【コラム】周牧之:「宣言」延長、東京五輪の行方は?

周牧之 東京経済大学教授

編者ノート:世界トップクラスの医療水準を誇る日本がなぜ再三の「緊急事態宣言」でも新型コロナウイルス感染拡大を制圧できないのか?東京五輪は予定通り開催できるのか?「ゼロ・COVID-19感染者政策」はどういうことなのか?また「ウイズ・COVID-19政策」とは?周牧之東京経済大学教授が「宣言」の延長に際し、詳しく解説する。


 5月7日、日本政府は東京、大阪、京都、兵庫の4都府県に発令中の「緊急事態宣言」を5月31日まで延長し、さらに愛知、福岡両県を対象に加えることを決めた。「宣言」は、日本式のロックダウンとも捉えられる措置で、今回の延長は、これまでの「短期集中」シナリオが崩れたことを意味する。

 2020年4月8日、76日間のロックダウンを経て、中国の武漢市は都市封鎖を解除した。その前日の4月7日、日本は東京都、埼玉県、神奈川県、千葉県、大阪府、兵庫県、福岡県に対して「緊急事態宣言」を発令した。その後、「宣言」対象を全国に拡大した。第一回目の「宣言」は49日間続いた。

 2021年1月8日、日本政府は東京など4都道府県に第二回目の「緊急事態宣言」を発令し、73日間続いた。

 武漢のロックダウン解除一年後の同日、2021年4月8日、東京都の小池百合子知事は「まん延防止等重点措置」を東京に適用するよう政府に要請した。

 「まん延防止等重点措置」は「緊急事態宣言」に準じたもので、菅政権は「宣言」の経済社会に対する影響を和らげるために打ち出した。

 しかし、「まん延防止等重点措置」の効果は乏しく、政府は4月25日、東京都、大阪府、京都府、兵庫県に対して第三回目の「緊急事態宣言」を発令せざるを得なかった。

 なぜ中国でのロックダウンは一度で済んだのに、日本の「緊急事態宣言」は再三繰り返されるのか?

1.  徹底的でない「緊急事態宣言」


 実際、「緊急事態宣言」をトーンダウンした「まん延防止等重点措置」を打ち出すどころか、むしろ「宣言」そのものが、ゆる過ぎた。日本の新型コロナウイルス対策の問題は、下記の3点に集約できる。

 (1)ゆるい「宣言」目標

 まず、「緊急事態宣言」は、すべての社会手段を講じて人と人の接触をシャットダウンすることは求めてはいない。最初から「人の接触を7〜8割削減」することを目標に置いていた。これは、休業、休講を要請し、交通を遮断し、極力移動と接触を避ける措置を取った中国のロックダウン政策と比べ、極めてゆるい要請であった。

 (2)新規感染者数がゼロにならないままの「宣言」解除

 第一回目の「緊急事態宣言」を発令後、確かに新規感染者数は急速に減少した。しかし、状況改善を受け、政府は2020年5月25日に「宣言」解除をした。

 武漢は新規感染者数がゼロになった日を16日間も続けたのちにようやく「都市封鎖」を解除した。

 しかし「緊急事態宣言」解除は、新規感染者数がゼロになることを待たなかった。感染症の蔓延を断つことが出来ないままの解除は、感染力の極めて強い新型コロナウイルスの感染再拡大という禍根を残した。

 東京では早くも第一回目の「緊急事態宣言」解除1週間後には「東京アラート」で都民に警戒を呼びかけることになった。

 (3)移動奨励政策

 もっとも問題なのは、日本が2020年7月22日に、経済活動を刺激する観光振興策「Go Toトラベル」キャンペーンを、東京を除外してスタートさせたことである。同政策は、実質的な「移動奨励政策」で、しかもスタートのタイミングは最悪であった。その日、新規感染者は792人も出ていた。これは第一回目「緊急事態宣言」時ピークの1.1倍の数字であった。まさしくなり振り構わぬ敢行であった。

 その結果、日別新規感染者は急増し、10日後には1,575人となった。これは、第一回目「緊急事態宣言」の際の新規感染者数ピークの2.2倍の規模であった。

 10月1日、東京都も「Go Toトラベル」キャンペーンに加わった。その後、新型コロナウイルス感染拡大が加速し、12月28日に「Go Toトラベル」キャンペーンの一時停止せざるを得なくなった。その僅か12日後に、政府は第二回目の「緊急事態宣言」を発令した。

図 日本COVID-19新規感染者数・死亡者数の日別推移

2.ゼロ・COVID-19感染者政策Vs.ウイズ・COVID-19政策


 中国国務院は2020年2月18日に政策を公布し、新型コロナウイルス感染症低リスク地域とするまでには、14日間以上の新規感染者ゼロ状態を継続させる厳しいハードルを設けた。さらに、第一波を制圧した後も、中国は全国各地でゼロ・COVID-19 感染者状況維持に心血を注いでいる。新規感染者が見つかるたびに、大量検査、厳しい行動制限などの措置を局地的に実施してきた。モグラ叩きのように感染エリアを潰していく厳しい管理体制で、「ゼロ・COVID-19感染者政策」を徹底的に行なっている。

 それに対して、欧米諸国ではロックダウンの政策は取ったものの、感染拡大の抑制と経済との両立を急ぐため、感染者ゼロを待たずに都市封鎖を解除した。

 2020年5月13日、ドイツ・IFO経済研究所+ヘルムホルツ感染研究センターが共同研究レポートを出した。このレポートに因ると、経済と感染拡大制御との最適なバランスはRt(実効再生産数:1人の感染者が何人に移すかを表す数字)0.75となる。つまり、Rtを0.75に抑えれば、経済への影響を最小限に留めながら感染拡大を早期に終息できるという。いわゆるウイズ・COVID-19政策の提唱である。しかし、感染力が極めて強い新型コロナウイルスに対してどうRtを0.75に抑え、維持するのかが、見えてこない。レポートの執筆者らが提唱した黄金のバランスも、空虚にしか見えない。

 しかし、欧米諸国では、同レポートのような学術的な「お墨付き」を得た形で、感染拡大の再来という禍根を残したまま、ウイズ・COVID-19政策を進めた。その結果、日本を含む「ウイズ・COVID-19政策」を採った国は都市封鎖や「宣言」とその解除を繰り返し、新型コロナウイルスの蔓延は続いた。


3.明白に分かれた経済成長と衰退


 2020年、世界経済は新型コロナウイルスパンデミックによって大きなダメージを受けた。先進諸国の実質GDPは軒並みマイナス成長に陥った。成長率はそれぞれアメリカ-3.5%、日本-4.8%、イギリス-9.9%、ドイツ-4.9%、フランス-8.2%、イタリア-8.9%、スペイン-11%であった。こうした国の共通点は、「ウイズ・COVID-19政策」を採っていることである。封鎖と解除の繰り返しの中で、経済社会が疲弊し、「ウイズ・COVID-19政策」は結果的に長期的な経済衰退を招いた。

 それに対して、中国(本土)、中国台湾、ベトナムは其々2.3%、3.1%、2.9%の実質GDP成長を実現した。こうした国・地域は、すべて「ゼロ・COVID-19感染者政策」を採っている。


4.東京五輪は予定通りに開催できる?


 新型コロナウイルス変異種に喘ぐ大阪では、感染者の入院率は僅か10%でしかない。大勢の感染者が自宅内で病床の空きを待っている。この状況は患者に有効な治療を施せないばかりか、ウイルスを蔓延させている。大阪はもはや事実上医療崩壊の局面に陥っている。東京を始め日本の他の都市でもまさにいま類似の「拷問」に直面している。

 日本の新型コロナウイルス政策はいまや、ワクチン頼みである。しかし日本はワクチンを生産できないばかりか、海外ワクチンの許認可に手間取り、世界的に見てもワクチン接種は遅れている。

 政策的にはワクチン接種を先ず65歳以上の老人に先行させている。とはいえ、目下3,600万人の老人のワクチン接種率はまだ1%以下に留まっている。

 つまり、7月23日の東京五輪開幕の際、日本ではワクチン接種の普及がなく、強力な隔離政策もなく、さらに充分な医療体制もないままである。もしオリンピックを強行開催すれば、世界各地から新型コロナウイルス変異種が持ち込まれる危険性が高く、東京は様々な変異種の温床となる可能性が払拭できない。

 そのような局面にあってなお、日本政府は依然としてオリンピックの開催を固持している。

 5月5日、弁護士の宇都宮健児氏はネット上で東京五輪開催中止を求める署名活動を始めた。5月7日までのたった二日間で、23万人がこの呼びかけに応え署名した。

 東京五輪開催は如何に−。本格的な議論の幕が切って落とされた。


日本語版『「宣言」延長、東京五輪の行方は?』(チャイナネット・2021年5月10日)

中国語版『日本延长“封城”期限,东京奥运会能否如期举行?』(中国網・2021年5月8日)

英語版『Will Tokyo Olympics go ahead as scheduled ?』(China Net・2021年5月12日)

【専門家レビュー】明暁東:〈中国総合都市発展指標〉から見た中国都市化の新局面

明暁東
中国国家発展改革委員会発展戦略和計画司元一級巡視員、中国駐日本国大使館元公使参事官


 2016年末、中国都市総合発展指標(以下、〈指標〉)が発表されたことを受け、私は大変嬉しく思った。当時、私は在日中国大使館に勤務していた。東京経済大学の周牧之教授が同指標に取り掛かる段階から、私は同研究の方向性や指標の選定について非常に注目していた。というのも、私の中国国内における勤務先は、中国の新型都市化の戦略や計画を主管する部署であるからだ。具体的な指標を用いて都市発展を定量的に分析することは、中国の都市発展や都市化戦略を研究する上で、斬新なツールになると思い、私は周教授にメールで、指標が正式に発表されたことへの賞賛、そして指標が都市の総合評価における国際標準になることへの期待を伝えた。2018年春、中国に帰国する際、私は周教授に「指標の作成を継続し、毎年更新するようにしては如何か」と提案した。実は、周教授はすでにそのように進めていた。現在、指標の第1弾が公表されてから4年が経過し、指標の第4弾(2019年版)が正式に発行される運びとなった。

 指標は、中国都市の発展に焦点を当てたもので、297都市を対象としている。これら都市は、中国のすべての地級市およびそれ以上の都市(日本の都道府県に相当)をカバーしている。指標は、環境、社会、経済の3つの軸から、27の小項目で191の評価指標を用いて、297都市の経済発展、社会進歩、環境改善を体系的に分析・評価している。これらの191の評価指標は、878の基礎データによって支えられている。指標では、膨大な情報量で中国の主要な開発戦略および新型都市化関連政策の実施状況や、都市発展における多くのメカニズムを発見し検証できる。最近、私は指標を注意深く研究し、多くの有益な発見を得られた。

 1.データと現状


 指標のデータを総合的に分析すると、近年の中国の都市発展におけるいくつかのシナリオが見えてくる。

図 2019年中国都市GDP、DID人口、製造業輻射力ランキング トップ30


 (1)GDPランキング

 4度の発表にわたりGDPランキングとDID(人口集中地区:Densely Inhabited District)ランキングのトップ30都市の構成は基本的に安定している。特にGDPトップ10都市は、上海、北京、深圳、広州、重慶、天津、蘇州、成都、武漢、杭州で、2016年から2019年に至るまで、年次によってわずかに順位が入れ替わるものの、10都市の顔ぶれ自体に変化はなかった。地理的な分布を見ると、これら10都市は、京津冀(北京・天津・河北)、長江デルタ、粤港澳大湾区(広東・香港・マカオ)、長江中上流地域に位置し、2019年のGDP総額は国家全体のGDP総額の23.2%を占める。これらは、世界経済との関わりの深い成長地域である。

 GDPトップ11~30都市は、主に中心都市であり、その地理的な分布特徴も明らかである。例えば、鄭州と西安はそれぞれ中原と関中に位置する中心都市であり、済南、青島、煙台は山東半島メガロポリス、長沙は長江中游メガロポリス、大連は遼中南メガロポリス、福州と泉州は福建省沿岸部メガロポリス、長春はハルビン・長春メガロポリスの代表都市である。GDPで見ると、これらの都市は顕著な雁行型発展の構図を示している。

 (2)DID人口ランキング

 指標2019のDID人口ランキングからは、トップ30都市はGDPのトップ30都市と相似度が高く、異なるのは5都市のみである。人口の集積は経済の集積と高い相関関係があることが伺える。2017年と2019年のDID人口ランキングを比較すると、トップ30都市の顔ぶれは変わらないが、順位には変動がある。上海、北京、広州、深圳はトップ4を維持し、成都、南京、杭州、泉州、福州、鄭州、昆明、済南、長沙は順位を上げ、天津、瀋陽、西安、寧波、汕頭、合肥、青島、無錫、長春は順位を下げた。これらの変化は、東部のメガシティが引き続き強い集積能力を維持していることを示し、中部・西部地域から沿岸地域への人口移動が進み、中西部および東北地区では外部へ人口が流出すると同時に地域の中心都市にも人口が集積しつつある。

 (3)人口流動分析

 指標の「人口流動」指標から、2019年における人口流入のトップ10都市は、上海、深圳、北京、東莞、広州、天津、佛山、蘇州、寧波、杭州で、人口流出のトップ10都市は、周口、重慶、畢節、富陽、信陽、朱馬店、南陽、商丘、遵義、茂名となっている。 2016年と2019年における人口流入都市と流出都市の規模・順位の変化を比較すると、中国の流動人口の規模が変化していることがわかる。流動人口のデータと照らし合わせると、以下のような人口移動の特徴が見えてくる。

 まず、流動人口の規模が減少している。2016年から2019年にかけて、中国の流動人口の規模は、2016年の2億4,500万人から2019年の2億3,600万人へと、年々減少している。

 2つ目は、都市間の流動人口の割合が増えたことである。人口流入・流出都市とDID人口ランキングの変化を総合的に分析すると、農村から都市へのパターンより、都市から都市への人口流動の割合が継続的に増加していることがわかる。2019年に県庁所在地や市区から流出した割合は45.1%で、前年より6ポイント増加し、急速な増加傾向を示している。

 3つ目は、人口流動の方向が多様化していることである。中国における人口流動の一般的な傾向は、中西部地域・東北地域から東部沿岸地域へと向かうベクトルである。しかし、人口流動データを見ると、近年、中西部・東北地域における一部の中心都市ではDID人口が大きく増加しており、地域内の人口が中心都市へ集約していると同時に、中西部に人口が還流し始める兆しすら見える。


 2.分析と考察


 指標の経済総量および人口流動のデータに加え、製造業輻射力、高等教育輻射力、科学技術輻射力、コンテナ港利便性ランキングを加え総合的に分析を行った結果、以下のような考察を得ることができた。

 (1)新しい都市空間フレームワークの形成

 「第11次5カ年計画」では、メガロポリスを中国都市化の主要な形態とすることを唱った。10数年の歳月を経て、中国における都市集積効果は顕著に現れ、人口、技術、資源などが急速に中心都市やメガロポリスに集中している。これを受けて従来の行政区経済は都市圏経済やメガロポリス経済にシフトしている。都市化は空間的にいくつかの極に集中するような傾向が現れた。

 北京、上海、広州、深圳などのメガシティを中心に、京津冀(北京・天津・河北)、長江デルタ、粤港澳大湾区(広東・香港・マカオ)の三大メガロポリスが形成され、中国経済成長の最も重要な原動力となっている。

 また、成都、重慶、武漢、鄭州を中心に、成渝(成都・重慶)メガロポリス、長江中游メガロポリス、中原メガロポリスの3つの内陸メガロポリスが形成され、青島、済南、煙台、西安、大連、長春、福州を中心に、山東半島、遼東半島、ハルビン・長春地域、福建省沿岸部などにメガロポリスが形成され、中国の経済成長の新たなエンジンとなっている。同時に、多く中心都市の都市圏的な展開が進み、中国経済の新たな成長の柱となっている。

 (2)都市発展における格差の顕現

 指標にDID人口の概念が導入されたことで、都市の管轄区域に農村部が含まれることによる都市人口密度データの歪みの問題が解消され、都市人口の変化をより正確に把握できるようになった。例えば、重慶市は人口流出の多い都市であるが、DID人口は近年大幅に増加している。DIDエリアではなく、行政エリアのみで人口変化を測定すると、都市の人口変化の方向性を見誤ることになる。DIDの人口データを利用することで多くの都市開発の課題を発見することが可能となる。例えば、DID人口ランキングを年次で比較すると、一部の都市のDID人口が大幅に増加している一方で、一部の都市のDID人口が急激に減少しており、中国の都市の発展に分化が生じていることがわかる。特に、中西部・東北地方の多くの中小都市では人口減少が継続しており、全国で100近くの人口減少都市が存在している。これらの縮小都市は2種類に分けられ、1つは人口減少が継続する一方で、人口構成の変化が少なく安定した経済成長が維持されている都市である。もう1つは高齢化や産業の縮小を伴う人口減少で経済が低迷している都市である。

 (3)都市化発展の新たな傾向

 長い間、中国都市化の主な原動力は、農村から都市への人口移動であり、大量の余剰農業労働者が土地を離れて都市で働くことで、都市の常住人口が増加してきた。中国の都市化率は、改革開放当初の17.9%から2019年には60.6%まで上昇した。指標2019の「DID人口ランキング」と「人口流動・広域分析」を総合的に分析すると、一部の都市のDID人口は増加していると同時に、一部の都市では減少している。これは都市間の人口移動が徐々にトレンドになっていることを意味する。東部地域の都市で人口は純流入しているが、同地域での農民工(農村部からの出稼ぎ労働者)の数は2016年に48万人減少し、2019年にはさらに108万人減少した。かつて、都市への移住は農村若者の夢であったが、現在、大半の都市で戸籍制限が解除されたにもかかわらず、多くの農民工が都市への移住を躊躇している。中国の都市化のダイナミクスとパターンは、新たな変化が生じている。


 3.目標と課題


 以上の分析から、中国都市化の空間フレームワークは着実に形成され、大半の都市では農村人口への戸籍制限が緩和され、都市の人口収容力が大幅に向上した。「第11次5カ年計画」で示された都市化の促進、都市化空間フレームワークの形成、都市計画と都市建設の管理強化といった都市化の課題は基本的に達成した。中国の都市化は今後、新たな発展段階に入り、新たな目標と課題に直面するであろう。今後の重点は、都市・農村の二元体制を打破し、都市と農村の融合的な発展を促進し、中小都市の活力を高めることへと変化していくだろう。

 (1)都市・農村の二元体制打破

 戸籍や土地利用制度の違いに基づく都市・農村の二元体制が、貧富の格差拡大や地域の不均衡発展の主な原因となっている。中国の都市化率は60%を超え、都市と農村の関係は重要な変化が生じ、今後の政策の重心は都市・農村の二元体制の改革にある。

 まず、農村から都市への定住制限を全面的に撤回し、人々が定住先を自由に選択できるようにし、住民戸籍の自由な移動を実現させる。農村・都市部を問わず、都市に移り住む人々は皆市民の一員である。移住者は「新しい市民」として迎え、移住できない「農民工」をなくす。都市に移り住む新市民とその家族が自由に移動できるだけでなく、中間所得層に入る機会を得られるようにしなければならない。

 第二に、農村の土地管理制度を改革し、集団経営の建設用地が国有建設用地と同様の開発権利などを得て、農民が自分の土地から資産収入を得られるようにするべきである。

 第三に、公共サービス制度を改善し、人口の規模に応じた公共サービスの提供を進め、住民各々が同質の公共サービスを享受できるようにする。

 (2)都市と農村の融合発展の推進

 日本では、急速な都市化の過程において、都市の「過密化」と農村の「過疎化」が共存する時期があった。現在、人口の半分以上が三大都市圏に集中している一方、農村部は高齢化と空洞化が進んでいる。また、国としては海外への食料依存度が極めて高い。これに対して、急速な都市化を経験している中国は、日本の教訓に学び、都市と農村の融合発展を推進し、都市の発展と農村の繁栄を共に図るべきである。

 そのためには、都市と農村の相互作用を促すことが重要である。都市は、資本、技術、人材を農村へ投下することを奨励し、農業開発の恩恵を受けると同時に、農村との人的交流を促進すべきである。農村は、規模経営をはかり、都市へ原材料や農産物を供給すると同時に、都市との産業の融合発展を促進することである。同時に、農村部の居住地の集約化をはかり、都市部の公共サービスの農村部への拡大を進め、都市部と農村部の公共サービスの均質化を求める。

 (3)中小都市活力の向上

 現在中国では一部の中小都市が、人口減少、産業縮小、経済成長鈍化に苦しんでいる。しかし農村と大都市とをつなぐ県庁所在地を含む中小都市の存在が、健全な国土空間にとっては不可欠である。中小都市の発展は、大都市の一部機能の分散化に空間を提供すると同時に、農民の地方都市への就職・定住を誘導し、農村・農耕文化の保存にもつながる。したがって、中小都市の発展は今後の中国都市化の重要な課題の一つであり、中小都市における生活環境の改善、公共施設の建設、公共サービスの質の向上、産業力の高度化への政策支援を強化すべきである。

 (4)都市再生の推進

 改革開放以降、中国で都市化は進み、都市のアーバンエリアは急速に拡大している。急進的な「都市づくり」の中で、低品質の建物が大量に建設されたと同時に、建物の老朽化も進み、都市の再開発が急務となっている。日本には、都市の再開発を手がける「都市再生機構」(UR機構)がある。中国では国土空間計画制度が確立され、都市開発の境界線が厳密に定められることで、都市発展の重心は規模の拡大から再開発へと移行している。都市再開発は、既存の都市を美しくし魅力を高め、住民の生活環境を改善するものである。そのため、スマート・シティ、ヒューマニスティック・シティ、ヘルスケア・シティなどの新しい目標を掲げ、より良い生活を求める都市住民のニーズに応えるよう努力していかなければならない。


中国網日本語版(チャイナネット)」2021年4月2日

【書評】岸本吉生:中国は大都市圏、そしてメガロポリスの時代を迎えた

J-CASTトレンド・コラム「霞ヶ関官僚が読む本」より掲載

 周牧之さんは、1963年に中国湖南省に生まれ、中国機械工業部(通産省に当たる)勤務を経て88年に日本留学して30余年。東京経済大学で教鞭をとりながら、日本と中国の関係改善、中国の都市政策に多大な貢献をしてきた。本書の中心となる中国都市総合発展指標は、周さんの長年の研究成果をもとに構築された。

 都市と農村の格差など「三農問題」を抱えていた中国は、計画経済の時代から長年、都市部への人口移動を規制してきたが、今や大都市圏、そしてメガロポリスの時代になっている。その転機は2001年のWTO(世界貿易機関)加盟であった。中国沿岸部が一気に「世界の工場」となり、臨海部の主要都市が大規模化した。

 都市住民の生活品質の向上と環境問題の回避という二つの目標を追いながら急速に成長する都市は、人口1000万人を超えるメガシティと周辺都市が複合するメガロポリスへと変貌を遂げた。本書は2018年に初版の中国都市ランキング2016が出版されてから三回目の出版となる。都市データの更新に加え、メガロポリス発展戦略、中心都市発展戦略、大都市圏発展戦略とメインレポートが毎年変わり、2030年に向けて中国の都市がどのように変化していくかを知る手がかりに溢れている。また、トップ10都市の強みが写真付きで紹介されており、特に、杭州市、成都市、南京市は自然、歴史や文化の魅力にあふれ一度訪れて実感してみたい。

三大メガロポリスの課題

 欧州はその歴史から都市人口が1000万人を超えるメガシティはモスクワやロンドンにとどまるが、アジアでは臨海部の都市が製造業と交易で急速に発展したために規模が大きい。世界最大の都市圏は東京圏の3700万人だ。中国では人口1000万人を超える大都市圏は六つもある。これらメガシティを中心に、京津冀(けいしんき)、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスが形成されている。複数の大都市圏が連携する連続的な構造だ。人口規模から見ると、京津冀が9106万人、長江デルタが1億5270万人、珠江デルタが6151万人にのぼり、三つのメガロポリスの合計では3億人を超え、中国総人口のシェアは22%にも達する。三大メガロポリスは、世界との交易で成長し、国内の他地域から大量の人口流入があった。現在、当該都市での戸籍を持たない常住人口数だけでも三大メガロポリスで計6244万人にもなる。急激に巨大化するメガロポリスには、都市機能の充実に関して二つの課題がある。 

 一つは、都市住民の生活の質という視点。公共交通網、レストラン、大学など人口が集中して快適な空間構造をどう作るかだ。人口規模が大きい分、欧州や米国には見られない東京圏のような高密度かつ快適なメガシティを目指すことになる。二点目は、周辺の中小都市の核となる中心機能を充実させることだ。とりわけ、国際交流に必要なIT、国際会議、宿泊といった機能が重要だ。製造産業の発展拡大した沿岸部のメガロポリスが、今度は、IT産業と国際交流にふさわしい都市へと姿を変えていくのである。

人間本位のマネジメント

 中国の都市は、人口戸籍制限を緩和して若者を積極的に引き寄せる競争に向かっているという。日本の地方創生とは逆の構図だ。若者からすれば、都市の生産活動と生活環境の双方を見てどの都市に住むかを決めることになる。大都市だからといって生活環境が悪ければ良質な転入者を得ることは難しくなる。利便性を犠牲にせず、緑が生い茂る穏やかな住宅地帯をどう形成するか。人間重視の都市化への転換が急速に進むであろう。製造活動にふさわしい都市から知的な価値を創造する活動にふさわしい都市への変貌である。

 こうした考えが、中国国家発展改革委員会の官僚の言葉で語られていることが、本書が日本語化された意義の最たるものではないだろうか。中国の官僚が、経済、社会、環境の三つの均衡を重視する方針を掲げ、それを測定する数値指標として中国都市総合発展指標の理念と実益を高く評価することは、都市問題の奥深さゆえに、数値をベンチマークとして都市を経営する意義を中国の政策官僚がともに実感しているからであろう。この発展指標が、周さんの知的な献身活動を基礎として、中国の官僚と日本の産学官との協力で生まれたことは、日中の現代史に残る出来事ではないか。

(※データは書評掲載時より更新)


【参考】J-CASTトレンド・コラム「霞ヶ関官僚が読む本

【コラム】周牧之:エズラ・ボーゲル氏を偲ぶ/『ジャパン・アズ・ナンバースリー』

周牧之 東京経済大学教授

『Newsweek』誌の特別号『ニューズウィークが見た「平成」』

 2020年12月20日、エズラ・ボーゲル氏が亡くなった。ボーゲル氏とは、私が2007年からマサチューセッツ工科大学(MIT)の客員教授として米国ボストンに滞在した当時、親しくお付き合いさせていただいた。氏の自宅によくお邪魔し、密度の高い議論を重ねた。ボーゲル氏の招きで2008年からハーバード大学フェアバンクセンター客員研究員も兼務した。

日本語版『Newsweek』誌 2010年2月10日号

『ジャパン・アズ・ナンバースリー』


 2009年私が日本に戻る直前、2度にわたり時間をかけてボーゲル氏と対談した。この対談はまず中国新華社『環球』雑誌で3度にわたり連載された。その後、『ジャパン・アズ・ナンバースリー』(以下『対談』と略)と題して日本語版『Newsweek』誌2010年2月10日号にカバーストーリーとして掲載された。当時はちょうど中国のGDP規模が日本を超えたところであり、中国と日本の成長モデルの同異性や日米中の過去、現在と未来を論じた『対談』は大きな話題を呼んだ。

 2019年には『Newsweek』誌の特別号『ニューズウィークが見た「平成」』に『対談』が選ばれた。平成の30年間に同誌で掲載されたコンテンツの中で、最も時代を代表するものを選び、平成の歴史を回顧する特別号企画で、『対談』は2008〜2019(平成20年〜31年)の10年間で選ばれた3本のうちのひとつであった。『対談』が平成の歴史を飾ったことでボーゲル氏も大変喜ばれた。

 ボーゲル氏が亡くなって1カ月が経ち、米、中、日で数多くの記念する催しや回顧する文章が発表された。私がここで取り上げるのは、ボーゲル氏のどこに私が魅了されたか、である。


故・エズラ・ボーゲル氏と筆者

ひとの運命から社会を見つめる


 ボーゲル氏と私は日本と中国の双方に共通の友人が大勢いた。これら友人のことは、しばしば話題にのぼった。例えば日本では、政治家の加藤紘一とは、ボーゲル氏は長年の付き合いがあり、選挙活動時に山形の地元まで訪ねた。中国では、ボーゲル氏は改革開放政策直後に知り合った中国経済学の大御所の于光遠氏や、広東省のトップを務めた中国共産党元老の任仲夷氏らと交友関係は長く続けた。

 こうした共通する友人の話を通じて、ボーゲル氏との共感が深まったと同時に、友人知人の喜怒哀楽をベースに研究を進めてきた氏の姿勢を見た。人との膝を交えた付き合いが好きで、日中双方に知己を多く持ち、そうした友の運命から、激動時代の鼓動を感じ取るアプローチはボーゲル流である。

 小説家の祖父、父を持つ私も、人の運命から社会を捉えることを好む。私にとってはボーゲルの人間好きが、魅力に感じた。

 人の運命を社会の激動に写して見せる。そうしたボーゲル作品の最たるものが『鄧小平伝』であった。

エズラ・ボーゲル著『ジャパン・アズ・ナンバーワン』と『鄧小平伝』

長い激動の戦後時代をくぐり抜けた体験を洞察力に


 ボーゲル氏との議論の中で最も心打たれたのは、彼自身の体験からくる洞察力の鋭さである。

 自身がユダヤ人であることから、自分の体験によりアメリカでのユダヤ人の立場の変化を同国の寛容性の変化ととらえた。このアメリカの寛容性パラメータの変化こそが同国の対日本や対中国の関係性に大きく投影したことに議論が及んだ。

 ボーゲル氏は常に戦前戦後という長いスパンで物事をとらえた。氏が経験してきたこの長い歴史の中での思考で、我々が書物からでしか知らない事象を、自身が潜り抜けた人生そのものをベースに紐解いた。議論の中でこのような印象を強く感じ取った。

 戦後中国と日本は、置かれたスタートラインがかなり違い、社会的水準、産業的水準は中国に比べ日本がはるかに高く、置かれている国際環境も異なり、中国が直面していた課題はさらに複雑で困難に満ちていたとの認識故に、ボーゲル氏は、こうした課題に日々揉まれてきた指導者の、人間的な魅力や力量は大変大きいと感じていた。

 単純なデータをもとに思考するのではなく、イデオロギーを超えた人間力の大きさそのものを氏は、最重要視した。これは、戦後、アメリカ、日本、中国で研究活動を展開してきた氏の、長年の体験から得た洞察力の真髄である。

日米中の三国及びその変化しつつある関係を


 エズラ・ボーゲル氏は、日中米三国を常に比較し、研究を重ねて来た。複数の比較軸を持つことは氏の独自性であった。それが故に他者には見えにくいものが、ボーゲル氏には見えたのである。

 日本で大きな話題を呼んだ著書『ジャパンアズナンバーワン』の英語の原版にはLessons for America(アメリカへの教訓)の副題があった。同書は、戦後の高度成長を遂げた日本経済の要因を分析するだけではなく、アメリカ社会に刺激を与える目的もあった。これは、氏特有の比較軸が無ければ成し遂げられない仕事であった。

 比較研究だけでなく、三国の変化し続けた関係にも常に注目してきた。この三国の関係の動態的な変化は歴史を作ってきた。そして歴史を作っていくということを強く意識してきた。これらの変化をもたらす要因を分析することが、氏自身の大きな関心事であった。

 『対談』から十年、時代はさらに大きく変化した。ボーゲル氏との共通の友人も相次いで亡くなった。そしてボーゲル氏自身もこの世を去った。これは私にとって、一つの時代が終りを告げた象徴的なできごとである。

2021年2月3日

Newsweek
中国新華社『環球』雑誌 2009年12月1日号 カバーストーリー(後に3号に渡り対談を掲載)

【対談】エズラ・ボーゲル VS 周牧之:ジャパン・アズ・ナンバースリー

【参考】中国新華社『環球』雑誌 『対談』掲載記事


周牧之与傅高义对谈:中日经济崛起奇迹的异同 【漫说风云第一季 】

周牧之与傅高义对谈:回顾从老布什到奥巴马时代,中美关系会陷“新冷战 ”吗?【漫说风云第二季 】

周牧之与傅高义对谈:回望中美日三国恩怨纠缠,展望亚洲未来 【漫说风云第三季】

【書評】井上定彦:『中国都市ランキング2018』〜現代をとらえる新体系方法を提示〜

井上定 島根県立大学名誉教授

 NTT出版 2020年10月/刊『中国都市ランキング2018』は、中国の客観データを素材にして、現代の経済社会文化の展開・発展過程を、大都市化とその連携関係(メガロポリス)を科学的・計量的あるいは図示し、視覚としても明らかにしたものである。内容を読んではじめて、これまでの社会科学・都市工学の全域にまたがるおどろくべき内容=分析体系を凝縮した大作であることが理解できる。応用力が高く、いずれの国にも適用可能。だから、もっと注目されてしかるべき著作である。
 これまで、英語版、中国版、日本語版が出され、今回が三年目となる。それなのに、日本ではまだそれほど知られていない。

 というのも、見出しが「都市ランキング」だし、年次は2018年と表記されている。私たちは、大学の偏差値とか「何でもランキング」ということには、食傷気味である。また年次が2 ~3年も前のものについて興味はわかない。年次白書ならば、政府の経済白書のように最新版を読みたいものだからである。

 ところが、本書は実は最新のもの、ついこないだの2020年10月発行なのである。
 たとえば、ここにはこのコロナ渦に見舞われた世界に関わるいくつかの優れた分析の論稿を含んでいる。つまり、社会経済分析の方法論にも言及した多数の論稿がここにはおさめられ、深く考えさせられる大著なのである。つまり、無味乾燥な年次系列の統計数字、特定の年について並列的に列記したものとは、まったく違う。そうではなくて、中国の代表的な大都市に関して、手に入りうるかぎり系統的で多様な最新のデータを使っている。そのデータは、最新が2018年までが多いわけだ。そこで計量化できた客観データをふまえ、総合的に指標化した(だから表紙には2018年と記されている)ということだ。

◆ 全国総合開発計画を超え、国連開発計画・UNDP報告にならぶような視野

 本研究に多少とも類似したものを例示すれば、たとえば、第四次全国総合発展計画(四全総 1987年)とその都道府県版(含む資料篇)、あるいは少し前の時点での「首都圏白書」を、辛うじてあげることができるかもしれない。しかし、これも本書に比すれば、視角は多くは「ハード」面に限定され、全国的データを網羅はしてはいるが、現代社会経済の力、大きな源である「情報力」、また他地域や世界との「連結力」という視点(いわば広義の「ソフト・パワー力」)やその系統的なアセスメントは含まれていない。当時の日本の「国土計画」というものの限界であったともいえよう。

 だから、これにならぶようなものとしては、紹介者が知る限り、国際連合UNDPの「人間開発報告書(1990 年以来今日まで毎年発行)しかないように思う。このSDGs(持続可能な開発)につながる分析と指標は、ずっと発行され、継続性はあるが、それだけではなく、つねに新たな方法論・視点を加えて改良され(たとえばジェンダー指数の追加)続けている。だから、毎回新鮮な驚きがある。
 三冊目となる本書も、同様に、毎回大きな改良が加えられ進化している。

◆ 発展のダイナミズムを体系的にとらえる

 この大規模な研究プロジェクトは、いわば中国版の「ゴスプラン」の一部にあたる中国国家発展改革委員会発展戦略和計画司の協力により、はじめてこれだけ系統的な計量データについて、年次ごとの提供が可能になったのだろう。同じく中央集権的な日本の内閣府でも、省庁横断的にこれだけのデータが系統的に集められ、整理されているとは聞いていない。

 この研究を主導した周牧之さんは、国際開発問題のシンクタンクを経て、ながらく東京経済大学の教授としてだけでなく、国際的な都市研究者として、アメリカ(MITなど)、中国、東南アジアにまたがり活躍しておられる。もともとは情報工学系の出身で、経済学・社会学・行政学をふまえており、日本では例外的な「文・理総合型」の研究者、プロジェクト・リーダーである。

◆ 「指標」の現代化 壮大な広がり

 通常は、都市力、地域力を把握するときには、とかく経済・産業中心になりがちである(地域経済分析など)。本書は、そうではなく、自然生態・環境品質・空間構造という「環境」という大項目、ステータス・ガバナンス、伝承・交流、生活品質という「社会」という大項目、また経済品質、経済活力、都市影響という「経済」の大項目が、「総合化」され示されている。だから、そのデータの出所は、1)統計データ(3割の比重)、2)衛星リモートセンシングデータ(3割強)、3)インターネット・ビッグデータ(4割)にわたるものだ。

 後者二つは、日本ではまだ活用がはじまったばかりの分野である。これらにもとづいて、大都市の「輻射力」(影響力)が、立体的に描き出されている。物理的なインフラの整備だけでなく、情報発信力・受容力、そこからもたされる大都市や大都市連合の力量が、図示あるいは視覚的にも理解できるようになっている。あるいは、これを国家大に表現したものが、「一帯・一路」世界経済圏構想の推進なのかもしれない。
 だから、このような分析手法とそこからの政策含意の導出は、いずれの地域、国でも応用可能だと思われる。このような体系をもつ新「指標」の現代化は、疑いもなく有意義である。

◆ 「近代化の圧縮」とその先 社会変容という課題

 日本は、西欧先進国の「近代化」の300 年にわずか100 年で追いつこうとした(「圧縮された近代」)。そしていまや「成熟」を通り越してすでに「老境」にはいりつつあるのかもしれない。それに関わっていえば、韓国はわずか60年にしてすでに人口のピークをこえ、さらにおそらくは中国もこれから10~20年の間には「追いつき」過程を完了し、成熟段階に入る(つまり、わずか40年弱で)。総人口も大都市化の進展も、これから20年内外でピークに達するだろうといわれている(「超圧縮の近代化」)。
 そのとき、もっとも気掛かりなのは、先進社会が経験したように、「都市化」「近代化」がもたらす「社会の変容」、「人間行動の変容」という問題である。たんに少子高齢社会の到来というだけでなく、かつての発展をささえてきた、家族やコミュニティーの力の融解・弛緩が伴うからである。

 第二次大戦前後から、中国は安全保障的な見地からも、ずっと地方分散(独立性をもつ解放区的な考え方)を重視してきたが、それがまた長期にわたる停滞をもたらした大きな背景でもあったと考えられる。そこでこれを転換して「改革開放」し、グローバル化する世界に適応して産業構造をかえてゆく。農村型社会から都市型社会へ、大規模なメガロポリス中心の社会へと社会構造の大転換をとげようとしているのだ。

 家族構造をはじめとして、社会が変容し、殊に人間がその内面でも変容するのではないかという点が重要である。それまでの人間社会を基本的につなぐ連結性(social cohesion)は弱まるだけでなく、「勤勉」・「誠実」・「信頼」そして「助け合い」という、志向性についても変化するのではないか、といわれている。「個人化」「孤立化」「利己主義」化してしまい、そのような群衆が多数者になってしまうのだ、という見方がある(D.リースマン『孤独なる群衆』など)。

 だから、西欧社会の経験は、これに対して新たな自発性・能動性をもつ「市民型コミュニティー」(協同組合、労働組合、さまざまなNPOや非営利組織)の形成が重視されてきた。「社会的経済」という部門が成長したのである。むろん、並行して国家レベルや地方の公的機構としてさまざまな福祉諸制度が発達し、そうした「福祉社会」の構築には、100年もの月日がかかった。そのような制度構築がやや乏しいアメリカは、「個人主義社会」の正の面だけでなく「負」の側面も際立っている。アメリカの「社会分裂」、「トランプ・ポピュリズム」は偶然ではないのだろう。

◆ 持続可能な地球社会をめざして

 さらに根本的に難しい人類共通の課題として、いまや「人新世」(anthropocene)ともいわれるように、人間の活動が(温暖化を含めて)地球環境や地球そのものを変えつつあるかもしれない、という大きな課題がある。都市のみならず、農村地域・地方の山林・森林・原野を含む地球全体の「環境保全」が求められる。「持続可能な地球社会」こそが、いまや目指されようとしているわけだ。

 そしてまた、ひとびとも、その農村や森、自然の景観、またそこでのコミュニティーのなかに生きていゆくことに価値を再び見出そうともしているようにもみえる(二地点居住、グリーン・ツーリズムなどを含めて)。だから、国土全体のクオリティー(質)、アメニティー(快適性)が考えられるべきこととなる。国土のあり方についての、現代的「進化」が求められているのかもしれないのだ。

 周牧之さんが注目する「里山」のような地域形成の視点も、これから段階をおきながら、うまく「指標化」してゆくことができるのかもしれない。
 今後も毎年発行されることになることが期待されている本シリーズが、さらに発展し進化してゆくのが楽しみである。


【掲載】一人ひとりが声をあげて平和を創る メールマガジン「オルタ広場」

【講演】周牧之:米中貿易摩擦、そして新型コロナウィルスパンデミックの衝撃下にある中国経済


■ 編集ノート:型コロナウィルスパンデミック初期の混迷の中、周牧之教授は中国・武漢での医療崩壊の原因を解析し、中国で採られたパンデミック制圧の緊急手段や、ロックダウンを始めとするゼロコロナ政策の有効性について解説、低濃度オゾンによるコロナウィルス対策を訴えた。さらに、ゼロコロナ政策下の中国経済の状況を分析した。

国立研究開発法人科学技術振興機構
中国総合研究・さくらサイエンスセンター 第134回研究会

・講師:周 牧之:東京経済大学教授、経済学博士
・日時:2020年9月29日(火)15:00〜16:00
・開催方法:WEB セミナー(Zoom利用)



【講演概要】

 講演は中国都市総合発展指標を用いながら、以下の3点を柱に行う。

1.なぜ大都市医療能力は、新型コロナパンデミックでこれほど脆弱に?
 武漢は新型コロナウィルスの試練に世界で最初に向き合った都市であった。武漢は「中国都市医療輻射力 2019」全国ランキング第6位の都市である。なぜ、武漢のこの豊富な医療能力が新型コロナウィルスの打撃により一瞬で崩壊したのかについて解説する。

2.コロナショックでグローバルサプライチェーンは何処へいく?
 中国で最強の製造業力をもった都市が、米中貿易摩擦とコロナ禍で大打撃を受けた。伝統的な輸出工業の発展モデルはどのような限界に突き当たったのか?製造業そしてグローバルサプライチェーンはどこに向かうのかについて、「中国都市製造業輻射力2019」で解説する。

3.加速化する IT 産業の発展
 ロックダウン、テレワークなどによる生活様式の変化は、アリババ、騰訊を代表とするIT産業の躍進をもたらしている。その実態について「中国都市IT産業輻射力2019」を用いて解説する。

【動画】「米中貿易摩擦、そして新型コロナウィルスパンデミックの衝撃下にある中国経済」


【講演録】

司会:これから第 134 回中国研究会を始めさせていただく。今回もオンラインでのウェブセミナーとして開催する。

 今回は東京経済大学経済学博士の周牧之先生にご登 壇いただく。講演タイトルは「米中貿易摩擦、そして新型コロナウィルスパンデミックの衝撃下にある中国経済」である。先生のご経歴の詳細は割愛させていただく。周先生の研究の専門は、中国経済論、都市経済論等である。それでは先生、どうぞよろしくお願いいたします。

周:東京経済大学の周です。よろしくお願いします。

 本日は3つの話で、中国の経済社会が直面している状況と課題を皆さんと一緒に整理していきたいと思っている。

 1つ目は中国の新型コロナウィルスへの対応。2つ目は製造業の直面している課題。3つ目は IT 産業の状況。これらを輻射力という指数で整理して話したい。

 輻射力とは、それぞれの都市をある産業の能力を計る指数である。輻射力が高い場合は、その産業の輸出力がある。輻射力が低い場合はこの都市ではその産業の製品やサービスは輸入しなければならないということだ。本日は、医療輻射力、製造業輻射力、IT輻射力の 3つの輻射力を使って迫っていきたい。これらの輻射力は全て中国都市総合発展指標の中に全て出てきている指数である。

中国都市総合発展指標

 そもそも中国都市総合発展指標がどのようなものかというと、中国の都市を評価するためのある種の分析ツールである。ご存知のように中国では改革開放以来、地域間の競争で成長を引っ張ってきた。いわゆるGDP(国内総生産)という指標のもとで地域間競争してきた。これがある意味中国の今日までの経済成長の一つの原動力になっていたが、あまりにも単一な指標のもとでの競争ということで、経済・社会・環境に大きな歪も持たせていた。そういうものを是正するために国家発展改革委員会という中国の経済政策の司令塔と一緒に環境・社会・経済の3つの軸で中国の都市を評価する分析の政策ツールを開発した。

中国都市総合発展指標・指標構造

 中国都市総合発展指標には、いくつかの特徴がある。まず構造上の特徴としては環境・社会・経済という3つの大項目となっている。一つの大項目においては3つの中項目があり、一つの中項目には3つの小項目がついている。非常に美しい「3・3・3構造」となっている。また、日本の場合は政府と都道府県と市町村の3つのレイヤーだが、中国の行政は日本と違って5つのレイヤーがある。我々が評価するのは省のレイヤーに属する直轄市とその下のレイヤーにある地区級地方政府。地区級地方政府の中で都市とみなされているものが294あり、プラス4の直轄市があるので298の都市が我々の評価対象となる。これは中国のこのレベルのエリアの88%の行政単位をカバーしており、基本的に日本の都道府県ベースと考えてよいと思う。「中国都市総合発展指標・指標対象都市」のこの地図で見るとよくわかるが、桜色のエリアは中国都市総合発展指標の対象であり、赤いところは直轄市である。灰色のエリアは人口密度の低いところで中国政府が都市と認めていないので除外している。要するに「中国都市総合発展指標」は、ほとんどの中国の経済社会の活動を網羅しているということが言える。

中国都市総合発展指標・評価対象都市

 中国都市総合発展指標における指標構造のデータにも特徴がある。基本的に27の小項目があり、その下に小項目を支えている178の指標がある。本日使用する3つの指標がこの中のものになる。さらにこの178の指標を支えているのが785のデータである。これらのデータの構成も非常に特徴がある。今までの中国やほかの国をみてもそうだが、統計データだけでは都市を捉えるにはまだまだ不完全である。

中国都市総合発展指標・指標構成

 中国都市総合発展指標は統計データだけではなく、衛星リモートセンシングデータやインターネットのビッグデータを3分の1ずつ取り入れている。ある意味では五感で都市を感知するマルチモーダルインデックスとなっている。これは世界でも初めてのタイプのインデックスである。こういうスーパーインデックスを用いて、我々は都市という細胞を一つずつ分析することができる。中国のように多様性に満ちた国のほぼすべてのことが細胞レベルで分析できる。つなげていけば中国全土の動きが見える。また時系列的にも捉えてきているので変化も見える。これによって中国の 経済社会の動きは非常に的確に捉えられるようになった。

 この指標の開発にはたくさんの人々に参加いただき議論し知恵をいただいた。中国や日本でたくさんの会合を行い、議論を重ね、ようやくこの分析ツールが出来上がった。2016 年に発表し、中国では、2017 年、2018 年と3つの年度にわたって発表を続けてきた。2019 年版も発表を始めたところである。2018 年の日本語版は10月に発表される予定で、英語版は 2 カ月前にアメリカで発表された。

【なぜ大都市医療能力は、新型コロナパンデミックでこれほど脆弱に?】

 このような分析ツールを使って、まず中国の新型コロナウィルスパンデミックの対応がどうなっているのかというのを皆さんと一緒に分析してみたい。

 ご存知のように昨年の年末から新型コロナウィルスの話が出始め、1月23日に武漢市がロックダウンされた。新型コロナウィルスが一気に武漢から中国、中国から世界へと広がった。このような状況の中で、私も何か貢献できないかと自問自答する中で、どうもオゾンがこのウィルス対策に役に立てるのではないかと研究を始めた。2月18日には新型コロナウィルス対策にオゾン利用を提唱する論文を中国語版で発表し、その後英語版、日本語版と発表し、これにはかなり大きな反響があった。

 私の発表した論文の中で書かれていることは、今日は時間の制約があるので詳しく言えないが、3つの仮説をまとめると、①自然界の低濃度オゾンが地球上の 細菌やウィルスといった微生物の過度な増殖を抑制してきた。②ウィルスは季節によって活力の違いがある。 例えばインフルエンザは冬に威力が強くなり、夏になると消えてしまう。今までの学者は気温や湿度に因果関係があるのではないかと研究してきたが、うまく結論に至っていない。私はオゾンが原因ではないかと仮説をたてた。オゾンは季節によって濃度が変化するので、この酸化力を持つオゾンこそがウィルスを抑制する神の手ではないか。③オゾンは低濃度でも新型コロナウィルスに対して不活性化させる威力を持つ。低濃 度で有人の空間に流すことによって、ウィルスを不活性化することができ、ウィルス対策にかなり有力な武器となるのではないか―という3つの仮説である。

 これらの仮説によりウィルス対策にオゾンを使用しようと国内外に提唱した。これはかなりの反響があった。

 また武漢市の医療体制がなぜ医療崩壊に至ったかについて研究し、4月20日に発表した。

 武漢は人口規模が1,400万人であり、東京都と同じ程度の人口規模と密度を持つ街である。この街は医療のリソースが実は豊かな街である。我々が発表した2019年度の中国医療輻射力の中では、武漢は中国の298の都市の中で、上から6位であった。実際にどのくらいリソースを持っているかというと、東京とニューヨークと比較してみると、武漢の1,000人当たりの医師数は4.9人であり、東京の3.3人、ニューヨークの4.6人よりも多い。また1,000人あたりの病床数も武漢は8.6床。これはニューヨークの2.6床よりはるかに多く、東京の9.4床に近い。武漢は非常に豊かな医療のリソースを持っていることが分かる。

 問題は一瞬にして医療崩壊に至ったことだ。原因については、限られた情報をもとに私が分析をした結果、 ①医療現場がパニックに陥った、②医療従事者が大幅に減員された、③病床が足りなかった、という3点だと考えられる。

 具体的にみてみると、オーバーシュートの時には武漢では大勢の人々が病院に駆け込んだ。これが医療現場に大混乱をもたらして、医療リソースを重症患者に与えられなかったため致死率が一気に上がった。

 さらに病院の院内感染により大勢の人たちが病院で感染してしまった。中国での今回の新型コロナウィルス感染による死者数を見てみると、約83%が武漢に集中している。これらの死者の大半は医療現場のパニッ クによるものではないかと考えられる。

 2点目は医療従事者の大幅な減員だ。当時は未知のウィルスに対して知識や装備がなかったということと、検査や治療を行う際の医療行為に危険を伴うものがあり、これにより大勢の医療従事者が感染した。中国では、なかなか良いデータが見つからなかったが、国際看護 師協会が5月6日に出した30カ国の報告データによると、その時点ですでに9万人の医療従事者が感染していた。イタリアの4月26日までのデータを見てみると、2万人弱の医療従事者が感染。東京都の発表では、1月〜6月までに48の医療機関で院内感染が発生し、 医師、看護師そして患者計889人が感染、うち140人が亡くなった。院内感染者数は都内同期間の感染者の14%に相当した。

 もう一つの問題は病床が足りなかったことである。当時、マスクから呼吸器まで様々な医療機器が不足していた。さらに深刻なことは、病床が激しく不足していた。これだけ感染力の強いウィルスなので、しっかりとした体制を整えた病床が簡単に作れず、一気に増えた 患者数に追い付けなかった。これらの問題に対して、中国はどのような対策をとったかというと、まず1月23日に武漢市をロックダウンした。翌日の24日には、武漢市がある湖北省を公衆衛生上の緊急事態対応(Emergency response)レベル1級にした。1級レベルとは、工場、仕事、教育機関をすべてシャットダウンし、人の移動を極力抑えるというものである。ある意味では人と人との接触を極力シャットダウンするという体制であった。

 実は中国には2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)をきっかけに整備した国家的公衆衛生上緊急事態の対応体制があり、それに基づき一気に最高レベルまで引き上げた。1月29日には中国全土を1級となった。 これにより中国では感染者の爆発的な増加がシャットダウンされた。また医療従事者の不足に対しては全国から武漢を含む湖北省へ医療従事者 42,000人を派遣した。これにより、武漢の医療崩壊も食い止められた。感染地域に迅速かつ大規模な援軍を送れるかどうかというのが非常に大きなポイントになる。

 3番目の病床の不足については、武漢で重傷患者者用の専門病院を10日間で2棟建て、さらに軽症患者用の病院を16カ所開設し、病床不足の問題は一気に解決された。

 また、我々のオゾンの研究もかなり生かされていた。一緒にオゾン研究をしていた中国の大手エアコンメーカー遠大グループの創業者である張躍氏が私の友人であり、二人で毎日のように電話で情報を共有し、研究を行っていた。遠大グループは武漢の病院にオゾンの発 生機能を持つ空気清浄機を数多く送り込んだ。これにより、かなり院内感染を防ぐことができたという報告があった。

 2月21日に、早くも甘粛省は対応レベルを1級から3級へと引き下げた。武漢市も4月 8日にロックダウンを77日ぶりに解除した。6月13日には、中国全土のほぼすべての地域が緊急対応3級に引き下げられた。よって、中国は全土をロックダウンに近い緊急事態対 応第1級にして感染拡大を封じ込めたとして、その後、6月13日までに徐々に緊急対応3級に引き下げた。3級というのは、条件付きで普通の生活・仕事ができるようになると理解してよいと思うが、ただし感染状況によって、局地的に上がったり下がったりすることが繰り返されている。例えば6月16日に北京では、クラスター感染があり3級から2級に上げ、1カ月後には3級に引き下げた。そういうことを繰り返しながら、現在の中国国内では、ほぼ普通に生活できるようになっている。

【コロナショックでグローバルサプライチェーンは何処へいく?】

 まず私のバックグラウンドを少し自己紹介する。

 私は大学で工学系、大学院で経済学を勉強していたが、最初のテーマは「IT革命がアジアの新工業化にどのような影響を与えるか」であった。そうした中で、サプライチェーンのグローバル化ということに興味を持ち始め、かなり研究を進めた。さらに研究を深めていく うちにグローバルサプライチェーンは中国や東南アジアで新しいタイプの都市クラスターを作り始めるのではないかと気が付いた。

 その後は、自分の生涯の研究は情報革命、グローバルサプライチェーン、そして都市化の一つの到達点としてのメガロポリスという3点セットとした。2007年の私の著書『中国経済論』の第1章はまるごとグローバルサプライチェーンに費やした。そうしたバックグラウンドの中で、今から約20年前に私は、中国ではメガロポリスの時代が到来すると予測した。グローバルサプライチェーンによって大きなメガロポリスが中国の珠江デルタ、長江デルタ、京津冀の3つのエリアで誕生するとの予見だ。ただし当時、都市化は、アンチ都市化政策を数十年続けてきた中国の皆さんにとってはまだタブーであった。一気にメガロポリスというとんでもない話を持ち込んだことで、メディアも非常に大々的に取り上げた。その後、メガロポリスは政策的にも取り上げられ、今や中国の国家戦略となった。

 10年前、ちょうど中国の経済規模が日本を超えたときに、私は『ジャパン・アズ・ナンバーワン』の著者エズラ・ヴォーゲル教授と対談した。この対談はニューズウィークにも掲載された。その中で中国の経済成長は輸出の拡大と都市化という2つの原動力で実現したと私は述べた。ここで気を付けなければいけないのが、中国の輸出拡大は、日本高度成長期のフルセット型サプライチェーンと違って、グローバルサプライチェーンの上にたったものだというのが私の一貫した認識であ る。WTO(世界貿易機関)加盟直前から今日までの約 20 年で中国の輸出規模は10倍になった。輸出総額で世界第7位であった中国がいまや断トツ1位の輸出大国になった。また輸出に引っ張られてGDPが5倍になり、さらに都市化も猛烈に進んだ。都市の面積(アーバンエリア)でみると3倍弱になった。要するに20年でアーバンエリアは3倍になったのだ。しかしDID(人口集中地区)人口という1 m² 5,000人以上の人口で捉えてみると20%しか増加しておらず、ここに非常に大きな問題がある。

 またこの間、CO2(二酸化炭素)の排出量も3倍以上になった。「中国の流動人口分析図」をみてみると赤い部分はプラスになったところであり、高さは偏差値である。この分析図を見ると一目瞭然だが、珠江デルタ、長江デルタ、京津冀エリアにたくさんの人たちが移動し たことが確認できる。

 2001年の予測と2019年の現実を比較すると、非常にピタッとはまり予言が的中したと言える。社会学、経済学の予見はだいたい当たらないことが多いが、大当たりした。

 輸出と都市化の両輪によって中国は世界経済に占めるシェアを急速に回復させた。200 年前には3割以上あった世界経済における中国のシェアはどんどん落ちてきて、1990年には最低の1.7%になったが、その後徐々に回復し、WTO加盟後にはまさにV字回復が実現し、今では16.3%に至った。

 しかし、中国の成長は沢山の課題に直面している。一つは米中貿易戦争である。もう一つが、突如現れてきた新型コロナウィルスショックである。これによってグローバルサプライチェーンも相当寸断されている。

 5月に私はグローバルサプライチェーンのゆくえに関する論文を発表した。雲河都市研究院は「中国都市製造業輻射力2019」を公表した。中国の各地域・各都市は数十年間にわたり工業化を進めてきたが、必ずしもすべてが成功したわけではない。中国は「世界の工場」 になったが、中国そのものが世界の工場になったというよりは、一部の都市だけが本当の「世界の工場」になっただけで、それ以外のところはむしろ工業化に失敗 したと言えるかもしれない。中国298都市の中で、「中国都市製造業輻射力2019」のトップ10 都市は中国の貨物輸出の半分をつくり出している。これはとんでもない集中度である。しかもこのトップ10都市のうち、深圳・蘇州・東莞、仏山・寧波・無錫・厦門の7都市が、省都市でもなく、直轄市でもない普通の都市だ。全て沿海部にある。これらの都市はグローバルサプライチェーンによって大きな集積地になった。そこで人口も都市の機能もどんどん拡大し、「世界の工場」ともいえるスーパー製造業都市になった。これらの工業都市の現状がどうなっているのかというと、そもそも米中貿易摩擦や新型コロナウィルスがなくても、これまでの成 長パターンは限界に達しているということが我々の分析により分かった。

 2000年から今日までのこれらの都市の平均賃金は、 深圳は5倍、上海は9倍以上になった。成都も8.5倍になり、ほとんどの都市が5倍以上になった。昔のように安い賃金を売りものにして労働集約的な成長は、もはやあり得ない状況になってきた。また実際、今年1月から6月の半年間のこれらの都市の税収を見てみると、軒並み全てマイナスである。しかも2桁マイナスの都市もあり、米中貿易摩擦とコロナショックによる大きな痛手を受けた。ある意味では中国の製造業発展のモデルチェンジを、今、しなければならない状況にある。この話は少し置いておいて、もう一つ重要な産業のエンジンを見てみたい。

【加速化するIT産業の発展】

 IT 産業は中国だけではなく、世界経済を牽引するエンジンとなっている。30年前、平成の幕開けの時、世界の時価総額のランキングトップ10を見ると、1位のNTTをはじめ日本企業が7社入っている。またIT企業はIBMくらいしか入っていなかった。ランクインした日本の7つの企業は国民経済を舞台にしていた企業であった。

 これに対して、2020年8月末の世界の時価総額のランキングを見ると、顕著になっているのはIT企業が目立つということだ。このトップ10の中に、IT企業は7社もあり、ほとんどが世界を舞台にしている企業である。そういう意味では舞台の大きさが違うし、ITという非常に斬新なコンセプトで、集金力の桁が違う。今年の5月にはGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)5社の時価総額の合計は東証1部2,170社の時価総額の合計を超えてしまった。1位のアップルは30年前1位であったNTTの時価総額の13.5倍になっている。面白いのは、テスラが10位に食い込んだことだ。テスラは自動車産業の企業だと思っている人が多いが、実はIT産業の側面も持っている。確かトヨタの売上の11分の1、販売台数は30分の1の企業が、このようなとんでもない評価を 受けたのはIT企業としての側面が強かったからだ。また、ちょうど今、話題になっているが、アメリカで中国のIT企業が制裁を受けている。一つはウィーチャット(WeChat)、もう一つはティックトック(TikTok)である。ティックトックはアメリカ1億人のユーザーを 持っている。ウィーチャットは2,000万人のユーザーを持っている。アメリカの制裁議論の中で、今まで中国はモノしか輸出していなかったと皆さん思っていたのが、アプリの輸出がここまでできたということに気づき驚いているだろう。雲河都市研究院が発表した「中国 都市IT産業輻射力2019」をみると、北京、深圳、上海がトップ3になっているが、トップ10都市への集約度は製造業以上である。トップ10の都市はIT産業の従業者数の6割を占めている。また、香港、深圳、上海の3つのマーケットのメインボードに上場しているIT企業のほぼ4分の3の企業本社がこの10都市にある。とんでもない集約度である。

 製造業輻射力トップ10都市には沿海部の普通の都市が7つも食い込んだことに対して、IT産業輻射力の場合はトップ10の都市は、ほとんど行政中心都市である。製造業とIT産業では繁栄の条件が違う。繁栄の条件が違うのでこのように違うアバターが見られる。これからIT産業でスーパーシティになる都市と、昔、製造業でスーパーシティになった都市はかなり違うのではないかと推測できる。

 もう一つ大切なことは、中国の製造業がどこに行くのか?これについてはいろいろな可能性がある。深圳を見てみると、製造業輻射力は1位であり、IT産業輻射力でも2位まで上り詰めた。深圳にはアメリカの制裁で有名になった企業がたくさんある。例えばZTEとファーウェイ、そしてウィーチャットの親会社のテンセントだ。さらにドローンの世界トップシェアを持っているDJI。これらの企業は全て深圳発のベンチャーIT企業だ。これらの企業の存在は深圳が「世界の工場」 から「IT産業スーパーシティ」へ脱皮している一つのシグナルとしてとらえられるのではないか。中国の製造業はITの力を借りて更なる変化を遂げているのでは ないかと、ある種の楽観的な期待を込めて講演を終わりにしたいと思う。

 最後に中国都市総合発展指標日本語版『中国都市ランキング』を3冊、NTT出版から出していることを紹介したい。このシリーズは毎年メイン報告テーマが違い、2016年度は「メガロポリス戦略」、2017年度は「中心都市戦略」、2018年度は「大都市圏戦略」をテーマとした報告書である。2018年度の本は10月10日に発売される。

 また、今日の話の関連情報は中国都市総合発展指標公式ウェブサイトに日本語・英語・中国語の3つのバージョンで掲載してある。中国語はウィーチャットのサイトもあるので、ぜひ使ってほしい。

 ご清聴ありがとうございました。


【質疑応答】

司会:「輻射力」という言葉がたくさん出てきていますが、どういう指標なのか。改めて定義などもう少し詳しく教えてほしい。

周:輻射力は一つの都市の一つの産業の移出・輸出する力を測る指標だ。基本的に輻射力の高い都市はこの産業は外に移出・輸出できる。そうではない場合、例えば医療輻射力が低いときには、医療サービスを外から買わなければいけない。または外に出て行かなければいけないとイメージしてもらえればよい。輻射力の算出はそれぞれの産業によって若干違うが、ベースとなっているのは従業者数である。従業者数をベースにするアルゴリズムだが、たくさんの周辺指標で補助している。

司会:今回、コロナによるパンデミックがあった。日本で話題になっていることとして、テレワークなどが進み、地方へ移住するような動きがあるのか。また、関連して中国の新型都市化宣言という政策に与える影響は大きくなっていくものか。

周:今回の新型コロナウィルスのパンデミックで皆さんの仕事の在り方は恒久的にかなり影響があると思う。大手IT企業から中小企業まで、かなり恒久的に働き方を変えようとしている。これは間違いなく、より自由に、 場所を選ばず仕事ができるようになるが、これはイコール大都市化が止まるということにはならない。大都市は職場で仕事をするだけではなく、本日のように会って議論をし、新しい情報やコンテンツが生産されるというのが、大都市のメリットだ。同時に大都市にしかないたくさんの都市機能がある。そういうものを享受するのは大都市でないとできない。地方都市も、しっかりとアメニティの充実化や都市のコンパクト化を進めていけばいろいろチャンスはあるが、決して大都市が縮小することはないと思う。我々はさらに自由になることは間違いがない。

 中国の都市政策に関しては、昨年から大都市圏に関する政策が出された。ようやくメガロポリス、中心都市、大都市圏の3大政策がたて続けに出され、しっかりした体系になってきた。本日は都市の話はメインではなかったが、先ほど少し紹介した過去20年で中国アーバ ンエリアは3倍になった。つまり2000年の時期の都市のエリア規模を、さらに2つも作ったが、人口集約からみるとそれほど増えていない。これは中国の都市構造に大きな問題を抱えていることを意味する。これから10年、20年かけて都市の中身の充実化を進めなければいけないと思っている。

司会:今回のコロナで過密を避けるということ、大気汚染などの環境問題もあると思うが、こういう点の是正もあるのか。

周:コロナをシャットアウトするには人と人の接触を止めることが欠かせないので、中国は極端に人との接触をシャットアウトする措置をとった。それには、大きな代償があったが効果は歴然としている。ただし、こうしたやり方は永久的な措置としてはあり得ない。根本的 に解決する一つの手立てとしてはオゾンがある。オゾンはある程度の濃度になると違和感を訴える人がいるが、私の仮説では0.1ppmくらいの自然界の低濃度でも室内のウィルスを不活性化する可能性が十分あり、これによって三密問題がなくなるということだ。今、 「三密」はネガティブに聞こえるが、「三密」無しには 我々の幸福度も生産性も落ちる。人間は接触の動物であり、コミュニケ―ションの動物、社会動物である。早く「三密」が平気でできる社会に戻したい。その一つの武器はオゾンではないかと思っているのでぜひ、オゾンを使ってみてほしい。

司会:経済の見立てに近い所があるが、製造業輻射力はグローバルサプライチェーンと大きな関連があるという話があった。一方で中国国内の内需を重視する戦略もあるかと思うし、国内のサプライチェーン重視という中で、グローバルサプライチェーンより国内を優先するときに今まで発展してきたメガシティに成長が鈍化するなどの変化はあるのか。

周:マーケットはどこであれ、サプライチェーンの効率を考えると沿海部しかない。やはり深水港が近くにあり、部品調達、素材調達、製品の輸出の導線が短い環境を整備できる地域が伸びる。私は20年前から、中国でメガロポリスになり得る地域は沿海部の三カ所しかないと言い続けてきている。なぜかというと、珠江デルタ、長江デルタ、京津冀の三カ所には深水港があり、昔から一定の産業集積があり、世界的にみても新しい時代にふさわしい最高の産業集積地が作れる場所であるからだ。マーケットがどこであっても、これらの地域は、大きく製造業の発展を遂げるのではないかという気がする。導線をなるべく短くしてグローバル的な効率を上げなければいけない産業は、そういうところに張り付くしかないと考える。


【書評】高橋克秀:全295都市を精査 データ、図解で活況を提示する「中国都市ランキング」

評者 高橋克秀(国学院大学教授)

 中国のおよそ300の都市を独自の「都市総合発展指標」によってランキングし、上位都市の強みと弱みを分析したリポートである。それぞれの都市を環境、社会、経済など27項目のデータから客観的に評価した点に特徴がある。

 総合ランキング1位は北京市。上海市は僅差の2位となった。北京と上海は別格として、3位に食い込んだのは、いま中国で最も勢いがある新興都市である。長い歴史を誇る広州市と天津市を抑えて、深圳市が堂々の上位に進出した。人口3万人の漁村だった深圳は40年足らずで1000万人都市となり、中国のシリコンバレーに変貌した。

 1980年に経済特区に指定された当初は安価で豊富な労働力を利用した輸出加工拠点として成長し、「世界の工場」のモデルとなった。しかし近年はイノベーション都市に進化した。深圳からはテンセント、ZT E、ドローンのDJI、電気自動車のBYDなど世界的企業が生まれている。

 深圳の強みは若さと起業家精神だ。平均年齢は32.5歳。15歳未満人口は13.4%。生産年齢人口である15歳以上65歳未満が83.2%を占め、65歳以上は3.4%にすぎない。起業マインドが旺盛で、1人当たりの新規登録企業数は北京の3倍だ。

 さらに、広州から深圳を経由して香港に至る広深港高速鉄道が今年9月に全線開通したことで、「珠江デルタ」と呼ばれるこの地域が巨大な経済圏として浮上してきた。東莞、仏山、中山など有力都市も含む珠江デルタの域内GDP(国内総生産)は2025年までに310兆円に達するという試算もある。

 上海の西部に位置する6位の蘇州市は風光明媚な観光地のイメージが強かったが、90年代以降は大規模な工業団地を造成して外資系製造業を造成して外資系積極的に呼び込んで急成長した。しかし、古都の風情は失われた。7位の杭州市も古くから栄えた景勝地だが、99年に設立されたアリババ(中国の情報技術企業)がけん引役となってIT都市へと変貌した。

 一方、8位の重慶市は世界最大級の3000万人の人口を擁しながら人口流出が目立つ。ランキング20位入りした都市は西部沿海部と内陸の拠点都市が大半。東北地方からは大連市が19位に入っただけである。

 現代中国の都市間競争のカギはスタートアップ企業の活力とイノベーションのようだ。本書の残念な点は21位以下のランキング表が載っていないことである。地方都市の情報を盛り込んだ改訂版を期待したい。


【掲載】週刊エコノミスト 2018年10月16日号

【刊行によせて】周牧之:新型コロナウイルス禍と国際大都市の行方

中国都市総合発展指標2018日本語版・発刊にあたって

周牧之
東京経済大学教授

1. 新型コロナウイルス禍が世界の大都市を直撃


 新型コロナウイルスパンデミックが世界の都市を襲い、大きな被害を与えている。なかでも特にニューヨーク、ミラノ、東京、北京などグローバルシティの感染者が際立って多い。
 外出自粛、休業要請、そしてロックダウンにより、都市生活は一変した。国内はもとより国境を越えた人の往来も止まった。国際都市を支える航空輸送はストップし、滑走路は離陸の機会を失った旅客機で埋め尽くされた。インバウンドの女王ともてはやされた豪華客船は、大規模感染源と化し、地域間を結ぶ高速鉄道(新幹線)は大幅減便され、ひと気の無い車両が行き来している。
 日本は観光立国を掲げ、昨年まで国際観光客数を順調に伸ばしてきた。2019年度の国際観光客数が3,188万人であったことを踏まえ、2020年には4,000万人の受け入れを目指していた。しかし、コロナショックで4月以降、海外観光者数はほぼゼロとなった。
 都市の日常生活も一変した。オフィスワークからテレワークへの強制的な切り替えによりオフィス街は静まり返った。賑やかだった商店街も閑散とした。分業と交流を糧とした高密度の大都市は、「三密」回避の恐怖により「疎の社会」へと化した。

2. 大都市の医療崩壊


 新型コロナウイルスはまず、大都市の医療システムを脅かした。
 中国の武漢市は新型コロナウイルスの試練に世界で最初に向き合った都市であった。同市は27カ所の三甲病院(最高等級病院)を持ち、医師4万人、看護師5.4万人そして医療機関病床9.5万床を擁する。
 雲河都市研究院が公表した「中国都市医療輻射力2019」全国ランキングで武漢は第6位の都市である。しかし、武漢のこの豊富な医療能力が新型コロナウイルスの打撃により、一瞬で崩壊した。
 ニューヨークやミラノといった国際都市の医療キャパシティも同様に、新型コロナウイルスに瞬く間に潰された。第二波にある東京都も目下、医療システム崩壊の危機に直面している。新型コロナウイルスはまさに全世界の都市医療能力を崩壊の危機に晒している。
 新型コロナウイルス禍による都市の「医療崩壊」は、以下の三大原因によって引き起こされた。

(1) 医療現場がパニックに
 新型コロナウイルス禍のひとつの特徴は、感染者数の爆発的な増大だ。とりわけオーバーシュートで猛烈に増えた感染者数と社会的恐怖感とにより、感染者や感染を疑う人々が医療機関に大勢駆け込み、検査と治療を求めて溢れかえった。病院の処置能力を遥かに超えた人々の殺到で医療現場は混乱に陥り、医療リソースを重症患者への救済にうまく振り向けられなくなった。医療救援活動のキャパシティと効率に影響を及ぼし、致死率上昇の主原因となってしまった。さらに重大なことに、殺到した患者、擬似患者、甚だしきはその同行家族さえ長期にわたり病院の密閉空間に閉じ込められ、院内感染という大災害を引き起こした。
 人口1千人当たりの医師数でみると、イタリアは4人で、医療の人的リソースは国際的に比較的高い水準に達している。しかし新型コロナウイルスのオーバーシュートで医療機関への駆け込みが相次ぎ、医療崩壊を招いた。
 アメリカ、日本、中国の人口1千人当たりの医師数は、各々2.6人、2.4人、2人であり、医療の人的リソースはイタリアに比べ、はるかに低い水準にある。
 よくも悪くも中国の医療リソースは中心都市に高度に集中している。武漢は人口1千人当たりの医師数は4.9人で全国の水準を大きく上回る。武漢と同様、医療の人的リソースが大都市に偏る傾向はアメリカでも顕著だ。ニューヨーク州の人口1千人当たりの医師数は4.6人にも達している。
 しかし武漢、ニューヨークの豊かな医療リソースをもってしても、新型コロナウイルスのオーバーシュートによる医療崩壊は防ぎきれなかった。5月31日までに、中国の新型コロナウイルス感染死者数の累計83.3%が武漢に集中していた [1]その多くが医療機関への駆け込みによるパニックの犠牲者だと考えられる。
 東京都は人口1千人当たりの医師数が3.3人で、これは武漢より低く、ニューヨークと同水準にある。日本政府は当初から、医療崩壊防止を新型コロナウイルス対策の最重要事項に置いていた。新型コロナウイルス検査数を厳しく制限し、人々が病院に殺到しないよう促した。目下、こうした措置は一定の効果を上げ、医療崩壊をかろうじて食い止めている。しかし、検査数の過度の抑制は、軽症感染者及び無症状感染者の発見と隔離を遅らせ、治療を妨げると同時に、莫大な数の隠れ感染者を生むことに繋がりかねない。軽症感染者、無症状感染者の放置は日本の感染症対策に拭い切れない不穏な影を落としている。

(2) 医療従事者の大幅減員
 ウイルス感染による医療従事者の大幅な減員が、新型コロナウイルス禍のもう1つの特徴である。
 とくに、ウイルス感染拡大の初期、各国は一様に新型コロナウイルスの性質への認識を欠いていた。マスク、防護服、隔離病棟などの資材不足がこれに重なり、医療従事者は高い感染リスクに晒された。こうした状況下、PCR検体採取、挿管治療など、暴露リスクの高い医療行為への危険性が高まった。これにより各国で現場の医療人員の感染による減員状態が大量に起こった。オーバーシュートで、もとより不足していた医療従事者が大幅に減員し、危機的状況はさらに深刻化した。
 強力な感染力を持つ新型コロナウイルスは、医療従事者の安全を脅かし、医療能力を弱め、都市の医療システムを崩壊の危機に陥れている。

(3) 病床不足
 新型コロナウイルス感染拡大後、マスク、防護服、消毒液、PCR検査薬、呼吸器、人工心肺装置(ECMO)などの医療リソースの枯渇状況が各国で起こった。とりわけ深刻なのは病床の著しい不足である。感染力の強い新型コロナウイルスの拡散防止のため、患者は隔離治療しなければならない。とりわけ重症患者は集中治療室(ICU)での治療が不可欠だが、実際、各国ともに病床の著しい不足に喘いでいる。
 問題なのは、すべての病床が新型コロナウイルス治療の隔離要求に耐えるものではない点にある。これに、爆発的な患者増大が加わり、病床不足が一気に加速した。

3. 迅速な支援がカギ


 武漢の医療従事者大幅減員に鑑み、中国は全国から大勢の医療従事者を救援部隊として武漢へ素早く送り込んだ。武漢への救援医療従事者は最終的に4万2,000人に達した。この措置が武漢の医療崩壊の食い止めに繋がった。
 さらに武漢は国の支援で迅速に、専門治療設備の整う火神山病院と雷神山病院という重症患者専門病院を建設し、前者で1,000床、後者で1,600床の病床を確保した。このほかに、武漢は体育館などを16カ所の軽症者収容病院へと改装し、1万3,000床の抗菌抗ウイルスレベルの高い病床を素早く提供し、軽症患者の分離収容を実現させた。先端医療リソースを重症患者に集中させ、パンデミックの緩和を図った。武漢は火神山、雷神山両病院そして軽症者収容病院建設により、病床不足は解消された。
 感染地域に迅速かつ有効な救援活動を施せるか否かが、新型ウイルスへの勝利を占う1つのカギである。しかし、全ての国がこうした力を備えているわけでない。ニューヨーク、東京の状況からすると、医療リソースがかなり揃っている先進国でさえ救援できるに足りる医療従事者を即座に動員することは難しい。
 最も深刻なことは、医療リソースに著しく欠ける発展途上国、アフリカはいうに及ばず巨大人口を抱えるアジアの発展途上国の、人口1千人当たりの医師数はインドが0.8、インドネシアは0.3である。1千人当たりの病床数は前者が0.5、後者は1だ。こうした元々医療リソースが稀少かつ十分な医療救援能力を持たない国にとって、新型コロナウイルスのパンデミックで引き起こされる医療現場のパニックは悲惨さを極める。グローバルな救援力をどう組織するかが喫緊の解決課題となっている。問題は、大半の先進国自体が、新型コロナウイルスの被害の深刻さにより、他者を顧みる余裕を持たないことにある。

4. グローバルサプライチェーンを寸断


 新型コロナウイルス禍はグローバルサプライチェーンを寸断させ、産業活動に大きな打撃を与えた。
 IT革命、輸送革命、そして冷戦後の安定した世界秩序から来る安全感によって製造業のサプライチェーンは、国を飛び出し、グローバルに展開した。工場やオフィスの最適立地が世界規模で一気に進んだ。中国の沿海部での急激な都市化、メガロポリス化がまさにグローバルサプライチェーンによってもたらされた。
 グローバルサプライチェーンは世界規模に複雑に組み込まれて進化してきた。例えば、アメリカのカリフォルニアで設計され、中国で組み立てられるiPhoneの場合、その部品調達先の上位200社だけとってみても28カ国・地域に及ぶ。
 しかし新型コロナショックによるロックダウン、国境封鎖など強力な措置により、グローバルに巡らされたサプライチェーンは寸断され、これまで当たり前のように動いていた供給体制は機能不全に追い込まれた。海外からの部品供給が止まったことで日本国内の工場は操業停止のケースが相次いだ。
 「世界の工場」中国もサプライチェーンの寸断で大きな被害を受けることとなった。雲河都市研究院が公表した「中国都市製造業輻射力2019」ランキングトップ10位都市の深圳、蘇州、東莞、上海、仏山、寧波、広州、成都、無錫、廈門は、2020年第一四半期の一般公共予算収入が軒並みマイナス成長となった。とくに、深圳、東莞、上海、仏山、成都、廈門の6都市の同マイナス成長は二桁にもなった。中国の貨物輸出額の50%を実現してきた同トップ10都市は、まさに世界に名だたる製造業都市である。これら都市の大幅な税収低迷は、中国の輸出工業が大きな試練に晒されていることを意味している。
 物理的、一時的な寸断よりは、長期的な価値判断の変化がより大きな影響を及ぼす。先行きの不透明さや不確実性により、企業経営は効率と成長一辺倒の姿勢から、もしもの事態に備えた在庫のあり方や資金確保など「冗長性」が重視されるようになった。「Just in time」から「Just in case」へと急転換する経営姿勢が、サプライチェーンのあり方に大きな影響を及ぼしつつある。
 サプライチェーンの過度の海外依存も国の危機管理の脆さを露呈した。例えば、アメリカの医薬品の材料の72%は外国産である。抗生物質に限ると97%が外国産に頼っている。こうした医療資材の海外依存は、オーバーシュート時における医療品不足に拍車をかけた。日本でもマスクの海外からの供給が止まったことで、市場からその姿が消えた。本来、効率を優先して組み立てられたグローバルサプライチェーンは、経済の安全保障化(Securitization)により、再組織の機運が高まっている。
 もとよりグローバルサプライチェーン自体のあり方も変質している。従来のサプライチェーンのグローバル化は、労働集約型の部分と、知識集約型の部分を地理的に分けて最適立地を進めてきた。しかしここに来てむしろ得意の部分と不得意の部分を地理的に分けてつなげ、最適立地を促すようになった。すると、サプライチェーンがさらに複雑かつ高速に絡み合うことになる。そうした変化がサプライチェーンを潤滑に進めるための契約の集約度 [2]を一層高める。よってサプライチェーンに関わる国の法制度の質が、この契約集約的な生産体制の効率を左右することとなる。
 だが、こうした動きはサプライチェーンのグローバル化を止めることはなく、そのより健全な展開を促すであろう。例えば、半世紀前の石油危機では石油のグローバル供給の脆弱性が認識され、それを備蓄で対処した。その後各国は備蓄のキャパシティを高めたが、石油貿易自体は止まらなかった。世界経済の石油貿易に対する依存度はむしろ深まった。
 世界経済のグローバルサプライチェーンへの依存度は今後さらに深まるだろう。ただし、サプライチェーンのグローバル展開はグローバリゼーションの回復力をテコに、冗長性、セキュリティ、法制度の質などをキーワードとして再編され、進化していくだろう。

5. 地球規模の失敗


 大航海時代から今日まで、人類は一貫して感染症拡大の脅威に晒され、この間、幾度となく悲惨な代償を払ってきた。例えば、1347年に勃発したペストで、ヨーロッパでは20年間で2,500万もの命が奪われた。1918年に大流行したスペインかぜによる死者数は世界で2,500万〜4,000万人にも上ったとされる。
 ここ100年余りにわたる抗菌薬とワクチンの開発及び普及により、天然痘、小児麻痺、麻疹、風疹、おたふく風邪、流感、百日咳、ジフテリアなど人類の健康と生命を脅かし続けた感染症の大半は、絶滅あるいは制御できるようになった。1950年代以降、先進国では肺炎、胃腸炎、肝炎、結核、インフルエンザなどの感染疾病による死亡者数を急激に減少させ、癌、心脳血管疾患、高血圧、糖尿病など慢性疾患が主要な死因となった。
 感染症の予防と治療で勝利を収めたことで、人類の平均寿命が伸び、主な死因も交代した。世界の国々の中でもとりわけ先進国の医療システムの焦点は、感染症から慢性疾患へと向かった。その結果、各国は感染症予防と治療へのリソース投入を過少にし、現存する医療リソースを主として慢性疾患に傾斜させる構造的な問題を生じさせた。医療従事者の専門性から、医療設備の配置、そして医療体制そのものまで新型ウイルス疾患の勃発に即座に対応できる態勢を整えてこなかった。
 その意味では、新型コロナウイルスが全世界に拡散した真の原因は、国際的な人的往来の速度と密度ではなく、人類が長きに渡り、感染症の脅威を軽視したことにこそある。
 世界経済フォーラム(WORLD ECONOMIC FORUM)が公表した「グローバルリスク報告書2020(The Global Risks Report 2020)」の、今後10年に世界で発生する可能性のある十大危機ランキングに、感染症問題は入っていなかった。また、今後10年で世界に影響を与える十大リスクランキングでは、感染症が最下位に鎮座していた。
 不幸にして世界経済フォーラムの予測に反し、新型コロナウイルスパンデミックは、人類社会に未曾有の打撃を与えた。新型ウイルスとの闘いにおいて、武漢、ニューヨーク、ミラノといった分厚い医療リソースを持つ大都市さえ対策が追いつかず、悲惨な代償を払うことになった。
 ビル・ゲイツは2015年には、ウイルス感染症への投資が少な過ぎる故に世界規模の失敗を引き起こす、と警告を発していた [3]。新型コロナウイルス禍はビル・ゲイツの予言を的中させた。

6. 科学技術進歩を刺激


 緊急事態宣言、国境封鎖、都市ロックダウン、外出自粛、ソーシャルディスタンスの保持など、各国が目下進める新型コロナウイルス対策は、人と人との交流を大幅に減少かつ遮断することでウイルス感染を防ぐことにある。こうした措置は一定の成果を上げるものの、ウイルスの危険を真に根絶させ得るものではない。ウイルス蔓延をしばらく抑制することができても、その効果は非常に脆弱だと言わざるを得ない。次の感染爆発がいつ何時でも再び起こる可能性がある。
 しっかりとした対策が成果をあげるにはやはり科学技術の進歩に頼るほかない。新型コロナウイルス危機勃発後、アメリカをはじめとする各国でPCR検査方法を幾度も更新し、検査結果に要する時間を大幅に短縮した。安価で、ハイスピードかつ正確な検査方式が大規模な検査を可能にした。特効薬とワクチンの開発においても各国がしのぎを削っている。
 人類は検査、特効薬、ワクチンの三種の神器を掌握しなければ、本当の意味で新型コロナウイルスをコントロールし、勝利を収めたとは言えないだろう。
 危機はまた転機でもある。近現代、世界的な戦争や危機が起こるたびに人類は重大な転換期に向き合い、科学技術を格段に進歩させてきた。第二次世界大戦は航空産業を大発展させ、核開発の扉を開けるに至った。冷戦では航空宇宙技術の開発が進み、インターネット技術の基礎をも打ち立てた。新型コロナウイルスも現在、関連する科学技術の爆発的な進歩を刺激している。
 新型コロナウイルスが作り上げた緊迫感は技術を急速に進歩させるばかりでなく、技術の新しい進路を開拓し、過去には充分に重視されてこなかった技術の方向性も掘り起こす。例えば、漢方医学は武漢での抗ウイルス対策で卓越した効き目をみせ、注目を浴びている。漢方医学は世界的なパンデミックに立ち向かうひとつの手立てになりうる。
 オゾンもまた偏見によりこれまで軽視されてきた。筆者は2020年2月18日にはオゾンについて論文を発表し、「自然界と同レベルの低濃度オゾンであっても新型コロナウイルスに対して相当の不活化力を持つ」との仮説を立て、新型コロナウイルス対策として、オゾンの強い酸化力によるウイルス除去を呼びかけた [4]。オゾンは室内空間のすべてに行き届き、その消毒殺菌に死角は無い。また、酸化力によるオゾンの消毒殺菌は有毒な残留物を残さない。さらに、オゾンの生成原理は簡易で、オゾン生産装置の製造は難しくない。オゾン発生機のサイズは大小様々あり、個室にも大型空間にも対応できる。設置が簡単なため、バス、鉄道、船舶、航空機などどこでも使用可能である。こうしたオゾンの特質を利用し、室内のウイルス感染を抑えることができる。
 オゾンは非常に優れた殺菌消毒のパワーを持つが、個人差はあるものの一定の濃度に達した場合に人々に不快感を与え、また、粘膜系統に刺激を与えることもある。そのため、目下、主に無人の空間で使用されている。有人空間の利用を可能とするには、オゾン濃度のコントロールが必要である。自然界に近い濃度のオゾンを室内に取り入れられれば、人々に不快感を与えることはない。しかし問題は目下、低濃度のオゾンを高精度に測定するセンサーが大変高価なことである。高精度のオゾンセンサーを容易に使えないため、普及型低濃度オゾンのコントロールはいまだ実現できていない。オゾンセンサーの開発にも技術の急激な進歩が期待される。

7. 一気に加速するデジタル化


 新型コロナウイルスショックは世の中の価値判断の基準を一気に変えた。これから成長する企業とそうではない企業に対するジャッジメントは、時価総額により見て取れる。コロナパンデミック以降、投資マネーが次の成長企業を探して急激に動いていることで、時価総額の順位は激しく変動している。
 まず、新型コロナウイルス禍の影響で、他業種は軒並み時価総額を減らしているのに対して、IT企業が大きく伸びた。2020年5月初め、アルファベット(グーグル持ち株会社)、アマゾン、フェイスブック、アップル、マイクロソフトを合わせたGAFAM5社の時価総額は、東証一部約2,170社の合計を上回った。
 今から30年前、平成が幕を開けた1989年、世界の企業時価総額ランキングトップ10企業のうち、7社が日本企業で占められた。通信、金融、電力の企業であった。IBMは大型コンピューター業界の巨人として同ランキングで第6位を獲得し、かろうじて当時のIT業界の存在感を示していた。
 これに対して2020年8月末には、世界の企業時価総額ランキングトップ10企業のうち、7社がネット関連のIT企業となった。特にアップルは2兆ドルを突破し(米国初)、企業時価総額世界第1位に躍り出た。GAFAMに続き、中国のネット関連企業、テンセントとアリババがそれぞれ同ランキングで第7位、第8位だった。
 企業の成長性に対する期待感を表すプライス・トゥー・レベニュー(Price to Revenue:時価総額対売上の倍率)でもIT企業が高く、例えばフェイスブックの場合は9倍となる。それに対して、トヨタを含む自動車メーカーの場合は1倍に割り込むものがほとんどで、産業による明暗が大きく分かれた。しかし同じ自動車メーカーでもテスラの場合、10倍になった。テスラの時価総額が2020年7月、トヨタを抜いて自動車産業のトップに立ったことが話題になった。売上はトヨタの11分の1、販売台数は30分の1でしかない。
 テスラにIT企業並みの成長への期待感が出た最大の原因は、同社が、自動車を、ソフトのダウンロードにより性能のアップデートを可能とした「電気で走るIT機器」へと大変身させたことにある。シリコンバレー発の自動車メーカーと、伝統的な自動車メーカーの発想は違う。発想の斬新さに、投資家がテスラを次代のリィーディングカンパニーとして高く評価した。新興勢力のテスラは既存の王者を追い抜き、自動車業界の時価総額で世界首位となった。8月末、世界の企業時価総額ランキングにおけるテスラの順位は7月の第22位から、第10位へと大躍進した。
 非IT業界でも、デジタルトランスフォメーション(DX)の巧拙が企業の明暗を分けている。DXに遅れた企業は、業績もマーケットの評価も振るわない場合が多い。デジタル化の対応力が企業の運命を左右している。コロナショックで小売業界が厳しい試練に晒される中、アメリカでは5月7日に高級百貨店のニーマン・マーカスが、5月19日には大衆百貨店のJCペニーが、相次ぎ経営破綻した。これに対してウォルマートは2〜4月期の純利益が、前年同期比4%増の39億9,000万ドルに達した。これを牽引したのは売上高が同7割増したネット販売だった。
 メディア業界でも地殻変動が起こっている。娯楽・メディアの王者ウォルト・ディズニーの時価総額世界ランキングが下がったのに対し、動画コンテンツ配信新興勢力のネットフリックスが、時価総額を急上昇させ、同順位は前者のそれを超えた。

8. 接触の経済性が交流経済を後押し


 グローバリゼーションの中で、大都市化そしてメガロポリス化も一層世界の趨勢となった。1980年から2019年の間、世界で人口が100万人以上純増したのは326都市となり、この間これらの都市の純増人口は合計9億4,853万人にも達した。とりわけ、人口が1,000万人を超えたメガシティは1980年の5都市から、今日33都市にまで膨れあがった。こうしたメガシティはほとんどが国際交流のセンターであり、世界の政治、経済発展を牽引している。これらメガシティの人口は合わせて5億7,000万人に達し、世界の総人口の15.7%をも占めている。
 グローバリゼーションが進むにつれ、国際間の人的往来はハイスピードで拡大し、世界の国際観光客数は30年前の年間4億人から、2018年には同14億人へと激増した。しかし、国際間における大量の人的往来は新型コロナウイルスをあっという間に世界各地へ広げ、パンデミックを引き起こした。国際交流が緊密な大都市ほど、新型コロナウイルスの爆発的感染の被害を受けている。
 新型コロナウイルスのパンデミックで、各国はおしなべて国境を封鎖し都市をロックダウンして国際間の人的往来を瞬間的に遮断した。グローバリゼーションの未来への憂慮、国際大都市の行方に対する懸念の声が絶えず聞こえてくるようになった。
 こうした懸念に答えるためには巨大都市化の本質を理解する必要がある。200年余りの近代都市化のプロセスにおいて、都市を支える経済エンジンは実に目まぐるしく変化してきた。この経済エンジンの変化は、巨大都市化を突き動かしている。
 工業社会から情報社会へ急速にシフトする中、情報革命が都市のあり方をどう変えるかについて希望的観測がある。人々は煩わしい大都市から離れ、田舎の牧歌的な生活を楽しみながら、情報社会における高い生産性を実現できるというものである。これであれば、知識経済における大都市の役割と必然性はかなり薄まる。ところが実際には、大都市の役割は薄まるどころか、強まる一方である。産業と人口を大都市へ集中させる力は、工業社会より情報社会の方が格段に強くなっている。
 なぜこのような事態が生じたのか?それに答えるためには知識経済の本質を探らなければならない。知識経済の本質は、人間という情報のキャリアにある。情報キャリアとしての人間が、情報交換や議論の中で、知の生産と情報の判断を行うことが知識経済の本質である。効率的な情報交換と議論こそが、知識経済の生産性の決め手となる。
 しかし、人間の持つ情報は2種類ある。1つはITでやりとりできる「形式知」である。もう1つはITでやりとりできないか、あるいは、人と人との信頼関係によってしか流れない「暗黙知」である。前者と比べ後者ははるかに重要である。その意味では、情報の空間克服技術であるIT のみに頼る情報交換や議論は不完全なものである。つまり、IT を通じて外に出せる情報と、IT 社会においても外に出せない情報を人間は持っている。外に出せる情報は情報革命によって、毎秒30万キロのスピードで世界を駆け巡っている。情報技術の向上はまた外に出せない情報を持つ人と人との接触を増やしている。
 上記の分析に基づけば、工業経済では「規模の経済性」原理が働くのに対して、知識経済では「接触の経済性」[5]原理が働くと言えよう。知識経済の生産性において、接触の多様性、意外性、そしてスピードは非常に重要である。情報の均一性を重んじる工業経済とは対照的に、知の生産においては同質の情報しか持たない人間同士の接触より、異質の情報キャリア間の接触の方が重要性を増す。情報キャリアの多様性と接触の意外性、そして接触のスピードは情報経済の生産性の決め手となる。その意味では、知識経済は正に「交流経済」である。
 知識経済の時代は人と人との触れ合いの時代である。フェイス・トゥ・フェイスコミュニケーションの中で、瞬間的に情報と知識の創造と交換が起こる。多種多様な情報キャリアたる人々が往来し、生活する大都市は、接触の多様性、意外性、そしてスピード性を実現できる格好の空間である。こうした都市で知識は企業、組織の境界を超えてスピルオーバー(漏出)効果が働き、知識の生産性が一層高まる。
 人と人とが触れ合うプラットフォームを提供する場としての重要性が高まる国際大都市の役割は、ますます大きくなっている。これがゆえに、知識経済における大競争に勝ち残った国際大都市への、経済と人口の集中は、より進んできた。
 ジェット機、コンテナ輸送、高速鉄道といった輸送革命が、経済的な地理、心理的な地理を縮めてきた。情報革命もこうした地理感覚をさらに圧縮してきた。コロナ禍で急速に進むオンライン化は、結果的に情報の一層のグローバル化に拍車をかける。よって経済地理、心理的地理は一層縮まるだろう。オンラインとフェイス・トゥ・フェイスとの組み合わせによる新しいコミュニケーションスタイルが生まれ、国際大都市の役割はさらに高まるだろう。

9. グローバリゼーション、そして大都市化は止まらない


 IT産業は代表的な交流経済である。雲河都市研究院が公表した「中国IT産業輻射力2019」のトップ10都市は、北京、深圳、上海、成都、広州、杭州、南京、福州、武漢、西安であった。この10都市は中国のIT産業従業者数の6割を有し、73%のメインボード(香港、上海、深圳)に上場するIT企業を持つ。
 この10都市は、共通して中国を代表する国際都市であると同時に、人口流入都市でもある。IT産業は、まさに国際交流を糧に成長し、都市の繁栄と人口増大をもたらしている。
 日本では、一都三県からなる東京圏の人口も、1950年の1,000万人台から今日の3,700万人へと膨れ上がった。そのコアとなる東京都は2020年5月1日に人口が1,400万人を突破した。2009年4月1日の1,300万人突破から11年で、100万人増加した。東京の2019年の合計特殊出生率は1.15と全国最低だ。人口増の7割以上が都外からの転入による社会増だった。
 東京は、日本でダントツにIT輻射力の高い都市である。東京圏には東証メインボード上場のIT企業の8割が集中し、IT産業従業者数は100万人を超えている。
 東京圏は、ITを始め魅力的な仕事が多いだけでなく、225カ所の大学も立地し、全国の4割に当たる118万人の大学生、全国の半数となる15万人の留学生を集めている。
 総務省によると2019年、生産年齢人口(15〜64歳)の東京への転入超過数は、9.6万人に達した。
 日本政府は早い段階から東京圏への一極集中是正にさまざまな政策を打ち出しているが、東京への人口流入を止めることはできなかった。
 コロナパンデミックの中で、東京から地方へ人口が流出する予測が高まっている。しかし、筆者は東京都市圏のシュリンクはそう簡単に進まないと見ている。国際大都市を魅力と感じる人々が集まってくる傾向がこれからも続く。
 さらに注目すべきは、世代を重ねて人口が東京圏に定着してきたことである。現在、首都圏 [6]在住者の7割が東京圏出身であり、地方出身は3割だ。首都圏で生まれた30歳未満の若い世代は、両親とも首都圏出身者が5割に達する [7]。地方との縁の薄い人々が首都圏で増えているなかで、コロナショックがあっても地方への人口の逆流はあまり期待できない。実際、NHKが6月に都民1万人を対象に実施したアンケート調査によると、東京に住み続けたいかとの質問に対して、コロナ禍の真最中にも関わらず、87%が住み続けたいと回答した [8]
 大都市の人口密度がコミュニケーションの密度を高め、効率性、生産性、創造性を促してきた。最も人口集積の高い東京都の一人当たりの所得水準は、日本で最も高く、全国平均の約1.7倍にもなる。この高い所得水準もさらに若者を惹きつけている。
 しかし、新型コロナの影響で3密が危険視され、人と人の距離が隔たった。「疎の社会」がニューノーマルになると考える人も少なくない。これに対して筆者は、より楽観的である。安くて性能に優れたオゾンセンサーが開発できれば、有人空間でオゾン利用が可能になる。これにより、室内における飛沫感染が解消され、3密問題は根本的に解決する。人と人の距離は疎から密に戻すことができると確信している。
 グローバル化に猛進する21世紀はすでに3度のグローバル的なショックを受けている。ひとつは、2001年の9.11のテロ事件で、2度目は2008年リーマンショック、3度目は今回の新型コロナウイルス禍である。しかし、やがて人類は、新型コロナウイルス禍を乗り越える。新型コロナウイルスパンデミックを収束させた後には、より健全なグローバリゼーションとより魅力的な国際大都市が形作られるであろう。

10.〈中国都市総合発展指標2018〉の特色


 中国都市総合発展指標は、データをもって価値判断を実証する側面が強い。環境、社会、経済の三つの側面から都市を評価すると同時に、「DID」「輻射力」などの概念を数字化し、中国で人口密度と輻射力の大切さを植え付けた。筆者が20年前から提唱してきたメガロポリスや都市圏政策も、同指標の力を借りて一層浸透できた。中国都市総合発展指標のメインレポートは、2016年度は「メガロポリス発展戦略」、2017年度は「中心都市発展戦略」、2018年度は「大都市圏発展戦略」として展開してきた。また、こうした戦略を促すために、同指標をベースに「中心都市&都市圏発展指数」をも開発し、公表した。
 現に、中国政府はメガロポリス、中心都市、都市圏などをコアに、都市化政策を展開するようになってきた。同指標に関わった専門家らにはいささかの達成感がある。
 中国都市総合発展指標の評価の公開度もアップしてきた。総合ランキングの公表は2016年度のトップ20都市から、2017年度はトップ150都市へ、そして2018年度になると全298都市になった。
 中国都市総合発展指標のデータ構成にも工夫がある。従来、都市に関連する指標は、統計データによるものであった。しかし、統計データだけでは複雑な生態系と化した都市を描き切れない。中国都市総合発展指標は、統計データのみならず、衛星リモートセンシングデータ、そしてインターネット・ビックデータをも導入し、都市を感知する「五感」を一気にアップさせた。現在、指標のデータリソースは、統計、衛星リモートセンシング、インターネット・ビックデータは、各々ほぼ3分の1ずつの分量となった。中国都市総合発展指標は、こうした垣根を超えたデータリソースを駆使し、都市を高度に判断できるマルチモーダルインデックス(Multimodal Index)へと進化した。
 2020年7月に米PACE大学出版社から中国都市総合発展指標の英語版が出版された。これで、中国語版、日本語版、英語版が揃った。これを契機に、指標をさらに進化させていく所存である。
 コロナ禍のさなか、大切な研究仲間、山本和彦さんの訃報にふれた。山本さんは森ビル副社長の時代から「江蘇省鎮江ニューシティマスタープラン」や中国都市総合発展指標の議論に参加してくださり、国内外での研究会や飲み会でたくさんの叡智を授かり、幾度も楽しい時間を一緒に過ごした。ご退院後にお手紙をいただき、体調が回復したら吉祥寺で飲みましょうとの嬉しいお言葉を頂戴していた。これが実現できなくなったいま、山本さんのご期待に応えるべく一層の研究成果を出し続けるほかない。


[1] 2020年5月31日以降に武漢では新型コロナウイルス感染による死者は出ていない。

[2] 「米ハーバード大学ネイサン・ナン教授は、複雑なサプライチェーンを通して生産される製品は様々な取引を伴うので「契約集約的」という言い方もできると指摘する」、猪俣哲史「制度の似た国同士で分業へ 国際貿易体制の行方」、『日本経済新聞』2020年7月14日朝刊。

[3] ビル・ゲイツ氏、2015年3月「TED TALK」での講演「The next outbreak? We’re not ready」。

[4] オゾンに関する筆者の論文はまず中国語版が2020年2月18日に「这个“神器”能绝杀新冠病毒」とのタイトルで中国の大手メディアである中国網で発表された。その後、英語版はOzone: a powerful weapon to combat COVID-19 outbreakのタイトルで2月 26日に China.org.cnで発表された。日本語版は「オゾンパワーで新型コロナウイルス撲滅を」とのタイトルで2020年3月19日にチャイナネットで発表された。半年後の8月26日に学校法人藤田医科大学は、同大学の村田貴之教授らの研究グループが、低濃度のオゾンガスでも新型コロナウイルスに対して除染効果があるとの実験結果を発表した。この実験は筆者の2月論文の仮説にとって貴重なエビデンスとなった。

[5] 接触の経済性について、詳しくは、周牧之著『中国経済論—高度成長のメカニズムと課題』日本経済評論社、2007年、pp231〜233を参照。

[6] 首都圏整備法は、首都圏を埼玉県、千葉県、神奈川県、茨城県、栃木県、群馬県および山梨県と規定している。

[7] 斉藤徹弥「首都圏出身者は地方を向くか」、『日本経済新聞』2020年7月16日朝刊。

[8] NHK「東京都知事選 都民1万人アンケート」2020年6月21〜24日。

【刊行によせて】南川秀樹:中国大都市の生命力の源泉は何か


南川 秀樹
日本環境衛生センター理事長、中華人民共和国環境に関する国際協力委員、元環境事務次官


-歴史的視点と現状の分析-


 1.都市は国の一部であり、また、国全体の代表でもある。東京、横浜と言えば日本の象徴であり、北京や上海は中国の代名詞でもある。代表的な大都市は、歴史的にも地理的にも、それらが栄えた時代の代表として評価される。

 私の手元には、「清明上河図」(Riverside Scene on Qingming Festival) がある。最も好きな絵の一つである。現在、私は中国政府の環境国際協力委員会の委員を務めており、中国の様々な情報に接する機会が多いが、以前から中国オタクであり、政治や経済はもとより、文化、学問などあらゆる分野の中国の歴史探求が趣味である。上記の絵を評価するのも、そこに示されている宋の都である開封市の経済的な繁栄や、それを支える人々の仕事と遊びが描かれていることにある。この時代から中国の本格的な商工業が成立したと考えており、南宋時代も含めた300年が中国資本主義のスタートと捉えている。そして、その象徴がこの絵に込められている。最も関心を寄せる歴史上の人物は、この宋の時代に変革者として現れ、政治と経済の改革に全力を尽くした王安石である。彼の目指したところは、大商人・大地主などの利益を制限して農民や中小の商人を保護する、そして、経済活動全体を活性化し、政府も納税額を確保しようというものである。中国の長い歴史の中でも特筆すべき新たな経済思想に裏付けられた改革であった。当然のごとく既得権を有するグループからの反対は強く、道半ばにして改革は頓挫したが、こうした挑戦がある程度行われたこと自体が、宋という時代の特徴をなしている。

 開封市、杭州市という二つの首都は、この時代の世界的な大都市であり、経済の中心としてよく機能している。日本でも、初めて武士による政治と経済のリーダーとなった平清盛は、この宋という国と首都の機能を高く評価していた。

 2.生産、流通、消費の機能を備えた都市の成立は、中国がヨーロッパに先行した。それは高い経済力とセットであり、世界一の経済力と高度な技術力(火薬、羅針盤、活版印刷の発明)が裏づけとなった。宋、元の時代を経て、明の初期には、鄭和率いる大船団がアフリカにまで達した。優れた工学技術力がその基礎にあった。しかし、その後の、事実上の鎖国政策、片や欧州では保険などの金融システムや株式資本といった文科系技術の導入があり、その結果として欧州、そして遅れてきたアメリカによる世界支配の時代に入った。

 3.中国が長期の停滞から脱却したのは、1980年頃からであり、改革開放路線の導入による。北京、上海は当然のこととして、天津、武漢、重慶、瀋陽、広州、仏山、長春などの工業都市、鞍山、撫順、大慶などの鉱業都市の大都市化が進んだ。中国は、「世界の工場」として成長し、重要な労働力として農村部から都市部への人口移動が行われた。そうした地域では、当初、一部地区のスラム化現象が見られたが、徐々に生活環境が整備され、新たに形成された中産階級の生活の舞台として、効率の良い都市となっていった。例外は香港であり、連合王国の監督の下、1960年頃からアジアの金融のハブとして成長を遂げいち早くアジアを代表する大都市となった。

 4.現在も、中国は大都市の起爆力を維持しながら経済的な力を増しつつある。その力は、いくつかの源を有する。まず①「世界の工場」であり続けることである。経済成長に伴う賃金水準の急激な上昇により「安かろう悪かろう」の製品作りの時代は終わり、ハイテクを用いたレベルの高い工業製品の製造に転換しつつある。現実に、時代の最先端を行く再生可能エネルギーの製品は、ソーラーパネルを筆頭に中国製品が世界の市場を席巻している。質は日本製と変わらず、値段が圧倒的に安いのである。これは、スマホ生産でも同じである。②ついで、BATと称されるGAFAに匹敵する企業の躍進である。百度、阿里巴巴、騰訊に加え、ネクストBATとしてTMDの成長も見られ、知識集約型の都市の成長も見られる。③AI、IoT分野を中心に大学での研究も世界のトップレベルを走っている。清華大学を始め、北京大学、天津大学、復旦大学、中国科学技術大学、武漢大学、湖南大学などが、大都市区域の中心に位置し、それぞれの都市に活力を与えている。④ユニコーン企業の大都市での誕生と成長が顕著なことも注目される。ユニコーン企業の数では、世界のトップをアメリカと競っている。杭州、北京、上海、深圳などの大都市に更なる魅力と活力を加えている。

 5.大都市が抱える課題もまた多い。中国が悩まされている問題の一つに環境汚染がある。報道されることの多い大気汚染については、いまだ不十分だが徐々に改善されつつある。習近平主席のリーダーシップによるものであろう規制が急速に強化された成果だと思われる。水質の分野でも大気汚染と同様にEU並みの厳しい基準が施行されている。しかし、いずれもいまだ改善は不十分であり、全く手のついていない土壌汚染対策を含め一層の対策の充実が必要である。また、廃棄物については都市廃棄物と産業廃棄物を総合的に律する法体系がないことから統計が乏しく、現時点での都市ごとの評価は困難である。衛生面からも課題がある。日本では1900年に廃棄物処理の最初の法制化が行われたが、これの狙いは、廃棄物の散乱や不適正な処理に伴うハエや蚊などの衛生害虫の発生を抑制し、コレラ、ペストなどの感染症の拡大を防ぐことにあった。中国での廃棄物処理の一元的な管理制度の実現が待たれる。

 6.衛生といえば、今回のCOVID-19の拡散といった事態を今後未然に防ぐ、あるいは拡大を防ぐ機能は極めて重要である。医師、病院の数の確保、あるいは野味市場(食用の野菜動物を扱う市場)の整備整頓など具体的対策は今後の検討が待たれるが、感染症の発生を未然に防止する、あるいは最小限にとどめるといった衛生状態の改善策は、今後の中国大都市の重要な課題である。

 7.文化面も評価を加えたい。私の中国の知り合いで日本を頻繁に訪れる友人は、時間があれば、京都や奈良を訪れる。そして、かつての唐の長安を偲び、唐招提寺では鑑真和上を偲んでいる。中国の大都市に歴史地域の保全と復元を強く希望するものである。

 8.本当に人が住みたくなる、そして住んで楽しいと思える場所はどこなのだろうか。それは、その人が自分の持っている才能の全てを出せると実感するところだと考える。人の幸せが何かはそれぞれに異なるが、種田山頭火が詠う「山あれば山を観る 雨の日は雨を聴く 春夏秋冬 あしたもよろし ゆふべもよろし すなほに咲いて白い花なり」という、出逢うもの全て受け入れるという気持ちと、A.Einsteinの言う”Anyone who has never made a mistake has never tried anything new. “に代表される積極的、能動的な気持ちの双方が、時にばらばらに、また同時に、実現できる環境が必要である。人の幸せは、周囲の人の言動や評価にあまり影響されてはいけないし、またあまり断絶していることも良くない。その微妙な線の幅を自らつかんで展望を開きうる環境とは何か、どこか、という難しい問題がある。各人が持つやわらかな頭脳と心意気を大いに伸ばして活躍したい、そんな望みを持つ彼ら、彼女らが、喜んで住み、働ける魅力ある都市づくりを進めていきたいものである。自然環境や人情に溢れた都市を造っていきたい。周牧之教授が中心になって取りまとめられた〈中国都市総合発展指標〉は、以上に述べた私の思考の迷い道に新しい道標を与えてくれるものと期待している。


プロフィール

南川秀樹 (みなみかわ ひでき)

 1949年生まれ。環境庁(現環境省)に入庁後、自然環境局長、地球環境局長、大臣官房長、地球環境審議官を経て、2011年1月から2013年7月まで環境事務次官を務め、2013年に退官。2014年より現職。早稲田大学客員上級研究員、東京経済大学経済学部客員教授等を歴任。地球環境局長の在職中は、地球温暖化対策推進法の改正に力を尽くした。また、生物多様性条約の締約国会議など多くの国際会議に日本政府代表として参加している。
 主な著書に『日本環境問題 改善と経験』(2017年、社会科学文献出版社、中国語、共著)等。

(『環境・社会・経済 中国都市ランキング 2018―大都市圏発展戦略』に収録

【刊行によせて】趙啓正:〈中国都市ランキング〉に寄せて


趙 啓正
中国国務院新聞弁公室元主任、中国人民大学新聞学院院長


 

編集ノート:中国国家発展委員会発展戦略和計画司と雲河都市研究院が合同で主催した中国都市総合発展指標2018シンポジウムが2018年12月27日、北京で行われた。趙啓正氏は祝辞を寄せ、中国都市総合発展指標を高く評価した。祝辞は、同指標の研究開発の意義を称え、今後の方向性についても示唆した。本書では趙啓正氏の祝辞を序言として掲載する。


 周牧之教授をはじめとする都市発展研究に携わる学者の皆さんへ:

 私は周牧之教授から2018年10月、中国都市総合発展指標2017を東京で手渡された。周牧之、陳亜軍そして徐林各氏の序言およびメインレポートを丹念に読んだ。都市発展における著者の「現代的」理念とフロンティア性に富んだ学識に感銘を受けた。中国都市総合発展指標は都市を理解し、マネジメントするための理念、コンセプト、フレームワークを提供したと、私は確信している。

 私はこの一冊が、中国の各都市の市長をはじめとする政策担当者にとって非常に有用な参考書となると思う。1990年代には私自身、上海市副市長を務め、浦東新区の主任及び書記を兼務し、浦東新区開発の重責を負っていた。残念なことに当時は、同「指標」のような良い参考書はなかった。

 今日、人間の成長は数多くの指標によって表される。私たちが人間ドックを受ける際には、少なくとも数十の指標を用いる。今なら一般市民にとって馴染み深い健康指標も、30年前の中国では我々自身はもとより医師でさえ、それについて知識を持たなかった。つまり、自分の体を「科学的に管理」しようがなかった。
 30年前、中国人の平均寿命は70歳に至らなかった。それが今は、80歳に近づいている。健康指標の功績は大きい。

 同様に、数十年前、私たちは都市という「大きな体」を、どのような指標で測るかについてあまり意識していなかった。ただごく単純に政治、経済、文化などのマクロ的視点で、都市発展の計画を制定した。今振り返れば一種粗雑で、独断的ですらあった。

 今日、もし都市について緻密な計画と管理とで臨もうとすれば、まず都市に対しての明晰な理念と研究が必要である。そのための、総合的な指標による分析が欠かせない。従って、中国の都市発展には中国都市総合発展指標が提供する理念、合理性そして総合分析のフレームワークが貴重である。このような指標の精密なデータをもとに、研究を重ね、都市をどうマネジメントしていくかを模索するべきである。これは時代の要請である。

 雲河都市研究院に関わる学者、研究者は今後も、多くの重要な事柄に取り組み、成就させていくと信じている。例えば、現代的な都市学を打ち立て、都市研究に科学的なフレームワークを提供し、世に受け入れられるような基本コンセプト、用語、研究アプローチなどを提起する。また各都市の市長に役立つような手引きや書籍を継続して出版し、論文やオピニオンを世に出していく。毎年、「都市発展フォーラム」を主催し、全国の市長や関係者を招聘し、都市発展の新しい見解について議論し、中国都市発展への道筋を探求し続ける。

 目下、メガロポリスはすでに中国都市化の主体となっている。長江デルタ、珠江デルタ、京津冀の三大メガロポリスについてその輻射力の重要性が、共通認識となっている。中国でのメガロポリス研究にとっては、海外メガロポリスの経験が重要となる。例えば、アメリカのニューヨーク、ボストン、ワシントンといった大西洋沿岸メガロポリス。シカゴ、デトロイト、トロント、モントリオールの北米五大湖メガロポリス。日本の東京、名古屋、大阪の東海道メガロポリス。ヨーロッパのパリ、アムステルダムの西北部メガロポリス。イギリスのロンドン、マンチェスターの中南部メガロポリス。国内外のメガロポリスの比較研究は、メガロポリス発展のメカニズムへの認識を深める。国際シンクタンクとしての雲河都市研究院はこの点、大いにその力を発揮させるだろう。

 上海市長を務めた汪道涵氏は生前、私にこう言ったことがある。「私は長年、長江デルタおよび長江流域の協調発展委員会の主席を務めていた。しかし残念なのはそのエリアの連携発展が緩慢であったことだ」と。

 私が考えるに、その原因の一つは、当時、各地の経済発展が主に政府主導によって進められた点にある。メガロポリス化は市場メカニズムをベースとした原動力を必要とする。もっとも当時は、中国の市場経済のパワーがまだそれほど大きくはなかった。そのため、メガロポリスをどう発展させるかについて、雲河都市研究院に関係する皆さんには多くの研究貢献が期待されている。

 上海を例にすると、中国指導部は最近次の見解を示した。「上海が対外開放においてさらなる重要な役割を果たすための、中央政府の決定:第一、浦東の中国(上海)自由貿易試験区のエリアを拡大すること。その目的は、上海が投資と貿易の自由化と利便性を推し進め、全国での複製と推進が可能となる経験を積み重ねること。二、上海証券取引所にハイテク新興企業向けの新たな株式市場「科創板」を設置する。この目的は、上海国際金融センターと科学技術イノベーションセンターの建設を推し進めることにある。三、上海を始めとする「長江デルタ地域の一体化」を国家戦略へと格上げする。その目的は新発展理念を着実なものとし、現代的な経済システムを構築し、改革を更に推進し、対外開放を一層進めることにある。同時に、「一帯一路」建設、京津冀の連携発展、長江ベルト経済発展、粤港澳大港湾区建設と併せ、中国改革開放の空間構造を完成させる」。

 これまで数多くの中央政府の政策にも、上海の任務が挙げられてきた。

 たとえば、2016年6月に公布された中国国家発展改革委員会の「長江デルタメガロポリス発展計画」は、「長江流域メガロポリスを発展させ、上海を世界都市へ」と述べている。

 また更に2017年12月には「国務院による上海都市総合計画への返答」が「上海をイノベーション都市、文化都市、生態都市、卓越した世界都市にし、また現代化国際大都市へと作り上げるよう努力せよ」と要請した。

 上海はこのように多くの任務を抱え、北京、広州、深圳などの都市も同様に、たくさんのことを成し遂げなければならない。こうした重責は市長、学者、そしてシンクタンクが担うものである。

 雲河都市研究院の絶え間なき新しい貢献に期待するとともに、中国都市総合発展指標が更に世に広がり、都市建設に関わる人々に歓迎されるものとなることを願ってやまない。


プロフィール

趙 啓正 (Zhao Qizheng)

 1940年生まれ。1963年中国科学技術大学核物理学科卒業後、科学技術研究及び設計の仕事に20年間従事する。
 1984年から、上海市共産党委員会組織部長、上海市副市長、浦東新区管理委員会初代主任を歴任。1998年から2005年まで中国国務院(政府)新聞弁公室主任。2005年から2013年まで全国政治協商会議外事委員会副主任・主任。2009年からは全国政治協商会議の第11回二次、三次、四次および五次会議においてスポークスマンを務めた。
 現在、中国人民大学新聞学院院長、南開大学浜海開発研究院院長。

 主な著作に『向世界説明中国(上・下)』、『江辺対話:一位無神論者和一位基督徒者的友好交流』、『浦東逻輯:浦東開発和経済全球化』、『在同一世界—面対外国人101題』、『対話:中国模式』、『公共外交与跨文化交流』、『跨国対話:公共外交的智慧』、『跨国経営公共外交十講』、『直面媒体20年』など多数。以上の中には複数の外国語による翻訳書が多数含まれる。

(『環境・社会・経済 中国都市ランキング 2018―大都市圏発展戦略』に収録