【フォーラム】前多俊宏:ルナルナとチーム子育てで少子化と闘う

ディスカッションを行う前多俊宏・エムティーアイ社長

 東京経済大学は2022年11月12日、学術フォーラム「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」を開催した。和田篤也環境事務次官、中井徳太郎前環境事務次官、南川秀樹元環境事務次官、新井良亮ルミネ元会長をはじめ産学官のオピニオンリーダー16人が登壇し、周牧之ゼミによるアンケート調査をネタに、新しい地域共創の可能性を議論した。前多俊宏・エムティーアイ社長がセッション2「地域経済の新たなエンジン」のパネリストを務めた。

 

▼ 画像をクリックすると
第2セッションの動画が
ご覧になれます

学術フォーラム「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」
セッション2:地域経済の新たなエンジン

会場:東京経済大学大倉喜八郎進一層館
日時:2022年11月12日(土)


■ 年間30万人の妊娠に寄与するアプリ


周牧之(司会)学術フォーラム開催に当たって実施した周ゼミによる東経大の学生の意識調査に関して面白いのは、半分以上は都市の出身の子どもたちですけれども、72%の学生が地方の過疎化が問題だと回答しています。また、実際暮らしたい場所の理由につきましては、都市派にせよ地方派にせよ、子育てのしやすさ・子育て支援が非常に重要なイシューだと意識しています。

 エムティーアイという会社は、女性健康管理のアプリを開発して女性の健康をサポートされています。さらに、少子化問題の解決や子育て支援に関する事業にも取り組んでおられます。地域をベースにした子育て支援の展開について、前多さんから紹介してください。

第2セッション・ディスカッション風景

前多俊宏:アンケートを拝見しても、子育てというのが非常に重要なテーマになっている。

 実際、「供給サイドからの地域共創」というなかでも、子どもというのが非常に重要だと考えられるし、子どもがいないと未来がないわけであって、たくさんの子どもが元気であるということは、地域活性化の基本的な条件だと思っている。弊社は携帯電話とかスマートフォンのアプリなどを作っている会社だが、その中で女性の健康管理をサポートする「ルナルナ」というアプリがある。

 これは生理日管理を基本の機能として作られたもので、もう既に20年以上、ガラケーの時代からこのサービスをスタートして展開しており、日本だけで1,800万ダウンロード(2022年6月時点)もされている。最近は妊娠を目的に使う人が増えてきており、このアプリの利用者の中で約30万人の妊娠に寄与するという状況になっている。これは日本の出生数の3分の1以上に関わっていると考えている。

 ルナルナに蓄積された約300万人分のデータを分析し、一人ひとりが違う周期を持っているので、それを予測するアルゴリズムを開発している。いろいろな大学や研究機関などとも共同研究して、特許や論文などもたくさん出しているが、従来知られている方法と比べると、1.4倍近い妊娠の成功率を実現できている。これは少子化対策に対して非常に貢献できているのではないか。

■ 子育ての不安を解消する母子手帳のアプリ


前多俊宏:しかし、妊活の支援だけでは不十分で、子どもが生まれると、続いては安心して子どもを産んで育てられる環境づくり、子育て支援というのが必要になってくる。

 ただ、この子育てに対する不安や負担は非常に重い。例えば手続きだけをとっても100を超える。市町村によるが、例えばシングルマザーの場合は市役所、区役所に直接行かないとダメなどということもある。2週間以内にシングルマザーが子どもを連れて出世届を出しに行くなどは難しさがある。こんな馬鹿げた制度がたくさんある。こうした手続きをより簡単にしていくということが、我々でもできるのではないか。

 もうひとつは社会の変化、核家族化の進行の結果、子育ての知識や知恵といったものがなくなってしまっている。これら不足している部分の不安などを解消することも、デジタル技術を使ってできるのではないか。

 母子手帳のアプリの「母子モ」というのをスタートしている。8年経っており、約1,700の自治体のうち500、3分の1弱の自治体で使っていただいている。こちらの方も出生数でいうと28万人をカバーしており、こちら側からいっても3人にひとりはお手伝いさせていただいている。

 これは母子手帳なので、妊娠した時から、そして出産して子どもが6歳になるまでこれを使っていただいている。我々の考え方としては「チーム子育て」と呼んでおり、クラウドの技術を使って住民を中心として自治体、行政機関と、それから医療機関、病院やそれから薬局こういったものを繋げることで面倒くさいことをカバーしたり、不安を取り除くようなさまざまなサービスを提供させていただいたりしている。

 その中で、単なる母子手帳の記録だけではなく、2021年から千葉県の市原市で始めた小児予防接種のサービスでは、まず市からQRコードが予防接種のときに行く。このQRコードを読み込むと、まず問診を入力して、そして予約していくだけ。

 6歳になるまで約30本の予防接種を打つので、非常に大変だし、期間を正しく空けていかなければいけないのだが、これがまた難しい。それから順番も難しい。お母さんも大変だし、病院側も間違って時々事故が起きる。こういったものを裏側で全部コントロールしている。QRを読めば、問診票の記入も1回で終わる。1回書くと次は若干の修正で済む。行くとアプリに全部登録が終わっているから、手続きも非常に簡単に病院で終わる。医者がワクチンのロット番号を読み込む。

 打ち終わると、すぐに電子母子手帳の中身がばらっと書き換わるので、非常にお互いに便利になっている。

ディスカッションを行う登壇者。左から、中井徳太郎・前環境事務次官、新井良亮・ルミネ顧問、前多俊宏・エムティーアイ社長、高井文寛・スノーピーク代表副社長

■ 手続きを簡略化して母親へのケアに注力できる仕組みづくり


前多俊宏:もうひとつ北九州市で2022年4月からスタートしたものだが、妊娠すると妊娠届を市役所に出しに行かなければいけないが、その時もいろいろな窓口をたらい回しになるが、それが1回行ったら終わる。スマホから申請や来庁時間の予約もできるので、これはお母さんにとっても職員にとっても、非常に手続きが簡素化する。先ほどの予防接種のアプリの場合も、この妊娠届の場合は、80%以上の人がデジタル化の方にシフトした。

  それ以外に、乳幼児健診のスマホで全部記録を取っていくというのが、2023年度4月からスタートしたりするというようなことで、お母さんが手続きが面倒くさい、不安があるといったものを解消し、職員もその住民のケアに集中できるようになっていく仕組みを提供している。

周牧之:要するに、この「チーム子育て」によって、地域にばらばらに存在していた子育てのステークホルダーが有機的に連携できるようになる。それによって子育てのクオリティや利便性はだいぶ高められる。

■ 人口を増やすということに対する戦い方の徹底


周牧之:今回のアンケートにあったように、東京経済大学が立地する学生の町、国分寺では学生がたくさんいるにも関わらず、地元と若い人たちとの関係性はそれほど強くない。豊かな地域資源があるにもかかわらず、若い人たちはあまり接していない、使っていない。駅に大型の集合施設があっても、そんなに使っていないようで、その結果、地元の国分寺に対する愛着もそれほど強くはない。

 実はこうした現象はおそらく国分寺だけではなく、全国的に起こっていることだ。やはり若い人たちと地元との関係性をいかに強めていくかが、ひとつの地域活性化の根幹に関わる話だと思う。

前多俊宏:地域の魅力という観点では、生活するにあたって細かく面倒な手続きが積み上がってくると、ものすごく不便になり、そこに住むのが面倒になってしまう。そういう摩擦を本当に減らしていかなければならないということと、過疎と闘うという感覚は日本にはない。

 例えば先進国で本当に人口が増えていて出生率が高いのはフランスだが、そのフランスが今年の8月2日に作った法律では体外受精がシングルマザーでもできる。レズビアンでもできる。日本はどうかというと、婚姻を通じて戸籍がちゃんと成立していないと、体外受精は基本的に受け付けないと産婦人科が断る。フランスと比べた場合、過疎というか、人口を増やすということに対する闘い方の徹底ぶりが全然違う。

周牧之:最後に一言、コロナ世代の学生へのメッセージを。

前多俊宏:弊社では、一昨年コロナが始まってすぐに完全テレワークに移して、もうみんな引っ越してどこかに行っちゃった(笑)。もう、こういう変化は始まったら戻らない。だったらその変化の先端まで行って、徹底的に新しい変化した時代のやり方を追求してみるのもいいと思う。


プロフィール

前多 俊宏(まえた としひろ)/エムティーアイ社長

 1965年青森県青森市出身。1987年千葉大学工学部機械工学科卒業、日本アイ・ビー・エムに入社。後に光通信に転じ、1990年に同社の取締役となる。1996年8月にエムティーアイを創業し、同社の代表取締役社長となった。


■ 関連記事


【フォーラム】学術フォーラム「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」

【フォーラム】和田篤也:戦略的思考としてのGXから地域共創を

【フォーラム】内藤達也:地域資源の活用で発信力を

【フォーラム】白井衛:エンタメで地域共創を

【フォーラム】吉澤保幸:集客エンタメ産業で地域を元気に

【フォーラム】南川秀樹:コミュニケーションの場としてのエンタメを

【フォーラム】中井徳太郎:分散型自然共生社会を目指して

【フォーラム】鑓水洋:地域活性化策には明確なコンセプトが求められる

【フォーラム】新井良亮:川下から物事を見る発想で事業再構築

【フォーラム】高井文寛:自然回帰で人間性の回復を

【フォーラム】笹井裕子 VS 桂田隆行:集客エンタメ産業の高波及効果を活かした街づくりを