【専門家レビュー】日本と中国のSDGs達成に向けた取り組みと〈中国都市総合発展指標〉の意義/北野尚宏・早稲田大学理工学術院教授


北野 尚宏
早稲田大学理工学術院教授、JICA研究所元所長、博士(都市地域計画)


 2019年9月にニューヨークの国連本部で持続可能な開発目標(SDGs)に関するサミットが開催された。SDGsは、2015年に「国連持続可能な開発サミット」で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の中核をなす目標であり、貧困、教育、都市、気候変動など、経済、社会、環境を統合する17のゴール(目標)から構成される。同サミットでは、首脳レベルでSDGs採択以降の4年間の取り組みがレビューされた結果、目標ごとの進捗に偏りや遅れがあり、取り組みを加速化する必要性が共有された。これを受けて、グテーレス国連事務総長は目標年である2030年までをSDGs達成に向けた「行動の10年」とすることを提唱した。

 SDGsの17の目標には、達成状況をモニタリングするために複数のターゲットと指標が設定されており、合わせると169ターゲットと232指標になる。特徴としては、日本、中国を含む国際社会共通の目標であること、「誰も置き去りにしない」という「人間の安全保障」を基底とする理念を掲げていること、イノベーションなどによる変革が重視されていること、政府、企業、地域コミュニティ、個人にいたるあらゆるレベルで共有できることが挙げられる。国連は、毎年SDGs進捗報告書を公表し、閣僚レベルのハイレベル政治フォーラム(HLPF)で進捗確認を行っている。そして、4年に一度、国連総会においてサミット形式の進捗確認が行われる。上述のサミットはその第1回に当たる。さらに2020年よりは、「行動の10年」を進めるための年次プラットフォームとして「SDGs行動フォーラム」が毎年開催されることになっている。

 日本は、2016年に全閣僚を構成員とする「SDGs推進本部」を設置し、世界のロールモデルになることを目指す「SDGs実施指針」を策定した。「SDGsアクションプラン」を毎年決定・公表し、2017年には自発的国別レビューをHLPFで発表している。SDGsは、2019年6月のG20 大阪サミットや、8月の横浜での第7回アフリカ開発会議(TICAD7)でも中心議題の1つとなった。企業や金融機関、経済団体自治体、教育機関、市民社会、メディアによる取り組みも盛んになり、社会におけるSDGsの認知度も高まりつつある。例えば関西地域では、2025年の大阪万博に向けて立ち上がった関西SDGsプラットフォームが活発に活動している。SDGsに関する多数の啓蒙書、専門書が出版され、17色のSDGsバッジをつけたビジネス・パーソンを見かけることも珍しくなくなった。

 2019年12月に改定された「SDGs実施指針」では、日本のSDGs進捗は、17の目標のうち教育(目標4)やイノベーション(目標9)の達成度は高いが,ジェンダー(目標5)などは低いとの評価も見られるとしている。そして、①ビジネスとイノベーション、②SDGs を原動力とした地方創生、③次世代・女性のエンパワーメントを三本柱とする日本の「SDGsモデル」を推進するために、進捗状況を把握、評価し施策に反映させる仕組みを構築するとともに、実施体制を強化することがうたわれている。ビジネスとイノベーションについては、サイバー空間とフィジカル空間を融合させたシステム構築により人間中心の社会を目指す「Society5.0」ビジョンとSDGsとの連動に力点が置かれている。SDGsを経営戦略に組み込む企業も増えてきている。2020年度からは、小学校の学習指導要領にSDGsが盛り込まれることになっており、子供たちのSDGsに対する認知度は飛躍的に高まることが期待される。

 中国は、2016年に公表された中国の国家中期計画である「第13次5カ年計画(2016〜20年)」の中で「2030アジェンダ」に積極的に取り組むことを明記した。同年7月のHLPFで発表した「2030アジェンダ国別実施計画」の概略にも、「2030アジェンダ」と「第13次5カ年計画」、地方政府の開発計画、さらに「一帯一路」構想とを連動させることが盛り込まれた。中国がホストした同年9月のG20 杭州サミットでは、「2030アジェンダに関するG20行動計画」が策定された。2017年と2019年には「2030アジェンダ実施進捗報告」を公表している。実施体制面では、2016年に外交部(外務省に相当)が事務局を務め43の政府部門から構成されるSDGs推進のための連絡・調整体制が整備された。2019年6月に約3年ぶりに第2回全体会合が開催され、今後のSDGs推進方針が議論された。同年9月の「SDGサミット2019」では、2020年に絶対貧困人口をゼロにし10年前倒しで目標を達成するとともに、開発途上国に対する南南協力を拡大することが表明された。さらに10月には中国国務院発展研究センター、国連などが持続可能な開発フォーラムを北京で開催し、今後の2030アジェンダ実施についての議論が行われた。中国の企業もSDGsを企業の社会的責任(CSR)活動に位置付けはじめている。

 国際協力を通じた海外における取り組みとしては、日本は、例えば国際協力機構(JICA)がSDGsポジション・ペーパーに基づき、民間企業などと連携しながら、各目標と関連付けた活動を全世界で展開している。資金調達面でも、環境・社会・ガバナンスの要素を重視するESG金融が世界的な潮流となる中で、社会課題対応を目的とする事業向けの債券であるソーシャル・ボンドを発行している。中国は、2015年「国連持続可能な開発サミット」のタイミングで、国際貢献策として「南南協力援助基金」、「国連平和発展基金」、国家レベルの国際開発シンクタンク「中国国際発展知識センター」および、留学生が中国の開発経験を学ぶ「北京大学 南南協力・発展学院」設立を表明した。それぞれは既に設立され、多くの国際機関とも連携しながら様々な活動を展開している。筆者は2018年12月に北京大学 南南協力・発展学院にて、アフリカはじめ各地域の開発途上国からの留学生を前に講義を行う機会を得た。

 都市地域計画の分野では、日本は地方創生推進の一環として、SDGs達成に向けた優れた取り組みを提案する自治体を、「SDGs未来都市」としてこれまでに60都市選定しており、2024年度までに210都市まで増やす目標を掲げている。中国は、「国家2030アジェンダ創新モデル区」を6カ所選定し、国連開発計画(UNDP)、国連工業開発機関(UNIDO)、アジア開発銀行(ADB)とも協力しながらSDGsを地域に根付かせる取り組みを行っている。地方レベルでは、2018年に第1回国連世界地理空間情報会議(UN-WGIC)をホストした浙江省の湖州市徳清県を対象に、資源自然部傘下の国家地図情報センターが国内の大学や国連などと連携して、地図情報を活用したSDGs指標の評価を行っている。

 SDGsは日本の多くの大学でも根付きつつある。例えば筆者の所属する早稲田大学の大学院アジア太平洋研究科は、教育、保健分野の目標達成に向けた国際的取り組みの一翼を担っている。理工学術院総合研究所は、新たに7つの重点領域(クラスター)ごとに研究所を開設し、クラスター間の横断的活動としてSDGsを基軸においた早稲田地球再生塾(WERS)を立ち上げた。筆者は、2019年11月に開催された早稲田地球再生塾第4回勉強会「誰も置き去りにしない防災、復興」のコーディネーターを務めた。2019年秋学期より、理工学術院修士課程レベルの英語科目「SDGs」を新たに開設した。一方中国では、例えば、清華大学公共管理学院が清華SDG研究院を立ち上げ、ジュネーブ大学とSDG共同修士課程を開設している。

 このように、日中両国は、国連やG20の場で、SDGsを政府、社会の双方が取り組むべき課題として共有しており、国内外で様々な活動を展開している。一方、SDGs推進における両国のアプローチは、清華大学が行った研究によれば、日本は政府・社会一体型、中国は政府主導型という違いがある。新型コロナウイルス後の両国にとっては、なかんずく、「誰も置き去りにしない」というSDGsの理念を社会へより一層浸透させることが共通の課題といえる。

 中国都市総合発展指標は、経済、社会および環境という3つの側面からなる三層の指標体系を構築し、中国の都市の発展の達成度を総合的、経年的に計測、評価するものである。同指標は、SDGsの構造といわば軌を一にしているといえる。経済協力開発機構(OECD)もプロジェクト「持続可能な開発目標(SDGs)への地域的アプローチ:誰も置き去りにしないための都市・地域の役割」を立ち上げ、2020年2月に都市・地域レベルのSDGs指標を公表した。今後、中国都市総合発展指標が、SDGsとの連動により、日本と中国にとどまらず、「誰も置き去りにしない」世界を目指すグローバル指標に進化していくことに大いに期待したい。


プロフィール

北野 尚宏 (きたの なおひろ)

 1959年生まれ。1983年早稲田大学理工学部卒業(81〜82年中国清華大学土木与環境工学系在籍)、97年コーネル大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。83年海外経済協力基金、同北京事務所駐在員、京都大学大学院経済学研究科助教授、国際協力銀行開発第2部部長、国際協力機構(JICA)東・中央アジア部部長、JICA研究所所長などを経て、2018年より早稲田大学理工学術院教授。JICA緒方貞子平和開発研究所客員研究員、京都大学大学院経済学研究科付属プロジェクトセンター・シニアリサーチフェロー、創価大学理工学部、東京大学公共政策大学院非常勤講師、グローバルビジネス学会常務理事。 研究分野は都市地域計画、開発協力、中国の対外援助。2012年モンゴル国ナイラムダルメダル(友好勲章)受章。

 近著に、「第2章 中国の対外援助のとらえ方」『中国の外交戦略と世界秩序 理念・政策・現地の視線』川島真等編、昭和堂、2019年等。

(『環境・社会・経済 中国都市ランキング 2018―大都市圏発展戦略』に収録