周牧之 東京経済大学教授
1. 21世紀の中国経済発展と都市化
(1)二大エンジンで大発展を促進
中国40年の改革開放は、WTO加盟を境に概ね2つの段階に分けることができる。第一段階は、一方で計画経済から市場経済への制度改革に取り組み、その一方で国際市場への輸出に努めた。だが、中国製品には西側諸国による高い関税の壁が立ちはだかっていた。
長年の交渉を経て2001年、中国はWTO加盟でついに国際自由貿易体制に入った。国際市場の門戸が中国に向かって大きく開かれた。世界自由貿易体制への参入許可が中国で巨大なエネルギーを生み出した。中国は一瞬にして「世界の工場」となり、世界No.1の輸出大国に躍進した[1]。
WTO加盟までの改革開放第一段階では、中国経済の歩みは困難を極めた。しかし、WTO加盟を機に、中国は一気に大発展の第二段階へ踏み出した。力強い輸出工業の発展が、中国経済を飛躍させた一つ目の原動力となった。
WTO加盟までの改革開放第一段階では、中国経済の歩みは困難を極めた。しかし、WTO加盟を機に、中国は一気に大発展の第二段階へ踏み出した。力強い輸出工業の発展が、中国経済を飛躍させた一つ目の原動力となった。
図1が示す通り、2000年から2019年までに世界の輸出総額は1.9倍に膨れ上がった。主要諸国の内訳は、ドイツの輸出が5,504億米ドルから1兆4,892億米ドルへと2.7倍になった。アメリカの輸出は7,819億米ドルから、1兆6,456億米ドルとおよそ倍額になった。フランス、イギリス、日本はそれぞれ74%、65%、47%アップした。これらの先進工業国と比べ、中国は2000年にはまだ2,492億米ドルだった輸出額が、2019年には10倍規模に当たる2兆4,990億米ドルへと膨張した。成長速度にしても拡張規模にしても他国にはおよびもつかない凄さだった。改革開放が解き放った活力と、WTO加盟とが組み合わさったことで、中国には巨大な国際貿易ボーナスがもたらされた。
輸出工業の猛烈な発展により、中国沿海地域に著しい都市化の波が押し寄せた。
21世紀に入り、中国経済大発展をもたらした2つ目の原動力が急激な都市化である[2]。新中国建国以来、長期にわたってアンチ都市化政策を取ってきたため、人口移動を制限する戸籍制度、および都市空間の拡張を制限する土地利用制度が厳格に実行されてきた。これらの政策は長きにわたり人口の都市化率を低く抑え、同時に都市の空間的拡大を厳しく制限した。改革開放初期でも、中国政府はなお都市化に対して保守的な態度を取ってきた。政策的には、まずは農民に村での「郷鎮企業」[3]興しを勧め、これに続いて「小城鎮政策」[4]を推進し、農民の大都市への流入阻止を図った。
2001年9月、中国国家発展改革委員会と国際協力事業団などの主催の「中国都市化フォーラム—メガロポリス発展戦略」が上海と広州で相次いで開催された[5]。筆者は基調報告で、「都市化が中国現代化の主旋律であり、大都市圏、メガロポリスが中国都市化の重要な戦略として位置づけられるべきである」と提言した[6]。
これで一挙に「都市化」、「都市圏」、「メガロポリス」が世論の注目を浴び、これまで封じ込められていた中国における都市化問題の議論を一気に解き放った。
その後、一貫して都市化問題は中国の政策議論の焦点となった。2006年に第11次五カ年計画では「メガロポリス発展戦略」が打ち出され[7]、「メガロポリスを都市化の主要形態とする」方針を明確にし、中国の急速な都市化の引き金となった[8]。
その結果、図2が示すように、2000年に4億6,000万人だった中国の都市人口は、2019年になって8億5,641万人にまで押し上げ、ほぼ倍増した。図3が示すように、中国の都市化率も2000年の36.2%から2019年には60.3%にまで膨れ上がった。
輸出と都市化の二大エンジンに引っ張られ、中国経済は奇跡的な大発展を遂げた。2019年、中国のGDPは99兆865億人民元(約14兆1,400億米ドル)を超え、1人当たりGDPも1万米ドルを超えた。
図4に示したように、2000−2018年の間で、アメリカ、イギリスの実質GDPはともに40%拡大した。ドイツ、フランスの経済規模はともに25%、日本は15%拡大した。これに対して、この間、中国の実質GDPは4.8倍にもなった。中国はアメリカに代わり、世界経済発展に貢献する最大の国となった[9]。中国経済に牽引され、同時期、世界の実質GDPは70%拡大した。
(2)高速発展の粗放性
図5が示すように、2000年−2017年、中国のアーバンエリア(Urban Area)[10]は93%も拡大した。この間、中国の人口は10%増えたものの、DID (Densely Inhabited District:人口集中地区)[11]人口は20%しか増えなかった。これらのデータは中国のアーバンエリアが急激に膨張したのに対して、高密度人口の集積が大幅に遅れていたことを示している。すなわち、中国ではこの間、人口の都市化が土地の都市化に遠く及ばなかった。
猛スピードかつ低密度の都市化は、中国における都市発展のスプロール化と経済発展の低効率化を招いた。
中国都市化のこうした問題を二酸化炭素の排出量で分析すると、図6が示すように、2000年−2017年、中国のGDP単位当たり二酸化炭素排出量は29%下がったものの、なおフランスの9倍、イギリスの7.6倍、日本の5.5倍、ドイツの5.2倍、エネルギー大量消費国アメリカの3.7倍であることがわかる。全世界においては2.4倍であることが報告されている。
さらに注目すべきは、図7が示すように同時期、先進国の1人当たり二酸化炭素排出量は大幅に下がったにもかかわらず[12]、中国人の1人当たり二酸化炭素排出量が逆に2.7倍になったことである。今日、中国の1人当たり二酸化炭素排出量はすでにフランスとイギリスを超え、ドイツと日本の水準に近づいている。
図8で明らかなように、2000−2017年、中国の二酸化炭素排出量は約3倍の規模に拡大した。一次エネルギーの石炭への過度な依存と粗放的な発展により中国は、アメリカを超えて世界最大の二酸化炭素排出大国となった。2017年、中国の二酸化炭素排出量はアメリカの1.9倍、日本の8.2倍、ドイツの12.9倍、イギリスの25.8倍、フランスの30.2倍にも達した。
中国での著しい大気汚染は、中国の人々の健康を蝕むだけではなく、地球温暖化を加速させている。
人口、そしてGDPに対する二酸化炭素排出量は、産業水準、生活水準およびインフラ水準を反映する。上記の二酸化炭素排出量に関する分析で、中国の際立つ二酸化炭素排出量は、その急速な発展が極めて粗放的であることが明らかになった。中国経済を質の高い発展へとどう転換させるかが、今後中国の都市化の最大の課題となる。産業構造、人口構造、空間構造、そして生活品質の向上を図っていかなければ、中国都市のさらなる発展は成し得ない。
2. 中国都市発展の趨勢:集中と分化
中国の都市発展には今日、集中と分化というトレンドが非常に明確に表れている。各種機能がトップの都市に高度に集中する現象が日増しに突出し、その機能が高度であるほど集中傾向が強い。
本報告では〈中国都市総合発展指標2018〉を用いて、12の重要指標で集中度について分析し、中国都市における集中と分化のトレンドを検証した。
(1)GDPランキングトップ30都市
図9が示すように、中国298地級市以上の都市のGDPランキングで、トップ10位都市は、上から順番に上海、北京、深圳、広州、重慶、天津、蘇州、成都、武漢、杭州であり、このトップ10都市のGDP総額が全国のそれに占める割合は、23.6%である。さらに同ランキングトップ30都市のGDP総額の全国に占める割合は、43.5%にも達している。
トップ10%の都市は全国の4割以上のGDPをつくり出し、中国経済発展がGDPランキングトップ30都市に高度に依存していることは明らかである。
GDPにおけるこうした集中は特定の都市に見られるばかりでなく、地域的にはメガロポリスへの傾斜も顕著である。京津冀、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスの全国GDPに占める割合は、8.6%、19.8%、9.0%であり、三大メガロポリスの全国に占めるその割合は37.4%に達している。三大メガロポリスの中国経済発展を牽引する構造は明確である。
(2)DID人口ランキングトップ30都市
図10が示す通り、中国298地級市以上の都市のDID人口ランキングで、トップ10都市は、上から順に上海、北京、広州、深圳、天津、重慶、成都、武漢、東莞、温州である。トップ10都市のDID総人口が全国のそれに占める割合は、22.8%である。さらに同ランキングトップ30都市のDID総人口は全国の43.2%に上る。つまり、DID人口ランキングのトップ10%の都市に、中国全土の4割超のDID人口が集中している。
三大メガロポリスで見ると、京津冀、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスが全国DID人口に占める比重は各々、7.9%、17.1 %、9.3%に達し、三大メガロポリスの中国全土に占める割合は34.3%と極めて高い。
中国298地級市以上の都市のGDPとDID人口の相関関係を分析すると、両者の間には高度な相関関係が存在することが分かった。その相関係数は0.93にも達し、いわゆる「完全相関」の関係を示している[13]。しかも、GDPおよびDID人口の両指標ランキングトップ30都市と比較すると、26都市もが重複している(順序不同)。これらの分析結果はGDPにとってのDID人口の重要性を表しており、今後、中国の都市発展については、DID人口の規模と質とを注視すべきであることを示している。
(3) メインボード上場企業ランキングトップ30都市
上海、深圳、香港の三大証券取引所のメインボードでの上場企業数ランキングトップ3位の都市は、図11が示すように、上から順に上海、北京、深圳である。この3つの都市の上場企業総数の、全国のそれに占める割合は39.6%に及ぶ。ランキングトップ30都市の上場企業総数となると全国のそれの69.7%にも達する。すなわち今日、上場企業ランキングトップ10%の都市に、全国の上場企業の7割が集中していることになる。
三大メガロポリスで見ると、京津冀、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスが中国の上場企業数に占める割合は、各々15.9%、28%、10.3%に達し、三大メガロポリスの中国全土に占める割合は54.2%と極めて高い。三大メガロポリスに全国の半数以上の上場企業が集中している。
上場企業が大都市、とりわけ中心都市に高度に集中する傾向は極めて強い。
(4) 「フォーチュントップ500」入り中国企業ランキングトップ28都市
今から30年前の1989年、「フォーチュントップ500」ランキング内に入った中国企業は僅か3社であった。しかし2018年、中国は105の企業がランクインを果たし、その数はアメリカの126社に迫る第2位であった。特に注目を浴びたのはランキングトップ10に中国企業が3社も入ったことであった。
図12が示すように、「フォーチュントップ500」にランクインした中国企業は28都市に分布しており、そのうち66.7%が、北京、上海、深圳の3都市に集中している。普通の上場企業に比べ、「フォーチュントップ500」入りの企業は中心都市への集中集約志向がさらに強い。
三大メガロポリスで見ると、京津冀、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスが「フォーチュントップ500」入り中国企業数に占める割合は、各々54.3%、14.3%、11.4%に達し、三大メガロポリスの中国全土に占める割合は80%にも達している。
メインボード上場企業ランキングトップ30都市と「フォーチュントップ500」中国企業ランキングトップ28都市の分析から見て取れるのは、中国の最優良企業の本社、いわゆる経済中枢管理機能が高度に集中しているのは、北京、上海、深圳に代表される上位の中心都市である。
(5)製造業輻射力ランキングトップ30都市
図13が示すように、製造業輻射力ランキングトップ10都市は上から順に深圳、上海、東莞、蘇州、仏山、広州、寧波、天津、杭州、廈門である。この10都市は例外なくすべて大型コンテナ港利便性に恵まれている。こうした優位性を背景に、10都市の貨物輸出総額は全国の48.2%を占めている。ランキングトップ30都市の輸出総額はさらに高く、全国の74.9%に達している。つまり中国の今日の製造業輻射力トップ10%の都市が全国の4分の3の貨物輸出を担っている。
三大メガロポリスで見ると、京津冀、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスが中国貨物輸出総額に占める比重は、各々6.2%、32.7%、28.8%に達し、三大メガロポリスの中国全土に占める割合は67.7%と高くなっている。三大メガロポリス、とりわけ長江デルタと珠江デルタが中国輸出工業発展の巨大なエンジンとなっている。
(6)コンテナ港利便性[14]ランキングトップ30都市
図14が示すように、コンテナ港の利便性ランキングトップ10都市は順に、上海、深圳、寧波、広州、青島、天津、廈門、大連、蘇州、営口となっている。この10都市のコンテナ取扱量は全国の82%に達し、ランキングトップ30都市のコンテナ取扱量はさらに高く97.8%を占めている。言い換えれば今日、中国のほとんどのコンテナ取扱が、コンテナ港利便性ランキングトップ10%都市で執り行われている。
三大メガロポリスで見ると、京津冀、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスが中国全土の港湾コンテナ取扱量に占める比重は、各々8.3%、35.2%、26%に達し、三大メガロポリスの中国全土に占める割合は69.5%と高くなっている。三大メガロポリスの優位性は極めて高い。
本報告では〈中国都市総合発展指標2018〉を用いて、港湾における中国298地級市以上の都市の貨物輸出額とコンテナ港取扱量の相関について分析した。結果、両者の間に極めて高い相関関係があることがわかった。両者の相関係数は0.81と高く、いわゆる「極度に強い相関」関係にある。しかも、製造業輻射力とコンテナ港利便性の両指標ランキングトップ30都市のうち、24都市が重複している(順不同)。これら一切が示しているのは、製造業、特に輸出工業が、優良な港湾条件に高度に依存していることである。今後、中国の製造業、特に輸出工業が港湾条件の整った都市にさらに向かい、高度に集中・集約し続けることが予測できる。
工業発展と港湾条件との関係について上記の認識は、中国の工業における立地政策にとって、非常に重要な意義をもつ。中国はこれまで、立地条件を無視し、ほぼすべての都市が工業化を強力に推し進めてきた。都市が工業化の効率を競う今、内陸地域で分散的に推し進められてきた工業化の不合理と低効率とが顕著になってきた。これらの現実を真摯に受け止め、各都市が自らの身の丈にあった産業のあり方を真剣に見直す時期に来ている。
(7) IT産業輻射力ランキングトップ30都市
図15が示すように、IT産業輻射力ランキングトップ10都市は順に北京、上海、深圳、成都、杭州、南京、広州、福州、済南、西安で、この10都市のIT産業就業者総数、上海・深圳・香港のメインボード上場IT企業数、中小板上場IT企業数、そして創業板IT上場企業数の全国に占める比重は各々、52.8%、76.1%、60%、81%である。ランキングトップ30都市のIT産業従業者総数、メインボード上場IT企業数、中小板上場IT企業数、そして創業板IT上場企業数の全国に占める比重は各々、68%、94%、78.2%、91.2%である。こうした数字から今日、中国のIT産業が同輻射力ランキングトップの都市に高度に集中集約している状況が明らかである。
三大メガロポリスで見ると、京津冀、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスが中国全土のメインボードIT企業数に占める比重は、各々32.5%、24.8%、14.5%に達し、三大メガロポリスの中国全土に占める割合は71.8%と極めて高い。
今日、中国の大半の都市がIT産業を重要産業として力を入れ発展への努力を重ねているが、現状ではIT産業は北京、上海、深圳、成都、杭州、南京、広州の7つの中心都市に高度に集中している。IT産業が中心都市に収斂する度合いは製造業が沿海都市に収斂する度合いに比べてなお強くなっている。こうしたことから、IT産業の発展を希求する都市は、IT産業が求める立地条件への事細やかな研究と分析とが欠かせない。
(8) 空港利便性[15]ランキングトップ30都市
図16が示すように、空港利便性ランキングトップ10都市は順に、上海、北京、広州、深圳、成都、昆明、重慶、杭州、西安、廈門である。この10都市の旅客取扱量と郵便貨物取扱量の全国に占める割合は49.9%、73.5%となっている。ランキングトップ30都市の旅客取扱量と郵便貨物取扱量は、全国に占める量が81.3%と92%と極めて高い。これらの数字は、中国で今日大半の空港運輸が、空港の利便性ランキングトップ10%の都市に高度に集中していることを意味する。
三大メガロポリスで見ると、京津冀、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスが中国全土の空港旅客取扱量に占める比重は、各々11.9%、18.7%、10.9%に達し、三大メガロポリスの中国全土に占める割合は41.5%に上った。
京津冀、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスの中国全土の空港郵便貨物取扱量に占める割合は14.7%、34.6%、18.5%となっており、三大メガロポリスの全土に占める割合はさらに67.8% に達した。
本報告は〈中国都市総合発展指標2018〉を利用し、中国298地級市以上の都市のIT産業輻射力と空港利便性との相関分析を行った。結果、両者の間には高度な相関関係が見られ、相関係数は0.84と高く、いわゆる「極めて強い相関」関係が示された。ここで注目すべきは、IT産業輻射力と空港利便性との相関関係は、製造業輻射力とコンテナ港利便性との相関関係よりさらに高いことである。
IT産業輻射力と空港利便性の2つの指標ランキングトップ30都市のうち、21都市が重複している(順不同)。
上記の分析が示すのは、交流経済の代表産業たるIT産業の発展が、空港の利便性に高度に依存していることである。今後のIT産業がさらに空港条件の優れた都市に高度に集中集約するであろうことが見て取れる。
(9) 高等教育輻射力ランキングトップ30都市
図17が示すように、高等教育輻射力ランキングトップ10都市は順に、北京、上海、武漢、南京、西安、広州、長沙、成都、天津、ハルビンである。この10都市のトップ大学[16]総数、大学在校生総数はそれぞれ全国の69.3%、26.0%となっている。ランキングトップ30都市のトップ大学総数、大学在校生総数は各々全国の92.8%、57.1%となっている。これらの数字は、現在、中国の高等教育資源、特にトップレベルの高等教育資源が、高等教育輻射力ランキングトップの都市に高度に集中している状況を示している。
三大メガロポリスで見ると、京津冀、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスの中国全土のトップ大学数に占める比重は、各々26.8%、20.9%、3.9%に達し、三大メガロポリスの中国全土に占める割合は51.6%に上った。
(10) 科学技術輻射力ランキングトップ30都市
図18が示すように、科学技術輻射力ランキングトップ10位の都市は上から順に北京、上海、深圳、成都、広州、杭州、西安、天津、蘇州、南京である。この10都市のR&D要員数、特許取得数は全国の36.3%、33.2%である。ランキングトップ30都市のR&D要員数、特許取得数はさらに全国の59.8%、62.6%となっている。中国の科学技術資源が今日、科学技術輻射力ランキングトップの都市に高度に集中する状況は十分明らかである。
三大メガロポリスで見ると、京津冀、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスが中国全土のR&D要員数に占める比重は、各々12.2%、28.5%、12.7%に達し、三大メガロポリスの中国全土に占める割合は53.3%に上った。
京津冀、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスが中国全土の特許取得数に占める比重は、各々10.3%、30.9%、14.4%に達し、三大メガロポリスの中国全土に占める割合は55.6%に上った。
とりわけ注目に値するのは、R&D要員数の集中度と特許取得数から見ると、科学技術輻射力ランキングトップ30都市にせよ、三大メガロポリスにせよ、これら科学技術資源が集約する都市またはメガロポリスはことごとく、その他の地域と比べて研究開発効率が高く、研究成果の市場化効率も高くなっていることである。
(11)文化・スポーツ・娯楽輻射力ランキングトップ30都市
図19が示すように、文化・スポーツ・娯楽輻射力ランキングトップ10位の都市は上から順に、北京、上海、成都、広州、深圳、武漢、杭州、南京、西安、鄭州である。この10都市の興行収入額、観客動員数は各々全国の34%、30.6%を占めている。ランキングトップ30都市の興行収入額、観客動員数は各々全国の57.7%、54.6%を占めている。つまり、トップ10%の都市は、中国全土の興行収入額、観客動員数を半分以上独占している。
三大メガロポリスで見ると、京津冀、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスが中国全土の興行収入額に占める比重は、各々9.6%、23.6%、12.8%に達し、三大メガロポリスの中国全土に占める割合は45.9%に上った。
京津冀、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスが中国全土の観客動員数に占める比重は、各々8.5%、22.8%、11.9%に達し、三大メガロポリスの中国全土に占める割合は43.3%に上った。
中国では現在、文化・スポーツ・娯楽資源においても、興行収入においても、文化・スポーツ・娯楽輻射力ランキングトップの都市あるいは三大メガロポリスが極めて大きなウエイトを占めている。
(12) 飲食・ホテル輻射力ランキングトップ30都市
図20が示すように、飲食・ホテル輻射力ランキングトップ10都市は上から順に、上海、北京、成都、広州、深圳、杭州、蘇州、三亜、西安、廈門である。この10都市の五つ星ホテル数、国際トップクラスレストラン[17]数は各々全国の35.7%、77.1%を占めている。さらに、同輻射力ランキングトップ30都市の五つ星ホテル数、国際トップクラスレストラン数は各々全国の61.1%、91.8%を占めている。中国のトップクラスのホテルやレストランが同輻射力ランキングトップの都市に高度に集中する状況が十分明らかである。
三大メガロポリスで見ると、京津冀、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスが中国全土の五つ星ホテル数に占める比重は、各々11.4%、29.5%、10.9%に達し、三大メガロポリスの中国全国に占める割合は51.8%に上った。
京津冀、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスが中国全土の国際トップクラスレストラン数に占める比重は、各々20.0%、37.5%、15.4%に達し、三大メガロポリスの中国全土に占める割合は72.9%に上った。
〈中国都市総合発展指標2018〉を利用し、本報告はIT産業輻射力と飲食・ホテル輻射力との相関分析を行った。結果は、両者の相関係数は0.9と高く、いわゆる「完全相関」関係が示された。交流経済の典型としてのIT産業で、その担い手たちにとって、レストランは紛れもなく彼らの「交流」の場となっている。
北京、上海、深圳、成都、杭州、南京、広州は、中国のIT産業輻射力ランキングトップ7都市はすべて中国で「美食」に名高い都市である。今日、「美食」は、都市の交流経済発展上、軽視できない「重要な生産力」となっている。
相反して、製造業輻射力と飲食・ホテル輻射力の相関係数は0.68でしかない。IT産業に比べると、製造業従事者の「美食」に対する感度は低い傾向があるようだ。
以上の分析から見て取れるのは、今日、中国はGDPにおいてもDID人口においても、また国際交流機能や中枢管理機能においても、ことごとく中心都市、メガシティに高度に集中していることである。
メガロポリスへの集約も進んでいる。図21が示すように、GDPから国際トップクラスレストランに至るまで、様々な指標において三大メガロポリスは大きなウエイトを占めている。
さらに、注目すべきは、高度先端機能であればあるほど中心都市やメガロポリスに集中集約する現象がはなはだしいことである。今後もこうした趨勢はさらに強まることが予測される。よって、これら各種中心機能を進化させることが中心都市、メガシティ、そしてメガロポリスの経済構造および空間構造の高度化につながるだろう。
3. DIDと中国都市の高品質発展
都市を都市たらしめている肝心要は、その高い人口密度の規模と質である。
(1) DID人口の重要性
本報告では、298地級市以上の都市のDID人口指標と〈中国都市総合発展指標2018〉の9つの中項目指標を用いて、相関分析を行なった。
結果、図22で示したように、DID人口と経済大項目の「都市影響」、「経済品質」そして「発展活力」の3つの中項目指標の相関係数は、各々0.93、0.91、0.91と高く、すべて「完全相関」関係を表していた。DID人口と社会大項目の「伝承・交流」中項目指標の相関係数も0.9と高く、「完全相関」関係であった。これと社会大項目の、「ステータス・ガバナンス」、「生活品質」の両中項目の相関係数は各々0.85と0.83で、「極めて強い相関」関係であった。
DID人口と環境大項目の「空間構造」中項目の相関係数も0.82に達し、極めて「強い相関」関係を表した。しかし、これと環境大項目の「環境品質」と「自然生態」の相関係数は0.32と0.05で、相関関係は微弱であった。
DID人口と9つの中項目指標の相関係数の分析から、DID人口と都市の社会経済発展との関係は非常に重要であり、その都市空間構造も深く関係している。相反して、DID人口と都市の「環境品質」および「自然生態」との間の相関関係は、微弱である。これはいわゆる「人口が多い都市ほど生態環境への圧力が強まる」という伝統的な概念を覆す重要な研究発見である。
DID 人口指標と〈中国都市総合発展指標2018〉との相関関係分析をさらに27の小項目指標まで進めると、DID人口と「文化娯楽」、「イノベーション・起業」、「経済規模」、「広域輻射力」、「経済構造」、「人的交流」、「広域中枢機能」など小項目の間の相関係数が0.93〜0.91と高く、「完全相関」関係となっている。
DID人口と「生活サービス」、「開放度」、「コンパクトシティ」、「ビジネス環境」など小項目の間の相関係数は0.88〜0.82と高く、「極めて強い相関」関係となっている。
DID人口と「都市インフラ」、「消費水準」、「人口資質」、「交通ネットワーク」など小項目の間の相関係数は、0.79〜0.71と高く、「強い相関」関係にある。
DID人口と「社会マネジメント」、「都市農村共生」、「経済効率」、「資源効率」、「居住環境」など小項目の間の相関係数も、0.68〜0.43と一定の相関関係にある。
この一連のデータにより、DID人口の、都市の社会経済発展の各側面における役割の重要度が明確になった。
相反して、DID 人口と「汚染負荷」、「水土賦存」の小項目の間の相関係数は、僅か0.05、−0.07である。これらデータは、DID人口が環境に与える実際の影響がそれほど強烈ではないことを示している。実際、一般的にDID人口規模が大きいほど都市は富裕で、産業構造も比較的高度である。その社会マネジメントの能力と、環境マネジメントの能力も比較的優れていることが多い。よって、これら都市では汚染負荷を軽減し、自然生態を修復する力が強い。
これと反対に、産業構造が悪い中小都市の場合は、環境マネジメント能力が低く、環境問題が深刻なケースが多い。
同時に、人口集積自体も、交通、エネルギーなど都市機能の効率を上げるのに有利である。東京大都市圏の単位当たりGDP二酸化炭素排出量が、日本の全国平均の10分の1に抑えられていることが何よりの証拠である。
しかし中国では、今日に至るまで依然として多くの都市の政策関係者や学者らが、高密度の人口集積が大きな環境負荷になると懸念している。従って中国では大都市、とりわけメガシティの人口規模の拡大には慎重な姿勢を取り続けている。北京を始めとするいくつかの中心都市に至っては近年、都市の人口規模を規制または圧縮しようとしている。
DID人口と社会経済発展の相関関係は極めて強く、都市の経済と社会発展に非常に重要である。しかし、この点についての十分な認識が、中国では従来から一貫して欠如していた。DID人口が環境や自然生態および社会マネジメントにもたらす負の影響が誇張されてきた。このような長期にわたる間違った認識が中国の都市の健全な発展を阻んできた。人口集積に関するこのような誤った認識を改めるべきである。〈中国都市総合発展指標〉が中国で初めてDID分析を導入した意味は極めて大きい。
(2) ステータス・ガバナンスと過密
注意すべきは、同じ高密度の都市であっても、その発展の質は、同一ではないということである。肝心なのは「過密」か否かという点である。
今日、世界で最も人口を多く抱える都市は東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県から成る東京大都市圏である。同大都市圏の人口規模は3,673万人にも達している。東京大都市圏は日本の3%の国土面積に、日本のほぼ3分の1のGDPと輸出、そして60.6%の特許取得数を有している。さらに同大都市圏は世界のメガシティの中で、最も安全かつ平和で環境の質も高い。
この東京も過去の一時「過密」に苦しめられた。しかし、今や高密度でありながら「過密」ではない都市へと見事に転身した。
これに相反して、ブラジルのサンパウロ、インドのムンバイ、ナイジェリアのラゴスに代表される新興諸国のメガシティは、当該国の中心都市ではあるものの、膨大な貧民街を抱え、貧富の差が激しく、深刻な治安問題と環境汚染とに悩まされている。ここで留意しなければならないのは、これら「過密」に陥った都市の人口規模が、東京大都市圏のそれに遠く及ばないことである。
新興国の大都市には往々にして大都市病が見られる。何が原因であるかは、熟考すべき問題である。中国では、この問題が「人口の過多」、「高密度」に帰結されている。
だが、実際はそうではない。大都市病は都市マネジメント力の低下によるものである。都市マネジメント力は都市空間計画、基礎インフラ整備、交通やエネルギーの配備、生活のあり方、生態環境マネジメント、文化教育、開放交流、治安管理、富の分配に至る様々な内容を含んでいる。都市マネジメント力の高低が、直接、都市発展の質の優劣を左右する。
雲河都市研究院の研究によると、ブラジルの悪名高いリオデジャネイロ貧民窟の最高人口密度は1平方キロメートル当たりわずか1.5万人であった。これに対して同じリオデジャネイロのCBD地区の人口密度は1平方キロメートル当たり2.7万人にものぼる。東京都豊島区、中国の北京市西城区と上海市黄浦区、米ニューヨークのマンハッタンの1平方キロメートル当たりの人口密度が、それぞれ2.4万人、3.8万人、5.9万人、10.9万人で、すべてリオデジャネイロの貧民窟の人口密度よりはるかに高い。
しかも、これら超高密度人口を抱える地域は、すべて同メガシティの中で最も富裕なエリアである。こうしたことからわかるように、人口の高密度集積は決して都市の治安や環境の質を悪くする元凶ではない。肝心なのは、都市マネジメント能力を統括する「都市智力」[18]である(図23)。「過密」は、実際は都市智力の欠如をもたらすという残酷な現実の現れである。
注目すべきは、多くの状況で、高DIDによる集約と規模が大きなメリットを生んでいることである。例えば東京大都市圏の単位当たりGDP二酸化炭素排出量は日本全国平均の10分の1にすぎない。また、多くの高級サービス業と交流経済産業の発展には、一定の規模の高密度人口の下支えが欠かせない。
都市病は、大都市の専売特許ではない。それが都市である限り、どの都市でも罹患する可能性はある。大都市の「病状」がより人目を引くということだけである。都市病は途上国だけの専売特許でもない。先進国の都市も昔、都市病に悩まされていた。都市マネジメント力の向上によって、東京大都市圏のような成功の典型が現れただけでなく、先進国の大多数の大都市は概ね都市病の症状を大幅に改善してきた。
相反して、注意されるべきは、先進国にしろ発展途上国にしろ、中小都市の衰退問題が今日、厳しさを増していることである。
中国では都市問題において、「高密度人口への警戒」、「技術とハードウエアへの盲信」が横行している。これに対して、雲河都市研究院は「都市智力」を掲げ、都市のマネジメント力の向上を通じて、人口集積の利益を最大化し、都市のハイクオリティな発展を求めるよう提唱している。
4. なぜ都市圏か
中国国家発展改革委員会は2019年2月19日、「現代化都市圏の育成と発展に関する指導意見」を公表した。そこでは、メガロポリスを新型都市化の主要形態とし、全土の経済成長を支え、地域の協調発展を促し、国際競争と協力を担う重要なプラットフォームとする、と謳っている。ここでいう都市圏とはメガロポリス内部のメガシティ、あるいは輻射機能の強い大都市を中心とし、1時間通勤圏を基本範囲とした都市空間形態である。この指導意見は、中国で都市圏育成政策を打ち出したことを意味している[19]。
なぜ中国はいま、都市圏育成政策を前面に押し出したのだろうか。
この問題を解き明かすため、本報告は東アジア地域の両大都市圏—北京大都市圏と東京大都市圏との比較分析を実施した。図24、25で示すように北京大都市圏の範囲は、北京市域であるのに対して、東京大都市圏は東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県から成る。
本報告では両大都市圏の土地面積、常住人口、DID人口、GDP、二酸化炭素排出量などにおいて数値を比較分析した。図26が示すように、北京市域の面積は東京大都市圏より大きく、1.2倍である。これに対して、北京の常住人口とDID人口はいずれも東京大都市圏の60%であった。北京のGDP規模も概ね東京大都市圏の3割で、1人当たりGDPも東京大都市圏の半分でしかない。しかし、北京の単位当たりGDP二酸化炭素排出量は東京大都市圏の4.7倍にものぼっている。その結果、人口規模とGDP規模で東京大都市圏に遠く及ばない北京が、二酸化炭素排出量では東京の1.2倍になっている。
本報告がとりわけ高い関心をもつ国際交流に関わる指標においては、両大都市圏の差異は特に顕著である。東京大都市圏を来訪する海外旅行客数は北京の5.6倍にも達している。国際会議開催件数に至っては東京大都市圏は北京の1.1倍となっている。また国際トップクラスレストラン、インターナショナルスクール、留学生数、国際トップブランド店舗数については、各々、北京は東京大都市圏の10%、70%、60%、50%にすぎない。
北京は、〈中国都市総合発展指標2018〉総合ランキングで全国第一位の都市である。しかし、東京大都市圏との国際比較で明らかになったように、北京はこれから空間構造、経済構造、生活モデル、資源利用効率、国際交流など様々な面で、向上や改善を図らなければならない。
早くも2001年に筆者は、中国が都市圏政策を実施すべきであると提唱し、都市構造の向上を図り、開発区による低密度乱開発を断つべきだと主張した[20]。しかしながら非常に残念なことに、その後中国の都市化は却って開発区の乱立と不動産乱開発の2つの大きな流れに押されることとなった。結果、先に述べた通り、一方で都市の低密度開発が蔓延し、一方でDID人口の増加が緩慢で、いびつな都市化が進んだ。多くの中国都市が不合理な都市構造、不便な生活、低効率の経済に悩まされている。
新しい段階に入った中国の都市化はいま、高密度人口集約への認識を改めて重視し、DID人口やDIDエリアの量と質を向上させていくべきである。これがおそらく都市圏政策の第1の意義であろう。
都市圏政策のもう1つの重点は、周辺の中小都市である。
「大都市の居住機能と産業集積の拡張を受け止める空間が、周辺の中小都市である。だからこそ、大都市周辺の中小都市は大都市圏の重要構成部分なのである。大都市は周辺に対し、機能と集積の分散を不断に行い、大都市病の緩和をはかるとともに、大都市圏の範囲を徐々に拡大していく。中小都市は大都市圏の近郊、遠郊あるいは衛星都市へ役割を発揮することを通して、発展の原動力を獲得する」[21]。中心都市と、周辺の中小都市の相互発展を推し進めることが、疑いなく都市圏政策の重要な目標の1つとなる。
都市圏が「都市圏」と称される、その要因の1つは、普通の都市にはない高度な中心機能をもっていることにある。これにより、都市圏政策のもう1つの重要な目標が、いかにして中心
機能の輻射力を育成強化するか、となる。例えば行政中心機能、交通中枢機能、金融センター、科学技術イノベーションセンター、そして、高等教育、文化娯楽、飲食ホテル、卸売・小売、医療保険など領域の輻射力も軽視できない。
ここでとりわけ強調したいのが国際交流プラットフォームとしての中心機能である。グローバリゼーションの時代にあって、国際競争と国際交流は国の命運を握る根幹である。1つの国の国際競争と国際交流の水準は、最終的にはその大都市圏の国際性に現れる。しかも、ITとコンテンツに代表される交流経済の重要性は、不断に高まっており、国際交流プラットフォーム間の競争は熾烈をきわめている。大都市圏にとって、国際交流機能の向上は何よりも重要である。
5. 都市圏とは何か
都市圏に関しては、国によって、また時期によって各種各様の定義がある。特に国によって都市人口密度の差異があることも、都市圏の定義が多様であることの1つの重要な原因となっている[22]。しかしながら都市圏に関する定義は概ね、以下の3つの要素を含んでいる。1つは、通勤圏[23]、2つ目は都市空間の一定の連続性、3つ目は一定の人口密度である。
2012年、OECD(Organisation for Economic Co-operation and Development:経済協力開発機構)とEU(European Union:欧州連合)は都市圏を、新しく定義した。連続性と人口密度上でヨーロッパ、日本、韓国、メキシコの都市圏は、1平方キロメートルごとに1,500人以上の人口をもつ連続した地域、と定義した。アメリカ、カナダ、オーストラリアの都市圏の場合は1平方キロメートルごとに1,000人以上人口をもつ連続した地域とした[24]。OECD-EUはさらに人口が50万人以上150万人以下の都市圏を大都市圏と定義し、人口150万人以上の都市圏は巨大都市圏(Large Metropolitan Area)と定義している[25]。
しかしOECD-EUのこうした定義は、人口規模であれ密度であれ、大規模な高密度人口都市をもつ中国ひいてはアジアの現実にとって、ふさわしいとはいえない。さらに増え続ける超大都市を中心に発展する世界の大都市圏の現況にもマッチしない。
これに対して、雲河都市研究院は、衛星リモートセンシングデータ解析による都市人口の規模と密度の定量分析に成功した。本報告ではそれを基礎に、1平方キロメートルごとに10,000人口以上の地域を超DID地域と、1平方キロメートルごとに5,000人口以上の地域をDID地域[26]と、1平方キロメートルごとに2,500人以上5,000人以下の人口の地域を準DID地域と、それぞれ定義した。さらに都市圏の定義を準DID以上の、基本的に連続した地域と定めた。
本報告ではこの定義の基礎に立ち、中国の都市圏を全面的に整理し、2018年に公表した「中国中心都市指数」を土台にし、「中国中心都市&都市圏発展指数」を研究開発した。これについて本報告では後半で詳述する。
密度と連続性における都市圏に対する統一的な定義も、大都市圏間の国際比較を可能とした。上述した北京大都市圏と東京大都市圏の比較分析は、すなわちこの定義に基づいて実施したものである。「大都市圏が今日、グローバリゼーション下の国際競争における基本単位である」[27]故に、大都市圏の国際比較が極めて重要である。
もちろん、もう1つ見落とせないことは、大都市圏の中身である。IT革命の勃興に基づき、グローバリゼーションは深化し、世界経済を主導するエンジンは交替し続ける。大都市圏はその多様性と抱擁力とで、様々に主役が入れ替わる主役の舞台となる。
現代的な都市圏は、現代的な経済を中身とする必要がある。ゆえに今日、都市圏の発展は「交流経済」を抱え込まなければならない。
6. リーディング産業の交替
(1) 交易経済から交流経済へ
今から30年前、平成が幕を開けた1989年、世界の企業時価総額ランキングトップ10企業のうち、7社が日本企業で占められていた。当時、日本の製造業は世界を席巻する存在となっていた。しかし、トップ10に名を連ねる日本企業は製造業ではなくすべて金融、通信、電力の企業であった。中でも突出していたのは銀行で、その数は5行にのぼり、バブル経済の凄まじさを推し量る現象であった。当時、電子産業発展を主導とするIT革命バージョン1.0がすでに興っていたものの、「電子立国」として世界に名だたる日本でありながら、電子関連企業は1社も同ランキングトップ10に顔を出していなかった。世界の企業時価総額ランキングで首位となったNTTは、電話業務を主体とする通信会社で、営業範囲は基本的に日本国内に限られていた。これに対してアメリカのIBMは大型コンピューター業界の巨人として同ランキングで6位を獲得し、かろうじて当時のIT業界の存在感を示していた。
1995年、マイクロソフトのWindows95が世界をインターネット時代に引き入れた。その後、製造業サプライチェーンのグローバル化からなる交易経済の大発展と並行して、情報技術の開発や、情報コンテンツの生産と伝播のグローバル化を代表とする交流経済も勃興し始めた。
30年後、平成が幕を閉じた2019年4月末には、世界の企業時価総額ランキングトップ10企業のうち、7社がネット関連のIT企業であった。今日のインターネット経済の強靭さが見て取れよう。もう1つ注目すべきは、中国の2つのネット関連企業、アリババとテンセントがそれぞれ同ランキングで第7位、第8位となったことである。
30年前と比較して、これら世界の企業時価総額ランキングトップ企業の規模は、計り知れないほど大きくなった。図29で示されるように、2019年首位だったマイクロソフトの時価は30年前に首位だったNTTの4倍以上である。2019年第2位はアマゾン、第3位はアップル、第4位はグーグルで、それぞれ30年前第2位の日本興業銀行、第3位の住友銀行、第4位の富士銀行の13.2倍、13.6倍、12.4倍となった。世界を市場とするインターネット企業の資金吸収能力は、30年前の国民国家を市場としていた企業とは比べられないほどの大きさになっている。
世界経済の重心はいま、交易経済から交流経済へシフトしている。このシフトは、都市における繁栄条件をも変化させている。
改革開放40年来、中国は主に交易経済、すなわち製造業サプライチェーンにおける国際大分業がもたらした輸出貿易により、高度経済成長を成し遂げた。数多くの沿海都市が勃興し、珠江デルタ、長江デルタ、京津冀の三大メガロポリスを形成した。
上述したように、全国貨物輸出額の74.9%は製造業輻射力ランキングトップ30位の都市に集中していた。図13で示されるように、これら30都市の大多数が広東省、江蘇省、浙江省、福建省、天津など東部沿海の省で、特に珠江デルタ、長江デルタ、京津冀三大メガロポリスに集中していた。1970年代末には漁村だった深圳が、今や〈中国都市総合発展指標2018〉総合ランキング第3位のメガシティに成長した。
グローバルサプライチェーンは、中国の沿海都市を大発展させたといっても過言ではない。問題は、交流経済がすでに世界経済を引っ張る主要なエンジンとなった今日、交流経済の繁栄条件をどう認識するかにある。交流経済が求める環境をつくり出せるかどうかが、都市の未来、ひいては国の未来の発展を左右する。
(2) 製造業vs IT産業
産業をどう発展させるのかが、都市の行政トップにとって最重要課題の1つであろう。リーディング産業のシフトに伴い、都市機能への要求の変化を捉えるため、本報告では、交易経済の主体としての製造業と、交流経済の象徴としてのIT産業の、都市の主要な機能との相関関係について比較分析した。
〈中国都市総合発展指標2018〉を利用し、本報告では、まず中国298地級市以上都市の製造業輻射力と都市の主要機能の相関分析を行った。
図30で示されるように、広域中枢機能から見ると、製造業輻射力とコンテナ港利便性との相関係数は最も高く、0.70で「強い相関関係」であった。同輻射力と鉄道利便性、空港利便性との間の相関係数はそれぞれ0.68、0.57であった。
開放交流の分野で見ると、製造業輻射力と貨物輸出入との相関関係は最も強く、相関係数は0.90にまで達し「完全相関」関係を示した。同輻射力と海外旅行客との相関係数は0.78になり「強い相関」関係が存在した。これと実行ベース外資導入額、国際会議、国内旅行客との相関係数は各々0.65、0.53、0.41となった。
輻射力の分野で見ると、製造業輻射力と科学技術輻射力、金融輻射力との相関関係は高く、その相関係数はそれぞれ0.77、0.72となり「強い相関」関係が見られた。同輻射力と飲食・ホテル輻射力、卸売・小売業輻射力、文化・スポーツ・娯楽輻射力、医療輻射力、そして高等教育輻射力との相関係数はそれぞれ0.68、0.67、0.65、0.53、0.43となった。
製造業発展はこのようにたくさんの都市機能の支えを要し、必然的に一定規模の高密度人口を必要とする。製造業輻射力とDID人口との相関係数は0.72と高く、「強い相関」関係にある。
本報告ではさらに、中国298地級市以上都市のIT産業輻射力と上述した都市機能指標について相関分析した。
図31で示されるように、まず交通中枢機能からみると、IT 産業輻射力と空港利便性との相関係数は0.82と高く、「極めて高い相関」関係にあった。同輻射力と鉄道利便性とコンテナ港利便性の間の相関係数はそれぞれ0.63と0.57であった。製造業輻射力と比べIT産業が求める交通中枢とは相当の開きがある。製造業がコンテナ港利便性を重視するのに対して、IT産業が空港利便性により頼っていることが見て取れる。
開放交流の分野で見ると、IT産業輻射力と国際会議の相関係数は0.80と高く、両者の間には「極めて高い相関」関係が見られた。同輻射力と海外旅行客、貨物輸出入との相関係数はそれぞれ0.76、0.75と高く、「強い相関関係」があった。実際ベース外資導入額、国内旅行客の間の相関係数はそれぞれ、0.58、0.54であった。ここで特に注意すべきは、製造業輻射力と比べて、IT産業輻射力と国際会議、海外旅行客との相関関係は特に強く、IT産業が典型的な交流経済産業であることを示している。
輻射力の分野で見ると、IT産業輻射力と飲食・ホテル輻射力、文化・スポーツ・娯楽輻射力、卸売・小売輻射力など生活型サービス産業輻射力の相関関係は極めて強く、その相関係数は、各々0.90、0.90、0.83と高い。同輻射力と医療輻射力、高等教育輻射力の相関係数も0.70、0.70に達した。製造業輻射力と比べて、IT産業輻射力とこれら輻射力の相関関係がさらに高くなっている。こうした現象から、IT産業に関わる人々が製造業に関わる人々と比べて収入が高く、生活サービスと医療サービスへの要求も強いことがうかがえる。それゆえにIT産業が中心大都市に集約する傾向は強い。
多種多様な都市機能の支えを必要とするIT産業は、当然一定の規模の高密度人口を求める。IT産業輻射力とDID人口との間の相関係数は0.75と高く、「強い相関関係」にある。しかも、製造業よりIT産業が必要とする人口の教育水準などはさらに高い。ゆえに、製造業輻射力と比べ、IT輻射力と高等教育輻射力との相関関係ははるかに高くなっている。
以上の分析からわかるように、製造業とIT産業が都市機能に求めるものはかなり違う。改革開放以来、中国のほとんどの都市は産業発展の重点を製造業に置き、都市の機能も構造も、開発区の設置など製造業を後押しすることに引っ張られていた。しかし、IT産業に代表される交流経済を育成するためには、まったく違うアプローチが必要とされる。
(3) 企業誘致から交流イノベーションへ
改革開放の前期、中国のほとんどの都市では産業発展は、外部からの企業誘致と直接投資によるものであった。21世紀に入ってから、内生メカニズムの活力が高まり、イノベーションや起業が活発になった。広東・深圳・香港という三大マーケットで上場することが、こうした内生型企業の成功のシンボルとなった。成功した企業の本社機能と都市機能との関係を研究するために、本報告では中国の298地級市以上都市のメインボード(広東・深圳・香港)上場企業数および、主要都市機能との相関分析を行った。
図5-31が示すように、まず交通中枢機能から見ると、メインボード上場企業と空港利便性との相関係数が最も高く0.87で、両者の間に「極めて強い相関」関係があった。同企業数とコンテナ港利便性、鉄道利便性の間の相関係数はそれぞれ0.70、0.63であった。この分析結果から見ると上場企業の本社機能でいえば、世界との交流往来に、空港利便性が極めて重要であることが見て取れた。
開放交流の分野で見ると、本社機能は典型的な交流経済であり、メインボード上場企業と国際会議との相関関係が0.91と高く、「完全相関」関係にあった。同企業数と貨物輸出入、海外旅行客、実行ベース外資導入額、国内旅行客の相関係数もそれぞれ0.81、0.72、0.70、0.64であった。これら一連のデータから見ると、上場企業の本社機能と国際交流との関係の重要性がわかる。
輻射力の分野で見ると、メインボード上場企業は金融輻射力との相関関係が最も強く、その相関係数は0.9に達し、両者は「完全相関」関係にあった。次に、同企業数と、文化・スポーツ・娯楽輻射力、飲食・ホテル輻射力、科学技術輻射力、卸売・小売輻射力との相関係数は、各々0.87、0.87、0.86、0.80で皆「極めて強い相関」関係にあった。ここでとりわけ重視したいのは、上場企業と文化・スポーツ・娯楽輻射力、飲食・ホテル輻射力、卸売・小売輻射力との強い関係である。しかしながら、これら生活文化産業の重要性が、中国ではいまだ十分に認識されていない。
メインボード上場企業と高等教育輻射力、医療輻射力との相関係数も各々0.72、0.71と「強い相関」関係を示した。上場企業の高等教育人材への需要と医療サービスへの要求を反映する結果となっている。
都市に企業が誕生して成長し、上場するまでには数々の都市機能の支えが必要である。これには当然、一定規模の高密度人口が必要とされる。メインボード上場企業とDID人口との相関係数が0.85と高く、「極めて強い相関」関係が示されたことも当然であろう。
メインボード上場企業とDID人口との相関係数は、IT産業輻射力と製造業輻射力に比べて大幅に高くなっている。これは、企業中枢管理機能を効率的に動かすためには膨大なDID 人口を必要とすることを意味する。
(4) 交流経済への転換
中国では、交易経済から交流経済へのシフトも起こりつつある。珠江デルタを例に取れば、これに属する9つの都市は、「粤港澳大湾区」発展の国家戦略の号令による追い風で勢いが増している。しかしこうした都市の間には交流経済へのシフトに関する差異は相当大きい。
図13で示すように、上述した全国製造業輻射力ランキングトップ30都市に珠江デルタは8都市もランクインした。深圳は第1位を獲得し、東莞、仏山、広州、恵州、中山、珠海、江門はそれぞれ第3位、5位、6位、11位、13位、19位、30位であった。珠江デルタの貨物輸出額が全国に占める割合は高く28.8%に上った。同地域は製造業、とりわけ輸出貿易を代表とする交易経済において繁栄を極めている。
しかしながら、図5-15で示すように、IT産業輻射力ランキングトップ30都市の中で、珠江デルタからは僅か3都市がランクインした。深圳、広州、珠海はそれぞれ同ランキングが第3位、第7位、第20位であった。IT産業従業員数から見ると、珠江デルタの全国に占める割合は僅か10.2%で、メインボード(上海、深圳、香港)の上場IT企業数から見ると、珠江デルタは全国の14.5%にすぎない。
珠江デルタメガロポリスにおけるIT産業と製造業のパフォーマンスは、相当の差異があることがわかる。
中国改革開放40年は活力に溢れた時代であった。今日の成果は、グローバリゼーションの恩恵によるものが大きい。珠江デルタ地域は、まさに製造業のサプライチェーンのグローバル展開を受けて成功した典型である。しかし、時代は変化し、いまや世界は交流経済の時代に突入した。IT技術の開発、コンテンツ制作を中心とする交流経済が全世界を席巻し、珠江デルタも例外ではない。
〈中国都市総合発展指標2018〉の分析によると、中国全土のDID人口比率は30%であるのに対して、珠江デルタ地域のDID人口比率は64.2%にも達している。また、同地域のDID人口も全国のDID総人口の30.9%に達している。すなわち珠江デルタの都市化は全国最高水準にある。しかし同デルタの都市の大半は、交易経済の基礎の上に発展したものであり、人口の大多数が製造業の発展と関係して増えてきた。こうした意味からすると、珠江デルタ各都市の交流経済への転換は簡単ではない。一方で、同地域は中国の工業化そして都市化の先行地域として交流経済への転換が成功すれば、そのモデル効果は絶大である。
転換の成否を決める鍵は、開放と交流にある。粤港澳大湾区には国際都市の香港と、マカオがある。イノベーション力が強大な深圳、そして包容力の極めて高い中心都市広州がある。同地域が、交流経済発展の潮流の中で、再び大きく跳躍するものであってほしい。
[1] 2009年中国は世界一の輸出大国となった。2019年世界輸出総額ランキングで10位内に入った国と地域は、1位から順に中国、アメリカ、ドイツ、オランダ、日本、フランス、韓国、香港、イタリア、イギリス。
[2] 筆者は早くも2009年の米国ハーバード大学エズラ・ボーゲル教授との対談の中で、輸出と都市化が21世紀以降の中国大発展をもたらした二大原動力だったと指摘。さらにこの時期の中国大発展と日本の高度成長との比較分析を行った。これについて詳しくは『Newsweek』日本語版2010年2月10日号巻頭記事「ジャパン・アズ・ナンバースリー」を参照。
[3] 郷鎮企業の前身は人民公社時代の「社隊企業」。1978年の改革開放以降、社隊企業は急速に発展した。人民公社の解体に伴い、1984年「中国共産党中央4号文件」で社隊企業を正式に郷鎮企業と改称した。その後、郷鎮企業の猛烈な発展に対して、国務院は「国発(1992)19号」および「国発(1993)10号文件」において郷鎮企業の重要性を認めた。1995年には郷鎮企業数は2,460万社に達し、就業人口は1.26億人へと膨れ上がり、中国工業経済の半分を担うに至った。1996年は中国歴史上初めて郷鎮企業を保護する法律「中華人民共和国郷鎮企業法」が制定された。集団企業の形をした郷鎮企業はその後、ほとんどが民営企業と化した。
[4] 農村の余剰労働力の流出を抑制するために、中国政府は農村部における「小城鎮」といった小さな都市集積をつくることを進めた。1978年中国共産党第11回3中全会は「中国共産党中央の農業発展加速における若干の問題に関する決定」を可決し、「小城鎮建設を計画的に発展させ、都市の農村への支援を加速する」とした。1998年、中国共産党第15回3中全会は、さらに「小城鎮発展は、農村経済と社会発展をもたらす大戦略」だとした。これがいわゆる「小城鎮発展戦略」である。
[5] 中国国家発展改革委員会地区計画司と日本の国際協力事業団(JICA、現在名は国際協力機構)は共同で、3年間にわたる中国都市化政策に関する大型協力調査案件を実施した。同調査の成果を公表するため、中国国家発展改革委員会地区計画司、国際協力事業団、中国日報(CHINA DAILY)、中国市長協会による合同主催で「中国都市化フォーラム—メガロポリス発展戦略」が、2001年9月3日に上海、9月7日に広州で相次いで開かれた。両フォーラムで提起された「メガロポリス発展戦略」は、大きな社会的関心を呼び起こした。同調査の責任者を務めた周牧之が、両フォーラム開催を主導した。同調査の内容について詳しくは、中国国家発展計画委員会地区計画司と国際協力事業団による同調査の最終報告書『都市化:中国現代化的主旋律』(湖南人民出版社、2001年8月)を参照。
[6] 「中国都市化フォーラム−—メガロポリス発展戦略」における周牧之の基調報告の主な内容については、2001年9月8日付け『南方日報』、2001年9月12日『人民日報』を参照。同基調報告の全文については周牧之著『歩入雲時代』(人民出版社2010年6月)、pp255-281を参照。
[7] 「第11次五カ年計画」策定担当部署である中国国家発展改革委員会発展計画司が「メガロポリス発展戦略」の策定にあたり、周牧之をはじめとする海外の専門家に助言を求めた。同テーマについて、財務省、国際協力銀行などの協力を得て、日中間で幾度にもわたる意見交換が行われた。これについて詳しくは、日中産学官交流機構報告書「都市創新ワークショップ議事録」、「転換点に立つ中国経済と第11次五カ年計画」、「中国のメガロポリスと東アジア経済圏」、「中国のメガロポリス・ビジョンとインフラ構想研究会」などを参照。
[8] 2006年3月14日に第10回全国人民代表大会第4回会議で批准された「中華人民共和国国民経済と社会発展第11次五カ年計画綱要」を参照。
[9] 第二次世界大戦後、アメリカは大半の時期において世界経済成長への貢献度が最大の国家であり続けた。1991年、1993年と1995年の3つの年度では、中国がアメリカを超えて世界経済成長において最大の貢献国となった。しかし、それでもアメリカは依然として世界経済成長の最大エンジンであり続けた。2001年以降、中国は恒常的に世界経済成長における最大の貢献国となり、その地位は揺るぎないものとなった。
[10] アーバンエリア(Urban Area)とは、一定の建築用地と基礎インフラ用地の水準に達した都市型用地面積である。本報告はアーバンエリアについてEuropean Space Agencyの基準を採用している。
[11] 密度は、都市問題を議論する上での重要なカギである。〈中国都市総合発展指標〉は、5,000人/㎢以上の地域をDID(人口集中地区)と定め、正確で有効な密度分析に努めている。
[12] 2011年3月11日、東日本大震災による原子力発電所の放射能漏れ事故で、日本全国の原子力発電所が全面操業停止となった。この事件で、日本の電源構成は化石燃料火力発電に傾斜し、石炭ガス排出量が大幅に増大した。これにより、2000年−2017年の期間、日本の1人当たり平均二酸化炭素排出量は減るどころかかえって増大した。
[13] 相関関係分析は、2つの要素の相互関連性の強弱を分析した。“正”、“負”の相関関係数が0−1の間で、係数が1に近ければ近いほど両者の関連性は高くなる。0.9−1までを「完全相関」、0.8−0.9を「極強相関」、0.7−0.8を「強相関」、0.4−0.7を「相関」、0.2−0.4を「弱相関」、0.0−0.2を「無相関」という。
[14] コンテナ港利便性は、港湾のコンテナ取扱量(万TEU)、都心から港までの距離(キロメートル)などのデータから算出して作成した。
[15] 空港利便性は旅客取扱量(万人)、郵便貨物取扱量(万トン)、運行数(回)、ダイヤ正確率(%)、滑走路総距離(メートル)、滑走路(本)、都心から空港までの距離(キロメートル)などデータから算出して作成。
[16] ここでのトップ大学とは、いわゆる “211大学”および“985大学”である。“211大学”とは、1995年中国国務院の批准を経て選ばれた中国のトップレベル大学を指す。“985大学”とは、1998年5月4日、江沢民国家主席(当時)が、北京大学創立110周年大会にて、「中国がいくつか世界の先進レベルの一流大学をもつべきだ」と宣言したのを契機に選ばれた大学を指す。現在は211大学、985大学の選定制度はなくなったが、これらの大学が中国のトップレベルの大学であるとの認識は一般的となっている。
[17] 国際トップクラスレストランは、ミシュラン(軒数)、Tripadvisor 国際トップクラスレストラン(軒数)、The Asia’s 50 Best Restaurants国際トップクラスレストラン(軒数)などのデータにより算出し作成。
[18] 都市智力とは、雲河都市研究院が提唱するコンセプトで、都市空間計画、基礎インフラ整備、交通やエネルギーの配備、生活のあり方、生態環境マネジメント、文化教育、開放交流、治安管理、富の分配に至る様々な都市政策と計画を推進する能力を指す。
[19] 詳細は中国国家発展改革委員会「現代化都市圏の育成と発展に関する指導意見」参照(発改計画〈2019〉328号)。
[20] これについて詳細は、中国国家発展改革委員会地域計画司と日本国際協力事業団が編纂した『城市化:中国現代化的主旋律 (Urbanization: Theme of China’s Modernization)』、湖南人民出版社(中国)、2001年8月、周牧之「総論」pp30-31を参照。
[21] 前掲書、周牧之「総論」p27。
[22] 異なる国の異なる時期で、大都市圏の定義は異なる。例えばアメリカでは、1947年に「標準大都市圏(Standard Metropolitan Areas, SMA)」の概念を打ち出した。1959年に「標準大都市統計圏(Standard Metropolitan Statistical Areas, SMSA)」、1983年に「大都市統計圏(MSA :Metropolitan Statistical Area)」へと改称。1990年にMSAが「複合都市統計圏(Consolidated Metropolitan Statistical Area、CMSA)」に改称され、「主要大都市統計圏(Primary Metropolitan Statistical Area PMSA)」と一緒に「大都市圏(Metropolitan Areas, MA)」と総称した。2000年、アメリカはまた「コアベース統計圏(Core based Statistical Area、CBSA)」概念を提起した。イギリスでは、「標準大都市労働圏(Standard Metropolitan Labour Areas,SMLA)」と、「大都市経済労働圏(Metropolitan Economic Labour Area ,MELA)」の概念がおおむね、アメリカの「標準大都市統計圏」と同様である。日本では1960年、東京都および政令指定都市を中心に、通勤通学人口比率を利用して大都市圏とする旨議論された。1975 年には50万人口以上の都市を都市圏の中心都市として考えるようになった。
[23] 「大都市圏(Metropolitan Area)」についてはたくさんの定義がある。その中で比較的簡単な定義は通勤圏である。大都市が近郊や遠郊を構築することにより、通勤距離が20キロメートル、50キロメートル、100キロメートルないしはそれ以上延びる。こうした通勤圏域を大都市圏と呼ぶことができる」。周牧之主編『大転折—解読城市化与中国経済発展模式(The Transformation of Economic Development Model in China)』、世界知識出版社(中国)、2005年5月、p48。
[24] OECD、Redefining “Urban”: A New Way to Measure Metropolitan Areas、OECD Publishing, Paris, 2012
[25] OECD-EUは小都市圏(Small Metropolitan Areas):人口20万以下、中都市圏(Medium-sized Urban Areas):人口20万以上50万以下;大都市圏(Metropolitan Areas):人口50万以上150万以下、超大都市圏(Large Metropolitan Areas):人口150万以上と定義した。
[26] 本報告では超DIDの概念を用いた分析をしていない時は、DID人口には超DID人口部分も含んでいる。
[27] 「グローバライゼーションの意味するところは、グローバル都市圏間の分業、交流、合作、競争関係の激化である。大都市だけが世界の分業、交流が必要とする整った基礎インフラを持ち、大都市だけが十分な集積と集約とで、グローバル都市間競争に参画できる。大都市圏はグローバリゼーション下の国際競争の基本単位である」。前掲書、周牧之「総論」p26。
『環境・社会・経済 中国都市ランキング2018 〈中国都市総合発展指標〉』掲載
『環境・社会・経済 中国都市ランキング2018大都市圏発展戦略』
中国国家発展改革委員会発展計画司 / 雲河都市研究院 著
周牧之/陳亜軍 編著
発売日:2020.10.09