【コラム】横山禎徳:中心都市の「移動」戦略


横山 禎徳
県立広島大学経営専門職大学院経営管理研究科研究科長、東京大学総長室アドバイザー、マッキンゼー元東京支社長


 ロシアのプーチン大統領が、かつてサンクトペテルブルグの副市長で、まだ無名であった時、初めて日本に来た。彼は日本の新聞記者にいつものありきたりの質問、すなわち、日本の印象はどうかと聞かれて、「都市に切れ目がない」と答えた。それを聞いてとても新鮮に感じたことを覚えている。たぶん、東海道新幹線の車窓から外を眺めての感想であろう。

 確かにロシアでは都市と都市の間はうっそうとした森林であることが多い。しかし、日本では、俗に言う東海道メガロポリスという国土の10%に満たない地域に約半分の人口が住んでいる。人工衛星からとった夜の日本列島の写真を見ると、東京-名古屋-大阪間の地域がひときわ煌々と輝いているのが見て取れる。

 また、筆者は1時間程度の通勤圏をGTMA(Greater Tokyo Metropolitan Area)と定義しているが、そこには日本の人口の3割程度が住み、日本のGDPとPFA(Personal Financial Asset:個人金融資産)の4割程度が集中している。都市化が世界中で進んでいるというのは周知の事実だ。しかし、これほどの巨大な都市圏が出現するとはだれも想像していなかったかもしれない。

 東海道メガロポリスとGTMAの形成を促進したのは交通システムの貢献が大きいであろう。20世紀の初頭、それまでの折衷主義のアンチテーゼとして機能主義が主張された。様式よりも機能を重視すべきだという主張である。その際、都市の機能は「住む」「働く」「遊ぶ」という考えが提示された。しかし、オーストラリアの首都キャンベラなどの経験をもとに、この3つでは魅力的な都市はデザインできないということが明白になった。その問題に答える模索が行われた。20世紀の半ば頃、都市の機能はもっとあるのではないかということが言われ、日本では磯崎新が「出会う」、黒川紀章が「移動する」を都市の機能に加えるべきだと主張した。その後、「出会う」は大阪万博の「出会いの広場」で見事に失敗した。一つのパビリオンから次のパビリオンに急ぐ多くの入園者はその広場を対角線に突っ切るだけで、人と人は出会わなかったのである。

 しかし、黒川紀章の主張した「移動する」は確かに都市の重要な機能であるかもしれない。東海道メガロポリスでは東海道新幹線、GTMAではJR山手線がその機能を担っているのではないだろうか。東海道新幹線は汽車ではなく、それまでに世界に存在していなかった、すべての車両にモーターが付いている高速電車システムという技術革新であったが、JR山手線はとりわけ新しい技術ではなかった。しかし、哲学的と言ってもいい発想の転換であった。すなわち、CBD(Central Business District)という都市活動の中核を「点」から「円」に拡大したのである。それによって、東京は物理的なサイズがそれほど大きくないにもかかわらず、都市の活動の多様性と密度が拡大したのである。その意味で、世界の都市デザインにおける成功例の一つであろう。

 東京のCBDは明治以降、東京駅と皇居の間の丸の内地区であった。その後、郊外に拡大していく通勤客を対象にした私鉄が勃興した際、すべての私鉄は東京駅に乗り入れることを望んだのである。それに対して、当時の鉄道省は、お雇い外国人であったドイツ人技師が提案し、お蔵入りになっていた、皇居の周りにある東京駅、東北本線の上野駅、中央本線の新宿駅、東海道本線の品川駅という当時の既存の駅を環状に結んだ山手線の案を思い出し、私鉄各社に、東京駅ではなく、この環状線のどこかに接続するように命じたのである。それによって、既存の駅に加えて、新たに池袋、渋谷、大崎などの駅が追加のモーダルチェンジ・ポイント、すなわち、国鉄と私鉄との乗換駅として出現した。そして、それらの駅の周辺が経済活動密度の高い拠点となったのである。すなわち、普通は都市に一つしかないCBDが沢山できたことになった。

 山手線は一周が1時間である。ということは目的の駅まで30分以内に行けるということであり、心理的に許容できる範囲である。しかも環状であるから終点がなく、乗降客数も確保しやすい。ちなみにボストンは20世紀初頭には最高の地下鉄網を持っていたが、その後1960年代まで衰退を続けていた。末端の支線の乗降客が確保できなくなり廃止になるとその先につながっている本線の客も減るという悪循環に陥っていたのだ。その後回復基調にあったが、井桁状にCBDで交差する4つのラインのうち、ハーバード・スクエアを終点としていたレッド・ラインを延長し、環状線とした。自動車中心の都市化を進めてきたアメリカの都市としては珍しい展開だ。しかし、東京のようなモーダルチェンジ・ポイントとしての機能はないという意味で都市の展開は違うようだ。

 このような「移動する」という機能の大発展が都市にもたらしているのが大気汚染である。これはどこの大都市でも大問題だ。東京に比較的その問題が少ないのは、1970年代に排ガス規制を進めたこともあるが、基本的にはモーダル・チェンジがうまく機能するマス・トランスポーテーションが発達していることの貢献度が高いからだろう。しかし、ドア・トゥ・ドアの便利さはなく、通勤地獄の抜本的解消もむつかしい。しかも、今の規模のGTMAにとっては環状線が円ではなく点に近くなっているという制約が出てきている。

 今後は都市の大気汚染の対策として電気自動車を推進するのであろうが、「電気自動車」ではなく、からEPMS(Electric People Mover System)ととらえるべきであろう。自動車の概念にとらわれた、現在の自動車中心の交通システムにおける道路網を前提にするのではなく、もっと自由なライト・オブ・ウェイを活用する交通システムになるであろう。それによって、ドア・トゥ・ドアの利点と、マス・トランスポーテーションの便利さとを連結し、しかも、排気ガスのない都市内、都市間交通網が出来上がってくるであろう。新たなモーダルチェンジ・ポイントも出現し、そこで出来上がる都市の活動ミックスも大きく変わるかもしれない。そのようなことを組み込んだ都市デザインの革新が求められている。


 モータリゼーションがかつてアメリカにおいてCBDの衰退とドーナツ現象を引き起こしたことは記憶に新しい。ここで言うEPMSはそれを避けることができるのであり、そのようにEPMSの展開をもとに都市の中心部であるCBDの変革をデザインし、それらの多くのCBDが東京の環状線とは異なった形態の拡大可能なネットワークを組むように発展を続けていくように仕組むことで、広域経済活動の健全な拡大を進めることができるであろう。


(『環境・社会・経済 中国都市ランキング 2017―中心都市発展戦略』に収録


プロフィール

横山 禎徳 (よこやま よしのり)

 1942年生まれ。東京大学工学部建築学科卒業、ハーバード大学デザイン大学院修了、マサチューセッツ工科大学経営大学院修了。前川國男建築設計事務所を経て、1975年マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社し、同社東京支社長を歴任。経済産業研究所上席研究員、産業再生機構非常勤監査役、福島第一原発事故国会調査委員等を歴任し、2017年より現職。

 主な著書に『アメリカと比べない日本』(ファーストプレス)、『「豊かなる衰退」と日本の戦略』(ダイヤモンド社)、『マッキンゼー 合従連衡戦略』(共著、東洋経済新報社)、『成長創出革命』(ダイヤモンド社)、『コーポレートアーキテクチャー』(共著、ダイヤモンド社)、『企業変身願望−Corporate Metamorphosis Design』(NTT出版)。その他、企業戦略、 組織デザイン、ファイナンス、戦略的提携、企業変革、社会システムデザインに関する小論文記事多数。

【コラム】森本章倫:コンパクトシティとスマートシティ


森本 章倫
早稲田大学教授、博士(工学)


1.未来都市の形

 未来都市とはどのような都市像を思い描くであろうか。エベネザー・ハワードは1898年に理想的な都市として、住宅が公園や森に囲まれた緑豊かな田園都市を提唱した。また、ル・コルビジェは「輝く都市」(1930年)の中で、林立する超高層ビル群とそれによって生み出されたオープンスペースによる都市像を示した。全く異なる都市像ではあるが、どちらも当時の急激な都市化によって生じた都市問題を解決する手法として提案された。それから1世紀近くが経過し、当時提唱された都市像は、現在の大都市の都心部や郊外都市などでその片鱗をうかがうことができる。

 20世紀の都市では、産業革命以降の様々な科学技術の進歩が都市の生産性を大幅に向上させ、急激な人口増加や都市部への人口流入が続いた。特に自動車の出現は、人々の日常生活を大きく変化させ、緑豊かな郊外に向けての住宅開発が豊かな都市生活を実現させた。しかし、一方で郊外への無秩序なスプロールは、都市構造にも大きな影響を与えた。過度に自動車に依存した都市では、道路渋滞や交通事故などの交通問題が大きな社会問題として捉えられ、現在でもその解決策が講じられ続けている。その対策はかなり早い段階で議論され、例えば近隣住区論(1924年)では、自動車を前提とした安全な居住地区の整備が提案された。その後も自動車と居住環境の望ましい関係を模索する様々な都市像が提案され、世界各地で多くのモデル地区が出現している。

 21世紀に入り、我が国の人口増加はピークに達し、人口減少時代を迎えている。また、環境問題が地球規模で議論されるようになり、理想的な都市像にも変化が見られる。特に、現在の都市政策に大きな影響を与えているのは、1987年に国連のブルントラント報告のなかで推奨された持続可能な開発の都市モデルである。過度な自動車社会から脱却し、魅力的な都心を形成し、公共交通や徒歩で暮らすことができるコンパクトなまちづくりが進行している。

2.コンパクトシティ政策

 コンパクトシティは行き過ぎた自動車社会に対して、人と環境にやさしい歩いて暮らせる持続可能な都市モデルとして注目を集めている。その定義は様々であるが、総じて以下のような要素を含んだ都市を示す。

 (密度)一定以上の人口密度を保ち、市街地の効率性を高める。
 (空間)一定エリアに機能集約させ、街中の賑わいを創出する。
 (移動)公共交通を活用して、歩いて暮らせる街をつくる。
 (資源)既存の資源を上手に活用し、歴史やコミュニティを大切にする。

 一方で、日本におけるコンパクトシティは少し異なる文脈のなかで必要性が語られている。その一つは急激に訪れる人口減少社会への対応である。2050年までに総人口の23%が減少すると予測されており、20世紀の人口増加期に拡大した市街地を上手に縮退させて持続可能にすることが、都市行政として急務とされている。超高齢化社会で生産年齢人口が減少し、都市インフラの維持管理に関する財政負担は予想以上に大きい。

3.スマートシティ

 一方で、科学技術を活用した新しいまちづくりも模索されている。その一つがスマートシティであり、ICT等の新技術を活用しつつ、全体最適化が図られる持続可能な都市または地区と定義できる。

図5 スマートシティの系譜と事例

 もともとスマートシティの概念は、電力の流れを最適化するスマートグリッドのように、エネルギーの効率利用の視点から、2010年頃から民間企業を中心に広がり始めた。特定の分野特化型の取り組みからスタートしたが、近年では環境、交通、エネルギー、通信など分野横断型の取り組みが増えている。国家主導の「Smart Nation Singapore」や、官民連携としてカナダ・トロントの都市開発プロジェクト「Sidewalk Toronto」など多くの事例が出現している。

 スマートシティとコンパクトシティは何が異なるのか? 2つの都市モデルを多様な視点から比べてみるとその特徴が見えてくる。まず、コンパクトシティは都市空間を対象としているのに対して、スマートシティは主として情報を対象としている。前者は現実空間に実在するため見ることができるが、後者は仮想空間での情報の動きなので目に見えない。コンパクトシティは計画・マネジメントを通して都市空間の縮退を目指すのに対して、スマートシティは情報技術(Connected Technology)を駆使して、市場の拡張がベースとなっている。どちらも持続可能な社会を目指す点では一致するが、その方法等は大きく異なっている。

図6 コンパクトシティとスマートシティの比較表

4.新しい都市像に向けて

 コンパクトシティもスマートシティにも共通する指標として「シェア」がある。市街地を一定のエリアに集約して、都市空間を上手に共有(シェア)するのがコンパクトシティである。人口密度を一定のレベルに保つことは、居住空間の効率的な利用を促していると解釈できる。また、道路空間も私的なマイカーが占有するのでなく、バスや路面電車などの公共交通を利用することで移動空間を効率的にシェアすることになる。つまり、コンパクトシティではシェアによって居住や移動など様々な都市活動の効率性を高めている。

 スマートシティでは情報を対象に、ICT技術を活用して情報をシェアすることで、都市活動の効率性を上げる。エリアレベルでのエネルギーの相互利用や分野横断的な取り組みも、異なる業態の情報シェアがカギとなっている。例えば、移動時の情報シェアはMaaS(Mobility as a Service)のような統合型交通サービスを可能とする。

 換言すると空間シェアをすすめるコンパクトシティと、情報シェアをすすめるスマートシティの融合が、新しい都市像を生み出していく。歩いて暮らせる範囲にコンパクトな都市空間が形作られ、その空間は定時性を確保した魅力的な公共交通がつないでいく。集約エリアの周辺には緑豊かな市街地や田園風景が広がり、自動運転車がエリアの拠点までの足となる。移動は統合的な交通サービスの中で行われ、様々な交通手段を上手にシェアすることで、交通インフラ全体の効率化と環境負荷低減に寄与する。平常時も非常時もシームレスな情報ネットワークで、都市生活の安全性と快適性を確保する。こんな未来都市の実現がもう近くまで来ているのかもしれない。


(『環境・社会・経済 中国都市ランキング 2017―中心都市発展戦略』に収録


プロフィール

森本 章倫 (もりもと あきのり)

 1964年生まれ。早稲田大学大学院卒業後、 早稲田大学助手、宇都宮大学助手、助教授、教授、マサチューセッツ工科大学(MIT)研究員などを経て、2014年より早稲田大学教授。現在、日本都市計画学会副会長、 日本交通政策研究会常務理事なども務める。博士(工学)、技術士(建設部門)。

【コラム】李昕:「集中化」と「分散化」のバランスを如何に

李 昕

北京市政府参事室任主任、中国科学院研究員(教授)、経済学博士


 初めて都市計画に関わったのは、10数年前のことであった。筆者はカナダから帰国し、北京市環境局に入局、当時中国国家建設部(省)大臣であった汪光焘先生が指揮した「北京都市計画と気象条件および大気汚染との関連性に関する調査」に加わった。その後、「北京および周辺五都市における2008年オリンピック大気質量保障措置の研究と制定」を取りまとめた。

 工業化と都市化の急速な進展により、北京では人口が激増し、交通渋滞、水資源の枯渇、公共サービス供給不足と治安問題の頻発などで「都市病」が露呈した。2013年以来、PM2.5によるスモッグの頻発は、人びとの日常生活に一層甚大な被害を与えた。友人の中には汚染問題で国外に移住していった者もいた。

 このとき、北京市門頭溝区の副区長を務めていた筆者は、都市大気汚染低減のため、再び都市計画に取り組むこととなった。エコシティの国際的な事例を参考に、北京市門頭溝区のために、経済発展、社会進歩、生活レベル、資源負荷、環境保護の5つの角度から、34項目の年度発展審査指標を作り、生態優先型経済発展を推し進める総合評価体系を制定した。

 2014年末にはドイツを研究訪問し、都市計画専門家との交流セミナーで、彼等が詳しく述べていた「分散化」のドイツの都市発展モデルに、深い印象を受けた。これは、少数のメガロポリスに人口と経済活動が集中する中国の発展モデルとは明らかに異なっていた。

 2016年に偶然の巡り合いで、幸運にも中国都市総合発展指標2016の出版発表会に参加し、著者の周牧之教授、徐林司長、そして各項目担当の専門家等と知り合った。その後続けて彼らに教えを受け、師としてまたよき友として、お付き合い頂いている。

 周牧之教授は、工業化後発国は都市化において往々にして大都市発展モデルを歩む傾向があるとし、特に第二次世界大戦後、それが世界の趨勢となっていると、述べている。都市の集積効果は、経済発展効率を高め、豊富な都市生活をもたらす。とりわけ、メガロポリスのような大規模高密度の人口集積が、異なる知識と文化を背景とする人々の交流の利便性を高め、知識経済とサービス経済の生産効率を上げる。

 都市病は「過密」がもたらしたものであるとされるのに対して、周牧之教授は「過密」の本質こそが問われるべきだと問題提起している。いわゆる「過密」の原因は都市インフラとマネジメント力の不足にあると言う。

 周牧之教授は東京大都市圏を事例に「過密」問題を解説した。戦後、東京大都市圏が過密問題によりもたらされた大都市病に難儀し、いまの北京と近い発想で、工業や大学などの機能を制限した。しかしインフラ整備を進めた結果、都市圏の人口規模は拡大したにもかかわらず、いわゆる「都市病」は殆ど問題にされなくなった。これは北京の将来を考える際に非常に大切な示唆である。

 周牧之教授は4年以上の時間をかけて、内外の専門家を集め、各国の都市化発展の経験と教訓とをもとに、都市発展を評価する指標作りを試みた。議論を重ね、環境、経済、社会の3つの軸から、中国都市総合発展指標を作り上げた。同指標体系は開放的で、時代の要求に応え、進化可能なシステムである。指標の数は2016年の133項目から、2017年には175項目へと増加した。

 さらに、統計データだけではなく、最新の技術を駆使して衛星リモートセンシングデータやビックデータを大量に取り入れ、GIS技術を活用し、中国の地級市以上の全297都市の分析を行った。このような取り組みは中国では初めてのことである。よって中国の都市は、初めて環境、経済、社会の3つの軸で診断ができるようになった。様々な指標で都市のパフォーマンスが明らかになったことで、都市の課題と潜在力を浮かび上がらせ、より戦略的に都市の発展方向性を定められる。おそらくこれによって中国の都市計画レベルを一気に向上させることができるだろう。

 中国都市総合発展指標から地域ごとの発展も評価できる。これによって、中国の東部、中部、西部地域の都市化進展の違いが確認できた。さらに同指標の2016年のメインレポート(『中国都市ランキング』第5章)では珠江デルタ、長江デルタ、京津冀、成渝の4つのメガロポリスの発展特徴を分析し、その将来性を予見した。同指標を活用し、中国の地域政策も大きく進化するだろう。

 中国都市総合発展指標2017において北京は首都の優位性で連続2年総合ランキングの首位に立った。北京と天津2つのメガシティを中心に、京津冀というメガロポリスも形成された。

 しかし京津冀は、その高密度人口集積に必要なインフラ整備、公共サービス、マネジメント力に欠け、水資源の不足、大気汚染や交通渋滞など都市病の困惑の中にある。
 これに対して北京は、副都心建設を推進し、一部の行政機能などを通州などの周辺地域に移し、過密問題緩和を図ろうとしている。また、雄安新区の設立も、「分散化」の一環としてとらえられるだろう。

 しかし、北京そして京津冀メガロポリスの発展にとっては、中心機能の強化も極めて大切である。「集中化」と「分散化」のバランスを如何に図るかが肝要である。そのために中国都市総合発展指標を活用し、これらの取り組みを常に評価し、軌道修正していくことが必要である。


(『環境・社会・経済 中国都市ランキング 2017―中心都市発展戦略』に収録


プロフィール

李 昕(Li Xin)

 1968年生まれ。中国社会科学院大気物理所副研究員、研究員(教授)を経て、2004年北京市環境保護局に入局、副総技術師兼科学技術国際協力部部長、環境観測部部長、大気環境管理部部長を歴任。2010年北京市門頭溝区副区長、2017年中国人民政治協商会議北京市委員会副秘書長を経て、現職。中国科学院大気物理所研究員(教授)、北京大学環境科学工程学院教授を兼任。

北京市

CICI2016:第1位  |  CICI2017:第1位  |  CICI2018:第1位  |  CICI2019:第1位


行政副都心計画と人口抑制政策

 首都・北京市は、中国の政治、経済、教育、文化の中心地であり、四大直轄市の1つである。7つの世界遺産や胡同と呼ばれる明・清時代の路地を残した街区等、多くの歴史的建造物が存在し、一方では現代的な高層ビルが次々と建設され、新旧が入り交じった独特の街並みを形成している。2008年には夏季オリンピックが開催され、2022年には冬季オリンピックが開催予定である。北京市の常住人口は2,152万人で、2010年からの4年間で約191万人も増加した。世界屈指のメガシティである。

 一方、慢性的な交通渋滞や水不足、大気汚染等「大都市病」に対する1つの解決策として、2015年11月、北京市政府は行政機能を同市郊外の通州区に移転させる「行政副都心」建設計画を発表した。2020年までに北京市内6区全体の人口を15%削減することを目標としている。

 また、2017年9月、市政府は「北京市総体計画(2016—2035年)」を発表し、人口抑制政策を大々的に打ち出した。2020年までに同市の常住人口を2,300万人に抑え、2020年以降は長期的にその水準を安定させるとしている。

 2017年11月、北京市は、出稼ぎ労働者が多数住むエリアでの火災事件を契機に、違法建築を取り壊すなどして10万人から数十万人の出稼ぎ労働者らを市外へ追い出し、物議を醸した。同市政府発表によると、2017年末の北京市の常住人口は1997年以来、20年ぶりに減少した。

(2016年度日本語版・トップ10都市分析)


市庁舎が副都心に正式移転

 2019年1月、北京市政府の庁舎が市の中心部から通州区の行政副都心に正式に移転した。副都心は天安門広場から南西約25キロに位置し、すでに市政府の一部機能が移転を終えており、新たな所在地では、移転した当日に業務が始まった。

 北京では首都機能および市の行政機能の一極集中が課題とされ、その是正が議論されてきたが、この度、副都心の建設によって市政府行政機能の分散化が実現した。河北省で建設が進む「雄安新区」もその流れを後押ししている。北京都心、通州副都心、雄安新区、の3エリアを核とし、京津冀(北京・天津・河北)メガロポリスの一体化的な発展を目指している。

 問題は本来、北京市民のための市政府機能が人口集中地区から離れた遠隔地に移され、大きな弊害が起こり得ることである。また、市政府に勤務する人々も、長い通勤時間を強いられる。

 2019年末には通州副都心に直結する地下鉄も試験営業を開始し、2020年3月には、「2020年北京副都心重大工程行動計画」が発表され、総投資額約5,225億元(約7.8兆円、1元=15円として計算、以下同)を費やし、インフラや生活環境の整備など197の重大プロジェクトを推し進めると発表された。 

 北京では人口抑制政策が行われており、〈中国都市総合発展指標2018〉では、北京の「常住人口規模」は全国第3位であったが、2018年の常住人口データでは、2017年に比べて人口は16.5万人減少した。

 現在、東京、ロンドン、パリ、ニューヨークなど世界の大都市の中心部が、再開発によって大きく変貌し「再都市化」が進む中、北京では逆行するように「反都市化」の動きを見せている。

(2018年度日本語版・トップ10都市分析)


ユニバーサル北京リゾートが間もなく開業

 2019年9月、「ユニバーサル北京リゾート」(Universal Beijing Resort)が2021年にオープンすることが発表された。ユニバーサル北京リゾートは通州文化観光区の中心部に位置し、世界で5番目、アジアでは3番目のユニバーサル・スタジオとなる。完成すれば、中心エリアの面積は120ヘクタール、リゾートエリア全体の面積は280ヘクタールにおよぶ世界最大のユニバーサルスタジオとなる。リゾート内には7つのテーマパークが設けられ、デパートやレストラン、ホテルなどの様々なエンターテインメントコンテンツが整備される。また、中国の豊かな文化遺産を反映したユニークなテーマパークも設けられる予定である。

 2015年11月に起工式が行われ、新型コロナウイルス禍の影響で工事が一時中断していたものの、現在、2021年のオープンに向け急ピッチで工事が進められている。建設ゴミの削減や中水の再利用など、環境に配慮した工事が進められていることも注目を集めている。ユニバーサル北京リゾートに直通する地下鉄2路線も開通し、開園に向けた機運はますます高まっている。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、中国のテーマパーク産業が米国を抜いて世界一の市場になる時期を2020年と予測した(2018 年5月付)。2022年には市場規模は982.4億元(約1.5兆億円)に達し、2017年の395.5億元(約5,933億円)の2倍以上を目論む。〈中国都市総合発展指標2018〉においても、「社会」大項目中の中項目「文化娯楽」において北京は全国第1位である。ユニバーサル北京リゾートがオープンすれば、その地位は、ますます揺るぎないものとなるだろう。

(2018年度日本語版・トップ10都市分析)


2018年は227日が青空に

 北京市の大気汚染が改善しつつある。北京市は2018年、年間で計227日、大気質が基準値をクリアし、青天だった。「重度汚染」の基準を超えた日数は15日まで減少し、3日以上連続で「重度汚染」の日が続かなかったのは、大気汚染の悪化が著しくなった2013年以降、初めてのことであった。

 〈中国都市総合発展指標2018〉では、「空気質指数(AQI)」は第50位で前年度から213位上昇、「PM2.5指数」は第42位で前年度から224位上昇した。

 「PM2.5指数」は、2018年度に年平均濃度が減少したトップ20都市のうち、第1位は北京であり、前年比で40.4%濃度が減少した。第5位の天津は濃度が8.3%改善した。北京に隣接する河北省においても同様の傾向がみられ、河北省は10都市中、4都市が20位以内にランクインした。

 北京に大気汚染をもたらす要因の1つは、周辺の工場群や発電所などから発生する大気汚染物質である。中国当局は工場移転を促し取り締まりを強化し、また燃料の石炭から天然ガスへのシフトを進めることで、以上の成果を上げた。ただし、大気汚染のもう1つの原因は自動車の排気ガスである。排気ガス削減の道のりは依然として遠く、問題はまだ解決の途上にある。

(2018年度日本語版・トップ10都市分析)


建設が進む北京第二国際空港

 首都・北京では現在、世界最大級の国際ハブ空港の建設が進められている。2018年7月、中国民用航空局は、新空港が2019年7月末に完工し、同年9月末に運営を開始する予定であると正式に発表した。

 新国際空港は「北京大興国際空港」、または「北京第二国際空港」と呼称される。新国際空港は北京市の大興区と河北省廊坊市広陽区との間に建設され、天安門広場から直線距離で46 km、北京首都国際空港から67 km、天津浜海空港から85 kmの位置にある。総投資額は約800億元(約1.3兆円)にのぼる。

 計画では、2040年には利用客は年間約1億人、発着回数は同80万の規模となり、7本の滑走路と約140万 m2のターミナルビル(羽田国際空港の約6倍)が建設される。2050年には旅客数は年間約1.3億人、発着回数は同103万、滑走路は9本にまで拡大予定である。空港には高速鉄道や地下鉄、都市間鉄道など、5種類の異なる交通ネットワークが乗り入れ、新空港が完成すれば、中国最大規模の交通ターミナルになる。空港の設計は、日本の新国立競技場のコンペティションで話題となったイギリスの世界的建築家、ザハ・ハディド氏(2016年没)が設立したザハ・ハディド・アーキテクツが担当しており、空港の規模だけではなく、ヒトデのような斬新なデザイン案も国内外から大きな注目を集めている。

 新国際空港が建設されたのは、北京の空港の処理能力が限界に達していることが背景にある。〈中国都市総合発展指標2017〉によれば、現在、北京の「空港利便性」は全国第2位であり、旅客数も第2位である。新空港が完成すれば北京の首位奪取も視野に入る。京津冀(北京・天津・河北)エリアの一体化的な発展を推進する起爆剤ともなるだろう。

(2017年度日本語版・トップ10都市分析)


京津冀エリアの大動脈「北京大七環」が全線開通

 北京首都エリアの高速環状線、通称「北京大七環(北京七環路)」が2018年に全線開通した。東京の環状七号線は全長約53 kmであるのに対して、「北京大七環」はなんと全長940 kmにものぼる。「北京大七環」の完成によって、北京市内で深刻化する渋滞問題の緩和が期待される。河北省の発表では、全線開通後は、1日あたりの通行量は2.5万台に達した。同環状線の開通は、京津冀エリア、特に北京市の郊外エリアや衛星都市とのネットワークを大いに強化し、物流や人の流れを促進させる。〈中国都市総合発展指標2017〉では、北京市の「道路輸送量指数」は全国第4位であり、「都市幹線道路密度指数」は全国第12位であるが、今後この順位は上がっていくであろう。

(2017年度日本語版・トップ10都市分析)


冬季オリンピック開催に向かい、高まるウィンタースポーツ熱

 2022年開催の北京冬季オリンピックが近づくにつれて、〈中国都市総合発展指標2017〉で「文化・スポーツ・娯楽輻射力」全国第1位に輝く北京では、市民のウィンタースポーツ熱が急速に高まりつつある。

 2018年には第1回目の「全国冬季運動会」が開催されることも、このウィンタースポーツ熱を後押ししている。北京市の発表によると、「全国冬季運動会」の開催目的は、ウィンタースポーツを活性化し、競技人口を3億人にまで拡大させ、北京冬季オリンピックに向けて雰囲気を盛り上げるためだという。また、今回の大会をきっかけとして、ウィンタースポーツ競技の人材育成も強化していく。

 北京市のウィンタースポーツ人口は、2022年には800万人にまで拡大することが見込まれている。中国では、2018年にアイスホッケーの国内プロリーグを設立させる準備が進んでいる。中国ではウィンタースポーツの開催件数が年々増加しており、その勢いはますます強まっている。

(2017年度日本語版・トップ10都市分析)


京津冀協同発展、新首都経済圏、雄安新区

 中国政府は三大国家戦略のひとつとして「(北京・天津・河北)協同発展」を打ち出している。北京の都市輻射力を発展のエンジンとした「新首都経済圏」の構築を目指す構想である。

 2017年4月、中国政府はその一環として、河北省の雄県、容城県、安新県の3県とその周辺地域に「雄安新区」の設立を決定した。雄安新区は中国における19番目の「国家級新区」となり、「千年の計」と位置づけられた習近平政権肝いりのプロジェクトである。雄安新区は北京市から南西約100km、天津市から西へ約100kmに位置し、その計画範囲は、初期開発エリアが約100km2、最終的には約2,000km2(東京都の面積と同程度)にまで達するとされている。雄安新区は北京市の「非首都機能」を移転することで、同市の人口密度の引き下げ、さらには京津冀地域の産業構造の高度化等を目指している。

(2016年度日本語版・トップ10都市分析)


北京市の突出した本社機能とスタートアップ機能

 米『フォーチュン』誌が毎年発表する世界企業番付「フォーチュン・グローバル500」の2017年度版によると、500社にランクインした企業のうち、北京市に本社を置いている企業数は56社もあった。

 企業の内訳を見ると、第三次産業の企業が4分の3を占め、そのうち国有企業は52社、民営企業は4社であった。中国全体では前年より7社多い105社がランクインしており、その半数以上が北京市に本社を置いていることになる。第2位の上海市が8社、第3位の深圳市が6社ということからみても、北京市の本社機能は突出している。

 また、中国フォーチュン(財富)が発表した「フォーチュン・チャイナ500(中国500強企業)」ランキングの2017年度版によると、第1位の北京市には100社、第2位の上海市には31社、第3位の深圳市には25社が本社を置いている。北京市政府は2017年に本社機能をより強くする方針を打ち出しており、同市への本社機能の集約は今後さらに進むであろう。

 また、北京市政府はスタートアップ機能の促進にも力を入れており、同市は今や中国最大のベンチャー企業集積地となっている。2017年に市内で新たに上場した企業数は1450社にのぼり、第2位の上海市の878社と第3位の深圳市の686社の合計にほぼ相当する。北京市政府発表によれば、同市内に拠点を構えるネット系ベンチャー企業の数は、中国全土の約40%を占めている。

(2016年度日本語版・トップ10都市分析)


上海市

CICI2016:第2位  |  CICI2017:第2位  |  CICI2018:第2位  |  CICI2019:第2位


世界に誇る商業都市

 上海市は中国最大の国際商業都市であり、四大直轄市の1つで、長江デルタメガロポリス(「メガロポリス」の詳細は第2部「メガロポリス発展戦略」を参照)の中枢都市である。上海市の面積は約6,340km2で群馬県とほぼ同じ大きさであり、常住人口は約2,426万人と東京都の人口の約2.6倍の規模を誇る。GDPは2.35兆元(約40兆円、1元=約17円)で中国の地級市以上の295都市の中で堂々第1位、国別で比較すればそのGDP規模はコロンビアのGDP(約39.9兆円)を超えている。

 世界有数の金融センターに成長した浦東エリアは、ほんの20数年前まではのどかな田舎だった。1992年に「浦東新区」に指定されたことを契機として次々に摩天楼が建設され、「中国の奇跡」と讃えられるほど急速に発展していった。

 現在、上海市内には証券取引所、商品先物取引所、そして合計8カ所の国家級開発区と、自由貿易試験区、重点産業基地、市級開発区等が設置されている。〈中国都市総合発展指標2016〉の「金融輻射力」においても、上海市は北京市を抜いて第1位の座に輝いている。

 上海市の交流・交易機能も突出しており、本指標の「空港利便性」、「コンテナ港利便性」においても上海市は第1位となっている。上海虹橋国際空港と上海浦東国際空港を合わせた2016年の旅客輸送者数は約9,500万人に達し、航空貨物も約370万トン取り扱われ、いずれも中国随一の処理能力を誇っている。港湾機能も突出しており、コンテナ取扱量は世界で8年連続第1位に輝き、その規模は4,023万TEU(20フィートコンテナ1個を単位としたコンテナ数量)(2017年)に達している。

(2016年度日本語版・トップ10都市分析)


G60科学技術イノベーション回廊(G60上海松江科創走廊)

 現在、上海をはじめとした長江デルタエリアでは、2つの目玉プロジェクトが進行している。その1つとは、「G60科学技術イノベーション回廊(G60上海松江科創走廊)」である。2016年に発足した同プロジェクトは、米国ボストン周辺のルート128にハイテク企業を集積させたことに因み、高速道路G60の上海市松江区から浙江省金華市までの区間沿いに、イノベーション関連企業を集積させる試みである。その後、構想はさらに松江から外側へ延びる他の高速道路や高速鉄道の沿線に広がった。現在、同プロジェクトに参加する都市は、上海(松江)、嘉興、杭州、金華、蘇州、湖州、宣城、蕪湖、合肥の9都市に及んだ。

 この9都市の人口、GDPの合計は、それぞれ約4,900万人、約6.4兆元(約96兆円、2019年)にも達している。同構想は、9都市における環境、ロボット、自動車部品など基幹産業の連帯的な発展を促すためにモデル産業パークの設置や、金融サービスの提携、人材の交流などの施策を打ち出した。また、長江デルタメガロポリスにおける地域協力のモデルとして、9都市間の通勤、通学、物流などを推し進めるためのインフラ整備や制度整備なども行っている。

 雲河都市研究院は同プロジェクトから要請を受け、「長江デルタG60科学技術イノベーション回廊ハイクオリティ発展指数」、「長江デルタG60科学技術イノベーション回廊一体化発展指数」の両指標を開発、プロジェクトの進捗状況を明らかにすると同時に、その方向性づくりに協力している。

(2018年度日本語版・トップ10都市分析)

上海自由貿易試験区臨港新片区

 上海で進むもう1つの目玉プロジェクトは「上海自由貿易試験区臨港新片区」(以下、新片区)開発プロジェクトである。2019年8月に発足した新片区は、上海中心部から南東へ約70キロメートルに位置し、総面積873平方キロメートルの巨大国家プロジェクトである。

 新片区は投資・貿易・資本・輸送・人材の自由化を進め、質の高い外資を誘致し、産業と都市の融合発展を目指す。まずは、スタートエリアとして120平方キロメートルの開発を計画中だ。

 新片区には、すでに、テスラ(Tesla)、シーメンス(Siemens)、キャタピラー(Caterpillar)、そして日本からYKKなどの国際的に名高い企業が進出している。

 なお、新片区は、上海臨港経済発展(集団)有限公司が開発を担っているが、2019年11月下旬、雲河都市研究院は当該集団と戦略提携を結び、同プロジェクトを支援している。

(2018年度日本語版・トップ10都市分析)

映画市場のマイナス成長

 2019年、「第22回上海国際映画祭」が開催された。同映画祭は1993年から隔年で開催され、2002年からは毎年開催されている。毎年この時期には全国から大勢の映画ファンが上海に集結する。〈中国都市総合発展指標2018〉によると、上海市は「映画館・劇場消費指数」第1位の都市である。

 近年、中国の映画市場は右肩上がりで成長し、その規模は2011年には日本を追い抜き、現在ではアメリカに次ぐ世界第2位となっている。日本の作品ではアニメ映画「となりのトトロ」、「千と千尋の神隠し」が中国で上映され、大ヒットを遂げた。

 しかし、2019年に入ると急成長を遂げた中国映画市場に陰りが見え始めた。その最大の要因は、映画チケットに対する補助金制度の廃止である。2014年に開始されたこの制度によって、消費者は安価でチケットを購入することが可能となった。割り引かれた分はチケット販売サイトが負担する。そこに政府が補助する仕組みだった。補助金制度を止めた結果、客足が遠のき、映画館の閉館が相次いだ中国の映画市場は、新型コロナウイルスショックも加わり、下降状況はさらに加速している。

(2018年度日本語版・トップ10都市分析)


改革開放40周年を迎える中国と上海

 中国は2018年、改革開放40周年を迎えた。この40年間で、中国経済の規模は世界第2位に躍進し、1978年に世界11位だった経済規模が、2009年には日本を抜いて堂々世界第2位に達した。2017年のGDPは12.3兆ドル(約1,381兆円)に膨れ上がり、世界経済全体の約15%を占めるまでに成長した。

 改革開放の象徴的な都市は何と言っても「GDP規模」で全国第1位の上海であろう。その上海の中でもとりわけ経済発展を牽引したのが、上海浦東新区である。

 1990年から建設が始まった浦東新区は、わずか28年間で、何もなかっただだっ広い畑が高層ビルの立ち並ぶ国際金融センターへと様変わりした。また、全国ではじめて保税区、自由貿易試験区、保税港区が設置され、浦東新区の経済規模は設立以来およそ160倍にまで拡大した。

 今後も上海は対外開放拡大の牽引役として、またグローバルシティとして、絶えず新しい活力を放出し続けるだろう。

(2017年度日本語版・トップ10都市分析)

第15回上海書展(上海ブックフェア)が開催

 上海市民に人気の恒例「第15回上海書展(上海ブックフェア)」が2018年8月、上海市政府主催により「上海展覧中心」で開催された。展示面積2.3万 m2という巨大規模で、参加した出版社は500社以上、15万冊の書籍展示に加えて読書イベントが1,000回以上行われ、展覧会での売上は5,000万元(約8.1億円)を記録した。このブックフェアは年々評判を増し、今年は30万人以上の来場者があった。

 中国の出版産業は好調である。2016年、中国の書籍小売り市場の規模は701億元(約1.1兆円)で前年比12.3%増の成長であった。そのうち、実店舗での販売規模は336億元(約5,438億円)で前年比2.3%減、 オンラインでの販売規模は365億元(約5,907億円)で前年比30%増であった。2016年に、はじめてオンラインでの書籍販売が実店舗での販売額を超え、特に大型サイトでの書籍販売は年々増加の一途をたどっており、今後もこの勢いは続いていくとみられている。

 大手オンライン書籍販売サイト「当当網」の2017年度書籍販売のフィクション部門トップ10には、海外の翻訳書が7作品ランクインした。第1位には太宰治『人間失格』の翻訳本、第2位には東野圭吾『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の翻訳本、第10位には同じく東野圭吾の『白夜行』の翻訳本が入り、日本人作家の人気の高さを示した。近年、村上春樹、綾辻行人、新海誠など日本の人気小説が次々と中国語に翻訳され出版されている。中でも東野圭吾は絶大な人気があり、『容疑者Xの献身』『ナミヤ雑貨店の奇蹟』は中国で映画化もされているほどである。マンガやアニメに小説が加わり、日本のコンテンツには中国から熱い視線が送られている。

(2017年度日本語版・トップ10都市分析)

第1回中国国際輸入博覧会

 2018年11月、第1回中国国際輸入博覧会が上海市政府ほかの主催により市内「国家会展中心」で開催された。この博覧会は習近平国家主席肝煎りの一大イベントであり、貿易の自由化と経済のグローバル化を推進させ、世界各国との経済貿易交流・協力の強化を促進するための見本市と位置づけられている。博覧会には100数カ国・地域から出品され、中国内外から15万社のバイヤーが参加した。

 世界最大の人口を持ち世界第2位の経済体にまで成長した中国は、消費と輸入が急伸し、すでに世界の第2位の輸入と消費を誇るまでに成長している。今後さらに5年間で10兆ドル以上の商品・サービスを輸入する巨大市場にまで成長することが見込まれている。

 その巨大市場の中心地の一つが上海である。上海は世界最大クラスのメガロポリス「長江デルタ」の中心都市であり、巨大な人口と経済規模を兼ね備え、中国国内で最もサービス業が発達している都市の一つであり、いまや世界中の資源が上海に集中していると言っても過言ではない。上海港のコンテナ取扱量は7年連続世界一を記録し、〈中国都市総合発展指標2017〉では「コンテナ港利便性」は全国第1位を獲得。空港の旅客数は1億人を超え、直行便は世界282都市にまで広がり、「空港利便性」も全国第1位を獲得している。内需主導型経済への移行を目指す中国にとって、上海市での同イベントの成功は、今後の中国にとって一つのシンボルとなるだろう。

(2017年度日本語版・トップ10都市分析)


人口抑制政策

 上海市の流動人口(戸籍のない常住人口)は約987.3万人に達し、常住人口の約4割が外からの流入人口となっている。本指標の「人口流動」項目で、上海市は第1位となっている。2015年末時点では、外国人は約17.8万人、日本人は約4.6万人が居留している。短期滞在者も含めると約10万人もの日本人が暮らしており、日系企業も約1万社が上海に居を構えている。

 2018年1月、市政府は「上海市都市総体計画(2017—2035年)」を発表した。計画の特徴の1つに人口抑制政策が挙げられる。人口集中による弊害を懸念する同市政府は人口を厳しく抑制し、2020年までに常住人口を2,500万人にまで抑え、2040年までその水準を保つことを打ち出した。上海市政府は以前から人口抑制政策を進めており、同市政府発表によると、2017年末の市内の常住人口は2016年末に比べ約1万人減少した。

(2016年度日本語版・トップ10都市分析)

エンターテインメント産業の爆発

 所得水準が向上したことにより、中国の消費者の関心はモノ消費からコト消費に向かっている。一例として中国のテーマパーク産業の急激な発展がある。現在、国内には2,500カ所以上のテーマパークがあり、とりわけ5,000万元(約8.5億円)以上を投資したテーマパークは約300カ所もある。2016年6月、中国で初のディズニーパークとなる「上海ディズニーランド」が開園した。総工費は「東京ディズニーシー」の約2倍となる約55億ドル(約6,500億円)が投じられ、面積は約390ヘクタールで、これも「東京ディズニーランド」(200ヘクタール)の約2倍の広さを誇る。入場者数は開業1年で1,100万人を動員、黒字を実現し、現在も拡張工事が進められている。中国では、「ユニバーサルスタジオ北京」をはじめ、大型テーマパークは2020年までにさらに60カ所以上増えるとされ、総投資額は238億ドル(約2.7兆円)になることが予想されている。

 映画産業の発展も目覚ましい。2017年の中国映画市場の興行収入額は559.1億元(約9,600億円)となり、前年を13.5%上回る伸び率を記録した。2016年の伸び率は3.7%と低調だったが、2017年は3倍以上の伸びとなった。観客数は16.2億人を記録し、上海市が最も興行収入が高かった都市となり34.9億元(約600億円)であった。2016年、中国の映画スクリーン数は41,179スクリーンとなり、初めてアメリカのスクリーン数(40,759スクリーン)を抜いて、世界第1位のスクリーン数を持つ映画大国となった。ちなみに日本は中国の約8.5%にあたる3,472スクリーンであった。

(2016年度日本語版・トップ10都市分析)


深圳市

CICI2016:第3位  |  CICI2017:第3位  |  CICI2018:第3位  |  CICI2019:第3位


中国のシリコンバレー

 深圳市は広東省の南部に位置し、香港に隣接している珠江デルタメガロポリスの中枢都市である。面積は約1,997km2で大阪府と同規模、常住人口は約1,078万人である。

 深圳市はかつて人口規模わずか3万人の漁村だったが、1980年に中国初の「経済特区」に指定されたことをきっかけに、近年では「中国のシリコンバレー」と呼ばれるまでに飛躍的な発展を遂げた。わずか40年間で人口は400倍以上に拡大。その世界史上類を見ない発展の速さは「深圳速度」と言われる。GDPは約1.6兆元(約27.2兆円)に達し、中国国内では第4位の規模となった。国別で比較すれば、これはアイルランドと同じ規模である。

 経済特区に指定されて以来、深圳市は輸出加工拠点として急速に発展し「世界の工場」と称されるまでになったが、現在では政策を大きく転換させ、新興ハイテク企業が次々と生まれるイノベーション都市へと脱皮している。メッセンジャーアプリ「微信(WeChat)」を開発したテンセント(騰訊)、通信機器大手のファーウェイ(華為)やZTE(中興)、世界最大手のドローンメーカーDJI(大疆)、自動車メーカーのBYD(比亜迪)といった、深圳市発の世界的に有名なベンチャー企業が続々誕生している。

 深圳市の2016年の新規登録企業件数は約38.7万社と前年比約3割も伸び、上海市や北京市を抑えて首位を獲得した。人口1人当たり新規登録企業数は上海市の2.6倍、北京市の3倍強にのぼっている。また、同市に登記されている中小企業の数は約150万社と、市内の企業総数の99.6%を占めている。中国版ナスダックと呼ばれる深圳証券取引所のベンチャー企業向け市場「創業板」がその動きを後押ししている。

 また、コンテナ港の発展も著しく、本指標の「コンテナ港利便性」においても深圳市は第2位となっている。2017年の深圳港のコンテナ取扱量は前年比5.1%増の約2,520万TEUに達し、開港以来最高の取扱量を記録した。世界の港湾別コンテナ取扱個数ランキングでも5年連続で第3位に輝いた。

(2016年度日本語版・トップ10都市分析)


経済規模で広州、香港超えに

 深圳市はその経済規模が2018年に広州を超え、2019年には香港を超えた。

深圳はかつて小さな漁村だったが、1980年に経済特区に指定され、急速に発展を遂げた。いまや「アジアの奇跡」とも呼ばれる大発展を遂げたIT都市である。

 しかし、1人当たりGDPで見ると、深圳は約19万元(約285万円)、広州は約15.6万元(約234万円)であるのに対して、香港は約32.2万元(約483万円)となっている。深圳と香港の1人当たりでの格差はまだ大きい。

 2017年に「粤港澳大湾区(広東省・香港・マカオのビッグベイエリア)構想」が公表され、深圳、広州、香港の「3都物語」の展開に注目が集まっている。米中貿易摩擦や香港情勢の不透明さが増す中で、国際大交流をベースとするビッグベイエリア構想の行方が取り沙汰されている。

(2018年度日本語版・トップ10都市分析)

米中貿易摩擦で逆風

 2018年から顕在化し始めた米中貿易摩擦が深圳を直撃している。〈中国都市総合発展指標2018〉によると、深圳は「フォーチュントップ500中国企業」第3位、「中国トップ500企業」第3位、「中国民営企業トップ500」第2位、「製造業輻射力」第3位を誇る中国を代表する経済都市である。米中貿易摩擦でやり玉に挙がっている通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)や中興通訊(ZTE)も本社を構えるIT産業の一大拠点である。

 深圳は中国における加工貿易の先駆けの都市であり、輸出額ランキングで20年以上全国第1位の座を守り抜いている。深圳にとって米国は2番目に大きい輸出先であった。輸出型経済で成長してきた深圳は、昨今の米中貿易摩擦や新型コロナウイルスショックの逆風を受けている。

しかし、こうした危機は、新たなチャンスの訪れとも捉えられる。それは、よりオープンな国際都市になることで実現可能だ。

 深圳が特区になってから40年間、その成果は抜きん出ていたとはいえ、多くの指標では、真の国際都市とはまだいえない。〈中国都市総合発展指標2018〉から見ると、深圳は「経済」の中項目では「ビジネス環境」で第4位、「開放度」で第3位、「社会」の「人的交流」で第5位を勝ち取り、中国国内における開放性や国際化に関する順位は高い。しかし上位の北京や上海に比べれば、その中身にはまだ圧倒的な差がある。例えば、「経済」の「航空輸送指数」の内訳である「航空旅客数」でみれば、北京、上海とは2倍以上の差があり、ニューヨーク、ロンドン、東京といった「世界都市」とは3倍近くの差が開いている。同様に、「社会」の「国際会議」では、上海とは8倍、北京とは約10倍隔たり、東京とは10倍、ニューヨークに至っては13倍近く差を開けられている。

 深圳は、開放性をさらに高め、国際化を積極的に推進し、世界都市への脱皮を図ろうとしている。そのためには、隣接する国際都市香港の役割はなお大きい。

(2018年度日本語版・トップ10都市分析)

イノベーション都市を目指して

 近年、深圳はアジアを代表するイノベーション都市として声を上げている。〈中国都市総合発展指標2018〉において、「経済」の小項目「イノベーション・起業」は北京、上海に続いて全国第3位であった。歴史の浅いニューシティにしては快挙である。

 しかしながら、トップ2都市と比較すると同項目の偏差値指数には、まだ大きな開きがある。その原因の1つは、大学の蓄積がないことにある。中国の名門大学のほとんどは、改革開放以前に創立された。一漁村から加工貿易で身を起こし、爆発的な成長を遂げてきた深圳はこれまで、高等教育機関との縁が薄かった。現在は財力を駆使し、大学誘致に励んでいる。しかし旺盛な人材需要と高等教育のキャパシティとのギャップにより、同市の「経済」の「高等教育輻射力2018」全国ランキングは、ほぼ最下位の73位に甘んじている。

 また、国立の研究機関もほとんど立地がなく、北京の中関村のように国の研究機関や名門大学に蓄積された研究者が研究成果を擁して起業していくパターンは、深圳では成し得ない。

 それにしても、経済特区としての開放感の中で、全国から集まった人材が研究に励み、次から次へと起業が興っている。ファーウェイや、中興通訊はその代表格だ。深圳のイノベーションは、民間企業中心のモデルとなっている。

 しかし、深圳はこれから都市アメニティ(都市の魅力や快適さ)が勝負どころだ。優秀な人材は成功をつかもうとするだけでなく、生活のクオリティも求める。豊かになったいまは、生活の質に深圳の後進性が際立つ。例えば「経済」の「医療輻射力」のランキングは第28位と、深圳の医療態勢はかなり遅れを取っている。

 新興都市深圳は、これから都市アメニティでも勝負に出なければならない。

(2018年度日本語版・トップ10都市分析)


広深港高速鉄道と港珠澳大橋が開通

 2018年9月、香港と深圳・広州を結ぶ初の高速鉄道「広深港高速鉄道」の香港域内区間が正式に開通した。開通済みの中国本土区間と合わせ、これで全線開通したことになる。区間の最高時速は350 km、深圳から香港までは最速で14分、広州から香港までの走行時間は以前の100分から48分へと半分に短縮された。香港は2.5万 kmを超える中国本土の高速鉄道網と直接連結し、香港から北京までの所要時間は今までの半分の9時間になる。〈中国都市総合発展指標2017〉では深圳の「鉄道利便性」は全国第5位だが、第1位の広州に順位が近づいていくだろう。

 広深港高速鉄道の全面開通により、中国政府が進めている巨大ベイエリア構想「粤港澳大湾区(広東・香港・マカオビックベイエリア)計画」に内包される深圳、広州、香港といった主要都市がすべて高速輸送ネットワークでつながった。これにより、今後エリア内外の人的交流がさらに加速していくことが予想される。

 同高速鉄道の開通に加え、海上道路では世界最長となる「港珠澳大橋(香港・珠海・マカオ大橋)」も2018年10月23日開通した。これでベイエリア内の交通ネットワークがさらに強化され、ヒト・モノ・カネ・情報の流れが増大していくだろう。〈中国都市総合発展指標2017〉ではすでに「広域中枢機能」は広州が全国第2位、深圳が第3位であり、この順位は今後も揺るがないだろう。

 最新の統計では、2017年のGDPにおいて深圳が香港を初めて上回り、深圳が事実上の粤港澳大湾区におけるトップの経済都市となった。大ベイエリアでは、「奇跡の発展」を遂げた深圳が牽引役となっている。

(2017年度日本語版・トップ10都市分析)

加熱するショッピングセンターの開業

 米不動産サービス大手CBREの『世界ショッピングセンター発展レポート(Global Shopping Centre Development)』によると、2017年に深圳で着工したショッピングセンターの延床面積は458万 m2で、世界第1位だった。世界全体のショッピングセンターの建設面積のうち、アジア太平洋地域が全体の79%を占めており、なかでも中国における同建設面積は1,970万 m2と群を抜き、そのランキングのトップ20のうち12都市を中国が占めている。とりわけトップ5都市は中国の都市が独占し、第2位に上海、第3位に重慶、第4位に成都、第5位に武漢と続く。特に、上位2都市の深圳と上海が、中国の同建設面積の約40%を占める。

 深圳には2017年末までに144件のショッピングセンターが開業しており、2002年に市内にはじめてショッピングモールが開業して以降、毎年平均して10件のショッピングセンターが開業している。2012年からは開業速度が加速し、平均して毎年17件が開業、2017年末までに開業したショッピングセンターの延床面積は986.5万 m2に達した。

 急速に膨張する経済規模とともに、加熱するショッピングセンター建設ブームの一方、さまざまな問題も発生している。判を押したように似通ったコンセプト、建築・インテリアデザイン、テナント構成のショッピングセンターが相次いで建設され、過剰な床面積が供給され続けた結果、市内の2017年の空テナント率は平均20.1%に達し、市中心部でも4.5%に達している。また、消費者の需要も多様化し、従来はアパレル一辺倒のテナント構成であったが、現在では飲食、ファミリー・子ども向け商品や生活サービス業のテナントが隆盛になりつつあるという。

 〈中国都市総合発展指標2017〉では「卸売・小売業輻射力」全国第8位の深圳にとって、今後、順位を上昇させるためには、新たな取組みが必要だ。

(2017年度日本語版・トップ10都市分析)

自由貿易港の建設

 2018年6月、深圳市政府は、深圳港を新たなグローバルハブ港とし、香港港とともに国際海運センターを共同で建設するとの目標を発表した。インフラ整備を行い、2020年末までに自由貿易港を建設する。

 深圳港は世界第3位のコンテナ港で、〈中国都市総合発展指標2017〉では「コンテナ港利便性」でも全国第2位を誇る中国国内屈指の港である。深圳市は、香港港との連携を強化し、海運サービスと物流サービスの一体化を図る。

 深圳市は粤港澳大湾区内の都市間連携も深め、輸送の申請、検査、通行許可を簡略化し、エリア内の通関の一体化を進めている。

(2017年度日本語版・トップ10都市分析)


移民都市

 深圳市は典型的な“移民都市”である。本指標の「人口流動」項目では、全国第1位が北京市、第2位が上海市、深圳市は第3位となっている。深圳市の流動人口は745万人であった。特記すべきは、北京市と上海市では流動人口の常住人口に占める割合が4割前後なのに対し、深圳市常住人口の69.2%が「流動人口」によるものであった。 

 人口構造からも深圳市の“移民都市”の特質が明らかである。同市政府発表では、2016年末の市内の平均年齢は約32.5歳で、中国で最も平均年齢が若い都市であった。人口を年齢別の割合で見ると、15歳未満人口(年少人口)は13.4%、15歳以上65歳未満人口(生産年齢人口)は83.2%、65歳以上人口(老年人口)はわずか3.4%であり、特に20代の人口が突出している。外部から大量の生産年齢人口を受け入れている北京、上海、広州3都市の生産年齢人口割合がそれぞれ79.6%、77.8%、79.2%であることを考えると、いかに深圳市が若い都市であるかがわかる。

(2016年度日本語版・トップ10都市分析)

「港深創新・科技園」構想

 深圳市の発展に香港が果たしてきた役割は大きい。2015年4月、深圳に「自由貿易試験区(広東自貿区)」が開設された。この試験区は香港との協力強化を目的に設けられ、現在までに7,000社以上の香港企業が進出し、同地区の土地の約3分の1が香港企業に供給されている。2017年1月には、香港と深圳両都市が共同で、両地の間を流れる深圳河の河川敷に87ヘクタールのハイテク産業団地「港深創新・科技園」を建設する計画が発表された。2018年中頃には、香港—広東省珠海—マカオを結ぶ海上橋「大橋」の開通と、香港—深圳—広州を結ぶ高速鉄道「広深港高鉄」の開通が見込まれる。深圳と香港とのリンケージは今後も強まっていくであろう。

(2016年度日本語版・トップ10都市分析)


広州市

CICI2016:第4位  |  CICI2017:第4位  |  CICI2018:第4位  |  CICI2019:第4位


粤港澳大湾区発展計画綱要の策定

 中国政府は現在推進中の粤港澳大湾区(広東省・香港・マカオのビックベイエリア)構想の発展計画綱要を2019年2月に発表した。中国で初めて香港、マカオを国の地域発展計画の中に組み入れた。同計画は2035年までの長期計画で、対象都市は、香港・マカオの2特別行政区と広東省の9都市(広州、深圳、珠海、仏山、恵州、東莞、中山、江門、肇慶)、計11都市である。

 ビックベイエリアの総面積は5.6万平方キロメートルで、ニューヨーク、サンフランシスコ、東京大都市圏の3つの都市圏を合わせた面積よりも大きい。2019年ベイエリアのGDP総額は11.6兆元(約174兆円)に達し、その経済力はすでにニューヨーク・ベイエリアに匹敵する。

 ビックベイエリアは世界的な製造業拠点として、中国で最も開放的で活気あふれる地域である。産業の発展が加速する中、人口集積も進み、現在の総人口は7,000万人を超えている。

 同計画における広州、深圳、香港、マカオの4つの中心都市の位置づけはそれぞれ異なっている。なかでも広州は、「国際経済センター」、「総合交通ハブ」、「科学技術・教育・文化センター」として役割づけられている。

 世界最大のベイエリア構想がどのように実現していくか、その舵取りは今まさに始まったばかりである。

(2018年度日本語版・トップ10都市分析)


開放感溢れる貿易都市

 広東省の省都である広州市は、広東省の東南部、珠江デルタの北側に位置する。北京市、上海市、深圳市に続く第4の経済規模を誇る都市である。広州は2000年以上にわたり交易の中心地として繁栄してきた。特に明朝と清朝で数百年にわたり中国の対外貿易の唯一の窓口であった。新中国建国後、厳しい国際環境の中で1957年から開かれた広州交易会(中国輸出商品交易会)は一時、中国の輸出の半分までを稼いでいた。

 広州市のGDPは1.67兆元(約28.4兆円)に達し、前年比8.3%の伸びを実現した。常住人口は約1,308万人、戸籍人口は約842万人、流動人口は約465万人である。改革開放後、広州は外部から多くの人口を受け入れてきた。

 日系企業をはじめとする外国企業の進出も多く、外国人は約8.2万人(2017年末)が居留し、定住している外国人も5.1万人にのぼる。短期滞在の外国人は約50万人にも達している。2016年10月時点での在留邦人(登録ベース)は7,551人であった。

(2016年度日本語版・トップ10都市分析)


広仏都市圏の形成

 〈中国都市総合発展指標2018〉総合ランキングで第4位の広州市と第23位の仏山市は、隣り合っている。しかも、そのDIDエリアはかなり絡み合っている。行政区画的には異なっていてもDID的につながりのある点で、東京都と千葉、神奈川、埼玉各県との関係に似ている。

 広東省の中心都市として発展してきた広州と、製造業を中心に成長してきた仏山の一体化は実際に進んでいる。

 周牧之教授は、早くから広州と仏山を1つの都市圏として整備していくべきだと提唱していた。しかし、つい最近まで中国では都市圏の概念もなく、そういった政策もなかった。

 2019年2月19日、中国国家発展改革委員会が「現代化都市圏の育成発展に関する指導的意見」を公布し、初めて都市圏政策を打ち出した。これを追い風に、広州と仏山は行政区域を超えた1つの都市圏として形成されていくであろう。

 広州と仏山を広仏都市圏として捉えた場合、その面積は11,232平方キロメートルで、およそ東京大都市圏(一都三県)の0.8倍程度の大きさになる。その経済規模は約3.3兆元(約49.5兆円)となり、上海、北京を超え、中国で第1位となる。また、常住人口規模も約1,438万人となり、第1位の上海には及ばないものの、北京を超えて第2位に躍り上がる。

(2018年度日本語版・トップ10都市分析)

一大国際コンベンションシティ

 広州は、2000年以上もの間、国際交易の中心地であり続けた。明朝から清朝の数百年間、広州は中国唯一の対外貿易窓口であった。新中国になり、国際関係の緊張のなか1957年から開催が始まった「広州交易会(中国輸出入商品交易会)」では、当時中国の輸出の半分を稼ぎ出すこともあった。

 広州市は今も中国でコンベンション経済が最も活発な都市の1つである。〈中国都市総合発展指標2018〉によると広州は「社会」大項目の「国際会議」、「コンベンション産業発展指数」ともに全国第3位の成績を誇っている。

 コンベンション産業は、様々なコンテンツを網羅した高収益の交流経済である。会議、イベント、展示会、フェスティバルは、直接的かつ間接的な利益を都市にもたらす。国際見本市連盟によると2018年、世界で開催された見本市やショーなどの行事は、約3万2000に上り、来場者数は3億300万人にも達した。

 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、2020年の「広州交易会」は6月15日にオンライン開催した。人対人の面と向かった商談が不可能となった状況下、オンラインによる開催へと形を変えた。ハイテクを駆使し、仮想現実(VR)で展示して世界各地から閲覧できたことで、出展者を維持した。こうした新しい試みは、広州の新たな交流経済の展開にもつながるだろう。

(2018年度日本語版・トップ10都市分析)


建設が進む「広州国際総合交通ターミナル」

 広州は長きにわたり中国の主要な交通拠点であり続けた。〈中国都市総合発展指標2017〉でも陸・海・空の交通がともに全国トップクラスの成績を誇っている。

 鉄道・道路で広州は、「鉄道利便性」「道路輸送指数」ともに全国第1位であり、鉄道の利用客数は年間1.4億人を超える。その中でも広州南駅の利用客数は年間約5,600万人で、鉄道の発着便数は全国第1位である。

 港湾は「コンテナ港利便性」が全国第3位、「コンテナ取扱量」が年間1,885万TEU(20フィートコンテナ1個を単位としたコンテナ数量)で全国第4位である。

 中央政府も広州を中国の重要な総合交通ターミナルと位置付けている。中国の国家戦略「一帯一路」では広州を国際貨物輸送の中枢とし、2016年に公示された「第13次五カ年計画」の綱要で、広州を北京、上海とともに国際的な総合交通ターミナルと位置付けている。

 以上の背景もあり、広州は2017年に公表した「2040年広州市交通発展戦略計画」の目玉として「国際総合交通ターミナル」の建設を挙げている。交通ターミナルが完成した暁には、貨物の合計取扱量は2020年に年間580万トン、2025年には1,870万トン、2035年には2,590万トンになると推計している。広州は粤港澳大湾区の鉄道輸送の最大の中枢として、中欧や東南アジア向けの一大交通拠点になることも見込まれている。

(2017年度日本語版・トップ10都市分析)

広州で加速するEV化

 広東省の都市は大気汚染の被害は比較的軽く、同省における2017年のPM2.5の年平均値は1 m3当たり32 µg(マイクログラム)で、先進国の年平均値である10−15 µgに比べると大きな差があったものの、中国の国家基準の35 µgを下回った。

 〈中国都市総合発展指標2017〉では、2017年PM2.5の年平均値は、広州は34 µgで全国第70位、深圳は26.1 µgで全国第26位だった。北京などの北方都市と比べかなり好成績であった。

 省政府は、2035年までに省内全域の年平均値を25 µg以下とすることを目標に掲げている。

 大気汚染の改善に向け、広州市でEVバス(電気バス)の導入が加速している。広州市政府は2018年に投入・更新されるバスはすべてEVバスを採用し、2018年末までに1万台以上のEVバスを普及させ、公共バスを100%EV化させることを目標としている。また、タクシーについても新規導入および更新される車両のうち70%以上をEVとし、毎年5%ずつ比率を高めていくという。

(2017年度日本語版・トップ10都市分析)

広州で進む中国初のビジネス機専用空港計画

 2018年4月、広州白雲国際空港の第二ターミナルが供用を開始した。新ターミナルは航空会社計16社が乗り入れ、総面積は65.9万 m2(羽田国際空港の約2.8倍)、カウンター数は339カ所、年間旅客数は4,500万人を見込んでいる。広州白雲国際空港は2017年に年間6,584万人の利用客があり、北京首都国際空港、上海浦東国際空港に続き中国第3位のハブ空港となっている。郵便貨物取扱量は165万トンでこちらも全国第3位である。〈中国都市総合発展指標2017〉でも広州の「空港利便性」は全国第3位である。

 市の計画では、2022年までにさらに第三ターミナルを建設し、2本の滑走路を新設し、2025年には利用旅客数が1億人に達すると見込んでおり、世界的なハブ空港を目指す。

 また、広州市は中国はじめてのビジネス機専用空港建設も計画している。

 巨大処理能力を持つ「粤港澳大湾区」の交通中枢として、広州市は新たなステージに突入している。

(2017年度日本語版・トップ10都市分析)



珠江デルタメガロポリスの中枢都市

 広東省の省都、広州市は珠江デルタメガロポリスにおける中枢都市であり、陸空海交通のハブ都市でもある。2017年、広州白雲国際空港の年間利用者数は約6,500万人を超え、北京首都国際空港と上海浦東国際空港に次いで、年間利用者数が6,000万人を超える国内3カ所目のハブ空港となった。2018年には第2ターミナルがオープン予定で、年間利用者数は8,000万人まで引き上がるとされている。

 2017年の広州港のコンテナ取扱量も2,000万TEUを超え、世界の港湾別コンテナ取扱個数ランキングで第7位となった。

 さらに本指標での高速鉄道を含めた「高速鉄道便数」項目においては、広州は中国全国では堂々第1位であった。

 市内交通におけるインフラ整備も進んできた。2017年末、新たに地下鉄が4路線開通し、市全体の地下鉄営業距離は合わせて400kmに達した。この距離は中国で第3位、世界でも第10位に相当する。年間の合計地下鉄乗車人数は28億人にのぼり、1日の平均利用者数は1,000万人の大台を突破した。

 省都としての広州市は、文化、生活、教育などにおいて周辺地域にその機能を提供している。珠江デルタメガロポリスの二大中枢都市、広州市と深圳市の本指標におけるこれら領域の「輻射力」を比較すると、広州市の優位性が明らかになる。たとえば「医療輻射力」は広州市が第3位、深圳市が第39位、「高等教育輻射力」は広州市が第7位、深圳市が第288位、「文化・スポーツ・娯楽輻射力」は広州市が第3位、深圳市が第7位と、いずれも広州市の方が大きく上回っている。

(2016年度日本語版・トップ10都市分析)

巨大経済圏構想「粤港澳大湾区」

 いま珠江デルタ一帯を巻き込んだ大型経済構想が進んでいる。2017年7月、中国政府がかねてから構想を練っていた「大湾区(広東・香港・マカオ大湾区)」計画について草案が完成したと報じられた。「粤港澳大湾区」は広州市や深圳市をはじめとする広東省9市と、香港、マカオの2つの特別行政区を1つの経済圏として発展させる一大ベイエリア構想である。11都市の人口は約6,795万人で中国全体の5%未満、面積も約5.6万km2で同1%に満たないものの、2017年の合計GDPは10兆元を突破する。2030年までには同地域のGDPが現在の3倍以上になると予想されている。実現すれば、ニューヨーク、サンフランシスコ、東京といった世界有数の湾岸地域を上回り、世界最大の経済規模をもつ巨大なベイエリア経済圏が生まれることになる。

(2016年度日本語版・トップ10都市分析)


杭州市

CICI2016:第7位  |  CICI2017:第7位  |  CICI2018:第6位  |  CICI2019:第6位


IT経済を牽引する都市

 浙江省の北部に位置する杭州市は同省の省都であり、浙江省の政治、経済、文化、交通、金融の中心地である。西安、洛陽、南京、北京、開封、安陽、鄭州と並ぶ「中国八大古都」の1つであり、「地上の楽園」と讃えられるほど風光明媚で、古くから栄えた都市である。世界遺産の西湖や京杭大運河をはじめとする著名な観光地が点在し、国内外から多くの観光客を惹きつける観光都市でもある。本指標の「国内旅行客」項目では第7位、「海外旅行客」では第5位であった。

 長江デルタメガロポリスの主要都市として発展を続けており、2015年に杭州市のGDPは1兆元の大台を突破し、上海、北京、広州、深圳、重慶、蘇州、天津、武漢、成都とともに中国における「1兆元クラブ」の9大都市にはじめて仲間入りを果たした。

 杭州市の2010年〜2015年までの5年間の経済成長率は平均9.6%に達した。1人当たりGDPは、2010年の78,342元(約133万円)から2015年には112,268元(約193万円)に膨らんだ。

 中国は現在、世界で最も「キャッシュレス生活」が進んでいると言われ、その牽引役が「Alipay(支付宝)」と「WeChat Pay(微信支付)」の二大サービスである。「Alipay」は、杭州市に本拠地を置くアリババグループ(阿里巴巴集団)が提供するオンライン決済サービスである。世界最大規模の電子取引で知られるアリババグループは、1999年の設立当時から杭州市内に本社を置き、今では同市の経済発展の主役であると言っても過言ではない。2017年11月11日の「独身の日(双十一)」に実施した販促イベントで、アリババの取引額は1,683億元(約2.9兆円)に到達し、前年実績比で約40%増の大幅な伸びを見せつけた。杭州市のIT経済は、さらなる展開が期待されている。

(2016年度日本語版・トップ10都市分析)


スタートアップ都市

 杭州に企業の本社機能が集まってきた。〈中国都市総合発展指標2018〉によると、「経済」の指標「メインボード上場企業」で前年度から3都市も追い抜き全国第4位に、同じく「経済」指標の「フォーチュントップ500中国企業」も前年度より順位を1つ上げ全国第4位、さらに「中国民営企業トップ500」は昨年度同様全国トップを守った。

 その背景にあるのは、スタートアップの活力だ。中国のスタートアップ都市といえば、北京、上海、深圳というイメージをもつ人が多いだろう。しかし、杭州の活躍はそれらの都市にも劣らない。〈中国都市総合発展指標2018〉の「ユニコーン企業指数」では、杭州は北京、上海に続いて、全国3位という好成績を収めている。ユニコーン企業とは、評価額10億米ドルを超える未上場企業のことである。2019年末、ユニコーン企業は北京に最も多い69社が所在し、第2位が上海の35社、第3位に杭州の20社、第4位に深圳の13社と続く。

 なぜ、杭州のスタートアップがここまで躍進を遂げているのか。その理由は杭州がアリババのお膝元だからである。世界最大のユニコーン企業「アント・フィナンシャル」を筆頭に、杭州にはアリババが出資する数々のメガベンチャーが勃興し、一大IT経済圏が形成されている。杭州の企業の活力は、このようなIT企業が牽引している。ちなみに2018年の「メインボード上場企業」のうち、杭州のIT企業数は全国第4位を誇っている。

(2018年度日本語版・トップ10都市分析)

まもなくメガシティへ

 都市経済の成長は人口動向に結実する。2018年に杭州の常住人口は981万人に達し、1,000万人到達を目前にしている。杭州の、「経済」の指標「常住人口規模」は全国第18位であるが、2018年の常住人口成長率は全国第6位であり、直近3年間の2016年、2017年、2018年における常住人口純増はそれぞれ17万人、28万人、33.8万人と急成長の状態にある。

 こうした杭州の人口増の背景には、上記の本社機能やベンチャー活力の向上と同様、IT企業の躍進がある。デジタル・エコノミーが勃興し、ますます活性化するIT産業を目指して、全国から多くの新卒学生が杭州にやってきている。北京、上海が人口抑制政策を取る中、学生の受け皿として杭州が機能している側面もあるだろう。杭州市政府も人材獲得のため政策を次々と打ち出している。

 〈中国都市総合発展指標2018〉によると、トップクラス人材の集積を表す「社会」指標の「傑出人物輩出指数」は前年度から1位順位を上げ全国第4位、「経済」指標の「中国科学院・中国工程院院士指数」は前年度から1位順位を上げ全国第7位となり、人材の量だけではなく、質も向上しつつある。

(2018年度日本語版・トップ10都市分析)

茶の都

 杭州は「茶の都」としても名高い。西湖周辺の龍井村を産地とする最高級緑茶「龍井茶」は古くから中国十大銘茶の一つに数えられている。清の乾隆帝が西湖で龍井茶を賞味し、その味を絶賛したエピソードが有名である。毛沢東も周恩来も龍井茶を愛し、外国の賓客へのプレゼントにしばしば選んだことで、世界に名を広げた。

 杭州のお茶がおいしい理由の一つに「水」がある。杭州には西湖に代表されるように水源が豊かで、また、気候が温暖かつ降水量が多く、太陽の光も拡散して柔らかい。土壌はやや酸性で、層が深く水はけが良いことから、木々は青々としていて、小川もよく湿っている。年間平均気温は16℃、年間降水量は約1,500ミリと、茶樹の成長には適した気候である。〈中国都市総合発展指標2018〉の「降雨量」は全国第48位である。茶葉が芽を出し続け、摘み取り時期も長く、一年を通して30束ほど摘み取ることが可能であり、お茶の種類の中でも摘み取り頻度が高いといわれている。中でも、春の「清明節」(春分の日から15日後にあたる祝日)の直前に摘む一番茶が最高級とされ、時の皇帝への献上品とされていた。なお最も贅沢なのは、地元の「虎跑」泉などの名水で淹れた龍井であろう。

 杭州は古くは南宋の都として栄え、古来より住みやすい地理・気候に恵まれた。江南の美と贅沢を育んだ都市には、国内有数の美術大学の1つ「中国美術学院」もある。豊かな文化都市であると同時に経済も発展し、かつ美食都市としても名高い。〈中国都市総合発展指標2018〉によると、杭州は、「社会」の指標「世界遺産」が全国第4位、「無形文化財」が第3位、「1万人当たり社会消費財小売消費額」が第4位、「海外高級ブランド指数」が第5位、「海外飲食チェーンブランド指数」が第6位、「経済」の指標「トップクラスレストラン指数」が第9位を勝ち取った。

 中国国家統計局と中国中央電視台(CCTV)は毎年、全国から「中国幸福感都市」を10都市選んでいる。杭州はその中で選出累積回数が最多だ。いわゆる中国の「幸福感」ナンバー1都市である。

(2018年度日本語版・トップ10都市分析)


「中国民営企業トップ500」ランキングで杭州が全国第1位を獲得

 2018年8月、全国の企業団体である中華全国工商連合会(工商連)により「中国民営企業トップ500」が発表された。これは中国民営企業の昨年の営業収入(売上高)に基づいて作成される上位500社のランキングであり、民営企業の動向を占う重要な指標である。2010年から公表されている。

 2018年度版のトップ3は、華為投資が売上高6,000億元(約9.7兆円)で首位となり、第2位が蘇寧控股集団、第3位が正威国際集団。昨年の売上高が3,000億元(約4.9兆円)を超えたのは、上位9社だった。なお、テンセントやアリババは筆頭株主が外資のため、中国では外資系企業として扱われており、今回のランキングには含まれていない。

 同「トップ500」では杭州の活躍が目覚ましい。同市からは36社がランクインし、都市別では杭州が全国第1位を獲得した。なお、杭州に属する36社のうち、19社が製造業に属し、杭州経済の発展は、製造業の持続的な繁栄いかんにかかっている。

 浙江省全体では93社がランクインし、杭州、嘉興、紹興、湖州だけで53社が入った。なお、同省にランクインした93社の中では52社が製造業に属している。長江デルタメガロポリスに属する浙江省全体では製造業が強い。

(2017年度日本語版・トップ10都市分析)

アリババグループのカンファレンス「雲栖大会」が開催

 杭州市郊外の雲栖鎮で2018年9月、アリババグループのカンファレンス「雲栖大会」が開催された。このカンファレンスは2009年から毎年開催されているイベントで、グループの戦略や技術動向などを説明する場である。基調講演には、来年2019年9月をもって退任することを電撃発表したアリババ共同創業者で会長の馬雲(ジャック・マー)氏が登壇した。イベントには200社以上のパートナー企業が出展し、4日間で約12万人が来場した。

 中国人の生活サービスにあらゆるものを提供している電子商取引の最大手アリババは、昨今のインバウンドブームなどもあり日本でも著名となってきたモバイル決済「アリペイ」を提供している。そのホームタウンである杭州は中国一のキャッシュレスシティを目指している。すでに98%のタクシー、5,000台以上のバス(市内ほぼすべてをカバー)、95%のコンビニやスーパーマーケットがモバイル決済対応となり、市内はほぼキャッシュレスの状況になっている。また、公共サービスでも納税、公共料金、年金などほぼすべての行政サービスをキャッスレスで網羅しており、効率的な行政運営が実現している。

 また、杭州市が同グループと協力したスマートシティ化計画「ETシティブレイン(城市大脳)計画」がすでに実行され、「ピーク時渋滞遅延指数」全国第288位の悪名高い杭州の渋滞模様が「ETシティブレイン」によって劇的に改善されたという。

(2017年度日本語版・トップ10都市分析)

2022年・第19回杭州アジア競技大会の準備が始まる

 アジアのスポーツの祭典「アジア競技大会(アジア大会)」が、2022年に杭州で開催される予定である。中国では1990年の北京、2010年の広州に次いで3度目の開催となる。

 杭州では2017年から大会組織委員会が本格的に稼働しはじめ、「グリーン・スマート・節約・マナー」を開催理念のもと、インフラ整備をはじめ、大会準備作業の計画が着々と進行しつつある。

 〈中国都市総合発展指標2017〉では、「スタジアム指数」全国第17位、「文化・スポーツ・娯楽輻射力」全国第8位と、経済規模の大きさと比べて今一つスポーツ関連が伸び悩む杭州であるが、アジア大会を契機にスポーツ都市としての飛躍も目指している。

 2018年のアジア大会で話題となった競技は多数あったが、特に注目されたのは「eスポーツ」と言っても過言ではないだろう。eスポーツとはオンラインゲームの総称であり、格闘ゲーム、シューティング、戦略ゲーム、スポーツゲームなど、ジャンルは多種多様である。2018年大会ではあくまで公開競技としてのみの採用だったが、もし2022年の杭州大会でeスポーツの公式種目化が実現すれば、大会の一つの目玉となるのは間違いない。もはやデジタルシティとまで呼ばれるようになった杭州で、スポーツの新たな歴史の幕が開けるかもしれない。

(2017年度日本語版・トップ10都市分析)


人材を惹きつける都市

 杭州市政府は2017年、同市が中国で最も人材を受け入れる都市であると発表した。また、同市から海外に留学生として出た数と中国の海外留学帰国者の杭州への居住者数との割合も全国トップであった。北京市、上海市といった国際的な大都市を押さえて同市が第1位になったことは、大きな話題を呼んだ。

 中国のエンジニアが大挙して杭州市に押し寄せる理由の1つが、アリババを中心としたIT企業が提供するさまざまな手厚いサポートやケアである。官民一体となってスタートアップ企業のサポートを充実させ、従業員に住宅手当や自動車手当まで支給する制度が整備されている。アリババの創設者、ジャック・マー(馬雲)が創設したビジネススクールも開校し、杭州市は一大IT都市としての勢いをさらに増している。

(2016年度日本語版・トップ10都市分析)

G20杭州サミットと進むコンベンション産業

 2016年9月、20カ国・地域(G20)首脳会議「G20杭州サミット」が杭州で開催された。2日間にわたり、「革新、活力、連動、包摂の世界経済構築」をテーマに、多岐にわたった議論が各国の参加者の間で交わされた。

 コンベンション産業の経済波及効果は大きく、現在では世界各国がその産業育成に力を入れている。中国政府も、2020年までに同国を国際コンベンション大国にまで成長させる目標を掲げている。「G20杭州サミット」の開催はその最たる動きである。

 国際見本市連盟(UFI)の報告によると、中国の会場施設規模、販売展示面積はすでに米国に次いで世界第2位になった。一方で、会場施設の過剰、低稼働率などの問題も指摘されている。施設屋内展示面積(2016年末)は、中国全土では108施設で約560万m2、日本は14施設で約36万m2と、中国は日本の約15.6倍の規模になっている。対して、コンベンション業の推定売上額(2015年末)は、中国の18億ドル(約1,919億円)に対し、日本は9.7億ドル(約1,034億円)と約1.9倍に留まっている。

 杭州市は本指標の「国際会議」及び「展示会業発展指数」両項目において、その全国ランキングが第4位、第10位となっている。

 2022年には杭州市で「第19回アジア競技大会」が開催される予定である。杭州市は観光、レジャー、コンベンションをツーリズム産業発展の三大エンジンとする政策を打ち出し、コンベンション都市としての発展を目指している。

(2016年度日本語版・トップ10都市分析)


成都市

CICI2016:第11位  |  CICI2017:第10位  |  CICI2018:第8位

CICI2019:第7位


西部大開発の拠点都市

 成都は〈中国都市総合発展指標2016〉総合ランキングのトップ10に入れなかったが、〈中国都市総合発展指標2017〉において、めでたく総合ランキングのトップ10入りを果たした。〈中国都市総合発展指標2018〉では8位、〈中国都市総合発展指標2019〉では7位と、年々、順位が上昇している。

 四川省の中心に位置する省都・成都は、2300年の歴史を持ち、古くから「天府の国」と呼ばれ、中国十大古都の一つに数えられている。同市の面積は約1.2万 km2で新潟県とほぼ同じ大きさである。四川盆地西部に位置し、自然資源に恵まれ、四川省の政治、経済、文化、教育の中心地である。現在は「西部大開発」の主要な拠点都市とされ、「一帯一路」や「長江経済ベルト」など国家戦略の重要な拠点としても期待されている。日本では、四川料理の本場、パンダの生息地、「三国志」の蜀漢の都として知られている。

 成都の常住人口は約1,443万人で全国第5位の規模を誇る。四川省は「農民工(出稼ぎ労働者)」の主要な流出地である。四川省の地級市18都市中、実に16都市が「人口流出都市」であり、その流出人口規模は合計約1,100万人以上にのぼる。これに対して、成都は全国第10位の「人口流入都市」であり、現在約215万人もの非戸籍人口を外部から受け入れている。成都のGDPも四川省のGDPのおよそ4割を占めており、同省の経済・人口ともに成都に一極集中している。四川省の将来は成都が担っていると言っても過言ではない。


都市ブランド構築アクションプラン「三城三都」

 2017年に発表された成都のアクションプラン「三城三都」が総仕上げの段階に入っている。「三城」とは文化都市、観光都市、スポーツ産業都市を指す。「三都」とは、グルメ都市、音楽都市、コンベンション都市である。成都は「三城三都」を目指し、ソフトパワーを向上させる。アクションプラン期間は2018年から2020年までの3年間としている。

 成都のグルメといえば中国四大料理の「四川料理」であり、これは日本でもなじみが深い。成都は四川料理の発祥地であり、ユネスコに「アジア初めてのグルメ都市」と称されたほどの美食の街である。〈中国都市総合発展指標2018〉によると、「経済」の指標「レストラン・ホテル輻射力」において全国第3位を誇っている。また、四川料理以外にもマクドナルド、ケンタッキー、ピザハット、スターバックス、ハーゲンダッツなど海外の飲食チェーン店も多く、同指標の「海外飲食チェーン指数」でも全国第10位にランクインした。

 成都は時間が止まったような、ゆったりとした都市である。喫茶店でお茶を飲みながら雑談や麻雀を楽しむ光景がいたるところで見られる。喫茶店は1万軒を超え、スターバックスの数も中西部地区で一番多い。

(2018年度日本語版・トップ10都市分析)

スポーツ産業都市

 上記「三城」の1つ、スポーツ産業も好調だ。〈中国都市総合発展指標2018〉によると、「経済」の指標「文化・スポーツ・娯楽輻射力」の順位は昨年度に比べ1位上昇し、全国で第3位にランクインした。成都のスポーツ産業は、5年連続で20%以上の成長を維持し、2019年に同産業の規模は700億元(約1.1兆円)を超えた。

 同市では、スポーツ産業の発展を加速させるために、「成都サッカー改革発展実施計画」、「成都万人フィットネス実施計画(2016−2020年)」などの政策を相次いで発表し、資金提供、選手の育成、国内有名スポーツ企業の誘致など、様々な施策を打ち出している。

 また、「成都スポーツ産業活性化発展計画(2020−2025年)」では、同市のスポーツ産業の規模をさらに現行の倍以上の1,500億元(約2.3兆円)へと目標を定めた。

 成都に限らず、中国人のスポーツやフィットネスに対する意識は大幅に向上してきた。スポーツ産業は、都市経済はもちろん、都市の魅力やライフクオリティ向上の面でもその重要性を増していくだろう。

(2018年度日本語版・トップ10都市分析)

西南地域のコンベンション都市

 「三城三都」のうち、「三都」の1つはコンベンション都市だ。〈中国都市総合発展指標2018〉によると、成都は、「社会」の指標「国際会議」ランキングが全国第5位で前年度より4位も順位を上げた。同項目の指標「コンベンション産業発展指数」」ランキングは、全国第5位で前年度から3位順位を上げている。この躍進ぶりが目覚ましいのは恐らく「三城三都」政策の効果であろう。

 成都は2022 年までに、大きなコンベンションイベント、国際大会を数多く計画し、関連収入1,200 億元(約1.8兆円)を目標に努力している。

(2018年度日本語版・トップ10都市分析)


成都ハイテク産業開発区(成都市高新区)

 「西部大開発」の拠点都市である重慶、成都では、市内に国家級のハイテク産業開発区や経済技術開発区などが置かれ、中央政府関係部門からのさまざまなサポートにより重点的に産業が集積されている。重慶は従来から自動車、石油化学、重電などの重厚長大型産業が集中している。これに対して成都には電子産業、製薬・バイオ産業、IT関連産業などが集積している。

 「成都ハイテク産業開発区」が1988年に発足し、1991年には国家級開発区に認定された。同開発区は成都市の西部と南部に位置する二つの地域からなり、総面積は130 km2(山の手線内の面積の約2倍)で、そのうち南部地域が87 km2、西部地域が43 km2である。南部地域には金融、ソフトウェア開発、BPO関連のサービスを提供する企業が集積し、西部地域はエレクトロニクス産業、バイオ医学産業、IT関連産業などの企業が進出している。同開発区の域内総生産はすでに成都市の約30%を占めている。

 同開発区に支えられた成都の発展は、本指標でその成果を見ることができる。〈中国都市総合発展指標2017〉では、「科学技術輻射力」は全国第5位、「IT産業輻射力」は第6位、「創業板・新三板上場企業指数」は第7位、「特許取得数指数」は第9位となっている。また、インフラ整備では「空港利便性」は全国第4位、「鉄道利便性」は第12位となっている。さらに同市は「固定資産投資規模指数」は全国第4位、「実行ベース外資導入額」第5位のような活発な投資が行われ、内陸経済活性化を主導する成都の躍進ぶりがうかがえる。

(2017年度日本語版・トップ10都市分析)

一大消費都市としての成都

 成都は歴史的に消費が盛んな都市である。「宵越しの金は持たない」という成都人気質は、本指標にも顕著に表れている。〈中国都市総合発展指標2017〉では成都の「平均賃金」は全国第20位であり、決して突出した状況ではないにもかかわらず、「映画館消費指数」は全国第7位、「卸売・小売輻射力」に至っては全国第3位である。また、「美食の都」と評されるような豊かな食の文化と消費力が合わさった結果、「トップクラスレストラン指数」は全国第6位、「飲食・ホテル輻射力」は全国第7位となっている。成都人はファッションにも大変敏感と言われており、2010年前後に世界から成都に進出してきた高級ブランドにも貪欲に飛びつき、「海外高級ブランド指数」では天津を抜いて全国第3位に躍り出た。

 豊かな土地にゆったりと過ごす価値観を持つ成都の人々は、蓄えることより消費を好む社会を築いていった。この旺盛な消費市場を狙って、外資のサービス産業の進出が相次いでいる。

(2017年度日本語版・トップ10都市分析)


天津市

CICI2016:第5位  |  CICI2017:第5位  |  CICI2018:第5位  |  CICI2019:第8位


GDPの水増しで物議を醸す

 天津市は中国4大直轄市の1つである。西側には北京市、東側には渤海を望み、かつて洋務運動の重要な拠点として、中国で西洋の制度及び技術を最も早く取り入れた都市の1つである。面積は約11,917km2と秋田県とほぼ同じ面積で、約1,517万人の常住人口を抱えている。また、世界第10位のコンテナ取扱量(2017年)を誇る天津港を有している。天津港は中国北方における貿易の窓口を担い、後背地はモンゴルやカザフスタンにまで及んでいる。

 ところが、天津市は、市内に設置された「経済開発区(浜海新区)」の GDPの水増し問題で最近世間を騒がしている。2018年1月の同市政府発表によると、同経済開発区2016年のGDPに3割の水増しが発覚した。

 中国ではかねてより地方政府による統計の水増しが指摘されてきた。現在、中央政府は統計基準の調整や捏造への罰則を強めるなど対策に本腰を入れている。統計への疑義を指摘されている地方政府はまだ多数あり、今後も統計データの修正は続いていくと予想される。

(2016年度日本語版・トップ10都市分析)


第15回中国(天津)国際工業博覧会

 2019年3月、「第15回中国(天津)国際工業博覧会」が開催された。同博覧会は世界三大工業博覧会の1つに数えられ、今回の博覧会には世界20以上の国と地域から有名企業約千社が一堂に会し、世界中の先進的な設備や技術が展示された。

 天津は清朝末期、「洋務運動」で中国の工業化を牽引する役割を果たしただけではなく、国際的な商業都市としても栄えた。しかし新中国建国後は、計画経済のもとで工業都市に特化した。改革開放以降も工業を中心として発展を遂げてきた。

 その結果、〈中国都市総合発展指標2018〉によると、「製造業輻射力」全国ランキングにおいて、天津は北方都市の最高順位である第8位を獲得した。上記の国際工業博覧会の天津での開催にはこうした背景がある。

 同じ直轄市の中でも北京や上海は国際的な商業都市として、サービス産業の発展が著しい。これに対して、天津はサービス産業の発展が相対的に遅れている。〈中国都市総合発展指標2018〉によると、「飲食・ホテル輻射力」ランキングで上海は第1位、北京は第2位であるのに対して、天津は第16位と引き離された。「文化・スポーツ・娯楽輻射力」ランキングでは北京が第1位、上海が第2位に対して、天津は第13位だった。さらに、「卸売・小売輻射力」ランキングでは北京が第1位、上海が第2位、天津は第10位であった。

 近年、中国ではIT産業の発展が目覚ましい。しかし製造業とは異なり、IT産業の発展は、都市の商業環境に大きく左右される。南開大学、天津大学といった名門大学を抱えながら、天津のIT産業の発展は芳しくない。「IT産業輻射力」ランキングでは、第39位と、直轄市にふさわしくないパフォーマンスだった。

(2018年度日本語版・トップ10都市分析)

天津が推進するナイトエコノミー

 天津もサービス業の発展を推し進めるために、様々な施策を行っている。その1つに「ナイトエコノミー」がある。2018年11月、天津市政府はナイトエコノミーの発展を加速する「意見」を発布した。天津は、臨海部という立地を活かした景観づくり、東西文化を融合させたナイトエコノミー集積地の形成、豊富な生活文化娯楽コンテンツの設置など、多岐にわたる施策やプロジェクトを立ち上げている。

 もともと中国では北方の都市の夜は早仕舞いが一般的だった。首都北京ですらレストランの閉店時間が早く、南から北京に来る客の不満が絶えなかった。というのは、南の都市の夜は長く、賑やかだからだ。

 計画経済で商業都市の面影をほぼ消し取られた天津の夜は、長く闇に包まれていた。活気を入れるため天津はナイトエコノミーを打ち出した。しかし、施策やプロジェクトの中身を見てみると、ライトアップ、屋台街の設置などのインフラ整備や、過剰ともいえる政府の介入がほとんどであった。ナイトエコノミーは自発的なものであることがあまり意識されていないようだ。

(2018年度日本語版・トップ10都市分析)

ブームが去ったシェア自転車

 かつて中国が自転車王国だった時代、三大国産自転車ブランドの1つが天津産だった。こうした天津のブランド自転車は、当時若者にとって新婚生活“三種の神器”の1つとしても、人気が高かった。

 急激なモータリゼーションにより中国の街で自転車の存在感はだいぶ薄まった。自転車が再び注目を集めたのは、シェア自転車ブームであった。シェア自転車は中国で2015年に誕生し、1年も経たないうちに爆発的に全国に拡大した。北京などの大都市では、街そのものがシェア自転車駐輪場の様相を呈した。

 天津は、シェア自転車ブームに乗って、上海、深圳と並んで三大自転車産地になった。中国北部で最大の自転車生産規模を誇っていた。

 だが、過当競争や放置自転車問題、保証金トラブルなどを理由に、5年がたった今ではシェア自転車ブームは急激に色あせていった。

 狂想曲のようなブームが落ち着いたシェア自転車だが、それでも都市交通に自転車を呼び戻した功績は大きい。また、中国経済や文化に「シェア」という概念を持ち込んだことは大きな意味をもつ。

(2018年度日本語版・トップ10都市分析)


天津の都市文化「相声(漫才)」

 近年、中国では再び「相声」ブームが巻き起こっている。相声とは日本の「漫才」に似た中国の伝統的な大衆芸能の一つである。諸説あるが、「相声」はおよそ100年前に北京で生まれたとされ、その後天津で発達し、今や天津を代表する文化となっている。「相声」を含む天津の「無形文化財」は〈中国都市総合発展指標2017〉で全国第9位となっている。

 一時は低迷した「相声」に再び脚光を浴びせた立役者が、天津出身の相声芸人・郭徳綱である。郭徳綱は伝統的な「相声」を現代風にアレンジし、ユーモアに溢れながらも世相を辛辣に皮肉ることで人々の心をつかんでいる。今や彼の人気は老若男女問わず高く、相声界のフロントランナーとして中国内外で活発な活動を展開している。郭徳綱は2017年夏、日本をはじめて訪れ、東京公演で大成功を収め、在日華人らを爆笑の渦に巻き込んだ。好評のため翌2018年に再び東京公演を行い、ファンを増やしている。

 「相声」は2008年に中国の国家無形文化遺産に登録された。天津の歴史的な民俗文化と市民文化の象徴として、天津人の精神の拠り所ともなっている。

(2017年度日本語版・トップ10都市分析)

新たなランドマーク公共図書館「浜海新区文化センター」がオープン

 天津市の経済開発区、浜海新区に2017年末、従来の中国の図書館のイメージを覆す公共図書館「浜海新区文化センター」がオープンした。新たなランドマークとなった同センターは、地上6階建てで高さは約29.6 m、総面積は3.4万 m2にもおよび、開館時の蔵書数は20万冊で、収蔵能力は120万冊の規模を誇る。

 建物は流線形の近未来的なデザインで構成され、壁沿いには天井から床まで覆う階段状の書架がうねりながら棚田のように連続している。来館者は書棚の横を歩きながら自由に上下階を行き来できる。設計・デザインは、世界的に著名なオランダの建築設計会社「MVRDV」が手がけて話題を呼んだ。

 「浜海新区文化センター」の様子がネットで公開されるやいなや、国内外のさまざまなメディアが取り上げ、米国『タイム』誌は2018年の観光地ランキング「行く価値のある世界100カ所」の中で、「浜海新区文化センター」を映えある第1位にランク付けした。

 「公共図書館蔵書量」全国第8位の天津に相応しい「浜海新区文化センター」には、週末に平均1.5万人が訪れるという。もはや図書館だけの機能にとどまらず、世界中の人々を魅了する21世紀の社交空間としても日々存在感を増している。

(2017年度日本語版・トップ10都市分析)

天津進出25周年を迎えた伊勢丹

 日本の老舗百貨店伊勢丹が2018年、天津進出25周年を迎えた。1993年オープンした上海淮海路店に続き、同店は中国第2号店である。当時、天津市政府側には、北京、上海に次ぐ中国第三の都市として国際的な百貨店を誘致したいとの意向があり、外資系大型百貨店としては同店が天津市で第1号となった。2013年には浜海新区に天津2号店もオープンしている。

 1992年の中国小売業の開放により、日系百貨店は早い段階から中国市場に進出した。

 参入初期こそ日系百貨店は売場、商品、販売サービスなどの面で消費者の支持を得て業績を伸ばしたものの、現在では業績不振が続き、撤退を余儀なくされる百貨店も少なくない。中国の百貨店は全体として国内資本のパワーアップも相まって競争が激化し、さらに消費者ニーズの変化やeコマースへの対応も後手に回り、大いに苦戦を強いられている。

 伊勢丹も中国内の一部地域では業績が伸び悩んでいるものの、天津での売上は好調である。その強さの理由は、顧客満足度の高さだという。困難な時代を乗り越えていくために顧客情報の丁寧な分析によって常に顧客ニーズに合った商品を展開させ、店舗づくり、組織改革、商品開発などあらゆる面で、徹底的に改革を続けている。日本の百貨店が〈中国都市総合発展指標2017〉の「卸売・小売輻射力」全国第7位の都市で善戦を続けている現実は、海外小売業界の中国展開にひとつの示唆を与えている。

(2017年度日本語版・トップ10都市分析)


停滞する天津エコシティ開発

 統計水増し問題のあった浜海新区には、中国とシンガポールが共同で建設を進めている「天津エコシティ(中新天津生態城)」がある。天津エコシティとは、天津市郊外の約30km2の塩田跡に、2020年ごろまでに人口35万、住戸11万戸を建設する環境配慮型の次世代都市建設プロジェクトである。投資額は約500億元を見込み、環境配慮型都市開発のモデルとなることが期待されていた。

 中央政府肝いりではじまったこのプロジェクトは、2008年9月から建設が開始され、2018年で工事開始から丸10年が経過する。天津市政府発表では、2016年末で人口は7万人に達し、住戸数は2.7万戸を供給済み、固定資産投資額は累計で約324億元(約5.4兆円)に到達したという。

だが、これら発表された数値を見ても、建設の進捗状況は芳しくないのが実情のようだ。浜海新区全体の開発も遅々として進まず、その閑散とした様子は「鬼城(ゴーストタウン)」と揶揄されている。

 さらにこうした状況に拍車をかけたのが2015年8月、同開発区内の危険物倉庫で発生した大規模な爆発事故である。この事故により天津港は一時港湾機能が麻痺状態に陥り、経済損失額は直接的なものだけで約68.7億元(約1,200億円)にのぼるという。

(2016年度日本語版・トップ10都市分析)

日本との交流

 アヘン戦争後の1860年にイギリスが天津市に租界を設立してから、新中国成立に至るまで日本を含む9カ国が天津市に租界を設立していた。近代日本と中国の最初の接点は上海市と天津市であり、天津市からは華北地域の特産品である「栗」が日本に多く輸出されたことで、「天津甘栗」の名前が馴染みである。

 中国の改革開放後、日本政府は巨額な有償・無償の経済援助を行い、日本企業の対中直接投資も拡大を続け、天津にも多くの日系企業が進出した。貿易については、中国の輸入先として2016年、日本は国別で第2位に、金額は1,456億ドル(約15.5兆円)となった。輸出でも1,292億ドル(約13.8兆円)で同第2位となり、日本は中国にとって重要な貿易パートナーとなっている。中国北方の玄関口としての天津が果たした役割は大きい。

 そうした日中関係を象徴するように、2016年に天津市を訪れた外国人は約309万人で、その約4割が日本人であったことが市政府の発表で明らかになった。

(2016年度日本語版・トップ10都市分析)