【フォーラム】吉澤保幸:集客エンタメ産業で地域を元気に

司会を務める吉澤保幸・場所文化フォーラム名誉理事

 東京経済大学は2022年11月12日、学術フォーラム「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」を開催、学生意識調査をベースに議論した。和田篤也環境事務次官、中井徳太郎前環境事務次官、南川秀樹元環境事務次官、新井良亮ルミネ元会長をはじめ産学官のオピニオンリーダー16人が登壇し、周牧之ゼミによるアンケート調査をネタに、新しい地域共創の可能性を議論した。吉澤保幸・場所文化フォーラム名誉理事がセッション1「集客エンタメ産業による地域活性化への新たなアプローチ」の司会を務めた。

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東京経済大学・学術フォーラム
「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」

会場:東京経済大学大倉喜八郎進一層館(東京都選定歴史的建造物)
日時:2022年11月12日(土)13:00〜18:00


「集客エンタメ産業」という言葉を作ったわけ


 学術フォーラムの「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」、そのセッション1として「集客エンタメ産業による地域活性化への新たなアプローチ」という話をしたい。この集客エンタメ産業という言葉自身も、実はコロナ禍で生まれてきた言葉だ。

 これまでは、ぴあでいうとライブエンターテインメントという言葉だけを使っていた。今回のコロナによって文字通りの供給サイドが止まったわけだが、そのときに一番悲鳴を上げたのが、先ほど学生の方々がいった映画館で上映できないことだ。スポーツもJリーグも含めて試合ができなくなった。

 これでは困るということで、昨年の正月にJリーグの村井満チェアマンが弊社に来た。何とかしないと、コト消費の権化である集客エンタメ産業、人々の心を支えるものがなくなってしまう。ライブエンターテインメントだけではなく、スポーツ・映画等も含めてさまざまな人々の心を支え、人々が集まる産業としての集客エンタメ産業という言葉を作って、ようやくコロナ禍がある程度平準化する中で、人々がそこに集うような反動増が生まれるぐらいにまた盛り上がってきたというのが、この集客エンタメ産業というものだ。

 供給サイドが止まったことの一番の象徴は、2020オリンピック・パラリンピックだったろうと思う。それから1年遅れて、札幌でマラソンがあった。

 集客エンタメ産業による地域活性化を、どういったアプローチで実現できるだろうか。ぴあ総研と日本政策投資銀行で昨年共同研究をした。地域に及ぼす効果というのは、経済的効果だけではなくて、さまざまな社会的効果がある。

 ぴあは今年創業50周年ということで1972年、映画好きの大学生が起業したベンチャーだった。何もない中で、お金も人脈もない中で、何とか乗り越えて50年やってきた。ぴあのパーパスは「ひとりひとりが生き生きと」という言葉だ。そういう社会を作りたい。一人ひとりが生き生きと、それでみんな豊かになる社会を作りたい。

 これは文字通りSDGsの「誰一人取り残さない」という言葉といわば同値かなと我々は思っている。そういう中で集客エンターテインメントを通じて、どういう豊かな社会を作っていけるのか。ぴあ社全体としての課題であり、集客エンタメ産業の課題でもあると思っている。

 ちょうどこの5月、「集客エンタメ産業による日本再生の意義」と題して300人ぐらいの方に集まってもらい、シンポジウム等を開いた。都倉俊一文化庁長官、元Jリーグの川淵三郎チェアマン等々、お歴々にいろいろな話をしてもらい、金融と集客エンタメ産業の繋がりを中曽宏大和総研理事長にも話してもらった。

第1セッション・ディスカッション風景

■ 集客エンタメ産業で国分寺を魅力的に


 私は過去に国分寺に通ったことがあり、もったいないと思ったのが、国分寺の跡地のスペースだ。副市長が活用して、イベントをやられたのは大変大きな一歩じゃないか。あそこで多分、今、リアルとバーチャルの融合からすると、例えばぴあが始めているXRLIVEは考えられる。アニメのキャラクターとリアルを融合させライブ配信するのだが、ああいった跡地で、テントでもいいから、そういう場所を作れるのではないか。

 国分寺市民あるいは東経大の学生のイベントをやるとか。そういう形でひとつ集客の場を、市から借りて作っていくとか、単なるリアルだけじゃなく、DXを使うともっとできるのではないか。

 自然の中で楽しめる場ができると、自然の豊かさにも気づく。先ほどの周ゼミ学生のアンケートでは、「都会に住みたい」と「地域に住みたい」、「自然の豊かさ」と「娯楽」がまるで代替財のようになっている。こっちができるとこっちができないみたいな世界だが、これがぜひいい補完財のように、一緒に楽しめる場を作ってやることができないか。中央線沿線の中では国分寺は非常にいいポジションにある。なぜなら自然が豊かで、跡地も残っている。それをうまく活用していくといいのではないかと考えている。

ディスカッションを行う南川秀樹・元環境事務次官(左)と吉澤保幸・場所文化フォーラム名誉理事(右)

 前述したシンポジウム「集客エンタメ産業による日本再生の意義」で川淵チェアマンが熱く語ったのは、Jリーグを立ち上げる時に、鹿島アントラーズが手を挙げてきた。その時に3万人規模の世界じゃ無理だろう、鹿島町で町民も地元企業も行政も、そしてリーグもみんな協力し合って、そして5万キャパのスタジアムができたら、Jリーグに入れてあげると言った。絶対に無理だろうと(川淵氏は)思ったのだそうだが、なんとそれを解決してしまった。

 そして今、Jリーグの中で一番地域と密着に動いているのは鹿島アントラーズ。そういう歴史もある。だから、地域で行政と市民と、そして企業が合体していくと、スポーツということを一つのきっかけにできる。さらに、川淵氏はスポーツだけではダメだと。他のエンターテインメントを結びあうことによって、スタジアムを本当に活かす。これはある意味では新結合世界だと思うのだが、そういうことを提唱して動いている。

 なので、絶対にこの国分寺で解決策は出てくるだろうと思っている。一例として、里山スタジアム構想を紹介する。元日本代表の岡田武史氏が10年かけているプロジェクトだが、岡田氏はコミュニティをつくりたいのだと。さまざまな文化、芸術、食、農業、さらには福祉の場。これを作りたいと。だから、社会福祉法人の方々、足の悪いリハビリをしないといけないような方々が集まれる場所もスタジアムの横に作ると。これが実は目的だといっている。

 フットボール事業は一つのコアの事業だが、次世代教育、地方創生をハイブリッドでやって、今治にあるが、今治にとらわれないコミュニティづくりだと語っている。

 さらにもう一つだけ。スタジアム、エンターテインメントは極めて環境負荷が小さい産業である。だから、同時に成長の分野でもある。2030年あるいは2050年を目指す中で、特に脱炭素も含めた産業としての意味で、ぜひもり立てていきたい。

■ すべての老若男女が集える場作りを


 スポーツでは、障がい者スポーツが今後、極めて大事になると感じている。元財務次官の真砂靖氏が理事長を務める、全国盲ろう者協会という組織がある。盲ろう者がスポーツをする、喜びを得る機会は非常に限られている。何とかもっとサポートできないか。障がい者スポーツを地域活性化に絡められないか。SDGsとして抜け落ちてしまうのが、本当の弱者の方々である。この方々が健常者と一緒にどうやって結びあうか。それを地域の活性化の中に織り込んでいく必要がある。

 オリパラの事務総長だった武藤敏郎氏が、今後日本で国際的なイベントを成功させるための必要条件を3つ挙げている。ひとつはそのイベントがサステナビリティに合致しているかどうか。ふたつにはダイバーシティアンドインクルージョンに合致しているかどうか。そして三つ目にはジェンダー平等であるか。それによってすべての老若男女が集まって、集える場所を作り、そして集える繋がりを作る。それが集客エンタメ産業の意義だと思っており、場を提供するのが地域ではないのかと、強く感じている。これは地域創生をしていくために必要な条件ではないかと思う。


プロフィール

吉澤 保幸(よしざわ やすゆき)
場所文化フォーラム名誉理事、ぴあ総研(株)代表取締役社長

 1955年新潟県上越市生まれ、東京大学法学部卒。1978年日本銀行に入行、日本銀行証券課長など歴任。2001年ぴあ(株)入社、現在同社専務取締役。
 場所文化フォーラム代表幹事、ローカルサミット事務総長などを歴任し、地域の活性化に尽力。
 主な著書に『グローバル化の終わり、ローカルからのはじまり』(2012年、経済界) 等。


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