楊 偉民
全国人民政治協商会議常務委員、中国共産党中央財経領導小組弁公室元副主任
中国国家発展改革委員会発展計画司と雲河都市研究院が共同研究制作した〈中国都市総合発展指標〉は、中国における都市の発展状況を全く新しい視点でまとめ上げた報告書であり、正に総合的で発展的な都市評価指標である。これまでのように経済発展の成果を見るだけでは、都市の発展を語るには十分ではない。その意味では社会、環境の指標が欠けていれば、たとえ経済面の指標が多数あったとしても、都市を総合的に評価できたとは言えない。
都市の発展には、空間における均衡発展の理念と原則の確立が欠かせない。空間における均衡発展とは、都市という空間の中で、人口(社会)、経済、環境資源という三者間の均衡を実現することである。都市空間における均衡発展の理念と原則の確立は、人間と自然との調和のとれた都市化をはかるために重要な意義を持つ。
現在、一部地域における生態環境の悪化は、当該都市の人口規模や生活水準を向上させるための経済開発が、当該地の環境資源のキャパシティを超え、都市空間における均衡が崩れたゆえである。経済発展のみを優先させるあまり、「発展権」に基づいた経済開発が横行し、生態環境の悪化をもたらしている。
生態環境が一旦破壊されると、退耕還林(耕作を中止し耕地を元の林に戻す)、退牧還草(放牧をやめ、草地を元に戻す)、水土流失(土壌の流失)対策、風砂被害対策、砂漠化防止対策などの「生態環境対策事業」に膨大な資金を投じなければならない。また、渇水や環境悪化が人々の生活に影響を及ぼすたびに、遠隔地送水事業、汚染対策事業に奔走することになる。
実際、中国の一部の都市では現在、「都市病」が蔓延している。都心部の過密化、住宅価格の高騰、著しい交通渋滞、充満するスモッグなどに苦しめられている。
〈中国都市総合発展指標〉は、環境、社会、経済の3つの視野で都市の発展を評価し、都市空間における均衡発展を重視する真の意味での都市の総合発展評価である。このような都市発展評価は、まさしく科学的かつ包括的な評価であり、中国の都市の持続的な発展に大きく寄与する。
これまでの30年間、中国では数億の人口が農村から都市に流入した。今後さらに数億の人口が都市に流入するであろう。これは今後中国が直面する最大の圧力である。その人口大移動によって最も影響を受けるのは生態環境である。その意味では中国のこれからの都市発展は、煌めく星空、美しい河川、朗らかな鳥の声を犠牲にする経済規模の拡大や道路の拡張、高層ビルの林立であってはならない。
中国の都市は、生態文明の理念を堅持し、生態環境を重視する都市発展を進めなければならない。土地、水、エネルギー等の資源を節約し、自然へのダメージを最小限に抑えなければならない。生態安全を重視し、森林・湖沼・湿地などの環境生態空間の比重を増やし、さらには汚染物質の排出総量を減らすことも肝要である。
〈中国都市総合発展指標〉は、応用可能な環境、社会、経済指標を体系的に示している。各都市は自らの指標を精査し、どの分野で滞りがあるかを見出し、改善に向けて努力すべきである。〈中国都市総合発展指標〉はただの評価指標ではなく、都市の今後進むべき道を指し示すものでもある。
(『環境・社会・経済 中国都市ランキング ー中国都市総合発展指標』に収録)
プロフィール
楊 偉民 (Yang Weimin)
1956年生まれ。中国国家発展改革委員会計画司司長、同委員会副秘書長、秘書長を歴任。中国のマクロ政策および中長期計画の制定に長年携わる。第9次〜第12次の各五カ年計画において綱要の編纂責任者。中国共産党第18回党大会、第18回3中全会、同4中全会、同5中全会の報告起草作業に参与した。同党中央第11次五カ年計画、第12次五カ年計画、第13次五カ年計画提案の起草に関わるなど、重要な改革案件に多数参画した。
主な著書に、『中国未来三十年』(2011年、三聯書店(香港)、周牧之と共編)、『第三の三十年:再度大転型的中国』(2010年、人民出版社、周牧之と共編)、『中国可持続発展的産業政策研究』(2004年、中国市場出版社編著)、『計画体制改革的理論探索』(2003年、中国物価出版社編著)。