【刊行によせて】発展する都市と発展する指標/陳亜軍・中国国家発展改革委員会発展計画司司長


陳 亜軍
中国国家発展改革委員会発展計画司司長、管理学博士


 世界は「フラットではない」。アメリカ、EU、日本を代表とする先進国は世界経済の中で主導的な地位を占め、大多数の発展途上国は従属的地位にある。こうした「不均衡」は、一国の中でも見られる。世界銀行の『2009年世界発展報告』は、都市を単位に地域発展の差異を図解し、その驚くべき格差を示した。例えば、東京大都市圏は世界最大の“都市”で、人口は3,800万人にも達し、3.6%の国土面積で日本の32.3%のGDPを生み出している。また日本全国の上場企業の58.2%、科学技術者の68.7 %、そして特許取得数の60.6%がこの大都市圏に集中している。大都市は内外から人材、資金、企業を吸収し、急激に膨張している。これに対して他の地方都市の発展は相対的に不十分で、都市間の格差は時に国家間の格差さえ超える勢いで広がっている。

 この意味では、中国もまた「フラットではない」。

 中国では「黒河・騰衝線(胡煥庸線)」 [1] 東南側に位置する43%の国土に、なんと94%の人口が集中している。これに対して、国土の57%に当たる西北地域にはわずか6%の人しか住んでいない。これが中国の空間構造の最も基本的な特徴である。

 また、「胡煥庸線」東南側でさえ、内部の差異は顕著で、都市と農村、そして都市間においてその発展水準の格差は極めて大きい。

 2016年、上海の常住人口は2,419万人で1人当たりGDPは約11.4万元であったのに、安徽省の省都合肥の常住人口が786万人で1人当たりGDPは約8万元、貴州省の省都貴陽の常住人口は469万人で1人当たりGDPは僅か約6.8万元である。3都市の人口規模および1人当たりGDPの格差は極めて大きい。しかし、これは省都以上の中心都市の比較であり、中心都市とその他の地方都市とを比較すると、その格差は尚、著しい。

 もちろん、GDPという単一的な指標による描写だけでは人を納得させることはなかなか難しい。願わくば、都市発展の実態をしっかり反映できる総合的な指標が必要である。数多くの領域の差異を整理し、より総合的に都市の差異を反映させる指標であることが望ましい。こうした指標は、都市の現状を知り、ビジョンを描き、そして公共政策を導入することに役立つ。

 中国国家発展改革委員会発展計画司と雲河都市研究院が協力して開発した中国都市総合発展指標は、まさしく先駆的な都市総合指標である。

 同指標は、都市発展の国際的経験に鑑み、環境、社会、経済を3つの主軸に都市を評価する。それによって中国の都市をより環境に優しく、彩りある社会につなげ、イノベーティブな産業活動を促せるよう期待したい。

 中国都市総合発展指標は指標を用いて、都市発展の水準を評価し、データを活用して都市発展の方向を探る目的で開発された。都市発展は、動態的過程で、それに影響が及ぶ要素はきわめて複雑であり、さまざまな評価手法が有り得る。同指標はこれに一石を投じるものである。

 今後、進む情報化が「不均衡」をさらに複雑化させるだろう。ビックデータや人口知能など現代技術が都市発展構造に与える影響もさらに広がる。

 中心都市は、最新技術開発と応用における優位性でその集約趨勢はさらに強まるであろう。中小都市も、情報技術を利用し、その低コスト空間における優位性を活かせる道を見つけられるよう願いたい。

 その意味では、中国都市総合発展指標が、都市発展における変化に対してリアリティのある追跡を行うことが重要な意味を持つ。

 中国では将来、個々の都市の単独発展よりは、都市が連携するメガロポリス的な発展がメインになるだろう。情報ネットワークと交通インフラ整備によって、都市間におけるさまざまな機能の共有が進んでいく。中国都市総合発展指標の評価対象は個々の都市より、メガロポリスへと重点を移していくだろう。

 都市の発展メカニズムの変化に応じて、中国都市総合発展指標も進化していく。


[1] 黒河・騰衝線とは、中国東北部国境の黒竜江省黒河市から、西南部国境の雲南省保山市騰衝市まで、地図上で引いた線で、中国人口分布の極端な偏りを示す。中国の人口地理学者・胡煥庸が 1933年に提唱した。璦琿・騰衝線、あるいは提唱者の名をとって胡煥庸線とも呼ばれる。


プロフィール

陳 亜軍Chen Yajun

 1965年生まれ。国家産業政策や中長期計画制定に長年携わり、第10次五カ年計画〜第14次五カ年計画を立案する主要メンバーである。また「成渝メガロポリス発展計画」などのメガロポリス発展計画を立案するメンバーでもある。

(『環境・社会・経済 中国都市ランキング 2017―中心都市発展戦略』に収録