【レポート】周牧之:オゾンパワーで新型コロナウイルス撲滅を

1. 地球における命の守護神

 新型コロナウイルスが中国武漢で爆発的に発生して以来、筆者は遠大科技集団(BROAD Group)の張躍総裁とオゾンを利用した殺菌について日夜電話議論を重ねてきた。張躍氏はオゾン利用による殺菌を提唱する先駆者である。しかし実際の反響はこれまで芳しくなかった。オゾン利用に関する国内外専門家との交流や関連資料調査で、筆者もオゾンについての人々の警戒心を強く感じてきた。オゾンに関する誤解を取り除き、この緊急事態に、オゾンの積極利用を進めるべきとして、オゾンの極めて解りにくい特性に関して系統的な整理を試みた。

 地球大気圏約0~10kmの最低層は対流圏と呼ばれ、そこでの温度と高度の関係は上冷下熱である。対流圏の上部に約10~50kmの成層圏がある。成層圏では温度と高度との関係が対流圏と相反して上熱下冷である。濃度約10~20ppmのオゾン層はこの成層圏にある。オゾン層は紫外線の地球上生物に危害を加える部分を吸収する。よって、有害な紫外線による生物細胞の遺伝子の破壊を押し止め、地球上の生命に生存条件を与えている。

 オゾン層の濃度が現在のレベルに達した時期と地球上の生命が海から上陸した時期はほぼ一致している。言い換えれば、オゾン層がまだ希薄な時期、生命は海の中に潜伏せざるを得なかった。オゾン層の濃度の向上を待ってようやく陸に上がることができた。

 オゾン層の保護がなければ、地球上には細菌一つすら存在不可能であったということになる。もちろん今日の豊かな生命の繁栄もあり得なかった。

 しかし、人類の産業活動によって大量に排出されたフロンガスや揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)などによるオゾン層への破壊は、人類の免疫システムを弱め、皮膚ガンや白内障などの発病率を高める被害をもたらした。オゾンホールは地球温暖化と並び、いまや地球環境問題となっている。オゾン層破壊問題は同時に、オゾンを一般大衆の視野に入れるきっかけともなった。オゾン層はその地球生物を保護する性質に鑑み、“アース・ガーディアン”と呼ばれる。

 オゾンは、三つの酸素原子から構成され、酸素の同素体であり、特殊な匂いがする。オゾンは主に太陽の紫外線が酸素分子を二つの酸素原子に分裂させ、その酸素原子がさらに酸素と結合することで作られている。

 高濃度のオゾン層は天然のバリアとなり、地球上の生物を太陽光にある有害な紫外線の攻撃から守り、地球生命の繁栄をもたらしている。

 

2. 天上のGood Ozone,地上のBad Ozone?

 オゾンは高い空の成層圏にあるだけではなく、我々の周囲にも存在している。酸素分子は低空で多く、高空では少ない。これに対して、酸素原子は低空で少なく高空に多い。ゆえに、酸素分子と酸素原子がともにある成層圏に、オゾン層が高濃度で作られている。相反して地面と、オゾン層より高い場所のオゾン濃度は薄い。つまり、大気中のオゾン濃度は地面から約10kmのところより高くなり、成層圏のオゾン層で最大値となる。さらにその上空に行くと、オゾン濃度はまた急激に下がる。

 対流層のオゾン濃度は一般的に0.02~0.06ppmである。この自然界のオゾン濃度は人類を含む大型生物には無害である。しかし、高い濃度のオゾンは人に不快感を与え、目や呼吸器官などの粘膜組織を刺激することもある。よって、アメリカ食品医薬品局(FDA)は室内環境基準のオゾン最大濃度を0.05ppmに規定している。日本産業衛生学会は産業環境基準のオゾン許容濃度を0.1ppmと規定する。中国衛生省もオゾンの安全濃度を0.1ppmと規定している。

 以上のように高濃度オゾンに対する警戒感は元よりあった。加えてオゾンの悪名を轟かせたのは、光化学スモッグ汚染である。光化学スモッグとは、窒素酸化物 (NOx)や揮発性有機化合物(VOC)などの一次汚染物質と、それらに紫外線が照射されることによって発生するオゾンという二次汚染物質からなる。NOxとVOCなどが光化学スモッグをもたらす主な生成物質であるが、光化学スモッグの中のオゾン成分は、80〜90%までにも達する。ゆえに光化学スモッグ汚染イコールオゾン汚染だと世間は捉えがちである。

 光化学スモッグは、目や呼吸器官の粘膜組織に刺激を与え、目の痛み、頭痛、咳、喘息などの健康被害を引き起こす。また植物の成長を抑制し農作物の減産をもたらす。酸性雨の原因ともなっている。

 産業革命以来、大量のNOx排出により対流圏のオゾンが増加した。過去100年、対流圏のオゾン全量は4倍になった。とくに近年、中国を始めとする東アジアでの急速な工業化と都市化に伴い、NOxなど光化学スモッグ生成物質排出量は激増し、対流圏のオゾン増加傾向を加速させている。

 対流圏のオゾン量は成層圏の10分の1に過ぎないが、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH₄)に次ぐ第3の地球温暖化ガスとなっている。

 こうした様々な理由により、世間では“対流圏のオゾンは生物に有害な汚染物質である”との認識が広がった。ゆえにオゾンは“天上のGood Ozone,地上のBad Ozone”とも言われている。日本では対流圏オゾンの地球規模の越境汚染に対するモニタリングが重要な課題となっている。

 ここではっきりさせたいのは、光化学スモッグのオゾン濃度は対流圏の自然界での正常な濃度ではなく、人的活動の汚染排出でもたらされた非自然的な高濃度であることだ。さらに光化学スモッグのオゾンにはNOxやVOCなど有害物質が多く含まれている。これもまた自然界の澄み切ったオゾンとは全く異なっている。

 自然界のオゾン濃度は季節と地域によって差異が生じるが、一般的に人体には害を及ぼさない。自然界のオゾンは無害であるばかりかむしろ有益である。自然界のオゾンと光化学スモッグとの違いを区別しなければならない。例えば雷の高圧放電では、空気中の酸素を分裂させ、オゾンを作る。高濃度のオゾンは空気を浄化するために、雷の後、往々にして空気はより清々しいものとなる。また、晴天の海岸や森林はオゾンの濃度が高いため空気は一層清らかである。

 対流圏のオゾンも、人類生存の守護神である。ただ我々は長い間その恩恵に対する研究と認識を欠いていた。

 自然界のオゾン濃度は、大型生物に無害であるものの、微生物にとってはスーパーキラーとなる。強い酸化力を持つオゾンは、自然界の微生物の繁殖を抑制し、地球生態バランスを保ってきた。しかし、これまで地球という生命体の中で微生物を抑制するオゾンの役割は十分には重視されてこなかった。

 その理由の一つは、一般的に低濃度のオゾンには殺菌作用があまり無いと考えられてきたからである。しかし、実際は、一定の暴露時間をかければ低濃度のオゾンも十分な殺菌消毒力を持つ。つまり、自然界の低濃度オゾンが地球上の細菌やウイルスといった微生物の過度な繁殖と拡散を防いできたと言えよう。

 また、オゾンは自然界においては有害有機物を分解する。さらに、オゾンは動植物に季節の変化を知らせるシグナルであるとも考えられる。要するに、対流層のオゾンが無ければ地球は、人類の生存さえあり得ない環境であった。

 実際、オゾンは“天上のGood Ozone,地上のGood Ozone”である。人類がもたらした汚染廃棄物はオゾンを“Bad Ozone”に仕立て上げた。

 

3.“神の手”の仮説:オゾンは疫病を駆逐する?

 2002年冬から2003年春にかけて、SARSの大流行が社会的な大パニックを引き起こした。しかし5、6月になるとSARSは突然に姿を消した。SARSだけではなく、インフルエンザなど飛沫感染のウイルスのほとんどが秋冬に爆発し、春夏には消滅する。見えざる神の手がこれらの病毒を駆逐しているが如くである。

 世界中の研究者の多くがこれまでウイルスと温度、或いはウイルスと湿度との相関関係を追ってきた。しかし、これらの研究では、ウイルスと気温変化との関係がはっきり説明できなかった。インフルエンザを例に取れば、一般的に、低温、低湿の環境ではウイルスが比較的長時間活性を保ち、温度と湿度の上昇に従いその活性が抑制されると考えられている。しかし、実験で証明されたのは、ある程度の温度変化はインフルエンザのウイルスにはあまり影響がなかった。むしろ、湿度をあげることによって同ウイルスの消滅度が上がった。また、赤道付近では気温が最高であるにもかかわらず、インフルエンザウイルスがむしろ年中蔓延している。

 筆者は、酸化力を持つオゾンこそが、真の神の手であると仮説を立てた。

 オゾン濃度は季節により変化する特性を持つ。しかも秋冬が低く春夏に高い。気象庁のオゾン観測情報によると、北から南、札幌、筑波、鹿児島、那覇でオゾン全量は2月から5月の間にピークを迎える。北へ行けば行くほどそのピークの時期は早く訪れる。南ではピークが遅くなる。

 地域によってオゾンの濃度も違っている。同じ気象庁の観測情報によるとオゾン全量ピーク時の濃度は北へ行けば行くほど高い。逆に、南では濃度が低くなる。オゾン量は緯度の変化でその分布も明らかに変化している。赤道近くではオゾン量が最も低く、緯度60°付近の北方地域で最も高い。

 本来、紫外線が強いほど酸素分子の分解スピードは早い。赤道付近は太陽の照射が最大であり、オゾンは最も産出し易いはずである。しかし、オゾン濃度の変化をもたらす要素は多く、そのメカニズムも極めて複雑である。紫外線が強いほどオゾンは作り易くなると同時に、オゾン自体の分解も進む。また、オゾンの分解スピードは温度とも関係がある。温度が高いほどその分解スピードは早まる。さらに、地球規模の大気環流も無視できない。その土地で作られたオゾンが他地域に運ばれることもあり得る。

 対流圏オゾンの大半は成層圏のオゾン層から来ている。同時に植物の光合作用が生むオゾンの量や、人類の産業活動が排出するNOxとVOCの量なども対流圏のオゾン濃度に影響を与える。

 要するに、酸素分子と原子の奇妙な集合離散によって左右されるオゾン濃度は、秋冬が低く春夏に高いリズムを持つ。また、温度が高いほど、オゾンの分解速度は早まる。さらに、湿度も重要である。乾燥状態ではオゾンの殺菌力は劇的に落ちる。

 よって筆者は大胆な予測を以下の仮説を立てた。季節が冬から暖かくなるにつれ、オゾン濃度は高まり、空気の湿度も増すと同時に、オゾンは神の手となって疫病を駆逐する。

 さらにこの仮説を厳密に言うと、殺菌消毒の主力は季節変化の中で高まるオゾンであり、温度と湿度はこれの威力を高める。オゾン、温度、湿度の三者は相まって病魔を駆逐する。勿論、紫外線も微生物の一大キラーであり、室外の細菌病毒を死滅させる重要なファクターである。

 コロナウイルスの大流行によるパンデミックはいつ収束するのかがいま、世界の最大の関心事となっている。経済活動の復興や、社会の緊張の緩和はこれにかかっている。もちろん、目下世界的な株価の大暴落や東京オリンピック開催などの問題もこれに左右されている。もし、上記の仮説が成立すれば、今回の新型コロナウイルスもSARSやインフルエンザと同様、季節の変化によるオゾン濃度の向上によって消え去る。そうであれば現在、コロナウイルス危機の中で苦しむ人々の一つの希望となると同時に、パンデミック対策と復興対策の目処も立てられるだろう。

 大胆な仮説は精密な立証を必要とする。学者専門家の方々にぜひ様々な角度から検証と批判を仰ぎたい。

 

4. 有人空間でのオゾン利用へ

 オゾンは自然界の病毒の駆逐者であるばかりでなく、近代以来、人類もその強い酸化力を活かし、消毒、殺菌、除臭、解毒、漂白などの分野で広く活用してきた。
 ゆえにオゾンは、今回の地球規模でのコロナウイルスとの戦いの中でも活かされるべきである。しかもオゾンには以下の三つの特性がある。

 ①死角無く充満:オゾン発生機などから作られたオゾンは、室内に充満し、空間のすべてに行き届く。その消毒殺菌の死角は無い。これに対して、紫外線殺菌は直射であるため死角が生じる。

 ②有害残留物無し:オゾンはその酸化力を持って細菌と病毒を消滅させる。有毒な残留物は残さない。相反して現在広く使用されている化学消毒剤は人体そのものに有害であるばかりでなく、有害残留物による二次汚染も引き起こす。中国での疫病対策の中で、すでに消毒水の濫用による問題が深刻化している。日本でも十分な注意が必要である。

 ③利便性:オゾンの生成原理が簡易で、オゾン生産装置の製造は難しくない。また、オゾン発生機のサイズは大小様々あり、個室にも大型空間にも対応できる。設置が簡単なためバス、鉄道、船舶、航空機などにも設置が可能である。

 オゾンの消毒殺菌効果は、オゾン自体の濃度だけでなく環境の温度、湿度そして暴露時間とも関係する。さらに、ウイルスの種類とも一定の関係を持つ。新型コロナウイルスに有効か否かについては、直接の実験は未だ無いものの、類似の実験はある。

 中国の李澤琳教授が国家P3実験室で行ったオゾンによるSARSウイルスの殺菌実験結果によると、オゾンはSARSウイルスに対して強い殺菌効果があり、総合死滅率が99.22%に達した。今回の新型コロナウイルスは、SARSウイルスと同様にコロナウイルスに属している。新型コロナウイルスのゲノム序列の80%はSARSウイルスと一致しているという。因って、オゾンは新型コロナウイルスに対して相当の殺菌力を持つことが推理できるであろう。

 オゾンは非常に優れた殺菌消毒のパワーを持つが、個人差はあるものの一定の濃度に達した場合に人々に不快感を与え、また、粘膜系統に刺激を与えることもある。そのため、目下、主に無人の空間で使用されている。

 もし、広く有人空間で使用できれば、オゾンは新型コロナウイルスを駆逐し、空気を浄化させ得る。そうなれば、病院、職場、公共空間、公共交通機関、住宅の室内に到るまで、大きな福音となる。

 これを可能とするには、オゾン濃度のコントロールが必要である。自然界に近い濃度のオゾンを室内に取り入れられれば、人々に不快感を与えることはない。しかし、オゾンは極めて不安定な性質を持ち、一定の濃度にコントロールするには常に濃度を観測する必要がある。問題は、現在濃度観測のセンサーが極めて高価なことである。オゾン濃度センサーが容易に使えないため、オゾン濃度のコントロールは未だ一般的に実現できていない。

 もし廉価でオゾン濃度を安全にコントロールできれば、オゾン利用は容易に世間に受け入れられ、有人空間におけるオゾン利用も進むであろう。よってオゾン濃度センサーのコストの大幅削減を一大課題として取り組むべきである。

 コンクリートジャングルの大都市では、そもそもオゾン濃度は低い。人が集まる室内ではなおさらそうである。コロナウイルスが世界的に蔓延している現在、室内のオゾン濃度基準を上げ、有人空間でのオゾンによる殺菌消毒利用を模索すべきであろう。幸いにして張躍氏は、オゾン生成機能を持つ遠大産の静電空気浄化機を、コロナウイルス対策のために建てられた中国武漢の救急病院である火神山ICU病棟と方艙病院にすでに寄付した。院内感染の防止に役立ったと好評を得ている。最近、遠大グループは韓国からも、オゾン消毒殺菌機能を持つ空気清浄機付きのコロナウイルス対策用救急病院建設を依頼された。

 オゾンと微生物との関係は地球生命体の絶妙なバランスを表している。もしオゾン層の保護が無ければ、ウイルスや細菌などの微生物は存在しなかった。他方、オゾンの強い酸化力もウイルスの天敵である。人類は未だオゾンに対する認識が不十分である。筆者はオゾンに対する偏見と過度な警戒心を捨て、オゾンにまつわる数々の謎を解き明かし、オゾンの特性を十分に理解し、活かしていくべきであると考える。とりわけこの新型コロナウイルスとの戦いの中では、オゾンの力を十分に発揮させていく必要がある。

 

中国網日本語版(チャイナネット)2020年3月19日

 


【レポート】発展原動力の二極化、中国の都市発展の大きなトレンドに 〜中国都市GDP・DID人口・IT輻射力・他12指標ランキング〜

 

 中国経済発展の空間構造に大きな変化が生じており、都市の発展で明確な集中と分化の現象が起きている。各種の機能が上位都市に集中する傾向が日増しに顕著になっている上、高度な機能の集中度がますます高まっている。これに応じて、都市間の分化も目立つようになり、いわゆる「発展原動力の二極化」が明らかになってきた。

 雲河都市研究院は中国都市総合発展指標2018を使って、12種類のデータに関する上位30都市ランキングを発表。全国298都市(地級以上)のパフォーマンスをもとに、複数の重要指標と機能の集中度を分析し、「発展原動力の二極化」を解説した。

 


1. GDPランキング上位30都市

 中国国内のGDPランキング上位10都市は順に、上海、北京、深圳、広州、重慶、天津、蘇州、成都、武漢、杭州で、この10都市の合計GDPが全体に占める割合は23.6%に達する。上位30都市の合計GDPは全体の43.5%を占めている。つまり、上位10%の都市が全国4割以上のGDPを生み出しており、中国経済の発展がGDPランキング上位30都市に高く依存していることが明らかとなった。

 

2. DID人口ランキング上位30都市

 密度は都市問題を議論する際の重要なキーワードだ。中国都市総合発展指標では、1㎢あたり5000人以上の地区をDID(Densely Inhabited District:人口集中地区)と呼び、人口密度に関する正確かつ効果的な分析を行っている。
 DID人口ランキング上位10都市は上海、北京、広州、深圳、天津、重慶、成都、武漢、東莞、温州で、この10都市のDID総人口が全体に占める割合は22.8%に達する。上位30都市のDID総人口は全体の43.2%を占めている。つまり、DID人口ランキング上位10%の都市には、全国4割以上のDID人口が集中していることになる。
 注目点は、中国298都市(地級以上)のGDPとDID人口の相関関係を分析した結果、両者に強い相関関係がみられ、相関係数が0.93の高水準に達し、「完全な相関関係」を示したことだ。さらに、GDPとDID人口という二指標のランキング上位30都市のうち26都市が重複した(順位は一部異なる)。これらは、DID人口の重要性を示しており、今後の中国の都市発展ではDID人口の規模と質に注目しなければならない。

 

3. メインボード上場企業ランキング上位30都市

 上海、深圳、香港の三大メインボードの上場企業数ランキング上位3都市は上海、北京、深圳で、この3都市のメインボード上場企業総数が全体に占める割合は39.6%に達する。上位30都市のメインボード上場企業総数は全体の69.7%を占めている。つまり、メインボード上場企業ランキング上位10%の都市に全国7割近いメインボード上場企業が集中している。
 メインボード上場企業が大都市、特に中心都市に集中する状況がますます顕著となった。

4. フォーチュン500中国企業ランキング上位30都市

 30年前の1989年に、フォーブスが発表するフォーチュン500にランクインした中国企業はわずか3社だった。2018年にランクインした中国企業は105社に大幅に増え、米国企業の126社に迫った。注目点は、中国企業3社がトップ10にランクインしたことだ。
 フォーチュン500の中国企業の本拠があるのは中国の28都市で、うち66.7%が北京、上海、深圳の3都市に集中している。一般的なメインボード上場企業に比べ、フォーチュン500に躍り出た中国企業は、全国的な中心都市に集まる傾向が強い。
 メインボード上場企業数ランキング上位30都市とフォーチュン500中国企業ランキング上位30都市を分析すると、中国の最も優良な企業の本社も、いわゆる経済的な中枢管理機能を北京、上海、深圳に代表される上位中心都市に集約している。

5. 製造業輻射力ランキング上位30都市

 製造業輻射力(周辺影響力)ランキング上位10都市は深圳、上海、東莞、蘇州、佛山、広州、寧波、天津、杭州、厦門(アモイ)で、この10都市はいずれも大型コンテナを利用しやすい港湾があるという優位性を持ち、10都市の貨物輸出総額が全体に占める割合は48.2%に達する。上位30都市の貨物輸出総額は全体の74.9%を占めている。つまり、中国では現在、製造業輻射力が大きい10%の都市から全国4分の3に当たる貨物が輸出されている。

6. IT産業輻射力ランキング上位30都市

 IT産業輻射力ランキング上位10都市は北京、上海、深圳、成都、杭州、南京、広州、福州、済南、西安で、この10都市のIT就業者総数、メインボードITセクター上場企業数、中小企業ボードITセクター上場企業数、創業板ITセクター上場企業数が全体に占める割合はそれぞれ52.8%、76.1%、60%、81%に達する。上位30都市のIT就業者総数、メインボードITセクター上場企業数、中小企業ボードITセクター上場企業数、創業板ITセクター上場企業数は全体の68%、94%、78.2%、91.2%を占める。中国のIT産業がIT産業輻射力ランキング上位都市に集中する状況が顕著となっている。
 現在、中国の多くの都市がIT産業を重点産業として発展させているが、実際には、IT産業は北京、上海、深圳、成都、杭州、南京、広州といった都市に集中し、特定の都市に集中及び収れんする傾向が製造業よりも強い。こうした意味で言うと、IT産業の発展を目指す都市は、IT産業の発展に必要な条件を研究・分析しなければならない。

7. 高等教育輻射力ランキング上位30都市

 高等教育輻射力ランキング上位10都市は北京、上海、武漢、南京、西安、広州、長沙、成都、天津、哈爾浜(ハルビン)で、この10都市の211プロジェクト対象大学と985プロジェクト対象大学総数、一般大学・専門学校の在校生総数が全体に占める割合は69.3%、26.0%に達する。上位30都市の211及び985大学総数、一般大学・専門学校の在校生総数は全体の92.8%、57.1%を占めている。現在、中国の高等教育資源、特にハイクオリティな高等教育資源が高等教育輻射力ランキング上位都市に集中している状況が明かとなった。

8. 科学技術輻射力ランキング上位30都市

 科学技術輻射力ランキング上位10都市は北京、上海、深圳、成都、広州、杭州、西安、天津、蘇州、南京で、この10都市のR&D(研究開発)人材資源総量、特許取得件数が全体に占める割合は36.3%、33.2%に達する。上位30都市のR&D人材資源総量、特許取得件数は全体の59.8%、62.6%を占めている。現在、中国の科学技術資源が科学技術輻射力ランキング上位都市に集中する状況が顕著となっている。

9. 文化・スポーツ・娯楽輻射力ランキング上位30都市

 文化・スポーツ・娯楽輻射力ランキング上位10都市は北京、上海、成都、広州、深圳、武漢、杭州、南京、西安、鄭州で、この10都市の映画興行収入総額、延べ観客数が全体に占める割合は34%、30.6%に達する。上位30都市の映画興行収入総額、延べ観客数は全体の57.7%、54.6%を占めている。
 現在、中国では文化・スポーツ・娯楽資源だけでなく、興行収入に代表される文化・スポーツ・娯楽消費が文化・スポーツ・娯楽輻射力ランキング上位都市に集中する状況が顕著となっている。

10. 飲食・ホテル輻射力ランキング上位30都市

 飲食・ホテル輻射力ランキング上位10都市は上海、北京、成都、広州、深圳、杭州、蘇州、三亜、西安、厦門で、この10都市の五つ星ホテル軒数、国際トップクラスレストラン軒数が全体に占める割合は35.7%、77.1%に達する。上位30都市の五つ星ホテル軒数と国際トップクラスレストラン軒数は全体の61.1%、91.8%を占めている。中国の高級飲食店とホテルが飲食・ホテル輻射力ランキング上位都市に集中する状況が顕著となっている。
 雲河都市研究院は中国都市総合発展指標2018を使って、IT産業輻射力と飲食・ホテル輻射力に関する分析を行った。その結果、両者の相関係数は0.9に上り、両者の間に「完全な相関関係」があることが明らかとなった。交流経済の典型であるIT産業では、高所得で見識が広い経営者たちは「食事をすることが好き」であり、「食事をすること」は間違いなく彼らが「交流する」重要なシーンとなっている。
 北京、上海、深圳、成都、杭州、南京、広州はIT産業輻射力が最も強い上位7都市で、これらの都市は中国で美食の街となっている。今や食事は、都市の交流経済が発展するために軽視できない「重要な生産力」だ。
 しかし、製造業輻射力と飲食・ホテル輻射力の相関係数はわずか0.68にとどまる。IT産業に比べ、製造業従事者は美食に対する感度が低いことが示された。

11. コンテナ港利便性ランキング上位30都市

 コンテナ港利便性ランキング上位10都市は上海、深圳、寧波、広州、青島、天津、厦門、大連、蘇州、営口で、この10都市の港湾コンテナ取扱総量が全体に占める割合は82%に達する。上位30都市の港湾コンテナ取扱量は全体の97.8%を占めている。言い換えると、中国では現在、コンテナ港利便性ランキング上位10%が港湾コンテナ取扱量のほぼ全てを独占している。
 雲河都市研究院が中国都市総合発展指標2018を使って、中国298都市(地級以上)の貨物輸出額と港湾コンテナ取扱量の相関を分析した結果、両者の密接な相関が明らかとなり、相関係数が0.81の高水準に達し、「非常に強い相関関係」が示された。また、製造業輻射力とコンテナ港利便性という二指標のランキング上位30都市のうち24都市が重複した(順位は一部異なる)。このことから、製造業特に輸出工業が良い条件を備える港湾に高く依存していることが明らかとなった。今後も引き続き、中国の製造業、特に輸出工業は良い条件を備える港湾がある都市へと向かい、集中が進む見通しだ。
 工業発展と港湾条件の関係をはっきりと認識することは、中国の将来的な工業分布に極めて重要な意義を持つ。中国は、至る所で工業化を進めた過去のやり方について真剣に議論し、内陸で分散式に工業化を進めた非合理性と低効率を見直すことで、工業のハイクオリティな発展を目指す必要がある。

12. 空港利便性ランキング上位30都市

 空港利便性ランキング上位10都市は上海、北京、広州、深圳、成都、昆明、重慶、杭州、西安、厦門で、この10都市の乗降客数と貨物・郵便取扱量が全体に占める割合は49.9%、73.5%に達する。上位30都市の乗降客数と貨物・郵便取扱量は全体の81.3%、92.9%を占めている。中国では現在、航空運輸による人の移動と物流の大部分が、空港利便性ランキング上位10%の都市に集中している現状が明かとなった。
 雲河都市研究院は中国都市総合発展指標2018を使って、中国298都市(地級以上)のIT産業輻射力と空港利便性の相関を分析した。その結果、両者の密接な相関が明らかとなり、相関係数は0.82の高水準に達し、「非常に強い相関関係」が示され、製造業輻射力とコンテナ港湾利便性の相関関係よりも強い。IT産業輻射力と空港利便性という二指標のランキング上位30都市のうち21都市が重複している(順位は一部異なる)。これらから、交流経済の代表産業となるIT産業の発展は、便利な条件を備える空港に高く依存していることが分かった。今後も引き続き、IT産業は良い条件を備える空港がある都市へと向かい、集中が進む見通しだ。


 現在の中国は、経済総量とDID人口総量はもちろん、各種の機能が少数の大都市、超大都市、大都市群に集中しつつある。その上、ハイエンドな機能がますます発揮され、上位都市に集中する現象が加速している。この流れはさらに強まる見通しだ。これらを踏まえ、各種の中心機能が集まる大都市、超大都市、大都市群の経済構造と空間構造をどのように改善するかが、中国の目指すハイクオリティな発展にとって極めて重要となる。


「中国網日本語版(チャイナネット)」 2020年1月2日

【レポート】〈中国都市総合発展指標〉から3大メガロポリスを徹底比較

 中国経済の勢いのある成長は、世界経済成長の構造の変化と中国の改革開放による巨大な活力が合わさって生まれたものである。世界経済を繋ぐ大舞台として、珠江デルタ、長江デルタ、北京・天津・河北の3大都市群は中国経済成長の原動力となり、中国で最も国際的かつ代表的な都市群でもある。中米貿易戦と国内経済の構造大調整がある中、3大都市群の影響力は高まっている。

 雲河都市研究院は中国都市総合発展指標2018の12種類のデータを利用し、3大都市群の優位性を解説した。

 


1. GDP

 中国経済における3大都市群の存在感はより顕著となっている。北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群の対GDP比はそれぞれ8.6%、19.8%、9.0%に、計37.4%に達する。3大都市群は中国経済成長の構造を支えている。
 全国地級以上298都市GDPランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群の2都市がGDPランキング上位30都市に入り、北京が2位、天津が6位につける。
 長江デルタ大都市群の9都市がGDPランキング上位30都市に入り、上海が1位、蘇州が7位、杭州が10位、南京が11位、無錫が13位、寧波が15位、南通が19位、合肥が25位、常州が28位につけ、輝きを見せている。
 珠江デルタ大都市群の4都市がGDPランキング上位30都市に入り、深センが3位、広州が4位、仏山が17位、東莞が21位につける。
 3大都市群から15都市がGDPランキング上位30都市に入り、天下の半分を占めると言える。

 

2. DID人口

 密度は都市問題を討論する重要な指標の1つで、中国都市総合発展指標は1平方キロメートルあたり5000人以上の地域をDID(Densely Inhabited District:人口高密集地区)と定義し、人口密度を正確かつ有効的に分析する。
 3大都市群には全国の34.4%のDID人口が集中している。北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群の全国DID人口に占める割合はそれぞれ7.9%、17.1%、9.3%に達する。
 全国地級以上298都市DID人口ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群の2都市がDID人口ランキングの上位30都市に入り、北京が2位、天津が5位につける。
 長江デルタ大都市群の7都市がDID人口ランキングの上位30都市に入り、上海が1位、蘇州が11位、杭州が13位、南京が14位、寧波が20位、合肥が25位、無錫が28位につける。
 珠江デルタ大都市群の4都市がDID人口ランキングの上位30都市に入り、広州が3位、深センが4位、東莞が9位、仏山が15位につける。
 3大都市群から13都市がDID人口ランキングの上位30都市に入ったが、DID人口の割合を見ると、3大都市群の間に大きな差がある。珠江デルタ大都市群のDID人口比率は67.0%に達し、全国のDID人口比率31.9%を大幅に上回る。長江デルタ大都市群は46.6%、北京・天津・河北大都市群はわずか37.8%。

 

3. メインボード上場企業

 3大都市群には全国の半数以上のメインボード(上海、深セン、香港の3大メインボード)上場企業が集まっている。北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタが全国のメインボード上場企業数に占める割合はそれぞれ15.9%、28%、10.3%、計54.2%に達する。
 全国地級以上298都市メインボード上場企業数ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が示された。
 北京・天津・河北大都市群の2都市がメインボード上場企業数ランキングの上位30都市に入り、北京が2位、天津が8位につける。
 長江デルタ大都市群の7都市がメインボード上場企業数ランキングの上位30都市に入り、上海が1位、南京と杭州が同率4位、寧波が9位、合肥が13位、蘇州が21位、無錫が24位につける。
 珠江デルタ大都市群からは2都市のみがメインボード上場企業数ランキングの上位30都市に入り、深センが3位、広州が7位につける。同地区の世に名を知られる東莞や仏山などの製造業都市は「工場経済」のレベルで止まっている。
 3大都市群から11都市がメインボード上場企業数ランキングの上位30都市に入り、中でも上海、北京、深センは全国のメインボード上場企業の31.3%を有する。

 

4. フォーチュントップ500中国企業

 3大都市群には全国の80%のフォーチュントップ500中国企業が集まっている。北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国のフォーチュントップ500中国企業数に占める割合はそれぞれ54.3%、14.3%、11.4%に達する。
 全国地級以上298都市フォーチュントップ500中国企業ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群の3都市がフォーチュントップ500中国企業ランキングの上位30都市に入り、北京が1位、天津と石家荘が同率11位につける。
 長江デルタ大都市群の4都市がフォーチュントップ500中国企業ランキングの上位30都市に入り、上海が2位、杭州が4位、南京と蘇州が同率7位につける。
 珠江デルタ大都市群の3都市がフォーチュントップ500中国企業ランキングの上位30都市に入り、深センが3位、広州が4位、仏山が7位につける。
 3大都市群から10都市がフォーチュントップ500中国企業ランキングの上位30都市に入り、中でも北京の地位は際立ち、全国の52.4%のフォーチュントップ500中国企業を有する。

 

5. 製造業輻射力

 3大都市群には全国の貨物輸出額の67.8%が集まっている。北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国貨物輸出総額に占める割合はそれぞれ6.2%、32.7%、28.8%に達する。3大都市群、特に長江デルタと珠江デルタは中国の輸出業発展を支え、名実相伴う「世界の工場」である。
 輻射力は都市のある機能の外部利用度を表す指数で、中国都市総合発展指標は影響力をもとに都市の各産業の対外サービス能力を正確かつ有効的に分析する。
 全国地級以上298都市製造業輻射力ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群の2都市が製造業輻射力ランキングの上位30都市に入り、天津が8位、北京が17位につける。
 長江デルタ大都市群の11都市が製造業輻射力ランキングの上位30都市に入り、上海が2位、蘇州が4位、寧波が7位、杭州が9位、無錫が14位、嘉興が20位、南京が21位、金華が23位、紹興が24位、常州が26位、南通が29位につけ、勢いがあると言える。
 珠江デルタ大都市群全9都市の中の8都市が製造業輻射力ランキングの上位30都市に入り、深センが1位、東莞が3位、仏山が5位、広州が6位、恵州が11位、中山が13位、珠海が19位、江門が30位につけ、威力を発揮している。
 3大都市群から21都市が製造業輻射力ランキングの上位30都市に入った。2008~2018年、中国の輸出規模は10倍になり、世界最大の輸出大国に躍進した。製造業サプライチェーンの世界拡張という取引経済大爆発の中で、3大都市群は正真正銘の最大の勝ち組である。

 

6. IT産業輻射力

 3大都市群には全国のIT業メインボード上場企業の71.8%とIT業従事者の50.7%が集まっている。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国のIT業メインボード上場企業に占める割合はそれぞれ32.5 %、24.8%、14.5%に達する。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国のIT業従事者数に占める割合はそれぞれ20.9%、19.5%、10.2%に達する。
 全国地級以上298都市IT産業輻射力ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群からは北京だけが1位でIT産業輻射力ランキングの上位30都市に入った。
 長江デルタ大都市群の6都市がIT産業輻射力ランキングの上位30都市に入り、上海が2位、杭州が5位、南京が6位、蘇州が15位、合肥が21位、無錫が24位につける。
 珠江デルタ大都市群の3都市がIT産業輻射力ランキングの上位30都市に入り、深センが3位、広州が7位、珠海が20位につける。
 3大都市群から10都市がIT産業輻射力ランキングの上位30都市に入ったが、製造業輻射力の高い都市の多くがIT産業輻射力ランキングの上位30都市に入らなかった点に注目したい。

 

7. 高等教育輻射力

 3大都市群には全国の211 & 985大学の51.6%と一般大学・専門学校の28.2%の在校生が集まっている。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国の211 & 985大学数に占める割合はそれぞれ26.8%、20.9%、3.9%に達する。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国の一般大学・専門学校在校生総数に占める割合はそれぞれ8.3%、14.0%、5.9%に達する。
 全国地級以上298都市高等教育輻射力ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群の3都市が高等教育輻射力ランキングの上位30都市に入り、北京が1位、天津が9位、石家荘が29位につける。
 長江デルタ大都市群の5都市が高等教育輻射力ランキングの上位30都市に入り、上海が2位、南京が4位、合肥が12位、杭州が14位、蘇州が30位につける。
 珠江デルタ大都市群からは広州だけが6位で高等教育輻射力ランキングの上位30都市に入った。
 3大都市群から9都市が高等教育輻射力ランキングの上位30都市に入り、珠江デルタ大都市群の高等教育輻射力は比較的低い。

 

8. 科学技術輻射力

 3大都市群には全国のR&D(研究開発)人材資源の53.3%と特許取得件数の55.6%が集まっている。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国のR&D人材資源総量に占める割合はそれぞれ12.2%、28.5%、12.7%に達する。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国の特許取得件数に占める割合はそれぞれ10.3%、30.9%、14.4%に達する。
 全国地級以上298都市科学技術輻射力ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群の2都市が科学技術輻射力ランキングの上位30都市に入り、北京が1位、天津が8位につける。
 長江デルタ大都市群の11都市が科学技術輻射力ランキングの上位30都市に入り、上海が2位、杭州が6位、蘇州が9位、南京が10位、寧波が12位、無錫が14位、合肥が17位、紹興が20位、南通が21位、嘉興が27位、常州が30位につける。
 珠江デルタ大都市群の5都市が科学技術輻射力ランキングの上位30都市に入り、深センが3位、広州が5位、仏山が16位、東莞が18位、中山が24位につける。
 3大都市群から18都市が科学技術輻射力ランキングの上位30都市に入った。

 

9. 文化・スポーツ・娯楽輻射力

 3大都市群には全国の映画興行収入の45.9%と観客数の43.3%が集まっている。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国の映画興行収入に占める割合はそれぞれ9.6%、23.6%、12.8%に達する。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国の観客数に占める割合はそれぞれ8.5%、22.8%、11.9%に達する。
 全国地級以上298都市文化・スポーツ・娯楽輻射力ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群の2都市が文化・スポーツ・娯楽輻射力ランキングの上位30都市に入り、北京が1位、天津が13位につける。
 長江デルタ大都市群の7都市が文化・スポーツ・娯楽輻射力ランキングの上位30都市に入り、上海が2位、杭州が7位、南京が8位、蘇州が14位、合肥が17位、寧波が25位、無錫が26位につける。
 珠江デルタ大都市群の4都市が文化・スポーツ・娯楽輻射力ランキングの上位30都市に入り、広州が4位、深センが5位、東莞が20位、仏山が23位につける。
 3大都市群から13都市が文化・スポーツ・娯楽輻射力ランキングの上位30都市に入った。

 

10. 飲食・ホテル輻射力

 3大都市群には全国の5つ星ホテルの51.7%と全国の国際トップクラスレストランの72.9%が集まっている。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国の5つ星ホテル軒数に占める割合はそれぞれ11.4%、29.5%、10.9%に達する。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国の国際トップクラスレストラン軒数に占める割合はそれぞれ20.0%、37.5%、15.4%に達する。
 全国地級以上298都市飲食・ホテル輻射力ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群の2都市が飲食・ホテル輻射力ランキングの上位30都市に入り、北京が2位、天津が16位につける。
 長江デルタ大都市群の8都市が飲食・ホテル輻射力ランキングの上位30都市に入り、上海が1位、杭州が6位、蘇州が7位、南京が11位、寧波が14位、舟山が18位、無錫が26位、合肥が29位につける。
 珠江デルタ大都市群の4都市が飲食・ホテル輻射力ランキングの上位30都市に入り、広州が4位、深センが5位、珠海が20位、東莞が27位につける。
 3大都市群から14都市が飲食・ホテル輻射力ランキングの上位30都市に入った。

 

11. コンテナ港利便性

 3大都市群には全国の港のコンテナ取扱量の69.5%が集まっている。北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国の港のコンテナ取扱量に占める割合はそれぞれ8.3 %、35.2%、26%に達する。
 全国地級以上298都市コンテナ港利便性ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群の2都市がコンテナ港利便性ランキングの上位30都市に入り、天津が6位、唐山が28位につける。
 長江デルタ大都市群の11都市がコンテナ港利便性ランキングの上位30都市に入り、上海が1位、寧波が3位、蘇州が9位、舟山が12位、南京が15位、南通が17位、嘉興が20位、無錫が23位、湖州が26位、常州が29位、紹興が30位につけ、港湾都市が林立していると言える。
 珠江デルタ大都市群全9都市の中の8都市がコンテナ港利便性ランキングの上位30都市に入り、深センが2位、広州が4位、東莞が13位、仏山が14位、中山が18位、珠海が21位、江門が25位、恵州が27位につけ、大量の帆が立っている。
 3大都市群から21都市がコンテナ港利便性ランキングの上位30都市に入った。港湾の優位性は3大都市群の発展を支え、中でも製造業の発展の重要な柱であることは間違いない。

 

12. 空港利便性

 3大都市群には全国の空港旅客数の41.5%と空港貨物取扱量の67.8%が集まっている。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国の空港旅客数に占める割合はそれぞれ11.9%、18.7%、10.9%に達する。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国の空港貨物取扱量に占める割合はそれぞれ14.7%、34.6%、18.5%に達する。
 全国地級以上298都市空港利便性ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群の2都市が空港利便性ランキングの上位30都市に入り、北京が2位、天津が13位につける。
 長江デルタ大都市群の3都市が空港利便性ランキングの上位30都市に入り、上海が1位、杭州が8位、南京が12位につける。
 珠江デルタ大都市群の3都市が空港利便性ランキングの上位30都市に入り、広州が3位、深センが4位、珠海が27位、につける。
 3大都市群から8都市が空港利便性ランキングの上位30都市に入った。特に北京、上海、広州、深センの4大国際航空ターミナルは3大都市群を中国で航空輸送が最も便利な地域にし、大都市群の交流経済の発展の重要な支えとなっている。

 


3大都市群に含まれる都市

 北京・天津・河北大都市群の10都市:北京、天津、石家荘、保定、唐山、秦皇島、張家口、承徳、滄州、廊坊

 長江デルタ大都市群の26都市:上海、南京、杭州、蘇州、合肥、無錫、寧波、常州、嘉興、南通、塩城、揚州、鎮江、泰州、湖州、紹興、金華、舟山、台州、蕪湖、馬鞍山、銅陵、安慶、滁州、池州、宣城。

 珠江デルタ大都市群の9都市:広州、深セン、東莞、仏山、珠海、中山、江門、恵州、肇慶。


中国網日本語版(チャイナネット)」 2019年12月31日

【メインレポート】周牧之:中心都市発展戦略

周牧之 東京経済大学教授

1. メガシティ時代


 1980年以降、世界で大都市の人口は爆発的に増大した。1980年から2015年の35年間で、世界の都市人口は、中国の人口に当たる12.7億人増えた。この間、人口が100万人以上増えた都市は世界で274にも上った。なかでも人口が250万人以上増えた都市は92に達し、500万人以上増えた都市は35となり、さらに1,000万人以上増えた都市は11もある(図1を参照)。

図1 都市人口が250万人以上増加した世界の都市(1980−2015年)
出典:国連経済社会局編『世界都市化予測2014(World Urbanization Prospects: The 2014 Revision)』および『世界人口予測2015改訂版(World Population Prospects: 2015 Revision)』より作成。

 注目すべきは、上記92都市における人口の増加分が5億人に達し、同時期、世界の都市人口増加数の約40%をも占めたことだ。こうした数字からうかがえるのは、世界が急激な大都市化、メガシティ化の時代に入ったということだ。

 大都市化、メガシティ化に火をつけたのはグローバリゼーションである。大都市は世界中から人材、企業、資金を引き寄せ、急激に膨張し、地域、国家ないしは世界経済を引っぱり、それを変貌させている。

 閉鎖的な産業構造で成り立つ伝統的な国民経済体制は、一般的には内包的なサプライチェーンを持って営まれていた。急激に進むグローバリゼーションは、このような局面を打ち崩した。

 グローバリゼーションを推し進める最大の原動力は情報革命である。情報革命とは、半導体技術とインターネット技術によって起爆した知識経済の発展を指す。

 情報技術の発展はIT産業を世界経済のリーディング産業に仕立てただけではなく、同時にIT技術はその他の領域にまで浸透し、学術専門領域間の、そして産業技術間の融合を促し、多くの産業を知識集約型のものに変貌させた。

 2001年から2016年までの15年間で、世界の実質GDPは1.5倍に拡大したのに対して、情報・通信サービス業の付加価値額[1]と知識・技術集約型産業[2]の付加価値額はそれぞれ2.1倍と2.3倍に拡大した。IT産業と知識集約型産業が世界経済を牽引していることが見て取れる。

 さらに情報革命は、国民経済の中に閉じこもっていたサプライチェーン、技術チェーン、資金チェーンをグローバル的に再構築した。輸送革命は、こうした生産活動の地理的な再構築を可能にした。

 輸送革命とは、大型ジェット機に代表される高速航空輸送システムと、大型コンテナ船に代表される大規模海運システムの発展を指す。輸送革命は、国際間における人的往来と物流の利便性およびスピードを高めただけでなく、そのコストも大幅に低下させ、グローバリゼーションを促す一大原動力となった。

 1980年から2016年まで世界の実質GDPは6.8倍となった。同時期に世界の港湾コンテナ取扱量[3]は18.9倍に拡大し(図2、図3、図4を参照)、世界の国際旅客数も4.4倍となった。国際間における人的往来や物流の急激な拡大は、世界経済の発展を促した。

図2 各主要国コンテナ取扱量(2016年)
出典:世界銀行(World Bank Open Data)、国際港湾協会(IAPH)『国際コンテナ年鑑(Containerisation International Yearbook)』、国連貿易開発会議(UNCTAD)『世界海運報告(Review of Maritime Transport)』および『Lloyd’s List & Containerisation International(CI-Online)』より作成。
図3 コンテナ取扱量トップ20カ国・地域(2016年) 図4 コンテナ取扱量純増トップ20カ国・地域(1980-2016年)
出典:世界銀行(World Bank Open Data)、国際港湾協会(IAPH)『国際コンテナ年鑑(Containerisation International Yearbook)』、国連貿易開発会議(UNCTAD)『世界海運報告(Review of Maritime Transport)』および『Lloyd’s List & Containerisation International(CI-Online)』より作成。

 1980年代以降、情報革命と輸送革命は凄まじい勢いで産業活動のグローバルな展開を推し進めた。

 学問領域、業界領域そして国境を超えた産業活動の再構築は、イノベーションと創業などの形で行われている。これにより新興産業、新興企業は猛烈に成長し、1980年代以降の世界経済の繁栄を主導した。こうしたなかで旧来型の国民経済は崩れ始めている。交流交易をベースにした経済活動の再構築は、世界経済を急激に変貌させている。大都市は交易交流経済のハブとなって世界経済の新しい主体として台頭してきた。

 もちろん、交易交流経済を推進する関連制度の確立と変革も、グローバリゼーションを後押ししている。もし1995年の世界貿易機関(WTO)設立以前の国際貿易体系を、グローバリゼーションの1.0バージョンとするなら、WTOの時代はグローバリゼーション2.0だと言えよう。

 WTOは交易交流経済を積極的に押し進め、中国の発展に大きく貢献した。中国は2001年にWTOに加盟したことを契機に、一躍「世界の工場」に、そして世界で最大の貿易国となり、中国の沿海都市も爆発的発展を見せた。

 オバマ政権時代のアメリカは環太平洋パートナーシップ協定(Trans-Pacific Partnership Agreement:TPP)を推進した。TPPはWTOと比べ、知的所有権の強化とサービス業、そして金融業の開放をさらに重視し、ISDS条項をもって企業権益保護を図ることを特徴とする。その意味ではグローバリゼーション2.1と言えよう。オバマ政権はTPPを通して、アメリカの知識産業、サービス業、金融業などの領域で優位性を強化しようと目論んだ。

 日本も目下、工業製品輸出大国から投資大国、知的所有権輸出大国へと転換をはかろうとしている。また、実際にこれらの領域で、すでに大きな収益を上げている。日米両国はこの点、利益が一致しており、TPPの提唱者となった。

 グローバリゼーション2.0時代、とりわけ中国がWTOに加盟してから、工業生産メカニズムと分布の世界的なパラダイムシフトが起こった。そうした中で、アメリカの産業資本はより高い利益を得たものの、国内の伝統的な工業地帯は工場倒産や労働者の失業など厳しい状況に陥った。グローバリゼーション2.0はアメリカを受益者と被害者という二つの集団に分け、その分裂を引き起こした。都市の角度から見ると、前者は沿海部の大都市に集中し、後者の大半はさびれた古い工業地帯と内陸部の中小都市に集中している。2016年のアメリカ大統領選挙で、民主党のヒラリー・クリントン候補を支持したのは前者であり、これに対して、共和党のドナルド・トランプ候補を支持したのは後者であった。

 2016年のアメリカ大統領選挙は、グローバリゼーション2.0の受益者と被害者との間の、言い換えれば、沿海大都市と内陸部中小都市の間の政治経済的利益の争奪戦であったと言っても過言ではない。これは、トランプ氏がいくら醜聞や失言を繰り返しても、その支持基盤が揺らがなかった原因でもある。グローバリゼーションによるパラダイムシフトや大都市のストロー効果で、古い工業地帯や内陸部中小都市および農村地域が資本、人材そして活力を吸い取られ苦しめられて久しい。それらの地域で蓄積された不満の大爆発がトランプ氏の勝利につながった。

 2016年には、もう一つ世界を驚かせる出来事があった。それはイギリスが6月23日に行った国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を決めたことである。この投票もまたメガシティのロンドンと地方中小都市との対峙が背景にあった。結果、「EU残留」派の大ロンドン地区は、「脱EU」派として不満をぶつけた広大な中小都市および農村地域に敗れた。

 2017年1月23日、トランプ氏がアメリカ大統領となった当日に発令したのが、アメリカのTPP正式離脱であった。トランプ氏は関税と貿易障壁に焦点を当てるTPPを退け、法人税率を大幅に下げてグローバリゼーションを一気に3.0にバージョンアップさせた[4]。これによってアメリカは再び産業資本の新天地となり、事業のアメリカ回帰の流れが出来上がった。

 トランプ大統領は関税と貿易障壁を限りなく低くすることも忘れなかった。このために中国との貿易戦争をも辞さない姿勢を見せている。さらに、国内法人税まで下げることにより、企業が産業活動をより展開しやすくする環境作りに向けて、国際競争をしかけた。企業家出身のトランプ大統領は恐らく、企業活動にとってより低い関税と貿易障壁、より低い国内法人税率、そしてより少ない政府関与を目指しているのであろう。「アメリカ第一」を叫ぶトランプ大統領が結果的にグローバリゼーションを深化させ、加速させたことは、いかにも面白い現象である。

 グローバリゼーションはこれからも失速することなく、さらに加速していくであろう。

 猛烈に進展する交流交易は、大都市化とメガシティ化を促す。巨大都市は世界中から人口、企業、資金を大量に吸い上げると同時に、各国内部の社会経済構造の変革をも誘発する。大都市は世界変革の主役として膨張し続けていく。

 大都市の膨張には、以下の要因が考えられる。

(1)交流交易経済における優位性

 航空、海運、インターネットに代表される人的、物流、情報、金融などグローバルネットワークが高速化し拡大する中で、世界にまたがるサプライチェーンの構築がますます活発化してきた。交流交易経済には港を持つ沿海都市と、行政中心都市が優位である。

 世界史を振り返ると、まず大航海が臨海都市の発展を始動した。その後、そもそも海運の基礎の上で成り立った産業革命は、原材料生産、工業製品生産、そして販売などのプロセスを世界に分担させた。それによって、大陸経済の主導的地位はくつがえされ、産業と人口の臨海港湾都市への集中を引き起こした。数多くの臨海都市は貿易港や工業港を基礎に、すさまじい発展を遂げた。ニューヨーク、ロンドン、東京は、これらの典型である。1980年代以来のグローバリゼーションはさらに人材、企業、情報、資金を臨海都市へと集約させ、たくさんの都市を膨張させた。

 もちろん、今日の臨海大都市の「港」は、もはや狭義の海運港のみを指すものではなくなった。例えばロンドンやサンフランシスコなど先進国の臨海都市は、港湾機能のすでに半分以上を失っている。しかしながら港町としての開放性と寛容性とで、これらの都市はグローバル時代における経済、情報、科学技術、文化芸術の「交流港」として成功を収め、交流交易経済発展の新しいモデルを立ち上げている。こうしたことから見てとれるのは、開放性と寛容性こそが、交流交易経済発展の最も根本的な条件であるということだろう。

 この点では、臨海都市と同じように、首都に代表される行政中心都市の巨大化の要因も、国家あるいは地域の政治経済文化センターが持つ開放性と寛容性にある。そして行政中心都市の巨大化のもう一つの原因は、政治、経済、文化、交通、情報などのセンター機能が持つ威力である。

 世界に29ある人口1,000万人以上のメガシティの分布を見ると、うち19都市が沿海都市であり、8都市が内陸部に立地する首都であり、2都市が内陸部の地域中心都市である。これはまさしく上記の分析に合致する。

(2)大都市の吸引力の拡大

 いわゆるストロー効果とは都市が外部から人口、企業、資金などを吸い取る現象を指す。人的交流、物流、情報、金融などのネットワークが加速かつ拡大するなか、ネットワーク中枢都市のパワーは絶え間なく増強されることで起こる。ますますパワーアップする中枢機能は、大都市の吸引力を強化し、巨大なストロー効果をもたらす。

 大都市の吸引力拡大のもう一つの原因は、知識経済とサービス経済の属性によるものである。1980年以降、急激に発展した知識経済とサービス経済は、寛容性と多様性のある社会環境と、一定の人口規模、人口密度を必要とした。これが中心都市と沿海都市が、知識経済とサービス経済の発展を主導する所以である。経済発展はこれら都市に人口をさらに呼び寄せ、その規模と密度をますます上げる良い循環を生む。

 知識経済とサービス経済は巨大なエンジンとなって、急速な大都市化、メガシティ化を推し進めている。

(3)都市積載力の向上

 インフラ整備水準とマネジメント能力アップにより、都市は人口とその密度に対する積載力を向上させてきた。東京大都市圏を例にすると、1950年前後に1,000万人口を超えた同大都市圏は、環境汚染、交通渋滞、住宅逼迫、インフラ不足などの大都市病にあえぎ、厳しい「過密」問題に見舞われていた。これを受けて政府は人口と産業の東京への集中と集約を阻止する一連の政策措置を講じ、一度は遷都さえ企図されるに至った。しかしその後、インフラ水準とマネジメント能力の向上により、都市の積載力が大幅に改善され、今では東京大都市圏の人口規模は3,800万人に達したものの、「大都市病」はおおむね解消されている。

 この東京にみられるような都市積載力の向上が、世界各国においても巨大都市の一層の膨張を可能にした。

 本レポートでは上記の大都市を膨張させた三大要因を踏まえ、世界最大規模の大都市圏たる東京都市圏を事例に、多様なセンター機能が集まる中心都市が、いかなるプロセスを経て、膨張し、そして大規模高密度都市社会を成功裏に構築できたかを検証してみる。

 

2. 東京大都市圏の経験


 東京大都市圏は東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県の一都三県から構成される。13,562 km2の土地に、東京、横浜、川崎、さいたまの4つの100万人口を超える大都市と数多くの中小都市が密集している[5]。東京大都市圏は世界で最も早くメガシティとなった都市圏の一つで、今日その人口規模は3,800万人に達し、世界で最大の都市圏となった(図5を参照)。東京大都市圏は国土面積の3.6%で日本のGDPの32.3%を稼ぎ出し、政府機関、文化施設、企業本社、金融機関が集中して立地する名実共に日本の政治経済文化の中心である。それだけにとどまらず、東京は世界に名だたる国際都市でもあり、『世界の都市総合ランキング』[6]ではロンドン、ニューヨークに次ぐ第3位のグローバルシティとなっている。

 本レポートでは雲河都市研究院の〈アジア都市総合発展指標2017〉の研究から、東京大都市圏の成功経験は以下の4つの特徴にまとめられる。

図5 東京大都市圏DID分析図
出典:雲河都市研究院「アジア都市総合発展指標2017」より作成。以下、図12まで同様。
注:〈中国都市発展指標2016〉では、日本のDID基準を用い、4,000人/k㎡以上の連なった地区をDIDとして中日両国でDID比較分析を行った。〈中国都市総合発展指標2017〉では、OECD基準を使用し、5,000人/k㎡以上の地区をDIDと定義している。本書では、この新しい基準を用い、中国、日本、および世界の地域を対象にDID分析を行っている。

(1)多様なセンター機能の相互補完

 東京大都市圏は、最も多様なセンター機能を持つグローバルシティである。

 政治行政面では、東京には皇居、国会議事堂、および各中央省庁が高度に集中している。

 大手町、丸の内などの地区には、さらに企業の本社機能が高密度で集積し、58.2%の日本上場企業の本店が、東京大都市圏に立地している。

 同大都市圏はまた、京浜、京葉に代表される世界最大級の臨海工業地帯を持ち、その周辺にすさまじい数の部品企業が林立している。図6が示すように、京浜工業地帯のある神奈川県の貨物輸出額は全国第4位で、京葉工業地帯のある千葉県は同第5位、東京は同第16位となっている。日本の製造業輸出に占める東京大都市圏の割合は29.5%に達し、全国の3分の1弱に当たる。


図6 貨物輸出額広域分析図

 金融センターとしては、東京は日本最大の証券取引所があるだけでなく、金融機関本社機能の大集積地でもある。図7が示すように、金融業輻射力の分析では、47都道府県[6]の中で東京の輻射力があまりにも強いことから、東京以外の地域の同輻射力偏差値指数は全部50(平均値)以下になった。日本の金融機能は極めて高度に東京に集中している。

図7 金融業輻射力広域分析図

 東京大都市圏には、225の大学があり、図8が示すように、47都道府県の中で、大学生数は東京がダントツで第1位、神奈川、埼玉、千葉の3県がそれぞれ第3位、第6位、第9位となっている。その結果、東京大都市圏の大学の教員数と学生数は、それぞれ全国の35.2%、40.8%を占めている。

図8 大学生数広域分析図

 科学技術輻射力を見ると、図9が示すように、東京大都市圏はこれも独り勝ちである。47都道府県で科学技術輻射力指数が偏差値の平均値以上である5カ所のうち、2カ所が同大都市圏にあり、それは東京都と神奈川県である。東京大都市圏には日本の59.8%の研究開発経費と68.7%の研究開発要員が集中し、60.6%の特許を作り出している。

図9 科学技術輻射力広域分析図

 日本は戦後、一貫して「製造業立国」を旗印にしてきた。しかし近年、「観光立国」を国策として推進し、海外旅行客数が上昇しつづけている[7]。急速に増大する外国人旅行客が、東京大都市圏に集中して来訪する現象が露わになっている。図10が示すように、47都道府県の中で10カ所が海外からの宿泊客数偏差値指数が平均値以上となっている、東京の一人勝ちだけではなく、千葉、神奈川両県も第6位と第9位となっている。全国の外国人宿泊者数に占める東京大都市圏の割合は35.6%にも上る。

図10 海外からの宿泊者数広域分析図

 IT産業は交流交易経済の代表格である。海外との盛んな交流で世界都市になった東京は、IT産業を花開かせた。図11は、東京都が強大なIT産業輻射力を持つことを示している。47都道府県でわずか3つの地域が、IT産業輻射力偏差値指数を平均値以上とした。偏差値の高さは東京が際立っている。東京大都市圏では神奈川県のIT産業輻射力も平均値以上で、第3位となった。IT産業は情報社会時代における東京大都市圏の発展を牽引している。

図11 IT産業輻射力広域分析図

 強力な交通中枢機能、多様なセンター機能を持ち、次々と生まれる新産業が強い牽引力となり、東京大都市圏は常に日本の発展センターと位置付けられてきた。図12が示すように47都道府県のGDP偏差値で見ると、12地域が平均値以上となっている。東京都の偏差値が他地域を大きく引き離すと同時に、神奈川、埼玉、千葉の3県も、それぞれ第4位、第5位、第6位となった。東京大都市圏は全国GDPの3分の1を稼ぎ出している。

図12 GDP広域分析図

(2)東京湾の役割

 港湾条件に秀でた東京湾は戦後、東京大都市圏の大発展に大きく作用した。

 第二次世界大戦後、平和な国際環境を利用し、日本は国際資源と国際市場を前提とした臨海工業を推進した。とりわけ東京湾の両翼に京浜、京葉の両大型臨海工業地帯を作ったことが功を奏した。

 原油、鉄鉱石など廉価で良質な世界資源を利用し、世界市場に大規模な輸出攻勢をかけた京浜、京葉の両工業地帯は、臨海型工業のメリットを極限まで発揮させた。東京湾は、一躍世界で最大規模を誇る新鋭輸出工業基地となり、戦後日本の経済復興と高度経済成長を牽引し、日本を世界第2位の経済大国へと押し上げた。

 今日、東京大都市圏の経済主体はすでにサービス業や知識産業に移っているものの、東京湾エリアの貨物輸出量[8]は依然として日本全国の30%近くを占めている。

 輸出工業の急速発展は都市化を起爆し、ベイエリアおよびその後背地では人口が急激に膨張し、東京、横浜、川﨑、さいたまなど100万人を超える大都市がコアとなって東京大都市圏の形成を促した。

 注目に値するのは、ベイエリアの港湾群が臨海工業地帯の発展を支えただけでなく、世界から大量のエネルギー、生活物資、そして食料品を輸入し、膨張し続ける大都市圏の人口規模、そして人々の生活レベル向上のニーズに応えた点である。

 現在、東京湾の貨物輸入量[9]は全国の40%を占めている。臨海型大都市圏に人口を集積させることで、日本は世界資源を効率的かつ存分に利用することができた。

 東京湾における大規模な埋め立て地は、東京大都市圏の空間発展の重要な特徴の一つである。1868年以来、合わせて252.9 km2の埋め立て地が作られ、その大半が戦後に行われた。

 埋め立て地は、大型臨海工業地帯を形作っただけでなく、港湾、空港など交通ハブの建設や、中心業務地区(CBD:central business district)、国際会議場、海浜公園、大型モール、住宅などの大規模開発に、広大な空間を与えた。2020年の東京オリンピック関連施設の多くも、東京湾埋め立て地に建設される。

 図5-13が示したように、埋め立て地は、工業経済からサービス経済、そして知識経済まで、それぞれの時代の要請に応え、新たな都市空間の展開を可能にした。東京大都市圏の空間上の大きな特徴の一つは、埋め立て地にこうした展開を求めたことである。

図13 東京湾臨海部土地利用分布と大型施設の集客状況
出典:(一財)日本開発構想研究所の研究に基づき、雲河都市研究院が最新データをアップデートした。

(3)広域インフラ整備によるセンター機能の拡大

 他の都市ないしは世界につながる港、空港、新幹線、高速道路など広域インフラ設備は、東京のセンター機能効果を高めた。

 戦後、日本は広域インフラ整備の推進を通して、飛躍的成長を実現させた。1964年の東京オリンピックをきっかけに、日本は広域インフラ整備を加速させた。

 新幹線を例にすると、この高速旅客専用鉄道のコンセプトは日本が発明したものである。過去、世界各国の旅客列車は貨物列車も通る同一線路の上を走っていた。ゆえにスピードには限界があった。1964年、東京オリンピック開催前夜、日本は世界初の新幹線を開通させた。東京から名古屋、大阪までの三大都市圏を貫く新幹線は、大小都市を緊密に結び、太平洋メガロポリス(東海道メガロポリスとも言う)を形作った。

 特に注目に値するのは、太平洋メガロポリスの三大都市圏を連結する高速大動脈が、まず新幹線であったことである。三大都市圏を貫く高速道路は、東京オリンピック開催5年後の1969年にようやく開通した。これに対して、ボストン、ニューヨーク、フィラデルフィア、ボルチモア、ワシントンD.C.からなるアメリカ北東部大西洋沿岸メガロポリスはいまだに高速道路に依存している。

 オリンピック後も広域インフラ整備はさらに続いた。1965年には日本全国の高速道路はわずか190 kmで、新幹線も515 kmしかなかった。2,000 m以上の滑走路を持つ空港はたった5つに過ぎなかった。それに対して今日では、高速道路と新幹線はそれぞれ10,492 kmと2,624 kmに達した。2,000 m以上の滑走路を持つ空港は全国66カ所に増えた。

 こうした大規模な広域インフラ整備は、日本国土を高速で便利なネットワークで結んだ。その結果、東京のセンター機能は一層強化された。

 再び新幹線を例にとると、東京駅、東京都内の新幹線駅(3駅)、および東京大都市圏内(7駅)での乗降客数は、全国新幹線乗降客総数に占める割合が各々24.2%、30.5%、39%に達している。つまり、全国新幹線乗降客数の8割近くが、東京大都市圏とその他都市とを往来する客で占められている。これは新幹線の最も重要な役割が、東京大都市圏とその他の都市との往来であることを意味する。言い換えれば、新幹線は地方都市の人々が東京のセンター機能を利用するにあたり大きな利便性を提供している。

 新幹線が航空輸送と最も異なることは、各都市の中心部を直接つないでいる点にある。これは大変に重視すべき特徴である。東京駅を例にすると、5路線の新幹線に毎日平均17.5万人が乗り降りしている。東京駅をつなぐ15路線の電車や地下鉄を、毎日平均83.2万人もの乗降客が利用している。

 このような新幹線と都市鉄道のスムーズな連結が東京と地方の移動の利便性をさらに高め、両者の人的往来を促した。結果、当然、東京のセンター機能が強化され、人口と経済とがなお一層東京に集中した。

 新幹線開通の翌年1965年には、東京大都市圏の人口は2,102万人になり、当時、全国の人口とGDPに占める割合はそれぞれ21.2%、28%となった。半世紀後の2015年、東京大都市圏の人口は3,800万人に達し、全国の人口とGDPに占める割合は、29.9%と32.3%に達した。1972年に田中角栄首相が提唱した「列島改造論」に代表されるように、日本政府は数十年来、国を挙げて地方経済を盛り立て、人口と経済の東京集中阻止を図ろうとした。にもかかわらず、結果として、東京の一極集中現象はますます進んだ。新幹線の影響もそのことの一因だったと思われる。

 新幹線に続いて、日本は目下、東京と名古屋そして近畿三大都市圏をつなぐリニア中央新幹線を建設している[10]。時速500 kmの超高速大動脈は日本のメガロポリスを時空上でさらに緊密に結び、世界の人材、資金、企業にとって、より魅力的な空間が形成される。超高速大動脈は、東京大都市圏の巨大なセンター機能を一層強化するであろう。

(4)高密度発展の成功

 密度は、都市問題を議論する際の重要な焦点の一つである。本レポートでは、5,000人/ km2以上の地域をDID(Densely Inhabited District:人口集中地区)と定義し、人口密度に関する有効な分析を試みた。

 雲河都市研究院の研究によると現在、東京都のDID人口比率は87.3%に達し、東京大都市圏のDID人口比率も58.8%に至っている。それは、同都市圏の大半の住民が人口密集地で生活していることを意味する。

 さらに全国と東京大都市圏の人口比率から見ると、日本全人口の29.9%が東京大都市圏に住んでいることに対して、全国DID人口の55.2%が同大都市圏にいる。両者の間の差は25.3%ポイントもある。要するに同大都市圏においてDID率は全国平均をはるかに上回り、2,336万人のDID人口を抱えている。 

 本レポートは日本各都道府県のDID人口規模と第三次産業付加価値額、R&D内経費支出との相関関係について分析した[11]。結果は、DID人口規模と第三次産業付加価値額との相関係数は0.92と「完全な相関」にあり、DID人口規模とサービス経済との間には、極めて強い相関関係が認められた。また、DID人口規模とR&D内経費支出との相関係数も0.8と高まり、DID人口規模と知識経済との間も「非常に強い相関」関係が確認された。

 まさに膨大なDID人口が東京大都市圏のサービス産業と知識経済産業の発展を支えた。結果、同都市圏には日本の58.2%の上場企業が集中し、60.6%の特許申請受理数を誇っている。

 良質なDIDは、現代経済発展の根本である。図5-14が示すように、日本のDIDは東京、名古屋、近畿の三大都市圏に高度に集中している。三大都市圏で構成される太平洋メガロポリスは、全国の86.3%のDID人口と83.8%のDID面積を持ち、GDPの63.7%を稼ぎ出している。

 現在、日本のDID面積は、すでに3,761 km2に達し、国土面積の10%に当たる。DID人口も4,229万人に上り、全人口の33.3%を占める。なかでも東京大都市圏は日本のDID人口の半分以上を有している。

 以上の分析からわかるように、半数以上のDID人口が各種センター機能が集中する東京大都市圏で暮らしていることが日本経済の強みである。

 しかし、中国では都市の人口密度に関するネガティブな認識が根強い。高い人口密度が交通渋滞を招き、環境汚染を引き起こし、生活の不便をもたらす大都市病の原因だと考えられている。近年、北京などでは一部の地方から来た低所得者を強制的に追い出す動きに出て、物議を醸した。実際は、インフラ整備水準の貧弱さや都市マネジメント能力の欠如こそ、こうした都市病の元凶である。

 他方、大規模なDID人口は、サービス経済と知識経済に不可欠な土壌である。一定の人口規模と人口密度がなければ、数多くの新しい産業は生まれないからだ。

 東京大都市圏の経験はマネジメント能力の向上とインフラの充実とで、都市の積載力を高められることを実証した。こうした経験に真摯に向き合い、中国の為政者は、人口密度に関するネガティブな考えを改めるべきである。

図14 全国DID分析図
出典:雲河都市研究院「アジア都市総合発展指標2017」より作成。

[1] NSF(National Science Fundation)のデータによる。

[2] NSFのデータによる。OECDの分類定義では知識・技術集約型産業は、知識集約型サービス、ハイテクノロジー産業、ミディアムハイテクノロジー産業が含まれる。知識集約型サービスには教育、医療・福祉、ビジネス、金融、情報・通信サービス業が含まれる。ハイテクノロジー産業には航空宇宙、通信機器、半導体、コンピューター関連機器、医薬品、精密機器産業が含まれる。ミディアムハイテクノロジー産業には自動車、機械、電気機器、化学、輸送機器産業が含まれる。

[3] コンテナ取扱量は国際標準規格(ISO規格)20ftコンテナ=1TEU, 40ftコンテナ=2TEUで計算した。

[4] 2017年末、アメリカ国会は税制改革法案を採択し、法人税率を35%から21%に下げた。

[5] 特に註釈のない限り、本章が引用するデータは雲河都市研究院の〈アジア都市総合発展指標2017〉によるものである。

[6] 森記念財団都市戦略研究所『世界の都市総合ランキング Global Power City Index YEARBOOK 2017』。

[7] 日本の行政は中央、都道府県と市町村の3階層に分かれている。全国は1都、1道、2府、43県で、合わせて47都道府県で構成されている。

[8] 2003年、日本は国として初めて「観光立国宣言」をした。2007年、「観光基本法」を全面改正し、「観光立国推進基本法」が制定された。さらに、2008年、その推進を担う「観光庁」が、国土交通省の外局として新設された。

[9] 貨物輸出量は金額ベース。

[10] 貨物輸入量は金額ベース。

[11] リニア中央新幹線は2027年に東京—名古屋間、2037年には名古屋—大阪間が開設される予定である。

[12] 相関分析は、2つの要素の相互関連性の強弱を分析する手法である。「正」の相関係数は0—1の間で、係数が1に近いほど2つの要素の間の関連性が強い。なかでも0.9—1の間は「完全な相関」、0.8—0.9は「非常に強い相関」、0.6—0.8は「強い相関」とする。

『環境・社会・経済 中国都市ランキング2017 〈中国都市総合発展指標〉』掲載


『環境・社会・経済 中国都市ランキング2017 中心都市発展戦略』
中国国家発展改革委員会発展計画司 / 雲河都市研究院 著
周牧之/陳亜軍/徐林 編著
発売日:2018.12.21


【メインレポート】周牧之:メガロポリス発展戦略

周牧之 東京経済大学教授

1. 現状と課題


メガロポリスの時代

 (1)都市の世紀

 21世紀は「都市の世紀」である。国連のデータ[1]によれば、1950年に世界の都市人口は7.4億人であり、世界の総人口に占める都市人口率はわずか29.6%だった。1970年にその割合は36.6%まで上昇し、都市人口も13.5億人へと倍増した。2008年に都市化率は50%に達し、都市人口も33.4億人まで増加した。都市で生活する人口が過半数を超え、地球はまさしく都市の惑星になった。

 2015年、全世界の都市化率は54%を超え、都市人口は39.6億人に達し、都市化の勢いは一段と増している。2030年には都市化率は60 %にまでのぼり、都市人口は約51億人に到達すると推測されている。2050年には先進国地域の都市化率は85.4%の高水準に達し、開発途上国地域の都市化率も63.4%に上昇するという。国によって人口集中の傾向や都市形成のパターンは異なるものの、都市化が21世紀の世界的なメガトレンドとなっている。

 今日、アジアやアフリカの発展途上国は空前の都市化を経験している。特に中国を含む東アジア地域では顕著である。東アジア地域の都市化率は1950年にわずか17.9%であり、当時の発展途上国の平均値19.0%よりも低かった。その後、東アジア地域の都市化率は急上昇し、2010年前後には世界の平均水準を超え、2050年までには77.9%の高水準に達する見込みである。同地域の都市化率と先進国のそれとの差は1950年の36.7%ポイントから2050年には7.5%ポイントへ縮小する[2]

図1 世界および東アジアの都市人口、農村人口、都市化率の変化予測
出典 : 国連経済社会局編『世界都市化予測2014(World Urbanization Prospects: The 2014 Revision)』および『世界人口予測2015改訂版(World Population Prospects: 2015 Revision)』より作成。

 中国では、建国初期1950年の都市化率はたった11.2%であった。しかもその後の長期のアンチ都市化政策により、約30年後の改革開放元年1978年時点での都市化率は依然として17.9%の低水準にあった。しかし、その後都市化が加速し、特に1990年代末からの勢いは凄まじく、2011年には中国人口の過半数が都市住民となった。2015年に都市化率は56.1%に達し、中国も真の都市時代へ突入した[3]

図2 中国の都市と農村の人口変化予測      図3 中国の都市と農村の人口比率変化予測
出典 : 国連経済社会局編『世界都市化予測2014(World Urbanization Prospects: The 2014 Revision)』および『世界人口予測2015改訂版(World Population Prospects: 2015 Revision)』より作成。

 21世紀は都市の世紀であるばかりでなく、メガシティ(人口1,000万人を超える大都市)、あるいはメガロポリス(本文138頁を参照)の世紀とも言えるだろう。1900年の世界の大都市人口ランキング・トップ10は、上位から、イギリス・ロンドン、アメリカ・ニューヨーク、フランス・パリ、ドイツ・ベルリン、アメリカ・シカゴ、オーストリア・ウィーン、日本・東京、ロシア・サンクトペテルブルク、イギリス・マンチェスター、アメリカ・フィラデルフィアである。首位ロンドンすら人口は650万人しかなく、第5位シカゴ以下の都市は、200万人口に至っていなかった[4]

図4 世界の大都市人口ランキング(1900年)
出典 : 国連経済社会局編『世界都市化予測2014(World Urbanization Prospects: The 2014 Revision)』および『世界人口予測2015改訂版(World Population Prospects: 2015 Revision)』より作成。

 半世紀後の1950年、アメリカのニューヨーク(ニューアークを含むニューヨーク都市圏)と日本の東京(東京大都市圏)が人口1,000万人を超え、2つのメガシティが誕生した。しかしメガシティの増殖は緩慢だった。20年を経た1970年は、ニューヨーク(ニューヨーク都市圏)、東京(東京大都市圏)に、新たに一つ大阪(近畿都市圏)が加わり、3都市となったに過ぎなかった[5]

図5 世界の大都市分布と各地域の都市化率(1970年)
出典 : 国連経済社会局編『世界都市化予測2014(World Urbanization Prospects: The 2014 Revision)』および『世界人口予測2015改訂版(World Population Prospects: 2015 Revision)』より作成。

 だが、1980年代以降、急に大都市化の勢いが増した。メガシティは1990年に10都市まで増加し、世界人口の2.9 %に当たる1.5億人がこれら超大都市に住むこととなった[6]。2015年、メガシティは29都市に激増し、居住人口は世界人口の6.4%に当たる4.7億人にまで達した。メガシティの地域分布はアジア17都市、南アメリカ3都市、アフリカ3都市、ヨーロッパ3都市、北アメリカ3都市である[7]。大都市化の傾向はさらに続き、2050年には世界のメガシティの数は40都市を超えるにまで増加する見込みである。

図6 世界の大都市分布と各地域の都市化率(1990年)
出典 : 国連経済社会局編『世界都市化予測2014(World Urbanization Prospects: The 2014 Revision)』および『世界人口予測2015改訂版(World Population Prospects: 2015 Revision)』より作成。
図7 世界の大都市分布と各地域の都市化率(2015年)
出典 : 国連経済社会局編『世界都市化予測2014(World Urbanization Prospects: The 2014 Revision)』および『世界人口予測2015改訂版(World Population Prospects: 2015 Revision)』より作成。

 大都市化の最も重要な特徴は、都市人口規模の巨大化である。2015年世界のメガシティ人口ランキングでは、第1位の東京(東京大都市圏)は人口が3,800万人に達し、第2位のインド・デリーは2,570万人、第3位の中国・上海は、2,374万人、第4位のブラジル・サンパウロは2,107万人、第5位のインド・ムンバイは2,104万人、第6位のメキシコ・メキシコシティは2,100万人、第7位の中国・北京は2,038万人、第8位の日本・大阪(近畿都市圏)は2,024万人、第9位のエジプト・カイロは1,877万人、第10位のアメリカ・ニューヨーク(ニューヨーク都市圏)は1,859万人である。人口1,000万人級のメガシティの出現からわずか半世紀近く、世界最大の都市(都市圏)の人口規模は、すでに4,000万人突破を目前にし、都市人口の巨大化はますます進んでいる[8]

図8 世界のメガシティ人口ランキング(2015年)
出典 : 国連経済社会局編『世界都市化予測2014(World Urbanization Prospects: The 2014 Revision)』および『世界人口予測2015改訂版(World Population Prospects: 2015 Revision)』より作成。

 大都市化のもう一つの特徴は、発展途上国のメガシティ化が猛烈に進んでいることである。1900年、世界の10大都市はすべて先進国の都市であった。1950年と1970年のメガシティも、同様に先進国都市が占めている。しかし、2015年には発展途上国の都市が、世界10大メガシティに7都市も含まれている。

 都市人口規模の予測では、2030年に先進国で東京(東京大都市圏)が世界第1位の地位を維持するものの、第2位から第10位の都市は発展途上国が席巻し、上位からインド・デリー、中国・上海、インド・ムンバイ、中国・北京、バングラデシュ・ダッカ、パキスタン・カラチ、エジプト・カイロ、ナイジェリア・ラゴス、メキシコ・メキシコシティとなり、発展途上国の大都市化傾向がさらに進むとみられる。

(2)臨海都市の大発展

 2015年、OECD(Organization for Economic Co-operation and Development: 経済協力開発機構)諸国における都市の中で、1,000万人級のメガシティは東京(東京大都市圏)、大阪(近畿都市圏)、ニューヨーク、ロサンゼルス、パリ、ロンドンの6都市であり、パリを除いたすべてが海に面した「臨港都市」である。また、世界10大メガシティの中で、OECD諸国では東京(東京大都市圏)、大阪(近畿都市圏)、ニューヨーク(ニューヨーク都市圏)の3都市が、いずれも臨港都市である。

 本レポートでは全世界の1,000万人級以上の29メガシティを3つに分類する。

① 港湾の優位性を活かして発展してきた「臨海型」都市、② 内陸部に位置し国の政治や文化の中心として発展してきた「陸都型」都市、③ 内陸部農業人口密集地域の中心都市として発展してきた「内陸型」都市の3分類である。その類型によれば臨海型都市は18都市となり、世界のメガシティの約7割を占め、臨海型都市の優位性が明確となる。陸都型都市は9都市、最も少ない内陸型都市はわずか2都市で両都市とも発展途上国の都市である[9]

図9 世界のメガシティ分類別分布

 大航海は臨海型都市の発展を始動した。とりわけ産業革命後、海運をベースにした原材料や工業製品の世界での調達や販売が、大陸経済の主導的な地位を覆した。これが産業と人口を、臨海都市へと集積させる要因となった。その後、海運の大型化と高速化、そしてグローバリゼーションの進展により、人材、産業、資金、情報の港湾都市への集積が加速し、たくさんの臨海型大都市が興った。

 古来より多くの都市の発展は、港と密接な関係があった。陸上交通に比べ、水路輸送のコストは低く輸送量は大きいため、水運が発達した地域は交易都市になりやすい。大航海以降、海運技術の発展により大口物流の主体は水運から海運へと変わった。さらにグローバリゼーションの展開により港湾経済の優位性が高まり、貿易港と工業港をベースとした都市が急速に発展した。ニューヨーク、東京、大阪はこれら都市の典型である。

 北京、パリ、モスクワに代表される陸都型メガシティは、内陸部に位置しているものの、おおむね大運河や河川水運の条件を背後に持つ。北京を例に挙げれば、杭州から北京までつながる京杭大運河の水運は、歴史上、北京の発展に極めて重要な役割を果たした。これら内陸首都はかつて大陸経済が盛んだった帝国時代に繁栄した都市であったが、世界経済のエンジンが大陸経済から海洋経済にシフトすると、内陸部に位置する陸都型都市の活力は、一定の打撃と制約を受けた。今日の陸都型メガシティの発展の基礎は、主に政治や文化の中心としての行政機能や、企業の中枢機能、そしてその地政学上の位置にある。また、陸都型メガシティは直接海に面してはいないが、周辺の良好な港に支えられるケースが多い。たとえば、北京の周辺には天津、唐山などの大型港湾がある。

 内陸型メガシティは中国・重慶とインド・バンガロールの2都市である。ともに発展途上国に属し、気候条件に優れた大農業地帯に位置し、高密度の農業人口地域を抱える中心都市である。

 政治・文化の中心として、また地政学上の重要性をてこにして発展した陸都型メガシティと、膨大で高密度の農業人口を背景に発展した内陸型メガシティに比べ、臨海型メガシティは海洋経済の産物である。海洋の大物流、大交易、大交流によって、港湾都市はめざましく発展した。もちろん、今日の臨海型メガシティの「港」はもはや狭義の海運港ではない。港湾経済によって興ったこれらの海浜都市は、その経済主体も進化し、海運港自体の比重は低下し続けている。たとえば、イギリスのロンドン、アメリカのニューヨークやサンフランシスコ等、先進国の臨海型メガシティでは、港湾機能ですら、すでに大半を失っている。しかし、これらの都市は港湾都市の開放性と包容力とで、情報、科学技術、文化、芸術の「交流港」を作り上げ、グローバル時代での交流経済による都市発展のニューモデルを生み出した。

 経済と都市機能の複雑化、多様化、大規模化に従って、港湾都市と後背地の都市機能や都市空間が徐々に一体化し大都市圏が形成される。さらに複数の大都市圏と周辺の中小都市が、広域的な都市連担を形成する。これがメガロポリスの誕生である。世界の代表的なメガロポリスにはニューヨーク、ワシントンD.C.、ボストンを中心とするアメリカ北東部の「大西洋沿岸メガロポリス」や、東京、大阪、名古屋を中心とした日本の「太平洋メガロポリス」がある。中国では上海、江蘇省、浙江省を中心とする「長江デルタメガロポリス」や、香港、広州、深圳を中心とする「珠江デルタメガロポリス」、そして北京、天津、河北省を中心とする「京津冀メガロポリス」が徐々に形成され、中国経済の発展をリードする三大エンジンとなっている。

 (3)メガロポリスの形成

 メガロポリスはメガシティを中心に、複数都市を高速交通ネットワークで一体化した都市連担である。メガロポリスは巨大な人口規模と多くの特色ある産業集積を持ち、国際交易や交流の重要なプラットフォームとなり、政治、経済、文化、情報、科学技術、金融などの機能において、国そして世界をリードしている。

図10 大西洋沿岸メガロポリス

① アメリカ北東部の大西洋沿岸メガロポリス

 アメリカ北東部の大西洋沿岸メガロポリス(ボスウォッシュ〈BosWash〉)はボストン、ニューヨーク、フィラデルフィア、ボルチモア、そしてワシントンD.C.の5大都市と、人口10万人以上の約40の中小都市から成る約970kmに及ぶ帯状の都市連担である[10]。このメガロポリスは、高速道路網と鉄道網で形成された人口4,400万人を抱える巨大な都市有機体である。人口規模は全米の16 %を占めている。

 ボスウォッシュ内の大都市の大半が、海に面した臨港都市である。特にボストン、ニューヨーク、ボルチモアは港湾条件に恵まれ、ヨーロッパ系移民が北米で最も早く上陸した場所である。

 ボスウォッシュは、全米国土面積のわずか2%を占めるにすぎない地で、米国労働人口の約6分の1を有している。膨大で高密度な人口が、商工業と文化・娯楽産業の発展を促し、同地区の都市機能を豊富にし、向上させた。

 ボスウォッシュはアメリカの政治の中心であるだけでなく、その製造業総生産額、GDPは各々全米の30%、20%に達し、米国最大の生産基地、交易・文化の中心地、また、世界の金融センターとなっている。

 ボストンはアメリカ史上最も古い悠久の都として、大学や研究機関が発展し、軽工業都市から世界レベルの知識経済センターへと脱皮した都市である。ニューヨークは世界の金融・情報センターであり、世界的な人材、資金、情報が交差する最大の交流経済体であると同時に、観光経済が発達した文化娯楽の都でもある。フィラデルフィアとボルチモアは港湾と工業によって発展し、豊富な産業資本によって、現在では高等教育、研究開発、文化娯楽、医療健康などの分野において高水準の集積がある。1790年に新しく建設されたワシントンD.C.は、1800年にアメリカ政治の中心となり、都市全体がまるで巨大な公園のように整備された様子は、首都計画の模範となっている。

 総じて、この地域はアメリカ発祥の地だけではなく、アメリカの政治、経済、文化の中枢であると同時に、アメリカと世界との交流の中心でもある。

 メガロポリス(Megalopolis)の概念を最初に提唱したフランス人地理学者ジャン・ゴットマン(Jean Gottmann)は、同メガロポリスが形成された要因として、自然・交通の優れた条件に惹かれて大量の移民が引き寄せられ、大規模な工業集積、消費市場、商業金融機能が出来上がった、としている[11]

図11 太平洋メガロポリス

② 太平洋メガロポリス

 日本の太平洋メガロポリス(東海道メガロポリス)は、東京大都市圏、名古屋都市圏、近畿都市圏によって構成される帯状の都市連担である。この約500 kmに及ぶベルト地帯には、人口100万人以上の8都市(東京、横浜、川崎、さいたま、名古屋、大阪、神戸、京都)と、数多くの中小都市が密集している[12]。日本の国土面積の21.4%を持つ同メガロポリスは、人口規模が7,558万人に達し、全国人口の60%を占め、GDPの66%と製造業付加価値の62.4%を稼ぎ出している。行政機関、文化施設や金融機関が集中し、名実ともに日本の政治、経済、文化の中枢となっている。

 港湾条件に優れた東京湾、大阪湾、伊勢湾は、メガロポリスの発展における礎であった。第二次世界大戦後、日本は平和な国際環境を活かし、国際資源と国際マーケットを前提とした京浜—京葉[13]、阪神、中京の三大臨海工業地帯を造った。

 安価で良質な世界の資源と、自由貿易で活況を呈する国際マーケットを利用し、海運の優位性を極限まで発揮した三大臨海工業地帯は、一躍世界で最も巨大かつ最新鋭の工業製品輸出エンジンとなり、戦後の日本経済回復と高度経済成長を牽引した。結果、日本は世界第2位の経済大国へと上り詰めた。また、工業の発展は急速な都市化をもたらし、三大湾とその後背地の都市人口は急激に膨張し、東京大都市圏、名古屋都市圏、近畿都市圏、その他多くの中小都市が形成された。

 東京、大阪、伊勢の三大湾の港湾群は、三大臨海工業地帯の発展を支えただけではなかった。これらの港湾群を通じて大量のエネルギー、食品、物資を世界中から効率よく輸入でき、三大都市圏が有する膨大な人口の生活需要を満たした。まさに、臨港型大規模都市人口集積の優位性によって、日本は全世界から資源を最適に享受でき、都市経済を効率よく発展できた。今日、日本が94%の一次エネルギーと61%の食品(カロリーベース)を輸入に依存していることは、まさにこれを物語っている。

 ベイエリアの大発展に埋め立ては大きな役割を果たした。たとえば東京湾の場合は、1868年以来252.9 km2にも及ぶ膨大な面積の埋め立てが行われた。しかもその大半は第二次世界大戦後に実施された。大規模な埋め立てによって、東京、大阪、伊勢の三大湾では三大臨海工業地帯を形作っただけでなく、三大都市圏の港湾・空港など大規模な交通ハブを建設した。同時に、それら埋立地は中心業務地区(CBD)、国際会議センター、海浜公園、大型商業施設、親水型住宅など、大規模な都市建設を可能とする開発空間となった。これによって、三大都市圏は工業経済から知識経済、サービス経済に転換する過程で、空間上の多核化の展開が保障された。2020年の東京オリンピックにおける多くの関連施設も、東京湾埋め立て地に建造される予定である。

 三大都市圏を貫く東海道新幹線が1964年に、東名高速道路が1969年に相次いで開業し、三大都市圏が一つのメガロポリスにネットワークされた。

 現在建設中のリニア中央新幹線は近い将来、東京、名古屋、近畿三大都市圏を貫く時速500kmの超高速動脈となり、同メガロポリスをグローバルな人材、資金、情報にとって、さらに魅力的な空間へと押し上げる。

中国経済をリードするメガロポリス

 中国経済の急激な発展は、世界経済のパラダイムシフトと中国の改革開放の巨大な活力が結合した産物であった。情報革命の進展によって、企業間取引と情報往来が電子化された。これにより国際交易コストを大幅に下げ、地域内に閉じこもっていたサプライチェーンが、急速に世界に拡張していった。航空・海運などの高速輸送システムの成熟、そして世界規模の工業製品への関税低減は、サプライチェーンの世界的拡張を促した。

 こうした状況の中、激化する価格・時間競争を勝ち抜くために、先進国の企業は開発、生産から販売にまで至る過程をすべて内包する伝統的なビジネスモデルを放棄した。経営リソースを最も競争力があるコアビジネスに集中させ、地球規模での展開を最適化するサプライチェーンを構築し、より高い利益を求めるようになった。

 幸運なことに、グローバルサプライチェーンのビジネスモデルが普及する時期は、中国改革開放の時期と重なった。中国の沿海部、特に珠江デルタ、長江デルタ、京津冀の三地域では改革開放政策が推し進められた。港、空港、高速道路や鉄道などのインフラ建設が盛んに行われ、巨大な工業用地が開発された。安価で良質な労働力が大量に提供され、グローバルサプライチェーンの新天地が作られていった。

 巨大で開放された空間が、数多くの外国企業からの投資や工場設置を惹きつけ、国内企業にも発展のチャンスをもたらし、夢追い求める人々に新たな舞台を提供した。計画経済時代に抑えられていた人々の巨大なエネルギーは、大規模な人口移動という形で爆発し、これらの地域に集結した。

 外資の流入と国内企業の成長は、これらの地域に巨大なスケールの産業集積と複数の都市にまたがる巨大都市連担—メガロポリスを形成した。

 三大メガロポリスは今日、中国の経済発展の巨大エンジンへと成長を遂げた。中国はまさにグローバルサプライチェーンに開放的な空間を提供し、新たな「世界の工場」となったと言えよう。

 現在、珠江デルタメガロポリス(9都市)[14]、長江デルタメガロポリス(26都市)[15]、京津冀メガロポリス(10都市)[16]の三大メガロポリスは、中国全土のGDPの36 %を占めた。経済規模で比較すると、三大メガロポリスが中国全土に占める貨物輸出額と外資実質利用額の割合は各々44.4%と73.2%に達した。

 (1)地政学的優位性

 内陸地域と比べ、三大メガロポリスはグローバル展開に恵まれた地政学的優位性を持つ。グローバルサプライチェーンは、生産の低コスト化を図るだけではなく、物流、在庫、時間の低コスト化も追求する。グローバルサプライチェーンの高度な専門性とハイスピードな対応を支えるには、港湾と空港の利便性は極めて重要である。

 三大メガロポリスは極めて短期間で大規模な港湾、空港、高速道路そして高速鉄道を建設し、グローバルサプライチェーンが効率よく経営するための良好な環境を整えた。

図12 中国各都市コンテナ港利便性分析図
注 : 本指標で使用する「コンテナ港利便性」とは、都市とコンテナ港の距離、コンテナ港の取扱量や航路など関連している数値を総合的に計算し、コンテナ港の利便性指数として定義している。

① 港の建設

 中国工業化とコンテナ港発展とのタイアップは、驚嘆に値する。今日の世界におけるコンテナ港トップ10のうち、堂々7港を中国が占めている。そのうち、第7位の青島を除き、第1位の上海、第3位の深圳、第6位の寧波─舟山、第8位の広州、第10位の天津は、すべて三大メガロポリスに属している。

 〈中国都市総合発展指標2016〉の分析では、中国295の地級市以上の都市における「コンテナ港利便性」の上位30都市中、三大メガロポリスは22都市を占め、そのうち上海第1位、深圳第2位、寧波─舟山第4位、広州第6位である。三大メガロポリスが中国コンテナ輸送条件で最も優れた地域である[17]。中国全土のコンテナ貨物取扱量で見ると、珠江デルタメガロポリスは中国全土の26.3%、長江デルタメガロポリスは同34.4 %、京津冀メガロポリスは同7.8 %を占め、三大メガロポリスの合計は中国全土の68.5%に達している。このようなコンテナ貨物取扱量および貨物輸出額の高度な集中は、優れた港湾条件こそが、グローバルサプライチェーンのこれら地域での大規模展開の支えであることを示している。

図13 中国各都市空港利便性分析図 
注 : 本指標で使用する「空港利便性」とは、都市と空港の距離、空港の旅客輸送量や航路など関連している数値を総合的に計算し、空港の利便性指数として定義している。

② 空港の建設

 三大メガロポリスにおける空港建設の成果が、衆目を集めている。珠江デルタメガロポリスは現在、香港国際空港、マカオ国際空港、広州白雲国際空港、深圳宝安国際空港、珠海金湾国際空港、恵州平潭空港、仏山沙堤空港の7つの空港態勢を持つ。そのうち、広州白雲国際空港は、旅客乗降数や貨物取扱量が共に中国全国第3位であり、また、フライト数においてもアジア第5位の国際的なハブ空港である。同様に、国際ハブ空港として香港国際空港のフライト数もアジア第7位となっている。

 長江デルタメガロポリスは、上海浦東国際空港、上海虹橋国際空港、杭州蕭山国際空港、南京禄口国際空港、寧波櫟社国際空港、合肥新橋国際空港、無錫蘇南碩放国際空港、常州奔牛国際空港、揚州泰州国際空港、金華義烏空港、南通興東空港、塩城南洋空港、舟山普陀山空港、台州路橋空港、池州九華山空港、安慶天柱山空港の16空港態勢を持つ。そのうち、上海浦東国際空港は旅客乗降数と貨物取扱量が、中国全土でそれぞれ第2位と第1位の空港で、フライト数でもアジア第4位の国際ハブ空港である。

 京津冀メガロポリスは、北京首都国際空港、北京南苑空港、天津浜海国際空港、石家荘正定国際空港、唐山三女河空港、張家口寧遠空港、秦皇島北戴河空港の7空港態勢を持つ。そのうち、北京首都国際空港は旅客乗降数と貨物取扱量がそれぞれ中国第1位と第2位の空港であり、さらにフライト数はアジアで第1位の国際ハブ空港である。

 〈中国都市総合発展指標2016〉の分析によると、三大メガロポリスは中国の航空輸送において最も便利な地域であると言えよう。中国地級市以上の295都市の「空港利便性」上位30都市中、三大メガロポリスに属する都市が12都市を占め、上位4都市は上海、北京、深圳、広州で三大メガロポリスに属する都市が総嘗めにした[19]

 三大メガロポリスが航空輸送旅客取扱量の中国全土に占める割合は43.5%であり、そのうち、珠江デルタメガロポリスが11.2%、長江デルタメガロポリスが19.3%、京津冀メガロポリスが13%を各々占めている。三大メガロポリスが貨物取扱量の中国全土に占める割合は67.8%に達し、そのうち、珠江デルタメガロポリスが18.4%、長江デルタメガロポリスが33.8%、京津冀メガロポリスは15.6%を占めている。優れた航空輸送条件が、三大メガロポリスにおけるグローバルサプライチェーンのスピーディな展開を支え、それが交流交易経済発展の重要なプロモーターとなっている。

③ 高速道路、高速鉄道

 1988年に中国で高速道路[20]が開通して以来、2014年末までに総計11.2万kmの高速道路が建設された。珠江デルタは6,266km、長江デルタは12,949km、京津冀は7,983kmの高速道路網を持つ。三大メガロポリスにおける高速道路の総延長距離は全国の24.3%に達し、中国全土で高速道路密度が最も高い地域である。

 中国はすでに11.2万kmの鉄道網を建設した。珠江デルタは4,027km、長江デルタは9,039km、京津冀は8,509kmの鉄道網がある。三大メガロポリスにおける鉄道の総延長距離は全国の19.3%に達し、中国全土で鉄道密度が最も高い地域である[21]

 〈中国都市総合発展指標2016〉の分析によると、全国の地級市以上295都市における「高速鉄道便数」の上位30都市中、三大メガロポリスに属する都市は19都市を占め、そのうち上位6都市は広州、上海、北京、深圳、天津、南京で、そのすべてが三大メガロポリスの都市である。三大メガロポリスは中国の高速鉄道においても最も利便性が高い地域である。

 高速道路と鉄道交通網が充実していることで、三大メガロポリスと全国各地との時間距離と経済距離は大きく圧縮され、同時に、三大メガロポリス内部もハイスピードのネットワークで緊密に連携している。

 (2)世界資源の大規模利用

 産業革命は、イギリスが西インド諸島で栽培した綿花をマンチェスターまで輸送し、加工することからはじまった。これは近代工業の発展が最初から世界資源の利用を前提としていたことを意味する。グローバルな視点で見ると、工業の発展には、大規模で効率よく世界資源を利用する場所が必要である。そのため産業革命以降、工業の活力がある地域は、沿海部あるいは河川沿いで港湾条件の良い都市に集中している。逆に言えば、港湾について好条件のない地域における大規模な近代工業の展開は、なかなか難しい。

 新中国建国後最初の30年間は、常に米ソ両超大国と交戦の可能性すらある緊迫した国際情勢に置かれていた。当然、当時の重化学工業化は世界資源を利用する条件下にはなかった。このため中国政府は、国内資源をベースにした内陸部での産業立地政策を進めた。これに拍車をかけたのが、大規模な戦争に備えるためとして毛沢東が提唱していた「三線」建設であった。結果、中国重化学工業の大半は当時、内陸部の資源産地および「三線」に配置された。

 産業配置政策が変わったきっかけは、鉄鉱石の海外輸入を前提とした上海宝山製鉄所の建設であった。改革開放で海外への門戸が開いた後も、宝山製鉄所を建設すべきか否かについて依然激しい論争があった。論争の焦点は、なぜ輸入鉄鉱石を前提とする製鉄所が必要なのか?なぜ巨額のコストをかけて地盤の軟らかい長江入り江に製鉄所を建設するのか?であった。経済発展における輸入資源の重要性への理解不足により、宝山製鉄所の建設は一時中断されたこともあった。

 今日、宝山製鉄所は中国最大の鉄鋼メーカーに成長し、世界資源を利用する臨海型発展モデルの優位性を証明した。石油、鉱石などの資源需要が急増し、中国は今や資源輸入大国となった。

 鉄鉱石を例にすると、中国の鉄鉱石輸入は1981年にはじまり、2001年に1億トンの大台を突破した。2003年には日本を抜いて中国は世界最大の鉄鉱石輸入国になった。鉄鉱石輸入量は2015年、9億5,272万トンに達し、鉄鉱石消費量に占める輸入の割合は40.8%に達した[23]

図14 中国の粗鋼生産、鉄鉱石生産、輸入量の変化(1980〜2015年)
出典 : 中国国家統計局『中国統計年鑑』 および中国国土資源部資料より作成。

 運送コストや環境コストへの認識が増すに連れ、輸入鉄鉱石を高効率に利用できる臨海型鉄鋼生産基地の優位性が次第に明らかになった。内陸部に大量に分散していた効率の悪い鉄鋼産業は臨海部に移転し、とりわけ需要が旺盛な三大メガロポリスとその周辺地域に集まるようになった。

 高速経済成長と自動車社会の到来で、中国の原油消費量は急伸した。1993年に中国は原油純輸出国から純輸入国に転換し、その後も原油輸入量は続けて上昇した。2009年には輸入量が国内生産量を超え、2015年の原油輸入量は3億2,800万トンに達し、原油消費量における輸入の割合が60.4%に高まった[24]

図15 中国の原油消費と輸入量の変化(1980年〜2015年)
出典 : 中国国家統計局『中国統計年鑑』 および中国国土資源部資料より作成。

 大型水深港は海外の良質な石油や天然ガスの、大規模で高効率な利用を可能にし、三大メガロポリスにおけるエネルギー効率を高めた。輸入エネルギーの増大は三大メガロポリスの経済効率を押し上げ、内陸部との経済効率の格差を広げた。この傾向は産業と人口の三大メガロポリスへの集中を加速し、中国の国土利用構造を、根本的に変化させた。

 (3)新型産業集積の巨大化

 情報技術の発展で、生産活動に必要な技術や技能などを情報として、スマートマシンが備蓄できるようになった[25]。この産業技術の変革により、発展途上国は先進的な知能型生産設備を導入し、技術レベルの貧弱さと熟練労働者不足とを補えることになった。発展途上国の工業化への敷居が大きく下がった[26]

 産業技術の革命的な変革は、工業活動の空間上の制約を低くした。発展途上国で比較的容易に工業生産活動ができるようになり、サプライチェーンは国境を越え発展途上国へと足場を広げた。効率化の競争を勝ち抜くために、企業は国民経済の壁に温存されていたフルセット型産業集積の不合理性から飛び出し、グローバルサプライチェーンを構築し、世界規模で最適生産を追求するようになった[27]

 これをきっかけに、グローバルサプライチェーン型産業集積も生まれた。アメリカのシリコンバレー、インドのバンガロール、そして中国の三大メガロポリスの新興産業集積はその典型である。グローバルサプライチェーンは三大メガロポリスに巨大な産業投資をもたらし、世界最大規模のエレクトロニクス産業、自動車産業、機械産業などの集積地を作り上げた。

 国を挙げて工業化を進める中国では、全国津々浦々の都市が工業発展を経済振興の最も重要な手段としている。しかし、中国の輸出工業は却って三大メガロポリスに集中している。三大メガロポリスの工業産出額および貨物輸出額が、中国全国で占める割合は、各々37.7%と73.2%に達している[28]。とりわけ中国全国で貨物輸出の占める割合が、工業産出に占める割合よりはるかに高いのは、三大メガロポリスの工業経済の品質が、他地域より高いことの表れである。そのことが、中国の工業経済をさらに三大メガロポリスへ収斂させていくであろう。

 「世界の工場」中国の中でも、三大メガロポリスこそが正真正銘の「世界の工場」であると言うべきであろう。

図16 中国各都市工業産出額分析図
図17 中国各都市貨物輸出額分析図

 (4)文化科学技術とハイエンド・サービスの中心地域

 文化・科学技術とサービス、とりわけハイエンド・サービスの分野において、三大メガロポリスは全国の先駆けとなっている。〈中国都市総合発展指標〉は、都市のある機能を外部が利用する度合いを「力」として定義し、卸売・小売、医療、文化・スポーツ・娯楽、金融、高等教育、科学技術などの分野で評価した。その結果、三大メガロポリスの中心都市は、これらの分野で他の都市とは比較にならないほど強大な輻射力を持つことがわかった[29]。つまり、三大メガロポリスの中心都市はこの分野で、全国に向けてハイエンド的なセンター機能を提供している。

 卸売・小売の輻射力では、全国地級市以上の都市の295都市中、上位6都市は上海、北京、深圳、広州、南京、杭州であり、すべて三大メガロポリスに属する都市である。三大メガロポリスでの大規模かつ高密度の人口集積が、卸売・小売の発達を促した[30]

図18 中国各都市卸売・小売輻射力分析図
注:本指標で使用する「輻射力」とは、広域影響力の評価指標であり、都市のある業種の周辺へのサービス移出・移入量を、当該業種従業者数と全国の当該業種従業者数の関係、および当該業種に関連する主なデータを用いて複合的に計算した指標である。

 医療輻射力における上位3都市は北京、上海、広州であり、三大メガロポリス各々の中心都市がランクインしている。3都市には数多くのハイレベルな医療機関が集積し、他の地域から患者が最も利用する都市となっている[31]

図19 中国各都市医療輻射力分析図

 文化・スポーツ・娯楽輻射力では上位8都市中、6都市が三大メガロポリスに属している。とりわけ上位3都市の北京、上海、広州は、文化・スポーツ・娯楽の中心都市としての地位がずば抜けて高く、なかでも首都北京は全国の文化センターとして位置づけられている[32]

図20 中国各都市文化・スポーツ・娯楽輻射力分析図

 高等教育輻射力の上位2都市も北京、上海であり、三大メガロポリスの中心都市が高等教育分野でも全国をリードしている。なかでも北京は全国における高等教育センターとしてその存在感は突出して強い[33]

図21 中国各都市高等教育輻射力分析図

 科学技術輻射力においては上位30都市の中で、三大メガロポリスに属する都市は18都市にものぼる。とりわけ上位5都市は北京、上海、深圳、広州、蘇州であり、すべて三大メガロポリスの都市が顔を揃えている。特に北京は、全国の科学技術センターとしての地位が際立っている[34]

図22 中国各都市科学技術輻射力分析図

 金融輻射力においては上位9都市の中で、三大メガロポリスに属する都市は7都市ある。そのうち、上海、北京、深圳は中国の三大金融センターとして不動の地位にある[35]

図23 中国各都市金融輻射力分析図

 都市の時代は、都市競争の時代でもある。都市が外部の人材、資金、情報を引き寄せる「吸引力」は、「ストロー効果」と呼ばれる。卸売・小売、医療、文化・スポーツ・娯楽、金融、高等教育、科学技術は、すべて都市の吸引力の要素である。三大メガロポリスはこれらの分野での強大な優位性により、中国全土あるいは全世界から人材、資金、情報を一層引き付け、発展し続けている。

メガロポリス時代の挑戦と課題

 中国には「中国の都市化は中小都市モデルで進むべきだ」と主張する人が多い。多くの学者や官僚が、オーストリア、スイス、チェコ、ハンガリーなどの国が歩んだ中小都市モデルを崇拝している。もっとも、これらの国が中小都市モデルで都市化を進めたのは、工業化が始まった時期が早かったからである。ゆえに農村から都市部への人口移動は、大半が周辺の地域からであった。さらに労働力の移行プロセスも、長い時間をかけて農業から紡績業、機械業、そしてサービス業、情報産業にまで至った。

 これに対して、工業化の後発国は、大都市型の発展モデルを展開するケースが多い。人口も一挙に全国から大都市へと流れる。都市化プロセスの変化は、都市の経済主体としての現代産業の集積能力が、ますます強大になったことから起こった。

 200年余りの近代都市化プロセスは、都市化、大都市化、メガロポリス化の道を一途に辿り、都市の集積規模はさらに大きくなっている。現代産業の集積力が強大になるにつれ、都市規模の経済効率への影響がますます重要になってきた。特に都市のインフラやマネージメント力のレベルアップにより、集積効果が高められ、集積のマイナス効果の低減が可能となってきた。もちろん一部の発展途上国においては、インフラ及び都市のマネージメント力向上に追いつかないほどの人口集積が起こり、渋滞や環境汚染およびスラム街の肥大化など大都市病が発生している。

 中国政府は建国後長い間、人口や産業が都市部に集中する必然性を認識せず分散型重工業化政策、農村工業化政策、そして「小城鎮政策」を進めた。これらの政策は産業立地および人口移動の自由を制限し大都市の発展を抑制した。

 改革開放の深まりで企業立地が自由化され、産業投資は経済効率が高い地域に殺到し、メガロポリスへの大規模な人口移動が誘発された。しかし戸籍制度がもたらした二元社会構造の現実に、政府の政策思考はがんじがらめとなり産業と人口が大都市やメガロポリスに集中する現象をなかなか直視できなかった。

 2001年9月に、中国国家発展改革委員会、中国日報社、中国市長協会、日本国際協力事業団が共同で「中国都市化フォーラム—メガロポリス戦略」を上海市で開催した。中国において初めてメガロポリス政策を提案し[38]、メガロポリスに関する政策討論の口火を切った[39]

 中国政府は2006年、第11次五カ年計画において、メガロポリス発展政策を明確に打ち出した。これは、中国が半世紀にわたって続けてきた大都市抑制政策を放棄し、都市化政策を大転換したことを意味した。

図24 中国メガロポリス戦略イメージ図
出典 : 周牧之主編『城市化:中国现代化的主旋律』(湖南人民出版社〔中国〕、2001年)

 メガロポリスは、フランスの地理学者ジャン・ゴットマンが1961年出版の著書『メガロポリス』で初めて概念として使用した。ゴットマンはアメリカ東海岸の5大都市が組み合わさった人口3,000万人の地域をメガロポリスと称した。

 本レポートで論ずるメガロポリスと、ゴットマンが述べたメガロポリスは、メガロポリスが併せ持つ生産力と発展形態において大きな差異がある。メガロポリス経済の主体は、すでにフルセット型産業構造から世界的な分業構造へとシフトし、かつサービス産業と知識経済の占める比重が著しく増大した。特に注視すべきは、アメリカ大西洋沿岸メガロポリスの人口規模および人口密度が、今日の中国のメガロポリスには遠く及ばない点である。中国のメガロポリスと比較可能なのは、日本の太平洋メガロポリスである。

 本レポートでは、メガロポリスを、複数の大都市圏が緊密に連携する都市連担と定義する。その空間には数多くの大中小都市が存在し、さまざまな都市機能が密集し、有機的に相互連動している。都市間の時間的距離と経済的距離は、高密度かつ高速な交通ネットワークで短縮される。世界と交流交易する中枢機能を備え、世界との交流交易で得た活力を内部で分かち合えることが、メガロポリス発展の所以である。

 メガロポリスはその巨大さゆえに日常生活圏ではない。これに対して、大都市圏は通勤圏として定義できる。

 中国の三大メガロポリスの世界経済への影響力はさらに増大していく。同時に、三大メガロポリスの台頭は中国社会経済構造を大きく変え、大規模で高密度の都市社会をどう形作るかという大きなチャレンジを突きつけている。

 (1)人口大移動

 建国後、最初の30年の計画経済を通じて中国は一定の工業生産力を打ち立て、当時の厳しい国際環境に対応した。しかしこの時期に行われた人口移動への制限、とりわけ農村居住者に対する都市での就業と居住とを制限する戸籍制度は、後の都市化の発展を妨げた。

 中国のメガロポリスが直面する最大の課題は、まず膨大な数の人口移動にどう対処するかである。〈中国都市総合発展指標2016〉によると、全国295の地級市以上の都市における「戸籍人口を超える常住人口数」を持つ上位30都市のうち17都市が、三大メガロポリスの都市である。さらにそのうち上海、北京、深圳、東莞、天津、広州、蘇州、仏山など同上位8都市はすべて三大メガロポリスの都市である。

 珠江デルタメガロポリスは2,569.9万人、長江デルタメガロポリスは2,182.5万人、京津冀メガロポリスは1,259.4万人の非戸籍常住人口をそれぞれ受け入れている。つまり、三大メガロポリスは6,000万人以上の人口の戸籍を伴わない純流入がある。上位3都市を見ると、上海は987.3万人、北京は818.6万人、深圳は745.7万人の純流入人口が各々ある[40]

図25 中国各都市人口流動分析図 : 流入
注: 常住人口が戸籍人口を上回っている都市は、人口流入都市。
図26 中国各都市人口流動分析図 : 流出
注: 戸籍人口が常住人口を上回っている都市は、人口流出都市。

 以上から、膨大な数の外来人口がすでに三大メガロポリスで生活していることがわかる。しかし数千万人にのぼる農村戸籍を持つ出稼ぎ労働者は、仕事や生活上さまざまな制限や差別を受け、都市での社会保障や公共サービスシステムも未だ享受できず、真の意味での都市住民になれていない。戸籍制度によって分割された社会構造は、農村戸籍と都市戸籍という2つの社会集団の間で、収入や社会福祉の格差を広げている。同じ都市空間で生活している2つの集団間の格差が、社会の矛盾と不公平さを浮き立たせている。

 中国には寛容で開放的な都市社会が必要である。そのために、中国は戸籍制度を抜本的に改革し、国民全体に公平な社会保障制度や義務教育、医療、介護などの基本公共サービスシステム作りを急がなければならない。とりわけ人の移動に不利益となる制度を緩和し、都市への移住に伴う人々のストレスを低減させるべきである。

(2)都市の密度

 1990年代以来、熱狂的な開発区“運動”や不動産ブームが、中国の都市化を牽引してきた。猛烈なモータリゼーションも、交通渋滞、環境汚染、長時間通勤などの都市問題に拍車をかけた。よって乱開発、スプロール化が蔓延し、都市の低密度開発が加速した。

 都市は人口が集積する空間である。都市インフラと都市マネージメントが人口密度に追いつかない場合、“過密”などの大都市病が生じる。これに対して都市人口の“過疎”もまた、都市経済、特にサービス経済の発展を阻み、市民生活に影響を与える。中国の都市人口は、都市部と農村部の双方を含む行政単位によって統計される。かつ人口密度の尺度がないため、都市部における正確な人口の実態を反映できない。人口密度と都市との関係を分析できないがため、都市建設および都市化政策に混乱が生じている。

 〈中国都市総合発展指標2016〉は中国で初めてDID(Densely Inhabited District:人口集中地区)という概念を導入し、中国における都市の人口実態および都市化の進展について、より正確な分析を試みた。それを可能にしたのは、衛星データのリモートセンシング解析であった。同〈指標〉では4,000人/km2以上が繋がった地区をDIDとする[41]。このDID定義は日本と同様であるため、人口密度における両国の比較分析が可能となった。

 日本ではいわゆる都市化率とはDID人口の比率を意味する。「国勢調査」では、都市人口をDID人口と定義している。東京都のDID人口比率は現在98.2%に達した。つまりほとんどの人が、人口集中地区で生活している。東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県からなる東京大都市圏のDID人口比率も89%にのぼる。東京大都市圏や名古屋都市圏、近畿都市圏で構成される太平洋メガロポリスのDID人口比率は78.9%で、日本全国のDID人口比率の67.3%に達している[42]

 それと比較すると現在の中国全土のDID人口比率は、まだわずか42.6%であり、日本とは25%ポイントほどの差がある。

図27 太平洋メガロポリスDID分析図
出典: 雲河都市研究院衛星リモートセンシング分析より作成。

 ただし大都市を見ると様子が違う。深圳のDID人口比率は全国トップの90.4%であり、三大メガロポリスの他の大都市では、上海は88.6%、北京は85.3%、広州は84.2%、天津は78.7%である。日本の人口100万人以上の12都市の総DID人口比率は93.9%である。これに対して中国のメガシティのDID人口比率はやや低いものの、その差は縮まってきている。

 中国の三大メガロポリスを見ると、DID人口の最高水準の珠江デルタメガロポリスは77.4%[43]、長江デルタメガロポリスは61%[44]、京津冀メガロポリスは51.4%[45]である。日本の太平洋メガロポリスと比較すると、DID人口比率において珠江デルタメガロポリスはかなり接近している。しかし長江デルタおよび京津冀両メガロポリスのDID人口比率はまだ低く、三大メガロポリスの都市化プロセスとの差異が明らかである。

 しかし、インフラ水準と都市マネージメント能力が日本に比べまだ低い中国では、DID人口密度が日本より高いことに注意すべきである。中国全土の平均DID人口密度は8,643人/ km2にも達し、日本のそれを1,885人/ km2も上回っている。

 中国のDIDの人口密度が日本と比べて2,000人/ km2近く高いことに対して、全国のDIDの平均人口比率そのものは、日本より約25%ポイントも低い。両データから伺えるのは、日本と比べ都市インフラが遅れる中国の都市では、DID人口の密度が高すぎる「局部過密」問題と、人口全体における都市化率がまだ低いという問題を、構造的に抱えていることである。特に局部過密問題は、交通渋滞、環境問題など都市問題を引き起こしている。

 都市人口の密度と産業、特にサービス業の生産性には明白な関係性がある。人口密度の過疎は、特にサービス産業の生産性に不利益をもたらす。過疎はまた、都市のインフラと公共サービスのコストや財政負担、そしてエネルギー効率にマイナスの影響を与える。

 ひと昔前は、先進諸国ですら高密度人口のマイナス効果を強調することが、世論や都市政策の主流であった。しかし、インフラ水準や都市マネージメント能力の向上によって、高密度のマイナス効果は抑えられた。と同時に、高密度がもたらす生産性、利便性、多様性などプラス効果への認識が徐々に高まった。  

 中国の都市では、マネージメント能力とインフラ水準を高め、高い人口密度がもたらす生産性、利便性、多様性などのプラス効果を、享受できるようにすることが大きな課題である。

 大規模な人口移動は中国でまだ続いている。今後数十年間、農村の労働力は絶え間なく都市に流入し、都市間の人口移動も速まり、メガロポリスは人口を受け入れる最大の都市空間となるだろう。集積効果を発展の原動力とする中国のメガロポリスは、高密度都市社会の実現に向けた大いなる戦いに挑んでいる。

 (3)知識経済の発展

 中国のメガロポリスの発展は、世界経済のパラダイムシフトの産物である。すなわち、グローバルサプライチェーンの展開の要請に応えて、巨大な工業生産力を蓄えたことによる。しかし今、世界規模の工業製品のデフレに直面し、これらメガロポリスは、工業経済からサービス経済及び知識経済へのシフトを急がなければならなくなった。

① 工業製品の価格下落

 グローバルサプライチェーンの分業は、それを構成する各部門の利益分配の上に成り立っている。中国は安価な労働力で組み立て等の部門を担い、国際競争の優位性を獲得しているものの、サプライチェーンで得られる利益は中国では限られている。大半の利益は海外での研究開発、主要部品の生産、ソフトウェア開発、ブランド経営、物流、販売などの部門の方に分配されている。

 このようなグローバルサプライチェーンの利益分配の特性と、中国が目下サプライチェーンの中で演じる役割とが、中国が30年間に及ぶ高度経済成長を経験しながら、いまだに経済強国へと成長しきれないことの一つの所以である。

 工業製品のデフレは、情報革命が富の分配メカニズムを変えた結果である。産業革命以来、工業生産力は一貫して世界の富の創造と分配の基軸であり続けた。それによって一次産品の貿易条件は絶えず劣化した。工業国は工業製品に有利な国際貿易体制を確立し、世界中から巨大な富を摂取した。

 しかしサプライチェーンが世界に拡がるにつれて、工業化は発展途上国へ及び、特に東アジアの発展途上国へ急速に普及していった。工業製品の生産と輸出は先進国の専売特許ではなくなり、中国をはじめとする途上国の工業生産への大規模参与によって工業製品のデフレが引き起こされ、工業製品の貿易条件はたちまち悪化した。逆に、著作権、特許、ブランド商標、ビジネスモデルなどの知的産品の貿易条件は急速に向上した。知識の創造力は工業生産力に取って替わり、世界における富の創造と分配の基軸となった。

② 集積と集中の激化

 グローバルサプライチェーンは、先進国で産業構造を変革させた。企業は現在、技術開発、ブランド経営、ソフトウェアと中核部品の生産に一層注力している。金融、運輸、通信、小売などのサービス業が、経済発展の主役となっている。映画や出版などの知識経済の象徴として著作権産業の成長が著しい。サービス産業や知識産業はいまや先進国都市の経済の主体となっている。

 工業経済は強い集積効果を持つ。集積効果によって、工業経済は特定の国の特定地域に集中する傾向があった。工業経済のこうした集積特性は、近代国家における地域間の不均衡発展をもたらしただけではなく、地球規模での途上国と先進国間の南北問題も引き起こした。

 工業経済の集積は、産業や人口の都市部、特に大都市への集中を助長した。大都市はその集積効果によって生産効率を大きく高めただけでなく、人々に多彩な都市生活環境を提供した。しかし、都市住民は大気汚染、交通渋滞、長距離通勤など大きな代償も払わざるを得なかった。そのため大勢の人々が、経済の効率化や都市生活の豊かさを求めながら、一方で田園での牧歌的な生活に憧れを抱いていた。

 1980年代に情報革命を察知した未来学者アルビン・トフラー(Alvin Toffler)は著書『第三の波』の中で、情報技術を通して人々は田園牧歌的な生活を楽しむと同時に高効率な経済活動が可能となり、都市の経済的な地位が低下すると予想した。当時、大都市病と不均衡発展に悩まされた人々は、この仮説に大きな期待を寄せた。

 しかし現実は、私たちに正反対の結果を見せつけた。情報社会における大都市の役割は低下するどころか、ますます強大になった。1980年から2015年までに、250万以上の都市人口を増やした都市が、世界で92都市にも及んだ。その中で1,000万人以上人口が増えた都市が11都市もあった。

 知識経済は工業経済に比べ、大都市に人口や産業を集積させるエネルギーがより強大である。日本の状況が、まさにこれを証明した。工業経済時代、日本の経済および人口は、東京、大阪、名古屋、福岡の四大都市圏に集中していた。そして、知識経済への転換過程でも日本では、人口や産業が地方分散へ向かわず、逆に東京一極集中が進んだ。

 一極集中現象の源には、知識経済の強烈な大都市志向がある。工業経済時代、日本では四大都市圏が工業経済の集積地であった。知識経済時代では、東京大都市圏が国際交流機能をベースに、他の追随を許さない巨大な集積を作り上げた。こうした事例からわかることは、情報革命は大都市の地位を弱めるのではなく、かえってその重要性を強めるということである。

③ 接触の経済性

 知識経済の大都市志向は、知識経済の本質に由来する。

 知識経済の根本は、人間という情報キャリアにある。人々が交流を通じて情報を判断し知識を生み出すことが、知識経済の本質である。人の情報交流と創造の効率が、知識経済の生産性の決め手となる。

 人が持つ情報は2種類に分かれる。ひとつはデジタル化、形式化、文字化された情報であり、もうひとつはデジタル化、形式化、文字化ができないアナログ情報、あるいは勝手に公開することができない情報である。前者に比べ後者はさらに複雑である。この意味では、情報の交流が情報技術だけに頼ることは不可能である。人が持つ情報には情報技術を通じて伝える情報があり、また情報技術では伝わらない情報もある。外に伝えられる情報は毎秒30万キロの速さで地球を駆け巡り、それは人々の接触を促し、人の体から切り離せない情報の交換につながる。情報技術の発展は、知識生産における人のface to faceの交流を減少させるどころか、却って増大させている。

 「規模の経済性」で工業経済の効率は決定される。これに対し、「接触の経済性」[46]は知識経済の効率を決める。人と人が膝を突き合わせる交流の効率こそが、知識経済生産性の決定的な要因となる。

 知識経済の生産性について言えば、接触の多様性、利便性と意外性は極めて重要である。情報の均質性を重視する工業経済に比べ、知のバックグラウンドの差異性こそが、知識経済にとって極めて重要である。似通ったバックグラウンドを持つ者同士の交流よりも、異なる知識と文化の背景を持った者同士の交流の方が、さらに知の価値を産みやすい。

 情報キャリアの多様性、接触の便利性と意外性は、知識経済の生産性を決定付ける。知識経済は真の交流経済と言える。巨大な国際交流基盤を持つメガロポリスは、知識経済に最良のプラットフォームを提供する。情報社会でメガロポリスの果たす役割はますます大きくなり、経済や人口は一層メガロポリスに集中していくだろう。

④ 三大メガロポリスが牽引する中国の知識経済

 2012年、中国の発明特許申請件数が初めてアメリカを上回り、世界のトップに躍り出た。今日、世界最大の特許申請国たる中国では、三大メガロポリスが特許ライセンス量の58.9%を占めている。各メガロポリスが全国に占める同割合は、珠江デルタが14.2%、長江デルタが33.5%、京津冀が11.1%である。知識経済のメガロポリスへの集約は中国でもはっきりしている。中国全土の49.6%の研究開発要員が集まる三大メガロポリスは、名実ともに中国の知識経済の牽引車となっている。

 メガロポリスは知識経済時代の交流経済プラットフォームとして、国内外の人々を受け入れる包容力がいる。その意味では、メガロポリスは交流経済をサポートする物理的機能を備えるだけではなく、人々を受け入れる寛容性と多様性とを兼ね備えることが必要である。しかし北京、上海などの都市では今、外来人口への厳しい姿勢や海外とのネット接続規制といった時代の要請と逆行する事態が起こり危惧されている。

 中国の知識経済発展は、メガロポリスの肩に負うところが大きい。工場経済[47]で身を起こしたメガロポリスを、知識経済に向けていかに進化できるか。これが中国の未来をも左右する。

 (4)サービス経済の高度化

 先進国ではサービス経済はすでに工業経済に取って代わり、大都市の経済主体となった。中国も今まさにこの大転換期に突入している。

 世界の工場として中国は鉄鋼、自動車、電子など多くの工業分野において過剰な生産能力を持つ。しかし、高等教育、医療、介護、文化、娯楽などサービス分野では深刻な供給不足である。

 サービス経済は都市住民の生活を向上し豊かにする肝心要である。と同時に知識経済や工業経済の効率性を高める要素でもある。

 サービス産業の発展は、中国経済の転換を左右する。中国全土のサービス経済の牽引役として、三大メガロポリスは人口密度を適切に高め、規制を緩和し、さらなる開放をもって、サービス産業を大発展させることが望ましい。

 (5)生態環境の課題

 急速な工業化と都市化が中国に深刻な環境危機を引き起こしている。産業、生活、移動による汚染(大気、水質、土壌)、生物多様性の喪失、深刻な水不足などが、都市や周辺の生態環境に重大な影響を及ぼしている。工業化と都市化のフロントランナーとしての三大メガロポリスで、生態環境問題はとりわけ深刻である。

 〈中国都市総合発展指標2016〉によると国連の1人当たり水資源量の定義では[48]、中国の295の地級市以上の都市では、110都市が極度の水不足、45都市が重度の水不足に陥っている。

 そのうち、京津冀メガロポリス10都市の中で8都市が極度の水不足、長江デルタメガロポリスの26都市の中で8都市が極度の水不足、珠江デルタメガロポリス9都市の中で2都市が極度の水不足にある。水資源問題は、明らかに中国のメガロポリスの発展を妨げる重大な要因となっている。工業化、都市化による深刻な水質汚染が、こうした水不足問題に拍車をかけている。

 大気汚染も今日、中国の都市を悩ませる深刻な問題である。〈中国都市総合発展指標2016〉のデータによると、全国地級市以上の295都市のPM2.5の年間平均偏差値では、京津冀メガロポリス10都市の同偏差値は69.9であり、なかでも北京の同偏差値は78.7に達し、全国平均水準の50をはるかに上回っている。これは、同地域の大気汚染が、全国平均よりはるかに深刻であることを示している。長江デルタメガロポリス26都市の同平均偏差値は53.1で、ほぼ全国平均水準である。珠江デルタメガロポリス9都市の平均偏差値は33.3で、全国平均水準より良好である。

 以上の分析からわかるように、京津冀メガロポリスは、水資源問題が非常に深刻であり、大気汚染も長江デルタおよび珠江デルタの両メガロポリスと比べ、より深刻である。気候や地理的な条件を取り除いても、京津冀メガロポリスの工業化と都市化の質は、他の両メガロポリスに比べて劣っていると言えよう。

 こうした課題に鑑み、三大メガロポリスがいかに生態環境友好型の発展を遂げるかが、今日の中国の経済社会発展における至上命題であろう。

 (6)内陸部におけるメガロポリスの発展

 内陸地域と比べて、三大メガロポリスの最も際立つ優位性は、深水港を作れる立地条件である。これによって、世界との大交流、大交易の中枢機能が形成され、開放的な文化が育まれた。内陸部においても、成都、重慶を中心とした長江上流メガロポリスや、武漢を中心とした長江中流メガロポリスなどが形成されつつある。しかし、世界との大交流、大交易の舞台としては、内陸メガロポリスは、三大メガロポリスと同レベルで論じることはできない。

 それにしても、内陸部では経済や人口が大都市に集積・集中する傾向がますます明確になってきた。交通インフラの整備とともに、隣接する複数の大都市と中小都市が関係を深め、徐々にメガロポリス的集積空間を形成しはじめている。メガロポリスは中国内陸部においても発展の基本形態となりつつある。

 内陸地域発展のボトルネックは、深水港から遠いことである。そのため内陸のメガロポリスでは輸送コストの影響が少ない産業を、経済発展のエンジンとする必要がある。

 また、内陸地域は、沿海地域よりも環境容量が小さく、河川下流への環境影響も大きい。環境問題に対してより慎重な対応が必要である。とりわけ、北方地域では、すでに水不足が深刻で、節水型の発展モデルの構築を急がなければならない。

 よって内陸地域では、工業経済よりは知識経済そしてサービス経済への取り組みが重要である。特に内陸の中心都市においては、交通の中枢機能や金融、商業、教育、科学、文化、娯楽、医療等のセンター機能の構築いかんが、地域全体の発展に、大きな影響を及ぼす。つまり中国の内陸の発展は、内陸のメガロポリスそしてその中心都市の行方にかかっている。

メガロポリスの大変革

 〈中国都市総合発展指標2016〉の「ビジネス環境」小項目の全国地級市以上295都市の偏差値において、京津冀メガロポリスの北京が第1位、天津が第7位であり、長江デルタメガロポリスの上海が第2位、杭州が第6位、南京が第9位、寧波が第11位、蘇州が第12位であった。珠江デルタメガロポリスでは広州が第3位、深圳が第4位、東莞が第10位となっている。同偏差値の全国上位12都市で三大メガロポリスに属さない都市は、第5位の重慶と第8位の成都だけであった。ビジネス環境における三大メガロポリスの優位性が際立っている。

 同「開放度」小項目の全国地級市以上295都市の偏差値において、上位20都市のうち三大メガロポリスが15都市を占めている。そのうち、長江デルタメガロポリスは第1位の上海をはじめとして6都市が、京津冀メガロポリスは第2位の北京をはじめとして2都市が、珠江デルタメガロポリスは第3位の深圳をはじめとして7都市が占めている。三大メガロポリスは、中国の開放経済をリードしている。

 同「人的交流」小項目の全国地級市以上295都市の偏差値において、上位20都市のうち三大メガロポリスが10都市を占めている。そのうち、長江デルタメガロポリスでは第1位の上海をはじめ6都市が、京津冀メガロポリスでは第2位の北京をはじめ2都市が、珠江デルタメガロポリスでは第3位の深圳をはじめ2都市が占めている。三大メガロポリスが中国の交流経済のペースメーカーとなっている。

 経済の減速、環境問題の深刻化、伝統的な工業の生産能力過剰など、約40年前の改革開放当時同様、中国はいま、歴史的な変革の瀬戸際にある。メガロポリスは改革開放の騎手として、社会の変革、経済の転換を主導する重責を担っている。

 本レポートの後半は、珠江デルタ、長江デルタ、京津冀の三大メガロポリス、そして内陸部の成渝メガロポリスを取り上げ詳細に分析する。

2. 珠江デルタメガロポリス


 珠江デルタ地域は広東省の一部と香港、マカオの2つの特別行政区から成るエリアである。改革開放初期、香港はイギリスに、マカオはポルトガルに統治されていた。1997年に香港が、1999年にマカオが相次いで中国に返還され、特別行政区となった。本来、珠江デルタメガロポリスは香港とマカオを内包しているが、データの制限によって、本レポートでは両都市を含めていない。本レポートでは中国国家発展改革委員会の定義に従い、広東省の広州、深圳、珠海、仏山、江門、肇慶、恵州、東莞、中山の9都市を珠江デルタメガロポリスと定め、分析を行う。

改革開放政策の試験区

 1980年、広東省の深圳、珠海、汕頭、および福建省廈門の4都市が「経済特区」に指定され、中国の対外開放が幕開いた。

 広東経済発展の起爆剤はまさに、グローバルサプライチェーンの展開であった。1980年代初め、広東省は中国全土に先駆けて原材料や部品を輸入し、加工品を輸出する加工貿易政策を奨励した。多くの海外企業が同地の優遇政策に惹かれ、工場を投資した。当時、グローバルサプライチェーンが発展途上国で展開したビジネスモデルは、「アジア四小龍」と呼ばれる韓国、台湾、シンガポール、香港のNIEs[49]化で成熟した。NIEsの労働力コスト上昇に伴い、香港と隣接する広東省はグローバルサプライチェーンの新天地となった。

 1993年には、80 %以上の香港の製造業企業が、広東省を含む中国華南地域に生産機能を移転し、同エリアに3万カ所以上の工場を建設した。これら香港資本の企業で勤務する大陸の従業員数は、当時300万人に達し、これは香港の製造業従業者数の5倍であった。広東省は香港の製造業の大規模な移転を受けて産業基盤を着実に作り上げ、大きく発展した。

 香港の成熟した金融センター、貿易センター、海運センターは、広東省の産業発展に重要な役割を果たした。また、広東省の経済発展も香港に大陸の関連業務を授け、大発展のチャンスを提供した。これを受けて香港の空港と港湾も、アジアの重要な交通ハブの一つとして発展した。香港の金融市場も多数の大陸企業の上場によって、大いに活気づいた。

 服飾、電子、玩具などの加工貿易で勃興した広東省は、40年の発展を通じて今日、その産業の領域は電子、機械、自動車、鉄鋼、石油、化学工業など工業の全領域に及び、世界最大級の複合型産業集積地の一つに成長した。

 特に広東省の現地企業の急成長は目覚ましい。HUAWEI、中興、TCL、格力、美的に代表される多くの地元企業が、世界に名だたる大企業へと飛躍した。

外来人口の大規模受け入れ

 改革開放政策を率先して実施したことで、広東省は数千万に及ぶ人々を中国全土から呼び寄せた。計画経済で長期間封じ込められていた活力が、「広東ドリーム」によって弾けると、空前規模の人口移動が湧き起こった。

 農民工と呼ばれる出稼ぎ労働者は、広東省に廉価な労働力を大量に提供し、急速な工業化で拡大した労働力需要を満たした。高等教育を受けた大勢の大卒者も、当時の流行語「孔雀が東南へ飛ぶ(人材が広東省へ向かう)」を合言葉に内陸から広東へ向かい、その多くが同地に住み着いた。

 〈中国都市総合発展指標2016〉によると、珠江デルタメガロポリス9都市において、戸籍を持たない常住人口は、深圳市が745.7万人、東莞市が642.9万人、広州市が465.7万人、仏山市が349.5万人、中山市が163.2万人、恵州市が124.2万人だった。江門、珠海の両市の外来人口受け入れは比較的小規模であり、それぞれ57.5万人と51.2万人である。肇慶市は唯一人口が流出した都市であり、その流出規模は30万人である。珠江デルタメガロポリスは現在、戸籍を持たない居住人口が合わせて約2,600万人にのぼり、中国では最も外来人口を受け入れている地域となっている。

 巨大な産業と人口の集積によって、珠江デルタ地域に、人口が密集する都市連担—珠江デルタメガロポリスが形成された。

 新興産業集積は、豊富な人的リソースを必要とする。珠江デルタメガロポリスは開放的で寛容な文化と社会環境とで、大勢の外来人材と労働力とを引きつけ、人的リソース備蓄の制約を克服した。

インフラ整備

 グローバルサプライチェーン型産業集積は、文化や制度上の開放だけでなく、世界と連携するためのインフラ整備も必要としている。

 グローバルサプライチェーンは、何よりも膨大な貿易量を処理できる大型港を必要とする。珠江デルタは地理的に、大型港湾をつくるために必要な深水海岸線に恵まれている。

 また幸運にも広東省で加工貿易政策がはじまったとき、香港はすでに世界屈指のハブ港に成長し、グローバルサプライチェーンが広東省で大展開する条件を提供できた。

 グローバルサプライチェーンによる巨大な海運量を得て、深圳港、広州港も躍進を遂げ、世界第3位と第8位のコンテナ港に成長した。

 〈中国都市総合発展指標2016〉のデータによると、全国295の地級市以上の都市のコンテナ港の利便性ランキングで、珠江デルタメガロポリスは8都市がトップ30に入っている。なかでも深圳は第2位につけている。全国コンテナ港取扱量の26.3%を占める珠江デルタメガロポリスは、中国で最も海運条件に恵まれた地域だと言えよう。

 グローバルサプライチェーンの珠江デルタでの展開は、地域や国境を飛び越えた人的往来を増大させていった。これに対応するために同地域では、今日すでに香港国際空港、マカオ国際空港、広州白雲国際空港、深圳宝安国際空港、珠海金湾国際空港、恵州平潭空港、仏山沙堤空港の7空港が建設された。これら空港の旅客取扱量は中国全国の11.2%、航空貨物取扱量は同18.4%を占めている。

 〈中国都市総合発展指標2016〉によると、全国295の地級市以上の都市の空港利便性ランキングでは、広州と深圳はそれぞれ第3位と第4位である。また、珠江デルタメガロポリスでは、中山、東莞、仏山、珠海の4都市が同ランキング30位以内に入っている。珠江デルタメガロポリスは、世界各地と交流するうえで非常に利便性の高い地域となっている。

 高密度な高速道路、高速鉄道、運河のネットワークが、珠江デルタの都市に張り巡らされ、高度な分業体制を有する連担都市が形成された。

 港、空港、高速道路、高速鉄道、電力などのインフラに膨大な投資を費やしたことで、珠江デルタメガロポリスのインフラ水準は大幅に改善され、グローバルサプライチェーンの高効率な展開が保障された。

空間構造の特色

 産業発展が珠江デルタに人口を大量流入させ、巨大規模の都市人口が集積した。広州、深圳両都市はすでに常住人口がそれぞれ1,308.1万、1,077.9万人のメガシティとなり、東莞、仏山の人口規模も各々834.3万人、735.1万人に達した。また、恵州、江門、肇慶、中山の4都市の常住人口も300〜400万人規模となった。同メガロポリスにおいて、人口規模が最少の珠海すら161.4万人に達している

 珠江デルタメガロポリスに根付いた大規模な人口は、合計5,094.5 km2に及ぶ巨大な人口集中地区(DID)を形成した。本レポートではDID分析を通じて同メガロポリスの空間構造を分析し、以下3つの特徴を明らかにした。

 珠江デルタメガロポリスの空間上の際立った特徴は、人口の都市化率が中国で最も高いエリアであることだ。5,763.4万人の常住人口に対して同メガロポリスのDID人口規模は、4,406.7万人に達し、DID人口比率は77.4%に達している。特に深圳のDID人口比率は90.4%に達し、同比率において中国の都市でトップとなった。広州、東莞、仏山、珠海、中山5都市の同比率も、各々84.2%、83%、82 %、79.9%と74.9%に達している。恵州、江門の同比率は各々63.5%、55.8%である。肇慶の同比率は最も低く42.8%に留まる。

 珠江デルタメガロポリスの空間上の第二の特徴は、「三大三中二小」構造である。「三大」とは広州+仏山、深圳、東莞のDID面積が各々1,787.8 km2、1,128.2 km2、894.5 km2であることを指す。仏山のDIDの大部分が広州のDID地域と隣接し、「大広州」の一角として考えられる。恵州、江門、中山、肇慶、珠海の5都市のDID面積は比較的小さく、また分散している。

 広州と仏山で形成する「大広州」のDID人口規模は1,690.3万人に達し、同メガロポリス内における最大の都市エリアである。深圳のDID人口規模は943.6万人に達し、大広州地区に次ぐ都市エリアである。東莞のDID人口規模も695.2万人に達している。

 「三中」は恵州、江門、中山を指す。DID人口はそれぞれ294.2万人、252.5万人、237.3万人である。「二小」は珠海と肇慶を指し、各々のDID人口規模は200万人以下である[50]

 「三大三中二小」の空間構造において、広州+仏山、深圳、東莞から成る「三大」のGDP規模、貨物輸出額、第三次産業GDPの合計は、それぞれ珠江デルタメガロポリスの80%、83%、84%を占めている。

 珠江デルタメガロポリスの空間構造の第三の特徴は、「一長一短」の二本の都市連担である。「一長」とは、広州、東莞、深圳から香港にまで至る1本の密集した都市連担である。「一短」とは、広州と仏山東部に連なる「大広州」の人口集中地区から、中山の北部と江門の東北部に至るもう1本の都市連担である。

産業構造の特色

 珠江デルタメガロポリスはすでに分厚い工業集積を形成し、中国における第二次産業GDPおよび貨物輸出額において、各々8%、23.7%を占めている。グローバルサプライチェーン型産業集積として輸出志向は濃厚である。

 改革開放初期、香港の空港や港湾の国際ハブ機能、そして貿易、金融などのセンター機能を利用し、広東省の「工場経済」は迅速に発展し、「前は店、後ろは工場」と呼ばれるような、香港と広東がセンター機能と工場機能を補い合うモデルが作られた。しかし、今日では、巨大な産業および人口集積を盾に、珠江デルタメガロポリスには、すでに国際的な空港や港湾、そして貿易、金融、コンベンションなどセンター機能が形成されている。同メガロポリスの工業経済も、単純な工場機能から本社機能、研究開発などの領域へと拡大した。

 〈中国都市総合発展指標2016〉の「輻射力」による珠江デルタメガロポリスの分析では、卸売・小売の分野で深圳、広州の輻射力は突出しており、それぞれ全国第3位と第4位である。両市における商業の高集積に比べ、その他の都市の同集積は相対的に貧弱である。

 科学技術の分野では、深圳と広州は強大な輻射力を持ち、全国の科学技術輻射力ランキングは第3位と第4位である。また、東莞、仏山、中山の3都市は全国の同輻射力トップ30にランキング入りし、それぞれ第14位、第17位、第23位である。深圳、広州は全国のR&D人員数ランキングで、それぞれ第3位と第6位である。珠江デルタメガロポリスは全国のR&D人員数のうち、12.5%も占めている。両都市は全国の特許取得数ランキングでもそれぞれ第4位と第9位で、同メガロポリスは全国の特許取得数のうち14.2%を占めている。深圳と広州の2都市を中心に、珠江デルタメガロポリスはすでに中国の重要な研究開発センターの一つに成長している。

 高等教育の分野では、珠江デルタメガロポリスで広州だけが全国の高等教育輻射力トップ30に唯一ランクインし、第7位である。深圳、東莞の同輻射力は共にマイナスである。これら新興都市の高等教育が、自身の旺盛な人材需要に応えられていないことを表している。同メガロポリスは全国の大学生数の5.7%を有しているものの、京津冀と長江デルタと比べ、高等教育の分野でまだ相対的に弱い。

 1991年に証券取引市場が開設された深圳は、いまや全国三大金融センターの1つになっており、全国金融輻射力は第3位である。珠江デルタメガロポリスでは全国金融輻射力トップ30に広州、珠海もそれぞれ第7位と第12位にランクインしている。

 文化・スポーツ・娯楽の分野では、広州と深圳は全国文化・スポーツ・娯楽輻射力ランキングトップ30入りし、各々第3位と第7位であるものの、北京・上海との差は大きい。同時に、新興都市である深圳は省都の広州に比べ、この分野ではまだ弱い。珠江デルタメガロポリスでは、文化・スポーツ・娯楽の施設と活動が広州に集中している。

 医療分野は、珠江デルタメガロポリスは広州だけが全国医療輻射力トップ30に、唯一第3位でランクインした。多くの都市の同輻射力はマイナスである。これは新興都市での医療サービスが、域内の需要を満たしていないことを意味している。京津冀、長江デルタと比べて珠江デルタメガロポリスは、医療分野において高いニーズがあるにもかかわらずその集積は未だ遅れている。

 香港に隣接する深圳は、中国全土で海外旅行客数(香港、マカオ、台湾からを含む)が最も多い都市であり、広州も全国第3位である。珠江デルタメガロポリスが、中国全土の海外旅行客数に占める割合は27.7%に達している。同メガロポリスはまた、全国の最大のコンベンションセンターに成長した。

 総じて、珠江デルタメガロポリスには、北京、上海に匹敵するほどの中心都市は存在しないものの、広州、深圳は人口1,000万人以上のメガシティにまで成長し、同メガロポリスを牽引する二大エンジンとなっている。

 製造業、金融、研究開発などの分野においては、深圳はすでに広州を超えている。しかし省都である広州は、文化・スポーツ・娯楽、医療、高等教育の分野では依然として高い実力を保っている。

 他都市における製造業の発展は著しく、東莞、仏山、恵州、珠海、中山5都市は全国の貨物輸出トップ30に入り、それぞれ第4位、第13位、第16位、第22位、第23位である。しかし、これらの都市は未だサービス産業の分野が貧弱である。今後サービス経済を充実させることで、「工場経済」から真の意味での都市経済へアップグレードが必要である。

珠江デルタメガロポリスの評価分析

 〈中国都市総合発展指標2016〉の環境大項目では深圳がトップに上がった。また広州は第11位であった。同環境大項目において、珠江デルタメガロポリスは「水土賦存」と「気候条件」小項目での全国における優位性が明らかである。

 大気汚染は、京津冀メガロポリスと比べ、珠江デルタメガロポリスは相対的に軽微であり、たとえば全国地級市以上295都市の中で、PM2.5汚染が最も軽微なトップ30の中で、恵州と深圳はそれぞれ第17位と第30位である。しかしながら、中国で最も工業化が進んだ地域のひとつとして水質汚染、土壌汚染は深刻である。

 環境大項目において、「環境努力」、「資源効率」、「コンパクトシティ」、「交通ネットワーク」、「都市インフラ」などの小項目では、珠江デルタの都市は相対的に上位ランキングにある。

 同〈指標〉で、珠江デルタメガロポリス内9都市の、環境大項目におけるパフォーマンスを評価すると、深圳は優位性が突出している。広州、仏山の偏差値は接近し第2位と第3位である。恵州、中山は第3グループに位置し、江門、東莞、珠海は第4グループ、肇慶は最下位である[51]

図28 珠江デルタメガロポリス 9 都市環境大項目分析図
注:上記は、珠江デルタメガロポリス9都市の偏差値の順位である。以下、図31まで同。

 〈中国都市総合発展指標2016〉の社会大項目のランキングトップ20の中で、広州、深圳は、それぞれ第5位と第11位である[52]

 同〈指標〉で珠江デルタメガロポリス内9都市の、社会大項目におけるパフォーマンスを評価すると、省都である広州は第1位、深圳は続く第2位である。両都市と、他の都市との間には大きな差があり、第2グループは仏山、珠海、東莞、中山で各々第3位、第4位、第5位、第6位である。第3グループは肇慶、江門であり、恵州が最下位である。

 中国で最も早く対外開放政策を実施し、グローバルサプライチェーンと連動発展してきた珠江デルタメガロポリスの経済力には、確かな厚みがある。

図29 珠江デルタメガロポリス 9 都市社会大項目分析図

 〈中国都市総合発展指標2016〉の経済大項目のランキングトップ20都市中、同メガロポリスは4都市がランクインし、深圳、広州、東莞、仏山はそれぞれ第3位、第4位、第13位、第18位となっている。同メガロポリスの経済大項目における実力を誇示している。

 同〈指標〉で、珠江デルタメガロポリス内9都市の、経済大項目におけるパフォーマンスを評価すると、深圳、広州の優位性が際立つ。第2グループの東莞、仏山は、それぞれ第3位、第4位である。第3グループの中山、珠海、恵州はそれぞれ第5位、第6位、第7位である。江門、肇慶は最下位のグループに属してい[53]

図30 珠江デルタメガロポリス 9 都市経済大項目分析図

 〈中国都市総合発展指標2016〉総合ランキングでは、深圳、広州の成績が第3位、第4位とずば抜けて高い。珠江デルタメガロポリスの中心都市としての実力が浮き彫りになっている。また仏山も同第17位につけている。

 同〈指標〉で、珠江デルタメガロポリス内9都市の総合指標を評価すると、深圳と広州両都市の優位性が際立っている。第3位、第4位、第5位、第6位、第7位、第8位は、それぞれ仏山、東莞、中山、珠海、恵州、江門で、最下位は肇慶であ[54]

図31 珠江デルタメガロポリス 9 都市総合指標分析図

次なる挑戦

 〈中国都市総合発展指標2016〉によると、中国で都市化が最も進んだ珠江デルタメガロポリスは、DID人口比率が77.4%であり、全国の最高水準である。この値は日本の太平洋メガロポリスの83.2%に比べ5.8%ポイントの差である。すなわち、珠江デルタメガロポリスでは、22.6%の人口に当たる1,300万人が、今なお非DID地域に生活している。同メガロポリスの空間構造における最大の課題は、人口をさらにDID地域に集約しなければならない点にある。都市化への道のりはいまだ遠い。

 さらに注意すべきは、太平洋メガロポリスと比べ、珠江デルタメガロポリスのDID人口密度が657人/ km2も高くなっていることである。つまり、珠江デルタメガロポリスのDID人口密度は、そのマネージメント能力やインフラ水準と比べ、相対的に高い。そこから生まれる交通渋滞や生活の不便さといった様々な問題をいかに解消するかが、同メガロポリスの空間構造が直面する第2の課題である。

 珠江デルタメガロポリスにおいては、開発区や工業園区などの工場誘致のために設置された政策的な開発エリアがたくさんあり、そこでは低密度の開発が横行していると同時に、大量のDIDが中心市街地の外に分散し点在している状況を作り出した。こうしたエリアにおけるインフラ整備や公共サービスの提供、さらに社会マネージメントは遅れをとっている。これらにどう対処するかが、同メガロポリス空間構造における大きな課題であろう。

 なお、この地域における最大の課題は、香港、マカオとのリンケージの強化である。近年、香港、マカオを巻き込んだ「粤港澳大湾区」計画が浮上してきた。珠江デルタ9都市と香港、マカオとの連携と協働が一気に進むと期待されている。

3. 長江デルタメガロポリス


 長江デルタは中国経済において活力、産業能力、イノベーション能力が最も高く、外から最も人口を受け入れている地域の一つである。同地域は交通条件の利便性が高く、広大な後背地を持ち、多くの都市が密集し、中国の社会経済発展を牽引する重要なエンジンである。本レポートは中国国家発展改革委員会の定義に従い、上海、南京、蘇州、無錫、常州、南通、塩城、揚州、鎮江、泰州、杭州、寧波、嘉興、湖州、紹興、金華、舟山、台州、合肥、蕪湖、馬鞍山、銅陵、安慶、滁州、池州、宣城の26都市を、長江デルタメガロポリスと定め、分析を行う。

浦東開発を契機に大発展

 アヘン戦争後の1843年に開港して以来、上海は常に東アジアの中心都市であった。上海は、アジアの貿易センターおよび金融センターであったと同時に、その長江の入江に立地する地政学的な重要性により、中国最大の交通中枢であった。

 特記すべきは、1865年の江南機械製造総局(略称:江南製造局)、1890年の上海機械織工局の設立により、上海で中国近代機械工業および紡織工業の発展の幕が開かれたことである。その後、中国近代工業の発祥地としての上海は、一貫して全国最大の工業基地であり続けた。

 新中国成立後、計画経済体制のもと、上海は貿易および金融のセンター機能を失ったものの、商工業の厚みと地政学的優位性とにより、軽工業から重工業に至る産業構造を作り上げ、中国随一の商工都市の座を保持し続けた。

 しかし、1980年代以降、改革開放政策の逸早い実施で広東省が高度成長を実現したことに比べ、国営企業を主体とした上海は経済停滞に苦しんでいた。

 だが、当時の国営企業の経営難は、上海周辺地域の郷鎮企業[55]に発展のチャンスを与えた。とりわけ江蘇、浙江両省の郷鎮企業は、上海の国営企業から人材、設備、技術、ブランドまでを譲り受け、急速に発展した。

 上海の産業蓄積と、江蘇、浙江両省の活力とが合わさって、郷鎮企業は発展し、長江デルタに巨大な工業力を作り上げただけでなく、旺盛な企業家精神を育んだ。これが後の同地域の大発展の基礎固めとなった。

 1990年に中国政府は上海浦東新区開発を正式始動し、長江デルタ地域は歴史的な大発展期を迎えた。

 浦東開発を機に、中央政府は上海に積極的な投資受け入れ政策と大胆な国営企業改革を許可した。民営企業も上海に活力に満ちたビジネス層を生み出した。浦東開発は上海を低迷から救い、大発展期へと道を開いた。

 郷鎮企業が繁栄した1980〜1990年代、都市の発展は当時の国策により依然抑制されていたため、「小城鎮」と呼ばれる郷鎮企業の集積が、長江デルタ都市化のトレンドとなった。停滞する都市の周辺に、急速に広がるたくさんの小城鎮が興った。こうした現象は当時「蘇南モデル」と呼ばれ、世間の注目を集めた。

 浦東開発は上海だけでなく、長江デルタ全地域に大きなチャンスをもたらした。中国政府は浦東開発に、長江流域全体の発展をも引っ張られることを期待していた。1992年、政府は長江流域を対象にした「沿江開放政策」を打ち出し、「上海を先頭に、長江流域の協調発展を実現する」と構想し、全国の金融センターや航運センターとして上海の港湾、空港、高速道路など広域インフラ整備に、大規模な投資を実施した。

 浦東開発における政策緩和により、長江デルタ地域の各都市は競って開発区を設置し、各種の優遇政策を打ち出し、積極的に投資を誘致した。さらに1990年代末以降、国は都市の拡張に対する抑制を徐々に緩和し、同地域の都市建設面積は急拡張し、産業と人口が大都市に一気に集積した。

 都市機能と大型インフラの改善によって上海はセンター機能を向上させ、グローバルサプライチェーンに必要なビジネス環境を充実させた。グローバルサプライチェーンの大展開と、中国の最も実力ある産業地帯の開放が幸運にも巡り会い、長江デルタ地域は大発展した。

 長江デルタ地域は今日、電子、機械、自動車、鉄鋼、石油、化学工業にいたる全工業分野において世界で最大規模の複合型産業の集積地となった。産業の急速な発展が都市の成長を牽引した。それぞれ特色のある都市は高密度な交通ネットワークを通じて巨大な都市集合空間—メガロポリスを形成した。長江デルタメガロポリスは今、中国経済発展を牽引する一大エンジンに成長した。

外来人口の大規模受け入れ

 広東省に遅れること10年、1990年代以降長江デルタ地域にも大量の外来人口が流れ込みはじめた。同時に、この地域の内部でも農村から都市、地方都市から大都市へと大規模な人口移動が発生した。

 〈中国都市総合発展指標2016〉によると、長江デルタメガロポリス26都市のうち、上海は現在、987.3万人の非戸籍常住人口を抱え、中国最大規模の外来人口を受け入れている。

 蘇州、寧波、杭州、南京、無錫、嘉興、常州がそれぞれ受け入れた非戸籍常住人口は399.3万人、197.3万人、173.4万人、173万人、172.9万人、108.9万人、101万人である。金華、合肥、紹興、鎮江、湖州、舟山の6都市の受け入れ非戸籍常住人口規模は67万人から17万人の間であった。台州、銅陵、馬鞍山の3都市の人口移動のプラスマイナスは、ほぼゼロであった。揚州、池州、宣城、蕪湖、南通、泰州、滁州、安慶、塩城の9都市は人口流出都市である。とりわけ塩城の流出人口は100万人を超えている。

 膨大な産業と人口の集積が、長江デルタ地域に密度の高い都市連担を形成し、2,586万人にものぼる非戸籍常住人口を受け入れる一大メガロポリスを作り上げた。

 長江デルタメガロポリスは国内外企業と人材に発展的な空間を提供し、その活力を活かし、高度成長をものにした。

大規模インフラ建設

 上海は2004年、中国の国際航運センターに指定された。上海港はいま世界一巨大なコンテナ港となった。長江デルタメガロポリスではさらに寧波─舟山港が世界第6位のコンテナ港となっている。蘇州港と南京港も中国全国コンテナ取扱量ランキングでそれぞれ第11位と第14位である。

 〈中国都市総合発展指標2016〉によると、全国295の地級市以上の都市において、全国コンテナ港利便性で上海はトップとなった。長江デルタメガロポリスは上海の他に12都市が、同利便性全国ランキングトップ30にランクインしている。同メガロポリスは中国全国のコンテナ港取扱量の34.4 %も占め、中国最大の海運センターとなっている。

 東アジアのハブ空港として建設された上海浦東国際空港は、すでに中国旅客乗降数ランキング第2位の国際空港となっている。また、長江デルタメガロポリスは他にも上海虹橋国際空港、杭州蕭山国際空港、南京禄口国際空港という中国旅客乗降数上位30位にランクインする3つの国際空港を持つ。加えて寧波櫟社国際空港、合肥新僑国際空港、無錫蘇南碩放国際空港、常州奔牛国際空港、揚州泰州国際空港、金華義烏空港、南通興東空港、塩城南洋空港、舟山普陀山空港、台州路橋空港、池州九華山空港、安慶天柱山空港の12空港があり、同デルタメガロポリスでは計16空港から成る巨大な航空システムが形成されている。

 〈中国都市総合発展指標2016〉によると、上海は全国295の地級市以上都市の空港利便性ランキングで、首位に立つ。長江デルタメガロポリスは全国空港旅客乗降数および航空貨物取扱量の各々19.3%、33.8%を占め、中国最大の航空輸送センターとなっている。

 世界的なハブ機能を持つ大型空港や港の整備により、長江デルタメガロポリスは、世界との交流・交易のビジネス環境を整えた。さらに至る所に高速道路、高速鉄道、内陸河川航路ネットワークが張り巡らされ、高度に分業した巨大な産業集積を作り上げた。大規模なインフラ投資は、長江デルタメガロポリスの社会経済発展の確たる基礎となった。

空間構造の特色

 1980年代の農村主体の「郷鎮企業」と「小城鎮」発展を経て、長江デルタは1990年代以降、大規模な工業化及び都市の発展段階に入った。同地域は、大量の人口を受け入れ、巨大規模の都市人口集積が出来上がった。なかでも2,426万人の常住人口を持つ上海は、中国最大人口規模を誇るメガシティとなった。

 蘇州も常住人口1,000万を超えるメガシティに成長している。杭州、南京の二つの省都も近い将来、メガシティになる見込みである。

 寧波、合肥、南通、塩城、無錫、台州、金華、安慶の8都市の人口規模は、500万〜800万人規模である。人口100万から500万人の間の都市は、紹興、常州、泰州、嘉興、揚州、滁州、蕪湖、鎮江、湖州、宣城、馬鞍山、池州、舟山の13都市である。人口規模が100万以下の都市は銅陵だけである。長江デルタメガロポリスの常住人口規模は1.5億人にものぼり、中国人口の11.8%をも占めている。

 〈中国都市総合発展指標2016〉によると、長江デルタメガロポリスのDID人口は9,138.6万人であり、全国DID総人口の15.9%を占め、中国最大規模の都市人口集積となっている。しかし、DID人口比率はまだ61%と低く、珠江デルタメガロポリスより16.4%ポイントも低い。

 巨大な産業と人口集積が、長江デルタ地区に総面積10,014.9 km2の人口集中地区(DID面積)を作り上げた。本レポートはDIDを用いてメガロポリスを分析し、以下に挙げる3つの空間構造上の特徴を見出した。

 長江デルタメガロポリスの空間上の第一の特徴は、内部26都市の発展レベルの格差が大きいことである。上海のDID人口比率が88.6%に達していることに対して、メガロポリス内部で計10都市の同比率は50 %以下であり、最下位の池州はわずか13.3%である。

 第二の特徴は、「一大十四中十一小」構造である。「一大」とは、2,076.3万人ものDID人口を持つ上海であり、都市人口規模では中国最大である。その規模と機能は他の都市を遥かに超えている。

 「十四中」とは、DID人口200〜700万規模の都市が、南京、杭州、蘇州、合肥、寧波、無錫、台州、常州、金華、南通、紹興、安慶、揚州、嘉興まで14都市あることを指す。「十一小」とは、DID人口規模200万人以下の11都市で、塩城、鎮江、泰州、蕪湖、馬鞍山、滁州、湖州、宣城、舟山、銅陵、池州がこれに当たる。そのうち宣城、舟山、銅陵、池州4都市は、DID人口規模が100万人以下である[56]

 長江デルタメガロポリスの空間構造の第三の特徴は、「一密一疎」の2本の都市連担があることである。「一密」は、上海から南京を経て蕪州までの長江南岸に形成された比較的密集した都市連担である。

 「一疎」は、上海から杭州湾に沿って杭州を経て寧波に至る都市連担である。前者に比べ、後者は相対的にその密度が緩やかである。

 12都市からなる「一密一疎」の2本の都市連担のGDP、人口規模、DID人口規模とDID面積が、長江デルタメガロポリスに占める割合は、それぞれ71.4%、59.5%、75.8%、72.3%に達している。

産業構造の特色

 長江デルタメガロポリスは、中国で産業力が最も高い地域である。全国の第二次産業GDP、貨物輸出額が占める割合は各々18.3%、44%に達し、中国最大の工業センターかつ輸出基地となっている。

 上海を中心として長江デルタメガロポリスは、金融、貿易、研究開発、文化・スポーツ・娯楽、観光・コンベンションなどのセンター機能を兼ね備えている。

 〈中国都市総合発展指標2016〉の「輻射力」の概念を用いて、長江デルタメガロポリス26都市を分析すると、卸売・小売の分野では、上海は全国最大の商業地であることがわかった。

 全国地級市以上295都市の卸売・小売の輻射力において、南京、杭州、蘇州、合肥は各々第5位、第6位、第17位、第21位であった。だが、この4都市の卸売・小売は、上海の卸売・小売のボリューム、レベル、コンテンツの豊富さに比べると、未だかなり格差があり、地域的な商業センターのポジションに留まっている。

 科学技術分野で、全国の科学技術輻射力ランキング第2位の上海は実力が極めて高い。その他さらに蘇州、杭州、無錫、南京、寧波、常州、合肥、揚州、鎮江、南通の10都市が、同輻射力全国トップ30にランクインしている。

 長江デルタメガロポリスは全国で24.7%のR&D人員数及び33.5%の特許取得数を有し、中国最大の研究開発センターとなっている。

 高等教育の分野では、上海は全国高等教育輻射力ランキングで、北京に次ぐ第2位である。南京、杭州、合肥もそれぞれ第4位、第13位、第14位であり、人材を排出する高等教育基地を担っている。長江デルタメガロポリスの全国大学生数に占める割合は14.3%に達し、中国最大の高等教育センターとなっている。

 1990年に上海証券市場、1999年に上海先物取引市場が相次いで開かれ、上海は全国最大の金融センターとなり、全国トップの金融輻射力を持つ。杭州、南京、寧波、蘇州、無錫の同輻射力ランキングはそれぞれ第4位、第8位、第9位、第13位、第24位である。

 文化・スポーツの分野では、上海は同輻射力ランキング第2位と高位である。省都としての南京、杭州、合肥の同輻射力ランキングはそれぞれ第5位、第8位、第25位であり、いずれも地域的な文化・スポーツセンターとなっている。

 医療分野では、上海は医療輻射力全国第2位で、北京に次ぐ全国的な医療センターの一つとなっている。杭州、南京は第8位と第12位であり、地域的な医療センターである。

 上海は全国海外旅行客ランキング第2位の都市となっており、杭州、蘇州、寧波はそれぞれ第5位、第18位、第19位である。長江デルタメガロポリスは全国海外旅行客数のシェアを18.2%有し、また中国最大のコンベンションセンターの一つともなっている。

 すなわち長江デルタメガロポリスでは、上海が各種の全国的センター機能を発揮している。省都の南京、杭州そして合肥は、地域センターとして機能している。蘇州、寧波、無錫、常州などの都市は急速に発展し、製造業はもちろんサービス業分野でも強力な産業力を形成している。

長江デルタメガロポリスの評価分析

 〈中国都市総合発展指標2016〉の環境大項目ランキングにおいて、長江デルタメガロポリスの26都市の中で、上海と蘇州がトップ20にランクインし、それぞれ第5位と第20位である。国連が定める1人当たりの水資源量の基準で見れば、同メガロポリスでは実に半数の8都市が極度の水不足に陥っている。大規模な工業化と都市化は、同地域の生態環境に大きな負荷を与えている。

 同〈指標〉でメガロポリス内26都市の環境大項目を分析すると、上海の優位性は突出している。蘇州は偏差値で上海と一定の差はあるものの、第2位となっている。

 第2グループの寧波、南京、杭州、台州4都市の偏差値は近接し、それぞれ第3位、第4位、第5位、第6位である。第3グループは金華、無錫、舟山、池州、南通、常州、揚州、嘉興、安慶、泰州、塩城、紹興、合肥で、第4グループは湖州、滁州、蕪湖、宣城、鎮江、銅陵の各都市であり、馬鞍山は最下位となっている[57]

図33 長江デルタメガロポリス 26 都市環境大項目分析図
注:上記は、長江デルタメガロポリス26都市の偏差値の順位である。以下、図36まで同。

 〈中国都市総合発展指標2016〉の経済大項目ランキングの首位は、上海である。長江デルタメガロポリスで全国トップ20にランクインしているのは、第6位の蘇州、第7位の杭州、第9位の南京、第14位の寧波と第15位の無錫である。6都市も経済の全国ランキング上位20都市にランクインしている現象は、長江デルタメガロポリスの経済的な実力の高さを端的に示している。

 同〈指標〉でメガロポリス内26都市の経済大項目ランキングを分析すると、上海はトップ、次いで蘇州、杭州、南京、寧波、無錫5都市が第2グループとなる。第3グループは常州、合肥、南通、嘉興、紹興、鎮江、舟山、揚州、金華、台州、湖州、泰州、蕪湖、塩城の14都市。第4グループは、銅陵、馬鞍山、安慶、宣城、滁州、池州の6都市である[58]

図34 長江デルタメガロポリス 26 都市経済大項目分析図

 〈中国都市総合発展指標2016〉の社会大項目ランキングで、長江デルタメガロポリスの6都市がトップ20にランクインしている。すなわち第2位の上海、第4位の杭州、第7位の南京、第8位の蘇州、第15位の無錫、第17位の寧波で、経済力が同メガロポリスの社会発展の強力な後ろ盾となっている。

 同〈指標〉でメガロポリス内26都市の社会大項目ランキングを分析すると、上海の優位性が突出し、杭州、南京、蘇州の3都市が第2グループである[59]。第3グループは無錫、寧波、紹興、金華、嘉興、揚州、常州、南通、合肥、湖州、鎮江、台州12都市である。第4位グループは泰州、舟山、塩城、宣城、安慶、銅陵、蕪湖7都市となる。最下位グループは池州、馬鞍山、滁州の3都市である。

図35 長江デルタメガロポリス 26 都市社会大項目分析図

 〈中国都市総合発展指標2016〉総合ランキングで、上海の成績は堂々たる第2位だった。また、蘇州、杭州、南京、寧波、無錫の5都市が全国トップ20にランクインし、それぞれ第6位、第7位、第9位、第12位、第15位となり、長江デルタメガロポリスの総合的な実力を誇示している[60]

 同〈指標〉でメガロポリス内26都市の総合指標を分析すると、上海のトップは揺るがない。蘇州、杭州、南京3都市の総合偏差値は接近し第2位グループとなっている。寧波、無錫がその後に続く。

図36 長江デルタメガロポリス 26 都市総合指標分析図

次なる挑戦

 〈中国都市総合発展指標2016〉によると、長江デルタメガロポリスのDID人口比率は珠江デルタメガロポリスに比べて16.4%ポイントも低く、5,850万人が未だ非DID地域に生活し、都市化の道のりはまだ厳しいといえる。

 しかし一方で、長江デルタメガロポリスのDID人口密度は珠江デルタメガロポリスよりも高く9,125人/ km2に達し、日本の太平洋メガロポリスの同密度より1,132人/ km2も高い。都市マネージメント能力やインフラレベルに比べ人口密度は高過ぎる状態で、局部過密現象が深刻である。

 注意すべきは、同メガロポリスにおいて数多く設置されている開発区や工業園区で、低密度の開発が広がっていることである。他方、郷鎮企業の発展をきっかけに鎮や村単位での開発が進み、大量のDIDが中心市街地の外に分散して点在する状況を作り出している。

 長江デルタメガロポリスは一層の都市化の進展を通じて、工場経済から都市経済への移行を必要としている。ゆえに、大都市を中心にサービス業を発展させ、都市生活の質や経済活動の効率を高め、高密度大規模都市社会の構築に挑戦しなければならない。

図37 長江デルタメガロポリス DID分析図
出典: 雲河都市研究院衛星リモートセンシング分析より作成。

4. 京津冀メガロポリス


 中国経済発展の新しいエンジンとして北京、天津を中心とする京津冀メガロポリスが大発展期に入った。本レポートは中国国家発展改革委員会の定義により、北京、天津、石家荘、唐山、秦皇島、保定、張家口、承徳、滄州、廊坊の10都市を京津冀メガロポリスと定め分析する。

北京・天津のダブルコア

 京津冀地域は渤海に面し、背後に太岳山脈が連なり、地政学的に非常に重要な位置にある。同地域は北京、天津の二大直轄市を抱えながら、周辺都市の発展は遅れ、その格差が著しい。

 (1)北京

 首都北京は、京津冀メガロポリスの中核である。紀元前221年、秦の始皇帝が中国を統一して以来、北京は常に中国北方の重鎮かつ中心であり続けた。1272年以降、元、明、清三大王朝は相次いで首都を北京に置き、1949年10月1日に中華人民共和国は北京を首都として正式に定めた。

 建国前、北京は一消費都市にすぎなかった。新中国成立後、政治、文化、教育の中心となった北京は、工業基地と科学技術センターの使命をも与えられた。計画経済下の30年間の重化学工業化により、北京は一時期、中国北方の重工業の要となった。

 改革開放後、北京は知識経済へとかじを切り、ハイテクをはじめとする「首都経済」への転換を図った。とりわけオリンピックを契機とし、「人文北京、ハイテク北京、グリーン北京」の発展理念を掲げ、工業基地からの脱皮を成し遂げた。

 北京には今日、中国の政治経済の中枢機能が集中し、同時に教育、科学技術、文化メディア、医療衛生、国際交流など各種のセンター機能を発揮し、各界のエリートを集めている。

 (2)天津

 京津冀メガロポリスの第二の大都市は、天津である。

 隋朝の大運河開通を皮切りに、天津は「南糧北運(南の食糧を北へ運ぶ)」の中継地となった。元朝以降、天津は北京の玄関として、常に軍事と水運の要所であり続けた。

 天津の近代化は、「洋務運動」を機にはじまった。清政府はいち早く天津に機械製造局を創設し、西洋から技術や設備を導入して外国人技術者を雇用し、近代工業の発展に向けて歩みを進めた。洋務運動期、天津は鉄道、電報、電話、郵便、鉱業、近代教育や司法などで全国に先駆けた。天津は当時中国第二の商工業大都市であり、北方最大の金融商業貿易センターであった。

 新中国成立後、天津は北京、上海と並ぶ直轄市となり、工業基地としての実力をさらに強化した。

 天津経済技術開発区が1984年に設置され、積極的な外資導入がはじまった。2005年に中国政府は「天津浜海新区」を設置し、新区建設を通じて京津冀地区を珠江デルタ、長江デルタに続く新しい成長エンジンに発展させようと努めた。天津に集まったエアバス、シェル、一汽トヨタ、サムスン電子など多くの国内外企業が、いまや、航空、電子情報、石油採掘・加工、海洋化学工業、現代冶金、自動車・装備製造、食品加工、生物製薬にいたる複合的な産業集積地を作り上げた。

外来人口の大規模受け入れ

 〈中国都市総合発展指標2016〉によると、首都北京は、818.6万人の非戸籍常住人口を受け入れている。上海に次ぐ外来人口受け入れ第2の都市である。天津も500.3万人の非戸籍常住人口を受け入れている。京津冀メガロポリスの中では、石家荘、唐山、秦皇島、廊坊4都市は各々36.7万、23.6万、11.4万、1.8万人の人口流入がある。それに対して、張家口、承徳、滄州、保定4都市は人口が流出している。保定の流出人口は50万人近くにのぼる。

 北京、天津の2大直轄市を中心に、京津冀地域では人口が密集する都市連担—京津冀メガロポリスが形作られている。同メガロポリスは現在1,259.4万人の外来人口を受け入れている。これは珠江デルタメガロポリスの半分近くの規模である。

大規模インフラ建設

 首都北京の海の玄関として天津港は、中国コンテナ取扱量ランキングでは第6位、また世界コンテナ取扱量ランキングにおいて第10位で、中国北方で最も重要なハブ港である。

 〈中国都市総合発展指標2016〉によると、天津は京津冀メガロポリスの中で、コンテナ港利便性において全国トップ30に唯一ランクインした都市である。同メガロポリスが全国コンテナ港取扱量に占める割合は7.8 %であり、中国北方最大の海運センターとなっている。

 京津冀メガロポリスは、海運に比べ、航空輸送での優位が際立っている。中国の空の玄関である北京首都国際空港は、中国旅客乗降客数最大の空港であり、アジアにおいても航空便発着数で第1位を誇る国際ハブ空港である。天津浜海国際空港も中国旅客乗降客数で第20位である。北京南苑空港、石家荘正定国際空港、唐山女三河空港、張家口寧遠空港、秦皇島北戴河空港の5空港を加えると、同メガロポリスには、すでに7つの空港から成る巨大な航空網が形成されている。

 中国最大の航空輸送センターの一つとして、京津冀メガロポリスが中国旅客乗降数と航空貨物取扱量における割合は各々13%と15.6%に達している。

 〈中国都市総合発展指標2016〉によると、北京は全国295の地級市以上の都市における空港利便性ランキングで第2位である。ほかに京津冀メガロポリスは天津と廊坊の両都市が同ランキングトップ30に入っている。

 大型の空港や港の整備は、京津冀メガロポリスと世界との交流・交易のネットワークを強化した。さらに高速道路と高速鉄道は、国内の都市連携を緊密にした。大規模なインフラ投資は、同メガロポリスの社会経済発展の基礎を築いた。

空間構造の特色

 京津冀メガロポリスは常住人口規模1,000万人を超えるメガシティを4つも有する。中国都市常住人口規模ランキング第3位の北京、第4位の天津、第7位の保定、第10位の石家荘である。なかでも北京は常住人口2,000万人以上の超メガシティである。唐山、滄州は人口700万人級の都市であり、廊坊、張家口は400万人級、承徳、秦皇島は300万人級の都市である。京津冀メガロポリスの常住人口規模は合計8,947万に達し、全国人口の7%を占めている。

 〈中国都市総合発展指標2016〉によると、京津冀メガロポリスのDID人口は4,379.6万人、全国DID総人口の7.6%にまで達し、巨大規模の都市人口を抱えている。しかしDID人口比率はわずか51.4%であり、珠江デルタメガロポリスより26%ポイントも低く、三大メガロポリスの中で都市化が最も遅れている。

 京津冀地域のDID総面積は4,783.5 km2に達している。本レポートではDIDを用いて同メガロポリスの空間構造を分析し、以下の3つの特徴を明らかにした。

 京津冀メガロポリス空間上の最大の特徴は、10都市の発展水準のギャップが激しいことである。北京と天津のDID人口比率は、各々85.3%と 78.7%に達するものの、同じメガシティである石家荘のDID人口比率は一気に52.3%まで下がる。その他7都市のDID人口比率はさらに40%以下であり、最下位の廊坊はわずか17.6%である。

 同メガロポリスの空間上のもう一つの特徴は、「二大三中五小」構造である。「二大」とは北京と天津を指す。首都北京のDID人口は1,703.2万人に達し、その規模と機能は他都市を超越している。

 天津もDID人口が1,035.5万人に達し、地域的な中心都市となっている。

 「三中」とは石家荘、保定、唐山で、DID人口250万以上600万以下の3都市である。「五小」とは、滄州、秦皇島、張家口、承徳、廊坊の5都市で、DID人口が150万以下である。

 京津冀メガロポリスの空間上の第三の特徴は、“一横一縦”の2本の軸である。「一横」は北京、天津を軸とする地帯、「一縦」は北京から保定、石家荘にまで至る地帯である。二本の軸線は今後、密度を増し都市連担を成すと予測されるものの、いまだ各都市の連なりはまばらである。同メガロポリスの空間構造上、DID面積が合わさる都市連担としての密度には、未だ足りていない。

産業構造の特色

 京津冀メガロポリスの産業集積は分厚く、中国全国に占める第二次産業GDPおよび貨物輸出額はそれぞれ7.5%、5.5%に達し、中国最大級の工業基地の一つとなっている。

 北京を中心とする京津冀メガロポリスには、中国で本社中枢機能が最も集中し、金融、技術イノベーション、文化・スポーツ・娯楽、医療・衛生、コンベンション等においても一級のセンター機能を有している。

 〈中国都市総合発展指標2016〉で用いる「輻射力」の概念で京津冀メガロポリス10都市を分析すると、卸売・小売の輻射力で北京は全国第2位、天津は第13位である。

 北京は中国地級市以上295都市の中で、科学技術輻射力ランキング第1位、天津は同ランキング第8位である。京津冀メガロポリスが全国R&D人員数と全国特許取得数に占める割合はそれぞれ12.3%と11.1%に達し、全国最大規模の研究開発センターの1つとなっている。

 北京は中国地級市以上295都市中、高等教育輻射力が堂々第1位で、北京大学、清華大学をはじめとするトップ校が集まっている。天津は同輻射力で第9位にランクインしている。京津冀メガロポリスの全国大学生数に占める割合は8.1%に達し、中国における重要な高等教育センターとなっている。

 北京は中国地級市以上295都市中、文化・スポーツ・娯楽輻射力第1位で、他都市に抜きん出ている。天津、石家荘、秦皇島は、各々同輻射力ランキングで第22位、第24位、第30位につけ、文化・スポーツ・娯楽の地域的な中心地となっている。

 北京は中国地級市以上295都市中、医療輻射力第1位で、最先端医療機関が多数集まる全国的な医療センターとして、毎年全国各地から大勢の患者を受け入れている。天津、石家荘は同ランキングで第11位と第26位であり、医療の地域的なセンターとなっている。

 北京は中国地級市以上295都市中、金融輻射力第2位で、中国では金融関連の本社機能が最も集約している。天津の同輻射力ランキングは第19位である。

 北京、天津は中国地級市以上295都市中、海外旅行客ランキングで第4位と第6位である。全国海外旅行客において京津冀メガロポリスが占める割合は7.4%に達する。北京、天津は国内旅行客ランキングでは第3位と第6位で、全国国内旅行客数において京津冀メガロポリスが占める割合は7.9%に達する。

 北京は政治、科学技術、文化芸術の都、国際交流の中心であり、しかも全国一のコンベンションセンターであり、同時に全国最大規模の歴史遺産を持つ。交流経済と観光経済の発展が京津冀地区の大きなポテンシャルとなっている。

 北京は中国の政治、文化、科学技術、そして国際交流の中心として、交流経済発展のポテンシャルが極めて高く、京津冀メガロポリスの発展をリードしている。天津は同地域の海の玄関であり、また中国北方地域の工業の重鎮として、科学技術、文化、教育、医療などの方面でも相当の輻射力を持つ。石家荘、唐山、保定は工業の比重が高い産業都市である。省都としての石家荘は、一定の水準の地域センター機能を持つ。同メガロポリスでは北京、天津両市以外の他都市の文化、教育やサービス業は比較的遅れをとっている。

京津冀メガロポリスの評価分析

 京津冀地域は深刻な渇水状況に陥っている。国連の水資源の基準では、京津冀メガロポリス10都市中8都市が、極度の渇水都市に属している。長期にわたる渇水状態は同メガロポリスの発展を制約し、地下水の過剰な汲み上げ問題も深刻化している。同地域の環境汚染問題も際立ち、全国地級市以上295都市におけるPM2.5汚染都市トップ30に、京津冀メガロポリスは5都市も含まれている。

 〈中国都市総合発展指標2016〉で同メガロポリス内10都市の環境大項目の偏差値を分析すると、北京が第1位である。第2グループの天津、秦皇島、石家荘は、それぞれ第2位、第3位、第4位である。第3グループは滄州、廊坊、唐山、承徳、張家口である。保定の評価は最も低く最下位である[61]

図38 京津冀メガロポリス 10 都市環境大項目分析図
注: 上記は、京津冀メガロポリス10都市の偏差値の順位である。以下、図41まで同。

 同〈指標〉経済大項目全国ランキングにおいて、北京は第2位、天津は第5位であり、二大直轄市の経済力が端的に示されている[62]

 さらに同〈指標〉で京津冀メガロポリス内10都市の経済大項目の偏差値を分析すると、北京は言うまでもなく第1位である。天津は第2位であるが、北京とは大きな差がある。その他の都市と北京、天津両大都市との差は、段違いに大きい。

図39 京津冀メガロポリス 10 都市経済大項目分析図

 〈中国都市総合発展指標2016〉の社会大項目の全国ランキングでは、首都北京の優位性が明らかである。天津は同ランキング第3位であり、両直轄市は社会分野で秀でている[63]

 同〈指標〉で京津冀メガロポリス内10都市の社会大項目の偏差値を分析すると、北京は他の都市を引き離してトップ、天津は第2位につけたものの北京に大きく引き離されている。その他の都市は、両大都市との間に著しい格差がある。

 〈中国都市総合発展指標2016〉全国総合ランキング中、北京は首都にふさわしい栄冠を手にし、天津も第5位にランクインしている。

図40 京津冀メガロポリス 10 都市社会大項目分析図

 〈中国都市総合発展指標2016〉全国総合ランキング中、北京は首都にふさわしい栄冠を手にし、天津も第5位にランクインしている[64]

 同〈指標〉でメガロポリス内10都市の総合指標を分析すると、北京の総合的優勢は明らかであり、第2位の天津との間には大差がある。石家荘、秦皇島、滄州、唐山、廊坊、承徳は、それぞれ第3位、第4位、第5位、第6位、第7位、第8位である。保定の環境問題は深刻で、同地域内総合ランキングでワースト2位、張家口は同最下位だった。

 総じて、首都北京は、社会、文化、科学技術、本社機能などの分野において、他の都市とは比較にならないパワーを持つ。直轄市の天津もこれらの分野で秀でている。経済の領域では両大都市が強力であるが、構造的に天津、石家荘、唐山、保定などの都市は工業の比重が大きく、環境を犠牲にして工業化を進めた結果、生態環境に大きな圧力がかかっている。深刻な水資源不足は同地域の環境問題にさらに拍車をかけている。

図41 京津冀メガロポリス 10 都市総合指標分析図

次なる挑戦

 〈中国都市総合発展指標2016〉によると、京津冀メガロポリスのDID人口比率は珠江デルタメガロポリスに比べて26%ポイントも低く、4,568万人が非DID地区に生活し、都市化への道程はいまだ途上にある。

 一方、DID人口密度は9,156人/ km2に達し、日本の太平洋メガロポリスの同密度に比べ1,163人/ km2も高い。都市マネージメントとインフラ整備の水準を鑑みると、同地域の局部過密現象は深刻である。

 さらに京津冀メガロポリスでは、工場誘地のため数多くの開発区や工業園区が設置され、低密度開発が広がっている。他方、鎮や村単位で開発を進めてきた結果、大量のDIDが中心市街地の外に分散して点在している状況となっている。

 河北地域の農村部ではいまだ大量の人口を抱えている。同時に、石家荘、保定、唐山を始めとする同省の都市の産業構造や都市基盤の遅れはかなり深刻である。深刻な大気汚染を吐き出すとともにサービス業を中心とした都市経済がなかなか育たないのが現状である。京津冀メガロポリスの将来は都市化にかかっている。今後サービス経済の発展に注力し、都市生活の質や経済活動効率を上げ、密度の高い都市社会を構築していかなければならない。

図42 京津冀メガロポリス DID分析図
出典: 雲河都市研究院衛星リモートセンシング分析より作成。

5. 成渝メガロポリス


 成渝(成都と重慶)メガロポリスにまたがる四川省と重慶市は、長江上流に位置している。東は湖南・湖北両省に隣接し、南は雲貴高原が連なり、西は青蔵高原に通じ、北は陜西、甘粛両省に接する。東西南北が交わる戦略的要所である。同メガロポリスをリードする重慶と成都両都市は、内陸部農業人口集中地区で発展した典型的な「内陸型」メガシティである。本レポートでは中国国家発展改革委員会の定義に従い、重慶(渝中、万州、黔江、涪陵、大渡口、江北、沙坪壩、九竜坡、南岸、北碚、綦江、大足、渝北、巴南、長寿、江津、合川、永川、南川、潼南、銅梁、栄昌、璧山、梁平、豊都、墊江、忠県、開県と雲陽の一部地域)、四川省の成都、雅安(天全、宝興を除く)、綿陽(北川、平武を除く)、資陽、楽山、瀘州、南充、徳陽、宜賓、広安、遂寧、達州(万源を除く)、自貢、眉山、内江の16都市を成渝メガロポリスと定め、分析を行う。

重慶・成都

 成渝メガロポリスは全国におけるGDP規模と常住人口規模で各々6%と7.7%の割合を占めている。同メガロポリスの発展を牽引するのは重慶と成都両メガシティである。

 (1)重慶

 重慶は長江上流に位置し、長江の重要港として、歴史的に中国西南地域の政治経済および軍事拠点だった。

 近現代において、重慶は「重慶開港」、「戦時首都」、「三線建設」[65]の3度の転換点を経験した。

 1890年、中国とイギリスは「煙台条約」を締結し、重慶を開港し、税関を設置した。以来、各国は重慶に領事館を設置しただけでなく租界を開き、商社や工場などを開設した。これをきっかけに、民族資本も台頭した。中国西部では重慶が最も早く工業都市となった。

 1937年、中華民国政府は「国民政府移駐重慶宣言」を発布し、重慶を戦時首都と定めた。日中戦争時に中国の政治と軍事の中心地として、重慶には大量の人員と産業が移転した。これによって、重慶は一躍世界的な知名度を得た。戦時移民ブームによる外来要素と地元地域文化が合わさり、重慶は多様性に富んだ都市文化を築いた。

 新中国成立後、特に1964年の「三線建設」 戦略実施によって、三線の中核都市としての重慶は、沿海部から鉱工業企業、研究開発機関の人員を再び大量に受け入れ、内陸地域の重要な工業基地となった。

 改革開放以後、とりわけ1997年の直轄市昇格以来、重慶は急速に発展し、西南地域の社会経済発展のペースメーカーとなっていった。特筆すべきは、近年、フォックスコン、ASUS、ヒューレット・パッカードなどの国内外の有名企業が集まり、電子産業の一大集積地となったことである。

 西南地域の牽引役として、重慶は商業貿易、金融、文化、科学技術、教育、医療などの分野で強大な輻射力を持ち、重要なセンター機能を発揮している。

 (2)成都

 四川省の省都として成都は、成都平原の中心に位置し、物産が豊富で、古来より「天府之国」の誉れ高く、常に中国西南地域の政治・経済・軍事の中心であった。

 1877年、四川総督の丁宝楨は成都に四川機械局を創設し、洋務運動期に近代民族工業と軍事工業の原型を、四川に形作った。

 新中国成立後の鉄道建設は、閉ざされていた四川盆地の大扉をこじ開けた。成渝(成都─重慶)鉄道が1952年に竣工・開通し、宝成(宝鶏─成都)鉄道が1956年に甘粛省へつながり、さらに成昆(成都─昆明)鉄道が1970年に開通した。これらの鉄道の開通によって、中心都市としての成都は新しい時代を迎えた。

 三線建設は成都にも大きな影響を与えた。西南地域の三線建設指令部が設置された成都は、全国各地から鉱工業企業および研究開発機関の人員を大量に受け入れ、工業力や研究開発力が一挙に増した。三線建設によって成都は一大産業都市となった。

 改革開放以降、成都は急速に発展を遂げ、市街地面積は建国初期の18 km2から400 km2超へと膨らみ、230万人以上もの非戸籍常住人口を受け入れ、成渝メガロポリスの中で唯一の人口純流入都市となった。

 中国中西地域において、成都は外国領事館数第1位の都市であるばかりでなく、外資銀行、外資保険機構数、世界トップ500企業の進出数で第1位の都市である。成都はまさしく中国内陸地域に世界との交流プラットフォームを提供している。

 成都では近年、IT産業分野の発展が凄まじく、Cisco、GM、シーメンス、フィリップス、ウィストロン、フォックスコン、デル、レノボなど国内外の企業が進出し、巨大な産業集積を形成した。

 西南地域の中心都市として、成都は商業貿易、金融、文化、科学技術、教育、医療などの分野で強大な輻射力を持ち、重要なセンター機能を発揮している。

大規模人口流出

 成渝地域はもともと人口密度が高く、都市化水準は低かった、成都と重慶両中心都市の人口吸収能力に限りがあるため、人口が外部へ大量に流出している。

 〈中国都市総合発展指標2016〉によると、成渝メガロポリス16都市の中で、成都だけが230万人もの非戸籍常住人口を受け入れている。他の都市は人口が流出し、重慶の人口流出規模は383.8万人にも達している。同メガロポリスの流出人口の合計は1,268.9万人であり、中国で最も人口が流出している地域の1つである。

インフラ整備

 内陸部にある成渝メガロポリスは臨海の優位性を持たず、大量の物資輸送は長江航路や道路、鉄道に頼り、時間と費用がかかる。そのため物流コストが同地域の発展を制約する最大の要因となっている。長江航路を持つ重慶は、この地域の一大物流拠点となっている。

 成渝メガロポリスの航空輸送について、〈中国都市総合発展指標2016〉によると、成都と重慶は全国地級市以上295都市の空港利便性ランキングでそれぞれ第5位と第16位である。今日、この地域には重慶江北国際空港、成都双流国際空港、瀘州藍田空港、綿陽南郊空港、南充高坪空港、宜賓莱壩空港、達州河市空港の7空港がある。同メガロポリスの空港旅客乗降数や航空貨物取扱量は全国で各々8.8%と6.3%に達し、中国内陸部において航空輸送が最も発達している地域となっている。

 1995年に重慶と成都の両都市を結ぶ成渝高速道路が開通した。20年後の2015年に開通した成渝高速鉄道は、両都市間の時間距離と経済距離をさらに圧縮した。

 空港、高速道路、高速鉄道などの交通インフラへの大規模投資は、成渝メガロポリスの外部との交通条件を大幅に改善しただけでなく、メガロポリス内部もより緊密化した。

空間構造の特色

 重慶、成都は、常住人口がそれぞれ2,991.4万人、1,442.8万人のメガシティである。次いで633.4万人の南充、553万人の達州が続く。綿陽、宜賓、瀘州の3都市の人口規模は400万人クラス、内江、資陽、徳陽、遂寧、楽山、広安6都市の人口規模は300万人クラス、眉山と自貢両都市の人口規模は200万人クラスである。人口規模が最小の雅安は154.4万人である。

 成渝メガロポリスではすでに総面積3,770.2 km2の人口集中地区を形成している。本レポートではDIDを用いて同メガロポリスの空間構造を分析し、以下の3つの特徴を見出した。

 成渝メガロポリスの空間上の第一の特徴は、その人口規模の大きさに対して都市化率が低いことである。同メガロポリスは9,749.9万人の常住人口に対し、そのDID人口規模は3,354.5万人、DID人口比率はわずか34.7%であり、珠江デルタメガロポリスより42.7%ポイントも低い。

 同メガロポリスの空間上の第二の特徴は“二大”構造である。二大とは重慶、成都のDID面積が各々966.8 km2、914 km2に達し、その他の都市のDID面積が格段に小さく、かつ比較的分散していることである。

 DID人口規模から見ると、重慶、成都は1,064.7万人と951.2万人に達している。これに対して南充、達州、徳陽、自貢、綿陽、遂寧の6都市のDID人口規模は100万人以上200万人以下である。他の8都市のDID人口規模は100万人以下で、人口規模が最も少ない眉山は32.7万人である。

 成渝メガロポリスの空間構造上の第三の特徴は、重慶と成都の両中心都市がすでに高速道路や高速鉄道で結びついているものの、沿線にはまだ都市連担が形成されていない点にある。

 「二大」の空間構造は、経済指標でも確認でき、成渝メガロポリスにおける重慶と成都両都市のGDP、貨物輸出額、第三次産業GDPの合計は、それぞれ60%、89%、67 %に達している。

産業構造の特色

 成渝メガロポリスはすでに一定の工業集積を形成しており、特に近年IT産業が急速に発展し、重慶と成都に巨大規模のIT産業集積が出来上がっている。同メガロポリスが全国第二次産業GDP、貨物輸出額に占める割合はそれぞれ6.3%、3.4%に達している。

 〈中国都市総合発展指標2016〉の輻射力の概念を利用し、成渝メガロポリス16都市を分析すると、卸売・小売の分野で重慶と成都の輻射力は突出し、全国地級市以上295都市中それぞれ第9位と第10位である。

 成都は全国地級市以上295都市中、科学技術輻射力ランキング第6位、重慶は同第30位である。成渝メガロポリスが全国R&D人員数と特許取得数に占める割合はそれぞれ5.4%と4.9%で、中国内陸地域の重要な科学技術センターの一つとなっている。

 全国地級市以上295都市中、成都、重慶は高等教育輻射力ランキングで各々第8位と第11位である。成渝メガロポリスの全国大学生数に占める割合は9.9%に達し、中国の重要な高等教育センターの一つとなっている。

 全国地級市以上295都市中、成都は金融輻射力ランキングで第23位である。

 成都、重慶は全国地級市以上295都市中、医療輻射力ランキングで各々第5位と第7位であり、重要な地域医療センターとなっている。

 文化・スポーツ・娯楽の分野で、成渝メガロポリスは比較的立ち遅れ、全国輻射力ランキングのトップ30にはどの都市もランクインしていない。

 重慶、成都は全国地級市以上295都市中、海外旅行客ランキングでそれぞれ第9位と第14位であり、全国海外旅行客の中で、同メガロポリスが占める割合は4.2%である。それに対して全国国内旅行客数ランキングでは重慶、成都はそれぞれ第1位と第5位であり、同メガロポリスが占める全国国内旅行客数は9.7%の高いシェアに達している。豊かな自然と悠久の歴史文化を持つ同メガロポリスは、観光経済と交流経済において高いポテンシャルを有している。

 総じて、重慶、成都の両都市はほとんどの分野で周辺へ強力な輻射力を持ち、その他の都市との格差は大きい。

成渝メガロポリスの評価分析

 環境大項目全国ランキングの中で、成渝メガロポリスの都市はトップ20にいずれもランクインしていない。

 同〈指標〉で成渝メガロポリス内16都市の環境大項目を分析すると、重慶は首位で、成都が第2位、雅安が第3位である。資陽、楽山の偏差値は近接し、第4位と第5位である[66]

図43 成渝メガロポリス 16 都市 環境大項目分析図
注: 上記は、成渝メガロポリス16都市の偏差値の順位である。以下、図46まで同。

 〈中国都市総合発展指標2016〉の社会大項目における全国ランキングトップ20で、重慶、成都はそれぞれ第6位と第10位であ[67]

 同〈指標〉で成渝メガロポリス内16都市の社会大項目を分析すると、重慶、成都両市の偏差値は高く、他の都市との格差は大きい。

図44 成渝メガロポリス 16 都市社会大項目分析図

 〈中国都市総合発展指標2016〉の経済大項目における全国ランキングトップ20で、重慶、成都はそれぞれ第8位と第10位である[68]

 同〈指標〉で成渝メガロポリス内16都市の経済大項目を分析すると、重慶、成都両市の偏差値は高く、他都市とは大きな格差がある。

図45 成渝メガロポリス 16 都市経済大項目分析図

 〈中国都市総合発展指標2016〉の全国総合ランキングで、重慶、成都はそれぞれ第8位と第11位であり、成渝メガロポリスの二大中心都市の実力が浮き彫りになる[69]

 同〈指標〉で成渝メガロポリス内16都市の総合指標を分析すると、重慶、成都両市の偏差値は他の都市を引き離している。

図46 成渝メガロポリス 16 都市総合指標分析図

次なる挑戦

 〈中国都市総合発展指標2016〉によると、成渝メガロポリスはDID人口比率がわずか34.7%で、珠江デルタメガロポリスより42.7%ポイントも低い。同地域にはまだ6,395万人が非DID地区に生活している。いかにして都市化水準を大幅に向上させるかが、同メガロポリスの大きな課題である。

 また、成渝メガロポリスはDID人口密度が8,897人/ km2であるが、日本の太平洋メガロポリスの同密度と比べると904人/ km2も高い。高密度の人口集積と低い都市マネージメント能力という矛盾の解消が、同メガロポリスの空間構造上の第二の課題である。開発区や鎮、村単位で進めてきた乱開発がスプロール化をもたらしたと同時に、多くの人口集中地区を都市中心部から離れた場所に点在させている。

 最も大きな問題は、人口の域外への流出である。重慶を始めとする成渝メガロポリスエリアからの大規模人口流出である。都市基盤や生活品質の向上、そして地域の特性にあった産業を育成することで、都市の魅力を高め、人口流出をとどめることが肝要となるだろう。

図47 成渝メガロポリス  DID分析図

[1] 国連経済社会局編 『世界都市化予測2014(World Urbanization Prospects: The 2014 Revision)』および『世界都市化予測2015改訂版(World Urbanization Prospects: The 2015 Revision)』より。

[2] 図1を参照。

[3] 図2、図3を参照。

[4] 図4を参照。

[5] 図5を参照。

[6] 図6を参照。

[7] 図7を参照。

[8] 図8を参照。

[9] 図9を参照。

[10] 図10を参照。

[11] Gottmann,J., 1961, Megalopolis:The Urbanized Northeastern Seaboard of the United States, New York:K.I.P.

[12] 図11を参照。

[13] 厳密に言えば、京浜と京葉は東京湾の両翼に位置する二つの臨海工業地帯である。便宜上、本レポートでは、東京湾に属する臨海工業地帯を京浜-京葉臨海工業地帯とする。

[14] 珠江デルタメガロポリスには本来、香港とマカオが含まれるはずだが、本レポートでは中国国家発展改革委員会の同メガロポリスに関する定義に従い、両都市は入れず、中国本土の広州、深圳、珠海、仏山、江門、肇慶、恵州、東莞、中山の9都市のみを珠江デルタメガロポリスとして分析を行う。

[15] 中国国家発展改革委員会の長江デルタメガロポリスに関する定義では、同メガロポリスは上海、南京、蘇州、無錫、常州、南通、塩城、揚州、鎮江、泰州、杭州、寧波、嘉興、湖州、紹興、金華、舟山、台州、合肥、蕪湖、馬鞍山、銅陵、安慶、滁州、池州、宣城の26都市で構成される。本レポートはこの定義に従って同メガロポリスの分析を行う。

[16] 中国国家発展改革委員会の京津冀メガロポリスに関する定義では、同メガロポリスは北京、天津、石家荘、唐山、秦皇島、保定、張家口、承徳、滄州、廊坊の10都市で構成される。本レポートではこの定義に従って同メガロポリスの分析を行う。

[17] 図12を参照。

[18] ここでは、香港とマカオの両国際空港は含めていない。

[19] 図13を参照。

[20] 1988年10月31日、中国で初の高速道路、上海−嘉定間が開通した。1989年7月、中国交通部(省)は初めて高速道路の建設について政策を交布した。

[21] データの制限によって、高速道路分析で使用する三大メガロポリスのデータは、直轄市と省の単位で計算。

[22] データの制限によって、鉄道分析で使用する三大メガロポリスのデータについては、直轄市と省の単位で計算。

[23] 図14を参照。

[24] 図15を参照。

[25] 半導体技術の急激な進化によって情報通信技術と機械技術を融合したメカトロニクスという新しい技術分野が生まれた。メカトロニクス革命は、工業製品に情報処理と記憶能力を備えることが可能となり、同時に、生産において知能を備えた機械が技術や技能を代替することができるようになった。周牧之著『メカトロニクス革命と新国際分業—現代世界経済におけるアジア工業化』(ミネルヴァ書房、1997年)を参照。

[26] 情報技術と機械技術の融合によってもたらされた産業技術の変革が、発展途上国の工業化にどう影響を与えたかについては、詳しくは、周牧之の上記同著を参照。

[27] グローバルサプライチェーンの理論についての詳細は、周牧之著『中国経済論—高度成長のメカニズムと課題』(日本経済評論社、2007年)の第1章を参照。

[28] 図16、図17を参照。

[29] 図18、図19、図20、図21、図22、図23、図24を参照。

[30] 図18を参照。

[31] 図19を参照。

[32] 図20を参照。

[33] 図21を参照。

[34] 図22を参照。

[35] 図23を参照。

[36] 小城鎮とは、郷鎮企業の発展によって自然発生し、大きいものは県および郷鎮の政府所在地に形成された数万人から十数万人の集積を指す。郷鎮企業とは、農村で村や郷鎮が所有する「集団企業」である。

[37] 人口移動制限のため、国民は戸籍制度によって都市戸籍と農村戸籍との二つのグループに分けられ、農村戸籍者の都市戸籍取得は容易ではない。

[38] 図24を参照。

[39] 国際協力事業団(JICA、現在名は国際協力機構)は、中国国家発展改革委員会と共同で1999年から2002年まで、中国で3年間の都市化政策に関わる合同開発調査を実施した。筆者は同調査の責任者を務め、調査研究及び報告書の作成を担当した。調査研究の一環として、2001年9月に「中国都市化フォーラム—メガロポリス戦略」を開催し、メガロポリスの政策討論を行った。政策研究の成果として、調査団は中国の都市化の社会発展目標として、集約化社会、流動化社会、市民社会、サスティナブル化社会を提示した。また、上記の4つの社会発展の目標実現に向けて、行政区画改革、土地利用改革、地方財政改革、人口移動政策改革、社会保障制度改革、開発区制度改革、交通体係整備など、具体的な政策提言を行った。詳しくは同調査研究の最終報告書『城市化:中国现代化的主旋律』(湖南人民出版社〔中国〕、2001年)を参照。

[40] 図25、図26を参照。

[41] 国によって都市の人口密度の定義は異なる。先進国の中で日本は、都市に対する人口密度の基準が一番高く、都市エリアを人口集中地区(DID)と定め、人口密度が4,000人以上の連なった地区と定義している。

[42] 図27を参照。

[43] 図32を参照。

[44] 図37を参照。

[45] 図42を参照。

[46] 知識経済の「接触の経済性」についての詳細は、周牧之著『中国経済論─高度成長のメカニズムと課題』(日本経済評論社、2007年)、第5章を参照。

[47] 工場経済とは、過度に工場機能に依存し、本社、研究開発、ブランド経営、販売、およびアフターサービスなどの機能が不在な産業構造を指す。

[48] 国連は、年間1人当たり水資源量が500m3以下の地域を極度の水不足地域とし、同500m3以上1,000m3以下の地域を、重度の水不足地域としている。

[49] 経済協力開発機構(OECD)は1979年に発表した報告書『The Impact of Newly Industrializing Countries on Production and Trade in Manufactures』で、ブラジル、メキシコ、スペイン、ポルトガル、ギリシャ、ユーゴスラビア、韓国、台湾、シンガポール、香港の10カ国・地域における工業製品輸出の急増を取り上げ、これらの国・地域をNICs(Newly Industrializing Countries:新興工業国)と称した。しかし1980年代に入ると、経済成長は韓国、台湾、シンガポール、香港などアジアNICsに限定され、ラテンアメリカとヨーロッパのNICsは成長の軌道から外れた。よって、これらアジアNICsの呼称は、 1988年のトロントサミットで、アジア地域のNICsをNIEs(Newly Industrializing Economies:新興工業経済地域)へと変更した。

[50] ここでの「大中小」はあくまで相対的な表現である。人口200万人以下の規模を「小」と称していても、実際はかなり大きい人口集積である。

[51] 図28を参照。

[52] 図29を参照。

[53] 図30を参照。

[54] 図31を参照。

[55] 郷鎮企業とは、農村で村や郷鎮が所有する「集団企業」である。1980年代の中国では資本が私有財産として認められていなかったため個人は民間企業を起業できず、村や郷鎮が所有する集団起業の形にする必要があった。

[56] ここでの「大中小」とは相対的な言い方である。

[57] 図33を参照。

[58] 図34を参照。

[59] 図35を参照。

[60] 図36を参照。

[61] 図38を参照。

[62] 図39を参照。

[63] 図40を参照。

[64] 図41を参照。

[65] 三線建設とは1960年代当時、中国が米ソ両スーパーパワーと対峙する中で毛沢東が提唱した大戦略である。国土を戦場となる可能性の高い第一線地域、兵站を担う後方となる第三線地域、さらに両地域の間の第二線地域とに分けて、第一線地域の東部沿海地域から内陸奥地の第三線地域へ工業生産力を移転させるものであった。第三線地域の範囲は、四川省(現在の重慶市を含む)、貴州省、雲南省、甘粛省、そして河南、河北、湖南3省の西部から成り、その面積は中国国土の約 4分の1に相当する 236万 km2 であった。

[66] 図43を参照。

[67] 図44を参照。

[68] 図45を参照。

[69] 図46を参照。


『環境・社会・経済 中国都市ランキング2016 〈中国都市総合発展指標〉』掲載

『環境・社会・経済 中国都市ランキング 〈中国都市総合発展指標〉』
中国国家発展改革委員会発展計画司 / 雲河都市研究院 著
周牧之/徐林 編著  周牧之 訳
発売日:2018.05.31


【レポート】周牧之:長江経済ベルト発展戦略分析

周牧之 東京経済大学教授

2016年7月、日中ビジネス情報誌である『日中経協ジャーナル』三大地域発展戦略の展望特集に周牧之論文「長江経済ベルト発展戦略分析」掲載された。

NOTE:長江経済ベルトは「一帯一路」、「京津冀(北京市、天津市、河北省)一体化」と同様に、近年中国で最も重要な国家戦略の一つである。中国の東部、中部、西部を貫く長江経済ベルトは、中国経済の「背骨」であり、沿海地域から内陸部までの開発を連動させる役割が大きく期待されている。
長江経済ベルトとは、上海市、江蘇省、浙江省、安徽省、江西省、湖北省、湖南省、重慶市、四川省、貴州省、雲南省の9省と2直轄市をカバーし、長江流域に位置する巨大な経済エリアである。総面積はおよそ205万k㎡で、中国全土の約21%を占める。同ベルト内の地級市以上の都市数は110都市あり、中国全土の地級市以上295都市のうち4割弱を占めている。長江経済ベルトでは2015年、常住人口は5.4億人、域内総生産は30.3兆人民元に達し、前者は全国の42.1%、後者は同42.2%を占めるに至っている。

1.長江経済ベルト政策の概要

  中国国務院は2014年9月25日、「長江黄金水道による長江経済ベルト発展に関する指導意見」及び「長江経済ベルト総合立体交通回廊計画 (2014-2020)」を発表した。また、2016年3月25日には中国共産党中央政治局が「長江経済ベルト発展計画要綱」を審議・採択し、同年9月、中国国家発展和改革委員会地区経済司が「長江経済ベルト発展計画要綱」を正式に配布した。

 長江経済ベルトは「一帯一路」、「京津冀(北京市、天津市、河北省)一体化」と同様に、近年中国で最も重要な国家戦略の一つである。中国の東部、中部、西部を貫く長江経済ベルトは、中国経済の「背骨」であり、沿海地域から内陸部までの開発を連動させる役割が大きく期待されている。

 長江経済ベルトとは、上海市、江蘇省、浙江省、安徽省、江西省、湖北省、湖南省、重慶市、四川省、貴州省、雲南省の9省と2直轄市をカバーし、長江流域に位置する巨大な経済エリアである。総面積はおよそ205万k㎡で、中国全土の約21%を占める。同ベルト内の地級市以上の都市[1]数は110都市あり、中国全土の地級市以上295都市のうち4割弱を占めている。長江経済ベルトでは2015年、常住人口は5.4億人、域内総生産は30.3兆人民元に達し、前者は全国の42.1%、後者は同42.2%を占めるに至っている。

図1 長江経済ベルト概念図
注: 人口集中地区 (DID):人口密度 ≧ 5,000人/ k㎡
出所:雲河都市研究院作成

2.長江経済ベルト発展とメガロポリス政策

 「長江経済ベルト発展計画要綱」では、その発展の重要任務を、新型都市化の推進とする。また発展のフレームワークを、長江黄金水道という「一つの軸」と、長江デルタ、成渝、長江中游の三つのメガロポリスから成る「三つの極」と定めた。

現在、中国では都市化を経済社会発展の要に据え、メガロポリスを都市化の基本形態としている。長江経済ベルト発展計画はまさにメガロポリス化を中心に、都市構造と産業構造の質的な向上を促す政策である。

 中国は建国以来、人口移動を制限する「アンチ都市化」政策をとってきた。アンチ都市化からメガロポリス化への政策大転換には、日本と中国の政策研究における協力事業が大きな役割を果たした。1999年から2002 年までの3年間、日本国際協力事業団(JICA)は中国国家発展計画委員会と共同で中国の都市化政策に関わる開発調査を実施した。調査の責任者を務めた筆者は、中国の国土のあり方について、産業と人口を集中し集約すべきであるとの観点から「メガロポリス構想」を打ち出し、中国政府に提案した。この提案を踏まえて調査団は、2001年9月に中国国家発展計画委員会、チャイナ・デイリー社、中国市長協会と共同で「中国都市化フォーラム:メガロポリス戦略」を開催し、メガロポリス政策を提唱、中国でのメガロポリスに関する政策議論を一気に進めた。さらに同調査研究の最終報告書を『城市化:中国現代化的主旋律 (Urbanization: Theme of China’s Modernization)』として中国国内の一般向け刊行物として出版した。こうした努力が功を奏し、都市化、そしてメガロポリスに関する議論は、その後中国で最もホットな政策議論となった。

 中国政府は、それまでの大都市抑制政策を改め、とくに第11次五カ年計画において、メガロポリス戦略を政策的に打ち出した。この政策転換があったからこそ、今日の中国のメガロポリスの大発展があるといっても過言ではない。

 メガロポリス政策を受けて従来抑制されていた都市化のエネルギーが大噴出し、世界経済低迷の中にあって中国は大成長した。とくに上海・江蘇省・浙江省を中心とする長江デルタ、広東省を中心とする珠江デルタ、北京・天津・河北省を中心とする京津冀の三地域では、いま巨大なメガロポリスが形成されている。三大メガロポリスは2015年、中国のGDPの36.4%、輸出の66.6%を稼ぎ出し、成長センターとして中国経済の高度成長を牽引している 

 上記『城市化:中国現代化的主旋律』で示した中国メガロポリス戦略図(図2)に照らしてみると、戦略図上のメガロポリス及び長江国土軸は、まさしく現在の「長江経済ベルト発展計画要綱」の根幹となる「一つの軸」と「三つの極」の原型として読み取れる。さらに同戦略図と現在の中国の人口移動状況を表したグラフ(図3) とを比べると、外部人口を大規模に受け入れているエリアがまさしく珠江デルタ、長江デルタ、京津冀の三大メガロポリスであることが明白である。当時提唱したメガロポリス構想が、15年後の今日、まさしく現実となっている。

図2 中国メガロポリス戦略図、中国人口移動広域分析図
出所:周牧之主編、中国国家発展計画委員会地区経済司・日本国際協力事業団『城市化:中国現代化的主旋律(Urbanization: Theme of China’s Modernization)』(湖南人民出版社、2001年、中国語・英語対訳版) 、
周牧之・徐林主編、中国国家発展和改革委員会発展計画司・雲河都市研究院『中国城市総合発展指標2016』(人民出版社、2016年)。

3.中国都市総合発展指標で見た長江経済ベルト

  雲河都市研究院は、筆者を開発責任者として、中国国家発展和改革委員会発展計画司の協力で中国都市総合発展指標(China Integrated City Index、以下CICI)[2]を開発、中国の都市化を計るバロメータともなる同指標は2016年末、人民出版社から正式に出版された[3](2020年現在、地級市以上の都市は合計297都市に増加している)。同指標は中国すべての地級都市以上の295都市[4]を網羅している。各都市の環境、社会、経済に関連する数々の指標を用いて都市の状況を様々な角度から可視化し、分析、評価するシステムを、中国で初めて確立した。

  本論の後半は、CICIを利用し、長江経済ベルトの現状と課題を分析する。

  (1) エンジンとしての長江デルタメガロポリス

 CICI2016の全国都市総合ランキングにおいて、上海の成績は抜群で北京に次ぐ第2位であった。また、上位20位以内に上海を含め、蘇州市(第6位)、杭州市(第7位)、重慶市(第8位)、南京市(第9位)、武漢市(第10位)、成都市(第11位)、寧波市(第12位)、無錫市(第15位)、長沙市(第18位)の10都市がランクインし、長江経済ベルトには強力な拠点都市が存在していることを示している。

 国を挙げて工業化を進めている中国では、ほとんどの都市が経済振興の最も重要な手段として工業の発展を挙げており、中国の輸出工業は長江経済ベルトに最も集中している。長江経済ベルトが中国全土に占める工業総生産額、貨物輸出額の割合はそれぞれ42.8%と51.2%に達している。

 長江経済ベルトの各メガロポリスのパフォーマンスからする(表1)と、全国工業生産総額における割合は長江デルタが21.5%、長江中游は11.4%、成渝は5.1%で、長江デルタメガロポリスの圧倒的な強さが読み取れる。貨物輸出額でみるとその強さが更に最たるものであることが確認できる。メガロポリスが全国の貨物輸出総額に占める割合は40%に達している。長江中游と成喩の二つのメガロポリスに占める同割合は、4.7%と4.2%に止まっている。

  外資利用額、特許取得件数、上場企業数において長江経済ベルトが全国に占める割合はそれぞれ48.1%、54.2%、44%である。特に長江デルタメガロポリスが全国に占める同割合はそれぞれ24.2%、35.9%、28.7%に達している。

表1 長江経済ベルト三メガロポリス・経済指標比較(全国比、2015年)
出所:CICI2016より雲河都市研究院作成。

(2) 大規模なインフラ整備

 こうした活発な産業活動の展開を支えてきたのは同ベルト地域のすぐれた輸送条件である。

 2015年の世界におけるコンテナ港上位10位のうち、7つの席を中国が占めている。そのうち、第1位の上海と第6位の寧波−舟山は長江経済ベルトに属している。さらにCICI2016の「コンテナ港利便性」指標の上位30都市中、長江経済ベルトは14都市をも占めている。具体的には、上海市(第1位)、舟山市(第4位)、寧波市(第8位)、蘇州市(第13位)、嘉興市(第14位)、南通市(第15位)、無錫市(第17位)、湖州市(第19位)、常州市(第21位)、紹興市(第22位)、杭州市(第23位)、連雲港市(第24位)、南京市(第27位)、泰州市(第28位)であり、長江経済ベルトは中国におけるコンテナ輸送条件で優れた地域であることを示している。

 水運貨物取扱量で見ると、長江経済ベルトは全国の66.7%をも占めている。各メガロポリスの内訳はデルタが41.3%、長江中游が20.3%、成渝が3.8%となっている。

 長江経済ベルトは現在74の民間旅客輸送用空港を有しており、特に上海浦東国際空港は2015年、乗降客数、貨物郵便取扱量が中国全土でそれぞれ第2位と第1位の空港であり、フライト数でもアジア第4位の国際ハブ空港である。

 CICI2016の「空港利便性」指標の上位30都市中、長江経済ベルトは9都市を含めている。具体的には上海市(第1位)、成都市(第5位)、昆明市(第8位)、貴陽市(第9位)、杭州市(第12位)、重慶市(第16位)、武漢市(第25位)、紹興市(第26位)、長沙市(第27位)であり、長江経済ベルトは中国の航空輸送において最も利便性が高い地域である。

 空港乗降客数では、2015年長江経済ベルトを構成する各メガロポリスが全国に占める割合は、それぞれ長江デルタが19.3%、長江中游が6.4%、成渝が8.9%で、長江経済ベルト全体が中国全土に占める同割合は42.0%に達している。

 2015年の郵便貨物取扱量ランキングでは、長江経済ベルトの中国全土に占める割合は46.5%にも達している。長江経済ベルトを構成する各メガロポリスが全国に占める割合は、それぞれ長江デルタが33.8%、長江中游が2.8%、成渝が6.4%となっており、「世界の工場」である長江デルタメガロポリスの圧倒的なシェアが確認できる。

 大型空港や港を有する長江経済ベルトと国内外との交流・交易のビジネス環境は、航空、内陸河川航路、高速道路、高速鉄道ネットワークが高度に結びつくことによって分業化され、巨大な産業集積の有機体を形成している。長江経済ベルト発展政策でこうした広域インフラがさらに強化され、同経済ベルトの内外とのリンケージがより強固なものとなっていくだろう。

表2 長江経済ベルト三メガロポリス・インフラ指標比較(全国比、2015年)
出所:CICI2016より雲河都市研究院作成。

  (3) 巨大都市の膨張

 長江経済ベルトの地級市以上110都市のうち、常住人口が1000万人を超えるメガシティは5都市もある。具体的には、重慶市が3,017万人、上海市が2,415万人、成都市が1,443万人、蘇州市が1,062万人、武漢市が1,061万人であり、さらに500〜1000万人クラスの特大都市は34都市にのぼる。長江経済ベルトの常住人口規模の総計は5.4億人にのぼり、全国の人口の42.1%を占める。

 中国では人口の都市化率や都市化エリアにおける人口密度的な定義に明確なものがない。それに鑑み、CICIでは人口密度5,000人/km2以上の地域を「人口集中地:Densely Inhabited District」[5]と定め、その地域に属する人口を「DID人口」として定義し、分析を行っている。

 現在の中国全土のDID人口比率はまだわずか31.6%である。三大メガロポリスを見ると、同比率が最高水準の珠江デルタは61.1%であり、長江デルタは39.0%、京津冀は28.7%である。

 CICIの分析によると、長江経済ベルトのDID総人口は1.73億人であり、全国DID人口の41.2%を占め、中国最大の都市人口群体となっている。しかし、同ベルト全体のDID人口比率は29%と全国平均より低く、さらに内部の110都市の都市化における格差が大きい。上海市のDID人口比率は79.3%を達成しているものの、同比率で最低の眉山市はわずか5.6%である。

 都市化のプロセスにおいて現在、人口が各地域内の中心的な大都市に流れていくと同時に、地域外大都市とくに沿海部のメガロポリスに移動していることが顕著になってきている。それによって大都市の膨張がさらに続くであろう。

CICI2016の常住人口と戸籍人口の比較分析によれば、2015年の「流入人口(戸籍人口を超える常住人口数)」の上位30都市中、13都市が長江経済ベルトに属する都市である。同ベルト内各メガロポリスのパフォーマンスからすると、長江デルタは2,190万人を受け入れている。一方、長江中游から847万人、成渝から1,178万人口が流出している。

表3 長江経済ベルト三メガロポリス・人口指標比較(全国比、2015 年)
出所:CICI2016より雲河都市研究院作成。

  (4) 厳しい環境問題への挑戦

 CICI2016の全国の都市における環境分野ランキングにおいて、上位20都市には、上海市(第5位)、麗江市(第9位)、臨滄市(第15位)、普洱市(第17位)、蘇州市(第20位)の長江経済ベルトの5都市がランクインしている。

 急速な工業化と都市化が現在中国で重大な環境危機を引き起こしており、産業、生活、移動による汚染(大気、水質、土壌)、生物多様性の喪失、ごみによる都市の包囲など、都市やその周辺の生態環境にかつてない破壊をもたらしている。

 とくに中国の都市では水不足が非常に深刻な問題となっている。長江経済ベルトも例外ではない。国連の1人当たりの水資源の定義に従えば、2015年、長江経済ベルトには7都市が極度の水不足、23都市が重度の水不足に陥っている。同ベルトでは、著しい水問題に悩まされる都市が三分の一弱に達している。

 大気汚染も見逃せない大問題である。CICIによるPM2.5の年間平均値を分析すると、2015年長江経済ベルトの年間平均値は全国平均値をやや下回っているものの、長江経済ベルトを構成する中心的な12都市のうち6都市が、全国平均値を大きく下回っている。PM2.5の年間平均値におけるその6都市の全国259都市の順位は各々南京市が第173位、重慶市が第203位、長沙市が第205位、武漢市が第220位、合肥市が第221位、成都市が第236位である。ちなみに長江経済ベルトのPM2.5の年間平均値は東京都の同平均値の3倍近くとなっている。

  長江経済ベルトは都市化を進展させつつ、工場経済から都市経済への移行を加速する。そのためには、サービス型経済の発展と、都市生活の質の向上や経済活動の効率化が欠かせない。都市マネジメントレベルやインフラレベルのアップデートを図り、高密度大規模都市社会の構築を模索しなければならない。特に低炭素・節水などの生態環境重視の発展を遂げることが、至上命題であろう。


(本論文では雲河都市研究院の栗本賢一、数野純哉両氏がデータ整理と図表作成に携わった。)


[1] 中国の都市は直轄市、省会都市、計画単列市、地級市そして県級市に分かれる。

[2] 「中国環境都市指標」は、簡潔な三・三・三構造から成る。環境、経済、社会の三大項目が、それぞれ三つの中項目で構成され、九つの中項目指標がさらにそれぞれ三つの小項目で構成されている。

[3] 周牧之・徐林主編、中国国家発展和改革委員会発展計画司・雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2016』(人民出版社、2016年)

[4]「中国都市総合発展指標」は、すべての直轄市、省会都市、計画単列市、地級市を網羅する。2020年現在、地級市以上の都市は合計297都市に増加している。

[5] 日本ではDIDは4000人/km2以上の連続的なエリアと定め、これを都市化エリアとみなしている。CICIでは衛星データなどの解析の都合上、DIDを5000人/km2以上の地域とし、その連続性にはとらわれない。


『日中経協ジャーナル』2017年7月号(通巻282号)掲載