【鄭州】iPhone生産とEV産業クラスターとしての中原メガシティ【中国都市総合発展指標】第19位

中国都市総合発展指標2022
第19位



 鄭州は中国都市総合発展指標2022総合ランキング第19位であり、前年度の順位を維持した。

 「社会」大項目は第15位で、前年度に比べ順位が1つ下がった。3つの中項目で「ステータス・ガバナンス」は第12位、「伝承・交流」は第15位、「生活品質」は第19位だった。小項目で見ると、「人口資質」は第8位、「歴史遺産」は第10位と2項目がトップ10に入った。また、「生活サービス」は第15位、「消費水準」は第17位「文化娯楽」は第19位と3項目がトップ20に入った。なお、「都市地位」「人的交流」は第21位、「居住環境」は第30位、「社会マネジメント」は第32位であった。

 「経済」大項目は第18位で、前年度に比べ順位が1つ下がった。3つの中項目で「都市影響」は第15位、「経済品質」は第17位、「発展活力」は第19位で、3中項目のうちトップ10入りした項目はなかった。9つの小項目のうち、トップ10入りした項目はなかったものの、「経済規模」「開放度」「広域中枢機能」「広域輻射力」は第13位、「イノベーション・起業」は第19位と、6項目がトップ20に入った。また、「都市圏」は第21位、「経済構造」は第23位と2項目もトップ30に入った。なお、「ビジネス環境」は第33位、「経済効率」は第71位だった。

 「環境」大項目は第102位であった。3つの中項目のうち「空間構造」は第27位、「環境品質」は第175位、「自然生態」は第218位であった。9つの小項目のうち、「環境努力」は第10位と、1項目がトップ10に入った。「都市インフラ」は第16位と、1項目がトップ20に入った。なお、「交通ネットワーク」は第28位、「コンパクトシティ」は第29位、「自然災害」は第112位、「資源効率」は第118位、「気候条件」は第184位、「水土賦存」は第210位、「汚染負荷」は第277位であった。


中原の中核都市


 鄭州は河南省の省都であり、中原メガロポリスの中核都市である(中原メガロポリスについて詳しくは中心都市がメガロポリスの発展を牽引:中国都市総合発展指標2022を参照)。鄭州は河南省の中北部に位置し、北に黄河、西に嵩山がある。東は開封、南は許昌と平頂山、西は洛陽、北は新郷と焦作の各市と接している。市の総面積は7,567平方キロメートル(熊本県と同程度)で、中国人口規模第11位の都市として約1,283万人を抱える。現在、6区5市1県を管轄し、国家級新区1つ、国家級開発区2つ、国家級輸出加工区1つを有している。

 同市は温帯大陸性季節風気候に属し、四季がはっきりしている。年間平均気温は約15.4℃、年間降水量は約630mmである​​​​。市内には大小124の河川があり、多様な自然地形を有している。

■ 由緒ある文明交流の地


 鄭州は中国古代文明・華夏文明の発祥の地として、古来より文明交流の十字路とされてきた。

 夏、商、管、鄭、韓の各王朝が鄭州に都を置き、隋、唐、五代、宋、金、元、明、清の各王朝が州を設置してきた。鄭州の中心市街地には、3,600年前の商朝の城壁遺跡(鄭州商城)全長7キロメートルが今も残る。市内には、世界文化遺産が2項目15カ所あり(中国第5位)、国家重点文化遺産保護施設87カ所(中国第3位)、省レベル文化遺産保護施設97カ所、市レベル文化遺産保護施設208カ所、国家レベル無形文化遺産6カ所を有している。他にも、裴李崗文化遺跡(約8,000年前)、大河村遺跡(約5,000年前)、打虎亭漢墓、黄帝故里など、多くの古代文化遺跡が散在している。少林寺のある嵩山を始め、黄河文化公園などの自然文化景観も多くの観光客を引き付けている。鄭州の「国内観光客数」は中国第21位である。

 豊かな中原文化は、古代において子産、列子、韓非、杜甫など傑出した人物を輩出している。同市は現在なお「傑出文化人指数」で中国第7位と好成績を誇っている。

■ 鉄道が産んだ大都市


 鄭州駅は1904年に設立され、当初はプラットフォーム1つ、平屋2軒、線路4本しかなかった。1953年に鄭州駅が拡張され、鉄道のハブとなった。鉄道の利便性により1954年に河南省の省都が開封から鄭州へ移転された。これが、鄭州が「鉄道が産んだ都市」と言われる由縁である。

 鄭州は、東西南北交通の要衝として、航空・鉄道・道路からなる巨大な交通ハブとなっている。鄭州駅は中国鉄道の最大級の旅客中継駅で「中国鉄道の心臓」と呼ばれている。同市の「空港利便性」と「航空輸送」は共に全国第13位であり、「鉄道利便性」に至っては全国第1位を誇っている。(詳しくは【ランキング】中国で最も空港利便性が高い都市はどこか?を参照)。

 鄭州は一帯一路の重要な結節点都市でもある。2013年に鄭州は中部地区で初めてヨーロッパへ直通する貨物列車―中欧列車を開通させた。過去10年間でユーラシア40カ国の140以上の都市を繋げた中欧列車(中豫号)が、累計750万トンの貨物を輸送した。

■ ギリシャ一国に匹敵する経済規模


 鄭州は中原地区の経済中心地として、2022年のGDPは1兆2,935億元(約25.9兆円、1元=20円換算)に達し、中国第16位の経済規模を誇る。これは世界第54位のイラクのGDPを超え、世界第53位のギリシャのGDPに匹敵する規模である(詳しくは「【ランキング】世界で最も経済リカバリーの早い国はどこか? 中国で最も経済成長の早い都市はどこか?を参照)。

 金融・医療センターとしての機能も高く、鄭州の「金融輻射力」は中国第7位、「医療輻射力」は中国第9位となっている。鄭州には、中国初の先物取引所と、中国初の空港経済区がある​。

 鄭州は中国の主要な研究都市として、「科学技術輻射力」は中国第19位である。複数の国家重点大学が存在し、「高等教育輻射力」は中国第15位と高水準である。「大学学生数」と「高等教育教師数」はいずれも中国第3位である(詳しくは【ランキング】科学技術大国中国の研究開発拠点都市はどこか?)。

 中心都市としての鄭州は、外部から人々を吸引し成長している。人口の流出入を示す「流動人口(非戸籍常住人口)」では、河南省内17都市のうち16都市は、外へ人口が流出し、その規模は約2,012万人に達している。中でも、周口、信陽、駐馬店の3都市は、中国で最も人口が流出するトップ3都市であり、同3都市だけで約938万人が外部に流出している。これに対して鄭州は、流動人口が約363万人のプラスである。よって鄭州は中国第11位の人口流入都市となっている。

■ iPhone生産とEV産業クラスターの一大拠点


 鄭州は、世界最大のApple製品の生産基地として名高い。最近、EV生産にも力を入れている。

 鄭州はBYDの中高級車種の重要な生産基地であり、2023年11月、BYDの第600万台目のEVが鄭州で生産された(詳しくは【ランキング】自動車大国中国の生産拠点都市はどこか?を参照)。

 内陸都市でありながら、鄭州の「製造業輻射力」は中国第20位で高い(詳しくは【ランキング】中国で最も輸出力の高い都市はどこか?を参照)​。

■ エンタメ都市としての台頭


 鄭州のコンテンツ産業も盛んである。2021年、河南衛星テレビの春晩(旧正月を祝う中国の国民的年越し番組)には、ダンス番組「唐宮夜宴」が全国を席巻した。その後、同テレビ局の「端午の不思議な旅」や、水中ダンス番組「祈」も大ヒットした。

 「唐宮夜宴」は、河南博物院が所蔵する唐代の舞楽佣から着想を得たことで、河南博物院も注目を集め、多くの観光客が訪れている。

 エンタメ都市としても名を上げつつある鄭州は、「文化・スポーツ・娯楽輻射力」で中国第15位であり、「映画館・劇場消費指数」は中国第14位である(詳しくは【ランキング】世界で最も稼ぐ映画大国はどこか?を参照)。

■ 黒川紀章設計の市街地が魅力


 鄭州東部に建設中の150万人都市「鄭東新区」の設計には、日本を代表する建築家・黒川紀章氏の案が採用されている。「鄭東新区」の設計案は2003年に実施された国際設計コンペによって決定されたもので、黒川氏は計画面積1.5万ヘクタールのマスタープランとCBD地区の詳細設計を担当した。生態回廊や水路都市などの人間と自然との共生といった基本コンセプトが、同市の新市街地の魅力を形作っている。


【福州】華僑を輩出した歴史港湾都市【中国都市総合発展指標】第18位

中国都市総合発展指標2022
第18位




 福州は中国都市総合発展指標2022総合ランキング第18位であり、前年度の順位を維持した。

 「環境」大項目は第11位で、前年度より順位を7つ上げた。3つの中項目のうち「環境品質」「空間構造」は第18位、「自然生態」は第48位であった。9つの小項目のうち、トップ10入りした項目はなかったものの、「資源効率」は第12位、「コンパクトシティ」は第17位、「都市インフラ」は第21位、「交通ネットワーク」は第25位と、4項目がトップ30に入った。なお、「汚染負荷」は第43位、「気候条件」は第44位、「環境努力」は第124位、「水土賦存」は第180位、「自然災害」は第221位であった。

 「社会」大項目は第22位で、40前年度より順位を3つ下げた。3つの中項目のうち「ステータス・ガバナンス」は第19位、「生活品質」は第23位「伝承・交流」は第26位だった。3項目のうちトップ10入りした項目はなかったものの、すべてトップ30入りした。小項目で見ると、トップ10入りした項目はなかったものの、「消費水準」は第19位、「居住環境」は第22位、「都市地位」は第23位、「人口資質」は第26位、「文化娯楽」は第28位と、5項目がトップ40入りした。なお、「人的交流」は第31位、「社会マネジメント」は第39位、「生活サービス」は第43位、「歴史遺産」は第115位であった。

 「経済」大項目は第23位で、前年度の順位を維持した。3つの中項目で「経済品質」は第19位、「発展活力」は第24位、「都市影響」は第27位であった。3項目のうちトップ10入りした項目はなかったものの、すべてトップ30入りした。小項目で見ると、トップ10入りした項目はなかったものの、「経済構造」「都市圏」は第18位、「ビジネス環境」は第21位、「経済規模」は第22位、「経済効率」は第23位、「イノベーション・起業」は第24位、「広域中枢機能」は第26位と、9つの小項目のうち7項目がトップ30に入った。なお、「開放度」「広域輻射力」は第31位であった。

■ 貿易で栄えてきた古都


 福州市は、福建省の省都は中国東南地域沿岸部に位置し、長江デルタメガロポリスと珠江デルタメガロポリスの中間地点に位置する。2020年末には、6市区、6県、1県級市を管轄し、総面積11,968平方キロメートル(秋田県と同程度)、常住人口は845万人を抱えている。

 福州が位置する地域は、典型的な河口盆地で、周囲を山や丘陵に囲まれ、そのほとんどが標高600〜1000mの高地である。地形は多様性に富み、西部と北部は山地が優勢である一方、東部には平野が展開している。福州の気候は亜熱帯モンスーン気候に分類され、冬は短く夏は長い。温暖湿潤で、年間平均降水量は900〜2100mm、年間平均気温は16〜20℃を記録する。最も寒い月の1〜2月でも、最低気温は9度前後と暖かい。中国都市総合発展指標2022によれば、「気候快適度」は中国第46位である。

 河川である閩江が市内を流れ、その河口デルタに市街地が発達している。海岸線は約1,137キロメートルに及び、多数の島嶼が点在している。周辺には寧徳市、三明市、南平市などが隣接しており、地域間の連携がみられる。

■ 福州市の古代から現代への歩み


 福州の歴史は古く、その起源は紀元前202年にまで遡る。秦・漢の時代、この地域は初めて「冶」と名付けられた。その後、市域内に位置する福山にちなんで「福州」と改称された。この改称は、地理的特徴と地域のアイデンティティを反映したものだった。

 福州は、長い歴史を通じて福建省の中心地としての地位を確立してきた。その影響力は社会、経済、文化、政治など多岐にわたる分野に及んでいる。社会面では、多様な文化の交差点として独特の構造を発展させ、海上交易の拠点としての役割も地域の社会形成に大きな影響を与えた。経済的には、古くから商業の中心地として栄え、特に宋代以降は海外貿易の重要な港として発展した。茶葉や陶磁器の輸出で知られ、「海のシルクロード」の重要な拠点となったことは特筆に値する。

 文化面では、福州は文人や芸術家を多く輩出し、独自の文化を育んできた。福州方言、閩劇(地方劇)、福州彫刻など、地域特有の文化遺産を生み出し、これらは今日まで受け継がれている。中国都市総合発展指標2022によれば、「無形文化遺産」は中国第24位である。政治的には、歴代王朝下で重要な行政中心地として機能し、特に明代には「福建布政使司」が置かれ、省全体の政治の中枢となった。

 近代以降も福州は重要性を保ち続け、1949年の中華人民共和国成立後は福建省の省都として、政治・経済の中心地としての役割を果たしている。2000年代に入ってからは、「海峡西岸経済区」の中核都市として、さらなる発展を遂げている。この地域の経済成長と国際化に重要な役割を果たしており、中国南東部の重要な都市としての地位を確立している。

 このように、福州市は2000年以上の歴史を通じて、常に福建省の中心として機能し、その影響力は現代にまで及んでいる。古代から現代に至るまでの連続性と変化が、今日の福州市の多面的な特徴を形作っている。伝統と革新が共存するこの都市は、中国の歴史と現代化の縮図とも言える存在として、今後も注目され続けるだろう

 2022年には、福州市のGDPは1兆元2,038億元(約24.1兆円、1元=20円換算)で、中国の都市では18位であった(詳しくは【ランキング】世界で最も経済リカバリーの早い国はどこか? 中国で最も経済成長の早い都市はどこか?を参照)。

■ 中国の重要港湾都市としての発展


 福州は、その地理的優位性を活かし、古代から現代に至るまで中国の重要な港湾都市として発展を遂げてきた。古くは遣唐使の時代から、日本や東南アジアとの海上交通の要所として機能し、シルクロードの海上ルートにおける重要な中継地点としての役割を果たしてきた。この歴史的背景は、福州市の国際的な性格と開放性の礎となっている。

 特筆すべきは、福州の馬尾港が中国近代海軍発祥の地の一つとして名高いことである。19世紀後半、清朝政府が近代化政策の一環として福州船政局を設立し、西洋式軍艦の建造や海軍人材の育成を行ったことは、中国海軍史上極めて重要な出来事であった。この歴史的遺産は、現在も福州の誇りとなっている。

 福州の国際的重要性は、近代以降さらに高まった。1842年の南京条約により、広州、厦門、福州、寧波、上海の5港が開港され、福州はこの中の一つとして選ばれた。これにより、福州は西洋列強との直接的な貿易が可能となり、国際的な商業港としての地位を確立した。この開港は、福州市の経済発展と国際化に大きな影響を与え、現代に至るまでその影響が続いている。

 1978年の改革開放政策の実施後、福州は中国政府によって海外に開放された最初の14都市の一つに選定された。この決定は、福州の歴史的な国際性と地理的優位性が評価された結果であり、同市の更なる発展と国際化への道を開いた。以来、福州は外資誘致や国際貿易の拡大に積極的に取り組み、中国南東部の重要な経済拠点としての地位を確立している。

 福州の港湾としての重要性は、現代の統計データにも明確に表れている。中国都市総合発展指標2022によると、「コンテナ港利便性」では中国20位、「コンテナ取扱量」では全国18位と、中国国内でも上位に位置している(詳しくは【ランキング】世界で最も港湾コンテナ取扱量が多い都市はどこか?)を参照)。

 さらに、福州市の国際的な地位を示す指標として、2022年における世界のコンテナ取扱量ランキングが挙げられる。福州港は世界第63位にランクインしており、これはロンドン港の64位を上回る成績である。この数字は、福州市が単に中国国内の重要港湾であるだけでなく、世界的な規模で見ても無視できない存在であることを示している。

■ 福州の多様な産業と独自の発展モデル


 福州の地域経済は、水産業、紡績産業、機械産業、電子情報産業、不動産・建材産業、観光産業という6つの主要産業を中心に構成されている。これらの産業は、福州の地理的特性と歴史的背景を反映しており、相互に補完しあいながら市の経済発展を支えている。

 水産業は豊かな海洋資源を活用し、紡績産業は伝統的な技術と現代的な需要を融合させている。機械産業、特に造船業は福州の工業化の象徴となっており、電子情報産業は新たな成長のエンジンとして急速に発展している。不動産・建材産業は都市化の進展と共に成長を続け、観光産業は豊かな歴史的遺産と自然景観を活かして発展している。

 福州経済の特筆すべき特徴は、海外移民との強いつながりを活かした独自の発展モデルにある。海外在住の福州出身者からの送金が重要な資金源となっており、これらは家族の生活支援だけでなく、地元での投資にも向けられている。特に中小企業の発展に大きな役割を果たしており、地域経済の活性化に貢献している。

 さらに、この海外とのつながりは民間金融の発展にも寄与している。伝統的な互助金融システムや現代的な小規模金融機関の発展により、中小企業や起業家が必要な資金を調達しやすい環境が整っている。このような独自の経済構造は、福州に経済の柔軟性と強靭性をもたらしている。

 海外ネットワークを通じた資金流入や情報交換は、福州の国際化や文化的多様性の促進にも貢献している。新しいアイデアや技術、ビジネスモデルが地元経済に刺激を与え、イノベーションを促進している点も、福州経済の特徴と言える。その結果として、福州の「IT産業輻射力」は中国第13位に躍進している(詳しくは【ランキング】中国IT産業スーパーシティはどこか?を参照)。

■ 華僑の都市としての国際的地位


 福州は、300万人以上の華僑を輩出した中国を代表する華僑の故郷として知られている。この特徴は、現代の福州市の国際的な位置づけと経済構造に大きな影響を与えている。

 中国都市総合発展指標2022の結果は、福州の独特な国際性を明確に示している。「交流」中項目で全国第31位という順位は注目に値するが、より興味深いのは個別指標における対照的な結果である。

 「国内旅行客数」が中国32位、「国内観光収入」が中国42位である一方で、「海外旅行客」は中国第11位、「国際観光収入」は中国14位という好成績を収めている。これらの数字は、福州市が国内よりも国際的な訪問者、特に華僑やその子孫たちにとって重要な目的地となっていることを示している。

 この統計は、福州の経済が国内市場よりも国際市場、特に華僑ネットワークとより強く結びついていることを表している。海外在住の華僑による故郷訪問、ビジネス目的の渡航、投資活動などが、福州市の国際的な地位を高めている。

 さらに、このつながりは観光にとどまらず、ビジネスや投資、文化交流など、より広範な分野での国際的な活動の基盤となっている。華僑ネットワークを通じた情報交換、技術移転、資金流入が、福州市の経済発展と国際化を加速させている。

 この「華僑の都市」としての特性は、福州市に独自の強みをもたらしている。グローバル経済においてネットワークの重要性が増す中、福州市は既存の華僑ネットワークを活用し、国際的な競争力を維持・強化している。

 今後、福州市はこの強みをさらに活かし、国際的なビジネスハブとしての地位を強化しつつ、国内経済とのバランスを取りながら、より総合的な発展を目指すことが課題となるだろう。


【青島】中国北方で第3位の経済規模を誇る国際交易拠点【中国都市総合発展指標】第16位

中国都市総合発展指標2022
第16位




 青島は中国都市総合発展指標2022総合ランキング第16位であり、前年度の順位を維持した。

 「経済」大項目は第13位で、前年度の順位を維持した。3つの中項目で「都市影響」は第11位、「経済品質」「発展活力」は第14位で、この3項目のうちトップ10入りした項目はなかったものの、すべてトップ20入りした。小項目では、「広域中枢機能」は第6位と、9つの小項目のうち1項目がトップ10に入った。なお、「開放度」は第12位、「ビジネス環境」「イノベーション・起業」は第13位、「経済規模」「広域輻射力」は第14位、「経済構造」は第15位、「都市圏」は第28位、「経済効率」は第40位であった。

 「社会」大項目は第17位で、前年度の順位を維持した。3つの中項目のうち「伝承・交流」は第17位、「ステータス・ガバナンス」は第18位、「生活品質」は第20位だった。小項目で見ると、トップ10入りした項目はなかったものの、「社会マネジメント」は第11位、「文化娯楽」は第16位、「人的交流」「居住環境」は第18位と、4項目がトップ20入りした。なお、「生活サービス」は第23位、「消費水準」は第24位、「人口資質」は第29位、「都市地位」は第35位、「歴史遺産」は第115位であった。

 「環境」大項目は第55位で、3つの中項目のうち「空間構造」は第30位、「環境品質」は第88位、「自然生態」は第191位であった。9つの小項目のうち、トップ10入りした項目はなかったものの、「都市インフラ」は第11位、「環境努力」は第12位、「交通ネットワーク」は第24位と、3項目がトップ30に入った。なお、「コンパクトシティ」は第43位、「資源効率」は第89位、「水土賦存」は第134位、「汚染負荷」は第139位、「気候条件」は第178位、「自然災害」は第205位であった。

■ 山東半島の国際港湾都市


 青島は、山東省に属する計画単列市で、中国の主要な港湾の一つであり、国際的な海運業の中心地である。

 同市は、山東半島の南東、黄海の東に位置し、総面積は11,293平方キロメートル(秋田県と同等)で中国第163位、7つの区と3つの県級市を管轄している。

 青島は、海岸沿いの丘陵都市であり、全長816.98キロメートルに及ぶ海岸線は優美な曲線を描き、大小さまざまな島が点在している。市の地形は東部が低く、西部が高い傾向にある。南北の両端は盛り上がっており、中央部は凹んでいる。全体として、山地が総面積の15.5%を占め、丘陵が2.1%、平野が37.7%、低地が21.7%を占める。

■ 避暑地として人気の青島


 青島は温帯夏雨気候に属し、海洋の影響を強く受け、四季がはっきりと分かれている。夏季は湿度が高く降雨が多いが、厳しい暑さはない。そのため、避暑地としても人気がある。春と秋は短く、冬季は風が強く寒さは厳しいが、降雪は年10日程度と少ない。冬季の影響により、「気候快適度」は中国第187位となっている。「降雨量」は中国第186位である。

 風光明媚な景観により、観光・保養地としても名高い。「青島」の名は、市内に豊富に存在する常緑樹の景色にちなんで付けられた。

■ 租界の歴史


 青島は、屈指の歴史文化都市であり、道教の発祥地とされている。

 青島の膠州湾は唐宋時代以降、北方の重要な港となった。青島が最初に租借地となったのは1897年であり、当時、ドイツが青島とその周辺地域を占領した。翌1898年、ドイツと清朝との間で「膠澳租界条約」が締結され、青島はドイツの租借地となり、これが青島租界の始まりとなった。

 ドイツは青島を東洋における重要な軍事基地かつ商業中心地と位置づけ、都市開発を積極的に行った。また、ドイツの文化や技術が導入され、それが現在の青島の建築様式や世界的に知られる「青島ビール」などに影響を与えている。ドイツ占領時代の建物の多くは今も保存され、青島の風景の一部を形成している。その街並みの優美さから当時は「東洋のベルリン」と称されていた。

 第一次世界大戦勃発後、1914年に日本がドイツに宣戦布告し、青島は日本によって占領された。第二次世界大戦後、青島は1945年に中国に返還された。新中国成立後、青島は中国の重要な工業都市と港湾都市として発展し、今日の姿に至っている。

■ 中国北方の製造業スーパーシティ


 青島は中国北方の重要な経済中心地の一つである。2022年青島の地域内総生産(GDP)は1兆4,921億元(約29.8兆円、1元=20円換算)に達し、中国第13位であった。中国北方では北京、天津に次ぐ第3位の経済規模を誇る。一人当たりGDPは14万4,272元(約289万円)で、中国第22位だった(詳しくは【ランキング】世界で最も経済リカバリーの早い国はどこか? 中国で最も経済成長の早い都市はどこか?を参照)。

 青島は製造業基地として存在感が大きく、「製造業輻射力」は中国第12位である。山東省内第2位の煙台は中国第25位に留まっているため、省内で圧倒的な順位を誇っている。特に家電産業では、ハイアール等、中国有数の企業が青島市に拠点を置いている(詳しくは【ランキング】中国で最も輸出力の高い都市はどこか?を参照)。

■ 渤海湾の巨大貿易地


 青島は港湾都市としての存在が大きい。世界130カ国以上の地域と450以上の港との間で貿易が行われており、コンテナ取扱量は世界第5位に名を連ねている。「コンテナ港利便性」も中国第4位である(詳しくは【ランキング】世界で最も港湾コンテナ取扱量が多い都市はどこか?)を参照)。

 2022年における青島の輸出入総額は前年比7.4%増の9,117億元(約18.2兆円)で、中国第10位であった。うち輸出総額は前年比9.0%増の5,361億元(約10.7兆円)で、中国第10位。輸入総額は前年比5.1%増の3,756億元(約7.5兆円)で、中国第10位であった。輸出入ともに、青島は山東省内トップの規模を誇る。

 また、青島は日本とのビジネス関係が深く、対日輸出額は中国第2位であり、対日輸入額は中国第3位である。特に、野菜・水産物等の食品関連の対日輸出が大きなウエイトを占めている。

■ 国際的な総合交通ハブ


 青島は港湾だけでなく、空港、高速鉄道、高速道路を軸とした総合交通運送システムの構築も進めている。

 2021年8月12日には、39年間青島市民を支えてきた青島流亭空港が閉鎖され、山東省初の4F級空港である青島膠東国際空港が開業した。〈中国都市総合発展指標〉の「空港利便性」項目で青島は中国第16位、航空旅客数も同第17位である。いずれも山東省内では第1位である(詳しくは【ランキング】中国で最も空港利便性が高い都市はどこか?を参照)。

 鉄道では、〈中国都市総合発展指標〉の「鉄道利便性」は中国第22位、「高速鉄道便数」も第20位で、「準高速鉄道便数」は第19位であった。これらいずれの指標も山東省内第1位である。

■ 山東省の最大人口吸収都市


 2022年末の常住人口は約1,034万人で中国第17位、山東省内では第1位であった。人口の流出入を示す「流動人口(非戸籍常住人口)」では、山東省内16都市のうち9都市は、外へ人口が流出している。これに対して青島は、流動人口が約180万人の大幅プラスであり、周辺から多くの人口を吸い上げている。よって青島は中国第24位、省内第1位の人口流入都市となっている。

■ 一大観光都市


 青島はその美しい海岸線と歴史的な建築物で知られ、多くの観光客を引きつけている。主な観光地には、青島海洋世界、青島動物園、青島科学技術博物館、青島ビール博物館、八大峡公園などがある。特に海外からの観光客が多く、〈中国都市総合発展指標〉の「海外観光客」で、青島は第10位と、第15位の済南を上回り、山東省内で最も高い順位である。

■ ヨットと映画ロケの聖地


 青島は豊かな文化遺産と活気あるエンタメを持つ都市である。〈中国都市総合発展指標〉の「文化・スポーツ・娯楽輻射力」は中国第18位である。市内には、青島大劇院、青島市図書館、青島市美術館など、多くの文化施設を有する。「博物館・美術館」は中国第15位、「動物園・植物園・水族館」は中国第19位、「公共図書館蔵書数」は中国第29位である。

 また、青島は映画の都としても知られ、映画ロケ地を多く持ち、映画祭や音楽祭も多数開催されている。その影響もあり、青島の〈中国都市総合発展指標〉における「映画館・劇場消費指数」は中国第20位であり、山東省内で最も順位が高い(詳しくは【ランキング】世界で最も稼ぐ映画大国はどこか?を参照)。

 スポーツにおいても、青島は多くのスポーツイベントを開催している。青島は2008年の北京オリンピックのヨット競技の会場となり、その後も多くの国際的なヨット大会が開催されており、いまや中国におけるヨットの聖地となっている。また、青島はプロサッカーチーム、青島中能の本拠地でもある。〈中国都市総合発展指標〉の「スタジアム指数」は中国第8位と、トップの規模を誇る。

■ 科学技術・本社機能・高等教育


 青島は近年では科学技術の発展にも注力している。〈中国都市総合発展指標〉の「科学技術輻射力」で同市は中国第18位と、省内トップの実力を有する。「特許取得数指数」は中国第10位と全国トップ10に入る成績を誇り、「R&D要員」は第14位、「R&D支出指数」は第19位に躍進している(詳しくは【ランキング】科学技術大国中国の研究開発拠点都市はどこか?)。ただし、「中国都市IT輻射力」は第27位と、第14位の済南に水をあけられており、今後の発展が望まれている(詳しくは【ランキング】中国IT産業スーパーシティはどこか?を参照)。

 同市は屈指の交流交易機能を活かし、本社機能の立地も進んでいる。「メインボード上場企業」は中国第18位と済南の第27位を上回る。ユニコーン企業は5社立地している。

 また、青島には多くの有名な大学と研究所が立地している。青島科技大学、中国海洋大学、青島大学など、多くの学生がこれらの教育機関で学んでいる。

 〈中国都市総合発展指標〉の「高等教育輻射力」で青島は中国第17位と山東省内トップクラスの成績を誇る。


【長沙】エンタメ・グルメのニューメガシティ【中国都市総合発展指標】第15位

中国都市総合発展指標2022
第15位




 長沙は中国都市総合発展指標2022総合ランキング第15位であり、前年度の順位を維持した。

 「社会」大項目は第14位で、前年度より順位を4つ上げた。3つの中項目で「生活品質」は第11位、「ステータス・ガバナンス」は第15位、「伝承・交流」は第16位で、3中項目のうちトップ10入りした項目はなかったものの、すべてトップ20入りを果たした。小項目で見ると、9つの小項目のうち、「居住環境」は第9位とトップ10入りし、「消費水準」は第13位、「文化娯楽」は第14位、「人口資質」「人的交流」「生活サービス」は第16位、「都市地位」は第18位と、6項目がトップ20に入った。なお、「社会マネジメント」は第73位、「歴史遺産」は第97位であった。

 「経済」大項目は第15位で、前年度より順位を3つ下げた。3つの中項目で「経済品質」および「発展活力」は第15位、「都市影響」は第19位で、3中項目のうちトップ10入りした項目はなかったものの、すべてトップ20入りを果たした。小項目では、トップ10入りした項目はなかったものの、「広域輻射力」は第12位、「ビジネス環境」「イノベーション・起業」は第14位、「経済規模」は第15位、「経済構造」は第16位、「広域中枢機能」は第17位、「開放度」は第19位と、9つの小項目のうち7項目がトップ20に入った。なお、「経済効率」は第21位、「都市圏」は第25位と、9つの小項目のうちすべての項目がトップ30に入った。

 「環境」大項目は第20位で、前年度より順位を5つ上げた。3つの中項目のうち「空間構造」は第22位、「環境品質」は第31位、「自然生態」は第129位であった。9つの小項目のうち、「資源効率」は第2位とトップ10入りを果たした。また、「都市インフラ」は第14位、「交通ネットワーク」は第20位と、2項目がトップ20に入った。なお、「コンパクトシティ」は第30位、「環境努力」は第36位、「気候条件」は第95位、「汚染負荷」は第176位、「水土賦存」は第184位、「自然災害」は第265位であった。


「星城」長沙


 長沙市は湖南省の省都であり、「星城」と称される。同市は東に江西省の宜春、萍郷、西に娄底、益陽、南に株洲、湘潭、北に岳陽と隣接し、長江中流域の重要な地域中心都市である。また、米どころ・魚どころである。北京を始めとする中国の都市は長い歴史の中で、さまざまな理由により都市の中心地が変動してきた。そうした中、長沙は、三千年にわたって都市の位置が変わらない「楚漢名城」である。

 長沙の総面積は11,819平方キロメートルにおよび、15のニューヨーク、11の香港、6つの深圳に相当する広さである。中国国内では第157位の規模であり、日本では秋田県と同等の大きさである。

 2022年末の常住人口は1,042万人で、ニューヨークを上回り、スウェーデンの全人口を超えるメガシティである。中国国内では第16位の人口規模である。

 同年のGDPは1.4兆元(約20.8兆円、1元=20円換算)に達し、中国第15位の経済規模がある。これはスリランカのGDPに匹敵する規模である(詳しくは「【ランキング】世界で最も経済リカバリーの早い国はどこか? 中国で最も経済成長の早い都市はどこか?を参照)。

歴史の深さ、継続する文脈、名人の輩出


 長沙は、その長い歴史と豊かな文化資源で知られる。特に、「岳麓書院」は、宋、元、明、清の四つの王朝を経て、現在の湖南大学につながり、世界で最も古い高等教育機関の一つとして人材を輩出し続けている。毛沢東を始め曽国藩、左宗棠ら中国の近代史を形作った偉人が岳麓書院から大勢出ている。まさに岳麓書院正門に掲げられた「惟楚有才,于斯為盛(楚に人材あり、ここに集まる)」という対聯の通りである。

 現在、長沙には23の大学と37の専門学校から成る60の高等教育機関がある。湖南大学、中南大学、国防科学技術大学、湖南師範大学の4校は、国家重点大学「211大学」に含まれ、うち3校は「985大学」に名を連ねる名門校である。

 現在、同市の高等教育能力の高さを示す「高等教育輻射力」は中国第7位である。

 歴史上、長沙生まれ或いは長沙で活躍した傑出人物は数多い。前漢の思想家・文学家である賈誼、唐代の書家・文学家の欧陽詢。近代では画家・齊白石、辛亥革命先駆者の黄興、蔡鍔、文学者の周立波、周楊ら多くの著名人を生んでいる。

 同市は現在なお「傑出文化人指数」で中国第13位、「傑出人材輩出指数」で中国第22位と、好成績を誇っている。

 人材に活躍の場を与える長沙は、外からも人々を吸引し成長している。人口の流出入を示す「流動人口(非戸籍常住人口)」では、湖南省内13都市のうち12都市は、外へ人口が流出し、その規模は約845万人である。これに対して長沙は、流動人口が約264万人の大幅プラスである。よって長沙は中国第14位の人口流入都市となっている。

 住宅価格を低く抑える政策も独特である。中国の省都の中でも長沙の住宅価格は最も低い水準にある。これも、長沙の人口吸入力になっている。長沙は現在、「幸福感都市認定指数」で、杭州、成都と並び、中国第1位の都市である。

バラエティのリーダー・湖南衛星テレビ


 「湖南衛星テレビ」は、もともと「湖南テレビ局」という名称であったが、1997年に衛星放送を開始して以来、「湖南衛星テレビ」として知られるようになった。マンゴーを模したロゴから「マンゴーチャンネル」という愛称で親しまれ、現在では湖南文化や長沙を象徴する存在となっている。

 このテレビ局は、常に新しい分野を切り開き、全国の他のテレビ局の一歩先を進んでいる。番組の視聴率は、省レベルの衛星テレビ局の中で常にトップを走っている。20年以上にわたって人気を博している「快楽大本営」や、オーディション番組の「スーパーガール」など、多数のヒットバラエティ番組やエンターテイメント作品が生まれた。これらの番組は、SNSで話題となり、特に「スーパーガール」や「快楽男声」は、20年前から中国の若い消費層にトップレベルのエンターテイメントを提供している。

 湖南衛星テレビは、人気バラエティ番組を多数製作するだけでなく、優れた司会者、俳優、歌手を輩出している。何炅、汪涵、謝娜、李宇春など人気タレントが名を連ねている。

 エンタメ都市として名高い長沙は、「文化・スポーツ・娯楽輻射力」で中国第12位であり、「映画館・劇場消費指数」は中国第11位である(詳しくは『【ランキング】世界で最も稼ぐ映画大国はどこか?』を参照)。

■ グルメとインフルエンサーの都市


 長沙は現在、「インフルエンサー都市」と呼ばれる。長沙は優れた自然環境と、長い歴史と文化を背負った美食の都市でもある。湖南衛星テレビの積極的な宣伝が功を奏し、湖南料理が、全国的に根を張り巡らせた。SNSの時代となり、大勢のインフルエンサーが長沙の食の魅力を広げている。

 長沙には、小龍蝦(ザリガニ)、臭豆腐、米粉(ビーフン)といった、独特で多様なグルメが存在する。中国一辛いと言われる「湖南料理」が、多くの観光客を魅了している。ミルクティー業界のスタバとも言われる「茶顔悦色」が2013年に設立され、長沙の新しいグルメの象徴的な存在となった。

 長沙は眠らないエンタメ都市としても有名であり、ナイトエコノミーが、多くの観光客を引き寄せている。

 交通の便も観光都市長沙へのアクセスを容易にしている。「鉄道利便性」が中国第7位、「空港利便性」が中国第15位と、交通の便が高いことも魅力のひとつとなっている(詳しくは【ランキング】中国で最も空港利便性が高い都市はどこか?を参照)。

 観光都市・長沙の「卸売・小売輻射力」は中国第13位、「ホテル・レストラン輻射力」は中国第18位である。

■ 強い機械産業を持つ


 長沙はソフトパワーだけでなく、製造業も優れている。長沙には、三一重工、中聯重科、鉄建重工、山河智能といった世界トップクラスの機械製造企業を擁している。長沙の「製造業輻射力」は中国第36位である(詳しくは「【ランキング】中国で最も輸出力の高い都市はどこか?を参照)。

 併せて、研究開発も活発であり、「科学技術輻射力」は、中国第15位である。国家を代表する研究者の排出数を示す「中国科学院・中国工程院院士指数」は第15位と、ここでも人材の豊富さを窺わせる(詳しくは『【ランキング】科学技術大国中国の研究開発拠点都市はどこか?』)。


【寧波】港湾機能をベースとした製造業スーパーシティ【中国都市総合発展指標】第14位

中国都市総合発展指標2022
第14位



 寧波は中国都市総合発展指標2022総合ランキング第14位であり、前年度の順位を維持した。

 「経済」大項目は第12位で、前年度の順位を維持した。3つの中項目で「経済品質」は第11位、「発展活力」および「都市影響」は第13位で、3中項目のうちトップ10入りした項目はなかった。小項目では、「開放度」「経済構造」は第10位と、9つの小項目のうち2項目がトップ10に入った。なお、「経済規模」「広域中枢機能」は第11位、「経済効率」は第13位、「ビジネス環境」「イノベーション・起業」は第16位、「広域輻射力」は第18位、「都市圏」は第19位と、9つの小項目のうちすべての項目がトップ20に入った。

 「社会」大項目は第18位で前年度の順位を維持した。3つの中項目で「生活品質」は第16位、「ステータス・ガバナンス」は第21位、「伝承・交流」は第23位、3中項目のうちトップ10入りした項目はなかった。小項目で見ると、9つの小項目のうち、トップ10入りした項目はなかったものの、「居住環境」は第13位、「文化娯楽」は第15位、「社会マネジメント」「消費水準」は第18位と、4項目がトップ20に入った。なお、「生活サービス」は第24位、「都市地位」「人口資質」「人的交流」は第32位、「歴史遺産」は第33位であった。

 「環境」大項目は第25位で、前年度より順位を4つ上げた。3つの中項目のうち「空間構造」は第23位、「環境品質」は第60位、「自然生態」は第70位であった。9つの小項目のうち、トップ10入りした項目はなかったものの、「都市インフラ」は第17位と、1項目がトップ20に入った。なお、「環境努力」は第22位、「コンパクトシティ」は第26位、「交通ネットワーク」は第30位、「気候条件」は第68位、「資源効率」は第72位、「自然災害」は第81位、「汚染負荷」は第101位、「水土賦存」は第205位であった。

■ 古くからの一大貿易拠点都市


 寧波は、浙江省の東部に位置する計画単列市であり、中国東部沿岸の重要な港湾都市である。2021年までに、寧波は6つの区、2つの県級市、2つの県を管轄し、総面積は9,816平方キロメートル(青森県と同程度)である。寧波は雨量が多く、亜熱帯モンスーン気候に属し、温暖湿潤で、四季がはっきりしている。

 地理的に、東は舟山群島が点在し、西は紹興市、南は台州市と隣接している。海岸線が長く、その総延長は1,594キロメートルにも達し、大小614の島を有している。

 寧波は7000年前の稲作文化として名高い「河姆渡新石器遺跡」を有し、また秦の時代、徐福の大船団が寧波から出発した伝説がある。唐の時代、寧波はすでに揚州や広州と並ぶ中国三大貿易港の一つとなっていた。

 1127年に南宋が杭州に都を置いた後は、寧波の地理的な重要性が更に高まり、杭州の対外貿易のほとんどを担うようになった。この時代に寧波は、広州、泉州と並ぶ対外貿易の三大港の一つに数えられていた。

 しかし、明朝初頭に、倭寇や海賊対策のため、寧波は重要な海防基地となった。政府から遠洋舶の製造が禁止され、沿海部の貿易が厳しく制限されて寧波の経済発展が後退した。

 1545年に、ポルトガルが寧波で貿易活動を展開しはじめ、最初は密貿易であったが、1567年以後、公的な貿易も行うようになった。その後、オランダやイギリスからも商人が相次ぎやってきて、寧波は再び一大貿易拠点都市となった。

■ 群を抜く港湾能力


 現在、寧波は港湾機能中枢都市の地位をより高め、2022年に寧波―舟山港のコンテナ取扱量は世界第3位を誇っている(詳しくは、「【ランキング】世界で最も港湾コンテナ取扱量が多い都市はどこか?」を参照)。

 寧波―舟山港は中国の一大鉄鉱石中継基地、原油・石炭輸送基地、穀物輸送基地である。寧波は240以上の国際航路で、100以上の国・地域とつながっている。

■ 民営経済の活力をベースに


 改革開放以降、寧波経済は活力に満ちている。その原動力は民営経済である。寧波は、中国商人発祥の地とも呼ばれ、上海人の1/4は寧波出身者と言われている。また、寧波は華僑の故郷としても有名で、30万人以上の寧波人が世界50以上の国と地域に居住している。海外の寧波人は、寧波市と世界を結ぶ重要な架け橋となっている。

 2022年末までに、寧波には香港、上海、深圳の三大メインボードに上場する企業が89社立地し、中国で第9位の規模を誇っている。現在、寧波GDPの80%以上が民営経済によって生み出されている。

 2022年、寧波の地域内総生産(GDP)は1兆5,704億元(約31.4兆円、1元=20円換算)で、中国第12位であった。成長率は、前年比3.5%であった。一人当たりGDPは16万3,280元(約327万円)で、中国第14位だった(詳しくは「【ランキング】世界で最も経済リカバリーの早い国はどこか? 中国で最も経済成長の早い都市はどこか?」を参照)。

■ 人口吸収でメガシティが目前に


 経済成長が人口を吸引し、2022年末の常住人口は約962万人で中国では第21位の人口規模であった。人口の流出入を示す「流動人口(非戸籍常住人口)」では、浙江省内11都市のうち9都市は、外部から人口が流入している。寧波は、流入人口が杭州とほぼ同等で約336万人であり、全国から多くの人口を吸い上げている。よって寧波は中国第12位の人口流入都市となっている。寧波は人口1000万人を超えるメガシティになるのも時間の問題だ。

■ 製造業スーパーシティとしての発展


 寧波は、港湾と民間活力をベースに現在、一大製造業スーパーシティに成長した。「中国都市製造業輻射力2022」では寧波は中国で第5位。2022年、同市の工業付加価値は6,682億元(約13.4兆円)を達成し、前年比で3.3%の増加となった。輸出総額も前年比8%増の8,231億元(約16.5兆円)で、中国第5位(詳しくは「【ランキング】中国で最も輸出力の高い都市はどこか?」を参照)。

 製造業の成長に伴い、科学技術への投資も大きく拡大している。「中国都市科学技術輻射力2022」で寧波は中国第9位であり、トップ10にランクインした。「R&D人員」は中国第9位、「特許取得数指数」は中国第16位、「国際特許取得総数」は中国第12位と、科学技術力を測る多くの指標が高い成績を収めている。その結果、市内にユニコーン企業が2社立地し、その企業価値は1,060億ドル(約21.2兆円)に達している。


【西安】一帯一路で甦る古都長安のパワー【中国都市総合発展指標】第13位

中国都市総合発展指標2022
第13位



 西安は中国都市総合発展指標2022総合ランキング第13位であり、前年度の第12位から、順位が1つ下がった。

 西北地域の中心都市として「社会」大項目は第9位で、前年度に比べ順位が1つ下がった。3つの中項目で「ステータス・ガバナンス」「伝承・交流」は第8位でトップ10入りし、「生活品質」は第14位だった。小項目で見ると、「歴史遺産」は第2位、「社会マネジメント」は第5位、「人口資質」「人的交流」は共に第9位、「都市地位」は第10位と、9つの小項目のうち5項目がトップ10に入った。なお、「居住環境」は第11位、「生活サービス」「文化娯楽」は第12位、「消費水準」は第15位であった。西安市内に最高等級病院「三甲病院」は26カ所で、その規模は中国第8位である。医療従事者は12.3万人で、そのうち医師は4.3万人と中国第12位の規模を持つ。

 「経済」大項目は第14位であり、前年度の順位を維持した。3つの中項目で「発展活力」は第12位、「都市影響」は第17位、「経済品質」は第20位で、3項目のうちトップ10入りした項目はなかった。小項目では、「広域輻射力」は第9位と、9つの小項目のうち1項目がトップ10に入った。なお、「イノベーション・起業」は第12位、「経済規模」「経済効率」は第16位、「広域中枢機能」は第19位、「ビジネス環境」「経済構造」は第21位、「都市圏」は第24位、「開放度」は第83位であった。

 「環境」大項目は第57位で、3つの中項目のうち「空間構造」は第14位、「環境品質」は第160位、「自然生態」は第195位であった。9つの小項目のうち、「環境努力」は第6位と、1項目だけがトップ10に入った。「交通ネットワーク」は第13位、「コンパクトシティ」は第16位、「都市インフラ」は第20位と、3項目がトップ20に入った。

 なお「資源効率」は第91位、「自然災害」は第103位、「気候条件」は第173位、「水土賦存」は第189位、「汚染負荷」は第276位であった。2021年のPM2.5年間平均濃度は51.3マイクログラム/標準立方メートルで、前年より8.6ポイント悪化し、全国順位は第292位と芳しくない。二酸化炭素の排出量も多く、その規模はワースト30位と落ち込んでいる。西安市政府はその現状を打破するため、環境改善に向けた努力に多くのリソースを注いでおり、「環境努力指数」は第5位と善戦している。

■ 西北地域の最大都市


 西安は陝西省の省都で、中国西北地域の政治・経済・文化の中心地である。古くは長安や鎬京と呼ばれ、関中平原メガロポリスの中心都市となっている。2021年末現在、西安市は11区と2郡を管轄し、東西は204キロメートル、南北は116キロメートルにわたり、面積は10,752平方キロメートル(岐阜県と同程度)で中国第170位である。

 西安は紀元前11世紀からから約2,000年の間、秦、漢、隋、唐など13の王朝の都として栄えてきた。1981年に国連教育科学文化機関(ユネスコ)が選定した世界十大古都の一つに数えられている。西安は中華文明の重要な発祥地であり、シルクロードの起点でもある。

■ 豊かな自然資源の恵み


 西安は中国の北西部、関中平野の中央に位置し、北は渭河、南は秦嶺山脈に囲まれ、地理的な境界が明確な都市である。8つの河川が潤すことから、古くから「八水繞長安」と評されている。

 市内の海抜変化は大きく、中国で最も高度差が激しい地域である。秦岭山脈の海抜は2,000〜2,800メートルで、中でも最南西部にある太白山の最高峰は海抜3,867メートルあるのに対して、渭河平原の海抜は400〜700メートルとなっている。

 秦岭山脈には、高山の灌木草地、針葉樹林、針広葉混交林、落葉広葉樹林などの自然植生タイプが垂直に分布している。秦岭山脈は野生植物資源の宝庫であり、138科681属2224種の野生植物が存在し、中国の種子植物の重要な遺伝資源庫の一つである。また、野生動物資源も多く生息し、哺乳類55種、鳥類177種が含まれ、その中にはジャイアントパンダ、金絲猴、扭角羚秦岭亜種、スマトラカモシカ、オオサンショウウオ、黒鶴、白冠長尾雉、血雉、金雞などの希少動物も含まれている。自然生態系と珍種動植物資源を保護するため、3つの国家級自然保護区が設けられている。西安の「国家公園・保護区・景観区指数」は中国第21位である。

 西安は暖温帯の半湿潤大陸性季風気候に属し、寒暖、乾湿の差があり、四季がはっきりしている。年平均気温は13℃、年降水量は600-650ミリメートルで、その大部分が夏季に集中している。「気候快適度」は中国第173位、「降雨量」は中国第195位である。

■ 内陸部の一大消費地


 2021年における西安の地域内総生産(GDP)は1兆688億元(約21.4兆円、1元=20円換算)で、中国第24位であった。成長率は、前年比4.1%増、過去2年の平均成長率は4.6%であった。その中で、第一次産業GDPは308億元(約6,160億円)で6.1%増、第二次産業GDPは3,585億元(約7.2兆円)で0.9%増、第三次産業GDPは6,794億元(約13.6兆円)で5.7%増であった。一人当たりGDPは8万3,689元(約167万円)で、中国第91位だった(詳しくは【ランキング】世界で最も経済リカバリーの早い国はどこか? 中国で最も経済成長の早い都市はどこか?を参照)。

 住民消費価格(CPI)は前年比1.7%上昇し、商品小売価格は1.4%上昇した。新築住宅の販売価格は7.5%上昇し、中古住宅の販売価格は6.3%上昇した。

 企業の小売売上動向を示す社会消費品零售総額は4,963億元(約9.9兆円)で、前年比0.8%増であった。その中で、内訳がわかる限度額以上企業の小売売上高は2,420億元(約4.8兆円)で、前年3.8%減少した。

 西安の消費力は西北部地域で群を抜いて高く、「国際トップブランド指数」では深圳、広州などを抑えて中国第5位にランクインしている。

■ 内陸部三大貿易地の一つ


 2022年における西安の輸出入総額は前年比3%減の4,380億元(約8.8兆円)で、中国第21位であった。うち輸出総額は前年比16.7%増の2,748億元(約5.5兆円)で、中国第22位。輸入総額は前年比19.6%減の1,632億元(約3.3兆円)で、中国第21位であった。これは成都、鄭州に続く内陸都市としての好成績である(詳しくは【ランキング】中国で最も輸出力の高い都市はどこか?を参照)。

■ 一大人口吸収都市


 2022年末の常住人口は約1,300万人で中国第9位であった。人口の流出入を示す「流動人口(非戸籍常住人口)」では、陝西省内10都市のうち9都市は、外へ人口が流出している。これに対して西安は、流動人口が約317万人の大幅プラスであり、周辺から多くの人口を吸い上げている。よって西安は中国第13位の人口流入都市となっている。

■ 西北地域における航空、鉄道の中枢


 西安は中国西北部の重要な交通ハブを担っている。その機能は一帯一路政策によってさらに強化されている。

 中国都市総合発展指標の「空港利便性」項目で西安は中国第9位、航空旅客数も第9位である(詳しくは【ランキング】中国で最も空港利便性が高い都市はどこか?を参照)。

 「鉄道利便性」は中国第18位、「高速鉄道便数」も第18位で、「準高速鉄道便数」は第4位であった。


■ 中国トップクラスの観光都市


 西安は中国屈指の観光地である。市内には現在、秦始皇陵、兵馬俑、大雁塔、小雁塔、唐長安城の大明宮遺跡、漢長安城の未央宮遺跡、興教寺塔などの世界遺産があり、その他にも西安城壁、鐘楼・鼓楼、華清池、終南山、大唐芙蓉園、陝西歴史博物館、碑林などの著名な観光地を有している。その結果、中国都市総合発展指標の「世界遺産」において、西安は中国第5位、「無形文化財」は第6位、「重要文化財」は第10位と高順位を誇る。

 こうした文化遺産に魅了された観光客が毎年大勢国内外から同市を訪れている。中国都市総合発展指標の「国内観光客」で、西安は第5位、「国内観光収入」は第9位となっている。

■ 文化・娯楽都市としての輝き


 内外の観光客を惹きつけているのは、文化遺産だけではない。西安は文化・娯楽も盛んな都市である。中国都市総合発展指標の「文化・スポーツ・娯楽輻射力」で中国第9位となっている。

 文化面では、市内には博物館(民間のものを除く)が136館あり、「博物館・美術館指数」は中国第8位、「動物園・植物園・水族館」は中国第15位である。公立図書館は14カ所あり、その蔵書量は中国第30位を誇る。コンベンション産業の発展度合いを示す「展覧業発展指数」は中国第14位であった。

 娯楽面では、「映画館・劇場消費指数」が中国第13位である。スポーツ面では、「スタジアム指数」は第100位に甘んじているものの、西安からはオリンピック金メダリストが4名排出され、「オリンピック金メダリスト指数」は中国第20位となった。

■ 名門大学が数多く立地


 新中国成立以来、西北の中心地である西安に、多くの大学が置かれた。西安交通大学、北西理工大学、西安電子科技大学など7つのトップクラスの大学が立地している。

 中国都市総合発展指標の「高等教育輻射力」で西安は中国第6位を誇り、高等教育機関(大学・専門学校)は63校で、学生は78.4万人で中国第7位。

 大学が数多くあることで、西安は人材輩出の豊富さを示す「傑出人物排出指数」で中国第9位に輝いている。また、国家を代表する研究者の排出数を示す「中国科学院・中国工程院院士指数」は第4位と、中国トップクラスの順位である。他方、住民の教育水準を示す「人口教育構造指数」も第7位である。


【廈門】魅力あふれる貿易拠点都市【中国都市総合発展指標】第12位

中国都市総合発展指標2022
第12位




 廈門は中国都市総合発展指標2022総合ランキング第12位であり、前年度より順位を1つ上げた。

 「環境」大項目は第4位で、前年度より順位を2つ上げた。3つの中項目のうち「空間構造」は第6位、「環境品質」は第11位、「自然生態」は第61位と、2項目がトップ20に入った。9つの小項目のうち、「コンパクトシティ」は第5位、「交通ネットワーク」は第9位と2項目がトップ10に入った。また、「汚染負荷」は第20位、「都市インフラ」は第23位、「環境努力」は第29位と、3項目がトップ30に入った。なお、「資源効率」は第35位、「気候条件」は第39位、「自然災害」は第219位、「水土賦存」は第295位であった。

 「社会」大項目は第13位で、前年度より順位を2つ上げた。3つの中項目で、「伝承・交流」は第12位、「生活品質」は第13位、「ステータス・ガバナンス」は第16位と、3項目すべてがトップ20に入った。小項目で見ると、「人的交流」は第7位と、1項目だけがトップ10に入った。また、「消費水準」は第11位、「居住環境」は第14位「人口資質」は第15位、「生活サービス」「社会マネジメント」は第19位、「文化娯楽」は第29位と、6項目がトップ30に入った。なお、「都市地位」は第34位、「歴史遺産」は第43位であった。

 「経済」大項目は第19位で、前年度の順位を維持した。3つの中項目で、「発展活力」は第16位、「都市影響」は第17位、「経済品質」は第25位と、3中項目のうちトップ10入りした項目はなかったものの、すべてトップ30入りを果たした。9つの小項目のうち、「広域中枢機能」は第9位、「ビジネス環境」は第10位で、2項目がトップ10入りした。また、「経済効率」は第11位、「開放度」は第15位、「イノベーション・起業」は第22位、「広域輻射力」は第23位、「経済構造」は第24位、「都市圏」は第27位と、6項目がトップ20に入った。なお、「経済規模」は第40位だった。


■ 小さくても輝く海上の花園


 廈門市は、福建省の東南端に位置する副省級市、計画単列市であり、経済特区に指定された中国南東部沿岸の重要な中心都市である。また、粤閩浙沿海(広東・福建・浙江)メガロポリスの中核都市である(粤閩浙沿海メガロポリスについて詳しくは中心都市がメガロポリスの発展を牽引を参照)。

 同市の総面積は1,701平方キロメートルに過ぎず、中国297地級及びそれ以上の都市(日本の都道府県に相当)のうち、下から四番目の294位の大きさである。省都の福州市と比較すると、約七分の一の大きさである。なお、47都道府県で最も面積が小さい香川県の面積が1,877平方キロメートルであり、廈門は香川県より1割程度小さい。

 一方、常住人口は約531万人で中国第82位、「人口密度」は1平方キロメートル当たり3,121人で中国第4位の高密度都市である。

 廈門は福建省の沿海部に位置し、漳州市、泉州市と接している。亜熱帯モンスーン気候で、年平均気温が21℃、温和かつ多雨の気候を享受する美しい臨海都市である。「気候快適度」は中国第24位である。

 同市は多くの島嶼を有し、風光明媚な景観に恵まれ、古来より「海上花園」とも呼ばれている。

■ 五口通商から経済特区へ


 廈門は600年以上の歴史を持つ廈門港を有し、宋朝以来、泉州港の補助港口としての役割を果たしていた。元朝で軍港に変貌し、明朝には商業貿易の拠点として躍進を遂げた。鄭成功父子の時代には、海外貿易の中心港となり、茶の輸出で一大拠点となった。1684年には清の海関が設置され、廈門港が正口の一つとされた。康熙年間には、福建出洋の総口となり、福州や泉州を凌ぐ地位を確立した。

 1842年、南京条約の締結により、廈門は広州、福州、寧波、上海と並び「五口通商」の一つに数えられた。貿易の窓口として、教会、病院、学校、外国銀行などが建設され、早くから西洋文化に染められた稀有な都市でもある。

 1980年、厦門は深圳、珠海などと共に経済特区に指定された。以来、急速な発展を続けている。

■ ウズベキスタン一国に匹敵する経済規模


 2022年、廈門のGDPは7,803億元(約15.6兆円、1元=20円換算)に達し、福建省内で福州市、泉州市に次ぐ第三位の経済規模である(詳しくは【ランキング】世界で最も経済リカバリーの早い国はどこか? 中国で最も経済成長の早い都市はどこか?を参照)。

 その経済規模は、中国第31位であり、世界第58位のウズベキスタンのGDPに匹敵する。「一人当たりGDP」の成績はさらに良く、中国第19位と福建省内で最も高い。

 廈門の「人口自然増加率」は中国第4位で、2015〜2022年の平均増加率は12.1‰と極めて高い。非戸籍常住人口を示す「流動人口」では、廈門は約245万人に達し、中国第17位の人口流入都市となっている。結果、同市の「生産年齢人口率」は中国第9位であり、その数値は72.9%と、廈門には圧倒的に若い活力が溢れている。

■ 深水港を盾にしたスーパー製造業都市


 廈門市は深水港を盾に港湾機能を強化してきた。2022年に漳州港を含む廈門港のコンテナ取扱量は1,244万TEUを達成し、中国第7位にランクインした(詳しくは、【ランキング】世界で最も港湾コンテナ取扱量が多い都市はどこか?を参照)。同年の貨物取扱量は2.2億トンで、世界第14位である。

 廈門の製造業も高度に発展し、中国第11位の「製造業輻射力」の実力を持つスーパー製造業都市となった(詳しくは【ランキング】中国で最も輸出力の高い都市はどこか?を参照)。

 さらにIT産業も発展を遂げており、「IT産業輻射力」は中国第12位である。

 産業発展の背後には研究開発への投資が欠かせない。廈門の「科学技術輻射力」は中国第20位である(詳しくは【ランキング】科学技術大国中国の研究開発拠点都市はどこか?)。

 現在、同市は中国政府が推進する「一帯一路」における21世紀海上シルクロードの戦略的要衝都市となっている。また同市は、アジアとヨーロッパを結ぶ「中欧班列(ユーラシア横断鉄道)」にも接続している。


■ 鼓浪嶼-建築とピアノの島


 鼓浪嶼は廈門市の沖合に浮かぶ面積2平方キロメートル未満の島で、廈門の都市発展をものがたっている。清朝末期には、鼓浪嶼に公共租界が設けられた。その為、多くの西洋建築や「騎楼」と呼ばれる華僑による建築物が残され、「万国建築博物館」と称される。2017年に「鼓浪嶼国際歴史社区」は世界文化遺産に正式登録された。

 建築だけでなく、西洋音楽も植え付けられた。鼓浪嶼には600台を超えるピアノがあり、世界最古のスクエアピアノや最初で最大のアップライトピアノを保有する専門博物館があるだけでなく、数多くのピアノ演奏者や音楽家を輩出している。鼓浪嶼が生んだ音楽家たちは毎年音楽祭で故郷に戻り、各種コンサートを開いている。

■ 華僑文化 – 騎楼


 廈門は西洋の文化を受け入れただけでなく、華僑がもたらした東南アジアの文化も色濃く残している。中でも南洋の風情漂う騎馬楼建築が際立っている。

 騎楼建築は、「南洋貿易」に密接に関連している。近代、南洋貿易の拡大で福建省から多くの人々が「南洋」と呼ばれる東南アジアへ渡った。騎楼は帰郷した華僑によって建設された。騎楼の大規模建設は1920〜30年代に集中している。騎楼は典型的な外廊式建築で、通り側には商店が並び、廊下は日よけと雨避けの機能を果たし、背街側には民家が立ち並ぶ。

 特に旧市街区や中山路には、1920年代の騎楼が多数残り、百年の歴史文化を誇る街として、観光客を魅了している。

■ 観光都市発の新世代コーヒーチェーンブランド – ラッキンコーヒー(瑞幸咖啡)


 廈門の観光業は福建省で最も成功し、国内外からの観光客が、2019年には1億人を超えた。新型コロナウイルスの影響により大きな打撃を受けたものの、2022年の訪問者数は2019年の64.6%まで回復している。

 近年この観光都市から、ラッキンコーヒーという革新性に富んだコーヒーチェーンが生まれた。2023年9月、白酒の茅台とのコラボレーションによる「醤香ラテ」の全国発売が大きな話題を呼んだ。初日に542万杯以上が売れ、売上高は1億元を超えた。廈門に本部を置くこの企業は、2017年に北京銀河SOHOで初の店舗を開業し、その後わずか18カ月でアメリカのナスダック(NASDAQ)に上場した。2020年6月には財務不正問題で退場を余儀なくされたものの、退場から21カ月で黒字化を実現し、逆境を乗り越えた。

 ラッキンコーヒーは、スターバックスと違い、カフェにある社交の場を提供せず、座席もなく、限られた空間で一日に数百杯を売り上げる。ラッキンコーヒーは消費者がアプリやミニプログラムを通じて注文し、店舗で受け取る「インターネットコーヒー」のモデルを確立し、オンラインとオフラインのハイブリッドを実現し、成功している。

 2023年10月末時点で、ラッキンコーヒーの国内店舗数は1万3,000店を超えた。店舗数、営業収入において、20年以上中国市場で事業を展開するスターバックス・チャイナを上回る。

 2023年、ラッキンコーヒーは、全世界のユニコーン企業1,360社の中で130位にランクインし、評価額は400億ドルに達している。

 起業精神旺盛な廈門の「ユニコーン企業」は中国第18位となっている。盛んな飲食業と観光業により、「ホテル飲食業輻射力」は中国第8位と、トップ10入りを果たしている。


【天津】中国北方玄関口の直轄市【中国都市総合発展指標】第11位

中国都市総合発展指標2022
第11位



 天津は中国都市総合発展指標2022総合ランキング第11位であり、前年度から順位を1つ下げた。

 「経済」大項目は第9位であり、前年度の順位を維持した。3つの中項目で「都市影響」は第6位、「発展活力」は第8位であり、この2項目がトップ10入りを果たした。「経済品質」は第12位であった。小項目では、「広域中枢機能」は第5位、「都市圏」は第7位、「ビジネス環境」「開放度」は第8位、「経済規模」は第9位、「イノベーション・起業」は第10位と、9つの小項目のうち、6項目がトップ10入りした。なお、「広域輻射力」は第11位、「経済構造」は第13位、「経済効率」は第109位であった。「経済効率」は、「被扶養人口指数」や「1万人当たり失業者数」の悪化により、順位を大きく下げる結果となった。「経済効率」を除き、「経済」の成績は、各項目ともに全体的に高い結果となった。

 「社会」大項目では第11位であり、前年度の順位を維持した。3つの中項目の中で「ステータス・ガバナンス」は第5位、「生活品質」は第10位、「伝承・交流」は第14位と、3項目のうち1項目がトップ10入りを果たした。小項目で見ると、「都市地位」は第4位、「生活サービス」は第5位、「歴史遺産」は第9位、「人口資質」「文化娯楽」は第10位と、9つの小項目のうち、5項目がトップ10内にある。なお、「居住環境」は第15位、「消費水準」は第20位、「人的交流」は第22位、「社会マネジメント」は第12位であった。「社会」の成績は、全体的に高い結果となった。 

 「環境」大項目は第37位となり、前年度から順位を1つ上げた。3つの中項目の中で「空間構造」は第7位と1項目がトップ10入は果たしたが、「環境品質」は第162位、「自然生態」は第229位であった。小項目では、9つの小項目のうち、「都市インフラ」は第4位、「環境努力」は第8位、「コンパクトシティ」「交通ネットワーク」は第10位と、4項目がトップ10入りした。トップ10以下は、「水土賦存」は第136位、「資源効率」は第154位、「気候条件」は第211位、「自然災害」は第224位、「汚染負荷」は第225位であった。

 天津は、社会や経済と比較して環境のパフォーマンスが劣っている。近年は南の都市の勢いと比べ、社会と経済の成績も下降気味であり、都市間競争の中でやや苦しんでいる。


京津冀メガロポリスの臨海中心都市


 天津市は、中国の四大直轄市の1つであり、北京の玄関口として発展した京津冀(北京・天津・河北)メガロポリスの臨海中心都市である。元、明、そして清王朝時代は、江南から物資を運ぶ大運河の北京への入り口だった。現在は、渤海湾の港としての北京の玄関口となっている。さらに、洋務運動の時代に全国に先駆けて西洋から制度や技術を最も早く取り入れた窓口であった。

 天津市の面積は約11,917平方キロメートルで、日本の秋田県とほぼ同じ面積にあり、2021年の人口は約1,363万人を誇るメガシティである。2022年にGDPは16,311億元(約32.6兆円、1元=20円換算)に達し、中国で第11位の都市となった。

 天津港は、世界第8位のコンテナ取扱量を持つ巨大な港であり、その後背地は、モンゴルやカザフスタンにまで広がる。中国都市総合発展指標2022において、天津の「コンテナ港利便性」は中国第5位になっている(詳しくは、「【ランキング】世界で最も港湾コンテナ取扱量が多い都市はどこか? 〜2020年中国都市コンテナ港利便性ランキング」を参照)。

 このような背景から、天津市には国内外の企業が進出し、多くの産業が集積し、製造業、情報技術、金融サービス、物流、観光などの分野に及んでいる。

ナイトエコノミーの推進


 天津では、サービス業の発展を促進するために、ナイトエコノミー政策を推進している。2018年11月に発表された同政策では、海に面する立地を活かした景観づくりや、東西文化の融合を図ったナイトエコノミー集積地の形成、さまざまな娯楽コンテンツの充実などが打ち出されている。

 中国北方の都市では、夜の営業時間が短いことが一般的である。首都北京ですらレストランの閉店時間が早く、南から北京に来る客の不満が絶えなかった。実際、中国都市総合発展指標2022において、天津の「レストラン・ホテル輻射力」は中国12位と、トップ10圏外になっている。

 計画経済時代、商業都市の面影薄い天津の夜は、長く闇に包まれていた。活気を入れるため打ち出したナイトエコノミー施策には、政府の過剰な介入やインフラ整備中心だとの指摘がある。ナイトエコノミーは本来、市民や事業者が自発的に取り組むことが重要であり、政府の役割は環境整備や支援に留めるべきだという意見も存在する。

 今後、天津市がナイトエコノミーの発展をさらに推進するためには、政府の適切な役割と市民や事業者の自発的な取り組みをバランス良く組み合わせることが重要である。また、地域の特性や文化を生かした独自の魅力を打ち出すことで、ナイトエコノミーが持続的に発展し、地域経済の活性化につながることが期待される。

天津エコシティ:環境配慮型都市開発のモデルと課題


 天津エコシティ(中新天津生態城)は、中国とシンガポールが共同で開発を進める環境配慮型の次世代都市建設プロジェクトである。2007年に建設が開始され、​2025年頃の完成を目指している。​

 同プロジェクトは、天津中心部から40キロ、​北京から150キロメートル離れた場所で開発されており、​天津郊外の約30キロメートルの塩田跡地(浜海新区)に建設されている。2020年までに人口35万、住戸11万戸を建設する予定で、投資額は約500億元である。街の至るところに緑地を設置し、​次世代の廃棄マネジメントシステムの導入も計画されている。​交通に関しては、​自動車の利用を抑制するために、​トラムやバスなどの公共交通を拡充している。​また、​多くのテクノロジー企業や研究機関が拠点を構えている。このような取り組みによって、天津エコシティは環境配慮型都市開発のモデルとして期待されていた。

 しかし、浜海新区全体の開発は遅れが続いており、閑散とした様子から「鬼城(ゴーストタウン)」と揶揄されることもある。さらに、2015年8月に開発区内の危険物倉庫で発生した大規模爆発事故により、天津港の機能が一時的に麻痺状態となり、経済損失額は直接的なものだけで約68.7億元(約1,200億円)にのぼるとされている。

 これらの問題が重なり、天津エコシティや浜海新区の開発は遅れがちとなっているが、今後も環境配慮型都市開発のモデルとして、持続可能な発展に向けた取り組みが求められている。適切な対策や改善策が講じられれば、今後の発展に期待が持てるプロジェクトである。

日中経済・文化交流の歴史と現代の役割


 アヘン戦争後の1860年にイギリスが天津市に租界を置いてから、新中国成立に至るまで日本を含む9カ国が天津市に租界を設立していた。近代日本と中国の最初の接点は上海市と天津市であり、天津市からは華北地域の特産品である「栗」が日本に多く輸出されたことで、「天津甘栗」の名前が馴染みである。

 中国の改革開放後、日本政府は巨額な有償・無償の経済援助を行い、日本企業の対中直接投資も拡大を続け、天津にも多くの日系企業が進出した。

 貿易については、中国の輸入先として2021年、日本は国・地域別で第3位に、金額は1,605億ドル(約22.5兆円、1ドル=140円換算)となった。輸出でも1,575億ドル(約22.1兆円)で同第2位となり、日本は中国にとって重要な貿易パートナーとなっている。中国北方の玄関口としての天津が果たした役割は大きい。

 そうした日中関係を象徴するように、新型コロナウイルス・パンデミック以前の2019年に天津を訪れた外国人は約56万人であった。ちなみに同年に中国を訪れた観光客の出身国のトップ10は順に、日本、オーストラリア、韓国、米国、カナダ、英国、タイ、フィリピン、カンボジア、マレーシアで、日本がトップであった。

国際工業博覧会:製造業からサービス産業への挑戦


 2022年8月、「第18回中国(天津)国際工業博覧会」が開催された。同博覧会は世界三大工業博覧会の1つとされ、今回の博覧会には世界20以上の国と地域から有名企業約千社が一堂に会し、世界中の先進的な設備や技術が展示された。

 天津は清朝末期、「洋務運動」で中国の工業化を牽引する役割を果たしただけではなく、国際的な商業都市としても栄えた。新中国建国後は、計画経済のもとで工業都市に特化した。改革開放以降も工業を中心として発展を遂げてきた。

 その結果、中国都市総合発展指標2022によると、「製造業輻射力」全国ランキングにおいて、天津は第16位を獲得した(詳しくは、「【ランキング】中国で最も輸出力の高い都市はどこか? 〜2020年中国都市製造業輻射力ランキング」を参照)。

 同じ直轄市の中でも北京や上海は国際的な商業都市として、サービス産業の発展が著しい。これに対して、天津はサービス産業の発展が相対的に遅れている。中国都市総合発展指標2022によると、「飲食・ホテル輻射力」ランキングで上海は第1位、北京は第2位であるのに対して、天津は第12位と引き離された。「文化・スポーツ・娯楽輻射力」ランキングでは北京が第1位、上海が第2位に対して、天津は第11位だった。さらに、「卸売・小売輻射力」ランキングでは北京が第1位、上海が第2位、天津は第12位であった。

 近年、中国ではIT産業の発展が目覚ましい。しかし製造業とは異なり、IT産業の発展は、都市の商業環境に大きく左右される。南開大学、天津大学といった名門大学を抱えながら、天津のIT産業の発展は芳しくない。「IT産業輻射力」ランキングは第24位と、直轄市にふさわしくないパフォーマンスを見せた。

ブームが去ったシェア自転車


 かつて中国が自転車王国だった時代、三大国産自転車ブランドの1つが天津産だった。天津ブランドの自転車は、当時若者にとって新婚生活“三種の神器”の1つとして、人気が高かった。

 急激なモータリゼーションにより中国の街で自転車の存在感はだいぶ薄まった。自転車が再び注目を集めたのは、シェア自転車ブームであった。シェア自転車は中国で2015年に誕生し、1年も経たないうちに爆発的に全国に拡大した。北京などの大都市では、街そのものがシェア自転車駐輪場の様相を呈した。

 天津は、シェア自転車ブームに乗って、上海、深圳と並んで三大自転車産地になった。中国北部で最大の自転車生産規模を誇っていた。

 だが、過当競争や放置自転車問題、保証金トラブルなどを理由に、5年経つとシェア自転車ブームは急激に色あせていった。それでも都市交通に自転車を呼び戻した功績は大きい。また、中国経済や文化に「シェア」という概念を持ち込んだことは大きな意味をもつ。

「相声」:天津の伝統文化が再び脚光を浴びる


 近年、中国では再び「相声」ブームが巻き起こっている。相声とは日本の「漫才」に似た中国の伝統的な大衆芸能の一つである。諸説あるが、「相声」はおよそ100年前に北京で生まれたとされ、その後天津で発達し、今や天津を代表する文化となっている。「相声」を含む天津の「無形文化財」は中国都市総合発展指標2022で全国第3位と好成績を誇る。

 一時は低迷した「相声」に再び脚光を浴びせた立役者が、天津出身の相声芸人・郭徳綱である。郭徳綱は伝統的な「相声」を現代風にアレンジし、ユーモアに溢れながらも世相を辛辣に皮肉ることで人々の心をつかんでいる。今や彼の人気は老若男女問わず高く、相声界のフロントランナーとして中国内外で活発な活動を展開している。郭徳綱は2017年夏、日本をはじめて訪れ、東京公演で在日華人らを爆笑の渦に巻き込んだ。好評のため翌2018年に再び東京公演を行い、ファンを増やしている。

 「相声」は2008年に中国の国家無形文化遺産に登録された。天津の歴史的な民俗文化と市民文化の象徴として、天津人の精神の拠り所ともなっている。

浜海新区文化センター:天津が誇る近未来的な図書館と社交空間


 天津市の経済開発区、浜海新区に2017年末、従来の中国の図書館のイメージを覆す公共図書館「浜海新区文化センター」がオープンした。新たなランドマークとなった同センターは、地上6階建てで高さは約29.6 メートル、総面積は3.4万 平方メートルにもおよび、開館時の蔵書数は20万冊で、収蔵能力は120万冊の規模を誇る。

 建物は流線形の近未来的なデザインで構成され、壁沿いには天井から床まで覆う階段状の書架がうねりながら棚田のように連続している。来館者は書棚の横を歩きながら自由に上下階を行き来できる。設計・デザインは、世界的に著名なオランダの建築設計会社「MVRDV」が手がけて話題を呼んだ。

 「浜海新区文化センター」の様子がネットで公開されるやいなや、国内外のさまざまなメディアが取り上げ、米国『タイム』誌は2018年の観光地ランキング「行く価値のある世界100カ所」の中で、「浜海新区文化センター」を映えある第1位にランク付けした。

 「公共図書館蔵書量」全国第9位の天津に相応しい「浜海新区文化センター」には、週末に平均1.5万人が訪れるという。もはや図書館だけの機能にとどまらず、世界中の人々を魅了する21世紀の社交空間としても存在感を増している。

天津進出30周年を迎えた伊勢丹


 日本の老舗百貨店伊勢丹が2023年、天津進出30周年を迎える。1993年オープンした上海淮海路店に続き、同店は中国第2号店である。当時、天津市政府側には、北京、上海に次ぐ中国第三の都市として国際的な百貨店を誘致したいとの意向があり、外資系大型百貨店としては同店が天津市で第1号となった。2013年には浜海新区に天津2号店もオープンしている。

 1992年の中国小売業の開放により、日系百貨店は早い段階から中国市場に進出した。

 参入初期、日系百貨店は売場、商品、販売サービスなどの面で消費者の支持を得て業績を伸ばしたものの、現在では業績不振が続き、撤退を余儀なくされる店も少なくない。中国の百貨店は全体として国内資本のパワーアップも相まって競争が激化し、消費者ニーズの変化や、日系店のeコマースへの対応も後手に回り、大いに苦戦を強いられている。

 伊勢丹も中国内の一部地域では業績が伸び悩んでいるものの、天津での売上は好調である。その強さの理由は、顧客満足度の高さだという。困難な時代を乗り越えていくために顧客情報の丁寧な分析を実施した。常に顧客ニーズに合った商品を展開し、店舗づくり、組織改革、商品開発などあらゆる面で、徹底的な改革を続けている。日本の百貨店が中国都市総合発展指標2022の「卸売・小売輻射力」第12位の天津で善戦を続ける現状は、小売業界の中国展開にひとつの示唆を与えている。


【武漢】新型コロナウイルス禍と最初に対峙したメガシティ【中国都市総合発展指標】第10位

中国都市総合発展指標2022
第10位



 武漢は中国都市総合発展指標2022総合ランキング第10位であり、前年度に比べ順位が1つ上がった。

 「社会」大項目は第10位であり、前年度の順位を維持した。3つの中項目で「生活品質」は第8位、「ステータス・ガバナンス」は第9位、「伝承・交流」は第11位と、3項目のうち2項目がトップ10入りした。小項目で見ると、「人口資質」は第7位、「都市地位」「消費水準」は第8位、「人的交流」「居住環境」「生活サービス」は第10位と、9つの小項目のうち6項目がトップ10に入った。なお、「文化娯楽」は第11位、「社会マネジメント」は第13位、「歴史遺産」は第35位であった。

 「経済」大項目は第11位であり、前年度の順位を維持した。3つの中項目で「経済品質」は第9位、「都市影響」は第10位、「発展活力」は第11位で、3項目のうち2項目がトップ10入りした。小項目では、「都市圏」は第8位、「イノベーション・起業」は第9位、「経済規模」「広域輻射力」は第10位と、9つの小項目のうち4項目がトップ10内に入った。「経済構造」「開放度」は第11位、「広域中枢機能」は第14位、「ビジネス環境」は第19位、「経済効率」は第26位であった。

 「環境」大項目は第10位となり、前年度に比べ順位が5位も上がった。3つの中項目の中で「空間構造」は第5位、「環境品質」は第52位、「自然生態」は第111位と、3項目のうち1項目がトップ10に入った。小項目では、「交通ネットワーク」「資源効率」は第5位、「コンパクトシティ」は第8位、「都市インフラ」は第9位と、9つの小項目のうち、4項目がトップ10入りした。「環境努力」は第35位、「気候条件」は第119位、「水土賦存」は第121位、「自然災害」は第187位、「汚染負荷」は第229位であった。

 中国都市総合発展指標2022について詳しくは、中心都市がメガロポリスの発展を牽引:中国都市総合発展指標2022を参照。


中部地域の最大都市


 湖北省の省都、武漢は中国中部地域の最大都市であり、新型コロナウイルスの試練に最初に向き合った都市として近年、国際的な注目を浴びた。

 武漢の総面積約は8,569平方キロメートルで広島県とほぼ同じ。その広大な総面積の4分の1が、琵琶湖の面積の約3.3倍となる水域である。

 近代の武漢は中国東西軸の長江と、南北軸の鉄道大動脈が交差する立地を背景に発展してきた。故に、交通のハブ機能が発達している。中国都市総合発展指標2022の「空港利便性」項目では中国第6位、「航空旅客数」は第12位である(詳しくは【ランキング】中国で最も空港利便性が高い都市はどこか?を参照)。「高速鉄道便数」は中国第9位で、「準高速鉄道便数」は第5位であった。

 2004年から新型コロナウイルス・パンデミック直前の2019年までの15年間、武漢のGDPは年平均12%を超える成長を実現した。2022年のGDPは約1兆8,866億元(約37.7兆円、1元=20円換算)で中国第8位、1人当たりGDPは13万7,320元(約275万円)となった(詳しくは【ランキング】世界で最も経済リカバリーの早い国はどこか? 中国で最も経済成長の早い都市はどこか?を参照)。

 武漢は、面積は湖北省の5.6%にすぎないものの、同省全体のGDPの約37.9%を占めている。2021年に湖北省における武漢の輸出額と輸入額のシェアは、それぞれ52.9%、75.3%に達している(詳しくは【ランキング】中国で最も輸出力の高い都市はどこか?を参照)。

ロックダウンでコロナ感染拡大を封じ込む


 武漢は新型コロナウイルスショックに世界で最初に向き合った都市であった。武漢は中国都市総合発展指標2022の「医療輻射力」ランキングで全国第7位の都市である。27カ所の三甲病院(最高等級病院)を持ち、医師約4万人、看護師5.4万人と医療機関病床9.5万床を擁する。しかしながら、武漢のこの豊富な医療能力が、新型コロナウイルスの打撃により、一瞬で崩壊した(詳しくは【レポート】新型コロナパンデミック:なぜ大都市医療能力はこれほど脆弱に?を参照)。

 よくも悪くも中国の医療リソースは中心都市に高度に集中している。武漢は1千人当たりの医師数は4.9人で全国の水準を大きく上回る。武漢と同様、医療の人的リソースが大都市に偏る傾向はアメリカや日本でも顕著だ。ニューヨーク州の1千人当たりの医師数は4.6人にも達している。東京都は人口1千人当たりの医師数が3.3人で、これは武漢より少なく、ニューヨークと同水準にある。

 しかし、武漢、ニューヨークはその豊かな医療リソースをもってしても、新型コロナウイルスのオーバーシュートによる医療崩壊を防ぎきれなかった。2020年末までは、中国の新型コロナウイルス感染死者数累計の83.5%が武漢に集中していた。その多くが医療機関への集中的な駆け込みによる集団感染や医療崩壊による犠牲者だと考えられている(詳しくは【ランキング】ゼロコロナ政策で感染拡大を封じ込んだ中国の都市力を参照)。

 武漢は2020年1月23日からの2カ月半にわたる都市封鎖(ロックダウン)で難局を切り抜けた。ゼロコロナ政策によって普段の日常を取り戻した。

 新型コロナウイルス禍と最初に対峙した都市が、医療リソースの豊富な武漢だったのは、ある意味、不幸中の幸いだったかもしれない。武漢における教訓は、新型コロナウイルス感染症に関する数多くの研究論文として昇華され、世界中でかつてない勢いで「知の共有」が進んでいる。

図 武漢ロックダウン期間における新規感染者数・死亡者数

出典:中国湖北省衛生健康委員会HPなどにより雲河都市研究院作成。

全土から集まった医療支援


 新型コロナウイルスのオーバーシュートが発生した当時、武漢に中国全土から多くの支援が集まった。感染者数の爆発的増大で、多くの医療スタッフも院内感染に巻き込まれ、医療従事者の大幅な不足状況が発生した。これに対処するため中国各地から大勢の医療従事者が応援に駆けつけ、その数は4.2万人にも達した。

 病床数の不足については、国の支援で、新型コロナウイルスの専門治療設備の整う「火神山病院」と「雷神山病院」という重症患者専門病院を10日間で建設し、前者で1,000床、後者で1,600床の病床を確保した。このほかに、武漢は体育館16カ所を軽症者収容病院に改装し、素早く1.3万床を確保し、軽症患者の分離収容を実現させた。これによって先端医療リソースを重症患者に集中させ、病床不足は解消された(当時の武漢の取り組みについて詳しくは「【論文】ゼロコロナ政策 Vs ウイズコロナ政策を参照)。

 こうした措置が武漢の医療崩壊の食い止めに繋がった。感染地域に迅速かつ有効な救援活動を施せるか否かが、新型ウイルスを封じ込める鍵となる。しかし、すべての国がこうした力を備えているわけではない。ニューヨーク、東京の状況からみても、医療リソースがかなり整う先進国でさえ救援動員はなかなか難しいことが分かる。

人口引き留め政策


 武漢は約1,374万人の常住人口を抱え、中国第8位の都市人口規模を持っている。人口の流出入を示す「人口流動(非戸籍常住人口)」では、湖北省内12都市のうち10都市で、人口が他都市へ流出している。これに対して武漢は、流動人口が約431万人の大幅プラスにあり、全国で第9位の人口流入都市となっている。

 一方、武漢は89の大学、95の科学研究所、130万人弱の大学生を抱えながら、大卒者のうち同市に残る者は5分の1にも満たない。そこで、2017年、武漢市政府は向こう5年間で大卒者100万人を同市内に引き留めるプロジェクトを発表した。これにより、同市の大卒者は市場価格を2割下回る値段で住宅を購入できるか、あるいは市場価格を2割下回る価格で住宅を借りられる。さらに、最低年収の設定、就職の斡旋、起業のサポートなど「大卒者に最も友好的な都市」へ向けたさまざまな政策を打ち出した。経済のグローバル化と知識集約型産業が進展していくなかで、中国の各都市間の人材の育成と獲得競争が激しくなっている。

青山長江大橋の建設


 武漢は、長江と漢江によって「武昌」「漢口」「漢陽」という3つの地域(武漢三鎮)に分けられる。3つの地域間を多くの橋がつなぎ、大都市の大動脈として機能している。1957年10月、全国で初めて長江の両岸をつないだのは武漢長江大橋であった。2020年末には両岸をつなぐ11本目の青山長江大橋が開通した。都市インフラに積極的に投資してきた武漢は、橋の建設を進め、橋の数が増えるごとに都市の一体化も進んだ。

 中国都市総合発展指標2022によると、武漢は「環境」の「固定資産投資規模指数」が中国第5位である。「橋の武漢」と称されるように、橋の景観は武漢に多彩な表情をもたらしている。

中国で3番目に高いビル「武漢緑地中心」を建設


 世界中で超高層ビルの建設ラッシュが起こっている。高層建築ブームの先頭をいく中国で近年最も注目されているのが、2011年から建設が始まった「武漢緑地中心(Wuhan Greenland Center)」である。竣工予定は2023年末で、総投資額は300億元(約6,000億円)以上になるという。完成すると高さ595メートル、延床面積約300万平方メートルの、世界で7番目に高いビルとなる。ブルジュ・ドバイや上海金茂タワーなど、世界で最も有名な超高層ビルの設計を数多く手がける建築設計チーム「Adrian Smith + Gordon Gill Architecture」が担当した。五つ星ホテル、高級ショッピングモール、オフィス、高級マンションを備えた超高層複合都市を目指している。

 世界の建築専門家らが編集する「高層ビル・都市居住評議会(CTBUH)」のレポートによると、中国は超高層ビルの竣工面積が最も多い国となっている。現在、世界で建設された超高層ビルトップ100のうち、43棟が中国にある。


【南京】知識産業化が進む「十朝都会」【中国都市総合発展指標】第8位

中国都市総合発展指標2022
第8位



 南京は中国都市総合発展指標2022総合ランキング第8位であり、前年度の順位を維持した。

 「社会」大項目は第6位であり、前年度に比べ順位が1つ上がった。3つの中項目で「伝承・交流」は第4位、「生活品質」は第6位、「ステータス・ガバナンス」は第11位と、3項目の中で2項目がトップ10入りを果たした。小項目で見ると、「歴史遺産」は第4位、「人口資質」「人的交流」「消費水準」は第6位、「都市地位」「文化娯楽」「居住環境」「生活サービス」は第7位と、9つの小項目のうち8項目がトップ10入りした。なお、「社会マネジメント」は第27位であった。「社会」の成績は、全体的に高い結果となった。

 「経済」大項目は第10位であり、前年度の順位を維持した。3つの中項目で「都市影響」は第8位、「発展活力」は第9位、「経済品質」は第10位で、3項目すべてがトップ10入りを果たした。小項目では、「経済効率」は第6位、「イノベーション・起業」「広域輻射力」は第7位、「広域中枢機能」は第8位、「経済構造」「ビジネス環境」は第9位と、9つの小項目のうち6項目がトップ10入りした。なお、「経済規模」は第12位、「都市圏」は第16位、「開放度」は第17位であった。「経済」の成績は、各項目ともに全体的に高かった。

 「環境」大項目は第17位となり、前年度の順位を維持した。3つの中項目の中で「空間構造」は第9位とトップ10入を果たしたが、「環境品質」は第56位、「自然生態」は第136位であった。小項目では、「交通ネットワーク」は第6位、「都市インフラ」は第8位と、9つの小項目のうち、2項目がトップ10入りした。なお、「コンパクトシティ」は第11位、「環境努力」は第17位、「資源効率」は第33位、「自然災害」は第43位、「気候条件」は第130位、「汚染負荷」は第151位、「水土賦存」は第195位であった。

 中国都市総合発展指標2022について詳しくは、中心都市がメガロポリスの発展を牽引:中国都市総合発展指標2022を参照。


 南京は江蘇省の省都であり、同省の政治、経済、科学技術、教育、文化の中心である。長江の入江から380キロメートルに位置し、長江下流の南岸に面しているポジションから、南京には古くから王朝の都が数多く設けられてきた。「南京」とは「南の都」という意味で、面積は6,587平方キロメートル、栃木県と同程度の規模である。

 最初に南京に都を構えたのは、約2,800年前、春秋時代の呉国である。その後、東晋、六朝、南唐、明といった王朝が南京を帝都と定め、「十朝都会」と呼ばれた。太平天国や中華民国統治時代にも都となっていた。14世紀から15世紀にかけては、世界最大の都市として栄華を誇った。

 南京は、古来より戦略的な要所とされていた。そのため、同市には今も立派な城壁がそびえ立っている。明の時代には、全長約35キロメートル(山手線の1周分に相当)、高さ14〜21メートル、13の城門という巨大な城壁が市内を囲むように建設された。

知識産業化が進む南京


 中国都市総合発展指標2022より、2022年に南京のGDPは1兆6,908億元(約33.8兆円、1元=20円換算)に達し、中国で第10位、1人当たりGDPは198,257元(約397万円)で中国第9位となった(詳しくは【ランキング】世界で最も経済リカバリーの早い国はどこか? 中国で最も経済成長の早い都市はどこか?を参照)。

 南京の経済規模では同省内の蘇州(中国第6位)に劣るものの、省都としての立場を活かし、教育・科学技術の集積と人材ストックをベースにした知識産業を発展させている。中国の科学技術分野の最高研究機関である中国科学院と技術分野の最高機関である中国工程院のメンバーの輩出度合いを示す「中国科学院・中国工程院院士指数」は中国第3位で、研究開発人材の蓄積が実に分厚い。

 従業員数を比較するとそれは顕著である。例えば、製造業の従業員数は南京が約40万人、蘇州が約182万人であり、蘇州は工業都市としての側面が強い(詳しくは【ランキング】中国で最も輸出力の高い都市はどこか? を参照)。対照的に、IT関係の従業員数は南京が約18.7万人、蘇州が約4.1万人である。特に南京はソフトウェア産業において、北京、上海、成都、深圳、広州に続く中国で6番目の規模を持つ(詳しくは、【ランキング】中国IT産業スーパーシティはどこか?を参照)。但し、研究開発要員数は南京が約12.9万人、蘇州が約15.9万人であり、蘇州の研究開発要員数が南京を上回る。かつては南京の科学技術力が蘇州より高かったが、いま製造業スーパーシティ蘇州が工業力をベースに、科学技術力を高めている(詳しくは「【ランキング】科学技術大国中国の研究開発拠点都市はどこか?」を参照)。

製造業スーパーシティ蘇州に勝る省都南京の中心都市機能


 製造業スーパーシティ蘇州に経済規模で抜かれたとはいえ南京は、中心都市としての力がなお強い。南京は文化教育都市として名高く、市内には南京大学、東南大学、南京師範大学など、創立100年以上の歴史を持つ名門大学が肩を並べ、国から重点的に経費が分配される「国家重点大学(211大学)」は8校も有する。中国都市総合発展指標2022より、「中国都市高等教育輻射力」は南京が中国第3位で、蘇州が同第30位である。

 「中国都市文化・スポーツ・娯楽輻射力」では、南京が中国第5位、蘇州が同第13位(詳しくは【レポート】中日比較から見た北京の文化産業を参照)。ただし、「映画館・劇場消費指数」では南京が中国第10位、蘇州が同第9位となっており、若者の多い蘇州が南京を上回る(詳しくは【ランキング】世界で最も稼ぐ映画大国はどこか?を参照)。

 医療面においては、「中国都市医療輻射力」は南京が中国第8位と、蘇州の同第35位を大きく引き離している(詳しくは【レポート】新型コロナパンデミック:なぜ大都市医療能力はこれほど脆弱に?を参照)。

 南京は中国の一大交通ハブでもある。「空港利便性」では南京が中国第10位、蘇州が同第192位(詳しくは【ランキング】中国で最も空港利便性が高い都市はどこか?を参照)。「鉄道利便性」では南京が中国第4位、蘇州市が同第12位である。

 他方、上海、深圳、香港のメインボード(主板)市場に上場している企業の総数(2022年末)は、南京は99企業で中国第7位、蘇州は116企業で同第6位であり、本社機能では蘇州に抜かれた。


ユネスコ「文学都市」


 2019年10月、ユネスコは、新たに66の都市を「ユネスコ創造都市ネットワーク」として選出し、南京がアジアで3番目、中国では初となる「文学都市」に選ばれた。

 2004年、ユネスコは「創造都市ネットワーク」を設立した。文学、映画、グルメ、デザインなどの7分野に分け、世界の都市間でパートナーシップを結び、国際的なネットワークを作っている。2022年末には世界295の都市が参与している。中でも「文学都市」は現在、42都市が選出されている。その多くは欧米の都市が占め、アジアでは、南京の他に韓国の富川と現州、パキスタンのラホール、インドネシアのジャカルタが選出されている。残念ながら、「文学都市」ではまだ日本の都市は選出されていない。

 中国都市総合発展指標2022によると、南京は「社会」項目の「傑出人物輩出指数」、「傑出文化人指数」ランキングでそれぞれ中国第4位、第5位である。古来より文化資源が豊富で、文人が多く集った。中国最初の詩歌の評論「詩品」が南京で編まれたほか、中国最初の文学評論の「文心雕龍」が編さんされ、最初の児童啓蒙書「千字文」、現存最古の詩文総集「昭明文選」などが、南京で誕生した。中国初の「文学館」も南京に設立された。

 「紅楼夢」、「本草網目」、「永楽大典」、「儒林外史」に代表されるように、南京にゆかりのある中国古典作品は1万作以上ある。

 魯迅、巴金、朱自清、兪平伯、張恨水、張愛玲など近代の文豪も南京とつながりが深い。アメリカのノーベル文学賞受賞作家、パール・バックは、代表作「大地」を南京で創作した。

 「文学都市」の選出には、出身作家数など以外にも、文学を育む都市の環境も重視され、出版文化、書店文化、図書館の整備、市民の読書量なども評価対象である。南京は〈中国都市総合発展指標〉の「公共図書館蔵書量」ランキングで中国第7位にランクインした。

 CNN、BBCなどから「世界で最も美しい書店」と評価された「南京文学客庁」といった24時間営業の書店は、新たな文化スポットとして、市民に人気が高い。市内の公園、観光スポット、デパート、ホテル、地下鉄などに無料の読書スペースが150カ所以上設けられ、読書文化を盛り上げている。

人材争奪戦に励む


 南京の豊かな文化の香りは、市民の教育水準の高さに因るものが大きい。中国都市総合発展指標2022において、市民の教育水準を示す「人口教育構造指数」は中国第6位である。

 中国も日本と同様、労働者人口の増加がピークを過ぎ、高齢化社会が迫る中、都市の発展のカギを握る有能な若手人材の争奪戦が、全国の都市間でヒートアップしている。

 中国では2022年の大学卒業生が前年比167万人増の1,076万人と、初めて1,000万人を超え、過去最高を更新した。この中で注目されたのは、北京の大学・大学院卒業生28.5万人のうち、修士・博士課程の大学院卒業生数が、全国で初めて学部の卒業生数を超えたことである。他の都市でも同様の傾向が見られ始め、中国の名門大学である上海交通大学、華東師範大学、西安交通大学でも、大学院の卒業生数が学部生を上回る現象が起きている。南京の名門校である南京大学においても、2022年卒業者は9,563人で、そのうち学部卒業生は33%で全体の三分の一となった。

 南京市政府は、大学卒業生という高度人材の若者たちをそのまま市内に定住させるために、市内定住のハードルを低くし、家賃補助や起業補助を普及するなど、さまざまな政策を打ち出している。南京市政府の積極的な取り組みが、人材育成や都市発展において他の都市にも影響を与え、全国的な人材争奪戦の激化が続くと予想される。

中国三大博物館のひとつ南京博物院


 古都・南京には、中国三大博物館のひとつ「南京博物院」がある。北京故宮博物院、台湾故宮博物院と肩を並べる存在となっている。

 南京博物院には、「南遷文物」といわれる元は北京故宮博物院にあった文物を所蔵している。日中戦争の戦火を避けるため、1933年、北京故宮博物院から木箱で2万個といわれる大量の文物が南京博物院(当時は中央博物院)に移送された。南京に戦火が及ぶと、文物は重慶に移されたが、戦後再び南京に戻った。だがその後国共内戦の混乱の中、3千箱が台北に運ばれ、7千箱が北京の故宮博物院に戻された。現在、台北の故宮博物院が所蔵する至宝はこのときに運ばれた文物である。大陸に残った物のうち1万箱が南京博物院にあり、「南遷文物」と呼ばれる。

 中国都市総合発展指標2022では、南京は「社会」項目の「博物館・美術館」ランキングは中国第10位であり、市内には一級の博物館が5館、二級は4館、三級は5館、無級は48館の合計62館が存在している。南京訪問の際は、名勝見物と併せて博物館巡りを行えば、より中国の歴史文化への理解が深まるだろう。