【ランキング】鉄鋼大国中国の生産拠点都市はどこか? 〜2020年中国都市鉄鋼産業輻射力ランキング

雲河都市研究院

■ 世界最大の生産量を誇る中国鉄鋼産業


 世界の鉄鋼産業も新型コロナウイルスパンデミックの影響を受けている。世界粗鋼生産量成長率は、2018年が5.3%、2019年が2.7%だったことに対して、2020年は0.3%にまで減速した。幸い、2021年に世界粗鋼生産量成長率は3.7%に回復し、世界粗鋼生産量も1980年以降、最大規模となった。

 現在、世界の鉄鋼生産をリードしているのは中国である。図1が示すように、2021年国・地域別粗鋼生産量ランキングをみると、トップの中国の存在が圧倒的である。中国の粗鋼生産量はいまや約10.3億トンにも達している。これは、世界粗鋼生産量の約52.9%に当たり、2〜30位の国・地域の合計値の約1.2倍に達している。東京経済大学の周牧之教授は、「かつて「鉄は国家なり」という格言があり、鉄鋼産業が国力を表していたが、時代は変われども中国の圧倒的な粗鋼生産量は、現在の中国における経済規模とその活力を如実に表している」と述べている。

図1 2021年国・地域別粗鋼生産量ランキング

出典:世界鉄鋼協会(WSA)データベースより雲河都市研究院作成。

■ WTO加盟以降、急成長を遂げた中国鉄鋼産業


 図2より、1980〜2021年の世界および中国の粗鋼生産量推移をみると、中国の鉄鋼産業は、改革開放以降、とくにWTOに加盟した2001年以降、急成長を遂げたことがわかる。鋼材は不動産、インフラ建設、自動車、家電等の多分野で用いられる。高度成長を遂げた中国は、鋼材需要が爆発的に増えている。

 1980年、粗鋼生産量の第1位は旧ソ連で、2位が日本、3位が米国であった。旧ソ連、日本、米国の世界シェアは、それぞれ20.7%、15.5%、14.2%で、この3国が世界の半分の粗鋼を生産していた。一方、5位の中国の世界シェアは、僅か5.2%に過ぎなかった。

 1992年になるとソ連崩壊も影響し、日本がはじめて粗鋼生産量の世界第1位となり、中国は米国に次ぐ3位に入った。日本、米国、中国の世界シェアは、各々13.6%、11.7%、11.2%となった。

 1996年には中国が日本を抜き、粗鋼生産量の世界第1位に躍り出た。順位は中国、日本、米国と続き、世界シェアはそれぞれ13.5%、13.2%、12.7%となった。以降、今日まで中国は粗鋼生産量において1位の座を保ち続けている。

 WTOに加盟した2001年、中国の世界シェアは17.8%だった。その10年後の2011年には、中国の同シェアは45.6%へと大きく伸び、2021年には、52.9%にまで及んだ。

図2 1980〜2021年世界および中国の粗鋼生産量推移

出典:世界鉄鋼協会(WSA)データベースより雲河都市研究院作成。

■ 世界をリードする中国鉄鋼メーカー


 図3より、2021年における世界鉄鋼メーカー粗鋼生産量ランキングをみると、トップ30にランクインした中国企業は半数の15企業(26位の台湾系・中国鋼鉄を含む)を数える。中国企業15社の粗鋼生産量世界シェアは、25.7%にも達している。

 巨大市場は巨大企業を生み出す。世界トップの宝武鋼鉄集団(China Baowu Group)は、2位のアルセロール・ミッタル(ArcelorMittal)の生産量の1.5倍の規模を誇り、1社で世界粗鋼生産量の6.1%を占める驚異的な存在である。

 周牧之教授は、「宝武鋼鉄集団の前身のひとつは宝山製鉄で、改革開放のシンボル的プロジェクトとして新日鉄などの技術を導入し造られた」と解説する。

図3 2021年世界鉄鋼メーカー粗鋼生産量ランキング

出典:世界鉄鋼協会(WSA)データベースより雲河都市研究院作成。

■ 鉄鉱石輸入大国


 圧倒的な粗鋼生産量を誇る中国は、海外から製鉄の主原料の鉄鉱石と石炭(原料炭)を大量に輸入している。

 周牧之教授は、「中国は鉄鉱石の産出国であるものの、その品質、生産量ともにオーストラリアやブラジルには及ばない。改革開放までは中国の鉄鋼産業は、ほとんど国内資源を頼っていた。宝山製鉄所は中国で初めて海外鉄鉱石利用を前提とした製鉄所であった。故に、建設当時はこの点で理解されず一時期、建設中断に追い込まれたこともあった」と振り返る。

 図4より、2019年の国・地域別鉄鉱石生産量ランキングをみると、オーストラリアが圧倒的で、その世界シェアは37.4%にまで達している。中国は3位で、世界シェアは14.4%である。

図4 2019年国・地域別鉄鉱石生産量ランキング

出典:アメリカ地質調査所(USGS)データベースより雲河都市研究院作成。

 図5より、2020年の国・地域別鉄鉱石輸入額ランキングをみると、中国は第1位であり、2位以下を引き離し、圧倒的である。中国の鉄鉱石輸入額は、世界の73.4%を占め、その規模は2位日本〜30位フィンランドの合計額の約3倍である。中国は毎年約11億トンの鉄鉱石を輸入し、その約7割がオーストラリア、2割がブラジルからである。

 周牧之教授は、「オーストラリアやブラジルからの品質の高い鉄鉱石の輸入により、中国鉄鋼産業は質量共に支えられ急速に発展している」と強調している。

図5 2020年国・地域別鉄鉱石輸入額ランキング

出典:国連貿易開発会議(UNCTAD)データベースより雲河都市研究院作成。

■ 中国で最も鉄鋼産業輻射力が高い都市は?


 中国都市総合発展指標に基づき、雲河都市研究院は中国全297地級市(地区級市、日本の都道府県に相当)以上の都市をカバーする「中国都市鉄鋼産業輻射力」をモニタリングしている。輻射力とは特定産業における都市の広域影響力を評価する指標である。鉄鋼産業輻射力は都市における同産業の従業員・企業集積状況や企業資本・競争力を評価した。「2020年中国都市鉄鋼産業輻射力」は、2019年から2020年にかけて中国各都市で公表された「第4回全国経済センサス」をも参照し算出した。

 図6より、中国都市総合発展指標2020で見た「2020年中国都市鉄鋼産業輻射力」ランキングの上位10都市は、唐山、邯鄲、天津、蘇州、無錫、済南、常州、本渓、包頭、武漢となった。特に、トップの唐山の輻射力は抜きん出ている。同ランキングの上位11〜30都市は、太原、馬鞍山、安陽、上海、中衛、嘉峪関、攀枝花、日照、新余、営口、ウルムチ、石家荘、南京、運城、廊坊、柳州、玉溪、許昌、漳州、仏山である。これらの都市には中国主要鉄鋼メーカの本社や主力工場が立地している。

図6 2020年中国都市鉄鋼産業輻射力ランキング

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

■ まだ道半ばの臨海・臨江立地


 図7より、「2020年中国都市鉄鋼産業輻射力」ランキングトップ30都市の地理的分布をみると、2つの立地パターンが見られる。沿海部や長江流域にある輸入鉄鉱石利用を前提とした臨海・臨江立地と、内陸部の国産鉄鉱石利用を前提とした資源立地である。

 周牧之教授は、「中国はいま世界最大の鉄鉱石輸入国になったものの、宝山製鉄所建設から始まった中国の輸入鉄鉱石利用を前提とした鉄鋼産業の臨海・臨江立地は、まだ道半ばである。中国鉄鉱産業の一層の高度化が実現するにはこうした臨海・臨江立地への集約が不可欠である」と解説する。

図7 2020年中国都市鉄鋼産業輻射力ランキングトップ30都市分析図

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

■ 進む集中集約


 「2020年中国都市鉄鋼産業輻射力」ランキングを分析することで、鉄鋼産業における特定都市への集中集約が浮かび上がる。

 図8が示すように、鉄鋼産業従業者数において、同ランキングのトップ5都市が全国に占める割合は23.1%、トップ10都市は34.3%、トップ30都市は58.4%に達している。

図8 2020年中国都市における鉄鋼産業従業者の集中度

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

 図9が示すように、鉄鋼産業営業収入において、「2020年中国都市鉄鋼産業輻射力」ランキングのトップ5都市が全国に占める割合は26.2%、トップ10都市は38.1%、トップ30都市は63.5%に達している。

 周牧之教授は、「従業者数と比べ、営業収入におけるトップ都市の集中度がさらに高いことが、トップの都市に収益力の高い大企業が多く集積していることを窺わせる」と解説する。

図9 2020年中国都市における鉄鋼産業営業収入の集中度

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

■ 大気汚染改善への挑戦


 鉄鋼産業は、二酸化炭素やPM2.5の大量排出という大気汚染の課題を抱えている。「2020年中国都市鉄鋼産業輻射力」ランキングのトップ3都市の唐山、邯鄲、天津は、いずれも大気汚染に苦しんでいる。

 同ランキング第1位の唐山は、2015年の「PM2.5指数」は137.5μg/㎥で、全国平均値77μg/㎥の2倍弱だった。日本のPM2.5大気環境基準が年平均値15μg/㎥以下であることからすると、その汚染度合いの深刻さが伺える。同第2位の邯鄲は、2015年の「PM2.5指数」が175.1μg/㎥で、唐山以上に深刻であった。3位の天津も、同年「PM2.5指数」は129.2μg/㎥であった。

 幸い、近年厳しい環境対策が奏功し、2020年に唐山の「PM2.5指数」は37.3μg/㎥まで改善し、全国平均値33.3μg/㎥と比較しても、わずかに超えたところまで来た。同年、邯鄲と天津両市の「PM2.5指数」も、各々56.2μg/㎥、47.6μg/㎥へと大幅に改善した。

 一方、二酸化炭素排出量についてみると、課題解決への道程はまだ遠い。唐山、邯鄲、天津3都市について、中国都市総合発展指標で2010年と2019年の二酸化炭素排出量を比較すると、唐山は約3.4倍、邯鄲は約2.6倍、天津は約3.8倍も二酸化炭素排出量が増加した。

 周牧之教授は、「これまで乱立していた中国の鉄鋼メーカーは今後、より高い品質、より高い効率、より高い環境対策の三大軸で再編し、産業の高度化を進めるだろう」と展望している。