【杭州】歴史とハイテクが交差する古都【中国都市総合発展指標】第6位

中国都市総合発展指標2022
第6位



 杭州は2年連続で総合ランキング第6位を維持した。

 「社会」大項目では第7位であり、前年度より1つ順位を下げた。3つの中項目の「生活品質」では第4位、「伝承・交流」は第6位、「ステータス・ガバナンス」は第10位であり、3項目ともトップ10入りを果たした。小項目で見ると、「生活サービス」は第4位、「人口資質」「歴史遺産」「消費水準」は第5位、「都市地位」「文化娯楽」「居住環境」は第6位、「人的交流」は第8位と、9つの小項目のうち、9項目がトップ10位内にある。なお、「社会マネジメント」は第21位であった。「社会」の成績は、全体的に極めて高く、バランスも良い。 

 「経済」大項目は第7位であり、前年度より1つ順位を上げた。3つの中項目の中で「発展活力」は第6位、「経済品質」「都市影響」は第7位であり、3項目ともトップ10入りを果たした。小項目では、「経済構造」は第4位、「イノベーション・起業」は第5位、「広域輻射力」は第6位、「ビジネス環境」は第7位、「経済規模」は第8位、「開放度」は第9位、「広域中枢機能」は第10位と、9つの小項目のうち、7項目がトップ10入りを果たした。なお、「都市圏」は第12位、「経済効率」は第16位であった。「経済」の成績は、各項目ともに全体的に極めて高い結果となった。

 「環境」大項目は第12位となり、前年度より順位を上げる結果となった。3つの中項目の中で「空間構造」は第11位と良好であるが、「環境品質」は第43位、「自然生態」は第66位であった。小項目では、「都市インフラ」は第6位、「交通ネットワーク」は第8位と、9つの小項目のうち、トップ10入りを果たしたのは2項目のみであった。トップ10以下は、「資源効率」は第11位、「環境努力」は第13位、「コンパクトシティ」は第22位、「気候条件」は第71位、「水土賦存」は第92位であった。また、第87位の「自然災害」、第180位の「汚染負荷」は、いずれも全国平均を下回った。

 杭州は、社会や経済と比較すると環境の成績は少し劣るものの、三者のバランスは相対的によく取れている。


長江デルタメガロポリスの中核を担う「地上の楽園」


浙江省の北部に位置する杭州は同省の省都であり、西安、洛陽、南京、北京、開封、安陽、鄭州と並ぶ「中国八大古都」の1つである。「地上の楽園」と称賛されるほど美しい風景が広がり、古くから繁栄している。世界遺産の西湖や京杭大運河をはじめとする有名な観光地が点在し、国内外から多くの観光客を惹きつける観光都市である。中国都市総合発展指標2022の「国内旅行客数」項目では中国第26位、「国内旅行収入」は第16位であった。杭州は長江デルタメガロポリスの主要都市として、GDPは2015年に1兆元の大台を突破し、いわゆる「1兆元クラブ」都市に仲間入りした。2022年に同市のGDPは18,753億元(約37.5兆円、1元=20円換算)に達し、中国では第9位となった。

アリババグループのホームタウン


 中国は現在、世界で最も「キャッシュレス生活」が進んでいると言われ、その牽引役は「Alipay(支付宝)」と「WeChat Pay(微信支付)」の二大サービスである。「Alipay」は、杭州に本拠地を置くアリババグループ(阿里巴巴集団)が提供するオンライン決済サービスである。

 世界最大規模の電子取引で知られるアリババグループは、1999年の設立当時から杭州市内に本社を置き、同市の経済発展を牽引している。

 毎年11月11日に同社が開催するEC販促イベント「独身の日(双十一)」の売上は、1日で約1.1兆元(約22.2兆円)にも上る。同社は、杭州を拠点に世界中の企業や消費者にITサービスを提供し、同市を一大イノベーションシティへと押し上げた。

 アリババは地元のITインフラにも力を入れており、杭州でスマートシティプロジェクト「ETシティブレイン(城市大脳)計画」を推進する。これにより、都市の交通、公共サービス、環境保護などの分野でデジタル技術を活用し、市民の生活の質を向上させている。

メガシティへと成長


 都市経済の成長は全国から多くの若者を惹きつけている。杭州の常住人口は、2019年に1,000万人台に達し、メガシティへの仲間入りを果たした。同市の常住人口は2022年、1,220万人に達し、中国第12位となった。なお、中国には現在、メガシティが17都市存在している(詳しくは、【ランキング】メガシティの時代:中国都市総合発展指標2021ランキング」『中心都市がメガロポリスの発展を牽引:「中国都市総合発展指標2022」を参照。)。

 2019〜2022年の4年間の常住人口の純増は、それぞれ55.4万人、157.6万人、26.8万人、17.2万人と急成長している。また、「流動人口(非戸籍常住人口)」も中国第10位の385.9万人に達した。

 こうした杭州の人口増には、北京、上海が人口抑制政策を取るのに対して、杭州市が人材獲得に積極的である背景がある。

 また、中国都市総合発展指標2022によると、トップクラス人材の集積を表す「傑出人物輩出指数」「中国科学院・中国工程院院士指数」は中国第6位となり、人材の量も質も兼ね備えている。膨大な人口と高度人材の集積が進む杭州は、今後どのような発展を遂げてくのか、国内外の注目を集めている。


スタートアップ都市


 アリババグループホームタウンの効果で、杭州には企業の本社機能が集積している。中国都市総合発展指標2022によると、本社機能を示す「メインボード上場企業」で杭州は広州を抜いて第4位である。同じく、「フォーチュントップ500中国企業」も前年度に引き続き中国第4位を獲得、とりわけ、中国を代表する民営大企業の集積を示す「中国民営企業トップ500」においては前年度同様、全国トップを堅守した。

 背景にあるのは、スタートアップの活力である。中国のスタートアップ都市といえば、北京、上海、深圳というイメージが強い。しかし、杭州の活気はそれらの都市に劣らない。

 ユニコーン企業の集積を示す「ユニコーン企業指数」で杭州は、北京、上海、深圳に続いて広州と同順位の中国第4位という好成績を収めている。ここで、ユニコーン企業とは、評価額10億米ドルを超える未上場企業のことである。2023年、ユニコーン企業は北京に最も多く79社が所在し、第2位の上海には66社、第3位の深圳には33社、第4位の杭州および広州には22社ある。なお、企業価値では第1位の北京に続き、杭州は中国第2位となっている。

 杭州のスタートアップ熱には、アリババの存在が大きい。世界最大級のユニコーン企業「アント・フィナンシャル」を筆頭に、杭州にはアリババが出資する数々のベンチャーが、一大IT経済圏を形成している。その結果、2022年の「メインボード上場企業」で、杭州のIT企業数は中国第4位と高い成績を誇っている(詳しくは【ランキング】中国IT産業スーパーシティはどこか?を参照)。

幸福感溢れる「茶の都」


 杭州は「茶の都」としても名高い。西湖周辺の龍井村を産地とする最高級緑茶「龍井茶」は古くから中国十大銘茶の一つに数えられている。清の乾隆帝が西湖で龍井茶を賞味し、その味を絶賛したエピソードが有名である。毛沢東も周恩来も龍井茶を愛飲し、外国の賓客へのプレゼントにしばしば選んだことで、世界に名を広げた。

 杭州のお茶がおいしい理由の一つは、同地の「水」にある。杭州には西湖に代表されるように水源が豊かで、泉も多い。地元の「虎跑」泉などの名水で入れた龍井茶が贅沢の極みとされている。中国都市総合発展指標2022によると、杭州の年間降水量は約1,500ミリで、「降雨量」は中国第40位である。また、年間平均気温は16℃、茶樹の成長には適した気候である。茶葉が芽を出し続け、摘み取り時期も長く、摘み取り頻度が高いとされる。中でも、春の「清明節」(春分の日から15日後にあたる祝日)の直前に摘む一番茶が最高級で、時の皇帝への献上品とされていた。

 杭州は古くは南宋の都として栄え、江南の美と贅沢を育んだ。国内有数の美術大学の1つ「中国美術学院」がある。美食都市としても名高い。中国都市総合発展指標2022によると、杭州は、「社会」大項目のうち、「世界遺産」は第2位、「海外高級ブランド指数」は第4位、「無形文化財」「海外飲食チェーンブランド指数」「1万人当たり社会消費財小売消費額」は第5位と好成績を誇る(詳しくは【ランキング】誰がラグジュアリーブランドを消費しているのか?を参照)。「経済」大項目においても、「トップクラスレストラン指数」が第6位となっている。

 中国国家統計局と中国中央電視台(CCTV)は毎年、全国から「中国幸福感都市」を10都市選んでいる。杭州はその中で選出累積回数が最多で、中国の「幸福感」ナンバー1都市である。

2023年・第19回杭州アジア競技大会が開催


 アジアのスポーツの祭典「アジア競技大会(アジア大会)」が、2023年9〜10月に杭州で開催された。当初、当大会は2022年に開催される予定であったが、新型コロナウイルスパンデミックの影響で、開催予定が引き伸ばされた。中国では1990年の北京、2010年の広州に次いで3度目の開催となる。

 杭州では2017年から大会組織委員会が本格的に稼働しはじめ、「グリーン・スマート・節約・マナー」の開催理念のもと、インフラ整備をはじめ、大会準備が着々と進行している。

 中国都市総合発展指標2022によると、「スタジアム指数」は中国で第21位、「文化・スポーツ・娯楽輻射力」は第6位となっている。杭州はアジア大会を契機にスポーツ都市としての飛躍を目指している。

 2018年のアジア大会で話題となった競技は多数あったが、特に注目されたのは「eスポーツ」であった。eスポーツとはオンラインゲームの総称であり、格闘ゲーム、シューティング、戦略ゲーム、スポーツゲームなど、ジャンルは多種多様である。2018年大会ではあくまで公開競技としてのみの採用だったが、2023年の杭州大会では、eスポーツの公式種目化が実現し、大会の一つの目玉となっている。アリババホームタウンの杭州で、eスポーツの新たな歴史の幕が開ける。

G20杭州サミットと進むコンベンション産業


 2016年9月、20カ国・地域(G20)首脳会議「G20杭州サミット」が杭州で開催された。2日間にわたり、「革新、活力、連動、包摂の世界経済構築」をテーマに、多岐にわたった議論が各国の参加者の間で交わされた。

 コンベンション産業の経済波及効果は大きく、現在では世界各国がその産業育成に力を入れている。中国政府も、同国を国際コンベンション大国にまで成長させる目標を掲げている。「G20杭州サミット」の開催はその最たる動きである。

 国際見本市連盟(UFI)のレポート『UFI World Map Of Exhibition Venues 2022 Edition』によると、中国の施設屋内展示面積はすでに米国を抜いて世界第1位になった。施設屋内展示面積(2022年末)において、中国は213施設で約1,022万平方メートルとなり世界シェアは25.2%である。アメリカは305施設で約694万平方メートルとなり世界シェア17.1%となっている。中国の面積規模はアメリカの約1.5倍となっている。上位5カ国(中国、米国、ドイツ、イタリア、フランス)が、世界の屋内展示場面積の60%以上を占める。なお、日本は、13施設で約45万平方メートルと世界ランキングで第16位で、中国と日本の規模は約22.7倍の差が開いている。一方、中国のコンベンション産業の発展には会場施設の過剰、低稼働率などの問題も指摘されている。

 中国都市総合発展指標2022によると、杭州の「展示会業発展指数」は中国第6位、「国際学術会議」は第11位となっている。

 杭州市政府は、「第19回アジア競技大会」開催を契機に、観光、レジャー、コンベンションをツーリズム産業発展の三大エンジンとする政策を打ち出し、コンベンション都市としての発展を目指している。


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