【コラム】中国都市化の変化と不変/岳修虎・中国国家発展和改革委員会価格司司長

岳 修虎

中国国家発展和改革委員会価格司司長


 改革開放40年、中国の都市化においては、都市化の本来の法則に沿った動きと、中国に特徴的な動きの双方がある。これからは、中国の特色よりは、都市化本来のメカニズムがより強く働いていくであろう。

1. 中国経済発展の相当部分は都市化から

 都市化は、経済社会発展における役割が極めて大きい。改革開放以来、経済発展の相当部分は、都市化の進展によるものである。例えば、農村労働力の移動がもたらした労働生産性の向上しかり、都市部における人口規模と密度との大幅な上昇による分業の細分化しかりで、これらが強大な成長力を産み出した。

 農村から都市へ移動した数億人口による生産方式の変化が、家庭および個人の生活方式を変え、考え方に影響を与え、さらに社会構造まで大きく変化させた。

 都市化は、都市と農村を二元化させた戸籍制度を弱めた。市場の力による労働力の流動が、都市と農村の関係を再定義した。

 中国の都市化は計画経済から市場経済体制への移行プロセスと並行して行われてきた。ゆえに、移行プロセスの各フェーズでの発展理念、戦略そして政策が、都市化に鮮明な歴史的軌跡を残した。

 先進諸国の経験からすると、中国の都市化率はまだ大きな上昇空間がある。多くの農村人口を抱えながら耕作地に伸び悩む中国では、農業技術の進歩が、農村人口の都市への移動をさらに後押しする。

 とはいえ、都市化水準は都市化率という指標に限らず、都市の発展のクオリティや都市住民の生活のクオリティを問うべきである。

2. アンチ都市化からメガロポリス推進へ政策大転換

  「都市の勝利」の根本的な要因は、過去においても将来においても、人口集積による規模の経済性にある。14億人口大国の都市化がもたらす国土空間構造の変化については、大きな想像力を必要とする。中国の都市にせよ、メガロポリスにせよ、その発育は、まだ「少年」段階である。

 戸籍制度、土地制度、社会保障制度の絶え間ない改革により、人、モノ、カネが、全国でより自由に流動することで、都市化はさらに巨大な威力となる。メガロポリスは珠江デルタ、長江デルタ、京津冀などの地域で成長し続け、中心都市、大都市、中小都市と郷村が共同で、複雑かつ巨大な都市システムを構成する。ますます多くの人口、産業とイノベーションが集積し、いくつもの「世界都市」を誕生させるだろう。便利になった交通と通信が、中心都市の圧力を一定程度弱めるものの、これは都市の吸引力を削減するものではない。却って中心都市の輻射力とその輻射半径はさらに拡大し、周辺の都市と融合した有機体へと成長するだろう。

 中国の政策は、小城鎮重視、大都市抑制の時代から、「メガロポリスを都市化の主要形態とする」時代へと移った。メガロポリスも政策的な定義から実態を持ったものになりつつある。都市化に関わる中国の政策のドラスティックな変化により、中国はアンチ都市化政策を改め、都市化の法則に従い、メガロポリス政策へと大転換した。

 メガロポリス時代のチャンスとチャレンジに向き合い、膨大な人口の生産、生活への要求を満足させ、安全かつ効率の良い文明的な社会を構築させるには、従来の制度と思考を超えた政策能力が必要となる。ゆえに今後、経済、社会、空間におけるマネジメント力をいかに向上させるかが、メガロポリスそして都市化の未来を左右する。

3. 人間本位の理念が都市間競争の鍵

 都市化の目的は、より大勢の人々に現代的生活を享受させることである。現在、中国で繰り広げられている都市間競争は、結局、“人”の競争である。

 ますます多くの都市が、人口戸籍制限を緩和し、若者を積極的に引き寄せる方向へと移行している。

 都市の意義は市民に良質な生産生活環境を提供することにある。そのために都市の計画、建設、管理に携わる者が人間本位の理念を抱き、大きな都市空間の構築にしろ、小さな生活エリアの再構築にしろ、すべて市民生活の利便性と人の幸福を前提とすべきである。

 これまでの長期にわたる経済成長への偏執が、多くの都市に、急進的な工業化による後遺症をもたらした。な計画や乱開発、生態環境の破壊や、生活環境の不備等々である。

 これに対して、従来の成長志向の考え方を改め、市民のニーズを満足させるために都市改造を行うべきである。

 都市が追い求めるのは、ネオンがきらめくことではなく、高層ビルが林立することでもなく、道路が広がることでもない。これらはすべて手段であり、真の目的は市民の幸せと心地よさである。これからの都市改造は、都市を、より便利かつ清潔で、緑が生い繁り、穏やかであるよう目指すべきである。

 ますます激化する都市間競争の中で、どのような人材を引き寄せるかが、都市の未来を決定づける。とりわけ、都市が求める価値理念、市民ニーズへの感知能力、制度を刷新する能力などをもつ人材を有するか否かにおける差異が、都市間競争の成敗を左右する

4.  「場所」の繁栄より、「人間」の開発を

 都市化の使命は変化している。これは工業化を軸にした経済成長を推し進めることから、社会構造、経済構造、国土空間構造における現代化へと向上していくことにほかならない。これまでの経済重視の都市化から、人間重視の都市化へとシフトしていくべきである。都市のあり方も、これまでの生産型都市から生活型都市へ、また、製造型の都市から創造型の都市へと変化させていかなければならない。

 都市間競争が都市間における格差を拡大させ、一部の都市は「衰退」に陥るだろう。ただし、これをネガティヴに捉えず、「場所」の繁栄にこだわるよりは、むしろ「人間」の開発と幸福に重きを置いていくことが必要である。

結びに

 都市間競争の中では、すべての都市は人々による“移動による”という試練を受ける。さらに多くの人々がメガシティやメガロポリスに集まっていくであろう。この趨勢を止めることはできない。このような動きは中国の国土空間のあり方を大きく変えることになる。

 問題は、いかにしてメガシティやメガロポリスにおけるマネジメント能力を高め、良質な都市空間と都市社会を構築するか、である。

 今後、中国の経済構造、社会構造、空間構造が大きく変わっていくであろう。これに対して都市化や、都市発展の目的は、人間本位であり続けるべきである。

 これが、中国都市化における変化と不変であってほしい。


プロフィール

岳 修虎(Yue Xiuhu)

 1973年生まれ。1997年中国人民大学卒業後、中国国家発展改革委員会発展計画司に入局。長期にわたり国家発展戦略の策定と中長期計画の編成に携わる。「第10次五カ年計画綱要」、「第11次五カ年計画綱要」、「第12次五カ年計画綱要」および、「全国主体効能区計画」、「国家新型都市化計画」などの研究編成に参加。2001-2002年に米国マサチューセッツ工科大学(MIT)客員研究員。中国国家発展改革委員会副処長、処長、副司長を経て2018年から現職。

(『環境・社会・経済 中国都市ランキング 2018―大都市圏発展戦略』に収録