【対談】岩本敏男 VS 周牧之(Ⅴ): AI時代のNTTグループ再統合の行方

■ 編集ノート:東京経済大学の周牧之教授の教室では2025年11月6日、NTTデータグループ元社長の岩本敏男氏を迎え、「デジタル技術の本質」をテーマに対談した。
 対談の最終回は、AI時代におけるNTTグループの再統合の戦略について、議論した。

(※前回記事【対談】岩本敏男 VS 周牧之(Ⅳ)はこちらから

岩本敏男
2025年11月6日、周牧之ゼミでゲスト講義する岩本敏男氏

■ グローバル競争で日本企業が勝ち抜くために


周牧之:2025年5月にNTTは、NTTデータグループに対して株式公開買い付け(TOB)を実施し、完全子会社化することを正式に発表した。NTTデータは同9月30日にNTTの完全子会社となった。なぜ成長が鈍化しているNTTが成長を続けるNTTデータを吸収するのか。現在すでに両社の経営のロジックはまったく違うものになっているにも関わらず。伸び悩んでいるドメスティックなインフラ企業がグローバルに快進し続けるテックカンパニーの指揮権を取ってしまいかねない。その方程式の勝算はどこにあるのか?

岩本敏男:私は電電公社にいたので、その後の変化、例えばドコモの分社化や東西分割についてもよく知っている。ただ、当時の幹部たちは皆、同じ電電公社に入った仲間で、今でも時々集まって話をしている。そういう意味では、「元のさやに戻った」と言えば、それまでかもしれない。

周:つまりNTTがドコモやNTTデータを再統合するのは、強い仲間意識が働いたところがあるようだ。

岩本:土光臨調の時代には、合理化のために国の仕事はできるだけ民営化すべきだ、国がやるより民間に任せた方がよい、という考え方があった。これは一理あるし、決して否定するものではない。
 ただ、当時のNTTデータはまだ赤字で、ホールディングのNTTから切り離されたと言えなくもない。メディアからは、「電話料金でコンピュータ事業の赤字を補填しているのはおかしい」という厳しい批判もあった。そうした状況を乗り越える中で、NTTグループは最初に大きく分割されることになった。
 背景には、NTTがあまりにも強く、通信回線を事実上独占していたため競争原理を働かせるには力を弱める必要がある、という考えがあった。そのために分割したこと自体は理解できる。ただ、国鉄と違い、電気通信やコンピュータの世界は、1秒間に地球を7周半もするスピードの世界だ。そんな分野を、日本という小さな国の中だけで分ける意味があるのかと、当時から疑問に感じていた。
 今では総務省を含め、多くの人が、日本が成長するための競争相手は国内ではなく海外にいる、という点を理解している。例えば私が社長になった当時、コンピュータ事業では「グローバルトップ5に入ろう」と掲げていた。その頃の代表的な競争相手はIBMだったが、今では当時の面影はない。アクセンチュアもあったが、現在はGoogleのように、まったく異なる領域から伸びてきた企業がトップクラスにいる。NTTデータも、ようやくトップ5前後の位置に来た。
 これからの日本企業は、グローバルな競争の中で競争相手が何をしているのかを見極め、自分たちのコア・コンピタンスは何かを本気で考えなければ、うまくいかないと思う。
そういう意味で、日本製鉄によるUSスチールの買収は、大きな決断だったと感じている。方法論には問題があり、アメリカの労働組合の対応など、もう少し工夫があればよりスムーズに進んだはずだ。それでも、大きなリスクを承知の上で挑戦した判断自体は評価すべきだ。

周:日本で銀行の平成の大合併の時、海外と競争するためにもっと体力をつけようとの理屈が強く働いた。結局、合併後の日本の銀行のパフォーマンスは芳しくなかった。大合併前の平成元年、5つの日本の銀行は世界企業時価総額ランキングトップ10に入っていた。しかし、いま同トップ50位内に日本の銀行は一つも入っていない。大きくなったとしても必ずしも国際競争に勝てるわけではない。企業の体質そして経営ロジックの方がより問われる。

NTTデータ 岩本敏男

■ AI時代にNTTグループの再統合が目指すもの


周: 岩本さんがお話しされた、海外でのM&Aを成功させた理由の一つは、各地域にCEOを置き、現地で判断できる体制をつくったことだと思う。今の時代は、その場その場で迅速にジャッジできる人材が不可欠だ。そうした人を採用し、権限を与えていくことが極めて重要だ。
 とくに大手企業にとっては経営環境が急速に変わるIT時代に、現場に自由度がなければ適切な判断はなかなかできない。そういう意味で、NTTデータがNTTから分社され、自由に事業を展開できたこと、そして岩本さんのようにオーナーシップと想像力、判断力を持つ社長がいたことは、大きな強みだったと思う。
 一方で、今回のNTT再統合については少し不思議に感じている。ドコモは外に出してうまくやって大きくなった。NTTデータも十分に成果を上げている。しかし、それを再び統合する必要があるのかが、正直なところ見えてこない。

岩本:周先生のご指摘は、非常に的を射た質問だと思う。私は電電公社に入ってから約50年間、さまざまな変化を見てきた。NTTが分社化してきた理由の一つは、あまりにも強大な電電公社という組織が存在すると競争が生まれず、社会が発展しないと考えられたからだ。そのため、組織を分け、競争原理を働かせようとした。この考え自体は間違っていなかったと思う。
 ただし、当時と今とでは決定的に違う点がある。それは「競争相手がまったく変わった」ということだ。私はすでにNTTグループを離れているが、外から見ていても、いわゆる通信キャリアだけのビジネスでは、もはや世界と戦えない時代になっている。5Gの次には6Gがあるが、これは中国のファーウェイを含め、エリクソンなど世界中の企業が取り組んでいる。日本企業だけが圧倒的に優位な分野は、正直ほとんどない。
 かつて光ファイバーの時代には、アメリカのコーニング(Corning)に加え、住友電工など日本企業が強みを持っていた。しかし現在では、完全なコモディティとは言えないまでも、状況はかなり均質化している。単なる通信キャリアの世界で、NTTグループが世界と競争できるかというと、もはや違うフェーズに入っていると思う。
 国内を見ても、携帯電話事業はNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの三社が競争しており、ドコモのシェアは依然30%台あるものの、下落傾向にある。営業利益も落ちており、NTTグループにとって「ドコモをどうするか」は大きな課題だ。キャリア事業がすぐになくなるわけではないが、成長の中心になるとは言いにくい。
 これから伸びるのは、AIを含む、いわば「上部構造」の領域だ。その分野で長年グローバルに事業を展開してきたのがNTTデータであり、今後NTTグループを牽引する存在は、必然的にNTTデータがその中核を担うことになると展望している。
 NTTグループの現社長の島田も、データ系の事業に関わってきた人物で、その前の澤田社長、さらに鵜浦社長の時代から、「これからはNTTデータがグループを引っ張らざるを得ない」という認識は共有されていた。その実現方法として、統合以外にも選択肢はあったかもしれないが、最も分かりやすい論理として一本化を選んだのだろう、というのが私の見方だ。

周:まず、NTTデータの経営ロジックが合併後にも貫いていけるかが鍵だ。さらに、成長事業のNTTデータがNTTグループを牽引する存在になれれば、NTT再統合は成功につながる。

祝辞を述べる島田明日本電信電話副社長
2018年7月19日、『中国都市ランキング−中国都市総合発展指標』出版記念パーティにて、祝辞を述べる島田明日本電信電話副社長(肩書当時)

■ 思考ロジックギャップへの懸念


周:しかし私自身の経験から言えばまだ少し懸念が残る。私が若いとき中国機械工業部(省)で宝山製鉄所などのプロジェクトを担当するときに、一番話が通じないのは隣の部局の皆さんだった。オートメーションシステムに関わる自分たちと、高炉などの設備を作る重機械を担当する部局の人たちとは話しが合わなかった。彼らはすべて重量ベースで考え、「何トンの設備をいくらで売るか」の世界だ。こちらは重量ではなくコンピューティング力だ。だからなかなか議論が噛み合わなかった。
 通信とコンピューティング、AIとは実はかなり違う世界だ。AIを理解できない人たちが資本や組織の論理で支配権を持つと、NTTデータにとって良い方向になるのかどうか?あくまで傍観者としての立場からだが、やや心配している。

岩本:周先生のご懸念はもっともだと思う。ただ、現在NTTの経営を担っているメンバーと、NTTデータのメンバーの間では、かなり前から自由に意見を言い合えるカルチャーがある。これは私の時代から続くNTTデータの良さでもある。発言できないような損得勘定に縛られた空気はほとんどなく、比較的、率直に好きなことを言える環境があった。その点は、あまり心配していない。
 一方で、私は「資本の論理」は非常に重要だと考えている。仮にNTTデータ、通信事業、ドコモ、研究開発部門など、それぞれに役割の違いがあったとしても、現在の資本構成を見ると、NTTのホールディングカンパニーは純粋持株会社であり、事業そのものは行っていない。実際の事業や研究開発は、各グループ会社が担っている。
 その意味では、ホールディングスが資本と組織のメカニズムを設計する役割を果たすこと自体は、理にかなっているとも言える。本当の意味での主流や方向性がどこに置かれるのかは、今後の人事や組織再編の中で徐々に見えてくるはずで、私はそこに期待している、というのが率直な考えだ。

■ スターリンクの脅威とデータセンター先行の強み


周:実はスペースXによるスターリンクの通信サービスは、すでに無視できない存在になっている。イーロン・マスクによる衛星を使う通信サービスだ。これが現実のものとなった。これまでのNTTの伝統的な通信基盤に大きな打撃を与える可能性がある。中国のようにこのサービスを国内で「使わない」と割り切れる国とは違い日本はそうはいかない。アメリカ発の衛星通信の時代、どう対応するのか。これは避けて通れない、非常に大きな問題だ。今年6月、NTTドコモ元代表副社長の鈴木さんがゲスト講義に来られた際にもこの話題になった(【対談】鈴木正俊 VS 周牧之(Ⅰ): 通信の世紀、サイバーの時代 を参照)。なかなか簡単に答えが出る問題ではない。NTTグループが独自にスターリンクのような衛星通信網を構築する、といった選択肢も現実的ではない。しかし、スターリンクの衛星通信サービスの携帯電話ユーザーへの普及は確実に進み、しかも想像以上に早い。価格がどんどん下がり、安定性も益々向上している。ケーブルと基地局をベースにした通信網の時代とはまったく違う絵になってきた。
 こうした激変の時代の中で、私が本当にすごいと思うのは、NTTデータがデータセンター事業に非常に早い段階から取り組んできた点だ。しかもグローバルのデータセンター市場で世界3位にまで成長している。まさにAI時代を見据え、先に進んで待っているような経営判断ができていたのではないか。その点は高く評価すべきで、ぜひそのあたりの話も伺いたい。

岩本:結果として偶然そうなった面も、もちろんあるかもしれない。ただ、NTTデータ自身の立場から言えば、お客様に良いサービスを提供するにはデータセンターを自前で持つ必要があると最初から考えていた。実際に持てばどんな技術が必要になるのか、さまざまな要素が不可欠になることも当初から想定していた。
 これは非常に大きな強みだ。ただ、周先生とは少し違う言い方になるが、データセンタービジネスは本質的には「不動産ビジネス」だと考えた方が分かりやすい。もちろん中身には高度なテクノロジーが詰まっているが、ビジネスモデルとしては資産の流動化(オフバランス化)を伴う、典型的な不動産ビジネスモデルだ。
 一方で、私たちが長年取り組んできたのは、企業でも個人でも、お客様の要望に応じてコンピュータやAIを活用し、業務を改善したり、新しいサービスを生み出したりすることだった。つまり、プロジェクトマネジメントを軸とした世界だ。そうした視点から見ると、データセンターはまったく異なるビジネスモデルであり、別の専門性が求められる。
 そのため、NTTデータが早い段階からそうした専門人材を取り込んできたことは、一つの強みだった。NTTグループ全体としても、そのモデルを世界で展開してきたことは、結果的に良かったのではないかと思う。

■ ビックイノベーションたるIOWN構想


周: データセンター事業といっても異なるタイプがある。NTTデータは、世界中で大規模なデータセンター拠点を展開し、建物そのものを建設・運営し、GoogleやAmazonなどの巨大IT企業に場所を売る、あるいは貸す「インフラ提供者」としての側面が強い。同じ日本企業でも日立や富士通などは、自社データーセンターを、主に自社のITシステムを動かすため、活用する傾向にある。
 学生のために「データセンター」、特にAI時代での重要性について説明をお願いしたい。

岩本:AIの話題が出たが、AIを動かすうえでデータセンタービジネスは極めて重要だ。もともとコンピュータは、大型メインフレームの時代から、電力・空調・通信回線を備えた大きな建物が必要だった。こうした設備をまとめたものがデータセンターだ。私たちは50年以上前から自前でデータセンターを構築してきたため、社内には一級建築士がいるほどで、設備づくりも自分たちで担ってきた。
 AIには、学習段階とプロンプトに応じて結果を返す実行段階の両方で、膨大な計算能力が必要だ。そこで使われるのが「GPU」だ。中央処理装置であるCPU(Central Processing Unit)に対し、GPU(Graphical Processing Unit)はグラフィックス処理装置で、もともとはゲーム用に開発された。画像処理は多数の画素を並列処理できるため、GPUはこの用途に最適だった。
 NVIDIAが有名だが、2000年以前にはシリコングラフィックスという先行企業もあった。ただ、AIモデルの性能向上の訓練には莫大な電力が必要だ。規模によっては、原子力発電所1基分、約100メガワット級の電力を消費すると言われる。現在、世界全体の電力消費は約42ペタワットで、コンピュータや通信が占める割合は数%に過ぎない。
 しかし、今後データ量が急増し、仮にそれをすべてAIが処理するとすれば、単純計算では2035年頃に世界の総発電量を使っても足りない、という試算すら出る。現実にはそこまで極端にはならないにせよ、AIの電力消費が最大の課題であることは間違いない。
 そこで重要になるのが、NTTのIOWN構想だ。最終段階のIOWN4.0では、半導体を光で動かすことで、電力消費を100分の1に抑えることが可能になるとされている。仮にAIの電力需要がこの水準まで下がれば、社会は十分に回る。だからこそ、IOWNはぜひ成功させたい取り組みだ。
 最後にもう一つ。通信の世界で、携帯電話とインターネットを最初に結びつけたのはNTTドコモだった。しかし、世界標準にならなかった理由は、自社だけで進めようとしたからだ。世界中のパートナーと連携し、標準を共につくる発想が欠けていた。
 その反省を踏まえ、今回のIOWNはNTT単独では進めていない。インテルやソニーを含む国内外の企業、約100社と連携し、プラットフォームづくりを進めている。技術的に成功するかは未知数だが、少なくとも、ドコモの失敗を繰り返さない姿勢は明確だ。もし当時この考え方ができていれば、世界は今とは違っていたかもしれない。

周:世界的なAIブームの中で、皆争ってNVIDIAのチップを買い、データセンターにどんどん投資している。所謂「AI軍備」大競争だ。この大競争の中でエネルギーという大問題が浮上している。データセンターには膨大な電力が必要とされる。AI競争は、計算力の競争だけではなく電力競争にまで発展している。
 これを解決するためのNTTが打ち出すIOWNは、光技術を使い、あまり電力を消耗しないアプローチだ。究極のデーターセンターのGXとなる。これはかなりインパクトを持つビックイノベーションだ。東京経済大学が2024年11月30日開催した国際シンポジウム「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」で、岩本さんはIOWN計画について詳しく説明してくださった(【シンポジウム】岩本敏男:ビッグイノベーションIOWN計画でGXをリード を参照)。
 但し、アメリカも中国も同じアプローチでいこうとする企業がある。スピード競争になる。また、イーロン・マスクが最近データーセンターそのものを宇宙に打ち上げ、無限にある宇宙の太陽光エネルギーを使おうとの構想がある。まさに構想力と実行力の大競争時代だ。

■ 横展開なのかコア・コンピタンスへの拘りか


周:今、NTTデータのデータセンタービジネスの規模は?

岩本:ワールドワイドで見るとNTTグループは世界3位。国内では、いろいろな企業がそれぞれデータセンタービジネスを展開している。利用しているユーザーも、AI系の企業やGoogleのようなグローバルプレイヤーを顧客としている事業者が多い。

周: 世界の半導体市場は、今およそ7,000億ドル規模だ。2024年、中国は4,000億ドル弱の半導体を輸入した。世界の半導体市場は中国で成り立っていると言っても過言ではない。   NVIDIAなどのアメリカメーカーの半導体は、実はその多くを中国に輸出していた。ところが現在は、アメリカの規制で中国向けの輸出ができなくなった。その結果、行き場を失った半導体の需要が、AIブームの中でデータセンター向けへと一気にシフトしている。これがAIバブルになるという危惧も聞こえてくる。
 一方、日本ではどうか。例えばNTTデータのように、データセンター分野へ積極的に投資を続けているのか、それとも少し傍観しているのか?

岩本:日本では他の企業も数多くデータセンターに参入しているので、NTTグループのシェアが圧倒的に高いかというと、そこまでではない。とはいえ、投資自体はかなり行っている。NTTグループでは投資額ベースで言うと、日本国内よりも海外のほうが圧倒的に多い。
その中でやっているのが、いわゆる「回転ビジネス」だ。回転ビジネスというのは、すでに一定の価値がある資産は売却しキャッシュを回収し、その資金を別のデータセンター投資に振り向ける、というやり方だ。私がデータセンタービジネスを「不動産ビジネス」だと言ったのは、まさにそういう意味だ。
 実際、今はかなり良い流れになっている。ただし、データセンターは建設に大きな投資が必要で、回収までには時間がかかる。短期間で回収できるものではなく、基本的には数十年単位のビジネスだ。
だからこそ、保有し続けるだけでなく、タイミングを見て売却し、一気に回収した資金を次の投資に回す。こうした資金循環ができる点が、「回転ビジネス」と呼ばれる所以であり、実際に有効なやり方だと思っている。

周:今のNTTデータでは、経営面で一番稼いでいるのがデータセンター事業か?

岩本:単年度の利益ベースで見ると、確かにかなり稼いでいる。利益水準は高い。ただし、投資総額の回収という観点で見ると、必ずしも効率が良いとは言えない。まだ本格的な回収期に入っているわけではないからだ。
とはいえ、周先生がおっしゃる通り、今はAIブームの真っただ中で、データセンターはどれだけ作っても足りない状況にある。需要が供給を先行しているので、その意味では非常に良い局面にあるのは間違いない。
 不動産ビジネスも同じだが、良いものを作っても回収が遅いとCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)が長くなり、投資額ばかりが膨らむ。もし借入金でそれを賄っていれば金利負担が重くなり、経営的にはかなり厳しくなる。だからこそ、投資と回収のバランスをきちんと見極めることが重要だ。

周:イーロン・マスクは、テスラの自動運転という物理的なAIの応用を展開する為に巨大なデータセンターを建てている。さらにいまや自前のデータセンターに詰め込む半導体の開発まで手がけている。ビジネスの連続性と完結性にものすごくこだわっている。これに対してNTTデータはデータセンターをコア・コンピタンスとし、AIにおけるインフラとして整備して売るモデルだ。
私は、2020年12月19日東京経済大学創立120周年記念シンポジウム「コロナ危機をバネに大転換」 特別Sessionで、武田信二TBSホールディングス会長、鈴木正俊NTTドコモ元代表副社長の両氏と対談した(【激論】武田信二・鈴木正俊・周牧之:コロナ危機で加速する産業のデジタル化 を参照)。
 同対談で私は、同じ通信業者でありながらNTTとAT&Tの対極的な事業展開を紹介した。NTTが4兆円を投資し、ドコモを完全子会社にしたのと対照的に、AT&Tが2018年に854億ドルを投入し「Time Warner」というメディアのコングロマリットを傘下に置いた。さらにこの傘下の「HBO」というケーブルテレビの放送局をベースに、「HBO Max」というOTT事業を立ち上げた。通信業者のAT&Tが傘下にコンテンツメーカーを置き、OTTで配信する横展開戦略だ。これに対して武田さんは、NTTが TBS を買収したらどうなるか、と切り出した。これを受けて、もしNTTがAT&Tのように放送局の買収に乗り出せば、Netflixやアマゾンプライムのような大きなOTTプラットフォームが日本でも出来た可能性がある、との議論になった。
 結局、産業大変革の激動の時代に、巨大な資本力を持ちながら、NTTはそうした思い切った横展開をしなかった。平成元年、1989年時価総額世界一だったのがいまや同220位に転落した。さまざま原因はあると思うが、横展開を積極的にしなかったことも一つの原因かもしれない。
 若い時読んだ、フランスの名作『赤と黒』を思い起こす。処刑直前の主人公ジュリアン・ソレルが、踏みつけられる蟻の気持ちを味わう箇所が強烈だった。急激なイノベーションによるパラダイムシフトの中で、蟻のように踏み潰される企業がたくさんある。誰に踏まれ何故踏まれたのかもわからないまま只潰されていく。これを乗り越えるにはひたすら学び、自身の思考力を時代に追い付かせるしかない。
 その意味ではきょう、この大変革の時代の中で、大変な業績を上げた経営者たる岩本さんのゲスト講義は、未来を見据えるための知識とインテリジェンスが満載だった。


プロフィール

岩本 敏男(いわもと としお)
NTTデータグループ元社長

1976年日本電信電話公社入社。2004年NTTデータ取締役決済ソリューション事業本部長。2005年NTTデータ執行役員金融ビジネス事業本部長。2007年NTTデータ取締役常務執行役員金融ビジネス事業本部長。2009年NTTデータ代表取締役副社長執行役員パブリック&フィナンシャルカンパニー長。2012年からNTTデータ代表取締役社長を務め、海外でのM&Aなどを進めて2018年には売上2兆円を突破した。同年NTTデータ相談役に退き、保健医療福祉情報システム工業会会長に就任。2019年日本精工取締役、IHI監査役。2020年大和証券グループ本社取締役。2022年JR東日本取締役。2023年三越伊勢丹ホールディングス取締役。