■ 編集ノート:吉澤保幸氏は、日本銀行勤務を経て、ぴあ社専務、ぴあ総合研究所社長を歴任し、日本のエンターテイメント業界を支えている。同時に場所文化フォーラムを立ち上げ、全国各地で新たな交流の場作りと、地域の経済活性化、交流促進、持続可能社会を柱に活動を拡げている。東京経済大学の周牧之教授の教室では2025年6月26日、吉澤氏を迎え、日本のエンターテインメントの現状と行方について伺った。
(※前回記事【対談】吉澤保幸 VS 周牧之(Ⅰ)はこちらから)

■ アジアのエンタメ集積地としての日本を発信
吉澤保幸:京都で始めたミュージックアワードを、音楽団体が集まってやっていて気づいたことがある。日本だけでなく今アジアで流れている楽曲からも選出をしたことで、日本でいま話題になっている曲が日本を越え世界に共有されていると判った。ボーカロイドの初音ミクやYOASOBI、韓国のKPOPも人気だ。アジアの中のエンタテイメント集積基地の一つとしての日本、という思いで日本の今後の産業を考えることが大事だ。その意味でもミュージックアワードジャパンはアジアにとっても重要だ。中国、台湾、韓国などアジアに広げていけるものとして捉え、継続的にやってほしい。
例えば、演劇の野田秀樹さんは、演劇企画制作会社のNODA MAPを設立され、昨年は、「正三角関係」をロンドンで上演し、大好評を博し、東宝も「千と千尋の神隠し」のロンドンロングラン公演を実施して、大喝采を浴びている。日本からもそういうコンテンツが出て来ている。日比谷音楽祭では音楽プロデューサーの亀田誠治さんが、NYのセントラルパークのサマーステージをまねて「フリーでボーダレスな音楽祭」の開催を目指して頑張っている。
ヨーロッパではイギリスのエジンバラフェスティバルがある。エジンバラを中心にイギリス全土で毎年7月〜9月あたりに各世代から様々な人が参加する。それと同じようなことが日本でできないか?東京、千葉、横浜でフェスティバルをやろうという話を今、文化庁とも話しながら考えている。
周牧之:ぴあ希肯というぴあの合弁会社が北京にある。この会社が北京国際流行音楽週間(Beijing International Pop Music Festival)を2015年から毎年主催している。いまや北京の一大名イベントになっている。集客力も物凄くある。谷村新司や岩井俊二、JO1など日本のアーティストも参加した。そこに更に日本のコンテンツをどんどん入れ込んだ方がいいと思う。
吉澤:いろいろなアーティストが中国に出ていけばいいと思う。日本発のコンテンツがどんどんこれからも大事になる。音楽が好きであれば、アメリカのポップスの登竜門にどんどん日本のアーティストが行く。言葉の壁は全くない。日本はアジアのエンターテイメントのハブになることが大事になる。
周:日本と比べると後発だった韓国音楽業界の世界進出は、大きな成功を収めている。K-POPを成功事例として、日本の音楽業界はもっと積極的に世界に出ていくべきだ。
吉澤:心の豊かさを広げ、エンターテインメントで人々の心の変容をもたらし、構造変容をもたらし、SDGsの目標を達成していく。日本は決してそういうことを無視しているわけではないと世界に発信していくことが必要だ。
オリンピックの森喜朗会長がおっしゃったことで、皆さんも多分そう感じると思うことがある。それは、エンターテインメントを人々が広く享受できるのは、究極の平和な状況だ、ということだ。今、ガザあるいはウクライナは戦争状況の中で、エンターテイメントを楽しめる状況にはない。やはり平和を作っていくためにエンターテイメントの力が必要だというメッセージもSDGsで発することができる。それこそが日本の外交で強いメッセージになる。そんなことを感じながらやっている。
周: 昔、私はイタリアのフィレンチェのフェスティバルで音楽を聴きながら、そこに集う様々な人種の人たちを見て、平和が如何にかけがえのないものであるかを深く実感した。

■ スタジアムやアリーナを地域創生の起爆剤に
吉澤:集客エンタメ産業で地域を盛り上げることに関連した取り組みで、ぴあは、コロナの真最中に、神奈川県横浜のみなとみらい地区に、ぴあアリーナMMという一万人キャパシティーの音楽ホールを作った。ゆずがこけら落としのコンサートをする予定だったが、コロナ禍で出来ず、最初1年ぐらいは閑古鳥が鳴いていた。その後、エンターテイメントがどんどん盛り上がってきた中で活況を呈してきた。横浜市と連携しながらミュージックシティ横浜を作るちょっとした場所になった。
地域にできた箱をどう生かすかのエリアマネジメントをうまくやることで、地域にさまざまな人を集め、つなぎ、経済的効果だけでなく、社会的な価値を作り、他の地域に展開できる。今、高知県高松に新しくできた香川アリーナを起点に、エリアマネジメント会社を作る働きかけ等をやっている。エリアマネジメントは、地域の価値の向上のために、さまざまな地域の関係者が連携し主体的に取り組むものだ。
1つのエリアマネージメントとコアになるアリーナがあり、そこで単にスポーツをやるだけではなく、アメリカのマジソンスクエアガーデンのように多機能型で、コンサートやさまざまなイベントができるような場にする。例えば代々木体育館や、今千葉でやろうとしているバレーボールのネーションリーグ会場などでもコンサートができるようにする。東京ドームは、野球だけでなく大型の海外アーティストがコンサートをやれる音楽スポーツ併設アリーナになっている。
周:すでにあるスポーツ施設という箱を活かすことは、集客エンタメ施設の不足を解消し、地域振興のコアにもなる。このアプローチはまさしく一石二鳥だ。2022年東京経済大学の学術フォーラムにパネラーとして吉澤さんが連れていらした日本政策投資銀行の桂田隆行さんがまさしくそうした活動の先駆者だった(【フォーラム】笹井裕子 VS 桂田隆行:集客エンタメ産業の高波及効果を活かした街づくりを 参照)。
吉澤:エリアマネージメントが地域にもたらす効果の一つは経済効果だ。こうしたイベントでどれほどの経済規模になるのか。簡単に言うと、フジロックや北海道大神宮祭など地域のフェスで、例えばチケットが一枚5000円で1万人来ると、結構な売り上げになる。チケットの売り上げが数十億であれば、その3倍から4倍の経済価値があるといわれている。30億がチケットの売り上げだとすると、だいたい百億近い経済効果を生む。そのため今、地方の自治体当局はそういうフェスを持って来たい。
今、北海道でも首都圏の近郊でもフェスがあることで街中に賑わいが生まれ、経済効果がある。地域に人が集まり人口が増える。地域外から人、モノ、カネ、テクノロジーが集積していく。
イベントを単に一回で終わらせず継続的に進めていくと、人、モノ、カネ、テクノロジーがさらに集積する。いろいろな人たちが集まってくるので、さまざまなソーシャルキャピタルが向上していく。特にスポーツ等は、学校などで人をつなげ育てる効果がある。ぴあアリーナは、横浜まで地下鉄が延伸しているので埼玉から1本でみなとみらいまで来られる。また意外に横浜であれば名古屋地区、大阪地区からも人が集まってくる。通常のところより5、6倍人が集まってくる。その賑わいをどう効率的かつ効果的に創出するか。これは、行政と地域の人たち、地域団体等が集まり仕掛けをつくっていくことで出来る。横浜でもウオーターフロントラインでの取り組みということで、横浜のまちづくりに「横浜アリーナ」と「Kアリーナ横浜」などの場が地域貢献をしていける。
周:スポーツを集客エンタメとしてアイデンティティのシンボルに育てられれば、地域や都市の繁栄に大きく貢献する。私が住んでいたボストンには、フェンウェイ・パークをホームスタジアムとするレッドソックスがある。ボストンっ子にとってまさしくアイデンティティシンボルだ。日本から松坂大輔投手がレッドソックスに来ていた時はボストンの日本人コミュニティが沸いたことをよく覚えている。
デトロイトには、NBA (ナショナルバスケットボールアソシエーション)のピストンズ 、MLB (メジャーリーグベースボール) のタイガース、NFL (ナショナルフットボールリーグ)のライオンズ、NHL (ナショナルホッケーリーグ) レッドウィングスといった市民から熱狂的な支持を受けるスポーツチームがある。2013年に財政破綻し元気を失ったデトロイトが、スタジアムで試合のある時だけは活気を取り戻していた。これを見て、私はデトロイトの復興にスポーツは無くてはならない存在だと感じた。
吉澤:その通りで、アリーナをどう使い倒すかが行政も地域の企業も大事なポイントだ。
周:スタジアムやアリーナを核としたエリアマネジメントは、まさしくこれからの地域創生の起爆剤となる。

■ 学生起業スタートアップ企業の先駆的存在
吉澤:会社は、上場企業であれば有価証券取引、企業経済活動を決算等々と合わせて開示する。これらと合わせて今義務付けられているのは、会社の企業活動がどうサステナビリティとつながった格好になっているかを、サステナビリティレポートとして有価証券報告書に書き込むことだ。ぴあらしい形で株主および外部の人に発信しようと先日の株主総会で発表したのが、この「ぴあサステナビリティレポート」だ。
ぴあは創業して53年になる。1972年に矢内廣が大学3年の時に創業したベンチャー企業だ。中央大学の映画好きの連中が集まって、立ち上げた。
周:ぴあは学生起業スタートアップ企業の先駆的存在だ。矢内廣さんはオーナーとしてそしてCEOとして半世紀以上にわたり企業の成長を引っ張ってこられた。
吉澤:ぴあでは、POC(ぴあオーナーシップカンファレンス)として、ぴあの社員全員に株主になってもらうことで社員株主総会のようなものを定期的に行っている。また、ぴあはエンターテイメントの会社なので、ぴあ社内で各種エンタメ部活動をコロナ禍明けに始め、助成をしている。今20ぐらいの部活動がある。
環境分野の取り組みや法令遵守のガバナンスにも、ぴあは様々取り組んでいる。通常のサステナビリティレポート、統合レポートは厚みのある本で、読む人は少ないようだが、ぴあでは皆さんに見てもらうため冊子にした。
周:出版物からスタートしたぴあらしい取り組みだ。
吉澤: 1998年にぴあアイデンティーとして「1人1人が生き生きとし、誰1人取り残さない」という言葉を17年前に掲げた。それはSDGsのキーワードそのものだろう。会社の存続に必要なのは、利益を求める経済性だけではない、社業を通じてこうありたい社会を作っているということとの両輪で進めるのが大事だ。携帯電話もインターネットもなかった時代、見たいものを見たい、聞きたいものを聞きたい、という人々の根源的な思いを形にしたのが情報誌ぴあだ。以来50年一貫してエンターテインメント領域で事業やサービスを生み出してきた。
エンターテイメントの作り手と受け手を作り、人々の生き生きとした暮らしと社会を支える「感動のライフライン」というぴあのビジョンを具体化したいのがぴあとしての思いだ。エンターテイメントを通じて一人一人に感動を届ける情報企業として重要なものがある。

■ 産業育成の根底には人材育成がある
吉澤:ぴあのもう一つ社会貢献は、人材文化の創造、育成、継承だ。文化の承継や時代性に沿った酸素を生み続けることが大切な使命だと思っている。情報誌ぴあ創刊後間もなくスタートした自主映画上映会ぴあフィルムフェスティバルは、48年を迎える。日本を代表する約200人の映画監督を輩出した。昨年はついに中学生が1時間半の映画を作り入選作品となった。どうやって作るのか聞いたら、スマホで作り編集も全部自分でやったそうだ。
コロナ禍ではまた、落語をやる寄席が壊滅的な状況になった。それを支えるためにぴあ落語三昧というサブスクサービスを始めた。落語が好きな方はぜひ試してほしい。若手バンドを応援するグラスホッパーというようなこともやっている。
人材育成が課題のスポーツ業界では、ぴあスポーツビジネスプログラムとして、同プログラムで学んだ人たちが各々のスポーツチームのフロントに入るようなことも始めている。
周:産業育成の根底には人材育成がある。ぴあフィルムフェスティバルは、日本の映画産業に大きな貢献をしている。東京経済大学の入試面接で聞くとスポーツビジネスを将来やりたいという学生が結構多い。ぴあの人材育成事業は彼らの夢をつなげるかもしれない。エンタメを地域活性化のコアにするためには今後エリアマネジメントの人材育成も不可欠となる。

■ インバウンドには本物のコンテンツ需要
周:これからインバウンドも大事になる。コロナ直前の2019年に中国と香港を合わせた来日インバウンド客は1000万人くらいだった。昨年もだいたいそれぐらいのレベルまで回復している。近いうちにチャイニーズのインバウンドだけでも3000万、5000万人のレベルまで回復すると私は思う。その時に、コンテンツの消費がもの凄く求められる。
吉澤:そういう意味でやはり日本のエンターテイメント、スポーツのコンテンツの質をどんどん上げていくことだ。
文化芸術の世界からやっていく。食文化も和食が世界遺産になり、日本酒も日本の本物をみんなで楽しめるよう、世界的に日本の本物を外の人にも語れるようにすることが大事だ。インバウンドの方がどんどん日本の地域に入り込み、日本人も気がついてないようなところまで覗きに行っている。みんなそれぞれの地域で、文化芸術をもう一回きちんと深掘りしてもらえればいいと思う。
周:日本のエンタメやカルチャーをもっと発信していくことが大切だ
吉澤:フィリピンやインドネシアなど、アジアの大学から日本のコンテンツを知りたいという話が来ている。日本のボップカルチャーにニーズがあるのかと思っていたら、意外にもうちょっとディープな歌舞伎など日本の古典文化芸能を知りたいという。ぴあは歌舞伎の本を以前出したことがあるが、もう一度それを出し直してアジアに伝えていくことも考えられる。我々にとっては、APECの連携も含め、インドチャイナとの寄せ方を一回どうやってやるかが一番大きな課題になっている。

■ 進化するエンタメの今後
周:コロナ禍で、エンタメは大打撃を受けた。しかしオンラインライブが一時期急激に伸びた。動画配信でONE OK ROCKのステージを見たが、ZOZOマリンスタジアムでのコンサートをオンラインライブするやり方が大成功した。
コロナパンデミックだった2020年、日本での有料オンラインライブ市場は448億円に急成長した。オンラインライブは非常に可能性があることを示したが、コロナ後は、縮小している。
オンラインライブは今後、大きな可能性があると思う。その将来性はリアルライブでは出来ない見せ方を如何に引っ張り出すのかにかかってくる。ライブの場合も、オンラインは今後面白い見せ方をしてリアル作品との相乗効果を作っていける。
もちろんオンラインライブとは逆の方向性として、よりリアルな対面接触型のエンタメビジネスも求められる。
吉澤:いまホスピタリティチケットというのがある。もう一歩上の体験ができる。スポーツホスピタリティは今度世界陸上でもやる。一日スポーツを楽しんでもらうものだ。サッカー、ラグビーといったスポーツの試合を単純に見るだけでなく、観戦の前後にみんなで集い、食事をし、試合が終わった選手と懇談し、写真を撮ったり話を聞いたりする。通常のチケットよりも高額になる同チケットを購入してもらうことで、通常の一般や学生のチケットの値段を抑えられる。あるいは身体の不自由な方々が気楽に観戦できるよう施設を整えることに繋げられる。
イベントでは新宿の新国立劇場でも、バックステージツアーをバレエ、オペラで始めた。オペラやバレエで、その日演じていただいたプリマに終わってから来ていただき、観客がそのプリマと当日の演目について語り合う。通常のチケットであれば1万5000円ぐらいのものが、12万円くらいになるが、そのようなサービスをやることによって、身体の不自由な方にも観覧していただける社会関係が出来る。エンターテイメントの価値をみんなに享受してもらえる。
周:中国奥地の貴州省榕江県というド田舎で、アマチュアサッカーリーグが話題を呼んでいる。村同士の対決をサッカー・スーパーリーグに例え、「村超(村のスーパーリーグ)」と名付けたイベントだ。SNSで全国に拡散したことで人気が沸騰し、多くの観光客を集めている。
昨春、私も現地まで見に行き、熱狂的な盛り上がりを目の当たりにした。SNSで中継するにわか解説者があちこちにいて、ドローンを飛ばしながら対戦を煽っていた。会場まで案内してくれた副県長が、全国から集まる観客の宿泊先、飲食、安全性の確保に必死だと言っていた。いま町中がホテルとレストランの建設で溢れかえっている。
中国でプロのサッカーリーグが人気を失う中、こういった村同士の対決が盛り上がっていることが、SNS時代の新しい方向性を示していると実感した。
プロフィール
吉澤 保幸(よしざわ やすゆき)
場所文化フォーラム名誉理事、ぴあ総研(株)代表取締役社長 1955年新潟県上越市生まれ、東京大学法学部卒。1978年日本銀行に入行、日本銀行証券課長など歴任。2001年ぴあ(株)入社、現在同社専務取締役。 場所文化フォーラム代表幹事、ローカルサミット事務総長などを歴任し、地域の活性化に尽力。 主な著書に『グローバル化の終わり、ローカルからのはじまり』(2012年、経済界) 等。
