【論文】周牧之:オゾン利用で新型コロナウイルス対策を


Ozone: a powerful weapon to combat COVID-19 outbreak

周牧之 東京経済大学教授
ZHOU Muzhi Professor of Tokyo Keizai University


 2019年12月から、中国の南で重症急性呼吸器症候群(SARS)に似た感染症の流行が取り沙汰されるようになった。湖北省では年明けて2020年1月23日、同感染症を封じ込めるため省都の武漢を始め3都市がロックダウン(都市封鎖)された。その後、湖北省のほぼ全域がロックダウンとなり、中国全土においても多くの都市が封鎖された。中国国務院は2月8日、記者会見で同感染症を「新型コロナウイルス肺炎(NCP:Novel coronavirus pneumonia)と称した。2月11日には、WHOが同感染症をCOVID-19と命名した。

 筆者は1月中旬から新型コロナウイルス対策の打つ手となるオゾン研究に取り組んだ。2月18日に这个“神器”能绝杀新冠病毒をテーマとしたレポート(以下「2月周レポート」と略称する)を発表[1]、オゾンの謎を解き明かして疫病流行の収束メカニズムを探り、新型コロナウイルス対策にオゾンを利用するよう提唱した。中国の大手ネットメディアである中国網での「2月周レポート」の発表は、瞬く間に多くのメディアに転載され、新型コロナウイルス対策におけるオゾン利用に一役買うこととなった。「2月周レポート」の発表は3月11日のWHOによるパンデミック宣言より3週間早かった。

 2月26日には「2月周レポート」の英語版がOzone: a powerful weapon to combat COVID-19 outbreakのテーマで中国網英語版(China.org.cn)にて発表された[2]。そしてその日本語版も3月19日、オゾンパワーで新型コロナウイルス撲滅をと題して中国網日本語版(チャイナネット)で公表された[3]

 「2月周レポート」はメディアの性質上、注釈などの制限があったため、本論文では、この「2月周レポート」をベースに注釈を加え、最新情報をアップデートし、同レポートの仮説をさらに掘り下げて検証する。

1.地球における命の守護神

 新型コロナウイルスが武漢で爆発的に発生して以来、筆者は中国の遠大科技集団(BROAD Group)総裁、張躍氏とオゾンを利用した殺菌消毒について議論を重ねてきた[4]。張躍氏はオゾン利用による殺菌消毒を提唱する先駆者の一人である。しかし世間の反響はこれまで芳しくなかった。筆者も、オゾン利用に関する国内外専門家へのヒヤリングや関連資料の調査を通じて、オゾンについての人々の警戒心を強く感じた。オゾンに関する誤解を取り除き、コロナ禍という緊急事態に、オゾンの積極利用を進めて事態の打開をはかるため、オゾンの極めて解りにくい特性に関して、総合的な整理を試みた。

 地球大気圏約0~10数kmの最低層は対流圏と呼ばれ、そこでの温度と高度の関係は上冷下熱である。対流圏の上部には約10数~50kmの成層圏がある。成層圏では温度と高度との関係が対流圏と相反して上熱下冷である。濃度約10~20ppmのオゾン層はこの成層圏にある。

 オゾン層は地球上の生命にとっては掛け替えのない存在である。紫外線の地球上生物に危害を加える部分を、オゾン層は吸収する[5]。よって、有害な紫外線による生物細胞の遺伝子の破壊を、オゾン層は押し止め、地球上の生命に生存条件を与えている。

 オゾン層の濃度が現在のレベルに達した時期と、地球上の生命が海から上陸した時期はほぼ一致している[6]。言い換えれば、オゾン層がまだ希薄な時期、有害な紫外線を避けるため生命は海の中に潜伏せざるを得なかった。オゾン層の濃度の向上を待ってようやく陸に上がることができた。

 オゾン層の保護がなければ、地球上には微生物一つすら存在不可能であったということになる。もちろん今日の豊かな生命の繁栄もあり得なかった。

 しかし、人類の産業活動によって大量に排出されたフロンガスや揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)などが、オゾン層を破壊し[7]、人類の免疫システムを弱め、皮膚ガンや白内障などの発病率を高める被害を及ぼした[8]。オゾンホールは地球温暖化と並び、いまや地球環境問題となっている[9]。オゾン層の破壊問題は同時に、オゾンが一般大衆の視野に入るきっかけともなった。

 オゾン層はその地球生物を保護する性質に鑑み、“アース・ガーディアン”と呼ばれる。

 オゾンは、三つの酸素原子から構成され、酸素の同素体であり、特殊な匂いがする[10]。オゾンは主に太陽の紫外線が酸素分子を二つの酸素原子に分裂させ、その酸素原子がさらに酸素と結合することで作られている。

 紫外線によって作られたオゾンは、高濃度のオゾン層となり天然のバリアとして、地球上の生物を太陽光にある有害な紫外線の攻撃から守り、地球生命の繁栄をもたらしている。実に面白い関係である。

2.天上のGood Ozone,地上のBad Ozone

 オゾンは高い空の成層圏にあるだけではなく、対流圏たる我々の周囲にも存在している。酸素分子は低空で多く、高空では少ない。これに対して、酸素原子は低空で少なく、高空に多い。ゆえに、酸素分子と酸素原子がともにある成層圏に、オゾン層が高濃度で作られている。相反して地面と、オゾン層より高い場所のオゾン濃度は薄い。つまり、大気中のオゾン濃度は地面から約10kmのところより高くなり、成層圏のオゾン層で最大値となる。さらにその上空に行くと、オゾン濃度はまた急激に下がる。

 対流層のオゾン濃度は一般的に0.02〜0.1ppmである。この自然界のオゾン濃度は人類を含む大型生物には無害である。しかし、高い濃度のオゾンは人に不快感を与え、目や呼吸器官などの粘膜組織を刺激することもある。よって、アメリカ食品医薬品局(FDA)は室内環境基準のオゾン最大濃度を0.05ppmに規定している[11]。日本産業衛生学会は産業環境基準のオゾン許容濃度を0.1ppmと規定する[12]。中国衛生部(省)もオゾンの安全濃度を0.1ppmと規定している[13]

 以上のように高濃度オゾンに対する警戒感は元よりあった。加えてオゾンの悪名を轟かせたのは、光化学スモッグ汚染である。光化学スモッグは、目や呼吸器官の粘膜組織に刺激を与え、目の痛み、頭痛、咳、喘息などの健康被害を引き起こす。また植物の成長を抑制し農作物の減産をもたらす。酸性雨の原因ともなっている。

 光化学スモッグの中には一次汚染物質と二次汚染物質が混在する。一次汚染物質とは窒素酸化物 (NOx)や揮発性有機化合物(VOC)などである。一次汚染物質に紫外線が照射されることによって「二次汚染物質」にされたオゾンが発生する。光化学スモッグにおけるオゾン成分は80〜90%までにも達するが故に、光化学スモッグ汚染イコールオゾン汚染だ、と世間は捉えがちである。

    産業革命以来、大量のNOx排出により対流圏のオゾンが増加した[14]。過去100年、対流圏のオゾン全量は4倍になった[15]。とくに近年、中国を始めとする東アジアでの急速な工業化と都市化に伴い、NOxなど光化学スモッグ生成物質排出量は激増し、対流圏のオゾン増加傾向を加速させている。

 対流圏のオゾン量は成層圏の10分の1に過ぎないが、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)に次ぐ第3の地球温暖化ガスとなっている。温暖化ガスになったことで、オゾンのイメージはさらに悪化した。

 こうした様々な理由により、世間では“対流圏のオゾンは生物に有害な汚染物質である”との認識が広がった。ゆえにオゾンは“天上のGood Ozone,地上のBad Ozone”とも言われている。日本では対流圏オゾンの地球規模の越境汚染に対するモニタリングが、重要な課題となっている。

 本論文で明確にしたいのは、光化学スモッグのオゾン濃度が、対流圏の自然界での正常な濃度ではなく、人的活動の汚染排出でもたらされた非自然的な高濃度であることだ。さらに光化学スモッグのオゾンにはNOxやVOCなど有害物質が多く含まれている。これもまた自然界の澄み切ったオゾンとは全く異なっている。

 オゾン濃度は季節と地域によって高低の差異が生じるが[16]、一般的には対流圏自然界のオゾンが人体に害を及ぼすことはない。自然界のオゾンは無害であるばかりかむしろ有益である。例えば雷の高圧放電では、空気中の酸素を分裂させ、オゾンを作る。高濃度のオゾンは空気を浄化するために、雷の後、往々にして空気はより清々しいものとなる。また、晴天の海岸や森林はオゾンの濃度が高いため空気は一層清らかである。自然界のオゾンと光化学スモッグとの違いを区別しなければならない。

 対流圏のオゾンも、人類生存の守護神である。ただ我々は長い間その恩恵に対する研究と認識を欠いていた。

 対流圏自然界のオゾン濃度は、大型生物に無害であるものの、微生物にとってはスーパーキラーとなる。強い酸化力を持つオゾンは、自然界の微生物の繁殖を抑制し、地球生態バランスを保ってきた。しかし、これまで地球という生命体の中で微生物を抑制するオゾンの役割は十分には重視されてこなかった[17]

 その理由の一つは、一般的に低濃度のオゾンには殺菌作用があまり無いと考えられてきたからである。しかし、実際は、一定の暴露時間をかければ極めて低濃度のオゾンも十分な殺菌消毒力を持つことが確認できている[18]

 低濃度オゾンによる殺菌消毒効果の認識に基づき、筆者は、「自然界の低濃度オゾンが地球上の細菌やウイルスといった微生物の過度な繁殖と拡散を防いできた」と仮説する(以下「仮説1」と略称する)。

 オゾンはまた、自然界においては有害有機物を分解する。さらに、オゾンは動植物に季節の変化を知らせるシグナルであるとも考えられる。

 オゾンのこうした大切な役割から見ると、成層圏のオゾンはもちろん、対流圏のオゾンが無ければ、地球は人類の生存さえあり得ない環境であった。

 実際、オゾンは“天上のGood Ozone,地上のGood Ozone”である。人類がもたらした汚染廃棄物こそが、地上のオゾンを“Bad Ozone”に仕立て上げたのである。

3.“神の手”の仮説:オゾンは疫病を駆逐する?

 2002年冬から2003年春にかけて、SARSの大流行が社会的な大パニックを引き起こした。しかし2003年の5月〜6月になるとSARSは消え去った。

 SARSだけではなく、インフルエンザなど飛沫感染のウイルスのほとんどが秋冬に爆発し、春夏には消滅する。季節ごとにハッキリとした消長パターンが見られる。まさに見えざる“神の手”がこれらの病毒を駆逐しているが如くである。

 世界中の研究者の多くがこれまでウイルスと温度、或いはウイルスと湿度との相関関係を追ってきた[19]。しかし、これらの研究では、ウイルスと気温変化との関係が未だはっきり説明できていない。インフルエンザを例に取れば、一般的に、低温、低湿の環境ではウイルスが比較的長時間活性を保ち、温度と湿度の上昇に従いその活性が抑制されると考えられている。しかし、実験では、湿度を上げることによってインフルエンザウイルスの消滅度が上がったことが確認できた[20]。自然界での温度変化の幅はインフルエンザのウイルスにはあまり影響がなかった。実際、赤道付近では気温が最高であるにもかかわらず、インフルエンザウイルスがむしろ年中蔓延している[21]

 筆者は、上記「自然界の低濃度オゾンが地球上の細菌やウイルスといった微生物の過度な繁殖と拡散を防いできた」との「仮説1」に基づき、さらに「2月周レポート」では「酸化力を持つオゾンこそが、真の“神の手”である」と仮説を立てた(以下「仮説2」と略称する)。

 オゾン濃度は季節により変化する特性を持つ。しかも秋冬が低く、春夏に高い。気象庁のオゾン観測情報によると、オゾン全量[22]は2月から5月の間に、札幌、筑波、鹿児島、那覇と、北から南まで順にピークを迎える。北へ行けば行くほどそのピークの時期は早く訪れる。南ではピークが遅くなる[23]

 地域によってオゾンの濃度も違っている。同じ気象庁の観測情報によるとオゾン全量ピーク時の濃度は北へ行けば行くほど高い。逆に、南では濃度が低くなる。オゾン全量は緯度の変化でその分布も明らかに変化している。赤道近くではオゾン量が最も少なく、南北両半球とも中・高緯度域で多く、緯度60°付近の北方地域で最も多い。また、オゾン量は中緯度では北半球が南半球に比べて多く、とくに日本上空は多い[24]

 本来、紫外線が強いほど酸素分子の分解スピードは早い。赤道付近は太陽の照射が最大であり、オゾンは最も産出し易いはずである。しかし、オゾン濃度の変化をもたらす要素は多く、そのメカニズムも極めて複雑である。紫外線が強いほどオゾンは作り易くなると同時に、オゾン自体の分解も進む。また、オゾンの分解スピードは温度とも関係がある。温度が高いほどその分解スピードは早まる[25]。さらに、地球規模の大気環流も無視できない。その土地で作られたオゾンが他地域に運ばれることもあり得る。

 対流圏オゾンの大半は成層圏のオゾン層から来ている。同時に植物の光合作用が生むオゾンの量や、雷で作られるオゾン量、人類の産業活動が排出するNOxとVOCの量、そして火山噴火によるオゾン破壊なども対流圏のオゾン濃度に影響を与える。

 要するに、酸素分子と原子の奇妙な集合離散によって左右されるオゾン濃度は、秋冬が低く春夏に高いリズムを持つ。また、温度が高いほど、オゾンの分解速度は早まる。さらに、湿度も重要で、湿度はオゾンのウイルスを不活化するパワーを高める。乾燥状態ではオゾンのウイルス不活化力は劇的に落ちる[26]

 よって筆者は大胆に「オゾンこそが、真の“神の手”である」「仮説2」を立てた。つまり季節が冬から暖かくなるにつれ、オゾン濃度は高まり、空気の湿度も増すと同時に、オゾンは“神の手”となって疫病を駆逐する。

 さらにこの仮説を厳密に説き明かすと、ウイルスを抑える主力は季節変化の中で高まるオゾンであり、上昇する温度と湿度はこれの威力をさらに高める。オゾン、温度、湿度の三者は相まってウイルスという病魔を駆逐する。勿論、紫外線も微生物の一大キラーであり、室外の細菌病毒を死滅させる重要なファクターである。

 新型コロナウイルスの大流行によるパンデミックはいつ収束するのか。これがいま、世界の最大の関心事となっている。経済活動の復興や、社会の緊張緩和はこれにかかっている。もし、「仮説2」が成立すれば、今回の新型コロナウイルスもSARSやインフルエンザと同様、季節の変化によるオゾン濃度の向上によって消え去ると、「2月周レポート」は希望的観測をした。

 しかし、夏が過ぎたいまも、新型コロナウイルスは未だ我々を苦しめ続けている。これは恐らく、新型コロナウイルスがSARSと比べ、オゾン濃度が上がる前に地球規模に蔓延したことと関係しているのではないか。但し、実際中国や日本の状況で見ると夏に入ってから新型コロナウイルスの猛威は大分衰えた。自然界のオゾン濃度の高まりが一役買ったことは間違いないだろう。

 「2月周レポート」では、大胆な仮説は精密な立証を必要とするとして、上記の仮説に対して学者、専門家に様々な角度から検証及び批評を呼びかけた。

4.有人空間でのオゾン利用へ

 オゾンは自然界の病毒の駆逐者であるばかりでなく、近代以来、人類にもその強い酸化力を活かし、消毒、殺菌、除臭、解毒、漂白などの分野で広く活用されてきた。

 オゾンは、今回の地球規模でのコロナウイルスとの戦いの中でも活かされるべきである。しかもオゾンには以下の三つの特性がある。

 ①死角無く充満:オゾン発生機などから作られたオゾンは、室内に充満し、空間のすべてに行き届く。その消毒殺菌の死角は無い。これに対して、紫外線殺菌は直射であるため死角が生じる。

 ②有害残留物が無い:オゾンはその酸化力を持って細菌と病毒を消滅させる。有害の残留物は残さない。相反して現在広く使用されている化学消毒剤は人体そのものに有害であるばかりでなく、有害残留物による二次汚染も引き起こす。中国での疫病対策の中で、すでに消毒剤の濫用による深刻な問題がもたらされた。

 ③利便性:オゾンの生成原理は簡易で、オゾン生産装置の製造は難しくない。また、オゾン発生機のサイズは大小様々あり、個室にも大型空間にも対応できる。設置が簡単なためバス、鉄道、船舶、航空機などにも設置が可能である。

 オゾンの殺菌消毒効果は、オゾン自体の濃度だけでなく環境の温度、湿度そして暴露時間とも関係する。さらに、ウイルスの種類とも一定の関係を持つ。

新型コロナウイルスに有効か否かについては、「2月周レポート」の時点では、直接の実験は未だ無いものの、下記の類似の実験で推測した。

 2003年、北京工業大学教授で中国オゾン産業連合会技術委員会の専門家、李澤琳教授が中国国家P3実験室で行ったオゾンによるSARSウイルスの不活化実験結果によると、オゾンはSARSウイルスに対して強い不活化効果があり、総合死滅率が99.22%に達した(以下「李実験」と略称する)[27]。今回の新型コロナウイルスは、SARSウイルスと同様にコロナウイルスに属している。新型コロナウイルスのゲノム序列の80%はSARSウイルスと一致しているという[28]。よって、「2月周レポート」ではオゾンが新型コロナウイルスに対しても相当の除染力を持つことが推理できた。

 自然界でのオゾンの殺菌消毒パワーに関する上記の仮説や、「李実験」の結果などを踏まえ、「2月周レポート」は、「自然界と同じレベルの低濃度のオゾンであっても新型コロナウイルスに対して相当の不活化力を持つ」との仮説を立てた(以下「仮説3」と略称する)。この仮説に基づき、「2月周レポート」では、オゾンは新型コロナウイルスを駆逐し、空気を浄化させ得るとし、広く有人空間で使用するよう提唱した。

 ウイルスに対して、オゾンは非常に優れた除染消毒のパワーを持つが、個人差はあるものの一定の濃度に達した場合に人々に不快感を与え、また、粘膜系統に刺激を与えることもある。そのため、これまで、主に無人の空間で使用されている。これに対して、「仮説3」に基づく低濃度オゾンによる有人環境での利用が、病院、職場、公共空間、公共交通機関、住宅の室内に行き渡れば、ウイルス対策にとって大きな福音になると言えよう。

 コンクリートジャングルの大都市では、そもそもオゾン濃度は低い[29]。人が集まる室内ではなおさらそうである。コロナウイルスが世界的に蔓延している現在、有人空間でのオゾン利用こそ究極の「3密問題」[30]解消対策である。

5.新型コロナウイルス対策におけるオゾン利用と課題

 深刻な病床不足を解消するために、武漢は国の支援で迅速に専門治療設備の整う火神山病院と雷神山病院といった重症患者専門病院を建設し、前者で1,000床、後者で1,600床の病床を確保した。このほかに、武漢は体育館を16カ所の軽症者収容の「方艙病院」へと改装し、素早く1万3,000床の抗菌抗ウイルスレベルの高い病床を提供し、軽症患者の分離収容を実現させた。

 遠大科技集団は火神山病院、雷神山病院、そして方艙病院をはじめ武漢の多くの病院にオゾン発生機能付き空気清浄機を寄付した[31]。特記すべきは、武漢青山方艙病院、武漢楠姆方艙病院に、オゾン発生機能付き空気清浄機を大量に寄付し、病院を開業すると同時に稼働させたことである。体育館などを改装して作られた方艙病院は、大部屋に大勢の患者と医療従事者を集中させているため、院内感染の危険性が極めて高かった。しかし、上記の二つの方艙病院の医療従事者に感染者は出なかった[32]。オゾンが大きな役割を果たしたと思われる。

 新型コロナウイルス感染拡大の初期、同ウイルスの性質への認識を欠き、マスク、防護服、隔離病棟などの資材不足がこれに重なり、医療従事者は高い感染リスクに晒された。これにより武漢では現場の医療人員の感染による減員状態が大量に起こった。そのために中国全土から大勢の医療従事者が武漢を含む湖北省へ駆けつけた。救援に当たった医療従事者は最終的に4万2,000人に達した。幸いにしてこれら応援医療従事者の中から感染者は出なかった。オゾンによる殺菌作用により院内感染が防げられたことが一役かったと思われる。

 オゾン利用の普及にとって最大の課題は、オゾンに対する正しい理解を広めることである。

 2020年3月8日、遠大科技集団は韓国から、オゾン消毒殺菌機能を持つ空気清浄機付きコロナウイルス対策用救急病院の建設を依頼された。その後、遠大の中国工場で作られた緊急病院は、韓国の現地へ運ばれて組み立てられ、4月6日には使用可能となった。しかし、韓国の現場ではオゾン使用に抵抗が強く、結局空気清浄機に付属のオゾン発生機能をOFFすることとなった。こうしたことから伺えるように、オゾンの活用へのハードルはまだ高く、人々にオゾンの安全性を説明する努力が欠かせない。

 9月1日、東京・上野旅館組合の要請を受けて筆者は、台東区上野区民館にて「武漢に学ぶ 今私たちに出来ること」と題した講演会を行った[33]。ホテルやレストランの経営者に対して、オゾンの知識及び新型コロナウイルス対策における活用の可能性について話した。講演会終了後、45枚のアンケートを回収した。「オゾンについて理解を深められたか」の設問に対して、40人が「はい」と答えた。オゾン利用についても説明努力すれば理解が得られるとの感触が得られた。新型コロナウイルスパンデミックが作り上げた緊迫感はオゾンに関する偏見を払拭し、有人環境でのオゾン利用という新しい技術進路を開拓する好機として捉えられよう。

6.低濃度オゾンで新型コロナウイルス不活化を確認

 「2月周レポート」発表から約3カ月後の2020年5月14日に、公立大学法人奈良県立医科大学は、同大学の矢野寿一教授(微生物感染症学)、笠原敬センター長(感染症センター)とMBTコンソーシアム(感染症部会会員企業:クオールホールディングス株式会社、三友商事株式会社、株式会 社タムラテコ、丸三製薬バイオテック株式会社)との研究グループが、世界で初めてオゾンガス曝露による新型コロナウイルスの不活化を確認した(以下「矢野・笠原実験」と略称する)と公表した[34]

 「矢野・笠原実験」は、「2月周レポート」で出された三つの仮説の前提である「オゾンが新型コロナウイルスを不活化できる」とのエビデンスを提供した。但し、「矢野・笠原実験」に使われたオゾン濃度は、6ppmと1ppmと高く、無人状況でのオゾン利用を想定している。

 「2月周レポート」の発表から半年後の2020年8月26日に、学校法人藤田医科大学は、同大学の村田貴之教授(ウイルス・寄生虫学)らの研究グループが、低濃度(0.05 ppmまたは0.1ppm)のオゾンガスでも新型コロナウイルスに対して除染効果があるということを、世界に先駆けて実験的に明らかにした(以下「村田実験」と略称する)と、リリースした[35]

 「村田実験」は、自然界と同じレベル濃度のオゾンであっても新型コロナウイルスに対して相当の不活化力を持つという「2月周レポート」の「仮説3」にとって貴重なエビデンスである。

 さらに「村田実験」は、湿度が上がれば、オゾンの新型コロナウイルスに対する除染効果が向上する実験結果を出したことから、「2月周論文」の「仮説2」で、湿度の向上がオゾンによるウイルス不活化力を高めるとした説に、新型コロナウイルスでのエビデンスを提供した。 

 こうした貴重なエビデンスが揃ったことは、有人環境でのオゾン利用による新型コロナウイルス対策に、大きな後押しとなった。

7.高精度かつ安価なオゾンセンサーの開発がカギ

 しかし、有人環境でのオゾン利用による新型コロナウイルス対策の、本格利用には、もう一つの決め手が必要である。それは、低いレベルのオゾン濃度をコントロールするセンサーである。

 自然界に近い濃度のオゾンを室内に取り入れる場合、人々に不快感を与えることはない。しかし新型コロナウイルスに一定の不活化力を持ちながら、なお人体に影響を及ぼさないよう室内のオゾンの濃度を、例えば「村田実験」同様の0.05ppm〜0.1ppm[36]のレベルに維持させるのは、困難である。オゾンは極めて不安定な性質を持つために、一定の濃度にコントロールするには常に濃度を高精度に測る必要がある。問題は目下、低い濃度のオゾンを高精度に測定するオゾンセンサーが大変高価なことである[37]。高精度のオゾンセンサーが容易に使えないため、安くて低濃度オゾンをコントロールできる普及型のオゾン発生機は未だ世に出ていない。

 もし安価でオゾン濃度を安全にコントロールできれば、オゾン利用は容易に世間に受け入れられ、有人空間におけるオゾン利用も一気に進むであろう。精度を高く保ちながらなお安価なオゾンセンサーの開発に、喫緊の課題として取り組むべきである。もちろん、新型コロナウイルスの脅威に晒されている今現在、安くて正確なセンサーが無くても、さまざまな工夫でオゾンの室内利用を広めていくことが急務である。

 オゾンと微生物との関係は、地球生命体の絶妙なバランスを表している。もしオゾン層の保護が無ければ、ウイルスや細菌などの微生物は存在しえなかった。他方、オゾンの強い酸化力もウイルスの天敵である。人類は未だオゾンに対する認識が不十分である。筆者はオゾンに対する偏見と過度な警戒心を捨て、オゾンにまつわる数々の謎を解き明かし、オゾンの特性を十分に理解し、活かしていくべきであると考える。とりわけこの新型コロナウイルスとの戦いの中では、オゾンの力を十分に発揮させていくことが急務である。


[1] 周牧之「这个“神器”能绝杀新冠病毒」、中国網(China.com.cn)、2020年2月18日(http://opinion.china.com.cn/opinion_84_217684.html)。

[2] Zhou Muzhi, “Ozone: a powerful weapon to combat COVID-19 outbreak” In China.org.cn, 26 February 2020(http://www.china.org.cn/opinion/2020-02/26/content_75747237.htm)。

[3] 周牧之「オゾンパワーで新型コロナウイルス撲滅を」、In Japanese.China.org.cn、2020年3月19日(http://japanese.china.org.cn/business/txt/2020-03/19/content_75834590_2.htm)。

[4] 張躍氏は1988年に遠大科技集団(BROAD Group)を創業し、同社を世界最大手の非電力エアコンメーカーに育て上げた中国を代表とする企業家。2020年1月中旬から筆者が同氏とオゾンに関する議論をオンラインで日夜重ねてきた。

[5] 紫外線は波長によりUV-A(315~400nm)、UV-B(280~315nm)、UV-C (<280nm)に区分され、特に生物に強い害を与えるUV-Bの大部分とUV-Cのすべてがオゾン層によって吸収される。

[6] いまから約28億年前、地球上に原始的な植物(ランソウ類)が発生し光合成が始まった。光合成により大気中の酸素濃度が増加し、今から約4億年前にオゾン層が形成され、生物は水の保護なしで陸上生活ができるようになった。これについて詳しくは、秋元肇「フロンガスと成層圏オゾン」、日本化学会『化学と教育』、36巻6号、1988年12月20日、pp.554-557を参照。

[7] 「人間活動によって塩素原子や臭素原子を含有するオゾン層破壊物質が排出されているこれらの物質の多くは、非常に安定して反応性がなく、雨や海水にも溶解しないため、大気中の寿命が極めて長く、下層の対流圏大気中に蓄積する(大気中寿命の短いものは一部が大気中に蓄積する)。これらは非常にゆっくりではあるが大気の運動を通じて成層圏に輸送され、そこでオゾン層で遮蔽されない短波長の太陽紫外線によって分解され、反応性の高い物質に変換される。生じた反応性物質が、成層圏オゾンを連鎖反応により破壊する」。「第2部 特定物質等の大気中濃度」、環境省『平成30年度オゾン層等の監視結果に関する年次報告書』、2019年8月、p91より抜粋。

[8] 「一般的に、紫外線は波長が短いほど生物に対する有害作用が大きいが、UV-Cは大気圏上部の酸素分子及び成層圏のオゾンによって完全に吸収されてしまうため、オゾン量が多少減少しても地表面には到達せず、生物に対して問題にはならない。また、UV-A の照射量はオゾン量の変化の影響をほとんど受けない。UV-B については、最近の知見によれば、成層圏オゾンが1%減少した場合、特定の太陽高度角(23度)において、約1.5%増加するという結果が得られている。UV-B は、核酸などの重要な生体物質に損傷をもたらし、皮膚の老化や皮膚がん発症率の増加、さらに白内障発症率の増加、免疫抑制など人の健康に影響を与えるほか、陸域、水圏生態系に悪影響を及ぼすことが懸念される」。「第3部 太陽紫外線の状況」、環境省前掲報告書、p.139より抜粋。

[9] 米カリフォルニア大学ローランド教授とモリーナ博士により1974年、クロロフルオロカーボン(CFC)がオゾン層を破壊すると初めて指摘された。これを機にオゾン層保護の取組が進められ、1985 年には「オゾン層保護のためのウィーン条約」が、1987年には「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」が採択され、主要なオゾン層破壊物質の生産量・消費量が期限を定めて削減されてきた。2016年にはオゾン層破壊物質でないものの高い温室効果を有する代替フロン(HFC)が、段階的削減の対象物質に追加される改正が合意された。改正議定書は 2019年1月1日に発効した。オゾン層保護対策に関する国際的取り組みの経緯について詳しくは、「第4部 巻末資料 1-3. 国際的なオゾン層保護対策」、環境省前掲報告書、pp.188-192を参照。

[10] オゾン( ozone)は、3つの酸素原子からなる酸素の同素体で、分子式はO3。沸点は−111.9℃で、酸化力が強く、常温では特有の臭いを持つ無色の気体である。

[11] FDA以外にも、アメリカ政府は、オゾン暴露の基準または推奨濃度を定めている。アメリカ連邦環境保護庁(USEPA)のホームページに各基準をまとめた表が掲載されている。これについて詳しくは、「Ozone Generators that are Sold as Air Cleaners」、アメリカ連邦環境保護庁(USEPA)HP(https://www.epa.gov/indoor-air-quality-iaq/ozone-generators-are-sold-air-cleaners、最終閲覧日:2020年9月7日)を参照。

[12] オゾン許容濃度の勧告年度は1963年と古く、以来改定されていない。詳しくは、「許容濃度等の勧告」、日本産業衛生学会『産業衛生学雑誌』、61巻5号、2019年5月12日、p.172を参照。

[13] 中国国家衛生部(省)『臭氧発生器安全与衛生標准』、2011年12月30日。

[14] 産業革命以来の対流圏オゾンの増加は、特に南半球に比べて北半球の方が遙かに大きく、対流圏オゾンは北半球ではCH4を凌駕する第2の温室効果気体と成り得るまで増加してきたと報告されている。これについて詳しくは、秋元肇「気候変化と大気環境」、大気環境学会『大気環境学会誌』、44巻6号、2009年12月10日、p.398を参照。

[15] 過去100年間のうちにオゾン濃度が約10 ppbvから、約45ppbvまで増加しているとの報告がある。詳しくは、Alain Marenco, Hervé Gouget, Philippe Nédélec, Jean-Pierre Pagés, Fernand Karcher,“Evidence of a long-term in- crease in tropospheric ozone from Pic du Midi data series: Consequences: Positive radiative forcing”, in Journal of Geophysical Research , Vol.99, 20 Aug 1994, pp.16617-16632を参照。

[16] 太陽紫外線照射の変化やオゾンの大気中輸送メカニズムなどが原因で、緯度・経度や季節によってオゾン量は違う。これについて詳しくは、 環境省前掲報告書「第1部 オゾン層の状況」、pp9-13を参照。

[17] 対流圏自然界のオゾンに関してその役割をポジティブに捉える学術論文や論説は希少である。学術的ではないがエコデザイン株式会社HP(https://www.ecodesign-labo.jp/ozone/ozone/、最終閲覧日:2020年9月6日)に対流圏オゾンに関するポジティブな解説があり貴重である。

[18] 0.025ppm低濃度オゾン暴露によって、浮遊ウイルスの除去効果が認められた報告がある。これについて詳しくは、中室克彦、岡上晃、津田浩司「小型低濃度オゾン発生器による浮遊ウイルスの除去効果」、日本医療・環境オゾン学会『日本医療・環境オゾン学会会報』、22巻3号、2015年8月、pp.73-77を参照。また、ホウレンソウ、レタス、イチゴなどの野菜について、低濃度オゾンによる殺菌・防カビ効果が報告されている。これについて詳しくは、池田彰、河相好孝、江崎謙治、中山繁樹「低濃度オゾンによる低温貯蔵時の野菜の殺菌」、日本生物環境工学会『植物工場学会誌』、10巻4号、1998年12月1日、pp.237-242を参照。

[19] インフルエンザウイルスの流行と季節の関係は相対湿度よりも絶対湿度が相関するとの報告がある。詳しくは、庄司眞「季節とインフルエンザの流行」、国立保健医療科学院『公衆衛生研究』、Vol.48(4)、1999年12月、pp.282-290を参照。また、インフルエンザウイルスの感染率や生存率についての実験結果から、絶対湿度が低いとき、インフルエンザウイルスの生存期間は延長し、感染率が上昇するとの報告もある。詳しくは、Jeffrey Shaman, Melvin Kohn,“Absolute humidity modulates influenza survival, transmission, and seasonality”, in Proc Natl Acad Sci USA, Vol.106, 10 Mar 2009, pp.3243-3248を参照。

[20] オゾンは湿度の影響を受けやすく、低湿度環境下で除染効果率(除染能)が低下するとの報告がある。詳しくは、Miei Sakurai, Ryoji Takahashi, Sakae Fukunaga, Shigefumi Shiomi, Koji Kazuma, Hideharu Shintani,“Several Factors Affecting Ozone Gas Sterilization”,in Biocontrol Science, Vol.8(2), 10 Jun 2003, pp.69-76を参照。

[21] インフルエンザは「北半球では12-3月、南半球では6-9月頃に流行がピークとなる。赤道周辺では明瞭なピークを形成せず、通年性に発生する」、川名明彦「インフルエンザ(季節性)」(2019年7月23日)、日本感染症学会HP(http://www.kansensho.or.jp/ref/d04.html、最終閲覧日:2020年9月6日)。

[22] オゾン全量とは、地表から大気上端までの鉛直気柱に含まれるすべてのオゾンを積算した総量のことで、単位のm atm-cm(ミリアトムセンチメートル)は、その総量を仮に0℃、1気圧の地表に集めたときの厚さを表す。

[23] 気象庁オゾン観測点のデータについて詳しくは、「オゾン層に関するデータ」、気象庁HP(https://www.data.jma.go.jp/gmd/env/ozonehp/info_ozone.html、最終閲覧日:2020年9月7日)を参照。

[24] オゾン量の地球規模の分布について詳しくは、「第1部 オゾン層の状況」、環境省前掲報告書、p.11を参照。

[25] オゾンの半減期は、温度の他に、相対湿度、気流にも依存すると報告されている。詳しくは、「気体オゾンの自己分解速度実測値」、関西オゾン技術研究会『技術ノート』、No.17、2012年7月8日、pp.1-4を参照。

[26] オゾンガスを用いた室内環境除染について、相対湿度の上昇に伴い殺滅対象となるウイルスの死滅率が高まるという報告がある。詳しくは、佐藤浩、渡辺洋二、宮田博規「オゾンによる実験動物ウイルスの不活化」、日本実験動物学会『Experimental Animals』39巻2号、1990年4月1日、pp.223-229を参照。

[27] 李澤琳教授が行ったオゾンによるSARSウイルスの不活化実験について詳しくは、『北京日報』、2003年11月6日付記事を参照。

[28]「新型コロナウイルスの遺伝子はSARSコロナウイルスの遺伝子と相同性が高い(約80%程度)」、松浦善治、神谷亘「新型コロナウイルス感染症について」(2020年2月10日)、日本ウイルス学会HP(http://jsv.umin.jp/news/news200210.html、最終閲覧日:2020年9月6日)。

[29] オゾン濃度は季節性があり、また、高度、気象、観測点近くの地形によって大きく左右されることが報告されている。マウナロワ(ハワイ)、アロサ(スイス)、ロンドン、東京のオゾン濃度比較を行い、マウナロワやアロサに比べ、ロンドン、東京のオゾン濃度が低いことを示した調査報告がある。なお、都市部においては、自動車排気ガスのなどの影響により局部的にオゾン濃度が高い地域が発生する。これについて詳しくは、川村清「大気オゾンの生成機構, 地表面のオゾン濃度とその測定方法」、日本ゴム協会『日本ゴム協会誌』、40巻4号、1967年4月15日、pp.262-269を参照。

[30] 「3つの密(3密)」とは2020年3月、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大期に集団感染防止のため厚生労働省クラスター対策班が掲げた標語。密閉・密集・密接を避けることを、日本政府は新型コロナウイルス感染拡大の予防策として掲げた。

[31] 武漢青山方艙病院と武漢楠姆方艙病院に、寄付および購入された遠大科技集団のオゾン発生機能付き空気清浄機は合わせてTB100(オゾン発生能力1g/h/台)が22台、TA2000(オゾン発生能力7g/h/台)が35台、TD5000(オゾン発生能力14g/h/台)が12台であった。

[32] 遠大科技集団の担当責任者へのヒアリングによる。

[33] 上野旅館組合の渡辺定利組合長は、コロナ禍でホテル業界が集客困難という大打撃を受けている中で、オゾンによる新型コロナウイルス対策に活路を見出したいとして筆者に協力を求めた。2020年9月1日の講演会はこの流れの一環として開催された。講演会の様子は同9月20日『台東区民新聞』1面参照。その後ホテル業界関係者へのオゾン普及の講演会は3度に渡って開かれた。

[34] 「矢野・笠原実験」について詳しくは、奈良県立医科大学プレスリリース(http://www.naramed-u.ac.jp/university/kenkyu-sangakukan/oshirase/r2nendo/documents/press_2.pdf 、最終閲覧日:2020年9月6日)を参照。

[35] 「村田実験」について詳しくは、奈良県立医科大学プレスリリース(https://www.fujita-hu.ac.jp/news/j93sdv0000007394.html、最終閲覧日:2020年9月6日)を参照。

[36] 「村田実験」がオゾンの濃度を0.05ppm〜0.1ppmとしたのは、恐らく日本産業衛生学会が産業環境基準のオゾン許容濃度を0.1ppmと規定しているのを意識してのことであろう。Withコロナ時代に鑑み、オゾンの新型コロナウイルスに対する不活化力を一層高めるため、こうした基準もある程度緩和することが肝要であろう。

[37] アメリカの2B Technologies社のオゾンセンサーは精度が高いものの、高価である。例えば、同社製品の紫外線吸収式オゾンモニターPOM、紫外線吸収式オゾン計 Model 106-Hの日本販売価格は、各々1,120,000 円と960,000 円である。オゾン利用の普及には適さない価格となっている。


周牧之「オゾン利用で新型コロナウイルス対策を」、『東京経大学会誌 経済学』 307号、2020年12月2日

【メインレポート】周牧之:大都市圏発展戦略

周牧之 東京経済大学教授

1. 21世紀の中国経済発展と都市化


(1)二大エンジンで大発展を促進

 中国40年の改革開放は、WTO加盟を境に概ね2つの段階に分けることができる。第一段階は、一方で計画経済から市場経済への制度改革に取り組み、その一方で国際市場への輸出に努めた。だが、中国製品には西側諸国による高い関税の壁が立ちはだかっていた。

 長年の交渉を経て2001年、中国はWTO加盟でついに国際自由貿易体制に入った。国際市場の門戸が中国に向かって大きく開かれた。世界自由貿易体制への参入許可が中国で巨大なエネルギーを生み出した。中国は一瞬にして「世界の工場」となり、世界No.1の輸出大国に躍進した[1]

 WTO加盟までの改革開放第一段階では、中国経済の歩みは困難を極めた。しかし、WTO加盟を機に、中国は一気に大発展の第二段階へ踏み出した。力強い輸出工業の発展が、中国経済を飛躍させた一つ目の原動力となった。

図1 主要国家輸出規模拡大の比較(2000-2019年)
出典:国連貿易開発会議(UNCTAD)データより作成。

 WTO加盟までの改革開放第一段階では、中国経済の歩みは困難を極めた。しかし、WTO加盟を機に、中国は一気に大発展の第二段階へ踏み出した。力強い輸出工業の発展が、中国経済を飛躍させた一つ目の原動力となった。

 図1が示す通り、2000年から2019年までに世界の輸出総額は1.9倍に膨れ上がった。主要諸国の内訳は、ドイツの輸出が5,504億米ドルから1兆4,892億米ドルへと2.7倍になった。アメリカの輸出は7,819億米ドルから、1兆6,456億米ドルとおよそ倍額になった。フランス、イギリス、日本はそれぞれ74%、65%、47%アップした。これらの先進工業国と比べ、中国は2000年にはまだ2,492億米ドルだった輸出額が、2019年には10倍規模に当たる2兆4,990億米ドルへと膨張した。成長速度にしても拡張規模にしても他国にはおよびもつかない凄さだった。改革開放が解き放った活力と、WTO加盟とが組み合わさったことで、中国には巨大な国際貿易ボーナスがもたらされた。

 輸出工業の猛烈な発展により、中国沿海地域に著しい都市化の波が押し寄せた。

 21世紀に入り、中国経済大発展をもたらした2つ目の原動力が急激な都市化である[2]。新中国建国以来、長期にわたってアンチ都市化政策を取ってきたため、人口移動を制限する戸籍制度、および都市空間の拡張を制限する土地利用制度が厳格に実行されてきた。これらの政策は長きにわたり人口の都市化率を低く抑え、同時に都市の空間的拡大を厳しく制限した。改革開放初期でも、中国政府はなお都市化に対して保守的な態度を取ってきた。政策的には、まずは農民に村での「郷鎮企業」[3]興しを勧め、これに続いて「小城鎮政策」[4]を推進し、農民の大都市への流入阻止を図った。

 2001年9月、中国国家発展改革委員会と国際協力事業団などの主催の「中国都市化フォーラム—メガロポリス発展戦略」が上海と広州で相次いで開催された[5]。筆者は基調報告で、「都市化が中国現代化の主旋律であり、大都市圏、メガロポリスが中国都市化の重要な戦略として位置づけられるべきである」と提言した[6]

 これで一挙に「都市化」、「都市圏」、「メガロポリス」が世論の注目を浴び、これまで封じ込められていた中国における都市化問題の議論を一気に解き放った。

 その後、一貫して都市化問題は中国の政策議論の焦点となった。2006年に第11次五カ年計画では「メガロポリス発展戦略」が打ち出され[7]、「メガロポリスを都市化の主要形態とする」方針を明確にし、中国の急速な都市化の引き金となった[8]

図2 主要国都市人口推移の比較(2000年−2019年)
出典:国連データより作成。
図3 主要国都市化率変化の比較(2000年−2019年)
出典:国連データより作成。

 その結果、図2が示すように、2000年に4億6,000万人だった中国の都市人口は、2019年になって8億5,641万人にまで押し上げ、ほぼ倍増した。図3が示すように、中国の都市化率も2000年の36.2%から2019年には60.3%にまで膨れ上がった。

図4 主要国実質GDP成長の比較(2000年−2018年)
出典:国連データより作成。

 輸出と都市化の二大エンジンに引っ張られ、中国経済は奇跡的な大発展を遂げた。2019年、中国のGDPは99兆865億人民元(約14兆1,400億米ドル)を超え、1人当たりGDPも1万米ドルを超えた。

 図4に示したように、2000−2018年の間で、アメリカ、イギリスの実質GDPはともに40%拡大した。ドイツ、フランスの経済規模はともに25%、日本は15%拡大した。これに対して、この間、中国の実質GDPは4.8倍にもなった。中国はアメリカに代わり、世界経済発展に貢献する最大の国となっ[9]。中国経済に牽引され、同時期、世界の実質GDPは70%拡大した。

図5 中国経済&都市化の主要指標(2000年−2018年)
注:CO2排出量は2000−2017年のデータである。
出典:国連、国際エネルギーセンター、〈中国都市総合発展指標2018〉データにより作成。

(2)高速発展の粗放性

 図5が示すように、2000年−2017年、中国のアーバンエリア(Urban Area)[10]は93%も拡大した。この間、中国の人口は10%増えたものの、DID (Densely Inhabited District:人口集中地区)[11]人口は20%しか増えなかった。これらのデータは中国のアーバンエリアが急激に膨張したのに対して、高密度人口の集積が大幅に遅れていたことを示している。すなわち、中国ではこの間、人口の都市化が土地の都市化に遠く及ばなかった。

 猛スピードかつ低密度の都市化は、中国における都市発展のスプロール化と経済発展の低効率化を招いた。

図6 主要国のGDP単位当たり二酸化炭素排出量変化の比較(2000年−2017年)
出典:国際エネルギー機関データにより作成。

 中国都市化のこうした問題を二酸化炭素の排出量で分析すると、図6が示すように、2000年−2017年、中国のGDP単位当たり二酸化炭素排出量は29%下がったものの、なおフランスの9倍、イギリスの7.6倍、日本の5.5倍、ドイツの5.2倍、エネルギー大量消費国アメリカの3.7倍であることがわかる。全世界においては2.4倍であることが報告されている。

 さらに注目すべきは、図7が示すように同時期、先進国の1人当たり二酸化炭素排出量は大幅に下がったにもかかわらず[12]、中国人の1人当たり二酸化炭素排出量が逆に2.7倍になったことである。今日、中国の1人当たり二酸化炭素排出量はすでにフランスとイギリスを超え、ドイツと日本の水準に近づいている。

図8 主要国二酸化炭素排出量変化の比較(2000年−2017年)
出典 : 国際エネルギー機関データにより作成。

 図8で明らかなように、2000−2017年、中国の二酸化炭素排出量は約3倍の規模に拡大した。一次エネルギーの石炭への過度な依存と粗放的な発展により中国は、アメリカを超えて世界最大の二酸化炭素排出大国となった。2017年、中国の二酸化炭素排出量はアメリカの1.9倍、日本の8.2倍、ドイツの12.9倍、イギリスの25.8倍、フランスの30.2倍にも達した。

 中国での著しい大気汚染は、中国の人々の健康を蝕むだけではなく、地球温暖化を加速させている。

 人口、そしてGDPに対する二酸化炭素排出量は、産業水準、生活水準およびインフラ水準を反映する。上記の二酸化炭素排出量に関する分析で、中国の際立つ二酸化炭素排出量は、その急速な発展が極めて粗放的であることが明らかになった。中国経済を質の高い発展へとどう転換させるかが、今後中国の都市化の最大の課題となる。産業構造、人口構造、空間構造、そして生活品質の向上を図っていかなければ、中国都市のさらなる発展は成し得ない。

 

2. 中国都市発展の趨勢:集中と分化


 中国の都市発展には今日、集中と分化というトレンドが非常に明確に表れている。各種機能がトップの都市に高度に集中する現象が日増しに突出し、その機能が高度であるほど集中傾向が強い。

 本報告では〈中国都市総合発展指標2018〉を用いて、12の重要指標で集中度について分析し、中国都市における集中と分化のトレンドを検証した。

図9 GDPランキングトップ30都市

(1)GDPランキングトップ30都市

 図9が示すように、中国298地級市以上の都市のGDPランキングで、トップ10位都市は、上から順番に上海、北京、深圳、広州、重慶、天津、蘇州、成都、武漢、杭州であり、このトップ10都市のGDP総額が全国のそれに占める割合は、23.6%である。さらに同ランキングトップ30都市のGDP総額の全国に占める割合は、43.5%にも達している。

 トップ10%の都市は全国の4割以上のGDPをつくり出し、中国経済発展がGDPランキングトップ30都市に高度に依存していることは明らかである。

 GDPにおけるこうした集中は特定の都市に見られるばかりでなく、地域的にはメガロポリスへの傾斜も顕著である。京津冀、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスの全国GDPに占める割合は、8.6%、19.8%、9.0%であり、三大メガロポリスの全国に占めるその割合は37.4%に達している。三大メガロポリスの中国経済発展を牽引する構造は明確である。

図10 DID人口ランキングトップ30都市

(2)DID人口ランキングトップ30都市

 図10が示す通り、中国298地級市以上の都市のDID人口ランキングで、トップ10都市は、上から順に上海、北京、広州、深圳、天津、重慶、成都、武漢、東莞、温州である。トップ10都市のDID総人口が全国のそれに占める割合は、22.8%である。さらに同ランキングトップ30都市のDID総人口は全国の43.2%に上る。つまり、DID人口ランキングのトップ10%の都市に、中国全土の4割超のDID人口が集中している。

 三大メガロポリスで見ると、京津冀、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスが全国DID人口に占める比重は各々、7.9%、17.1 %、9.3%に達し、三大メガロポリスの中国全土に占める割合は34.3%と極めて高い。

 中国298地級市以上の都市のGDPとDID人口の相関関係を分析すると、両者の間には高度な相関関係が存在することが分かった。その相関係数は0.93にも達し、いわゆる「完全相関」の関係を示している[13]。しかも、GDPおよびDID人口の両指標ランキングトップ30都市と比較すると、26都市もが重複している(順序不同)。これらの分析結果はGDPにとってのDID人口の重要性を表しており、今後、中国の都市発展については、DID人口の規模と質とを注視すべきであることを示している。

図11 メインボード上場企業ランキングトップ30都市

(3) メインボード上場企業ランキングトップ30都市

 上海、深圳、香港の三大証券取引所のメインボードでの上場企業数ランキングトップ3位の都市は、図11が示すように、上から順に上海、北京、深圳である。この3つの都市の上場企業総数の、全国のそれに占める割合は39.6%に及ぶ。ランキングトップ30都市の上場企業総数となると全国のそれの69.7%にも達する。すなわち今日、上場企業ランキングトップ10%の都市に、全国の上場企業の7割が集中していることになる。

 三大メガロポリスで見ると、京津冀、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスが中国の上場企業数に占める割合は、各々15.9%、28%、10.3%に達し、三大メガロポリスの中国全土に占める割合は54.2%と極めて高い。三大メガロポリスに全国の半数以上の上場企業が集中している。

 上場企業が大都市、とりわけ中心都市に高度に集中する傾向は極めて強い。

図12 フォーチュントップ500中国企業ランキングトップ28都市

(4) 「フォーチュントップ500」入り中国企業ランキングトップ28都市

 今から30年前の1989年、「フォーチュントップ500」ランキング内に入った中国企業は僅か3社であった。しかし2018年、中国は105の企業がランクインを果たし、その数はアメリカの126社に迫る第2位であった。特に注目を浴びたのはランキングトップ10に中国企業が3社も入ったことであった。

 図12が示すように、「フォーチュントップ500」にランクインした中国企業は28都市に分布しており、そのうち66.7%が、北京、上海、深圳の3都市に集中している。普通の上場企業に比べ、「フォーチュントップ500」入りの企業は中心都市への集中集約志向がさらに強い。

 三大メガロポリスで見ると、京津冀、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスが「フォーチュントップ500」入り中国企業数に占める割合は、各々54.3%、14.3%、11.4%に達し、三大メガロポリスの中国全土に占める割合は80%にも達している。

 メインボード上場企業ランキングトップ30都市と「フォーチュントップ500」中国企業ランキングトップ28都市の分析から見て取れるのは、中国の最優良企業の本社、いわゆる経済中枢管理機能が高度に集中しているのは、北京、上海、深圳に代表される上位の中心都市である。

図13 製造業輻射力ランキングトップ30都市

(5)製造業輻射力ランキングトップ30都市

 図13が示すように、製造業輻射力ランキングトップ10都市は上から順に深圳、上海、東莞、蘇州、仏山、広州、寧波、天津、杭州、廈門である。この10都市は例外なくすべて大型コンテナ港利便性に恵まれている。こうした優位性を背景に、10都市の貨物輸出総額は全国の48.2%を占めている。ランキングトップ30都市の輸出総額はさらに高く、全国の74.9%に達している。つまり中国の今日の製造業輻射力トップ10%の都市が全国の4分の3の貨物輸出を担っている。

 三大メガロポリスで見ると、京津冀、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスが中国貨物輸出総額に占める比重は、各々6.2%、32.7%、28.8%に達し、三大メガロポリスの中国全土に占める割合は67.7%と高くなっている。三大メガロポリス、とりわけ長江デルタと珠江デルタが中国輸出工業発展の巨大なエンジンとなっている。

図14 コンテナ港利便性ランキングトップ30都市

(6)コンテナ港利便性[14]ランキングトップ30都市

 図14が示すように、コンテナ港の利便性ランキングトップ10都市は順に、上海、深圳、寧波、広州、青島、天津、廈門、大連、蘇州、営口となっている。この10都市のコンテナ取扱量は全国の82%に達し、ランキングトップ30都市のコンテナ取扱量はさらに高く97.8%を占めている。言い換えれば今日、中国のほとんどのコンテナ取扱が、コンテナ港利便性ランキングトップ10%都市で執り行われている。

 三大メガロポリスで見ると、京津冀、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスが中国全土の港湾コンテナ取扱量に占める比重は、各々8.3%、35.2%、26%に達し、三大メガロポリスの中国全土に占める割合は69.5%と高くなっている。三大メガロポリスの優位性は極めて高い。

 本報告では〈中国都市総合発展指標2018〉を用いて、港湾における中国298地級市以上の都市の貨物輸出額とコンテナ港取扱量の相関について分析した。結果、両者の間に極めて高い相関関係があることがわかった。両者の相関係数は0.81と高く、いわゆる「極度に強い相関」関係にある。しかも、製造業輻射力とコンテナ港利便性の両指標ランキングトップ30都市のうち、24都市が重複している(順不同)。これら一切が示しているのは、製造業、特に輸出工業が、優良な港湾条件に高度に依存していることである。今後、中国の製造業、特に輸出工業が港湾条件の整った都市にさらに向かい、高度に集中・集約し続けることが予測できる。 

 工業発展と港湾条件との関係について上記の認識は、中国の工業における立地政策にとって、非常に重要な意義をもつ。中国はこれまで、立地条件を無視し、ほぼすべての都市が工業化を強力に推し進めてきた。都市が工業化の効率を競う今、内陸地域で分散的に推し進められてきた工業化の不合理と低効率とが顕著になってきた。これらの現実を真摯に受け止め、各都市が自らの身の丈にあった産業のあり方を真剣に見直す時期に来ている。

図15 IT産業輻射力ランキングトップ30都市

(7) IT産業輻射力ランキングトップ30都市

 図15が示すように、IT産業輻射力ランキングトップ10都市は順に北京、上海、深圳、成都、杭州、南京、広州、福州、済南、西安で、この10都市のIT産業就業者総数、上海・深圳・香港のメインボード上場IT企業数、中小板上場IT企業数、そして創業板IT上場企業数の全国に占める比重は各々、52.8%、76.1%、60%、81%である。ランキングトップ30都市のIT産業従業者総数、メインボード上場IT企業数、中小板上場IT企業数、そして創業板IT上場企業数の全国に占める比重は各々、68%、94%、78.2%、91.2%である。こうした数字から今日、中国のIT産業が同輻射力ランキングトップの都市に高度に集中集約している状況が明らかである。

 三大メガロポリスで見ると、京津冀、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスが中国全土のメインボードIT企業数に占める比重は、各々32.5%、24.8%、14.5%に達し、三大メガロポリスの中国全土に占める割合は71.8%と極めて高い。

 今日、中国の大半の都市がIT産業を重要産業として力を入れ発展への努力を重ねているが、現状ではIT産業は北京、上海、深圳、成都、杭州、南京、広州の7つの中心都市に高度に集中している。IT産業が中心都市に収斂する度合いは製造業が沿海都市に収斂する度合いに比べてなお強くなっている。こうしたことから、IT産業の発展を希求する都市は、IT産業が求める立地条件への事細やかな研究と分析とが欠かせない。

図16 空港利便性ランキングトップ30都市

(8) 空港利便[15]ランキングトップ30都市

 図16が示すように、空港利便性ランキングトップ10都市は順に、上海、北京、広州、深圳、成都、昆明、重慶、杭州、西安、廈門である。この10都市の旅客取扱量と郵便貨物取扱量の全国に占める割合は49.9%、73.5%となっている。ランキングトップ30都市の旅客取扱量と郵便貨物取扱量は、全国に占める量が81.3%と92%と極めて高い。これらの数字は、中国で今日大半の空港運輸が、空港の利便性ランキングトップ10%の都市に高度に集中していることを意味する。

 三大メガロポリスで見ると、京津冀、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスが中国全土の空港旅客取扱量に占める比重は、各々11.9%、18.7%、10.9%に達し、三大メガロポリスの中国全土に占める割合は41.5%に上った。

 京津冀、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスの中国全土の空港郵便貨物取扱量に占める割合は14.7%、34.6%、18.5%となっており、三大メガロポリスの全土に占める割合はさらに67.8% に達した。

 本報告は〈中国都市総合発展指標2018〉を利用し、中国298地級市以上の都市のIT産業輻射力と空港利便性との相関分析を行った。結果、両者の間には高度な相関関係が見られ、相関係数は0.84と高く、いわゆる「極めて強い相関」関係が示された。ここで注目すべきは、IT産業輻射力と空港利便性との相関関係は、製造業輻射力とコンテナ港利便性との相関関係よりさらに高いことである。

 IT産業輻射力と空港利便性の2つの指標ランキングトップ30都市のうち、21都市が重複している(順不同)。 

 上記の分析が示すのは、交流経済の代表産業たるIT産業の発展が、空港の利便性に高度に依存していることである。今後のIT産業がさらに空港条件の優れた都市に高度に集中集約するであろうことが見て取れる。

図17 高等教育輻射力ランキングトップ30都市

(9) 高等教育輻射力ランキングトップ30都市

 図17が示すように、高等教育輻射力ランキングトップ10都市は順に、北京、上海、武漢、南京、西安、広州、長沙、成都、天津、ハルビンである。この10都市のトップ大学[16]総数、大学在校生総数はそれぞれ全国の69.3%、26.0%となっている。ランキングトップ30都市のトップ大学総数、大学在校生総数は各々全国の92.8%、57.1%となっている。これらの数字は、現在、中国の高等教育資源、特にトップレベルの高等教育資源が、高等教育輻射力ランキングトップの都市に高度に集中している状況を示している。

 三大メガロポリスで見ると、京津冀、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスの中国全土のトップ大学数に占める比重は、各々26.8%、20.9%、3.9%に達し、三大メガロポリスの中国全土に占める割合は51.6%に上った。

(10) 科学技術輻射力ランキングトップ30都市

 図18が示すように、科学技術輻射力ランキングトップ10位の都市は上から順に北京、上海、深圳、成都、広州、杭州、西安、天津、蘇州、南京である。この10都市のR&D要員数、特許取得数は全国の36.3%、33.2%である。ランキングトップ30都市のR&D要員数、特許取得数はさらに全国の59.8%、62.6%となっている。中国の科学技術資源が今日、科学技術輻射力ランキングトップの都市に高度に集中する状況は十分明らかである。

 三大メガロポリスで見ると、京津冀、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスが中国全土のR&D要員数に占める比重は、各々12.2%、28.5%、12.7%に達し、三大メガロポリスの中国全土に占める割合は53.3%に上った。

 京津冀、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスが中国全土の特許取得数に占める比重は、各々10.3%、30.9%、14.4%に達し、三大メガロポリスの中国全土に占める割合は55.6%に上った。

 とりわけ注目に値するのは、R&D要員数の集中度と特許取得数から見ると、科学技術輻射力ランキングトップ30都市にせよ、三大メガロポリスにせよ、これら科学技術資源が集約する都市またはメガロポリスはことごとく、その他の地域と比べて研究開発効率が高く、研究成果の市場化効率も高くなっていることである。

図19 文化・スポーツ・娯楽輻射力ランキングトップ30都市

(11)文化・スポーツ・娯楽輻射力ランキングトップ30都市

 図19が示すように、文化・スポーツ・娯楽輻射力ランキングトップ10位の都市は上から順に、北京、上海、成都、広州、深圳、武漢、杭州、南京、西安、鄭州である。この10都市の興行収入額、観客動員数は各々全国の34%、30.6%を占めている。ランキングトップ30都市の興行収入額、観客動員数は各々全国の57.7%、54.6%を占めている。つまり、トップ10%の都市は、中国全土の興行収入額、観客動員数を半分以上独占している。

 三大メガロポリスで見ると、京津冀、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスが中国全土の興行収入額に占める比重は、各々9.6%、23.6%、12.8%に達し、三大メガロポリスの中国全土に占める割合は45.9%に上った。

 京津冀、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスが中国全土の観客動員数に占める比重は、各々8.5%、22.8%、11.9%に達し、三大メガロポリスの中国全土に占める割合は43.3%に上った。

 中国では現在、文化・スポーツ・娯楽資源においても、興行収入においても、文化・スポーツ・娯楽輻射力ランキングトップの都市あるいは三大メガロポリスが極めて大きなウエイトを占めている。

図20 飲食・ホテル輻射力ランキングトップ30都市

(12) 飲食・ホテル輻射力ランキングトップ30都市

 図20が示すように、飲食・ホテル輻射力ランキングトップ10都市は上から順に、上海、北京、成都、広州、深圳、杭州、蘇州、三亜、西安、廈門である。この10都市の五つ星ホテル数、国際トップクラスレストラン[17]数は各々全国の35.7%、77.1%を占めている。さらに、同輻射力ランキングトップ30都市の五つ星ホテル数、国際トップクラスレストラン数は各々全国の61.1%、91.8%を占めている。中国のトップクラスのホテルやレストランが同輻射力ランキングトップの都市に高度に集中する状況が十分明らかである。

 三大メガロポリスで見ると、京津冀、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスが中国全土の五つ星ホテル数に占める比重は、各々11.4%、29.5%、10.9%に達し、三大メガロポリスの中国全国に占める割合は51.8%に上った。

 京津冀、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスが中国全土の国際トップクラスレストラン数に占める比重は、各々20.0%、37.5%、15.4%に達し、三大メガロポリスの中国全土に占める割合は72.9%に上った。

 〈中国都市総合発展指標2018〉を利用し、本報告はIT産業輻射力と飲食・ホテル輻射力との相関分析を行った。結果は、両者の相関係数は0.9と高く、いわゆる「完全相関」関係が示された。交流経済の典型としてのIT産業で、その担い手たちにとって、レストランは紛れもなく彼らの「交流」の場となっている。

 北京、上海、深圳、成都、杭州、南京、広州は、中国のIT産業輻射力ランキングトップ7都市はすべて中国で「美食」に名高い都市である。今日、「美食」は、都市の交流経済発展上、軽視できない「重要な生産力」となっている。

 相反して、製造業輻射力と飲食・ホテル輻射力の相関係数は0.68でしかない。IT産業に比べると、製造業従事者の「美食」に対する感度は低い傾向があるようだ。

図21 主要指標における三大メガロポリスの全国シェア

 以上の分析から見て取れるのは、今日、中国はGDPにおいてもDID人口においても、また国際交流機能や中枢管理機能においても、ことごとく中心都市、メガシティに高度に集中していることである。

 メガロポリスへの集約も進んでいる。図21が示すように、GDPから国際トップクラスレストランに至るまで、様々な指標において三大メガロポリスは大きなウエイトを占めている。

 さらに、注目すべきは、高度先端機能であればあるほど中心都市やメガロポリスに集中集約する現象がはなはだしいことである。今後もこうした趨勢はさらに強まることが予測される。よって、これら各種中心機能を進化させることが中心都市、メガシティ、そしてメガロポリスの経済構造および空間構造の高度化につながるだろう。

3. DIDと中国都市の高品質発展


 都市を都市たらしめている肝心要は、その高い人口密度の規模と質である。

(1) DID人口の重要性

 本報告では、298地級市以上の都市のDID人口指標と〈中国都市総合発展指標2018〉の9つの中項目指標を用いて、相関分析を行なった。

図22 DID人口と〈中国都市総合発展指標〉中項目、小項目指標との相関関係分析

 結果、図22で示したように、DID人口と経済大項目の「都市影響」、「経済品質」そして「発展活力」の3つの中項目指標の相関係数は、各々0.93、0.91、0.91と高く、すべて「完全相関」関係を表していた。DID人口と社会大項目の「伝承・交流」中項目指標の相関係数も0.9と高く、「完全相関」関係であった。これと社会大項目の、「ステータス・ガバナンス」、「生活品質」の両中項目の相関係数は各々0.85と0.83で、「極めて強い相関」関係であった。

 DID人口と環境大項目の「空間構造」中項目の相関係数も0.82に達し、極めて「強い相関」関係を表した。しかし、これと環境大項目の「環境品質」と「自然生態」の相関係数は0.32と0.05で、相関関係は微弱であった。

 DID人口と9つの中項目指標の相関係数の分析から、DID人口と都市の社会経済発展との関係は非常に重要であり、その都市空間構造も深く関係している。相反して、DID人口と都市の「環境品質」および「自然生態」との間の相関関係は、微弱である。これはいわゆる「人口が多い都市ほど生態環境への圧力が強まる」という伝統的な概念を覆す重要な研究発見である。

 DID 人口指標と〈中国都市総合発展指標2018〉との相関関係分析をさらに27の小項目指標まで進めると、DID人口と「文化娯楽」、「イノベーション・起業」、「経済規模」、「広域輻射力」、「経済構造」、「人的交流」、「広域中枢機能」など小項目の間の相関係数が0.93〜0.91と高く、「完全相関」関係となっている。

 DID人口と「生活サービス」、「開放度」、「コンパクトシティ」、「ビジネス環境」など小項目の間の相関係数は0.88〜0.82と高く、「極めて強い相関」関係となっている。 

 DID人口と「都市インフラ」、「消費水準」、「人口資質」、「交通ネットワーク」など小項目の間の相関係数は、0.79〜0.71と高く、「強い相関」関係にある。

 DID人口と「社会マネジメント」、「都市農村共生」、「経済効率」、「資源効率」、「居住環境」など小項目の間の相関係数も、0.68〜0.43と一定の相関関係にある。

 この一連のデータにより、DID人口の、都市の社会経済発展の各側面における役割の重要度が明確になった。

 相反して、DID 人口と「汚染負荷」、「水土賦存」の小項目の間の相関係数は、僅か0.05、−0.07である。これらデータは、DID人口が環境に与える実際の影響がそれほど強烈ではないことを示している。実際、一般的にDID人口規模が大きいほど都市は富裕で、産業構造も比較的高度である。その社会マネジメントの能力と、環境マネジメントの能力も比較的優れていることが多い。よって、これら都市では汚染負荷を軽減し、自然生態を修復する力が強い。

 これと反対に、産業構造が悪い中小都市の場合は、環境マネジメント能力が低く、環境問題が深刻なケースが多い。

 同時に、人口集積自体も、交通、エネルギーなど都市機能の効率を上げるのに有利である。東京大都市圏の単位当たりGDP二酸化炭素排出量が、日本の全国平均の10分の1に抑えられていることが何よりの証拠である。

 しかし中国では、今日に至るまで依然として多くの都市の政策関係者や学者らが、高密度の人口集積が大きな環境負荷になると懸念している。従って中国では大都市、とりわけメガシティの人口規模の拡大には慎重な姿勢を取り続けている。北京を始めとするいくつかの中心都市に至っては近年、都市の人口規模を規制または圧縮しようとしている。

 DID人口と社会経済発展の相関関係は極めて強く、都市の経済と社会発展に非常に重要である。しかし、この点についての十分な認識が、中国では従来から一貫して欠如していた。DID人口が環境や自然生態および社会マネジメントにもたらす負の影響が誇張されてきた。このような長期にわたる間違った認識が中国の都市の健全な発展を阻んできた。人口集積に関するこのような誤った認識を改めるべきである。〈中国都市総合発展指標〉が中国で初めてDID分析を導入した意味は極めて大きい。

(2) ステータス・ガバナンスと過密

 注意すべきは、同じ高密度の都市であっても、その発展の質は、同一ではないということである。肝心なのは「過密」か否かという点である。

 今日、世界で最も人口を多く抱える都市は東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県から成る東京大都市圏である。同大都市圏の人口規模は3,673万人にも達している。東京大都市圏は日本の3%の国土面積に、日本のほぼ3分の1のGDPと輸出、そして60.6%の特許取得数を有している。さらに同大都市圏は世界のメガシティの中で、最も安全かつ平和で環境の質も高い。

 この東京も過去の一時「過密」に苦しめられた。しかし、今や高密度でありながら「過密」ではない都市へと見事に転身した。 

 これに相反して、ブラジルのサンパウロ、インドのムンバイ、ナイジェリアのラゴスに代表される新興諸国のメガシティは、当該国の中心都市ではあるものの、膨大な貧民街を抱え、貧富の差が激しく、深刻な治安問題と環境汚染とに悩まされている。ここで留意しなければならないのは、これら「過密」に陥った都市の人口規模が、東京大都市圏のそれに遠く及ばないことである。

 新興国の大都市には往々にして大都市病が見られる。何が原因であるかは、熟考すべき問題である。中国では、この問題が「人口の過多」、「高密度」に帰結されている。

 だが、実際はそうではない。大都市病は都市マネジメント力の低下によるものである。都市マネジメント力は都市空間計画、基礎インフラ整備、交通やエネルギーの配備、生活のあり方、生態環境マネジメント、文化教育、開放交流、治安管理、富の分配に至る様々な内容を含んでいる。都市マネジメント力の高低が、直接、都市発展の質の優劣を左右する。

 雲河都市研究院の研究によると、ブラジルの悪名高いリオデジャネイロ貧民窟の最高人口密度は1平方キロメートル当たりわずか1.5万人であった。これに対して同じリオデジャネイロのCBD地区の人口密度は1平方キロメートル当たり2.7万人にものぼる。東京都豊島区、中国の北京市西城区と上海市黄浦区、米ニューヨークのマンハッタンの1平方キロメートル当たりの人口密度が、それぞれ2.4万人、3.8万人、5.9万人、10.9万人で、すべてリオデジャネイロの貧民窟の人口密度よりはるかに高い。

図23 都市智力概念図

 しかも、これら超高密度人口を抱える地域は、すべて同メガシティの中で最も富裕なエリアである。こうしたことからわかるように、人口の高密度集積は決して都市の治安や環境の質を悪くする元凶ではない。肝心なのは、都市マネジメント能力を統括する「都市智力」[18]である(図23)。「過密」は、実際は都市智力の欠如をもたらすという残酷な現実の現れである。

 注目すべきは、多くの状況で、高DIDによる集約と規模が大きなメリットを生んでいることである。例えば東京大都市圏の単位当たりGDP二酸化炭素排出量は日本全国平均の10分の1にすぎない。また、多くの高級サービス業と交流経済産業の発展には、一定の規模の高密度人口の下支えが欠かせない。

 都市病は、大都市の専売特許ではない。それが都市である限り、どの都市でも罹患する可能性はある。大都市の「病状」がより人目を引くということだけである。都市病は途上国だけの専売特許でもない。先進国の都市も昔、都市病に悩まされていた。都市マネジメント力の向上によって、東京大都市圏のような成功の典型が現れただけでなく、先進国の大多数の大都市は概ね都市病の症状を大幅に改善してきた。

 相反して、注意されるべきは、先進国にしろ発展途上国にしろ、中小都市の衰退問題が今日、厳しさを増していることである。

 中国では都市問題において、「高密度人口への警戒」、「技術とハードウエアへの盲信」が横行している。これに対して、雲河都市研究院は「都市智力」を掲げ、都市のマネジメント力の向上を通じて、人口集積の利益を最大化し、都市のハイクオリティな発展を求めるよう提唱している。

図24 北京大都市圏のDID比較分析図
図25 東京大都市圏のDID比較分析図

 

4. なぜ都市圏か


 中国国家発展改革委員会は2019年2月19日、「現代化都市圏の育成と発展に関する指導意見」を公表した。そこでは、メガロポリスを新型都市化の主要形態とし、全土の経済成長を支え、地域の協調発展を促し、国際競争と協力を担う重要なプラットフォームとする、と謳っている。ここでいう都市圏とはメガロポリス内部のメガシティ、あるいは輻射機能の強い大都市を中心とし、1時間通勤圏を基本範囲とした都市空間形態である。この指導意見は、中国で都市圏育成政策を打ち出したことを意味している[19]

 なぜ中国はいま、都市圏育成政策を前面に押し出したのだろうか。

 この問題を解き明かすため、本報告は東アジア地域の両大都市圏—北京大都市圏と東京大都市圏との比較分析を実施した。図24、25で示すように北京大都市圏の範囲は、北京市域であるのに対して、東京大都市圏は東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県から成る。

図26 北京大都市圏と東京大都市圏の重要指標データの比較−1

 本報告では両大都市圏の土地面積、常住人口、DID人口、GDP、二酸化炭素排出量などにおいて数値を比較分析した。図26が示すように、北京市域の面積は東京大都市圏より大きく、1.2倍である。これに対して、北京の常住人口とDID人口はいずれも東京大都市圏の60%であった。北京のGDP規模も概ね東京大都市圏の3割で、1人当たりGDPも東京大都市圏の半分でしかない。しかし、北京の単位当たりGDP二酸化炭素排出量は東京大都市圏の4.7倍にものぼっている。その結果、人口規模とGDP規模で東京大都市圏に遠く及ばない北京が、二酸化炭素排出量では東京の1.2倍になっている。

図27 北京大都市圏と東京大都市圏の重要指標データの比較−2
図28 北京大都市圏と東京大都市圏の重要指標データの比較−3

 本報告がとりわけ高い関心をもつ国際交流に関わる指標においては、両大都市圏の差異は特に顕著である。東京大都市圏を来訪する海外旅行客数は北京の5.6倍にも達している。国際会議開催件数に至っては東京大都市圏は北京の1.1倍となっている。また国際トップクラスレストラン、インターナショナルスクール、留学生数、国際トップブランド店舗数については、各々、北京は東京大都市圏の10%、70%、60%、50%にすぎない。

 北京は、〈中国都市総合発展指標2018〉総合ランキングで全国第一位の都市である。しかし、東京大都市圏との国際比較で明らかになったように、北京はこれから空間構造、経済構造、生活モデル、資源利用効率、国際交流など様々な面で、向上や改善を図らなければならない。

 早くも2001年に筆者は、中国が都市圏政策を実施すべきであると提唱し、都市構造の向上を図り、開発区による低密度乱開発を断つべきだと主張した[20]。しかしながら非常に残念なことに、その後中国の都市化は却って開発区の乱立と不動産乱開発の2つの大きな流れに押されることとなった。結果、先に述べた通り、一方で都市の低密度開発が蔓延し、一方でDID人口の増加が緩慢で、いびつな都市化が進んだ。多くの中国都市が不合理な都市構造、不便な生活、低効率の経済に悩まされている。

 新しい段階に入った中国の都市化はいま、高密度人口集約への認識を改めて重視し、DID人口やDIDエリアの量と質を向上させていくべきである。これがおそらく都市圏政策の第1の意義であろう。

 都市圏政策のもう1つの重点は、周辺の中小都市である。

 「大都市の居住機能と産業集積の拡張を受け止める空間が、周辺の中小都市である。だからこそ、大都市周辺の中小都市は大都市圏の重要構成部分なのである。大都市は周辺に対し、機能と集積の分散を不断に行い、大都市病の緩和をはかるとともに、大都市圏の範囲を徐々に拡大していく。中小都市は大都市圏の近郊、遠郊あるいは衛星都市へ役割を発揮することを通して、発展の原動力を獲得する」[21]。中心都市と、周辺の中小都市の相互発展を推し進めることが、疑いなく都市圏政策の重要な目標の1つとなる。

 都市圏が「都市圏」と称される、その要因の1つは、普通の都市にはない高度な中心機能をもっていることにある。これにより、都市圏政策のもう1つの重要な目標が、いかにして中心

機能の輻射力を育成強化するか、となる。例えば行政中心機能、交通中枢機能、金融センター、科学技術イノベーションセンター、そして、高等教育、文化娯楽、飲食ホテル、卸売・小売、医療保険など領域の輻射力も軽視できない。

 ここでとりわけ強調したいのが国際交流プラットフォームとしての中心機能である。グローバリゼーションの時代にあって、国際競争と国際交流は国の命運を握る根幹である。1つの国の国際競争と国際交流の水準は、最終的にはその大都市圏の国際性に現れる。しかも、ITとコンテンツに代表される交流経済の重要性は、不断に高まっており、国際交流プラットフォーム間の競争は熾烈をきわめている。大都市圏にとって、国際交流機能の向上は何よりも重要である。

 

5. 都市圏とは何か


 都市圏に関しては、国によって、また時期によって各種各様の定義がある。特に国によって都市人口密度の差異があることも、都市圏の定義が多様であることの1つの重要な原因となっている[22]。しかしながら都市圏に関する定義は概ね、以下の3つの要素を含んでいる。1つは、通勤圏[23]、2つ目は都市空間の一定の連続性、3つ目は一定の人口密度である。

 2012年、OECD(Organisation for Economic Co-operation and Development:経済協力開発機構)とEU(European Union:欧州連合)は都市圏を、新しく定義した。連続性と人口密度上でヨーロッパ、日本、韓国、メキシコの都市圏は、1平方キロメートルごとに1,500人以上の人口をもつ連続した地域、と定義した。アメリカ、カナダ、オーストラリアの都市圏の場合は1平方キロメートルごとに1,000人以上人口をもつ連続した地域とした[24]。OECD-EUはさらに人口が50万人以上150万人以下の都市圏を大都市圏と定義し、人口150万人以上の都市圏は巨大都市圏(Large Metropolitan Area)と定義している[25]

 しかしOECD-EUのこうした定義は、人口規模であれ密度であれ、大規模な高密度人口都市をもつ中国ひいてはアジアの現実にとって、ふさわしいとはいえない。さらに増え続ける超大都市を中心に発展する世界の大都市圏の現況にもマッチしない。

 これに対して、雲河都市研究院は、衛星リモートセンシングデータ解析による都市人口の規模と密度の定量分析に成功した。本報告ではそれを基礎に、1平方キロメートルごとに10,000人口以上の地域を超DID地域と、1平方キロメートルごとに5,000人口以上の地域をDID地域[26]と、1平方キロメートルごとに2,500人以上5,000人以下の人口の地域を準DID地域と、それぞれ定義した。さらに都市圏の定義を準DID以上の、基本的に連続した地域と定めた。

 本報告ではこの定義の基礎に立ち、中国の都市圏を全面的に整理し、2018年に公表した「中国中心都市指数」を土台にし、「中国中心都市&都市圏発展指数」を研究開発した。これについて本報告では後半で詳述する。

 密度と連続性における都市圏に対する統一的な定義も、大都市圏間の国際比較を可能とした。上述した北京大都市圏と東京大都市圏の比較分析は、すなわちこの定義に基づいて実施したものである。「大都市圏が今日、グローバリゼーション下の国際競争における基本単位である」[27]故に、大都市圏の国際比較が極めて重要である。

 もちろん、もう1つ見落とせないことは、大都市圏の中身である。IT革命の勃興に基づき、グローバリゼーションは深化し、世界経済を主導するエンジンは交替し続ける。大都市圏はその多様性と抱擁力とで、様々に主役が入れ替わる主役の舞台となる。

 現代的な都市圏は、現代的な経済を中身とする必要がある。ゆえに今日、都市圏の発展は「交流経済」を抱え込まなければならない。

 

6. リーディング産業の交替


(1) 交易経済から交流経済へ

 今から30年前、平成が幕を開けた1989年、世界の企業時価総額ランキングトップ10企業のうち、7社が日本企業で占められていた。当時、日本の製造業は世界を席巻する存在となっていた。しかし、トップ10に名を連ねる日本企業は製造業ではなくすべて金融、通信、電力の企業であった。中でも突出していたのは銀行で、その数は5行にのぼり、バブル経済の凄まじさを推し量る現象であった。当時、電子産業発展を主導とするIT革命バージョン1.0がすでに興っていたものの、「電子立国」として世界に名だたる日本でありながら、電子関連企業は1社も同ランキングトップ10に顔を出していなかった。世界の企業時価総額ランキングで首位となったNTTは、電話業務を主体とする通信会社で、営業範囲は基本的に日本国内に限られていた。これに対してアメリカのIBMは大型コンピューター業界の巨人として同ランキングで6位を獲得し、かろうじて当時のIT業界の存在感を示していた。

 1995年、マイクロソフトのWindows95が世界をインターネット時代に引き入れた。その後、製造業サプライチェーンのグローバル化からなる交易経済の大発展と並行して、情報技術の開発や、情報コンテンツの生産と伝播のグローバル化を代表とする交流経済も勃興し始めた。

 30年後、平成が幕を閉じた2019年4月末には、世界の企業時価総額ランキングトップ10企業のうち、7社がネット関連のIT企業であった。今日のインターネット経済の強靭さが見て取れよう。もう1つ注目すべきは、中国の2つのネット関連企業、アリババとテンセントがそれぞれ同ランキングで第7位、第8位となったことである。

図29 グローバル企業時価総額ランキングトップ10企業(1989年vs 2019年)
出典:1989年のデータは、アメリカ経済週刊誌(1989年7月17日号)『THE BUSINESS WEEK GLOBAL 1000』による。2019年のデータは雲河都市研究院が世界の各証券取引所の同年4月末データから作成。

 30年前と比較して、これら世界の企業時価総額ランキングトップ企業の規模は、計り知れないほど大きくなった。図29で示されるように、2019年首位だったマイクロソフトの時価は30年前に首位だったNTTの4倍以上である。2019年第2位はアマゾン、第3位はアップル、第4位はグーグルで、それぞれ30年前第2位の日本興業銀行、第3位の住友銀行、第4位の富士銀行の13.2倍、13.6倍、12.4倍となった。世界を市場とするインターネット企業の資金吸収能力は、30年前の国民国家を市場としていた企業とは比べられないほどの大きさになっている。

 世界経済の重心はいま、交易経済から交流経済へシフトしている。このシフトは、都市における繁栄条件をも変化させている。

 改革開放40年来、中国は主に交易経済、すなわち製造業サプライチェーンにおける国際大分業がもたらした輸出貿易により、高度経済成長を成し遂げた。数多くの沿海都市が勃興し、珠江デルタ、長江デルタ、京津冀の三大メガロポリスを形成した。

 上述したように、全国貨物輸出額の74.9%は製造業輻射力ランキングトップ30位の都市に集中していた。図13で示されるように、これら30都市の大多数が広東省、江蘇省、浙江省、福建省、天津など東部沿海の省で、特に珠江デルタ、長江デルタ、京津冀三大メガロポリスに集中していた。1970年代末には漁村だった深圳が、今や〈中国都市総合発展指標2018〉総合ランキング第3位のメガシティに成長した。

 グローバルサプライチェーンは、中国の沿海都市を大発展させたといっても過言ではない。問題は、交流経済がすでに世界経済を引っ張る主要なエンジンとなった今日、交流経済の繁栄条件をどう認識するかにある。交流経済が求める環境をつくり出せるかどうかが、都市の未来、ひいては国の未来の発展を左右する。

図30 製造業輻射力と主要都市機能との相関関係分析

(2) 製造業vs IT産業

 産業をどう発展させるのかが、都市の行政トップにとって最重要課題の1つであろう。リーディング産業のシフトに伴い、都市機能への要求の変化を捉えるため、本報告では、交易経済の主体としての製造業と、交流経済の象徴としてのIT産業の、都市の主要な機能との相関関係について比較分析した。

 〈中国都市総合発展指標2018〉を利用し、本報告では、まず中国298地級市以上都市の製造業輻射力と都市の主要機能の相関分析を行った。

 図30で示されるように、広域中枢機能から見ると、製造業輻射力とコンテナ港利便性との相関係数は最も高く、0.70で「強い相関関係」であった。同輻射力と鉄道利便性、空港利便性との間の相関係数はそれぞれ0.68、0.57であった。

 開放交流の分野で見ると、製造業輻射力と貨物輸出入との相関関係は最も強く、相関係数は0.90にまで達し「完全相関」関係を示した。同輻射力と海外旅行客との相関係数は0.78になり「強い相関」関係が存在した。これと実行ベース外資導入額、国際会議、国内旅行客との相関係数は各々0.65、0.53、0.41となった。

 輻射力の分野で見ると、製造業輻射力と科学技術輻射力、金融輻射力との相関関係は高く、その相関係数はそれぞれ0.77、0.72となり「強い相関」関係が見られた。同輻射力と飲食・ホテル輻射力、卸売・小売業輻射力、文化・スポーツ・娯楽輻射力、医療輻射力、そして高等教育輻射力との相関係数はそれぞれ0.68、0.67、0.65、0.53、0.43となった。

 製造業発展はこのようにたくさんの都市機能の支えを要し、必然的に一定規模の高密度人口を必要とする。製造業輻射力とDID人口との相関係数は0.72と高く、「強い相関」関係にある。

 本報告ではさらに、中国298地級市以上都市のIT産業輻射力と上述した都市機能指標について相関分析した。

図31 IT産業輻射力と主要都市機能との相関関係分析

 図31で示されるように、まず交通中枢機能からみると、IT 産業輻射力と空港利便性との相関係数は0.82と高く、「極めて高い相関」関係にあった。同輻射力と鉄道利便性とコンテナ港利便性の間の相関係数はそれぞれ0.63と0.57であった。製造業輻射力と比べIT産業が求める交通中枢とは相当の開きがある。製造業がコンテナ港利便性を重視するのに対して、IT産業が空港利便性により頼っていることが見て取れる。

 開放交流の分野で見ると、IT産業輻射力と国際会議の相関係数は0.80と高く、両者の間には「極めて高い相関」関係が見られた。同輻射力と海外旅行客、貨物輸出入との相関係数はそれぞれ0.76、0.75と高く、「強い相関関係」があった。実際ベース外資導入額、国内旅行客の間の相関係数はそれぞれ、0.58、0.54であった。ここで特に注意すべきは、製造業輻射力と比べて、IT産業輻射力と国際会議、海外旅行客との相関関係は特に強く、IT産業が典型的な交流経済産業であることを示している。

 輻射力の分野で見ると、IT産業輻射力と飲食・ホテル輻射力、文化・スポーツ・娯楽輻射力、卸売・小売輻射力など生活型サービス産業輻射力の相関関係は極めて強く、その相関係数は、各々0.90、0.90、0.83と高い。同輻射力と医療輻射力、高等教育輻射力の相関係数も0.70、0.70に達した。製造業輻射力と比べて、IT産業輻射力とこれら輻射力の相関関係がさらに高くなっている。こうした現象から、IT産業に関わる人々が製造業に関わる人々と比べて収入が高く、生活サービスと医療サービスへの要求も強いことがうかがえる。それゆえにIT産業が中心大都市に集約する傾向は強い。

 多種多様な都市機能の支えを必要とするIT産業は、当然一定の規模の高密度人口を求める。IT産業輻射力とDID人口との間の相関係数は0.75と高く、「強い相関関係」にある。しかも、製造業よりIT産業が必要とする人口の教育水準などはさらに高い。ゆえに、製造業輻射力と比べ、IT輻射力と高等教育輻射力との相関関係ははるかに高くなっている。

 以上の分析からわかるように、製造業とIT産業が都市機能に求めるものはかなり違う。改革開放以来、中国のほとんどの都市は産業発展の重点を製造業に置き、都市の機能も構造も、開発区の設置など製造業を後押しすることに引っ張られていた。しかし、IT産業に代表される交流経済を育成するためには、まったく違うアプローチが必要とされる。

図32 メインボード上場企業と主要都市機能との相関関係分析

(3) 企業誘致から交流イノベーションへ

 改革開放の前期、中国のほとんどの都市では産業発展は、外部からの企業誘致と直接投資によるものであった。21世紀に入ってから、内生メカニズムの活力が高まり、イノベーションや起業が活発になった。広東・深圳・香港という三大マーケットで上場することが、こうした内生型企業の成功のシンボルとなった。成功した企業の本社機能と都市機能との関係を研究するために、本報告では中国の298地級市以上都市のメインボード(広東・深圳・香港)上場企業数および、主要都市機能との相関分析を行った。

 図5-31が示すように、まず交通中枢機能から見ると、メインボード上場企業と空港利便性との相関係数が最も高く0.87で、両者の間に「極めて強い相関」関係があった。同企業数とコンテナ港利便性、鉄道利便性の間の相関係数はそれぞれ0.70、0.63であった。この分析結果から見ると上場企業の本社機能でいえば、世界との交流往来に、空港利便性が極めて重要であることが見て取れた。

 開放交流の分野で見ると、本社機能は典型的な交流経済であり、メインボード上場企業と国際会議との相関関係が0.91と高く、「完全相関」関係にあった。同企業数と貨物輸出入、海外旅行客、実行ベース外資導入額、国内旅行客の相関係数もそれぞれ0.81、0.72、0.70、0.64であった。これら一連のデータから見ると、上場企業の本社機能と国際交流との関係の重要性がわかる。

 輻射力の分野で見ると、メインボード上場企業は金融輻射力との相関関係が最も強く、その相関係数は0.9に達し、両者は「完全相関」関係にあった。次に、同企業数と、文化・スポーツ・娯楽輻射力、飲食・ホテル輻射力、科学技術輻射力、卸売・小売輻射力との相関係数は、各々0.87、0.87、0.86、0.80で皆「極めて強い相関」関係にあった。ここでとりわけ重視したいのは、上場企業と文化・スポーツ・娯楽輻射力、飲食・ホテル輻射力、卸売・小売輻射力との強い関係である。しかしながら、これら生活文化産業の重要性が、中国ではいまだ十分に認識されていない。

 メインボード上場企業と高等教育輻射力、医療輻射力との相関係数も各々0.72、0.71と「強い相関」関係を示した。上場企業の高等教育人材への需要と医療サービスへの要求を反映する結果となっている。

 都市に企業が誕生して成長し、上場するまでには数々の都市機能の支えが必要である。これには当然、一定規模の高密度人口が必要とされる。メインボード上場企業とDID人口との相関係数が0.85と高く、「極めて強い相関」関係が示されたことも当然であろう。

 メインボード上場企業とDID人口との相関係数は、IT産業輻射力と製造業輻射力に比べて大幅に高くなっている。これは、企業中枢管理機能を効率的に動かすためには膨大なDID 人口を必要とすることを意味する。

(4) 交流経済への転換

 中国では、交易経済から交流経済へのシフトも起こりつつある。珠江デルタを例に取れば、これに属する9つの都市は、「粤港澳大湾区」発展の国家戦略の号令による追い風で勢いが増している。しかしこうした都市の間には交流経済へのシフトに関する差異は相当大きい。

 図13で示すように、上述した全国製造業輻射力ランキングトップ30都市に珠江デルタは8都市もランクインした。深圳は第1位を獲得し、東莞、仏山、広州、恵州、中山、珠海、江門はそれぞれ第3位、5位、6位、11位、13位、19位、30位であった。珠江デルタの貨物輸出額が全国に占める割合は高く28.8%に上った。同地域は製造業、とりわけ輸出貿易を代表とする交易経済において繁栄を極めている。

 しかしながら、図5-15で示すように、IT産業輻射力ランキングトップ30都市の中で、珠江デルタからは僅か3都市がランクインした。深圳、広州、珠海はそれぞれ同ランキングが第3位、第7位、第20位であった。IT産業従業員数から見ると、珠江デルタの全国に占める割合は僅か10.2%で、メインボード(上海、深圳、香港)の上場IT企業数から見ると、珠江デルタは全国の14.5%にすぎない。 

 珠江デルタメガロポリスにおけるIT産業と製造業のパフォーマンスは、相当の差異があることがわかる。

 中国改革開放40年は活力に溢れた時代であった。今日の成果は、グローバリゼーションの恩恵によるものが大きい。珠江デルタ地域は、まさに製造業のサプライチェーンのグローバル展開を受けて成功した典型である。しかし、時代は変化し、いまや世界は交流経済の時代に突入した。IT技術の開発、コンテンツ制作を中心とする交流経済が全世界を席巻し、珠江デルタも例外ではない。

 〈中国都市総合発展指標2018〉の分析によると、中国全土のDID人口比率は30%であるのに対して、珠江デルタ地域のDID人口比率は64.2%にも達している。また、同地域のDID人口も全国のDID総人口の30.9%に達している。すなわち珠江デルタの都市化は全国最高水準にある。しかし同デルタの都市の大半は、交易経済の基礎の上に発展したものであり、人口の大多数が製造業の発展と関係して増えてきた。こうした意味からすると、珠江デルタ各都市の交流経済への転換は簡単ではない。一方で、同地域は中国の工業化そして都市化の先行地域として交流経済への転換が成功すれば、そのモデル効果は絶大である。

 転換の成否を決める鍵は、開放と交流にある。粤港澳大湾区には国際都市の香港と、マカオがある。イノベーション力が強大な深圳、そして包容力の極めて高い中心都市広州がある。同地域が、交流経済発展の潮流の中で、再び大きく跳躍するものであってほしい。


[1] 2009年中国は世界一の輸出大国となった。2019年世界輸出総額ランキングで10位内に入った国と地域は、1位から順に中国、アメリカ、ドイツ、オランダ、日本、フランス、韓国、香港、イタリア、イギリス。

[2] 筆者は早くも2009年の米国ハーバード大学エズラ・ボーゲル教授との対談の中で、輸出と都市化が21世紀以降の中国大発展をもたらした二大原動力だったと指摘。さらにこの時期の中国大発展と日本の高度成長との比較分析を行った。これについて詳しくは『Newsweek』日本語版2010年2月10日号巻頭記事「ジャパン・アズ・ナンバースリー」を参照。

[3] 郷鎮企業の前身は人民公社時代の「社隊企業」。1978年の改革開放以降、社隊企業は急速に発展した。人民公社の解体に伴い、1984年「中国共産党中央4号文件」で社隊企業を正式に郷鎮企業と改称した。その後、郷鎮企業の猛烈な発展に対して、国務院は「国発(1992)19号」および「国発(1993)10号文件」において郷鎮企業の重要性を認めた。1995年には郷鎮企業数は2,460万社に達し、就業人口は1.26億人へと膨れ上がり、中国工業経済の半分を担うに至った。1996年は中国歴史上初めて郷鎮企業を保護する法律「中華人民共和国郷鎮企業法」が制定された。集団企業の形をした郷鎮企業はその後、ほとんどが民営企業と化した。

[4] 農村の余剰労働力の流出を抑制するために、中国政府は農村部における「小城鎮」といった小さな都市集積をつくることを進めた。1978年中国共産党第11回3中全会は「中国共産党中央の農業発展加速における若干の問題に関する決定」を可決し、「小城鎮建設を計画的に発展させ、都市の農村への支援を加速する」とした。1998年、中国共産党第15回3中全会は、さらに「小城鎮発展は、農村経済と社会発展をもたらす大戦略」だとした。これがいわゆる「小城鎮発展戦略」である。

[5] 中国国家発展改革委員会地区計画司と日本の国際協力事業団(JICA、現在名は国際協力機構)は共同で、3年間にわたる中国都市化政策に関する大型協力調査案件を実施した。同調査の成果を公表するため、中国国家発展改革委員会地区計画司、国際協力事業団、中国日報(CHINA DAILY)、中国市長協会による合同主催で「中国都市化フォーラム—メガロポリス発展戦略」が、2001年9月3日に上海、9月7日に広州で相次いで開かれた。両フォーラムで提起された「メガロポリス発展戦略」は、大きな社会的関心を呼び起こした。同調査の責任者を務めた周牧之が、両フォーラム開催を主導した。同調査の内容について詳しくは、中国国家発展計画委員会地区計画司と国際協力事業団による同調査の最終報告書『都市化:中国現代化的主旋律』(湖南人民出版社、2001年8月)を参照。

[6] 「中国都市化フォーラム−—メガロポリス発展戦略」における周牧之の基調報告の主な内容については、2001年9月8日付け『南方日報』、2001年9月12日『人民日報』を参照。同基調報告の全文については周牧之著『歩入雲時代』(人民出版社2010年6月)、pp255-281を参照。

[7] 「第11次五カ年計画」策定担当部署である中国国家発展改革委員会発展計画司が「メガロポリス発展戦略」の策定にあたり、周牧之をはじめとする海外の専門家に助言を求めた。同テーマについて、財務省、国際協力銀行などの協力を得て、日中間で幾度にもわたる意見交換が行われた。これについて詳しくは、日中産学官交流機構報告書「都市創新ワークショップ議事録」、「転換点に立つ中国経済と第11次五カ年計画」、「中国のメガロポリスと東アジア経済圏」、「中国のメガロポリス・ビジョンとインフラ構想研究会」などを参照。

[8] 2006年3月14日に第10回全国人民代表大会第4回会議で批准された「中華人民共和国国民経済と社会発展第11次五カ年計画綱要」を参照。

[9] 第二次世界大戦後、アメリカは大半の時期において世界経済成長への貢献度が最大の国家であり続けた。1991年、1993年と1995年の3つの年度では、中国がアメリカを超えて世界経済成長において最大の貢献国となった。しかし、それでもアメリカは依然として世界経済成長の最大エンジンであり続けた。2001年以降、中国は恒常的に世界経済成長における最大の貢献国となり、その地位は揺るぎないものとなった。

[10] アーバンエリア(Urban Area)とは、一定の建築用地と基礎インフラ用地の水準に達した都市型用地面積である。本報告はアーバンエリアについてEuropean Space Agencyの基準を採用している。

[11] 密度は、都市問題を議論する上での重要なカギである。〈中国都市総合発展指標〉は、5,000人/㎢以上の地域をDID(人口集中地区)と定め、正確で有効な密度分析に努めている。

[12] 2011年3月11日、東日本大震災による原子力発電所の放射能漏れ事故で、日本全国の原子力発電所が全面操業停止となった。この事件で、日本の電源構成は化石燃料火力発電に傾斜し、石炭ガス排出量が大幅に増大した。これにより、2000年−2017年の期間、日本の1人当たり平均二酸化炭素排出量は減るどころかかえって増大した。

[13] 相関関係分析は、2つの要素の相互関連性の強弱を分析した。“正”、“負”の相関関係数が0−1の間で、係数が1に近ければ近いほど両者の関連性は高くなる。0.9−1までを「完全相関」、0.8−0.9を「極強相関」、0.7−0.8を「強相関」、0.4−0.7を「相関」、0.2−0.4を「弱相関」、0.0−0.2を「無相関」という。

[14] コンテナ港利便性は、港湾のコンテナ取扱量(万TEU)、都心から港までの距離(キロメートル)などのデータから算出して作成した。

[15] 空港利便性は旅客取扱量(万人)、郵便貨物取扱量(万トン)、運行数(回)、ダイヤ正確率(%)、滑走路総距離(メートル)、滑走路(本)、都心から空港までの距離(キロメートル)などデータから算出して作成。

[16] ここでのトップ大学とは、いわゆる “211大学”および“985大学”である。“211大学”とは、1995年中国国務院の批准を経て選ばれた中国のトップレベル大学を指す。“985大学”とは、1998年5月4日、江沢民国家主席(当時)が、北京大学創立110周年大会にて、「中国がいくつか世界の先進レベルの一流大学をもつべきだ」と宣言したのを契機に選ばれた大学を指す。現在は211大学、985大学の選定制度はなくなったが、これらの大学が中国のトップレベルの大学であるとの認識は一般的となっている。

[17] 国際トップクラスレストランは、ミシュラン(軒数)、Tripadvisor 国際トップクラスレストラン(軒数)、The Asia’s 50 Best Restaurants国際トップクラスレストラン(軒数)などのデータにより算出し作成。

[18] 都市智力とは、雲河都市研究院が提唱するコンセプトで、都市空間計画、基礎インフラ整備、交通やエネルギーの配備、生活のあり方、生態環境マネジメント、文化教育、開放交流、治安管理、富の分配に至る様々な都市政策と計画を推進する能力を指す。

[19] 詳細は中国国家発展改革委員会「現代化都市圏の育成と発展に関する指導意見」参照(発改計画〈2019〉328号)。

[20] これについて詳細は、中国国家発展改革委員会地域計画司と日本国際協力事業団が編纂した『城市化:中国現代化的主旋律 (Urbanization: Theme of China’s Modernization)』、湖南人民出版社(中国)、2001年8月、周牧之「総論」pp30-31を参照。

[21] 前掲書、周牧之「総論」p27。

[22] 異なる国の異なる時期で、大都市圏の定義は異なる。例えばアメリカでは、1947年に「標準大都市圏(Standard Metropolitan Areas, SMA)」の概念を打ち出した。1959年に「標準大都市統計圏(Standard Metropolitan Statistical Areas, SMSA)」、1983年に「大都市統計圏(MSA :Metropolitan Statistical Area)」へと改称。1990年にMSAが「複合都市統計圏(Consolidated Metropolitan Statistical Area、CMSA)」に改称され、「主要大都市統計圏(Primary Metropolitan Statistical Area PMSA)」と一緒に「大都市圏(Metropolitan Areas, MA)」と総称した。2000年、アメリカはまた「コアベース統計圏(Core based Statistical Area、CBSA)」概念を提起した。イギリスでは、「標準大都市労働圏(Standard Metropolitan Labour Areas,SMLA)」と、「大都市経済労働圏(Metropolitan Economic Labour Area ,MELA)」の概念がおおむね、アメリカの「標準大都市統計圏」と同様である。日本では1960年、東京都および政令指定都市を中心に、通勤通学人口比率を利用して大都市圏とする旨議論された。1975 年には50万人口以上の都市を都市圏の中心都市として考えるようになった。

[23] 「大都市圏(Metropolitan Area)」についてはたくさんの定義がある。その中で比較的簡単な定義は通勤圏である。大都市が近郊や遠郊を構築することにより、通勤距離が20キロメートル、50キロメートル、100キロメートルないしはそれ以上延びる。こうした通勤圏域を大都市圏と呼ぶことができる」。周牧之主編『大転折—解読城市化与中国経済発展模式(The Transformation of Economic Development Model in China)』、世界知識出版社(中国)、2005年5月、p48。

[24] OECD、Redefining “Urban”: A New Way to Measure Metropolitan Areas、OECD Publishing, Paris, 2012

[25] OECD-EUは小都市圏(Small Metropolitan Areas):人口20万以下、中都市圏(Medium-sized Urban Areas):人口20万以上50万以下;大都市圏(Metropolitan Areas):人口50万以上150万以下、超大都市圏(Large Metropolitan Areas):人口150万以上と定義した。

[26] 本報告では超DIDの概念を用いた分析をしていない時は、DID人口には超DID人口部分も含んでいる。

[27] 「グローバライゼーションの意味するところは、グローバル都市圏間の分業、交流、合作、競争関係の激化である。大都市だけが世界の分業、交流が必要とする整った基礎インフラを持ち、大都市だけが十分な集積と集約とで、グローバル都市間競争に参画できる。大都市圏はグローバリゼーション下の国際競争の基本単位である」。前掲書、周牧之「総論」p26。


『環境・社会・経済 中国都市ランキング2018 〈中国都市総合発展指標〉』掲載

環境・社会・経済 中国都市ランキング2018大都市圏発展戦略』

中国国家発展改革委員会発展計画司 / 雲河都市研究院 著
周牧之/陳亜軍 編著
発売日:2020.10.09


【レポート】周牧之:中日比較から見た北京の文化産業 ー 中国都市文化・スポーツ・娯楽輻射力

周牧之 東京経済大学教授

 “2020北京文化産業発展大会”で講演する周牧之教授

編集ノート:“2020年中国国際サービス貿易交易会”の一環として2020年9月6日に行われた“2020北京文化産業発展大会”にて、周牧之東京経済大学教授は、“文化・スポーツ・娯楽輻射力から見た北京の文化産業の発展”をテーマに基調講演した。北京文化産業の発展を総括するとともに、直面する課題を分析し、発展アプローチを模索するヒントを示した。周牧之教授は、同基調講演を基にレポートを寄稿した。


1.中国都市文化・スポーツ・娯楽輻射力2019  

 中国都市総合発展指標に基づき、雲河都市研究院は中国全297地級市(地区級市)以上の都市(日本の都道府県に相当する行政単位)のすべてをカバーする「中国都市文化・スポーツ・娯楽輻射力2019」を公表した。北京、上海、成都、広州、武漢、南京、杭州、西安、深圳、重慶が、同ランキングトップ10入りを果たした。北京は他に類がない優位性で首位に立った。

 長沙、天津、鄭州、蘇州、済南、瀋陽、ハルビン、合肥、青島、長春が第11位〜20位にランクインした。福州、寧波、昆明、無錫、南通、太原、石家庄、大連、南寧、南昌が第21位~30位だった。これらトップ30入りした都市のほとんどは、首都、直轄市、省都、計画単列市などの中心都市であった。トップ30で中心都市でない一般都市は僅か3つで、それらはすべて江蘇省の都市である。文化・スポーツ・娯楽産業(以下文化産業と略称)において中心都市の優位が一目瞭然となり、江蘇省の文化の厚みも際立った。

 中国都市総合発展指標は、雲河都市研究院と中国国家発展改革委員会発展戦略和計画司(局)が共同開発した都市評価指標である。2016年以来毎年、中国都市ランキングを内外に発表してきた。現在、中国語(『中国城市総合発展指標』人民出版社)、日本語(『中国都市ランキング』NTT出版)、英語版(『China Integrated City Index』Pace University Press)が書籍として出版されている。

 同指標の特色は、環境、社会、経済の3つの軸(大項目)で中国の都市発展を総合的に評価したことにある。大項目ごとに3つの中項目を置き、3つの中項目ごとに3つの小項目を置く3×3×3構造となっている。小項目ごとにさらに複数の指標が支えている。“文化・スポーツ・娯楽輻射力”は、こうした指標のひとつである。

 これらの指標は、785のデータによって構成されている。指標はまた、統計データのみならず、衛星リモートセンシングデータ、そしてインターネット・ビックデータから成る。

 輻射力とは広域影響力の評価指標であり、都市のある産業の製品やサービスの外部への移出・移入の力を測る指標である。輻射力が高いと、当該産業が外部へ製品やサービスを移出する能力を持つ。輻射力が弱い場合は、都市は当該産業の製品やサービスを外部から購入しなければならない。


2.文化産業における北京の比類なき優位性

 “中国都市文化・スポーツ・娯楽輻射力2019”は、「収益・フロー」、「劇場など資産」、「人材資源」の3つのカテゴリーから成る。

 まず、「収益・フロー」から見ると、同輻射力トップ30都市の文化産業の営業収入合計は、全国の67.9%を占めている。つまり、297都市中上位10%の都市は、全国の文化産業営業収入の7割を稼いでいる。文化産業の上位都市への集約度は非常に高いことが伺える。なかでも首位の北京は、同営業収入における全国のシェアが24.8%にも達している。一つの都市が全国の文化産業営業収入の4分の1を占めたことは、北京の際立った優位性を示している。

 「収益・フロー」を構成する一部データから、さらに深く見ていくと、映画館・劇場のチケット収入では、トップ30都市の合計が全国の54.5%に達し、北京が全国の5.7%を占めている。映画館・劇場の観客数では、トップ30都市の合計が全国の52%に達し、北京が全国の4.5%を占めている。博物館・美術館の来場者数では、トップ30都市の合計が全国の46%に達し、北京が全国の6.9%を占めている。

 また、「劇場など資産」から見ると、同輻射力トップ30都市の文化産業資産総額の合計は、全国の72.3%を占めている。とくに北京は全国の26.4%と、4分の1超のシェアを誇っている。

 「劇場など資産」を構成する一部データから、さらに深く見ていくと、映画館・劇場では、トップ30都市の合計が全国の34.9%に達し、北京が全国の2.7%を占めている。美術館では、トップ30都市の合計が全国の46.8%に達し、北京が全国の6.4%を占めている。博物館では、トップ30都市の合計が全国の38.6%に達し、北京が全国の3.4%を占めている。公共図書館蔵書量では、トップ30都市の合計が全国の53.7%に達し、北京が全国の6.6%を占めた。重要文化財に至っては、トップ30都市の合計が全国の84.2%に達し、北京が全国の46.6%をも占めている。

 さらに、「人材資源」から見ると、同輻射力トップ30都市の文化産業従業者数の合計は、全国の53.3%を占めている。北京の全国に占めるシェアは12.8%であった。

 なぜ北京は文化産業において全国12.8%の従業者数で、24.8%の営業利益を稼ぎ出すことが出来たのか?

 その理由のひとつは、同産業における北京の強大な資産力にある。これは全国に占める北京の文化産業での資産総額と営業収入のシェアが同じで、ほぼ4分の1に達していることから伺える。

 より重要なのは、文化産業におけるトップ級の人材が、北京に集中していることである。これは「人材資源」を構成する一部データから見て取れる。国家一級俳優では、トップ30都市の合計が全国の95.9%を総占めし、とくに北京が全国の63%を占めるに至った。国家一級美術師では、トップ30都市の合計が全国の75.1%に達し、北京が全国の37.2%を占めている。矛盾文学賞の受賞者では、トップ30都市の合計が全国の91.7%にも達し、北京が全国の47.9%と約半分を占めている。オリンピック金メダリストに至っては、トップ30都市の合計が全国の68.3%に達し、北京が全国の5.7%を占めた。

 以上のデータから伺えるのは、北京がまさにスーパースターの煌めく大舞台となっていることである。これらスーパースターと、良質な資産力をもって、北京は中国最大のエンターテイメントメーカーと相成っている。


3.中日比較:文化産業と観光産業の相互発展

 2018年3月、中国は文化・旅遊部(省)を設立し、文化と観光両産業を一つの部門で管理することとなった。これは、文化と観光という二つの産業の相互発展を促す重要な措置である。

 中国の文化と観光両産業の相互発展の状況を分析するために、本論は「中国都市総合発展指標」を用い、全国297地級市以上の都市の“文化・スポーツ・娯楽輻射力2019”と海外旅行客数との相関関係を分析した。その結果、両者の相関係数は僅か0.55に過ぎなかった。

 相関分析は、二つの要素の相関関連性の強弱を分析する手法である。係数が1に近い程、二つの要素の間の関連性が強い。相関係数が0.55であることは、両者の関連性がそれほど高くないことを意味する。

 本論はまた、日本の47都道府県の“文化・スポーツ・娯楽輻射力2019”と海外旅行客数との相関関係を分析した。その結果、両者の相関係数は0.82に達した。相関係数が0.8−0.9になると、「非常に強い相関」とされる。つまり、日本では“文化・スポーツ・娯楽輻射力”が強い都市で、インバウンドも盛んである。

 上記の中日相関関係の分析から伺えるのは、日本ではすでに文化産業と観光産業において、相互発展の局面が形成されているといえよう。これに対して、中国では文化産業と観光産業の間の連携がまだ乏しい。

 戦後、製造業の輸出力を伸ばすことで経済大国に上り詰めた日本は、2003年に突如「観光立国」政策を打ち出した。同年、日本の海外旅行客数は僅か521万人で、世界ランキング中第31位に甘んじていた。

 立国政策にまで持ち上げられた日本の観光産業はその後、猛発展を遂げた。2009年には、海外旅行客数は3,188万人に達した。

 2003年から2018年までに日本の海外観光客数は5倍も伸びた。その間、海外諸外国の同伸び率は其々、ドイツは1.1倍、中国とアメリカは共に0.9倍、スペインとイギリスは共に0.6倍、フランスは僅か0.2倍であった。

 日本ではインバウンド政策が奏功した。海外観光客数世界ランキングにおいても日本は、2003年の第31位から2018年の第11位へと、15年間で20カ国を飛び越える躍進ぶりだった。

 相関関係分析の中日比較で、もう一つの違いが明らかになった。中国の海外旅行客数と国内旅行客数との相関係数は僅か0.45であり、両者の間の関連性は低かった。つまり、国内旅行客が大勢詰めかける都市は必ずしもインバウンドの盛んな地域ではなかったのだ。世界に大勢の海外観光客を送り出している中国で、海外観光客と国内観光客の地域嗜好の違いが大きいことは、実に考え深い。

 これに対して、日本では海外観光客数と国内観光客数の相関係数は0.87に達し、「完全相関」に近い。すなわち海外観光客も国内観光客もほぼ同じ地域嗜好になっている。これは興味深い発見である。

 もちろんこうした違いをもたらした一つの理由は、中国大陸に訪れた海外観光客数の中に、香港、澳門(マカオ)、台湾省の華僑のデータが含まれていることにある。彼らは頻繁に広東省、福建省の沿海の都市を往来している。このような統計コンセプトの特色も、中国における海外観光客数と国内観光客数の二つのデータの「関連性」の低さを助長している。


4.文化産業との関連性比較:IT産業VS 製造業

 本論はさらに全国297地級市以上の都市の“文化・スポーツ・娯楽輻射力2019”と“製造業輻射力”との相関関係を分析した。その結果、文化産業と製造業との二つの産業の輻射力の相関係数は、僅か0.43で、関連性は低かった。

 日本の47都道府県の“文化・スポーツ・娯楽輻射力2019”と“製造業輻射力”との相関関係も分析した。その結果、両者の相関係数は−0.5であった。つまり、日本では文化産業と製造業との関連性が低いどころか、むしろ相互離反していた。

 改革開放初期、中国では投資誘致のために各地でコンサートやフェスティバルを盛んに開催していた。これについて当時、上海浦東開発の責任者を務めていた趙啓正氏は批判的であった。同氏曰く、「文化人や芸術家が来ても投資しない。企業家が来てもコンサートには足を運ばない」。製造業がメインだった当時、これは冷静かつ正確な判断であった。

 しかし現在、中国経済を牽引するIT産業では、文化産業との関係において異なる風景が見えてくる。全国297地級市以上の都市の“文化・スポーツ・娯楽輻射力2019”と“IT産業輻射力”との相関関係を分析した結果、両者の相関係数は0.94にも達し、「完全相関」関係を示した。

 本論はまた、日本の47都道府県の“文化・スポーツ・娯楽輻射力2019”と“IT産業輻射力”との相関関係を分析した。その結果、両者の相関係数は中国以上に高く0.97であった。

 上記の分析からわかるように、中国にしろ日本にしろIT産業はおしなべて文化産業が発達した都市に身を置いている。IT産業と文化産業はまるで一蓮托生である。


5.北京都市圏VS東京都市圏

 中国では北京の文化産業輻射力が他の追随を許さない優位に立っている。故に、世界のトップクラスの都市と比較しなければ真の意味での課題をあぶり出すことはできない。

 今日、ロンドン、ニューヨーク、パリ、東京といった世界都市では、文化産業がすでにIT産業、金融産業、イノベーション、高等教育、企業本社機能といった交流経済を惹きつける魅力の源泉となっている。とくに、これらの世界都市においては、文化産業と観光産業が相互に刺激し合う大きな存在となっている。

 本論は、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県からなる“東京都市圏(以下東京圏と略称)”と、北京市の行政エリアを都市圏として捉えた“北京都市圏(以下北京と略称)”とを、比較分析する。

 北京は面積では東京圏と比べ20%大きい。これに対して、常住人口では東京圏の60%に過ぎず、GDPに至っては東京圏の30%しかない。しかし、北京の二酸化炭素の排出量は、東京圏より20%も多い。

 さらに一人当たりの指標で比較すると、北京の一人当たりGDPは東京圏の50%であるにもかかわらず、一人当たり二酸化炭素排出量は東京圏の2.1倍にも達している。単位GDP当たりエネルギー消費量に至っては、北京は東京圏の7.4倍である。

 こうした比較から、産業構造、エネルギー構造、都市構造そして生活様式において北京は東京とはまだ大きな開きがあることが伺える。なかでも、北京の文化産業および観光産業は相互発展の局面には至っておらず、経済社会における比重のまだ低いことが、一つの要因である。その意味では、北京が世界レベルの文化観光都市へと転換することこそ、未来のあるべき姿だろう。

 北京の海外旅行客数は2019年、東京圏の14%に過ぎなかった。且つ、その統計には56万人の香港・マカオ・台湾省の華僑のデータも含まれている。2000年から2019年までの北京の海外旅行客数は282万人から377万人へと34%増加した。この間、東京都に限って言えば海外旅行客数は418万人から1,410万人へと膨れ上がり、237%もの増加を見せた。東京は千客万来の世界都市へと、華麗なる変身を果たした。

 海外旅行客が東京にもたらした巨大な利益は、インバウンドの消費だけではない。さまざまな理由で訪れた海外観光客は、IT産業のような交流経済に大きな刺激を与えている。東京が日本においてIT産業で圧倒的なパワーを誇るのは、こうした交流経済における利便性が大きな一因であろう。

 上記の分析から、海外旅行客の数にしろ増加率にしろ、北京は東京に比べ、なお大きな隔たりがあることが分かった。北京が如何にして世界にとってより魅力ある文化観光都市へと変貌を遂げていくのかが、大きな課題である。

 魅力ある国際都市になるには、世界に通用する理念とロジックおよび手法とで、自身の文化の特色を演出するべきである。

 例えば、“食”は、重要な交流の場でもある。世界的に見てもIT産業が発達した都市のほとんどは美食の街でもある。北京では数多くの中国の特色ある著名なレストランがある。しかし、国際的にトップ級のレストランの数は、東京圏の10%しかない。この点、東京都内では現在、ミシュランの星付きレストランが219軒にものぼり、世界で最もミシュランレストランが密集する都市となっている。しかも、これらレストランの65%は和食で、シェフの多くが海外で修行した経験を持つ。優秀なシェフはグローバルな経験をして和食と洋食のフュージョンを起こしたが、同化は起きていない。和食が現在、世界に歓迎されている要因の一つには、外で得た見識を持ちながら自身の文化的特色を引き出すシェフ達の存在がある。

 世界を理解する努力と、世界に自身を理解してもらう努力とを、同時に行っていかなければならない。これが、世界都市への道のりには、欠かせない認識である。


「中国網日本語版(チャイナネット)」2020年9月22日

【レポート】周牧之:中心都市から見た長江経済ベルトの発展

周牧之 東京経済大学教授

要旨:中国の「長江経済ベルト」は、「一帯一路」、「京津冀(北京市、天津市、河北省)一体化」とともに習近平政権が進める「三大国家戦略」のひとつである。中国の東部・中部・西部を貫く長江経済ベルトは、国土の21.4%を占め、人口と域内総生産はいずれも中国の40%を超えている。

本稿では、規模の巨大さ故に実態が見えにくい長江経済ベルトの現状と課題を、「中国中心都市&都市圏発展指数」で分析する。


1.長江経済ベルト政策のフレームワーク

 「長江経済ベルト」とは、長江流域に位置する上海市、江蘇省、浙江省、安徽省、江西省、湖北省、湖南省、重慶市、四川省、雲南省、貴州省の9省2直轄市をカバーする巨大経済圏である。

 中国国家発展和改革委員会(以下、発改委)地区経済司が2016年9月に公布した「長江経済ベルト発展計画要綱」では、「一軸、三極、多点」を計画のフレームワークとし、「一軸」を長江、「三極」を長江デルタ・成渝・長江中游の三つのメガロポリス、「多点」を上海、武漢、成都など12の中心都市と定めた(図1)。

出所:雲河都市研究院作成。

図1 長江経済ベルトとその中心都市

2.メガロポリス、中心都市、都市圏政策

 本誌2017年7月号の小稿「長江経済ベルト発展戦略」では、「三極」である長江デルタ・成渝・長江中游の三つメガロポリスの視点で分析した。今回は「多点」である中心都市の視点から長江経済ベルトを分析する。

 中国では現在、都市化を経済社会発展の要に据え、メガロポリスを都市化の基本形態としている。発改委は2019年2月、「現代化都市圏の育成と発展に関する指導意見」を発表した。同意見では、新型都市化推進の重要な手段として、中心都市をコアにした都市圏建設を唱えた。

 また、習近平国家主席は2019年8月、党中央財経委員会で経済発展における中心都市とメガロポリスの重要性に言及し、それらを中国経済発展のエンジンとすると述べた。中国では中心都市をコアに都市圏を形成し、都市圏をコアにメガロポリスを構築して社会経済を発展させる都市政策が国是となった。

 中国での中心都市とは、4つの直轄市(北京市、天津市、上海市、重慶市)、27の省都・自治区首府(石家荘市、太原市、フフホト市、瀋陽市、長春市、ハルビン市、南京市、杭州市、合肥市、福州市、南昌市、済南市、鄭州市、武漢市、長沙市、広州市、南寧市、海口市、成都市、貴陽市、昆明市、ラサ市、西安市、蘭州市、西寧市、銀川市、ウルムチ市)、5つの計画単列市[1](大連市、青島市、寧波市、廈門市、深圳市)の計36都市を指す。

 長江経済ベルトには、上海市と重慶市の2つの直轄市、南京市、杭州市、合肥市、南昌市、武漢市、長沙市、成都市、貴陽市、昆明市の9省都、さらに計画単列市の寧波市の、12の中心都市がある。

3.「中国中心都市&都市圏発展指数」とは

 現在、世界規模で大都市化、メガシティ化が進んでいる。その本質は、中心都市間の国際競争にある。中心都市は、地域的、国家的かつ世界的なセンター機能の強化により人材、資本、企業の吸引力を高め、競い合っている。中心都市こそ地域、国家の発展を牽引するエンジンである。従って、中心都市のセンター機能を正確に評価することが極めて重要である。

 雲河都市研究院は2017年、発改委発展計画司から中心都市および都市圏を定量的に評価するシステムの構築を依頼された。筆者を中心とする専門家チームは、中国都市総合発展指標[2]を基礎に中国中心都市&都市圏発展指数(以下、CCCI)を研究開発した。都市圏の主要なセンター機能を評価する手法を確立し、同評価を2017年度、2018年度の2回発表した。

 CCCIは中国都市総合発展指標の中で、センター機能評価に関連する指標を抽出し、新たに「都市地位」「都市実力」「輻射能力」「広域中枢機能」「開放交流」「ビジネス環境」「イノベーション・起業」「生態環境」「生活品質」「文化教育」の10大項目に組み直した。また同10大項目ごとに3つの小項目を置き、各小項目指標を複数の指標データで支え、中心都市と都市圏を評価する指標体系を構築した(図2)。

出所:周牧之・陳亜群・徐林主編、中国国家発展和改革委員会発展計画司・雲河都市研究院『環境・社会・経済 中国都市ランキング2017』(NTT出版社、2018年)。

図2 中国中心都市&都市圏発展指数構造図

4.CCCI 2018からみた長江経済ベルト

 今回、CCCI2018年度版のデータを活用し、中心都市の視点から長江経済ベルトを分析する。

 (1) CCCI2018総合ランキングでみる長江経済ベルトの中心都市

 CCCI2018の総合ランキングで、上位20位以内に長江経済ベルトから上海市(第2位)、成都市(第6位)、杭州市(第7位)、重慶市(第8位)、南京市(第9位)、武漢市(第10位)、寧波市(第13位)、長沙市(第16位)の8都市がランクインし、長江経済ベルトにおける強力な中心都市の存在を示した。特に上海市は長江経済ベルトという龍の“頭”として他市をリードしている。

 一方、合肥市(第22位)、昆明市(第24位)、貴陽市(第29位)、南昌市(第30位)は低い順位に甘んじている。これら都市の牽引力向上が長江経済ベルト全体の発展上の課題となっている(図3)。

出所:CCCI2018より雲河都市研究院作成。

図3 中国中心都市&都市圏発展指数総合ランキング

(2) 10大項目でみる長江経済ベルト中心都市

 図4は10大項目における中心都市の順位と偏差値を表している。本稿では、特に「輻射力」、「広域中枢機能」、「生態資源環境」の三大項目について分析した。

出所:CCCI2018より雲河都市研究院作成。

図4 10大項目12中心都市ランキング・レーダーチャート

①【輻射力】大項目

 中心都市の役割は、周辺ひいては全国に向け輻射力[1]を持つことにある。都市の輻射能力は中心都市評価の一つの鍵となる。「輻射能力」大項目は、中心都市が全国に及ぼす輻射能力の強弱を測る。

 「輻射能力」全国ランキングのトップ10都市には、長江経済ベルトから上海市(第2位)、成都市(第4位)、杭州市(第6位)、南京市(第7位)、武漢市(第9位)の5中心都市がランクインした。

 「製造業輻射力」では、上海は北京に次ぐ第2位。全国上位20位以内に上海を含め、寧波市(第7位)、杭州市(第9位)、成都市(第15位)が長江経済ベルトからランクインした。中国の輸出工業は長江経済ベルトに最も集中し、長江経済ベルトが中国全土に占める工業総産出額、貨物輸出額の割合は各々43.4%と42.4%に達している。

 長江経済ベルトの「IT産業輻射力」はさらに高い。全国ランキングトップ30都市には寧波市以外の11中心都市が入り、上海市(第2位)、成都市(第4位)、杭州市(第5位)、南京市(第6位)、重慶市(第11位)、長沙市(第16位)、貴陽市(第17位)、合肥市(第21位)、昆明市(第23位)、南昌市(第26位)、武漢市(第27位)だった。メインボードに上場するIT企業の30.8%が長江経済ベルトにあり、うち88.9%の企業が同12中心都市内に立地する。

 「科学技術輻射力」も優れ、全国上位20都市に長江経済ベルトから9中心都市がランクインしている。長江経済ベルトの中国全土に占めるR&D内部経費支出、R&D要員、特許取得数は、各々44.6%、46%、50.9%である。

②【広域中枢機能】大項目

 「広域中枢機能」は都市の水運、陸運、空運のインフラ水準、輸送量を測る大項目である。

 「広域中枢機能」全国ランキングのトップ20都市には、長江経済ベルトから9中心都市がランクインし、上海市(第1位)、寧波市(第6位)、武漢市(第8位)、成都市(第10位)、重慶市(第11位)、南京市(第12位)、杭州市(第13位)、昆明市(第19位)、長沙市(第20位)と続く。

 港湾機能では、2018年の世界のコンテナ港上位10位のうち、中国が7港を占め、第1位の上海と第3位の寧波−舟山が長江経済ベルトに属している。     水運貨物取扱量では、長江経済ベルトの中国全土に占める割合が67%と突出し、12中心都市の中国全土に占める割合も13.9%である。

 空港機能も長江経済ベルトは好成績を上げている。「空港利便性」では、全国上位20位以内に上海市を筆頭に成都市(第5位)、昆明市(第6位)、重慶市(第7位)、杭州市(第8位)、南京市(第12位)、武漢市(第16位)、長沙市(第18位)、貴陽市(第19位)と、同12中心都市中9都市が含まれた。 空港乗降客数と郵便貨物取扱量では、長江経済ベルトが中国全土に占める割合は各々41.6%と47.4%で、同12中心都市が中国全土に占める割合は各々35.8%、45.3%と、集中集約が進んでいる。

③【生態資源環境】大項目

 都市にとって生態環境の品質や資源利用の効率はますます重要になっている。「生態資源環境」全国ランキングのトップ20都市には、長江経済ベルトから7中心都市が入り、上海市(第1位)、重慶市(第6位)、杭州市(第10位)、成都市(第11位)、武漢市(第12位)、南京市(第13位)、長沙市(第18位)となった。

 急速な工業化と都市化により、中国では大気質が悪化している。大気質の状況を測るPM2.5指数では、2017年度の中国全土の平均は66μg/m3だったが、長江経済ベルトの平均値は73.5μg/m3と全国平均を上回った。一方、同12中心都市の平均値は66.4μg/m3とほぼ全国平均と同水準であったが、ランキングでは昆明市(第42位)、貴陽市(第92位)、上海市(第102位)、南昌市(第125位)、杭州市(第173位)、南京市(第202位)、重慶市(第213位)、長沙市(第237位)、合肥市(第247位)、成都市(第249位)、武漢市(第257位)と順位が低い。

5.課題と展望

  巨大な長江経済ベルトをリアリティのあるデータで相対化すれば、実像が浮かび上がる。12の中心都市のパフォーマンスには凹凸があり、上海市の突出ぶりはすさまじい。長江経済ベルトは、工場経済から都市経済への移行をさらに加速していく。重要なのは、サービス型経済の発展と、都市生活の質の向上や経済活動の効率化であり、ベルト内のエリアや都市ごとの役割分担の明確化である。また、それを丁寧にモニタリングすることである。以上を命題に開発したCCCI、および中国都市総合発展指標で、筆者及び雲河都市研究院は中国都市発展を今後も続けて注視する。


本論文では雲河都市研究院の栗本賢一、数野純哉両氏がデータ整理と図表作成に携わった。


[1] 計画単列市は、日本の政令指定都市に相当する。

[2] 「中国都市総合発展指標」とは、中国国家発展改革委員会発展計画司と雲河都市研究院が、環境、社会、経済という三つの軸で都市を包括的に評価するシステムを協力して開発したものである。詳しくは、2018年9月号小稿および当該指標についての特設WEBページhttps://cici-index.com/ を参考。2016年度と2017年度の「中国都市総合発展指標」は日本語版がNTT出版より刊行された。

[3] 本指標で使用する「輻射力」とは、広域影響力の評価指標であり、都市のある業種の周辺へのサービス移出・移入量を、当該業種従業者数と全国の当該業種従業者数の関係、および当該業種に関連する主なデータを用いて複合的に計算した指標である。


『日中経協ジャーナル』2020年1月号(通巻312号)掲載

【レポート】周牧之:コロナショックでグローバルサプライチェーンは何処へいく? 〜中国都市製造業輻射力2019〜

周牧之 東京経済大学教授

編集ノート:中国で最強の製造業力をもった都市が、新型コロナウイルスショックで大打撃を受けた。これらの都市の2020年第一四半期の地方税収は、軒並みマイナスに陥った。伝統的な輸出工業の発展モデルはどのような限界に当たったのか?製造業そしてグローバルサプライチェーンはどこに向かうのか?雲河都市研究院が「中国都市製造業輻射力2019」を発表するにあたり、周牧之東京経済大学教授が上記の問題について分析し、展望した。


「中国都市製造業輻射力2019」で深圳が首位、蘇州第2位、東莞第3位


 中国都市総合発展指標に基づき、雲河都市研究院は中国全297地級市(地区級市)以上の都市をカバーする「中国都市製造業輻射力2019」を公表した。輻射力とは広域影響力の評価指標である。製造業輻射力は都市における工業製品の移出と輸出そして、製造業の従業者数を評価したものである。

 深圳、蘇州、東莞、上海、仏山、寧波、広州、成都、無錫、廈門が「中国都市製造業輻射力2019」トップ10入りを果たした。珠江デルタ、長江デルタ両メガロポリスから各々4都市がトップ10に入った。これらの都市は成都を除き、すべて大型コンテナ港を利用できる立地優位性を誇る。10都市の貨物輸出総額は中国全土の47.4%を占めた。

 恵州、杭州、北京、中山、青島、天津、珠海、泉州、嘉興、南京が第11位〜20位にランクインした。鄭州、金華、煙台、南通、西安、常州、大連、紹興、福州、台州が第21位~30位だった。

 トップ30都市の貨物輸出総額は中国全土の74%にも達した。すなわち、製造業輻射力の上位10%の都市が中国の4分の3の貨物輸出を担っている。これらの都市の中で、成都、北京、鄭州、西安の4都市を除いた全都市が沿海部、沿江(長江)部都市であることから、コンテナ港の利便性が輸出工業にとって極めて重要であることが見て取れる。

 輸出工業とコンテナ輸送は相互補完で発展している。中国全297地級市(地区級市)以上の都市の製造業輻射力とコンテナ港の利便性とを相関分析すると、その相関係数は0.7に達し、いわゆる“強相関”関係にある。2018年、中国港湾の海上コンテナ取扱量は、世界の総額の28.5%にも達し、中国は世界のコンテナ港ランキングトップ10に6席をも占めている。

 三大メガロポリスの視点から見ると、京津冀、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスが中国全土の貨物輸出総額に占める割合は、それぞれ6%、36.3%、24.5%となっている。三大メガロポリスの合計が全国の66.9%を占めている。三大メガロポリスでもとりわけ、長江デルタ、珠江デルタは中国輸出工業発展のエンジンである。

図:「中国都市製造業輻射力2019」ランキングトップ30位都市

新型コロナウイルスパンデミックが輸出工業に打撃


 2019年に米中貿易摩擦がエスカレートし、グローバルサプライチェーンにとって極めて難儀な一年となった。米中関税合戦の圧力を受けながら、中国の貨物輸出総額は5%(中国税関統計、人民元ベース)成長を実現した。これは、中国輸出工業の発展を牽引する製造業輻射力ランキング上位都市の努力の賜物である。

 しかしながら2020年に入ると、新型コロナウイルスが全世界を席巻し、グローバルサプライチェーンはさらなる大打撃を被った。中国の輸出工業はコロナ休業、海外ニーズの激減、サプライチェーンの寸断など多重な被害を受けることとなった。

 2020年第一四半期、地方の一般公共予算収入から見ると、「中国都市製造業輻射力2019」ランキングトップ10位都市は、軒並みマイナス成長となった。とくに、深圳、東莞、上海、仏山、成都、廈門の6都市の同マイナス成長は二桁にもなった。世界に名だたる製造業都市の大幅な税収低迷は、中国の輸出工業が大きな試練に晒されていることを意味している。

グローバルサプライチェーンが中国輸出工業の大発展をもたらした


 中国輸出工業は製造業サプライチェーンのグローバル化の恩恵を受けて発展した。筆者は20年前、サプライチェーンのグローバル化が、中国の珠江デルタ、長江デルタ、京津冀で新型の産業集積を形成すると予測した。さらに、これらの産業集積をてこに、珠江デルタ、長江デルタ、京津冀地域にメガロポリスが形成されると予想した。今日、これらはことごとく現実となり、三大メガロポリスは、中国の社会経済発展を牽引している。

 従来の工業生産は、大企業であるセットメーカーと部品メーカーとの間にすり合わせなどの暗黙知を軸とした信頼関係が必要とされた。資本提携や人員派遣、長期取引などによって系列関係、あるいはそれに近い関係がつくられてきた。それは、大企業を頂点とし、一次部品メーカー、二次部品メーカーなどで構成されるピラミッド型の緊密な協力システムである。ゆえにその時期の製造業のサプライチェーンは一国の中、あるいは地域の中に留まる傾向が強かった。

 IT革命は、標準化、デジタル化をもって取引における暗黙知の比重を大幅に減少させ、企業間の情報のやりとりに関わる時間とコストも大幅に削減させた。また、モジュール生産方式によるデザインルールの公開で、世界中の企業がサプライチェーンにおける競争に参入できるようになった。よって、サプライチェーンは暗黙知による束縛から解放され、グローバル的な展開を可能とした。サプライチェーンにおける企業関係も、従来の緊密的なピラミッド型から、柔軟につながり合うネットワーク型に変貌した。このような変革は、発展途上国に工業活動への参入の大きなチャンスを与えた。

 サプライチェーンのグローバル化の時期は、中国の改革開放期と幸運にも重なり、中国は大きな恩恵を受けた。サプライチェーンのグローバル化を推し進めた三大原動力は、IT革命、輸送革命、そして冷戦後の安定した世界秩序がもたらした安全感である。

 グローバルサプライチェーンは西側の工業国における労働分配率の高止まりの局面を打破し、世界の富の創造と分配のメカニズムを大きく変えた。

 当然、中国をはじめとする発展途上国の参入によって、工業製品の価格は大幅に下がった。このような暗黙知を最小化したグローバルサプライチェーンは、典型的な交易経済である。

 中国経済大発展の基盤を築いたのは、グローバルサプライチェーンである。これに鑑み、2007年に出版した拙著「中国経済論」において、筆者は第1章を丸ごと使い、中国経済発展とグローバルサプライチェーンの関係について論じた。

 中国40年の改革開放は、WTO加盟を境に二つの段階に分けられる。第一段階は、計画経済制度の改革を中心とし、また西側の国際市場への進出にも努力を重ねた。2001年のWTO加盟で中国はついに国際自由貿易体制に入り、国際市場への大門が開かれた。よって第二段階では、中国改革開放と世界市場の結合で、大きなエネルギーが爆発した。中国は一瞬にして「世界の工場」となり、2009年に世界一の輸出大国に躍り上った。第一段階の艱難辛苦と比べると、WTO加盟後の中国は大発展を遂げた。強力な輸出工業に牽引され、中国の多くの都市が著しい発展を見せた。

 2000年〜2019年、ドイツ、アメリカの輸出はそれぞれ、1.7倍、1.1倍成長した。フランス、イギリス、日本は各々0.7倍、0.6倍、0.5倍成長した。同時期に世界の輸出総額は1.9倍成長したのと比べ、これらの工業国の輸出成長率は、世界の平均以下に留まった。これと比べて、2000年に2,492億ドルしかなかった中国の輸出総額は、2019年には24,990億ドルに達し、10倍規模に膨れ上がった。2000年に世界輸出総額に占める割合が3.9%しかなかった中国のシェアも、2019年には同13.2%に急上昇し、世界のトップの座を不動のものとした。

 改革開放が解き放った活力とWTO加盟は、中国に巨大な国際貿易の利をもたらした。

輸出工業の伝統的発展モデルの限界


 中国輸出工業の成長は、その速度も規模も極めて高速であった。結果、非凡の成果を上げたと同時にアメリカをはじめとする一部の国との間に、巨大な規模の構造的貿易不均衡が生じた。西側諸国での産業空洞化も中国輸出工業の驚異的な発展の結果だと考えられる。アメリカのトランプ大統領の当選は、ある意味、アメリカの産業空洞化の圧力によるものである。これらが、トランプ政権下での米中貿易戦争勃発の背景とも言えよう。

 急に巨大化した中国の存在感も、多くの国の神経を敏感にした。例えば知的財産権の問題は、いまや米中貿易摩擦の大きな焦点のひとつとなっている。また、サプライチェーンの中国へ過度な依存を避けるため、日本は10年ほど前から「チャイナプラス1」政策を進め、自国企業に中国以外の国や地域へのサプライチェーン構築を促した。さらに、日本政府は2020年度の補正予算に生産拠点の国内回帰を促す補助金として2200億円を計上し、その姿勢を鮮明化させている。

 中国の労働力、土地、環境、税収などのコストの上昇も無視できなくなった。労働力コストを例にとり、「中国都市製造業輻射力2019」ランキングトップ10都市の2000年から2018年までの平均賃金の変化を見ると、上海の平均賃金は9.3倍に、成都、蘇州、無錫はそれぞれ8.5倍、8倍、7.5倍に、寧波、仏山、広州、廈門、東莞はそれぞれ6.6倍、6倍、6.3倍、5.7倍、5.6倍、5.1倍に跳ね上がった。2000年の時点ですでに比較的高かった深圳の平均賃金も、4.8倍になった。上記の分析から、中国における労働力コストの上昇がいかに激しかったかが見て取れる。

 グローバルサプライチェーンの中で、中国の労働力の低コストの優位性はもはや失われた。

 これらの理由により、中国輸出工業の伝統的発展モデルはすでに限界に達し、製造業は新しい次元へと進化を余儀なくされた。

交流経済へと進化する製造業


 アメリカの進める自国企業を中国から呼び戻す政策が、いま世論の焦点となっている。しかし、筆者はトランプ大統領の推し進めるこの政策が無くても、製造業の一部がアメリカへと回帰することは必然であると考える。

 まず中国の生産コストの上昇に伴い、利幅の薄い一部の製造業が中国から離れることは不可避である。

 中国がより重視すべきなのは先端製造業の先進国への回帰である。時代の変化の中で、低価格を求めてきた消費者はいま、感性、個性、そして生産者とのコミュニケーションをより重視しつつある。これを可能とした大きな背景には、工業生産のモジュール化が新たな段階に入ったことがある。

 発展途上国の新工業化の前提は、本質的にいえば、モジュール生産方式により非熟練労働者が組み立てなどの工業活動に参加できるようになったことである。これは製造業サプライチェーンのグローバル化の基礎である。しかし今や、モジュール化はすでに個性的なデザインと重なり合い、多品種少量生産を実現できるように進化した。モジュール化の基礎の上で生産者と消費者はコミュニケーションを通じて、よりデザイン性と個性にあふれた製品を生み出すことを可能とした。

 未来の製造業を想像すると、一方では半導体やセンサーなどのハイテクなモジュールやディバイスがこれまで同様、グローバル的に供給される。日米の企業は現在、これらの分野で高い優位性を誇っている。 

 他方、一部の最終製品生産者は、これらのモジュールやディバイスをベースにユーザーとコミュニケーションを重ね、個性のある商品を提供するように進化する。暗黙知を最小化してきた旧来のグローバルサプライチェーンは、ここにきてコミュニケーションを重視する方向へ付加価値を高めるようにシフトしている。これは先端製造業の交易経済から交流経済への転換である。

 このような交流経済へ進化する先端製造業と消費者との動線は、極めて短く、可視化できるものとなるだろう。

 その意味では、目下製造業の先進国への回帰は、その一部分は消費者へより近づく市場への回帰だと言えよう。製造業最終製品の生産はますます個性化、ローカル化が進むだろう。トランプ大統領の呼び戻し政策がなくても新型コロナウイルスショックがなくても、こうした製造業の回帰は起こる。これは、製造業が交易経済から交流経済へと進化する流れの一環である。

 従って、中国の製造業もこれをしっかり認識し、製造業の交流経済化の潮流をつかみ、進化への努力をすべきである。幸いにして、「中国都市製造業輻射力」のトップ都市はすでに製造業の強力な基盤を持ち、それ自身がメガロポリスのような巨大な市場に身を置いている。市場とのコミュニケーションを強化し、製造業の交流経済化の中で道を拓き、新たな奇跡を築くことが可能となろう。


「中国網日本語版(チャイナネット)」2020年5月19日

【レポート】新型コロナパンデミック:なぜ大都市医療能力はこれほど脆弱に?

周牧之 東京経済大学教授

編集ノート:豊かな医療リソースを持つ大都市が、なぜ新型コロナウイルスにより一瞬で医療崩壊に陥ったのか?グローバリゼーションそして国際大都市の行方は?雲河都市研究院による「中国都市医療輻射力2019」が発表されるにあたり、周牧之教授が解析と展望を寄せた。


中国都市医療輻射力2019

 〈中国都市総合発展指標に基づき 雲河都市研究院が中国全国297の地級市以上の都市を網羅した「中国都市医療輻射力2019」を発表した。北京、上海、広州、成都、杭州、武漢、済南、鄭州、南京、太原が同輻射力の上位10都市にランクインした。天津、瀋陽、長沙、西安、昆明、青島、南寧、長春、重慶、石家庄が第11位から20位、ウルムチ、深圳、大連、福州、蘭州、南昌、貴陽、蘇州、寧波、温州が第21位から30位を占めた。

 輻射力とは広域影響力の評価指標である。医療輻射力に富むとして評価されたのは都市の医師数と三甲病院(トップクラス病院)数である。輻射力ランキング上位30位の都市に全国の15%の医師、30%の病床と45%の三甲病院が集中している。中国の医療リソース、とりわけ先端医療機関が、医療輻射力ランキング上位都市に集中している状況が顕著である。ランキングの前列にある都市は良質な医師と一流の医療機関に支えられ、市民の衛生と健康を担うだけでなく、周辺地域あるいは全国の患者に先端医療サービスを提供している。

 疑問なのは、なぜ武漢のような医療リソースが豊富で医療輻射力に富んだランキング上位都市が、突如として現れた新型コロナウイルスにしてやられ、医療崩壊状態に陥ったのか、である。

 都市は繰り返し起こり得る流行疾患の襲来に、どう対処していくべきか?

新型コロナウイルスが世界の都市医療能力に試練を

 武漢は新型コロナウイルスの試練に世界で最初に向き合った都市であった。武漢は27カ所の三甲病院を持ち、医師約4万人、看護師5.4万人と医療機関病床9.5万床を擁する名実ともに「中国都市医療輻射力2019」全国ランキング第6位の都市である(2018年同ランキング第7位から1位上昇)。

 しかしながら、武漢のこの豊富な医療能力が新型コロナウイルスの打撃により、一瞬で崩壊した。

 国際都市ニューヨークの医療キャパシティも同様、新型コロナウイルスに瞬く間に潰された。4月8日に「緊急事態宣言」をした東京都も目下、医療システムの崩壊の危機に直面している。新型コロナウイルスはまさに全世界の都市医療能力を崩壊の危機に晒している。

 新型コロナウイルス禍による都市の「医療崩壊」は、以下の三大原因によって引き起こされた。

 (1)医療現場がパニックに

 新型コロナウイルス禍のひとつの特徴は、感染者数の爆発的な増大だ。とりわけオーバーシュートで猛烈に増えた感染者数と社会的恐怖感により、大勢の感染者や感染を疑う人々が医療機関に駆け込み、検査と治療を求めて溢れかえった。

 病院の処置能力を遥かに超えた人々の殺到で医療現場は混乱に陥り、医療リソースを重症患者への救済にうまく振り向けられなくなった。医療救援活動のキャパシティと効率に影響を及ぼし、致死率上昇の主原因となってしまった。さらに重大なことに、殺到した患者、擬似患者、甚だしきはその家族が長期にわたり病院の密閉空間に閉じ込められ、院内感染という大災害を引き起こした。

 1千人あたりの医師数でみると、イタリアは4人で、医療の人的リソースは国際的に比較的高い水準に達している。しかし新型コロナウイルスのオーバーシュートで医療機関への駆け込みが相次ぎ、医療崩壊を招いた。イタリアのミラノ市にあるロンバルディア州の感染者数は3月2日に1千人を突破、同14日に10倍の1万人へ、3月末には4万人、5月上旬には8万人へと膨れ上がり、大勢の重症患者が逸早く有効な治療を受けられないまま置かれた。5月11日現在、イタリアの感染者は21.9万人、死者数は3.1万人、病死者率(死亡者数/患者数)は13%と高い。

 アメリカ、日本、中国の1千人あたりの医師数は、各々2.6人、2.4人、2人であり、医療の人的リソースはイタリアに比べ、はるかに低い水準にある。

 よくも悪くも中国の医療リソースは中心都市に高度に集中している。武漢は1千人あたりの医師数は4.9人で全国の水準を大きく上回る。武漢と同様、医療の人的リソースが大都市に偏る傾向はアメリカでも顕著だ。ニューヨーク州の1千人あたりの医師数は4.6人にも達している。

 しかし武漢、ニューヨークの豊かな医療リソースをもってしても、新型コロナウイルスのオーバーシュートによる医療崩壊は防ぎきれなかった。5月11日までに、中国の新型コロナウイルス感染死者数の累計83.3%が武漢に集中していた。その多くが医療機関への駆け込みによるパニックの犠牲者だと考えられる。

 東京都は人口1千人あたりの医師数が3.3人で、これは武漢より低く、ニューヨークと同水準にある。日本政府は当初から、医療崩壊防止を新型コロナウイルス対策の最重要事項に置いていた。新型コロナウイルス検査数を厳しく制限し、人々が病院に殺到しないよう促した。

 目下、こうした措置は一定の効果を上げ、院内感染によるウイルス蔓延をある程度抑えた。また重症患者に医療リソースを集中させて致死率を下げ、5月11日現在で死亡率を4%に抑え込んでいる。人口10万人あたりの新型コロナウイルス死者数でみると、5月11日現在、スペインの56.9人、イタリアの50.5人、フランスの40.4人、アメリカの24.4人と比べて日本は0.5人に留まっている。これまでのところ日本は医療機関でのパニックを封じ込め、医療崩壊を防いでいると言えよう。

 しかし、検査数の過度の抑制は、軽症感染者及び無症状感染者の発見と隔離を遅らせ、治療を妨げると同時に、莫大な数の隠れ感染者を生むことに繋がりかねない。軽症感染者、無症状感染者の放置は日本の感染症対策に拭い切れない不穏な影を落としている。緊急事態宣言に伴い、日本も政策を見直しつつあるものの、検査数抑制から検査数拡大への動きはまだ極めて遅い。

(2)医療従事者の大幅減員

 ウイルス感染がもたらした医療従事者の大幅な減員が、新型コロナウイルス禍のもう一つの特徴である。

 ウイルス感染拡大の初期、各国は一様に新型コロナウイルスの性質への認識を欠いていた。マスク、防護服、隔離病棟などの資材不足がこれに重なり、医療従事者は高い感染リスクに晒された。こうした状況下、PCR検体採取、挿管治療など、暴露リスクの高い医療行為への危険性が高まった。これにより各国で現場の医療人員の感染による減員状態が大量に起こった。オーバーシュートで、元より不足していた医療従事者が大幅に減員し危機的状況はさらに深刻化した。

 救護過程のリスクばかりでなく、慶應義塾大学病院の研修医の会食で引き起こされた医療従事者の集団感染とそれに伴う隔離治療は、もともと緊迫していた東京の医療人的リソースに大打撃を与えた。

 国際看護師協会(ICN)が公表した情報によると、5月6日までに報告された30カ国のデータでは、少なくとも9万人の医療従事者が新型コロナウイルスに感染した。個々の状況では、スペインでは5月5日までに、4万3956人(全感染者の18%)の医療従事者が新型コロナウイルスに感染した。イタリアでは、4月26日までに、1万9,942人の医療従事者が感染し、150人の医師と35人の看護師が亡くなった。

 東京では5月11日までに25の医療機関で院内感染が起こった。4月末には、日本での院内感染者は確認された新型コロナウイルス感染者の1割近くにも達した。

 強力な感染力を持つ新型コロナウイルスは、医療従事者の安全を脅かし、医療能力を弱め、都市の医療システムを崩壊の危機に陥れている。

 医療従事者の安全を如何に最優先に守って行くかが、新型コロナウイルス対策の肝心要となっている。

(3)病床不足

 新型コロナウイルス感染拡大後、マスク、防護服、消毒液、PCR検査薬、呼吸器、人工心肺装置(ECMO)などの医療リソースの枯渇状況が各国で起こった。とりわけ深刻なのは病床の著しい不足である。感染力の強い新型コロナウイルスの拡散防止のため、患者は隔離治療しなければならない。とりわけ重症患者は集中治療室( ICU )    での治療が不可欠だが、実際、各国ともに病床の著しい不足に喘いでいる。

 人口1千人あたりの病床数データで見ると、日本は13.1床で世界でも最高水準にある。12万8000病床数を有する東京は、1千人あたりでみると9.3床となる。そんな東京でもいま、病床不足に悩まされている。

 東京と比べイタリアの人口1千人あたりの医師数は若干高いものの、1千人あたりの医療機関病床数では、僅か3.2床でしかない。アメリカの1千人あたりの医療機関病床数は2.8床で、ニューヨーク州はアメリカ全土の平均よりさらに少なく2.6床となっている。病床不足が医療機関の患者収容能力を制約し、新型コロナウイルス患者治療のボトルネックとなっている。

 中国は人口1千人あたりの医療機関病床数が4.3床で、日本の四分の一にすぎないもののイタリアよりは高く、アメリカと同等の水準である。とりわけ9万5,000の病床を持つ武漢市は、1千人あたりの病床数が8.6床と高く、東京の水準に迫っている。しかし、武漢も新型コロナウイルスオーバーシュート期は、深刻な病床不足状態に置かれた。

 特に問題なのは、すべての病床が新型コロナウイルス治療の隔離要求に耐えるものではない点にある。これに、爆発的な患者増大が加わり、病床不足状況が一気に加速した。

 武漢は国の支援で迅速に、専門治療設備の整う火神山病院と雷神山病院という重症患者専門病院を建設し、前者で1,000床、後者で1600床の病床を確保した。このほかに、武漢は体育館を16カ所の軽症者収容病院へと改装し、素早く1万3,000床の抗菌抗ウイルスレベルの高い病床を提供し、軽症患者の分離収容を実現させた。先端医療リソースを重症患者に集中させ、パンデミックの緩和を図った。武漢の火神山、雷神山そして軽症者収容病院建設により、病床不足は解消された。

 日本は病床数不足により一時期、感染患者の在宅隔離を実施していた。こうしたやり方は患者の家族を感染の危険に晒し、家庭内での集団感染を生む可能性がある。また、患者は有効な専門治療を施されず、健康状況の把握がされないまま、病状急変により救援治療が間に合わないこともありうる。

 幸いにして現在、こうした在宅隔離はほぼ改められ、ホテルなどの施設を改修し、軽症患者を収容している。

 東京での更に深刻な問題はICU(集中治療室)の驚くべき不足である。2018年の時点で、日本全国の人口10万人あたりのICU病床数は4.3床でしかない。アメリカの35床、ドイツの30床、フランスの11.6床、イタリアの12.5床、スペインの9.7床に比べても圧倒的に少ない。

 日本国内で最も感染者数を抱える東京都は目下、ICU病床が764床しかなく、人口10万人あたりのICU病床数は5.5床に過ぎない。重症患者を受け入れられるだけの病床数の確保が、医療システムの崩壊を避ける鍵となっている。

 新型コロナウイルス治療用病床の確保のため、各国がとった措置は実に様々であった。アメリカに至っては、海軍の医療船も派遣した。トランプ大統領は3月下旬に医療船マーシー号( USNS Mercy)とコンフォート号(USNS Comfort)をそれぞれロサンゼルスとニューヨークに配備した。各々1千病床を持つ2隻の医療船は、新型コロナウイルス感染者の治療に適していないものの大勢の一般患者を受け入れた。これにより、現地の総合病院ではより多くの病床を新型コロナウイルス治療へと振り当てることにつながった。

 「緊急輸入病院」も一種新しい選択肢となった。新型コロナウイルスオーバーシュートに伴う深刻な病床数逼迫に喘いだ韓国は、中国企業遠大グループから「病院」を丸ごと輸入した。遠大はステンレス製プレハブ建築方式を用いて、韓国にオゾン技術を活用した空気清浄・陰圧化ユニットで構築された「陰圧隔離病棟」を迅速に輸出した。現地では僅か2日間の工程で、施設の使用が可能となった。

地球規模の失敗から地球規模での抗ウイルスへ

 感染症は昔から人類の命を脅かす最大の敵であった。例えば、1347年に勃発したペストで、ヨーロッパでは20年間で2,500万もの命が奪われた。1918年に大流行したスペインかぜによる死者数は世界で2,500万〜4,000万人にも上ったとされる。

 100年余りにわたる抗菌薬とワクチンの開発及び普及により、天然痘、小児麻痺、麻疹、風疹、おたふく風邪、流感、百日咳、ジフテリアなど人類の健康と生命を脅かし続けた感染症の大半は絶滅あるいは制御できるようになった。1950年代以降、先進国では肺炎、胃腸炎、肝炎、結核、インフルエンザなどの感染疾病による死亡者数を急激に減少させ、癌、心脳血管疾患、高血圧、糖尿病など慢性疾患が主要な死因となった。

 感染症の予防と治療で勝利を収めたことで、人類の平均寿命が伸び、主な死因も交代した。世界とりわけ先進国の医療システムの焦点は、感染症から慢性疾患へと向かった。その結果、各国は目下感染症予防と治療へのリソース投入を過少にし、同時に現存する医療リソースを主として慢性疾患に傾斜するという構造的な問題を生じさせた。医療従事者の専門性から、医療設備の配置、そして医療体制そのものまで新型ウイルス疾患の勃発に即座に対応できる態勢を整えてこなかった。

 よって、新型ウイルスとの闘いにおいて、武漢、ニューヨーク、ミラノといった巨大な医療リソースを持つ大都市は対策が追いつかず悲惨な代償を払うことになってしまった。

 ビル・ゲイツは早くも2015年には、ウイルス感染症への投資が少な過ぎる故に世界規模の失敗を引き起こす、と警告を発していた。新型コロナウイルス禍は不幸にしてビル・ゲイツの予言を的中させた。

全土支援から世界支援へ

 武漢の医療従事者大幅減員に鑑み、中国は全国から大勢の医療従事者を救援部隊として武漢へ素早く送り込んだ。武漢への救援医療従事者は最終的に4万2,000人に達した。この措置が武漢の医療崩壊の食い止めに繋がった。感染地域に迅速かつ有効な救援活動を施せるか否かが、新型ウイルスへの勝利を占う一つの鍵である。しかし、全ての国がこうした力を備えているわけでない。ニューヨーク、東京の状況からすると、医療リソースがかなり揃っている先進国でさえ救援できるに足りる医療従事者を即座に動員することは難しい。

 さらに深刻なことには、医療リソースに著しく欠ける発展途上国、アフリカはいうに及ばず巨大人口を抱えるアジアの発展途上国の、人口1千人あたりの医師数はインドが0.8、インドネシアは0.3である。1千人あたりの病床数は前者が0.5、後者は1だ。こうした元々医療リソースが稀少かつ十分な医療救援能力を持たない国にとって、新型コロナウイルスのパンデミックで引き起こされる医療現場のパニックは悲惨さを極める。グローバル的な救援力をどう組織するかが喫緊の解決課題となっている。問題は、大半の先進国自体が、目下新型コロナウイルスの被害が深刻で、他者を顧みる余裕を持たないことにある。

科学技術の爆発的進歩

 緊急事態宣言、国境封鎖、都市ロックダウン、外出自粛、ソーシャルディスタンスの保持など、各国が目下進める新型コロナウイルス対策は、人と人との交流を大幅に減少かつ遮断することでウイルス感染を防ぐことにある。こうした措置は一定の成果を上げるものの、ウイルスの危険を真に根絶させ得るものではない。ウイルス蔓延をしばらく抑制することができても、非常に脆弱だと言わざるを得ない。次の感染爆発がいつ何時でも再び起こる可能性がある。

 しっかりとした成果をあげるにはやはり科学技術の進歩に頼るほかない。新型コロナウイルス危機勃発後、アメリカではPCR検査方法を幾度も更新し、検査結果に要する時間を大幅に短縮した。安価で、ハイスピードかつ正確な検査方式が大規模な検査を可能にした。

 アメリカでは迅速な新型コロナウイルス抗体検査方式も確立され、同政府は今、全国民を対象とする新型コロナウイルスの抗体検査実施の動きもある。もちろん、新型コロナウイルスの特効薬とワクチンの開発は各国が緊急課題として急ぎ取り組んでいる。

 人類は検査、特効薬、抗体の三種の神器を掌握しなければ、本当の意味で新型コロナウイルスをコントロールし、勝利を収めたとは言えないだろう。

 危機はまた転機でもある。近現代、世界的な戦争や危機が起こるたびに人類は重大な転換期に向き合い、科学技術を爆発的に進歩させてきた。第二次世界大戦は航空産業を大発展させ、核開発の扉を開けるに至った。冷戦では航空宇宙技術の開発が進み、インターネット技術の基礎をも打ち立てた。新型コロナウイルスも現在、関連する科学技術の爆発的な進歩を刺激している。

 コロナウイルスが作り上げた緊迫感は技術を急速に進歩させるばかりでなく、技術の新しい進路を開拓し、過去には充分に重視されてこなかった技術の方向性も掘り起こす。例えば、漢方医学は武漢での抗ウイルス対策で卓越した効き目をみせ、注目を浴びている。漢方医学は世界的なパンデミックに立ち向かうひとつの手立てになりうる。

 オゾンもまた偏見によりこれまで軽視されてきた。筆者は2月18日にはオゾンについて論文を発表し、新型コロナウイルス対策としてのオゾン抗菌利用を呼びかけた。現在、日本では、感染しやすい環境として「三密」環境が取り上げられている。もしオゾンのセンサーの開発が進展し低価格化が図られれば、有人環境下でのオゾン利用で滅菌抗ウイルスが実現し、室内空間のウイルス感染を抑えることができる。

グローバリゼーションは止まらない

 新型コロナウイルスのパンデミックで、各国はおしなべて国境を封鎖し都市をロックダウンして国際間の人的往来を瞬間的に遮断した。グローバリゼーションの未来への憂慮、国際大都市の行方に対する懸念の声が絶えず聞こえてくるようになった。

 確かに、グローバリゼーションが進むにつれ、国際間の人的往来はハイスピードで拡大し、世界の国際観光客数は30年前の年間4億人から、2018年には同14億人へと激増した。

 グローバリゼーションで、大都市化そしてメガロポリス化も一層世界の趨勢となった。1980年から2019年の間、世界で人口が250万人以上純増したのは117都市、この間これらの都市の純増人口は合計6億3,000万人にも達した。とりわけ、人口が1,000万人を超えたメガシティは1980年の5都市から、今日33都市にまで膨れあがった。こうしたメガシティはほとんどが国際交流のセンターであり、世界の政治、経済発展を牽引している。これらメガシティの人口は合わせて5億7,000万人に達し、世界の総人口の15.7%をも占めている。

 高密度の航空網と大量の国際人的往来は新型コロナウイルスをあっという間に世界各地へ広げ、パンデミックを引き起こした。国際交流が緊密な大都市ほど、新型コロナウイルスの爆発的感染の被害を受けている。

 しかし、冷静に認識しておくべきは、新型コロナウイルスが全世界に拡散した真の原因は、国際的な人的往来の速度と密度ではなく、人類が長きに渡り、感染症の脅威を軽視してきたことにこそある。

 大航海時代から今日まで、人類は一貫して感染症の脅威に晒され、この間、幾度となく悲惨な代償を払ってきた。

 第二次大戦後は感染疾病対策で効果を上げ、ほとんどの感染症が抑えられた。よって、先進国でも世界機関でも長期にわたり感染症の脅威を軽視してきた。

 世界経済フォーラム(WORLD ECONOMIC FORUM)が公表した「グローバルリスク報告書2020(The Global Risks Report 2020)」に並ぶ今後10年に世界で発生する可能性のある十大危機ランキングでも、感染症問題は入っていなかった。また、今後10年で世界に影響を与える十大リスクランキングでは、感染症が最下位に鎮座していた。

 不幸にして世界経済フォーラムの予測に反し、新型コロナウイルスパンデミックは、人類社会に未曾有の打撃を与えた。

 しかし我々は悲観的になる必要もない。新型コロナウイルス禍は、感染症対策への関心と投資を世界的に高め、大幅な技術革新と社会変革をもたらす。人類は感染症の脅威を克服し、世界規模の失敗を世界規模の勝利へと導くに違いない。

 新型コロナウイルス禍はグローバリゼーションと国際大都市化を阻むものではない。新型コロナウイルスパンデミックを収束させた後には、より健全なグローバリゼーションとより魅力的な国際大都市が形作られるであろう。


中国網日本語版(チャイナネット)2020年5月12日

【レポート】周牧之:オゾンパワーで新型コロナウイルス撲滅を

1. 地球における命の守護神

 新型コロナウイルスが中国武漢で爆発的に発生して以来、筆者は遠大科技集団(BROAD Group)の張躍総裁とオゾンを利用した殺菌について日夜電話議論を重ねてきた。張躍氏はオゾン利用による殺菌を提唱する先駆者である。しかし実際の反響はこれまで芳しくなかった。オゾン利用に関する国内外専門家との交流や関連資料調査で、筆者もオゾンについての人々の警戒心を強く感じてきた。オゾンに関する誤解を取り除き、この緊急事態に、オゾンの積極利用を進めるべきとして、オゾンの極めて解りにくい特性に関して系統的な整理を試みた。

 地球大気圏約0~10kmの最低層は対流圏と呼ばれ、そこでの温度と高度の関係は上冷下熱である。対流圏の上部に約10~50kmの成層圏がある。成層圏では温度と高度との関係が対流圏と相反して上熱下冷である。濃度約10~20ppmのオゾン層はこの成層圏にある。オゾン層は紫外線の地球上生物に危害を加える部分を吸収する。よって、有害な紫外線による生物細胞の遺伝子の破壊を押し止め、地球上の生命に生存条件を与えている。

 オゾン層の濃度が現在のレベルに達した時期と地球上の生命が海から上陸した時期はほぼ一致している。言い換えれば、オゾン層がまだ希薄な時期、生命は海の中に潜伏せざるを得なかった。オゾン層の濃度の向上を待ってようやく陸に上がることができた。

 オゾン層の保護がなければ、地球上には細菌一つすら存在不可能であったということになる。もちろん今日の豊かな生命の繁栄もあり得なかった。

 しかし、人類の産業活動によって大量に排出されたフロンガスや揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)などによるオゾン層への破壊は、人類の免疫システムを弱め、皮膚ガンや白内障などの発病率を高める被害をもたらした。オゾンホールは地球温暖化と並び、いまや地球環境問題となっている。オゾン層破壊問題は同時に、オゾンを一般大衆の視野に入れるきっかけともなった。オゾン層はその地球生物を保護する性質に鑑み、“アース・ガーディアン”と呼ばれる。

 オゾンは、三つの酸素原子から構成され、酸素の同素体であり、特殊な匂いがする。オゾンは主に太陽の紫外線が酸素分子を二つの酸素原子に分裂させ、その酸素原子がさらに酸素と結合することで作られている。

 高濃度のオゾン層は天然のバリアとなり、地球上の生物を太陽光にある有害な紫外線の攻撃から守り、地球生命の繁栄をもたらしている。

 

2. 天上のGood Ozone,地上のBad Ozone?

 オゾンは高い空の成層圏にあるだけではなく、我々の周囲にも存在している。酸素分子は低空で多く、高空では少ない。これに対して、酸素原子は低空で少なく高空に多い。ゆえに、酸素分子と酸素原子がともにある成層圏に、オゾン層が高濃度で作られている。相反して地面と、オゾン層より高い場所のオゾン濃度は薄い。つまり、大気中のオゾン濃度は地面から約10kmのところより高くなり、成層圏のオゾン層で最大値となる。さらにその上空に行くと、オゾン濃度はまた急激に下がる。

 対流層のオゾン濃度は一般的に0.02~0.06ppmである。この自然界のオゾン濃度は人類を含む大型生物には無害である。しかし、高い濃度のオゾンは人に不快感を与え、目や呼吸器官などの粘膜組織を刺激することもある。よって、アメリカ食品医薬品局(FDA)は室内環境基準のオゾン最大濃度を0.05ppmに規定している。日本産業衛生学会は産業環境基準のオゾン許容濃度を0.1ppmと規定する。中国衛生省もオゾンの安全濃度を0.1ppmと規定している。

 以上のように高濃度オゾンに対する警戒感は元よりあった。加えてオゾンの悪名を轟かせたのは、光化学スモッグ汚染である。光化学スモッグとは、窒素酸化物 (NOx)や揮発性有機化合物(VOC)などの一次汚染物質と、それらに紫外線が照射されることによって発生するオゾンという二次汚染物質からなる。NOxとVOCなどが光化学スモッグをもたらす主な生成物質であるが、光化学スモッグの中のオゾン成分は、80〜90%までにも達する。ゆえに光化学スモッグ汚染イコールオゾン汚染だと世間は捉えがちである。

 光化学スモッグは、目や呼吸器官の粘膜組織に刺激を与え、目の痛み、頭痛、咳、喘息などの健康被害を引き起こす。また植物の成長を抑制し農作物の減産をもたらす。酸性雨の原因ともなっている。

 産業革命以来、大量のNOx排出により対流圏のオゾンが増加した。過去100年、対流圏のオゾン全量は4倍になった。とくに近年、中国を始めとする東アジアでの急速な工業化と都市化に伴い、NOxなど光化学スモッグ生成物質排出量は激増し、対流圏のオゾン増加傾向を加速させている。

 対流圏のオゾン量は成層圏の10分の1に過ぎないが、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH₄)に次ぐ第3の地球温暖化ガスとなっている。

 こうした様々な理由により、世間では“対流圏のオゾンは生物に有害な汚染物質である”との認識が広がった。ゆえにオゾンは“天上のGood Ozone,地上のBad Ozone”とも言われている。日本では対流圏オゾンの地球規模の越境汚染に対するモニタリングが重要な課題となっている。

 ここではっきりさせたいのは、光化学スモッグのオゾン濃度は対流圏の自然界での正常な濃度ではなく、人的活動の汚染排出でもたらされた非自然的な高濃度であることだ。さらに光化学スモッグのオゾンにはNOxやVOCなど有害物質が多く含まれている。これもまた自然界の澄み切ったオゾンとは全く異なっている。

 自然界のオゾン濃度は季節と地域によって差異が生じるが、一般的に人体には害を及ぼさない。自然界のオゾンは無害であるばかりかむしろ有益である。自然界のオゾンと光化学スモッグとの違いを区別しなければならない。例えば雷の高圧放電では、空気中の酸素を分裂させ、オゾンを作る。高濃度のオゾンは空気を浄化するために、雷の後、往々にして空気はより清々しいものとなる。また、晴天の海岸や森林はオゾンの濃度が高いため空気は一層清らかである。

 対流圏のオゾンも、人類生存の守護神である。ただ我々は長い間その恩恵に対する研究と認識を欠いていた。

 自然界のオゾン濃度は、大型生物に無害であるものの、微生物にとってはスーパーキラーとなる。強い酸化力を持つオゾンは、自然界の微生物の繁殖を抑制し、地球生態バランスを保ってきた。しかし、これまで地球という生命体の中で微生物を抑制するオゾンの役割は十分には重視されてこなかった。

 その理由の一つは、一般的に低濃度のオゾンには殺菌作用があまり無いと考えられてきたからである。しかし、実際は、一定の暴露時間をかければ低濃度のオゾンも十分な殺菌消毒力を持つ。つまり、自然界の低濃度オゾンが地球上の細菌やウイルスといった微生物の過度な繁殖と拡散を防いできたと言えよう。

 また、オゾンは自然界においては有害有機物を分解する。さらに、オゾンは動植物に季節の変化を知らせるシグナルであるとも考えられる。要するに、対流層のオゾンが無ければ地球は、人類の生存さえあり得ない環境であった。

 実際、オゾンは“天上のGood Ozone,地上のGood Ozone”である。人類がもたらした汚染廃棄物はオゾンを“Bad Ozone”に仕立て上げた。

 

3.“神の手”の仮説:オゾンは疫病を駆逐する?

 2002年冬から2003年春にかけて、SARSの大流行が社会的な大パニックを引き起こした。しかし5、6月になるとSARSは突然に姿を消した。SARSだけではなく、インフルエンザなど飛沫感染のウイルスのほとんどが秋冬に爆発し、春夏には消滅する。見えざる神の手がこれらの病毒を駆逐しているが如くである。

 世界中の研究者の多くがこれまでウイルスと温度、或いはウイルスと湿度との相関関係を追ってきた。しかし、これらの研究では、ウイルスと気温変化との関係がはっきり説明できなかった。インフルエンザを例に取れば、一般的に、低温、低湿の環境ではウイルスが比較的長時間活性を保ち、温度と湿度の上昇に従いその活性が抑制されると考えられている。しかし、実験で証明されたのは、ある程度の温度変化はインフルエンザのウイルスにはあまり影響がなかった。むしろ、湿度をあげることによって同ウイルスの消滅度が上がった。また、赤道付近では気温が最高であるにもかかわらず、インフルエンザウイルスがむしろ年中蔓延している。

 筆者は、酸化力を持つオゾンこそが、真の神の手であると仮説を立てた。

 オゾン濃度は季節により変化する特性を持つ。しかも秋冬が低く春夏に高い。気象庁のオゾン観測情報によると、北から南、札幌、筑波、鹿児島、那覇でオゾン全量は2月から5月の間にピークを迎える。北へ行けば行くほどそのピークの時期は早く訪れる。南ではピークが遅くなる。

 地域によってオゾンの濃度も違っている。同じ気象庁の観測情報によるとオゾン全量ピーク時の濃度は北へ行けば行くほど高い。逆に、南では濃度が低くなる。オゾン量は緯度の変化でその分布も明らかに変化している。赤道近くではオゾン量が最も低く、緯度60°付近の北方地域で最も高い。

 本来、紫外線が強いほど酸素分子の分解スピードは早い。赤道付近は太陽の照射が最大であり、オゾンは最も産出し易いはずである。しかし、オゾン濃度の変化をもたらす要素は多く、そのメカニズムも極めて複雑である。紫外線が強いほどオゾンは作り易くなると同時に、オゾン自体の分解も進む。また、オゾンの分解スピードは温度とも関係がある。温度が高いほどその分解スピードは早まる。さらに、地球規模の大気環流も無視できない。その土地で作られたオゾンが他地域に運ばれることもあり得る。

 対流圏オゾンの大半は成層圏のオゾン層から来ている。同時に植物の光合作用が生むオゾンの量や、人類の産業活動が排出するNOxとVOCの量なども対流圏のオゾン濃度に影響を与える。

 要するに、酸素分子と原子の奇妙な集合離散によって左右されるオゾン濃度は、秋冬が低く春夏に高いリズムを持つ。また、温度が高いほど、オゾンの分解速度は早まる。さらに、湿度も重要である。乾燥状態ではオゾンの殺菌力は劇的に落ちる。

 よって筆者は大胆な予測を以下の仮説を立てた。季節が冬から暖かくなるにつれ、オゾン濃度は高まり、空気の湿度も増すと同時に、オゾンは神の手となって疫病を駆逐する。

 さらにこの仮説を厳密に言うと、殺菌消毒の主力は季節変化の中で高まるオゾンであり、温度と湿度はこれの威力を高める。オゾン、温度、湿度の三者は相まって病魔を駆逐する。勿論、紫外線も微生物の一大キラーであり、室外の細菌病毒を死滅させる重要なファクターである。

 コロナウイルスの大流行によるパンデミックはいつ収束するのかがいま、世界の最大の関心事となっている。経済活動の復興や、社会の緊張の緩和はこれにかかっている。もちろん、目下世界的な株価の大暴落や東京オリンピック開催などの問題もこれに左右されている。もし、上記の仮説が成立すれば、今回の新型コロナウイルスもSARSやインフルエンザと同様、季節の変化によるオゾン濃度の向上によって消え去る。そうであれば現在、コロナウイルス危機の中で苦しむ人々の一つの希望となると同時に、パンデミック対策と復興対策の目処も立てられるだろう。

 大胆な仮説は精密な立証を必要とする。学者専門家の方々にぜひ様々な角度から検証と批判を仰ぎたい。

 

4. 有人空間でのオゾン利用へ

 オゾンは自然界の病毒の駆逐者であるばかりでなく、近代以来、人類もその強い酸化力を活かし、消毒、殺菌、除臭、解毒、漂白などの分野で広く活用してきた。
 ゆえにオゾンは、今回の地球規模でのコロナウイルスとの戦いの中でも活かされるべきである。しかもオゾンには以下の三つの特性がある。

 ①死角無く充満:オゾン発生機などから作られたオゾンは、室内に充満し、空間のすべてに行き届く。その消毒殺菌の死角は無い。これに対して、紫外線殺菌は直射であるため死角が生じる。

 ②有害残留物無し:オゾンはその酸化力を持って細菌と病毒を消滅させる。有毒な残留物は残さない。相反して現在広く使用されている化学消毒剤は人体そのものに有害であるばかりでなく、有害残留物による二次汚染も引き起こす。中国での疫病対策の中で、すでに消毒水の濫用による問題が深刻化している。日本でも十分な注意が必要である。

 ③利便性:オゾンの生成原理が簡易で、オゾン生産装置の製造は難しくない。また、オゾン発生機のサイズは大小様々あり、個室にも大型空間にも対応できる。設置が簡単なためバス、鉄道、船舶、航空機などにも設置が可能である。

 オゾンの消毒殺菌効果は、オゾン自体の濃度だけでなく環境の温度、湿度そして暴露時間とも関係する。さらに、ウイルスの種類とも一定の関係を持つ。新型コロナウイルスに有効か否かについては、直接の実験は未だ無いものの、類似の実験はある。

 中国の李澤琳教授が国家P3実験室で行ったオゾンによるSARSウイルスの殺菌実験結果によると、オゾンはSARSウイルスに対して強い殺菌効果があり、総合死滅率が99.22%に達した。今回の新型コロナウイルスは、SARSウイルスと同様にコロナウイルスに属している。新型コロナウイルスのゲノム序列の80%はSARSウイルスと一致しているという。因って、オゾンは新型コロナウイルスに対して相当の殺菌力を持つことが推理できるであろう。

 オゾンは非常に優れた殺菌消毒のパワーを持つが、個人差はあるものの一定の濃度に達した場合に人々に不快感を与え、また、粘膜系統に刺激を与えることもある。そのため、目下、主に無人の空間で使用されている。

 もし、広く有人空間で使用できれば、オゾンは新型コロナウイルスを駆逐し、空気を浄化させ得る。そうなれば、病院、職場、公共空間、公共交通機関、住宅の室内に到るまで、大きな福音となる。

 これを可能とするには、オゾン濃度のコントロールが必要である。自然界に近い濃度のオゾンを室内に取り入れられれば、人々に不快感を与えることはない。しかし、オゾンは極めて不安定な性質を持ち、一定の濃度にコントロールするには常に濃度を観測する必要がある。問題は、現在濃度観測のセンサーが極めて高価なことである。オゾン濃度センサーが容易に使えないため、オゾン濃度のコントロールは未だ一般的に実現できていない。

 もし廉価でオゾン濃度を安全にコントロールできれば、オゾン利用は容易に世間に受け入れられ、有人空間におけるオゾン利用も進むであろう。よってオゾン濃度センサーのコストの大幅削減を一大課題として取り組むべきである。

 コンクリートジャングルの大都市では、そもそもオゾン濃度は低い。人が集まる室内ではなおさらそうである。コロナウイルスが世界的に蔓延している現在、室内のオゾン濃度基準を上げ、有人空間でのオゾンによる殺菌消毒利用を模索すべきであろう。幸いにして張躍氏は、オゾン生成機能を持つ遠大産の静電空気浄化機を、コロナウイルス対策のために建てられた中国武漢の救急病院である火神山ICU病棟と方艙病院にすでに寄付した。院内感染の防止に役立ったと好評を得ている。最近、遠大グループは韓国からも、オゾン消毒殺菌機能を持つ空気清浄機付きのコロナウイルス対策用救急病院建設を依頼された。

 オゾンと微生物との関係は地球生命体の絶妙なバランスを表している。もしオゾン層の保護が無ければ、ウイルスや細菌などの微生物は存在しなかった。他方、オゾンの強い酸化力もウイルスの天敵である。人類は未だオゾンに対する認識が不十分である。筆者はオゾンに対する偏見と過度な警戒心を捨て、オゾンにまつわる数々の謎を解き明かし、オゾンの特性を十分に理解し、活かしていくべきであると考える。とりわけこの新型コロナウイルスとの戦いの中では、オゾンの力を十分に発揮させていく必要がある。

 

中国網日本語版(チャイナネット)2020年3月19日

 


【レポート】発展原動力の二極化、中国の都市発展の大きなトレンドに 〜中国都市GDP・DID人口・IT輻射力・他12指標ランキング〜

 

 中国経済発展の空間構造に大きな変化が生じており、都市の発展で明確な集中と分化の現象が起きている。各種の機能が上位都市に集中する傾向が日増しに顕著になっている上、高度な機能の集中度がますます高まっている。これに応じて、都市間の分化も目立つようになり、いわゆる「発展原動力の二極化」が明らかになってきた。

 雲河都市研究院は中国都市総合発展指標2018を使って、12種類のデータに関する上位30都市ランキングを発表。全国298都市(地級以上)のパフォーマンスをもとに、複数の重要指標と機能の集中度を分析し、「発展原動力の二極化」を解説した。

 


1. GDPランキング上位30都市

 中国国内のGDPランキング上位10都市は順に、上海、北京、深圳、広州、重慶、天津、蘇州、成都、武漢、杭州で、この10都市の合計GDPが全体に占める割合は23.6%に達する。上位30都市の合計GDPは全体の43.5%を占めている。つまり、上位10%の都市が全国4割以上のGDPを生み出しており、中国経済の発展がGDPランキング上位30都市に高く依存していることが明らかとなった。

 

2. DID人口ランキング上位30都市

 密度は都市問題を議論する際の重要なキーワードだ。中国都市総合発展指標では、1㎢あたり5000人以上の地区をDID(Densely Inhabited District:人口集中地区)と呼び、人口密度に関する正確かつ効果的な分析を行っている。
 DID人口ランキング上位10都市は上海、北京、広州、深圳、天津、重慶、成都、武漢、東莞、温州で、この10都市のDID総人口が全体に占める割合は22.8%に達する。上位30都市のDID総人口は全体の43.2%を占めている。つまり、DID人口ランキング上位10%の都市には、全国4割以上のDID人口が集中していることになる。
 注目点は、中国298都市(地級以上)のGDPとDID人口の相関関係を分析した結果、両者に強い相関関係がみられ、相関係数が0.93の高水準に達し、「完全な相関関係」を示したことだ。さらに、GDPとDID人口という二指標のランキング上位30都市のうち26都市が重複した(順位は一部異なる)。これらは、DID人口の重要性を示しており、今後の中国の都市発展ではDID人口の規模と質に注目しなければならない。

 

3. メインボード上場企業ランキング上位30都市

 上海、深圳、香港の三大メインボードの上場企業数ランキング上位3都市は上海、北京、深圳で、この3都市のメインボード上場企業総数が全体に占める割合は39.6%に達する。上位30都市のメインボード上場企業総数は全体の69.7%を占めている。つまり、メインボード上場企業ランキング上位10%の都市に全国7割近いメインボード上場企業が集中している。
 メインボード上場企業が大都市、特に中心都市に集中する状況がますます顕著となった。

4. フォーチュン500中国企業ランキング上位30都市

 30年前の1989年に、フォーブスが発表するフォーチュン500にランクインした中国企業はわずか3社だった。2018年にランクインした中国企業は105社に大幅に増え、米国企業の126社に迫った。注目点は、中国企業3社がトップ10にランクインしたことだ。
 フォーチュン500の中国企業の本拠があるのは中国の28都市で、うち66.7%が北京、上海、深圳の3都市に集中している。一般的なメインボード上場企業に比べ、フォーチュン500に躍り出た中国企業は、全国的な中心都市に集まる傾向が強い。
 メインボード上場企業数ランキング上位30都市とフォーチュン500中国企業ランキング上位30都市を分析すると、中国の最も優良な企業の本社も、いわゆる経済的な中枢管理機能を北京、上海、深圳に代表される上位中心都市に集約している。

5. 製造業輻射力ランキング上位30都市

 製造業輻射力(周辺影響力)ランキング上位10都市は深圳、上海、東莞、蘇州、佛山、広州、寧波、天津、杭州、厦門(アモイ)で、この10都市はいずれも大型コンテナを利用しやすい港湾があるという優位性を持ち、10都市の貨物輸出総額が全体に占める割合は48.2%に達する。上位30都市の貨物輸出総額は全体の74.9%を占めている。つまり、中国では現在、製造業輻射力が大きい10%の都市から全国4分の3に当たる貨物が輸出されている。

6. IT産業輻射力ランキング上位30都市

 IT産業輻射力ランキング上位10都市は北京、上海、深圳、成都、杭州、南京、広州、福州、済南、西安で、この10都市のIT就業者総数、メインボードITセクター上場企業数、中小企業ボードITセクター上場企業数、創業板ITセクター上場企業数が全体に占める割合はそれぞれ52.8%、76.1%、60%、81%に達する。上位30都市のIT就業者総数、メインボードITセクター上場企業数、中小企業ボードITセクター上場企業数、創業板ITセクター上場企業数は全体の68%、94%、78.2%、91.2%を占める。中国のIT産業がIT産業輻射力ランキング上位都市に集中する状況が顕著となっている。
 現在、中国の多くの都市がIT産業を重点産業として発展させているが、実際には、IT産業は北京、上海、深圳、成都、杭州、南京、広州といった都市に集中し、特定の都市に集中及び収れんする傾向が製造業よりも強い。こうした意味で言うと、IT産業の発展を目指す都市は、IT産業の発展に必要な条件を研究・分析しなければならない。

7. 高等教育輻射力ランキング上位30都市

 高等教育輻射力ランキング上位10都市は北京、上海、武漢、南京、西安、広州、長沙、成都、天津、哈爾浜(ハルビン)で、この10都市の211プロジェクト対象大学と985プロジェクト対象大学総数、一般大学・専門学校の在校生総数が全体に占める割合は69.3%、26.0%に達する。上位30都市の211及び985大学総数、一般大学・専門学校の在校生総数は全体の92.8%、57.1%を占めている。現在、中国の高等教育資源、特にハイクオリティな高等教育資源が高等教育輻射力ランキング上位都市に集中している状況が明かとなった。

8. 科学技術輻射力ランキング上位30都市

 科学技術輻射力ランキング上位10都市は北京、上海、深圳、成都、広州、杭州、西安、天津、蘇州、南京で、この10都市のR&D(研究開発)人材資源総量、特許取得件数が全体に占める割合は36.3%、33.2%に達する。上位30都市のR&D人材資源総量、特許取得件数は全体の59.8%、62.6%を占めている。現在、中国の科学技術資源が科学技術輻射力ランキング上位都市に集中する状況が顕著となっている。

9. 文化・スポーツ・娯楽輻射力ランキング上位30都市

 文化・スポーツ・娯楽輻射力ランキング上位10都市は北京、上海、成都、広州、深圳、武漢、杭州、南京、西安、鄭州で、この10都市の映画興行収入総額、延べ観客数が全体に占める割合は34%、30.6%に達する。上位30都市の映画興行収入総額、延べ観客数は全体の57.7%、54.6%を占めている。
 現在、中国では文化・スポーツ・娯楽資源だけでなく、興行収入に代表される文化・スポーツ・娯楽消費が文化・スポーツ・娯楽輻射力ランキング上位都市に集中する状況が顕著となっている。

10. 飲食・ホテル輻射力ランキング上位30都市

 飲食・ホテル輻射力ランキング上位10都市は上海、北京、成都、広州、深圳、杭州、蘇州、三亜、西安、厦門で、この10都市の五つ星ホテル軒数、国際トップクラスレストラン軒数が全体に占める割合は35.7%、77.1%に達する。上位30都市の五つ星ホテル軒数と国際トップクラスレストラン軒数は全体の61.1%、91.8%を占めている。中国の高級飲食店とホテルが飲食・ホテル輻射力ランキング上位都市に集中する状況が顕著となっている。
 雲河都市研究院は中国都市総合発展指標2018を使って、IT産業輻射力と飲食・ホテル輻射力に関する分析を行った。その結果、両者の相関係数は0.9に上り、両者の間に「完全な相関関係」があることが明らかとなった。交流経済の典型であるIT産業では、高所得で見識が広い経営者たちは「食事をすることが好き」であり、「食事をすること」は間違いなく彼らが「交流する」重要なシーンとなっている。
 北京、上海、深圳、成都、杭州、南京、広州はIT産業輻射力が最も強い上位7都市で、これらの都市は中国で美食の街となっている。今や食事は、都市の交流経済が発展するために軽視できない「重要な生産力」だ。
 しかし、製造業輻射力と飲食・ホテル輻射力の相関係数はわずか0.68にとどまる。IT産業に比べ、製造業従事者は美食に対する感度が低いことが示された。

11. コンテナ港利便性ランキング上位30都市

 コンテナ港利便性ランキング上位10都市は上海、深圳、寧波、広州、青島、天津、厦門、大連、蘇州、営口で、この10都市の港湾コンテナ取扱総量が全体に占める割合は82%に達する。上位30都市の港湾コンテナ取扱量は全体の97.8%を占めている。言い換えると、中国では現在、コンテナ港利便性ランキング上位10%が港湾コンテナ取扱量のほぼ全てを独占している。
 雲河都市研究院が中国都市総合発展指標2018を使って、中国298都市(地級以上)の貨物輸出額と港湾コンテナ取扱量の相関を分析した結果、両者の密接な相関が明らかとなり、相関係数が0.81の高水準に達し、「非常に強い相関関係」が示された。また、製造業輻射力とコンテナ港利便性という二指標のランキング上位30都市のうち24都市が重複した(順位は一部異なる)。このことから、製造業特に輸出工業が良い条件を備える港湾に高く依存していることが明らかとなった。今後も引き続き、中国の製造業、特に輸出工業は良い条件を備える港湾がある都市へと向かい、集中が進む見通しだ。
 工業発展と港湾条件の関係をはっきりと認識することは、中国の将来的な工業分布に極めて重要な意義を持つ。中国は、至る所で工業化を進めた過去のやり方について真剣に議論し、内陸で分散式に工業化を進めた非合理性と低効率を見直すことで、工業のハイクオリティな発展を目指す必要がある。

12. 空港利便性ランキング上位30都市

 空港利便性ランキング上位10都市は上海、北京、広州、深圳、成都、昆明、重慶、杭州、西安、厦門で、この10都市の乗降客数と貨物・郵便取扱量が全体に占める割合は49.9%、73.5%に達する。上位30都市の乗降客数と貨物・郵便取扱量は全体の81.3%、92.9%を占めている。中国では現在、航空運輸による人の移動と物流の大部分が、空港利便性ランキング上位10%の都市に集中している現状が明かとなった。
 雲河都市研究院は中国都市総合発展指標2018を使って、中国298都市(地級以上)のIT産業輻射力と空港利便性の相関を分析した。その結果、両者の密接な相関が明らかとなり、相関係数は0.82の高水準に達し、「非常に強い相関関係」が示され、製造業輻射力とコンテナ港湾利便性の相関関係よりも強い。IT産業輻射力と空港利便性という二指標のランキング上位30都市のうち21都市が重複している(順位は一部異なる)。これらから、交流経済の代表産業となるIT産業の発展は、便利な条件を備える空港に高く依存していることが分かった。今後も引き続き、IT産業は良い条件を備える空港がある都市へと向かい、集中が進む見通しだ。


 現在の中国は、経済総量とDID人口総量はもちろん、各種の機能が少数の大都市、超大都市、大都市群に集中しつつある。その上、ハイエンドな機能がますます発揮され、上位都市に集中する現象が加速している。この流れはさらに強まる見通しだ。これらを踏まえ、各種の中心機能が集まる大都市、超大都市、大都市群の経済構造と空間構造をどのように改善するかが、中国の目指すハイクオリティな発展にとって極めて重要となる。


「中国網日本語版(チャイナネット)」 2020年1月2日

【レポート】中国都市総合発展指標から3大メガロポリスを徹底比較

 中国経済の勢いのある成長は、世界経済成長の構造の変化と中国の改革開放による巨大な活力が合わさって生まれたものである。世界経済を繋ぐ大舞台として、珠江デルタ、長江デルタ、北京・天津・河北の3大都市群は中国経済成長の原動力となり、中国で最も国際的かつ代表的な都市群でもある。中米貿易戦と国内経済の構造大調整がある中、3大都市群の影響力は高まっている。

 雲河都市研究院は中国都市総合発展指標2018の12種類のデータを利用し、3大都市群の優位性を解説した。

 


1. GDP

 中国経済における3大都市群の存在感はより顕著となっている。北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群の対GDP比はそれぞれ8.6%、19.8%、9.0%に、計37.4%に達する。3大都市群は中国経済成長の構造を支えている。
 全国地級以上298都市GDPランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群の2都市がGDPランキング上位30都市に入り、北京が2位、天津が6位につける。
 長江デルタ大都市群の9都市がGDPランキング上位30都市に入り、上海が1位、蘇州が7位、杭州が10位、南京が11位、無錫が13位、寧波が15位、南通が19位、合肥が25位、常州が28位につけ、輝きを見せている。
 珠江デルタ大都市群の4都市がGDPランキング上位30都市に入り、深センが3位、広州が4位、仏山が17位、東莞が21位につける。
 3大都市群から15都市がGDPランキング上位30都市に入り、天下の半分を占めると言える。

 

2. DID人口

 密度は都市問題を討論する重要な指標の1つで、中国都市総合発展指標は1平方キロメートルあたり5000人以上の地域をDID(Densely Inhabited District:人口高密集地区)と定義し、人口密度を正確かつ有効的に分析する。
 3大都市群には全国の34.4%のDID人口が集中している。北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群の全国DID人口に占める割合はそれぞれ7.9%、17.1%、9.3%に達する。
 全国地級以上298都市DID人口ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群の2都市がDID人口ランキングの上位30都市に入り、北京が2位、天津が5位につける。
 長江デルタ大都市群の7都市がDID人口ランキングの上位30都市に入り、上海が1位、蘇州が11位、杭州が13位、南京が14位、寧波が20位、合肥が25位、無錫が28位につける。
 珠江デルタ大都市群の4都市がDID人口ランキングの上位30都市に入り、広州が3位、深センが4位、東莞が9位、仏山が15位につける。
 3大都市群から13都市がDID人口ランキングの上位30都市に入ったが、DID人口の割合を見ると、3大都市群の間に大きな差がある。珠江デルタ大都市群のDID人口比率は67.0%に達し、全国のDID人口比率31.9%を大幅に上回る。長江デルタ大都市群は46.6%、北京・天津・河北大都市群はわずか37.8%。

 

3. メインボード上場企業

 3大都市群には全国の半数以上のメインボード(上海、深セン、香港の3大メインボード)上場企業が集まっている。北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタが全国のメインボード上場企業数に占める割合はそれぞれ15.9%、28%、10.3%、計54.2%に達する。
 全国地級以上298都市メインボード上場企業数ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が示された。
 北京・天津・河北大都市群の2都市がメインボード上場企業数ランキングの上位30都市に入り、北京が2位、天津が8位につける。
 長江デルタ大都市群の7都市がメインボード上場企業数ランキングの上位30都市に入り、上海が1位、南京と杭州が同率4位、寧波が9位、合肥が13位、蘇州が21位、無錫が24位につける。
 珠江デルタ大都市群からは2都市のみがメインボード上場企業数ランキングの上位30都市に入り、深センが3位、広州が7位につける。同地区の世に名を知られる東莞や仏山などの製造業都市は「工場経済」のレベルで止まっている。
 3大都市群から11都市がメインボード上場企業数ランキングの上位30都市に入り、中でも上海、北京、深センは全国のメインボード上場企業の31.3%を有する。

 

4. フォーチュントップ500中国企業

 3大都市群には全国の80%のフォーチュントップ500中国企業が集まっている。北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国のフォーチュントップ500中国企業数に占める割合はそれぞれ54.3%、14.3%、11.4%に達する。
 全国地級以上298都市フォーチュントップ500中国企業ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群の3都市がフォーチュントップ500中国企業ランキングの上位30都市に入り、北京が1位、天津と石家荘が同率11位につける。
 長江デルタ大都市群の4都市がフォーチュントップ500中国企業ランキングの上位30都市に入り、上海が2位、杭州が4位、南京と蘇州が同率7位につける。
 珠江デルタ大都市群の3都市がフォーチュントップ500中国企業ランキングの上位30都市に入り、深センが3位、広州が4位、仏山が7位につける。
 3大都市群から10都市がフォーチュントップ500中国企業ランキングの上位30都市に入り、中でも北京の地位は際立ち、全国の52.4%のフォーチュントップ500中国企業を有する。

 

5. 製造業輻射力

 3大都市群には全国の貨物輸出額の67.8%が集まっている。北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国貨物輸出総額に占める割合はそれぞれ6.2%、32.7%、28.8%に達する。3大都市群、特に長江デルタと珠江デルタは中国の輸出業発展を支え、名実相伴う「世界の工場」である。
 輻射力は都市のある機能の外部利用度を表す指数で、中国都市総合発展指標は影響力をもとに都市の各産業の対外サービス能力を正確かつ有効的に分析する。
 全国地級以上298都市製造業輻射力ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群の2都市が製造業輻射力ランキングの上位30都市に入り、天津が8位、北京が17位につける。
 長江デルタ大都市群の11都市が製造業輻射力ランキングの上位30都市に入り、上海が2位、蘇州が4位、寧波が7位、杭州が9位、無錫が14位、嘉興が20位、南京が21位、金華が23位、紹興が24位、常州が26位、南通が29位につけ、勢いがあると言える。
 珠江デルタ大都市群全9都市の中の8都市が製造業輻射力ランキングの上位30都市に入り、深センが1位、東莞が3位、仏山が5位、広州が6位、恵州が11位、中山が13位、珠海が19位、江門が30位につけ、威力を発揮している。
 3大都市群から21都市が製造業輻射力ランキングの上位30都市に入った。2008~2018年、中国の輸出規模は10倍になり、世界最大の輸出大国に躍進した。製造業サプライチェーンの世界拡張という取引経済大爆発の中で、3大都市群は正真正銘の最大の勝ち組である。

 

6. IT産業輻射力

 3大都市群には全国のIT業メインボード上場企業の71.8%とIT業従事者の50.7%が集まっている。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国のIT業メインボード上場企業に占める割合はそれぞれ32.5 %、24.8%、14.5%に達する。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国のIT業従事者数に占める割合はそれぞれ20.9%、19.5%、10.2%に達する。
 全国地級以上298都市IT産業輻射力ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群からは北京だけが1位でIT産業輻射力ランキングの上位30都市に入った。
 長江デルタ大都市群の6都市がIT産業輻射力ランキングの上位30都市に入り、上海が2位、杭州が5位、南京が6位、蘇州が15位、合肥が21位、無錫が24位につける。
 珠江デルタ大都市群の3都市がIT産業輻射力ランキングの上位30都市に入り、深センが3位、広州が7位、珠海が20位につける。
 3大都市群から10都市がIT産業輻射力ランキングの上位30都市に入ったが、製造業輻射力の高い都市の多くがIT産業輻射力ランキングの上位30都市に入らなかった点に注目したい。

 

7. 高等教育輻射力

 3大都市群には全国の211 & 985大学の51.6%と一般大学・専門学校の28.2%の在校生が集まっている。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国の211 & 985大学数に占める割合はそれぞれ26.8%、20.9%、3.9%に達する。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国の一般大学・専門学校在校生総数に占める割合はそれぞれ8.3%、14.0%、5.9%に達する。
 全国地級以上298都市高等教育輻射力ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群の3都市が高等教育輻射力ランキングの上位30都市に入り、北京が1位、天津が9位、石家荘が29位につける。
 長江デルタ大都市群の5都市が高等教育輻射力ランキングの上位30都市に入り、上海が2位、南京が4位、合肥が12位、杭州が14位、蘇州が30位につける。
 珠江デルタ大都市群からは広州だけが6位で高等教育輻射力ランキングの上位30都市に入った。
 3大都市群から9都市が高等教育輻射力ランキングの上位30都市に入り、珠江デルタ大都市群の高等教育輻射力は比較的低い。

 

8. 科学技術輻射力

 3大都市群には全国のR&D(研究開発)人材資源の53.3%と特許取得件数の55.6%が集まっている。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国のR&D人材資源総量に占める割合はそれぞれ12.2%、28.5%、12.7%に達する。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国の特許取得件数に占める割合はそれぞれ10.3%、30.9%、14.4%に達する。
 全国地級以上298都市科学技術輻射力ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群の2都市が科学技術輻射力ランキングの上位30都市に入り、北京が1位、天津が8位につける。
 長江デルタ大都市群の11都市が科学技術輻射力ランキングの上位30都市に入り、上海が2位、杭州が6位、蘇州が9位、南京が10位、寧波が12位、無錫が14位、合肥が17位、紹興が20位、南通が21位、嘉興が27位、常州が30位につける。
 珠江デルタ大都市群の5都市が科学技術輻射力ランキングの上位30都市に入り、深センが3位、広州が5位、仏山が16位、東莞が18位、中山が24位につける。
 3大都市群から18都市が科学技術輻射力ランキングの上位30都市に入った。

 

9. 文化・スポーツ・娯楽輻射力

 3大都市群には全国の映画興行収入の45.9%と観客数の43.3%が集まっている。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国の映画興行収入に占める割合はそれぞれ9.6%、23.6%、12.8%に達する。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国の観客数に占める割合はそれぞれ8.5%、22.8%、11.9%に達する。
 全国地級以上298都市文化・スポーツ・娯楽輻射力ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群の2都市が文化・スポーツ・娯楽輻射力ランキングの上位30都市に入り、北京が1位、天津が13位につける。
 長江デルタ大都市群の7都市が文化・スポーツ・娯楽輻射力ランキングの上位30都市に入り、上海が2位、杭州が7位、南京が8位、蘇州が14位、合肥が17位、寧波が25位、無錫が26位につける。
 珠江デルタ大都市群の4都市が文化・スポーツ・娯楽輻射力ランキングの上位30都市に入り、広州が4位、深センが5位、東莞が20位、仏山が23位につける。
 3大都市群から13都市が文化・スポーツ・娯楽輻射力ランキングの上位30都市に入った。

 

10. 飲食・ホテル輻射力

 3大都市群には全国の5つ星ホテルの51.7%と全国の国際トップクラスレストランの72.9%が集まっている。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国の5つ星ホテル軒数に占める割合はそれぞれ11.4%、29.5%、10.9%に達する。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国の国際トップクラスレストラン軒数に占める割合はそれぞれ20.0%、37.5%、15.4%に達する。
 全国地級以上298都市飲食・ホテル輻射力ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群の2都市が飲食・ホテル輻射力ランキングの上位30都市に入り、北京が2位、天津が16位につける。
 長江デルタ大都市群の8都市が飲食・ホテル輻射力ランキングの上位30都市に入り、上海が1位、杭州が6位、蘇州が7位、南京が11位、寧波が14位、舟山が18位、無錫が26位、合肥が29位につける。
 珠江デルタ大都市群の4都市が飲食・ホテル輻射力ランキングの上位30都市に入り、広州が4位、深センが5位、珠海が20位、東莞が27位につける。
 3大都市群から14都市が飲食・ホテル輻射力ランキングの上位30都市に入った。

 

11. コンテナ港利便性

 3大都市群には全国の港のコンテナ取扱量の69.5%が集まっている。北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国の港のコンテナ取扱量に占める割合はそれぞれ8.3 %、35.2%、26%に達する。
 全国地級以上298都市コンテナ港利便性ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群の2都市がコンテナ港利便性ランキングの上位30都市に入り、天津が6位、唐山が28位につける。
 長江デルタ大都市群の11都市がコンテナ港利便性ランキングの上位30都市に入り、上海が1位、寧波が3位、蘇州が9位、舟山が12位、南京が15位、南通が17位、嘉興が20位、無錫が23位、湖州が26位、常州が29位、紹興が30位につけ、港湾都市が林立していると言える。
 珠江デルタ大都市群全9都市の中の8都市がコンテナ港利便性ランキングの上位30都市に入り、深センが2位、広州が4位、東莞が13位、仏山が14位、中山が18位、珠海が21位、江門が25位、恵州が27位につけ、大量の帆が立っている。
 3大都市群から21都市がコンテナ港利便性ランキングの上位30都市に入った。港湾の優位性は3大都市群の発展を支え、中でも製造業の発展の重要な柱であることは間違いない。

 

12. 空港利便性

 3大都市群には全国の空港旅客数の41.5%と空港貨物取扱量の67.8%が集まっている。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国の空港旅客数に占める割合はそれぞれ11.9%、18.7%、10.9%に達する。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国の空港貨物取扱量に占める割合はそれぞれ14.7%、34.6%、18.5%に達する。
 全国地級以上298都市空港利便性ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群の2都市が空港利便性ランキングの上位30都市に入り、北京が2位、天津が13位につける。
 長江デルタ大都市群の3都市が空港利便性ランキングの上位30都市に入り、上海が1位、杭州が8位、南京が12位につける。
 珠江デルタ大都市群の3都市が空港利便性ランキングの上位30都市に入り、広州が3位、深センが4位、珠海が27位、につける。
 3大都市群から8都市が空港利便性ランキングの上位30都市に入った。特に北京、上海、広州、深センの4大国際航空ターミナルは3大都市群を中国で航空輸送が最も便利な地域にし、大都市群の交流経済の発展の重要な支えとなっている。

 


3大都市群に含まれる都市

 北京・天津・河北大都市群の10都市:北京、天津、石家荘、保定、唐山、秦皇島、張家口、承徳、滄州、廊坊

 長江デルタ大都市群の26都市:上海、南京、杭州、蘇州、合肥、無錫、寧波、常州、嘉興、南通、塩城、揚州、鎮江、泰州、湖州、紹興、金華、舟山、台州、蕪湖、馬鞍山、銅陵、安慶、滁州、池州、宣城。

 珠江デルタ大都市群の9都市:広州、深セン、東莞、仏山、珠海、中山、江門、恵州、肇慶。


中国網日本語版(チャイナネット)」 2019年12月31日

【メインレポート】周牧之:中心都市発展戦略

周牧之 東京経済大学教授

1. メガシティ時代


 1980年以降、世界で大都市の人口は爆発的に増大した。1980年から2015年の35年間で、世界の都市人口は、中国の人口に当たる12.7億人増えた。この間、人口が100万人以上増えた都市は世界で274にも上った。なかでも人口が250万人以上増えた都市は92に達し、500万人以上増えた都市は35となり、さらに1,000万人以上増えた都市は11もある(図1を参照)。

図1 都市人口が250万人以上増加した世界の都市(1980−2015年)
出典:国連経済社会局編『世界都市化予測2014(World Urbanization Prospects: The 2014 Revision)』および『世界人口予測2015改訂版(World Population Prospects: 2015 Revision)』より作成。

 注目すべきは、上記92都市における人口の増加分が5億人に達し、同時期、世界の都市人口増加数の約40%をも占めたことだ。こうした数字からうかがえるのは、世界が急激な大都市化、メガシティ化の時代に入ったということだ。

 大都市化、メガシティ化に火をつけたのはグローバリゼーションである。大都市は世界中から人材、企業、資金を引き寄せ、急激に膨張し、地域、国家ないしは世界経済を引っぱり、それを変貌させている。

 閉鎖的な産業構造で成り立つ伝統的な国民経済体制は、一般的には内包的なサプライチェーンを持って営まれていた。急激に進むグローバリゼーションは、このような局面を打ち崩した。

 グローバリゼーションを推し進める最大の原動力は情報革命である。情報革命とは、半導体技術とインターネット技術によって起爆した知識経済の発展を指す。

 情報技術の発展はIT産業を世界経済のリーディング産業に仕立てただけではなく、同時にIT技術はその他の領域にまで浸透し、学術専門領域間の、そして産業技術間の融合を促し、多くの産業を知識集約型のものに変貌させた。

 2001年から2016年までの15年間で、世界の実質GDPは1.5倍に拡大したのに対して、情報・通信サービス業の付加価値額[1]と知識・技術集約型産業[2]の付加価値額はそれぞれ2.1倍と2.3倍に拡大した。IT産業と知識集約型産業が世界経済を牽引していることが見て取れる。

 さらに情報革命は、国民経済の中に閉じこもっていたサプライチェーン、技術チェーン、資金チェーンをグローバル的に再構築した。輸送革命は、こうした生産活動の地理的な再構築を可能にした。

 輸送革命とは、大型ジェット機に代表される高速航空輸送システムと、大型コンテナ船に代表される大規模海運システムの発展を指す。輸送革命は、国際間における人的往来と物流の利便性およびスピードを高めただけでなく、そのコストも大幅に低下させ、グローバリゼーションを促す一大原動力となった。

 1980年から2016年まで世界の実質GDPは6.8倍となった。同時期に世界の港湾コンテナ取扱量[3]は18.9倍に拡大し(図2、図3、図4を参照)、世界の国際旅客数も4.4倍となった。国際間における人的往来や物流の急激な拡大は、世界経済の発展を促した。

図2 各主要国コンテナ取扱量(2016年)
出典:世界銀行(World Bank Open Data)、国際港湾協会(IAPH)『国際コンテナ年鑑(Containerisation International Yearbook)』、国連貿易開発会議(UNCTAD)『世界海運報告(Review of Maritime Transport)』および『Lloyd’s List & Containerisation International(CI-Online)』より作成。
図3 コンテナ取扱量トップ20カ国・地域(2016年) 図4 コンテナ取扱量純増トップ20カ国・地域(1980-2016年)
出典:世界銀行(World Bank Open Data)、国際港湾協会(IAPH)『国際コンテナ年鑑(Containerisation International Yearbook)』、国連貿易開発会議(UNCTAD)『世界海運報告(Review of Maritime Transport)』および『Lloyd’s List & Containerisation International(CI-Online)』より作成。

 1980年代以降、情報革命と輸送革命は凄まじい勢いで産業活動のグローバルな展開を推し進めた。

 学問領域、業界領域そして国境を超えた産業活動の再構築は、イノベーションと創業などの形で行われている。これにより新興産業、新興企業は猛烈に成長し、1980年代以降の世界経済の繁栄を主導した。こうしたなかで旧来型の国民経済は崩れ始めている。交流交易をベースにした経済活動の再構築は、世界経済を急激に変貌させている。大都市は交易交流経済のハブとなって世界経済の新しい主体として台頭してきた。

 もちろん、交易交流経済を推進する関連制度の確立と変革も、グローバリゼーションを後押ししている。もし1995年の世界貿易機関(WTO)設立以前の国際貿易体系を、グローバリゼーションの1.0バージョンとするなら、WTOの時代はグローバリゼーション2.0だと言えよう。

 WTOは交易交流経済を積極的に押し進め、中国の発展に大きく貢献した。中国は2001年にWTOに加盟したことを契機に、一躍「世界の工場」に、そして世界で最大の貿易国となり、中国の沿海都市も爆発的発展を見せた。

 オバマ政権時代のアメリカは環太平洋パートナーシップ協定(Trans-Pacific Partnership Agreement:TPP)を推進した。TPPはWTOと比べ、知的所有権の強化とサービス業、そして金融業の開放をさらに重視し、ISDS条項をもって企業権益保護を図ることを特徴とする。その意味ではグローバリゼーション2.1と言えよう。オバマ政権はTPPを通して、アメリカの知識産業、サービス業、金融業などの領域で優位性を強化しようと目論んだ。

 日本も目下、工業製品輸出大国から投資大国、知的所有権輸出大国へと転換をはかろうとしている。また、実際にこれらの領域で、すでに大きな収益を上げている。日米両国はこの点、利益が一致しており、TPPの提唱者となった。

 グローバリゼーション2.0時代、とりわけ中国がWTOに加盟してから、工業生産メカニズムと分布の世界的なパラダイムシフトが起こった。そうした中で、アメリカの産業資本はより高い利益を得たものの、国内の伝統的な工業地帯は工場倒産や労働者の失業など厳しい状況に陥った。グローバリゼーション2.0はアメリカを受益者と被害者という二つの集団に分け、その分裂を引き起こした。都市の角度から見ると、前者は沿海部の大都市に集中し、後者の大半はさびれた古い工業地帯と内陸部の中小都市に集中している。2016年のアメリカ大統領選挙で、民主党のヒラリー・クリントン候補を支持したのは前者であり、これに対して、共和党のドナルド・トランプ候補を支持したのは後者であった。

 2016年のアメリカ大統領選挙は、グローバリゼーション2.0の受益者と被害者との間の、言い換えれば、沿海大都市と内陸部中小都市の間の政治経済的利益の争奪戦であったと言っても過言ではない。これは、トランプ氏がいくら醜聞や失言を繰り返しても、その支持基盤が揺らがなかった原因でもある。グローバリゼーションによるパラダイムシフトや大都市のストロー効果で、古い工業地帯や内陸部中小都市および農村地域が資本、人材そして活力を吸い取られ苦しめられて久しい。それらの地域で蓄積された不満の大爆発がトランプ氏の勝利につながった。

 2016年には、もう一つ世界を驚かせる出来事があった。それはイギリスが6月23日に行った国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を決めたことである。この投票もまたメガシティのロンドンと地方中小都市との対峙が背景にあった。結果、「EU残留」派の大ロンドン地区は、「脱EU」派として不満をぶつけた広大な中小都市および農村地域に敗れた。

 2017年1月23日、トランプ氏がアメリカ大統領となった当日に発令したのが、アメリカのTPP正式離脱であった。トランプ氏は関税と貿易障壁に焦点を当てるTPPを退け、法人税率を大幅に下げてグローバリゼーションを一気に3.0にバージョンアップさせた[4]。これによってアメリカは再び産業資本の新天地となり、事業のアメリカ回帰の流れが出来上がった。

 トランプ大統領は関税と貿易障壁を限りなく低くすることも忘れなかった。このために中国との貿易戦争をも辞さない姿勢を見せている。さらに、国内法人税まで下げることにより、企業が産業活動をより展開しやすくする環境作りに向けて、国際競争をしかけた。企業家出身のトランプ大統領は恐らく、企業活動にとってより低い関税と貿易障壁、より低い国内法人税率、そしてより少ない政府関与を目指しているのであろう。「アメリカ第一」を叫ぶトランプ大統領が結果的にグローバリゼーションを深化させ、加速させたことは、いかにも面白い現象である。

 グローバリゼーションはこれからも失速することなく、さらに加速していくであろう。

 猛烈に進展する交流交易は、大都市化とメガシティ化を促す。巨大都市は世界中から人口、企業、資金を大量に吸い上げると同時に、各国内部の社会経済構造の変革をも誘発する。大都市は世界変革の主役として膨張し続けていく。

 大都市の膨張には、以下の要因が考えられる。

(1)交流交易経済における優位性

 航空、海運、インターネットに代表される人的、物流、情報、金融などグローバルネットワークが高速化し拡大する中で、世界にまたがるサプライチェーンの構築がますます活発化してきた。交流交易経済には港を持つ沿海都市と、行政中心都市が優位である。

 世界史を振り返ると、まず大航海が臨海都市の発展を始動した。その後、そもそも海運の基礎の上で成り立った産業革命は、原材料生産、工業製品生産、そして販売などのプロセスを世界に分担させた。それによって、大陸経済の主導的地位はくつがえされ、産業と人口の臨海港湾都市への集中を引き起こした。数多くの臨海都市は貿易港や工業港を基礎に、すさまじい発展を遂げた。ニューヨーク、ロンドン、東京は、これらの典型である。1980年代以来のグローバリゼーションはさらに人材、企業、情報、資金を臨海都市へと集約させ、たくさんの都市を膨張させた。

 もちろん、今日の臨海大都市の「港」は、もはや狭義の海運港のみを指すものではなくなった。例えばロンドンやサンフランシスコなど先進国の臨海都市は、港湾機能のすでに半分以上を失っている。しかしながら港町としての開放性と寛容性とで、これらの都市はグローバル時代における経済、情報、科学技術、文化芸術の「交流港」として成功を収め、交流交易経済発展の新しいモデルを立ち上げている。こうしたことから見てとれるのは、開放性と寛容性こそが、交流交易経済発展の最も根本的な条件であるということだろう。

 この点では、臨海都市と同じように、首都に代表される行政中心都市の巨大化の要因も、国家あるいは地域の政治経済文化センターが持つ開放性と寛容性にある。そして行政中心都市の巨大化のもう一つの原因は、政治、経済、文化、交通、情報などのセンター機能が持つ威力である。

 世界に29ある人口1,000万人以上のメガシティの分布を見ると、うち19都市が沿海都市であり、8都市が内陸部に立地する首都であり、2都市が内陸部の地域中心都市である。これはまさしく上記の分析に合致する。

(2)大都市の吸引力の拡大

 いわゆるストロー効果とは都市が外部から人口、企業、資金などを吸い取る現象を指す。人的交流、物流、情報、金融などのネットワークが加速かつ拡大するなか、ネットワーク中枢都市のパワーは絶え間なく増強されることで起こる。ますますパワーアップする中枢機能は、大都市の吸引力を強化し、巨大なストロー効果をもたらす。

 大都市の吸引力拡大のもう一つの原因は、知識経済とサービス経済の属性によるものである。1980年以降、急激に発展した知識経済とサービス経済は、寛容性と多様性のある社会環境と、一定の人口規模、人口密度を必要とした。これが中心都市と沿海都市が、知識経済とサービス経済の発展を主導する所以である。経済発展はこれら都市に人口をさらに呼び寄せ、その規模と密度をますます上げる良い循環を生む。

 知識経済とサービス経済は巨大なエンジンとなって、急速な大都市化、メガシティ化を推し進めている。

(3)都市積載力の向上

 インフラ整備水準とマネジメント能力アップにより、都市は人口とその密度に対する積載力を向上させてきた。東京大都市圏を例にすると、1950年前後に1,000万人口を超えた同大都市圏は、環境汚染、交通渋滞、住宅逼迫、インフラ不足などの大都市病にあえぎ、厳しい「過密」問題に見舞われていた。これを受けて政府は人口と産業の東京への集中と集約を阻止する一連の政策措置を講じ、一度は遷都さえ企図されるに至った。しかしその後、インフラ水準とマネジメント能力の向上により、都市の積載力が大幅に改善され、今では東京大都市圏の人口規模は3,800万人に達したものの、「大都市病」はおおむね解消されている。

 この東京にみられるような都市積載力の向上が、世界各国においても巨大都市の一層の膨張を可能にした。

 本レポートでは上記の大都市を膨張させた三大要因を踏まえ、世界最大規模の大都市圏たる東京都市圏を事例に、多様なセンター機能が集まる中心都市が、いかなるプロセスを経て、膨張し、そして大規模高密度都市社会を成功裏に構築できたかを検証してみる。

 

2. 東京大都市圏の経験


 東京大都市圏は東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県の一都三県から構成される。13,562 km2の土地に、東京、横浜、川崎、さいたまの4つの100万人口を超える大都市と数多くの中小都市が密集している[5]。東京大都市圏は世界で最も早くメガシティとなった都市圏の一つで、今日その人口規模は3,800万人に達し、世界で最大の都市圏となった(図5を参照)。東京大都市圏は国土面積の3.6%で日本のGDPの32.3%を稼ぎ出し、政府機関、文化施設、企業本社、金融機関が集中して立地する名実共に日本の政治経済文化の中心である。それだけにとどまらず、東京は世界に名だたる国際都市でもあり、『世界の都市総合ランキング』[6]ではロンドン、ニューヨークに次ぐ第3位のグローバルシティとなっている。

 本レポートでは雲河都市研究院の〈アジア都市総合発展指標2017〉の研究から、東京大都市圏の成功経験は以下の4つの特徴にまとめられる。

図5 東京大都市圏DID分析図
出典:雲河都市研究院「アジア都市総合発展指標2017」より作成。以下、図12まで同様。
注:〈中国都市発展指標2016〉では、日本のDID基準を用い、4,000人/k㎡以上の連なった地区をDIDとして中日両国でDID比較分析を行った。〈中国都市総合発展指標2017〉では、OECD基準を使用し、5,000人/k㎡以上の地区をDIDと定義している。本書では、この新しい基準を用い、中国、日本、および世界の地域を対象にDID分析を行っている。

(1)多様なセンター機能の相互補完

 東京大都市圏は、最も多様なセンター機能を持つグローバルシティである。

 政治行政面では、東京には皇居、国会議事堂、および各中央省庁が高度に集中している。

 大手町、丸の内などの地区には、さらに企業の本社機能が高密度で集積し、58.2%の日本上場企業の本店が、東京大都市圏に立地している。

 同大都市圏はまた、京浜、京葉に代表される世界最大級の臨海工業地帯を持ち、その周辺にすさまじい数の部品企業が林立している。図6が示すように、京浜工業地帯のある神奈川県の貨物輸出額は全国第4位で、京葉工業地帯のある千葉県は同第5位、東京は同第16位となっている。日本の製造業輸出に占める東京大都市圏の割合は29.5%に達し、全国の3分の1弱に当たる。


図6 貨物輸出額広域分析図

 金融センターとしては、東京は日本最大の証券取引所があるだけでなく、金融機関本社機能の大集積地でもある。図7が示すように、金融業輻射力の分析では、47都道府県[6]の中で東京の輻射力があまりにも強いことから、東京以外の地域の同輻射力偏差値指数は全部50(平均値)以下になった。日本の金融機能は極めて高度に東京に集中している。

図7 金融業輻射力広域分析図

 東京大都市圏には、225の大学があり、図8が示すように、47都道府県の中で、大学生数は東京がダントツで第1位、神奈川、埼玉、千葉の3県がそれぞれ第3位、第6位、第9位となっている。その結果、東京大都市圏の大学の教員数と学生数は、それぞれ全国の35.2%、40.8%を占めている。

図8 大学生数広域分析図

 科学技術輻射力を見ると、図9が示すように、東京大都市圏はこれも独り勝ちである。47都道府県で科学技術輻射力指数が偏差値の平均値以上である5カ所のうち、2カ所が同大都市圏にあり、それは東京都と神奈川県である。東京大都市圏には日本の59.8%の研究開発経費と68.7%の研究開発要員が集中し、60.6%の特許を作り出している。

図9 科学技術輻射力広域分析図

 日本は戦後、一貫して「製造業立国」を旗印にしてきた。しかし近年、「観光立国」を国策として推進し、海外旅行客数が上昇しつづけている[7]。急速に増大する外国人旅行客が、東京大都市圏に集中して来訪する現象が露わになっている。図10が示すように、47都道府県の中で10カ所が海外からの宿泊客数偏差値指数が平均値以上となっている、東京の一人勝ちだけではなく、千葉、神奈川両県も第6位と第9位となっている。全国の外国人宿泊者数に占める東京大都市圏の割合は35.6%にも上る。

図10 海外からの宿泊者数広域分析図

 IT産業は交流交易経済の代表格である。海外との盛んな交流で世界都市になった東京は、IT産業を花開かせた。図11は、東京都が強大なIT産業輻射力を持つことを示している。47都道府県でわずか3つの地域が、IT産業輻射力偏差値指数を平均値以上とした。偏差値の高さは東京が際立っている。東京大都市圏では神奈川県のIT産業輻射力も平均値以上で、第3位となった。IT産業は情報社会時代における東京大都市圏の発展を牽引している。

図11 IT産業輻射力広域分析図

 強力な交通中枢機能、多様なセンター機能を持ち、次々と生まれる新産業が強い牽引力となり、東京大都市圏は常に日本の発展センターと位置付けられてきた。図12が示すように47都道府県のGDP偏差値で見ると、12地域が平均値以上となっている。東京都の偏差値が他地域を大きく引き離すと同時に、神奈川、埼玉、千葉の3県も、それぞれ第4位、第5位、第6位となった。東京大都市圏は全国GDPの3分の1を稼ぎ出している。

図12 GDP広域分析図

(2)東京湾の役割

 港湾条件に秀でた東京湾は戦後、東京大都市圏の大発展に大きく作用した。

 第二次世界大戦後、平和な国際環境を利用し、日本は国際資源と国際市場を前提とした臨海工業を推進した。とりわけ東京湾の両翼に京浜、京葉の両大型臨海工業地帯を作ったことが功を奏した。

 原油、鉄鉱石など廉価で良質な世界資源を利用し、世界市場に大規模な輸出攻勢をかけた京浜、京葉の両工業地帯は、臨海型工業のメリットを極限まで発揮させた。東京湾は、一躍世界で最大規模を誇る新鋭輸出工業基地となり、戦後日本の経済復興と高度経済成長を牽引し、日本を世界第2位の経済大国へと押し上げた。

 今日、東京大都市圏の経済主体はすでにサービス業や知識産業に移っているものの、東京湾エリアの貨物輸出量[8]は依然として日本全国の30%近くを占めている。

 輸出工業の急速発展は都市化を起爆し、ベイエリアおよびその後背地では人口が急激に膨張し、東京、横浜、川﨑、さいたまなど100万人を超える大都市がコアとなって東京大都市圏の形成を促した。

 注目に値するのは、ベイエリアの港湾群が臨海工業地帯の発展を支えただけでなく、世界から大量のエネルギー、生活物資、そして食料品を輸入し、膨張し続ける大都市圏の人口規模、そして人々の生活レベル向上のニーズに応えた点である。

 現在、東京湾の貨物輸入量[9]は全国の40%を占めている。臨海型大都市圏に人口を集積させることで、日本は世界資源を効率的かつ存分に利用することができた。

 東京湾における大規模な埋め立て地は、東京大都市圏の空間発展の重要な特徴の一つである。1868年以来、合わせて252.9 km2の埋め立て地が作られ、その大半が戦後に行われた。

 埋め立て地は、大型臨海工業地帯を形作っただけでなく、港湾、空港など交通ハブの建設や、中心業務地区(CBD:central business district)、国際会議場、海浜公園、大型モール、住宅などの大規模開発に、広大な空間を与えた。2020年の東京オリンピック関連施設の多くも、東京湾埋め立て地に建設される。

 図5-13が示したように、埋め立て地は、工業経済からサービス経済、そして知識経済まで、それぞれの時代の要請に応え、新たな都市空間の展開を可能にした。東京大都市圏の空間上の大きな特徴の一つは、埋め立て地にこうした展開を求めたことである。

図13 東京湾臨海部土地利用分布と大型施設の集客状況
出典:(一財)日本開発構想研究所の研究に基づき、雲河都市研究院が最新データをアップデートした。

(3)広域インフラ整備によるセンター機能の拡大

 他の都市ないしは世界につながる港、空港、新幹線、高速道路など広域インフラ設備は、東京のセンター機能効果を高めた。

 戦後、日本は広域インフラ整備の推進を通して、飛躍的成長を実現させた。1964年の東京オリンピックをきっかけに、日本は広域インフラ整備を加速させた。

 新幹線を例にすると、この高速旅客専用鉄道のコンセプトは日本が発明したものである。過去、世界各国の旅客列車は貨物列車も通る同一線路の上を走っていた。ゆえにスピードには限界があった。1964年、東京オリンピック開催前夜、日本は世界初の新幹線を開通させた。東京から名古屋、大阪までの三大都市圏を貫く新幹線は、大小都市を緊密に結び、太平洋メガロポリス(東海道メガロポリスとも言う)を形作った。

 特に注目に値するのは、太平洋メガロポリスの三大都市圏を連結する高速大動脈が、まず新幹線であったことである。三大都市圏を貫く高速道路は、東京オリンピック開催5年後の1969年にようやく開通した。これに対して、ボストン、ニューヨーク、フィラデルフィア、ボルチモア、ワシントンD.C.からなるアメリカ北東部大西洋沿岸メガロポリスはいまだに高速道路に依存している。

 オリンピック後も広域インフラ整備はさらに続いた。1965年には日本全国の高速道路はわずか190 kmで、新幹線も515 kmしかなかった。2,000 m以上の滑走路を持つ空港はたった5つに過ぎなかった。それに対して今日では、高速道路と新幹線はそれぞれ10,492 kmと2,624 kmに達した。2,000 m以上の滑走路を持つ空港は全国66カ所に増えた。

 こうした大規模な広域インフラ整備は、日本国土を高速で便利なネットワークで結んだ。その結果、東京のセンター機能は一層強化された。

 再び新幹線を例にとると、東京駅、東京都内の新幹線駅(3駅)、および東京大都市圏内(7駅)での乗降客数は、全国新幹線乗降客総数に占める割合が各々24.2%、30.5%、39%に達している。つまり、全国新幹線乗降客数の8割近くが、東京大都市圏とその他都市とを往来する客で占められている。これは新幹線の最も重要な役割が、東京大都市圏とその他の都市との往来であることを意味する。言い換えれば、新幹線は地方都市の人々が東京のセンター機能を利用するにあたり大きな利便性を提供している。

 新幹線が航空輸送と最も異なることは、各都市の中心部を直接つないでいる点にある。これは大変に重視すべき特徴である。東京駅を例にすると、5路線の新幹線に毎日平均17.5万人が乗り降りしている。東京駅をつなぐ15路線の電車や地下鉄を、毎日平均83.2万人もの乗降客が利用している。

 このような新幹線と都市鉄道のスムーズな連結が東京と地方の移動の利便性をさらに高め、両者の人的往来を促した。結果、当然、東京のセンター機能が強化され、人口と経済とがなお一層東京に集中した。

 新幹線開通の翌年1965年には、東京大都市圏の人口は2,102万人になり、当時、全国の人口とGDPに占める割合はそれぞれ21.2%、28%となった。半世紀後の2015年、東京大都市圏の人口は3,800万人に達し、全国の人口とGDPに占める割合は、29.9%と32.3%に達した。1972年に田中角栄首相が提唱した「列島改造論」に代表されるように、日本政府は数十年来、国を挙げて地方経済を盛り立て、人口と経済の東京集中阻止を図ろうとした。にもかかわらず、結果として、東京の一極集中現象はますます進んだ。新幹線の影響もそのことの一因だったと思われる。

 新幹線に続いて、日本は目下、東京と名古屋そして近畿三大都市圏をつなぐリニア中央新幹線を建設している[10]。時速500 kmの超高速大動脈は日本のメガロポリスを時空上でさらに緊密に結び、世界の人材、資金、企業にとって、より魅力的な空間が形成される。超高速大動脈は、東京大都市圏の巨大なセンター機能を一層強化するであろう。

(4)高密度発展の成功

 密度は、都市問題を議論する際の重要な焦点の一つである。本レポートでは、5,000人/ km2以上の地域をDID(Densely Inhabited District:人口集中地区)と定義し、人口密度に関する有効な分析を試みた。

 雲河都市研究院の研究によると現在、東京都のDID人口比率は87.3%に達し、東京大都市圏のDID人口比率も58.8%に至っている。それは、同都市圏の大半の住民が人口密集地で生活していることを意味する。

 さらに全国と東京大都市圏の人口比率から見ると、日本全人口の29.9%が東京大都市圏に住んでいることに対して、全国DID人口の55.2%が同大都市圏にいる。両者の間の差は25.3%ポイントもある。要するに同大都市圏においてDID率は全国平均をはるかに上回り、2,336万人のDID人口を抱えている。 

 本レポートは日本各都道府県のDID人口規模と第三次産業付加価値額、R&D内経費支出との相関関係について分析した[11]。結果は、DID人口規模と第三次産業付加価値額との相関係数は0.92と「完全な相関」にあり、DID人口規模とサービス経済との間には、極めて強い相関関係が認められた。また、DID人口規模とR&D内経費支出との相関係数も0.8と高まり、DID人口規模と知識経済との間も「非常に強い相関」関係が確認された。

 まさに膨大なDID人口が東京大都市圏のサービス産業と知識経済産業の発展を支えた。結果、同都市圏には日本の58.2%の上場企業が集中し、60.6%の特許申請受理数を誇っている。

 良質なDIDは、現代経済発展の根本である。図5-14が示すように、日本のDIDは東京、名古屋、近畿の三大都市圏に高度に集中している。三大都市圏で構成される太平洋メガロポリスは、全国の86.3%のDID人口と83.8%のDID面積を持ち、GDPの63.7%を稼ぎ出している。

 現在、日本のDID面積は、すでに3,761 km2に達し、国土面積の10%に当たる。DID人口も4,229万人に上り、全人口の33.3%を占める。なかでも東京大都市圏は日本のDID人口の半分以上を有している。

 以上の分析からわかるように、半数以上のDID人口が各種センター機能が集中する東京大都市圏で暮らしていることが日本経済の強みである。

 しかし、中国では都市の人口密度に関するネガティブな認識が根強い。高い人口密度が交通渋滞を招き、環境汚染を引き起こし、生活の不便をもたらす大都市病の原因だと考えられている。近年、北京などでは一部の地方から来た低所得者を強制的に追い出す動きに出て、物議を醸した。実際は、インフラ整備水準の貧弱さや都市マネジメント能力の欠如こそ、こうした都市病の元凶である。

 他方、大規模なDID人口は、サービス経済と知識経済に不可欠な土壌である。一定の人口規模と人口密度がなければ、数多くの新しい産業は生まれないからだ。

 東京大都市圏の経験はマネジメント能力の向上とインフラの充実とで、都市の積載力を高められることを実証した。こうした経験に真摯に向き合い、中国の為政者は、人口密度に関するネガティブな考えを改めるべきである。

図14 全国DID分析図
出典:雲河都市研究院「アジア都市総合発展指標2017」より作成。

[1] NSF(National Science Fundation)のデータによる。

[2] NSFのデータによる。OECDの分類定義では知識・技術集約型産業は、知識集約型サービス、ハイテクノロジー産業、ミディアムハイテクノロジー産業が含まれる。知識集約型サービスには教育、医療・福祉、ビジネス、金融、情報・通信サービス業が含まれる。ハイテクノロジー産業には航空宇宙、通信機器、半導体、コンピューター関連機器、医薬品、精密機器産業が含まれる。ミディアムハイテクノロジー産業には自動車、機械、電気機器、化学、輸送機器産業が含まれる。

[3] コンテナ取扱量は国際標準規格(ISO規格)20ftコンテナ=1TEU, 40ftコンテナ=2TEUで計算した。

[4] 2017年末、アメリカ国会は税制改革法案を採択し、法人税率を35%から21%に下げた。

[5] 特に註釈のない限り、本章が引用するデータは雲河都市研究院の〈アジア都市総合発展指標2017〉によるものである。

[6] 森記念財団都市戦略研究所『世界の都市総合ランキング Global Power City Index YEARBOOK 2017』。

[7] 日本の行政は中央、都道府県と市町村の3階層に分かれている。全国は1都、1道、2府、43県で、合わせて47都道府県で構成されている。

[8] 2003年、日本は国として初めて「観光立国宣言」をした。2007年、「観光基本法」を全面改正し、「観光立国推進基本法」が制定された。さらに、2008年、その推進を担う「観光庁」が、国土交通省の外局として新設された。

[9] 貨物輸出量は金額ベース。

[10] 貨物輸入量は金額ベース。

[11] リニア中央新幹線は2027年に東京—名古屋間、2037年には名古屋—大阪間が開設される予定である。

[12] 相関分析は、2つの要素の相互関連性の強弱を分析する手法である。「正」の相関係数は0—1の間で、係数が1に近いほど2つの要素の間の関連性が強い。なかでも0.9—1の間は「完全な相関」、0.8—0.9は「非常に強い相関」、0.6—0.8は「強い相関」とする。

『環境・社会・経済 中国都市ランキング2017 〈中国都市総合発展指標〉』掲載


『環境・社会・経済 中国都市ランキング2017 中心都市発展戦略』
中国国家発展改革委員会発展計画司 / 雲河都市研究院 著
周牧之/陳亜軍/徐林 編著
発売日:2018.12.21