南京市

CICI2016:第9位  |  CICI2017:第9位  |  CICI2018:第10位  |  CICI2019:第9位


歴史上首都が多く置かれた要塞都市

 南京市は江蘇省の省都であり、江蘇省の政治、経済、科学技術、教育、文化の中心となっている。長江の入江から380kmに位置する東西南北を結ぶポジションから、南京市には古くから数多くの王朝の都が設けられてきた。「南京」とは「南の都」という意味をもち、名高い中国古都の1つである。

 最初に南京市が首都になったのは、今から約2,800年前、春秋時代の呉の時代であった。その後、東晋、六朝、南唐、明といった十の王朝が帝都と定めた歴史より「十朝都会」と呼ばれている。太平天国や中華民国統治時代には首都として定められた。14世紀から15世紀にかけては、世界最大の都市として栄華を誇った。

 南京市は中国の南北の境目という地理的に重要な位置にあり、古来よりこの地は戦略的な要塞であった。そのため、同市には今も立派な城壁がそびえ立っている。明の時代には、全長約35km(山手線の1周分に相当)、高さ14〜21m、13の城門という巨大な城壁が市内を囲むように建設され、まさしく要塞都市であった。

(2016年度日本語版・トップ10都市分析)


ユネスコから「文学都市」

 2019年10月、ユネスコは、新たに66の都市を「ユネスコ創造都市ネットワーク」として選出し、南京がアジアで3番目、中国では初となる「文学都市」に選ばれた。

 2004年、ユネスコは「創造都市ネットワーク」を設立した。文学、映画、グルメ、デザインなどの7分野に分け、世界の都市間でパートナーシップを結び、国際的なネットワークを作っている。2019年末には世界246の都市が参与している。中でも「文学都市」は現在、39都市が選出されている。その多くは欧米の都市が占め、アジアでは、南京の他に韓国の富川と現州が選出されている。残念ながら、「文学都市」ではまだ日本の都市は選出されていない。

 〈中国都市総合発展指標2018〉によると、南京は「社会」項目の「傑出人物輩出指数」ランキングで全国第5位である。古来より文化資源が豊富で、多くの文人が集った。中国初の「文学館」も南京に設立された。

 中国最初の詩歌の評論「詩品」が編まれたほか、中国最初の文学評論の「文心雕龍」が編さんされ、最初の児童啓蒙書「千字文」、現存最古の詩文総集「昭明文選」などが、南京で誕生した。

 「紅楼夢」、「本草網目」、「永楽大典」、「儒林外史」に代表されるように、南京にゆかりのある中国古典作品は1万作以上ある。

 魯迅、巴金、朱自清、兪平伯、張恨水、張愛玲など近代の文豪も南京とつながりが深い。アメリカのノーベル文学賞受賞作家、パール・バックは、代表作「大地」を南京で創作した。

 「文学都市」の選出には、出身作家数など以外にも、文学を育む都市の環境も重視され、出版文化、書店文化、図書館の整備、市民の読書量なども評価対象である。南京は同指標「公共図書館蔵書量」ランキングは全国第7位にランクインした。

 CNN、BBCなどから「世界で最も美しい書店」と評価された「南京文学客庁」といった24時間営業の書店は、市民に人気の新たな文化スポットとなっている。市内の公園、観光スポット、デパート、ホテル、地下鉄などの場所に無料の読書スペースが150カ所以上設けられ、読書文化を盛り上げている。

(2018年度日本語版・トップ10都市分析)

中国三大博物館の南京博物院

 古都・南京には、中国三大博物館に数えられる「南京博物院」がある。北京故宮博物院、台湾故宮博物院と肩を並べる存在となっている。

 南京博物院には、「南遷文物」といわれる元は北京故宮博物院にあった文物を所蔵している。日中戦争の戦火を避けるため、1933年、北京故宮博物院から木箱で2万個といわれる大量の文物が南京博物院(当時は中央博物院)に移送された。南京に戦火が及んだ時は、文物は重慶に移されたが、戦後再び南京に戻った。だが、その後の国共内戦の混乱の中で、3千箱が台北に運ばれ、7千箱が北京の故宮博物院に戻された。現在、台北の故宮博物院が所蔵する至宝はこのときに運ばれた文物である。大陸に残った物のうち1万箱が南京博物院にあり、「南遷文物」といわれている。

 〈中国都市総合発展指標2018〉では南京は「社会」項目の「博物館・美術館」ランキングは全国第13位であり、市内には一級の博物館が3館、二級は1館、三級は4館、無級は33館の合計41館が存在している。南京訪問の際は、名勝見物と併せて博物館巡りを行えば、より中国の歴史文化への理解が深まっていくだろう。

(2018年度日本語版・トップ10都市分析)

人材獲得施策

 〈中国都市総合発展指標2018〉で「経済」の「高等教育輻射力」ランキング全国第4位を獲得した南京は名門大学の集積地であり、人材の宝庫である。その南京では学生が卒業後も市内に留まるよう人材獲得に力を入れてきた。

 特に定住を促進させる施策として、不動産購入について学位取得者への様々な優遇政策を施行した。

 2020年5月、中国国家統計局は主要70都市の2020年4月の住宅価格動向を発表した。発表によれば、調査対象のうち新築住宅価格が最も上昇したのが南京であった。全国トップの値上がり率は、こうした政策効果の表れかもしれない。

 近年、南京は経済規模では蘇州に抜かれ、江蘇省全体のGDPに占める南京の割合が低下するなど、省都としての存在感が薄まっている。人材の獲得により再び省都としての威厳を取り戻せることができるか、注目が集まっている。

(2018年度日本語版・トップ10都市分析)


ラオックスを傘下に置く「蘇寧」

 南京を代表する企業に中国家電販売大手の「蘇寧(Suning)」がある。蘇寧は1990年に南京で設立し、中国全土に約1,600の実店舗を持つ。日本では2009年に家電量販店のラオックスを買収したことや、2016年にイタリアの名門サッカークラブ「インテル・ミラノ」を買収したことで知られている。

 2018年、同社は「中国民営企業トップ500」の第2位を獲得し、2010年の同リスト発表以来、9年連続でランクインした。年間売上高はこの間に1,170億元から約5,579億元に急増している。また、蘇寧は、2010 年にECサイト「蘇寧易購」を開始し、全国に展開した実店舗との連携や、それらを融合したビジネスモデルを活用し、全国第4位のシェアを誇るまでに成長した。

 中国では近年、さまざまな産業やサービスにおいてクラウドやビッグデータを活用する「インターネット+」の動きが急速に進展している。政府の後押しを受け、小売や金融、各種シェアリングサービスをはじめとするB to Cビジネスのほか、公共サービス、物流などB to Bビジネスの分野でもサービスのイノベーションが進んでいる。

 こうした中国企業の動向は、日本で同様の新たなサービスを展開する企業の先行事例としても注目される。

(2017年度日本語版・トップ10都市分析)

豊富な教育研究資源

 南京は人材輩出の宝庫であり、中国の高等教育の中心地の一つである。〈中国都市総合発展指標2017〉で高等教育パワーを示す指標「高等教育輻射力」では全国第3位であり、「世界トップ大学指数」も全国第3位に輝いている。市内には南京大学、東南大学、南京師範大学など創立100年以上の歴史を持つ名門大学が肩を並べ、国から重点的に経費が分配される「国家重点大学(211大学)」は8校も有している。

 〈中国都市総合発展指標2017〉では、市民の教育水準を示す「人口教育構造指数」は全国第2位であり、著名文化人など傑出した人物の輩出度合いを示す「傑出人物輩出指数」は全国第4位、文化人を都市に擁する度合いを示す「傑出文化人指数」は全国第5位、中国の科学技術分野の最高研究機関である中国科学院と技術分野の最高機関である中国工程院のメンバーの輩出度合いを示す「中国科学院・中国工程院院士指数」は全国第3位という輝かしい結果を見せ、南京の教育研究資源の層の厚さを如実に表している。

 中国も日本と同じように労働者人口の増加がピークを過ぎ、高齢化社会が眼前に迫るなか、都市の発展のカギを握る若く有能な人材の争奪戦が、全国の都市間でヒートアップしている。

 中国では2018年の大学卒業生が過去最高の820万人に達した。南京市政府は、大学卒業生に市内定住のハードルを低くしたり、家賃補助、起業補助を普及したりと、人材を市内に留め置くさまざまな政策を打ち出している。

(2017年度日本語版・トップ10都市分析)

南京vs杭州

 上海を主軸として発展してきた長江デルタメガロポリスは、南京と杭州という両翼を擁している。南京と杭州はどちらも歴史的に中国の重要な都市であり、都市の規模や機能面は共通する部分も多く、〈中国都市総合発展指標2017〉の総合ランキングでは杭州は第7位、南京は第9位と、非常に拮抗している。

 一方、本書で都市のセンター機能を評価する「中国中心都市指数」(第2部メインレポートを参照)では、杭州が第7位、南京が第10位と、総合ランキングに比べわずかに差が開く結果となった。

 「中国中心都市指数」を構成する10大項目のうち、2都市間で順位の差が5位以上開いた項目は「開放交流」「ビジネス環境」「生態環境」の3項目であり、「開放交流」と「生態環境」は杭州が優位であり、「ビジネス環境」は南京が優位であった。特に「生態環境」の差は大きく、杭州は第9位、南京は第22位であった。

 この差を生み出している主要因は大気汚染の度合いを示す「空気質指数(AQI)」であり、その順位は杭州が全国第134位、南京が第184位であった。中国で映えある中心都市である両都市ともに今後、空気質の改善が急務である。

(2017年度日本語版・トップ10都市分析)


産業の高度化が進む南京市

 南京市のGDPは0.88兆元(約15兆円)に達し、1人当たりGDPも107,359元(約183万円)に達した。

 南京市の産業は高度化が進んでいる。南京市は経済規模では蘇州市に引けを取っているものの、教育・科学技術の集積と人材ストックを活かし、知識産業で省都としての立場を挽回しつつある。

 従業員数を比較するとそれは顕著となる。たとえば、製造業の従業員数は、南京市は約56万人、蘇州市は約219万人であり、蘇州市は工業都市としての側面が強い。一方、研究開発の従業員数は、南京市は約7.2万人、蘇州市は約2.3万人である。さらにIT関係の従業員数は、南京市は約14.9万人、蘇州市は約4.5万人であった。特にソフトウェア産業において南京市は、北京市、深圳市、上海市に続く中国で4番目の規模を持つ。

 本指標の「平均賃金」項目では、南京市は全国第5位、蘇州市は同第15位である。人材の行き先として、蘇州市より南京市が好まれるようだ。

(2016年度日本語版・トップ10都市分析)

蘇州に勝る中心機能

 長江デルタ地域に産業集積と人口が増大するなかで、南京は省都として行政、企業、金融、教育、医療等の都市の中枢機能を高めてきた。

 上海、深圳、香港のメインボード(主板)市場に上場している企業の総数(2017年末)は、南京市は48企業、蘇州市は20企業であり、2倍以上の差がある。

 南京市は文化教育都市として名高く、人材のストックが多い。市内には百年以上の歴史ある名門「南京大学」をはじめ、数多くの一流大学を抱えている。本指標の「高等教育輻射力」項目は南京市が全国第4位で、蘇州市が第237位である。

 医療面においては、「医療輻射力」項目では南京市が全国第12位、蘇州市が第43位である。

 本指標の「文化・スポーツ・娯楽輻射力」項目では南京市が全国第5位、蘇州市が第160位である。「劇場・映画館」の数では南京市が全国第8位、蘇州市が第46位となっており、その差は歴然である。

 南京は中国の一大交通ハブでもある。「空港利便性」項目では南京市が全国第38位、蘇州市が第127位。「都市軌道交通営業距離指数」項目では南京市が全国第4位、蘇州市が第26位。「高速鉄道便数」では南京市が全国第6位、蘇州市が第11位である。

 省都としての立場、地政学的な優位性、そして人材ストックなどで培った中心機能は、南京をさらに大きく変貌させるだろう。

(2016年度日本語版・トップ10都市分析)


武漢市

CICI2016:第10位  |  CICI2017:第11位  |  CICI2018:第9位

CICI2019:第10位


中部地域の最大都市

 武漢市は湖北省の省都である。中国中部地域の最大都市であり、工業、科学、教育の重要な拠点都市でもある。総面積は約8,569km2で広島県とほぼ同じ面積である。

 武漢市は世界でも水資源が最も豊富な都市のひとつであり、水域面積は全市の面積の4分の1を占めている。武漢市の水域面積は2,217.6km2(琵琶湖の面積の約3.3倍)、水域の面積カバー率は26.1%である。

 武漢市は中国東西軸の長江と、南北軸の陸上大動脈が交差する場所に位置している。故に、交通のハブ機能が発達している。本指標の「空港利便性」項目では全国第25位、航空旅客数は第12位である。「高速鉄道便数」は全国第13位で、「準高速鉄道便数」は第2位であった。

 2004年から2014年までの10年間、武漢市のGDPは年平均13.2%の成長率を実現し、GDPは約1.01兆元(約17兆円)で、1人当たりのGDPは97,403元(約166万円)となった。面積は湖北省の5.6%にすぎないものの、同省全体のGDPの約38.7%を占めている。同省内における貿易額、実行ベース外資導入額のシェアはさらに高くそれぞれ64.8%、69.7%に達している。

(2016年度日本語版・トップ10都市分析)


新型コロナで最初に医療崩壊を経験した大都市

 武漢は新型コロナウイルスの試練に世界で最初に向き合った都市であった。武漢は27カ所の三甲病院(最高等級病院)を持ち、医師約4万人、看護師5.4万人と医療機関病床9.5万床を擁する。〈中国都市総合発展指標2018〉での「経済」の指標「医療輻射力」ランキングで全国第7位の都市である。しかしながら、武漢のこの豊富な医療能力が新型コロナウイルスの打撃により、一瞬で崩壊した。

 よくも悪くも中国の医療リソースは中心都市に高度に集中している。武漢は1千人当たりの医師数は4.9人で全国の水準を大きく上回る。武漢と同様、医療の人的リソースが大都市に偏る傾向はアメリカや日本でも顕著だ。ニューヨーク州の1千人当たりの医師数は4.6人にも達している。東京都は人口1千人当たりの医師数が3.3人で、これは武漢より少なく、ニューヨークと同水準にある。

 しかし、武漢、ニューヨークの豊かな医療リソースをもってしても、新型コロナウイルスのオーバーシュートによる医療崩壊は防ぎきれなかった。2020年5月11日までは、中国の新型コロナウイルス感染死者数累計の83.3%が武漢に集中していた。その多くが医療機関への集中的な駆け込みによる集団感染や医療崩壊による犠牲者だと考えられている。

 2020年4月8日、武漢市では2カ月半にわたった都市封鎖(ロックダウン)が解除され、武漢市民は1月23日以来、ようやく市外へ出られることが可能となり、日常が徐々に市内に戻りつつある。 

 新型コロナウイルス禍と最初に対峙した都市が、医療リソースの豊富な武漢だったのは、ある意味、不幸中の幸いかもしれない。武漢における教訓は、新型コロナウイルス感染症に関する数多くの研究論文として昇華され、世界中でかつてない勢いで「知の共有」が進んでいる。

(2018年度日本語版・トップ10都市分析)


全土から集まった医療支援

 新型コロナウイルスのオーバーシュートが発生した当時、武漢に中国全土から多くの支援が集まった。

 病床数の不足については、国の支援で、新型コロナウイルスの専門治療設備の整う「火神山病院」と「雷神山病院」という重症患者専門病院を10日間で建設し、前者で1,000床、後者で1,600床の病床を確保した。このほかに、武漢は体育館16カ所を軽症者収容病院に改装し、素早く1.3万床を確保し、軽症患者の分離収容を実現させた。これによって先端医療リソースを重症患者に集中させ、病床不足は解消された。

 オーバーシュートにより感染者数は爆発的に増大し、多くの医療スタッフも院内感染に巻き込まれ戦力を失っていった。よって医療従事者の大幅な不足状況が発生した。これに対処するため中国全土から大勢の医療従事者が応援に駆けつけ、その数は4.2万人にも達した。

 こうした措置が武漢の医療崩壊の食い止めに繋がった。感染地域に迅速かつ有効な救援活動を施せるか否かが、新型ウイルスを封じ込める鍵となる。しかし、すべての国がこうした力を備えているわけではない。ニューヨーク、東京の状況からすると、医療リソースがかなり整う先進国でさえ、救援動員はなかなか難しい。医療リソースが稀少かつ十分な医療救援能力を持たない国にとっては、グローバルな救援力をどう組織し受け入れるかが、喫緊の解決課題となっている。

(2018年度日本語版・トップ10都市分析)


青山長江大橋の建設

 武漢は、長江と漢江によって「武昌」「漢口」「漢陽」という3つの地域(武漢三鎮)に分けられるが、その間を多くの橋がつなぎ、大都市の大動脈として機能している。1957年10月、全国で初めて長江の両岸をつないだのは武漢長江大橋であった。2020年末に開通する予定の青山長江大橋は、武漢ではその11本目となる。

 〈中国都市総合発展指標2018〉によると、武漢は「環境」の「固定資産投資規模指数」ランキング全国第5位である。都市インフラに積極的に投資してきた武漢は、橋の建設が進んだ。橋の数が増えるごとに都市の一体化も進んだ。「橋の武漢」と称されるように、橋の景観は武漢に多彩な表情をもたらしている。

(2018年度日本語版・トップ10都市分析)


人口引き留め政策

 人口面でも武漢市は湖北省で一極集中の状況にある。武漢市は常住人口を約1,034万人抱え、これは中国中部地域6省の省都のなかで最も多い。本指標の「人口流動」項目では、湖北省内12都市のうち10都市がマイナスで、つまり他の都市へ人口が流出している。これに対して武漢市は、流動人口が約207万人の大幅プラスになっており、全国においても第10位の人口流入都市である。

 一方、武漢市政府の発表では、同市は89の大学、95の科学研究所、130万人弱の大学生を抱えていながら、大卒者のうち同地に残る者は5分の1にも満たない。そこで、2017年、武漢市政府は向こう5年間で大卒者100万人を同市内に引き留めるプロジェクトを発表した。同市の大卒者は市場価格を2割下回る価格で住宅を購入できるか、あるいは市場価格を2割下回る価格で住宅を借りられる制度を設けた。また、最低年収の設定、就職の斡旋、起業のサポートなど「大卒者に最も友好的な都市」へ向けたさまざまな政策を打ち出している。経済のグローバル化と知識集約型産業が進展していくなかで、中国の各都市間の人材の育成と獲得競争が激しくなっている。

(2016年度日本語版・トップ10都市分析)


中国で最も高いビル「武漢緑地中心」を建設

 世界中で超高層ビルの建設ラッシュが起こっており、それをリードしているのが中国である。なかでも、最も注目されているのが、2011年から建設が進む「武漢緑地中心(Wuhan Greenland Center)」である。竣工予定は2019年で、完成すると高さ636m、地上125階・地下6階の規模で、延床建築面積は約30万m2、総投資額は300億元(約5,078億円)以上になるという。現在、世界一高いビルはドバイで建設された「ブルジュ・ハリファ」(高さ828m)であり、「武漢緑地中心」が完成すると世界第2位のビルになり、「上海中心」(高さ632m)を抜く中国で最も高いビルとなる。

 世界の建築専門家らが編集する「高層ビル・都市居住評議会(CTBUH)」のレポートによると、2016年に世界で建設された超高層ビル(高さ200m以上)は128棟であったが、そのうち84棟が中国に建設され、中国は9年連続で超高層ビルの竣工面積が最も多い国となった。また、2016年末時点で、中国全土の超高層ビル数は485棟に達し、2000年時点の49棟から10倍近くに増えた。

(2016年度日本語版・トップ10都市分析)


蘇州市

CICI2016:第6位  |  CICI2017:第8位  |  CICI2018:第11位

CICI2019:第11位


トップ10にランクインした唯一「普通」の都市

 蘇州市は江蘇省東南部に位置する。本指標の総合ランキングトップ10都市の中で、直轄市でもなく省都でもなく計画単列市(日本の政令指定都市に相当)でもない、いわゆる「普通」の都市である。蘇州市は悠久の歴史を誇る都市であり、水路が街の縦横無尽にはりめぐらされている。その風光明媚な様子は「東洋のベネチア」と讃えられ、国内外から多くの観光客が訪れている。面積は約8,567 km2と広島県とほぼ同じで、そのうち42.5%が、「上海蟹」の主要産地でもある太湖などの水域である。

 1990年代にはじまった上海の浦東開発を受け、蘇州市は工場誘致を積極的に進めた。それが功を奏し、同市は新興工業都市として飛躍的な発展を遂げた。蘇州市のGDPは、省都の南京市を上回り江蘇省内で第1位であり、全国でも第7位と好成績を上げた。工業産出額は上海に次いで全国第2位、貨物輸出額は全国第3位であった。

 日系企業を含め多くの外資系企業が進出し、蘇州市は実行ベース外資導入額で全国第7位である。2016年末、「フォーチュン・グローバル500」にランクインしている企業のうち150社が蘇州市に進出している。その内訳は、日本が42社、アメリカが34社、フランスとドイツがそれぞれ14社、韓国が12社であった。在留邦人も約7,000人と多く、長江デルタメガロポリスでは上海に次ぎ2校目となる日本人学校も開校している。

(2016年度日本語版・トップ10都市分析)


人工知能産業園が開園

 蘇州の経済拠点「蘇州工業園区」が新たなステージを迎えようとしている。2018年、園区内に「人工知能産業園」が開園した。同園区の総面積は約43万 m2で、同年3月にすでに人工知能産業に関する上場企業は2社、新三板(店頭株式市場)企業が32社集積し、従業員が2万人に達した。

 中国政府は2015年、今後10年間の製造業発展のロードマップ「中国製造2025」を発表し、その中でAI技術のイノベーションによって製造業の高付加価値化を目指している。2017年には「次世代AI産業発展の3カ年計画」を発表し、中国は国家規模でAI産業を推進し、中国経済の次の成長エンジンを育てようとしている。

 キャッシュレス社会の躍進が目立つ一方、中国はハイエンドチップやAI関連の基礎研究などの分野では依然として先進国に比べ後れを取っている。

 〈中国都市総合発展指標2017〉では「製造業輻射力」が全国第2位に輝いた中国製造業の雄たる蘇州も、「科学技術輻射力」は全国第7位、「IT産業輻射力」は全国第17位である。蘇州が新たなステージに到達できるか、これからが正念場である。

(2017年度日本語版・トップ10都市分析)

蘇州が燃料電池自動車の普及を推進

 中国は国を挙げて電気自動車(EV)を育てようとしている。2017年の1年間に中国で販売されたEV車は約58万台にのぼり、普及台数は同年末時点で123万台に達した。その生産台数は世界でおよそ5割のシェアを占めるほどの勢いである。

 中国は、水素燃料電池自動車(FCV)の開発でも覇権を目指している。前述した「中国製造2025」に、FCVの産業化と水素インフラの整備を進めることが明記されており、FCVの普及に向けた体制づくりが進んでいる。その流れを受け、各都市でも水素で全国をリードしようとする動きが活発化しており、蘇州もその一つとなっている。

 蘇州市は2018年、水素エネルギー産業発展に関する指導意見を発表し、2020年までに水素エネルギー産業チェーン関連産業の年間生産高を100億元(約1,600億円)以上とし、水素ステーションを約10カ所建設する。2025年までに、同関連産業の年間生産高を500億元(約8,090億円)以上に拡大、市内のFCV保有台数を1万台にするとした。この野心的な目標に向けて、蘇州は動き始めている。

 FCVの普及には水素ステーションなどのインフラ整備が不可欠であり、そのためには政府の強いリーダーシップが必要である。同分野で先発組の日本も、こうした中国の躍動を受け、水素社会に向けて一層加速していくであろう。

(2017年度日本語版・トップ10都市分析)

中国の世界無形文化遺産「昆劇」が九州で初公演

 2018年10月、「昆劇」の九州初公演が福岡県で開催された。福岡県と友好提携を結ぶ江蘇省から劇団・蘇州昆劇院が来日し、昆劇の演目で最高傑作とされる「牡丹亭」を披露した。

 昆劇は蘇州市発祥の古典舞台芸術で、明の時代から600年以上続き、京劇より古い歴史を持つ。昆劇の舞踊・歌・台詞といった芸術形態は、京劇をはじめとする中国の舞台芸術に大きな影響を与えている。2001年には、日本の能楽と同時に、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界無形文化遺産に選ばれている。

 今でこそ蘇州は工業都市の側面ばかりに注目されるが、蘇州は歴史上蘇南地域の中心都市であり、歴史・文化的造形が深い観光都市でもある。〈中国都市総合発展指標2017〉で蘇州は「歴史遺産」で全国第7位、「無形文化財」で第6位、「国内旅行客」は第9位である。

 現在、蘇州では昆劇の後継者不足が悩みのタネになっているという。都市の総合的発展には文化の活力が欠かせない。商工業都市・蘇州が今後、「文化都市」としても彩られていくためには、蘇州ならではの都市のアイデンティティがますます重要視されるだろう。

(2017年度日本語版・トップ10都市分析)


中国製造業の都・蘇州

 蘇州市が外資系の誘致先として注目されたのは、中央政府が2つの開発区を蘇州市内に建設したからである。ひとつは、旧市街地の西側に設けられた「蘇州高新区」である。同区は1992年に認定を受け、旧市街地の西側に設けられ、上海からは約100 kmに位置する。総面積は258  km2で、同区内には電子通信、精密機械など最先端の技術をもつ企業が進出し、研究開発区、輸出加工区、物流センターなどを内包している。

 もう一つがシンガポールとの協力で建設された「蘇州工業園区」である。同区は1994年に旧市街地の東側に設置され、上海からは80 kmに位置する。総面積は260km2で、同区内には、繊維製品、精密化学工業、製紙工業、電子工業、機械工業などの工場が数多く集積している。

 いずれの開発区も多くの外資メーカーが進出し、蘇州市は外資系の工場が集積する製造業の都となった。蘇州市政府発表では、2015年末の人口構造は、15歳未満人口(年少人口)は9.8%、15歳以上65歳未満人口(生産年齢人口)は79.9%、65歳以上人口(老年人口)は10.3%であり、生産年齢人口の割合がかなり高い。全国各地から若い労働者が流入し、同市の経済発展を牽引している様子が伺える。

(2016年度日本語版・トップ10都市分析)

工場経済からの脱皮

 「世界の工場」として名を馳せた中国はいま、これまでの輸出型製造業重視の政策から、サービス型産業・内需型産業重視へと、政策の舵を大きく切ろうとしている。それは蘇州市も例外ではない。GDPは1.38兆元(約23.2兆円)であり、2010年末時点で41.4%だった第三次産業の比率は47.2%にまで増加している。従業員数ベースでも第三次産業の従業者が36%と前年より8.4%ポイント増加し、産業構造がサービス業にシフトしはじめていることが明らかになった。

 産業構造の高度化につれて、工場への立退き要求などにより、生産停止を余儀なくされるケースが発生している。また近年、人件費の高騰等から多くの企業が戦略転換を余儀なくされ、外資メーカーが蘇州から撤退する事例が相次いでいる。

 日系企業は蘇州市に1,000社以上が進出し、同市には中国に進出した日系企業の3分の1が籍を置いている。だが、日系企業も撤退の波に揉まれている。「チャイナ・フリー(脱中国)」という言葉が新聞紙面を賑わせており、工場を中国から東南アジアなどへ移転させる動きも数多く生じている。

(2016年度日本語版・トップ10都市分析)


海口:「気候快適度」が冴える中心都市【中国中心都市&都市圏発展指数2020】

 海口市は、「中国中心都市&都市圏発展指数2020」の総合第35位にランクインした。同市は2019年度より順位を1つ上げている。

 〈中国中心都市&都市圏発展指数〉は、〈中国都市総合発展指標〉の派生指数として、4大直轄市、22省都、5自治区首府、5計画単列市からなる36の中心都市の評価に特化したものである。同指数は、これら中心都市を、全国297の地級市以上の都市の中で評価し、10大項目と30の小項目、116組の指標からなる。包括的かつ詳細に、中国中心都市の高品質発展を総合評価するシステムである。

 海口市は、海南省の省都で、「ココナッツシティ」とも呼ばれる港湾都市である。同市は、北宋時代に開港して以来、千年の歴史を有している。海口は海南島の一部である本島と海淀島、新部島などの離島からなり、陸地面積は2,297平方キロメートル(沖縄県と同程度)。2021年現在、常住人口は約291万人で全国では174位である。GDPは前年比11.3%増の約2058億元(約41兆円、1元=20円換算)で中国の都市の中で150位である。

 海口市および海南島は熱帯に位置し、自然に恵まれた臨海都市である。年間平均気温は23.8度であり、冬も寒くない快適な気候である。「気候快適度」は全国6位と、中心都市では最も順位が高い。空気も良く、大気汚染の状況を評価する「空気質指数(AQI)」は全国7位という高順位に輝いている。

 全長131kmのゴールデンコーストは、ヤシ、マングローブ、クレーター火山などの珍しい自然景観や、美しいビーチが点在する観光ベルトである。しかしながら、同市の「海外旅行客」は全国で46位、「国内観光客」は同167位と、全国平均を下回っている。海南島の南部に位置する中国屈指のリゾート都市・三亜市に比べ、観光都市としての実績はかなり劣っている。

 その理由として、低密度な都市開発、不動産開発への過度な依存、自動車交通に偏る都市構造などが挙げられる。

 また、中心都市としての輻射力の脆弱さも否めない。同市は、海南省GDPの約3分の1を占めているにも関わらず、「輻射能力」大項目は全国で46位と中心都市ではワースト5位である。

 一方、同市の広域交通機能は高い。「コンテナ取扱量」は全国で20位、「空港利便性」は同13位と高い。こうした広域交通機能は、海南島という中国最大級の離島の繁栄を支えている。

 海口市は非常に魅力的なポテンシャルを有しており、アジアを代表するような都市へと成長できる可能性を秘めている。機会があれば、ぜひ足を運んでいただきたい都市である。


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中国中心都市&都市圏発展指数2020
中国中心都市&都市圏発展指数2019
中国中心都市&都市圏発展指数2018
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石家荘:鉄道により生まれた大都市【中国中心都市&都市圏発展指数2020】

 石家荘市は、「中国中心都市&都市圏発展指数2020」の総合第31位にランクインした。同市は2019年度より順位を1つ下げている。

 〈中国中心都市&都市圏発展指数〉は、〈中国都市総合発展指標〉の派生指数として、4大直轄市、22省都、5自治区首府、5計画単列市からなる36の中心都市の評価に特化したものである。同指数は、これら中心都市を、全国297の地級市以上の都市の中で評価し、10大項目と30の小項目、116組の指標からなる。包括的かつ詳細に、中国中心都市の高品質発展を総合評価するシステムである。

 石家荘市は、20世紀初頭は人口僅か578人の小さな村であったが、1902年に京漢鉄道(北京-武漢)の開通に伴い、同地に駅が設置されたことから、都市としての歴史が始まった。その後、中国における鉄道輸送の「南北交通の要衝」として大発展を遂げてきた。いまや河北省の省都として、中国三大メガロポリス「京津冀(北京・天津・河北)メガロポリス」における重要な中心都市の一つとなっている。2021年現在、総面積は14,530平方キロメートル(福島県よりやや大きい程度)、常住人口は約1,120万人で全国では13位である。GDPは約6,490億元(約13兆円、1元=20円換算)で中国の都市の中で40位である。鉄道により生まれた都市として、「鉄道利便性」は、全国24位である。

 同市は、北京から南西に約280キロメートルで首都北京に最も近い省都である。また、天津から西に約260キロメートルの位置にある。二つの中国を代表する都市に近接していることから、その恩恵を受ける一方、二大都市の光の影に隠れた側面も持つ。例えば、省都でありながら石家荘市には代表的な高等教育機関が乏しい。「世界トップクラス大学指数」では、同市は39位と中心都市のなかでは振るわない一方、同指標1位の北京と9位の天津に、多くの優秀な大学生が吸収されている。

 同市は、中国における穀物、野菜、肉、卵、果物の主要生産地の一つであり、国家認定の小麦生産基地として「北方の穀倉」とも呼ばれ、北京と天津の二大都市の胃袋を支えている。同市の「第一次産業GDP」は、全国24位と平均値を大きく上回っている。

 一方、河北省は、鉄鉱石の産地として、また唐山などの港から鉄鉱石の輸入可能な立地を生かし、近年、世界最大規模の鉄鋼産業集積を作り上げた。省都としての石家荘も、「中国都市鉄鋼業輻射力」では、全国22位という成績を収めている。そのため、国内有数の大気汚染都市ともなっている。大気汚染の状況を評価する「空気質指数(AQI)」では、ワースト4位という不名誉な順位で、中心都市の中で最も大気汚染が深刻な都市となった。

 河北省は、広大な平地を有し、歴史的に遊牧民族が元々いた農耕民族と混在して農耕活動を行なった地域である。ゆえに、人口密度が高く、省都としての石家荘も一千万人を超える巨大な人口を抱える。そのため同市の「一人当たりGDP」は全国144位にとどまっている。

 北京と天津という二大都市の近隣都市として、石家荘市が独自の存在感を出すことができるか。同市の行方は、京津冀メガロポリスの成長を占う上でも、注目のポイントである。


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中国中心都市&都市圏発展指数2020
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南昌:人民解放軍の発祥地【中国中心都市&都市圏発展指数2020】

 南昌市は、「中国中心都市&都市圏発展指数2020」の総合第30位にランクインした。同市は2019年度より順位を1つ上げている。

 〈中国中心都市&都市圏発展指数〉は、〈中国都市総合発展指標〉の派生指数として、4大直轄市、22省都、5自治区首府、5計画単列市からなる36の中心都市の評価に特化したものである。同指数は、これら中心都市を、全国297の地級市以上の都市の中で評価し、10大項目と30の小項目、116組の指標からなる。包括的かつ詳細に、中国中心都市の高品質発展を総合評価するシステムである。

 南昌市は、江西省の省都であり、同省の政治、経済、文化、科学、教育の中心地である。同市は、長江中流の中心都市の一つであり、2200年以上の歴史を有する中国を代表する歴史文化都市でもある。

 2021年現在、同市の総面積は7,195平方キロメートル(岡山県と同程度)、GDPは約6,656億元(約13.3兆円、1元=20円換算)で、中国の都市の中で40位となっている。2021年の常住人口は約644万人で全国では59位の位置につけている。

 同市には、中国磁器の産地として有名な景徳鎮市や、古来より長江下流の一大交易都市として栄えてきた九江市が隣接している。江西省のイメージは、その2都市のイメージが強いため、南昌市の存在感は影が薄くなってしまう。同市の特徴は、「特徴がないことが特徴」とも言えるだろう。

 さる事ながら、同市は、観光都市としても著名である。景勝地を多く有し、中国3大楼閣に数えられる「滕王閣」や、国内で最も大きい淡水湖である「鄱陽湖」などが著名である。同市は、「三川五湖」と呼ばれる水資源に恵まれ、市域の約3割は水域が占めており、豊富な水系に囲まれた景観が、多くの観光客を楽しませている。

 また、同市は1927年8月1日の「南昌蜂起」で、人民解放軍発祥の地としても名高い。近年、中国では中国共産党の革命史をたどる「レッドツーリズム(紅色旅游)」が盛んであり、同市は共産党に関する史跡が多く、これを目当てにした観光客も多い。こういった背景から、同市の「国内旅行客数」は全国18位という成績を稼ぎ出している。

 新中国建国後、省都としての南昌市には、高等教育機関が多く設けられてきた。本指標の大項目「文化教育」を構成する「高等教育指数」は全国19位であり、そのうち、「大学生数」は全国9位、「大学教員数」は全国12位である。国内トップクラスの大学は少ないものの、膨大な数の大学生が学んでいる。

 冷戦時代に毛沢東が提唱した「三線建設」によって、南昌市では数多くの工業関連のプロジェクトが行われた。その恩恵もあり、同市は、国内最初の航空産業発祥の地となり、また省内で最大の工業都市として自動車の製造を始めとする最先端の産業にも力を入れている。


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太原:資源都市となった古き交易都市【中国中心都市&都市圏発展指数2020】

 太原市は、「中国中心都市&都市圏発展指数2020」の総合第34位にランクインした。同市は2019年度より順位を1つ下げている。

 〈中国中心都市&都市圏発展指数〉は、〈中国都市総合発展指標〉の派生指数として、4大直轄市、22省都、5自治区首府、5計画単列市からなる36の中心都市の評価に特化したものである。同指数は、これら中心都市を、全国297の地級市以上の都市の中で評価し、10大項目と30の小項目、116組の指標からなる。包括的かつ詳細に、中国中心都市の高品質発展を総合評価するシステムである。

 太原市は、中国の重要なエネルギー・重工業基地である山西省の省都である。別名「晋陽」とも呼ばれ、九つの王朝の都として二千年以上の歴史を持つ国家歴史文化都市である。2021年現在、6区、3県、1県級市を管轄し、総面積は6,988平方キロメートル(高知県と同程度)、GDPは約5,122億元(約10.2兆円、1元=20円換算)で中国の都市の中で56位となっている。常住人口は約540万人で全国では80位である。

 同市は、北は万里の長城を挟んで内モンゴル自治区に、東は北京の西側に位置する河北省と、南は黄河を挟んで河南省と、西は北上した黄河を挟んで陝西省に接している。そのような立地から、同市は古来より、遊牧民族と農耕民族の交易都市として栄えてきた。

 山西省出身の商人たちは、「晋(山西の略称)商」と呼ばれ、中国で大いに活躍していた。晋商の拠点である太原市は、中国北部の重要な商業都市として発展してきた。晋商は、遊牧民族と農耕民族双方を支配下に置いた清王朝時代に最も栄えた。彼らは、手形をベースとした金融システムを確立し、全国に拠点を設けた。その勢力は、モスクワにも及んだ。その名残もあり、太原市の「中国都市金融輻射力」は全国20位と、いまなお高い金融の力を保持している。

 しかし新中国建国後、山西省は豊富な石炭資源をベースに経済のモノカルチャー化が進み、太原市は資源都市へと変貌していった。同市自身も現在、「中国都市石炭採掘業輻射力」は全国11位であり、中心都市の中では最も順位が高い。かつては商業・金融そして多彩な文化で輝いた同市は石炭経済に依存するようになった。「資源の呪い」の典型事例と言ってよいだろう。

 中国の電力は、およそ6割を石炭火力発電に依存する。その多くが山西省産の石炭を利用している。太原市内も石炭をベースにした産業が多く、その影響もあり、同市の「中国都市PM2.5指数」は全国ワースト13位、「中国都市二酸化炭素排出量」はワースト20位と、環境パフォーマンスは悪い。脱炭素の潮流を受け、カーボンニュートラルへと大きく舵を切った中国において、今後は石炭依存からの脱却が本格化していくことは間違いない。同市が如何にモノカルチャーから脱却し、新産業に根ざした都市へと転向できるか、要注目である。

 悠久の歴史から、市内には多くの歴史遺産が残されている。世界遺産の「平遥古城」をはじめ、晋寺、天龍山、双塔寺など多くの景勝地や文化財を抱えている。また、同市は日本でも愛好者が多い「刀削麺」の発祥地としても著名である。刀削麺は西安市の名物という印象が強いが、発祥は太原市である。こうした歴史文化遺産は同市の次なる発展のきっかけになるかもしれない。


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貴陽:ビックテックが群がる西南の中心都市【中国中心都市&都市圏発展指数2020】

 貴陽市は、「中国中心都市&都市圏発展指数2020」の総合第29位にランクインした。同市は2019年度より2つ順位を下げている。

 〈中国中心都市&都市圏発展指数〉は、〈中国都市総合発展指標〉の派生指数として、4大直轄市、22省都、5自治区首府、5計画単列市からなる36の中心都市の評価に特化したものである。同指数は、これら中心都市を、全国297の地級市以上の都市の中で評価し、10大項目と30の小項目、116組の指標からなる。包括的かつ詳細に、中国中心都市の高品質発展を総合評価するシステムである。

 貴州省の省都である貴陽市は、同省の政治、経済、文化、科学、教育の中心地であると同時に、中国南西部における交通の要衝である。同市は、名峰・貴山の南側に位置することから「貴陽」と名づけられた(古代中国では、山の北は「陰」、 南は「陽」と言う)。かつて、同市は竹が豊富に産出され、古代中国の五絃の楽器「筑」の産地として有名だったことから、略して「筑」とも称されている。また、緑が豊富で風光明媚な土地柄から「森の都」とも呼称され、中国初の「国家森林都市」にも指定されている。

 2021年現在、同市の総面積は8,034平方キロメートルを有し(兵庫県と同程度)、GDPは約4,312億元(約8.6兆円、1元=20円換算)で、中国の都市の中で52位となっている。2020年末の常住人口は約599万人に至り、全国では65位の位置につけている。一方、常住人口成長率は3.4%と、全国18位に位置し、近年、中心都市の中でも人口増が著しい都市である。

 同市は、亜熱帯モンスーン気候に属し、海抜約1100メートルの山間盆地に位置することから、1年を通じて気候は温暖、年間平均気温は15.3度である。夏の平均気温は23.2℃、最高気温は平均25~28℃、最も暑い7月下旬でも平均気温は23.7℃に過ぎず、最高気温が30℃を超える日数は少ない。避暑地として最高な気候を有することから、2006年政府から中国初の「避暑の都」に指定されている。

 同市は、気候の快適性もさる事ながら、観光都市としても著名である。市内の殆どをカルスト地形が占めることから、非常に豊富な観光資源も有している。「紅楓湖」、「開陽峡谷生態公園」など、山、川、峡谷、湖、洞窟、滝、原始林などを特色とした高原特有の雄大な自然景観が、次々と人々を感動に誘う。また、市内には名跡も多く、「陽明洞」、「青岩古鎮」、「息烽集中営旧址」、「甲秀楼」や「黔霊山」、「青岩古鎮」、「香紙溝」などはいずれも古代中国文化の趣を漂わせている。多彩な少数民族の風情も内外の観光客にとっては魅力的である。同市の「国内旅行客数」は全国4位とトップクラスの成績を稼ぎ出している。

 同市は、中国南西部における陸上交通の要衝として、本指標の大項目「広域中枢機能」は全国16位であり、そのうち、「航空輸送」は全国15位、「陸路輸送」は全国10位である。

 近年、貴陽市は、デジタル経済における最先端の都市として脚光を浴びている。現在、同市には、アップルやテンセントを始めとして、国内外のビッグテック企業のデータセンターが相次いで建設されている。

 貴陽市、ないしは貴州省は、中国の中でも山地が特に多い地域であり、地盤の安定性から地震が極めて少ない地域である。また、標高が高く、年間を通じて冷涼な気候なため、サーバー冷却コスト削減につながる。また、水資源が豊富なため、水力発電による電気代が安価である。このように、同市は、データセンターの設置に極めて適した環境を有する地理的優位性を備えている。

 2014年に貴陽と安順にまたがる貴安新区が国家級新区に指定され、2015年には、中国唯一の「ビッグデータ先導試験区」として認定されている。

 同市は、鉱物採掘と観光が中心的な産業であったが、ビッグデータ産業を主流とする発展にかじを切っている。今では、ビッグデータ都市の代名詞となるまでに成長を見せ、最新の「IT産業輻射力」は全国19位にまで躍進している。深圳のようなデジタルバレー都市としての発展を遂げるか、今後の貴陽市の動きは要注目である。


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ハルビン:中国最北の中心都市【中国中心都市&都市圏発展指数2020】

 ハルビン市は、「中国中心都市&都市圏発展指数2020」の総合第28位にランクインした。同市は2019年度より1つ順位を上げている。

 〈中国中心都市&都市圏発展指数〉は、〈中国都市総合発展指標〉の派生指数として、4大直轄市、22省都、5自治区首府、5計画単列市からなる36の中心都市の評価に特化したものである。同指数は、これら中心都市を、全国297の地級市以上の都市の中で評価し、10大項目と30の小項目、116組の指標からなる。包括的かつ詳細に、中国中心都市の高品質発展を総合評価するシステムである。

 黒龍江省の省都であるハルビン市は、中国東北地域の中核都市の1つであり、中国で最も北に位置する中心都市である。2021年現在、ハルビン市の総面積は5万3,100平方キロメートルを有し、北海道の面積の約6割強に相当する。GDPは約5,352億元(約10.7兆円、1元=20円換算)で、中国の都市の中で48位となっている。2021年末の常住人口は約989万人に至る一方、前年から人口が約13万人流出しており、2年連続で人口が減少している。

 ハルビン市は、北海道最北端の稚内市とほぼ同じ緯度に位置し、冬の気候は極めて厳しい。本指数の「気候快適度」でも、同市の順位は286位と、中心都市の中で最も順位が低い。ハルビンの気候は、夏と冬の寒暖差が非常に大きい典型的な大陸性気候である。冬は長く夏は短い。年平均降水量は569.1mmで、降水は主に6月から9月に集中し、年間降水量の60%は夏季の期間が占めている。冬季は非常に乾燥しており、降雪もほとんどない。そのため、ハルビンは氷の町と言われている。四季がはっきりしており、1月の平均気温は約-19℃、夏の7月の平均気温は約23℃である。過去最低気温は、-37.7℃(1985年1月26日)を記録した。

 ハルビン市は、その極寒さを活用し、1985年から氷の彫刻展「ハルビン氷祭り」を毎年1〜2月に開催している。その規模と華やかさから、今ではカナダのケベック、日本の札幌と並び、「世界三大雪まつり」のひとつに数えられている。

 黒龍江省の土壌は、有機物の含有量が多い、いわゆる「黒土」であり、農業に非常に適している。黒龍江省に広がる大平原は、「世界有数の肥沃な黒土地帯」と称される。そのためハルビンの第一次産業も非常に盛んである。〈中国都市総合発展指標〉の「農産業輻射力2020」では、ハルビン市は全国第4位であり、中心都市の中では最も順位が高い。 

 同市に属する県級都市・五常市は、中国米の最高級ブランド「五常大米」の産地である。五常大米の中でも、香り米の「稲花香」は、「2018中国第1回国際米フェスティバル」において、日本のコシヒカリと並んで金賞を受賞している。肥沃な土地、年間の大きな気温差、豊富な水という地理・気候条件を有するハルビンは、中国国内の中でも、水田耕作に非常に適した都市である。なお、「稲花香」は、日本をルーツに持つ品種である。中国から日本に伝わった稲作文化が、巡りに巡って中国に回帰し、新中国で最も著名なブランド米となっていることは、歴史の因果ともいえよう。

 ハルビンは高等教育機関も多く立地している。2021年現在、市内には総合大学が50校立地し、なかでもハルビン工業大学等が名高い。「中国中心都市&都市圏発展指数2020」大項目「文化教育」では17位だが、それを構成する「高等教育指数」は12位、「世界トップクラス大学指数」は10位となっている。また、大項目「輻射能力」を構成する「高等教育輻射力」は10位である。これらは東北地域で最も高い成績である。高等教育機関に支えられ、ハルビンは文化人排出度合いを示す「文化人排出指数」が15位、「優秀人材育成指数」は12位に入っている。

 さまざまな歴史と地理的条件により、ハルビンは中華文明と西洋文化が融合し、エキゾチックで美しい都市を形成している。同市は、中国の歴史文化都市、観光都市として有名である。特に、ロシアとの関係は深く、市内にはロシア文化の影響が色濃い。市内にはロシア建築様式の建造物が数多く残され、ロシア料理のレストランも数多い。

 新中国建国後、ハルビンは重化学工業の一大基地として発展してきたが、それにも当時のソ連からの援助が欠かせなかった。現在、同市の製造業は沿海部の都市に圧迫されている。しかし今後のロシア情勢の行方によっては、ロシアとの天然ガスパイプラインの中継基地である同市が、安いロシア産の天然ガスや石油をベースに中国東北地域発展の発火点となる可能性もあり得る。中国最北の中心都市が、ある意味、非常にホットな都市となっている。


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長春:中国東北最大の自動車産業基地【中国中心都市&都市圏発展指数2020】

 長春市は、「中国中心都市&都市圏発展指数2020」の総合第26位にランクインした。同市は2019年度の順位を維持した。

 〈中国中心都市&都市圏発展指数〉は、〈中国都市総合発展指標〉の派生指数として、4大直轄市、22省都、5自治区首府、5計画単列市からなる36の中心都市の評価に特化したものである。同指数は、これら中心都市を、全国297の地級市以上の都市の中で評価し、10大項目と30の小項目、116組の指標からなる。包括的かつ詳細に、中国中心都市の高品質発展を総合評価するシステムである。

 吉林省の省都である長春市は、中国東北地域の中核都市の1つであり、重要な産業基地である。2021年現在、長春市の総面積は2万4,592平方キロメートル(秋田県と新潟県を足した面積と同等)を有しGDPは約7,103億元(約14.2兆円、1元=20円換算)を達成、前年比6.2%増となった。2021年末における長春の常住人口は約909万人にのぼり、人口1,000万人クラスのメガシティにあと一歩の人口規模まで近づいている。

 長春市は、北海道の札幌市とほぼ同じ緯度にあるものの、冬の気候は札幌よりも厳しい。一般に、長春における気候の特徴は、春は乾燥して風が強く、夏は短い。秋は晴れて暖かく、冬は長く厳しい。年平均気温は4.6℃で、1970年には最低気温-36.5℃を記録した。

 長春は、戦前から工業基地として発展してきた。新中国で最も早く自動車工業基地が建設され、「東方のデトロイト」とも呼ばれている。「中国都市自動車産業輻射力2020」では、上海に次ぐ第2位の実力を備え、国内有数の自動車メーカー「第一汽車」を生んだ。詳しくは、下記の記事「【ランキング】自動車大国中国の生産拠点都市はどこか? 〜2020年中国都市自動車産業輻射力ランキング」を参照されたい。

 長春は高等教育機関も多く立地している。吉林大学や人民解放軍航空隊航空大学が名高い。「中国中心都市&都市圏発展指数2020」大項目「文化教育」では長春は21位だが、それを構成する「高等教育指数」は15位、「世界トップクラス大学指数」は16位となっている。また、大項目「輻射能力」を構成する「高等教育輻射力」は16位である。

 高等教育機関に支えられ、長春は大項目「イノベーション・起業」を構成する「両院院士指数(「両院」は中国科学院と中国工程院を示し、両院に所属する高い研究能力を有する研究者を「両院院士」と呼ぶ。両院院士指数はその人員規模を示した指数である)」が、9位に入っている。


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