【コラム】福川伸次:日中関係、新次元への昇華の途を探る 〜質の高い経済社会の実現と新グローバリズムの形成に向けて〜

福川 伸次

東洋大学総長、元通商産業事務次官



本稿英語版『Tokyo and Beijing can pave way for global trust』(CHINA DAILY, 3 Dec 2021)


1.日中関係新次元への昇華への期待

 日中両国は、2022年9月国交正常化50周年を迎える。中国は、その間、目覚ましい経済成長を遂げ、政治、経済を通じて世界で重要な地位を占めるに至った。両国の協力関係も中国が「改革と開放」政策に重点を置いた段階から新たな次元に昇華しなければならない。

 1979年12月、私は、故大平首相の訪中に秘書官として同行する機会を得た。毛沢東主席も、周恩来首相もすでに他界され、中国は1978年に実施した「改革と開放」政策のもと、「新しい中国」への歩みを始めていた時期であった。

 12月7日、政協礼堂で講演した大平首相は、国交正常化交渉の当時を振り返り、「我々の胸中は、大きな期待とそれに匹敵する不安に満たされておりました。しかし、その不安も故周恩来首相の『小異を残して大同を求める』という言葉によって表現された中国の指導者、並びに中国国民の大きな度量によって解消され、日中国交の正常化の大業は成就いたしました」と当時の思いを語った。大平氏は、当時外相として田中首相を補佐し、国交正常化に向けて緻密に準備し、その実現に漕ぎつけただけに、その後の中国の動向には深い関心を懐いていた。

日本経済新聞「私の履歴書」をベースにした福川伸次著『ジャパナビリティ 世界で生き抜く力』

 「改革と開放」政策に確かな手応えを感じた大平首相は、滞在中に中国の産業活動の基礎となるインフラ整備などに円借款供与の方針を明らかにした。

 その後、中国は、日本をはじめ諸外国の経済改革の経験を取り入れながら構造改革を着実に進めた。1990年代以降高度成長の過程に入り、2001年には世界貿易機構(WTO)に加盟した。そして2010年には日本の経済規模を抜いて世界第2の経済大国となり、現在では日本の約3倍の経済規模を持つ。その間、中国は、経済改革と技術開発を進め、日本の最大の貿易相手国となり、先端技術分野において米国に迫る能力を持つようになった。その反面、政治、経済、技術、軍事などの運営について他の先進国から警戒感をもって見られている。

 故大平首相は、先に引用した演説を将来への警告で締めくくっている。「国と国との関係において最も大切のものは、国民の心と心の間に結ばれた強固な信頼関係であります。日中両国は、一衣帯水にして2000年の歴史的文化的なつながりがありますが、このことのみをもって両国国民が十分な努力なしで理解し合えると考えることは極めて危険なことではないかと考えます。・・・一時的なムードや情緒的な親近感、さらには経済的な利益、打算の上にのみ日中関係の諸局面を築きあげようとするならば、所詮砂上の楼閣に似たはかないものになるでありましょう」と。

 当時、両国では大平演説におけるこの部分はさして注目を惹かなかったが、彼は、長きにわたる日中関係の信頼と発展を真摯に願い、次世代の政治家、経済人、研究者に真剣な努力を求めたのである。 

 歴史は、世界の政治経済構造が常に変化することを教えている。中国は、やがて経済力で米国と比肩し得る水準に達し、国際政治の運営にそれなりの責任と役割を担うことになろう。情報関連分野をはじめ高度技術の分野でも、世界に知的な貢献を果たすに違いない。

 2021年1月米国大統領に就任したバイデン氏は、自由経済と民主主義に基づく世界秩序の再建に努力しようとしている。同年7月習近平国家主席はAPEC非公式首脳会議で「新発展枠組みを構築し、より高いレベルの開放型経済新体制」を築くと述べた。日本は、「平成の停滞」を超えて、新しい次元に立った「令和の改新」の途を探求し始めている。

 私は、こうした変化を見るとき、故大平首相が示唆したように日中関係を絶えず新しい基盤の上に昇華する努力を続けなければならないと考えている。

 

2.AI(人工知能)基軸の「質の高い経済」を構築すること

(1)「質の高い経済」の目指すもの

 日中両国が21世紀において努力すべき課題の第一は、AI主導の革新的な情報通信技術を基軸とした「質の高い経済」を実現することである。世界経済が資源の有限性と地球環境の悪化に苦悩しているとき、我々が選択できる道は、資源への依存度や地球環境への負荷が低く、創造性と付加価値が高く、人間機能が発揮できる「質の高い経済」の実現でしかない。幸いにして、人類は、AIを活用した情報革新を進め、これによって「質の高い」新しい経済(New Economy)を実現する手段を手に入れることができた。

 日本産業は、1980年代から90年代前半にかけて世界でトップ・レベルの産業力と技術力を誇ったが、その後バブル経済が崩壊して産業力が停滞し、現在その回復に努力している。中国は、情報通信技術を先導した米国を追って優れた成果をあげ、先端技術分野では米国に比肩し得るようになった。米国はこれを警戒し始めている。

 2020年初頭から急速に拡大した新型コロナ感染症(COVID-19)は、人類の健康と生命に脅威を与え、経済社会を停滞に追い込んでいるが、一方でDX(Digital Transformation) を加速し、「新しい経済」システムの構築の契機ともなっている。

 「質の高い経済」の実現に向けて日中両国が協力すべき分野は多方面にわたる。

(2)イノベーションの積極展開

 第一は、イノベーションの積極展開を図ることである。21世紀は、AIなどを中心に、イノベーションが新展開をみせる時代である。20世紀に入った当時、世界は石油時代を迎え、ヨーゼフ・シュンペーター教授は、1910年イノベーションを「経済活動の中で資源、労働力などの生産手段を今までと異なる方法で新結合すること」と定義したが、私は、現代の情報通信革命時代のそれを「経済活動の中で革新的なIT技術の活用を通じて情報を整理、統合、活用し、新しい知的価値を創造すること」と定義したい。

 我々は、今や、AIなどの情報技術の活用により人間の肉体的限界を超越して情報価値の伝達を効率化し、複雑性の限界を克服して付加価値の向上を実現することができる。サイバー空間と物質空間の融合を通じて正確性の確保、効率性の向上、時間価値の充実を実現し、経済活動を物的生産主義から価値利用主義へと進化させることになる。

 AIの活用は、設備の自動化により工場や店舗の無人化を実現し、高度な遠隔治療を可能にし、スマホ決済、キャッシュレス化、仮想通貨を実用化する。情報伝達の正確性、迅速性、効率性、最適選択性を高め、付加価値の向上を実現することが可能となる。

 イノベーションの進展分野は、高度情報技術を軸に、生化学、新素材、宇宙、海洋、高度医療、新エネルギー、電気自動車、蓄電装置、ドローン、水素利用など多岐に及ぶ。

 イノベーションの国際競争は、ますます激しさを増し、先導する米国を中国が迫っている。ドイツ、英国、フランス、イスラエル、そして日本、台湾、韓国などがこれに続く。日本は、1990年代に入っていわゆる「バブル経済」が崩壊して経済が停滞し、イノベーション力が落ちてきたが、最近それに気づき、政策的に力を入れ始めている。

 イノベーションを加速するため、主要国は、研究開発への政策支援、知的人材の育成、新たな競争条件の整備などに力を入れている。市場条件の整備に当たっては、革新性、公平性、効率性、そして競争性が鍵となる。最近のイノベーションは、米国のシリコンバレー、中国北京の中関村、深圳の南山区などが示すように、都市の知的機能の集積が大きく貢献している。周牧之教授が指導する中国都市総合発展指標の研究は重要な意義をもつ。

2008年9月19日「北京―東京フォーラム晩餐会」にて

(3)グローバル市場の効率運用

 第二は、グローバル市場の効率運用に協力することである。それには、グローバル市場ができるだけ自由で、合理的で、かつ公平、安全なルールのもとに運用される必要がある。日中両国は、それに向けて米国、EUなどと協力して合意を形成するとともに、世界貿易機構(WTO)の機能の復活に先導機能を果たす必要がある。 

 そのつなぎとしては、RCEP、TPP、APECなど地域的な自由貿易協定を合理的に推進、活用する必要がある。日中両国は、人口、世界貿易規模で世界の3割を占めるRCEPの早期発効とインドなどの加盟国の拡大に努める必要がある。TPPに関しては、英国が参加を表明し、中国が加入の検討を示唆しているが、その具体化は、世界貿易体制の整備に役立つに違いない。また、米国と英国の間で、新大西洋憲章の締結が協議されている。

 情報通信技術の進歩は、技術独占など世界の競争条件に大きな影響を与え、企業活動の拠点が集中化する危険がある。これらについても、適正な国際ルールを設定する必要がある。日中両国がこうしたルール設定に向けて、先ずはその経験を持ち寄り、「質の高い経済」の実現に向けて先導すべきだと思う。

(4)企業経営の改革

 第三は、企業の経営手法の改革に協力することである。経営の側面では、情報通信技術の進展によってその効率化が進むとともに、電子オフィスなど働き方の改革が進む。コロナ感染症の拡大は、企業経営のDX化を促進する契機となっている。企業経営のDX化は、それに止まらず、企業経営を根本から変革する力をもつ。例えば、利益構造を規模の利益から情報、連結、時間の利益へと変革し、全体最適を実現する手法を可能にする。企業経営の目的は、収益価値、顧客価値、従業員価値及び社会価値の総和の極大化にあるが、AIは、これを実現する手法を提供してくれる。

 今後の企業経営には、人間安全保障の実現など新しい制約要因が加わる。同時に、知的所有権の保護、情報独占の弊害の除去などの市場管理が求められる。こうした市場の枠組みは、合理的で、全体最適でなければならない。日中両国は、その最適な条件整備に英知を結集する必要がある。

3.政治安全保障体制の確立を図ること

(1)国際構造の歴史的変化

 国内利益の擁護と拡大を図ることは、政治の宿命である。トランプ前大統領が「米国第一主義」を掲げ、国内産業を保護しようとしたことは、短期的には、政治の必然である。しかし、それは、国際政治体制を動揺させ、長期的には米国経済の衰退を招く。

 18世紀から19世紀にかけて、欧州を中心に、君主制が崩れ、市民社会が形成されたが、主要国の政治は、拡張主義、強国主義、軍国主義、植民地支配を志向した。その結果、主要国の間で熾烈な抗争が生じ、20世紀には2度の世界大戦を招く。そして、主要国は、国際連合を設立し、国際協調主義を志向するようになる。しかし、政治体制の違いから米ソの東西対立の時代となるが、1989年ベルリンの壁が崩壊し、世界の政治は、これを契機にグローバリズムを志向するようになる。

(2)国際社会の多極化

 かかる国際社会構造の変化は、自由な経済活動の動きから中進国、発展途上国の経済拡大を招き、世界経済は多極化へと向かう。その結果、主要国の主導力が低下し、多極化した世界の政治構造では、国連をはじめ国際機関の合意形成が困難となり、世界秩序が動揺する。

 こうした中で、米国ではトランプ前大統領が前述のように、国内利益を擁護する政策に出た。一方中国が経済力を強化し、技術力を充実させ、米国との間で貿易紛争が厳しさを増し、さらに経済、政治、技術、軍事などの面で米国と覇権を争うようになる。

 こうした変化と並行して、情報関連技術は益々進歩し、経済活動は、世界で同じルールによって運営することが求められる。かつてのように、特定の国がその政治力を背景に国際市場を支配することはもはや困難になっている。加えて、地球温暖化など国際協力が不可欠な現象が起きている。国際政治は、もはや国内政治の延長では律しられない。

 最近、中国をめぐる国際情勢は、複雑なものがある。4月16日の日米首脳会談では、尖閣列島の帰属、台湾海峡の安全問題などが取り上げられた。日米を中心にインド太平洋の協力、QUAD(Quad-lateral Security Dialogue) の協力体制などが進められ、中国は、「一帯一路」政策を推進している。これらについて、相互理解が進むよう緊密な対話が期待される。

(3)グローバリズムの意義

 国際社会においては、人権の尊重、自由貿易の保証、主権の尊重、法の支配が保証されなければならない。そうしたうえで、国際協力が展開される必要がある。

 国際社会を形成する各国がどのような政治体制を取るかは各国の選択である。問題は、各国が国際社会のルールを設定するにあたり、グローバリズムの健全な運営に貢献することが決め手となる。日中両国は、連帯、信頼、自由、創造に支えられた望ましい世界の構造は何か、人類が人間としての価値と能力を発揮できる国際環境はいかなるものか、世界に「新しい経済」を導く最善の仕組みをいかに形成するかなどにつき議論を深め、米国、EUなど他の主要国との対話を進める必要がある。

2004年「アジアシンポジウム」にて、上段左から福川伸次(通商産業事務次官)、邱暁華(中国国家統計局副局長)、加藤紘一(日本衆議院議員);第二段左から楊偉民(中国国家発展改革委員会計画司長)、周牧之(東京経済大学助教授)、馬建堂;(中国国有資産監督管理委員会副秘書長)第三段左から安斎隆(セブン銀行社長)、林芳正(日本参議院議員)、小林陽太郎(富士ゼロックス会長);下段左から横山禎徳(産業再生機構監査役)、塩崎恭久(日本衆議院議員)、国分良成(慶應大学教授)

4.人間の安全保障体制を充実すること

(1)人間の安全保障の必要性

 私は、日中両国が人間の安全保障体制の充実に向けて共同して世界をリードすることを期待したい。これは、中国都市総合発展指標においても、重要な機能を持つ。

 国連環境開発計画(UNDP)は、1994年人間の安全保障政策を公表し、健康、医療、教育、テロ防止、自然災害への対応などを提案した。そして、国連総会は、これを発展させ、2015年9月SDGs(Sustainable Developments Goals)を目標に、No Poverty、Zero Hunger、 Decent Work and Economic Growth、Climate Actionsなど17の目標、169の行動計画を採択した。SDGs は世界の各企業が真剣、かつ、効果的に実践すべきものであり、日中企業もその展開に協力する必要がある。

(2)新型コロナ感染症

 新型コロナ感染症(COVID-19)への対応は、人間安全保障の確立の重要な一環をなす。日中両国は、主要国と協調してこれに対応する体制を先導すべきである。残念ながら、世界保健機構(WHO)は、感染源の特定、治療法の確立、ワクチンの普及などに十分な機能を発揮できず、主要な感染国はロックダウンと経済回復策の選択に苦悩している。

 2021年に入って、コロナ感染症対策として、英国、イスラエル、米国、中国などでワクチンの普及が広がってきた。ワクチンの有効性の確認と供与は、政治上の駆け引きの対象とすることなく、人道上の見地に立って、国際協力のもとに供与すべきものである。日中両国は、そういった意識を世界に定着させるとともに、今後の感染症の拡大に備えてその原因と考えられる諸要因、例えば自然破壊の防止、”Human-Animal Relations”の健全化などにも貢献することを期待したい。

(3)地球温暖化対策

 地球温暖化現象は、今や、人類の最大の脅威となっている。米国、中国、欧州などでは今年もすでに激しい熱波や豪雨に見舞われ、多くの犠牲者が出た。地球温暖化の主要な原因である二酸化炭素の排出の抑制や循環経済(Circular Economy)体制への移行は、もはや人類にとって喫緊の課題となっている。

 日本では、菅政権が2050年にカーボン・ニュートラルの実現を公約し、中国も2060年に同様の目標を掲げている。地球環境問題は、中国都市総合発展指標でも取り上げられ、その精緻化によってこの問題の解決に役立つに違いない。

 米国は、バイデン政権がパリ議定書への復帰を宣言し、今や世界は「グレート・リセット」の体制を整えつつある。それには、技術開発を軸に循環経済への改革が決め手であり、太陽光、風力などの新エネルギーの開発と供給のネットワーク化、電気自動車の開発普及、蓄電設備の改革、二酸化炭素の固定化、さらにはSmart Cityの実現などが喫緊の課題である。EUは炭素税の導入を検討しており、フランスのジャック・アタリ氏は、世界共通の炭素税を提案されたことがある。本年10月にはG20が、11月にはCOP26が予定されており、日中両国が積極的な貢献を果たすことを期待したい。

 日中両国は、これまでもエネルギー消費の効率化、公害防止技術の移転などについて、日本側経済産業省、中国側商務部の連携のもと、日中経済協会などがエネルギー・環境フォーラムなどの開催を通じて協力を続けてきたが、両国は、今後とも、技術開発を含めて広範な協力を展開し、世界にその技術成果を普及する努力を続けることが肝要である。

(4)少子化、高齢化対策

 もう一つの課題は、少子化と高齢化による人口構造の変化への対応である。日本は、すでに人口減少と高齢化の段階に入っている。中国も、最近人口政策を変更し、「一人っ子政策」を打ち切っているが、近い将来おそらく人口の減少過程に入るであろう。日本では、人口の高齢化に対応して、高齢者の健康、介護、医療など社会保障の充実が財源の確保も含めて深刻な課題となっている。中国でも、やがてその問題に直面することになる。両国は、相互に経験を交流し、社会福祉政策の充実に協力する必要がある。

2006年5月11日「日中産学官交流フォーラム−中国のメガロポリスと東アジア経済圏」にて、上段左から福川伸次(通商産業事務次官)、楊偉民(中国国家発展改革委員会副秘書長)、保田博(元大蔵事務次官);第二段左から星野進保(元経済企画事務次官)、杜平(中国国務院西部開発弁公室総合局長)、塩谷隆英(日本総合研究開発機構理事長、元経済企画事務次官);第三段左から船橋洋一(朝日新聞社特別編集員)、周牧之(東京経済大学助教授)、寺島実郎(日本総合研究所会長);第四段左から中井徳太郎(東京大学教授)、朱暁明(中国江蘇省発展改革委員会副主任)、佐藤嘉恭(元駐中国日本大使);下段左から大西隆(東京大学教授)、小島明(日本経済研究センター会長)、横山禎徳(産業再生機構監査役)

5.文化により国際社会の絆を強めること

(1)文明の衝突

 サミュエル・ハンチントン教授は、1996年「文明の衝突」と題する著書を発表した。これは、世界を8つの文明圏に分け、21世紀中にイスラム文明の中の争い、キリスト教文明とイスラム文明の衝突、そしてキリスト教文明と儒教文明の対立を予言した。確かに米国ではトランプ前大統領時代からそのイスラエル支援をめぐってアラブ諸国との対立が深刻となったほか、米中間では2018年頃から貿易紛争が激化し、さらに政治、経済、軍事、技術、通貨などをめぐって覇権争いが激しさを増している。

(2)文化の持つ力

 人類発展の歴史を見ると、文明は、目覚ましく進歩したが、文化もまた確実に進化してきた。ギリシャ、ローマ時代の文化の発達は目覚ましく、やがてこれが中世の欧州文化に開花した。中国、インド、イスラムなどはそれぞれに固有の文化の発達を競い合ってきた。日本は、遣隋使、遣唐使を派遣してその文化を取り入れ、固有の文化との融和を図るとともに、その後も欧米の技術や文化を導入し、社会発展の基礎を創った。日本は、伝統的に異文化に対して寛容であり、歴史的に積極的に異文化を取り入れてきた。

 文化は、本来人類が持つ高次元の価値であり、精神文明の極致である。「美」は、人類の共通の憧れである。日本は、自然との共生のなかに「美」を見出し、自然との調和の中に文化を形成してきた。「匠の技」によって優れた芸術品を産み、自然と人工の調和によって「美」を表現する日本庭園を造り、自然の味覚を尊重して独特の日本料理を提供し、世界から高い評価を受けている。一方、中国は、優れた文学、書画、陶磁器、仏像などスケールの大きい文化を提供している。中国料理は世界中に広がっている。

 こうした伝統的な文化に加えて、最近では情報通信技術の粋を集めた新しい文化が生まれている。2001年米国のジャーナリスト、ダグラス・マックグレイは、「日本はGNPでは停滞しているが、GNC(Gross National Cool)では優れたものがある」と指摘した。アニメ、漫画、キュイジンヌ、ファッション、文化情報関連機器などがそれである。情報関連技術は、産業と文化、技術と芸術の融合発展に新境地を開いている。最近、中国でも伝統的な文化、そして新しい文化を対象に情報関連技術を取り入れつつ、文化の振興、文化市場の拡大、芸術家の育成などに力を入れている。

(3)文化による世界の融和

 「文明の衝突」はあり得るが、「文化の衝突」は先ずないというのが私の考えである。「文化」は、芸術性と技術性の総和であり、国際融和の象徴である。とりわけAIなどの情報関連技術の進歩は、商品、サービスそのものの文化性の向上、表現方法の芸術化、文化情報伝達の高度化、文化性と効率性の両立を実現する。

 日中両国がこの分野で協力する可能性は大きい。文化の交流により文化市場の拡大を図るとともに、市場における文化性の測定方法の開発、関連データの収集、技術と文化の適合可能性の研究などがそれである。感性価値の計量化もその例である。中国都市総合発展指標においても、この分野の研究に貢献することが期待される。

 私は、日中両国が、産業と文化、技術と芸術の融合に協力していくことは、人間の価値意識の向上を通じて文化の相互理解を導き、ひいては世界の安定と人類の融和に大きく貢献できるであろうと考えている。

6.質の高い経済社会の実現と新グローバリズムの形成に向けて

 私は、最近の内外の政治経済社会を分析するとき、日中両国の協力が世界の安定と人類の進化に貢献する可能性が高まっていると考えている。

 日中両国の国民は、一時期の不正常な時期を除いて、二千年余の長きにわたり、経済、技術、文化、教育などの分野で密接な交流を続けてきた。私は、今後、両国の国民が百年、二百年、そして千年に向けて固い「信頼の絆」で結ばれ、その交流を通じて人間の「知」を深め、「価値」を高めていくことを期待したい。それができれば、地球社会の安定と繁栄に大きく貢献していくことができると確信している。

2018年7月19日「『中国都市ランキング−中国都市総合発展指標』出版記念パーティ」にて、前列右から杉本和行(日本公正取引委員会委員長、元財務事務次官)、安斎隆(東洋大学理事長)、福川伸次(元通商産業事務次官)、古川実(日立造船会長)、阿部和彦(日本開発構想研究所理事)、竹内正興(国際開発センター理事長)、竹岡倫示(日本経済新聞社専務)

(※肩書きは各イベント開催当時)


プロフィール

福川 伸次(ふくかわ しんじ)/東洋大学総長、地球産業文化研究所顧問

通商産業事務次官、神戸製鋼所代表取締役副社長・副会長、電通顧問、電通総研代表取締役社長兼研究所長、日本産業パートナーズ代表取締役会長、東洋大学理事長、機械産業記念事業財団会長、日中産学官交流機構理事長、日本イベント産業振興協会会長など歴任。


英語版『Tokyo and Beijing can pave way for global trust』(CHINA DAILY, 3 Dec 2021)

【コラム】初岡昌一郎:「人新世」(アントロポセン)時代の曲がり角 〜都市は文明を先導、だが崩壊危険要因も顕在化〜

初岡 昌一郎
国際関係研究者、姫路独協大学元教授


 百科事典で検索すると、文明とは都市化であるという意味の解説が一般的になされている。広く日本で用いられている『広辞苑』では、「都市化(civilization)」と記載されている。歴史を振り返ると、これまでのところ都市文明は発展の一途をたどってきたように見える。しかし、すべてが生成し、発展の後に、やがては没落・消滅するという万物の一般的法則から見ると、都市文明の永続的な繁栄が右肩上がりに持続的に続くのを想定するのは根拠不十分な楽観論にすぎない。


メガ都市化で危険がメガ化した現代


 歴史を紐解いて見れば、戦争や外部からの侵略によって破壊された都市もあるし、火山の噴火や自然環境の変化によって消滅したものもあった。 それだけではなく、自らの発展に起因する内在的な要因により自滅したものもある。例えば、ごみ処理や水の安定供給を組織できず、居住不能となり放棄された例もある。現代の都市も自らの発展が生みだした発展や成功の重みで自滅する要因を抱えており、メガ都市はその潜在的な危険もメガ化している。

 自然災害や予期しない人災は、巨大都市におい想定外にそのインパクトを増幅させ、制御不能な深刻な危機を生む。現下のコロナ禍はそれを可視的に警告している。都市の過密はパンデミックの温床となりやすい。ばい菌やビールスは人類を今後も脅かし続けるだろうが、都市の特性である過密自体が高い伝染の蓋然性を内包しているし、自然災害をも増幅する条件となっている。都市の将来を考察する時、都市工学的な技術主義的視点だけではなく、地球史的なマクロの観点も視野に入れる必要がある。

 多くの巨大都市は沿岸部に位置しているので地球温暖化による気候変動の影響を受けやすく、自然災害に脆弱な構造を内包している。海水位の上昇は多くの国で基幹的都市部の水害・水没の危険を招来する。すでに、洪水と高波による浸水と氾濫による災害を頻発させている。さらに、工業化や都市生活に急増するす資源需要を賄う地下水の過剰な汲み上げが規制されていない都市も少なくなく,広範囲の地盤沈下による海没の危機を生みつつある都市さえ増加している。


成長神話と過剰消費からの脱却が不可避


 最近、「人新世」という、これまでに聞きなれない用語を時々見かけるようになった。アントロポセンという原語はもともとドイツの科学者が地球史的時代区分に用いたのを嚆矢とするそうだ。人間が自然に従ってその環境の中で暮らす生活から、自然環境を自分の都合に合わせて改変する時代に移行したこと表す用語である。

 瞥見するところ、その時代区分上の定義は確立しているとはみえない。人が「火」を用い始めたことや、農耕と定住に人新世の起源を求める人もいるが、時代区分としては産業革命と化石燃料に依存した工業化の時代以後を指してこの概念を用いるのがその趣旨から見て分かり易い。 

 地球環境の本格的な改造と破壊は産業革命以後のことだから、アントロポセン史観は地球環境の保全に人類とすべての生物の未来を託することを当然最重視する。したがって、産業革命とその後の工業化の否定的な側面の規制と今後の資源利用の抑制を重視することになるが、それだけではなく、人間とそれを取り巻く動植物種の保全を含む、自然環境の保護・再生を目指している。

 地球環境と資源の過大な利用や乱用が問題視され、持続的発展が国際的な幅広い合意とされている現代は、人新世後期の入り口に差し掛かっていると理解されよう。この時代には、従来の価値観とこれまで当然とされてきた前提や開発目標が再検討を求められずにはおかないし、資源消費度の高い産業や地球環境を破壊する恐れのある産業と経済活動はより厳しい規制ないし禁止の対象となる。これは、現行の人間生活様式の全般的な見直し、特に都市型文明の再検討をラジカルに迫るものである。


近未来の水不足と食糧危機に備える環境政策と行動を


 都市生活はこれまで継続的かつ飛躍的にエネルギー、水、食料の消費を拡大してきたが、それらの原料や資源、生産物の大部分を外部に依存しており、その安定的かつ継続的な供給がほぼ自明のこととされてきた。こうした文明の形は資源を食い荒らし、すべての都市文明が国土、特に森林を犠牲にしてきた。その結果、大規模な自然環境破壊と森林喪失、大気汚染や地球温暖化を招いている。全般的な環境悪化の中で、特に深刻なのは、水(真水)の不足が顕在化していることだ。農業と工業化は水の大量需要に依存している。生活が高度化している国・地域では水の消費量が拡大し、都市における水不足はますます深刻化すると予測されている。さらに、森林の急速な喪失が国土の保水力を低下させ、水資源の枯渇に拍車をかけている。枯渇が騒がれた石油には自然エネルギーという代替が準備されているが、真水には代替できるものがない。海水の淡水化はまだ実用化にほど遠く、莫大なコストがかかる。現状では国土の大規模な緑化と節水と効率的利用など、重層的かつ総合的な対策が求められている。

 水不足に劣らない切迫した危機は近未来における食糧供給難であり、その不安の足音が昨今聞こえてくるようになった。これまで「人の増加が食料供給力を上回る」という、マルサスの予言は幸いにして現実とならなかった。私の人生スパン中の1935年から80有年の間に人類は3倍近く急増し、今世紀半には100億人の大台を突破することは確実とみられている。3分の2以上の人口が都市に住んでおり、その割合は増加の一途をたどっている。これは、半面では農村の過疎化、農地の荒廃と農地の粗放的使い捨て的な利用をほうちして、若者の農業離れと都市生活への移動を招いてきた。

 しかしながら、都市と農村の生活格差を縮小し、その間の双方向的な移動を促進する可能性を生かす知恵と技術を現代のわれわれは持っている。これをもっと意識的に追求すべきだ。生活と労働のIT化により、居住地にかかわりなく情報を共有しうる。加えて交通輸送手段の発達が、都市と農村の格差と壁を引下げ、新しい有機的な融合の可能性を生んでいる。

 安全で健康的な生活を保障するために、水と食料の供給をグローバルな視点から構築するチャンスを人類はまだ生かせるはずだ。そのためには、人類は地球環境の限界と可能性より良く認識し、人類の間でより調和のとれた連帯と公正な関係を実現するように努力するだけでなく、すべての動植物と共生する生活様式を獲得しなければならないだろう。謙虚に身を処し、身の丈に応じた暮らしを薦めた先人の知恵を噛みしめるために、私たちは脚下照顧の時を迎えている。


鉄とセメントによる強靭化よりも共生と連帯の社会


 時代の変化につれて、都市の発展度を測る尺度も当然変化する。人口、GDP、集積度などの量的な指標よりも、人間開発指標と社会文化的なインフラ、そして指数化困難な社会的レジリエンシー(耐性、弾力性)が重視されるだろう。都市の社会経済的なインフラだけではなく、それにもまして市民の社会的な参加と連帯(自発的な活動と協力、ボランティア活動や助け合い)という、社会の強靭性によって都市生活の質を高めることが評価の重要な側面となる。

 都市と文明の成熟は鉄とコンクリの工学的な強度よりも、人間的な結びつきの成長と社会的結束力によって評価される時代になる。そして、都市とヒンターランドである農山村部ともっと調和のとれた発展、さらに地球環境保全のために地域と国境を越えた都市の貢献を都市政策の根幹に据えるべきだ。大気汚染対策は世界的に進んできているが、大量なごみが投棄による深刻化する海洋汚染により魚類と海中生物の急減が進んでいる現状を国際的な連携により改善することが急務となっている。海が死することは、その中から生まれた生物の仲間である人類の死の前兆に他ならない。

 

サハリンで開催のセミナーにて、右から周牧之、初岡昌一郎、江田五月(2019年8月29日)

プロフィール

初岡 昌一郎(はつおか しょういちろう)

 国際郵便電信電話労連東京事務所長、ILO条約勧告適用員会委員、姫路獨協大学教授を歴任。研究分野は、国際労働法とアジア労働社会論。

【レポート】中国映画市場コロナショックから生還、世界第1位に 〜2020年中国都市映画館・劇場消費指数ランキング〜

周牧之 東京経済大学教授

編者ノート:世界映画市場は2020年、新型コロナウイルスパンデミックで大きな打撃を被った。しかし中国は同年、北米を抜いて世界最大の映画市場となった。『八佰』をはじめとする多くの中国映画が世界の映画興行ランキングで上位にランクインした。なぜこのようなどんでん返しが可能となったのか?中国で最も映画好きな都市は?中国で最も映画にカネを掛ける都市はどこか?東京経済大学の周牧之教授が詳細なデータを使い解説する。


1.  中国映画マーケットが世界第1位に


 新型コロナウイルスパンデミックで最も打撃を受けた分野の1つは映画興行であった。中国では、2020年の映画興行収入が前年比68.2%も急落した。だが幸いなことに、中国では新型コロナウイルスの蔓延を迅速に制圧したことで、映画市場は急速に回復した。

 一方、これまで世界最大の興行収入を誇ってきた北米(米国+カナダ)は、新型コロナウイルスの流行を効果的に抑えることができず、2020年には映画興行収入が前年比80.7%も急減した。

 その結果、世界で最も速く回復した中国の映画市場が、映画興行収入で世界トップに躍り出た。

 2021年の春節(旧正月)、昨年同期間のロックダウンに取って代わり、中国の映画興行収入は78.2億元(約1,329億円、1元=17円で計算)に達し、同期間の新記録を樹立した。また、世界の単一市場での1日当たり映画興行収入、週末映画興行収入などでも記録を塗り替えた。

 中国の映画市場は今、勢いよく回復している。

2.中国都市映画館・劇場消費指数2020年ランキング


 雲河都市研究院は、中国都市総合発展指標を元に、中国全国297都市を対象とした「中国都市映画館・劇場消費指数2020」を公表した。

 2020年、中国全国297都市のうち、「映画館・劇場消費指数」の上位10都市は、上海、北京、深圳、広州、成都、重慶、杭州、武漢、蘇州、西安となっている。これら10都市は、中国全土における映画興行収入の28.9%、映画鑑賞者数の32.1%、映画館・劇場数の21%を占めている。つまり、上位10都市で全国の映画興行収入と映画入場者数の3分の1近くを占めている。

 「映画館・劇場消費指数」の第11位から第30位の都市は、鄭州、南京、長沙、東莞、天津、仏山、寧波、合肥、無錫、瀋陽、昆明、青島、温州、南通、南昌、長春、石家荘、ハルビン、済南、南寧となっている。

 上位30都市は、映画興行収入の53.9%、映画鑑賞者数の51.3%、映画館・劇場数の39.3%を占めている。つまり、297都市の10分の1に過ぎない上位30都市が、映画興行収入と映画入場者数の半分を占めている。

 「中国都市映画館・劇場消費指数2020」からは、さらに次のような都市と映画の関係が見えてくる。

 中国で映画興行収入の最多都市:映画興行収入の上位10都市は、上海、北京、深圳、広州、成都、重慶、杭州、武漢、西安、蘇州である。

 中国で映画鑑賞者数の最多都市:映画鑑賞者数が多い上位10都市は、上海、北京、成都、広州、深圳、重慶、武漢、杭州、西安、蘇州である。

 中国で最も映画好きな都市:一人当たりの映画鑑賞回数が多い上位10都市は、深圳、珠海、海口、杭州、南京、長沙、武漢、広州、上海、西安である。

 中国で最も映画におカネを掛ける都市:一人当たりの映画興行収入の上位10都市は、深圳、北京、上海、杭州、珠海、広州、南京、海口、長沙、ラサである。

 特に注目すべきは、中国では新型コロナウイルスパンデミック下も、スクリーン数や映画館数が減るどころか増えていたことである。中国のスクリーン数は、2005年の2,668枚から2020年には75,581枚へと、28倍にもなった。

 2019年10月から2021年5月にかけて、全国297都市のうち、203都市で、映画館の数が増加した。その中で、映画館数が最も増えた上位10都市は、成都、蘇州、広州、武漢、鄭州、常州、保定、北京、杭州、石家荘となっている。逆に、映画館数が減った都市も38あり、減少数が多いのは四平、台州、九江の3都市であった。

 その結果、中国全土の映画館数はこの期間に826館も純増した。

3.新型コロナウイルスパンデミック下のOTT大躍進


 新型コロナウイルスパンデミックによるロックダウンで、2020年中国春節の映画市場は崩壊した。だが、この衝撃は、映画上映における“革命”を引き起こした。当初、春節に公開が予定されていたコメディ映画『囧媽(Lost in Russia)』は、突然の新型コロナショックを受け、春節の封切りが見送られた。ところが、中国のIT企業であるバイトダンス(TikTokの親会社)がいち早く同映画の上映権を6億3,000万元(約107億円)で購入し、劇場公開されるはずだった2020年1月25日(旧正月の初日)に傘下のアプリで無料配信を行った。

 映画としての『囧媽』は、劇場での興行収益は実現できなかったものの、バイトダンス傘下の「今日頭条(Toutiao)」、「抖音(Douyin:TikTokの中国国内版)」、「西瓜視頻(Xigua Video)」、「抖音火山版(DouyinHuoshan Version)」の4つのアプリで、3日間で延べ1億8千万人以上が視聴し、6億回以上の再生回数を達成した。結果として、バイトダンスは『囧媽』により自社傘下アプリに膨大なアクセスを得られた。

 映画やドラマの映像をインターネット上のプラットフォームで配信するモデルはOTT(Over The Top)と呼ばれる。代表的なOTTプラットフォームとして、海外では「Netflix」、「Amazon Prime」、「Disney+」、「Hulu」、「HBO Max」などが挙げられる。中国では「iQIYI(愛奇芸)」、「テンセントビデオ(騰訊視頻)」、「Youku(優酷))などがある。

 バイトダンスは、斬新な映画上映モデルを打ち立てた。製作費2億1,700万元(約36.9億円)の『囧媽』は、劇場公開をスキップし、OTTで直接配信された最初の大作となった。

 その後、ディズニーが2億ドル(約220億円)を投じて制作した超大作『ムーラン』も、劇場公開がないままOTTで直接配信されたことで、大きな話題を呼んだ。『ムーラン』は、2020年9月4日からディズニーのOTTプラットフォーム「Disney+」で配信され、2019年11月にオープンしたばかりの同プラットフォームに膨大なアクセス数をもたらした。

 2020年12月4日、ワーナー・ブラザースは、2021年に公開される全17作品を米国の映画館とOTTプラットフォーム「HBO Max」で同時配信することを発表した。これは映画ビジネスのゲームチェンジを決定付けた。

 2020年4月に公開予定だった『007/ノータイム・トゥー・ダイ』も2億5,000万ドル(約275億円)制作費のメガフィルムとして公開が待たれていた。新型コロナウイルス禍で劇場公開が幾度も延期される中、2021年5月26日、突如アマゾン・ドット・コムが、007シリーズを制作した映画会社MGM(メトロ・ゴールドウィン・メイヤー)を90億ドル(9800億円)

の巨額で買収すると発表した。アマゾンは傘下にOTTプラットフォーム「Amazon Prime」(会員数2億人以上)を持つだけに、『007/ノータイム・トゥー・ダイ』がいつどのように公開されるのか、話題を呼んでいる。

 コストのかかる超大作も、OTTと劇場の同時公開、あるいはOTTでの直接配信という時代に突入し、映画公開におけるOTT戦略は、興行成績を左右するだけでなく、映画製作会社の命運も左右する大きなファクターとなっている。

4.中国映画市場が国産映画を世界の興行ランキングの上位に押し上げる


 2020年は、中国映画の興行成績が非常に目を引く年であった。「Box Office Mojo」によると、2020年の世界興行ランキングで中国映画『八佰(The Eight Hundred)』が首位を獲得した。また、同ランキングのトップ10には、第4位にチャン・イーモウ監督の新作『我和我的家郷(My People, My Homeland)』、第8位に中国アニメ映画『姜子牙(Legend of Deification)』、第9位にヒューマンドラマ『送你一朶小紅花(A Little Red Flower)』の中国4作品がランクインした。また、歴史大作『金剛川(JingangChuan)』も第14位と好成績を収めた。中国映画市場の力強い回復により、多くの中国映画が世界の興行収入ランキングの上位にランクインした。

 2005年以来、中国における映画興行収入に占める国産映画の割合は50%から60%の間で推移していたが、2020年には一気に83.7%まで上昇した。

 この20年、中国の映画興行収入は急増している。2005年の20億5,000万元(約349億円)から2019年の642億7,000万元(約1兆926億円)まで、映画の興行収入はこの間に31倍となっている。新型コロナウイルスが効果的に抑制されたことで、中国の映画興行収入は2021年にはさらに上昇すると期待される。世界最大の興行市場の支えで、中国制作映画は輝かしい時代を迎えるだろう。

 この20年、中国の映画興行収入は急増している。2005年の20億5,000万元(約349億円)から2019年の642億7,000万元(約1兆926億円)まで、映画の興行収入はこの間に31倍となっている。新型コロナウイルスが効果的に抑制されたことで、中国の映画興行収入は2021年にはさらに上昇すると期待される。世界最大の興行市場の支えで、中国制作映画は輝かしい時代を迎えるだろう。


日本語版『中国映画市場コロナショックから生還、世界第1位に』(チャイナネット・2021年6月1日)

中国語版『重创与反弹,中国电影市场跃居全球第一』(中国網・2021年5月27日)等、掲載多数

英語版『Hit and recover amid COVID-19: China rises as world’s largest film market』(China.org.cn・2021年6月3日)(SCIO・2021年6月3日)

【コラム】周牧之:「宣言」延長、東京五輪の行方は?

周牧之 東京経済大学教授

編者ノート:世界トップクラスの医療水準を誇る日本がなぜ再三の「緊急事態宣言」でも新型コロナウイルス感染拡大を制圧できないのか?東京五輪は予定通り開催できるのか?「ゼロ・COVID-19感染者政策」はどういうことなのか?また「ウイズ・COVID-19政策」とは?周牧之東京経済大学教授が「宣言」の延長に際し、詳しく解説する。


 5月7日、日本政府は東京、大阪、京都、兵庫の4都府県に発令中の「緊急事態宣言」を5月31日まで延長し、さらに愛知、福岡両県を対象に加えることを決めた。「宣言」は、日本式のロックダウンとも捉えられる措置で、今回の延長は、これまでの「短期集中」シナリオが崩れたことを意味する。

 2020年4月8日、76日間のロックダウンを経て、中国の武漢市は都市封鎖を解除した。その前日の4月7日、日本は東京都、埼玉県、神奈川県、千葉県、大阪府、兵庫県、福岡県に対して「緊急事態宣言」を発令した。その後、「宣言」対象を全国に拡大した。第一回目の「宣言」は49日間続いた。

 2021年1月8日、日本政府は東京など4都道府県に第二回目の「緊急事態宣言」を発令し、73日間続いた。

 武漢のロックダウン解除一年後の同日、2021年4月8日、東京都の小池百合子知事は「まん延防止等重点措置」を東京に適用するよう政府に要請した。

 「まん延防止等重点措置」は「緊急事態宣言」に準じたもので、菅政権は「宣言」の経済社会に対する影響を和らげるために打ち出した。

 しかし、「まん延防止等重点措置」の効果は乏しく、政府は4月25日、東京都、大阪府、京都府、兵庫県に対して第三回目の「緊急事態宣言」を発令せざるを得なかった。

 なぜ中国でのロックダウンは一度で済んだのに、日本の「緊急事態宣言」は再三繰り返されるのか?

1.  徹底的でない「緊急事態宣言」


 実際、「緊急事態宣言」をトーンダウンした「まん延防止等重点措置」を打ち出すどころか、むしろ「宣言」そのものが、ゆる過ぎた。日本の新型コロナウイルス対策の問題は、下記の3点に集約できる。

 (1)ゆるい「宣言」目標

 まず、「緊急事態宣言」は、すべての社会手段を講じて人と人の接触をシャットダウンすることは求めてはいない。最初から「人の接触を7〜8割削減」することを目標に置いていた。これは、休業、休講を要請し、交通を遮断し、極力移動と接触を避ける措置を取った中国のロックダウン政策と比べ、極めてゆるい要請であった。

 (2)新規感染者数がゼロにならないままの「宣言」解除

 第一回目の「緊急事態宣言」を発令後、確かに新規感染者数は急速に減少した。しかし、状況改善を受け、政府は2020年5月25日に「宣言」解除をした。

 武漢は新規感染者数がゼロになった日を16日間も続けたのちにようやく「都市封鎖」を解除した。

 しかし「緊急事態宣言」解除は、新規感染者数がゼロになることを待たなかった。感染症の蔓延を断つことが出来ないままの解除は、感染力の極めて強い新型コロナウイルスの感染再拡大という禍根を残した。

 東京では早くも第一回目の「緊急事態宣言」解除1週間後には「東京アラート」で都民に警戒を呼びかけることになった。

 (3)移動奨励政策

 もっとも問題なのは、日本が2020年7月22日に、経済活動を刺激する観光振興策「Go Toトラベル」キャンペーンを、東京を除外してスタートさせたことである。同政策は、実質的な「移動奨励政策」で、しかもスタートのタイミングは最悪であった。その日、新規感染者は792人も出ていた。これは第一回目「緊急事態宣言」時ピークの1.1倍の数字であった。まさしくなり振り構わぬ敢行であった。

 その結果、日別新規感染者は急増し、10日後には1,575人となった。これは、第一回目「緊急事態宣言」の際の新規感染者数ピークの2.2倍の規模であった。

 10月1日、東京都も「Go Toトラベル」キャンペーンに加わった。その後、新型コロナウイルス感染拡大が加速し、12月28日に「Go Toトラベル」キャンペーンの一時停止せざるを得なくなった。その僅か12日後に、政府は第二回目の「緊急事態宣言」を発令した。

図 日本COVID-19新規感染者数・死亡者数の日別推移

2.ゼロ・COVID-19感染者政策Vs.ウイズ・COVID-19政策


 中国国務院は2020年2月18日に政策を公布し、新型コロナウイルス感染症低リスク地域とするまでには、14日間以上の新規感染者ゼロ状態を継続させる厳しいハードルを設けた。さらに、第一波を制圧した後も、中国は全国各地でゼロ・COVID-19 感染者状況維持に心血を注いでいる。新規感染者が見つかるたびに、大量検査、厳しい行動制限などの措置を局地的に実施してきた。モグラ叩きのように感染エリアを潰していく厳しい管理体制で、「ゼロ・COVID-19感染者政策」を徹底的に行なっている。

 それに対して、欧米諸国ではロックダウンの政策は取ったものの、感染拡大の抑制と経済との両立を急ぐため、感染者ゼロを待たずに都市封鎖を解除した。

 2020年5月13日、ドイツ・IFO経済研究所+ヘルムホルツ感染研究センターが共同研究レポートを出した。このレポートに因ると、経済と感染拡大制御との最適なバランスはRt(実効再生産数:1人の感染者が何人に移すかを表す数字)0.75となる。つまり、Rtを0.75に抑えれば、経済への影響を最小限に留めながら感染拡大を早期に終息できるという。いわゆるウイズ・COVID-19政策の提唱である。しかし、感染力が極めて強い新型コロナウイルスに対してどうRtを0.75に抑え、維持するのかが、見えてこない。レポートの執筆者らが提唱した黄金のバランスも、空虚にしか見えない。

 しかし、欧米諸国では、同レポートのような学術的な「お墨付き」を得た形で、感染拡大の再来という禍根を残したまま、ウイズ・COVID-19政策を進めた。その結果、日本を含む「ウイズ・COVID-19政策」を採った国は都市封鎖や「宣言」とその解除を繰り返し、新型コロナウイルスの蔓延は続いた。


3.明白に分かれた経済成長と衰退


 2020年、世界経済は新型コロナウイルスパンデミックによって大きなダメージを受けた。先進諸国の実質GDPは軒並みマイナス成長に陥った。成長率はそれぞれアメリカ-3.5%、日本-4.8%、イギリス-9.9%、ドイツ-4.9%、フランス-8.2%、イタリア-8.9%、スペイン-11%であった。こうした国の共通点は、「ウイズ・COVID-19政策」を採っていることである。封鎖と解除の繰り返しの中で、経済社会が疲弊し、「ウイズ・COVID-19政策」は結果的に長期的な経済衰退を招いた。

 それに対して、中国(本土)、中国台湾、ベトナムは其々2.3%、3.1%、2.9%の実質GDP成長を実現した。こうした国・地域は、すべて「ゼロ・COVID-19感染者政策」を採っている。


4.東京五輪は予定通りに開催できる?


 新型コロナウイルス変異種に喘ぐ大阪では、感染者の入院率は僅か10%でしかない。大勢の感染者が自宅内で病床の空きを待っている。この状況は患者に有効な治療を施せないばかりか、ウイルスを蔓延させている。大阪はもはや事実上医療崩壊の局面に陥っている。東京を始め日本の他の都市でもまさにいま類似の「拷問」に直面している。

 日本の新型コロナウイルス政策はいまや、ワクチン頼みである。しかし日本はワクチンを生産できないばかりか、海外ワクチンの許認可に手間取り、世界的に見てもワクチン接種は遅れている。

 政策的にはワクチン接種を先ず65歳以上の老人に先行させている。とはいえ、目下3,600万人の老人のワクチン接種率はまだ1%以下に留まっている。

 つまり、7月23日の東京五輪開幕の際、日本ではワクチン接種の普及がなく、強力な隔離政策もなく、さらに充分な医療体制もないままである。もしオリンピックを強行開催すれば、世界各地から新型コロナウイルス変異種が持ち込まれる危険性が高く、東京は様々な変異種の温床となる可能性が払拭できない。

 そのような局面にあってなお、日本政府は依然としてオリンピックの開催を固持している。

 5月5日、弁護士の宇都宮健児氏はネット上で東京五輪開催中止を求める署名活動を始めた。5月7日までのたった二日間で、23万人がこの呼びかけに応え署名した。

 東京五輪開催は如何に−。本格的な議論の幕が切って落とされた。


日本語版『「宣言」延長、東京五輪の行方は?』(チャイナネット・2021年5月10日)

中国語版『日本延长“封城”期限,东京奥运会能否如期举行?』(中国網・2021年5月8日)

英語版『Will Tokyo Olympics go ahead as scheduled ?』(China Net・2021年5月12日)

【専門家レビュー】明暁東:〈中国総合都市発展指標2019〉から見た中国都市化の新局面

明暁東
中国国家発展改革委員会発展戦略和計画司元一級巡視員、中国駐日本国大使館元公使参事官


 2016年末、中国都市総合発展指標(以下、〈指標〉)が発表されたことを受け、私は大変嬉しく思った。当時、私は在日中国大使館に勤務していた。東京経済大学の周牧之教授が同指標に取り掛かる段階から、私は同研究の方向性や指標の選定について非常に注目していた。というのも、私の中国国内における勤務先は、中国の新型都市化の戦略や計画を主管する部署であるからだ。具体的な指標を用いて都市発展を定量的に分析することは、中国の都市発展や都市化戦略を研究する上で、斬新なツールになると思い、私は周教授にメールで、指標が正式に発表されたことへの賞賛、そして指標が都市の総合評価における国際標準になることへの期待を伝えた。2018年春、中国に帰国する際、私は周教授に「指標の作成を継続し、毎年更新するようにしては如何か」と提案した。実は、周教授はすでにそのように進めていた。現在、指標の第1弾が公表されてから4年が経過し、指標の第4弾(2019年版)が正式に発行される運びとなった。

 指標は、中国都市の発展に焦点を当てたもので、297都市を対象としている。これら都市は、中国のすべての地級市およびそれ以上の都市(日本の都道府県に相当)をカバーしている。指標は、環境、社会、経済の3つの軸から、27の小項目で191の評価指標を用いて、297都市の経済発展、社会進歩、環境改善を体系的に分析・評価している。これらの191の評価指標は、878の基礎データによって支えられている。指標では、膨大な情報量で中国の主要な開発戦略および新型都市化関連政策の実施状況や、都市発展における多くのメカニズムを発見し検証できる。最近、私は指標を注意深く研究し、多くの有益な発見を得られた。

 1.データと現状


 指標のデータを総合的に分析すると、近年の中国の都市発展におけるいくつかのシナリオが見えてくる。

図 2019年中国都市GDP、DID人口、製造業輻射力ランキング トップ30


 (1)GDPランキング

 4度の発表にわたりGDPランキングとDID(人口集中地区:Densely Inhabited District)ランキングのトップ30都市の構成は基本的に安定している。特にGDPトップ10都市は、上海、北京、深圳、広州、重慶、天津、蘇州、成都、武漢、杭州で、2016年から2019年に至るまで、年次によってわずかに順位が入れ替わるものの、10都市の顔ぶれ自体に変化はなかった。地理的な分布を見ると、これら10都市は、京津冀(北京・天津・河北)、長江デルタ、粤港澳大湾区(広東・香港・マカオ)、長江中上流地域に位置し、2019年のGDP総額は国家全体のGDP総額の23.2%を占める。これらは、世界経済との関わりの深い成長地域である。

 GDPトップ11~30都市は、主に中心都市であり、その地理的な分布特徴も明らかである。例えば、鄭州と西安はそれぞれ中原と関中に位置する中心都市であり、済南、青島、煙台は山東半島メガロポリス、長沙は長江中游メガロポリス、大連は遼中南メガロポリス、福州と泉州は福建省沿岸部メガロポリス、長春はハルビン・長春メガロポリスの代表都市である。GDPで見ると、これらの都市は顕著な雁行型発展の構図を示している。

 (2)DID人口ランキング

 指標2019のDID人口ランキングからは、トップ30都市はGDPのトップ30都市と相似度が高く、異なるのは5都市のみである。人口の集積は経済の集積と高い相関関係があることが伺える。2017年と2019年のDID人口ランキングを比較すると、トップ30都市の顔ぶれは変わらないが、順位には変動がある。上海、北京、広州、深圳はトップ4を維持し、成都、南京、杭州、泉州、福州、鄭州、昆明、済南、長沙は順位を上げ、天津、瀋陽、西安、寧波、汕頭、合肥、青島、無錫、長春は順位を下げた。これらの変化は、東部のメガシティが引き続き強い集積能力を維持していることを示し、中部・西部地域から沿岸地域への人口移動が進み、中西部および東北地区では外部へ人口が流出すると同時に地域の中心都市にも人口が集積しつつある。

 (3)人口流動分析

 指標の「人口流動」指標から、2019年における人口流入のトップ10都市は、上海、深圳、北京、東莞、広州、天津、佛山、蘇州、寧波、杭州で、人口流出のトップ10都市は、周口、重慶、畢節、富陽、信陽、朱馬店、南陽、商丘、遵義、茂名となっている。 2016年と2019年における人口流入都市と流出都市の規模・順位の変化を比較すると、中国の流動人口の規模が変化していることがわかる。流動人口のデータと照らし合わせると、以下のような人口移動の特徴が見えてくる。

 まず、流動人口の規模が減少している。2016年から2019年にかけて、中国の流動人口の規模は、2016年の2億4,500万人から2019年の2億3,600万人へと、年々減少している。

 2つ目は、都市間の流動人口の割合が増えたことである。人口流入・流出都市とDID人口ランキングの変化を総合的に分析すると、農村から都市へのパターンより、都市から都市への人口流動の割合が継続的に増加していることがわかる。2019年に県庁所在地や市区から流出した割合は45.1%で、前年より6ポイント増加し、急速な増加傾向を示している。

 3つ目は、人口流動の方向が多様化していることである。中国における人口流動の一般的な傾向は、中西部地域・東北地域から東部沿岸地域へと向かうベクトルである。しかし、人口流動データを見ると、近年、中西部・東北地域における一部の中心都市ではDID人口が大きく増加しており、地域内の人口が中心都市へ集約していると同時に、中西部に人口が還流し始める兆しすら見える。


 2.分析と考察


 指標の経済総量および人口流動のデータに加え、製造業輻射力、高等教育輻射力、科学技術輻射力、コンテナ港利便性ランキングを加え総合的に分析を行った結果、以下のような考察を得ることができた。

 (1)新しい都市空間フレームワークの形成

 「第11次5カ年計画」では、メガロポリスを中国都市化の主要な形態とすることを唱った。10数年の歳月を経て、中国における都市集積効果は顕著に現れ、人口、技術、資源などが急速に中心都市やメガロポリスに集中している。これを受けて従来の行政区経済は都市圏経済やメガロポリス経済にシフトしている。都市化は空間的にいくつかの極に集中するような傾向が現れた。

 北京、上海、広州、深圳などのメガシティを中心に、京津冀(北京・天津・河北)、長江デルタ、粤港澳大湾区(広東・香港・マカオ)の三大メガロポリスが形成され、中国経済成長の最も重要な原動力となっている。

 また、成都、重慶、武漢、鄭州を中心に、成渝(成都・重慶)メガロポリス、長江中游メガロポリス、中原メガロポリスの3つの内陸メガロポリスが形成され、青島、済南、煙台、西安、大連、長春、福州を中心に、山東半島、遼東半島、ハルビン・長春地域、福建省沿岸部などにメガロポリスが形成され、中国の経済成長の新たなエンジンとなっている。同時に、多く中心都市の都市圏的な展開が進み、中国経済の新たな成長の柱となっている。

 (2)都市発展における格差の顕現

 指標にDID人口の概念が導入されたことで、都市の管轄区域に農村部が含まれることによる都市人口密度データの歪みの問題が解消され、都市人口の変化をより正確に把握できるようになった。例えば、重慶市は人口流出の多い都市であるが、DID人口は近年大幅に増加している。DIDエリアではなく、行政エリアのみで人口変化を測定すると、都市の人口変化の方向性を見誤ることになる。DIDの人口データを利用することで多くの都市開発の課題を発見することが可能となる。例えば、DID人口ランキングを年次で比較すると、一部の都市のDID人口が大幅に増加している一方で、一部の都市のDID人口が急激に減少しており、中国の都市の発展に分化が生じていることがわかる。特に、中西部・東北地方の多くの中小都市では人口減少が継続しており、全国で100近くの人口減少都市が存在している。これらの縮小都市は2種類に分けられ、1つは人口減少が継続する一方で、人口構成の変化が少なく安定した経済成長が維持されている都市である。もう1つは高齢化や産業の縮小を伴う人口減少で経済が低迷している都市である。

 (3)都市化発展の新たな傾向

 長い間、中国都市化の主な原動力は、農村から都市への人口移動であり、大量の余剰農業労働者が土地を離れて都市で働くことで、都市の常住人口が増加してきた。中国の都市化率は、改革開放当初の17.9%から2019年には60.6%まで上昇した。指標2019の「DID人口ランキング」と「人口流動・広域分析」を総合的に分析すると、一部の都市のDID人口は増加していると同時に、一部の都市では減少している。これは都市間の人口移動が徐々にトレンドになっていることを意味する。東部地域の都市で人口は純流入しているが、同地域での農民工(農村部からの出稼ぎ労働者)の数は2016年に48万人減少し、2019年にはさらに108万人減少した。かつて、都市への移住は農村若者の夢であったが、現在、大半の都市で戸籍制限が解除されたにもかかわらず、多くの農民工が都市への移住を躊躇している。中国の都市化のダイナミクスとパターンは、新たな変化が生じている。


 3.目標と課題


 以上の分析から、中国都市化の空間フレームワークは着実に形成され、大半の都市では農村人口への戸籍制限が緩和され、都市の人口収容力が大幅に向上した。「第11次5カ年計画」で示された都市化の促進、都市化空間フレームワークの形成、都市計画と都市建設の管理強化といった都市化の課題は基本的に達成した。中国の都市化は今後、新たな発展段階に入り、新たな目標と課題に直面するであろう。今後の重点は、都市・農村の二元体制を打破し、都市と農村の融合的な発展を促進し、中小都市の活力を高めることへと変化していくだろう。

 (1)都市・農村の二元体制打破

 戸籍や土地利用制度の違いに基づく都市・農村の二元体制が、貧富の格差拡大や地域の不均衡発展の主な原因となっている。中国の都市化率は60%を超え、都市と農村の関係は重要な変化が生じ、今後の政策の重心は都市・農村の二元体制の改革にある。

 まず、農村から都市への定住制限を全面的に撤回し、人々が定住先を自由に選択できるようにし、住民戸籍の自由な移動を実現させる。農村・都市部を問わず、都市に移り住む人々は皆市民の一員である。移住者は「新しい市民」として迎え、移住できない「農民工」をなくす。都市に移り住む新市民とその家族が自由に移動できるだけでなく、中間所得層に入る機会を得られるようにしなければならない。

 第二に、農村の土地管理制度を改革し、集団経営の建設用地が国有建設用地と同様の開発権利などを得て、農民が自分の土地から資産収入を得られるようにするべきである。

 第三に、公共サービス制度を改善し、人口の規模に応じた公共サービスの提供を進め、住民各々が同質の公共サービスを享受できるようにする。

 (2)都市と農村の融合発展の推進

 日本では、急速な都市化の過程において、都市の「過密化」と農村の「過疎化」が共存する時期があった。現在、人口の半分以上が三大都市圏に集中している一方、農村部は高齢化と空洞化が進んでいる。また、国としては海外への食料依存度が極めて高い。これに対して、急速な都市化を経験している中国は、日本の教訓に学び、都市と農村の融合発展を推進し、都市の発展と農村の繁栄を共に図るべきである。

 そのためには、都市と農村の相互作用を促すことが重要である。都市は、資本、技術、人材を農村へ投下することを奨励し、農業開発の恩恵を受けると同時に、農村との人的交流を促進すべきである。農村は、規模経営をはかり、都市へ原材料や農産物を供給すると同時に、都市との産業の融合発展を促進することである。同時に、農村部の居住地の集約化をはかり、都市部の公共サービスの農村部への拡大を進め、都市部と農村部の公共サービスの均質化を求める。

 (3)中小都市活力の向上

 現在中国では一部の中小都市が、人口減少、産業縮小、経済成長鈍化に苦しんでいる。しかし農村と大都市とをつなぐ県庁所在地を含む中小都市の存在が、健全な国土空間にとっては不可欠である。中小都市の発展は、大都市の一部機能の分散化に空間を提供すると同時に、農民の地方都市への就職・定住を誘導し、農村・農耕文化の保存にもつながる。したがって、中小都市の発展は今後の中国都市化の重要な課題の一つであり、中小都市における生活環境の改善、公共施設の建設、公共サービスの質の向上、産業力の高度化への政策支援を強化すべきである。

 (4)都市再生の推進

 改革開放以降、中国で都市化は進み、都市のアーバンエリアは急速に拡大している。急進的な「都市づくり」の中で、低品質の建物が大量に建設されたと同時に、建物の老朽化も進み、都市の再開発が急務となっている。日本には、都市の再開発を手がける「都市再生機構」(UR機構)がある。中国では国土空間計画制度が確立され、都市開発の境界線が厳密に定められることで、都市発展の重心は規模の拡大から再開発へと移行している。都市再開発は、既存の都市を美しくし魅力を高め、住民の生活環境を改善するものである。そのため、スマート・シティ、ヒューマニスティック・シティ、ヘルスケア・シティなどの新しい目標を掲げ、より良い生活を求める都市住民のニーズに応えるよう努力していかなければならない。


中国網日本語版(チャイナネット)」2021年4月2日

【ランキング】〈中国都市総合発展指標2019〉全297都市ランキング


 中国の春節(旧正月)が明けた直後、雲河都市研究院は、中国地級市及びそれ以上の297都市 (都道府県に相当)の中国都市総合発展指標2019における総合ランキングを発表、環境、社会、経済三大項目のトップ100都市ランキングも公表した。趙啓正、楊偉民、周其仁、邱暁華、杜平、明暁東等著名な専門家が特別に寄稿し、中国都市総合発展指標の意義と中国都市発展への期待を寄せた。


趙啓正
中国人民大学新聞学院院長、中国国務院新聞弁公室元主任

 中国都市総合発展指標は都市を理解し、マネジメントするための理念、コンセプト、フレームワークを提供したと、私は確信している。私は同指標が、中国の各都市の市長をはじめとする政策担当者にとって非常に有用な参考書となると思う。1990年代には私自身、上海市副市長を務め、浦東新区の主任及び書記を兼務し、浦東新区開発の重責を負っていた。残念なことに当時は、同〈指標〉のような良い参考書はなかった。

 今日、人間の成長は数多くの指標によって表される。私たちが人間ドックを受ける際には、少なくとも数十の指標を用いる。今なら一般市民にとって馴染み深い健康指標も、30年前の中国では我々自身はもとより医師でさえ、それについて知識を持たなかった。つまり、自分の体を「科学的に管理」しようがなかった。

 30年前、中国人の平均寿命は70歳に至らなかった。それが今は、80歳に近づいている。健康指標の功績は大きい。

 同様に、数十年前、私たちは都市という「大きな体」を、どのような指標で測るかについてあまり意識していなかった。ただごく単純に政治、経済、文化などのマクロ的視点で、都市発展の計画を制定した。今振り返れば一種粗雑で、独断的ですらあった。

 今日、もし都市について緻密な計画と管理とで臨もうとすれば、まず都市に対しての明晰な理念と研究が必要である。そのための、総合的な指標による分析が欠かせない。従って、中国の都市発展には〈中国都市総合発展指標〉が提供する理念、合理性そして総合分析のフレームワークが貴重である。このような指標の精密なデータをもとに、研究を重ね、都市をどうマネジメントしていくかを模索するべきである。これは時代の要請である。


図1 中国都市総合発展指標2019 総合ランキング1-100位都市


楊偉民
中国全国政治協商会議常務委員、中国共産党中央財経領導小組弁公室元副主任

 中国国家発展改革委員会発展戦略和計画司と雲河都市研究院の研究成果である中国都市総合発展指標は、これまで私が目にした中国都市発展状況を測るものの中で、最も時代性、国際性、実用性に富んだ総合評価である。同〈指標〉は、中国都市の健康状況を見極める総合的な「健診報告」と言ってもいいだろう。そこから各都市は自分のどの指標が健全で、どこが劣っているか、あるいは不健全であるかが見て取れる。各都市はこれによって健康を保持し、都市病を予防し、病症をいち早く治すことができる。

 「健診報告」である以上、毎年「健診」を重ねることが肝要である。新しい指標を絶えず追加し、新しい状況を反映させ、新たな課題を見出すことも大切である。

 都市化は中国経済社会発展の原動力である。中国の都市化の道のりはまだ遠く、長い。中国経済はすでにハイクオリティを目指す発展段階に至った。都市は経済発展の主体であり、またハイクオリティ発展の空間でもある。都市のハイクオリティな発展が、中国全体のハイクオリティな発展につながる。

 中国都市総合発展指標は、環境、社会、経済の3つの視野で都市の発展を評価し、都市空間における均衡発展を重視する真の意味での都市の総合発展評価である。このような都市発展評価は、まさしく科学的かつ包括的な評価であり、中国の都市の持続的な発展に大きく寄与する。

 中国の都市は、生態文明の理念を堅持し、生態環境を重視する都市発展を進めなければならない。土地、水、エネルギー等の資源を節約し、自然へのダメージを最小限に抑えなければならない。生態安全を重視し、森林・湖沼・湿地などの環境生態空間の比重を増やし、さらには汚染物質の排出総量を減らすことも肝要である。

 中国都市総合発展指標は、応用可能な環境、社会、経済指標を体系的に示している。各都市は自らの指標を精査し、どの分野で滞りがあるかを見出し、改善に向けて努力すべきである。中国都市総合発展指標はただの評価指標ではなく、都市の今後進むべき道を指し示すものでもある。


周其仁
北京大学国家発展研究院教授

 都市間の競争は、都市文明を向上させる原動力である。故に都市間で何を比較し、競争するのかが都市発展の方向とクオリティに関わる一大事である。

 これまでの経験では、正しい目標の選択が行われた場合、いわゆる正しい“指揮棒”を手に入れた場合、都市は順当に発展し、強い競争力を獲得できる。その意味では、周牧之教授が率いるチームが貢献した中国都市総合発展指標は、中国都市のハイクオリティ発展に貴重な礎を打ち立てた。各地の市民、観光客、ビジネスマン等は同指標が描く“都市画像”から、生活やビジネスの決め手となる参照を得られる。各都市の政策担当者も同指標を使い、より正確な都市発展の目標や競争戦略を描き、中国都市を一層健全に発展させるであろう。


図2 中国都市総合発展指標2019 総合ランキング101-200位都市


邱暁華
マカオ都市大学経済研究所所長、中国国家統計局元局長

 中国都市総合発展指標は、大変意義のある取り組みである。私なりに下記の4つの意義をまとめた。

 第1に、これは都市発展の羅針盤である。同指標は中国の都市発展にディレクションと目標を示したことで、都市発展の方向性を指導している。

 第2に、これは都市発展の年鑑である。毎年出し続けられる同指標は、中国都市発展の軌跡を記述し、都市発展の変化を記録している。

 第3に、これは都市発展の診断書である。同指標は毎年、都市の「健康診断」を実施している。各都市の健康状況を明らかにし、都市政策の当事者や研究者の状況判断を助けている。

 第4に、これは都市発展の成績表でもある。さまざまな指標から都市の成績を明確に示し、且つ、297都市の違いを一目瞭然にしている。

 中国都市総合発展指標2019の全ランキング公開は中国都市の年度総括であり、年度健診でもある。こうした総括と診断によって中国都市発展の進展と不足が認識できる。これを踏まえ各都市は未来志向で不足を解決し、一層の発展を促し、中国と世界のさらなる良好な関係を築き上げるであろう。


杜平
中国国家戦略性新興産業発展専門家諮詢委員会秘書長、中国国家信息センター元常務副主任

 今回が第4回目の発表となった中国都市総合発展指標は、国内外で好評を博している指標システムである(すでに中国語版、英語版、日本語版が出版)。同指標は、中国の政策担当省庁、地方政府、学界および経済界に重要な参考と啓発を与え続けている。

 中国都市総合発展指標の独自の長所について私なりにまとめてみた。

 一つは、データの欠陥と歪みの問題を解決したことである。これまで中国での指標研究のほとんどは、統計データやアンケートデータにしか使えなかった。これらデータの設計、採集、集計から来るデータの欠陥と歪みは問題が大きかった。

 結果、同指標では、データ源の約30%は統計データ、約30%が衛星リモートセンシングデータ、約40%がインターネット・ビックデータとなっている。これによって、統計データで生じる歪みを是正することができた。さらに、これまで統計データではカバーしきれなかった領域も数字化できるようになった。こうした努力により中国都市総合発展指標が都市を評価するために必要なデータは、質量ともに確保できた。

 二番目に、中国都市総合発展指標の「3×3×3構造」が挙げられる。中国春秋時代の思想家老子は、「一から二が生まれ、二から三が生まれ、三から万物が生まれる」という宇宙観を説いた。都市という複雑かつ巨大なシステムをはかる指標の「3×3×3構造」はこのような思想に合致している。

 中国都市総合発展指標は、そのデザイン理念、指標間のロジック、システムにおいて、実に簡潔かつ合理的である。環境、社会、経済という3つの大項目を立て、9つの中項目、そして27の小項目を置き、878のデータで定量化した。

 よって、同指標は都市の変化を趨勢として捉えると同時に、細部までの変化も網羅する。これは都市の現状や課題を明らかにし、戦略や政策の策定の大きな助けになる。

 三番目は、中国都市総合発展指標がこれまで中国にはなかった指標を開発し、都市発展の趨勢を促す手立てとなったことである。例えば、「DID人口」を用いて、都市発展の規模と質を見極めた。また、「輻射力」という概念を提起し、都市の外部への影響力を様々な分野から検証できた。さらに輻射力と都市機能との相関関係の分析により、各産業がそれぞれ求める都市の機能を明らかにした。

 四番目は、国際比較である。中国都市総合発展指標は中国だけでなく、海外の都市も評価可能となっている。例えば、北京と東京両大都市圏の比較がリアルにできることで、中国の都市発展の目標が一層定まった。

 以上述べたように中国都市総合発展指標は先見性と戦略性を持ち、ハイクオリティな発展を求める中国の都市にとって実用性の高い政策・計画ツールである。


図3 中国都市総合発展指標2019 総合ランキング201-297位都市


明暁東
中国国家発展改革委員会発展戦略和計画司元一級巡視員、駐日中国大使館元公使参事官

 中国国家発展改革委員会発展戦略和計画司と雲河都市研究院が共同で研究開発した中国都市総合発展指標(以下〈指標〉と略称)の、2019年度ランキングが、正式に発表された。これは2016年度の初めての発表以来4度目になる。〈指標〉は近年、中国の都市発展の歴史を記録し、都市の高品質発展、空間構造の進化などプロセスをも捉えている。

 ハイクオリティ発展において、〈指標〉は環境、社会、経済の3つの軸から878のデータを精選し、都市の持続発展能力を総合的に表現している。とりわけ〈指標〉は、イノベーション、産業構造の高度化などについて経済大項目の中に「イノベーション・起業」という小項目を置き、都市の新たな活力を捉えている。指標の公表以来5年間、中国の都市発展のクオリティは明らかに向上し、都市化率も上昇し、約1億の農業人口が都市へ移動した。毎年1,300万人を超える都市部への就業増が実現した。都市の軌道交通も迅速に発展し、運行距離は5,500キロメートルに達した。都市の環境マネジメント力も強化し、汚水処理率は95.6%に達した。生活ゴミの無害処理率も大幅に上昇した。スマート化、グリーン化は、人文化への追求によって都市の在りようは一新された。

 空間構造において、〈指標〉は297の地級市およびそれ以上の都市を網羅し、中国都市の空間的な分布をすべてカバーし、中心都市とメガロポリスを軸にした中国の空間構造をきちんと捉えている。〈指標〉は、「輻射力」指標のシリーズを設定し、さまざまな分野における都市の影響力を顕にした。過去5年間で、人口集積と産業集積においてメガロポリスの存在が更に顕著になってきた。現在19のメガロポリスは75%の都市人口をかかえ、80%以上のGDPを貢献している。都市圏も急速に形成されている。中心都市の輻射力は増大し、圏域内におけるインフラ整備、公共サービスの提供、産業の連携は進んでいる。

 都市と農村の関係において、中国の都市行政区域の中には都市空間と農村空間双方が存在しているため、〈指標〉は都市を対象としているが、環境、社会、経済各大項目の中に農業、農村、農民に関わる指標を数多く設置している。とくに、経済大項目の中に「都市農村共生」という小項目を置き、都市の発展と農村の振興とのバランスを測っている。過去5年間で中国における都市と農村との協調発展の政策体系がより整備され、都市と農村における基本公共サービスの連携が一層深まった。農村部での水、電力、道路、ネットワークなどのインフラ整備水準が向上し、都市と農村の住民の収入比は2014年の2.75から2019年の2.64へと縮小した。

 中国都市総合発展指標2019は、中国都市発展の新たな変化も捉えている。前年度と比べ、東北地域の長春、ハルビン両市は総合ランキングのトップ30から転落した。主な原因は社会大項目での指標成績が悪化したことにある。相対して中部地域は、南昌と西部地域の貴陽の両市は、同トップ30への仲間入りを果たした。

 中国都市総合発展指標2019で、CO2排出量への評価を導入したことにより、環境大項目においてはランキングの変動が大きい。前年度と比較し、上海、広州両市の順位が向上し、深圳に次いで全国第2位と第3位を勝ち取った。これは、環境マネジメントの強化でメガシティでも環境問題を改善できることを示した。相対して温州、龍岩、黒河、天津、南平、莆田、泉州、フルンボイル、臨滄など都市はトップ30から転落した。

 社会大項目においては、そのランキングは経済大項目との相関度が高い。これは経済成長が社会発展の礎であることを意味する。相対して、海口、石家荘、南昌、ラサ、ウルムチ、蘭州、呼和浩特、銀川、西寧など省都・自治区首府がトップ30入り出来なかった。

 経済大項目においては、順位の変化はあったものの、トップ30の都市には古参メンバーが多く見られた。強いものが常に強いという局面が現れている。相対して、常州と煙台両都市はトップ30から脱落した。

 中国都市総合発展指標2019ランキングにおける変化からいくつかの構造的な特徴が見て取れる。①中国の経済分布が基本的に安定し、経済の重心が依然として東南地域に偏っている。②生態環境が全体として改善されたものの、個別では伝統的に環境が優れていたいくつか都市の環境データが悪化した。③社会発展が安定的に進んでいるものの、経済発展への依存が依然として強い。

 以上から見て取れるように、よく体系化され、適切な指標を選定した中国都市総合発展指標は、都市の主な発展分野を網羅し、中国都市発展の方向性を明確に示す重要な政策ツールである。


図4 中国都市総合発展指標2019 環境ランキング1-100位都市


図5 中国都市総合発展指標2019 社会ランキング1-100位都市


図6 中国都市総合発展指標2019 経済ランキング1-100位都市


中国網日本語版(チャイナネット)」2021年3月11日

【ランキング】「中国中心都市&都市圏発展指数2019」都市ランキング 〜36中心都市発展パフォーマンス大公開〜

 国際シンクタンクの雲河都市研究院が作成した中国中心都市&都市圏発展指数2019がこのほど発表された。総合ランキングのトップ3は北京、上海、深圳。第4位から第9位は順に広州、天津、成都、杭州、重慶、南京となった。

 2018年のトップ10都市と比べ2019年は第1位から第9位まで順位の変化は無かった。中心都市ではない蘇州が第10位に仲間入りしたことで武漢がトップ10から転落した。トップ10以外の都市では、寧波、鄭州、済南、福州、貴陽、石家荘、南寧、銀川などの都市の順位が上がった。

 中国中心都市&都市圏発展指数は中国国家発展改革委員会発展戦略和計画司の依頼で開発された中国都市総合発展指標をベースにバージョンアップされ、同計画司と雲河都市研究院が共同で開発した中国都市総合発展指標の派生指数として、36の中心都市の評価に特化したものである。今回は、2017年以来の3度目の発表になる。

 中国中心都市&都市圏発展指数2019のランキングでは東北三省の転落が目立つ。前年度と比べ、同地域における瀋陽、長春、ハルビンの3省都はそれぞれ2つ、1つ、3つ順位を下げ、それぞれ第21位、第26位、第29位となった。新中国の重化学工業基地としての雄姿と今日の中心都市間競争における落ち込みぶりとが大きなギャップを感じさせる。

 中国中心都市&都市圏発展指数の大きな特徴は、中国の4大直轄市、22省都、5自治区首府、5計画単列市の計36都市を「中心都市」とし、全国297の地級市以上の都市の中で評価した点にある。同指標の分析によると、これら36の「中心都市」は全国GDP規模の40.5%、貨物輸出の51.3%、特許取得数の48.6%を占め、全国の常住人口の24%、DID人口の42%、メインボード上場企業の67.5%、全国の981&211高等教育機関(トップ大学)の94.8%、5つ星ホテルの57.8%、三甲病院(最高等級病院)の48.1%を有している。

 中国中心都市&都市圏発展指数2019は「都市地位」、「都市圏実力」、「輻射能力」、「広域中枢機能」、「開放交流」、「ビジネス環境」、「イノベーション・起業」、「生態環境」、「生活品質」、「文化教育」の10大項目と30の小項目、114組の指標からなり、包括的かつ詳細に、中心都市の都市圏発展を指数で診断し、中国中心都市の高品質発展を促す総合評価システムである。

 中国中心都市&都市圏発展指数中国都市総合発展指標の878の基礎データから438の基礎データを精選し、中心都市の都市圏発展を評価するための指標システムを構築した。これら基礎データは、統計データだけではなく、衛星リモートセンシングデータやインターネットのビッグデータも取り入れている。中国中心都市&都市圏発展指数はある意味では五感で都市を感知するマルチモーダルインデックス(Multimodal Index)である。例えば衛星リモートセンシングデータによるDID(Densely Inhabited District:人口集中地区)分析は、都市圏人口の規模、分布、密度を正確に把握し、それらと経済発展、インフラ整備、ガバナンス、生態環境マネジメントとの関係を多面的に分析でき、都市圏研究レベルを一挙に引き上げた。これはまさしく斬新なスーパーインデックスである。

 二酸化炭素排出量を中国の都市圏評価に取り入れたことは、中国中心都市&都市圏発展指数2019の一大進化である。長年の努力により雲河都市研究院は、衛星リモートセンシングデータの解析とGISの分析を用いて各都市の二酸化炭素排出量を正確に算出した。これにより都市圏評価の精度と分析幅を格段に上げた。

1.「都市地位」大項目

 北京、上海は「都市地位」大項目ランキングのトップ2であり且つ偏差値の高さで他都市を大きく引き離している。ランキング第3位から第10位までは順に天津、重慶、広州、深圳、南京、杭州、成都、武漢が入った。2018年と比べ北京、上海の順位は不動であり、天津、重慶、深圳の順位は上昇した。とくに深圳は、2018年の第9位から2019年には第6位へと躍進した。

 「都市地位」大項目は行政機能のレベルだけでなく、メガロポリスにおける中心都市の役割、そして“一帯一路”、“長江経済ベルト”、“京津冀協調発展”など国家戦略におけるパフォーマンスをも評価する。

 そのため、同大項目は「行政機能」、「メガロポリス&都市圏」、「一帯一路」の3つの小項目指標を設置し、「行政階層」、「大使館・領事館」、「国際組織」、「メガロポリス階層」、「中心都市階層」、「都市圏階層」、「一帯一路指数」、「歴史的地位」など8組の指標データで構成される。

 (1)「行政機能」小項目:北京、上海、重慶は同小項目のトップ3である。第4位から第10位までの中心都市は天津、瀋陽、広州、杭州、南京、成都、武漢であった。首都、直轄市、省都が行政機能小項目において優勢であった。

 (2)「メガロポリス&都市圏」小項目:北京、上海、深圳が同小項目のトップ3を飾った。第4位から第10位までの中心都市は広州、天津、杭州、南京、成都、重慶、合肥であった。メガロポリス&都市圏小項目では、長江デルタ、珠江デルタ、京津冀、成渝の四大メガロポリスの都市の得点が高い。

 (3)「一帯一路」小項目:北京、上海、深圳は同小項目のトップ3であった。第4位から第10位までの中心都市は広州、ウルムチ、昆明、南京、ラサ、西安、天津だった。2018年と比べ北京、上海、深圳、南京の順位は維持されたものの、広州、ウルムチ、昆明、ラサ、西安の順位が上がり、一帯一路の拠点都市であることに加え、貿易・投資や人の往来の活発な都市の得点が高い。

2.「都市圏実力」大項目

 「都市圏実力」大項目ランキンングトップ3は北京、上海、深圳である。偏差値からみると他都市と比べ、この3都市の優位性が突出している。他にトップ10入りした中心都市は広州、重慶、天津、杭州、成都、武漢の6都市であった(トップ10内に36中心都市ではない都市が含まれる場合がある。以下同)。

 2018年と比べトップ10都市のうち北京、上海、深圳、広州の順位は不動だった。重慶は1位、杭州は2位順位を上げた。このほかにも寧波、鄭州、福州、済南、昆明、貴陽、石家荘、西寧、銀川、フフホト、ラサなど都市の順位が上がった。

 「都市圏実力」大項目は「経済規模」、「都市圏品質」、「企業集積」の3つの小項目を設置し、都市の経済と人口規模、そして都市圏の人口集約度とその構造、さらにはその経済中枢機能を評価する。

 そのため、同大項目は「GDP規模」、「税収規模」、「固定資産投資規模指数」、「電力消費量」、「常住人口」、「DID人口」、「常住人口増加率指数」、「人口流動」、「DID面積指数」、「都市圏人口集中度」、「都市圏構造」、「フォーチュントップ500中国企業」、「中国トップ500企業」、「メインボード上場企業指数」の14の指標データで支えられる。

 (1)「経済規模」小項目:上海、北京、重慶が同小項目のトップ3を飾った。偏差値からみて他都市に比べ同三都市は優位性が明らかである。トップ10ランキング入りの中心都市は他に深圳、広州、天津、成都、武漢、杭州の6都市であった。深圳、広州の経済規模はすでに天津のそれを超え、四大直轄市にひけをとらない経済力を有している。2018年と比べ、2019年は36中心都市中、同小項目のトップ10都市の順位は変わらなかった。鄭州、寧波、長沙、西安、合肥、福州、済南、昆明、太原、ウルムチ、蘭州、フフホト、銀川、西寧、ラサなど都市の順位は上がった。

 (2)「都市圏品質」小項目:上海、深圳、北京が同小項目のトップ3を飾った。ランキングトップ10入りした中心都市は他に、広州、天津、武漢、成都、杭州の5都市であった。297の地級市以上の都市のうち、2019年は重慶が同小項目で順位が第31位と振るわなかったものの、2018年の第43位と比べると上げ幅は大きく、これが「都市圏実力」大項目での順位アップの由来であった。同小項目では杭州が2018年の第13位から2019年には第10位に上がったことが、同市の「都市圏実力」大項目での順位上昇につながった。

 (3)「企業集積」小項目:北京、上海、深圳は同小項目において圧倒的な優位でトップ3位を占め、同3都市の企業本社集積規模の強大さは突出していた。ランキング10位入りした中心都市は他に広州、杭州、南京、寧波、重慶、福州の6都市であった。36中心都市全体からみると、2018年に比べ広州、寧波、福州、アモイ、済南、青島、鄭州、銀川、フフホトなど都市が順位を上げた。

3.「輻射能力」大項目

 「輻射能力」大項目ランキング第1位の都市は北京であり、そのゆるぎない力で、同大項目における各小項目ランキングでも軒並み1位を獲得した。上海、深圳、広州、成都、杭州、南京、武漢、西安の8中心都市もトップ10入りした。2018年と比較し、トップ10のうち北京、上海、深圳、杭州、南京の順位は不動で、広州、武漢の順位は僅かに上がり、成都、西安は順位を下げた。天津はトップ10から弾き出された。

 中心都市が「中心都市」たる所以は、周辺地域や全国への輻射力の大きさにある。このため、都市の輻射力をはかることが中心都市評価のキーポイントとなる。「輻射能力」大項目は、まさに中心都市の各機能が全国及び周辺地域に与える影響力の強弱をはかる指標である。同大項目は、都市の産業、科学技術、高等教育など分野の輻射力をはかるだけでなく、都市での生活サービス分野の輻射力を特に注視し明らかにしている。

 同大項目では「産業輻射力」、「科学技術・高等教育輻射力」、「生活文化サービス輻射力」の3つの小項目指標を立て、「製造業輻射力」、「IT産業輻射力」、「金融業輻射力」、「科学技術輻射力」、「高等教育輻射力」、「文化・スポーツ・娯楽輻射力」、「医療輻射力」、「卸売・小売輻射力」、「飲食・ホテル輻射力」など9組の指標データから構成される。

 (1) 「産業輻射力」小項目:北京、深圳、上海がトップ3の雄姿を示した。トップ10入りした中心都市は他に成都、広州、杭州、南京、アモイの5都市であった。36中心都市全体からみると、2018年と比べ北京、深圳、上海、成都、アモイ、福州、寧波の順位は維持された。広州、重慶、武漢、合肥、海口、瀋陽、太原、石家荘、西寧、ウルムチ、南寧、フフホトなど都市の順位は上がった。

 (2) 「科学技術・高等教育輻射力」小項目北京、上海、深圳は同小項目のトップ3を占め、とくに北京の優位性が際立った。ランキング第4位から第10位までの都市は広州、南京、天津、成都、杭州、武漢、西安であった。36中心都市全体からすると2018年と比べ北京、上海、長沙、大連、合肥、瀋陽、太原の順位は変わらず、深圳、南京、天津、杭州、済南、青島、寧波、長春、アモイ、福州、石家荘、銀川など都市の順位は上がった。

 (3)「生活文化サービス輻射力」小項目:北京、上海、成都が小項目のトップ3を占め、北京の同小項目での優勢が突出していた。ランキング第4位から第10位までに入った中心都市は広州、杭州、武漢、南京、深圳、天津、西安の7都市だった。深圳は第7位から第8位へと順位を下げた。

4.「広域中枢機能」大項目

 「広域中枢機能」大項目ランキングの第1位は水路輸送、陸路輸送、航空輸送いずれも上海が優勢を誇り、偏差値から見て他都市を大きく引き離した。ランキング第2位から第10位までの中心都市は広州、深圳、北京、天津、青島、寧波、アモイ、重慶、南京だった。2018年と比べ第5位までの都市に変化はなく、青島、アモイの順位はやや上がり、重慶は2018年の第11位から2019年には第9位へと上昇し陸路輸送の貢献が大きかった。

 交通中枢は中心都市の重要な機能で、これは他のセンター機能が成り立つ土台でもある。広域中枢機能は都市の水路輸送、陸路輸送、及び航空輸送のインフラ条件と輸送量を測る大項目である。

 同大項目は「水路輸送」、「航空輸送」、「陸路輸送」の3つの小項目を設置し、「コンテナ利便性」、「コンテナ取扱量」、「水運輸送指数」、「空港利便性」、「航空輸送指数」、「鉄道利便性」、「鉄道密度指数」、「高速道路密度指数」、「国道・省道密度指数」、「道路輸送指数」など10組の指数データで構成される。

 (1)「水路輸送」小項目:上海、深圳、寧波は同小項目のトップ3をとなった。ランキング10位内に入った中心都市は他に、広州、青島、天津、アモイ、大連の5都市で、臨海都市が同小項目の上位を占めた。

 (2)「航空輸送」小項目:上海、北京、広州が同小項目のトップ3であった。いずれも中国最大の航空輸送中枢都市であり、偏差値から見た優位性が顕著である。深圳、成都、昆明、重慶、西安、杭州、鄭州は第4位から第10位までを占めた。西南・西北地域の航空輸送依存の高さが、成都、昆明、重慶、西安など都市の航空中枢地位を高めた。

 (3)「陸路輸送」小項目:広州、深圳、貴陽が同小項目のトップ3であった。ランキング10入りした中心都市は他に、北京、上海、南京、重慶、武漢の5都市であった。同小項目の中で西南地域の貴陽のパフォーマンスは目を見張るものがあった。

5.「開放交流」大項目

 「開放交流」大項目ランキングトップ10入りした中心都市は上海、深圳、北京、広州、重慶、天津、成都、寧波、杭州の9都市である。2018年と比べ、トップの上海は首位の座を維持し、深圳、重慶、成都、寧波は順位をあげた。

 開放交流はグローバリゼーションを背景に、都市と世界との人、カネ、モノの交流交易を推し量る重要な指標である。同大項目は「国際貿易」、「国際投資」、「交流業績」の3つの小項目指標を立て、「貨物輸出」、「貨物輸入」、「実行ベース外資導入指数」、「対外直接投資」、「海外旅行客」、「国内旅行客」、「国際旅行外貨収入」、「国内旅行収入」、「世界観光都市認定指数」、「国際会議」、「展示会業発展指数」など11組の指数データから成る。

 (1)「国際貿易」小項目:上海、深圳、北京が同項目でトップ3を飾った。トップ10入りした中心都市は他に広州、寧波、天津、アモイの4都市だった。2018年と比べ、寧波、成都、合肥、長沙、済南、昆明、南寧、海口など都市の順位が上がった。

 (2)「国際投資」小項目:上海、深圳、北京がトップ3だった。ランキング第4位から第10位までの中心都市は順に天津、重慶、寧波、青島、成都、大連、武漢であった。2018年と比べ、ランキングトップ10入りした中心都市の中で、上海、深圳、寧波、成都、大連、武漢の順位が上がった。

 (3)「交流業績」小項目:上海、北京、広州が同項目のトップ3となった。偏差値から見ると、トップ3都市の値が他都市を大きく引き離した。ランキング第4位から第10位までの中心都市は順に、深圳、重慶、成都、杭州、武漢、西安、アモイだった。2018年と比べ、ランキングトップ10入りした都市では、杭州、武漢、西安、アモイの順位がアップした。

6.「ビジネス環境」大項目

 「ビジネス環境」大項目ランキングトップ3の都市は、北京、上海、広州であった。深圳、成都、南京、天津、武漢、杭州、重慶が順に第4位から第10位となった。2018年と比べ、トップ10入りした中心都市の中で北京、南京、武漢、杭州の順位が上がった。

 ビジネス環境は、都市の交流交易経済を開花させる大切な要素である。同大項目は純粋なビジネスサポートを測るだけでなく、都市の政策的なサポートも評価する。市内交通を、ビジネス環境を測る重要な指標としている点は特記すべきである。

 同大項目は、「園区支援」、「ビジネス支援」、「都市交通」の三つの小項目指標を設置し、「国家園区指数」、「自由貿易区指数」、「平均賃金指数」、「事業所向けサービス業従業員数」、「ハイクラスホテル指数」、「トップクラスレストラン指数」、「1万人あたり公共バス利用客数」、「都市軌道交通距離」、「都市歩道・自転車道密度指数」、「公共交通都市指数」など10組の指数データで構成する。

 (1)「園区支援」小項目:深圳、上海、アモイがトップ3都市となった。トップ10入りした中心都市は他に、海口、天津、重慶、西安の4都市あった。2018年と比べ、トップ10中心都市の中で深圳、海口、天津の順位が上がった。

 (2)「ビジネス支援」小項目:北京、上海、深圳がトップ3となった。トップ10入りした中心都市は他に、広州、成都、杭州、天津、南京、重慶の6都市であった。2018年と比べ、トップ10都市のうち深圳、南京の順位が上がった。

 (3)「都市交通」小項目:北京、上海、広州がトップ3を占めた。ランキング第4位から第10位までの都市は順に深圳、武漢、成都、南京、蘭州、杭州、ウルムチだった。2018年と比べ、北京が上海に代わって第1位となった。成都、蘭州、杭州の順位が上がった。

7.「イノベーション起業」大項目

 「イノベーション・起業」大項目では深圳が北京を追い落として第1位を獲得した。トップ10入りした中心都市は他に、北京、上海、広州、杭州、成都、南京、天津、武漢の8都市だった。2018年と比べ、トップ10都市の中で深圳、広州、成都の順位が上がった。

 イノベーション・起業は交流交易経済の融合、再編の重要手段であり、都市発展の主要な原動力である。よって同大項目は研究開発への投入だけでなく、その成果も重視する。また起業の活力を見据え、さらに政策支援も評価した。

 よって同大項目には「研究集積」、「イノベーション・起業活力」、「政策支援」の3つの小項目指標を置き、「R&D内部経費支出」、「地方財政科学技術支出指数」、「R&D要員」、「中国科学院・中国工程院院士指数」、「創業板・新三板上場企業指数」、「特許取得数指数」、「国家改革試験区指数」、「国家イノベーション模範都市認定指数」、「情報・知識産業都市認定指数」、「国家重点研究所・工学研究センター指数」など10組の指標データから構成される。

 (1)「研究集積」小項目:同小項目ランキングトップ3を飾った都市は、北京、深圳、上海だった。偏差値からみると同3都市のパフォーマンスが他都市をはるかに上回った。トップ10入りした中心都市は他に広州、南京、杭州、天津、武漢、成都の6都市だった。2018年と比べると、トップ10都市の中で、深圳、広州、南京、杭州、成都の順位が上がった。

 (2)「イノベーション起業活力」小項目:トップ3の都市は深圳、北京、上海であった。中でも深圳、北京両都市の偏差値は他都市を大きく引き離した。トップ10入りした中心都市は他に広州、杭州、成都、南京の4都市だった。2018年と比べ、トップ10入りした中心都市には順位をあげた都市はなかった。

 (3)「政策支援」小項目:同小項目ランキングトップ3都市は北京、上海、重慶であった。トップ10入りした中心都市は他に天津、成都、武漢、青島、西安、深圳の6都市で、直轄市の政策支援の手厚さが目立った。2018年と比較すると、トップ10入りした中心都市では成都、武漢、西安、深圳の順位が上がった。

8.「生態環境」大項目

 上海、深圳、北京が「生態環境」大項目のトップ3を飾った。トップ10入りした中心都市は他に広州、重慶、成都、アモイ、武漢の5都市だった。2018年と比べ、36中心都市の中で深圳、重慶、成都、武漢、南京、長沙、貴陽、昆明、ラサ、西寧の順位が上がった。

 都市にとっては、生態環境の品質や資源利用の効率の重要性はますます高まっている。同大項目指標は環境品質と資源効率を重視すると同時に、都市の環境努力への評価も行う。特記すべきは、今年度、初めて二酸化炭素排出量の評価を導入した点である。

 これにより、同大項目は「環境品質」、「環境努力」、「資源効率」の3つの小項目指標を置き、「気候快適度」、「空気質指数」、「1万人当たり水資源」、「森林面積」、「自然災害による直接的経済損失指数」、「地質災害による直接的経済損失指数」、「災害警報」、「公園緑地面積」、「環境努力指数」、「環境配慮型建築設計評価認定項目」、「国家環境保護都市認定指数」、「DID人口指数」、「GDP当たりCO2排出量」、「一人当たりCO2排出量」、「市街地土地産出率」など15組の指標データで構成される。

 (1)「環境品質」小項目:36中心都市の中で同小項目トップ30入りしたのは、3都市に限られ、海口の第15位、ラサの第17位、昆明の第27位であった 同項目において中心都市の成績は芳しくなかった。2018年と比べ、36中心都市の中で、重慶、寧波、南寧、杭州、成都、南京、蘭州、西寧、合肥、長沙、武漢の順位が大幅に上がった。

 (2)「環境努力」小項目:北京、上海、深圳が同小項目のトップ3を飾った。トップ10入りした中心都市は他に重慶、広州、鄭州、南京、天津、成都の6都市だった。2018年と比べると36中心都市の中で深圳、鄭州、南京、成都、アモイ、済南、寧波、西安、貴陽、長春、銀川、太原、ウルムチ、フフホト、海口、西寧の順位が上がった。

 (3)「資源効率」小項目:上海、深圳、北京が同小項目でトップ3を飾った。トップ10入りした中心都市は他に、広州、武漢、成都、長沙、南京の5都市だった。2018年と比べ、36中心都市の中で、長沙、重慶、貴陽、ラサの順位は上がった。

9.「生活品質」大項目

 「生活品質」大項目では北京、上海、広州がトップ3となった。杭州、成都、重慶、南京、武漢、天津、深圳が順に第4位から第10位までとなった。2018年と比べ、トップ10のうち前から3位までは不動だった。杭州、成都、重慶、武漢の順位は高くなった。

 ハイクオリティな生活は都市を評価する最重要ポイントのひとつである。高い生活水準を支えるサービス業も都市発展の重要な支柱となる。また都市の住みやすさや安全性も一大関心事である。生活消費水準の評価や医療福祉の水準も重視する。

 同大項目は都市の「住みやすさ」、「生活消費水準」、「医療福祉」の3小項目指標を設置し、「住みやすい都市認定指数」、「文明衛生都市認定指数」、「安全安心都市認定指数」、「中国幸福感都市認定指数」、「交通安全指数」、「1万人当たり社会消費財小売消費額」、「海外高級ブランド指数」、「1万人当たりホテル飲食業営業収入額」、「1万人当たり通信費額」、「1万人当たり住民生活用水量」、「平均寿命」、「医師数」、「三甲病院(最高等級病院)」、「高齢者福祉施設ベッド数」など14組の指標データで構成される。

 (1)「住みやすさ」小項目:同小項目では上海が首位、成都が第3位だった。ランキングトップ10入りした中心都市は他に、杭州、北京、寧波、南京、西安、長沙の6都市だった。2018年と比べ、トップから第4位までの順位は変わらなかった。36中心都市の中で、多数の都市が順位を上げた。特に西安、広州、鄭州、昆明、済南、福州、ラサ、貴陽、ハルビン、南昌、フフホト、蘭州、太原、西寧の順位の上げ幅が高かった。

 (2)「生活消費水準」小項目:北京、上海が同小項目の1位2位を獲得した。トップ10入りした中心都市は他に広州、海口、ラサ、アモイ、深圳、南京の6都市だった。2018年と比べ、トップ10都市の中で北京、上海の上位は変わらず、海口、ラサ、アモイが順位を引き上げた。

 (3)「医療福祉」小項目:北京、上海、重慶が順に同小項目のトップ3だった。広州、成都、天津、杭州、武漢、済南、南京が順に第4位から第10位となった。2018年と比べ、トップ10都市では重慶、成都、済南の順位が上がった。

10.「文化教育」大項目

 「文化教育」大項目のランキングでは北京、上海、広州が上位3位を占めた。特に北京、上海の偏差値は他都市を大きく引き離し、両都市の文化教育資源の厚みが突出していた。南京、武漢、成都、杭州、天津、重慶、深圳が順に第4位から第10位となった。2018年と比べ、36中心都市中、前から6番目までの順位は変わらなかった。杭州、深圳、鄭州、合肥、福州、昆明、石家荘、太原、ラサの順位が上がった。

 文化教育は都市の精神世界を形作る。「文化教育」大項目は都市文化娯楽生活の場所と関連消費を測るだけでなく、国際性、全国的な文化パフォーマンス、教育投資と傑出人材育成も評価する。

 同大項目では「文化娯楽」、「文化パフォーマンス」、「人材育成」の三つの小項目を立てた。同大項目は、「映画館・劇場消費指数」、「博物館・美術館指数」、「スタジオ指数」、「動物園・植物園・水族館」、「公共図書館蔵書量」、「世界トップ大学指数」、「傑出文化人指数」、「オリンピック金メダリスト指数」、「地方財政教育支出指数」、「1万人当たり幼稚園在園児童数」、「インターナショナルスクール」、「高等教育指数」、「傑出人物輩出指数」など13組の指標データから成る。

 (1)「文化娯楽」小項目:北京と上海は同小項目で1位と2位を飾った。両都市の偏差値は他都市を大きく引き離した。両都市の文化娯楽分野での突出ぶりが明らかである。トップ10入りした中心都市は他に重慶、広州、深圳、成都、杭州、南京、天津の7都市だった。2018年と比較し、36中心都市の中で北京、上海の王者ぶりは変わらなかった。重慶、南京、鄭州、長沙、済南、寧波、福州、ラサの順位はアップした。

 (2)「文化パフォーマンス」小項目:北京、上海、南京がトップ3を飾った。とりわけ北京の高偏差値は他都市を引き離し、北京はその分野で突出していた。第4位から第10位までは広州、武漢、西安、長沙、天津、杭州、成都であった。2018年と比べ、36中心都市の中で、深圳、太原、昆明、寧波の4都市の順位の上げ幅が高かった。

 (3)「人材育成」小項目:北京と上海が同小項目の1位、2位を飾った。両都市の偏差値の高さは他都市を引き離していた。第3位から第9位までは順に広州、天津、南京、杭州、成都、武漢、深圳だった。2018年と比べ、前5位までの都市の順位は変わらなかった。36中心都市のうち、杭州、成都、深圳、鄭州、合肥、石家荘、ラサ、長春、大連、太原の順位が上がった。

 2019年2月19日、中国国家発展改革委員会が公布した『現代化都市圏育成発展に関する指導的意見』は、中心都市を都市圏発展政策の中核とし推進することを謳った。

 東京経済大学の周牧之教授は、「中国都市化は都市圏の時代に突入した。高密度人口集積の優位性への認識をさらに重視し、より良質なDIDを作り上げることが、都市圏政策の一番の要である。同政策のもう一つの重点は、中心都市と周辺中小都市の相互発展である。第三の政策ターゲットは中心機能の輻射力を向上し強化させることだ。とりわけ強調すべきは、中心都市を国際交流プラットフォームの中心舞台に据えることである。今日のグローバル時代、国際競争と国際交流が国の命運を決める根本である。一国の国際競争力、国際交流水準の高低が、最終的に都市圏の国際性を決定づける。『中国中心都市&都市圏発展指数はまさに以上の意義に基づき、マルチの角度から都市を評価し、中心都市の都市圏発展のために開発された斬新な政策ツールである」と力説した。


中国網日本語版(チャイナネット)」2021年2月26日

【激論】武田信二・鈴木正俊・周牧之:コロナ危機で加速する産業のデジタル化


東京経済大学創立120周年記念シンポジウム
「コロナ危機をバネに大転換」【第2弾】

※画像をクリックするとシンポジウムの動画がご覧になれます

■ 特別Session ■ 「コロナ危機で加速する産業のデジタル化」

司 会   周牧之 東京経済大学経済学部教授
パネリスト 武田信二 TBSホールディングス取締役会長
                  鈴木正俊 ミライト・ホールディングス取締役相談役、NTTドコモ元代表取締役副社長

日時    2020年12月19日(土)16:00〜18:00



 :本日は、東京経済大学創立120周年記念シンポジウム「コロナ危機をバネに大転換」のオンライン配信をご視聴いただきありがとうございます。特別セッションの司会を務めます、東京経済大学の周牧之です。

 まず、パネリストをご紹介いたします。TBSホールディングスの武田信二会長です。そして、ミライト・ホールディングスの鈴木正俊相談役です。どうぞよろしくお願いします。

 今年は新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止するため、YouTubeのライブでシンポジウムの配信を行って参ります。

 特別セッションでは、「コロナ危機で加速する産業のデジタル化」というテーマを設定しています。今日は特に、メディアの「DX」を中心にディスカッションを進めて参りたいと思います。さて早速、本題に参ります。


 最初の問題提起です。コロナパンデミックで、世の中のリモート化が急激に進みました。まずは皆さんの身近な映画の新作公開を事例にして、リモート化のリアリティを検証してみたいです。

   ご存知のように従来、映画の新作はまず映画館で放映され、しばらく経ってからレンタルの開始。そして間を置いてようやく地上波テレビで流すものでした。最近は「OTT」というネットで配信するサービスができたことで、レンンタルがかなりOTTに取って変わりつつあります。

 さらに、新型コロナウイルスのパンデミックの中で、非常にこの OTT の配信が前倒しされてきた事例があります。まず、それを検証していきたいと思います。

 このグラフの一番左のポスターは『Lost in Russia』という映画です。中国では春節映画が一番稼ぐものになっており、この映画は今年の春節の大作として期待されていました。しかし、春節の直前に新型コロナの問題が起こり、映画館での上映が中止されたのです。

   そこで、この映画は思い切って1月25日(中国の春節の元日)にネットで配信され、大変な話題を呼びました。しかし、これは中国語の世界での話題で、外ではほとんど知られていない話でした。

   次は『ムーラン』です。『ムーラン』はDisneyが撮った映画です。制作費に2億ドル、ざっと200億円をかけて中国の古代の物語をベースにした映画です。これもやはり、劇場公開がコロナで中止されました。そして9月にOTTのオンライン配信になり、世界的に話題になったのです。

   さらに12月になると、今度はWarnerが2021年公開の映画17本すべての劇場公開と、OTT配信を同時にやることを発表したのです。これは今までの流れをひっくり返すような大きな話であり、皆びっくりしています。

 そもそもOTTとはどういうものなのか。英語では「Over The Top」です。インターネットを通じてコンテンツを配信するサービスですが、「Netflix」や「Apple TV」といった事業者がOTTを代表する存在です。

   では、OTT とテレビとの違いは何なのか。視聴者から見ると、テレビは限られた時間、限られた場所で、限られたコンテンツしか受信できないものです。しかしOTT の場合は、いつでもどこでも瞬時に、無限大のコンテンツにアクセスできる利点があるのです。

   事業者から見ると、テレビの場合はコストが高い。やはり限られた圏域の中で流すことで、効率は決してそれほど高くはない。OTTの場合は超低コスト、超効率と言われます。国境を越える流し方もできるため、非常に効率が良いのです。

   では今、世界でOTTのオーディエンスはどう増えているのか。なんと、過去4年間で3倍になったのです。この図は2019年のデータですが、今6.4億人もOTTのサービスを受けています。このOTT のサービスが、新型コロナパンデミックの中でも大変勢い付いてきているのです。

   先ほどの話を新型コロナ感染者の累積の図に合わせて落としてみると、さらにこのリアリティが見えてきます。例えば『ムーラン』と同じくらいの制作費、2億ドルをかけて作った『TENET テネット』という大作映画があります。

   この映画は最初、やはり劇場公開にこだわったのです。コロナ禍でも劇場公開に踏み込んだのですが、なかなかうまくいかずに興行収入をあまり稼げなかった。そして、ようやく12月16日にOTT配信をしたのです。

 私も実は昨夜、OTTで買って観てみました。非常に謎めいた内容ですが、なかなか良い作品でした。新型コロナの大流行の中で、今どんどんOTTの公開は前倒しされています。さらに将来コロナが終わっても、この流れは終わらないのではないかと私は思っています。

   それでぜひ、鈴木さんから順でお二方に大所高所から、このリモート化はどこまで世の中を変えていくのかをお話いただきたいです。どうぞ、鈴木さん。

生活様式の変化で露呈した「使えるのに使わなかった技術」


   鈴木ありがとうございます。それでは、新型コロナについて身近なところから振り返ってみたいと思います。

 今回「2020年コロナ感染症と日常生活」としてまとめています。左の図で1から順に、こうしてコロナ感染症を防御しましょうという項目です。例えば、「オンライン帰省」や「マスク」はもちろん、「在宅勤務」など10点の指摘がありました。

   そのうち〇がついている7カ所は、ほとんど IT 活用なのです。それで、あっと気がつきました。今回の主な変化は何だったかと身近なことから考えると、「リモートワーク」がありました。

   あと「ネット通販・宅配」、特に「キャッシュレス」が実は非常に進んできた。現金で受け渡ししないようにするためのキャッシュレスです。これは、日本は非常に遅れていた現象です。中国がものすごく進んでいますが、こういう変化がある。

   あとは、「巣ごもり生活・娯楽」です。テレビには釘付けになったのですが、はっと気がついた時に今、周先生からもありました Netflixのようなネット配信の需要が隠れたところで急速に高まってしまった。

   テレビは番組が決まって番組欄、あるいは毎日の放送で観ていく。あとで武田さんのほうから出てくると思いますが、毎週の放送で定時にドラマを観ている。このパターンでした。

   しかし1日家にいるため、自分の観たい時に観る需要へと変わり、急に膨らんできた。連続ドラマは一つ観ると、次から次へ観てしまうものです。高齢者が夜中の2時から昼の3時までかけて、ずっと観る状況も現れてきた。このように視聴の形態が変わったことも、隠れたところで高まってきた。

   そうして、リモートの生活がスタイルとして定着してきました。今までも、できなかったわけではないのです。やらなかったのです。コロナという針がピッと出てきた瞬間に行動様式が変わり、それが繰り返し体に染み渡ってきた。それが周先生の言うように、これから先続くのかなと思います。

   簡単に、どんな例があったのか追ってみます。大学も会社もそうですが、会議は Web 会議になりました。これは技術的に、非常に複雑な組み合わせではありますが、一人で毎日家にいながら会議に出るのは技術的にはできたのです。でもやらなかった。これが、いきなり花開いた。

   他の例を見てみますと「ヘルスケア」です。リモート遠隔診療のようなスタイルも、実は始まった。

   あるいはニュースでよく出てきますが、どこで人が密になっているのかもデータはたくさんあったのですが、これまで人が集まるか集まらないかを見ても仕方ないとあまり注目されなかった。しかし、自分の命に関わることになった瞬間、突然ニュースで採用された。

   あるいは「物流、流通、通販」です。いかに合理的にやっていくか。手の伝票ではやっていられないと、これも進みました。

   まだ日本では駄目で中国では進んでいるのが、流通です。無人ロボット、あるいは無人流通。具体的には、百度(Baidu)も現実的にやっていますが、病院に自動的に配送することも進んでいます。

   また、違うかたちの例もあります。イギリスでは自分で失業保険を申請しなければいけないのに、なかなか手続きの申請に行くのが難しい。そのため、全部ITを駆使してスマホで対応する動きが急速に増えています。これも今までもできたのですが、やる人はあまりいなかった。

   日本も政府と国民との間をオンライン化し、「デジタル・ガバメント」をやろうと今の内閣も進めていらっしゃいます。これも一気に需要が盛り上がってくることになります。

   いずれにしても、IoTは非常に進んできていると思います。このキーは皆さんあまり言わないですが、「デジタル化って何?」ということです。

   わざと皆さんもご存知のところにペーパーを入れたのですが、単に情報をデジタルにする、集めやすくするということではありません。あるいは、作業が効率化してコストが安くなることでもありません。「跨いでいく」ということです。

   ちょっと変な話ですが、こういうご時世ですから「葬儀の時にどうするのだろう?お通夜は?お葬式は?」と悩んでも、今はほとんど斎場に行って、そのまま家に帰ってくるそうです。葬儀屋さんの仕事がなくなった、お通夜やお葬式の手配がいらなくなった。しかしそれができなくなることで、デジタルでやることとの間のプロセスを縮めていくことができます。

   さらに簡単に言えば、衣服を身につけて毎日会社に通いませんからクリーニングの需要も減ります。電車の需要もそうかもしれません。近所のクリーニング屋で聞いていると、「洗濯物が少なくなりました。皆さん家にいますから」というように、プロセスが縮まることがどんどん起きてきた。

   今までのデジタルという情報を分解することにより、目に見えることでプロセスがものすごく進む。手数が減り、リモートもできる。そうなってきたと思います。

   「Before Corona」として、「デジタル技術があります。デジタル基盤で5Gが出ます。安くなって大容量で、テレビも4K、8Kが観られるようになります」、こうしたところは今まで見ていました。

   しかし技術の変遷ではなく、それぞれ個人や産業、あるいは社会、生活の仕方自体が変わっていくところに具体的に行ってしまった。

   便利になった世界ではなく、生活様式そのものが変わることが技術的に担保される。そうしたものがコロナで急速に、社会に変化を促すことになっていくと思います。

   ありがとうございます。コロナで生活様式が変わったことで、我々の変化は今まで技術はあってもやれなかったのが、社会の惰性をある程度乗り越えて一気に進んだ感じもある。そうしたことをおっしゃいました。ありがとうございます。

   鈴木ちょっとすみません、もう1点だけ。後の話に繋がるので申し上げておきたいです。

 この図は、リモートのWeb会議の構成図を描いたものです。自分たちが見えている世界とは別の世界があります。実際に見えているのは、右下のスマホやPCだと思います。

   皆さんもご存知のZoomの会議などがあります。これはクラウドの中に全部データが収容されていく、このバックボーンがないとできなかった。つまり Wi-Fiです。

   日本が東京オリンピックをやろうとリオで立候補する時、「日本ほどWi-Fiが遅れていたらオリンピックなんか招致できないぞ」という背景がありました。掛け声をかけられてようやく5、6年経って、Wi-Fiが出来上がったのです。そしてWi-Fiが出来上がった時にコロナになったことで、Wi-Fiを使ってWeb会議ができるようになった。

   何を申し上げたいかというと、技術的条件が揃っているものは皆さんも知らないところでたくさん進んでいるのです。スマホは通信のバックヤードがものすごく大きくなりました。進んでいるのですが使わなかった。それがコロナによって、一気に使えるようになってきた。

   気合いだけでやろうとすると政府の支給援助金の話ではないですが、スピードが上がらないのです。上げろと言っても上がらない。でも仕掛けも出来上がっているところに、今回のコロナ問題があったことが後に繋がると思います。そこだけ頭に留めていただければと思います。

   はい。武田さん、どうぞ。

視聴者は飽くなき利便性を求めていく


   武田冒頭に周先生より、中国・アメリカを中心に「コンテンツの公開の流れが急変した」というお話がありました。日本では4月の緊急事態宣言の期間中は、映画館はお休みでした。撮影もできないため次の作品の公開日がどんどん遅れ、1カ月、2カ月と過ぎました。

   その後、映画館が再開されてからは「三密」を避ける状況で続きました。そしてご存知のように、話題の『鬼滅の刃』が公開されたとたん、映画館が満員になる状況が日本では続いています。

 確かにパンデミックで三密を避ける映画館の状況がありましたが、OTT の話はパンデミック以前からずっと続いていたわけです。映画の流れも周先生からご紹介がありましたが、従来型のパターンではなく、映画館公開と同時にOTT配信という時代に来ていることは間違いない。パンデミックが加速させたことも事実だと思います。

   今、欧米で新型コロナウイルスの感染が激しいことで、またロックダウンになっているところが増えている。ロックダウンの時は間違いなくOTTしかないわけです。

   来年もそうした状況が続くであろうことから、映画の大作がOTT配信でスタートすると思います。日本的な事情もいろいろありますが、この流れは続いていくだろうと思っています。

   実はデジタル化については、日本の放送においても古い話であります。地上波放送のアナログからデジタル化が始まったのは、東京や大阪、名古屋は2003年です。2011年には日本全国のテレビはすべてデジタル化しました。

   この時のデジタル化において、我々放送人、あるいはその周辺の人たちの受け止め方に大きな問題があった。これは今や、デジタル庁のデジタル改革担当大臣である平井卓也さんもおっしゃっているそうです。

   我々放送人にとって、デジタル化は莫大な投資を伴うものであり、非常にネガティブな印象です。デジタルの「デ」を聴くだけで体がビクッと硬直するような、そういうことが続いた。デジタル化したら何ができるのか、どうコンテンツの流通が変わるのか。そこまで想いが至らなかった。

   その間にアメリカやヨーロッパ、中国でどんどん進んでいく状況でした。OTTの話もずっと以前から我々も議論はしています。しかし、議論している間にアメリカの巨大資本がどんどんOTTを実現し、日本にも来る。こういう状況が今ではないかと思います。

   ですので、コロナで加速するデジタル化、コンテンツ産業でいえばOTT化の流れは止まらない。ただ、その速度や放送は各国での事情が全く違います。それぞれの事情の中で進んでいくだろうと思います。

   私は何年も前から「3つのanyの流れ」と言ってきました。「any time」「any where」「any device」。やはり視聴者、利用者は飽くなき利便性を求めていく。それに応えられない企業、産業は衰退していく。

   まさにテレビとOTTを比較して、OTTは自分の好きな時間に、自分の好きなものを、自分の好きなところで観られる。こういう時代に向かっていくのは必然だと思います。

 周ありがとうございます。OTTの流れが留まらない。さらに進んでいくのではないかということです。そこで、OTT の成り立ちを皆さんと一緒に整理していきたいと思います。

特別SESSION討論の様子(左から周牧之氏、鈴木正俊氏、武田信二氏)

 OTTとは、まずプラットフォームを提供する業者、コンテンツを提供する業者、さらに我々オーディエンス。この3つの尺度から見ていかないと絵が見えません。今日はいくつかの事例を取り上げて、お二方と一緒に整理していきたいと思います。

   まず、プラットフォームの事例をいくつか取り上げます。今 Netflix は先頭を走っています。実際にNetflixを調べてみると、非常に DX の成功事例として見えてくるのです。

 Netflixは、昔はレンタル会社でした。2002年にナスダックに上場し、しばらく株価が低迷していたのです。ようやく2007年に配信事業を開始しましたが、それでも株価が上がらなかった。

   本格的に株価を上昇傾向に持っていったのは2013年です。『ハウス・オブ・カード』という、アメリカで非常に人気を得たテレビドラマシリーズを自社で制作して流すことで、成功が定着し始めた。

   このコロナ禍で会員数はものすごく伸び、株価も伸びました。OTTの世界をリードする存在になってきたのです。

   もう一つの事例は「AT&T」です。AT&Tは、鈴木さんのNTTグループに近い巨大な通信会社です。今年はNTTが4兆円を投資し、ドコモを完全子会社にしたことが非常に話題を呼びました。AT&Tも2018年に854億ドル、ざっと9兆円規模の資金を投入して「Time Warner」というメディアのコングロマリットを傘下に置いたのです。つまり、横の展開をしたわけです。

 さらに今年は、この傘下の「HBO」というケーブルテレビの放送局をベースに、「HBO Max」というOTT事業を立ち上げました。HBOは、おそらく皆さんご存知の『ゲーム・オブ・スローンズ』という世界的大ブームを起こしたテレビドラマ番組を作った会社です。そのHBOがコンテンツをベースにして、OTT事業を展開したのです。

   私は業界人をインタビューして、話を伺いました。最初に彼らが疑問視していたのは、「なぜHBO Maxがこんなに高い料金の設定をしているのか」ということです。要するに、このOTTのプラットフォームの料金は若干高い。

   実際、12月にWarnerが2021年公開の映画を劇場と同時に全部、このHBO Maxで配信するというニュースを聴いて、私はなるほどと思いました。やはりすごいコンテンツを流そうとするから強気に出たわけです。

   このようにコンテンツを直接OTTで配信するのは、「DTC(Direct to Customer)」という事業モデルです。ですから私から見ると、AT&Tがまず傘下にコンテンツメーカーを置き、さらにコンテンツをどんどんOTTで配信する戦略に出たのではないかと思います。

   続いて、Disneyです。「Disney+(ディズニープラス)」は、ちょうど1年前の2019年11月にサービスを開始しました。これは驚異的に有料会員数を伸ばしています。

 2020年12月には1年で8,000万人以上の有料会員数をすでに獲得しています。これもある意味では、コンテンツやIPが効いています。

   皆さんもご存知のように、ミッキーマウスが1928年に公開されました。実はミッキーマウスの著作権を保護するために、アメリカはずっと著作権法の保護期間を延ばしてきたわけです。ミッキーマウスの著作権が切れそうな時にまた延ばしてきた。

   そのためアメリカの著作権法は「ミッキーマウス法」と揶揄されているくらい、ある意味ではアメリカにとって非常に大事なIPだったのです。この IP はDisneyが持っています。

   さらにDisneyは今、「ピクサー」や「マーベル」、『スター・ウォーズ』など、非常に強力な IP を持っています。これらのIPをベースにして、OTTでDTCをやろうというように見えてくるのです。

   ですから『ムーラン』が2億ドルをかけて作ったものをコロナ禍でOTTで流すのは仕方ないかもしれない。しかし、結果的に戦略的に成功したのではないかとも受け止められると思います。

   武田いいですか、周先生。私も昔からNTTさんが TBS を買収したらどうなるのか。これは資本力から言って無理な話ではないのです。

   制度的にさまざまな制約はありますが、実際に NTT さんの傘下だったドコモさんは、いろんなコンテンツを扱う企業を買収していました。もしも放送局の買収に乗り出せば、こういう話が日本でも起きたかもしれない。そういう恐怖は常にもっていました。

   実は、私がここでAT&Tの事例を出したのは、この質問をしたかったのです。どうぞ、まず鈴木さん。

設備面から検証する「放送・通信・インターネット」


   鈴木放送には「放送法」という立派な法律があり、その中で制限されている。通信は「通信事業法」という法律の中で制限されている。その縦の世界です。

   そこにインターネットが現れた。インターネットは何でもありです。設備は通信会社の設備を使いながら、経路を自由に組み合わせて一つのプラットフォームをつくっていく。つまり、放送の世界は「閉じて」いたわけです。

   これはアメリカの例ですが、どのように放送会社が出てきたのか。最初は地上波が戦後からずっとあり、ケーブルテレビが出てきた。これは1980年代。それから衛星が登場して、衛星放送。それから通信会社がようやく2000年代になってから映像サービスを一緒にやり始めた。電話で「もしもし、はいはい」という時代はもう終わり。

   こうして、はっと気がついたらOTTが進んだ。インターネットが広がるに従って、インターネットベースのさまざまな会社が出てきた。

   OTTがなぜできるようになったのか。これは、収入という一つの側面があります。広告型でできるものは、放送で今やっています。

   ところが、その都度お金を払う都度課金や、あるいは今流行りのサブスクリプションといった定額で見放題。この回収モデルは成立するのかどうか、なかなか頭がいかない。やはり広告モデルは駄目になってしまうのではと懸念があったかもしれません。あるいはコンテンツを活かす時に費用をどう回収するのか、そこでいくら利益を出すか。

   このビジネスモデルに十分、本業との間でうまくクロスできなかったのが放送の一つの大きな転換点だったと思います。

   そうして重なってきたわけですが、放送も進んでいます。デジタル放送が始まったのは2011年と書いてありますが、先ほど武田さんの話ですと2003年から始まった。

   これは世界に冠たる成功例なのです。放送会社から家庭まで、いきなり設備が従来のVHF、UHFなどのアナログから急にデジタルに転換したわけです。

   このデジタル転換した時に、なぜ他のモデルを考えなかったのか。技術はあったわけです。画面で放送会社の番組を映すテレビが、テレビという単なる画面にインターネットを通じて映ればいいとジャンプすれば、この領域を越えられた。やはり放送波の範囲内で考えたことで、インターネットのところに手が伸びなかった。

   通信会社も、インターネットをどう見ていたかで言えば「ただ乗り論」です。通信の人が作っている設備の上に乗っかって、インターネットを使ってタダで流している。

   確かに高速道路は道路料金を払い、鉄道は鉄道料金を払っている。しかし、道路に料金を払っていないのと同じです。道路を作っているのはプライベートカンパニーだから「通行料を払ったら?」と言っても「通行料は払わない」ということです。

   これはもう、コンテンツで儲ける方向にビジネスが行っている。どちらかというと競争相手や敵対のように見ている。自分の延長線に組み込めるとは思っていなかったのもあるでしょう。

   放送の歴史も深いので今日はあまりお話しませんが、そのミッションからすると重いものが正直あります。本当に経営ができるかどうかの部分になかなか想いが至らなかったことが、一つの要因だと思います。

   その意味では、今インターネットがここまで進むと、いくらでも可能性が出てくると思います。先ほどの周先生のお話で、AT&TがTime Warnerを買ったことも挙げられました。アメリカの状態を見ていると資本の出し合いです。業界の境が溶けていっている。これは収入の取り方が変わった瞬間、何でもありの状況になっていきます。

   そしてメディアにおいて、放送は一方的に流していくのが基本です。多少の双方向はありますが、基本は放送局が編成していく。

   しかしNetflixをはじめOTTの発想は、選択権がユーザーの方にきます。この番組をまとめて観たい、あるいは見逃し配信もそうかもしれません。放送局よりユーザーの方にシフトしている。番組を組み合わせる事によって、連続ドラマを一つの物語で見通すことができる。そうした新しい編成をユーザーがやってしまう世界に入ったのです。

   そして最後のプラットフォームを誰が持つのか?という競争合戦に今入っている。さまざまな画面があるため、お互いにコンテンツ自体を売り買いしたり、あるいは放送で流したり、OTTを放送会社自ら行うこともあります。

   アメリカではこの辺も二足のわらじで、内容次第です。ユーザーである視聴者の方も、興味に沿って利用している。M&Aはまだ終わらない感じになっていると思います。

鈴木正俊 ミライト・ホールディングス取締役相談役、NTTドコモ元代表取締役副社長

日本でOTTプラットフォームを成功させる条件とは?


   終わらないよりは、私から見ると今のM&Aの流れは始まったばかりではないかと思います。AT&Tは非常に巨大な会社ですが、鈴木さんの会社はこれよりもっと巨大でした。

   皆さん、30年前を思い出してください。平成の始まりの30年前、世界の企業の時価総額トップはNTTだったのです。ですから一番、お金を持っていた会社です。これがまず、第一です。

   第二は、今まで皆さんは、たぶんお金を持っていたもののビジネスが本当に成り立つかどうかを疑問視していたかもしれません。しかしOTTがうまくいき、その方向でいかなければという動きになるとしたら、日本のOTTをNTTも責任を持ってやらなければいけない時代が来るかもしれない。

   そうした想いがどこか、この勉強をしている中で出てきています。ですので、武田さんからそういう話が出たのは私も大賛成です。

   日本でOTT事業を展開している会社はたくさんあります。ないわけではなく、実はたくさんあります。例えば「music.jp」というプラットフォームは、音楽も動画もコミックも、全部サービスとして提供できています。

 もう一つの事業者は「ビデオマーケット」です。ここは25万本の権利はすでに処理済みで、OTTにのせることができるように今なっています。コンテンツホルダーのDTCを支えるバックヤードもきちんとできて提携しています。「Gyao(ギャオ)」を始めとする多くのOTT業者の業務を支える仕事もしっかりできているのです。

   しかもこの二つの会社が今、かなり緊密に連携し始めています。私から見ると今後の展開が非常に面白いし、期待しています。

   そこで、今日のためにビデオマーケットの社長の小野寺さんにインタビューしたのです。「日本のOTTプラットフォームを成功させる一番大事な条件は何か?」と聞いてみました。答えは結構厳しいものになりました。

   小野寺さんは、「配信業界の土地勘があり、グローバル的にコミュニケーションができる人材がトップダウンで進めて動かないといけない」と言います。

   そして、もう一つ厳しい言葉が続き、「従来のTV的な成功体験をすべて捨てられる人でないと駄目だ」とまで言い切っておられます。

   それを含めて鈴木さん、続けてください。

プラットフォームの技術的条件の充実


   鈴木それはおっしゃる通りだという気がします。私も同感です。実は、現実で今、条件が非常に整ってきたのです。

   例えば2000年代初めは、なかなかデジタル放送まで切り替わっていない。それが2011年から去年までの10年間で、デジタル放送が出てきて、急にスマホが出てきた。タブレットが出てきた。そこに Wi-Fi がようやく、オリンピックを迎えることでつくられた。

   光ファイバーもできましたが、まだ5Gもこれから。この5年間、ないしはこれからの5年間かもしれません。

   そのビジネスモデルを組み立てるための後ろの整備といいますか、材料、ネットワーク、あるいはプラットフォームの技術的条件がどんどん充実してきているのです。

   NTTドコモがNTT から分離する時、自動車電話の台数は15万台でした。今、携帯電話はドコモだけで8,000万台。日本全体だと1億8,000万台になります。そういう時代に入り、昔と今では条件が違ってくるのです。

   今のデジタル放送、画面も4K、8Kになって、このビジネスの展開の仕方は非常に大きいです。その時にNTTが配信でビジネスを組み立てていくようになりましたが、実はもっと広がるビジネスがたくさんあるところに条件が差し掛かってきている。そういう時代に今入っていることだけは、ここで見ていただきたいです。

   周先生のおっしゃるご指摘ももっともです。映像配信だけでなく、プラットフォームのお客さん側にあるスマホやテレビ、タブレットなどと、その背後のネットワークや4K、8Kといった技術がこれからどう華咲くのか。本当に映像配信だけでいくのか、もっと飛んでいくのか?

   そうしたところが、これからが一番面白い時代に入っていくのではないかと思います。その時の配信は、指摘の通り重要なところだと思います。

   はい、武田さんどうぞ。

日本の放送局による動画配信サービス


   武田周先生と鈴木さんのお話を聞いていて本当に私、へこむわけです(笑)。ビデオマーケット社長の小野寺さんのお話ですが、「武田は駄目だ」と言っているようなお言葉です。NTTのこれからの潜在的脅威は続くという2つの点で、大変へこむ話でございました。

   成功体験を捨てて、さらなる成功体験を手にする武田さんの精神力に期待しています(笑)。

   武田周先生のお話にあったNetflixとDisney+の最近の動きは、私たちも大変気にしているところです。コロナ禍の日本において、 Netflix は1年前に有料会員数が300万人だったのが一挙に500万人まで伸ばす動きがありました。

   そこにDisney+が去年11月にアメリカで展開を始め、初日に獲得した有料会員数が1,000万人。あれは驚きました。そして今、もう8,000万人。Netflixを窮迫している状況です。

   今までDisneyのコンテンツは、 Netflix にも出していました。契約が切れるたびにそこはもう閉じて、当然自分たちのプラットフォームでやる。

   Netflix も成功しているがゆえに、この闘いの舞台をアメリカよりむしろアジアにシフトしていった。コロナ禍でも話題になった『愛の不時着』のようなドラマを作って、アジアで大変伸ばしている状況です。

   我々、放送局も手をこまねいているわけではありませんが、さまざまな動画配信サービスを始めています。例えば「TVer(ティーバー)」は、東京にある民放キー局を中心に、奇しくも Netflix が日本に上陸した2015年秋から同時期に始めています。

   これはテレビ放送をした直後から見逃し配信して、一週間無料で観られるというサービスです。このアプリダウンロード数は、今1,300万ぐらいになっています。しかし、無料の世界では YouTube に比べると微々たるものという見方もできる。

   有料型では、「Paravi(パラビ)」、「Hulu(フールー)」。Huluはアメリカの本体が日本に渡り、日本では成功せず撤退する時に日本テレビが買った動画配信サービスです。

   Paraviは、 我々TBSとテレビ東京、WOWOWが中心になって始めた有料配信サービスです。そして外資系の Netflix、Amazonプライムビデオ 、DAZN(ダゾーン)、そして来年から本格的にDisney。

   巨大な資本、巨大なコンテンツを持っていているところが来る。今これだけのプレイヤーが日本にいるわけですが、これが何年も続くとは我々も思っていません。

   これからいろんな合従連衡もあるだろうし、さらにはNTTさんのような方々も参入して糾合していくことも、ないわけではないと考えています。

   非常に面白い時代になってきましたよね。

   武田周辺で見ている方は面白いでしょうけど、当事者は大変苦労しております(笑)。

武田信二 TBSホールディングス取締役会長

テレビの黄金時代は取り戻せるか?


   楽しみにしています。テレビ局は実は両面を持っています。放送の業者と同時に、コンテンツメーカーでもあるのです。それでコンテンツの話に移っていきたいです。

   武田会長の TBS は今年、『半沢直樹』の第2作を出しました。これは大変な人気を獲得しました。実は我が家も久しぶりに毎週日曜日の決まった時間に子どもたちが帰ってきて、みんな一緒にこの『半沢直樹』を観て楽しんでいたのです。ある意味ではテレビの黄金時代の風景が戻ったように私は錯覚するぐらいでした。

   問題は、この非常に懐かしい栄光のテレビの時代はこれで取り戻せるかどうか。実はそれを疑問視しており、武田会長に聞きたいです。

   2番目に聞きたいのは、調べてみると『半沢直樹』第1作と第2作の間に、7年間も間が空いているのです。これは非常に不可解だったのです。ビジネスチャンスは本来、こんなに空きがあって良いのか。あわせて聞きたいです。

   3点目に聞きたいのは、この『半沢直樹』のシリーズは、やはりテレビ的な作り方なのです。50話一気に観るものではない。しかも OTT の公開は第1作もしていないですよね?少なくとも私が最近調べた中では。 

 武田Paraviで今、第1弾も第2弾も全部独占で観られます。

   そうですか、独占で? あともう一つ不思議なのは、『半沢直樹』は中国のTencent(テンセント)のOTTにのせていますよね?うちは真面目にレンタル屋さんに行って DVD を借りてきて観ましたが。

   武田ありがとうございます。

   この話を武田さんがしやすいように、もう少し別の事例も出してみます。先ほど武田会長から『鬼滅の刃』の話が出ました。2カ月未満で300億円の興行収入を得たのは史上最速と言われています。

   なぜこれほど人気が出たのか調べてみると、実はけっこうOTTを中心にアニメを放映したのです。しかも日本のほとんどのOTTプラットフォームで流したのは、人気を高めた一つ重要な戦略だったのではないかと思います。

   さらに、先ほど武田さんもお話されました『愛の不時着』も調べてみました。これも、まさしく OTT にのせるために作った作品です。Netflixにのせてアジアで大人気になり、日本でも大人気になりました。Netflix がローカル的なコンテンツを発掘し、制作して国際的に流すという戦略を成功させた事例です。

   その意味では日本のコンテンツを作る生態系は、今までテレビや映画を中心に非常にガッチリしたものができている。しかし、これはOTTの衝撃の中でかなり壊れていくのではないかと思います。壊れてまた作り直していく必要があると思います。

   今回、TBSが作った『半沢直樹』は素晴らしいものです。テレビ局のコンテンツメーカーとしての存在を、これからどう更に高めていくのか?それもぜひ聞きたいです。

 『半沢直樹』7年の空白の理由


   武田では、まず『半沢直樹』の話です。第1作目の最終話は、世帯視聴率42.2%。7年空いて最終話が32.7%。この10%の数字の開きは、OTT と深く関係があります。

   我々はそういうコンペティターとともに視聴者、ユーザーの可処分時間をいかに自分のところにとるかの闘いの中におります。その競争がこの7年間で非常に激しくなったと私自身は解釈しています。

   問1の、栄光のテレビ時代を取り戻せるか。もう取り戻せないと周先生は分かっていてこういう質問をするという、なかなか意地の悪いところもあるような感じもしないわけではないのですが(笑)。そういうことであります。

   2番目の、1作目から7年も空いたという話です。そもそも、我々テレビ局のドラマ制作は、その枠の広告収入だけでは作れません。それほど限られた収入と制作費用だという状況です。

   『半沢直樹』第2作は、今年のコロナ禍で放送してそれなりのインパクトはありました。しかし、おそらく日本のテレビ局が作っているドラマで一番コストをかけていると思います。ですので、必然的に回収はできていないわけです。

   一方で、例えば7年前の第1作でさえ、こういう現象がありました。日曜日の21時に放送し、もう翌日には中国のネットに中国語字幕付きで動画配信されていたのです。

   我々は冒頭に周先生が出してくれた従来の映画の制作方式と同じで、11話が全部終わってからDVDやレンタルに回すには時間がかかるのです。これには著作権の問題や、さまざまな作業があります。

   しかし7年前に中国では、放送が終わった瞬間に違法にアップされた動画がまとめられてDVDで売っていたのです。日本の知り合いの商社マンがDVDを持ってきて、「武田さん、もう売っているよ。すごいね、早いね!」と言われましたが、「それ、違法動画だよ」ということがありました。

   日本では商慣習や権利問題があり、順々にやっていくことがずっと続いていました。しかし、それはもう壊されていたのです。その制度や慣習がある中で、7年間経ったからと我々も今年は終わったらすぐDVDにしようという発想にはならない。すぐ配信しよう、とはならない。

   第2作の今年は途中から、やっとParaviで配信を始めたのです。これは我々もネット上でも、賛否両論がありました。しかし、じらしてからアップすると、ドーンといくのです。そうして、またテレビの視聴に変える。ある種のトライアルをやったのです。

   今も7年前の作品も含めてParaviに置いてあります。ぜひ1000円弱なので、Paraviに入って皆さん観ていただくとありがたい。今日は大変有意義でした、とここで終わっちゃいけないのですが(笑)。

   OTTで『半沢直樹』を観られる場所が皆さん分かりましたね。ありがとうございました。

周牧之 東京経済大学経済学部教授

Netflixの日本での戦略


   武田あと、Netflixの 『愛の不時着』の話です。この戦略は先ほど言いましたように、Disney+(ディズニープラス)との競争が北米では大変激しくなっていることもあり、世界戦略を徐々に変えています。

   この『愛の不時着』の着眼点は、韓国の制作スタジオ「スタジオドラゴン」です。ここで制作されています。韓国はコンテンツ産業を国が支援するぐらい大変盛んなところで、その制作スタジオとして非常に優秀なことを認識しました。

   また、作った瞬間に多言語化して配信し、成功することを今Netflixはアジアで展開しています。なおかつ、もっとこの動きを強化するであろうと思います。

   では、日本ではどうか。やはりNetflixは『鬼滅の刃』のように、アニメの制作も含めた拠点は日本であると見ていると思うのです。

   Netflixはいくつかのアニメ制作会社と包括提携を結んでいます。5年間の契約をしてある種、アニメ制作会社の囲い込み、あるいは作家さんの囲い込みに入ってきている。

   ただ、日本においてアニメは出版社の存在も大きいです。『鬼滅の刃』は集英社ですが、講談社など作家さんとの関係も大変深い。新しい作家さんを発掘するノウハウやネットワークも大変優れているものを持っています。

   ですので、そう簡単にすべてを Netflix が囲い込めるとは思いませんが、日本においてはアニメ制作の拠点という位置づけではないかと見ています。

   もし、OTTの業者が TBS に「OTT的にドラマを作ってください」とオファーがあった場合は引き受けますか?

   武田もうすでに Amazon プライムや Netflix から「良い企画があったら提案してほしい」というオファーはあります。Amazon プライムでは TBS の関連会社が3、4年前に作りました。これは今 Amazon プライム上ではアップされています。

   しかし、それなりの制作費を頂いてやらせてもらいましたが、権利関係は一切ないのです。Amazon プライムがグローバルに配信した結果を知ることができない。

   つまり、どういう国でどういう層の方々が観ているのかといったデータを要求しても、「あなたたちは一制作会社で契約上お金も払ったから、関係のない話だ」と、こういうことなのです。

   やはり、下請けとしては我慢できない条件に今なっているということですね。

   武田そういうことです。

   鈴木さん、どうぞ。

制作と配信の“二足のわらじ”


   鈴木その意味では、一点だけ補足しておきます。「制作と配信」というところですが、今まではかなり独立していたわけです。今のM&A合戦やプラットフォーマーの囲い込みは境がなくなりました。

   たまたま先週、ソニーがクランチロールを買ったという話題がありました。コンテンツ制作をするソニーが、動画の配信プラットフォームの方を買収にいく。これはもうアメリカではどんどん起こっています。

   その意味でいくと、一つは制作と配信。右側が配信で左側が制作。上が無料番組、下が有料版の座標軸で見ていきます。これだけバラけていますが、制作と配信の間がすでに行き来してしまっている。二足のわらじと言いますか、つなぎ合い、せめぎ合いのところに今度は入ってきている。

   今の武田さんのお話の、いわゆる下請けコンテンツ制作会社が配信をして、ビジネスを次に生んでいくかという闘い。これは、やや境目のない状態に突入してきていることだけはご説明しておきたいと思います。

YouTubeがコンテンツ制作に与える影響とは?


   どんどん話が面白くなってきました。もう少し深く話を持っていきたいと思います。

   次は YouTube の話を取り上げて議論して参りたいと思います。なぜYouTube を取り上げるのかと言うと、テレビ局とビジネスモデルが近いところがあるからです。要するに広告をとるのです。

   このグラフは、広告費について示しています。2017、18、19年の3年間で、テレビの広告費はやはりジワジワと削られてきた状況です。インターネットの方は、2桁の成長を実現しています。

   その結果、広告費はついに去年インターネットの方が地上波テレビを越えてしまった。インターネットの広告の中で見てみると、YouTube は2割くらいを占めています。

   この YouTube をもう少し詳しく見ていきます。YouTube も含めて、今テレビとインターネットの時間の消費では、十代、二十代、三十代はテレビよりもネットで時間を消費するほうが多いです。

   さらに今のコロナ禍で、皆さんはけっこうメディアを見る時間が増えてきています。平均では1日当たり0.6時間増えています。テレビは0.2時間伸びています。

 これはテレビ局の武田会長にとっては、非常に喜ぶべき状況です。ただし動画配信サービスの方がさらに倍の、0.4時間も伸びているのです。

   YouTube がエンタメの集積だけではなく、今や「知の集積」もかなり堆積しています。しかもアップロードしてくる量が非常に莫大です。去年1年間で、日本では時間的に換算すると80%もの量がアップしています。

   もう一つはテレビと違い、 YouTube のビジネスモデルはファンビジネスの色彩がより強いです。日本では今、100万人以上の登録者数のチャンネルがなんと240もある。これは凄まじいです。

   その意味でも、今 YouTube が広告をどんどん世界的に取っており、3年間で86%の成長を実現しています。

 それで、先ほど武田会長の話で出たTVer(ティーバー)と YouTube を比べてみると、浸透度はまだまだ太刀打ちできていない状況です。私から見ると、YouTube はコンテンツ制作の生態そのものをけっこう刺激する存在になってきました。

   それも含めて、将来コンテンツ制作の生態をどう育て、そして若いクリエイターを育てていくべきか?ぜひ、武田会長のお考えを伺いたいです。

テレビの制作力を活かしてサポートも


   武田昨年、日本でインターネット広告がテレビ広告を抜く。これは欧米ではすでに抜かれていたので、いつかは日本も訪れるものでした。それが2019年だったということです。その直後に新型コロナとなり、我々も広告が減少する意味で大変苦しい立場に今いるわけであります。

   先ほどを周先生が紹介してくださった、コロナ禍ではテレビ視聴時間も伸びているということですが、日本では一時だけでした。緊急事態宣言の時はテレビもネットも両方とも伸びている。

   ただ、日本においてコロナ禍が少し終息してきた時には、テレビは戻る。しかし、ネットは戻らないで伸びたまま。こういう状況が続いています。

   今の状況は、この後またどうなるか。この年末年始はどうなのか。そうした目先の話はありますが、本質的な話は周先生の質問である、コンテンツ制作にどう影響を与えるか。これは、もうすでに影響が出ていると見るべきだと思っています。

   芸人さんもYouTuberになって大変な年収を得ている方が出ています。子どもたちも YouTuber になりたいと、将来なりたい職業の上位に YouTuber が来ている。この子たちは小中学生ですから、大人になった時はもっと進んでいるのだろうと思います。

   その周辺にいる若いクリエイターたちも、テレビでドラマを作る、あるいはバラエティを作るというのも一つの選択ではある。けれど YouTuber になることが大きな選択肢になっているのだろうと思います。

   我々も YouTuber になりたい芸人さんをサポートしていく、あるいはそのYouTubeチャンネルを作っていく。それなりに観てもらえるものを作るには、やはりそれなりのプロ集団がいないといけないわけです。そこに関わるTBSの人間もおり、そうしたYouTuberの流れも増えていくだろうと見ています。

   確かに YouTube との存在感の比較で言えば、TVer はまだまだです。我々TBSも公式チャンネルを持って、プロモーションでYouTubeを使わせてもらっています。しかし、YouTube上で炎上も含めていろんな話題をとるのは、テレビのコンテンツに基づくケースがまだまだ多いわけです。

   我々テレビはまだ、それほど存在感がないわけではありません。しかし、本当に強いコンペティターが来ている認識で立ち向かわなければいけない。こういう局面だろうと思っています。

   ありがとうございます。鈴木さんも、ひと言お願いします。

 “出口”があれば優秀な人材が育つ


   鈴木もはや YouTube という一つの世界ができている。先ほど大事だなと思ったことがあります。振り返ってみると、昔はテレビという画面、スマホという画面、パソコンという画面、それぞれに境があったのです。

   スマホでは小さいな、あるいは短尺の番組しかできないなとか、テレビだと4K、8Kに画像もきれいになって長い間座って観られる。非常に精神的ストレスがない。

   逆に言うと、観るという“出口”の問題かなと思います。YouTubeはどちらかと言うとスマホやインターネット系で観る。やはり長い時間、あるいは芸術的作品は難しいな、あるいは素人の動画投稿になるので玉石混交でたくさんありすぎて難しいなど、逆の面も出てきます。

   その時にやはりデジタルでどんどん間が繋がってしまうので、いかに今までのテレビの制作力を活かしていくかです。

   プラットフォームだけを放送局が持っているから、それで全部囲い込んでいくのは無理な時代になってきた。やはり制作力のある人たちをどう育てていくか。出口があれば優秀な人が育つ。YouTube ができたことで、優秀な方が育つ余地が大きくなったわけです。

   逆に言うと、そこで育った人間を今度はテレビの制作でスカウトしてきて、いいコンテンツを作る循環を整えていくこともできる。やはり枠の中で考える意味では、もう時代は変わってきてしまった。

   この YouTube の背景となる人材をいかにうまくオペレーション、マネージしていくことで、テレビの制作力も互いに価値が高められるところに入ってきていると思います。

   ですので、敵か味方かではもう世の中なくなってしまっている。そこが今、一つのチャンスの時代かなと YouTube を捉えています。

日本のメディア企業はOTTをどう構築すべきか?


   おっしゃる通りですね。しかも仕掛け人は、やはり鈴木さんのような通信会社です。5Gになってくると YouTube の画質がもっと良くなり、もっと出口が増えてくるのは明白です。ですから一番、通信料をとるのは鈴木さんのところじゃないですか(笑)。

   それは冗談で、次に話をもっていきたいと思います。メディア企業の話をもう少し深く議論して参りたいです。

   これは今の鈴木さんの話に繋がります。テレビは今まで電波を受信するデバイスでした。しかし今年6月の調査では、日本のテレビの半分以上が実は同時にインターネットにも接続しているのです。

   ですから、テレビがインターネットも電波も両方受信するデバイスに今なっている。これはおそらく、次の議論の前提条件になります。

   そこで、いくつかの会社を事例にして検証していきます。Disneyの急成長、特にDisney+(ディズニープラス)の急成長のベースは「IP」というのは先ほど紹介しました。実は12月10日のDisneyの発表は、もっと野心的です。

 年間100本以上の新作のコンテンツを提供するのは、非常に驚異的です。かつDisneyの3つのOTTプラットフォームは12月までに1.4億人近くの会員数を獲得していましたが、2024年までにはなんと、2.3億から2.6億人を目標にしている。非常に野心的に物事を進めようとしています。

   この野心的に進めている理由は「IP」です。もう一つは、強力な「資本」です。2006年にGoogleがYouTubeを16.5億ドルで買収してから、いくつかの動きを捉えてみました。

   2015年にアリババは、Youku(ヨウク)という中国のプラットフォームを37億ドルで買収したのです。AT&TがTime Warnerを854億ドルで買収したのも2年前の話です。去年はDisneyが21世紀FOXを710億ドルで買収したわけです。

   このように強大な資本を使ってOTTプラットフォームや、プラットフォームにのせるコンテンツメーカーを買収する争奪をする。今、始まったばかりだと私は思っています。次の出番はNTTかもしれないと期待も込めて、この話を進めています。

   もう一つ、よりどころは「言語圏」です。中国の場合は、海外も含めて中国語を使う巨大な人口をベースにOTTサービスを展開しています。

 この図で今の予測としては、2025年までにアジアのOTTのマーケットは、中国勢が東南アジアも含めて65%ぐらい占めると見ています。アメリカ勢に対して、ある程度は拮抗できる状態になっています。

   世界的に見てみると、2025年までには半分以上がアメリカのプラットフォーマーです。4分の1は中国系ですが、残りはその他です。

   キーワードとして、私はやはり「IPの強み」「資本の強み」「言語圏の強み」で見ていくべきだと思っています。

質問は、日本のメディア企業は、日本のOTTをどう構築していくべきなのか?です。先ほどの話の延長線で伺いたいです。武田さん、どうぞ。

圧倒的な資本力の差にどう対抗していくか


    武田資本力の問題、言語の問題。周先生がおっしゃった通りだと思います。例えば日本において、今 Netflix がいくら投資しているのか。公開していないので分かりませんが、Netflixはグローバルで2兆円近いです。

   我々、民間放送局においては、年間の番組制作の調達額は4000億円ぐらい。NHK も入れて8000億円ぐらいです。

   ですので、その倍以上のお金を持って Netflix は世界からコンテンツを制作、あるいは調達している。この資本力の圧倒的な差、これは如何ともし難い。

   先ほど鈴木さんのお話にも出ましたが、ソニーグループも一つ注目していかなければいけないだろうと思います。そういう日本企業も含めて、どう資本力的に対抗していくかが一つだと思います。

   もう一つは言語の問題で言うと、確かに英語圏、あるいは中国語圏は圧倒的に有利にあるわけです。先ほど紹介したTBSの関連会社が作った時代劇で、天正時代にヨーロッパへ行く『天正遣欧少年使節』の物語を作りました。

   これは全部で20本弱作り、 Amazon プライムに納品しました。納品したものはすぐニューヨークに送り、そこで多言語化する。字幕や吹き替えも短期間でやってしまう。

   この機械化はどんどん進んでいますし、日本語の不利さも多少は薄まっていく可能性はある。しかし、やはり言語圏は如何ともし難い問題としてついて回るだろうと思っています。

   そうした資本力、および言語圏の問題で対抗しながら、日本のプラットフォームは本当にできるのかどうか。周先生も紹介してくださった music.jp など、いくつかあります。我々TBSも、NHKももちろんやっている。

   それらがどう統合して、強いものに対抗できるようになり得るか。こうした動きは出てくる可能性があると思っています。

   鈴木さん、どうぞ。

ビッグ・テックの先行きも注視


   鈴木資本力の話が今出てきましたので紹介します。これはネットから拾ってきたのですが、たまたま日テレやソニーが、0.52兆円、4.3兆円などと出ています。

ところがAppleや Google、 Facebook、Amazon、Microsoftは桁が違うのです。もう50兆円、70兆円という世界です。なかなか資本力で争うことにはならないと思うのです。

   ちなみに今、NTTグループは?

   鈴木今、10兆円ぐらいです。

   2桁ですね、やはりデカい。

   鈴木ところが、この図を見ていただくと分かります。映像配信の話など出ていますが、これらの会社は映像だけを扱っているわけではありません。

   配車アプリをやったり、ドローンや検索エンジン、ネット通販をやったりしています。Facebook もAmazon プライムもそうです。Amazon は元々、物流をやっていながら映像へ入っていった。いわゆる、みんな複合企業なのです。

   映像のところだけ取り出すと何かあるかもしれませんが、複合企業として大きいことになる。どういう競争形態なのか、必ずしも規模だけではないことが一つ。

   また、言語圏の問題は個人でいろいろな見方があるかもしれません。我々もDisneyをはじめ、中国の『三国志』や『赤壁の戦い』、韓流ドラマ、アメリカも西部劇を英語でやりましたが、コンテンツの魅力は必ずしも言語だけに支配されないと思います。

   コンテンツの素晴らしさは国を超えて飛んでいくものがある。私は、言語の境に悲観していないです。

   要はその中身であり、どう物語なり洞察力で良いものを作っていけるかに差があるのだと思います。あえて逆の面から、水を差すようで申し訳ありません。

   今、非常に大きな複合的企業がネット世界に入ってきています。片方では、敢えてGAFAのところは個人情報保護の問題で完全に闘いになってきて、どこに行くか分かりません。

   やはり個人情報保護の考えで分割しなければいけないのか、企業としての活動を抑えなければいけない各国の政府の闘いになってきています。

   あるいはAppleもこれはまずいなと、まず自ら個人情報保護で制限していく。自動的に先ほどの DTC(Direct to customer)に行くような、情報をとるのが一つのデータ資本主義で伸びています。そのデータの扱いそのものが、もう少し落ち着いていかなければなりません。

   今は小さな企業を買い取って芽を摘んでいく。逆にターゲティング広告で個人情報との問題も出てくると同時に、小さな企業を買収して潰していく独禁法の問題などいろいろあります。

   あえて問題は難しくなりますが、この問題が資本力で行くから一気にずっと行くかと言うと、また議論は絡み合っていきます。いろんなユーザーの権利、あるいは社会のあり方。今アメリカで一番このGAFA対、政府の行方が注目されています。ヨーロッパでも同様です。

   まだ始まったばかりのことが落ち着いていくまでは、先行きを展望していくべき状況でもある。このことだけは頭の片方で見ていただきたいなと思います。

5Gがメディアに与える影響とは?


   鈴木さんの今の話に大賛成です。やはりGAFAをはじめとするビッグ・テックの皆さんが、このまま膨張していくとは私も思っていないです。それと関連して鈴木さんに質問したいです。

   我々の時代は、テクノロジーで大きく変えられてきました。今「超スマート社会」と言われています。先ほど触れたGAFAをはじめとするテックのカンパニーがここまで大きくなったのも、こういう時代の中で膨張したこともある。

   同時に、社会もかなり変わってきたことも否定できません。通信技術はさらにこれから進化していきます。

   そこで、一つは「5G」です。本格の5Gの時代はこれからですが、到来することでメディアにどのような影響を与えるか?さらに5Gの時代でリアルと放送とOTTの関係はどうなってくのか?そうしたことも、ぜひ教えていただきたいです。

   さらに、技術は飛躍的に進んでいます。例えばイーロン・マスクというアメリカの企業家がいます。彼の今の事業の中で、「テスラ」という企業が日本では非常に有名なっています。

    しかし彼個人の投資を見てみると、実は一番投資しているのはテスラよりも宇宙関連のビジネスなのです。

 そこで、スペースX という会社は「Starlink(スターリンク)」という構想をぶち上げています。構想ですが調べてみると、もはや現実になりつつある。

   もうすでに1000基近くの衛星を打ち上げています。2000年代の半ばあたりに地球を覆うような高密度の衛星網を構築して、どこへでもインターネットのサービスを提供できるようにする。

   これが実は、それほど遠くない将来の話になります。そこも含めて鈴木さん、少し展望してください。

5Gの価値は技術よりも「何と結びつくか」


   鈴木なるべく手短にお話します。この技術の世界が基本的にどうなるかは、プレイヤーがたくさんいらっしゃるので正直ちょっと分からないです。

   これは少しぼやっとした話だと思われるかもしれませんが、ダボス会議(世界経済フォーラム)です。トランプさんや安倍さんも行かれました。そうした各国首脳や、産業界、金融、大学の先生などいろんな方が集まって毎年開催されます。

   これはもう2000年以降テクノロジーが進んできたらどうなのか?デジタル化の影響でこの社会が変わるのではないか?というので、もの凄いテーマになっています。

   もちろん、先回のセッションでありました「グリーン・リカバリー」の環境問題。これも大きなテーマであり、ずっとやってきた。しかし持続可能な開発をベースに地球を維持していく観点では、この図の左のテクノロジーがどう影響してくるのか。さまざまな産業、各国政府の大テーマです。

   さらにコロナ感染症、パンデミックが始まった。とりあえずリモート化とデジタルのところだけ出てきていますが、どんどん他の産業にも広がっていくでしょう。それが逆に、我々の放送にも影響が出てくる、逆に返ってくる、ということになります。

 図の上の話ですが、とにかくインターネットの登場はものすごく大きかった。これは1980年代半ばですが、その後でスマホです。皆さんはあまり意識されていないかもしれませんが、スマホの能力は1998年当時の IBM の大型コンピュータの4倍ぐらいあるのです。この一個で、です。

   そうして、 iPad の時代です。1990年代の水準でいくと、世界最高速コンピュータが皆さんの手の中にある。消費者の好みやデータ処理量、大型コンピュータの能力を持っているスマホが皆さんのところに一つずつあるわけです。

   まだ世界77億人のうち50~60億台ぐらいかもしれませんが、そこを相手にどんな影響があるのか?というのが周先生のご質問ですね。

   5Gや光通信もそうですが、そうしたインフラは20何年前から着々と進んでいます。「情報スーパーハイウェイ構想」もアメリカであり、日本でもいろいろな構想がありました。

   しかし、それを使いきれていない。使いきれるものがコロナでどうなったかが、実はこのテーマです。

   スマホの存在が、皆さんの知能、知識を強大にしたマーケットであります。それをバックアップするネットワークも出来上がっている。つまり、現実の目の前に見えていることと、サイバー空間の中で処理して結果を出してくるところが、ほとんど一体化しているのです。

   目の前に見えているものとサイバーとで、分けては考えられないです。往復しながら今の現実になります。その意味では、何か調べる時にパッと検索して行動する。このパターンがどうなっていくかで、今後さまざまな課題へ向かっていくのです。

   ですので、この社会構造の話は詳しくしません。人口減少するし、高齢化も進む。あるいは経済成長が苦しい時代も必ずあります。それをどう補えるかという観点です。

 この図は、武田さんの競争相手ですが日本テレビです。近未来にMRを利用し、テレビ画面ではない仮想現実でテレビが観られる世界も当然出てきます。

 これは介護の話です。5 G で映像になりますと、すべて点検は自動的にドローンでやってしまう。

   あるいは今面白いのは、4K、8Kテレビで雨の映像が流れていれば、画面をパッと計測して「今、雨量は何ミリ」と、すぐに数量化できる。画像を見るとすぐデータ化できる技術が進んでいるわけです。

   あるいは、洋服屋さんに行ってパッと写真を画面に撮ると、「あなたの身長や胸囲はこの寸法なので、これが似合いますよ。では着せ替えてみましょう」というように、すでに便利なアプリがどんどんできている。

   人間が介在するよりは、先ほど言った「間を繋ぐ世界」が現実のものとして機能し始めていくだろうと思います。

   これらは画像認識も含めて、まだ始まったばかりです。これから5Gは今の通信ではなく、何と結びつくか。映像と結びつく、あるいはメーターと結びつく、セキュリティと結びつく、産業の機械と結びつく。

   何かと結びつくかによって価値が生まれます。5Gが価値を生むわけではなく、価値を生む道具立てとして揃ってきたのが正解だろうと思います。技術で考えないことが一番のキーになると思います。

   それで、この5Gの映像データトラヒック自体の話です。値段のことを言って恐縮ですが、携帯電話が出た頃の1バイトの情報単位の値段と、今のスマホの1バイト単位の値段は、1万分の1か、1万5000分の1ぐらいに下がっています。それだけ技術が進んだ。

   経済的な値下げの問題で今、携帯会社は大変な騒ぎになっています。このシステムができてから、技術開発の進み方と費用の下がり方は驚異的なのです。2020年は4.4EBという構造化データがあります。音声と動画が1700倍です。

   どんどん広がっていきますが、これは技術が追いつかないといけない。ネットワークは詳しく説明しませんが、今これもクラウドを使っています。ネットワークの構造自体も変わります。

   分かりやすいところでは、 IT の世界に住んでいると今何が起こっているのか。実は電力消費がどんどん上がっていて、エネルギー問題になっています。

   ですから今、NTT、インテル、ソニーで発表した「IOWN構想」というものがあります。この5年、10年のうちに光信号で電気の力を使わずに信号転換する。それができる技術の目途を立てていくことが「オールフォトニクス・ネットワーク」。すべて全光で通信の媒介することを実現していく。

 当然、5Gも組み合わさってくるため、強力な手段が出てくるところです。従って5Gでも、どちらかと言えばエネルギー問題として扱われるような状態になっています。

   続いて、先ほど周先生からもお話があった「スペース X」です。「イリジウム・ネットワーク」というアメリカの衛星通信サービスがあります。日本だと KDDI がおやりになっています。私が話を聞いた時は1992、3年でした。それから27、8年経っています。  

   このサービスは66基の衛星で構成されていますが、なかなか採算を合わせるには大変です。全地球をトランシーバーのような66基の小さな端末機が周回しています。この66基で衛星通信ができるものが、今すでに800 基打ち上がっている。

   1万2000基まではすでに FCC(アメリカの連邦通信委員会)という許可を与えるところに認められました。これが4万基を超えている。

   そうすると、パッと空を見上げると数百基も目に入るわけです、本来なら衛星が。直接インターネットを衛星経由で送ってしまう世界が、実は来年か再来年ぐらいから始まることになります。

   インターネットの後ろの放送波や、通信のネットワークを超え、宇宙を超えていく。ところが今、少し問題があるのです。

 これは60基ずつまとめて打ち上げているのですが、この右の図はイメージです。役目を終えた人工衛星の「デブリ」というものがあります。このデブリがある中で4万基も打ち上げてどうするのか、またゴミをばら撒くのか?という問題があります。

   しかも、衛星は太陽を受けて光ります。夜になってキラキラと光る何百基もの衛星が浮かぶ風景ができるわけです。これは嘘でもなく事実ですが、それを差し引いても衛星をコントロールする技術は難しいです。衛星は必ず落ちていくため、落ちるものをどうコントロールするかには国境がないのです。

   通信においては、実は国境があります。国によって通信事情も違います。ネットでも中国と日本では見られるもの、見られないものがもちろんあります。

   ところがこのサービスが始まった瞬間、すべて透明になります。各国の経済格差、活動格差も全部ネットで見られます。一体どういうことが起こるのか、という社会問題の方の改善、議論がまだ追いついていない。

   しかし来年、再来年あたりにサービスが始まろうとしています。皆さんのスマホと持っているネットが直接、衛星からアメリカなりヨーロッパにいく世界になることを狙っています。これに注目していくことが、とても大事になると思います。

   あまりご質問の答えになっていませんが、技術の進化はものすごいスピードで進んでいます。アメリカ主導ですが、使うのは我々です。社会がどう使うのか。

   今コロナが起こったので突然リモートがパッと始まりましたが、今後この技術の中に自分をどう活かして利用していくか。場合によっては高齢化なり低成長、少子化の世界をうまく解決する道が出てくるかもしれません。それは少し全社会的な議論かなと思っております。

   ありがとうございます。続きどうぞ、武田さん。

ソフトインフラの信頼性をいかに高めるか


   武田今、鈴木さんのお話を聞いて大変勉強になりました。技術は間違いなく進歩していくし、そのスピードも上げている実感はあります。

   私の場合は放送の分野で仕事をしているわけであり、変化に対応する能力が求められています。先ほどのビデオマーケットの小野寺さんではないですが、成功体験が放送局にはあるがゆえに、対応能力が劣ってきている気がするのです。ですので、大変な危機感は持っております。

   鈴木さんのように全世界的、全社会的な変化にももちろん通じるわけですが、その一分野でどう対応していくか。放送局のビジネスとしての対応は一つ。これをずっと今までお話ししてきたわけです。

   それとともに我々は報道機関でもあります。ニュースを日々出しているわけです。「今日は何人コロナの陽性が出た」など、そうした話からさまざまなニュースを出している。

   しかし、インターネット上でのフェイクニュース問題もあります。フェイクニュースかどうかを判断するのは個々人なわけです。そのフェイクニュースをチェックするそれぞれの団体がありますが、チェックしきれていない。

   だから我々はニュースや、社会のある種ソフトインフラだと私は言っているのですが、この信頼性をどう高めていくか。我々、放送局でもいろんな問題を起こして叩かれるわけですが、信頼の高い情報を日本国民にどう提供していくか。

   提供する手段は、はっきり言って放送でなくてもいいわけです。通信でもいいわけで、いかに必要なところに正しい情報が届けられるかも、我々の一つの大きな社会的ミッションだという自覚があります。

   そうした技術の進歩、進展を活かしてより良い社会にしていくか。我々もそれを企業理念に掲げており、より良い社会をつくることに貢献していきたいと考えています。

アジアのマーケットをどう見据え、展開すべきか?


   ありがとうございます。非常に大事なメッセージです。

   それでは、最後の話題に参ります。世界のマーケット、特にアジアのマーケットをどう見据えて展開していくかという話です。

 この図は、過去3年間で日本の映画が中国で上映されたリストです。2017年は10作品が中国で上映され、興行収入135億円を稼いだのです。2018年は、15作品で113億円。去年の2019年は一気に23作品が公開され、282億円を稼いだ。

   これは何が言いたいかというと、日本のコンテンツにとって中国というマーケットがあること。そして中国というマーケットは日本の作品をけっこうオーディエンスとしては好意的に受け入れています。

 実は2016年以降、世界で映画作品がたくさん作られています。けれども、数から見ると5%の作品は100億円を超える制作費をかけています。日本ではなかなか100億円をかけて一作を作ることはできない。しかしこの5%の作品は、実は映画の興行収入の半分以上を獲得しています。

   このビジネスモデルを一番、徹底的にやったのはDisneyです。ですからDisneyは対策をどんどん打ち、高い興行収入を勝ち取るビジネスモデルを実行しています。

   しかし、ここでのミソは、大作を消化できるような大きな市場も取っていることです。ですから『ムーラン』のように、中国マーケットから認識されたい作品をどんどん作っているのです。

   先ほど語学の話が出ましたが、おそらく自動翻訳はすぐ目の前にできるようになってきています。翻訳することは難しくないです。問題は、作品がその文化をベースにしたオーディエンスに向いているかどうか。これが実は、けっこう大きな問題です。

   やはり海外のオーディエンスを意識しなければ、作ったものはそれほど歓迎されないと思います。場合によってはうまくいく。しかし、打率から見るとそれは事故だと思った方がいいと私は思います。

   アジアというマーケットは、40年前はほとんど経済的な有効人口ではないマーケットでした。しかし、今は経済的に見ると非常に有効的なマーケットになっています。

   そこで、これからアジアのマーケットをどう意識してアクセスしていくべきなのか?また、加速するメディアにおける DX が日本をとりまくアジアの社会にどうインパクトを与えるのか? 

   この質問を最後にして、お二方の考えを伺いたいです。鈴木さんからお願いします。

「人材」という資本が一番の強み


   鈴木私は武田さんにお譲りしたい感じですが、前座を失礼します。先ほど周先生のお話にもありましたが、世界・日本のコンテンツ市場は、まだ伸びてはいます。

   ただ、日本の存在感が結果的に、相対的に下がっている。逆に、伸ばす余地があることと、アジアと中東・アフリカ、特にアジアはこれから人口が多くなってくる。

   今は77~78億人ですが、中国・インドだけでもこれから30億人になろうとしています。世界の3分の1の人口です。100億人になっても3分の1は、やはりアジアです。

   この地域で、時差がない中でどうこのビジネスをやっていくかが非常に重要です。多少は文化的なコンテンツに影響を及ぼす地盤も、アジアは似たところもあります。

   マンガ・アニメはすごいですが、それ以外の映像の世界もぜひ頑張ってもらいたいと思います。すみません、64ページ開けますか。

   この図は DX の場合ですが、先ほど資本力の問題が出ました。資本力や、個人データの集積であるデジタル情報収集のような情報データを持っていることが強い。これも資本で信用も資本ですが、やはり「人材」が資本のところが強いです。

   今これだけの世の中になっているので、映像の世界もポイントだと思います。もちろん戦略もなければいけませんが、人材、あるいはデリバリー、テクノロジー、データ、マネジメントなど、やはり根っこになっているのは「人材」です。

   そこで、やはり人だという時に、これから二極化していきます。特に中間の管理をしている層ではなく、これから雇用安定するところは各分野の専門性の高い人や、感性の強い人の需要が非常に高くなる。

    それと同時に、人でないと駄目だという需要もどんどん高くなってくる。その間が実は今一番多いですが、この数字は下がっていきます。

   この図の右側の「人材」を、専門家というわけではなくて全体像を見る。先ほどコンテンツの配信と制作の境がなくなってきたと言いましたが、全体の流れを頭に置き、かつ特定の専門が非常に強い人材をどう育てていくか。それが、これから一番大事なところになると思います。

   先ほど周先生からご指摘がありました。図の左の現状から目指すべき姿ですが、これは AI ロボットの場合です。これは映像ビジネスも同じで、トップに立つ人は内外から集積してこないといけない。やはり分かっている人がコンビネーションで集めてくる。単一文化でない。間に挟む人は専門性があって、共同的にチームが組める人です。

   「単純なことをやればいいや」という人は、AI とロボットに置き替わっていくことになります。今から目指すべきは、内外から集積をして実行すること。今はいいものがあれば、日本人でも優秀な方は海外に出てしまう。中国の方も海外に出ることになります。

   なかなか言葉で「多様性」と言っても難しい。ですから、一番入りやすいビジネスの世界から人を育て、あるいは味方をつくっていく。チーム作りをする。

   そうしたところに金融資本、データ資本主義から人的資本主義の方にシフトしていくことが一番大事な将来像だと思っています。武田さんの前座で、すみません。

   ありがとうございます。武田さん、どうぞ。

積極的なキャリア採用と人材育成を


   武田本当に「人」だと思います。我々はけっこう、海外で番組を売ることをしてきました。『風雲!たけし城』という番組は世界的に売れましたが、そうした「点」での海外展開はけっこう長くやってきました。

   しかし、それでは単価がはかばかしくいかない。連結売上高の海外売上高比率は、1%に満たない現状です。

   それではいかんということで、日本でのOTTとの競争や、少子高齢化の問題、あるいは日本の我々のスポンサーである企業がどんどん海外に展開していくわけです。では我々も、ということで私もけっこうアジアを中心に回り、さまざまな放送局との提携などを模索してきました。

   しかし、どうも提携ではないなという感じはしています。今まで議論してきたコンテンツの力をどう活かせるか。それを活かすには、やはり「人」なのです。

   我々 TBS もそうですが、ほとんどの放送局は10年ぐらい前まではそれほど外部から人をとらなかったのです。大学を出た人材を育てる。育てるには時間がかかるわけですが。

   今ではそれにふさわしい人材、例えば海外展開にふさわしい人材を中途でキャリア採用するといった流れがやっと出てきました。10年ぐらい前まではなかったのです。

   最近、各社ともそうした採用を行っています。例えばIT、あるいはDX人材などは取り合いです。取り合いなので、給与問題、待遇の問題になる。こういう「質」の問題を、人材の育成と人材を取る、という発想にみんながなりつつあります。

   アジアでも展開しようと方針を立てているので、そこは日本人でなくても良いわけです。やはりアジアの人たちが社員になってくれた方が、メリットがあり得るわけです。

   ですので、そうした人材の多様性も含めて、これからますますやっていかなければいけない。同業他社、あるいはOTTもそうなっているわけですから考えていかなければなりません。

   ところで、Netflix JAPAN が経団連に加入したのですね。あのニュースを見て、その意図は何かと聞いてみたいぐらいです。でも、そういう時代なのです。出入りが自由になっていく時代ではあるし、組織、人材にふさわしい体制にしていかないといけないと思っています。

   ありがとうございます。最後はやはり「人材」ですね。この話は我々大学にとっても非常に大きな課題となってくると思います。

   そろそろ終了の時間がきました。今日は武田さん、鈴木さんという二人の素晴らしいビジネスリーダーの深い造詣とイマジネーションをお借りして、メディア産業、そして通信産業が置かれている現状を議論し、整理し、将来を展望しました。

   大学の学生をはじめ、若い世代が未来を描くにあたり、今日の議論は大変参考になるもの、刺激になるものと確信しています。武田さん、鈴木さん、ありがとうございました。

   それではこれをもちまして、特別セッションを終了させていただきます。ご視聴の皆さま、ありがとうございました。

特別SESSION討論の様子(左から周牧之氏、鈴木正俊氏、武田信二氏)

シンポジウム動画

【参考】
東京経済大学創立120周年記念シンポジウム「コロナ危機をバネに大転換」を開催

【書評】中国は大都市圏、そしてメガロポリスの時代を迎えた

J-CASTトレンド・コラム「霞ヶ関官僚が読む本」より掲載

 周牧之さんは、1963年に中国湖南省に生まれ、中国機械工業部(通産省に当たる)勤務を経て88年に日本留学して30余年。東京経済大学で教鞭をとりながら、日本と中国の関係改善、中国の都市政策に多大な貢献をしてきた。本書の中心となる中国都市総合発展指標は、周さんの長年の研究成果をもとに構築された。

 都市と農村の格差など「三農問題」を抱えていた中国は、計画経済の時代から長年、都市部への人口移動を規制してきたが、今や大都市圏、そしてメガロポリスの時代になっている。その転機は2001年のWTO(世界貿易機関)加盟であった。中国沿岸部が一気に「世界の工場」となり、臨海部の主要都市が大規模化した。

 都市住民の生活品質の向上と環境問題の回避という二つの目標を追いながら急速に成長する都市は、人口1000万人を超えるメガシティと周辺都市が複合するメガロポリスへと変貌を遂げた。本書は2018年に初版の中国都市ランキング2016が出版されてから三回目の出版となる。都市データの更新に加え、メガロポリス発展戦略、中心都市発展戦略、大都市圏発展戦略とメインレポートが毎年変わり、2030年に向けて中国の都市がどのように変化していくかを知る手がかりに溢れている。また、トップ10都市の強みが写真付きで紹介されており、特に、杭州市、成都市、南京市は自然、歴史や文化の魅力にあふれ一度訪れて実感してみたい。

三大メガロポリスの課題

 欧州はその歴史から都市人口が1000万人を超えるメガシティはモスクワやロンドンにとどまるが、アジアでは臨海部の都市が製造業と交易で急速に発展したために規模が大きい。世界最大の都市圏は東京圏の3700万人だ。中国では人口1000万人を超える大都市圏は六つもある。これらメガシティを中心に、京津冀(けいしんき)、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスが形成されている。複数の大都市圏が連携する連続的な構造だ。人口規模から見ると、京津冀が9106万人、長江デルタが1億5270万人、珠江デルタが6151万人にのぼり、三つのメガロポリスの合計では3億人を超え、中国総人口のシェアは22%にも達する。三大メガロポリスは、世界との交易で成長し、国内の他地域から大量の人口流入があった。現在、当該都市での戸籍を持たない常住人口数だけでも三大メガロポリスで計6244万人にもなる。急激に巨大化するメガロポリスには、都市機能の充実に関して二つの課題がある。 

 一つは、都市住民の生活の質という視点。公共交通網、レストラン、大学など人口が集中して快適な空間構造をどう作るかだ。人口規模が大きい分、欧州や米国には見られない東京圏のような高密度かつ快適なメガシティを目指すことになる。二点目は、周辺の中小都市の核となる中心機能を充実させることだ。とりわけ、国際交流に必要なIT、国際会議、宿泊といった機能が重要だ。製造産業の発展拡大した沿岸部のメガロポリスが、今度は、IT産業と国際交流にふさわしい都市へと姿を変えていくのである。

人間本位のマネジメント

 中国の都市は、人口戸籍制限を緩和して若者を積極的に引き寄せる競争に向かっているという。日本の地方創生とは逆の構図だ。若者からすれば、都市の生産活動と生活環境の双方を見てどの都市に住むかを決めることになる。大都市だからといって生活環境が悪ければ良質な転入者を得ることは難しくなる。利便性を犠牲にせず、緑が生い茂る穏やかな住宅地帯をどう形成するか。人間重視の都市化への転換が急速に進むであろう。製造活動にふさわしい都市から知的な価値を創造する活動にふさわしい都市への変貌である。

 こうした考えが、中国国家発展改革委員会の官僚の言葉で語られていることが、本書が日本語化された意義の最たるものではないだろうか。中国の官僚が、経済、社会、環境の三つの均衡を重視する方針を掲げ、それを測定する数値指標として中国都市総合発展指標の理念と実益を高く評価することは、都市問題の奥深さゆえに、数値をベンチマークとして都市を経営する意義を中国の政策官僚がともに実感しているからであろう。この発展指標が、周さんの知的な献身活動を基礎として、中国の官僚と日本の産学官との協力で生まれたことは、日中の現代史に残る出来事ではないか。

(※データは書評掲載時より更新)

<ドラえもんの妻>


【参考】J-CASTトレンド・コラム「霞ヶ関官僚が読む本