資源の不足、大気汚染や交通渋滞など都市病の困惑の中にある。
 これに対して北京は、副都心建設を推進し、一部の行政機能などを通州などの周辺地域に移し、過密問題緩和を図ろうとしている。また、雄安新区の設立も、「分散化」の一環としてとらえられるだろう。

 しかし、北京そして京津冀メガロポリスの発展にとっては、中心機能の強化も極めて大切である。「集中化」と「分散化」のバランスを如何に図るかが肝要である。そのために中国都市総合発展指標を活用し、これらの取り組みを常に評価し、軌道修正していくことが必要である。


(『環境・社会・経済 中国都市ランキング 2017―中心都市発展戦略』に収録


プロフィール

李 昕(Li Xin)

 1968年生まれ。中国社会科学院大気物理所副研究員、研究員(教授)を経て、2004年北京市環境保護局に入局、副総技術師兼科学技術国際協力部部長、環境観測部部長、大気環境管理部部長を歴任。2010年北京市門頭溝区副区長、2017年中国人民政治協商会議北京市委員会副秘書長を経て、現職。中国科学院大気物理所研究員(教授)、北京大学環境科学工程学院教授を兼任。