武漢:新型コロナウイルス禍と最初に対峙したメガシティ【中国中心都市&都市圏発展指数2021】第11位

中国中心都市&都市圏発展指数2021
第11位


 武漢市は中国中心都市&都市圏発展指数2021の総合第11位に輝いた。同市は前年度より順位を2つ上げた。

 〈中国中心都市&都市圏発展指数は、中国都市総合発展指標の派生指数として、4大直轄市、22省都、5自治区首府、5計画単列市からなる36の中心都市の評価に特化したものである。同指数は、これら中心都市を、全国297の地級市以上の都市の中で評価している。10大項目と30の小項目、116組の指標からなる。包括的かつ詳細に、中国中心都市の発展を総合評価するシステムである。

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〈中国中心都市&都市圏発展指数〉:【36中心都市】北京、上海、深圳、広州、成都、天津、杭州、重慶、南京、西安、寧波、武漢、青島、鄭州、長沙、廈門、済南、合肥、福州、瀋陽、大連、昆明、長春、ハルビン、貴陽、南昌、石家荘、南寧、太原、海口、ウルムチ、蘭州、フフホト、ラサ、西寧、銀川

中部地域の最大都市


 湖北省の省都、武漢は中国中部地域の最大都市であり、新型コロナウイルスの試練に最初に向き合った都市として近年、国際的な注目を浴びた。

 武漢の総面積約は8,569平方キロメートルで広島県とほぼ同じ。その広大な総面積の4分の1が、琵琶湖の面積の約3.3倍となる水域である。

 近代の武漢は中国東西軸の長江と、南北軸の鉄道大動脈が交差する立地を背景に発展してきた。故に、交通のハブ機能が発達している。〈中国都市総合発展指標〉の「空港利便性」項目では中国第20位、航空旅客数は第11位である(詳しくは【ランキング】中国で最も空港利便性が高い都市はどこか?を参照)。「高速鉄道便数」は中国第9位で、「準高速鉄道便数」は第2位であった。

 2004年から新型コロナウイルス・パンデミック直前の2019年までの15年間、武漢のGDPは年平均12%を超える成長を実現した。2021年のGDPは約1兆7,717億元(約35.4兆円、1元=20円換算)で中国第9位、1人当たりGDPは12万9,805元(約260万円)となった(詳しくは【ランキング】世界で最も経済リカバリーの早い国はどこか? 中国で最も経済成長の早い都市はどこか?を参照)。

 武漢は、面積は湖北省の5.6%にすぎないものの、同省全体のGDPの約38.3%を占めている。2021年に湖北省における武漢の輸出額と輸入額のシェアは、それぞれ57.1%、80.6%に達している(詳しくは【ランキング】中国で最も輸出力の高い都市はどこか?を参照)。

ロックダウンでコロナ感染拡大を封じ込む


 武漢は新型コロナウイルスショックに世界で最初に向き合った都市であった。武漢は〈中国都市総合発展指標〉の「医療輻射力」ランキングで全国第7位の都市である。27カ所の三甲病院(最高等級病院)を持ち、医師約4万人、看護師5.4万人と医療機関病床9.5万床を擁する。しかしながら、武漢のこの豊富な医療能力が、新型コロナウイルスの打撃により、一瞬で崩壊した(詳しくは【レポート】新型コロナパンデミック:なぜ大都市医療能力はこれほど脆弱に?を参照)。

 よくも悪くも中国の医療リソースは中心都市に高度に集中している。武漢は1千人当たりの医師数は4.9人で全国の水準を大きく上回る。武漢と同様、医療の人的リソースが大都市に偏る傾向はアメリカや日本でも顕著だ。ニューヨーク州の1千人当たりの医師数は4.6人にも達している。東京都は人口1千人当たりの医師数が3.3人で、これは武漢より少なく、ニューヨークと同水準にある。

 しかし、武漢、ニューヨークはその豊かな医療リソースをもってしても、新型コロナウイルスのオーバーシュートによる医療崩壊を防ぎきれなかった。2020年末までは、中国の新型コロナウイルス感染死者数累計の83.5%が武漢に集中していた。その多くが医療機関への集中的な駆け込みによる集団感染や医療崩壊による犠牲者だと考えられている(詳しくは【ランキング】ゼロコロナ政策で感染拡大を封じ込んだ中国の都市力 〜2020年中国都市新型コロナウイルス新規感染者数ランキングを参照)。

 武漢は2020年1月23日からの2カ月半にわたる都市封鎖(ロックダウン)で難局を切り抜けた。ゼロコロナ政策によって普段の日常を取り戻した。

 新型コロナウイルス禍と最初に対峙した都市が、医療リソースの豊富な武漢だったのは、ある意味、不幸中の幸いだったかもしれない。武漢における教訓は、新型コロナウイルス感染症に関する数多くの研究論文として昇華され、世界中でかつてない勢いで「知の共有」が進んでいる。

図 武漢ロックダウン期間における新規感染者数・死亡者数

出典:中国湖北省衛生健康委員会HPなどにより雲河都市研究院作成。

全土から集まった医療支援


 新型コロナウイルスのオーバーシュートが発生した当時、武漢に中国全土から多くの支援が集まった。感染者数の爆発的増大で、多くの医療スタッフも院内感染に巻き込まれ、医療従事者の大幅な不足状況が発生した。これに対処するため中国各地から大勢の医療従事者が応援に駆けつけ、その数は4.2万人にも達した。

 病床数の不足については、国の支援で、新型コロナウイルスの専門治療設備の整う「火神山病院」と「雷神山病院」という重症患者専門病院を10日間で建設し、前者で1,000床、後者で1,600床の病床を確保した。このほかに、武漢は体育館16カ所を軽症者収容病院に改装し、素早く1.3万床を確保し、軽症患者の分離収容を実現させた。これによって先端医療リソースを重症患者に集中させ、病床不足は解消された(当時の武漢の取り組みについて詳しくは「【論文】ゼロコロナ政策 Vs ウイズコロナ政策を参照)。

 こうした措置が武漢の医療崩壊の食い止めに繋がった。感染地域に迅速かつ有効な救援活動を施せるか否かが、新型ウイルスを封じ込める鍵となる。しかし、すべての国がこうした力を備えているわけではない。ニューヨーク、東京の状況からみても、医療リソースがかなり整う先進国でさえ救援動員はなかなか難しいことが分かる。

人口引き留め政策


 武漢は約1,365万人の常住人口を抱え、中国第8位の都市人口規模を持っている。人口の流出入を示す「人口流動(非戸籍常住人口)」では、湖北省内12都市のうち10都市で、人口が他都市へ流出している。これに対して武漢は、流動人口が約317万人の大幅プラスにあり、全国で第13位の人口流入都市となっている。

 一方、武漢は89の大学、95の科学研究所、130万人弱の大学生を抱えながら、大卒者のうち同市に残る者は5分の1にも満たない。そこで、2017年、武漢市政府は向こう5年間で大卒者100万人を同市内に引き留めるプロジェクトを発表した。これにより、同市の大卒者は市場価格を2割下回る値段で住宅を購入できるか、あるいは市場価格を2割下回る価格で住宅を借りられる。さらに、最低年収の設定、就職の斡旋、起業のサポートなど「大卒者に最も友好的な都市」へ向けたさまざまな政策を打ち出した。経済のグローバル化と知識集約型産業が進展していくなかで、中国の各都市間の人材の育成と獲得競争が激しくなっている。


中国都市総合発展指標2021
第11位


 武漢は〈中国都市総合発展指標2021〉総合ランキング第11位であり、前年度の順位を維持した。

 「社会」大項目は第11位であり、前年度に比べ順位が6つ上がった。3つの中項目で「ステータス・ガバナンス」は第7位、「生活品質」は第9位、「伝承・交流」は第11位と、3項目のうち2項目がトップ10入りした。小項目で見ると、「都市地位」「人口資質」「社会マネジメント」「人的交流」「消費水準」は第8位、「居住環境」「生活サービス」は第10位と、9つの小項目のうち7項目がトップ10に入った。なお、「文化娯楽」は第12位、「歴史遺産」は第35位であった。

 「経済」大項目は第11位であり、前年度の順位を維持した。3つの中項目で「経済品質」「都市影響」は第10位、「発展活力」は第14位で、3項目のうち2項目がトップ10入りした。小項目では、「都市圏」は第8位、「イノベーション・起業」は第9位、「経済規模」「広域輻射力」は第10位と、9つの小項目のうち4項目がトップ10内に入った。「経済構造」は第11位、「開放度」「広域中枢機能」は第12位、「ビジネス環境」は第19位、「経済効率」は第29位であった。

 「環境」大項目は第15位となり、前年度に比べ順位が12位も上がった。3つの中項目の中で「空間構造」は第5位、「環境品質」は第72位、「自然生態」は第124位と、3項目のうち1項目がトップ10に入った。小項目では、「交通ネットワーク」は第5位、「コンパクトシティ」「都市インフラ」は第8位と、9つの小項目のうち、3項目がトップ10入りした。「資源効率」は第18位、「環境努力」は第46位、「水土賦存」は第123位、「気候条件」「自然災害」は第126位、「汚染負荷」は第204位であった。


 〈中国中心都市総合発展指標2021〉について詳しくは、メガシティの時代:中国都市総合発展指標2021ランキングを参照。

CICI2016:第10位  |  CICI2017:第11位  |  CICI2018:第9位
CICI2019:第10位  |  CICI2020:第10位  |  CICI2021:第11位


青山長江大橋の建設


 武漢は、長江と漢江によって「武昌」「漢口」「漢陽」という3つの地域(武漢三鎮)に分けられる。3つの地域間を多くの橋がつなぎ、大都市の大動脈として機能している。1957年10月、全国で初めて長江の両岸をつないだのは武漢長江大橋であった。2020年末には両岸をつなぐ11本目の青山長江大橋が開通した。都市インフラに積極的に投資してきた武漢は、橋の建設を進め、橋の数が増えるごとに都市の一体化も進んだ。

 〈中国都市総合発展指標2021〉によると、武漢は「環境」の「固定資産投資規模指数」が中国第5位である。「橋の武漢」と称されるように、橋の景観は武漢に多彩な表情をもたらしている。

中国で3番目に高いビル「武漢緑地中心」を建設


 世界中で超高層ビルの建設ラッシュが起こっている。高層建築ブームの先頭をいく中国で近年最も注目されているのが、2011年から建設が始まった「武漢緑地中心(Wuhan Greenland Center)」である。竣工予定は2023年末で、総投資額は300億元(約6,000億円)以上になるという。完成すると高さ595メートル、延床面積約300万平方メートルの、世界で7番目に高いビルとなる。ブルジュ・ドバイや上海金茂タワーなど、世界で最も有名な超高層ビルの設計を数多く手がける建築設計チーム「Adrian Smith + Gordon Gill Architecture」が担当した。五つ星ホテル、高級ショッピングモール、オフィス、高級マンションを備えた超高層複合都市を目指している。

 世界の建築専門家らが編集する「高層ビル・都市居住評議会(CTBUH)」のレポートによると、中国は超高層ビルの竣工面積が最も多い国となっている。現在、世界で建設された超高層ビルトップ100のうち、43棟が中国にある。


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