【刊行によせて】世界経済のパラダイムシフトと大都市化/周牧之・東京経済大学教授

中国都市総合発展指標2017日本語版・発刊にあたって

周牧之
東京経済大学教授

 

 20世紀が「都市化の世紀」であるなら、21世紀はまさに「都市の世紀」、ひいては「大都市の世紀」である。
 20世紀、世界の都市人口は2.5億人から、10倍増の28億人にまで膨れ上がった。20世紀は地球規模での「都市化の世紀」と位置づけられよう。都市化率は猛然と高まり、都市化のスピードは勢いを増した。
 世界の都市人口は2008年、初めて農村人口を超え、地球は正真正銘の「都市惑星」となった。国連の予測によれば、世界人口は2050年に90億人に達し、都市人口は60億人を超えると見られている。

1.急激に進む大都市化、メガシティ化


 さらに注目すべきは、1980年代から急激に進んだ大都市化の潮流である。1980年から2015年までの35年間、人口が100万人以上増えた都市が全世界で何と274都市を数えた。その中で人口が250万人以上増えた都市が92都市、500万人以上増えた都市は35都市、さらに1,000万人以上増えた都市は11都市もあった。この間、同274都市で7.8億人もの人口が増えた。人類はかつてない勢いで大都市に集まった。
 今日、世界には1,000万人以上の人口を抱えるメガシティが29都市ある。この大半は1980年以降、急速に人口が膨れ上がってできたものである。この29都市のうち19都市が臨海型都市、8都市が内陸部に位置する首都で、2都市が内陸部の地域中心都市であった。臨海部あるいは首都などの中心都市であることが、都市経済巨大化の要であることを示している。
 大都市の爆発的発展は、世界経済のパラダイムシフトによって生まれた。1980年代以降、情報革命とグローバリゼーションとが相まって、異なる技術、異なる産業、異なる領域の間での大融合が起こった。同時にそれは、国と国、都市と都市、都市と農村の大融合も起こった。大融合は大変革を生み、大変革は大発展を引き起こした。交流と交易の上に立った融合と変革は、大都市を急速に発展させた。国民経済はまさにこの大融合によってその役割を弱め、これに対して大都市はグローバル化の波に乗り、世界経済の新しい主役として登場してきた。とりわけ沿海都市と行政センター都市は、その開放性、交通利便性そして各種のセンター機能をもって、大融合、大変革、大再編の大舞台となった。

2.中国の都市大発展は世界経済のパラダイムシフトの産物


 世界の大都市化、メガシティ化の時期は、ちょうど中国の改革開放期と重なった。上述の1980年から2015年までの間、中国で人口が100万人以上増えた都市が72に達し、世界の同様の都市の3分の1を占めた。その中で250万人以上増加した都市は中国で30都市を数え、これも世界のおよそ同3分の1を占めた。人口が500万人以上増えた都市は中国で12都市となり、これも世界の3分の1を超えた。都市人口が1,000万人以上増加したのは中国で5都市にのぼる。
 この間、中国の都市人口は3.8億人増加し、同時期、世界の都市人口増加分の3割を占めた。中国で人口が250万人以上増加した30都市の合計人口増加数は1.7億人に達し、同時期の世界同92都市の人口増加総量の3割を占めるに至った。
 さらに注目すべきは、中国の都市で人口が250万人以上増えた30都市(上海、北京、深圳、広州、重慶、天津、東莞、仏山、南京、成都、武漢、杭州、蘇州、西安、廈門、鄭州、汕頭、青島、ハルビン、中山、昆明、大連、長沙、瀋陽、済南、寧波、ウルムチ、南寧、合肥、福州)が、ことごとく首都、直轄市、省都など行政センター都市および沿海地区に集中していたことである。
 言うなれば、中国の急速な都市化、大都市化、メガロポリス化は世界の趨勢と高度に一致し、世界経済のパラダイムシフトの産物と言っても過言ではない。

3.イノベーションと起業の条件


 イノベーションと起業は、交流交易経済の大融合と大変革の時代に繁栄を生み出す重要なアプローチである。上場企業数はイノベーションと起業の進展を測る一つの重要な指数として捉えられる。筆者は〈中国都市総合発展指標2017〉を利用して、中国の地級市以上の297都市を対象とし、上海・深圳・香港の3証券取引所のメインボードに上場する企業数と都市の交通中枢機能、開放交流状況、各輻射力(都市の、ある機能を外部が利用する度合い)などとの相関関係を分析した。
 相関分析は、二つの要素の相互関連性の強弱を分析する手法である。「正」の相関係数は0—1の間で、係数が1に近いほど二つの要素の間の関連性が強い。中でも0.9—1の間は「完全な相関」、0.8—0.9は「非常に強い相関」、0.6—0.8は「強い相関」とする。
 分析の結果、上場企業と空港の利便性、コンテナ港の利便性、鉄道の利便性との相関係数は各々、0.79、0.7、0.66であった。つまり上場企業数と都市の各交通中枢機能とは「強い相関」にあった。
 また、上場企業と貨物輸出・輸入、実行ベース外資導入額、海外旅行客との相関係数は各々0.83、0.74、0.71に達した。つまり上場企業数と都市対外交流の各ファクターとは「強い相関」あるいは「非常に強い相関」にあった。
 さらに、上場企業と金融業輻射力、IT産業輻射力、卸売・小売輻射力、飲食・ホテル輻射力、科学技術輻射力、文化・スポーツ・娯楽輻射力、高等教育輻射力との相関係数は各々0.97、0.93、0.89、0.88、0.88、0.86、0.84に達した。すなわち上場企業数と都市の各輻射力との間にはっきりした「非常に強い相関」あるいは「完全な相関」があった。ここでの輻射力とは、産業の広域影響力を評価する指標である。輻射力が高いことは、当該産業の外部への輸出・移出力が高いことを示す。
 以上のことから、上場企業と交通中枢機能、開放交流、都市輻射力といった数多くの要素との間に、極めて強い相関関係があることがわかった。都市機能が豊富多彩なことが、企業の成長に大きな影響を与えている。つまり、都市における多種多様な要素の融合こそが、新時代の繁栄の基礎を形作っているのだ。
 当然ながら、豊富で強大な都市機能は、都市人口を膨れ上がらせる。上場企業数とDID(人口集中地区)人口規模との相関係数は、0.85にまで高まり、「非常に強い相関」を示している。
 もっとも、都市人口規模の膨張は、都市の積載力にかかわってくる。インフラ整備や都市マネジメント能力のレベルアップにより、都市は人口密度と人口規模の積載力を大幅に伸ばすことができる。1都3県から成る東京大都市圏を例にとると、1950年前後に1,000万人口を突破した同大都市圏は、環境汚染、交通渋滞、住宅不足、インフラ未整備などの「大都市病」に悩まされ、深刻な「過密」問題が起こった。これを受けて日本政府は人口と産業の東京一極集中の阻止を図る一連の政策措置を採り、一時は東京からの遷都さえ取り沙汰された。しかしながら、インフラ整備と都市マネジメント能力が上がり、都市としての積載力が大幅に高まったことで、東京大都市圏の人口規模は今や世界最大で3,800万人となった。同時に「大都市病」もほとんど弾け飛んだ。

4.決め手は都市の智力水準


 とはいえ、世界各地にまだまだ「過密」問題で苦しむ大都市が沢山ある。例えばインドのニューデリー、ムンバイ、メキシコのメキシコシティ、エジプトのカイロ、バングラデシュのダッカ、パキスタンのカラチ、ナイジェリアのラゴス、ブラジルのリオデジャネイロなど発展途上国のメガシティは、巨大なスラム街を抱えたままにある。
 同じような大規模人口を有していても、都市のパフォーマンスはまったくかけ離れている。これは都市発展にかかわる「智力水準」の格差ゆえであろう。都市智力とは、都市計画、インフラ整備、交通システム、エネルギーシステム、環境対策、そして富の分配などを含む都市のマネジメントとガバナンス能力である。
 このような問題意識をもとに、〈中国都市総合発展指標〉は世界経済のパラダイムシフトと都市発展メカニズムを研究し、さらに膨大なデータ指標を用いて都市を評価することで、中国の都市「智力」アップにつなげたい。

5.〈中国都市総合発展指標2017〉の特色


 大都市化、メガロポリス化の本質は、すなわち中心都市の競争にある。都市のセンター機能の強化により、人、企業の吸引力と積載力を高めることが、中心都市の競争力を高める肝心要である。〈中国都市総合発展指標2016〉のメインレポートでは、「メガロポリスの発展戦略」に焦点をあてたが、続く〈中国都市総合発展指標2017〉では、「中心都市の発展戦略」をテーマとする。
 また、〈中国都市総合発展指標2017〉は〈同2016〉のフレームワークを継承した上、衛星リモートセンシングデータとビックデータの採用を増やし、指標の数を133から175へと大幅に増やした。評価システムとして一層の進化を目指した。
 さらに、〈中国都市総合発展指標2016〉はトップ20都市のランキングだけを公表していたのに対して、〈同2017〉では150都市のランキングを一気に公表し、読者の中国都市の分析をより広範囲にした。
 このように進化した〈中国都市総合発展指標2017〉が、都市センター機能の評価を通して、中心都市の発展を促し、世界に広がる大都市、メガシティ間競争において、参考となる指針を示すことができるよう願っている。