【ランキング】ゼロコロナ政策で感染拡大を封じ込んだ中国の都市力 〜2020年中国都市新型コロナウイルス新規感染者数ランキング

雲河都市研究院

 2020年は新型コロナウイルス・パンデミックにより世界の風景が一変した。ロックダウン、緊急事態宣言、ソーシャルディスタンス、リモートワーク、遠隔授業など、これまで想像もつかなかった日常が続いた。

 こうした状況下、中国は徹底的なゼロコロナ政策を採った。これに対して、欧米および日本など諸国ではウイズコロナ政策を採ってきた。東京経済大学の周牧之教授は、2020年11月11日に『ゼロ・COVID-19感染者政策 Vs. ウイズ・COVID-19政策』というレポートの中国語版(以下「11月周レポート」と略称)を公表した。「11月周レポート」最大の特徴は、感染抑制効果と経済成長の双方から検証し、ゼロコロナ政策とウイズコロナ政策における国際比較研究を行ったことである。このレポートは、後に日本語版、英語版も公表され、多くの内外メディアに転載された。詳しくは、同レポートをベースにまとめた『【論文】ゼロ・COVID-19感染者政策 Vs ウイズ・COVID-19政策』を参照されたい。

「11月周レポート」の中国語、英語、日本語版


■ 2020年世界で新型コロナウイルスの人的被害が最も多かった国は?


 図1は、人口で平準化した各国の新型コロナウイルス被害状況を示したグラフである。2020年末まで百万人当たりの新型コロナウイルス累積感染者数および累積死亡者数を国別にプロットし、各国の新型コロナウイルスによる被害を表している。同図では、2020年名目GDP規模の上位30カ国・地域に二重丸をつけ、色分けして地域区分している。グラフの右上に位置する程、人口当たりの感染者数が多く、死亡者数が多い。

 同図から分かるように2020年、欧米地域はアジア地域と比べて新型コロナウイルス被害が突出している。同図が対数ベースのグラフであることからすれば、その差は甚大である。

 国別で、人口当たりの感染者数および死亡者数が多かったのは、ベルギー、イギリス、イタリア、スペイン、アメリカ等欧米諸国であった。

 2020年末迄の累積の感染者数および死亡者数で最も被害が大きかった国は、人口規模の大きいアメリカ、ブラジル、インドであった。

 一方、名目GDP規模の上位30カ国・地域の中で、新型コロナウイルス被害が最も小さかったのは上位から順に台湾、タイ、中国であった。

 2020年アジア地域では、中国だけでなく台湾、韓国などもゼロコロナ政策を採った。ゼロコロナ政策が、欧米諸国との被害差を生んだ大きな理由と考えられる。とくに感染蔓延初期で甚大な被害を出した中国が、人口大国でありながらここまで新型コロナウイルスの被害を食い止めたのはゼロコロナ政策が奏功した故である。

図1  国別百万人当たりの累積感染者数及び累積死亡者数
(2020年末まで)

■ ロックダウンで武漢は早期収束


 2020年1月23日に、中国政府は新しい感染症の爆発を封じ込めるために湖北省の省都武漢を始め3都市をロックダウンした。このニュースは世界を震撼させた。翌1月24日に、湖北省全域が緊急対応(Emergency response)レベルを1級にした。緊急対応レベルとは認定された感染症エリアに対するロックダウンを含む措置の度合いを規定するもので、1級とは、休業、休講を要請し、交通を遮断し、極力移動と接触を避ける措置である。その後緊急対応1級措置は中国全土に及んだ。

 武漢のみならず新型コロナウイルスで世界中の数多くの大都市で、医療崩壊危機が起こった。3月11日にWHOが同ウイルスの脅威に対してパンデミック宣言をした。

 武漢ロックダウン3カ月後の4月20日、周牧之教授は「新型コロナパンデミック:なぜ大都市医療能力はこれほど脆弱に?」と題したレポートの中国語版(以下「4月周レポート」と略称)を発表、武漢で何が起こり、どのような対策が取られたかについて世界に先駆けて検証した。「4月周レポート」の英語版と日本語版も相次ぎ公表され、多くの内外メディアに転載された。

「4月周レポート」の中国語、英語、日本語版

 「4月周レポート」は、医療資源の豊富な武漢市が、なぜ新型コロナウイルスでたちまち医療崩壊に陥ったのかに着目した。さらに、新型コロナウイルスによる医療崩壊の三大原因として、①医療現場がパニックに陥った、②院内感染による医療従事者の大幅減員、③病床不足という仮説を立て、その原因を検証した。

 「4月周レポート」は中国政府が武漢の状況を打開するために取り組んだ対策についても検証した。まず武漢の医療従事者大幅不足を解消するため、中国は全土から武漢へ救援医療従事者を迅速に派遣した。ロックダウン翌日に上海からの救援医療チームが到着した。全土から駆けつけた医療従事者の総数は4万2,000人にまで達した。

 この措置は、武漢の医療崩壊の食い止めに繋がった。しかし、医療従事者の大規模な動員は、日本をはじめ各国ではほとんど実施できなかった。実際は、感染拡大地域に迅速かつ有効な救援活動を施せるか否かが、新型コロナウイルス制圧を占う一つの鍵になる。

 次に、病床不足への対策として中国が取り組んだのは、患者を重症者と軽症者とに分けることであった。医療リソースが重症者に中心的に振り向けられた。重軽症者分離収容措置は、後に他の国でも参照されている。

 さらに、ハイスピードで重症者向けと軽症者向けの仮設病院を建設した。こうした措置は、SARSの経験が活かされた。

 たった10日という短期間で、重症者向け仮設病院が建設され使用が開始された。その3日後、二つ目の重症者向け仮設病院が稼働した。両病院で病床数は計2,600床に達し、一気に重症患者の治療キャパシティが上がった。また、武漢は体育館などを16カ所の軽症者収容病院へと改装し、2月3日から順次患者を受け入れ、1万3,000床の抗菌抗ウイルスレベルの高い病床を素早く提供し、軽症患者の分離収容を実現させた。

 図2は、武漢のロックダウン期間に同市の新規感染者数及び死亡者数を日々記録したものである。未知のウイルスのオーバーシュートに遭遇し、医療崩壊など大変な困難を経てロックダウンの約3週間後にようやく新規感染者数がピークアウトした。ロックダウン56日後の3月18日には新規感染者数がゼロになった。その後3月23日に新規感染者が一人出たのを最後に、4月8日のロックダウン解除まで16日間新規感染者はゼロが続いた。武漢は77日間のロックダウンで新型コロナウイルスのオーバーシュートを鎮圧した。

 2020年武漢の感染者数は、51,042人、死亡者数は3,869人、致死率は7.6%に至った。「4月周レポート」は、初期の混乱が武漢の高い致死率を生じさせたと結論付けた。

図2 武漢ロックダウン期間における新規感染者数・死亡者数

出典:中国湖北省衛生健康委員会HPなどにより雲河都市研究院作成。

■ 状況に即して中国で行動制限を調整


 中国政府は、状況に即して行動制限のレベルの調整を図った。甘粛省は、武漢より一カ月以上も早く2020年2月21日に「公衆衛生上の緊急事態対応レベル」を3級に引き下げた。

 6月13日には、中国全土のすべての地域が「公衆衛生上の緊急事態対応レベル」3級になった。中国は世界に先駆けて日常生活を取り戻すことに成功した。

 その後、感染事例が発生した地域には、再度、緊急事態対応レベルを引き上げる措置も行っている。例えば、2020年6月16日には、北京で感染クラスターが発生し、同市の「公衆衛生上の緊急事態対応レベル」を3級から2級に引き上げて対応、1カ月後の7月20日に3級に引き下げた。

図3 2020年中国新型コロナウイルス新規感染者数・死亡者数の日別推移

出典:中国湖北省衛生健康委員会HPなどにより雲河都市研究院作成。

■ 2020年中国で新型コロナウイルス新規感染者数が最も多かった都市は?


 新型コロナウイルス感染抑制を優先する中国は、まず武漢を始めとするホットスポットを迅速に抑え込み、さらに全国にも強い行動制限をかけた。その後状況が沈静化した地域で制限を順次緩和した。再び感染事例が発生すると、同地域に行動制限をかけ、モグラ叩きのように感染を局所に封じ込めて全国への拡大を阻止した。

 〈中国都市総合発展指標2020〉は、中国各都市の新型コロナウイルス新規感染者数(海外輸入感染症例と無症状例を除く)をモニタリングし、評価した。

 図4が示すように、2020年に最も新型コロナウイルス感染者数が多かった10都市は、武漢とその周辺に集中した。同10都市は、武漢、孝感、黄岡、荊州、鄂州、随州、襄陽、黄石、宜昌、荊門で、すべて湖北省の都市であった。また、図5が示すように、同年の新規感染者数は、武漢市1都市に中国の62.8%、最も多かった10都市が中国の80.8%、同30都市が中国の90.1%を占めた。中国新規感染者数の82.5%が、湖北省全12都市に集中した。

 感染者数が湖北省に集中したことについて、周牧之教授は、「迅速なロックダウン措置とゼロコロナ政策で流行を早期に収束させ、全国での蔓延を食い止めた。結果、湖北省以外の都市では、局地的に感染者が時折出るものの感染爆発はなく、生産活動や市民生活は早期に回復した」と分析する。

 最も感染者数が多かった11位から30位都市の中には、中国GDP規模トップ10都市である上海、北京、深圳、広州、成都、重慶、杭州のほか、ハルビン、長沙、南昌、合肥、ウルムチ、寧波、温州などの省都や地域経済の中心都市が含まれた。これについて、周牧之教授は、「これらの中心都市が膨大な人口を抱えているだけでなく、域外との活発な交流が行われている故である」と話す。

図4 2020年中国都市新型コロナウイルス新規感染者数が
最も多かった
10都市分析図

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

図5 2020年中国都市新型コロナウイルス新規感染者数が
最も多かった30都市

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。
注:「新規感染者数」に海外輸入感染症例と無症状例は含まない。

図5 2020年中国都市における新型コロナウイルス新規感染者数の集中度

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

■ ゼロコロナ政策で経済をいち早く回復


 新型コロナウイルスパンデミックは、世界経済に大きく影を落とした。2020年の世界経済の成長率は2018年の6.3%、2019年の1.6%から、一気に-2.6%とマイナス成長に転じた。

 図7が示すように、2020年国別名目GDPランキングトップ10は、アメリカ、中国、日本、ドイツ、イギリス、インド、フランス、イタリア、カナダ、韓国と続く。世界名目GDPの67.7%を占めるこれら10カ国が、中国を除き、軒並みマイナス成長に陥った。逆風の中で中国が3.6 %の成長率を実現したのは、ゼロコロナ政策によるものが大きい。

 2020年の中国GDP規模の上位30都市のうち武漢だけが−4.7%成長であったが他の都市はすべてプラス成長を実現した(詳しくは、【ランキング】2020年中国都市GDPランキングを参照)。これについて、周牧之教授は、「ゼロコロナ政策の有効性と中国主要都市の強靭さが中国の経済成長を支えた」と分析する。

図6 2020年国・地域別名目GDPランキングトップ30

出典:IMFデータベースより雲河都市研究院作成。

■ ゼロコロナ政策・中国モデルの特徴と課題


 3年にわたる新型コロナウイルス禍の中で、現在でもゼロコロナ政策を継続しているのは、中国のみである。本レポートでは「中国モデル」とも言える中国のゼロコロナ政策の特徴を以下の6つにまとめた。

(1)感染症対策の法整備及びマニュアル化

 感染症蔓延に苦しんだ歴史を持つ中国には、感染症に対してある種の大陸的なロジック、あるいは危機感がある。そのためSARSの経験を活かし、ウイルスによるパンデミックに備え、感染症対策の法整備及びマニュアル化を進めた。これが、新型コロナウイルスに対抗する上で、極めて大きな役割を果たした。この点を最も評価すべきである。

(2)感染症対策優先のスピード感

 中国は、感染症対策の法整備及びマニュアル化があるおかげで、感染症対策を優先的且つスピーディに実行できた。ロックダウンなど行動規制による市民生活や経済活動への影響は大きかったものの、結果として市民生活を逸早く取り戻し、ウイズコロナ政策を採った国と比べ、経済パフォーマンスも良かった。

(3)妥協しないゼロコロナへの追及

 中国は、地域ごとに感染者ゼロ目標を徹底したことにより、新型コロナウイルス封じ込めに成功した。

(4)全国総動員体制

 武漢などロックダウンが施された地域には、全国から医療従事者が大量に送り込まれ医療体制が迅速に拡充されることで、医療崩壊を食い止め、多くの人命を救った。

(5)テクノロジーの積極的活用

 中国ではスマホアプリ等に代表されるようにITテクノロジーを積極的に活用した。こうした取り組みは、感染抑制に貢献しただけでなく、IT産業の活性化にも寄与した。

(6)漢方医学の積極的活用

 中国は新型コロナウイルスの予防と治療に漢方医学を積極的に活用した。西洋医学と異なるアプローチでの取り組みは大きな成果を上げただけでなく、漢方医学の重要性の再認識につながった。

 一方、中国の新型コロナウイルス対策においても多くの課題は残されている。例えば、無症状を含む感染者を素早く見つけて隔離する「動態清零(ダイナミック・ゼロ)」と呼ばれる手法で、一旦感染者が出れば地域全員にPCR検査をかける。現状では、そのスクリーニングの頻度は高く、人々への負担が大きい。また、前述の分析で院内感染が武漢での感染爆発の大きな要因と指摘したように、大勢の人々を集めるスクリーニングは検査場における二次感染の懸念がある。

 また、ロックダウンエリアへの支援物資の供給にも問題がある。支援物資が居住地域まで届きながら、住民の自宅にまで効率よく届かない状況が、武漢、上海など至るところで発生した。

 さらに一部の地方ではロックダウンあるいはそれに近い行動制限措置を過剰に実施し、大きな混乱をもたらした。

 周牧之教授は、「いずれにせよ、感染者が出た地域における高い緊張感が経済活動や市民生活に多大な負担をかけていることは言うまでもない。こうした負担を軽減させる工夫が求められる」と話す。


中国都市ランキング−中国都市総合発展指標