【ディスカッション】省エネ・再生可能エネルギー社会への挑戦と自然資本 〜中井徳太郎・安藤晴彦・和田篤也・周牧之〜

編集ノート:
 COP21がパリ協定を採択し、世界が協調して、温室効果ガスの削減に取り組む歴史的な転換点を迎えた2015年12月19日、東京経済大学は「環境とエネルギーの未来 国際シンポジウム」を、環境省、中華人民共和国駐日本大使館の後援で、国連大学ウ・タント国際会議場にて開催した。なかでも周牧之ゼミ生の問題提起のもとで、中井徳太郎氏、安藤晴彦氏、和田篤也氏という3人の霞が関の「大プロデューサー」を迎えたディスカッションが精彩を放った。いまこの議論を振り返り、地球の温暖化への取り組みの足がかりを再度確認したい。


日時:2015年12月19日(土)

司会:
周牧之   東京経済大学教授/経済学博士

パネリスト:
中井徳太郎 環境省大臣官房審議官(当時)、環境事務次官(現在)
安藤晴彦  経済産業省戦略輸出交渉官(当時)、内閣官房内閣審議官(現在)
和田篤也  環境省廃棄物対策課長(当時)、環境省総合環境政策統括官(現在)

※肩書きは当時:2015年、現在:2022年

― オープニングムービー


 COP21はパリ協定を採択し、発展途上国を含む全ての国が協調して、温室効果ガスの削減に取り組む。それは初めて世界をひとつにまとめて枠組みを示したということです。これで世界の温暖化対策が、歴史的な転換点を迎えたことに象徴されるように、今、地球の温暖化への関心がかつてない高まりを見せています。

 また、エネルギーに関する問題には、温暖化だけではなく大気汚染や原発事故、そしてエネルギーバランスの変動や経済への影響、さらに、資源確保に関わる外交や安全保障、そして地域紛争などがつきまといます。近年、特に3.11以降は、東京経済大学の学生の間でもエネルギーや環境問題への関心が非常に高まってきています。

 これを受けて周ゼミでは、エネルギーと環境問題に取り組んできました。今日のこのシンポジウムもゼミ生が企画、コンテンツ作り、そして運営に至るまで積極的に関わってきました。若い人たちの視点をベースに作り上げたことがこのシンポジウムのひとつの大きな特徴です。セッションのトークに先立ち、周ゼミの学生たちが問題提起をします。

 15人の学生を3つのグループに分け、学んできた結果と各々の問題意識を土台に発表します。発表の最後には、パネリストの方々への質問もいたします。それではまず、第1グループからどうぞ。


― 学生による問題提起 ―

■ 第1グループ:再生可能エネルギーと水素社会


学生 皆さん、こんにちは。それでは、周ゼミのプレゼンを始めます。周ゼミでは、再生可能エネルギーと水素社会についての研究を行い、その結果をプレゼンテーションにまとめました。私たちのチームでは、再生可能エネルギーである「太陽光・風力・地熱発電」の国際比較と考察を行いました。

 それではまず、「なぜ再生可能エネルギーなのか」についてお話します。左側が、2010年の日本の電源構成割合、右側が2014年のものになります。日本の従来の発電方法において、原子力と火力がそのほとんどとなっていましたが、福島第一原発事故後、全ての原発が停止され、火力がそのほとんどを占めるようになりました。ただ、従来の発電方法には大きな欠点があり、まず原子力では福島第一原発事故から見られるように、運用に非常に大きなリスクを伴います。次に火力発電においては、その燃料が有限ですし、CO2の大量発生による温暖化も懸念されています。そこで、半永久的にエネルギーを生成することが可能で、環境への負荷も低い再生可能エネルギーへと転換していく必要があるのではないでしょうか。

 太陽光発電の国際比較から見ていきます。まず、右側のグラフをご覧ください。太陽光発電の導入量では全体の13%で、再生可能エネルギー開発に熱心に取り組んでいるドイツ、中国に続き、日本は世界第3位でした。続いて、左側のグラフをご覧ください。太陽電池生産量では、世界全体の8%で、中国、台湾、北欧に続き、世界第4位となっています。

 2005年時点では太陽電池シェアの半分以上を日本が持っていた、ということを現在のグラフと比較してみると、次々と他国に追い抜かれていることがわかります。

 次に、風力発電の国際比較をしたいと思います。左の図が、2014年の世界の風力発電の国別導入量で、右の図が、2014年の世界の風力タービンの生産シェアになっています。左の図からわかる通り、風力分野においては日本の導入量はわずか0.8%、また、風力タービンの生産シェアも4%以下と、発電量、産業ともに非常に遅れていることがこのグラフからわかると思います。

 次に、地熱発電の国際比較です。左のグラフから、主要国の地熱資源量、真ん中、世界の地熱タービン生産シェア、そして最後に、世界の地熱発電設備容量の円グラフになります。左のグラフ、地熱資源では、アメリカ、インドネシアに次いで主要国の22%を日本が占めています。そして真ん中のグラフ、地熱発電用タービン生産シェアでは、60%以上を日本企業が占めていることがわかります。しかし、高い技術力を持っているにも関わらず、設備容量はわずか4%と、多くの資源が手つかずの状態となっているのが現状です。

 では「なぜ、海外との差が生まれたのか」についてですが、固定価格買取制度の導入の大幅の遅れや、電力事業の地域独占による市場の不活性化、及び企業の競争力が減退したために、海外との大きな差が生まれたものと思われます。そして、これらの大元の原因が、1955年に原子力基本法を初めとする原発推進の政策が打ち出された一方で、再生可能エネルギーは二の次とされてきたためであると考えられています。

 最後に問題提起です。第1に、福島発事故後ドイツでは2022年までに国内の全原発を廃止することが議決されましたが、果たして日本はこのような政策をとることができるのでしょうか。第2に、固定価格買取制度、電力自由化等の制度だけで、再生可能エネルギー社会をつくっていけるでしょうか。そして最後に、現在、原子力のために使われている予算を、これからは再生可能エネルギーへと回していくべきなのではないでしょうか。

 以上の3点が、私たちからの問題提起になります。

司会をする周牧之東京経済大学教授

 はい。続いて第2グループ、どうぞ。

■ 第2グループ:バイオマス発電


学生 続いて、「バイオマス発電」について発表させていただきます。私たちのグループでは、穀物、廃棄物、藻類、木質をエネルギー源とする発電方法について研究しました。

 そもそも、バイオマスとは何であるかです。バイマスとは、動植物等の生物から作り出される有機性のエネルギー資源で、一般に化石燃料を除くものを総称します。このバイオマス資源をそのまま燃焼、あるいは一度ガス化してから燃焼して発電する仕組みのことを、バイオマス発電といいます。

 まず、穀物バイオマスについてです。穀物バイオマスは、サトウキビやトウモロコシ等の穀物資源から植物性のエチルアルコールを生成し、それを燃焼することによってエネルギーを得ます。しかし、食糧、飼料等の価格高騰や、農地開発に伴う森林破壊を引き起こすなどの問題点があります。さらに、日本は地理的、風土的な問題により、エネルギー源となる穀物の生産量に限界があります。穀物バイオマスを進める国々と比べると、生産量の乏しい日本では、穀物バイオマスを進めていくことは非常に困難であると考えます。

 次に、廃棄物系バイオマスについてです。ドイツでは電力消費量の27%以上を再生可能エネルギーが占め、再生可能エネルギーに占めるバイオマスの比率は発電の3割、熱供給の9割に達しています。また、2004年の固定価格買取制度改正を契機に、バイオマスが急速に普及しました。

 次に、藻類バイオマスについてです。藻類バイオマスは、大量バイオをした藻類から油を抽出することによってエネルギーを得ます。オイル生産効率が植物よりも10倍~数百倍高いといわれており、トウモロコシを利用した穀物バイオマスと比較すると700倍にも及ぶオイル生産効率を持っています。また、穀物を原料としないため、食糧等の価格高騰を引き起こすこともありません。

 そして藻類バイオマスの最大の特徴は、生産に要する面積の少なさです。例えば、琵琶湖の4分の1程の面積で、日本の石油需要が賄えると考えられています。この面積は日本の耕作放棄地の約4%の面積で、これを生かすことができれば日本でのエネルギーの自給自足が実現できると考えます。

 最後に、木質バイオマスについてです。グラフに注目すると、日本の面積の66.3%、つまり日本の面積の約7割が、森林で占められていることがわかります。全国には、木質バイオマスの豊富な資源が多く、広い範囲に未利用の資源が分布しています。また、日本の森林蓄積量は約49億万㎥と、30年前と比べ倍増しており、毎年8000万㎥ずつ増加しています。木質バイオマスについては、工場残材や建築派生材のほとんどが利用されています。しかし、間伐材等の未利用材は運搬、収集コストがかかることから、利用できていないのが現状です。

 木質バイオマス以外の再生可能エネルギーは、自然エネルギーを活用するために原材料費がかからない特徴があります。しかし、天候や環境に左右されやすく、安定的な電力供給を実現することが難しいといった、再生可能エネルギーの最大の問題を抱えています。一方で木質バイオマスは、エネルギー源である木質バイオマスを購入する必要がありますが、他の再生可能エネルギーと違い、安定的に電力を供給できます。また、地域の木質バイオマス燃料を活用することによって、地元に利益を還元することができます。

 このように、身近な地域の自然資本を活用して発電を行い、自然資源と経済の地域内で循環するといった考え方を「里山資本主義」といいます。私たちが身近な自然資本を継続的、持続的に使える仕組みをつくることが里山資本主義の真髄であると考えます。

 最後に、問題提起です。第1に、バイオマスの可能性を最大限に引き出すためにはどうしたらいいのでしょうか。次に、バイオマス産業都市、里山資本主義はどのようにして地域活性を実現できるのでしょうか。最後に、バイオマスの分野で世界をリードするためには、どうすればいいのでしょうか。

 以上の3点が、私たちバイオマスグループの問題提起です。

 はい。最後の第3グループ、お願いします。

問題提起する周ゼミ学生

■ 第3グループ:水素社会


学生 次は、「水素社会」についてです。さまざまなエネルギーを水素に転換して利用していく水素社会。その現状について調べました。

 初めに、水素の製造法についてです。まず化石燃料を用いて製造する方法で、この工業プロセスの副産物としてCO2が排出されます。現状では、水素の大部分はこの方法を用いて製造されているため、環境への影響が心配されます。次に、CO2を排出しない方法として、自然エネルギーを利用する方法、バイオマスを用いる方法、そして原子力を使う方法があります。この3つのうち、自然エネルギーやバイオマスを用いる方法では、CO2排出のない環境にやさしい水素を製造することが可能です。

 一方、原子力を使う方法ではCO2の排出はありませんが、福島原発の事故があったように、原子力を使うには危険が伴うため、積極的に利用すべき製造方法とはいえません。このように水素は、多様な原料をもとに製造することができ、自然エネルギーやバイオマスなどの環境にやさしい方法を使えば、地球温暖化と資源枯渇といった2つの環境問題を同時にクリアすることが可能になります。

 しかし、化石燃料や工業プロセスの副産物を利用した製造ではCO2の排出があり、原子力を使った製造では危険が伴うため、何をもとに水素を製造するかが、水素社会に問われる大きな課題だと言えます。

 次に、エネルギーキャリアとしてどのように水素が使用されるかです。初めに水素を製造します。褐炭などの未利用資源や余剰、安価な再生可能エネルギーから低コストに水素を製造します。次に、製造した水素を輸送、貯蔵します。水素は個体、液体、気体の各形態に変換できるため、液化水素ローリーや、液化水素貯蔵タンクなどで輸送、貯蔵します。最後に、水素利用です。半導体などのプロセス利用や、水素ステーションなどの輸送用機器、また、水素ガスターミナルのエネルギー機器や発電所などに利用します。

 これらにより、再生可能エネルギーから得た電力を水素に置き換えることで安定し、かつ運搬効率が高くなります。また、再生エネルギーの世界からの輸入が可能となります。

 次に、水素の製造方法と環境への影響についてです。現在、水素の生成には主に化石燃料が使用されており、日本企業は褐炭利用による大規模な水素生成プロジェクトを、オーストラリアで進めています。この生成方法ではCO2が発生し、結果として環境への負荷がかかる危険性があります。CCSという、水素生成時に発生するCO2を回収する装置もありますが、まだ開発段階です。また、原子力による生成方法も検討されていますが、原子力は危険であるため避けるべきではないでしょうか。

 次に、水素ステーションについてです。現在、開発済みが28カ所、計画中が53カ所で、一部地域に集中しています。現状では、全ての水素ステーションで化石燃料由来の水素が遡及されているので、自然エネルギー、バイオマスなどから生成された水素が供給されていくことが理想ではないでしょうか。

 次に、再生エネルギーを利用した水素社会についてです。「R水素サイクル」と呼ばれるR水素による地域循環型社会が、これにあたります。再生可能エネルギーを利用した水素社会が実現すれば、環境に悪影響を及ぼす化石燃料や原発から脱却することができます。さらに、オフグリットやマイクログリットにより、従来に比べスマートな電力供給が可能となるため、巨大送電網も不要となります。また、水素は長期間大量に貯蔵できるため、災害時のエネルギーセキュリティーにもなります。そして、資源の乏しい国々もエネルギーの補給が可能となるため、エネルギー貧困の解決にもつながるとされています。

 結論として、私たちは化石燃料や原発由来の水素ではなく、再生エネルギーを利用した水素で、脱化石燃料、脱原発、脱巨大送電網を実現していくべきだと考えます。

 問題提起に入ります。まず、水素社会の実現を拒む要因は何でしょうか。なぜ、このような技術があるにも関わらず、理想ともいえる水素社会に日本を変えていこうとしないのでしょうか。次は、なぜ再生可能エネルギー由来の水素社会を形成することによって、脱炭素エネルギー、脱原発の社会を作ることが可能なのでしょうか。最後に、日本はいま再び原発のシステムを海外に輸出しています。事故を起こした危険な原発の輸出ではなく、この水素社会のシステムを世界に輸出していくべきではないでしょうか。

 以上で、周ゼミによる問題提起を終わります。「太陽光・風力・地熱」、「バイオマス」、「水素社会」の3つの問題提起について、パネリストの皆さんにお話いただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

― ディスカッション ―

司会:周牧之、パネリスト:中井徳太郎氏、安藤晴彦氏、和田篤也氏

 ディスカッションに入ります。今日のパネリストの皆さんは、エネルギーと環境における専門家、そして行政官であるだけではなく、将来の社会ビジョンを持ち、社会革新に挑む改革者でもあられます。まずは、皆さまそれぞれぞれのビジョンと取り組みについてご紹介ください。中井さんから、よろしくお願いします。

■ 自然の恵み「森里川海」が循環し共生する社会へ


中井 ご紹介いただきました、環境省の中井でございます。今、学生からいろいろ問題提起がございまして、ちょっと直接答えにはならない部分はありますが、絡んでいる部分があると思います。今やっているところの紹介も含めて、お話したいと思います。

 地球気候変動がとんでもない状況だということを踏まえた、大変な危機感のもとCOP21のパリ協定で、2度の温暖化に食い止める決意が合意されたわけです。2度食い止めるということは、21世紀中に温室効果ガスが増えない、出さないということです。それが本当に可能なのかという大きな問題がありますが、日本は2030年に、CO2を26%減らすとしました。

 21世紀に出さない状況という文脈で言いますと、安倍政権が第一次内閣の時に提唱したものが先進国の合意になっており世界全体では2050年に50%以上減らしていく状況で、先進国は80%。これは閣議決定しています。第四次環境基本計画の中に謳われていまして、2100年に出ないことを見据えたトレンドということで、温暖化を引き起こす問題のガスをどうするかにおいて、日本は26%を2030年までに減らし、2050年には80%減らし、2100年にはゼロに向けていく。

 環境省としてもこれはどうなのか、可能なのかということで、ずっと議論しています。この環境の問題、具体的には温暖化であれば温暖化に対応しながらCO2を減らすということですが、そのことが企業活動の中でできるのか、国民生活の中でできるのか。人口減少、高齢化が進む社会の課題の中で、経済、地域が活性化する地域創生が求められる中で、環境の対応というものができるのか。

 例えば、環境と経済と社会の、究極の大きな問題を同時に解決でき同時決着という絵を描くとき、2100年はCO2が出ない社会で、人々が心豊かにちゃんと暮らせていて、経済も回っているという絵柄でないと、環境のことだけ考えてもどうしようもない。

 そういうことで、武内和彦中央環境審議会元会長も本日いらっしゃってますが、そこでも議論も踏まえ、循環して共生している社会を究極に描きながら、やれることの手を打っていこうと突き詰めれば、自然の資本「森・里・川・海」という我々の生きている基盤にもう一回、目を向けなければいけません。

 それが、このプロジェクト「つなげよう、支えよう森里川海」です。今日、配布資料の中に冊子が入っています。パンフレットと中間報告で、そのポイントは冊子でいいますと1ページ目の図になります。今、全省を挙げてこのプロジェクトに取り組んでいます。山から海に至る水が、雲や雪や雨となり、地下水となったり川となったりして海までいく。この物質循環の中に、我々の生活もあり、魚がいて、動物がいて、植物がある。

 生きとし生ける自然の恵みがつながって、循環している中に全てあります。生きものとして人間が健全に暮らしている感じが味わえていることが目標です。これが健全に循環し、その中に、生きとし生けるものとして自然の一部である人間もいる。

 都市と農村ということから見ても「森里川海」の恵みに支えられて地域での循環し、地域の中で自立し、いろんなものを回しながらネットワークで支え合うイメージです。これを究極にできれば温暖化の問題や社会経済の問題が解決しているであろうという発想です。

■ 自然の循環系が崩れた問題と責任


中井 この温暖化でいうと、日本の場合は27兆円くらい、25兆円を超える化石エネルギーを中東から輸入しています。これで発電をしているという構造です。これは貿易収支の赤字で、国費は海外に出ているということです。そういうかたちでエネルギーを供給する構造ですが、中東を中心とした貿易赤字の部分で賄っているのと裏腹に、もともと日本の「森里川海」の循環の中では至上な恵みがあります。

 森は二酸化炭素を吸ってくれます。また、土砂の流出を防止し水をつくってくれる。仮に森がないとすると、人工的に水を作りきれいにする設備を整える計算をしますと年間約70兆円、全体でいうと80兆円という試算にもなります。

 我々はいま負担感なく日々、四季折々の中できれいな水、きれいな空気、おいしい食材を自然の恵みからもたらされ、世の中の自然のストック、資産を与えられています。言わば、フロー、利息のようなかたちで、この資産が与えられている。それを顧みないかたちで、自然の恵みを引き出すところをかなぐり捨てて、コストの安さを見て輸入に頼ってきた部分もあります。

 冒頭の丹羽先生のお話にもありましたが、バーチャルウォーターという言い方がありますが、海外の水を輸入している。戦後、人口が都市へ集中する中で開発が行われ、エネルギーは中東からの輸入に頼るというような構造で、「森里川海」という自然の恵みの基本に目が向けないまま、循環系がズタズタになってきた問題があります。

 これは、人口が減ってきているということと同時に、都会に集中しているという構造です。もともと江戸時代、山の森の資源をエネルギーとして使ってきた文脈と全く違う展開が特に戦後集中的に行われ、戦後一回エネルギーを使った折に植林したため人工林の蓄積で、先ほどの学生からのプレゼンでもありましたが森自体が究極に今メタボです。メタボに蓄積されて植林した針葉樹を中心に太ってマッチ棒のような形で、不健全に森がある。そういう中で、二酸化炭素の吸収能力も落ち、気候変動、集中豪雨で森の土砂が一気に崩れ、災害が起きている状況です。

 そのような自然の資本を、森についての温暖化という文脈でいうと、二酸化炭素をしっかり吸収してくれる森に変える。若い木にし、しっかり活用して蓄積をしてくれる森の姿に変える。再生エネルギーが今日のテーマですが、まさしく風も水も地熱も何もかも、全て自然の恵みだと考えますと、地下資源のストック、元本割れをもたらしているストックを掘り起こし、元本を劣化させ減らせる発想ではなく、元本に手を加え元本を維持しながらフローとして、毎年の四季折々に与えてくれる恵みを使う発想でやっていく。そうしたかたちで自然の恵みである「森里川海」に手を入れていく中で暮らし、共生し、循環していくことが可能にならないと、21世紀にCO2を出さないようにするのは無理である、という発想です。

スピーチする中井徳太郎環境省大臣官房審議官

■ 昆虫を捕まえたことがない子どもが4割もいる


中井 そうした森自体を中心とした劣化の問題は、人間がどうかという問題につながります。震災の後にちょっと自然体験的なプログラムが増えて若干改善していますが、2021年の統計では川や海で魚や貝を獲ったことがない子どもが約4割、蝶や昆虫を捕まえたことがない子どもが約4割。太陽の昇るところや沈むところを見たことがない小中学生が約4割います。特に戦後を中心に、「森里川海」や、身の回りのもの、そして自分自身が自然の一部だということから切れて、コスト中心で輸入しているような構造がもたらした結果、我々の子どもたちの自然観が破壊された状況を引き起こしてもいます。

 「森里川海」は、うまく活用すればエネルギーも含めて我々の生活の基盤、健康と暮らしを支えてくれる水であり、空気であり、食材であり、物を与えてくれる根幹です。けれども、そこが劣化している結果、問題が出てきています。例えば、ウナギが絶滅危惧種になっています。日本ウナギは今、シラスウナギだと平成25年度で1キロ250万円ぐらいだったということで、プリウスより高価になっています。一方で鳥獣被害も深刻化しています。里の荒廃地、耕作放棄地などが増え、イノシシやシカが大きな農業被害などをもたらしています。

■ 国民運動として取り組む必要性


中井 ひとつのテーマは、自然の恵みに国民全体が目を向け、技術の開発と意識、ライフスタイルを変革することです。ライフスタイルが技術に支えられて変わる時に、社会のシステムや法律などの改正もなされ、2050年、2100年に向かって温暖化に対応する。これを人類が本当にやっていくんだと考えれば、今2015年という時点から約100年をかけてぐるっとライフスタイル、社会システム、技術が同時並行的にイノベーションしていくというイメージになります。その根幹に、このプロジェクトがいう自然の恵みに根差したところでの転換がされていく。これはひとつの「大きな国民運動」としてやっていく必要があります。

 目標を立てて運動でやるからには、わかりやすい話にして皆で発想を変える。共有するものを持って、取り組みという社会の仕組みにしていく。まずは「森里川海」の恵みを引き出すところに目標を立て、それを皆で支える。そういう社会へと進めていくことで、やはり人口減少、高齢化、地方創生というテーマを同時解決する。特に農村、山村部で森が荒れていることは、東京を中心とした都市住民にはあまり意識がなく、従来から20、30年ずっと議論してきています。森と都会の体質構造の違いのような議論もありますが、先ほどの「森里川海」の循環と発想で、みんなが循環してつながり、国全体で支える仕組みを考えようということです。

 わかりやすい話を共有し、企業の立場、行政の立場、学生の立場、研究者やNPOの立場、さまざまな立場と形で関われることが大事であろうということで、いろんなアイデアが出ています。森はいまメタボの状況で、皆で手をかけていく。木を切ったものをどう使うかということもありますし、手入れをすることで松茸が戻ることもあろうと思います。災害が今多発している中、生態系を使い、その土地に適応した対応を地域で考える。

 川や浜の話でいいますと、江戸前ウナギの復活プロジェクトや、先ほどの森市長の富山県でいえば鱒寿司があり、サクラマスを全国の皆で支えようといった目標があっていい。トキやコウノトリなどの復活というのもありますし、それこそ風景自体もテーマになります。再生エネルギーを中心とした「森里川海」の恵みを引き出す事業を地域で起こす里山資本主義みたいなことをきっちりやっていくのもいい。いろんなかたちのものがあります。

 イノシシやシカが増えているところではジビエとして活動するとか、マタギのような狩猟の文化を戻す。そして子どもたちは、都会と田舎の交流ということも含め、やはり山や川や海で、実際に体験できるところを、地域部門と東京との交流を皆で支え合うプロジェクトをやってもいい。色々なアイデアが今、出ています。そういうものを協議会というかたちでこれから詰めていきたいと思っています。

■ 次世代への「貯金」として皆でボトムアップを目指す


中井 皆で意見を持ち合うものの、ベースにはお金と労力が要ります。自然の恵みに着目しないで劣化させてしまった元本を積み立てる「貯金」という発想があろうかと思います。江戸前の本物の天然ウナギが戻るのに、プロジェクトをやって5年、10年、15年かかるかもしれませんが、子どもたちへの次世代への貯金になります。

 自然というものからあまりにも断ち切れたところから、そこに戻るという発想でいえば、気象が荒れて暑かったり寒かったり、災害があったりで、自然はもう怒っている。神社仏閣で手を合わせる日本人の感覚を自然に向けて、お賽銭という感覚で、1日1円くらい皆で出そうという具体的な国民参加型のプロジェクトをつくり、ボトムアップ、草の根で一つひとつを動かすことを、来年に向けてやっていきたいという状況です。

 こういったことを、環境省として国の役所が声をかけて事務局をやっているわけですが、あくまでも自然の恵みへの薄れた意識を「皆で呼び戻す」という草の根、ボトムアップの動きの積み重ね的なものでない限りは意味がないです。環境省は中央省庁の役所という立場をかなぐり捨て、地域に入って一緒にこの問題を語るところから始めましょうということで、今50カ所、リレーフォーラムというかたちで、2月に向けてやっています。来年5月に環境大臣G7会合がありますので、2月にはちょうど50カ所でいろんな意見が出ており、それの集約を富山県でやろうということです。

 ポイントはやはり、日本人のもともと持っているはずのもの、失った世界を、自然界を戻し、そこに具体的な技術や社会システムを乗せ、地域から問題に対応していきたいという発想です。冒頭の報告は以上です。

ディスカッション風景

 ご自身が先頭にたって仕掛ける森里川海を大事にする国民運動について語って頂きました。ありがとうございました。続いて、安藤さん、よろしくお願いします。

■ 海表面温度とハリケーンの因果関係


安藤 中井さんの熱い話を踏まえて、短時間でお話をしていきたいと思います。

 東京経済大学周ゼミ生の素晴らしいプレゼンテーションに大変驚きました。プロのコンサルタントやエネ庁職員でもここまできれいな資料を作れないのではと、丹羽会長を含めた事前打合せで申し上げました。本心からそう思っています。堺学長先生の学生を包み込むような優しいご指導と、南川先生、周先生、尾崎先生の厳しくも優しいご指導をきっちり受け止めた学生の皆さんに、まずは大きな敬意を払いたいと思います。

 今日は経済産業省の戦略輸出交渉官とご紹介いただいていますが、経産省の話は5%ぐらいに留めて、RIETIフェローや大学の客員教授という立場で自由に話をしますので、ご了承いただきたいと思います。

 今週12月15日、とんでもないことが起きました。台風はだいたい例年25号ぐらいまでですが、台風27号がフィリピンを襲い、41人の方が亡くなった。25万人の方が避難を余儀なくされている。気象庁のウェブサイトには太平洋の海面温度が出ています。海表面温度が何故大切かというと、27度が、台風が育つか否かの分岐点になるのです。図のピンクが27度を超えるところで、台風が育ちます。お示ししたのは14日のデータで、フィリピンはピンクです。

 こちらは2年前の11月のデータです。ものすごい台風ができました。ピンクの領域が大きいです。「海燕」というスーパー台風が出てきて、6000人の方が亡くなり、1200万人の方が被災しました。これもフィリピンの話です。その2週間前にはアジアでもものすごい状況になり、台風25号、26号やサイクロンが同時に襲ってきました。日本列島を包み込むような巨大なものです。地球温暖化の因果関係は、わかったようでわかってないようなところもありますが、はっきり言えるのは海表面温度が27度あれば、巨大台風やハリケーンが出てきます。

スピーチする安藤晴彦経済産業省戦略輸出交渉官

■ アジア全体で深刻化する5の現状


安藤 次のスライドは北京の街の様子です。昨2014年、通商交渉官として北京に9回行きました。アジア各地を飛び回っていて、ソウルでの会議の後にインドで副大臣と待ち合わせる機会があり、北京首都空港は慣れているのでトランジットを北京にしました。大失敗でした。世界三大「PM2.5」都市は、北京とニューデリーとニューメキシコで、実際、北京の夜はスモッグで降りられませんでした。他の飛行機に乗っていたクルーも降りられず、インド行き飛行機がキャンセルになりました。副大臣と大切な待合わせなのに、真夜中にキャンセルとなり、困り果ててドバイ経由かシンガポール経由で駆けつけるか算段しました。次のフライトは1日後という話が半日後の早朝に飛ぶことになり、ニューデリー空港の国内線乗継は75分が標準時間なのですが、ギリギリ1時間のギャップでしたので乗ることにしました。しかし、更にニューデリー到着が遅れ、75分かかるところを30分で走り抜け、大汗かいて副大臣の近くに座ることができました。

 PMは北京だけの話ではありません。韓国も台湾も日本も、アジア全体で考えねばならない話です。先月、官邸のミッションを受けてモンゴルに訪問しました。世界最大の炭田や鉱山を巡りました。朝青龍さんと3日間一緒でしたが、地下1300メートルまで降りました。途中で、ショックな話を耳にしました。習近平主席とエルベグドルジ大統領が9ギガワットの石炭火力をモンゴルでつくると約束したのだそうです。原子力発電所がだいたい1ギガワット、100万キロワットです。9基もの巨大石炭火力発電所をモンゴルでつくるというわけです。中国が環境対策技術をきっちりやってくれないと、美しいモンゴルの草原で、またPMや煤塵が出てくるのかと心配になります。しっかり対応していただくのがアジアの大国として、アジアの友人として、信頼の証になるのではないかと思いながらも、強い懸念を覚えました。

 このスライドは昨年の北京での交渉会合に続いて福島の国際セミナーに出たときに、裏磐梯のホテル前の毘沙門沼で撮った写真です。なかなかきれいでした。爽やかな空気ときれいな水と、福島は大変なことがあったわけですが、その中で日本人が頑張って、こうした環境を取り戻して維持しているというところはホッとしたわけです。しかし、これもまた日本だけの問題ではありません。

■ 新エネルギーが乗り越えるべきコストと性能、制度の壁


安藤 皆さんから「なんで新エネは進まないのか」、「水素はなぜ進まないのか、こんないいものなのに」と問題提起をいただきました。全ての新技術に当てはまるポイントはこの絵です。新技術は、既存技術を乗り越えなければなりません。乗り越えるために何が大事かというと、ひとつは性能が圧倒的にいいことです。あるいは、コストが圧倒的に安いこと。10分1も安くて、10倍も性能が良かったら、導入されないわけがありません。しかし、開発過程で、性能を良くしていかなければなりませんし、最初のコストはもちろん高いわけです。

 技術開発はコストの分母にも性能の分子にもかかりますが、もうひとつ大事なのは「制度」です。制度枠組みが価格と性能に影響を及ぼします。上手に規制を組むことで、性能を補う部分が出てきます。例えば、Feed-in Tariff固定価格買取制のような制度を組むことで、相対価格、プライスメカニズムを変えていく。こういう「ポジティブ規制」を上手く賢く使わないと、新しい技術はなかなか入っていきません。

 他方、新エネルギーは、ひとつだけでは無理です。私は、2008年にアメリカのエネルギー省に呼ばれました。ポジションが2つ変わったのに、新エネや燃料電池の日本の政策を話してほしいというのです。現職の方にお願いしてくださいと申し上げましたが、お前の話を聞きたいということでした。これが、DOE、米エネルギー長官の審議会に呼ばれて話をした時のデータです。DOEのウェブサイトに載っていますので、関心のある方はご覧ください。新エネルギーはひとつだけは無理なので、いろいろな選択肢、オプションが大切です。オプション群の中にポートフォリオを張って、育てていく。政策のポートフォリオ群の中に、ところどころに中核的研究拠点を設けて、天才研究者たちを集めていく。こういう努力が大事だと説明してきました。

■ 燃料電池、水素運搬における日本の技術開発と成果


安藤 実際に、水素や燃料電池で幾つも世界的研究拠点を創ってきました。トヨタの燃料電池自動車MIRAIは、去年12月に新発売され3000台の予約が出ています。ようやく本物の燃料電池自動車が市場に出てきました。この写真は私の師であり盟友である米エネルギー省審議官です。彼の部屋のテーブルにはMIRAIのミニチュアが置かれています。トヨタからお預かりして、「あなたのおかげで、日米研究協力があったから、この燃料電池自動車ができました」と、報告に行きました。1月の話です。CSIS戦略国際問題研究所で、「習近平の政策」について講演して欲しいというので、ワシントンに弾丸出張に行きました際に、彼のアポイントメントを取って会ってきました。

 もう一つがエネファームです。今や14万台がご家庭に入るようになりました。この燃料電池も、スーパー中小企業24社の力を借りています。部品の共通化・共同開発をやりました。東芝とパナソニックは西の横綱と東の横綱で、普段はあまり仲良くありませんが、協力してもらいました。「モジュール化」という重要理論が裏側にあって、それに沿って開発しました。その成果が2009年の商品化で、現時点では14万台です。この定置用燃料電池は、長時間持たせる技術開発です。自動車の方は、小型軽量でパワーを出す技術開発です。いろいろ同時に進めていくことが非常に大事なのです。

 そういう技術開発努力の中で、もうひとつ日本が凄い技術を出しました。水素を運ぶ、しかも常温、常圧で運ぶ技術です。千代田化工の岡田博士が開発しました。ヨーロッパが長く研究していて、できなかったものです。触媒がすぐにへたってしまう。岡田さんの技術は、もの凄い技術で、トルエン分子がちゃんと一方向から柔らかくぶつかって水素が3つくっついて、更にうまく取れるのです。その触媒が長時間もつのです。あまり言いすぎると会社の秘密に触れますので、言えませんが、普通のタンカーで水素が運べるようになるのです。これは日本だけの技術です。

 こういう運搬技術が出てくると、まずは中東から余った水素を持ってくるのですが、その先は、例えば、ロシアの水力です。これは5%しか使っていません。カナダの水力、あるいはパタゴニアというアルゼンチンの南部の風力などから水素を作って運ぶことが可能になります。電力系統がなくても、常温、常圧で運んで、目減りもしないわけです。さらに言えば、北方領土は風力がすごいので、水素をつくることも技術的には夢ではない現実です。もちろん、コストの問題、政治の問題、枠組みの問題などをきっちり整えなければなりません。

ディスカッション風景

■ 太陽光で水素を生み出すプロジェクトと未来


安藤 私はいくつも研究所を立ち上げましたが、筑波大学の先生やシャープの元常務で太陽電池世界トップを7年間防衛したチャンピオンを呼んで、東京大学に次世代高効率太陽光発電の研究拠点をつくりました。日本ではシリコンの太陽電池を造っていても中国に勝てません。日本独自の理論効率63%の高効率太陽電池で、例えば、1軒の電力を10センチ四方の太陽電池で賄える電池をつくろうという拠点です。天才たちを集めると凄いもので、世界新記録が3つ出てきました。

実は、ここから先なんです。本当に驚いたのは。私が水素オタクだからというわけではありませんが、東大の先生たちが取り組んだのがS2H(solar to hydrogen)で、太陽光で水素をつくるプロジェクトなのです。この1月に一橋大学のセミナーで話を聞いた時には、「太陽エネルギーを効率15%で変えられる」という話をされました。私は「今の太陽電池は20%までいっていますから、頑張ってください」と申し上げました。二人で話した時に「安藤さん実は25%まで見えているんです」と、その先生は仰いました。現に、9月には24.4%の世界新記録を出されました。日本の技術って、やっぱり凄いです。

 太陽光から水素をつくると、もうひとつ凄いことができます。水素と二酸化炭素を合成させる日本の技術があります。水素をつくって、CO2と反応させると、メタンができます。CO2を地下に埋める話がありますが、危険なCCSではなく、CO2をメタンに「リサイクル」できます。バイオマスによるCO2リサイクルも大事なチャネルですが、濃いCO2をメタン化して使うのです。この話をモンゴルの友人たちにしています。モンゴルには世界最大のタバン・トルゴイという炭田があります。私は冬に行ってきました。今は休眠中という感じですが、74億トンもある炭田が、本当に使われたら地球は大変なことになると思います。

 そこで、再生水素で薄めて石炭を賢く使うというやり方もあるのではないかと思っています。これは私の夢です。現時点で、研究者以外の賛同者はひとりもおりません。環境省も実はこの話を蹴飛ばしたそうです。この技術が出来上がると、世界中のエネルギーをクリーンに運んでくるということができるようになります。

■ 参考文献を見ると論文のクオリティがわかる


安藤 学生の皆さんにお話したいことがあります。「こんな素晴らしいプレゼンどんなふうに作ったのですか」と周先生に質問しました。周先生、南川先生、尾崎先生の講義に加えて、いろんな先生から話を聞かれたのでしょう。他方、学生が研究するならば、耳学問だけではなく、良い論文をたくさん読んで自分で学んでほしいと、正直思います。去年、上司を集めてセミナーやりました。上田資源エネルギー庁長官も、田中国際エネルギー機関前事務総長も、柏木先生も、橘川先生みなさん上司です。このセミナーのカンファランスボリュームとして『エネルギー新時代におけるベストミックスのあり方』という提言書をまとめました。この中には良い論文がいっぱいあります。

 皆さんにもう一言だけ申し上げると、論文を読む時にぜひ参考文献を見てみてください。参考文献の使い方は2つあります。ひとつは参考文献を見て、「あ、面白そうだな」と、論文をまた自分で探って、自分で勉強していく。これが王道です。もうひとつは、恐ろしいことに参考文献を見るとその論文のクオリティがわかります。読むに値するかどうかというのが読まずにわかってしまう(笑)。後ろから見ると、「あ、この著者の引いている論文はこういうものだから、これは読む価値があるな」とか。「なんだ、この程度のことしか引いてないのか、それじゃあ大したことは書いてないな」とか。

 そういうことが透けて見えたりするわけですね。論文のクオリティに目が肥えるまで研究を進めていただくと、社会に出る時に大変役に立つんじゃないかと思います。最後に説教っぽくなってしまいましが、お許しください。ありがとうございました。

ディスカッション風景

 ありがとうございました。5%官僚プラス、95%学者のハイブリッドの安藤さんの話は、非常に素晴らしかったです(笑)。次は和田さん、よろしくお願いします。

■ 温暖化対策を通じて社会問題に切り込める


和田 ご紹介いただきました、和田でございます。環境省で今、いわゆるごみ問題を担当しております。直前まで数年ほど、数次にわたって地球温暖化対策を担当しておりました関係で、今日のプレゼンの機会を与えていただきまして誠にありがとうございます。

 まずもって冒頭に申し上げたいことは、学生の皆さんのプレゼン「恐るべし!」という印象で、非常にインパクトがありました。前者お二人、大先輩のプレゼンの後っていうだけではなくて、学生の皆さんのプレゼンの後という意味でも、だいぶプレッシャーがかかったかな、という感じです。私はどちらかというと少しパワポの内容そのものよりも、私がこのパワポからどんなことを感じ取っているかを、ご紹介しながら学生の皆さんの疑問点に何がしかの見方のひとつをご提供できればと思っております。

 まず冒頭ですけれども、セッション1のテーマは、まさに地球温暖化でございましたが、私にとって、実は地球温暖化問題というのはどんなふうに見えるかというと「初めて脱皮した環境問題」だと思っております。脱皮したというと着ぐるみ脱いでいるイメージですが、私から見てどう脱皮をしているか。

 従前にも地球環境問題はありました。例えば、オゾン層破壊の問題、その前だと酸性雨の問題がありました。その時は、着ぐるみが脱げていなかったと思っています。それは何かと言うと、いわゆる酸性雨の対策というと、汚染物質をどう制御するか。オゾン層破壊の問題だったら、オゾン層を破壊する物質をどう出さないかっていうことで、どちらかというと対症療法的な対応でなんとなく済んでしまう。だからどちらかというと、公害対策の延長線に見えていた。

 ところが、温暖化対策は、どこをどういうふうに切っても焼いても煮ても、どうやってもライフスタイルそのもので、極端なことを言いますと、人の生き様そのものとか、文化そのものとか、国の在りようだとか、そこまで至ってしまう。こういう問題が初の環境問題として出てきた。温暖化問題ってこともあるのかなとも思っています。

 冒頭このスライドなんですけども、日本は26%っていうチャレンジングな、まぁチャレンジングかどうかは他の国との比較はありますが、少なくとも日本を含めていずれの国もやる、という声をあげた。なぜそうなのかというと、ひとつはもちろん、気候変動問題というのは極めて人類の存続を脅かすような問題、というのは確かにあると思います。

 若干へそ曲がり風の見方をしますと、実は温暖化対策を通じて、自分たちのやりたいことができるかもしれない。それは、例えば経済問題であったり、または社会問題であったり、社会問題をより掘り下げると都市問題だったり、貧困問題だったり、外交問題だったり、いろんなことにもしかすると温暖化対策がツールとなりうるかもしれないと思っています。もうちょっと即物的に言うと、初めて環境問題の中では、For the environmentということではなくて、By the environment、いわゆるこの対策を通じて、社会のさまざまな問題に切り込んでいけるということが副次的、まあ副次的どころか実は第一義的にあると思っています。そこに各国が気付き始めたとの見方を、僕は持っているところです。

 従って、環境省では初めて温暖化対策によって社会のさまざまな事象に切り込む。いや待てよ、それって温暖化対策だけじゃなくて、温暖化対策というのは「低炭素社会」という目指すべき社会としてのキーワードがありますけども、他にも「社会」とつく環境省のキャッチコピーが2つほどありまして、ひとつは「自然共生型社会」、それからもうひとつは「循環型社会」。まあ資源循環型社会ともいいますけども、この3つをそれぞれ、どっちかというと組織内の部局が別々に施策を展開してきたっていうことにも思えます。

 3つの対策を統合的に、3つの社会統合型でやっていく、すなわち、自然共生と資源循環と低炭素社会を同時に目指すことによって、今社会が本当に直面する様々な困難な課題、例えば、経済問題、地域のいわゆる人口減少の問題だったり、少子高齢化の問題だったり、世界的に見れば先ほどもありましたけど、食糧需給問題だったり、貧困問題だったりと、こういうことに、もしかしたら切り込んでいけるのではないかと思っています。

■ なぜオフィスより家庭の省エネ対策が遅れたのか


和田 そんな温暖化対策の問題をミクロに見てみると、学生の皆さまのお答えにはなってないかもしれないですけれど、ここからちょっとまた私、ユニークな見方で個人的に思っていることをご紹介したいと思います。温暖化対策で今、一番欠けているのはどこか。これから大変なのはどこか、というと、そこにありますように、業務その他部門というのと、家庭部門。これはなんと、4割近く排出削減をしなきゃいけないのです。他はいいのかなと、こういうことだと思っても、実は、下げなきゃいけないということは、これまでなかなか下がらなかった。どこと比べてかというと、産業部門と比べると、どうも減らない。これは何故か。今日ちょっと私なりの見方を申し上げたいと思います。

 ひとつ明らかにあるのは、この民生分野、すなわち家庭とか業務の分野について言えば、いわゆる、掛ける人数とか、掛ける家庭の数とか、掛ける台数とか、対策を導入・普及しなきゃいけない相手先の主体が、もう何千どころか何千万。世帯数でいったら4800万世帯に当たる。自動車の台数でいったら、年間400万台ずつ増えている話のところに、本当にどうやってエコドライブの仕組み、低公害車、低炭素自動車をどう導入するかという普及のところが、産業分野と違って大きく効いてくるのが難しいところかなと思っています。

 そんな中で、このセッション2のトピックスでもあります省エネと再エネですが、実は冒頭にいきますと、省エネによりエネルギー需給の抑制が、まずやってきます。先ほど2030年目標、2050年、果ては2100年ということもありましたが、まずは需要サイドのエネルギーを下げていき、省エネ対策をして、さらに再生可能エネルギーを入れていくというのがあったんですが、ちょっと私風に斜に構えて見てみますと、省エネ対策が何故進まなかったのか。逆に言うと、産業分野はなぜ進んだんだろう、ということなんです。

 省エネルギー対策は、どんな行政政策の上位概念のもとでやっていたかといえば私は「エネルギー安全保障」だと思っています。エネルギー安全保障とは、いわゆる供給できなくなってエネルギーが足りなくなるのでみんな我慢してください、本当に我慢してくれないと供給できないので省エネしてくださいというところから省エネの政策概念は始まっている。

 だから、例えば省エネ法っていう法律の名前の本当の名前は、「省エネ」と書いているのではなく「エネルギーの使用の合理化」と書いてある。私からすると何故そういうニュアンスになっているかといえば、いわゆる産業界に向けてのメッセ―ジとして、エネルギーを合理的に使ってください、そうでなければとてもエネルギーが供給できない。いわゆる昭和49年ぐらいのオイルショック、すなわち第一次オイルショックのようなことが来てしまうので、何とか産業界の皆さん頑張ってくださいということだった。

 確かにエネルギー安全保障の問題は重要ではありますが、今やエネルギー安全保障を超える世界的な課題として温暖化問題が認識されるようになったと思っています。その意味でも今日のシンポジウムのタイトルに、「環境とエネルギーの未来」とあり、僕は実はこの言葉の順番は非常に本質を表していると思っています。環境省だから環境を先に持ってきてっていうわけでなく、どっちの問題が先に致命的な問題になるかっていうところから、物事は考えるべきじゃないかなと思っています。

 それは何かと言ったら、世界のトピックスは今、エネルギー安全保障よりも、クライメット・チェンジのセキュリティーという概念に重心が移りつつある。数年前からイギリスはクライメット・セキュリティー(気候安全保障)という政策メッセージを掲げているところが重要じゃないかなと思います。だから僕は、環境とエネルギーという中の、エネルギー安全保障の体系化の中で出てくる狭あいな意味での省エネルギーを言っている限り、家庭や業務の分野で皆さま方に排出量を下げてと言っても、別にエネルギーは欲しい分だけ供給してもらえるんだからいいじゃないかと思われてしまう。最近は電気の料金が高いですが、別にそこまで気苦労してまで電気減らすつもりなんかありませんというところが、民生分野すなわち、家庭とオフィスの分野の問題ではないかなと思っています。

スピーチする和田篤也環境省廃棄物対策課長

■ 需要サイドから省エネを考える必要性


和田 そんな中で、いわゆる対策のところ、26%削減を担保するための対策の項でいろいろな対策が書いてあるんですが、ここで共通する点は何かというと、キーワードは「需要サイド」です。いわゆるエネルギーを使う側から見た時に、何ができるかを、日本の社会システムではあまり考えるチャンスがなかったと思っています。実は省エネルギーでも、需要サイドから考えておらず、どちらかというと、産業分野すなわち工場等での省エネ対策という視点が非常に強かった。家庭とかオフィスまで、大きく省エネをやってくださいというところまで議論が及ぶことは想定していなかった。これは、そもそものいわゆるエネルギー安全保障体系下の省エネだったからではないかな、と想像しています。

 さらに申し上げると、あとから再エネの話が出てきますが、これはいずれも需要サイドをご覧になっていただければ面白いかなと思います。このページもいずれもエネルギーの需要サイドのところから、みんなテクノロジーです。何が共通しているかというと、実は技術開発は意外と、ナショプロ(国主導型の技術開発プロジェクト)においては特にそうだと思いますが、供給サイドの技術が中心になってきた。すなわち、発電の効率をどう上げるか。工場における省エネがどうなっているか、というところが中心でした。使うサイドからの観点で、こういう分野は、あまり技術開発が進められてこなかった。少なくとも技術の導入・普及の観点から真面目に考えられてこなかったんじゃないかな、と思っています。

 次に、ここで再エネになるわけですが、省エネの延長線上で私のまた感想を申し上げます。実はこのグラフも、もう26%担保しているものですが、個人的には少し不満です。なぜかとうと、再エネというのは本当のことをいうと、本来的な「広い意味での省エネ」ではないと、実は思っています。再生可能エネルギーと再生可能エネルギーでないエネルギーがどう違うか。私の感想ですけども、いわゆる化石エネルギーと再生可能エネルギーですが、エネルギーの密度が違うってことじゃないか。

 いわゆる、瞬発力があるのが化石エネルギー。数万年かけて蓄えた炭素を一瞬にして燃やす瞬発力があるエネルギーが化石エネルギーで、他方で再生可能エネルギーは瞬発力はもっていなく、例えば薄く広がっているので集めなきゃいけませんとか、特殊な半導体を使ってエネルギー変換を行わないといけないとか、特殊なことをやらない限り使いにくいエネルギーというのが、本来的な性質ではないかと思っています。だから本当は、再生可能エネルギーは供給サイドとして大規模に供給するのではなくて、地産地消的な中小規模のエネルギーであるべきじゃないかなと思っています。

 ですので、そういう意味で本当は再生可能エネルギーというのはどういう位置付けかというと、「ローカルエネルギー」として使う方が本当は優れているのではないか。今まで何故できなかったのか、というのは感想ですけども、再生可能エネルギーをローカルで使ったらどういうことになるかといえば、省エネ推進と同様のことになってしまう。日本のエネルギー社会ではあまり関心を受けなかったのではないかと思います。

 だから例えば、日本は供給サイドの技術に力点が行われてきた証左として、一例ですが、昭和49年に先ほどもオイルショックがあったと言いましたけども、サンシャイン計画ができました。サンシャインですから太陽のエネルギーを使うことが容易に想像できると思いますが、その一丁目一番地のプロジェクトは何だったかというと、実は太陽光発電ではなくて、太陽熱発電だったということにあらわれています。

 太陽熱発電だったということは何を言いたいかというと、供給サイドに力点が置かれすぎていたんじゃないか。それが悪いわけではなく、太陽熱発電の技術を日本として磨いて今、中東で使われているのは非常にいいことだともちろん思っていますが、それ以外もずっと、どちらかというと供給サイドにこだわりすぎていたのではないかなと思います。

 従って、このグラフもちょっと見方を変えると、何が足りないかというと、例えば太陽光発電とかバイオマスとか水力で供給する、ということに力点を置くだけではなくて、例えばここに出てきていない水素。なぜ水素って出てきてないかをよく考えると、水素は再生可能エネルギーではなくて二次エネルギーだからです。二次エネルギーなので、これから水素をつくるプロセスに入るわけなので、二次エネルギーである水素の議論と再生可能エネルギーの議論をごっちゃにすると、頭がこんがらがっちゃうので僕はやめたほうがいいと思っています。むしろ水素のすごいところは、もちろん有害物が出ませんというのはありますが、一番決定的なのは何といっても、電気を貯められるという極めて革新的なテクノロジーを人類が持ったということです。

 電気をまともに貯められるとどういうことが起こるか。再生可能エネルギーのフラクチュエーションをもしかしたら吸収できるかもしれない。そうしたらローカルエネルギーで本来の力量を発揮する再生可能エネルギーを水素で貯めることとコンビネーションしたら、ローカルのエネルギーをローカルで使うグリッドシステムが、当然出てくるだろうと思います。そういうテクノロジーのひとつとして、水素もあるというのは、需要サイドから見たらもちろん先ほど、交渉官もおっしゃったのは、まさに日本の尖った技術という水素の技術を大いにプレイアップすべきです。需要サイドから見たら、そう見えると思っています。

■ 需要サイドのためのテクノロジーをいかに磨くか


和田 最後に一言ですが、需要サイドは実は「エースバッターがいない」ということだなと思います。エースバッターとは何かというと、これをやったら一気に大きく解決っていうような、ひとつの方策で、いわゆるエース対策とはなかなか難しく、いろんなことを組み合わせてやるしかない。砂を噛むようだけれどもそこをやるしかないのが、民生の需要サイドの分野かなと思っているところです。

 従って、民生・業務部分にいかに再エネ、省エネを入れていくかは、やはり需要サイドのテクノロジーをどう磨くかです。磨く時には尖った技術である必要性だけではなく、どうやったらコスト下げられるか、どうやったら社会システムは変わるかに切り込むのも重要で、第3の柱のところにも「社会システム」のキーワードが出てくる。

 第2の柱は「のための」が重要で、最近の日本の技術開発はどちらかといえば技術開発のための技術開発。もうちょっと言うと、革新的とついているのは革新的でありさえすれば何の役に立つかわからないがとりあえず技術開発やる、というのは、ちょっとずれていると思いまして、「のための」と書いてあるというところです。日本のテクノロジーを世界に売ることは、これはヨーロッパもアメリカも考えていることなので、日本もしっかりやりましょう、ということで終わりにします。ありがとうございました。

 温暖化対策を想って、社会に切り込んで変えようとする、熱のこもったお話をありがとうございました。先ほど学生の発表で出た9つの質問について、すでに答えが出た部分もたくさんありますが、私なりに解釈します。

 この9つの質問を見てみますと、再生エネルギーの可能性に希望を膨らませたと同時に、学生諸君には再生エネルギーへの移行が遅れているという見方があります。もうひとつは、いろいろ新しい制度が出てきていまして、例えば電力自由化制度は、本来は再生エネルギーの導入を加速するべきところを、現在はむしろ石炭火力の新設を促すように働いているのではないか、という疑問もあります。

 このままでは、この原因だけでも2030年のCO2削減の目標実現も危ぶまれると懸念されますが、先ほどの和田さんの話にあった来るべき水素社会に関しても、学生諸君が最も関心を持っているのは、そのエネルギー源の問題です。何をもってエネルギーをつくるのか。そもそも水素社会は、再生エネルギーの弱点を克服し、水素という素晴らしいエネルギーキャリアをベースにして脱化石燃料、そして脱原発のエネルギーシステムを構築できると期待されていますが、そのエネルギー源が化石エネルギーや原発となってくると、話がちょっと違ってきます。

 これらにつきまして、ぜひお三方からお話をしていただきたいと思います。もちろん立場上でいろいろと、みなさんハイブリッドで5%官僚という方もおられますが(笑)、どうしてもお答えできないのであればお気になさらず。中井さんも、できる限りでいきましょう。

司会をする周牧之東京経済大学教授

■ 経産省と環境省でコスト問題に七転八倒


中井 そうですね、再生エネルギーがもたもたしている部分の指摘はもちろんありますが、どういう時間軸で見るかの問題で、必ず進んでいくとは思っています。その時にもちろんコストの問題もあり、産業界としてやはり大量の電気にコストを安く、という文脈の話が大きいので、そこは2030年というターゲットを考え、エネルギーミックスを考えないとならない。ギリギリ電気代が上がらないように、産業としてエネルギーコストをどの程度上げない世界でできるのかを、昨年末にかけて経産省と環境省で七転八倒し(笑)、再生エネルギーは、今は本当に入っていない状況が、フィットでちょうど太陽光がばっと増えた部分はありますが、これをさらに増やして22%にする。

 原発の問題はいろいろ議論があり難しいところですが、とにかく今は安全安心を最優先し、もともと原発事故前のところまでかなり減らして2割ぐらいにすることに今は落ち着いているわけです。それで、再生エネルギーを増やす、ということなり、僕も最初言った自然の恵みを地域で、とか、和田さんの文脈で地産地消がありましたが、そこのところの要は、地域で、ミクロで、身の回りのものを使おうということです。それこそ、昔の農村で風車が回っていたようなことを含めて、もうちょっと頑張れると思っています。

 2030年に22%の目標はとりあえずありますが、これは個人的にはやはりもっと高められるような文脈で、それを今ちょうど作っているところです。みんなで知恵を出し合い、技術のブレイクスルーで大きく変わる部分もありますが、今ある分野で、冒頭の森市長の小水力の話などを含め、身の回りで拾っていく。それをやっていくのが地域創生にもなるんです。地域の建設会社がエネルギー的なものに転換するとか、農業的なものと合わせて地域で回すとか、そういう話が僕も聞いているところでどんどん芽が出てきていて、再生エネルギーはもっと増えていくというように思います。

 原発については安全安心優先で、従来のようなかたちからは減らすことが一応、合意になっていると思いますが、それが全部かどうかはいろいろ個人的な意見があります。政府として従来からは減らすけれども、安心安全で稼働できるものは……という公式見解に、私が言うとなってしまうんですが、はい。

ディスカッション風景

■ 異なる条件の日本においてベストな制度設計を


安藤 周先生のご指摘は的確で、9つの質問に総合してお答えするのは容易ではありませんが、頑張ります。

 ひとつは、「何で再生可能エネルギーは進まないのか」ということです。私のプレゼンで、新技術が乗り越えるべき壁について、方程式の分母・分子のお話しをしましたが、その条件も大事なのです。日本は原発を廃止できるのかという論点で、ドイツは廃止を決めたので立派かというと、ヨーロッパの国々と電力系統がつながっていて、自国では止めるけれど、実はフランスの原発の電気を買っているわけです。それから、モンゴルの9ギガワットの巨大石炭火力プロジェクトは、モンゴルのためではなくて、中国に電気で引いてくるのです。中国のCO2排出量は減りますし、国内の公害も減りますが、それがどこまでモンゴルにいってしまうのかが心配という話です。電力系統がつながっているので、こうしたことが起こりますが、日本は他国と電力系統はつながっていませんので条件が異なります。

 それから、バイオマスについて「どうやったら世界でリードできるのか」という質問がありました。私は、世界をリードしようなんて思ったら間違いだと思っています。もちろん、画期的なバイオマス技術、例えばエタノールをつくる酵素を発見したとか、浸透膜でエタノール抽出できる技術などでは世界をリードすればよいです。しかし、バイオマスは基本的に運べません。間伐材を運ぶのにもコストがかかるので、地産地消で考えるべきなのです。「地産地消」で考える時に、世界をリードするモデルはいくつもあります。

 例えば、スウェーデンのマルメ市は、100%エネルギー自給自足です。太陽光、風力だけでなく、ごみも処理して使っています。岩手県葛巻町もそうです。100%超のエネルギー自給率です。中村前町長が、どーんと風力発電をやり、さらには、バイオマスを導入しました。牛とか、いろんな家畜から出てくるものをうまく燃料にして、発電をする。これは自然エネルギーです。そういう、地産地消で取り組む条件を、よく考えていかなければなりません。

 それからもうひとつ考えなければいけないのは、私が制度の設計と言ったところです。経済学の教科書に出てくるわけですけれども、政府も失敗します。例えば、総括原価主義のもとでは原子力が有利になります。周先生が仰ったように、電力自由化になったら、安い電源として石炭火力が有利になります。かつてRPSという自然エネルギー促進法ができました。私は改定交渉で苦労しました。当時何が起こったかというと、自然エネルギーの中でバイオマスがいちばん安かったので、電力会社が、カナダの間伐材を日本に持ってきて石炭火力に混ぜてバイオマスを使ったことにしようとしたわけです。カナダから持ってくるのに、ものすごいエネルギーがかかりますが、輸入に必要なCO2のことは誰も考えずに、日本の庭先だけきれいになったりするわけです。

 ここまでだったら、まだいいんです。でもこの先が怖いのです。目標値だけ無理して高くしすぎると、アジアの熱帯雨林を壊して、伐採して、そのバイオマスを日本に持ってきて、石炭火力に混ぜるようなことが起きます。日本のワガママみたいになってしまう訳です。これは政策の失敗です。そういうことを乗り越えるために、Feed-in Tariff、固定価格買取制の導入について、私はその時点で電力会社の人たちに囁きました。「マイルドFeed-in Tariffがいいよ。ドイツみたいな強烈な高価格ではなくて、1kWh30円ぐらいがちょうどいいんだ」という話を根回しして、心ある人たちは理解し始めてくれました。しかし、その後、いろんな政治プロセスがあって、42円で買い取りを始めたら、ものすごく伸びました。制度が入ればちゃんと伸びるわけです。

 でも、これで失敗したのはドイツです。ドイツは非常に高い値段80円くらいで買い取ったらみんな太陽光発電をつくるわけです。その結果、何が起きたかというと、国民負担が国家予算に匹敵する規模になることが予想されたので途端に制度を変えました。スペインはドイツに見習って、「ドイツにできるんだったら太陽の国のスペインだったらもっとできるぞ」と、バーンとその制度で導入量を伸ばしました。しかし、財政負担が大変になるのに気付いて、途端に翌年止めました。私はマドリードに3年住んでいましたので、スペイン人気質がわかるのですが、こういう制度の失敗があります。試行錯誤をしながらだんだん政府も賢くなるんですけれども、その大元はやはり国民です。国民世論がどう考えていくのか、ここが大事です。国民世論がなかなか難しいのは、原子力は止めたらいいじゃないという単純な議論に対して、安全保障が二重にも三重にも掛かっているわけで、そういうことをよくよく考えて、日本の国民にとって、世界にとって何がいいのかを考えなければなりません。

 そのずーっと手前のところに既得権もあります。新エネフリークとしては、新エネ予算を増やしてほしいと思います。しかし、過去の予算を持っている人たちの既得権がありますから、そうしたものを剥がすとすると、そこにまた大きな政治的圧力がかかるわけです。そうした政治プロセスも含めて、国民世論がどう賢く振る舞っていくのかが大事だったりします。いただいた9つの大事な質問は、日々我々も悩んでいて、しかも闘っているところです。

■ 地域の「オーダーメイド型」プロジェクトという新発想


和田 ご両方の後で、まさにあんまり申し上げることがなくなってしまったんですが、ここは重複しないかなというところを今探している感じですが。やはり、実は再生可能エネルギーというのは、今や地方創生の話として非常に親和性があると思っています。これは個人的にだけかもしれませんが、そうすると、何が壁かというと、実はコストの問題もありますが、ひとつ重要な点を忘れていると思うのは、既製服型ではだめで、「オーダーメイド型」でなければだめだなと思っています。

 これは地域の特性や、賦存エネルギーの大きさやさまざまあり、例えばバイオマスひとつとっても、どこからどのような手段で集めてくるか、です。廃棄物エネルギーならどんな性状のごみ集めてくるのか。このようなことひとつとるだけでも、どうしたら採算性の合うギリギリのところになるかを考えるのは、ものすごく難しいことです。収集、運搬だけで、ほとんどバイオマスは終わってしまうという問題から始まって、風力も場所探しが相当難しい面があります。おまけに発電量の変動が大きいので、なかなか系統連系が難しいといった問題まであります。変電所が近くにありませんといった問題まであがってきます。せっかく地域にあるエネルギーですが、ものすごくオーダーメイド型でやらなければいけない。

 逆に言うと、ちょっと瞬間の思いつきなんですが「地域のエネルギープロデューサー」のような人材を育てるイメージがないと、再生可能エネルギーはいつまで経っても供給サイドのエネルギーとして見られ、なんとなく大きくつくって大きな出力で系統連携させる感じの発想に陥ってしまう。再生可能エネルギーは僕が思うのは、やはり密度の薄いエネルギーなので、いかにローカルで薄い密度のものを手間暇をかけて集めてコストの釣り合うところを、オーダーメイド型プロジェクトでつくるかだと思います。

 例えば、いわゆる地域がエネルギー会社自体になる。そうするとエネルギーオーナーシップができる。そうすると例えば、自分たちでつくったエネルギーを大切に使いましょうというコンセプトが出てくる。その次に出てくるのは、自分たちのエネルギー会社をつくったからには、メンテナンスも自分たちでやらなきゃいけない。単なる、例えばメガソーラーがきて、地代だけ貰っているだけではなく、メンテナスもするとなれば、地元の工務店を雇う。そういうことでお金が回り出ことが出てくる。風力発電も、2万点にも及ぶようなパーツをどう調達してメンテナンスするかを考えれば、地代収入を得るだけでなくメンテナンス会社をつくることにつながる。

 そういうことをやっていくうちに、地域のエネルギーオーナーシップから転じて、地域創生のキープロジェクトになると思っています。やはりオーダーメイド型のプロジェクトを形成できるプロデューサーの育成のような取り組みが重要かなと思っています。

ディスカッション風景

― 会場からの質問と回答 ―

 どうもありがとうございました。せっかくですからご質問のある方は挙手してください。

中井 お願いがございまして、今日パンフレットに「賛同のお願い」という紙が入っております。ぜひ、地域で再生エネルギーを入れることも含めて、草の根ボトムアップで、みんなで自然の恵みに着目する社会改革論をやっておりますのでご賛同をいただきたいです。ホームページ等で世の中が変わっていることを武器に闘っていきたいと思っております。

 ぜひお名前等をお書きいただき、今日終わったら東京経済大学の方で回収していただけるということなので、受付でお出しいただければと思います。この場でお書きいただけなければまた、FAX等で送っていただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

 質問はどうですか。では、菊池くん。

■ なぜ日本は原発を輸出するのか


菊池 周ゼミ3年の菊池です。お話ありがとうございました。中井さんにひとつお聞きしたいのですが、今、原発の問題がありまして、原発を減らしていくというお話で、反対派、賛成派があり、完全に減らすのは難しい話だとは思いますが、それではなぜ現在、原発を海外への輸出であったり広げていこうとしているのかをお聞きしたいです。

 再生可能エネルギーが地域的なもので、なかなか海外に広めていくのは難しいと思ったのですが、必ずしも原発を輸出していく必要はないのかなと思ったので、お聞きしたいです。お願いします。

中井 (安藤氏に合図を送る)

安藤 あの……、中井さんへのご質問でしたよね(笑)。原発の輸出問題は担当してないので、客員教授としてお話をします。「何で輸出するんですか」っていうのは、儲けたいからです。儲けたいから輸出する。ただし、話は単純ではなくて、安全保障の枠組みが必要です。原子力輸出の場合には、必ず二国間の原子力協定が必要になります。例えば、インドに輸出する場合には、インドと日本との間で原子力平和利用協定が必要になります。何故かというと、日本が供給した原発を使って核兵器をつくらないことを相手国政府に約束させなければならないわけです。そういう約束をさせるのは、平和利用を進めていく仲間を増やすことになっていくわけです。

 だから、最初に冗談めかして、儲けるためですよ、なんて話をしたわけですけれども、何故、日本政府が原子力輸出をお手伝するのかといえば、平和利用というコンセプトを世界に広めていこうということがあります。もちろん、平和利用でない利用が未だにあるわけです。核の均衡による安全保障という見方もあるわけですが、一方で、そういうことがいつまで経っても核の脅威というところから抜け出せない。逆に、原子力をうまく使ってエネルギーを供給するということが、今の現実的オプションです。それがいいかどうか、あるいは今後どうするか、という話は除いて、現実に、今の日本や世界の産業社会を支えるために、必要なエネルギーを大量に供給するために何が必要か、ということでは欠かせないオプションなんです。そういうことに対して、ビジネスの話、安全保障の政府枠組みの話、いろんなことを考えて、原発輸出ということは現実に起きているわけです。

 しかし、いろんな意見があっていいわけです。日本は民主主義国家ですから。学生のみなさんには、自分が考えた意見を広める自由があります。もう必要ないじゃないかと、むしろ新エネルギーにリソースを投入すべきじゃないか、あるいは水素の技術を輸出すべきじゃないかとか、そういう意見がもっと大きくなると、そういう方向に世の中は動いていくと思います。お答えになってますでしょうか。

菊池 ありがとうございました。

 時間も押してきましたので、最後にお三方から学生諸君にメッセージをいただきたくお願いします。では、中井さんからお願いします。

― 学生へのメッセージ ―

■ 大転換の時代で恐れずにチャレンジを


中井 今日のシンポジウムのテーマだと思うんですが、やはりCOP21で2度目標が合意されたというのは、地球全体の人類として、21世紀をかけて、2100年まであと85年だとしても、大きな変化のプロセスです。2度目標をやるということは、社会や経済や人口がまだ増えていく中で乗り越えていく、とてつもない変化プロセスに今どういうわけか命を授かってしまった我々、という感覚があります。

 皆さんは、これからまさしく社会に出ていくので、日本人的な調和とか、和の心とか、非常に大事な部分のチームワークをベースにしながらも、やはり変化しているという、大転換の文脈にいるというところで恐れずに、いろいろチャレンジをしていただきたいです。止まっているとだめだということが、ある種この地球的な規模でも合意された、ということだと思います。2度にするのは、放っておくと4度、5度と上がってしまうわけです。

 それを変えるのは、経済、社会の大きな転換ということです。皆さんはテーマとして人類史的な大転換の局面に命を授かってしまった。これを、せっかく生まれたんだから面白く捉え、チャレンジすることで生きがいがあった、墓場に行く時に「なんかやりきった!」みたいな人生の方が面白いと、個人的には思っています(笑)。

 そういうことで実は、「環境生命文明社会」の構想で今、この持続可能な社会を語り、人類史の文明転換の局面にあって、命にターゲットを置いた環境文明社会ということを言っております。そういう大きな転換の中で、チャレンジを果敢にしていただきたい、というメッセージにしたいと思います。

 ■ 「なぜ」を掘り下げて考える習慣を身につける


安藤 中井さんは大学時代からの友人で、本当に熱くて爽やかで優秀で、尊敬しております。和田さんは、水素の生き字引きだそうで、1990年代から水素に取り組んでおられたと伺っています。

 学生の皆さんの今回の問題提起は本当に素晴らしいと思います。我々からもいろんな話を差し上げました。そうすると、ああそうだったのかと気づく部分と、また次に、何故だろうと思う部分があると思うんです。「なぜ」を5回問いかけるのが、ある会社の流儀と聞きますが、ぜひ「なぜ」を5回掘り下げ、本当の原因はどこにあるのかを考える習慣を身に着けていただいたらいいなぁというのが、メッセージです。オヤジ臭く、説教臭くなるといけませんが、一緒に考えていっていただきたいなと思います。

 技術開発では、実は3つ大きな課題があります。再生エネルギーを本当に活かしていくためには、超伝導送電をつくるか、スーパー蓄電池みたいなものをつくるか、水素を本物にするか。この3つのオプションでしょう。東京経済大の皆さんは文系で、経済、経営、あるいは法律の方々が多いと思いますが、文系の知識と理系の知識が合わさってこないと、社会システムも含めて社会変革ができないと思います。ぜひその「なぜ」を問いかける中で、もし自然エネルギーにご関心があれば、一緒に考えていただきたいと思います。ありがとうございました。

■ 既成概念に捉われない自由な発想で


和田 いつも3番目になると非常につらいんですけど……(笑)、また残っているところを探さなきゃいけないです、辛気臭くなってしまうのもあまり好きではないので、メッセージというところで申し上げると、やはり既成の概念というか、これが当たり前なんだということに、今はあまり引っ張られないように、若い皆さんなので自由に発想いただいたら僕はいいんではないかなと思っています。

 そういう意味では、今日のテーマにあった再生可能エネルギーひとつとっても、例えば再生可能エネルギーは、太陽光発電と風力では全然違っていて、太陽光発電は直流だけど、風力は交流ですというのがあり、では何故わざわざ直流で発電されたものを交流に変換するのか、家庭の家電に組み込まれているモーターはほとんど直流で駆動するのに、何故もう一回、交流に戻しているんだろうとかですね。

 そういう既成概念を取っ払って疑問を持つところから初めてみたら、どんな面白い発想が出てくるだろう、ということからチャレンジをされてみることをお勧めします。単に太陽光発電というが、もっと面白い切り口があるかもしれない。もしかすると家の家電を全部直流にしたら系統連系制約という概念なくなるかも、とかですね。

 そういうような一見革新的すぎるような発想に至るまで、いろいろと既成概念に捉われない観点のチャレンジ精神があったらいいと思った次第です。とはいえ、皆さま方のすでにいただいたチャレンジ精神に、今日は驚きと勇気をいただいたところです(笑)。本当にありがとうございました。

 ■ 「方向性・技術・制度・プロデューサー」の4大キーワード


 どうもありがとうございました。僕は司会よりは、オーディエンスとして非常に楽しませていただきました。とても素晴らしい話の連続でした。

 今日のキーワードを整理しますと、4つあるかなと思います。ひとつは「方向性」です。COP21の成果を見てみますと、ひとつはCO2削減の方向性を、地球規模で共有できるようになってきた。これは一大進歩です。そして、2番目は「技術」。3番目は「制度」、システムですね。技術の話も今日はたくさん出てきまして、希望が湧くような内容が出てきました。さらに技術よりは制度が大事です。今日のお三方の話の中で、制度の重要性、さらに新しい制度の原型も示されたところはたくさんあります。特に中井さんが今、取り組んでいる「森里川海」という国民的な運動。これはぜひ皆さんも協力してくださるように、まずアンケートをお願いします。

 そして、最後のキーワードは「プロデューサー」ですね。和田さんがおっしゃっていた言葉、非常に大事だと思います。方向性でも、技術でも制度づくりにしても、やはりプロデューサーが必要。社会を変貌させていくのは、プロデューサーが一番大事になるでしょう。

 今日は本当に、3人の大プロデューサーに登壇していただきまして、司会者としてはとても幸せでした。ご清聴ありがとうございました。

会場写真

― 基調講演 ―

 シンポジウムでは、丹羽宇一郎(日中友好協会会長/早稲田大学特命教授/前伊藤忠商事株式会社取締役会長/前中華人民共和国駐箚特命全権大使)より「地球の将来と学生諸君への期待」と題した基調講演が行われた。

基調講演をする丹羽宇一郎日中友好協会会長

 森雅志(富山市長)より、「公共交通と軸としたコンパクトなまちづくり」と題した基調講演が行われた。

基調講演をする森雅志富山市長

― ディスカッション:地球温暖化とグローバルな取り組み ―

 シンポジウムでは、南川秀樹(東京経済大学客員教授/一般財団法人日本環境衛生センター理事長/元環境事務次官/前環境省顧問)の司会で、竹本和彦(国連大学サステイナビリティ高等研究所長/元環境省地球環境審議官/工学博士)、明暁東(中華人民共和国駐日本国大使館公使参事官(経済担当))をパネリストにディスカッションが行われた。


― レセプション ―

レセプション会場写真

 シンポジウム終了後、同会場のレセプションホールにて登壇者、学生、来賓が集まってレセプションが開かれた。

 レセプションの司会を務めた南川秀樹東京経済大学客員教授は「充実した内容のシンポジウムだった」と評価し、企画、運営、登壇をした学生たちに「ぜひとも自信を持って行動してもらいたい。このシンポジウムをそういう機会にしてほしい」とエールを送った。

レセプションで司会をする南川秀樹東京経済大学客員教授

■ 鄒勇中国国家発展和改革委員会地域経済司副司長


 北京から駆けつけた中国国家発展和改革委員会の鄒勇地域経済司副司長は「シンポジウムの会議を拝聴し、大変啓発された」と挨拶。人材育成、共同研究、共同調査、技術交流、モデル事業などにわたる従来の中日両国の環境分野での協力が、中国の省エネと環境保全産業の発展にとって重要な役割を果たしてきたと力説。その上で現在策定中の第13次五カ年計画(2016年から2020年までの発展計画)の資源と環境の重視について言及し、①人と自然の調和のとれた共生②主体機能区の建設加速化③低炭素的な循環型発展④資源の節約と高効率利用を実施⑤環境改善強化⑥生態系を守るネットワーク構築、など方針を説明。「COP21パリ協定採択は低炭素経済発展の大きなチャンス。地球の温暖化への対応は私たち共通の責任だ。中国政府は引き続き、資源節約型、環境保全型の基本国策を検知し、経済を成長させながら豊かな生活を実現し、良好な生態文明を構築する。資源節約型、環境にやさしい社会の構築を加速し、地球全体の環境改善、生態文明のセキュリティのため貢献していく」と表明した。

挨拶する鄒勇中国国家発展和改革委員会地域経済司副司長

■ 武内和彦国連大学副学長


 武内和彦国連大学副学長が乾杯の挨拶をし、自然災害への取り組みと気候変動との関連性について仙台で話し合った2015年3月の「国連防災世界会議」、地球環境の保全と開発の在り方を2030年に向けて取り組むアジェンダが採択された同9月のニューヨーク国連総会、そして12月にアメリカ、中国を含んで気候変動枠組条約に合意できたパリCOP21を振り返り、「2015年はのちに“あの時に世界が変わった”と言われる年になる、また、なるように皆で努力をしていかなければならない」と力説、「Sense of urgency危機感とSense of hope希望を持って取り組もう」と呼びかけた。

乾杯の挨拶をする武内和彦国連大学副学長

■ 塩谷隆英元経済企画事務次官・元総合研究開発機構理事長


 1970年は公害問題から環境問題へ変化した年で、各省が公害規制を一段強めた法律を作り、年末に「公害国会」を召集して17法案を成立させた。制度変更は環境優先の意識を世の中に植え付けた。環境改善に対する事業者の責任を明確にし、公共下水道、廃棄物処理施設を積極的に造り、公共事業で公害防止施設を建設した。その延長線上で71年7月に環境庁が発足。当時、大都市に多様な自然流をつくり、大都市の河川にコイやフナが泳ぐようにする目標を掲げた。いま隅田川にシラウオが泳ぎ、多摩川にアユが産卵しに来たと聞くと涙が出るほど嬉しい。人類の未来のため国際協力を通じて、地球環境改善に努力をして頂きたい。

挨拶する塩谷隆英元経済企画事務次官

■ 土屋了介神奈川県立病院機構理事長


 周先生の友人代表として来た。シンポジウムを聞いて、医者になってがんの勉強を始めた時の「自分の好きなことをやれ、患者さんのために一番いいと信じたらそれを絶対に離すな」との師匠の言葉を思い出した。医者の修行中は薄給で、夜なべでアルバイトに行かないと生活できない。「金はあとからついてくる」との師匠の言葉は信じられなかったが確かに、「この人はこの研究をやっている」となると皆が頼ってくる。5年、6年すると「これはあいつに聞こう」となる。学生の皆さんも好きなこと、そして長い目で見た先のことにぜひ食らいついて頂きたい。

挨拶する土屋了介神奈川県立病院機構理事長

■ 柳沢香枝JICA理事


 学生の問題提起がデータに良く裏付けられた上、ストレートに疑問をぶつけたことに感心した。これに応えた登壇者も官僚の立場を超えて個人の想いを伝えていらした。日本の将来を考えたとき、地方再生や環境やエネルギーをバラバラに考えずに、ひとつの問題にし、国民一人ひとりが自分の問題として考えていく必要がある。アフリカ、アジアの様々な国がちょうど今、日本の60年代、70年代の成長期にあり、まさに環境やエネルギーの問題に直面している。富山市など日本の自治体での良い経験を外につなげたい。学生の皆さんは明るい未来をつくれるよう、ぜひ頑張っていきたい。

挨拶する柳沢香枝JICA理事

■ 清成忠男事業構想大学院大学学長、元法政大学総長・理事長


 今回のシンポジウムのテーマは非常にタイムリーだった。1974年に日本から上海交通大学への環境技術移転というテーマでシンポジウムをやった。当時は一般市民の環境への意識が希薄だったが、通産省とNEDOに参加していただき日本の企業にも何社か一緒に行って議論をした記憶がある。きょう立派なシンポジウムが無事成功したことは最も嬉しく、また敬意を表したい。

挨拶する清成忠男事業構想大学院大学学長

■ 横山禎徳東京大学特任教授、元マッキンゼー東京支社長


 周先生とは長い付き合い。もともとは、2005年「北京―東京フォーラム」を一緒に立ち上げた。その時に「日中共同の敵」、共同のテーマ、目標、闘う相手を決めたらよい、それは環境、エネルギー問題だと申し上げた。やはり今の状況を見ると、そうだと改めて感じる。環境問題でSense of urgencyをどう皆が持つかが最大のテーマだろう。

挨拶する横山禎徳東京大学特任教授

■ 安藤晴彦経済産業省戦略輸出交渉官、電気通信大学客員教授


 「つなげよう、支えよう」という中井徳太郎審議官から紹介されたメッセージがあった。「つながる」ことで周先生に大変感謝しているのは、日本と中国の架け橋になっていただいている上に、日本人の間のつながりもいただいている。日本人と中国、そしてアジアと、全体がつながってくるような出会いが今日もあった。学生さんには、ぜひ、これを刺激にし、ヒントにして勉強も就職も頑張っていただき、社会に出て活躍していただきたい。

挨拶する安藤晴彦経済産業省戦略輸出交渉官

■ 中井徳太郎環境省大臣官房審議官


 本日は本当に素晴らしいメンバーで、大変贅沢なプログラムと登壇者だった。とにかく周先生の力で、中国国家発展和改革委員会の鄒勇副司長もシンポジウムに駆けつけた。

 周先生とはかれこれ15年近くになる付き合いの中で、中国国家発展和改革委員会と財務省そして環境省との縁を結んだ。毛沢東の出身地である湖南省出身の周先生は粘り強く聡明で、妥協せずに徹底的にやる仕事ぶりが、これまでの素晴らしい交流を支えた。 

 人もつながる、自然ともつながる。そういうことで21世紀を塗り替えて動いていきたい。日中両方で切磋琢磨しながらアジアを支えていくことが大切だ。これから本当に変化していく中で、このことを若い世代に託したい。

挨拶する中井徳太郎環境省大臣官房審議官

■ 周牧之東京経済大学教授


 きょうのレセプションでは中井さんは人間と自然のつながりを語ってくださった。安藤さんは人と人とのつながりを語ってくださった。私がお話したいのは、中国と日本のつながりだ。これはアジアにとっても世界にとっても非常に大事だ。今回鄒勇副司長がわざわざシンポジウムのために来日されたのは、日本と中国の関係への大きな期待の表れだ。

 また、北海道から後藤健市さんも駆けつけてくださった。5年前に東京経済大学のシンポジウムに参加した中国の要人のために、北海道での視察をアレンジしてくださった方だ。今日再び日本と中国、そして北海道と東京がつながったことに幸せを感じている。

 日中関係は政治的にはまだ難しい局面にあるかもしれないが、最近、中国人が大勢日本に観光に来て「爆買い」の現象が起きている。日中関係が改善され、爆買いを超える変動が起こるよう期待したい。

挨拶する周牧之東京経済大学教授

シンポジウムの企画・運営を行った南川ゼミ生
シンポジウムの企画・運営を行った周ゼミ生

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