【フォーラム】和田篤也:戦略的思考としてのGXから地域共創を

開会挨拶を行う和田篤也・環境事務次官

 東京経済大学は2022年11月12日、学術フォーラム「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」を開催した。南川秀樹元環境事務次官、中井徳太郎前環境事務次官、新井良亮ルミネ元会長をはじめ産学官のオピニオンリーダー16人が登壇し、周牧之ゼミによるアンケート調査をネタに、新しい地域共創の可能性を議論した。和田篤也・環境事務次官が開会の挨拶をした。

 

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学術フォーラム「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」

会場:東京経済大学大倉喜八郎進一層館
日時:2022年11月12日(土)


■ GXは目的ではなく、戦略ツール、手段だ


 今日のテーマ、「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」に非常にインパクトを受けている。「供給サイド」という言葉はあまり好きではなかったが、ちょっと好きになった。理由は、「仕掛ける」という言葉が後ろについていることにある。供給サイドの意図だけではなくて、きちんと何か目的のために仕掛ける。地域共創とは何だろう。市民のニーズとは何だろう。どんな思いを持って、どんな未来に市民は住みたいと思っているのか。これらを理解して、供給サイドは仕掛けてやろうという意気込みが感じられるテーマかと、非常に面白いと思っている。ワクワク感満載かと思っている。

 私のテーマは「戦略的思考としてのGXから地域共創」とした。もう少し平たく言うと、GXは戦略的ツールである。GXは目的ではなく、戦略ツール、手段だ。それも極めてエッジの効いた、切れ味抜群のツールである。

 もうひとつは、「GXから地域共創」としたが、英語で言えばby、いわゆる「地域共創 by GX」となる。最近では「地域共創 by カーボンニュートラル」。なぜかというとニーズは市民の目線にあるためだ。GXは別にニーズではなく、手段であって地域共創がニーズである、というところから始めた方がいい。

 カーボンニュートラルに少し深く切り込む。カーボンニュートラルはGXの中で一番バッターと言っている。かつては本当に温暖化するか、気候変動するかと言われていたが、2000年に入って、どんな影響があるのだろうと心配しだした。

 今やそれも越えて、対策のステージに移っている。気候変動の国際会議「COP27」で新聞を賑わしているのは「ロス&ダメージ」と言われ、いわゆる適応を指す。もう気候変動問題はある程度起こってしまう、それにどう適応するのかというのが人類課題だ。対策も打つが、適応もする。そういうステージに入っているのが、今の国際社会の共通認識だ。

 日本は野心的な2030年と2050年に向けての温室効果ガスの削減目標を掲げる。ここで違う目線から伝えたいのは、カーボンニュートラルが目的ではないということだ。最終着地点がカーボンニュートラルというだけではダメで、より早くから下げなきゃダメだということだ。最後にカーボンニュートラルに着地すればいいのではなくて、なるべく早い段階から傾きを下げて削減していないと地球全体は救われない。

 「やれる」と「やらなくてはならない」がテーマになる。「やれる」とは、「今からやれる」という意味だ。産業分野のようにイノベーションがなかったとしてもできる気候変動対策は、地域暮らしの分野に非常に多い。

 もうひとつは「やらないといけない」だが、これが難しい。地域暮らしの分野の方がイノベーションがなくて今すぐできるが、みんなにやってもらわなくてはならない。

 主体の数が無限に多いような形になる。自動車の数、世帯の数、人口…というように、すべてを面的にやってもらわなければならない。点的に工場とか事業場にやってもらう温暖化対策とは違うという難しさが残っている。

オープニングセッション風景

■ GXに必要な3つの移行


 次はいよいよメインの「GXに必要な3つの移行」だ。GXの一番バッターということでカーボンニュートラルを伝えたが、次に控えているのはサーキュラーエコノミーとネイチャーポジティブだ。これももう近未来的に、直ちにエッジの効いたツールになる。

 今、新聞では「byカーボンニュートラル」が賑わっている。「ビジネス by カーボンニュートラル」というように。次は「ビジネス by サーキュラーエコノミー」、その次は「ビジネス by ネイチャーポジティブ」という流れに、必ず、この10年以内どころか数年でなると思っている。ここで大事なのは、カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー、ネーチャーポジティブ、いずれも目的ではなくてツールということだ。

 今日のテーマ「地域共創」のツールとして、この3つのテーマがあるのではないか。例えばカーボンニュートラルをやれと言われても、自分は何をすればいいのか。必ず地域のニーズ、一人ひとりの市民の目線から考えなければならないのではないか。

 経済・雇用、いわゆる地域ビジネスかもしれない。お金が儲かる地域、快適・利便性、さらには防災・安全性などを目的にして、「byカーボンニュートラル」につながると思っている。

開会挨拶を行う和田篤也・環境事務次官

■ 脱炭素先行地域のチャレンジ


 環境省で大胆なチャレンジを試みたのが、脱炭素先行地域だ。2050年に向けてカーボンニュートラルを進めていくが、「20年前倒しにチャレンジする地方自治体はありませんか?」と募っている。なぜ地方自治体に注目したか。市民目線のことを一番しっかり本当は分かっているのは自治体ではないか。中央官庁ではないと考えている。地域のコーディネーターである。仕掛人は地方自治体を含めたいろんなコーディネーターではないかなと思っており、その点に注目したプロジェクトだ。

 どんなプロジェクトが出てきたか紹介したい。北海道の十勝エリア、私の出身地が大規模アメリカ型の畜産業になっている。したがって、ふん尿が多く、産業廃棄物でコストが非常にかかってしまう。ところが、そのエリアは後背地に農業を持っており、バイオマスエネルギーとして活用して、最後に残る「液肥」を肥料で使えるという特殊な掛け算ができる。ふん尿をバイオマスとして活用し、農業に液肥を使える。どうしても残ってしまう液肥を農業とコンビネーションできる。これはすべての畜産業ができるわけではなく、十勝だからできる。

 また、離島は過疎の典型で、もう人が住まない方がいいとも言われる。だが、グリッドが小さいことでもあり、再生可能エネルギーが無理なく入る。ということは、離島の方が再生可能エネルギーに有利ということを活用して、ビジネスを創生して利潤を生む選択肢がある。どうぞ地方に安心して住んでほしい。

 災害が起きた時でも、再生可能エネルギーで停電しない、などといった掛け算ができると考えている。

 最後に、(東京経済大学周ゼミ)学生のアンケート調査をみて、非常に感銘を受けた。なぜかというと、「私達はこんなふうに思っている」だけではなく、「いや、市民のニーズはこんなんじゃないか」という点にハイライトし、そのニーズに応えることが「供給サイドから仕掛ける」につながっていく。エッジの利いたアウトプットではないかと考えている。


プロフィール

和田 篤也(わだ とくや)/環境事務次官

 1963年北海道生まれ。1988年北海道大学大学院工学研究科情報工学専攻修了、環境庁入庁。環境省地球環境局地球温暖化対策課調整官、地球環境局地球温暖化対策課長、大臣官房廃棄物・リサイクル対策部廃棄物対策課長、大臣官房参事官、環境再生・資源循環局総務課長、大臣官房審議官、大臣官房政策立案総括審議官、総合環境政策統括官。2022年から現職。


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