東京経済大学は2022年11月12日、学術フォーラム「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」を開催した。和田篤也環境事務次官、南川秀樹元環境事務次官、中井徳太郎前環境事務次官をはじめ産学官のオピニオンリーダー16人が登壇し、周牧之ゼミによるアンケート調査をネタに、新しい地域共創の可能性を議論した。白井衛・ぴあグローバルエンタテインメント会長がオープニングセッション「学生から見た地域共創ビジネスの新展開」のパネリストを務めた。
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学術フォーラム「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」
オープニングセッション:学生から見た地域共創ビジネスの新展開
会場:東京経済大学大倉喜八郎進一層館
日時:2022年11月12日(土)
■ コロナ下、円安下でのエンタメ業界の困難
尾崎寛直(司会):周ゼミの皆さんから非常に網羅的なアンケート、そしてまた鋭い分析を提示していただいた。そして、学生の皆さんからそれぞれコメンテーターの皆様にも問題提起が投げかけられたので、これよりコメンテーターの皆さんも含めてパネルディスカッションを進めていきたい。
今回のアンケートはコロナ時代の若者、とくに学生を対象にしたものだ。次世代を担う若者とはやはり大事なキーワードであり、供給サイドからどのように若者に対して仕掛けていくのかも大きく問われていくところだろう。
ぴあは、大学生が立ち上げた雑誌から始まっているという意味で、まさに若者のエンターテインメントのニーズに応えることが、会社の発展の歴史だっただろうと思う。
白井衛:約44年にわたって、エンタメにどっぷり浸かっている。早速、周ゼミの皆さんが一生懸命調べていただいたことに対するお答えを申し上げたい。最初にいただいた提言が、エンタメの追い風をどのように高めていくかということ、コロナから約2年半、やっと少しお客様が戻ってきて、7割から8割方回復しつつある状況だ。興行によっては、売ったらすぐ完売みたいなケースもあるが、まだまだ、コロナ前に比べると100%というわけにはいかない公演も多い。
ただ、コロナ前から考えてみると、ちょっと幾つか課題がある。ひとつは会場だ。これは日本だけではないが、大から小、ライブハウスに至るまで都市の非常に交通の利便性の高いところに集中してしまう。ライブハウスはやはりアーティストを育てる場なので、そこから旅立っていく、あるいはSNS、YouTubeだとか、あるいはFacebookを使って、Adoみたいなアーティストが生まれてくるということを考え、ぴあは横浜の桜木町にぴあアリーナMMを造った。もちろんぴあだけでできるわけでもないし、このあとスポーツリーグなんかを中心にいくつかの大型のアリーナができるんだろうと思う。やっぱり小さいものから中ぐらいのものまで、非常に使い勝手のいいサイズのものが生まれてきたらいいなと思う。
ふたつ目は、我々だけではどうしようもないが、円安ということがある。円安が起こると海外のアーティストを呼べなくなる。ギャラがものすごく高騰する。要するに、100万ドルで買えたギャラ、130円だったら1億3,000万のギャラが、今は1億5,000万になる。輸送費も何も全部高くなることで、日本の皆様が日本のアーティストしか見られなくなる、と。これは非常に辛い結果を招く。
3つ目にコロナ対策というのも、なかなかイベントを作る側にはしんどくて、今までなかった余計な人員の配置をしなければならず、入場前の検温だとか、換気対策もしなければいけない。マスクをつけない人にはマスクを配るとか、大声を上げている皆さんに対してご注意申し上げなきゃいけない。これもスタッフ増や、経費増につながってしまう。
それから4つ目が、コロナによって興行主そのものも弱った。興行主と一緒に動いている映像を撮っている皆さんとか、音声をやられる方だとか、舞台芸術をやられる方々の仕事が本当になくなってしまった。そういうものを多少なりとも応援するために、今は経産省のJ-LOD(コンテンツグローバル需要創出促進・基盤強化事業費補助金)だとか、文化庁のAFF(ARTS for the future!:コロナ禍を乗り越えるための文化芸術活動の充実支援事業)だとか、国際交流基金の皆様がご支援していただいて、少しずつ興行の世界が活発になりつつあるが、まだまだ予算は足りない。皆さんに関しても、新たに始まった「イベントわくわく割」という制度がある。興行チケットの20%かつ上限2,000円が補助されるという。今はライブ配信にも使えるし、スポーツ・映画館・演劇、それから美術館・博物館・遊園地・テーマパークなどが対象にはなっているが、これは主催者側が「イベントわくわく割」に乗るよという意思表示をしないと割引にならないので、本当はすべての公演にこのイベント割が使えるようになればいいかなと思う。
■ エンタメ業界における地域共創の可能性~スポーツ
白井衛:いただいた提言の2で、エンタメと地方との共創をどう考えるのかと。これは極論を言えば、供給側と言えるかどうか分からないが、観客数でいうと日本の場合は圧倒的にプロ野球だ。世界、アメリカを見ればプロ野球だけではなくフットボールだとか、アイスホッケーだとかバスケットがあるが、日本の場合にはプロ野球が断トツだ。年間で2,100万人。もちろん延べだが、858試合で1試合平均2万5,000人。イベント1試合2万5,000人集めるのはなかなか大変なことだ。
2つ目は、Jリーグだ。JリーグもJ1、J2、J3とあるが、J1、J2だけでも40チーム。試合数にして768試合が行われている。観客数もJ1で438万人。1試合平均で1万4,000人くらい。J2になると観客数232万人で1試合平均だと5,000人になる感じだ。
これ以外にもバスケットのBリーグ、バレーボールのVリーグ、卓球のTリーグ、ラグビーのリーグワン。さらにスポーツと考えれば、大相撲。大相撲も東京場所が多いが、地方場所もあるし、地方行政の方から来てくれと言うと、わりとそこそこの価格で呼ぶことができることもあり、大相撲の地方巡業はなかなか価値が高いのかなと思う。
スポーツの場合には、皆さんで新たに手を挙げてチームを誘致することは、もちろんお金は非常に掛かかるが、できなくはない。どうしてもプロスポーツは動員を考えると、東京、大阪だとか都市部に集中してしまうが、今ご紹介したような各チームで言えば、北は北海道から南の沖縄まで、各スポーツの各チームがいろんなところに存在し、地元のイベントというと必ず協力していて、その場を盛り上げることをしてくださっている。スポーツは、ある意味で非常に分かりやすいということだ。
■ エンタメ業界における地域共創の可能性~音楽・演劇・映画
白井衛:もうひとつは、文化系と書いたが、これもすごい数が日本では行われていて、例えば、夏フェスとか秋フェスとかいわれるものだ。ここに書かれている「ROCK IN JAPAN」など千葉で行われるものは、27万人くらい集まる。北海道では「RISING SUN」とか、有名な「SUMMER SONIC」、それから「FUJI ROCK」はこれまでに10万人クラスの人を集めている。弊社でやっているものでは、「PIA MUSIC COMPLEX」はもともと会場がないから、自然豊かな場所で大きなステージを建ててやっていたが、今は夏フェスから秋フェス、さらには冬フェスも開催されるようになり、どんどん広がってきている。
次に演劇祭。規模は音楽フェスほどではないが、実は北海道から沖縄までいろんなものが行われていて、有名なものだと兵庫豊岡演劇祭、あと東京池袋演劇祭がある。高校生でいうと全国高校生演劇祭があり、その予選も都道府県ごとに開催されていて、ここもそこそこの人達を集めている。同じような流れでいうと映画祭。映画祭は国際映画祭といわれるものが全世界で作られている。東京はつい先だって終わった東京国際映画祭。それから沖縄でやる沖縄国際映画祭。それからぴあがやっているぴあフィルムフェスティバルなどは有名ではあるが、実際100を超える映画祭が開催されている。
なかでもちょっと面白いなと思ったのは、知多半島映画祭といって、地元の5市5町が協力して知多半島出身の監督や、俳優が出ている映画だけを上映するものや、地元で撮られた映画のコンペティションをやっている。さらには昔の映画をもう1回観ようということで、午前10時だと映画館が比較的空いているので、「午前10時の映画祭」という映画館を使う映画祭も開催されている。非常に面白いのは瀬戸内国際芸術祭だ。これは3年に1回、瀬戸内海の12の島と2つの港を舞台にして開かれるもので、見に行くと感動的で、「あ、こんなところにこんなものがあるんだ」という非常に驚きがある。
「仕掛ける」ということで言うと、演劇祭とか映画祭は、規模の大小を問わずにいきなりでかいものを作るのでなく、発想として地元密着型でも良いので、そういうものを作ってみてはどうかと思う。
あとは、ちょっと面白いなと思うのは花火。花火も夏の風物詩になっているが、実は雪と花火というのも、ものすごくきれいに見える。冬はちょっと風があって、外で見るのもしんどいが、風で煙が流れてきれいに見えるので、冬の花火はなかなか素晴らしい。これ以外にも食博系といってラーメン博だとか、鍋フェス、肉フェスも非常に面白いと思う。
これから新しい顧客を日本国内だけでなく、さらに海外から来られるお客様も取り込みが必要だ。2019年時に3,118万人まで増えたインバウンド旅行者も必ず戻ってくる。最近、浅草とか銀座へ行っても、大勢の外国人の方がお見えになっているが、この人達もイベントに行きたいという希望が非常に強い。さらには、デジタル技術の利用だ。アナログの生の感動は素晴らしいが、今は5Gもあり、AIだとかICTもあるので、こことうまく組み合わせるという手もある。
尾崎寛直:先ほど白井さんからお話があった瀬戸内の国際芸術祭など、今までだったらあまり人が訪れるようなことがないところに、アートだとか、さまざまなイベントを点在させることによって、人が巡り、また人と人との出会いが生じる。そうした無限の可能性があり得るこれからの時代のエンタメについて、もうひと言。
白井衛:まさに今尾崎先生がおっしゃったように、規模の大小ではないと思う。自分のまちは小さいし、過疎化が進んでいるからもうできない、ではなくて、そこにいらっしゃる人達が逆に供給者、供給側になるという点もあると思う。学生の皆さんは自分の好きなものが何かあるはず。こういう時代だからデジタルで自分の作品をお見せすることもあるけれども、もう一方でアナログの世界である会場で、自分の描いた絵を何人かに見てもらいたいという欲求。あるいは自分が作って歌った音楽をみんなの前で発表したいなどのニーズは、間違いなくあると思う。そういう誰しもが供給側になり得ることが、もうひとつのポイントだ。
プロフィール
白井 衛(しらい まもる)/ぴあグローバルエンタテインメント取締役会長
1955年生まれ、東京都出身。79年ヤマハを経て、ぴあ株式会社入社。広告営業(電通担当)、大阪支社・名古屋支局開設責任者、新規事業開発(グルメぴあなど)、会員事業担当、アメリカ・カナダでの事業開発、ぴあ株式会社取締役アジア事業開発担当、ぴあグローバルエンターテインメント代表取締役社長、北京ぴあ希肯副董事長を経て、現職は、ぴあグローバルエンタテインメント取締役会長。
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