【書評】全295都市を精査 データ、図解で活況提示

評者 高橋克秀(国学院大学教授)

 中国のおよそ300の都市を独自の「都市総合発展指標」によってランキングし、上位都市の強みと弱みを分析したリポートである。それぞれの都市を環境、社会、経済など27項目のデータから客観的に評価した点に特徴がある。

 総合ランキング1位は北京市。上海市は僅差の2位となった。北京と上海は別格として、3位に食い込んだのは、いま中国で最も勢いがある新興都市である。長い歴史を誇る広州市と天津市を抑えて、深圳市が堂々の上位に進出した。人口3万人の漁村だった深圳は40年足らずで1000万人都市となり、中国のシリコンバレーに変貌した。

 1980年に経済特区に指定された当初は安価で豊富な労働力を利用した輸出加工拠点として成長し、「世界の工場」のモデルとなった。しかし近年はイノベーション都市に進化した。深圳からはテンセント、ZT E、ドローンのDJI、電気自動車のBYDなど世界的企業が生まれている。

 深圳の強みは若さと起業家精神だ。平均年齢は32.5歳。15歳未満人口は13.4%。生産年齢人口である15歳以上65歳未満が83.2%を占め、65歳以上は3.4%にすぎない。起業マインドが旺盛で、1人当たりの新規登録企業数は北京の3倍だ。

 さらに、広州から深圳を経由して香港に至る広深港高速鉄道が今年9月に全線開通したことで、「珠江デルタ」と呼ばれるこの地域が巨大な経済圏として浮上してきた。東莞、仏山、中山など有力都市も含む珠江デルタの域内GDP(国内総生産)は2025年までに310兆円に達するという試算もある。

 上海の西部に位置する6位の蘇州市は風光明媚な観光地のイメージが強かったが、90年代以降は大規模な工業団地を造成して外資系製造業を造成して外資系積極的に呼び込んで急成長した。しかし、古都の風情は失われた。7位の杭州市も古くから栄えた景勝地だが、99年に設立されたアリババ(中国の情報技術企業)がけん引役となってIT都市へと変貌した。

 一方、8位の重慶市は世界最大級の3000万人の人口を擁しながら人口流出が目立つ。ランキング20位入りした都市は西部沿海部と内陸の拠点都市が大半。東北地方からは大連市が19位に入っただけである。

 現代中国の都市間競争のカギはスタートアップ企業の活力とイノベーションのようだ。本書の残念な点は21位以下のランキング表が載っていないことである。地方都市の情報を盛り込んだ改訂版を期待したい。


【掲載】週刊エコノミスト 2018年10月16日号