【レポート】周牧之:中心都市から見た長江経済ベルトの発展

周牧之 東京経済大学教授

要旨:中国の「長江経済ベルト」は、「一帯一路」、「京津冀(北京市、天津市、河北省)一体化」とともに習近平政権が進める「三大国家戦略」のひとつである。中国の東部・中部・西部を貫く長江経済ベルトは、国土の21.4%を占め、人口と域内総生産はいずれも中国の40%を超えている。

本稿では、規模の巨大さ故に実態が見えにくい長江経済ベルトの現状と課題を、「中国中心都市&都市圏発展指数」で分析する。


1.長江経済ベルト政策のフレームワーク

 「長江経済ベルト」とは、長江流域に位置する上海市、江蘇省、浙江省、安徽省、江西省、湖北省、湖南省、重慶市、四川省、雲南省、貴州省の9省2直轄市をカバーする巨大経済圏である。

 中国国家発展和改革委員会(以下、発改委)地区経済司が2016年9月に公布した「長江経済ベルト発展計画要綱」では、「一軸、三極、多点」を計画のフレームワークとし、「一軸」を長江、「三極」を長江デルタ・成渝・長江中游の三つのメガロポリス、「多点」を上海、武漢、成都など12の中心都市と定めた(図1)。

出所:雲河都市研究院作成。

図1 長江経済ベルトとその中心都市

2.メガロポリス、中心都市、都市圏政策

 本誌2017年7月号の小稿「長江経済ベルト発展戦略」では、「三極」である長江デルタ・成渝・長江中游の三つメガロポリスの視点で分析した。今回は「多点」である中心都市の視点から長江経済ベルトを分析する。

 中国では現在、都市化を経済社会発展の要に据え、メガロポリスを都市化の基本形態としている。発改委は2019年2月、「現代化都市圏の育成と発展に関する指導意見」を発表した。同意見では、新型都市化推進の重要な手段として、中心都市をコアにした都市圏建設を唱えた。

 また、習近平国家主席は2019年8月、党中央財経委員会で経済発展における中心都市とメガロポリスの重要性に言及し、それらを中国経済発展のエンジンとすると述べた。中国では中心都市をコアに都市圏を形成し、都市圏をコアにメガロポリスを構築して社会経済を発展させる都市政策が国是となった。

 中国での中心都市とは、4つの直轄市(北京市、天津市、上海市、重慶市)、27の省都・自治区首府(石家荘市、太原市、フフホト市、瀋陽市、長春市、ハルビン市、南京市、杭州市、合肥市、福州市、南昌市、済南市、鄭州市、武漢市、長沙市、広州市、南寧市、海口市、成都市、貴陽市、昆明市、ラサ市、西安市、蘭州市、西寧市、銀川市、ウルムチ市)、5つの計画単列市[1](大連市、青島市、寧波市、廈門市、深圳市)の計36都市を指す。

 長江経済ベルトには、上海市と重慶市の2つの直轄市、南京市、杭州市、合肥市、南昌市、武漢市、長沙市、成都市、貴陽市、昆明市の9省都、さらに計画単列市の寧波市の、12の中心都市がある。

3.「中国中心都市&都市圏発展指数」とは

 現在、世界規模で大都市化、メガシティ化が進んでいる。その本質は、中心都市間の国際競争にある。中心都市は、地域的、国家的かつ世界的なセンター機能の強化により人材、資本、企業の吸引力を高め、競い合っている。中心都市こそ地域、国家の発展を牽引するエンジンである。従って、中心都市のセンター機能を正確に評価することが極めて重要である。

 雲河都市研究院は2017年、発改委発展計画司から中心都市および都市圏を定量的に評価するシステムの構築を依頼された。筆者を中心とする専門家チームは、中国都市総合発展指標[2]を基礎に中国中心都市&都市圏発展指数(以下、CCCI)を研究開発した。都市圏の主要なセンター機能を評価する手法を確立し、同評価を2017年度、2018年度の2回発表した。

 CCCIは中国都市総合発展指標の中で、センター機能評価に関連する指標を抽出し、新たに「都市地位」「都市実力」「輻射能力」「広域中枢機能」「開放交流」「ビジネス環境」「イノベーション・起業」「生態環境」「生活品質」「文化教育」の10大項目に組み直した。また同10大項目ごとに3つの小項目を置き、各小項目指標を複数の指標データで支え、中心都市と都市圏を評価する指標体系を構築した(図2)。

出所:周牧之・陳亜群・徐林主編、中国国家発展和改革委員会発展計画司・雲河都市研究院『環境・社会・経済 中国都市ランキング2017』(NTT出版社、2018年)。

図2 中国中心都市&都市圏発展指数構造図

4.CCCI 2018からみた長江経済ベルト

 今回、CCCI2018年度版のデータを活用し、中心都市の視点から長江経済ベルトを分析する。

 (1) CCCI2018総合ランキングでみる長江経済ベルトの中心都市

 CCCI2018の総合ランキングで、上位20位以内に長江経済ベルトから上海市(第2位)、成都市(第6位)、杭州市(第7位)、重慶市(第8位)、南京市(第9位)、武漢市(第10位)、寧波市(第13位)、長沙市(第16位)の8都市がランクインし、長江経済ベルトにおける強力な中心都市の存在を示した。特に上海市は長江経済ベルトという龍の“頭”として他市をリードしている。

 一方、合肥市(第22位)、昆明市(第24位)、貴陽市(第29位)、南昌市(第30位)は低い順位に甘んじている。これら都市の牽引力向上が長江経済ベルト全体の発展上の課題となっている(図3)。

出所:CCCI2018より雲河都市研究院作成。

図3 中国中心都市&都市圏発展指数総合ランキング

(2) 10大項目でみる長江経済ベルト中心都市

 図4は10大項目における中心都市の順位と偏差値を表している。本稿では、特に「輻射力」、「広域中枢機能」、「生態資源環境」の三大項目について分析した。

出所:CCCI2018より雲河都市研究院作成。

図4 10大項目12中心都市ランキング・レーダーチャート

①【輻射力】大項目

 中心都市の役割は、周辺ひいては全国に向け輻射力[1]を持つことにある。都市の輻射能力は中心都市評価の一つの鍵となる。「輻射能力」大項目は、中心都市が全国に及ぼす輻射能力の強弱を測る。

 「輻射能力」全国ランキングのトップ10都市には、長江経済ベルトから上海市(第2位)、成都市(第4位)、杭州市(第6位)、南京市(第7位)、武漢市(第9位)の5中心都市がランクインした。

 「製造業輻射力」では、上海は北京に次ぐ第2位。全国上位20位以内に上海を含め、寧波市(第7位)、杭州市(第9位)、成都市(第15位)が長江経済ベルトからランクインした。中国の輸出工業は長江経済ベルトに最も集中し、長江経済ベルトが中国全土に占める工業総産出額、貨物輸出額の割合は各々43.4%と42.4%に達している。

 長江経済ベルトの「IT産業輻射力」はさらに高い。全国ランキングトップ30都市には寧波市以外の11中心都市が入り、上海市(第2位)、成都市(第4位)、杭州市(第5位)、南京市(第6位)、重慶市(第11位)、長沙市(第16位)、貴陽市(第17位)、合肥市(第21位)、昆明市(第23位)、南昌市(第26位)、武漢市(第27位)だった。メインボードに上場するIT企業の30.8%が長江経済ベルトにあり、うち88.9%の企業が同12中心都市内に立地する。

 「科学技術輻射力」も優れ、全国上位20都市に長江経済ベルトから9中心都市がランクインしている。長江経済ベルトの中国全土に占めるR&D内部経費支出、R&D要員、特許取得数は、各々44.6%、46%、50.9%である。

②【広域中枢機能】大項目

 「広域中枢機能」は都市の水運、陸運、空運のインフラ水準、輸送量を測る大項目である。

 「広域中枢機能」全国ランキングのトップ20都市には、長江経済ベルトから9中心都市がランクインし、上海市(第1位)、寧波市(第6位)、武漢市(第8位)、成都市(第10位)、重慶市(第11位)、南京市(第12位)、杭州市(第13位)、昆明市(第19位)、長沙市(第20位)と続く。

 港湾機能では、2018年の世界のコンテナ港上位10位のうち、中国が7港を占め、第1位の上海と第3位の寧波−舟山が長江経済ベルトに属している。     水運貨物取扱量では、長江経済ベルトの中国全土に占める割合が67%と突出し、12中心都市の中国全土に占める割合も13.9%である。

 空港機能も長江経済ベルトは好成績を上げている。「空港利便性」では、全国上位20位以内に上海市を筆頭に成都市(第5位)、昆明市(第6位)、重慶市(第7位)、杭州市(第8位)、南京市(第12位)、武漢市(第16位)、長沙市(第18位)、貴陽市(第19位)と、同12中心都市中9都市が含まれた。 空港乗降客数と郵便貨物取扱量では、長江経済ベルトが中国全土に占める割合は各々41.6%と47.4%で、同12中心都市が中国全土に占める割合は各々35.8%、45.3%と、集中集約が進んでいる。

③【生態資源環境】大項目

 都市にとって生態環境の品質や資源利用の効率はますます重要になっている。「生態資源環境」全国ランキングのトップ20都市には、長江経済ベルトから7中心都市が入り、上海市(第1位)、重慶市(第6位)、杭州市(第10位)、成都市(第11位)、武漢市(第12位)、南京市(第13位)、長沙市(第18位)となった。

 急速な工業化と都市化により、中国では大気質が悪化している。大気質の状況を測るPM2.5指数では、2017年度の中国全土の平均は66μg/m3だったが、長江経済ベルトの平均値は73.5μg/m3と全国平均を上回った。一方、同12中心都市の平均値は66.4μg/m3とほぼ全国平均と同水準であったが、ランキングでは昆明市(第42位)、貴陽市(第92位)、上海市(第102位)、南昌市(第125位)、杭州市(第173位)、南京市(第202位)、重慶市(第213位)、長沙市(第237位)、合肥市(第247位)、成都市(第249位)、武漢市(第257位)と順位が低い。

5.課題と展望

  巨大な長江経済ベルトをリアリティのあるデータで相対化すれば、実像が浮かび上がる。12の中心都市のパフォーマンスには凹凸があり、上海市の突出ぶりはすさまじい。長江経済ベルトは、工場経済から都市経済への移行をさらに加速していく。重要なのは、サービス型経済の発展と、都市生活の質の向上や経済活動の効率化であり、ベルト内のエリアや都市ごとの役割分担の明確化である。また、それを丁寧にモニタリングすることである。以上を命題に開発したCCCI、および中国都市総合発展指標で、筆者及び雲河都市研究院は中国都市発展を今後も続けて注視する。


本論文では雲河都市研究院の栗本賢一、数野純哉両氏がデータ整理と図表作成に携わった。


[1] 計画単列市は、日本の政令指定都市に相当する。

[2] 「中国都市総合発展指標」とは、中国国家発展改革委員会発展計画司と雲河都市研究院が、環境、社会、経済という三つの軸で都市を包括的に評価するシステムを協力して開発したものである。詳しくは、2018年9月号小稿および当該指標についての特設WEBページhttps://cici-index.com/ を参考。2016年度と2017年度の「中国都市総合発展指標」は日本語版がNTT出版より刊行された。

[3] 本指標で使用する「輻射力」とは、広域影響力の評価指標であり、都市のある業種の周辺へのサービス移出・移入量を、当該業種従業者数と全国の当該業種従業者数の関係、および当該業種に関連する主なデータを用いて複合的に計算した指標である。


『日中経協ジャーナル』2020年1月号(通巻312号)掲載

【レポート】周牧之:コロナショックでグローバルサプライチェーンは何処へいく? 〜中国都市製造業輻射力2019〜

周牧之 東京経済大学教授

編集ノート:中国で最強の製造業力をもった都市が、新型コロナウイルスショックで大打撃を受けた。これらの都市の2020年第一四半期の地方税収は、軒並みマイナスに陥った。伝統的な輸出工業の発展モデルはどのような限界に当たったのか?製造業そしてグローバルサプライチェーンはどこに向かうのか?雲河都市研究院が「中国都市製造業輻射力2019」を発表するにあたり、周牧之東京経済大学教授が上記の問題について分析し、展望した。


「中国都市製造業輻射力2019」で深圳が首位、蘇州第2位、東莞第3位


 中国都市総合発展指標に基づき、雲河都市研究院は中国全297地級市(地区級市)以上の都市をカバーする「中国都市製造業輻射力2019」を公表した。輻射力とは広域影響力の評価指標である。製造業輻射力は都市における工業製品の移出と輸出そして、製造業の従業者数を評価したものである。

 深圳、蘇州、東莞、上海、仏山、寧波、広州、成都、無錫、廈門が「中国都市製造業輻射力2019」トップ10入りを果たした。珠江デルタ、長江デルタ両メガロポリスから各々4都市がトップ10に入った。これらの都市は成都を除き、すべて大型コンテナ港を利用できる立地優位性を誇る。10都市の貨物輸出総額は中国全土の47.4%を占めた。

 恵州、杭州、北京、中山、青島、天津、珠海、泉州、嘉興、南京が第11位〜20位にランクインした。鄭州、金華、煙台、南通、西安、常州、大連、紹興、福州、台州が第21位~30位だった。

 トップ30都市の貨物輸出総額は中国全土の74%にも達した。すなわち、製造業輻射力の上位10%の都市が中国の4分の3の貨物輸出を担っている。これらの都市の中で、成都、北京、鄭州、西安の4都市を除いた全都市が沿海部、沿江(長江)部都市であることから、コンテナ港の利便性が輸出工業にとって極めて重要であることが見て取れる。

 輸出工業とコンテナ輸送は相互補完で発展している。中国全297地級市(地区級市)以上の都市の製造業輻射力とコンテナ港の利便性とを相関分析すると、その相関係数は0.7に達し、いわゆる“強相関”関係にある。2018年、中国港湾の海上コンテナ取扱量は、世界の総額の28.5%にも達し、中国は世界のコンテナ港ランキングトップ10に6席をも占めている。

 三大メガロポリスの視点から見ると、京津冀、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスが中国全土の貨物輸出総額に占める割合は、それぞれ6%、36.3%、24.5%となっている。三大メガロポリスの合計が全国の66.9%を占めている。三大メガロポリスでもとりわけ、長江デルタ、珠江デルタは中国輸出工業発展のエンジンである。

図:「中国都市製造業輻射力2019」ランキングトップ30位都市

新型コロナウイルスパンデミックが輸出工業に打撃


 2019年に米中貿易摩擦がエスカレートし、グローバルサプライチェーンにとって極めて難儀な一年となった。米中関税合戦の圧力を受けながら、中国の貨物輸出総額は5%(中国税関統計、人民元ベース)成長を実現した。これは、中国輸出工業の発展を牽引する製造業輻射力ランキング上位都市の努力の賜物である。

 しかしながら2020年に入ると、新型コロナウイルスが全世界を席巻し、グローバルサプライチェーンはさらなる大打撃を被った。中国の輸出工業はコロナ休業、海外ニーズの激減、サプライチェーンの寸断など多重な被害を受けることとなった。

 2020年第一四半期、地方の一般公共予算収入から見ると、「中国都市製造業輻射力2019」ランキングトップ10位都市は、軒並みマイナス成長となった。とくに、深圳、東莞、上海、仏山、成都、廈門の6都市の同マイナス成長は二桁にもなった。世界に名だたる製造業都市の大幅な税収低迷は、中国の輸出工業が大きな試練に晒されていることを意味している。

グローバルサプライチェーンが中国輸出工業の大発展をもたらした


 中国輸出工業は製造業サプライチェーンのグローバル化の恩恵を受けて発展した。筆者は20年前、サプライチェーンのグローバル化が、中国の珠江デルタ、長江デルタ、京津冀で新型の産業集積を形成すると予測した。さらに、これらの産業集積をてこに、珠江デルタ、長江デルタ、京津冀地域にメガロポリスが形成されると予想した。今日、これらはことごとく現実となり、三大メガロポリスは、中国の社会経済発展を牽引している。

 従来の工業生産は、大企業であるセットメーカーと部品メーカーとの間にすり合わせなどの暗黙知を軸とした信頼関係が必要とされた。資本提携や人員派遣、長期取引などによって系列関係、あるいはそれに近い関係がつくられてきた。それは、大企業を頂点とし、一次部品メーカー、二次部品メーカーなどで構成されるピラミッド型の緊密な協力システムである。ゆえにその時期の製造業のサプライチェーンは一国の中、あるいは地域の中に留まる傾向が強かった。

 IT革命は、標準化、デジタル化をもって取引における暗黙知の比重を大幅に減少させ、企業間の情報のやりとりに関わる時間とコストも大幅に削減させた。また、モジュール生産方式によるデザインルールの公開で、世界中の企業がサプライチェーンにおける競争に参入できるようになった。よって、サプライチェーンは暗黙知による束縛から解放され、グローバル的な展開を可能とした。サプライチェーンにおける企業関係も、従来の緊密的なピラミッド型から、柔軟につながり合うネットワーク型に変貌した。このような変革は、発展途上国に工業活動への参入の大きなチャンスを与えた。

 サプライチェーンのグローバル化の時期は、中国の改革開放期と幸運にも重なり、中国は大きな恩恵を受けた。サプライチェーンのグローバル化を推し進めた三大原動力は、IT革命、輸送革命、そして冷戦後の安定した世界秩序がもたらした安全感である。

 グローバルサプライチェーンは西側の工業国における労働分配率の高止まりの局面を打破し、世界の富の創造と分配のメカニズムを大きく変えた。

 当然、中国をはじめとする発展途上国の参入によって、工業製品の価格は大幅に下がった。このような暗黙知を最小化したグローバルサプライチェーンは、典型的な交易経済である。

 中国経済大発展の基盤を築いたのは、グローバルサプライチェーンである。これに鑑み、2007年に出版した拙著「中国経済論」において、筆者は第1章を丸ごと使い、中国経済発展とグローバルサプライチェーンの関係について論じた。

 中国40年の改革開放は、WTO加盟を境に二つの段階に分けられる。第一段階は、計画経済制度の改革を中心とし、また西側の国際市場への進出にも努力を重ねた。2001年のWTO加盟で中国はついに国際自由貿易体制に入り、国際市場への大門が開かれた。よって第二段階では、中国改革開放と世界市場の結合で、大きなエネルギーが爆発した。中国は一瞬にして「世界の工場」となり、2009年に世界一の輸出大国に躍り上った。第一段階の艱難辛苦と比べると、WTO加盟後の中国は大発展を遂げた。強力な輸出工業に牽引され、中国の多くの都市が著しい発展を見せた。

 2000年〜2019年、ドイツ、アメリカの輸出はそれぞれ、1.7倍、1.1倍成長した。フランス、イギリス、日本は各々0.7倍、0.6倍、0.5倍成長した。同時期に世界の輸出総額は1.9倍成長したのと比べ、これらの工業国の輸出成長率は、世界の平均以下に留まった。これと比べて、2000年に2,492億ドルしかなかった中国の輸出総額は、2019年には24,990億ドルに達し、10倍規模に膨れ上がった。2000年に世界輸出総額に占める割合が3.9%しかなかった中国のシェアも、2019年には同13.2%に急上昇し、世界のトップの座を不動のものとした。

 改革開放が解き放った活力とWTO加盟は、中国に巨大な国際貿易の利をもたらした。

輸出工業の伝統的発展モデルの限界


 中国輸出工業の成長は、その速度も規模も極めて高速であった。結果、非凡の成果を上げたと同時にアメリカをはじめとする一部の国との間に、巨大な規模の構造的貿易不均衡が生じた。西側諸国での産業空洞化も中国輸出工業の驚異的な発展の結果だと考えられる。アメリカのトランプ大統領の当選は、ある意味、アメリカの産業空洞化の圧力によるものである。これらが、トランプ政権下での米中貿易戦争勃発の背景とも言えよう。

 急に巨大化した中国の存在感も、多くの国の神経を敏感にした。例えば知的財産権の問題は、いまや米中貿易摩擦の大きな焦点のひとつとなっている。また、サプライチェーンの中国へ過度な依存を避けるため、日本は10年ほど前から「チャイナプラス1」政策を進め、自国企業に中国以外の国や地域へのサプライチェーン構築を促した。さらに、日本政府は2020年度の補正予算に生産拠点の国内回帰を促す補助金として2200億円を計上し、その姿勢を鮮明化させている。

 中国の労働力、土地、環境、税収などのコストの上昇も無視できなくなった。労働力コストを例にとり、「中国都市製造業輻射力2019」ランキングトップ10都市の2000年から2018年までの平均賃金の変化を見ると、上海の平均賃金は9.3倍に、成都、蘇州、無錫はそれぞれ8.5倍、8倍、7.5倍に、寧波、仏山、広州、廈門、東莞はそれぞれ6.6倍、6倍、6.3倍、5.7倍、5.6倍、5.1倍に跳ね上がった。2000年の時点ですでに比較的高かった深圳の平均賃金も、4.8倍になった。上記の分析から、中国における労働力コストの上昇がいかに激しかったかが見て取れる。

 グローバルサプライチェーンの中で、中国の労働力の低コストの優位性はもはや失われた。

 これらの理由により、中国輸出工業の伝統的発展モデルはすでに限界に達し、製造業は新しい次元へと進化を余儀なくされた。

交流経済へと進化する製造業


 アメリカの進める自国企業を中国から呼び戻す政策が、いま世論の焦点となっている。しかし、筆者はトランプ大統領の推し進めるこの政策が無くても、製造業の一部がアメリカへと回帰することは必然であると考える。

 まず中国の生産コストの上昇に伴い、利幅の薄い一部の製造業が中国から離れることは不可避である。

 中国がより重視すべきなのは先端製造業の先進国への回帰である。時代の変化の中で、低価格を求めてきた消費者はいま、感性、個性、そして生産者とのコミュニケーションをより重視しつつある。これを可能とした大きな背景には、工業生産のモジュール化が新たな段階に入ったことがある。

 発展途上国の新工業化の前提は、本質的にいえば、モジュール生産方式により非熟練労働者が組み立てなどの工業活動に参加できるようになったことである。これは製造業サプライチェーンのグローバル化の基礎である。しかし今や、モジュール化はすでに個性的なデザインと重なり合い、多品種少量生産を実現できるように進化した。モジュール化の基礎の上で生産者と消費者はコミュニケーションを通じて、よりデザイン性と個性にあふれた製品を生み出すことを可能とした。

 未来の製造業を想像すると、一方では半導体やセンサーなどのハイテクなモジュールやディバイスがこれまで同様、グローバル的に供給される。日米の企業は現在、これらの分野で高い優位性を誇っている。 

 他方、一部の最終製品生産者は、これらのモジュールやディバイスをベースにユーザーとコミュニケーションを重ね、個性のある商品を提供するように進化する。暗黙知を最小化してきた旧来のグローバルサプライチェーンは、ここにきてコミュニケーションを重視する方向へ付加価値を高めるようにシフトしている。これは先端製造業の交易経済から交流経済への転換である。

 このような交流経済へ進化する先端製造業と消費者との動線は、極めて短く、可視化できるものとなるだろう。

 その意味では、目下製造業の先進国への回帰は、その一部分は消費者へより近づく市場への回帰だと言えよう。製造業最終製品の生産はますます個性化、ローカル化が進むだろう。トランプ大統領の呼び戻し政策がなくても新型コロナウイルスショックがなくても、こうした製造業の回帰は起こる。これは、製造業が交易経済から交流経済へと進化する流れの一環である。

 従って、中国の製造業もこれをしっかり認識し、製造業の交流経済化の潮流をつかみ、進化への努力をすべきである。幸いにして、「中国都市製造業輻射力」のトップ都市はすでに製造業の強力な基盤を持ち、それ自身がメガロポリスのような巨大な市場に身を置いている。市場とのコミュニケーションを強化し、製造業の交流経済化の中で道を拓き、新たな奇跡を築くことが可能となろう。


「中国網日本語版(チャイナネット)」2020年5月19日

【レポート】新型コロナパンデミック:なぜ大都市医療能力はこれほど脆弱に?

周牧之 東京経済大学教授

編集ノート:豊かな医療リソースを持つ大都市が、なぜ新型コロナウイルスにより一瞬で医療崩壊に陥ったのか?グローバリゼーションそして国際大都市の行方は?雲河都市研究院による「中国都市医療輻射力2019」が発表されるにあたり、周牧之教授が解析と展望を寄せた。


中国都市医療輻射力2019

 〈中国都市総合発展指標に基づき 雲河都市研究院が中国全国297の地級市以上の都市を網羅した「中国都市医療輻射力2019」を発表した。北京、上海、広州、成都、杭州、武漢、済南、鄭州、南京、太原が同輻射力の上位10都市にランクインした。天津、瀋陽、長沙、西安、昆明、青島、南寧、長春、重慶、石家庄が第11位から20位、ウルムチ、深圳、大連、福州、蘭州、南昌、貴陽、蘇州、寧波、温州が第21位から30位を占めた。

 輻射力とは広域影響力の評価指標である。医療輻射力に富むとして評価されたのは都市の医師数と三甲病院(トップクラス病院)数である。輻射力ランキング上位30位の都市に全国の15%の医師、30%の病床と45%の三甲病院が集中している。中国の医療リソース、とりわけ先端医療機関が、医療輻射力ランキング上位都市に集中している状況が顕著である。ランキングの前列にある都市は良質な医師と一流の医療機関に支えられ、市民の衛生と健康を担うだけでなく、周辺地域あるいは全国の患者に先端医療サービスを提供している。

 疑問なのは、なぜ武漢のような医療リソースが豊富で医療輻射力に富んだランキング上位都市が、突如として現れた新型コロナウイルスにしてやられ、医療崩壊状態に陥ったのか、である。

 都市は繰り返し起こり得る流行疾患の襲来に、どう対処していくべきか?

新型コロナウイルスが世界の都市医療能力に試練を

 武漢は新型コロナウイルスの試練に世界で最初に向き合った都市であった。武漢は27カ所の三甲病院を持ち、医師約4万人、看護師5.4万人と医療機関病床9.5万床を擁する名実ともに「中国都市医療輻射力2019」全国ランキング第6位の都市である(2018年同ランキング第7位から1位上昇)。

 しかしながら、武漢のこの豊富な医療能力が新型コロナウイルスの打撃により、一瞬で崩壊した。

 国際都市ニューヨークの医療キャパシティも同様、新型コロナウイルスに瞬く間に潰された。4月8日に「緊急事態宣言」をした東京都も目下、医療システムの崩壊の危機に直面している。新型コロナウイルスはまさに全世界の都市医療能力を崩壊の危機に晒している。

 新型コロナウイルス禍による都市の「医療崩壊」は、以下の三大原因によって引き起こされた。

 (1)医療現場がパニックに

 新型コロナウイルス禍のひとつの特徴は、感染者数の爆発的な増大だ。とりわけオーバーシュートで猛烈に増えた感染者数と社会的恐怖感により、大勢の感染者や感染を疑う人々が医療機関に駆け込み、検査と治療を求めて溢れかえった。

 病院の処置能力を遥かに超えた人々の殺到で医療現場は混乱に陥り、医療リソースを重症患者への救済にうまく振り向けられなくなった。医療救援活動のキャパシティと効率に影響を及ぼし、致死率上昇の主原因となってしまった。さらに重大なことに、殺到した患者、擬似患者、甚だしきはその家族が長期にわたり病院の密閉空間に閉じ込められ、院内感染という大災害を引き起こした。

 1千人あたりの医師数でみると、イタリアは4人で、医療の人的リソースは国際的に比較的高い水準に達している。しかし新型コロナウイルスのオーバーシュートで医療機関への駆け込みが相次ぎ、医療崩壊を招いた。イタリアのミラノ市にあるロンバルディア州の感染者数は3月2日に1千人を突破、同14日に10倍の1万人へ、3月末には4万人、5月上旬には8万人へと膨れ上がり、大勢の重症患者が逸早く有効な治療を受けられないまま置かれた。5月11日現在、イタリアの感染者は21.9万人、死者数は3.1万人、病死者率(死亡者数/患者数)は13%と高い。

 アメリカ、日本、中国の1千人あたりの医師数は、各々2.6人、2.4人、2人であり、医療の人的リソースはイタリアに比べ、はるかに低い水準にある。

 よくも悪くも中国の医療リソースは中心都市に高度に集中している。武漢は1千人あたりの医師数は4.9人で全国の水準を大きく上回る。武漢と同様、医療の人的リソースが大都市に偏る傾向はアメリカでも顕著だ。ニューヨーク州の1千人あたりの医師数は4.6人にも達している。

 しかし武漢、ニューヨークの豊かな医療リソースをもってしても、新型コロナウイルスのオーバーシュートによる医療崩壊は防ぎきれなかった。5月11日までに、中国の新型コロナウイルス感染死者数の累計83.3%が武漢に集中していた。その多くが医療機関への駆け込みによるパニックの犠牲者だと考えられる。

 東京都は人口1千人あたりの医師数が3.3人で、これは武漢より低く、ニューヨークと同水準にある。日本政府は当初から、医療崩壊防止を新型コロナウイルス対策の最重要事項に置いていた。新型コロナウイルス検査数を厳しく制限し、人々が病院に殺到しないよう促した。

 目下、こうした措置は一定の効果を上げ、院内感染によるウイルス蔓延をある程度抑えた。また重症患者に医療リソースを集中させて致死率を下げ、5月11日現在で死亡率を4%に抑え込んでいる。人口10万人あたりの新型コロナウイルス死者数でみると、5月11日現在、スペインの56.9人、イタリアの50.5人、フランスの40.4人、アメリカの24.4人と比べて日本は0.5人に留まっている。これまでのところ日本は医療機関でのパニックを封じ込め、医療崩壊を防いでいると言えよう。

 しかし、検査数の過度の抑制は、軽症感染者及び無症状感染者の発見と隔離を遅らせ、治療を妨げると同時に、莫大な数の隠れ感染者を生むことに繋がりかねない。軽症感染者、無症状感染者の放置は日本の感染症対策に拭い切れない不穏な影を落としている。緊急事態宣言に伴い、日本も政策を見直しつつあるものの、検査数抑制から検査数拡大への動きはまだ極めて遅い。

(2)医療従事者の大幅減員

 ウイルス感染がもたらした医療従事者の大幅な減員が、新型コロナウイルス禍のもう一つの特徴である。

 ウイルス感染拡大の初期、各国は一様に新型コロナウイルスの性質への認識を欠いていた。マスク、防護服、隔離病棟などの資材不足がこれに重なり、医療従事者は高い感染リスクに晒された。こうした状況下、PCR検体採取、挿管治療など、暴露リスクの高い医療行為への危険性が高まった。これにより各国で現場の医療人員の感染による減員状態が大量に起こった。オーバーシュートで、元より不足していた医療従事者が大幅に減員し危機的状況はさらに深刻化した。

 救護過程のリスクばかりでなく、慶應義塾大学病院の研修医の会食で引き起こされた医療従事者の集団感染とそれに伴う隔離治療は、もともと緊迫していた東京の医療人的リソースに大打撃を与えた。

 国際看護師協会(ICN)が公表した情報によると、5月6日までに報告された30カ国のデータでは、少なくとも9万人の医療従事者が新型コロナウイルスに感染した。個々の状況では、スペインでは5月5日までに、4万3956人(全感染者の18%)の医療従事者が新型コロナウイルスに感染した。イタリアでは、4月26日までに、1万9,942人の医療従事者が感染し、150人の医師と35人の看護師が亡くなった。

 東京では5月11日までに25の医療機関で院内感染が起こった。4月末には、日本での院内感染者は確認された新型コロナウイルス感染者の1割近くにも達した。

 強力な感染力を持つ新型コロナウイルスは、医療従事者の安全を脅かし、医療能力を弱め、都市の医療システムを崩壊の危機に陥れている。

 医療従事者の安全を如何に最優先に守って行くかが、新型コロナウイルス対策の肝心要となっている。

(3)病床不足

 新型コロナウイルス感染拡大後、マスク、防護服、消毒液、PCR検査薬、呼吸器、人工心肺装置(ECMO)などの医療リソースの枯渇状況が各国で起こった。とりわけ深刻なのは病床の著しい不足である。感染力の強い新型コロナウイルスの拡散防止のため、患者は隔離治療しなければならない。とりわけ重症患者は集中治療室( ICU )    での治療が不可欠だが、実際、各国ともに病床の著しい不足に喘いでいる。

 人口1千人あたりの病床数データで見ると、日本は13.1床で世界でも最高水準にある。12万8000病床数を有する東京は、1千人あたりでみると9.3床となる。そんな東京でもいま、病床不足に悩まされている。

 東京と比べイタリアの人口1千人あたりの医師数は若干高いものの、1千人あたりの医療機関病床数では、僅か3.2床でしかない。アメリカの1千人あたりの医療機関病床数は2.8床で、ニューヨーク州はアメリカ全土の平均よりさらに少なく2.6床となっている。病床不足が医療機関の患者収容能力を制約し、新型コロナウイルス患者治療のボトルネックとなっている。

 中国は人口1千人あたりの医療機関病床数が4.3床で、日本の四分の一にすぎないもののイタリアよりは高く、アメリカと同等の水準である。とりわけ9万5,000の病床を持つ武漢市は、1千人あたりの病床数が8.6床と高く、東京の水準に迫っている。しかし、武漢も新型コロナウイルスオーバーシュート期は、深刻な病床不足状態に置かれた。

 特に問題なのは、すべての病床が新型コロナウイルス治療の隔離要求に耐えるものではない点にある。これに、爆発的な患者増大が加わり、病床不足状況が一気に加速した。

 武漢は国の支援で迅速に、専門治療設備の整う火神山病院と雷神山病院という重症患者専門病院を建設し、前者で1,000床、後者で1600床の病床を確保した。このほかに、武漢は体育館を16カ所の軽症者収容病院へと改装し、素早く1万3,000床の抗菌抗ウイルスレベルの高い病床を提供し、軽症患者の分離収容を実現させた。先端医療リソースを重症患者に集中させ、パンデミックの緩和を図った。武漢の火神山、雷神山そして軽症者収容病院建設により、病床不足は解消された。

 日本は病床数不足により一時期、感染患者の在宅隔離を実施していた。こうしたやり方は患者の家族を感染の危険に晒し、家庭内での集団感染を生む可能性がある。また、患者は有効な専門治療を施されず、健康状況の把握がされないまま、病状急変により救援治療が間に合わないこともありうる。

 幸いにして現在、こうした在宅隔離はほぼ改められ、ホテルなどの施設を改修し、軽症患者を収容している。

 東京での更に深刻な問題はICU(集中治療室)の驚くべき不足である。2018年の時点で、日本全国の人口10万人あたりのICU病床数は4.3床でしかない。アメリカの35床、ドイツの30床、フランスの11.6床、イタリアの12.5床、スペインの9.7床に比べても圧倒的に少ない。

 日本国内で最も感染者数を抱える東京都は目下、ICU病床が764床しかなく、人口10万人あたりのICU病床数は5.5床に過ぎない。重症患者を受け入れられるだけの病床数の確保が、医療システムの崩壊を避ける鍵となっている。

 新型コロナウイルス治療用病床の確保のため、各国がとった措置は実に様々であった。アメリカに至っては、海軍の医療船も派遣した。トランプ大統領は3月下旬に医療船マーシー号( USNS Mercy)とコンフォート号(USNS Comfort)をそれぞれロサンゼルスとニューヨークに配備した。各々1千病床を持つ2隻の医療船は、新型コロナウイルス感染者の治療に適していないものの大勢の一般患者を受け入れた。これにより、現地の総合病院ではより多くの病床を新型コロナウイルス治療へと振り当てることにつながった。

 「緊急輸入病院」も一種新しい選択肢となった。新型コロナウイルスオーバーシュートに伴う深刻な病床数逼迫に喘いだ韓国は、中国企業遠大グループから「病院」を丸ごと輸入した。遠大はステンレス製プレハブ建築方式を用いて、韓国にオゾン技術を活用した空気清浄・陰圧化ユニットで構築された「陰圧隔離病棟」を迅速に輸出した。現地では僅か2日間の工程で、施設の使用が可能となった。

地球規模の失敗から地球規模での抗ウイルスへ

 感染症は昔から人類の命を脅かす最大の敵であった。例えば、1347年に勃発したペストで、ヨーロッパでは20年間で2,500万もの命が奪われた。1918年に大流行したスペインかぜによる死者数は世界で2,500万〜4,000万人にも上ったとされる。

 100年余りにわたる抗菌薬とワクチンの開発及び普及により、天然痘、小児麻痺、麻疹、風疹、おたふく風邪、流感、百日咳、ジフテリアなど人類の健康と生命を脅かし続けた感染症の大半は絶滅あるいは制御できるようになった。1950年代以降、先進国では肺炎、胃腸炎、肝炎、結核、インフルエンザなどの感染疾病による死亡者数を急激に減少させ、癌、心脳血管疾患、高血圧、糖尿病など慢性疾患が主要な死因となった。

 感染症の予防と治療で勝利を収めたことで、人類の平均寿命が伸び、主な死因も交代した。世界とりわけ先進国の医療システムの焦点は、感染症から慢性疾患へと向かった。その結果、各国は目下感染症予防と治療へのリソース投入を過少にし、同時に現存する医療リソースを主として慢性疾患に傾斜するという構造的な問題を生じさせた。医療従事者の専門性から、医療設備の配置、そして医療体制そのものまで新型ウイルス疾患の勃発に即座に対応できる態勢を整えてこなかった。

 よって、新型ウイルスとの闘いにおいて、武漢、ニューヨーク、ミラノといった巨大な医療リソースを持つ大都市は対策が追いつかず悲惨な代償を払うことになってしまった。

 ビル・ゲイツは早くも2015年には、ウイルス感染症への投資が少な過ぎる故に世界規模の失敗を引き起こす、と警告を発していた。新型コロナウイルス禍は不幸にしてビル・ゲイツの予言を的中させた。

全土支援から世界支援へ

 武漢の医療従事者大幅減員に鑑み、中国は全国から大勢の医療従事者を救援部隊として武漢へ素早く送り込んだ。武漢への救援医療従事者は最終的に4万2,000人に達した。この措置が武漢の医療崩壊の食い止めに繋がった。感染地域に迅速かつ有効な救援活動を施せるか否かが、新型ウイルスへの勝利を占う一つの鍵である。しかし、全ての国がこうした力を備えているわけでない。ニューヨーク、東京の状況からすると、医療リソースがかなり揃っている先進国でさえ救援できるに足りる医療従事者を即座に動員することは難しい。

 さらに深刻なことには、医療リソースに著しく欠ける発展途上国、アフリカはいうに及ばず巨大人口を抱えるアジアの発展途上国の、人口1千人あたりの医師数はインドが0.8、インドネシアは0.3である。1千人あたりの病床数は前者が0.5、後者は1だ。こうした元々医療リソースが稀少かつ十分な医療救援能力を持たない国にとって、新型コロナウイルスのパンデミックで引き起こされる医療現場のパニックは悲惨さを極める。グローバル的な救援力をどう組織するかが喫緊の解決課題となっている。問題は、大半の先進国自体が、目下新型コロナウイルスの被害が深刻で、他者を顧みる余裕を持たないことにある。

科学技術の爆発的進歩

 緊急事態宣言、国境封鎖、都市ロックダウン、外出自粛、ソーシャルディスタンスの保持など、各国が目下進める新型コロナウイルス対策は、人と人との交流を大幅に減少かつ遮断することでウイルス感染を防ぐことにある。こうした措置は一定の成果を上げるものの、ウイルスの危険を真に根絶させ得るものではない。ウイルス蔓延をしばらく抑制することができても、非常に脆弱だと言わざるを得ない。次の感染爆発がいつ何時でも再び起こる可能性がある。

 しっかりとした成果をあげるにはやはり科学技術の進歩に頼るほかない。新型コロナウイルス危機勃発後、アメリカではPCR検査方法を幾度も更新し、検査結果に要する時間を大幅に短縮した。安価で、ハイスピードかつ正確な検査方式が大規模な検査を可能にした。

 アメリカでは迅速な新型コロナウイルス抗体検査方式も確立され、同政府は今、全国民を対象とする新型コロナウイルスの抗体検査実施の動きもある。もちろん、新型コロナウイルスの特効薬とワクチンの開発は各国が緊急課題として急ぎ取り組んでいる。

 人類は検査、特効薬、抗体の三種の神器を掌握しなければ、本当の意味で新型コロナウイルスをコントロールし、勝利を収めたとは言えないだろう。

 危機はまた転機でもある。近現代、世界的な戦争や危機が起こるたびに人類は重大な転換期に向き合い、科学技術を爆発的に進歩させてきた。第二次世界大戦は航空産業を大発展させ、核開発の扉を開けるに至った。冷戦では航空宇宙技術の開発が進み、インターネット技術の基礎をも打ち立てた。新型コロナウイルスも現在、関連する科学技術の爆発的な進歩を刺激している。

 コロナウイルスが作り上げた緊迫感は技術を急速に進歩させるばかりでなく、技術の新しい進路を開拓し、過去には充分に重視されてこなかった技術の方向性も掘り起こす。例えば、漢方医学は武漢での抗ウイルス対策で卓越した効き目をみせ、注目を浴びている。漢方医学は世界的なパンデミックに立ち向かうひとつの手立てになりうる。

 オゾンもまた偏見によりこれまで軽視されてきた。筆者は2月18日にはオゾンについて論文を発表し、新型コロナウイルス対策としてのオゾン抗菌利用を呼びかけた。現在、日本では、感染しやすい環境として「三密」環境が取り上げられている。もしオゾンのセンサーの開発が進展し低価格化が図られれば、有人環境下でのオゾン利用で滅菌抗ウイルスが実現し、室内空間のウイルス感染を抑えることができる。

グローバリゼーションは止まらない

 新型コロナウイルスのパンデミックで、各国はおしなべて国境を封鎖し都市をロックダウンして国際間の人的往来を瞬間的に遮断した。グローバリゼーションの未来への憂慮、国際大都市の行方に対する懸念の声が絶えず聞こえてくるようになった。

 確かに、グローバリゼーションが進むにつれ、国際間の人的往来はハイスピードで拡大し、世界の国際観光客数は30年前の年間4億人から、2018年には同14億人へと激増した。

 グローバリゼーションで、大都市化そしてメガロポリス化も一層世界の趨勢となった。1980年から2019年の間、世界で人口が250万人以上純増したのは117都市、この間これらの都市の純増人口は合計6億3,000万人にも達した。とりわけ、人口が1,000万人を超えたメガシティは1980年の5都市から、今日33都市にまで膨れあがった。こうしたメガシティはほとんどが国際交流のセンターであり、世界の政治、経済発展を牽引している。これらメガシティの人口は合わせて5億7,000万人に達し、世界の総人口の15.7%をも占めている。

 高密度の航空網と大量の国際人的往来は新型コロナウイルスをあっという間に世界各地へ広げ、パンデミックを引き起こした。国際交流が緊密な大都市ほど、新型コロナウイルスの爆発的感染の被害を受けている。

 しかし、冷静に認識しておくべきは、新型コロナウイルスが全世界に拡散した真の原因は、国際的な人的往来の速度と密度ではなく、人類が長きに渡り、感染症の脅威を軽視してきたことにこそある。

 大航海時代から今日まで、人類は一貫して感染症の脅威に晒され、この間、幾度となく悲惨な代償を払ってきた。

 第二次大戦後は感染疾病対策で効果を上げ、ほとんどの感染症が抑えられた。よって、先進国でも世界機関でも長期にわたり感染症の脅威を軽視してきた。

 世界経済フォーラム(WORLD ECONOMIC FORUM)が公表した「グローバルリスク報告書2020(The Global Risks Report 2020)」に並ぶ今後10年に世界で発生する可能性のある十大危機ランキングでも、感染症問題は入っていなかった。また、今後10年で世界に影響を与える十大リスクランキングでは、感染症が最下位に鎮座していた。

 不幸にして世界経済フォーラムの予測に反し、新型コロナウイルスパンデミックは、人類社会に未曾有の打撃を与えた。

 しかし我々は悲観的になる必要もない。新型コロナウイルス禍は、感染症対策への関心と投資を世界的に高め、大幅な技術革新と社会変革をもたらす。人類は感染症の脅威を克服し、世界規模の失敗を世界規模の勝利へと導くに違いない。

 新型コロナウイルス禍はグローバリゼーションと国際大都市化を阻むものではない。新型コロナウイルスパンデミックを収束させた後には、より健全なグローバリゼーションとより魅力的な国際大都市が形作られるであろう。


中国網日本語版(チャイナネット)2020年5月12日

【レポート】周牧之:オゾンパワーで新型コロナウイルス撲滅を

1. 地球における命の守護神

 新型コロナウイルスが中国武漢で爆発的に発生して以来、筆者は遠大科技集団(BROAD Group)の張躍総裁とオゾンを利用した殺菌について日夜電話議論を重ねてきた。張躍氏はオゾン利用による殺菌を提唱する先駆者である。しかし実際の反響はこれまで芳しくなかった。オゾン利用に関する国内外専門家との交流や関連資料調査で、筆者もオゾンについての人々の警戒心を強く感じてきた。オゾンに関する誤解を取り除き、この緊急事態に、オゾンの積極利用を進めるべきとして、オゾンの極めて解りにくい特性に関して系統的な整理を試みた。

 地球大気圏約0~10kmの最低層は対流圏と呼ばれ、そこでの温度と高度の関係は上冷下熱である。対流圏の上部に約10~50kmの成層圏がある。成層圏では温度と高度との関係が対流圏と相反して上熱下冷である。濃度約10~20ppmのオゾン層はこの成層圏にある。オゾン層は紫外線の地球上生物に危害を加える部分を吸収する。よって、有害な紫外線による生物細胞の遺伝子の破壊を押し止め、地球上の生命に生存条件を与えている。

 オゾン層の濃度が現在のレベルに達した時期と地球上の生命が海から上陸した時期はほぼ一致している。言い換えれば、オゾン層がまだ希薄な時期、生命は海の中に潜伏せざるを得なかった。オゾン層の濃度の向上を待ってようやく陸に上がることができた。

 オゾン層の保護がなければ、地球上には細菌一つすら存在不可能であったということになる。もちろん今日の豊かな生命の繁栄もあり得なかった。

 しかし、人類の産業活動によって大量に排出されたフロンガスや揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)などによるオゾン層への破壊は、人類の免疫システムを弱め、皮膚ガンや白内障などの発病率を高める被害をもたらした。オゾンホールは地球温暖化と並び、いまや地球環境問題となっている。オゾン層破壊問題は同時に、オゾンを一般大衆の視野に入れるきっかけともなった。オゾン層はその地球生物を保護する性質に鑑み、“アース・ガーディアン”と呼ばれる。

 オゾンは、三つの酸素原子から構成され、酸素の同素体であり、特殊な匂いがする。オゾンは主に太陽の紫外線が酸素分子を二つの酸素原子に分裂させ、その酸素原子がさらに酸素と結合することで作られている。

 高濃度のオゾン層は天然のバリアとなり、地球上の生物を太陽光にある有害な紫外線の攻撃から守り、地球生命の繁栄をもたらしている。

 

2. 天上のGood Ozone,地上のBad Ozone?

 オゾンは高い空の成層圏にあるだけではなく、我々の周囲にも存在している。酸素分子は低空で多く、高空では少ない。これに対して、酸素原子は低空で少なく高空に多い。ゆえに、酸素分子と酸素原子がともにある成層圏に、オゾン層が高濃度で作られている。相反して地面と、オゾン層より高い場所のオゾン濃度は薄い。つまり、大気中のオゾン濃度は地面から約10kmのところより高くなり、成層圏のオゾン層で最大値となる。さらにその上空に行くと、オゾン濃度はまた急激に下がる。

 対流層のオゾン濃度は一般的に0.02~0.06ppmである。この自然界のオゾン濃度は人類を含む大型生物には無害である。しかし、高い濃度のオゾンは人に不快感を与え、目や呼吸器官などの粘膜組織を刺激することもある。よって、アメリカ食品医薬品局(FDA)は室内環境基準のオゾン最大濃度を0.05ppmに規定している。日本産業衛生学会は産業環境基準のオゾン許容濃度を0.1ppmと規定する。中国衛生省もオゾンの安全濃度を0.1ppmと規定している。

 以上のように高濃度オゾンに対する警戒感は元よりあった。加えてオゾンの悪名を轟かせたのは、光化学スモッグ汚染である。光化学スモッグとは、窒素酸化物 (NOx)や揮発性有機化合物(VOC)などの一次汚染物質と、それらに紫外線が照射されることによって発生するオゾンという二次汚染物質からなる。NOxとVOCなどが光化学スモッグをもたらす主な生成物質であるが、光化学スモッグの中のオゾン成分は、80〜90%までにも達する。ゆえに光化学スモッグ汚染イコールオゾン汚染だと世間は捉えがちである。

 光化学スモッグは、目や呼吸器官の粘膜組織に刺激を与え、目の痛み、頭痛、咳、喘息などの健康被害を引き起こす。また植物の成長を抑制し農作物の減産をもたらす。酸性雨の原因ともなっている。

 産業革命以来、大量のNOx排出により対流圏のオゾンが増加した。過去100年、対流圏のオゾン全量は4倍になった。とくに近年、中国を始めとする東アジアでの急速な工業化と都市化に伴い、NOxなど光化学スモッグ生成物質排出量は激増し、対流圏のオゾン増加傾向を加速させている。

 対流圏のオゾン量は成層圏の10分の1に過ぎないが、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH₄)に次ぐ第3の地球温暖化ガスとなっている。

 こうした様々な理由により、世間では“対流圏のオゾンは生物に有害な汚染物質である”との認識が広がった。ゆえにオゾンは“天上のGood Ozone,地上のBad Ozone”とも言われている。日本では対流圏オゾンの地球規模の越境汚染に対するモニタリングが重要な課題となっている。

 ここではっきりさせたいのは、光化学スモッグのオゾン濃度は対流圏の自然界での正常な濃度ではなく、人的活動の汚染排出でもたらされた非自然的な高濃度であることだ。さらに光化学スモッグのオゾンにはNOxやVOCなど有害物質が多く含まれている。これもまた自然界の澄み切ったオゾンとは全く異なっている。

 自然界のオゾン濃度は季節と地域によって差異が生じるが、一般的に人体には害を及ぼさない。自然界のオゾンは無害であるばかりかむしろ有益である。自然界のオゾンと光化学スモッグとの違いを区別しなければならない。例えば雷の高圧放電では、空気中の酸素を分裂させ、オゾンを作る。高濃度のオゾンは空気を浄化するために、雷の後、往々にして空気はより清々しいものとなる。また、晴天の海岸や森林はオゾンの濃度が高いため空気は一層清らかである。

 対流圏のオゾンも、人類生存の守護神である。ただ我々は長い間その恩恵に対する研究と認識を欠いていた。

 自然界のオゾン濃度は、大型生物に無害であるものの、微生物にとってはスーパーキラーとなる。強い酸化力を持つオゾンは、自然界の微生物の繁殖を抑制し、地球生態バランスを保ってきた。しかし、これまで地球という生命体の中で微生物を抑制するオゾンの役割は十分には重視されてこなかった。

 その理由の一つは、一般的に低濃度のオゾンには殺菌作用があまり無いと考えられてきたからである。しかし、実際は、一定の暴露時間をかければ低濃度のオゾンも十分な殺菌消毒力を持つ。つまり、自然界の低濃度オゾンが地球上の細菌やウイルスといった微生物の過度な繁殖と拡散を防いできたと言えよう。

 また、オゾンは自然界においては有害有機物を分解する。さらに、オゾンは動植物に季節の変化を知らせるシグナルであるとも考えられる。要するに、対流層のオゾンが無ければ地球は、人類の生存さえあり得ない環境であった。

 実際、オゾンは“天上のGood Ozone,地上のGood Ozone”である。人類がもたらした汚染廃棄物はオゾンを“Bad Ozone”に仕立て上げた。

 

3.“神の手”の仮説:オゾンは疫病を駆逐する?

 2002年冬から2003年春にかけて、SARSの大流行が社会的な大パニックを引き起こした。しかし5、6月になるとSARSは突然に姿を消した。SARSだけではなく、インフルエンザなど飛沫感染のウイルスのほとんどが秋冬に爆発し、春夏には消滅する。見えざる神の手がこれらの病毒を駆逐しているが如くである。

 世界中の研究者の多くがこれまでウイルスと温度、或いはウイルスと湿度との相関関係を追ってきた。しかし、これらの研究では、ウイルスと気温変化との関係がはっきり説明できなかった。インフルエンザを例に取れば、一般的に、低温、低湿の環境ではウイルスが比較的長時間活性を保ち、温度と湿度の上昇に従いその活性が抑制されると考えられている。しかし、実験で証明されたのは、ある程度の温度変化はインフルエンザのウイルスにはあまり影響がなかった。むしろ、湿度をあげることによって同ウイルスの消滅度が上がった。また、赤道付近では気温が最高であるにもかかわらず、インフルエンザウイルスがむしろ年中蔓延している。

 筆者は、酸化力を持つオゾンこそが、真の神の手であると仮説を立てた。

 オゾン濃度は季節により変化する特性を持つ。しかも秋冬が低く春夏に高い。気象庁のオゾン観測情報によると、北から南、札幌、筑波、鹿児島、那覇でオゾン全量は2月から5月の間にピークを迎える。北へ行けば行くほどそのピークの時期は早く訪れる。南ではピークが遅くなる。

 地域によってオゾンの濃度も違っている。同じ気象庁の観測情報によるとオゾン全量ピーク時の濃度は北へ行けば行くほど高い。逆に、南では濃度が低くなる。オゾン量は緯度の変化でその分布も明らかに変化している。赤道近くではオゾン量が最も低く、緯度60°付近の北方地域で最も高い。

 本来、紫外線が強いほど酸素分子の分解スピードは早い。赤道付近は太陽の照射が最大であり、オゾンは最も産出し易いはずである。しかし、オゾン濃度の変化をもたらす要素は多く、そのメカニズムも極めて複雑である。紫外線が強いほどオゾンは作り易くなると同時に、オゾン自体の分解も進む。また、オゾンの分解スピードは温度とも関係がある。温度が高いほどその分解スピードは早まる。さらに、地球規模の大気環流も無視できない。その土地で作られたオゾンが他地域に運ばれることもあり得る。

 対流圏オゾンの大半は成層圏のオゾン層から来ている。同時に植物の光合作用が生むオゾンの量や、人類の産業活動が排出するNOxとVOCの量なども対流圏のオゾン濃度に影響を与える。

 要するに、酸素分子と原子の奇妙な集合離散によって左右されるオゾン濃度は、秋冬が低く春夏に高いリズムを持つ。また、温度が高いほど、オゾンの分解速度は早まる。さらに、湿度も重要である。乾燥状態ではオゾンの殺菌力は劇的に落ちる。

 よって筆者は大胆な予測を以下の仮説を立てた。季節が冬から暖かくなるにつれ、オゾン濃度は高まり、空気の湿度も増すと同時に、オゾンは神の手となって疫病を駆逐する。

 さらにこの仮説を厳密に言うと、殺菌消毒の主力は季節変化の中で高まるオゾンであり、温度と湿度はこれの威力を高める。オゾン、温度、湿度の三者は相まって病魔を駆逐する。勿論、紫外線も微生物の一大キラーであり、室外の細菌病毒を死滅させる重要なファクターである。

 コロナウイルスの大流行によるパンデミックはいつ収束するのかがいま、世界の最大の関心事となっている。経済活動の復興や、社会の緊張の緩和はこれにかかっている。もちろん、目下世界的な株価の大暴落や東京オリンピック開催などの問題もこれに左右されている。もし、上記の仮説が成立すれば、今回の新型コロナウイルスもSARSやインフルエンザと同様、季節の変化によるオゾン濃度の向上によって消え去る。そうであれば現在、コロナウイルス危機の中で苦しむ人々の一つの希望となると同時に、パンデミック対策と復興対策の目処も立てられるだろう。

 大胆な仮説は精密な立証を必要とする。学者専門家の方々にぜひ様々な角度から検証と批判を仰ぎたい。

 

4. 有人空間でのオゾン利用へ

 オゾンは自然界の病毒の駆逐者であるばかりでなく、近代以来、人類もその強い酸化力を活かし、消毒、殺菌、除臭、解毒、漂白などの分野で広く活用してきた。
 ゆえにオゾンは、今回の地球規模でのコロナウイルスとの戦いの中でも活かされるべきである。しかもオゾンには以下の三つの特性がある。

 ①死角無く充満:オゾン発生機などから作られたオゾンは、室内に充満し、空間のすべてに行き届く。その消毒殺菌の死角は無い。これに対して、紫外線殺菌は直射であるため死角が生じる。

 ②有害残留物無し:オゾンはその酸化力を持って細菌と病毒を消滅させる。有毒な残留物は残さない。相反して現在広く使用されている化学消毒剤は人体そのものに有害であるばかりでなく、有害残留物による二次汚染も引き起こす。中国での疫病対策の中で、すでに消毒水の濫用による問題が深刻化している。日本でも十分な注意が必要である。

 ③利便性:オゾンの生成原理が簡易で、オゾン生産装置の製造は難しくない。また、オゾン発生機のサイズは大小様々あり、個室にも大型空間にも対応できる。設置が簡単なためバス、鉄道、船舶、航空機などにも設置が可能である。

 オゾンの消毒殺菌効果は、オゾン自体の濃度だけでなく環境の温度、湿度そして暴露時間とも関係する。さらに、ウイルスの種類とも一定の関係を持つ。新型コロナウイルスに有効か否かについては、直接の実験は未だ無いものの、類似の実験はある。

 中国の李澤琳教授が国家P3実験室で行ったオゾンによるSARSウイルスの殺菌実験結果によると、オゾンはSARSウイルスに対して強い殺菌効果があり、総合死滅率が99.22%に達した。今回の新型コロナウイルスは、SARSウイルスと同様にコロナウイルスに属している。新型コロナウイルスのゲノム序列の80%はSARSウイルスと一致しているという。因って、オゾンは新型コロナウイルスに対して相当の殺菌力を持つことが推理できるであろう。

 オゾンは非常に優れた殺菌消毒のパワーを持つが、個人差はあるものの一定の濃度に達した場合に人々に不快感を与え、また、粘膜系統に刺激を与えることもある。そのため、目下、主に無人の空間で使用されている。

 もし、広く有人空間で使用できれば、オゾンは新型コロナウイルスを駆逐し、空気を浄化させ得る。そうなれば、病院、職場、公共空間、公共交通機関、住宅の室内に到るまで、大きな福音となる。

 これを可能とするには、オゾン濃度のコントロールが必要である。自然界に近い濃度のオゾンを室内に取り入れられれば、人々に不快感を与えることはない。しかし、オゾンは極めて不安定な性質を持ち、一定の濃度にコントロールするには常に濃度を観測する必要がある。問題は、現在濃度観測のセンサーが極めて高価なことである。オゾン濃度センサーが容易に使えないため、オゾン濃度のコントロールは未だ一般的に実現できていない。

 もし廉価でオゾン濃度を安全にコントロールできれば、オゾン利用は容易に世間に受け入れられ、有人空間におけるオゾン利用も進むであろう。よってオゾン濃度センサーのコストの大幅削減を一大課題として取り組むべきである。

 コンクリートジャングルの大都市では、そもそもオゾン濃度は低い。人が集まる室内ではなおさらそうである。コロナウイルスが世界的に蔓延している現在、室内のオゾン濃度基準を上げ、有人空間でのオゾンによる殺菌消毒利用を模索すべきであろう。幸いにして張躍氏は、オゾン生成機能を持つ遠大産の静電空気浄化機を、コロナウイルス対策のために建てられた中国武漢の救急病院である火神山ICU病棟と方艙病院にすでに寄付した。院内感染の防止に役立ったと好評を得ている。最近、遠大グループは韓国からも、オゾン消毒殺菌機能を持つ空気清浄機付きのコロナウイルス対策用救急病院建設を依頼された。

 オゾンと微生物との関係は地球生命体の絶妙なバランスを表している。もしオゾン層の保護が無ければ、ウイルスや細菌などの微生物は存在しなかった。他方、オゾンの強い酸化力もウイルスの天敵である。人類は未だオゾンに対する認識が不十分である。筆者はオゾンに対する偏見と過度な警戒心を捨て、オゾンにまつわる数々の謎を解き明かし、オゾンの特性を十分に理解し、活かしていくべきであると考える。とりわけこの新型コロナウイルスとの戦いの中では、オゾンの力を十分に発揮させていく必要がある。

 

中国網日本語版(チャイナネット)2020年3月19日

 


【レポート】発展原動力の二極化、中国の都市発展の大きなトレンドに 〜中国都市GDP・DID人口・IT輻射力・他12指標ランキング〜

 

 中国経済発展の空間構造に大きな変化が生じており、都市の発展で明確な集中と分化の現象が起きている。各種の機能が上位都市に集中する傾向が日増しに顕著になっている上、高度な機能の集中度がますます高まっている。これに応じて、都市間の分化も目立つようになり、いわゆる「発展原動力の二極化」が明らかになってきた。

 雲河都市研究院は中国都市総合発展指標2018を使って、12種類のデータに関する上位30都市ランキングを発表。全国298都市(地級以上)のパフォーマンスをもとに、複数の重要指標と機能の集中度を分析し、「発展原動力の二極化」を解説した。

 


1. GDPランキング上位30都市

 中国国内のGDPランキング上位10都市は順に、上海、北京、深圳、広州、重慶、天津、蘇州、成都、武漢、杭州で、この10都市の合計GDPが全体に占める割合は23.6%に達する。上位30都市の合計GDPは全体の43.5%を占めている。つまり、上位10%の都市が全国4割以上のGDPを生み出しており、中国経済の発展がGDPランキング上位30都市に高く依存していることが明らかとなった。

 

2. DID人口ランキング上位30都市

 密度は都市問題を議論する際の重要なキーワードだ。中国都市総合発展指標では、1㎢あたり5000人以上の地区をDID(Densely Inhabited District:人口集中地区)と呼び、人口密度に関する正確かつ効果的な分析を行っている。
 DID人口ランキング上位10都市は上海、北京、広州、深圳、天津、重慶、成都、武漢、東莞、温州で、この10都市のDID総人口が全体に占める割合は22.8%に達する。上位30都市のDID総人口は全体の43.2%を占めている。つまり、DID人口ランキング上位10%の都市には、全国4割以上のDID人口が集中していることになる。
 注目点は、中国298都市(地級以上)のGDPとDID人口の相関関係を分析した結果、両者に強い相関関係がみられ、相関係数が0.93の高水準に達し、「完全な相関関係」を示したことだ。さらに、GDPとDID人口という二指標のランキング上位30都市のうち26都市が重複した(順位は一部異なる)。これらは、DID人口の重要性を示しており、今後の中国の都市発展ではDID人口の規模と質に注目しなければならない。

 

3. メインボード上場企業ランキング上位30都市

 上海、深圳、香港の三大メインボードの上場企業数ランキング上位3都市は上海、北京、深圳で、この3都市のメインボード上場企業総数が全体に占める割合は39.6%に達する。上位30都市のメインボード上場企業総数は全体の69.7%を占めている。つまり、メインボード上場企業ランキング上位10%の都市に全国7割近いメインボード上場企業が集中している。
 メインボード上場企業が大都市、特に中心都市に集中する状況がますます顕著となった。

4. フォーチュン500中国企業ランキング上位30都市

 30年前の1989年に、フォーブスが発表するフォーチュン500にランクインした中国企業はわずか3社だった。2018年にランクインした中国企業は105社に大幅に増え、米国企業の126社に迫った。注目点は、中国企業3社がトップ10にランクインしたことだ。
 フォーチュン500の中国企業の本拠があるのは中国の28都市で、うち66.7%が北京、上海、深圳の3都市に集中している。一般的なメインボード上場企業に比べ、フォーチュン500に躍り出た中国企業は、全国的な中心都市に集まる傾向が強い。
 メインボード上場企業数ランキング上位30都市とフォーチュン500中国企業ランキング上位30都市を分析すると、中国の最も優良な企業の本社も、いわゆる経済的な中枢管理機能を北京、上海、深圳に代表される上位中心都市に集約している。

5. 製造業輻射力ランキング上位30都市

 製造業輻射力(周辺影響力)ランキング上位10都市は深圳、上海、東莞、蘇州、佛山、広州、寧波、天津、杭州、厦門(アモイ)で、この10都市はいずれも大型コンテナを利用しやすい港湾があるという優位性を持ち、10都市の貨物輸出総額が全体に占める割合は48.2%に達する。上位30都市の貨物輸出総額は全体の74.9%を占めている。つまり、中国では現在、製造業輻射力が大きい10%の都市から全国4分の3に当たる貨物が輸出されている。

6. IT産業輻射力ランキング上位30都市

 IT産業輻射力ランキング上位10都市は北京、上海、深圳、成都、杭州、南京、広州、福州、済南、西安で、この10都市のIT就業者総数、メインボードITセクター上場企業数、中小企業ボードITセクター上場企業数、創業板ITセクター上場企業数が全体に占める割合はそれぞれ52.8%、76.1%、60%、81%に達する。上位30都市のIT就業者総数、メインボードITセクター上場企業数、中小企業ボードITセクター上場企業数、創業板ITセクター上場企業数は全体の68%、94%、78.2%、91.2%を占める。中国のIT産業がIT産業輻射力ランキング上位都市に集中する状況が顕著となっている。
 現在、中国の多くの都市がIT産業を重点産業として発展させているが、実際には、IT産業は北京、上海、深圳、成都、杭州、南京、広州といった都市に集中し、特定の都市に集中及び収れんする傾向が製造業よりも強い。こうした意味で言うと、IT産業の発展を目指す都市は、IT産業の発展に必要な条件を研究・分析しなければならない。

7. 高等教育輻射力ランキング上位30都市

 高等教育輻射力ランキング上位10都市は北京、上海、武漢、南京、西安、広州、長沙、成都、天津、哈爾浜(ハルビン)で、この10都市の211プロジェクト対象大学と985プロジェクト対象大学総数、一般大学・専門学校の在校生総数が全体に占める割合は69.3%、26.0%に達する。上位30都市の211及び985大学総数、一般大学・専門学校の在校生総数は全体の92.8%、57.1%を占めている。現在、中国の高等教育資源、特にハイクオリティな高等教育資源が高等教育輻射力ランキング上位都市に集中している状況が明かとなった。

8. 科学技術輻射力ランキング上位30都市

 科学技術輻射力ランキング上位10都市は北京、上海、深圳、成都、広州、杭州、西安、天津、蘇州、南京で、この10都市のR&D(研究開発)人材資源総量、特許取得件数が全体に占める割合は36.3%、33.2%に達する。上位30都市のR&D人材資源総量、特許取得件数は全体の59.8%、62.6%を占めている。現在、中国の科学技術資源が科学技術輻射力ランキング上位都市に集中する状況が顕著となっている。

9. 文化・スポーツ・娯楽輻射力ランキング上位30都市

 文化・スポーツ・娯楽輻射力ランキング上位10都市は北京、上海、成都、広州、深圳、武漢、杭州、南京、西安、鄭州で、この10都市の映画興行収入総額、延べ観客数が全体に占める割合は34%、30.6%に達する。上位30都市の映画興行収入総額、延べ観客数は全体の57.7%、54.6%を占めている。
 現在、中国では文化・スポーツ・娯楽資源だけでなく、興行収入に代表される文化・スポーツ・娯楽消費が文化・スポーツ・娯楽輻射力ランキング上位都市に集中する状況が顕著となっている。

10. 飲食・ホテル輻射力ランキング上位30都市

 飲食・ホテル輻射力ランキング上位10都市は上海、北京、成都、広州、深圳、杭州、蘇州、三亜、西安、厦門で、この10都市の五つ星ホテル軒数、国際トップクラスレストラン軒数が全体に占める割合は35.7%、77.1%に達する。上位30都市の五つ星ホテル軒数と国際トップクラスレストラン軒数は全体の61.1%、91.8%を占めている。中国の高級飲食店とホテルが飲食・ホテル輻射力ランキング上位都市に集中する状況が顕著となっている。
 雲河都市研究院は中国都市総合発展指標2018を使って、IT産業輻射力と飲食・ホテル輻射力に関する分析を行った。その結果、両者の相関係数は0.9に上り、両者の間に「完全な相関関係」があることが明らかとなった。交流経済の典型であるIT産業では、高所得で見識が広い経営者たちは「食事をすることが好き」であり、「食事をすること」は間違いなく彼らが「交流する」重要なシーンとなっている。
 北京、上海、深圳、成都、杭州、南京、広州はIT産業輻射力が最も強い上位7都市で、これらの都市は中国で美食の街となっている。今や食事は、都市の交流経済が発展するために軽視できない「重要な生産力」だ。
 しかし、製造業輻射力と飲食・ホテル輻射力の相関係数はわずか0.68にとどまる。IT産業に比べ、製造業従事者は美食に対する感度が低いことが示された。

11. コンテナ港利便性ランキング上位30都市

 コンテナ港利便性ランキング上位10都市は上海、深圳、寧波、広州、青島、天津、厦門、大連、蘇州、営口で、この10都市の港湾コンテナ取扱総量が全体に占める割合は82%に達する。上位30都市の港湾コンテナ取扱量は全体の97.8%を占めている。言い換えると、中国では現在、コンテナ港利便性ランキング上位10%が港湾コンテナ取扱量のほぼ全てを独占している。
 雲河都市研究院が中国都市総合発展指標2018を使って、中国298都市(地級以上)の貨物輸出額と港湾コンテナ取扱量の相関を分析した結果、両者の密接な相関が明らかとなり、相関係数が0.81の高水準に達し、「非常に強い相関関係」が示された。また、製造業輻射力とコンテナ港利便性という二指標のランキング上位30都市のうち24都市が重複した(順位は一部異なる)。このことから、製造業特に輸出工業が良い条件を備える港湾に高く依存していることが明らかとなった。今後も引き続き、中国の製造業、特に輸出工業は良い条件を備える港湾がある都市へと向かい、集中が進む見通しだ。
 工業発展と港湾条件の関係をはっきりと認識することは、中国の将来的な工業分布に極めて重要な意義を持つ。中国は、至る所で工業化を進めた過去のやり方について真剣に議論し、内陸で分散式に工業化を進めた非合理性と低効率を見直すことで、工業のハイクオリティな発展を目指す必要がある。

12. 空港利便性ランキング上位30都市

 空港利便性ランキング上位10都市は上海、北京、広州、深圳、成都、昆明、重慶、杭州、西安、厦門で、この10都市の乗降客数と貨物・郵便取扱量が全体に占める割合は49.9%、73.5%に達する。上位30都市の乗降客数と貨物・郵便取扱量は全体の81.3%、92.9%を占めている。中国では現在、航空運輸による人の移動と物流の大部分が、空港利便性ランキング上位10%の都市に集中している現状が明かとなった。
 雲河都市研究院は中国都市総合発展指標2018を使って、中国298都市(地級以上)のIT産業輻射力と空港利便性の相関を分析した。その結果、両者の密接な相関が明らかとなり、相関係数は0.82の高水準に達し、「非常に強い相関関係」が示され、製造業輻射力とコンテナ港湾利便性の相関関係よりも強い。IT産業輻射力と空港利便性という二指標のランキング上位30都市のうち21都市が重複している(順位は一部異なる)。これらから、交流経済の代表産業となるIT産業の発展は、便利な条件を備える空港に高く依存していることが分かった。今後も引き続き、IT産業は良い条件を備える空港がある都市へと向かい、集中が進む見通しだ。


 現在の中国は、経済総量とDID人口総量はもちろん、各種の機能が少数の大都市、超大都市、大都市群に集中しつつある。その上、ハイエンドな機能がますます発揮され、上位都市に集中する現象が加速している。この流れはさらに強まる見通しだ。これらを踏まえ、各種の中心機能が集まる大都市、超大都市、大都市群の経済構造と空間構造をどのように改善するかが、中国の目指すハイクオリティな発展にとって極めて重要となる。


「中国網日本語版(チャイナネット)」 2020年1月2日

【レポート】〈中国都市総合発展指標〉から3大メガロポリスを徹底比較

 中国経済の勢いのある成長は、世界経済成長の構造の変化と中国の改革開放による巨大な活力が合わさって生まれたものである。世界経済を繋ぐ大舞台として、珠江デルタ、長江デルタ、北京・天津・河北の3大都市群は中国経済成長の原動力となり、中国で最も国際的かつ代表的な都市群でもある。中米貿易戦と国内経済の構造大調整がある中、3大都市群の影響力は高まっている。

 雲河都市研究院は中国都市総合発展指標2018の12種類のデータを利用し、3大都市群の優位性を解説した。

 


1. GDP

 中国経済における3大都市群の存在感はより顕著となっている。北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群の対GDP比はそれぞれ8.6%、19.8%、9.0%に、計37.4%に達する。3大都市群は中国経済成長の構造を支えている。
 全国地級以上298都市GDPランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群の2都市がGDPランキング上位30都市に入り、北京が2位、天津が6位につける。
 長江デルタ大都市群の9都市がGDPランキング上位30都市に入り、上海が1位、蘇州が7位、杭州が10位、南京が11位、無錫が13位、寧波が15位、南通が19位、合肥が25位、常州が28位につけ、輝きを見せている。
 珠江デルタ大都市群の4都市がGDPランキング上位30都市に入り、深センが3位、広州が4位、仏山が17位、東莞が21位につける。
 3大都市群から15都市がGDPランキング上位30都市に入り、天下の半分を占めると言える。

 

2. DID人口

 密度は都市問題を討論する重要な指標の1つで、中国都市総合発展指標は1平方キロメートルあたり5000人以上の地域をDID(Densely Inhabited District:人口高密集地区)と定義し、人口密度を正確かつ有効的に分析する。
 3大都市群には全国の34.4%のDID人口が集中している。北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群の全国DID人口に占める割合はそれぞれ7.9%、17.1%、9.3%に達する。
 全国地級以上298都市DID人口ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群の2都市がDID人口ランキングの上位30都市に入り、北京が2位、天津が5位につける。
 長江デルタ大都市群の7都市がDID人口ランキングの上位30都市に入り、上海が1位、蘇州が11位、杭州が13位、南京が14位、寧波が20位、合肥が25位、無錫が28位につける。
 珠江デルタ大都市群の4都市がDID人口ランキングの上位30都市に入り、広州が3位、深センが4位、東莞が9位、仏山が15位につける。
 3大都市群から13都市がDID人口ランキングの上位30都市に入ったが、DID人口の割合を見ると、3大都市群の間に大きな差がある。珠江デルタ大都市群のDID人口比率は67.0%に達し、全国のDID人口比率31.9%を大幅に上回る。長江デルタ大都市群は46.6%、北京・天津・河北大都市群はわずか37.8%。

 

3. メインボード上場企業

 3大都市群には全国の半数以上のメインボード(上海、深セン、香港の3大メインボード)上場企業が集まっている。北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタが全国のメインボード上場企業数に占める割合はそれぞれ15.9%、28%、10.3%、計54.2%に達する。
 全国地級以上298都市メインボード上場企業数ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が示された。
 北京・天津・河北大都市群の2都市がメインボード上場企業数ランキングの上位30都市に入り、北京が2位、天津が8位につける。
 長江デルタ大都市群の7都市がメインボード上場企業数ランキングの上位30都市に入り、上海が1位、南京と杭州が同率4位、寧波が9位、合肥が13位、蘇州が21位、無錫が24位につける。
 珠江デルタ大都市群からは2都市のみがメインボード上場企業数ランキングの上位30都市に入り、深センが3位、広州が7位につける。同地区の世に名を知られる東莞や仏山などの製造業都市は「工場経済」のレベルで止まっている。
 3大都市群から11都市がメインボード上場企業数ランキングの上位30都市に入り、中でも上海、北京、深センは全国のメインボード上場企業の31.3%を有する。

 

4. フォーチュントップ500中国企業

 3大都市群には全国の80%のフォーチュントップ500中国企業が集まっている。北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国のフォーチュントップ500中国企業数に占める割合はそれぞれ54.3%、14.3%、11.4%に達する。
 全国地級以上298都市フォーチュントップ500中国企業ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群の3都市がフォーチュントップ500中国企業ランキングの上位30都市に入り、北京が1位、天津と石家荘が同率11位につける。
 長江デルタ大都市群の4都市がフォーチュントップ500中国企業ランキングの上位30都市に入り、上海が2位、杭州が4位、南京と蘇州が同率7位につける。
 珠江デルタ大都市群の3都市がフォーチュントップ500中国企業ランキングの上位30都市に入り、深センが3位、広州が4位、仏山が7位につける。
 3大都市群から10都市がフォーチュントップ500中国企業ランキングの上位30都市に入り、中でも北京の地位は際立ち、全国の52.4%のフォーチュントップ500中国企業を有する。

 

5. 製造業輻射力

 3大都市群には全国の貨物輸出額の67.8%が集まっている。北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国貨物輸出総額に占める割合はそれぞれ6.2%、32.7%、28.8%に達する。3大都市群、特に長江デルタと珠江デルタは中国の輸出業発展を支え、名実相伴う「世界の工場」である。
 輻射力は都市のある機能の外部利用度を表す指数で、中国都市総合発展指標は影響力をもとに都市の各産業の対外サービス能力を正確かつ有効的に分析する。
 全国地級以上298都市製造業輻射力ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群の2都市が製造業輻射力ランキングの上位30都市に入り、天津が8位、北京が17位につける。
 長江デルタ大都市群の11都市が製造業輻射力ランキングの上位30都市に入り、上海が2位、蘇州が4位、寧波が7位、杭州が9位、無錫が14位、嘉興が20位、南京が21位、金華が23位、紹興が24位、常州が26位、南通が29位につけ、勢いがあると言える。
 珠江デルタ大都市群全9都市の中の8都市が製造業輻射力ランキングの上位30都市に入り、深センが1位、東莞が3位、仏山が5位、広州が6位、恵州が11位、中山が13位、珠海が19位、江門が30位につけ、威力を発揮している。
 3大都市群から21都市が製造業輻射力ランキングの上位30都市に入った。2008~2018年、中国の輸出規模は10倍になり、世界最大の輸出大国に躍進した。製造業サプライチェーンの世界拡張という取引経済大爆発の中で、3大都市群は正真正銘の最大の勝ち組である。

 

6. IT産業輻射力

 3大都市群には全国のIT業メインボード上場企業の71.8%とIT業従事者の50.7%が集まっている。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国のIT業メインボード上場企業に占める割合はそれぞれ32.5 %、24.8%、14.5%に達する。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国のIT業従事者数に占める割合はそれぞれ20.9%、19.5%、10.2%に達する。
 全国地級以上298都市IT産業輻射力ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群からは北京だけが1位でIT産業輻射力ランキングの上位30都市に入った。
 長江デルタ大都市群の6都市がIT産業輻射力ランキングの上位30都市に入り、上海が2位、杭州が5位、南京が6位、蘇州が15位、合肥が21位、無錫が24位につける。
 珠江デルタ大都市群の3都市がIT産業輻射力ランキングの上位30都市に入り、深センが3位、広州が7位、珠海が20位につける。
 3大都市群から10都市がIT産業輻射力ランキングの上位30都市に入ったが、製造業輻射力の高い都市の多くがIT産業輻射力ランキングの上位30都市に入らなかった点に注目したい。

 

7. 高等教育輻射力

 3大都市群には全国の211 & 985大学の51.6%と一般大学・専門学校の28.2%の在校生が集まっている。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国の211 & 985大学数に占める割合はそれぞれ26.8%、20.9%、3.9%に達する。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国の一般大学・専門学校在校生総数に占める割合はそれぞれ8.3%、14.0%、5.9%に達する。
 全国地級以上298都市高等教育輻射力ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群の3都市が高等教育輻射力ランキングの上位30都市に入り、北京が1位、天津が9位、石家荘が29位につける。
 長江デルタ大都市群の5都市が高等教育輻射力ランキングの上位30都市に入り、上海が2位、南京が4位、合肥が12位、杭州が14位、蘇州が30位につける。
 珠江デルタ大都市群からは広州だけが6位で高等教育輻射力ランキングの上位30都市に入った。
 3大都市群から9都市が高等教育輻射力ランキングの上位30都市に入り、珠江デルタ大都市群の高等教育輻射力は比較的低い。

 

8. 科学技術輻射力

 3大都市群には全国のR&D(研究開発)人材資源の53.3%と特許取得件数の55.6%が集まっている。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国のR&D人材資源総量に占める割合はそれぞれ12.2%、28.5%、12.7%に達する。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国の特許取得件数に占める割合はそれぞれ10.3%、30.9%、14.4%に達する。
 全国地級以上298都市科学技術輻射力ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群の2都市が科学技術輻射力ランキングの上位30都市に入り、北京が1位、天津が8位につける。
 長江デルタ大都市群の11都市が科学技術輻射力ランキングの上位30都市に入り、上海が2位、杭州が6位、蘇州が9位、南京が10位、寧波が12位、無錫が14位、合肥が17位、紹興が20位、南通が21位、嘉興が27位、常州が30位につける。
 珠江デルタ大都市群の5都市が科学技術輻射力ランキングの上位30都市に入り、深センが3位、広州が5位、仏山が16位、東莞が18位、中山が24位につける。
 3大都市群から18都市が科学技術輻射力ランキングの上位30都市に入った。

 

9. 文化・スポーツ・娯楽輻射力

 3大都市群には全国の映画興行収入の45.9%と観客数の43.3%が集まっている。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国の映画興行収入に占める割合はそれぞれ9.6%、23.6%、12.8%に達する。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国の観客数に占める割合はそれぞれ8.5%、22.8%、11.9%に達する。
 全国地級以上298都市文化・スポーツ・娯楽輻射力ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群の2都市が文化・スポーツ・娯楽輻射力ランキングの上位30都市に入り、北京が1位、天津が13位につける。
 長江デルタ大都市群の7都市が文化・スポーツ・娯楽輻射力ランキングの上位30都市に入り、上海が2位、杭州が7位、南京が8位、蘇州が14位、合肥が17位、寧波が25位、無錫が26位につける。
 珠江デルタ大都市群の4都市が文化・スポーツ・娯楽輻射力ランキングの上位30都市に入り、広州が4位、深センが5位、東莞が20位、仏山が23位につける。
 3大都市群から13都市が文化・スポーツ・娯楽輻射力ランキングの上位30都市に入った。

 

10. 飲食・ホテル輻射力

 3大都市群には全国の5つ星ホテルの51.7%と全国の国際トップクラスレストランの72.9%が集まっている。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国の5つ星ホテル軒数に占める割合はそれぞれ11.4%、29.5%、10.9%に達する。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国の国際トップクラスレストラン軒数に占める割合はそれぞれ20.0%、37.5%、15.4%に達する。
 全国地級以上298都市飲食・ホテル輻射力ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群の2都市が飲食・ホテル輻射力ランキングの上位30都市に入り、北京が2位、天津が16位につける。
 長江デルタ大都市群の8都市が飲食・ホテル輻射力ランキングの上位30都市に入り、上海が1位、杭州が6位、蘇州が7位、南京が11位、寧波が14位、舟山が18位、無錫が26位、合肥が29位につける。
 珠江デルタ大都市群の4都市が飲食・ホテル輻射力ランキングの上位30都市に入り、広州が4位、深センが5位、珠海が20位、東莞が27位につける。
 3大都市群から14都市が飲食・ホテル輻射力ランキングの上位30都市に入った。

 

11. コンテナ港利便性

 3大都市群には全国の港のコンテナ取扱量の69.5%が集まっている。北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国の港のコンテナ取扱量に占める割合はそれぞれ8.3 %、35.2%、26%に達する。
 全国地級以上298都市コンテナ港利便性ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群の2都市がコンテナ港利便性ランキングの上位30都市に入り、天津が6位、唐山が28位につける。
 長江デルタ大都市群の11都市がコンテナ港利便性ランキングの上位30都市に入り、上海が1位、寧波が3位、蘇州が9位、舟山が12位、南京が15位、南通が17位、嘉興が20位、無錫が23位、湖州が26位、常州が29位、紹興が30位につけ、港湾都市が林立していると言える。
 珠江デルタ大都市群全9都市の中の8都市がコンテナ港利便性ランキングの上位30都市に入り、深センが2位、広州が4位、東莞が13位、仏山が14位、中山が18位、珠海が21位、江門が25位、恵州が27位につけ、大量の帆が立っている。
 3大都市群から21都市がコンテナ港利便性ランキングの上位30都市に入った。港湾の優位性は3大都市群の発展を支え、中でも製造業の発展の重要な柱であることは間違いない。

 

12. 空港利便性

 3大都市群には全国の空港旅客数の41.5%と空港貨物取扱量の67.8%が集まっている。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国の空港旅客数に占める割合はそれぞれ11.9%、18.7%、10.9%に達する。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国の空港貨物取扱量に占める割合はそれぞれ14.7%、34.6%、18.5%に達する。
 全国地級以上298都市空港利便性ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群の2都市が空港利便性ランキングの上位30都市に入り、北京が2位、天津が13位につける。
 長江デルタ大都市群の3都市が空港利便性ランキングの上位30都市に入り、上海が1位、杭州が8位、南京が12位につける。
 珠江デルタ大都市群の3都市が空港利便性ランキングの上位30都市に入り、広州が3位、深センが4位、珠海が27位、につける。
 3大都市群から8都市が空港利便性ランキングの上位30都市に入った。特に北京、上海、広州、深センの4大国際航空ターミナルは3大都市群を中国で航空輸送が最も便利な地域にし、大都市群の交流経済の発展の重要な支えとなっている。

 


3大都市群に含まれる都市

 北京・天津・河北大都市群の10都市:北京、天津、石家荘、保定、唐山、秦皇島、張家口、承徳、滄州、廊坊

 長江デルタ大都市群の26都市:上海、南京、杭州、蘇州、合肥、無錫、寧波、常州、嘉興、南通、塩城、揚州、鎮江、泰州、湖州、紹興、金華、舟山、台州、蕪湖、馬鞍山、銅陵、安慶、滁州、池州、宣城。

 珠江デルタ大都市群の9都市:広州、深セン、東莞、仏山、珠海、中山、江門、恵州、肇慶。


中国網日本語版(チャイナネット)」 2019年12月31日

【ランキング】「中国中心都市&都市圏発展指数2018」が発表

雲河都市研究院

中国中心都市&都市圏発展指数2018 総合ランキング

 シンクタンクの雲河都市研究院が作成した中国中心都市&都市圏発展指数2018がこのほど、北京市で発表された。総合ランキングのトップ3は北京、上海、深圳、第4位から第10位は順に広州、天津、成都、杭州、重慶、南京、武漢となった。

  同指数の大きな特徴は、中国の4大直轄市、22省都、5自治区首府、5計画単列市の計36都市を「中心都市」として、全国298の地級市以上の都市間で評価した点にある。同指標の分析によると、これら36の「中心都市」は全国GDP規模の39.7%、貨物輸出・輸入の55.2%、特許取得数の48.7%を占め、全国の常住人口の25%、DID人口の41.4%、メインボード上場企業の71.6%、全国の981&211高等教育機関=トップ大学の94.8%、5つ星ホテルの58.1%、三甲病院(最高等級病院)の54.1%を有している。


 中国中心都市&都市圏発展指数2018は都市地位、都市圏実力、輻射能力、広域中枢機能、開放交流、ビジネス環境、イノベーション・起業、生態環境、生活品質、文化教育の10大項目と30の小項目からなり、包括的かつ詳細に、中心都市の都市圏発展を指数で診断し、中国中心都市の高品質発展を促す総合評価である。

中国中心都市&都市圏発展指数構造図

都市地位大項目 


 都市地位大項目ランキングのトップ3は、北京、上海、広州。第4位から第10位は順に天津、重慶、南京、杭州、成都、深圳、武漢。 都市地位大項目は行政機能、メガロポリス、“一帯一路”の3つの小項目指標を設置。行政機能の小項目においては、首都、直轄市、省都の行政機能が高得点となった。長江デルタ、珠江デルタ、京津冀(北京・天津・河北)の3大メガロポリスの都市は、大項目指標において点数が高い。“一帯一路”の小項目では、貿易投資および海外との往来が良好な都市が、上位を占めた。

都市地位ランキング概略図(総合ランキング中心都市トップ20)

都市圏実力大項目 


 都市圏実力大項目ランキンングトップ3は北京、上海、深圳。第4位から第10位は順に広州、天津、重慶、杭州、武漢、成都、南京。都市圏実力大項目は経済規模、都市圏品質、企業集積の3つの小項目指標を設置。面積も人口も規模も特大な4大直轄市が、経済規模のトップ4を占めた。北京、上海、深圳は企業集積小項目で圧倒的優位に立ち、順にトップ3を飾った。上海、深圳、北京は都市圏品質小項目でもトップ3となった。

都市圏実力ランキング概略図(総合ランキング中心都市トップ20)

輻射能力大項目


 輻射能力大項目ランキングトップ3は北京、上海、深圳。第4位から第10位は順に成都、広州、杭州、南京、西安、武漢、天津。

 輻射能力大項目は製造業・IT産業輻射力、金融・科学技術・高等教育輻射力、生活文化サービス輻射力の3つの小項目の指標を設置。北京は3つの小項目の第1位をすべて独占した。上海は金融・科学技術・高等教育輻射力と生活文化サービス輻射力の2つの小項目で第2位、深圳は製造業・IT産業輻射力で第2位だった。広州と成都はそれぞれ金融・科学技術・高等教育輻射力と生活文化サービス輻射力で第3位につけた。

 
輻射能力ランキング概略図(総合ランキング中心都市トップ20)

広域中枢機能大項目 


 広域中枢機能大項目ランキングトップ3は上海、広州、深圳。北京は第4位につけ、第5位から第10位は順に天津、寧波、青島、武漢、廈門、成都。広域中枢機能大項目は水路輸送、航空輸送、陸路輸送の3つの小項目指標を設置。上海、深圳、寧波、広州をはじめとする臨海都市が水路輸送の上位を占めた。上海、北京、広州の3都市は航空輸送でトップ3となった。陸路輸送トップ3は広州、武漢、北京。

 
広域中枢機能概略図(総合ランキング中心都市トップ20)

開放交流大項目


 開放交流大項目ランキングトップ10は上海、北京、深圳、天津、広州、重慶、杭州、成都、青島、寧波。  開放交流大項目は国際貿易、国際投資、交流業績の3つの小項目指標を設置。国際貿易トップ3は上海、深圳、北京。国際投資トップ3は天津、上海、北京。交流業績トップ3は上海、北京、広州だった。

開放交流ランキング概略図(総合ランキング中心都市トップ20)

ビジネス環境大項目 


 ビジネス環境大項目ランキングトップ3は上海、北京、広州。第4位から第10位は順に深圳、成都、天津、南京、廈門、重慶、武漢。  ビジネス環境大項目は園区支援、ビジネス支援、都市交通の3つの小項目指標を設置。園区支援トップ3は上海、深圳、廈門。ビジネス支援トップ3は北京、上海、広州。都市交通トップ3は上海、北京、広州だった。

ビジネス環境ランキング概略図(総合ランキング中心都市トップ20)

イノベーション・起業大項目


 イノベーション・起業大項目トップ3は北京、深圳、上海。第4位から第10位は順に広州、杭州、天津、南京、成都、武漢、重慶。イノベーション・起業大項目は研究集積、イノベーション・起業活力、政策支援の3つの小項目指標を設置。研究集積トップ3は北京、上海、深圳。イノベーション・起業活力トップ3は深圳、北京、上海。政策支援トップ3は北京、上海、重慶で、直轄市が政策支援で高評価を得た。

イノベーション・起業ランキング概略図(総合ランキング中心都市トップ20)

生態環境大項目


 生態環境大項目トップ3は上海、北京、深圳。第4位から第10位は順に広州、天津、重慶、廈門、杭州、成都、武漢。  生態環境大項目は資源環境品質、環境努力、資源効率の3つの小項目指標を設置。環境努力トップ3は北京、上海、重慶。資源効率トップ3は上海、深圳、北京で、同3都市はDID人口の規模が大きく密度が高いだけでなく、企業の本社も集積している。しかし、資源環境品質では中国中心都市&都市圏発展指数の対象36都市からは海口と廈門だけが全国トップ20に入り各々第13位と第19位であった。その他の都市は及ばなかった。

生態環境ランキング概略図(総合ランキング中心都市トップ20)

生活品質大項目


 市民と密接に関わる生活品質大項目ランキングは、北京、上海、広州がトップ3、深圳は意外にも第10位へと順位を落とした。第4位から第9位は順に天津、杭州、成都、南京、重慶、武漢。深圳が第10位まで順位を下げたのは、主に医療福祉、住みやすさの2つの小項目が足を引っ張ったためである。住みやすさ小項目のトップ3は上海、蘇州、成都。生活消費水準小項目トップ3は北京、上海、広州。医療福祉小項目トップ3も北京、上海、広州であった。

生活品質ランキング概略図(総合ランキング中心都市トップ20)

文化教育大項目 


 文化教育大項目ランキングでも深圳はいまひとつ振るわず、トップ10から外れた。トップ3は北京、上海、広州。第4位から第10位は順に南京、武漢、成都、天津、西安、重慶、杭州。文化教育大項目は文化娯楽、人材育成、文化パフォーマンスの3つの小項目指標を設置。中でも深圳は人材育成で全国第11位につけたが、文化パフォーマンスでは第73位と落ち込んだ。

文化教育ランキング概略図(総合ランキング中心都市トップ20)

 中国中心都市&都市圏発展指数は、その分析により中心都市の発展状況を各方面から観測・判断し、中心都市の都市圏発展に有益な方向性を提示する。同指数の開発を指揮した東京経済大学の周牧之教授は記者に対し、「全国298の地級市以上の都市の分析研究は、中国の高度な都市機能が中心都市に集中し、かつ高機能であるほど集約度が高いことを示した。中心都市をコアとする都市圏の育成と発展こそが、国際競争での中国の都市の勝敗を決める」と話している。

「中国網日本語版(チャイナネット)」 2019年8月20日


【シンポジウム】「開放と革新 中国都市高品質発展」シンポジウム、北京で開催

 中国インターネットニュースセンター(中国網)と雲河都市研究院による「開放と革新 中国都市高品質発展」シンポジウムが2019年6月11日、北京市で開催された。国務院新聞弁公室元主任の趙啓正氏、全国政協常務委員、経済委員会副主任の楊偉民氏、国家発展改革委員会発展戦略計画司副司長の周南氏らが出席し、スピーチを行った。中国網編集長の王暁輝氏がシンポジウムを主宰。雲河都市研究院長の周牧之氏が、「中国中心都市&都市圏発展指数2018」を発表した。

 国家発展改革委員会は今年2月19日に「現代化都市圏の育成・発展に関する指導意見」(以下「同意見」)を発表した。同意見は、現代化都市圏の建設は新型都市化を推進する重要な手段であり、人口及び経済の空間構造の改善を促し、効果的な投資と潜在的な消費の需要を引き出し、内在的な発展の動力を強化すると指摘した。現代化都市圏の育成を手がかりとし都市の発展品質を高め、高品質の都市化により中国経済の高品質発展を促進することは、現在の中国経済にとって重大な意義を持つ。来賓はこのテーマをめぐり優れたスピーチを行い、白熱した議論を展開した。

 

 国務院新聞弁公室元主任の趙啓正氏
国務院新聞弁公室元主任の趙啓正氏

 国務院新聞弁公室の元主任の趙啓正氏は主旨演説で、20年以上前に上海浦東新区の開発建設に参与した際の経験と体験を語った。趙啓正氏は、浦東の開発当初、「地球儀の縁に立ち浦東の開発を考える」という理念を持っていたと話した。具体的には、開発目標の設定時に浦東の上海における立場、上海の世界経済構造における立場を考える必要があった。趙啓正氏は、「機能計画と形態計画を含む我々の計画を、十分に高い国際レベルにする必要がある。我々は世界の資金と技術を吸収するだけでなく、世界の経済の知恵も吸収しなければいけない」と述べた。また趙啓正氏によると、浦東の開発は経済開発だけでなく、社会開発でもあり、社会の全面的進歩を追求する必要がある。新区は計画実行において、厳格な土地管理、投資密度と効果に重視するなどの措置を採用した。また、「勤政廉政」も重要な投資環境であり、新区において一流の党組織が一流の開発を牽引した。趙啓正氏は、「浦東新区の開発の経験を総括すると、目に見え手で触れられるGDP、税収、輸出入額などのハード面の成果より、経済成長、社会進歩、都市インフラ建設、国家間協力、政府の職能移転、人材育成などの思考と経験の方が貴重」だと話した。

 

全国政協常務委員、経済委員会副主任の楊偉民氏
全国政協常務委員、経済委員会副主任の楊偉民氏

 楊偉民氏は「空間的発展理念を樹立し、都市化の高品質発展を推進する」と題した基調演説の中で、次のように指摘した。工業化の高品質発展と都市化の高品質発展は、経済高品質発展を促す2大任務だ。互いに関連し、互いに促進し、どちらも不可欠だ。都市化の高品質発展の意義は、都市の経済・人口・自然環境のバランスの取れた発展の実現にある。その上で重要になるのは「空間均衡発展」という理念を樹立することだ。これはつまり一定の空間内で、「経済発展、人の全面的な発展、持続可能な発展」という3つの発展のバランスを取ることだ。富が増え、すべての人に公平に分配され、自然再生を維持する。都市化の高品質発展については、戸籍の規制をさらに緩和し、農村建設用地財産権制度を改善し、住宅用地の供給を拡大できる。都市圏を範囲とし、計画、要素流動、インフラ、生態環境、観光、エネルギー、ビッグデータなどの一体化を実現する。また「一枚の青写真」で最後まで推進できる空間計画を策定する。

 

国家発展改革委員会発展戦略計画司副司長の周南氏
国家発展改革委員会発展戦略計画司副司長の周南氏

 周南氏は「メカニズムの革新、現代化都市圏の育成・発展」と題した特別報告の中で、都市圏の概念は何の根拠もなく生じたわけではなく、国際的な経験と国内の実験の結果を合わせ形成された「客観的な法則」であると表明した。同意見は、2035年までに現代化都市圏の構造がさらに成熟し、世界的な影響力を持つ都市圏を形成するとした。周氏は次のように指摘した。現代化都市圏の育成・発展で必要になるのは、インフラ一体化の推進の加速、都市間の分業と協力の強化、統一的な市場の建設の加速、公共サービスの共同建設・共有の推進の加速、生態環境の共同保護・ガバナンスの強化、都市部・農村部融合発展の実現だ。公共サービスの共同建設・共有、生態環境の共同保護・ガバナンスは、現代化都市圏の成熟度を示す重要なものさしだ。政府は都市圏内の社会保障及び公共サービス一体化・均等化の推進を加速し、公共サービス及びインフラの量・構造・配置を調整することで人口増に伴う効果的な需要に適応し、高品質の公共サービス資源の共有により都市圏内の人口移動をけん引するべきだ。

 

東京経済大学教授、雲河都市研究院長の周牧之氏
東京経済大学教授、雲河都市研究院長の周牧之氏

 周牧之氏はシンポジウムにて、雲河都市研究院による中国中心都市&都市圏発展指数2018を発表した。同報告書は科学的な指標体系により中国の地級以上298都市の「身体検査」を行った。かつ都市の地位、都市圏の実力、影響力、広域ハブ、開放・交流、文化教育、ビジネス環境、革新・創業、生態資源環境、生活の質など10のメイン項目と30のサブ項目から順位を確定した。

 同報告書の総合ランキングのうち、北京市、上海市、深セン市がトップ3を占めた。4−10位は広州市、天津市、成都市、杭州市、重慶市、南京市、武漢市。

 経済規模、都市圏の品質、企業集約などで形成された都市圏の実力ランキングを見ると、北京市、上海市、深セン市がトップ3を占めている。4−10位は広州市、天津市、重慶市、杭州市、武漢市、成都市、南京市。製造業、IT産業、金融、科学技術、高等教育、生活文化サービスなどの影響力のランキングを見ると、やはり北京市、上海市、深セン市がトップ3を占めており、成都市が4位につけている。5−10位は広州市、杭州市、南京市、西安市、武漢市、天津市。

 貨物貿易、実行ベース外資導入額、域外観光客、国際会議などの指標からなる開放・交流項目のランキングを見ると、上海市が首位で、北京市と深セン市が後に続いている。4−8位は天津市、広州市、重慶市、杭州市、成都市。青島市と寧波市がトップ10入りしている。ビジネス環境のランキングを見ると、上海市、北京市、広州市が優れており、アモイ市が8位につけている。生態資源環境のランキングを見ると、上海市が北京市を抑え1位で、3位は深セン市。革新・創業のトップ3は北京市、深セン市、上海市。

 周牧之氏は同報告書について、次のように説明した。都市圏政策の要義は、過度に高い人口密度を下げ、人口集中地区(DID)を強化し、中心都市と周辺中小都市の相互発展構造の形成を推進し、都市圏の影響力を拡大することにある。特に国際交流の場としての能力を強化し、世界の都市による大規模な交流と競走の時代により良く参与する。

 

 長江デルタG60科学技術イノベーション回廊連席会議弁公室常務副主任の陸峰氏はシンポジウムにて、同回廊の模索と実践について紹介した。ドイツ、フランス、メキシコ、バングラデシュなどの外国からの出席者は、中国の都市発展の勢いに関する印象を語った。朝陽区長補佐の馮文氏は、中国は古都保護など海外の先進的な経験に学ぶ必要があり、中国の都市建設及び発展の道も世界にその参考事例を提供したと述べた。

 

中国網編集長の王暁輝氏
中国網編集長の王暁輝氏がシンポジウムの司会者を担当。

「中国網日本語版(チャイナネット)」 2019年6月12日


【シンポジウム】「交流経済」×「地域循環共生圏」が新たな時代を創り出す

岡本英男学長と森本英香環境事務次官
開会挨拶する岡本英男学長と森本英香環境事務次官

NOTE:年間訪日外国人数が2018年に初めて3000万人を超え、そこで培われる交流交易は日本の地域活性化の可能性をも広げている。地球規模では、温暖化を主原因とする災害の発生が相次ぎ、循環型社会の構築が人類共通の緊急課題となって久しい。創立120周年を迎えた東京経済大学は2019年1月26日、「交流経済」×「地域循環共生圏」—都市発展のニューパラダイム−と題したシンポジウムを東京・国分寺の同大学キャンパスで開催した。


 楊偉民中国人民政治協商会議常務委員を始めとする中国の政策実務担当者らを招き、日本の中央官庁、地方行政責任者、有識者らと意見を交わした。環境・経済・社会の統合的向上を目指す新しい成長モデルについて、それぞれの立場から今後の多様な方向性が示された。学生、市民、研究者ら約200人が熱心に聴講した。

 冒頭、岡本英男東京経済大学学長が開会挨拶し、同大学創設者で実業家の大倉喜八郎が孫文の支援者として辛亥革命を助けたエピソードに触れ、同大学と中国との深い結びつきを紹介。日中両国の発展にとってプラスになる事業を今後も進め「狭い学問、学内だけに閉じ込もらず行政官そして民間企業とも広く連携したい」と表明した。

 森本英香環境事務次官は、地球温暖化、保護主義、情報化・グローバル化を今の時代の3大不安定要因とし、新しい安定を見出す必要性を述べた上で「地域の資源、文化、人材を活かした交流が必要だ。日中双方の有識者の交流で新しい視点、アイディア、そして未来が生まれる」とシンポジウムの議論に期待した。

 

楊偉民氏と中井徳太郎氏
基調講演をする楊偉民氏と中井徳太郎氏 

 基調講演では、八年ぶりに来日した楊氏が、「巨大な中国、多様性のある中国における空間発展」をテーマに、中国政府が推進する「生態文明」の概念と、今後の発展の道筋について説明した。「中国は、空間の特徴と生態バランスにおける各地域の役割に配慮し、均一的発展モデルを取りやめ、発展すべきところは発展、保護すべきところは保護する考えで“主体功能区”政策に取り組んでいる」と紹介し、中国の目指す空間構造について展望した。

 中井徳太郎環境省総合環境政策統括官は、昨年4月に閣議決定した第5次環境基本計画が、環境だけでなく経済、社会を含め統合的に課題解決を図るビジョンだと説明。具体的には、「自然の恵み、森里川海を見つめ直し、地域の住民、自治体政府、金融、建設など各業界が協力して新技術を活用し、豊かな食、水、空気を確保する。そうした地域資源利用により地産地消を進め、さらに他地域とも連携することがビジネスにもつながる。草の根の国民運動として広げることで、コミュニテイが出来、災害に強いエコシステムが成り立ち、高齢化にも対応できる」と力説した。

 「交流経済」をテーマとしたセッション1では、司会の周牧之同大学経済学部教授が、自ら責任者として開発し日中両国で出版した中国都市総合発展指標(日本語版は「中国都市ランキング」)を使い、1980年代以降今日までの日本、中国そして世界で、大都市に人口が急激に集中した現象を分析。グローバリゼーションと交流交易経済に最も適した場所として成長を謳歌しているのが、日本では東京大都市圏、中国では長江デルタ、珠江デルタ、京津冀の三大メガロポリスだと指摘した。 

 

周牧之教授
問題提起する周牧之教授

 また、周教授は日本と中国で経済成長を実現させた要因が共に「輸出及び都市化の進展」であったとした上で、従来の製造業に代わってリーディング産業として台頭したIT業界を事例に解説。中国では、香港、上海、深圳の三つのメインボードに上場するIT関連企業の94%が、TOPランキング30都市に集中して立地している。都市のIT輻射力は、空港、海外旅行客数、国際会議数はもちろん、科学技術、ホテル・飲食、高等教育などの輻射力との相関係数が高く、グローバル化を進め、人材、資金、生活レベルを不断に高める都市に集中する。日本のIT業界もほぼ同じ様相を見せている。「日本と比べて中国の都市は、市街地の面積が拡大しても都市人口はさほど増えていない。またCO2排出量が膨らみ、環境を著しく悪化させた点で、ロークオリティ成長であった」とし、環境、経済、社会が共に発展するハイクオリティな成長を目指すための方向性について問題提起した。

 これを受けて、前田泰宏中小企業庁次長は、一人ひとりが我が事として環境問題を捉える事が重要であるとし、「日本人も中国人も現在最もお金を払うのはストレス解消への投資だ。自らの生きる環境を改善する事こそが生きる意欲に繋がり、またSDGsの実現に繋がる」と呼びかけた。街づくりの改善で人の往来を増やしたイタリア・ベネチアや東京・谷中の取り組みを事例に、「観光客ら訪問人口の回転率を増やす事で、人口減による経済の落ち込みも補える。交流経済の質の向上が欠かせない」と述べた。

 次いで元IMF理事の小手川大助キャノングローバル戦略研究所研究主幹が、世界でいま海外観光客の最も多い都市はフランスのパリで、その数が年間8000万人である事に比べると、「日本の3000万人はまだ少ない。人口から見ても中国や他の新興国にはまだ圧倒的な成長の余力と市場がある」と述べた。健康食品事業に携わった自らの経験を紹介しながら、「新たな時代の経済成長には新しい製品作りや、それに伴う海外との共同投資、共同研究の拡がりが必須だ」とし、来日時の一人当たり観光消費額がいま最も多いロシアなどへの日本ビザ発給の緩和で、海外との交流交易が一層進展するよう期待した。

 元中国国家統計局長の邱暁華マカオ都市大学経済研究所所長は、中国経済が生産主導から消費主導へ移向する新常態にあ るとし、「中国経済の最も大きな変化は、中間層の拡大による消費動向の変化だ」と説明した。健康、娯楽、文化など新しい需要の拡大が経済を牽引していくに当たり、対外的には一層開放し、国内的には「製品開発などの分野で研究及び経営努力を奨励すべきだ」と述べた。

 続いて、周教授が指標データを使い、西暦2000年以降の東京大都市圏と北京の都市のパフォーマンスを比較した。北京は東京と比べて都市面積が1.2倍、人口が6割、一人当たりGDPは同半分まで追いついたものの、一人当たりCO2排出量は同2.1倍、単位当たりエネルギー消費が同4.7倍に及んだ現状を提示。環境への配慮が都市づくりの今日の最重要課題であるとした上で、さらに東京が、海外観光客数で北京の5.6倍、国際会議開催数で同17.4倍、国際評価トップレストラン数で同10倍と、開放性でも差を広げたことに触れ、「東京は、観光、娯楽、仕事、衣食住全般で訪れる人の多目的行動を満足させ、加えて交流経済のシンボルであるIT輻射力も集中していることから、交流経済の場として極めて秀でた」と分析した。

 

パネリストの前田泰宏氏、小手川大助氏、邱暁華氏
セッション1のパネリストの前田泰宏氏、小手川大助氏、邱暁華氏

 この分析を受けて、前田氏は、「人がITツールを用い、様々なライフスタイルを分割所有できる時代になった。求心力のある人物が色々な地域に住んで交流し、発信し、仕事をする。そうした人をベースにさらに人が集まるような交流経済が量を増やす」と述べた。小手川氏は、東京そして日本の役割を展望し、「貿易、軍事、ITの3つが、米中間の大問題となっている中、日本は、中国への理解を米国に促すなど、米中関係をつなぐ橋渡し役を務めることが肝心だ」と訴えた。また、中国に対して、「経済発展のポテンシャルを大きく持つにもかかわらず、金融面が内向きに閉じている国内の現状を改善してほしい」と投げかけた。邱氏は、「交流交易はすなわち人と人との関係構築である」と述べ、大陸、香港、台湾、マカオを含めると約1500万人もの華人が日本を訪れている一方、日本人の中国渡航が未だ少ない実情を取り上げ、「百聞は一見に如かずだ。実際に訪れてみる事で、中国への認識と実情との隔たりを埋められる。一方通行でない交流交易を進めるためにも、大勢の日本人の中国訪問を歓迎したい」と呼びかけた。

 

尾崎寛直氏、和田篤也氏、小林一美氏、張仲梁氏
セッション2に登壇する尾崎寛直氏、和田篤也氏、小林一美氏、張仲梁氏。

 周教授は、「多様性と開放こそが交流経済の必要条件」とし、マサチューセッツ工科大学(MIT)に赴任していた2007年当時、エネルギー革命に向けてMITが世界中から国籍、出身、背景の異なるエネルギーの専門家をハイスピードで集めたことを目の当たりにした経験を紹介、「MIT自体に大きな魅力があったからこそ人材が集まった。多様性と開放に加えて、都市も拠点も個人も、自分自身を魅力ある存在として高めていくことが、交流経済を形作る」と総括した。

 「地域循環共生圏」がテーマのセッション2では、司会の尾崎寛直同大学准教授が、「地域が自らもつ風土、食、文化を売りにし、イノベーションを続け、外の社会に繋がりグローバルに繋がることを、どう引っ張るのか」と問題提起した。

 和田篤也環境省大臣官房政策立案総括審議官は、グローバルリスクである地球温暖化問題の、50年後100年後を見据えた解決構想として、環境省が描いた大絵図を示しながら説明。地域循環共生圏について、「住民が自分たちの目線でオーダーメードの計画を作り、自律分散型再生可能エネルギーシステムの構築、防災、観光、交通、健康など様々な分野で、独自のビジネスを行う。資源・資金・人の循環と自然との共生をコンセプトにし、得意不得意分野を他地域とのネットワークで補い、技術で支えることを目指す。そうしたステージに今後入っていく」と展望した。

 神奈川県横浜市は、2015年のパリ協定、国連の持続可能な開発目標SDGsを受け、日本の大都市としては初めて地球温暖化対策実行計画「Zero Carbon Yokohama」を掲げ、街づくりに取り組んでいる。同市の小林一美副市長は、「地域循環共生圏」の大都市モデルの事例を紹介。具体的には、持続可能なライフスタイルを子供達に伝えるエコスクールの開催、新横浜一帯に集積するIT企業と連携した次世代のエネルギー自給システムの構築、小・中学校での蓄電池設置による災害時非常用電源の確保など「モデル活動を相次いで実施し、CO2削減を具体的に示している。これを継続して行うことが大事だ」と述べた。また、再生可能エネルギーに関する横浜市と東北の自治体との取り組みを紹介し、国や他の自治体との防災、福祉、教育面での実践的連携の重要性に言及。横浜市が石油精製、火力発電などいわばCO2排出産業に税収、雇用とも支えられている実情のなかで、「脱炭素経済に向けてどう新しい産業構造や市民社会を作っていくか、また、税金を環境対策にどう回すかが課題だ」と述べた。

 中国国家統計局元司長の張仲梁南開大学教授は、京津冀メガロポリスを事例に中国の現状について説明した。同メガロポリスは北京、天津といった巨大で近代的な都市がある一方、周辺の河北省は経済的に遅れを取っている。「北京や天津からの経済的な波及効果が望めないことにより河北省は鉄鋼産業に特化し、深刻な大気汚染を発生させた。結果、北京にも多大な環境被害をもたらした」とし、メガロポリスの発展が中国都市化政策の基本となっている中で、今後目指すべきは「メガロポリス内部の協調発展である」と力説した。

 横浜など大都市と比べ人口や財源が少ない小さな自治体の現状をどう考えるかについて、和田氏は「地域循環共生圏の芽が小さな自治体にも様々出ている」とした上で、「共生圏を支える地域の人材育成を図るため、プラットフォーム作りを環境省で立ち上げる」と宣言した。

 海外との交流激増の時代に即した都市作りに関しては、小林氏が「魅力ある街、環境に配慮した街作りをすれば、観光客が来る。企業が来て、雇用も増え、税収も増す良い循環ができる。そうした循環と、従来から市を支えて来た基幹産業との関係作りを、市民とともに考える。脱炭素を目指す動きを提示しながら課題解決に向けて、国と連携して実施していく」と決意を述べた。小林氏はまた、20年前に実施したゴミ削減30%運動により、当初予想の半分の年月で目標を超える43%削減を実現し、ゴミ焼却工場を二カ所閉鎖、年間20億円のコスト削減と、大きな成果をあげた横浜市の事例を紹介、「のべ1万回に及ぶ住民説明会を開き、市民や企業がゴミ問題を我が事として行動するようになった。私たちはできる、という意識が結果に繋がった」と振り返った。

 張氏は、「中国での環境政策に携わる仲間が、海外の実情から学び、国内の取り組みに生かしている。中国人の海外渡航が増え、実際の交流から優れた思考を受け入れることが、変革をもたらしている」と力説、和田氏も「交流がキーワードだ。交流を契機にプロジェクトを作り、地域の銀行と手をつないで財源不足を補い、現場に密着した技術を導入するアプローチで、動き出すことができる」と強調した。

 

懇親会
懇親会での交流

 シンポジウム終了後は、日中双方のパネリストを囲み、参加者による懇親会が開かれた。

 席上、楊偉民氏は、「私の仕事は生態環境保護につながりのあるものが増えた。本日のシンポジウム参加で、人と人との交流を増やしたいと思った。自分のふるさと、そして世界を美しいものにして行きましょう」と呼びかけた。元環境事務次官の南川秀樹日本環境衛生センター理事長は、「日中が世界の環境政策をリードする時代が来る」と展望し、乾杯の挨拶をした。

 歓談に次いで挨拶した大西隆豊橋技術科学大学学長は、「中国で大都市の時代が幕開けた約20年前に出会って以来のお付き合いの楊さんの話しを聞きたいと駆けつけた」と歓迎し、環境、グローバリゼーション、都市化の課題への日中間協力の重要性を述べた。西正典元防衛次官は、シンポジウムの席上議論された「米中関係の通訳として日本が役割を果たす」意義に改めて言及し、日中合作の進展に期待した。駐日中国大使館を代表して阮湘平公使参事官が、「生態文明重視を掲げる中国と日本との環境保護の面での交流を続けて行きましょう」と述べた。横山禎徳東京大学EMP特任教授は、「交流経済は観光客だけでなく、日常で人が行き来できるようになると一層効果が上がる」と提起し、小島明政策研究大学院大学理事は、環境問題解決は日中共同のミッションであり、「パッション(情熱)とアクション(行動)で共同作業していこう」と続けた。

 シンポジウムで分析資料として多用された中国都市総合発展指標の日本語版『中国都市ランキング』の出版元、NTT出版の長谷部敏治社長は、周教授が責任者となって日中共同で開発した同書の内容について、「中国の都市分析に留まらず、東京大都市圏を始め日本の都市の分析を盛り込んでいる」と、アピールした。前多俊宏エムティーアイ社長は、「中国と日本の人と人との交流から生まれるものの大きさを実感した」と、シンポジウムの成功を祝った。

 閉会挨拶に立った周教授は、楊氏、中井氏とともに肩を並べて立ち「私たち3人は義兄弟と言ってもいいほど大切な仲間。20年間度々顔を合わせ、大きな問題について膝付き合わせて議論し合い、実践してきた」と力説、環境、経済、社会問題の統合的解決の土台は個人と個人の交流にこそある、と述べて会を締めくくった。関口和代同大学教授が総合司会を務めた。

 

中国網日本語版(チャイナネット)2019年1月31日

 


【出版パーティ】「中国都市総合発展指標」日本語版が出版。中国指標の海外初デビュー

 中国国家発展改革委員会発展計画司と雲河都市研究院が共同編纂した中国都市総合発展指標(以下、〈指標〉)日本語版が2018年6月、日本全国で発売された。指標の中国語版はすでに2016年版と2017年版が出版後、各界から高く評価されており、本書は中国の都市を評価する指標としては、国際社会初登場となる。

 〈指標〉日本語版中国都市ランキング−中国都市総合発展指標(NTT出版社)は、全カラーで、中国295の地級市以上都市を全て網羅した巨大な情報量を、グラフィックに再現している。指標は「3×3×3」項目で構成されている。すなわち環境、社会、経済の3つの軸を立て、それぞれまた3つの中項目に分け、さらにそれを3つの小項目に細分化した。最新の統計データだけではなく、衛星リモートセンシングデータやビッグデータも活用、133項目の指標データをもとに都市を全面的に分析している。

■ 各界第一人者が大勢来場


 中国都市ランキング−中国都市総合発展指標出版に伴い、記念パーティが7月19日、東京で行われた。海江田万里衆議院議員・民主党元党首杉本和行公正取引委員会委員長・元財務事務次官福川伸次東洋大学理事長・元通産事務次官森本英香環境事務次官ら、日本の官界・政界、産業界・学術界の第一人者が大勢お祝いに駆けつけた。

 開会挨拶をした南川秀樹元環境事務次官は、周教授の指標作成への情熱とリーダーシップを讃え、指標出版を祝った。

開会挨拶をする南川秀樹元環境事務次官

 安斎隆セブン銀行特別顧問・元会長は、「都市は多角的に、分度器で図るようにして見なければならない。この指標を元に競い合うことが都市の発展を支えるだろう」と展望した。

乾杯挨拶をする安斎隆セブン銀行特別顧問・元会長

 中国からは3人の祝辞が代読された。楊偉民中国人民政治協商会議常務委員・中国共産党中央財経領導小組弁公室元副主任が、「指標は、日中両国学術研究の結晶。環境、社会、経済の三つの角度から中国の都市を捉え、その発展の成果と代価を評価した点で、また中国の都市化の経験と教訓を論理的にまとめ、総括した点で、更に中国と世界の都市化の道のりを探索した点で重要な意義を持つ」とし、「中国の都市化への理解はすなわち中国を理解することだ。日本語版出版で日本の皆さまが中国の都市化を理解し、中国の数十年来の変遷への認識を深める上で、一つの道筋が与えられる」と述べた。

 徐林中国城市和小城鎮改革発展センター主任・中国国家発展改革委員会発展計画司元司長は、「周教授と私の二人で発起人となって作成した指標の目的は、都市の発展状況をGDPだけでなく全面的に評価し、それにより各都市が活路を見出し易くすることにあった」と紹介。「今後20年、中国は更に2億人を超える人びとが農村から都市部に入り、多くの都市がメガシティ、そしてメガロポリスになる。このプロセスで、中国は日本の成功に誠実に学ぶことが必要だ」と述べた。

 杜平中国第13次五カ年計画専門委員会秘書長・中国国家信息センター元常務副主任は、「従来の中国の都市化について、今まさに客観的に総括する時だ」とし、「中国は都市化によりもたらされた環境汚染など深刻な大問題に果敢に取り組んでいく必要があり、この点、中国国家発展改革委員会発展計画司と雲河都市研究院が共同で作り上げた指標は、非常に大きな意味がある。本書の客観性、国際性、学術性、権威性は中国の今後の都市発展に、絶えず大きな影響力を示していく。大勢の日本の皆さんが中国都市をより理解し、日中協力の機会が広がることを確信している」と述べた。

 メッセージではまた山本和彦森ビル元副社長が、「この指標に関わった者の一人として、指標が今後更に進化、発展し日本、中国にとってより良い都市とは何か、どうしたら作れるのかの研究と実践が進むことを長年都市開発、まちづくりに関わる者として期待している」と述べた。

左から竹岡倫示・日本経済新聞社専務執行役員、横山禎徳・東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム特任教授、大西隆・豊橋技術科学大学学長、周牧之・東京経済大学教授

■ セミナーで指標解説


 続いて、「中国都市総合発展指標は何故必要なのか?」と題したセミナーが開かれ、大西隆豊橋技術科学大学学長・日本学術会議元会長は、「指標は想像を絶する勢いで進む中国都市化を分析した処方箋である」と紹介し、「経済、環境、社会のバランス良い発展、新旧の文化を大切にした発展への知恵袋になって欲しい」と期待した。

セミナー会場の様子

 指標の経済、環境、社会の3×3×3構造の原案を考えた横山禎徳東京大学EMP特任教授は、「都市は、生活、産業、学問などのインターリンケージの集積である」と述べ、それを示すのが指標であり、都市をどうデザインするかが重要で、指標が大いに活用できると述べた。

 指標編著者の周牧之東京経済大学教授は、膨大なデータから整合性ある使えるデータを見極め、整理した指標作成の苦労の一端を披露した。その上で指標の、「人口密度」「水資源」「輻射力」など数多くの情報を盛り込み作成した図表を示しながら中国都市のパフォーマンスを解説。「中国のメガロポリス化が進む中、指標で、中国の都市のビヘイビア(Behavior)の変革を促したい」と述べた。

セミナー会場の様子

 司会を務めた竹岡倫示日本経済新聞社専務執行役員は、以前自身が関わった日本経済新聞社による企業評価指標が、「利益追究にのみ傾いた経営でバブルをもたらした日本企業の在り方を変えた」と紹介しつつ、「この中国都市ランキングは、中国経済の細胞たる都市の改革を促すであろう」と強調した。

周牧之・東京経済大学教授による閉会挨拶

■ 指標への絶賛と期待


 席上、挨拶に立った福川伸次は「指標には今後、お笑いや美術市場、美味しいレストランなど文化分野で、都市の状況を盛り込み、AI技術を駆使して分析し、都市の魅力の多様化に繋げて欲しい」と期待した。

祝辞を述べる福川伸次東洋大学理事長・元通産事務次官

 杉本和行氏は「指標には中国の都市の持つ課題が提示された」と高く評価した。

祝辞を述べる杉本和行公正取引委員会委員長・元財務事務次官

 森本英香氏は、「膨大なデータを一枚の図にして多数提供した。中国の行方を見定める指標として学ぶところが多い。これは世界の環境問題の解決を、日中でリンクして進めるきっかけになる」と力説した。

祝辞を述べる森本英香環境事務次官

 中国大使館の阮湘平公使参事官は、「改革開放40周年、日中平和友好条約40周年の節目に出版された、さながら人間ドックの“都市版”とも言えるこの指標が、定期的に中国の都市発展上、警鐘を鳴らす存在であって欲しい」と述べた。

祝辞を述べる阮湘平・中国大使館公使参事官

 古川実日立造船相談役・元会長は、「先日、深圳市を訪問したところ連日素晴らしい青空が広がっていた。深圳はまさに中国都市ランキング環境No.1の通りの都市であった」とし、同社のゴミ焼却炉、肥料製造など環境関連技術を紹介し、「引き続き中国の環境改善に貢献したい」と決意を表明した。

祝辞を述べる古川実日立造船相談役・元会長

 新井良亮ルミネ相談役は、「指標は、環境、経済、社会の三つの視点で都市を見たときの、人びとや企業が考えるべきことを提示した」と述べた。

祝辞を述べる新井良亮・ルミネ相談役

 宮島和美ファンケル副会長執行役員・元会長は「中国の広大さを実感させられる295都市を全て網羅した」と、同指標の重要さと有益性に言及した。

祝辞を述べる宮島和美・ファンケル副会長執行役員・元会長

 武田信二東京放送ホールディングス会長は、「この指標は、現代中国の都市思想の拠り所になりうる」と絶賛。

祝辞を述べる武田信二・東京放送ホールディングス会長

 森本章倫早稲田大学教授は、「指標を使い、共に中国と日本の役に立つ研究を周先生と一緒に進めて行きたい」と述べた。

祝辞を述べる森本章倫・早稲田大学教授

 島田明日本電信電話副社長は、「中国語版指標を手に取った時、これの日本語版があるといいねという話になった。それが実現した」と喜びを語り、「データ解析などの手段で、日本と中国が一緒に発展する手伝いをさせて頂きたい」と語った。

祝辞を述べる島田明・日本電信電話副社長

 前多俊宏エムティーアイ社長は、「周教授は10数年前からメガロポリス発展戦略、都市化など今の中国の状態や課題を言い当ててきた。指標のランキングそのものがメッセージであり、これから10年後の中国、そして世界に色々な影響を与えるとものとなる」と讃えた。

祝辞を述べる前多俊宏・エムティーアイ社長

 中井徳太郎環境省総合環境政策統括官は、「地球全体と人間とが折り合いの付いていない現在、持続可能性をどう追求するかを見極めて実行する時期にきている。この視点で、指標が3×3×3の構造で可視化した中国の都市発展を日中協同で進めていきたい」とパーテイを締めくくった。

祝辞を述べる中井徳太郎・環境省総合環境政策統括官
パーティ会場の様子

中国網日本語版(チャイナネット)」2018年7月23日