■ 編集ノート:いまから16年前、2010年の金融危機を乗り越え、中国は世界経済の牽引車となった。当時は中国経済規模が日本経済のそれを超えたところで、アメリカを始め国際的にも「中国期待論」が高まっていた。そうした中、日本と中国の経済政策のキーパーソンが東京で一堂に会し、真摯に議論した。中国の60年の来し方を辿りながら日本、中国そしてアジアの新しい方向性を展望した。16年後の2026年現在、中国経済規模は日本経済の4.5倍前後にまで成長した。。今日の米中関係、日中関係に照らし、往時の議論を振り返る。

東京経済大学創立110周年記念
「次の10年」を考える環球国際シンポジウム
~ 東アジア改革の行方 ~
■ Session 1 ■ 「第三の三十年 中国の行方」
司 会 周牧之 東京経済大学教授
パネリスト 楊偉民 中国国家発展改革委員会秘書長
胡存智 中国国土資源部総計画師
杉本和行 東京大学大学院教授、元財務事務次官
安斎隆 セブン銀行会長
髙木勇樹NPO法人 日本プロ農業総合支援機構副理事長、元農水事務次官
(肩書きは当時)
日時 2010年10月1日(金)10:00~18:00(開場9:30)
会場 六本木ヒルズ森タワー アカデミーヒルズ49

■ 第三の三十年をどう迎えるか?
周牧之:きょうは新中国の第61回目の誕生日です。
ここで過去の60年間を振り返りながら次の30年を展望することは、特別な意味があると思います。新中国のこれまでの歩みを、ざっと計画経済の30年間と改革開放の30年間に分けてみます。最初の30年間は計画経済の総動員力を発揮し、侵略と内戦で疲弊した中国は一定の産業力と国防力を身に付けました。米ソ両スーパーパワーにも屈しない独自の国のあり方を貫きました。もちろん人民公社や大躍進のような試行錯誤や、文化大革命のような政治運動に翻弄された時期もありました。第1の30年、中国は厳しい国際環境の中で生存権を確立しました。しかし、経済の活力を失ってしまいました。
第2の30年間は改革開放で、これまで閉じ込められていた活力が一気に吹き出しました。グローバリゼーションとIT革命の大チャンスにも恵まれ、瞬く間に「世界の工場」となり、今年はさらに日本を超え世界第2位の経済大国となりました。
しかし、第2の30年間は負の遺産も残しています。第1の30年間でかなり平均化された中国社会が一瞬にして階層社会・格差社会に変わりました。特に国民を農村戸籍と都市戸籍に分ける戸籍制度によって、億単位の農民工と呼ばれる出稼ぎ労働者が都市、特に大都市で、制度的に定住できない深刻な社会問題をもたらしました。こうした戸籍制度の上につくられた社会保障制度や医療制度なども、さらに社会的な分断に拍車を掛けました。
これからの第3の30年間はまず分配、そして再分配をより平等、かつ公平に行う必要があると思います。さらに、戸籍制度などの改革を通じて分断された社会をユニファイしなければなりません。
また、急速に進んだ工業化や都市化は、中国に水やエネルギー、そして土地をはじめとする資源利用量を急拡大させています。これに環境問題や地球温暖化による気候変動が加わり、資源と環境の制約が中国に大きくのしかかっています。中国はこうした環境と資源の制約に対応した成長モデルに転換しなければなりません。
急速な都市化は人々のライフスタイルも大きく変化させています。深圳は、30年前には一介の小さい村に過ぎませんでしたが、今や一千万人級の超大都市へと変貌しました。上海浦東地区は、20年前はまだ草ボウボウの荒れ果てたエリアでしたが、今や世界屈指の金融センターとなっています。30年前に中国人はほとんど私有財産を持ちませんでしたが、今ではマイカー・マイホームの生活を手に入れる人も増えてきました。自転車王国も一瞬にして自動車大国へと姿を変えました。しかし、マイホーム・マイカーの上に成り立つ中国の都市社会は、今は渋滞、大気汚染などに苦しんでいます。マイカー・マイホームの夢を実現した人々が幸せに暮らしているとは必ずしも言い難い状況です。高密度・大規模都市社会をいかに構築していくかが、中国の経済、そして人々の幸せを左右しています。

周:今年の6月に中国人民出版社から、きょう私の隣に登壇されている楊偉民さんと私が主編を務め、『第三の三十年 中国のニューディレクション』という本を出しました。きょうの他のセッションにご登壇予定の周其仁さんや杜平さんなどと一緒に議論してつくったこの本は、中国の新しい方向性を探るものです。この本の出版記念環境国際シンポジウムにおいて、きょう登壇している杉本さん、そして第2セッションの司会を務める平野さんらとご一緒して北京で同じテーマで一度議論してまいりました。きょうはさらにここでこのテーマで、胡存智さん、安斎さん、高木さんに加わっていただき議論を深めてまいりたいと思います。
まず、1人ずつ7分間前後スピーチしていただいて、その後議論を交わしていきたいと思います。それでは、楊偉民さんから7分間お願いいたします。

■ 中国が直面する課題と新しいディレクション
楊偉民:先ほど周先生のおっしゃった通り、中華人民共和国は既に二つの30年間を歩いてきました。第1の30年は、自力更生で初めて比較的に完備した工業システム及び国民経済体制を作り上げました。第2の30年は、改革開放で持続的な高度経済成長を実現できました。この30年間では、中国経済の平均成長率が9.8%で、今年の国内GDPが38万億元に達するとの見込もあります。一人あたりのGDPも4000ドルを超えますが、1人当たりGDPがまだ日本の10分の1でしかないです。世界銀行の基準によると、中国は既に中等収入国家の仲間入りをしたことになりますが、まだ低い水準レベルで中等収入国家の下位に位置しています。これからは第3の30年に入りますが、これからの30年間も安定した持続的で健康な経済発展が遂げれば、30年後の中国が初歩的に繁栄、富強、文明、調和的な近代化国になれると思います。このような目標を実現するには、これからの30年の道を如何に歩くべきかが一番重要な課題です。カギは我々の経済発展モデルの転換にあります。今年の初め頃、中国ではある重要な研究会が開かれました。各省の指導幹部、各部の部長及び中央の指導幹部が参加し、これからの中国経済発展モデルの転換加速の基本方針について議論しました。それは我々がある一致した基本認識を持っているからです。今回の国際金融危機のうわべだけ見れば確かに中国の経済発展速度に衝撃を与えました。中国経済の成長率は2007年の13%から2008年の9%へ、一気に4%を下げました。我々の経済発展モデルに問題がある、つまり我々自身の経済発展体制が病を患っているから、このような外来の寒流(衝撃)で風邪を引いて熱が出たのではないかと認識しました。ですので、積極的に金融危機に対応しながら安定した高度経済成長を維持すると同時に、中国政府も経済発展モデルをどう転換し、経済体制をどう調整するか研究し続けています。
長い目でこれからの30年について見れば、私は以下9つの転換が非常に重要だと考えています。①供給増加から、需要拡大への転換を図ること。今までの中国は製鉄・自動車の生産能力の拡大で経済成長を促しました。現在、中国の製造業の生産能力は既に日本を超え、世界第2位のレベルまで大きくなりました。しかし、我々自身ではこれほどの生産量を消化できず、大量輸出を図らなければなりません。ですので、これからの30年は、積極的に消費需要を拡大すべきです。②外需依存型から、内需依存型への転換を図ること。言い換えれば、これからの中国経済は、中国国内の需要に支えられた経済成長への転換を図っていく必要があります。中国は発展途上大国として、この面で大きな潜在力を持っています。さきほど周先生もおっしゃいましたが、現在、中国の需要拡大は順調ですが、実際に3億余の半都市化人口の需要がまだ放出されていません。③エネルギー源及び鉱産物資源への投入から、人材や技術革新への投入への転換を図ること。労働力資源の豊富さ、労働力人件費の低さが我々の競争優位ですが、今後の5~10年間では中国が労働力のターニング・ポイントに差し掛かるかもしれません。人口の増加がまだ最高値に達していませんが、繰り上げて労働力のピークを迎えることになります。そうなると、過去の無限に労働力を供給できる環境が消え、存在しなくなります。④モノや土地の高度化によって、農民工の都市化への転換を図ること。この30年間、都市化発展のスピードが早く、例えば深圳は「無」から「有」へと変貌し、上海浦東新区は一面の稲田からビルが立ち並ぶ金融センターとなりました。但しこのような都市化発展の中、3億余の農民工や農村人口の消費需要がまだ満たされておらず各種の権利もまだ保障されていません。需要拡大はこの層の人々の需要を満たすことです。それが将来の中国経済成長を支えることになります。⑤行政区経済から、主体功能区の推進への転換を図ること。現在の中国経済発展速度は、一つひとつの地方がそれぞれ独立した経済体となって競争し合う体制に大幅に依存しています。これは経済成長を促進しましたが、資源・環境・生態等面で各種の問題ももたらしました。⑥高炭素経済から、低炭素経済への転換を図ること。中国は「第11期五カ年計画」でGDPの1単位につき20%のエネルギー消費量を減らす目標を挙げました。今現在のところ、この目標を実現するのは難しいですが、今後半年近くの努力で一定の目標を実現することができると信じております。この5年近く、高経済発展スピードによりエネルギー消費総量の増加スピードも上昇しました。次の5年、10年は如何にエネルギーの消費を抑え、二酸化炭素の排出を減らすかを考えています。⑦環境破壊と共に成長を遂げるのではなく、環境と友好な関係を作りながらの発展へと転換を図ること。⑧格差拡大の成長から、格差を徐々に是正する成長への転換を図ること。⑨政府主導の経済成長から、市場配置資源主導の経済成長への転換を図ること。以上です。
周:ありがとうございます。中国が直面している課題と新しいディレクションを非常に簡潔に示してくださいました。
それでは、胡存智さん、7分間お願いいたします。

■ 中国土地制度改革の方向性
胡存智:来賓の皆様、中国土地制度のこれからの行方について手短に述べさせて頂きます。現在までの所、中国の土地制度は比較的に成功していると言えます。専門家の皆様及び関係有識者は、中国過去30年間の高度経済成長の中、良い土地制度がなければ今のような見事な成果を収めることができないと中国の土地制度を高く評価しています。
まず土地制度について簡単に振り返ります。中国土地制度は1949年に新中国の建国の際まで溯り60年の歴史を持っています。この60年間、中国土地制度は以下のような歴史過程を経てきました。所有権制度から見れば、封建地主所有の土地制度から農民個人所有制へ、最終的に集団所有制と国家所有制へと移り変わりました。管理方法から見れば、計画経済手段から段々と市場経済手段へと変わり続けています。このような歴史的な変化は、概ね次の幾つかの段階に分けることができます。①1949-1952年、封建地主所有制から農民土地私有制と変わりました②1953-1957年、社会主義改造を通して農民土地私有制から集団所有制と一歩一歩変わりました③1957-1977年、農民土地私有制から農村土地の集団所有制へ段々と変わりました④1978-1986年つまり中国改革開放の30年間で、都市部から見れば、主に本来の土地無償使用から有償使用に変わりました。農村部から見れば、改めて生産責任制へ取って代わり、かつ農民が自分の土地で家屋を建てることも認められるようになりました。加えて1982年に制定された憲法は、「都市部の土地は、国家所有に属する」と初めて明確に宣言し、中国の土地制度の基本基礎を定めました⑤1987-1994年、土地改革が活躍期に入り、国有土地の所有権と使用権が分離されました。つまり市場経済需要に応じるため、国有土地が市場で取引・譲渡・貸出・抵当できるようになりました。この時期に土地管理法も制定されました。1994年になると、都市部の国有土地が基本的に計画経済管理手段から市場経済管理手段へと変わりました⑥1995-2010年、今実施されている土地管理制度が生まれました。1998年に中華人民共和国土地管理法が再び改正されました。つまり、農村耕地を厳格に保護し、建設用地を確保すると同時に市場化の方法で土地を配置することが確立されました。この段階では、農村の集団所有土地をどう国有土地にするかという土地徴用制度改革のスイッチも入りました。
我々は中国の今後30年の土地改革に大きな望みを託しています。2007年末の中国共産党十七回三中全会では、土地管理制度の改革を一層推進し、所有権の明確・使い道の管制・節約集約・厳格管理の原則で土地を管理すると提唱しました。
今後30年の土地改革は主に次のいくつかの特徴があります。1.土地の所有権制度を一層整備すること。主に都市部土地と農村部土地の所有権が同等な機能を持つように一致させることです。農村部の土地が譲渡できなくなります。2.土地に近い箇所の管理制度を強化すること。土地所有権を明確にした後に土地の用途を厳格にコントロールしなければなりません。つまり、農村部の土地を任意に建設用地として使ってはいけません。同時に、地域発展及び城郷建設を促進するため、きちんとした空間構造計画立てなければなりません。3.統一された城郷市場を作ること。現在では都市部と農村部の土地市場が離れていますが、これらを統一する必要があります。4.一層集約的・節約的に土地を使用すること。このことについては、日本の集約的・節約的な土地利用方法を学ぶことに力を入れるべきです。各種の経済・法律・行政の手段を使い、わずかな土地でも利用できるように土地を節約することです。5.土地の経済関係を一層調整すること。主に土地の利益分配関係を三つの点で調整する必要があると考えています。(1)現在実施されている土地税費体系の調整(2)中央と地方の土地収益分配関係の調整(3)土地徴収後補償関係の調整、以上です。
周:胡さん、ありがとうございます。胡さんは今、中国で最もホット、かつ最もデリケートな土地問題を非常に簡潔に整理し、改革の方向性を示してくださいました。中国の急激な都市化とすさまじい勢いのインフラ整備が実現できたのは、公有制、土地制度があったからです。しかし、この土地制度にも大きな問題があり、土地所有者の権利が非常に弱いと同時に、低開発・難開発をかなりもたらしています。新しい土地制度改革のディレクションが中国の経済、そして都市のあり方の新しいモデルをかなり左右すると思います。
それでは、次に杉本さん、お願いいたします。

■ リーマン・ショック後世界経済の環境変化と課題
杉本和行:はい。東京大学大学院の杉本と申します。よろしくお願いいたします。私は本日、3つの点について述べたいと思っております。第1点は、リーマン・ショックからちょうど2年たちましたけれども、いわゆるポストクライシス、リーマン・ショック後の世界経済を安定的に発展させていくために、中国、日本をはじめとする東アジア経済が果たすべき役割でございます。第2点は、リーマン・ショックで明らかになりましたように、これから世界経済における通貨・金融の役割をどう考えていくか、アジアにおける人民元、日本の円の役割についてもどう考えていくか、について述べたいと思っております。第3点目は、財政・税制を背景とする社会保障をはじめとします制度的なインフラストラクチャー、こういうものについて今後どういうことを考えていくべきかです。以上、3点についてお話ししたいと思っております。
先ほどからお話がありますように、リーマン・ショックに至ります10年は、世界経済にとって非常に順調な時代でございました。リーマン・ショックに至る前の10年、1998年から2008年までの世界経済を考えますと、世界のGDPはその10年間で2倍になっております。その間、中国経済の規模は4.5倍ぐらいの大きさに成長したわけでありますし、アジアの経済規模も3倍以上の大きさになっているわけでございます。同時にそのときの貿易量を考えてみますと、98年から2008年までに世界の貿易量は実に3倍になっておりますが、中国の輸出・輸入を平均しました貿易量は実に8倍という状況で、世界経済が大きくなる中で、中国は貿易量が非常に大きくなって、今の経済発展につながったということであります。
2000年代の初めからリーマン・ショックまでは、世界的にグレート・モデレーションとも言われる時代でございまして、世界経済が安定的に大緩和の時代というのでしょうか、グレート。デプレッション(大恐慌)の逆でしょうけれども、非常に安定した時代でございました。その背景にありますのは、やはり自由な物、金、サービスの移動が確保されたということでありまして、それを背景に中国経済は大きく発展してきまして、今やGDP で世界経済第2位のレベルにまで大きくなってきたわけでございます。
そういたしますと、今度は中国経済と世界経済の関係はまさにいわば互恵の関係でございまして、中国経済が逆に世界経済のインフラを引っ張っていかなければいけないと思います。自由な物の移動、自由なサービスの移動、自由な資本の移動を背景に世界経済が発展してきて、それで中国経済も発展したわけでございますから、今後そういった世界経済のインフラ、自由でかつ保護主義に走らない、物の移動の制限をしない、お金が自由に動いていくような、そういったものを逆に世界経済2位になりました中国が保障していくといいますか、担保していくようなことが必要ではないかと思うわけでございます。
世界経済は結局、リーマン・ショックに至る前までは、アメリカ経済の消費過剰構造に依存することによって発展してきた面がありまして、その矛盾がある意味では吹き出たのがリーマン・ショックだったわけでございますけれども、そういった面からも、中国経済はこれからは、楊さんの話にもありましたように、内需、特に個人消費に支えられた経済への転換を図っていく必要があると考えられるところでございます。経済発展パターンの転換は、楊さんの話にありましたように、中国においても追求されているところであります。
1つの統計によりますと、2020年にはアジアの消費は日本の消費の約4.5倍になるという数字もございます。現状では日本の消費は中国の消費の2倍近くあるわけでございますが、20年後には中国の消費は日本の消費を抜きますし、大きく上回りましてアジア最大の消費市場になると見込まれておりますし、先ほど申し上げましたように、アジア全体の消費は日本の消費の4.5倍にもなるということでございますので、アジアの内需をどう考えていくかが非常に重要になってくるわけでございます。そのためにもアジア全体のつながりの強化を図っていくのが大変重要な課題と考えておりまして、この課題に向けて一歩ずつ歩を進めていく必要があると思っております。そういった意味でも、アジア全体のEPA、FTAという自由な体制をつくっていくことは非常に重要でございまして、まずは日中間のFTAの進捗が望まれるところであります。
2つ目は金融の問題でございますが、リーマン・ショックで明らかになりましたように、世界にとって金融のインフラが非常に重要な役割を果たしているということでございます。中国経済がこれだけ大きくなりますと、中国の人民元、それから世界3位になりましたけれども日本の円、こういったものがアジア市場において果たす役割は非常に重要になってくると思います。中国経済の世界的な地位に応じた人民元の役割がどんどん推進されていかなければならないと考えております。そういった意味におきましても、人民元がある意味ではもっと広く使われ、かつ交換可能になっていく道筋を追求すべきものだと思っております。アジア経済において、人民元、それから日本の円がいわば車の両輪になって通貨体制を支え、かつ貿易体制、お金の面を支えていく体制が必要ではないかと考えているわけでございます。そういった意味でも、アジア全体で債券市場をつくっていくアジア債権市場育成イニシアティブ、それから通貨間のスワップ網でございますチェンマイイニシアティブ、こういったものを拡充していき、日本円、人民元の役割拡大を目指すべきではないかと考えているところでございます。
それから3つ目は、社会的なインフラの関係でございます。先ほどからお話がありますように、労働人口の高齢化という話は、日本のみならず中国、タイにおきましても、東アジアの国におきましても重要な話でございまして、日本の生産労働人口がピークアウトいたしましたのは1990年の半ばだと思いますけれども、中国におきましても、この10年でおそらく労働人口がピークアウトしまして、いわゆる「人口ボーナス」がなくなっていく状況になっていくのだと思います。
それと中国国内の所得格差の問題等々を考えますと、社会保障制度をどういうふうに構築していくかは、ある意味でわが国だけの問題ではなく、アジア全体の問題ではないかと思っております。持続可能で、かつサスティナブルな社会保障制度をどういうふうに確立していくか。それはアジア経済にとっても非常に重要なことであります。国民生活の安定を図りながら、先ほど申し上げました、消費量が拡大する中で国民生活の充実を図っていくという意味でも、社会保障制度をどういうふうに考えていくか。さらには、国と地方の関係を考えましても、中国におきましても地域間格差が非常に大きなものでございましょうから、国と地方の格差、中央と地方の格差をどういうふうに考えていくかということも重要な課題であると考えております。こうしたことについて一歩一歩努力を進めていくことが、今後の世界経済にとって非常に重要なことだと考えております。私からは以上でございます。
周:ありがとうございます。中国が大発展できた世界経済の環境、リーマン・ショックによって何がどう変わっていったか、さらに中国の経済発展モデルのシフトやFTAの重要性、人民元と日本円の役割の重要性、社会保障制度の整備の重要性などを具体的に示してくださいました。
次は、安斎さん。

■ 平和の重要性、謙虚の大切さ
安斎隆:お3人によって明快なお話がありました。皆さんお疲れでしょうから、ちょっと軟らかい話をしたいと思います。私、中国経済を見てもう37年になります。第1の30年のうちの7年と第2の30年です。文化大革命、大躍進について、周先生はあのように分析しましたけれども、私は最初の30年は国家統合のための努力であって、経済的にはほとんど発展していなかったように感じます。
生産増強といって鉄鋼生産を増やすというと、泥でつくった溶鉱炉に自分が住んでいる家の屋根の鉄板を持っていって溶かして、ゴロゴロの黒い鉄の塊をつくるという状態でした。そういう中で、「鄧小平打倒」といったような激しい運動をしました。そういう中で外貨準備も枯渇し飢饉が起こり餓死者がずいぶん出ていたが、穀物の輸入すらできない。そういうときに、中国は自力更生の中でどのようにして生き延びていくかという状態でした。一種のごまかしですけれども、借金できないなら外貨預金を受け入れてはどうか、借金できないなら設備投資するときにリースで受けなさい、あるいは信託という制度もあるので毛沢東にはそういう説明をしたらどうかと先方に教えていました。そしてその危機を乗り越えました。それから間もなく鄧小平が登場してまさに改革開放、これが大成功したから今日あるわけです。もっとも第2の30年のうち10年位はその成果はほとんどなかった。1990年代の前半に鄧小平が南巡講話をした。南に行って、発展できる所から発展させるよう、なんでも平等ではなくてよい、そういうふうに発展させていくのだということがありました。
そこで、私も市場経済化の中で金融面のお手伝いをしました。そこで分かったことは、まさに共産主義のやり方では経済は発展しない。象徴的なのは、物の売買をしても国有企業同士ではお金での決済をしていない。決済は、個人に賃金を払うのと個人が物を買うところにしかない。要するに規律のない売買ということなのですね。それから、償却制度がないです。もうけるという概念がないからです。そうすると、設備が摩耗したときには借金がさらに増えてくる。要するに国民の貯蓄という資源を無駄遣いしていく。こういうことが分かりました。こういうのを直していくということです。この改革開放の部分が今日のものすごい中国の発展をもたらした。ですから、ここ十数年のことだと思います。
また、ここにはいい条件がありました。それは世界が平和であったのです。それは冷戦構造が崩壊した。これは、経済が発展するために平和がいかに重要かということを物語っています。平和でなかったら経済取引はしぼみます。民間の資本は自由に動きません。心配で心配でならないとなったら動きません。経済は発展しない。さらに、ここにアメリカという基軸通貨国が、われわれにとっては幸いですけれども、高慢な経済運営をしてくれます。借金して消費する、輸入して経済を発展させる。われわれ日本もそうですけれども、中国もまさにこれに乗ってきたのですね。
しかし、これが立ちゆかなくなったのは、あのサブプライム問題であり、それからリーマン・ショックです。今、私は自由主義諸国の市場経済が方向感のない状態に入っていると思っております。そういう中で直ちに脱出できたのは中国でございます。4兆元の財政支出、これは公的資金がすべてではありません。それから、民間貸出による支えです。そうすると、中国経済はまったくデ・カップリング、いわゆる自由主義市場経済とはまったく別のいき方ができるのか、という希望を持たせてくれました。まさに今そういう状態になって、自由主義諸国がなんか底を打ったような感じがしているけれど、次のステップにいけるという自信をどこの国も持てないでいる状態だと思うのですね。そういうときに、中国はこういう世界の中で本当に今までのような状態を続けられるだろうか、という局面にあると思います。
そういう意味で、私どもも経験しましたけれど、本当に調子いいときは傲慢になります。日本経済が今日の状態になったのは、1980年代後半における傲慢さの結果です。それから、アメリカがなぜああいうふうになったかというと、いろいろな冷戦構造の崩壊の中で世界はアメリカの経済発展に依存しながら生きていく、基軸通貨の思うとおりにいくという傲慢さの結果、あのサブプライム問題が起こり、そして今日の停滞があるのですね。苦悶している。ですから、中国は絶対アロガント(傲慢)にならないで、次の10年をどういうふうにしていくかということを考えなければいけない。しかも、世界全体の中での責任が増してきています。経済は相手あってのものです。自分だけが良くなるということは絶対あり得ないのです。ですから、楊さんはまさに発展局の中心人物ですからそういうお考えでぜひやっていただきたい。こういう要請をして私のプレゼンテーションは終わります。(笑)
< 拍 手 >
周:ありがとうございます。 長いおつきあいの中で、 安斎さんはいつも僕に自慢話を2つされます。1つは、「お前の生まれる前の中国経済をおれは知っている」(笑)、もう1つは、「オレは長年中国に経済のアドバイスをしてきた」です。だから、中国経済発展にもし重大な問題があるとしたら、安斎さんに重大な責任があります(笑)。きょう安斎さんはまた、平和の重要性、謙虚の大切さをおっしゃってくださいました。ありがとうございます。
次は、高木さん、お願いいたします。

■ 農業問題、農村問題、農民問題にどう向き合うか?
髙木勇樹:高木でございます。よろしくお願いいたします。安斎先生は大変軟らかいお話で分かりやすくお話しになりましたが、私これまで携わってきたのが農政といいますか、農業、農村、食料の問題なので、ちょっとまた堅い話に戻させていただきたいと思います。
先ほど楊先生、胡先生のおっしゃったことに、おそらくアジアだけではなくて、世界全体が中国の農業、農村、そしてまた食料に対するいろいろな政策はどうなのか、これが大きくかかわっているのではないかと思います。中国においても「三農問題」ということで、ここのところ1号文献には農業の問題、農村の問題、農民の問題が非常に重要な問題として取り上げられているのはそういうためではないかと思います。今や中国は世界で4番目の食料輸入国で、5番目の輸出国です。そういう意味でも、これからの経済発展、それから13億という巨大な人口を考えれば、世界、アジア、そういうところにおける食料問題に大きく影響している。もちろん日本という国との関係においてもそうであります。先ほど、楊先生は今後の発展上の問題を指摘されましたし、胡先生は土地問題を指摘されました。私はそう詳しいわけでございませんが、改革開放以来、今日までに1200万haの農地が減少したという統計を承知しております。1200万haは日本の農地の2.5倍ぐらいにあたるわけで、大変大きな面積であります。
先ほど、土地問題のお話がありました。生産力の基盤は農地でございますから、この農地を中国がどういうふうにこれからの10年の中で維持し、そして効率的な農地利用が行い得るようにしていくのか、そしてその上にいわゆる農地の使い方、より使いやすいようにということになるのか、ということです。例えば農業をやる場合には資金が必要です。資金を借りることになれば普通は担保が必要ですね。今の状況ですと、農業者が資金を借りようとしてもなかなか担保という形で農地を提供するのは難しい。いろいろな問題があるようでございまして、そういう意味でも、これから農業を発展させて、そして世界の食料・アジアの食料問題に大きなかかわりをもたれている中国が食料問題について非常に大きな責任を果たしていかれる。そのためには農地をどういうふうに使いやすいものにしていくか、農地問題は非常に重要だと思います。
もう1つ、先ほどのお話の中にもありましたけれども、農村の問題でございます。これは農村と都市の格差の問題だけではありません。農村においてのいわゆるインフラであり、水の問題や所得格差もあります。いちばんの問題は、先ほどちょっと農民工のお話がありましたけれども、農村から非常に若いといいますか壮年者を含めて農業を担う方々がかなり都市に出ているということは、これから農業を近代化していく、効率化していくときに、担い手が脆弱化している。この問題を人の問題として、これから中国においてどう全体的なバランスをとりながら対処していかれるのか。これは先ほど申し上げましたように、世界・アジアの食糧問題に非常に大きなかかわりをもっていくと思います。
最近、東アジアで1つの動きが出てきています。それは、共通の食料資源であるコメについて、東アジアの米備蓄構想が現実化してきておりまして、中国も二十何万tとか、日本も20万tとか、それぞれが拠出しあって、いざというときのために共通の食料である米を備蓄しておく動きが出てきております。こういう動きはさらに先ほどのお話にみんな関連していくわけですが、東アジアおよび世界の食料を考えたときに、非常に重要な1つのやり方だろうと思っております。
いずれにしても、中国の農業、農村、食料にかかわるいろいろな政策は、制度を含めてこれからの10年、30年というタームでアジア、そして世界全体――日本はもちろんでございますが――が大きな影響を受ける。このへんについての先ほど来のお話が政策として明確に示されていくことが非常に重要かなということで、私の最初のお話にさせていただきます。ありがとうございました。
< 拍 手 >
周:ありがとうございます。中国のもう1つホットかつデリケートな三農問題、いわゆる農業問題、農村問題、農民問題に関してアドバイスと提言をしてくださいました。高木さんもこれまでいろいろな場面で中国の農業・農村行政にアドバイス、提言をしてくださっています。ありがとうございます。

■ 社会の公正・安定と経済発展の両立を如何に実現するか?
周:続いて、分配と再分配について皆さんに伺いたいです。中国の次の30年を考えますと、まず分配と再分配の話は避けて通れません。今年になって、中国では労働者によるストライキが頻発しています。特に日系企業のストライキは日本でも大々的に報道されています。その報道のほとんどがストライキをネガティブに捉えていますが、しかし私にとっては長い間待ち望んだ状態が中国でようやく現実となってきたと思えるのです。
なぜかというと、30年間の高度成長を続けてきた中で、中国では労働分配率が向上するどころか、むしろ下がってきています。労働者は高度成長の恩恵に十分あずかっていません。これは労働運動が行われず、不健全な労使関係が長く続けられてきたことにかなり由来しています。ようやくストライキができるような時代になったことで、労働者の権利や労働条件が徐々に改善されると期待されます。こうしたことは、社会の公正・安定に寄与すると同時に、中国の経済発展が輸出依存型から内需依存型にシフトしていくためにも不可欠です。分配と再分配に関して、お一人2~3分ずつお話をお願いします。楊さんから。

楊:これは経済問題だけではなく、同時に政治・社会問題であり、目下民衆が特に関心を持っている問題でもあります。第一次分配から見れば、どう調整するのかが激しい議論を呼びました。議論の焦点は、政府と企業、どちらが利益を減らすべきかにあります。政府の税金収入が多いため、政府の利益を減らすべきではないか、というのが一部の産業界の考えです。中国の現状から見れば、政府の収入割合が減ると、中西部及び多くの貧困地域で社会保障、医療衛生体制の確立にとって極めて不利になります。全体的に見れば、90年代以降企業と労働者の間の分配関係が逆転しました。つまり企業の収入割合が次第に上げ、労働者の収入成長率が比較的鈍くなって来ました。日系企業だけではなく、国内の一部企業でも、労働者が自分の合理的な報酬を求めるため活動する動きが出てきました。もちろん中国政府としては、このような激しいやり方を望んでいません。報酬集団協議制度を呼び掛けています。つまり、企業、労働者、組合が落ち着いて協議しながら問題を解決していくことです。全体の方向性から見れば、労働者報酬の引き上げ問題は避けられないと思います。
周:ありがとうございます。胡さん、お願いいたします。
胡:これからの30年は、三つの問題を解決しなければならないと思います。1.政府と農民の間で、土地徴収過程に生じた土地価値上昇利益の分配問題です。今まで農民側の分配額が少なく、このような実践結果はあまり望ましくないため、将来の改革方向として第一次分配時に農民への分配額を上げるべきです。2.現在の土地市場や不動産市場で、中国も日本の当時の「不動産バブル」の問題を持っています。ですので、不動産開発側と所有者の間にどう合理的な利益分配をできるかは、考えるべき問題です。3.政府と不動産所有者の間の価値上昇の面での分配問題です。
周:ありがとうございます。それでは、杉本さん。
杉本:中国の経済に占める個人消費の割合はだいたい35%ぐらいではないかと思うのですけれども、日本ですと60%弱だったと思いますし、アメリカは70%に近いようなのが国民経済に占める個人消費の割合だったと思います。そういう意味で中国の個人消費が経済に占める割合はある意味では相当低いわけでございまして、経済が安定的に発展していくためにも、個人消費のウエートを高めていくことは中国経済にとって大変大きな問題だと思います。現在のように投資が経済の非常に大きな部分を占めているのがいつまでも持続可能かどうか、という観点からの問題であると思います。そのためにも、労働の分配率を高めていくことは非常に重要な課題ではないかと考えております。そのやり方はいろいろあるので、賃金という面もあるでしょうし、あとは社会保障という面もあると思います。
振り返ってみますと、日本で国民年金制度ができ、国民健康保険制度ができて、国民皆年金、国民皆保険の制度が整ったのは1961年(昭和36年)でございます。そのときはまだ東京オリンピックの前でありまして、今、中国は北京オリンピックを終え、上海万博をやったわけでございますので、その発展段階をもう超えているわけでございますから、当然きたるべき高齢社会、人口構造の変化に向けて社会保障制度をきちっとつくっていく。それによって分配という問題をその面からも考えていくことも重要になっていくのだと思っております。
周:ありがとうございます。それでは、安斎さん。
安斎:そうはっきりした定見があるわけではないですけれども、世界第2位になり、しかも今発展しているのは自分の国だけだという、民衆の意識は相当大きな変化をしてきていますよね。このこと自体は、行政というか国家にとっては、これから先は今までのような調子での発展モデルではなくなる、ということだけははっきりしております。だからといって楊さんのところがメチャクチャ計画経済的なものを高めると、これは活力が落ちてきます。
そういう意味で私は、これまでの――はっきり言うと十数年――この発展モデルをこれから先はどのように変えていくか。これについては私自身も定見はありません。周先生は、労働組合によるストライキは今まで分配率が低かったから当然だとおっしゃっている。しかし、今までのやり方からそういうやり方にした場合に、中国の競争力は落ちてもいい、二兆数千億ドルの外貨準備があるのだから、それを使い果たすならやってもいい、そういう考え方もありうると思いますけれども、そうした場合、世界の中国に対する目はまた違った意味で変わってきます。ここは私自身定見がないのですけれども、そこは漸進方式しかないですね。そうなる過程で成長率は落ちます。確実に今までの成長率は維持できなくなります。そのときに失業者の増大あるいは社会保障関係をどうするか。ここが最大のテーマになってくるのでしょう。
そういう意味で、日本とガチャガチャやっているような状況にはないと思います。(笑)13億の民、あるいは1億2千万の民に平和な気持ちで食べてもらう、生きてもらうのは非常に大変なことですね。しかも技術革新による成長は、今までのような技術革新とちょっと違うと思うのですね。新たな技術革新の目が出ていないのです。ですから、ここはある面で中国はどういう方向をとるのか。日本は傲慢になりすぎて、80年代の後半にはもうアメリカに学ぶことはないと言いました。そういう傲慢さがあのような結果を招来したのです。中国には、そうなった場合は大変ですよということをぜひ知ってほしいのです。だから、国民まで含めて絶対傲慢にならないと。いつでも謙虚でなければ、あの13億の民の富の格差とか不満をコントロールしていくことは極めて難しくなるでしょう。だから、本当に謙虚でなければならない。お説教して申し訳ないですね。(笑)
周:ありがとうございます。それでは、高木さん、お願いいたします。
髙木:はい。時間がだいぶ押していますので簡単にと思います。今、安斎先生もおっしゃいましたけれども、これからの30年といいますか、これからの10年といいますか、いわゆる中国がこれまで発展してきたモデルはやはり変えざるを得ないというか、変わらざるを得ないだろうと思います。それはアジアとか世界全体との関連でもそうならざるを得ないのではないか。
なぜかというと、経済を安定的に持続的に発展させることになれば、先程出た格差の問題というか分配の問題ですけれども、中国の13億の方々が基本的に都市に住んでいようが農村に住んでいようが、同じレベルの、まあ最低限の生活水準(シビルミニマム)をきちんと享受できることが、内需の拡大路線に転換するとか経済の発展モデルを変えるときに、そういう基本的な考えがやはり必要になってくるのではないかと思うのですね。
そうすると、そういう基本的な考えにたって、税制とか土地問題とか、国と地方の配分の問題とか、いろいろなことがきちんとされたうえで、おそらく制度的・政策的に出来上がる。中国がこれから安定的な経済発展に入るには、そういう基本的な考え方を持つこと、今もお持ちだと思いますが、もっと明確に持って、それを1つの物差しにしていくことによって分配問題を解決しないと、これから先のアジアの発展、それから日本との関係、世界との関係、そういうものがスムーズにいかなくなる面が出てくるのではないか、こんな感じがします。
周:ありがとうございます。皆さんから分配と再分配の重要性、具体的な方向性、そしてアドバイス、さらに警鐘までいただきました。スライドお願いいたします。

■ メガロポリスと環境保護を両立させる「主体功能区」
周:第2ラウンドの話はこれまでの延長線にあると思いますけれども、中国が工業化と都市化、そして環境や資源の制約などの問題に対処するためには、まず水やエネルギーが豊富で、しかも環境制約の少ない所に人口と産業を集中させ、もう一度ダイナミックに国の形をつくり直す必要があると思います。十数年前に、実は先ほどJICAの北野さんのご挨拶の中に出てきた話ですけれども、中国の国家発展改革委員会と日本のJICAと共同で中国都市化政策において調査を行いました。私はその調査の責任者を務め、きょうの第3セッションにご登壇する杜平さんが実は中国側の責任者でした。きょう、この会場にこのプロジェクトにかかわった日本の有識者が大勢ご来場してくださっています。
私たちは、中国の国土のあり方は資源と環境の制約の少ない所に産業と人口を集中すべきだと痛感していまして、メガロポリス構想を打ち出しました。具体的には、中国で最も水資源が豊富な長江デルタ、珠江デルタに億単位の人口を集約する巨大なメガロポリスを構築し、中国の経済発展のエンジンとすることです。この2つのデルタ地域は水資源が豊富です。それだけではなく海に直面し、大規模な輸出・輸入を行いやすく、世界大分業をベースとした工業化に非常に適しています。同時に、大規模なエネルギーや食料の輸入も実施しやすい利点があります。当時、5カ年計画策定の取りまとめ役の責任者の楊偉民さんは、われわれのチームと幾度も会合を重ね、第11次5カ年計画において、それまでの大都市抑制政策を改めメガロポリス戦略を打ち出しました。この政策転換があったからこそ、今日の中国のメガロポリスの大発展があると言っても過言ではありません。
中国では、これまでの開発による環境破壊、地球の温暖化などで痛めつけられた水資源地域、水源地域の環境改善、貯水力の強化なども急がなければなりません。中国政府は現在、「主体功能区」という政策を打ち出しまして、国土を開発高度化地域、開発重点地域、開発抑制地域、開発禁止地域の4つに分けて、開発地域からのフィードバックによって開発禁止あるいは制約地域の環境改善を図っています。このダイナミックな空間政策は、中国内陸の環境改善や所得向上には大きく寄与すると期待しています。
この政策の取りまとめ責任者も楊さんです。楊さん、簡単にこの政策のポイントを皆さんに紹介してください。その後ほかの登壇者の皆さんには、この中国の新しい空間政策、そして成長センターであるメガロポリスに次の30年どのような役割を求め、どう実現させていくか、簡単に一言ずつコメントをお願いいたします。
それでは、楊さん、お願いいたします。
楊:先ほど周先生のおっしゃった通り、我々は主に次のいくつかの点について考えて見ました。1.この30年近く、中国の農地面積の減少が多過ぎ且つ早過ぎました。多くの県、郷鎭が工業を発展させるため、大量肥沃な農地を占用したことがこの結果を引き起こしたのです。2.中国の多くの地域では、生態環境が莫大な破壊を被りました。例えば2010年8月に起きた中国甘粛省舟曲の土石流災害の原因も、専門家はこの地域の生態環境が破壊されたためと指摘しました。ですので、我々はこのような生態環境の脆い地域を安易に開発してはいけません。まさしくこのような生態環境の脆い地域での貧困人口が多く、彼らの生活水準も大変低いのです。しかし彼らがこの土地から出たら何処へ行ったらいいのでしょうか。3.中国では既に長江デルタ地区、珠江デルタ地区及び環渤海地区の3大メガロポリスが出来ています。これらの地域の開発強度は既に非常に高くなり、資源荷重能力も次第に弱くなっています。例えば先日、北京で酷い交通渋滞を経験しました。現在、北京の自動車台数は既に450万台に達し、東京の総台数と並んでいますが、東京の渋滞状況は北京より緩やかです。以上の面を総合的に考えてみれば、中国の未来空間構造を調整しなければなりません。一定の地域では中国18億haの農地を守るため農業を優先すべきです。また、国家生態安全体制を構築していきたいと考えています。「両屏三態」地域では工業化や農業化の開発を制限します。生態環境が地球気候変化を左右する重要な役割を果たしているためです。中国は東部地域の3大メガロポリス以外にも、中西部地区、長江中流地区、中原地区等で若干のメガロポリスを築き上げ、これらの地区で開発・発展を行い、内需主導型の経済区を構築していこうと考えています。長江デルタ、珠江デルタの両メガロポリスは、主に外需主導型の経済区として発展させていきます。もちろん、このような空間戦略構造を形成させるには、中国の財政、投資、土地、環境、人口、民主等の政策も情勢に応じて調整し、整える必要もあります。
周:ありがとうございます。胡さん、一言お願いいたします。
胡:中国の「主体功能区」については、先ほど楊先生がはっきりと述べました。一国の発展には、一つの科学的合理的な国家土地空間開発構造が必要とされますが、中国のこれからの30年にとってそれは最も重要な課題でもあります。先ほど楊先生が中国の「十一五計画」にも触れましたが、中国では主体功能の計画が既に立てられ、中国の発展にとって一つ大きな突破口になっています。ただそれだけではまだまだ不十分ですので、国家が一歩進んで国家土地計画を立て、つまり現在の主体功能区で戦略的な考えを一層実現できるよう、中国の生態環境、人口の荷重情況、及び生産、都市計画を合理的に配置したうえ、主体功能区の機能を存分に発揮させることができると思います。
周:ありがとうございます。杉本さん、よろしくお願いいたします。
杉本:はい。手短にコメントさせていただきたいと思います。日本におきましても、列島改造論から始まって全国総合開発計画、国土計画、都市化の問題、それから地方と大都市の問題はいろいろ苦労して考えてきたところだと思っておりますが、むしろ今は地方と大都市の格差の問題も激しくなっておりますので、そういった観点からどう地方経済、地方を考えていくのかが、非常に難しい課題になっているのだと思います。
そういった意味で1つ考えられますのは、地方間の税源格差がどうしても出てきますので、税源格差の調整というようなことも考えていく必要が中国においてもあるのではないかと思っています。日本の場合は、地方交付税という制度で税源格差の是正をやっておりますので、そういったことも1つの検討課題とされる必要があるのかもしれないと思っています。
周:ありがとうございます。それでは、安斎さん。
安斎:杉本さんとちょっと違うのかもしれませんけれど、日本は地域間格差がほとんど出ないようにしてきました。地方交付税交付金があります。コメの代金も高く上げてきたこともあります。公共事業もそうでした。これは全体の税収が豊富なときはそれなりによかったのですけれど、経済成長率が落ちて税収が落ちてからは結局、この負担は子孫にすべて残した。すなわち国債大量発行によって地域間格差を是正する形になってしまった。こういう歩みをしてきたのですね。そのこと自体、中国から見ても「日本というのはなんと社会主義経済の典型ではないか」と思うぐらい、そういう平等をつくってきたのです。今、それがものすごい負担になってきているのです。
ですから、中国もおそらくこの格差を是正しない限りは次の政治の安定も経済の発展もないから、いろいろな努力をされるのでしょうけれども、それをわれわれがやってきたようにやるのか、やらないのか。むしろ違う方法、今は都市間移動その他いろいろな規制をしているから、あまりにも貧富の格差が目立っていますから、それを是正する。それから、やはり基本は所得を生まないところに金をつぎ込んでも駄目なのですよ。ですから、格差是正をやるための施策はある一定の限界があるということを認識してやらないと、ズルズルズルズルいく。これが後世、次の世代の負担になっている。これは日本のケースですから。ぜひ楊さんには、計画経済ではないけれども、全体を描くときにはそういうふうにならないようにどうするかを考えて欲しい。
民政の安定のためにはいいのですよ。それが税収でできるうちは問題はないのです。おそらく今中国に行くと「税金も好調ですよ」と言うでしょ。それから、「不良資産もない」と言うのです。バブルであれば不良資産はないのです。日本もそうでした。バブルの最中は不良資産はなく税収は好調でした。そういう中でホイホイとやっていくと、今日の日本の苦しさが出てくるのです。ですから、13億人口を変な方向に動かさないためにも、しかも民政の安定のためにも、あまりにもそこの部分に踏み込みすぎないほうがいいと思います。
周:貴重なご警告をありがとうございます。高木さん、お願いいたします。
髙木:はい、簡単に。私は、先ほど来もお話ししたように、中国においてこれから農業と農村をどういうふうに位置づけてやっていかれるかが、おそらく今のお話を進めていくうえで非常に重要な要素ではないかと思います。
周:ありがとうございます。中国の新しい空間政策の紹介と、日本の経験に関する貴重な対立意見をいただきました。ありがとうございます。

■ 世界により開かれた社会へ
周:最後の第3ラウンドを、ぜひ次のセッションにつなげたいと思いまして話題を少々変えます。中国の経済成長は対外開放によってもたされました。中国のみならず、 IT革命とグローバルゼーションの中で繁栄と成長を謳歌しているところは、 実はほとんど開放政策をとり世界から人材と企業そして資金を集められる場所です。例えばアメリカのウォール街、シリコンバレーはその典型です。アジアではシンガポール、ドバイなどが挙げられます。
その意味では、これからの30年の世界競争はプラットフォームの競争になると思います。日本も中国も含めたアジアは、こうしたプラットフォームの競争の中で、より魅力的、より効率的、より連携的になるでしょう。開かれたプラットフォームをいかにしてつくっていくかに関して、最後皆さんに一言ずつ展望してください。
まず楊さんから。
楊:中国の対外開放政策は経済発展の一つの重要な原動力でありますが、現在は確かに新しい問題や新しい段階に直面しています。今までのいわゆる対外開放は、日本の対中国投資も含め、主に中国で工場を設立して、生産した製品を再びアメリカ、ヨーロッパ、または日本に売るということです。世界を北アメリカ、東南アジア、ヨーロッパという三つの経済圏に分けることができます。東南アジアを全体的に見れば、生産力過剰で製品を欧米に売込むという経済体です。今、中国と日本の間では、勿論東南アジア、韓国や台湾も含め、生産分野においては既に密接な提携関係を持っています。他国で作り上げた部品や製品の技術により最終的には中国で組み立てます。中国の次のステップの対外開放は、新しい方向や分野で考える必要があると思います。また、先ほど杉本先生もおっしゃいましたが、いかなる金融分野で提携するのか、この点においても日中が協力してやるべきことがたくさんあると思います。全体的に言えば、将来我々は互恵互利、ダブルウィンの原則に則って対外開放戦略を遂行し、傲慢にはなりません。最近、中国の総書記も寛容的な成長に言及しました。つまり、自分のこと(利益)ばかり考えるのではなく、皆がともに発展、進歩、ともに利益を得ることです。行動する前に、相手がどのように行動するか、どのように考えているか、自分の行動が他人の利益を損ねるか等を考えます。ありがとうございます。
周:ありがとうございます。胡さん、お願いいたします。
胡:プラットフォームの問題について、私も楊先生の意見に賛成します。確かに過去の30年間に中国は改革開放で大きな成果をあげました。同時に、改革開放のプロセスの中、中国と提携し、中国を支えてきた日本も大きな利益を得ることができました。これからの30年は、世界経済一体化に立脚点を置き、改革開放というプラットフォームを十分に利用し、国境なしの提携を行い、各自の優勢・市場経済の法則・分業のルールによって、最大限に改革開放や提携を行うべきです。今の国家土地の角度から分析すれば、目下東南アジアとの提携環境が一番整っており、現在中国は東南アジアと提携していますが、尚一層有利な提携要素を作り出す必要もあります。ですので、アジア全体から考えても、傲慢にならずに謙虚な態度でこのプラットフォームをよく利用し、今後の発展を加速させることが大事です。私からは以上です。ありがとうございます。
周:ありがとうございます。杉本さん、お願いいたします。
杉本:アジア全体をそれぞれの国の内需と考え、アジア全体をサプライチェーンと考えてやっていくことではないかと思っています。そのためには、1つは、例えば安全性の基準とか、そういったアジア全体の規格を統一していくことも必要ではないかと思いますし、物・サービス・金がアジア内で自由に通用するためには、金の面におきましても、最初に申し上げましたように、人民元・日本円が自由に使える、自由に移動するという体制をつくっていくことも重要だと思っています。
そのためにも、アジア全体の金融市場、債権市場もそうですし、中国では間接金融が主流でございますので、直接金融をどういうふうにやっていくか。そういったことも踏まえて、アジア全体のマーケットを金融面でも作るというプラットフォームづくり。それから物の面では、これもEPA、FTAという形をさらに進めていく。そういったものを一歩ずつ進めていくことが、アジア全体のプラットフォームとして重要だと思っております。
周:ありがとうございます。それでは、安斎さんお願いいたします。
安斎:楊さんと胡さんがいらっしゃるから、ぜひ私の田舎の漢詩を紹介したいと思います。福島県二本松という町の、お城に上るところにこういう碑があります。「戒石銘」です。漢詩が入っています。これは「爾俸爾禄 民膏民脂 下民易虐 上天難欺(爾の俸 爾の禄 民膏 民脂なり 下民虐げ易しといえども 上天欺き難し)」というものです。この意味は、お城に侍が上って殿様に会うときに、君らこれを心してくれという、そういう戒めです。「君たちの給料は民の汗と脂から生まれる。その下民を虐げることはできても、上にいる神様を欺くことはできないよ」ということなのですね。
ですから、中国が次の発展をしていくためには、楊さんとか胡さん、国家に尽くす者はみんなこういう気持ちでやらないといけませんね。私は中国と37年つきあってきて、いろいろな賄賂の問題が出るたびに悲しくなります。これは日本でも同じです。天下り問題として日本は象徴的に出ていますけれども、これも一種のそういう面があるかもしれません。やはり民に尽くす心構えをしっかりと、きょうは楊さんと胡さんにお説教になるけれども、ぜひ持ち帰って、これを中国の皆さんにおっしゃってください。実はこの漢詩は、我々が中国からもらったものなのですね。お返しします。
周:ありがとうございます。この漢詩は私のふるさとから安斎さんのふるさとへと渡りました。中国と日本は同じ思想、同じ教えを共有してきました。安斎さんが今おっしゃりたいのは、こういう思想と教えをこれからも共有していきましょう、ということですね。
安斎:そうです。
周:ありがとうございます。高木さん、お願いいたします。
高木:はい。時間ですから簡単に申し上げます。私は例えばコメの世界で考えると、アジア共通の食糧ですから、さっき申し上げたように、東アジア米備蓄というものが今始まっていますが、こういう共通のものについて共通の対応をすることがいちばん大事だと思います。そして一方では、それぞれの国がそれぞれ持っている歴史、文化、伝統、そういうものをしっかりと認め合い、それをプラットフォームの中で生かせるようなことにしていく。ですから、共通にしなければならないことと、そうでないことがあるはずなので、そこのところきちんとおさえておくことが大事なことではないかと思います。
周:ありがとうございます。改革開放のこれまでの30年間、中国は計画経済から市場経済へシフトし、多くの経済改革を成し遂げてきました。私個人の考えでは今日までの中国の成長のなかで、改革よりは開放政策のほうがより大きな役割を果たしてきたと思います。これは、中国が政治改革、また戸籍制度などを含む多くの課題をまだ残しているということです。その分次の30年間、改革がもたらす成長の潜在力は非常に大きいと考えます。中国はさらなる改革開放によって成長していくだけではなく、より平等で、より調和がとれた、より世界に開かれた社会になることへの確信を深めました。ご清聴ありがとうございました。
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周:第1セッションのパネリストの皆さん、大変ありがとうございました。どうぞもう一度盛大な拍手をお願いいたします。
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