【フォーラム】南川秀樹:コミュニケーションの場としてのエンタメを

ディスカッションを行う南川秀樹・元環境事務次官

 東京経済大学は2022年11月12日、学術フォーラム「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」を開催、学生意識調査をベースに議論した。和田篤也環境事務次官、中井徳太郎前環境事務次官、南川秀樹元環境事務次官、新井良亮ルミネ元会長をはじめ産学官のオピニオンリーダー16人が登壇し、周牧之ゼミによるアンケート調査をネタに、新しい地域共創の可能性を議論した。南川秀樹・元環境事務次官がセッション1「集客エンタメ産業による地域活性化への新たなアプローチ」のコメンテーターを務めた。

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学術フォーラム「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」
セッション1:集客エンタメ産業による地域活性化への新たなアプローチ

会場:東京経済大学大倉喜八郎進一層館
日時:2022年11月12日(土)


 先日、熱海に足を運んだ。秋、冬にも花火大会を催しているので見に行こうと考えた。花火を鑑賞し、駅前の仲見世通りや一帯がきれいに作り替えられていて、様々な人を呼び込む企画にも事欠かなかった。東京からでも名古屋からでも日帰りでも楽しめる街になっていた。熱海のような街は供給サイドから自ら「仕掛け」、整備していかないと作れない。

 せっかく東経大で議論しているのだから、やはり東経大のためにならなければいけない。さらには、国分寺地域全体として、スポーツなり、エンタメの世界なり、もちろん、バーチャルの世界もあると思うが、より活性化できる仕掛けは何か、国分寺市民であること、あるいは東経大の学生であることが誇りに思える仕掛けは何か、に知恵を出していかなければならない。

第1セッション・ディスカッション風景

スポーツもエンタメもコミュニケーションが大切


 私もスポーツ自身がエンタメの一部だと思っている。ただ、地域にとっては単に人が集まっていればいいのではなくて、そこにいることによって心のコミュニケーションができることが必要だ。2週間前に実は水戸マラソンを走った。8,000人以上の人が集まって、町の中をずっと音を立てながら走り回った。あれこそコミュニケーションだなと強く感じた。

 私自身は毎週、代々木の織田フィールドで走っている。必ず居られるのが目の悪い方が伴走者で一緒に走っている。それから足の悪い方が義足を履いて走っておられる。それで皆さん1人で来ても、一緒に会うと楽しそうに話の輪ができる。とても大事なことだ。それがひとつ大きな生きがいとなっている。その方達と僕もよく話すが、とても明るく、最初来た時に戸惑っていた人が随分変わってきている。とても嬉しい。ただ、それはなかなか陸上ランニング以外の競技では難しいようだ。もっと広げたいと思う。

 スポーツクラブは地域社会の核となる存在だ。例えばスポーツクラブで同じエクササイズをとっている人同士が親しくなり、非常に頻繁にコミュニケーションができ、言ってみれば家庭以外あるいは職場以外のところで仲間ができる。そういったことが大事かと思う。

 現代は、かつてのように農業を通じ、否応なしに地域の中で生きるしかないという世界ではなくなった。そういう意味では仕事を離れ、心が通い、癒せる、コミュニケーションができる仲間を、スポーツクラブなどで得ることは大変貴重だ。それが、実際に可能性があって働いているのかどうかにも関心がある。

 エンタメも同じだ。私自身も寄席が好きでよく寄席に行くが、やはりそういったところでいつも会う人というのは、結構気が合う。そういった場であってほしい。

ディスカッションを行う南川秀樹・元環境事務次官(左)と吉澤保幸・場所文化フォーラム名誉理事(右)

■ 人材育成の場作りを


 最後に人材育成、場所作りを挙げたい。「仕掛け」を作れる人材の育成は欠かせない。今日のフォーラムにも参加したユナイトスポーツは東京五輪の中で、例えばマラソンの開催地が変わるような出来事があるなかで、やり遂げたことは非常に重要なことだ。ここで育った人材は他の所でも活躍できる。また、先ほど挙げたスポーツクラブは大事で、人材にとっては平時の収入源にもなる。

 それから、スポーツもエンタメもその表舞台に立つ人とその舞台を作る人がいて、要はその両方がある。プレーする、それを支える、両方あって初めて大きな大会ができる。両方を経験する人をできるだけ増やしたい。そういう人が企業マインドを持ち、新しい産業を起こすことによってある種の実効性がありアニマルスピリッツのあるアントレプレナーができると私は思う。エンタメもスポーツも、プレーし、支え、の両面から応援していかなければならない。


プロフィール

南川秀樹 (みなみかわ ひでき)
東京経済大学元客員教授、日本環境衛生センター理事長、中華人民共和国環境に関する国際協力委員、元環境事務次官

 1949年生まれ。環境庁(現環境省)に入庁後、自然環境局長、地球環境局長、大臣官房長、地球環境審議官を経て、2011年1月から2013年7月まで環境事務次官を務め、2013年に退官。2014年より現職。早稲田大学客員上級研究員、東京経済大学客員教授等を歴任。地球環境局長の在職中は、地球温暖化対策推進法の改正に力を尽くした。また、生物多様性条約の締約国会議など多くの国際会議に日本政府代表として参加。現在、中華人民共和国環境に関する国際協力委員を務める。

 主な著書に『日本環境問題 改善と経験』(2017年、社会科学文献出版社、中国語、共著)等。


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