【ランキング】映画大国中国で最も映画好きな都市はどこか? 〜2020年中国都市映画館・劇場消費指数ランキング

雲河都市研究院

2020映画興行収入世界ランキングトップ10入り中国映画

■ 中国映画マーケットが世界第1位に


 新型コロナウイルスパンデミックで最も打撃を受けた分野の1つは映画興行であった。中国では、2020年の映画興行収入が前年比68.2%も急落した。だが幸いなことに、中国では新型コロナウイルスの蔓延を迅速に制圧したことで、映画市場は急速に回復した。

 一方、これまで世界最大の興行収入を誇ってきた北米(米国+カナダ)は、新型コロナウイルスの流行を効果的に抑えることができず、2020年には映画興行収入が前年比80.7%も急減した。その結果、中国の映画市場が、映画興行収入で世界トップに躍り出た。

 2021年の春節(旧正月)、昨年同期間のロックダウンに取って代わり、中国の映画興行収入は78.2億元(約1,564億円、1元=20円で計算)に達し、同期間の新記録を樹立した。また、世界の単一市場での1日当たり映画興行収入、週末映画興行収入などでも記録を塗り替えた。中国の映画市場は今、勢いよく回復している。

■ 2020年、中国で最も映画興行収入が多かった都市は?


 中国都市総合発展指標に基づき、雲河都市研究院は中国全297地級市(地区級市、日本の都道府県に相当)以上の都市をカバーする「中国都市映画館・劇場消費指数」を毎年モニタリングしている。

 2020年、中国全国297都市のうち、「2020年中国都市映画館・劇場消費指数ランキング」の上位10都市は、上海、北京、深圳、広州、成都、重慶、杭州、武漢、蘇州、西安となっている。これら中国で最も映画興行収入が多かった都市は、9位の蘇州を除き、すべて直轄市、省都、計画単列市からなる中心都市である。同ランキングの上位11〜30都市は、第11位から第30位の都市は、鄭州、南京、長沙、東莞、天津、仏山、寧波、合肥、無錫、瀋陽、昆明、青島、温州、南通、南昌、長春、石家荘、ハルビン、済南、南寧となっているが、これらもほとんどが中心都市である。

 東京経済大学の周牧之教授は、「中国の映画興行は若者が集まる中心都市や製造業スーパーシティに集中している」と述べる。

図1 2020年中国都市映画館・劇場消費指数ランキングトップ30都市

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

■ 中心都市に集約する映画館・劇場市場


 「2020年中国都市映画館・劇場消費指数」を構成するデータを分析することで、前述した周牧之教授が言う映画館・劇場市場の特定都市集中の実態が見えてくる。

 映画館・劇場数について、「2020年中国都市映画館・劇場消費指数」ランキングのトップ5都市が全国に占める割合は12.6%、トップ10都市は21.0%、トップ30都市は39.3%となっている。つまり、上位10都市に全国の映画館・劇場の5分の1以上が立地し、297都市の10分の1に過ぎない上位30都市に、40%弱が立地している。

図2 2020年中国都市における映画館・劇場の集中度

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

 映画館・劇場観客者数について、「2020年中国都市映画館・劇場消費指数」ランキングのトップ5都市が全国に占める割合は17.9%、トップ10都市は28.9%、トップ30都市は51.3%を占めている。つまり、上位10都市に全国の映画館・劇場観客者数の3分の1近くが集中し、上位30都市に半分以上が集中している。映画館・劇場数と比較して、観客者数の特定都市への集中度は、より顕著となっている。

図3 2020年中国都市における映画館・劇場観客者数の集中度

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

 映画館・劇場興行収入について、「2020年中国都市映画館・劇場消費指数」ランキングのトップ5都市が全国に占める割合は21.1%、トップ10都市は32.1%、トップ30都市は53.9%を占めている。つまり、上位10都市に全国の映画館・劇場観客者数の3分の1以上が集中し、上位30都市に半分以上が集中している。

 周牧之教授は、「映画館・劇場消費指数ランキングのトップ30都市には、観客数が集中しているため、興行収入パフォーマンスは他の都市よりはるかに高い」と解説している。

図4 2020年中国都市における映画館・劇場興行収入の集中度

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

 「2020年中国都市映画館・劇場消費指数」からは、さらに次のような都市と映画興行の関係が見えてくる。

 中国で映画興行収入の最多都市:映画興行収入の上位10都市は、上海、北京、深圳、広州、成都、重慶、杭州、武漢、西安、蘇州である。

 中国で映画鑑賞者数の最多都市:映画鑑賞者数が多い上位10都市は、上海、北京、成都、広州、深圳、重慶、武漢、杭州、西安、蘇州である。

 中国で最も映画好きな都市:一人当たりの映画館での鑑賞回数が多い上位10都市は、深圳、珠海、海口、杭州、南京、長沙、武漢、広州、上海、西安である。

図5 2020年中国で最も映画好きな都市ランキングトップ30都市
(一人当たり映画館での鑑賞回数)

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

 中国で最も映画におカネを掛ける都市:一人当たりの映画興行収入の上位10都市は、深圳、北京、上海、杭州、珠海、広州、南京、海口、長沙、ラサである。

 特に注目すべきは、中国では新型コロナウイルスパンデミック下も、スクリーン数や映画館数が減るどころか増えていたことである。中国のスクリーン数は、2005年の2,668枚から2020年には75,581枚へと、28倍にもなった。

 2019年10月から2021年5月にかけて、全国297都市のうち、203都市で、映画館の数が増加した。その中で、映画館数が最も増えた上位10都市は、成都、蘇州、広州、武漢、鄭州、常州、保定、北京、杭州、石家荘となっている。逆に、映画館数が減った都市も38あり、減少数が多いのは四平、台州、九江の3都市であった。

 その結果、中国全土の映画館はこの期間に826館も純増した。

図6 2020年中国で最も映画におカネを掛ける都市ランキングトップ30都市
(一人当たり映画興行収入)

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

■ 新型コロナウイルスパンデミック下のOTT大躍進


 新型コロナウイルスパンデミックによるロックダウンで、2020年中国春節の映画市場は崩壊した。だが、この衝撃は、映画上映における“革命”を引き起こした。当初、春節に公開が予定されていたコメディ映画『囧媽(Lost in Russia)』は、突然の新型コロナショックを受け、春節の封切りが見送られた。ところが、中国のIT企業であるバイトダンス(TikTokの親会社)がいち早く同映画の上映権を6億3,000万元(約107億円)で購入し、劇場公開されるはずだった2020年1月25日(旧正月の初日)に傘下のアプリで無料配信を行った。

 映画としての『囧媽』は、劇場での興行収益は実現できなかったものの、バイトダンス傘下の「今日頭条(Toutiao)」、「抖音(Douyin:TikTokの中国国内版)」、「西瓜視頻(Xigua Video)」、「抖音火山版(DouyinHuoshan Version)」の4つのアプリで、3日間で延べ1億8千万人以上が視聴し、6億回以上の再生回数を達成した。結果として、バイトダンスは『囧媽』により自社傘下アプリに膨大なアクセスを得られた。。

図7 急変する映画配信モデル

 映画やドラマの映像をインターネット上のプラットフォームで配信するモデルはOTT(Over The Top)と呼ばれる。代表的なOTTプラットフォームとして、海外では「Netflix」、「Amazon Prime」、「Disney+」、「Hulu」、「HBO Max」などが挙げられる。中国では「iQIYI(愛奇芸)」、「テンセントビデオ(騰訊視頻)」、「Youku(優酷))などがある。

 バイトダンスは、斬新な映画上映モデルを打ち立てた。製作費2億1,700万元(約36.9億円)の『囧媽』は、劇場公開をスキップし、OTTで直接配信された最初の大作となった。

 周牧之教授は、「非常事態にあって迅速に映画『囧媽』の上映モデルをOTTへと切り替えたのは、中国ネット企業のビジネスモデルの突破力を表している。

 その後、ディズニーが2億ドル(約220億円)を投じて制作した超大作『ムーラン』も、劇場公開がないままOTTで直接配信されたことで、大きな話題を呼んだ。『ムーラン』は、2020年9月4日からディズニーのOTTプラットフォーム「Disney+」で配信され、2019年11月にオープンしたばかりの同プラットフォームに膨大なアクセス数をもたらした。

 2020年12月4日、ワーナー・ブラザースは、2021年に公開される全17作品を米国の映画館とOTTプラットフォーム「HBO Max」で同時配信することを発表した。これは映画ビジネスのゲームチェンジを決定付けた。

 2020年4月に公開予定だった『007/ノータイム・トゥー・ダイ』も2億5,000万ドル(約275億円)制作費のメガフィルムとして公開が待たれていた。新型コロナウイルス禍で劇場公開が幾度も延期される中、2021年5月26日、突如アマゾン・ドット・コムが、007シリーズを制作した映画会社MGM(メトロ・ゴールドウィン・メイヤー)を90億ドル(9800億円)の巨額で買収すると発表した。アマゾンは傘下にOTTプラットフォーム「Amazon Prime」(会員数2億人以上)を持つだけに、『007/ノータイム・トゥー・ダイ』がいつどのように公開されるのか、話題を呼んでいる。

 コストのかかる超大作も、OTTと劇場の同時公開、あるいはOTTでの直接配信という時代に突入し、映画公開におけるOTT戦略は、興行成績を左右するだけでなく、映画製作会社の命運も左右する大きなファクターとなっている。

 「IT産業が発達している中国でOTTと劇場との協働が映画産業をさらに盛り上げていく」と周牧之教授は予測する。

図8 2020年全世界新型コロナウイルス累計感染者数

■ 中国映画市場が国産映画を世界の興行ランキングの上位に押し上げる


 2020年は、中国映画の興行成績が非常に目を引く年であった。「Box Office Mojo」によると、2020年の世界興行ランキングで中国映画『八佰(The Eight Hundred)』が首位を獲得した。また、同ランキングのトップ10には、第4位にチャン・イーモウ監督の新作『我和我的家郷(My People, My Homeland)』、第8位に中国アニメ映画『姜子牙(Legend of Deification)』、第9位にヒューマンドラマ『送你一朶小紅花(A Little Red Flower)』の中国4作品がランクインした。また、歴史大作『金剛川(JingangChuan)』も第14位と好成績を収めた。中国映画市場の力強い回復により、多くの中国映画が世界の興行収入ランキングの上位にランクインした。

 2005年以来、中国における映画興行収入に占める国産映画の割合は50%から60%の間で推移していたが、2020年には一気に83.7%まで上昇した。

 この20年、中国の映画興行収入は急増している。2005年の20億5,000万元(約349億円)から2019年の642億7,000万元(約1兆926億円)まで、映画の興行収入はこの間に31倍となっている。新型コロナウイルスが効果的に抑制されたことで、中国の映画興行収入は2021年にはさらに上昇すると期待される。

 周牧之教授は「世界最大の興行市場の支えで、中国制作映画は輝かしい時代を迎える」と展望する。

図9 2020年中国都市映画館・劇場消費指数ランキングトップ30都市分析図

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

日本語版『【ランキング】映画大国中国で最も映画好きな都市はどこか?〜2020年中国都市映画館・劇場消費指数ランキング』(チャイナネット・2022年8月31日掲載)

【ランキング】中国IT産業スーパーシティはどこか?〜2020年中国都市IT産業輻射力ランキング

雲河都市研究院

■ IT産業が牽引する21世紀


 IT産業は21世紀のリーディング産業である。世界経済を牽引するだけでなくグローバリゼーションや社会の変革を推し進めている。

 世界の企業時価総額のトップ10社を業種別に分析すると、1989年と2020年の二時点における産業構造の変革が確認できる。

 東京経済大学の周牧之教授は、「平成の幕開けの1989年当時、世界の企業時価総額トップ10企業に、IT・通信企業はNTTとIBMの2社しか入っていなかった。これに対して、2020年の同トップ10企業には、IT的な側面が極めて強いテスラをIT企業として捉えるとすれば、なんと8社も含まれる。且つこれらの企業すべてが世界を舞台とするグローバル企業である」と解説する。

 世界の企業時価総額ランキングを国別に分析することで、さらに地政学上でのパワーシフトが確認できる。

 周牧之教授は、「1989年世界の企業時価総額トップ10企業には、1位のNTTをはじめ日本企業が7社も入った。日本経済のバブルを象徴した結果であった。且つ、ランクインした日本の7企業は、NTT、そして日本興業銀行、住友銀行、富士銀行、第一勧業銀行、三菱銀行の5つの金融機関と、東京電力のすべてが国民経済を基盤としていた。しかし、2020年になるとトップ10に日本企業がなくなり、代わりにテンセントとアリババという中国のIT企業が入った」と語る。

 日本企業の低迷ぶりは企業時価総額ランキングトップ50に尺度を拡大すれば更に明らかである。1989年同トップ50企業には日本企業が32社も入っていた。しかし2020年になると日本企業は40位のトヨタ自動車しかこのトップ50には残っていない。

 周牧之教授は、「こうした構造的な変化はIT革命とグローバリゼーションへの対応を反映するものである」と断言している。

■ 中国で最もIT産業輻射力が高かった都市は?


 中国都市総合発展指標に基づき、雲河都市研究院は中国全297地級市(地区級市、日本の都道府県に相当)以上の都市をカバーする「中国都市IT産業輻射力」を毎年モニタリングしている。輻射力とは広域影響力の評価指標である。IT産業輻射力は都市におけるIT企業の集積状況や企業力、そして、IT産業の従業者数を評価したものである。

 2020年は、IT業界にとって大発展の年であった。デジタル感染症対策、在宅勤務、オンライン授業、遠隔医療、オンライン会議、オンラインショッピングなどが当たり前になり、新型コロナウイルス禍で産業や生活のあらゆる分野におけるデジタル化が一気に進んだ。

 中国都市総合発展指標2020で見た「中国都市IT産業輻射力2020」ランキングのトップ10都市は、北京、上海、深圳、杭州、広州、成都、南京、重慶、福州、武漢となった。これら中国のIT産業スーパーシティは、すべて直轄市、省都、計画単列市からなる中心都市である。同ランキングの上位11〜30都市もほとんどが中心都市である。

図1 2020年中国都市IT産業輻射力ランキングトップ30都市

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

■ 中心都市に集中集約が進むIT産業


 「中国都市IT産業輻射力2020」ランキングを分析することで、特定都市におけるIT産業の凄まじい集中度がわかる。IT産業従業者数において、「中国都市IT産業輻射力2020」ランキングのトップ5都市が全国に占める割合は41.9%、トップ10都市は58.3%、トップ30都市は76.4%を占めている。

図3 2020年中国都市におけるIT産業従業者の集中度

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

 メインボード(香港、上海、深圳)に上場するIT企業数において、「中国都市IT産業輻射力2020」ランキングのトップ5都市が全国に占める割合は67.1%、トップ10都市は77.6%、トップ30都市は92.3%にも達している。IT産業従業者と比較して、IT上場企業の特定都市への集中度は、より顕著となっている。

図3 2020年中国都市におけるメインボード上場IT企業の集中度

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

 中小企業ボードに上場するIT企業数において、「中国都市IT産業輻射力2020」ランキングのトップ5都市が全国に占める割合は51.4%、トップ10都市は62.5%、トップ30都市は77.8%を占めている。

 創業板に上場するIT企業数においては、「中国都市IT産業輻射力2020」ランキングのトップ5都市が全国に占める割合は66.9%、トップ10都市は75.3%、トップ30都市は89.1%を占めている。

 周牧之教授は、「大手にしろ中小にしろスタートアップにしろ、IT企業は中心都市に極めて集中集約している」と言う。

図4 2020年中国都市における中小企業ボード上場IT企業の集中度

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

図5 2020年中国都市における創業板上場IT企業の集中度

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

■ IT産業 vs 製造業


 「中国都市IT産業輻射力2020」と中国都市製造業輻射力2020を比べてみると、IT産業の都市への集約パターンは製造業とは異なることが分かる。

 2020年中国都市製造業輻射力トップ10は、深圳、蘇州、東莞、上海、寧波、仏山、成都、広州、無錫、杭州である。これらの都市は、成都を除きすべてが沿海部の都市であり、中心都市ではない都市も多く食い込んだ。

 これに対して、2020年中国都市IT産業輻射力の場合はトップ10の都市は、すべて中心都市である。且つ首位の北京を始め、成都、南京、重慶、武漢といった内陸都市が半数を占める。

 周牧之教授は、「これらIT産業スーパーシティと、製造業スーパーシティの性格が異なるのは、IT産業と製造業の繁栄の条件が異なる故である。中国の製造業スーパーシティが今後IT産業スーパーシティへと脱皮できるかは大きな試練である」と述べる。

 これについては深圳の変貌ぶりが象徴的である。製造業輻射力で第1位にある同市は、IT産業輻射力でも3位まで上り詰めた。深圳にはアメリカの対中制裁で有名になった企業が多く拠点を構えている。例えば、通信機器のZTEとファーウェイ、そしてウィチャットの親会社のテンセント、ドローンの世界トップシェアを持つDJIである。これらは全て深圳発のITベンチャー企業である。これら企業の群生は、深圳が「世界の工場」たる製造業スーパーシティから、IT産業スーパーシティへと脱皮していることを示している。

 周牧之教授は、「中国の製造業はITの力を借りて更なる変化を遂げていく」と展望する。

図6  2020年中国都市IT産業輻射力ランキング分析図

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

【ランキング】中国で最も輸出力の高い都市はどこか? 〜2020年中国都市製造業輻射力ランキング

雲河都市研究院

■ 2020年後半、中国の輸出は急回復


 新型コロナパンデミックは、2020年の世界貿易に大きな影響を及ぼした。世界の輸出総額は、前年比-7.2%もの大幅なマイナス成長に陥った。コロナ禍によるロックダウンや米中貿易摩擦の激化の中で、中国の輸出産業も大きな打撃を被った。

 そうした流れの中で2020年前半には中国の輸出額が落ち込んだが、後半には力強い回復を見せた。その結果、世界貿易が落ち込む中にあって中国の輸出額はドルベースで前年比3.6%増を実現した。

 図1で2020年の国・地域別輸出額ランキングを見ると、中国は圧倒的な第1位である。同トップ10は順に、中国、アメリカ、ドイツ、オランダ、日本、香港、韓国、イタリア、フランス、ベルギーとなった。なかでも中国と香港だけが輸出額のプラス成長を成し遂げた。東京経済大学の周牧之教授は、「これは、中国におけるグローバルサプライチェーン型産業集積の強靭さとゼロコロナ政策の成功を象徴する成長である」と評した。

 その結果、第1位の中国と第6位の香港の輸出額合計が、世界の17.8%のシェアを占め、アメリカの2.2倍の規模に相当するまでに至った。

図1 2020年国・地域別輸出額ランキングトップ30

出典:UNCTADデータベースより雲河都市研究院作成

■ 2020年、中国で最も製造業輻射力が高かった都市は?


 中国都市総合発展指標に基づき、雲河都市研究院は中国全297地級市(地区級市、日本の都道府県に相当)以上の都市をカバーする「中国都市製造業輻射力」を毎年モニタリングしている。輻射力とは都市の広域影響力の評価指標である。製造業輻射力は都市における工業製品の移出と輸出そして、製造業の従業者数を評価したものである。

 中国都市総合発展指標2020で見た「中国都市製造業輻射力2020」ランキングのトップ10都市は、深圳、蘇州、東莞、上海、寧波、仏山、成都、広州、無錫、杭州となった。この10都市のうち、蘇州、東莞、無錫の3都市の輸出額が若干マイナス成長だったのに対して、その他の都市は輸出増を実現した。これら製造業スーパーシティの輸出力の強靭さが際立った。

 周牧之教授は「これらトップ10都市のうち、深圳、蘇州、東莞、寧波、仏山、無錫の6都市は改革開放前、殆ど工業の蓄積を持たず行政の中心都市でもない小さな町であった。とりわけ深圳は、都市ですらない村であった。これらの町を製造業スーパーシティに仕立てたのは、グローバルサプライチェーンの躍動であった」と指摘する。

図2 2020年中国都市製造業輻射力ランキングトップ30都市

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

■ 製造業スーパーシティに集中する輸出総額


 図3が示すように、「2020年中国都市製造業輻射力」のトップ5都市が中国全体の輸出総額に占める割合は32.5%、トップ10都市は44.2%、さらにトップ30都市の割合は71.7%にも達している。周牧之教授は「中国の輸出産業はこれら製造業スーパーシティに高度に集中している」と述べている。

図3 2020年中国都市における輸出総額の集中度

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

■ 深水港の重要性


 「2020年中国都市製造業輻射力」のトップ10都市は成都を除き、すべて大型コンテナ港を利用できる立地優位性を誇る。周牧之教授は「コンテナ輸送は、グローバルサプライチェーンを支える基盤である。このような結果は、グローバルサプライチェーンにおける深水港の重要性を窺わせる」と解説する。

 雲河都市研究院が、中国全297都市の製造業輻射力と都市交通中枢機能との相関関係を分析した結果、図4で見られるように製造業輻射力とコンテナ港との利便性との相関係数は最も高く、0.65という「強い相関関係」を示した。製造業輻射力と鉄道利便性、空港利便性との間の相関係数は、それぞれ0.62、0.48であった。この相関関係分析は周牧之教授の解説を裏付ける。

図4 2020年中国都市製造業輻射力と都市交通中枢機能との相関関係分析


出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

■ 三大メガロポリスが輸出エンジン


 メガロポリスの視点から見ると、京津冀、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスが中国全土の貨物輸出総額に占める割合は、それぞれ5.4%、36.6%、23.1%となっている。三大メガロポリスの合計が全国の65.1%を占めている。

 周牧之教授は「三大メガロポリスでもとりわけ、長江デルタ、珠江デルタは中国輸出工業発展のエンジンで、グローバルサプライチェーンの中核エリアである」と断言する。

図5 2020年中国都市製造業輻射力ランキングトップ30都市分析図

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

日本語版『【ランキング】中国で最も輸出力の高い都市はどこか?〜2020年中国都市製造業輻射力ランキング』(チャイナネット・2022年9月22日掲載)


【ランキング】世界で最も港湾コンテナ取扱量が多い都市はどこか? 〜2020年中国都市コンテナ港利便性ランキング

雲河都市研究院

■ 2020年世界で最もコンテナ輸送を行なった国は?


 新型コロナパンデミックでサプライチェーンと海運は世界的に大きな混乱を生じ、現在に至ってなお収まってはいない。その影響で2020年世界のコンテナ取扱量は-1.2%減であった。これに対して、中国はゼロ・コロナ政策が奏功し、社会活動がいち早く正常に戻ったことでコンテナ取扱量も1.2%成長を実現させた。

図1 2020年世界における国・地域コンテナ取扱量ランキングトップ30

出典:UNCTADデータベースより雲河都市研究院作成。

 図1が示すように、2020年の国・地域別港湾コンテナ取扱量ランキングで見ると中国は圧倒的な第1位である。同トップ10は順に、中国(大陸)、アメリカ、シンガポール、韓国、マレーシア、日本、アラブ首長国連邦、トルコ、ドイツ、中国香港となった。

 図2が示すように、これら10カ国・地域の港湾コンテナ取扱量の世界シェアは59.8%に達し、さらに同ランキング上位30カ国・地域を見ると、そのシェアは86.5%に達している。つまり、この30カ国・地域は世界のコンテナ取扱量の9割弱を担い、グローバルサプライチェーンが最も活発に作動している。

 とりわけ中国(大陸)は、世界港湾コンテナ取扱量におけるシェアが30.1%に達し、群を抜いている。第1位の中国と10位の香港を合わせたコンテナ取扱量は、2位から12位(香港を除く)のアメリカ、シンガポール、韓国、マレーシア、日本、アラブ首長国連邦、トルコ、ドイツ、スペイン、インドの10カ国合計を上回る。東京経済大学の周牧之教授は「この数字は中国がグローバルサプライチェーンの中核的な存在である実態を捉えている」と分析する。

図2 2020年世界における港湾コンテナ取扱量の集中度

出典:UNCTADデータベースより雲河都市研究院作成

■ 2020年世界で最も港湾コンテナ取扱量が多かった都市は?


 図3で港湾コンテナ取扱量を都市別に見てみると、世界における2020年の都市港湾コンテナ取扱量ランキングのトップ30には、アジアの都市が21も含まれている。特に中国は、香港、高雄を含み12都市もランキングされている。周牧之教授は「アジアの時代を彷彿とさせる順位である」と語る。

 同ランキングのトップ10に絞ってみると、順に上海、シンガポール、寧波―舟山、深圳、広州、青島、釜山、天津、香港、ロッテルダムとなり、トップ10都市のうち、中国は香港を含み7都市(寧波と舟山をひとつにカウント)がランクインしている。コンテナ輸送における中国の圧倒的なパワーが浮かび上がる。

 同ランキングトップ30の中で、中国以外には唯一アメリカが複数の都市をランクインさせている。それは17位のロサンゼルス、19位のロングビーチ、20位のニューヨーク―ニュージャージーである。なお、日本は21位の京浜港(東京―横浜―川崎をひとつにカウント)だけがランクインした。

図3 2020年世界における都市港湾コンテナ取扱量ランキング

出典:World Shipping Council、〈中国都市総合発展指標〉データベースより雲河都市研究院作成

■ 2020年中国で最もコンテナ港利便性が高かった都市は?


 グローバリゼーションが加速する中、サプライチェーンの根幹である港湾機能は、国や都市にとって極めて重要な機能である。中国都市総合発展指標では、港湾機能を評価する「コンテナ港利便性」を採用し、毎年各都市でモニタリングを実施している。

 「コンテナ港利便性」は、都市における港湾へのアクセスおよび港湾処理機能を指数化した指標であり、都市中心部から港湾までの直線距離やコンテナ取扱量等のデータを合成し、独自に利便性を算出している。

 図4が示すように、「2020年中国都市コンテナ港利便性」のトップ10都市は、順に、上海、深圳、寧波、青島、天津、広州、廈門、日照、蘇州、舟山となり、第1位の上海の突出ぶりが著しい。

 2020年には、上記トップ30都市で唯一、大連のコンテナ取扱量がマイナス成長に陥った。新型コロナウイルス禍で、中国の大多数の港湾都市がコンテナ取扱量のプラス成長を実現させた背景には、製造業輸出力の強靭さが窺える。

図4 2020年中国都市コンテナ港利便性ランキングトップ30都市

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

■ 特定の港湾都市に集中するコンテナ輸送


 図5が示すように、「2020年中国都市コンテナ港利便性」のトップ5都市が中国全体の港湾コンテナ取扱量に占める割合は52.1%、同トップ10都市は70.1%、さらに同トップ30都市の割合は89.0%にも達している。中国のコンテナ輸送が特定の港湾都市に高度に集中している実態が浮き彫りになった。

図5 2020年中国都市における港湾コンテナ取扱量の集中度

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

 図6は「2020年中国都市コンテナ港利便性」を地図化したものであり、港湾ごとにすべての都市に対して計算を行った結果から、トップ10都市の結果を可視化している。矢印の色、長さ、太さは利便性の大きさを示し、値が大きくなるほど矢印の色が赤く、太くなり、値が小さくなるほど色が青く、細くなるようグラフィック処理した。

 周牧之教授は、「可視化した都市コンテナ港利便性の地図を見ると、中国のコンテナ輸送、そして世界のコンテナ輸送が如何に長江デルタ、珠江デルタの両メガロポリスに集中しているかが分かる。その背後にはグローバルサプライチェーンの巨大な産業集積がある」と解説する。

図6 2020年中国都市コンテナ港利便性ランキングトップ10都市分析図

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

日本語版『【ランキング】世界で最も港湾コンテナ取扱量が多い都市はどこか? 〜2020年中国都市コンテナ港利便性ランキング 』(チャイナネット・2022年7月12日掲載)


【ランキング】中国で最も空港利便性が高い都市はどこか?〜2020年中国都市空港利便性ランキング

雲河都市研究院

■ 2020年中国の航空輸送は旅客が激減、貨物は微減


 2020年、新型コロナウイルス禍で打撃を最も受けた業界のひとつは、航空輸送である。特に、長引く国際旅行規制の影響により、中国の航空旅客数は2019年より36.6%も減少した。幸い、中国は新型コロナウイルスの流行を逸早く制圧し、国内航空輸送量は早期に回復したため、欧米各国や日本などと比べ、航空旅客数減少幅は比較的小さかった。

 航空旅客数に比べ、2020年中国の航空貨物取扱量は6%減にとどまった。これはコロナ禍でも物流が活発に行われ、製造業サプライチェーンも迅速に回復したことを示している。

■ 中国で最も空港利便性が高かった都市は?


 交通ハブ機能は、都市にとって極めて重要な機能であり、他の中枢機能を強化・増幅する基盤となる。中国都市総合発展指標では、空港機能を評価する「空港利便性」を採用し、例年各都市でモニタリングを実施している。

 「空港利便性」は、その都市における空港のアクセスおよび空港処理機能を指数化した指標であり、都市中心部から空港までの直線距離、空港旅客数、空港貨物取扱量、年間フライト数、遅延率、滑走路距離等のデータを合成し、独自に利便性を算出している。

 「2020年中国都市空港利便性ランキング」上位10都市は、上海、北京、広州、深圳、成都、重慶、昆明、西安、杭州、廈門であり、いずれも中心都市である。同上位10都市の順位は、2019年度から不動であった。

■ 中国都市空港利便性ランキングトップ30都市


 「2020年中国都市空港利便性ランキング」の11位から30位都市は、鄭州、南京、海口、貴陽、長沙、青島、天津、三亜、瀋陽、武漢、ウルムチ、ハルビン、大連、済南、南昌、太原、寧波、フフホト、蘭州、南寧であり、海南島のリゾート地・三亜を除き、すべて中心都市であった。東京経済大学の周牧之教授は「コロナ禍の影響により国際旅行が中断され、国内旅行が中心となり、観光名所を抱える鄭州、貴陽、長沙、三亜等の都市が順位を上げた」と見ている。

図1 2020年中国都市空港利便性ランキングトップ30都市

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

■ 中心都市に空港機能が集中


 「2020年中国都市空港利便性ランキング」のトップ5都市が全国空港旅客数に占めるシェアは28.1%に、トップ10都市は45.5%に、トップ30都市は77.4%にも達している。中国の航空旅客輸送は中心都市に集中している。

図2 2020年中国都市における空港旅客数の集中度

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

 一方、「2020年中国都市空港利便性ランキング」のトップ5都市が全国空港貨物取扱量に占めるシェアは56.8%に、トップ10都市は70.6%に、さらにトップ30都市は91.7%にも達している。このうち、深圳、杭州、鄭州、南京、長沙、済南、南昌の7都市では、空港貨物取扱量が2019年より増加した。周牧之教授は、「航空旅客輸送と比較して、航空貨物が中心都市に集中する傾向がさらに顕著だ」と指摘している。

図3 2020年中国都市における空港貨物取扱量の集中度

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

IT産業の発展に空港利便性は不可欠


 雲河都市研究院は中国の全297地級市以上の都市の空港利便性、コンテナ港利便性、鉄道利便性といった交通中枢機能と、製造業輻射力とIT産業輻射力の相関関係を分析した。図4で示すように、製造業輻射力との相関関係が最も深いのはコンテナ港利便性である。その相関係数は、0.65に達し、「強い相関関係」を示している。それに対して、製造業輻射力と空港利便性との相関関係は弱く、その相関係数は0.48しかなかった。

 製造業輻射力と真逆に、IT産業輻射力と空港利便性との相関関係が強く、その相関係数は0.65に達している。

 周牧之教授は、「航空輸送はグローバルサプライチェーンの重要な基盤であると同時に、人の流れを支える基盤でもある。交流経済の代表格のIT産業の発展は、航空輸送の支え無しには成り立たない」と分析している。

図4 2020年中国都市空港利便性と都市各産業輻射力との相関関係分析

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

メガロポリスも内陸拠点都市も空港利便性が重要


 図5は「空港利便性」を地図化したものであり、ひとつの空港からすべての都市に対して計算を行った結果を、トップ10都市について可視化した。矢印の色、長さ、太さは利便性の大きさを示し、値が大きくなるほど矢印の色が赤く、太くなり、値が小さくなるほど色が青く、細くなるようグラフィック処理した。

 周牧之教授は、「中国の航空輸送は、京津冀(北京・天津・河北)、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスにかなり集中していると同時に、成都、重慶、昆明、西安など内陸の拠点都市の発展を支える最も重要な交通基盤となっている」と解説する。

図5 2020年中国都市空港利便性ランキングトップ10都市分析図

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

日本語版『【ランキング】中国で最も空港利便性が高い都市はどこか?〜2020年中国都市空港利便性ランキング』(チャイナネット・2022年10月27日掲載)

【ランキング】中国で最も経済規模の大きい都市はどこか? 〜2020年中国都市GDPランキング

雲河都市研究院

■ 世界経済のマイナス成長の中、中国は2.3%成長を実現


 新型コロナウイルスパンデミックは、世界経済に大きく影を落とした。世界経済の成長率は2018年の6.3%、2019年の1.6%から、2020年には-2.7%とマイナス成長に転じた。

 図1が示すように、2020年国・地域別GDPランキングトップ10は、アメリカ、中国、日本、ドイツ、イギリス、インド、フランス、イタリア、カナダ、韓国と続く。コロナショックで、トップ10の国々は軒並みマイナス成長に陥った。その中で唯一中国はプラス成長し、3.1 %の成長率を実現した。

 東京経済大学の周牧之教授は、「逆風の中、中国がプラス成長を維持できたのは、ゼロコロナ政策の成功とグローバルサプライチェーン型産業集積の強靭さ故である」と分析している。

図1 2020年国・地域別GDPランキング

出典:国連データベースより雲河都市研究院作成。

 図2が示すように、世界の経済規模は1990年から2020年までに、3.7倍に拡大した。この間、米国のGDPも3.5倍に拡大した。過去30年間、世界経済に占めるアメリカの割合は大きく変化していない。2020年は米国が24.5%の世界シェアを維持した。

 一方、中国は、2001年のWTO加盟を機に世界経済における存在感が急速に増してきた。2020年の中国GDP 規模は、1990年の37.3倍にまで達した。世界経済に占める中国のシェアも、1990年は1.7%に過ぎなかったが、2020年は17.3%にまで拡大した。

 長期にわたる中国の高度成長により、世界経済におけるアメリカと中国の二大巨頭態勢が確立した。米中両国を合わせた経済規模は、2020年の世界経済の41.7%にも達した。日本はGDPランキング世界3位であるものの、世界経済に占める割合はわずか5.9%に過ぎない。米中の経済規模は、3位の日本から24位のスウェーデンまでの22カ国・地域の経済規模の合計に匹敵するほどである。

図2 1990〜2020年世界GDP推移

出典:国連データベースより雲河都市研究院作成。

■ 一国経済規模に匹敵するまでに至った中国の都市力


 2020年中国都市GDPランキングにおいて、順に上海、北京、深圳、広州、重慶がトップ5を飾った。この5都市の経済規模は他都市を大きく引き離している。6位から10位の都市は、順に蘇州、成都、杭州、武漢、南京の5都市であった。

 中国では北京、上海、重慶、天津の四大直轄市が人口規模、面積そして中枢機能と産業集積などにおいて他都市と比較して格別である。しかし、グローバルサプライチェーンの展開をベースにした沿海部都市の発展は著しい。深圳、広州の経済規模はすでに重慶、天津を超え、北京、上海と並び、中国で「一線都市」と呼ばれるようになった。

 四つの「一線都市」の経済力は、どれほどなのか?2020年上海の経済規模は世界の国別GDPランキング24位のスウェーデンを超えた。北京は同25位のベルギーを、深圳は同31位のアルゼンチンを、広州は同33位のノルウェーを超えた。

 周牧之教授は、「いまや中国の都市は一国の経済力に匹敵するまで成長した」と語る。

■ 中心都市と製造業スーパーシティという二つの大きな存在


 中国では都市の逆転劇が激しく起こっている。中でも、一漁村から出発した深圳が、過去20年間でその経済規模を17倍へと膨れ上がらせ、GDPランキング3位を不動としたのに対し、直轄市の天津はトップ10から脱落したことが象徴的である。

 GDPランキングは中国全297地級市(地区級市、日本の都道府県に相当)以上の都市をカバーする。このなかでは四大直轄市、22省都、5自治区首府、5計画単列市からなる36「中心都市」の存在感が際立つ。GDPランキングトップ10には9中心都市、トップ30には19中心都市がランクインし、中心都市の優位性も明らかとなった。まさにこの36中心都市が改革開放以来の中国社会経済の発展を主導したことが見て取れる。

 GDPランキング30のもう一つ大きな存在は、製造業スーパーシティである。トップ30には蘇州、無錫、仏山、泉州、南通、東莞、煙台、常州、徐州、唐山、温州といった11の非中心都市がランクインした。とくに蘇州はトップ10の6位に食い込んだ。この11都市は、すべて沿海部に属する製造業スーパーシティである。

 周牧之教授は、「改革開放以降、中国の急速な工業化を牽引してきたこれらの製造業スーパーシティは、グローバルサプライチェーンのハブとなっている」と指摘している。

図3 2020年中国都市GDPランキングトップ30都市

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

■ 殆どのトップ30都市が経済成長を実現


 2020年、新型コロナウイルスパンデミックの中、世界の主要国がマイナス経済成長に陥ったにもかかわらず、中国はゼロ・コロナ政策により2.3%の経済成長を遂げた。

 2020年GDPランキングトップ30都市のうち、武漢だけが−4.7%成長であったが他の都市はすべてプラス成長を実現した。主要都市の強靭さが中国経済成長を支えた。

■ GDPランキングトップ30都市は中国経済の半分弱を稼ぐ


 GDPの集中度でみると、2020年のGDP規模は、トップ5都市が全国の15.0%、トップ10都市が全国の23.3%、トップ30都市が全国の43.0%を占めている。これは、中国297都市のうち、上位10%の都市に富の半分弱が集中していることを意味する。

図4 2020年中国都市におけるGDPの集中度

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

■ 三大メガロポリスの存在感は顕著


 2020年GDPランキングトップ30の地理的な分布には三つの特徴がある。

 ひとつは前述のように、四大直轄市、22省都、5自治区首府、5計画単列市からなる中心都市の優位が顕著である。

 二つ目は京津冀(北京・天津・河北)、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスに集中している。

 2020年GDPランキングトップ30には京津冀メガロポリスから2位の北京、11位の天津、28位の唐山がつけた。

 長江デルタメガロポリスから1位の上海、6位の蘇州、8位の杭州、10位の南京、12位の寧波、14位の無錫、20位の合肥、21位の南通、26位の常州、27位の徐州、30位の温州がランクインした。

 珠江デルタメガロポリスから3位の深圳、4位の広州、17位の仏山、24位の東莞がランクインした。

 三大メガロポリスから18都市がGDPランキングトップ30に入り、その存在感を誇示している。

 周牧之教授は、「これは、製造業スーパーシティが三大メガロポリスに集中することの結果である。特に長江デルタ、珠江デルタ両メガロポリスには世界最強のグローバルサプライチェーン型産業集積が展開している」と解説する。

■ 南強北弱構造が深刻に


 2020年GDPランキングトップ30の地理的分布の三つ目の特徴は、南強北弱構造が一層明らかになったことである。

 GDPランキングトップ10には北部の都市では首都北京しか残っていない。とくに重化学工業力を誇示していた東北3省の衰退ぶりは凄まじく、いまや大連だけがかろうじて29位に入り、瀋陽、長春、ハルビンといった省都はことごとくトップ30から脱落した。

 対照的に、南部とくにその沿海地域の躍進ぶりは華々しい。

 周牧之教授は、「深刻さを増す南強北弱構造が中国の国土発展バランスを悩ませる大きな課題となっている」と述べている。

図5 2020年中国都市GDPランキングトップ30都市分析図

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

【レポート】中国映画市場コロナショックから生還、世界第1位に 〜2020年中国都市映画館・劇場消費指数ランキング〜

周牧之 東京経済大学教授

編者ノート:世界映画市場は2020年、新型コロナウイルスパンデミックで大きな打撃を被った。しかし中国は同年、北米を抜いて世界最大の映画市場となった。『八佰』をはじめとする多くの中国映画が世界の映画興行ランキングで上位にランクインした。なぜこのようなどんでん返しが可能となったのか?中国で最も映画好きな都市は?中国で最も映画にカネを掛ける都市はどこか?東京経済大学の周牧之教授が詳細なデータを使い解説する。


1.  中国映画マーケットが世界第1位に


 新型コロナウイルスパンデミックで最も打撃を受けた分野の1つは映画興行であった。中国では、2020年の映画興行収入が前年比68.2%も急落した。だが幸いなことに、中国では新型コロナウイルスの蔓延を迅速に制圧したことで、映画市場は急速に回復した。

 一方、これまで世界最大の興行収入を誇ってきた北米(米国+カナダ)は、新型コロナウイルスの流行を効果的に抑えることができず、2020年には映画興行収入が前年比80.7%も急減した。

 その結果、世界で最も速く回復した中国の映画市場が、映画興行収入で世界トップに躍り出た。

 2021年の春節(旧正月)、昨年同期間のロックダウンに取って代わり、中国の映画興行収入は78.2億元(約1,329億円、1元=17円で計算)に達し、同期間の新記録を樹立した。また、世界の単一市場での1日当たり映画興行収入、週末映画興行収入などでも記録を塗り替えた。

 中国の映画市場は今、勢いよく回復している。

2.中国都市映画館・劇場消費指数2020年ランキング


 雲河都市研究院は、中国都市総合発展指標を元に、中国全国297都市を対象とした「中国都市映画館・劇場消費指数2020」を公表した。

 2020年、中国全国297都市のうち、「映画館・劇場消費指数」の上位10都市は、上海、北京、深圳、広州、成都、重慶、杭州、武漢、蘇州、西安となっている。これら10都市は、中国全土における映画興行収入の28.9%、映画鑑賞者数の32.1%、映画館・劇場数の21%を占めている。つまり、上位10都市で全国の映画興行収入と映画入場者数の3分の1近くを占めている。

 「映画館・劇場消費指数」の第11位から第30位の都市は、鄭州、南京、長沙、東莞、天津、仏山、寧波、合肥、無錫、瀋陽、昆明、青島、温州、南通、南昌、長春、石家荘、ハルビン、済南、南寧となっている。

 上位30都市は、映画興行収入の53.9%、映画鑑賞者数の51.3%、映画館・劇場数の39.3%を占めている。つまり、297都市の10分の1に過ぎない上位30都市が、映画興行収入と映画入場者数の半分を占めている。

 「中国都市映画館・劇場消費指数2020」からは、さらに次のような都市と映画の関係が見えてくる。

 中国で映画興行収入の最多都市:映画興行収入の上位10都市は、上海、北京、深圳、広州、成都、重慶、杭州、武漢、西安、蘇州である。

 中国で映画鑑賞者数の最多都市:映画鑑賞者数が多い上位10都市は、上海、北京、成都、広州、深圳、重慶、武漢、杭州、西安、蘇州である。

 中国で最も映画好きな都市:一人当たりの映画鑑賞回数が多い上位10都市は、深圳、珠海、海口、杭州、南京、長沙、武漢、広州、上海、西安である。

 中国で最も映画におカネを掛ける都市:一人当たりの映画興行収入の上位10都市は、深圳、北京、上海、杭州、珠海、広州、南京、海口、長沙、ラサである。

 特に注目すべきは、中国では新型コロナウイルスパンデミック下も、スクリーン数や映画館数が減るどころか増えていたことである。中国のスクリーン数は、2005年の2,668枚から2020年には75,581枚へと、28倍にもなった。

 2019年10月から2021年5月にかけて、全国297都市のうち、203都市で、映画館の数が増加した。その中で、映画館数が最も増えた上位10都市は、成都、蘇州、広州、武漢、鄭州、常州、保定、北京、杭州、石家荘となっている。逆に、映画館数が減った都市も38あり、減少数が多いのは四平、台州、九江の3都市であった。

 その結果、中国全土の映画館数はこの期間に826館も純増した。

3.新型コロナウイルスパンデミック下のOTT大躍進


 新型コロナウイルスパンデミックによるロックダウンで、2020年中国春節の映画市場は崩壊した。だが、この衝撃は、映画上映における“革命”を引き起こした。当初、春節に公開が予定されていたコメディ映画『囧媽(Lost in Russia)』は、突然の新型コロナショックを受け、春節の封切りが見送られた。ところが、中国のIT企業であるバイトダンス(TikTokの親会社)がいち早く同映画の上映権を6億3,000万元(約107億円)で購入し、劇場公開されるはずだった2020年1月25日(旧正月の初日)に傘下のアプリで無料配信を行った。

 映画としての『囧媽』は、劇場での興行収益は実現できなかったものの、バイトダンス傘下の「今日頭条(Toutiao)」、「抖音(Douyin:TikTokの中国国内版)」、「西瓜視頻(Xigua Video)」、「抖音火山版(DouyinHuoshan Version)」の4つのアプリで、3日間で延べ1億8千万人以上が視聴し、6億回以上の再生回数を達成した。結果として、バイトダンスは『囧媽』により自社傘下アプリに膨大なアクセスを得られた。

 映画やドラマの映像をインターネット上のプラットフォームで配信するモデルはOTT(Over The Top)と呼ばれる。代表的なOTTプラットフォームとして、海外では「Netflix」、「Amazon Prime」、「Disney+」、「Hulu」、「HBO Max」などが挙げられる。中国では「iQIYI(愛奇芸)」、「テンセントビデオ(騰訊視頻)」、「Youku(優酷))などがある。

 バイトダンスは、斬新な映画上映モデルを打ち立てた。製作費2億1,700万元(約36.9億円)の『囧媽』は、劇場公開をスキップし、OTTで直接配信された最初の大作となった。

 その後、ディズニーが2億ドル(約220億円)を投じて制作した超大作『ムーラン』も、劇場公開がないままOTTで直接配信されたことで、大きな話題を呼んだ。『ムーラン』は、2020年9月4日からディズニーのOTTプラットフォーム「Disney+」で配信され、2019年11月にオープンしたばかりの同プラットフォームに膨大なアクセス数をもたらした。

 2020年12月4日、ワーナー・ブラザースは、2021年に公開される全17作品を米国の映画館とOTTプラットフォーム「HBO Max」で同時配信することを発表した。これは映画ビジネスのゲームチェンジを決定付けた。

 2020年4月に公開予定だった『007/ノータイム・トゥー・ダイ』も2億5,000万ドル(約275億円)制作費のメガフィルムとして公開が待たれていた。新型コロナウイルス禍で劇場公開が幾度も延期される中、2021年5月26日、突如アマゾン・ドット・コムが、007シリーズを制作した映画会社MGM(メトロ・ゴールドウィン・メイヤー)を90億ドル(9800億円)

の巨額で買収すると発表した。アマゾンは傘下にOTTプラットフォーム「Amazon Prime」(会員数2億人以上)を持つだけに、『007/ノータイム・トゥー・ダイ』がいつどのように公開されるのか、話題を呼んでいる。

 コストのかかる超大作も、OTTと劇場の同時公開、あるいはOTTでの直接配信という時代に突入し、映画公開におけるOTT戦略は、興行成績を左右するだけでなく、映画製作会社の命運も左右する大きなファクターとなっている。

4.中国映画市場が国産映画を世界の興行ランキングの上位に押し上げる


 2020年は、中国映画の興行成績が非常に目を引く年であった。「Box Office Mojo」によると、2020年の世界興行ランキングで中国映画『八佰(The Eight Hundred)』が首位を獲得した。また、同ランキングのトップ10には、第4位にチャン・イーモウ監督の新作『我和我的家郷(My People, My Homeland)』、第8位に中国アニメ映画『姜子牙(Legend of Deification)』、第9位にヒューマンドラマ『送你一朶小紅花(A Little Red Flower)』の中国4作品がランクインした。また、歴史大作『金剛川(JingangChuan)』も第14位と好成績を収めた。中国映画市場の力強い回復により、多くの中国映画が世界の興行収入ランキングの上位にランクインした。

 2005年以来、中国における映画興行収入に占める国産映画の割合は50%から60%の間で推移していたが、2020年には一気に83.7%まで上昇した。

 この20年、中国の映画興行収入は急増している。2005年の20億5,000万元(約349億円)から2019年の642億7,000万元(約1兆926億円)まで、映画の興行収入はこの間に31倍となっている。新型コロナウイルスが効果的に抑制されたことで、中国の映画興行収入は2021年にはさらに上昇すると期待される。世界最大の興行市場の支えで、中国制作映画は輝かしい時代を迎えるだろう。

 この20年、中国の映画興行収入は急増している。2005年の20億5,000万元(約349億円)から2019年の642億7,000万元(約1兆926億円)まで、映画の興行収入はこの間に31倍となっている。新型コロナウイルスが効果的に抑制されたことで、中国の映画興行収入は2021年にはさらに上昇すると期待される。世界最大の興行市場の支えで、中国制作映画は輝かしい時代を迎えるだろう。


日本語版『中国映画市場コロナショックから生還、世界第1位に』(チャイナネット・2021年6月1日)

中国語版『重创与反弹,中国电影市场跃居全球第一』(中国網・2021年5月27日)等、掲載多数

英語版『Hit and recover amid COVID-19: China rises as world’s largest film market』(China.org.cn・2021年6月3日)(SCIO・2021年6月3日)