【専門家レビュー】杜平:何故いま〈中国都市総合発展指標〉か?

杜 平

中国国家信息センター元常務副主任、中国第13次5カ年計画専門家委員会秘書長、中国国家戦略性新興産業発展専門家諮詢委員会秘書長


1. 新型都市化における〈中国都市総合発展指標〉の意義

 中国で都市化といえば古い課題でもあり、また新しい課題でもある。古い課題についていうと、中国の都市化は始まってすでに40年経過した。この間、都市化率は17%から56%に増加し、流動人口は億単位を超え、中国は農業大国から工業大国への転換を果たした。
 新しい課題についていうと、「新型都市化」をどう進めていくかに尽きる。例えば、新型都市化と工業化、情報化、農業現代化を、どう効果的に協調発展させていくか。また、都市の発展を、工業化優先から、どうサービス業の発展、快適居住重視、環境配慮へと転換させていくのか。また、都市の計画、建設、管理において、どうスマート化、数字化していくか、などがある。こうした新しい課題は、中国都市化の新段階における挑戦である。
 長年にわたる中国都市化の実践において、各種の指標に関する研究成果は、都市化の政策策定や計画づくりに、様々な影響を及ぼした。特に今回が第3回目の発表となった中国都市総合発展指標2018は、国内外で好評を博している指標システムである。同指標は、中国の政策担当省庁、地方政府、学界および経済界に重要な参考と啓発を与え続けている。

2. これからの中国は都市化が鍵

 中国は膨大な人口を抱え、地域間格差も激しい。地域の協調発展における都市の役割は大きい。協調発展には、各国の経験と教訓を吸収し、中国の地域経済発展の道筋を探求しなければならない。
 中国はいま、都市化からもたらされるエネルギーを希求すると同時に、都市発展の効率とクオリティも求めている。そのためには、「都市と農村との連携発展」や、「郷村振興」などの政策を進めると同時に、都市発展、特に大都市圏の発展を強化していくべきである。
 総じて、中国のような人口と国土の規模が大きい国では、都市発展の水準は地域ないし国の発展を左右する。中国の経済社会が新たなステージに立ったいま、都市化がその運命の鍵を握っている。

3. 都市発展の計量的な評価で、ハイクオリティな発展を

 中国の中央および地方政府は長年、都市の発展のために、様々な戦略や、計画を策定し、実施してきた。もちろん、これらの戦略や計画は、一定の効果を上げた。しかし、中国の都市における発展の持続可能性や経済効率、そして市民の満足度において、多くの課題を残している。例えば、人口の集約よりは土地の開発を重視する「中国式都市発展」、行政エリアの合併や新区の乱立による安易な都市域の拡大、工業優先によってもたらされる生態環境破壊などだ。
 そうしたことに鑑み、中国の都市の発展を計量的に評価し、各都市の実情を把握し、これまでの都市化の課題を整理し、ハイクオリティな発展モデルへの転換を促す必要に迫られている。
 中国都市総合発展指標の開発者は、長年にわたり開発に真摯に取り組み、個人的な利益を省みず、中国都市の総合発展における評価システムを構築した。中国都市化において、この意義は大きい。同指標の今後の影響力の更なる拡大に期待したい。

4. 〈中国都市総合発展指標〉の四大特徴

 中国都市総合発展指標の独自の長所について私なりにまとめてみた。
 一つは、データの欠陥と歪みの問題を解決したことである。これまで中国での指標研究のほとんどは、統計データやアンケートデータにしか使えなかった。これらデータの設計、採集、集計から来るデータの欠陥と歪みは問題が大きかった。そのため、指標研究自体もなかなか良い成果を上げられなかった。
 相対して、中国都市総合発展指標の開発者は、指標データ源を統計データのみならず、インターネット・ビックデータ、衛星リモートセンシングデータへと創造的に広げた。さらに、システム的にバランス良くこれらのデータを指標化した。
 結果、同指標では、データ源の約30%は統計データ、約30%が衛星リモートセンシングデータ、約40%がインターネット・ビックデータとなっている。これによって、統計データで生じる歪みを是正することができた。さらに、これまで統計データではカバーしきれなかったエリアも数字化できるようになった。
 こうした努力によって、中国都市総合発展指標が都市を評価するために必要なデータは、質量ともに確保できた。
 二番目に、中国都市総合発展指標の「3×3×3構造」が挙げられる。中国春秋時代の思想家老子は、「一から二が生まれ、二から三が生まれ、三から万物が生まれる」という宇宙観を説いた。都市という複雑かつ巨大なシステムをはかる指標の「3×3×3構造」はこのような思想にもマッチしている。
 中国都市総合発展指標は、そのデザイン理念、指標間のロジック、システムにおいて、実に簡潔かつ合理的である。環境、社会、経済という3つの大項目を立て、9つの中項目、そして27の小項目を置き、785のデータで定量化した。
 よって、同指標は都市の変化を趨勢として捉えると同時に、細部までの変化も網羅する。これは都市の現状や課題を明らかにし、戦略や政策の策定を大いに助ける。
 三番目は、中国都市総合発展指標がこれまで中国にはなかった指標を開発し、都市発展の趨勢を促す手立てとなったことである。例えば、「DID人口」を用いて、都市発展の規模と質を見極めた。また、「輻射力」という概念を提起し、都市の外部への影響力を様々な分野から検証できた。さらに輻射力と都市機能との相関関係の分析により、各産業がそれぞれ求める都市の機能を明らかにした。
 四番目は、国際比較である。中国都市総合発展指標は中国だけでなく、海外の都市も評価可能となっている。よって、例えば、北京と東京両大都市圏の比較がリアルにできることで、中国の都市発展の目標が一層定まった。
 上述したように、中国都市総合発展指標は先見性と戦略性を持ち、ハイクオリティの発展を求める中国の都市にとって実用性の高い政策・計画ツールである。


プロフィール

杜 平 (Du Ping)

 1956年生まれ。1982年以来、中国国家発展和改革委員会(元国家計画委員会)地域協力計画局、地域総合計画司、国土地域司、国土開発和地区経済研究所、国務院西部開発弁公室総合組(局)に勤務。処長、所長、司長を経て、国家信息センター常務副主任。中国地理学会理事、中国地域経済学会常務理事、中国科学和科学技術政策学会副理事長、中国人力資源開発研究会副会長および中国科学院資源和地理研究所、浙江大学および中国政法大学客員教授を兼任。

(『環境・社会・経済 中国都市ランキング 2018―大都市圏発展戦略』に収録