【フォーラム】鑓水洋:地域活性化策には明確なコンセプトが求められる

ディスカッションを行う鑓水洋・環境省大臣官房長

 東京経済大学は2022年11月12日、学術フォーラム「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」を開催した。和田篤也環境事務次官、南川秀樹元環境事務次官、新井良亮ルミネ元会長をはじめ産学官のオピニオンリーダー16人が登壇し、周牧之ゼミによるアンケート調査をネタに、新しい地域共創の可能性を議論した。鑓水洋・環境省大臣官房長がセッション2「地域経済の新たなエンジン」のパネリストを務めた。

 

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学術フォーラム「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」
セッション2:地域経済の新たなエンジン

会場:東京経済大学大倉喜八郎進一層館
日時:2022年11月12日(土)


■ エンタメ、デジタル、自然、カーボンニュートラルを起爆剤に


 1990年代半ばに生産年齢人口が下がりはじめて、それから2008年からは総人口が減少している状況が続いているといったことが、もともとの背景としてあろうかと思う。この問題は、意識としては長らく捉えられてきてはいた。だが、これといった解決策がまだ見つかっていない状況というのが正直なところではないかと思う。私自身は山形の出身だが、最近、もともと山形にあった老舗のデパートが立て続けに2つ倒産した。山形はもうデパート不毛地帯となってしまっている。食べ物も大変おいしいし、住みやすいと思っているし、そういう場所だが、過疎や倒産が現実に起こってしまっている。

 もう実行しなければいけないステージに本当に入っている。もう1つ経験から申し上げたいことは、周ゼミの皆さんがちょうど生まれた頃、2000年代前半になるが、熊本県庁に3年ほど出向していた経験がある。その当時から、もはや熊本県は高齢化も相当進んでおり、限界集落といわれるような問題も発生していた。

 実際、これをどう対処するのかといった議論は、既に当時からも行われていた。例えば都市でリタイアした人たちを呼び込むにはどうしたらいいか。そんな議論もしていたが、私自身はやはり今日、学生の皆さんが主張したように、若い人が定着する、呼び込むということがない限り活性化はないだろうと考えている。そのためには周ゼミのアンケートにもあったように、快適な暮らしももちろんだが、やはり働く場所がないと実現できないと考えている。

 したがって働く場があって、快適な暮らしが提供されるような町を目指すというのが、やはり大切なポイントだ。もう1点だけ申し上げると、地域活性化策というのは、実現するには、どんな町にするのかという明確なコンセプトと、一体何が問題で、どう解決するのかという明確な問題意識が求められる。

 これらについて地域の方々のコンセンサスを得なければいけないが、あまりに論点が大きく、明確な指針を打ち出せない状況が続いてきたのではないか。そうした中で今日、まさしくエンタメといった切り口やスポーツ、デジタル、自然、あるいはカーボンニュートラルといったさまざまなツールが提供されている。それぞれが、やはり起爆剤であるというふうに強く思っている。

ディスカッションを行う鑓水洋・環境省大臣官房長

■ カーボンニュートラルを切り口に分散型モデルへ


  私は環境省の人間なので、カーボンニュートラルについて一言申し上げたい。これまでも議論があったが、やはり一つの大きな有効なツールになるだろうと考えている。それはなぜかというと、ひとつは明確な国家目標があるということだ。2050年にはカーボンニュートラルにするという目標があるなかで、地域とか暮らし、それから産業のあり方を含めて抜本的に変えなければいけない。そういったターニングポイントにあるということだ。

 ある意味、一種の危機感が醸成されているということだ。それから、そういった国家目標を実現していくには、これを各地域で実践して実現していかなければいけないということなので、そのカーボンニュートラルといった切り口を用いて地域の課題は何かということを明らかにして、どんな町にするのかということを描くという絶好の機会だろうというように考えている。

 カーボンニュートラルを切り口とする優れた点を私なりに考えると、ひとつは面的な対応が必要なことだ。地域の共生、コンセンサス、これを醸成しなければいけないという考え方に立つということだ。

 それがひとつ。一方的に誰かが進めればいいという話では多分ないということ。それからもうひとつは、さまざまな地域資源は地域によってまちまちだ。熱が利用できるところとか、風力があるところとか。さまざまな地域資源を活用するということなので、さまざまなモデルケースが可能であるということだ。

 金太郎飴にならなくて、多様で分散型のモデルを提示できるという機会が、提供できるといった意味で、それをカーボンニュートラルの切り口にするというのは、大変ある意味優れた手法かなというふうに自分自身は考えている。

ディスカッションを行う登壇者。左から、鑓水洋・環境省大臣官房長、周牧之・東京経済大学教授

■ 大学の果たす役割が非常に重要


 地域と若者の関係性という観点からすると、 私は大学の果たす役割が非常に重要かなと思っている。熊本に勤務していた時期には、一般的に大学が地域貢献するという考え方がまだまだ根付いていなかったと思う。あれだけ知が結集しているところのノウハウを地域貢献に活かさない手はない。したがって、当時経済界とか大学の協力も得て、大学にその地域貢献をする研究拠点みたいなものを作っていただいた経験がある。

 今回このように周ゼミが地域のことを考えて、それを大学としてどういうことができるかという。その一環で。このようなセッションを作られているということは、そういう意味で、地域貢献にこの大学が関わっていきたいという姿勢の表れではないかと思っている。ちょっと偉そうなこと言うが、こういうことはぜひ続けていただければ大変いいと考えている。

 コロナ禍では、これまで経験したことのないような経験を味わっているのは、学生の皆さんだけではない。だが、学生という貴重な時間、機会がコロナに見舞われてしまったということは、やはり我々とはちょっと違うダメージ、インパクトがあるのではないかと思う。とはいえ、人生は長い。本物、リアルの世界にぜひ触れてもらい、自分をまた磨いてもらいたい。あとせっかくなので、こういうゼミで学習されている学生さんだから、環境省のフィーリングとぴったりマッチすると思うので、ぜひ環境省の門を叩いていただきたい(笑)。


プロフィール

鑓水 洋(やりみず よう)/環境省大臣官房長。

 1964年山形県生まれ。1987年東京大学法学部卒業後、大蔵省入省。大蔵省主計局総務課長補佐、熊本県総合政策局長、財務省大臣官房企画官、主計局主計官、財務省大臣官房付兼内閣官房内閣審議官、財務省大臣官房審議官、理財局次長、国税庁次長等を経て、2021年から現職。


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