【シンポジウム】中国企業海外進出のチャンスと課題

■ 編集ノート:雲河東京国際シンポジウム「中国企業の新たなチャレンジ:イノベーション、集積、海外進出」が2024年12月1日、東京オペラシティで開催された。主催は雲河都市研究院、メディアサポートは中国インターネット情報センター。 
 中国駐日本大使館の郭旭傑経済参事官、北京大学国家発展研究院の周其仁教授、中米グリーンファンドの徐林会長、北京希肯琵雅国際文化発展株式会社の安庭会長、北京師範大学一帯一路学院の林惠春教授が登壇し、中国企業海外進出のチャンスと課題について議論した。


2024年雲河東京国際シンポジウム「中国企業の新たな旅立ち:イノベーション、集積、海外進出」会場

林惠春:中国企業海外進出の2つの課題


 きょうの中国企業海外進出に関する討論の議題は2つある。1つは、米国トランプ政権の逆グローバル化で、中国企業は海外進出をどう図るべきか。2つ目は、中国の一帯一路が中国企業の海外進出にとってどのような意味と役割があるかだ。

林惠春 北京師範大学一帯一路学院教授

郭旭傑:中国企業はどう包囲網を打ち破り、足場を固めるか


 トランプ政権二期目が始まり、世界自由貿易体制と経済グローバル化に対する懸念が世界的に高まっている。中国経済が直面するこれらの課題は、結局のところ中国企業の肩にかかってくる。新しい時代において、中国企業が国際舞台で包囲網を打ち破り、足場を固めることが重要な課題となっている。

 APEC首脳非公式会合期間中、習近平主席は石破茂首相と会談し、両国首脳が戦略的互恵関係を全面的に推進し、新しい時代に適した建設的で安定した日中関係を構築することを再確認した。経済貿易、グリーン成長、医療・介護などの分野で協力を強化し、グローバルな課題に共同で対応していくと強調した。石破茂首相は施政演説で、両国間のあらゆるレベルでの交流を推進し、中日関係が改善・発展の重要な時期を迎えることを表明した。

 近年、日本市場に進出する中国企業も増加している。日本貿易振興機構の統計によると、2023年末時点で、中国の対日投資残高は80億米ドルに達し、2015年の4倍に増加した。主な分野は貿易、投資、金融、物流、観光、人材派遣など多岐にわたり、地域的には東京、大阪、名古屋の3大都市圏に集中している。 日本に投資する中国企業では、BYD、TEMU(テム)、SHEIN(シーイン)、ハイアールなどのブランドが好調で、日本において中国の良いブランドイメージを確立している。

郭旭傑 中国駐日本大使館経済参事官

安庭:輸出と進出の促進で、文化の運命共同体創りを


 中国の文化公演の海外進出について、私はいくつかの展望を持っている。

 第一に、文化公演と国際市場との有効な連携を強化し、エンターテインメントの優良作品がスムーズに海外進出できるよう推進する必要がある。

 第二に、情報交流の強化は、中国の舞台芸術の傑作を海外に進出させる上で最も重要な課題となっている。

 第三に、積極的に海外へ作品を紹介し、理解を深めることが必要だ。そこを国家レベルで支援する必要がある。

 国家間、都市間の文化の相互理解、産業連携、社会の融合を促進し、海外からの輸入と海外進出を促し、文化の運命共同体を作り上げよう。

安庭 北京希肯琵雅国際文化発展株式会社会長

徐林:一帯一路は中国企業の海外進出を支援し、開かれたプラットフォームに


 グローバル化には多様な側面がある。経済分野では逆グローバル化の傾向が見られるが、経済だけを見てはいけない。他の多くの分野ではグローバル化は逆行していない。

 第一に、中国企業は国際資本市場への進出を奨励する必要がある。先ほど周牧之教授が述べたように、企業の上場は資金調達手段であるだけでなく、国際投資を誘致し、透明性を高め、認知度を高める重要な手段でもある。

 過去数年間、一部の海外上場の中国企業は上場廃止とされたが、私はこれは間違っていると思う。より多くの中国企業が海外資本市場に上場し、外国投資家が中国企業について理解を深め、中国企業の成長による利益を外国投資家が共有できるようにする必要がある。

 第二に、現在、中国の海外での利益は10兆ドルを超えている。中国政府は、海外のこの利益をどう保護するのか?何によって保護するのか?

 従来、中国の外交は他国の内政に干渉しない方針だったが、中国は現在、世界中のあらゆる地域で利益分配がある。他国の内政に干渉しない方針で海外の利益を保護できるのか?外交の手段や戦略を変更する必要はないのか?

 他国の内政に干渉しない方針を堅持するには、国際ルールや協定に依拠する必要がある。そのためには、主要な利害関係者と早期に協定を結び、制度を確立する必要がある。そうすることで、中国の海外利益を保護することができる。実際、中国は現在これらの点で不十分だ。

 第三に、ますます増加する企業の海外進出のニーズをどう管理するか。資本は海外へ流出するが、政府はその流出に対してどのような態度を取るべきか?どのようなルールを設けるべきか?

 多くの中国の名高い企業が海外進出の際に、資本規制などさまざまな障害に直面している。こうした問題は、中国企業の海外進出の波の中で、政府が解決しなければならない課題だ。

 第四に、中国の金融サービス業は企業の海外進出のニーズに対応できるだろうか?

2024年雲河東京国際シンポジウム「中国企業の新たな旅立ち:イノベーション、集積、海外進出」会場

 海外の金融機関は、自国の企業とともに海外に進出し、多くの優れたサービスを提供している。しかし、中国の金融システムは、こうした要求に対応できていない。多くの中国企業は、海外で海外の金融機関のサービスを利用できない時、中国の金融機関は彼らに十分なサービスを提供できていない。

 私は、一帯一路は地理的な概念と理解している。しかし、欧米人は一帯一路を地政学的な概念として捉える傾向がある。実際、中国が一帯一路を最初に提唱したのは、地政学的な考慮ではなかった。

 当時、中国は多額の外貨を稼いでおり、その外貨をより有効に活用するため、アジアインフラ投資銀行(AIIB)やBRICS銀行を設立し、一帯一路を提唱した。日本を見習い、その外貨を利用し、多額の収益を得た後に黒字を国内に還流させ、一帯一路参加国の発展を促進したいと考えていた。

 しかし、その後、これは地政学的な戦略と解釈された。そのために中国では「一帯一路戦略」と呼ばず、「一帯一路イニシアチブ」と呼ぶようになった。

 私は、一帯一路が真に影響力を持つためには、中国企業の海外進出を支援し、開かれたプラットフォームとして構築すべきだと考える。もちろん、中国の対外姿勢は依然として開かれたものであり、閉鎖的でなく、中国が完全に主導するものではない。第三者の参加も歓迎する。

 また、一帯一路には、基本的なルールや制度が不可欠だ。それがない場合、一帯一路の投資はリスキーなものになる。

(右)徐林 中米グリーンファンド会長、中国国家発展改革委員会発展戦略和計画司元司長(左)周其仁 北京大学国家発展研究院教授

■ 周其仁:企業を主体としたグローバル化を


 現実の世界は非常に興味深く、地政学の本質は異なる地域間の利益衝突を表わす。

 人類は動物から進化し、狩猟文明と農耕文明を経てきた。動物界にも領土意識があり、生存のために生物は自分の領土を広く、豊かに、強くしたいと考える。隣接する2つの勢力はしばしば矛盾や衝突を起こす。これが地政学的紛争の根源のひとつである。

 人類社会は21世紀にまで発展したが、戦争や紛争は絶えず発生し、これは根深い競争が依然として存在していることを示している。

 一方、国境で囲まれた国家は存在しているものの、企業の海外進出は政治体制と直接には関係がない。顧客さえあれば、企業はさまざまな政治体制の国に容易に進出できる。企業は契約を結ぶ組織であり、契約は人類の経済的利益と文化的利益をネットワークで結びつけている。

 このように地域紛争が絶えない一方、市場のグローバル化とネットワーク化で企業の活動は世界中に広がっている。この両者は世界に矛盾なく共存している。

 2019年に北京大学での講演で、私は「国本位のグローバル化は重大な挫折に直面しているが、市場本位のグローバル化はまさに台頭しつつある」と述べた。この市場本位とは企業本位である。

 米大統領は対中の貿易戦争と技術戦争を発動したが、テスラは上海にスーパー工場を建設した。国家間の政治関係がどうであれ、企業は複数の、時には対立する顧客と取引を行うことが可能だ。

 今日、ナショナリズムや貿易保守主義が台頭し、国家安全保障が極限まで拡大しているが、最終的に勝利するのは企業中心のグローバル市場というネットワークである。そのネットワークの相互作用が、人類が古くから抱える地域紛争を克服するだろう。

(左)周其仁 北京大学国家発展研究院教授/(右)周牧之 東京経済大学教授

 中国の希音(SHEIN)社は、オンラインでZARAのようなビジネスを展開している。世界には、少ないお金で新しい服を着たいという消費者層が存在する。同社は、この需要をターゲットに、インターネットを通じて欧米市場に週5万点の新しい商品の電子サンプルをアップし、注文が入ると佛山、番禺一帯の中小企業で大量生産し、需要に応えている。オンラインでヒット商品が出ると、生産システムが迅速に対応する。彼らのネットワークを通じて数十機の飛行機で世界中に輸送される。

 先ほど周牧之教授が述べたように、希音の日本での売上高はユニクロに迫っている。しかし、中国国内の大多数の人々は、この会社の存在すら知らない。

 私の学生にアマゾンで働いている者がいるが、彼はアマゾンの株価が中国の2つのアプリに圧迫されていると言う。一つは拼多多(ピンドゥオドゥオ)、もう一つが希音だ。これらの企業の頭の中の世界地図は、私たちが目にする世界地図とは異なっている。私たちは境界が明確な国家として国々を見ているが、彼らはサプライチェーン、顧客チェーン、中間サービスプロバイダーでつながった商業ネットワークの世界を見ている。

中国都市総合発展指標2023」報告書

 この記事の中国語版は2024年12月26日に中国網に掲載され、多数のメディアやプラットフォームに転載された。


■ WEB掲載記事


【日本語版】

チャイナネット『海外進出した中国企業、現地社会に溶け込むのが肝心=中米グリーンファンドの徐林会長』(2025年5月15日)

チャイナネット『企業を主体としたグローバル化を=北京大学国家発展研究院の周其仁教授』(2025年5月15日)

チャイナネット『製造から投資、管理の力量まで問われる海外進出=北京大学国家発展研究院の周其仁教授』(2025年5月15日)

チャイナネット『高成長する文化産業は「輸入」と「海外進出」が両輪=北京希肯琵雅国際文化発展股份有限公司の安庭会長』(2025年5月15日)

チャイナネット『近年、日本市場に進出する中国企業が増加=中国駐日本大使館の郭旭傑経済参事官』(2025年5月15日)

チャイナネット『中国企業の海外進出は世界を再構築=周牧之教授』(2025年5月16日)

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【論文】周牧之:二酸化炭素:急増する中国とピークアウトした日米欧

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