重慶市

CICI2016:第8位  |  CICI2017:第7位  |  CICI2018:第6位  |  CICI2019:第5位


戦時首都だった重慶

 重慶市は長江上流に位置し、上海市からは約2,500km西南にある内陸部の直轄市である。重慶市は長江と嘉陵江という2本の河川が合流する地点に開け、山や川の入り組んだ高低差の激しい半島状の地形になっている。市内の標高差は220m近くもあり、長い階段が街の随所に見られる独特の風景をつくりだしている。重慶市は北海道に相当する8.2万km2の面積に約2,991万人という世界の都市の中で最大の人口規模を抱える。夏季の気候が高温多湿であるため、南京市、武漢市と並び三大「かまど」と言われている。

 重慶市は長い歴史を持つ都市であり、『三国志』の「蜀」に属する地として日本でも有名である。1891年に開港し、中国西南部における近代化の拠点となった。1937年から1946年までは中華民国政府の「戦時首都」が置かれ、日中戦争時代の中国の心臓部であった。

(2016年度日本語版・トップ10都市分析)


最も若い直轄市

 中国西南部、四川盆地の南東部にある重慶市は、この地域における中心都市であり、中国の最も若い「直轄市」である。世界に重慶の名を馳せたのは第二次大戦時に「戦時首都」であったことによる。1949年の新中国成立後、西南地域要衝として中央直轄市だった。1954年に四川省に編入。1997年に、再び四川省から分離し、直轄市に昇格した。「直轄市」とは、中国の行政区分における第一級行政区画(省級行政区)に属し、市単体で省と同格の機能を有する。現在、中国には重慶市の他に、北京市、上海市、天津市が直轄市として認定され、他の都市よりも強い行政権限をもつ。重慶には日本の総領事館も置かれている。

 直轄市である北京、天津、上海、重慶を比較してみると、面積、人口ともに重慶は巨大である。面積は北海道とほぼ同じ規模で、中国最大の都市である。市下に13市区、4市、18県、5自治区を管轄し、2018年末の常住人口は3,102万人に達している。広大な土地には、都市や農村、自然環境など、豊富で多様性に満ちた資源が混在している。

 長江の上流に位置する重慶は古来より水運で栄え、重要な交通の要所であった。三峡ダムの完成後は1万トン級の船舶も直接重慶まで航行することができるようになった。2010年には内陸港唯一の保税区が整備され、周囲の鉄道や空港を含んだ一大物流拠点になっている。現在では、重慶から貴州、広西チワン自治区を通じシンガポールまでをつなぐ物流ルートも開通し、「一帯一路」構想における主要な国際交流交易拠点として発展が期待されている。

(2018年度日本語版・トップ10都市分析)

観光都市

 重慶市は中国屈指の観光都市である。〈中国都市総合発展指標2018〉によると、「社会」の指標「国内旅行客」は全国第1位、「海外旅行客」は第8位の成績を誇る。「環境」の「国家公園・保護区・景観区指数」が全国第1位であると同時に、「社会」の「世界遺産」も全国第2位にランキングされた。豊かな自然と文化遺産の調和ある観光資源が、国内外から多くの観光客を魅了している。  

 2019年の「国慶節」(新暦の10月1日)連休期間(10月1日〜7日)に同市を訪れた観光客は重慶の総人口を上回る3,859万人に上り、全国トップを記録した。ちなみに第2位は武漢、第3位は成都、第4位は杭州、第5位は西安であった。

 しかし、観光収入で見ると、重慶とライバル都市である成都とは、様相をやや異にする。同じ時期での観光収入においては成都が重慶より多かった。成都の観光客数は2,017万人であり、重慶より1,842万人少ないが、観光収入は286億元にも達し、重慶より100億元(約1,500億円)も高かった。

 観光産業を考える際、重要な点は、観光客にいかにその都市で消費をしてもらうかに尽きる。〈中国都市総合発展指標2018〉で各産業の輻射力で両都市を比較すると、その実態が見えてくる。都市の購買吸引力を示す「経済」の指標「卸売・小売輻射力」では、重慶は第6位、成都は第3位という結果となり、成都の方がより消費者にとっては魅力的なショッピング都市であることがわかる。また、都市の飲食業やホテルの吸引力を示す同項目の指標「飲食・ホテル輻射力」では、重慶は第22位、成都は第3位となり、歴然たる差を見せつけた。

 両都市にどのような違いがあるのか、一度読者も両都市を訪れ、その違いについて考察を深めていただきたい。

(2018年度日本語版・トップ10都市分析)

「横向き摩天楼」という新しいランドマーク

 2019年9月、重慶に新たなランドマーク「ラッフルズシティ(来福士広場)」が誕生した。ラッフルズシティは、長江と嘉陵江が合流する朝天門広場に位置し、総工費38億ドル(約4,066億円)で、敷地面積9.2ヘクタール、総床面積112万平方メートルという巨大プロジェクトである。23万平方メートルのショッピングモールや、16万平方メートルのオフィス、1,400戸の住宅、ホテルなどの機能を兼ね備えている。

 スケールも巨大であるが、イスラエルの建築家モシェ・サフディ氏が設計した外観も度肝を抜くほどの奇抜さである。敷地内には8棟の高層ビルが林立し、南側にある6棟は高さ250メートル、北側の2棟は350メートルを誇る。中でも注目すべきは、長さ300メートル以上の橋形建築物「ザ・クリスタル(水晶連廊)」。「横向き摩天楼」とも呼ばれる通路が高層ビル4棟を接続し、さながら高層ビル群を三次元の「帆」のように見立てた外観である。2020年5月、この連結部分もオープンし、地上250メートルの「世界一高い」空中通路が市民の話題を集めている。

(2018年度日本語版・トップ10都市分析)


『千と千尋の神隠し』の舞台? 一大人気スポットとなった「洪崖洞」

 中国政府の発表によると、2018年5月の労働節(メーデー)の三連休で、中国全土の国内旅行者は1.5億人(前年比9.3%増)を記録し、国内観光収入も前年同期比10.2%増の871.6億元(約1.4兆円)に達した。加熱する旅行ブームの中、同連休中の中国国内人気観光地ランキングで第2位に輝いたのが、重慶の「洪崖洞」だ。

 重慶には貴重な遺産や文化を残した名跡が多い。元来、観光地としても有名で、〈中国都市総合発展指標2017〉では「国内観光客」で、重慶は堂々全国第1位の観光都市である。重慶市南部に位置する「洪崖洞」は、同地の伝統的な建築様式「吊脚楼」を採用して再建された商業施設。全長約600m、総面積は6万m2の市内屈指の観光地として「国家4A級旅遊景区」に指定された。連休初日だけで8万人以上が訪れたその人気の理由は、中国発祥の人気スマートフォン・アプリ「抖音(Tik Tok)」の口コミ効果であったという。

 「洪崖洞」が日本の大ヒットアニメーション映画『千と千尋の神隠し』の舞台「湯屋」に「酷似している」との投稿が「抖音」に上がり、また、美しい「洪崖洞」の夜景を捉えた動画も数多く投稿されると、またたく間に若者のあいだで話題となり、大フィーバーにつながった。中国の観光名所がSNSという新たな手段によって次々と再発見されている好例である。

(2017年度日本語版・トップ10都市分析)

 

中国西部最大の旅客輸送ターミナル「重慶西駅」の第1期が完成

 2018年1月、重慶西駅が完成し、重慶市と貴州省貴州市を結ぶ鉄道「渝貴鉄路」が同時開業した。「渝貴鉄路」は全長347kmで、営業最高時速は200km。同鉄道は中国の成渝地区(成都と重慶の間の地区)と西南地区から華南・華東地区に至る高速鉄道ルートを形成し、重慶・貴州間の移動時間は大幅に短縮された。地域の交通利便性がさらに高まり、沿線の中小都市の発展や観光資源開発が牽引されると見込まれている。

 起点となる重慶西駅は中国西部最大の旅客ターミナルとなり、完成した第1期の建築面積は約12万 m2におよび、年間の利用客数は約4,100万人を見込んでいる。2018年の春運(旧正月前後の帰省ラッシュに伴う特別輸送体制)の期間中、1日あたりの旅客数は10.3万人を記録し、旅客数が10万人を突破した中国初の大型旅客輸送ターミナルとなった。〈中国都市総合発展指標2017〉では、重慶の「鉄道利便性」は全国第29位であるが、今後の順位上昇が見込まれる。

(2017年度日本語版・トップ10都市分析)

 

国内有数の自動車生産基地

 中国は今や世界最大の自動車市場である。重慶も、中国有数の自動車生産基地の一つであり、2017年の同市の自動車生産台数は約300万台に達した。中国の自動車生産台数は約2,888万台で9年連続世界第1位である。重慶の自動車生産はその約1割を担う規模にまで成長している。重慶の「1万人当たり自家用車保有量」は全国第126位とかなり低いが、都市としての全体規模でみると自家用車保有量は全国第5位の約232万台(前年比21.5%増)であり、今後の成長が期待されている。

 一方、重慶は自動車産業の生産額では、成長スピードが鈍化し、ライバルである上海や広東省に比べると、一車両あたりの生産額が低いことが課題となっている。また、同市はEVやスマートカーへの対応も遅れており、ハイエンド技術の研究開発が急がれている。

(2017年度日本語版・トップ10都市分析)


直轄市への昇格、西部開発から一帯一路へ

 新中国建国後、重慶市は四川省の一部であった。1983年には「計画単列市(日本の政令指定都市に相当)」に昇格。1997年に四川省から独立し、北京、上海、天津に続く直轄市となった。現在では西南エリアの中枢機能が集約され、内陸部地域の活性化を目的とする「西部大開発」政策の一大拠点となっている。

 「西部大開発」の推進でインフラが整備され、特に直轄市となって以来の約20年間、重慶市のGDPは年平均12.0%の成長率を実現した。重慶市のGDPは1.43兆元(約24.3兆円)に達したものの、1人当たりGDPは47,679元(約81万円)で、同じ西部地域の中心都市である成都市の同69,704元(約118万円)には及ばない。

 重慶市には2010年6月、中国国内3番目の国家級新区「重慶両江新区」が設置された。2017年には貿易や投資などの規制緩和を重点的に進める「自由貿易試験区(重慶自貿区)」も開設され、国際貿易都市としての性格が強まり、現在中国政府が推進する「一帯一路」の重要な拠点としての役割も担うこととなった。

 2016年の重慶市への実行ベース外資導入額は113.4億ドル(約1.2兆円)に達し、西部地域のトップである。重慶市に進出している「フォーチュン・グローバル500」の企業は272社にも達している。

(2016年度日本語版・トップ10都市分析)

 

人口流出都市

 本指標の「人口流動」項目で、重慶市は中国全土295地級市以上の都市でワースト1位であった。流動人口はマイナス384万人にも達し、すなわち横浜市と同規模の人口が、戸籍を移さずに市外へと流出、出稼ぎ労働者(農民工)となった。第4章の「人口流動」分析図(図4-17、4-18)からわかるように、中国の出稼ぎ労働者は、重慶市や四川省、河南省、安徽省、貴州省といった内陸部の農村地域から沿海部の大都市に大量に流出している。農村部では収入も低く雇用の機会も少ないため、労働者として沿海部の都市へと流出するのである。戸籍制度のもとですべての中国人は「農村戸籍」と「都市戸籍」に分けられ、出稼ぎ労働者のほとんどは農村戸籍である。農村戸籍から都市戸籍への転換は厳しく制限されているため、都市部で農村戸籍者は教育や福祉、就職の機会などにおいて多くの不利益を被っている。2014年7月、中国国務院は戸籍制度改革に乗り出す意向を示し、現在、戸籍制度そのものの改革が迫られている。

(2016年度日本語版・トップ10都市分析)