【刊行によせて】大西隆:中国都市の姿を多角的に明らかに


大西 隆
豊橋技術科学大学学長、元日本学術会議会長、東京大学名誉教授


 

 中国が人口大国であることは日本人の誰もが認識しているだろう。しかし、一人っ子政策の効果もあって、2030年には中国の人口はピークを迎える。その前に、2020年代にはインドに国別人口世界第1位の座を明け渡すと国連は予測している。一方で、中国の都市人口の割合は、国連予測の終年である2050年まで上昇の一途をたどり、都市人口数のピークとなる2045年には10.5億人に達する。2015年から2045年の間に、総人口はほぼ横ばいであるものの、都市人口は2.7億人増加する。つまり、中国では、人口そのものは安定に向かいつつも、農村から都市への人口移動が中国の人々、社会、そして国土や環境に大きな影響を与え続けることになる。

 中国都市総合発展指標が注目されるのは、こうした都市化のうねりが何をもたらしているのかを、総計133の指標で多角的に明らかにしているからである。都市化=農村から都市への人口移動と先に述べたが、それは必ずしも妥当な表現とは言えない。なぜなら、都市であっても、上海市や北京市のように常住人口が戸籍人口を大幅に上回る人口流入都市がある一方で、常住人口が戸籍人口を下回る人口流出都市があるというように都市から都市への人口移動も起こっているからである。中国の都市は、都市化に伴う問題に直面するとともに、かつて筆者が日本の都市で指摘した逆都市化、すなわち都市人口の減少に伴う問題を抱える都市があるという複雑な様相を呈している。

 こうした状況の下では、都市を、誰にとってもより豊かで、住みやすく、持続的なものとするための都市政策は、1つのタイプに限定されるべきではない。さらなる都市化の過程にある都市における都市政策と、人口流出に伴う空洞化などに対処しなければならない都市におけるそれとは自ずから目的や内容が異なるからである。

 中国都市総合発展指標は、それぞれの都市の現状を、数字によって示すことを目的としている。そのことを通じて、都市が抱えている問題、解決するべき課題が浮かび上がってくる。すでに中国版が提供され、都市政策のあり方に関する種々の議論を起こしていると聞く。特に、環境、社会、経済という大きく3つに分けた分野で、多数の個別指標を、都市ごとに、可能な限り統一的に掲載しているので、都市の居住環境、社会状況から、経済的な発展に至るまで、各都市の位置を知り、比較しつつ考えることができるというエビデンスベースの都市政策立案に大きな貢献をなすと期待できる。

 日本と中国は、文字通り一衣帯水の関係にあり、相互に訪問する機会も多く、それぞれの都市を舞台にしたビジネス活動も今後さらに盛んになる。したがって、日本の企業や研究者にとっても、中国をより深く知ることは大きな関心事であろう。これまで、多くの日本人にとっては、中国を知るとはその長い歴史を知り、日本に与えてきた様々な影響を理解することが中心であったかもしれない。

 しかし、本指標は、こうした歴史的理解とは少し異なる切り口、すなわち現代の中国都市社会を客観的に把握する格好の手段を与えてくれる。特に、第2次大戦後の、いや改革開放以降の約40年間において、都市を中心に展開されてきた中国の急速な工業化・近代化が、どのような都市社会を形成してきたのかを理解することは、現代中国を理解するうえで不可欠である。可能な限り統一的にデータを収集、作成するという、種々の困難を伴う画期的な試みによって、本書はこのテーマに挑戦した。本書を通じて、日本人の中国理解がより深まることを期待したい。


プロフィール

大西 隆(おおにし たかし)

 1948年生まれ。1980年東京大学工学系研究科博士課程を修了(都市工学専攻)、工学博士。長岡技術科学大学助教授、アジア工科大学院助教授、MIT客員研究員、東京大学工学部助教授等を経て、1995 年から2013年3月まで東京大学大学院工学系研究科教授、その間同先端科学技術研究センター教授、2013年5月から東京大学名誉教授、2013年4月から2014年3月まで慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科特別招聘教授。また、2011年10月から2017年9月まで日本学術会議会長。2014年4月から豊橋技術科学大学学長、2015年から2年間、一般社団法人国立大学協会副会長、現同理事。2011年10月から2017年9月まで、内閣府総合科学技術・イノベーション会議議員。専門分野は、国土計画、都市計画。

 主な著作に、『逆都市化時代』(2004年、単著、学芸出版社)、『都市を構想する』(2004年、共編著、鹿島出版会)、『東日本大震災 復興への提言−持続可能な経済社会の構築』(2011年、共編著、東京大学出版会)、『東日本大震災—復興まちづくり最前線』(2013年、共編著、学芸出版社)、『日本経済 社会的共通資本と持続的発展』(2014年、共著、東京大学出版会)など。

(『環境・社会・経済 中国都市ランキング ー中国都市総合発展指標』に収録。肩書は当時

【刊行によせて】武内和彦:生態都市建設と都市総合発展指標


武内 和彦
東京大学国際高等研究所サステイナビリティ学連携研究機構機構長・特任教授、中央環境審議会会長、国際連合大学元上級副学長


 都市化が急激に進む中国においては、都市の低炭素化と持続可能な経済発展とをいかに両立させていくのかが大きな課題である。エネルギーの消費が急激に増加し、CO2の排出が世界最大規模になった中国では、居住環境の劣化、交通環境の悪化、水質の汚濁、大気の汚染等、さまざまな問題が生じている。また拡大する都市は生態系に悪影響を及ぼし、生物多様性の減少や、自然資本の劣化をもたらしている。

 中国をはじめ急激に成長するアジア都市では、地球環境問題への対応と地域の環境汚染改善を一体的に考える新しいスキームが求められる。私は、エネルギーの低炭素化(Energy)、水質・大気改善、適正廃棄物処理などの地域環境の改善(Environment)、都市と自然の共生(Ecosystem)を統合的に捉える3Eネクサスのアプローチによる生態都市の創造を提唱している。中国都市総合発展指標は、こうした3Eネクサスに示されるような、グローバルな視点とローカルな視点を融合させ、国際社会に対しても大きなインパクトをもつ統合的な都市指標である。

 3Eネクサスの考え方を踏まえると、都市の持続可能な発展のためには、三つの大きな社会のビジョンを目指し、それらを統合化させるアプローチをとることが重要である。

 一つ目は低炭素社会で、エネルギーの低炭素化と気候変動の緩和を進めるとともに、地域の水質・大気環境改善との同時達成を目指すものである。とくに成長するアジア都市では、依然としてエネルギー利用が拡大しており、再生可能エネルギーへの大転換やエネルギー効率の飛躍的な向上を図らない限り持続可能性は保証されない。

 二つ目は循環型社会で、天然資源と廃棄物量を最小化し、リデュース、リユース、リサイクルの原則で資源を循環的に利用することにより持続可能性を高めていこうとするものである。アジア都市では、都市内の資源循環を進めるとともに、建築物やインフラストラクチュアーの更新においても、資源の循環利用を進める必要がある。

 三つ目は自然共生社会で、人間と自然がお互いに相乗効果を生み出すことができるような社会をつくりあげていこうというものである。アジア都市の周辺部では、森林や農地などの良好な農村環境が維持される必要がある。都市は、そうした農村環境が提供する生態系サービスを享受する一方、農村に対してさまざまな支援を行っていくことで、両者のバランスが取れた豊かな自然共生社会をつくりあげていくことができる。

 その多くがデルタに位置するアジア巨大都市は、とりわけ気候変動による海面上昇、豪雨・洪水などの極端気象の多発などにより、深刻な被害を受ける可能性が高い。上記3つの社会像の統合による持続可能な社会を目指すことは、こうした被害を軽減するための気候変動適応策としても重要であると考えられる。そうした問題意識を行政や市民と共有し、着実に対策を講じ、その成果をモニタリングしていく必要がある。

 その際、非常に複雑な都市システムを俯瞰的・統合的に捉えることが、行政や市民の理解を促すうえで重要となる。都市を支える人工資本とともに、人的資本や自然資本にも注目し、各都市の現状を捉え、そのあるべき持続可能な将来像に導いていく必要がある。

 本書が扱う中国都市総合発展指標は、持続可能な開発の三側面である環境、社会、経済を大項目に据え、発展活力、生活品質、自然生態などの中小項目を置いて、中国の都市を評価するとともに、その発展の方向性を具体的に示すものである。

 中国都市総合発展指標のもう1つの大きな特徴は、表現力に富んだグラフィックを多用することで膨大な情報をわかりやすく提示していることである。このような指標の「見える化」により、中国都市化の現状や各都市の抱える問題と今後のあり方についての認識が高まり、持続可能な都市発展に貢献すると期待される。


プロフィール

武内 和彦(たけうち かずひこ)

 1951年生まれ。東京都立大学助手、東京大学農学部助教授、同アジア生物資源環境研究センター教授を経て、1997年より2012年まで同大学院農学生命科学研究科教授。2012年より同高等研究所サステイナビリティ学連携研究機構機構長・教授。2008年より国際連合大学副学長、2013年より同上級副学長、国際連合事務次長補を併任。日本学術会議副会長、中央環境審議会長、公益財団法人地球環境戦略研究機関理事長、国際学術誌 Sustainability Science(Springer Japan) 編集委員長などを兼任。

 主な著作に、『環境時代の構想』(2003年、東京大学出版会)、『ランドスケープエコロジー』(2006年、朝倉書店)、『地球持続学のすすめ』(2007年、岩波ジュニア新書)、『サステイナビリティ学4生態系と自然共生社会』(2010年、共編著、東京大学出版会)、『世界農業遺産 注目される日本の里地里山』(2013年、祥伝社新書)、『日本の自然環境政策 自然共生社会をつくる』(2014年、共編著、東京大学出版会)など。

(『環境・社会・経済 中国都市ランキング ー中国都市総合発展指標』に収録。肩書は当時

【刊行によせて】楊偉民:全く新しい視点で中国都市の発展状況を評価する

楊 偉民

全国人民政治協商会議常務委員、中国共産党中央財経領導小組弁公室元副主任


 中国国家発展改革委員会発展計画司と雲河都市研究院が共同研究制作した中国都市総合発展指標は、中国における都市の発展状況を全く新しい視点でまとめ上げた報告書であり、正に総合的で発展的な都市評価指標である。これまでのように経済発展の成果を見るだけでは、都市の発展を語るには十分ではない。その意味では社会、環境の指標が欠けていれば、たとえ経済面の指標が多数あったとしても、都市を総合的に評価できたとは言えない。

 都市の発展には、空間における均衡発展の理念と原則の確立が欠かせない。空間における均衡発展とは、都市という空間の中で、人口(社会)、経済、環境資源という三者間の均衡を実現することである。都市空間における均衡発展の理念と原則の確立は、人間と自然との調和のとれた都市化をはかるために重要な意義を持つ。

 現在、一部地域における生態環境の悪化は、当該都市の人口規模や生活水準を向上させるための経済開発が、当該地の環境資源のキャパシティを超え、都市空間における均衡が崩れたゆえである。経済発展のみを優先させるあまり、「発展権」に基づいた経済開発が横行し、生態環境の悪化をもたらしている。


 生態環境が一旦破壊されると、退耕還林(耕作を中止し耕地を元の林に戻す)、退牧還草(放牧をやめ、草地を元に戻す)、水土流失(土壌の流失)対策、風砂被害対策、砂漠化防止対策などの「生態環境対策事業」に膨大な資金を投じなければならない。また、渇水や環境悪化が人々の生活に影響を及ぼすたびに、遠隔地送水事業、汚染対策事業に奔走することになる。

 実際、中国の一部の都市では現在、「都市病」が蔓延している。都心部の過密化、住宅価格の高騰、著しい交通渋滞、充満するスモッグなどに苦しめられている。

 中国都市総合発展指標は、環境、社会、経済の3つの視野で都市の発展を評価し、都市空間における均衡発展を重視する真の意味での都市の総合発展評価である。このような都市発展評価は、まさしく科学的かつ包括的な評価であり、中国の都市の持続的な発展に大きく寄与する。


 これまでの30年間、中国では数億の人口が農村から都市に流入した。今後さらに数億の人口が都市に流入するであろう。これは今後中国が直面する最大の圧力である。その人口大移動によって最も影響を受けるのは生態環境である。その意味では中国のこれからの都市発展は、煌めく星空、美しい河川、朗らかな鳥の声を犠牲にする経済規模の拡大や道路の拡張、高層ビルの林立であってはならない。

 中国の都市は、生態文明の理念を堅持し、生態環境を重視する都市発展を進めなければならない。土地、水、エネルギー等の資源を節約し、自然へのダメージを最小限に抑えなければならない。生態安全を重視し、森林・湖沼・湿地などの環境生態空間の比重を増やし、さらには汚染物質の排出総量を減らすことも肝要である。

 中国都市総合発展指標は、応用可能な環境、社会、経済指標を体系的に示している。各都市は自らの指標を精査し、どの分野で滞りがあるかを見出し、改善に向けて努力すべきである。中国都市総合発展指標はただの評価指標ではなく、都市の今後進むべき道を指し示すものでもある。


(『環境・社会・経済 中国都市ランキング ー中国都市総合発展指標』に収録


プロフィール

楊 偉民 (Yang Weimin)

 1956年生まれ。中国国家発展改革委員会計画司司長、同委員会副秘書長、秘書長を歴任。中国のマクロ政策および中長期計画の制定に長年携わる。第9次〜第12次の各五カ年計画において綱要の編纂責任者。中国共産党第18回党大会、第18回3中全会、同4中全会、同5中全会の報告起草作業に参与した。同党中央第11次五カ年計画、第12次五カ年計画、第13次五カ年計画提案の起草に関わるなど、重要な改革案件に多数参画した。

 主な著書に、『中国未来三十年』(2011年、三聯書店(香港)、周牧之と共編)、『第三の三十年:再度大転型的中国』(2010年、人民出版社、周牧之と共編)、『中国可持続発展的産業政策研究』(2004年、中国市場出版社編著)、『計画体制改革的理論探索』(2003年、中国物価出版社編著)。

【専門家レビュー】杜平:何故いま〈中国都市総合発展指標〉か?

杜 平

中国国家信息センター元常務副主任、中国第13次5カ年計画専門家委員会秘書長、中国国家戦略性新興産業発展専門家諮詢委員会秘書長


1. 新型都市化における〈中国都市総合発展指標〉の意義

 中国で都市化といえば古い課題でもあり、また新しい課題でもある。古い課題についていうと、中国の都市化は始まってすでに40年経過した。この間、都市化率は17%から56%に増加し、流動人口は億単位を超え、中国は農業大国から工業大国への転換を果たした。
 新しい課題についていうと、「新型都市化」をどう進めていくかに尽きる。例えば、新型都市化と工業化、情報化、農業現代化を、どう効果的に協調発展させていくか。また、都市の発展を、工業化優先から、どうサービス業の発展、快適居住重視、環境配慮へと転換させていくのか。また、都市の計画、建設、管理において、どうスマート化、数字化していくか、などがある。こうした新しい課題は、中国都市化の新段階における挑戦である。
 長年にわたる中国都市化の実践において、各種の指標に関する研究成果は、都市化の政策策定や計画づくりに、様々な影響を及ぼした。特に今回が第3回目の発表となった中国都市総合発展指標2018は、国内外で好評を博している指標システムである。同指標は、中国の政策担当省庁、地方政府、学界および経済界に重要な参考と啓発を与え続けている。

2. これからの中国は都市化が鍵

 中国は膨大な人口を抱え、地域間格差も激しい。地域の協調発展における都市の役割は大きい。協調発展には、各国の経験と教訓を吸収し、中国の地域経済発展の道筋を探求しなければならない。
 中国はいま、都市化からもたらされるエネルギーを希求すると同時に、都市発展の効率とクオリティも求めている。そのためには、「都市と農村との連携発展」や、「郷村振興」などの政策を進めると同時に、都市発展、特に大都市圏の発展を強化していくべきである。
 総じて、中国のような人口と国土の規模が大きい国では、都市発展の水準は地域ないし国の発展を左右する。中国の経済社会が新たなステージに立ったいま、都市化がその運命の鍵を握っている。

3. 都市発展の計量的な評価で、ハイクオリティな発展を

 中国の中央および地方政府は長年、都市の発展のために、様々な戦略や、計画を策定し、実施してきた。もちろん、これらの戦略や計画は、一定の効果を上げた。しかし、中国の都市における発展の持続可能性や経済効率、そして市民の満足度において、多くの課題を残している。例えば、人口の集約よりは土地の開発を重視する「中国式都市発展」、行政エリアの合併や新区の乱立による安易な都市域の拡大、工業優先によってもたらされる生態環境破壊などだ。
 そうしたことに鑑み、中国の都市の発展を計量的に評価し、各都市の実情を把握し、これまでの都市化の課題を整理し、ハイクオリティな発展モデルへの転換を促す必要に迫られている。
 中国都市総合発展指標の開発者は、長年にわたり開発に真摯に取り組み、個人的な利益を省みず、中国都市の総合発展における評価システムを構築した。中国都市化において、この意義は大きい。同指標の今後の影響力の更なる拡大に期待したい。

4. 〈中国都市総合発展指標〉の四大特徴

 中国都市総合発展指標の独自の長所について私なりにまとめてみた。
 一つは、データの欠陥と歪みの問題を解決したことである。これまで中国での指標研究のほとんどは、統計データやアンケートデータにしか使えなかった。これらデータの設計、採集、集計から来るデータの欠陥と歪みは問題が大きかった。そのため、指標研究自体もなかなか良い成果を上げられなかった。
 相対して、中国都市総合発展指標の開発者は、指標データ源を統計データのみならず、インターネット・ビックデータ、衛星リモートセンシングデータへと創造的に広げた。さらに、システム的にバランス良くこれらのデータを指標化した。
 結果、同指標では、データ源の約30%は統計データ、約30%が衛星リモートセンシングデータ、約40%がインターネット・ビックデータとなっている。これによって、統計データで生じる歪みを是正することができた。さらに、これまで統計データではカバーしきれなかったエリアも数字化できるようになった。
 こうした努力によって、中国都市総合発展指標が都市を評価するために必要なデータは、質量ともに確保できた。
 二番目に、中国都市総合発展指標の「3×3×3構造」が挙げられる。中国春秋時代の思想家老子は、「一から二が生まれ、二から三が生まれ、三から万物が生まれる」という宇宙観を説いた。都市という複雑かつ巨大なシステムをはかる指標の「3×3×3構造」はこのような思想にもマッチしている。
 中国都市総合発展指標は、そのデザイン理念、指標間のロジック、システムにおいて、実に簡潔かつ合理的である。環境、社会、経済という3つの大項目を立て、9つの中項目、そして27の小項目を置き、785のデータで定量化した。
 よって、同指標は都市の変化を趨勢として捉えると同時に、細部までの変化も網羅する。これは都市の現状や課題を明らかにし、戦略や政策の策定を大いに助ける。
 三番目は、中国都市総合発展指標がこれまで中国にはなかった指標を開発し、都市発展の趨勢を促す手立てとなったことである。例えば、「DID人口」を用いて、都市発展の規模と質を見極めた。また、「輻射力」という概念を提起し、都市の外部への影響力を様々な分野から検証できた。さらに輻射力と都市機能との相関関係の分析により、各産業がそれぞれ求める都市の機能を明らかにした。
 四番目は、国際比較である。中国都市総合発展指標は中国だけでなく、海外の都市も評価可能となっている。よって、例えば、北京と東京両大都市圏の比較がリアルにできることで、中国の都市発展の目標が一層定まった。
 上述したように、中国都市総合発展指標は先見性と戦略性を持ち、ハイクオリティの発展を求める中国の都市にとって実用性の高い政策・計画ツールである。


プロフィール

杜 平 (Du Ping)

 1956年生まれ。1982年以来、中国国家発展和改革委員会(元国家計画委員会)地域協力計画局、地域総合計画司、国土地域司、国土開発和地区経済研究所、国務院西部開発弁公室総合組(局)に勤務。処長、所長、司長を経て、国家信息センター常務副主任。中国地理学会理事、中国地域経済学会常務理事、中国科学和科学技術政策学会副理事長、中国人力資源開発研究会副会長および中国科学院資源和地理研究所、浙江大学および中国政法大学客員教授を兼任。

(『環境・社会・経済 中国都市ランキング 2018―大都市圏発展戦略』に収録

【専門家レビュー】北野尚宏:日本と中国のSDGs達成に向けた取り組みと〈中国都市総合発展指標〉の意義


北野 尚宏
早稲田大学理工学術院教授、JICA研究所元所長、博士(都市地域計画)


 2019年9月にニューヨークの国連本部で持続可能な開発目標(SDGs)に関するサミットが開催された。SDGsは、2015年に「国連持続可能な開発サミット」で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の中核をなす目標であり、貧困、教育、都市、気候変動など、経済、社会、環境を統合する17のゴール(目標)から構成される。同サミットでは、首脳レベルでSDGs採択以降の4年間の取り組みがレビューされた結果、目標ごとの進捗に偏りや遅れがあり、取り組みを加速化する必要性が共有された。これを受けて、グテーレス国連事務総長は目標年である2030年までをSDGs達成に向けた「行動の10年」とすることを提唱した。

 SDGsの17の目標には、達成状況をモニタリングするために複数のターゲットと指標が設定されており、合わせると169ターゲットと232指標になる。特徴としては、日本、中国を含む国際社会共通の目標であること、「誰も置き去りにしない」という「人間の安全保障」を基底とする理念を掲げていること、イノベーションなどによる変革が重視されていること、政府、企業、地域コミュニティ、個人にいたるあらゆるレベルで共有できることが挙げられる。国連は、毎年SDGs進捗報告書を公表し、閣僚レベルのハイレベル政治フォーラム(HLPF)で進捗確認を行っている。そして、4年に一度、国連総会においてサミット形式の進捗確認が行われる。上述のサミットはその第1回に当たる。さらに2020年よりは、「行動の10年」を進めるための年次プラットフォームとして「SDGs行動フォーラム」が毎年開催されることになっている。

 日本は、2016年に全閣僚を構成員とする「SDGs推進本部」を設置し、世界のロールモデルになることを目指す「SDGs実施指針」を策定した。「SDGsアクションプラン」を毎年決定・公表し、2017年には自発的国別レビューをHLPFで発表している。SDGsは、2019年6月のG20 大阪サミットや、8月の横浜での第7回アフリカ開発会議(TICAD7)でも中心議題の1つとなった。企業や金融機関、経済団体自治体、教育機関、市民社会、メディアによる取り組みも盛んになり、社会におけるSDGsの認知度も高まりつつある。例えば関西地域では、2025年の大阪万博に向けて立ち上がった関西SDGsプラットフォームが活発に活動している。SDGsに関する多数の啓蒙書、専門書が出版され、17色のSDGsバッジをつけたビジネス・パーソンを見かけることも珍しくなくなった。

 2019年12月に改定された「SDGs実施指針」では、日本のSDGs進捗は、17の目標のうち教育(目標4)やイノベーション(目標9)の達成度は高いが,ジェンダー(目標5)などは低いとの評価も見られるとしている。そして、①ビジネスとイノベーション、②SDGs を原動力とした地方創生、③次世代・女性のエンパワーメントを三本柱とする日本の「SDGsモデル」を推進するために、進捗状況を把握、評価し施策に反映させる仕組みを構築するとともに、実施体制を強化することがうたわれている。ビジネスとイノベーションについては、サイバー空間とフィジカル空間を融合させたシステム構築により人間中心の社会を目指す「Society5.0」ビジョンとSDGsとの連動に力点が置かれている。SDGsを経営戦略に組み込む企業も増えてきている。2020年度からは、小学校の学習指導要領にSDGsが盛り込まれることになっており、子供たちのSDGsに対する認知度は飛躍的に高まることが期待される。

 中国は、2016年に公表された中国の国家中期計画である「第13次5カ年計画(2016〜20年)」の中で「2030アジェンダ」に積極的に取り組むことを明記した。同年7月のHLPFで発表した「2030アジェンダ国別実施計画」の概略にも、「2030アジェンダ」と「第13次5カ年計画」、地方政府の開発計画、さらに「一帯一路」構想とを連動させることが盛り込まれた。中国がホストした同年9月のG20 杭州サミットでは、「2030アジェンダに関するG20行動計画」が策定された。2017年と2019年には「2030アジェンダ実施進捗報告」を公表している。実施体制面では、2016年に外交部(外務省に相当)が事務局を務め43の政府部門から構成されるSDGs推進のための連絡・調整体制が整備された。2019年6月に約3年ぶりに第2回全体会合が開催され、今後のSDGs推進方針が議論された。同年9月の「SDGサミット2019」では、2020年に絶対貧困人口をゼロにし10年前倒しで目標を達成するとともに、開発途上国に対する南南協力を拡大することが表明された。さらに10月には中国国務院発展研究センター、国連などが持続可能な開発フォーラムを北京で開催し、今後の2030アジェンダ実施についての議論が行われた。中国の企業もSDGsを企業の社会的責任(CSR)活動に位置付けはじめている。

 国際協力を通じた海外における取り組みとしては、日本は、例えば国際協力機構(JICA)がSDGsポジション・ペーパーに基づき、民間企業などと連携しながら、各目標と関連付けた活動を全世界で展開している。資金調達面でも、環境・社会・ガバナンスの要素を重視するESG金融が世界的な潮流となる中で、社会課題対応を目的とする事業向けの債券であるソーシャル・ボンドを発行している。中国は、2015年「国連持続可能な開発サミット」のタイミングで、国際貢献策として「南南協力援助基金」、「国連平和発展基金」、国家レベルの国際開発シンクタンク「中国国際発展知識センター」および、留学生が中国の開発経験を学ぶ「北京大学 南南協力・発展学院」設立を表明した。それぞれは既に設立され、多くの国際機関とも連携しながら様々な活動を展開している。筆者は2018年12月に北京大学 南南協力・発展学院にて、アフリカはじめ各地域の開発途上国からの留学生を前に講義を行う機会を得た。

 都市地域計画の分野では、日本は地方創生推進の一環として、SDGs達成に向けた優れた取り組みを提案する自治体を、「SDGs未来都市」としてこれまでに60都市選定しており、2024年度までに210都市まで増やす目標を掲げている。中国は、「国家2030アジェンダ創新モデル区」を6カ所選定し、国連開発計画(UNDP)、国連工業開発機関(UNIDO)、アジア開発銀行(ADB)とも協力しながらSDGsを地域に根付かせる取り組みを行っている。地方レベルでは、2018年に第1回国連世界地理空間情報会議(UN-WGIC)をホストした浙江省の湖州市徳清県を対象に、資源自然部傘下の国家地図情報センターが国内の大学や国連などと連携して、地図情報を活用したSDGs指標の評価を行っている。

 SDGsは日本の多くの大学でも根付きつつある。例えば筆者の所属する早稲田大学の大学院アジア太平洋研究科は、教育、保健分野の目標達成に向けた国際的取り組みの一翼を担っている。理工学術院総合研究所は、新たに7つの重点領域(クラスター)ごとに研究所を開設し、クラスター間の横断的活動としてSDGsを基軸においた早稲田地球再生塾(WERS)を立ち上げた。筆者は、2019年11月に開催された早稲田地球再生塾第4回勉強会「誰も置き去りにしない防災、復興」のコーディネーターを務めた。2019年秋学期より、理工学術院修士課程レベルの英語科目「SDGs」を新たに開設した。一方中国では、例えば、清華大学公共管理学院が清華SDG研究院を立ち上げ、ジュネーブ大学とSDG共同修士課程を開設している。

 このように、日中両国は、国連やG20の場で、SDGsを政府、社会の双方が取り組むべき課題として共有しており、国内外で様々な活動を展開している。一方、SDGs推進における両国のアプローチは、清華大学が行った研究によれば、日本は政府・社会一体型、中国は政府主導型という違いがある。新型コロナウイルス後の両国にとっては、なかんずく、「誰も置き去りにしない」というSDGsの理念を社会へより一層浸透させることが共通の課題といえる。

 中国都市総合発展指標は、経済、社会および環境という3つの側面からなる三層の指標体系を構築し、中国の都市の発展の達成度を総合的、経年的に計測、評価するものである。同指標は、SDGsの構造といわば軌を一にしているといえる。経済協力開発機構(OECD)もプロジェクト「持続可能な開発目標(SDGs)への地域的アプローチ:誰も置き去りにしないための都市・地域の役割」を立ち上げ、2020年2月に都市・地域レベルのSDGs指標を公表した。今後、中国都市総合発展指標が、SDGsとの連動により、日本と中国にとどまらず、「誰も置き去りにしない」世界を目指すグローバル指標に進化していくことに大いに期待したい。


プロフィール

北野 尚宏 (きたの なおひろ)

 1959年生まれ。1983年早稲田大学理工学部卒業(81〜82年中国清華大学土木与環境工学系在籍)、97年コーネル大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。83年海外経済協力基金、同北京事務所駐在員、京都大学大学院経済学研究科助教授、国際協力銀行開発第2部部長、国際協力機構(JICA)東・中央アジア部部長、JICA研究所所長などを経て、2018年より早稲田大学理工学術院教授。JICA緒方貞子平和開発研究所客員研究員、京都大学大学院経済学研究科付属プロジェクトセンター・シニアリサーチフェロー、創価大学理工学部、東京大学公共政策大学院非常勤講師、グローバルビジネス学会常務理事。 研究分野は都市地域計画、開発協力、中国の対外援助。2012年モンゴル国ナイラムダルメダル(友好勲章)受章。

 近著に、「第2章 中国の対外援助のとらえ方」『中国の外交戦略と世界秩序 理念・政策・現地の視線』川島真等編、昭和堂、2019年等。

(『環境・社会・経済 中国都市ランキング 2018―大都市圏発展戦略』に収録

【専門家レビュー】横山禎徳:普遍性ある新たな指標体系


横山 禎徳
県立広島大学経営専門職大学院経営管理研究科研究科長、東京大学総長室アドバイザー、マッキンゼー元東京支社長


 中国の大都市、とりわけ北京市の大気汚染の状況は近年盛んに報道されている。市内の走行車数の制限など対症療法的、短期的施策は適宜実施され、それなりの効果を上げているようだが、最終的な解決にはならない。排気ガスを減少させるためであろうが、長期的にEVへの転換を強力に推し進める政府方針の発表が最近あったが、それが排気ガスの減少という真の成果を上げるには20~30年はかかるであろう。

 EV自体は排気ガスを出さないが、充電をしないといけない。電力需要は増大させるが、一方では電力供給のかなりの部分を占める石炭火力発電を減らしていかないといけない。しかしそれを代替する主要手段としての自然エネルギーは供給量が常に変動する課題を抱えている。需要側も変動するので、その間を絶え間なく微調整する必要がある。そのため蓄電装置が不可欠だが、それを含めて経済的に妥当な価格で提供できる電力供給システムを構築するには、物事の展開のスピードの速い中国でも今後20年はかかるに違いない。


 システムはある日突然完成するのではなく、その間、状況はちょっとずつ良くしていくものである。しかし、それは直線的な改善ではなく、いろいろ紆余曲折を経ていくことになるであろう。その間、政府も国民も短期的な諸問題の対策のための議論にかまけて長期的に目指す方向を見失わないようにする必要がある。それにはどうしたらいいだろうか。その一つの答えがグリーン都市環境指標を確立することである。

 その指標体系は為政者である政府も生活者である国民も共有でき、毎年、その指標に沿ったデータが公開されることによってその進捗状況を確認できるものであり、また、指標間のバランス、進捗状況など、都市間の比較が可能になり、健全な都市間競争の醸成と、各都市の置かれた歴史、風土、自然環境などの特質に応じた重点施策の立案のための情報源になるはずである。そのような発想と視点をもとに本書中国都市総合発展指標の指標体系の開発が行われた。

 都市環境を評価するための指標は数多く抽出することが可能であり、実際数多く存在し、使われているが、それをすべて取り入れるのではなく、全体のバランスや網羅性を失わないようにしながら、指標全体の数を可能な限り少なくすることを目指した。その結果、全体の指標の数を27個に集約した。それをただ羅列するのではなく、三層構造に組み立てた。すなわち、大項目指標3、中項目指標3、小項目指標3の3×3×3で27になる。一般の生活者が大項目指標の三つを記憶することは可能なはずだ。もっと関心のある人は3×3=9、すなわち、中項目指標の九つを記憶すればより一層この指標体系の理解が進むであろう。そして、専門家は27項目のすべてを記憶し、それぞれの改善を追求するという発想である。


 大項目指標は環境、社会、経済の三つから成り立っている。それぞれを三つに分けたのが中項目指標であり、それをまた三つに分け、一層具体的にしたのが小項目指標である。当然のことながら、統計を担当する部署はこれまでそのような視点からデータを取ってきたわけではないので、基本的な三層構造と方向を生かしながら、既存のデータのありようや収集可能性とつきあわせ、大・中・小の指標は修正された。

 基本的な思想として、経済活動の発展と都市生活者の生活基盤の質の向上をバランスさせる視点を重視している。生活者それぞれが自分の住んでいる都市がどのように経済を発展させ、雇用基盤を拡充しながら同時に生活環境を改善していくのだろうか、ということに積極的に関心を持つこと。これが都市行政の担当者にフィードバックされ、結果として都市環境の長期的な方向への持続力を維持することになるはずだ。

 そのためには指標は専門家だけのものではなく、生活者も容易に理解し、記憶でき、自分の住んでいる地域が将来どうなっていくのかに関心の持てるものにするよう留意した。生活者は大項目指標の示す将来展開に常に注目することで、細部は別として大枠の方向は理解できるであろう。より細かい中指標、小指標がどうなっているかについても年ごとの生活実感の変化を追うことで理解できるはずである。


 もう一つ留意した重要な視点を挙げると、都市はそれぞれ独立ではなく、都市間ネットワークが出来上がっていることだ。そのような都市間のお互いの関係は大昔からあった。すなわち、都市と都市は相互依存の関係にあったのである。たとえば、「シルクロード」という表現を聞くと、我々は中央アジアの広大な砂漠をラクダの隊商を組んで一本道をゆっくり進む姿を思い浮かべがちである。しかし実際は、商人たちはシルクロードの起点から終点まで歩んだのではない。沢山の交易都市がきめ細かい道路網というネットワークを組んでいて、そのような都市と都市をつなぐ形で行き来し、商品を売買し、あるいは受け渡していたのである。

 それが、近年の交通機関の発達によって、そのネットワークが一層強化され、メガロポリスと呼ばれるような連携と一体化が進んだのである。そのような文脈の中でそれぞれの都市を捉えることに着目している。それは都市間のインターリンケージ(相互連鎖)である。そのインターリンケージが国境を超えて展開する状況を、グローバリゼーションと我々は呼ぶのである。

 たとえば、都心に近い空港である虹橋、金浦、羽田の間をシャトルと呼んでいい頻度の航空便が提供される時代であり、それによって、上海、ソウル、東京の間のインターリンケージは増していく。このような現象のポジティブな展開を醸成することが都市の活力を増すのは間違いない。ちなみに、この三つの都市および周辺に住む人口は1億人を超えており、その多くは豊かな生活者であり、世界でも有数の経済活動の活発な地域である。


 このような都市のインターリンケージはすなわち、1)都市圏内の中核と周辺、2)都市圏と都市圏、3)都市圏と世界、の三つの様相に分けることができる。そして、今回の都市指標はこの三つのどれかに関係しているといえる。たとえば、「都市農村共生」、「文化施設」、「生活品質」は1)に、「イノベーション・起業」、「広域輻射力」、「ビジネス環境」は2)に、「開放度」、「人的交流」、「広域インフラ」は3)に関係が深いということができるだろう。


 それぞれの大都市の行政官はこのような三つの方向を睨みながら、都市環境を改善していくために重点施策を立案し実施していくことが期待される。そして、それは都市間の競争であると同時に相互にメリットのある連携を確認し、拡大していくことであり、それが世界の都市との連携まで広がっていくという実績を積んでいけば、中国都市総合発展指標は世界に対して普遍性のある新たな指標体系として、認知されていくことになるであろう。


(『環境・社会・経済 中国都市ランキング ー中国都市総合発展指標』に収録


プロフィール

横山 禎徳 (よこやま よしのり)

 1942年生まれ。東京大学工学部建築学科卒業、ハーバード大学デザイン大学院修了、マサチューセッツ工科大学経営大学院修了。前川國男建築設計事務所を経て、1975年マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社し、同社東京支社長を歴任。経済産業研究所上席研究員、産業再生機構非常勤監査役、福島第一原発事故国会調査委員等を歴任し、2017年より現職。

 主な著書に『アメリカと比べない日本』(ファーストプレス)、『「豊かなる衰退」と日本の戦略』(ダイヤモンド社)、『マッキンゼー 合従連衡戦略』(共著、東洋経済新報社)、『成長創出革命』(ダイヤモンド社)、『コーポレートアーキテクチャー』(共著、ダイヤモンド社)、『企業変身願望−Corporate Metamorphosis Design』(NTT出版)。その他、企業戦略、 組織デザイン、ファイナンス、戦略的提携、企業変革、社会システムデザインに関する小論文記事多数。

【専門家レビュー】周其仁:生態都市建設と都市総合発展指標

周 其仁

北京大学国家発展研究院教授、経済学博士


 過去20年間、中国の都市化は急速に進み、多くの人々が都市へ移住した。大規模なインフラ整備により、都市の物理的なスケールは拡大の一途を辿った。新中国建国以来長い間遅れていた都市化が、ついに加速しはじめた。

 都市が都市たる所以は、限られた空間に多様、複雑かつ豊富多彩な経済文化活動が存在することである。このように見ると、都市は密度で定義するべきである。

 しかし今まで中国の都市化は、建成区(政府が定める都市的エリア)面積拡張の速度が都市人口増加の速度より速かった。つまり「人口の都市化よりも土地の都市化の方が先んじた」のである。

 中国経済の規模は世界第2位であるが、1人当たりになると未だ低い水準に留まっている。同様に中国の都市も、面積は大きいものの、密度は小さい。

 一つの原因は、中国の「都市」は広域行政区である。都市の行政エリアには市街地も郊外もさらに広大な農村までも含まれている。その意味では中国の「都市」の概念は海外一般の「都市」概念と同じではない。ゆえに行政の主導のもとで、農村エリアを侵食し、スプロール化しやすい。

 「ローマは一日にして成らず」。都市エリアへの急激な拡張は、都市の環境、財政などにおける持続的な発展に大きな問題を突きつけているだけでなく、市民生活の向上や都市文化の育成が追いつかないことが多い。

 中国の都市化は転換点にある。単なる都市エリアの拡大というやり方は、もはや持続不可能である。中央政府も地方政府も中国都市化の次のステップがどこに向かうか真剣に考えなければならない。

 方向性は、中国経済発展にとって最も重要である。2014年3月16日、中国政府は「国家新型都市化計画(2014−2020年)」を発表した。この計画は中国都市化に、都市化法則の重視、人間本位、配置の最適化、生態文明、文化伝承などを明確に示した。

 戦略的な方向性が示された以上は、実行可能な「指揮棒」が必要である。都市間競争に明確な項目およびゴールを示せば、都市のリーダーらは、行動しやすくなる。こうした観点から、周牧之教授と彼のチームは、中国国家発展和改革委員会発展計画司のコミットメントのもとで、徹底的な調査、分析、比較を行い、中国都市総合発展指標として発表し、中国都市化の方向転換を導く科学的な指標システムを提供した。この指標はまさしく新型都市化を推し進める「指揮棒」である。

 特に私は、「密度」を用いて中国の都市問題をとらえる同指標の斬新な知見に賛同している。

 これまでの都市問題の政策議論では、いつも「大都市を発展させるか? 或いは中小都市を発展させるか?」の問題に翻弄されていた。中国都市総合発展指標は、大、中、小といったスケールで都市をとらえるだけではなく、その密度も問題にしている。

 現在、中国の都市には多くの低密度都市空間が存在し、深刻なスプロール化が起こっている。したがって、大、中、小いずれの都市であっても、都市づくりにおいて「密度」を軸にすえていかなければならない。


プロフィール

周 其仁(Zhou Qiren)

 1950年生まれ。中国社会科学院、中国国務院農村発展中心発展研究所での勤務を経て、英国及び米国へ留学し、UCLAにて博士学位取得、1995年帰国。北京大学中国経済研究中心教授、同中心主任、北京大学国家発展研究院院長、中国人民銀行貨幣政策委員会委員など歴任。

 主な著作に、『发展的主题:中国国民经济结构的变革』(1987年、四川人民出版社〔中国〕)、『农村变革中国发展1978−1989 戒(1994年餓関奇丸雁汽閑橘忌大学出版社械香港海)餓懐中国区域发展差调查1978−1989戒(1994年餓関奇丸雁汽閑橘忌大学出版社械香港海)餓懐数网竞争:中国电信业的开放和革戒(2001年餓三聯書店械中国海)餓懐产权制度变迁戒(2004年餓北京大学出版社械中国海)餓懐挑灯看剑:观察经济大时代戒(2006年餓北京大学出版社械中国海)餓懐真实世界的经济学戒(2006年餓北京大学出版社械中国海)餓懐收入是一连串事件戒(2006年餓北京大学出版社械中国海)餓懐世事胜棋局戒(2007年餓北京大学出版社械中国海)餓懐病有所医当问谁:医맣溝列评论戒(2008年餓北京大学出版社械中国海)餓懐中国做对了什么戒(2010年餓北京大学出版社械中国海)餓懐货币的教训戒(2012年餓北京大学出版社械中国海)餓懐竞争宅런荣戒(2013年餓中信出版社械中国海)餓懐革的逻辑戒(2013年餓中信出版社械中国海)餓懐城乡中国戒(上)(2013年餓中信出版社械中国海)餓懐城乡中国戒(下)(2014年餓中信出版社械中国海)駕。

(『環境・社会・経済 中国都市ランキング ー中国都市総合発展指標』に収録。肩書は当時

【専門家レビュー】張仲梁:フラットではない中国をリアルに

張 仲梁

中国国家統計局社会科学技術文化産業司司長


(一)
 2005年に海外から北京に戻った周牧之教授が、私に『The World is Flat』という本をくれた。
 周教授はこの本はアメリカで評判を呼んでおり、「世界は平らになった」という観点が非常に面白いと言う。個人は国家や会社に代わって世界の主人公たりうるようになってきた。能力と想像力さえあれば、世界中のすべての資源にアクセスすることができる。世界は小さくなった。科学技術と通信の領域は電光石火で進歩を遂げ、全世界の人々がかつてないほど相互に接近している。
 次いで、話題を呼んだアメリカの映画があった。一人のアメリカ人がインドへ行き、自分の仕事を将来的に奪うだろうインド人を訓練する葛藤を描いた映画の、その背景はグローバリゼーションである。ますます多くのアメリカ企業が業務を海外へ移転し、インドや中国の安価な労働力を利用した。世界はまさに平らになり、アメリカの高度はゆっくりと下り、インドや中国が高速でのし上がった。
 この映画の名前も「The World is flat」だ。

(二)
 その後10年が過ぎた。
 世界の構造は大きく変化した。
 なかでも中国の勃興は最も目を見張るものであった。
 中国のGDPは2006年の2.75兆ドルから2016年に11.2兆ドルへと増長し、その経済規模も世界第2位へと躍進して久しい。
 近年、ニューヨーク、パリ、東京の観光スポットやブランドショップで、最も頻繁に目にするのが中国人観光客の一群である。2015年に中国人の海外旅行客は1.35億人にのぼり世界第1位となった。

(三)
 10年前、BRICs4カ国は、投資家を大いに興奮させた。しかし現在、ブラジルとロシアは経済停滞の中で喘ぎ、新興国の栄光も色あせた。
 過去10年間で、一つまた一つと「失敗」国家が現れた。これらの国は経済停滞に見舞われただけでなく、社会不穏にも悩まされている。
 アメリカのメディアによる「最も失敗した30カ国」リストがある。これを見た後の感想はといえば、「確かにこの30カ国は失敗した。しかしもっと失敗した国がこれ以外にまだある」。
 実際、過去10年間で、中国など数少ない国がグローバリゼーションの中で大きな収益を上げることができた。一方で相当数の国が大変な代償を払った。世界は平らになったのではなく、凸凹はむしろさらに進んだ。

(四)
 周教授は「過去の10年間、日本では東京大都市圏だけが166.4万人も人口が増えた。これに対して他の数都市は微増で、ほとんどの都市が人口減少状態にある」と紹介した。
 「過去の10年で人類の経済活動はさらに大都市に集中した。こうした大都市は世界で最も優秀な人材、経済資源、最有力企業を集められる」と、周教授は強調した。

(五)
 周教授は、中国の凸凹も進んだと述べている。
 周教授と彼のチームが作り上げた中国都市総合発展指標はこれをリアルに表現している。
 同〈指標〉では、偏差値を用いて都市の各方面のパフォーマンスを表現している。
 たとえば「医療輻射力」項目では、偏差値が60以上の都市は、22都市であり、なかでも北京、上海の偏差値は100にも達している。これに対して、偏差値が45以下の都市は27都市もある。これは激しい凸凹である。
 「人口流動」項目では、偏差値60以上の都市、つまり外部から人口が大量に流入した都市は16都市ある。なかでも3都市が偏差値100に達している。これに対して偏差値が45以下の都市、すなわち人口が大量に流出した都市は46都市もある。これもまた不均衡である。
 同指標を立体的に表現するグラフは数多くある。こうした立体図の中には、目を見張るような山峰があり、一方で深く沈む峡谷もあった。しかも山峰はさらに輝きを増し、峡谷は谷底深く落ち込み続けているのだ。こうした状況は決して軽視できない。

(六)
 周教授は、不動産市場は中国都市の凸凹状況をよく映し出していると言う。
 10年前、ほとんどの都市の不動産価格は上がり続けた。もちろん価格上昇幅は、一部の都市は大きく、一部の都市は小さかった。しかし現在、一部の都市の不動産価格が上がり続けるのに対して、一部の都市は停滞もしくは下落している。
 不動産価格の上昇と下落は、都市の浮き沈みを表している。その背景には、さまざまなパフォーマンスの違いがある。都市競争時代にあって、ある都市は邁進し、ある都市は停滞し、ある都市は転落している。

(七)
 『The World is Flat』で、著者フリードマンは幼い頃に両親が常々彼に言っていた言葉を振り返っている。「トーマス、ご飯は残さず食べなさい。忘れないでね、中国人はいま飢えに喘いでいるのよ」。
 中国都市総合発展指標は、この言葉と同様なことを語っている。
 現在はフラットの時代ではなく、凸凹時代である。

(八)
 凸凹道には、道標が必要である。
 周牧之教授の中国都市総合発展指標は、斬新な道標を指し示してくれている。


(『環境・社会・経済 中国都市ランキング ー中国都市総合発展指標』に収録


プロフィール

張 仲梁(Zhang Zhongliang)

 1962年生まれ。中国管理科学研究中心副研究員、日本科学技術政策研究所研究員、CAST経済評価中心執行主任、中国経済景気観測中心主任、中国国家統計局統計教育中心主任、中国国家統計局財務司司長を歴任、2018年から中国国家統計局社会科学技術文化産業司司長。
 中華全国青年連合会委員、PECC金融市場発展中国委員会秘書長、中国経済景気月報雑誌社社長、中国国情国力雑誌社社長など兼務を経て、現在、中国市場信息調査業協会副会長を兼任。

【コラム】邱暁華:高度成長からハイクオリティ発展へシフトする中国経済


邱 暁華
マカオ都市大学経済研究所所長、中国国家統計局元局長、経済学博士


 改革開放以降、中国経済の持続的な高度成長によるキャッチアップぶりは世界中から注目を集めてきた。経済規模はイタリア、カナダ、フランス、イギリス、ドイツ、日本を相次いで超え、2010年にアメリカに次ぐ第2位となった。しかしここにきて中国経済をとりまく環境は大きく変化し、これまで高度成長を支えてきたものが、制約要因となって、中国経済の成長は鈍化している。中国経済はいま、ハイクオリティの発展へとギアチェンジする時期に来ている。

1. ハイクオリティ発展へとシフトする意義

 中国共産党第19回党大会が、「我が国経済はすでに高度成長の段階からハイクオリティ発展段階へとシフトしている。いままさに発展モデルをチェンジし、経済構造を高度化し、成長原動力を転換する大事な時期に来ている。現代化経済体系の建設は、この転換ポイントを乗り越える切実な要求であり、我が国発展の戦略目標である」 と提起した。この判断は、転換期にある中国経済にとっては重要な意味をもつ。

 改革開放40年、長きにわたる高度成長は人々の生活水準を大幅に向上させた。世界銀行の統計によると、中国の1人当たりGDPは1978年の僅か156米ドルから、2017年には8,826米ドルへと膨らんだ。

 しかし、粗放型の高度成長は、エネルギー浪費、汚染蔓延、格差拡大などの問題をもたらした。さらに、この間、労働力、環境資源、土地、資金、為替レートなどの要素コストも大幅に増大した。

 その意味では、借金漬けの成長、低コスト労働力への依存、資源とエネルギー消耗などの従来型成長は、すでに持続不可能となっている。

 中国経済を高度成長からハイクオリティ発展へシフトさせていくことが、重大な政策転換である。この転換は、中国経済の持続発展の要請によるものであり、今後長期にわたる発展戦略である。

2. 中国経済ハイクオリティ発展に関わる5つの要因

 ハイクオリティな発展には、まず考え方を変えなければならない。数量優先からクオリティ第一また効率優先へと考えを改め、産業構造の高度化、環境保護、社会の発展などを重視しなければならない。発展モデルも粗放型から集約型へ、要素投入型からイノベーション駆動型へと、外需主導から内需主導へ転換することである。そのために現在、中国経済のハイクオリティ発展に関わる以下5つの要因を見直すことが必要である。

 第一は人的資本である。中国の人口年齢構成の変化を見ると、高度成長を支えてきた人口ボーナスはなくなりつつある。中国国家統計局のデータによると、2012年〜2018年、中国の労働年齢人口とそれが総人口に占める比重はともに下がり続けた。結果、この7年間で、労働年齢人口は約2,600万人減少した。この現実を直視する必要がある。

 第二はイノベーションである。これまでの経済成長は、資源投入を中心とする粗放的なものであり、今後イノベーションを中心とするものにシフトしていかなければならない。

 第三は制度改革である。これまでの高度成長の中で、制度疲労も起こっている。制度改革が中国のさらなる発展にとって喫緊の課題となっている。

 第四は、対外開放である。対外開放はこれまで中国の発展に大きな役割を果たしてきた。今後も一層の開放が求められる。

 第五は、環境問題である。粗放型成長が凄まじいエネルギー消費と汚染とをもたらしている。大気汚染、水質汚染、土壌汚染などが極めて深刻である。こうした成長方式を根底から改めるべきである。

3. いかにしてハイクオリティ発展への移行を実現できるか

 高度成長からハイクオリティ発展への移行は、マクロ政策、地域政策、制度改革などにおいて、多大な努力を必要とする。具体的には、以下の7つが重点となる。

 第一は、マクロ経済環境の平穏さを保つこと。経済発展にとって最重要なことは経済環境の平穏さである。大きな起伏を避けることが前提条件となる。クオリティ優先は成長をやめてしまうことを意味しない。合理的な成長スピードが必要である。経済運営においては、安定した経済成長を保つことが肝要となる。

 第二は、人的資本の向上である。国連のデータによると2016年に中国の中等教育および大学教育への進学率は、それぞれ77%、48%であった。これは、世界の平均水準より高いものの、先進諸国と比べるとなお大きなギャップがある。例えば同年、アメリカの中等教育および大学進学率は、それぞれ95%、86%に達した。2012年以降、中国のGDPに占める財政性教育経費の比率は連続して4%を超えていた。ただし、アメリカの同7%と比較すると差は大きい。今後、教育への投入を強化し、あらゆるレベルの教育水準を向上させていかなければならない。

 第三は、イノベーション駆動成長である。イノベーションは、発展を牽引する第一原動力である。中国の人口ボーナスが下がり続ける中、イノベーションによる生産性の向上や資源環境問題の改善などが期待される。そのためには、基礎研究を重視すると同時に応用研究にも取り組み、人材育成にもっと力を入れなければならない。

 第四は、環境保護である。中国では2007年に、1万元当たりのエネルギー消費量は、0.6トン標準石炭になった。これは、改革開放初期と比べ77.2%も下がった。ただし、いま中国は世界最大の二酸化炭素排出国であり、単位GDP当たりの二酸化炭素排出量は日本の5倍、アメリカの3.3倍にも上る。そのため、環境重視の発展モデルと生活様式への転換を急がなければならない。

 第五は、地域の協調発展と郷村振興である。ともに豊かになることが社会主義の本質である。そのために、農村の土地制度改革、農業の現代化などを通じた農村振興を図るべきである。また、地域格差を是正するための努力も欠かせない。

 第六は、制度改革を加速することである。国有企業の改革、知財保護の強化、市場参入の緩和など時代に要請される制度改革を加速しなければならない。

 第七は、対外開放である。国際環境の要請に応じて、輸入を拡大し、貿易均衡を促し、輸出製品の高付加価値を図り、サービス貿易を育成することなどを通じて、さらなる対外開放を推し進めていくことが重要である。


プロフィール

邱 暁華(Qiu Xiaohua)

 1958年生まれ。アモイ大学卒業後、国家統計局で処長、司長、局長を歴任。その間、安徽省省長補佐、全国政治協商会議委員、全国青年連合会副主席、貨幣政策委員会委員などを務めた。現在、マカオ都市大学経済研究所所長。経済学博士。

 主な著書に、『中国的道路:我眼中的中国経済』(2000年、首都経済貿易大学出版社)、『中国経済新思考』(2008年、中国財政経済出版社)。

(『環境・社会・経済 中国都市ランキング 2018―大都市圏発展戦略』に収録

【コラム】岳修虎:中国都市化の変化と不変

岳 修虎

中国国家発展和改革委員会価格司司長


 改革開放40年、中国の都市化においては、都市化の本来の法則に沿った動きと、中国に特徴的な動きの双方がある。これからは、中国の特色よりは、都市化本来のメカニズムがより強く働いていくであろう。

1. 中国経済発展の相当部分は都市化から

 都市化は、経済社会発展における役割が極めて大きい。改革開放以来、経済発展の相当部分は、都市化の進展によるものである。例えば、農村労働力の移動がもたらした労働生産性の向上しかり、都市部における人口規模と密度との大幅な上昇による分業の細分化しかりで、これらが強大な成長力を産み出した。

 農村から都市へ移動した数億人口による生産方式の変化が、家庭および個人の生活方式を変え、考え方に影響を与え、さらに社会構造まで大きく変化させた。

 都市化は、都市と農村を二元化させた戸籍制度を弱めた。市場の力による労働力の流動が、都市と農村の関係を再定義した。

 中国の都市化は計画経済から市場経済体制への移行プロセスと並行して行われてきた。ゆえに、移行プロセスの各フェーズでの発展理念、戦略そして政策が、都市化に鮮明な歴史的軌跡を残した。

 先進諸国の経験からすると、中国の都市化率はまだ大きな上昇空間がある。多くの農村人口を抱えながら耕作地に伸び悩む中国では、農業技術の進歩が、農村人口の都市への移動をさらに後押しする。

 とはいえ、都市化水準は都市化率という指標に限らず、都市の発展のクオリティや都市住民の生活のクオリティを問うべきである。

2. アンチ都市化からメガロポリス推進へ政策大転換

  「都市の勝利」の根本的な要因は、過去においても将来においても、人口集積による規模の経済性にある。14億人口大国の都市化がもたらす国土空間構造の変化については、大きな想像力を必要とする。中国の都市にせよ、メガロポリスにせよ、その発育は、まだ「少年」段階である。

 戸籍制度、土地制度、社会保障制度の絶え間ない改革により、人、モノ、カネが、全国でより自由に流動することで、都市化はさらに巨大な威力となる。メガロポリスは珠江デルタ、長江デルタ、京津冀などの地域で成長し続け、中心都市、大都市、中小都市と郷村が共同で、複雑かつ巨大な都市システムを構成する。ますます多くの人口、産業とイノベーションが集積し、いくつもの「世界都市」を誕生させるだろう。便利になった交通と通信が、中心都市の圧力を一定程度弱めるものの、これは都市の吸引力を削減するものではない。却って中心都市の輻射力とその輻射半径はさらに拡大し、周辺の都市と融合した有機体へと成長するだろう。

 中国の政策は、小城鎮重視、大都市抑制の時代から、「メガロポリスを都市化の主要形態とする」時代へと移った。メガロポリスも政策的な定義から実態を持ったものになりつつある。都市化に関わる中国の政策のドラスティックな変化により、中国はアンチ都市化政策を改め、都市化の法則に従い、メガロポリス政策へと大転換した。

 メガロポリス時代のチャンスとチャレンジに向き合い、膨大な人口の生産、生活への要求を満足させ、安全かつ効率の良い文明的な社会を構築させるには、従来の制度と思考を超えた政策能力が必要となる。ゆえに今後、経済、社会、空間におけるマネジメント力をいかに向上させるかが、メガロポリスそして都市化の未来を左右する。

3. 人間本位の理念が都市間競争の鍵

 都市化の目的は、より大勢の人々に現代的生活を享受させることである。現在、中国で繰り広げられている都市間競争は、結局、“人”の競争である。

 ますます多くの都市が、人口戸籍制限を緩和し、若者を積極的に引き寄せる方向へと移行している。

 都市の意義は市民に良質な生産生活環境を提供することにある。そのために都市の計画、建設、管理に携わる者が人間本位の理念を抱き、大きな都市空間の構築にしろ、小さな生活エリアの再構築にしろ、すべて市民生活の利便性と人の幸福を前提とすべきである。

 これまでの長期にわたる経済成長への偏執が、多くの都市に、急進的な工業化による後遺症をもたらした。な計画や乱開発、生態環境の破壊や、生活環境の不備等々である。

 これに対して、従来の成長志向の考え方を改め、市民のニーズを満足させるために都市改造を行うべきである。

 都市が追い求めるのは、ネオンがきらめくことではなく、高層ビルが林立することでもなく、道路が広がることでもない。これらはすべて手段であり、真の目的は市民の幸せと心地よさである。これからの都市改造は、都市を、より便利かつ清潔で、緑が生い繁り、穏やかであるよう目指すべきである。

 ますます激化する都市間競争の中で、どのような人材を引き寄せるかが、都市の未来を決定づける。とりわけ、都市が求める価値理念、市民ニーズへの感知能力、制度を刷新する能力などをもつ人材を有するか否かにおける差異が、都市間競争の成敗を左右する

4.  「場所」の繁栄より、「人間」の開発を

 都市化の使命は変化している。これは工業化を軸にした経済成長を推し進めることから、社会構造、経済構造、国土空間構造における現代化へと向上していくことにほかならない。これまでの経済重視の都市化から、人間重視の都市化へとシフトしていくべきである。都市のあり方も、これまでの生産型都市から生活型都市へ、また、製造型の都市から創造型の都市へと変化させていかなければならない。

 都市間競争が都市間における格差を拡大させ、一部の都市は「衰退」に陥るだろう。ただし、これをネガティヴに捉えず、「場所」の繁栄にこだわるよりは、むしろ「人間」の開発と幸福に重きを置いていくことが必要である。

結びに

 都市間競争の中では、すべての都市は人々による“移動による”という試練を受ける。さらに多くの人々がメガシティやメガロポリスに集まっていくであろう。この趨勢を止めることはできない。このような動きは中国の国土空間のあり方を大きく変えることになる。

 問題は、いかにしてメガシティやメガロポリスにおけるマネジメント能力を高め、良質な都市空間と都市社会を構築するか、である。

 今後、中国の経済構造、社会構造、空間構造が大きく変わっていくであろう。これに対して都市化や、都市発展の目的は、人間本位であり続けるべきである。

 これが、中国都市化における変化と不変であってほしい。


プロフィール

岳 修虎(Yue Xiuhu)

 1973年生まれ。1997年中国人民大学卒業後、中国国家発展改革委員会発展計画司に入局。長期にわたり国家発展戦略の策定と中長期計画の編成に携わる。「第10次五カ年計画綱要」、「第11次五カ年計画綱要」、「第12次五カ年計画綱要」および、「全国主体効能区計画」、「国家新型都市化計画」などの研究編成に参加。2001-2002年に米国マサチューセッツ工科大学(MIT)客員研究員。中国国家発展改革委員会副処長、処長、副司長を経て2018年から現職。

(『環境・社会・経済 中国都市ランキング 2018―大都市圏発展戦略』に収録