【広州】世界に誇る交易都市【中国都市総合発展指標】第4位

中国都市総合発展指標2022
第4位



 広州は7年連続で総合ランキング4位を獲得した。

 「社会」大項目で、広州は6年連続中国第3位であった。中項目の「ステータス・ガバナンス」「伝承・交流」「生活品質」は、いずれも第3位となった。小項目から見ると、「都市地位」「文化娯楽」「人的交流」「消費水準」「生活サービス」は揃って第3位、「人口資質」「居住環境」は第4位と、9つの小項目のうち、7つの指標がトップ5に入った。なお、「歴史遺産」は第21位、「社会マネジメント」は第22位と、全国平均を上回るものの、順位は他の7項目と比較すると目立たない。

 広州の「経済」大項目は、7年連続で中国第4位を維持した。3つの中項目の中で「経済品質」「発展活力」「都市影響」は、いずれも第4位となった。9つの小項目のうち、8つの指標がトップ10に入り、その中でも「ビジネス環境」「広域中枢機能」が第3位と優れ、「イノベーション・起業」は第4位、「経済規模」「経済構造」「開放度」「広域輻射力」は第5位となった。なお、「都市圏」は第6位、「経済効率」は第29位となっている。

 「環境」大項目で広州は、2年連続で第3位を維持した。3つの中項目指標 の中で「空間構造」は第4位を維持したものの、「環境品質」は第15位となり、「自然生態」は第21位に甘んじた。小項目から見ると、「コンパクトシティ」は第3位、「資源効率」「交通ネットワーク」は第4位、「都市インフラ」は第10位と、4項目はトップ10入りしているものの、「環境努力」は第19位、「気候条件」は第20位、「汚染負荷」は第89位に留まった。「自然災害」は第163位、「水土賦存」は第227位と、いずれも全国平均を下回った。

 広州は、ごく一部の小項目が全国平均を下回っているものの、環境・経済・社会の各項目の成績は非常に高く、トリプルボトムラインのバランスもよく取れている。


■ 開放感溢れる貿易都市


 広東省の省都である広州は、同省の東南部、珠江デルタに位置し2000年以上にわたり交易の中心地として繁栄してきた。特に明朝と清朝では数百年にわたって中国対外貿易の唯一の窓口で、世界最大の貿易大国を支えた。

 新中国建国後もその交易機能を活かし、厳しい国際環境のなか1957年に始まった広州交易会(中国輸出商品交易会)は一時、中国の輸出の半分までを稼いでいた。

 広州の2022年GDPは2.88兆元(約57.6兆円、1元=20円換算)に達し、前年比1.0%の伸びを実現した。これは、北京、上海、深圳、重慶に続き中国第5の経済規模である(詳しくは、【ランキング】世界で最も経済リカバリーの早い国はどこか? 中国で最も経済成長の早い都市はどこか?を参照)。

 2022年広州の常住人口は約1,873万人で、中国第5位となっている。改革開放後、広州は外部から多くの人口を受け入れてきた。広州の戸籍を持たない常住人口、いわゆる「流動人口」は約870万人に達し、中国第3位の規模である。

■ 珠江デルタメガロポリスの交通ハブ


 中国政府は広州を中国の重要な総合交通ターミナルと位置づけている。中国都市総合発展指標2022における陸・海・空の交通パフォーマンスはいずれも全国トップクラスの成績を収めている。

 鉄道・道路において、「鉄道利便性」は中国で第2位、「道路輸送指数」は同第5位である。なかでも、広州南駅は中国最大クラスの旅客輸送量を誇る鉄道駅であり、北京―広州高速鉄道、広州―深圳―香港高速鉄道をはじめとした鉄道網の重要なハブ駅となっている。中国の国家戦略「一帯一路」は、広州を国際貨物輸送ハブとし、粤港澳ビッグベイエリアはもちろん、東南アジア、中東、さらには欧州向けの一大交通拠点になることを目指している。

 市内の交通インフラ整備は進み、2021年末には市の地下鉄営業距離が合計622キロメートルに達した。この距離は中国で第4位である。

 港湾では、「コンテナ港利便性」が中国で第6位、「コンテナ取扱量」が年間2,460万TEU(20フィートコンテナ1個を単位としたコンテナ数量)で、中国第6位、世界第5位である(詳しくは、『【ランキング】世界で最も港湾コンテナ取扱量が多い都市はどこか?を参照)。

 2018年4月には、広州白雲国際空港の第二ターミナルが運用開始した。同新ターミナルの総面積は65.9万平方メートル(羽田国際空港の約2.8倍)、カウンター数は339カ所。2022年に広州白雲国際空港の利用客2,611万人にのぼり、北京首都国際空港、上海浦東国際空港を抜いて中国第1位となった。郵便貨物取扱量は188万トンに達し、中国で第2位である。中国都市総合発展指標2022でも広州の「空港利便性」は全国第2位である(詳しくは【ランキング】中国で最も空港利便性が高い都市はどこか?を参照)

■ ずば抜けた都市輻射力


 省都としての広州市は、文化、生活、教育などの面で周辺地域にさまざまな都市機能を提供している。珠江デルタメガロポリスの二大中心都市である広州と深圳の「輻射力」を比較すると、広州の優位性が明らかである。

 例えば、「医療輻射力」では広州が中国第2位であるのに対して深圳は同21位である(詳しくは【レポート】新型コロナパンデミック:なぜ大都市医療能力はこれほど脆弱に?を参照)。

 また、「高等教育輻射力」では、広州が中国第4位に対して深圳は同36位。文化・スポーツ・娯楽輻射力」では、広州が中国4位、深圳が同7位となっている。いずれの分野でも広州がより高い順位を獲得している(詳しくは【レポート】中日比較から見た北京の文化産業を参照)。

 このように、広州は交通インフラ、経済規模、人口規模、教育文化輻射力などの面で優れ、珠江デルタメガロポリスの発展を牽引している

■ 粤港澳ビッグベイエリア発展が加速


 中国政府は2019年2月に、現在推進中の粤港澳大湾区(広東省・香港・マカオ・ビッグベイエリア)構想の発展計画綱要を発表した。これは中国で初めて香港とマカオを国の地域発展計画に組み入れたものである。同計画は2035年までの長期計画で、対象都市は香港・マカオの2特別行政区と広東省9都市(広州、深圳、珠海、佛山、惠州、東莞、中山、江門、肇慶)の合計11都市となっている。

 ビックベイエリアの総面積は5.6万平方キロメートルで、ニューヨーク、サンフランシスコ、東京大都市圏の3つの都市圏を合わせた面積よりも大きい。ビッグベイエリアのGDP総額は2022年、約13.0兆元(約260兆円)に達し、その経済力はすでにイタリアの名目GDPを上回り、世界第8位の規模に当たる。

 ビッグベイエリアは「世界の工場」として、中国で最も開放的で活気に満ちた地域である。産業の発展が加速する中、人口集積も進み、現在の総人口は約8,600万人を超えている。

 同計画における広州、深圳、香港、マカオの4つの中心都市の位置づけはそれぞれ異なる。広州は、「国際経済センター」「総合交通ハブ」「科学技術・教育・文化センター」として位置づけられている。

 世界最大のベイエリア構想がどう実現していくか、その行方を世界が注目している。

■ 広仏都市圏の形成


 中国都市総合発展指標2022総合ランキング第4位の広州と同23位の仏山は、地理的に隣接し、その人口密集エリアもかなり絡み合っている。行政区画は異なっていても人口密集エリアにつながりのある点で、東京都と千葉、神奈川、埼玉各県との関係に似ている。

 中心都市として発展してきた広州と、製造業を中心に成長してきた仏山との一体化は現在進んでいる。

 周牧之教授は、早くから広州と仏山を1つの都市圏として整備していくべきだと提唱していた。しかし、つい最近まで中国では都市圏の概念もなく、そういった政策もなかった。

 中国国家発展改革委員会は2019年2月19日、「現代化都市圏の育成発展に関する指導的意見」を公布し、初めて都市圏政策を打ち出した。これを追い風に、広州と仏山は行政区域を超えた1つの都市圏としての形成が期待される。

 広州と仏山を「広仏都市圏」として捉えた場合、その面積は11,232平方キロメートルで、東京大都市圏(一都三県)の8割程度の大きさになる。その経済規模は、2022年で約4.15兆元(約83.0兆円)となり、深圳を超えて北京とほぼ同等の中国第3位となる。また、常住人口規模は約2,829万人となり、上海と北京を超えて第1位になる。

 広仏都市圏の一体化は、地域経済の活性化やインフラ整備、産業の高度化に寄与し、広東省や粤港澳ビックベイエリア構想の重要な要素となると期待されている。

■ 一大国際コンベンションシティ


 1957年から始まった「広州交易会(中国輸出入商品交易会)」は、当時中国の輸出の半分を稼ぎ出し、新中国経済の救手になっていた。

 広州は今も中国でコンベンション経済が最も活発な都市の1つである。中国都市総合発展指標2022で、広州は「社会」大項目の「国際会議」「コンベンション産業発展指数」で中国第3位の成績を誇っている。

 コンベンション産業は、様々なコンテンツを網羅した高収益の交流経済である。会議、イベント、展示会、フェスティバルは、都市にさまざまな利益をもたらす。

 しかし、新型コロナウイルスパンデミックは、国際コンベンションの開催に大きな影響を与えた。2020年以降、多くの国際会議が延期、中止、またはオンライン開催へと切り替わった。国際会議協会(ICCA)によると、2019年に世界で13,269件開催された国際会議は、2020年は763件、2021年は534件と急激に縮小した。

 「広州交易会」も例外ではなかった。2020年はオンライン開催となった。ハイテクを駆使し、仮想現実(VR)の展示が世界各地で閲覧できたことで、出展者を維持した。こうした新しい試みは、広州交流経済の新たな展開にもつながるだろう。

■ ECの一大拠点都市


 広東省の越境EC(電子商取引)市場は、持続的かつ急速な成長を遂げている。2015年から2022年にかけて、広東省の越境EC取引の輸出入額は148億元(約2,960億円)から6,454億元(約12.9兆円)へと増加し、その規模は約43倍にも拡大した。また、この期間の年平均成長率は72%に達し、全国の越境EC取引規模の31%を占めるに至った。

 この急成長の中心にあるのが、広州である。2013年に「国家越境電子商取引サービス試験都市」としての指定を受けて以来、広州の越境EC取引の輸出入額は93倍に増加し、2022年には1,376億元(約2.8兆円)に達し、初めて千億元の大台を突破した。

 現在、広州に位置する白雲国際空港や南沙港は、天猫、京東、唯品会、アマゾン、小紅書、得物、洋葱など、一流の越境EC企業を引き寄せており、越境EC関連企業は1,200社を超え、世界的に見ても顕著な越境EC産業の集積地を形成している。

 2022年、広州の「卸売・小売業輻射力」は中国で第5位となったが、特にECを通じた小売総額は2,518億元(約5.0兆円)に達し、前年比で13.4%の増加を見せている。このECの急速な発展は、広州の宅配業にも大きな影響を与えており、2022年の宅配業務量は101.31億件に達し、浙江省金華(義烏を含む)に次ぐ国内第2位の成果を上げている。

 ECが地域経済に与える影響は顕著であり、広州は今後も中国、さらには世界の越境EC市場におけるリーダーシップを拡大していくことが期待されている。


【対談】岸本吉生 Vs 周牧之(Ⅳ):相互依存をどう考えるか

2018年7月19日「『中国都市ランキング−中国都市総合発展指標』出版記念パーティ」にて、前列左から岸本吉生、中井徳太郎(環境省総合環境政策統括官)、清水昭(葛西昌医会病院院長)(※肩書きは2018年当時)

■ 編集ノート:

 岸本吉生氏は経産官僚として、経済産業省環境経済室長、中小企業庁経営支援課長、愛媛県警察本部長、中小企業基盤整備機構理事、九州経済産業局長、中小企業庁政策統括調整官、経済産業研究所理事を歴任し、幅広く経済産業政策を研究し、推進した。現在、ものづくり生命文明機構常任幹事。

 東京経済大学の周牧之教授の教室では、リアルな学びの一環として第一線の経営者やジャーナリスト、官僚らをゲスト講師に招き、グローバル経済社会の最新動向を議論している。2023年1月5日、岸本吉生氏を迎え、講義をして頂いた。

(※前半はこちらから)


■ 相互依存が最も富を生む


岸本吉生1980年代と1990年代のキーワードは、相互依存だった。ソビエト連邦が崩壊し、中国は改革開放路線を取り、世界で社会体制の対立はなくなるとされた。体制を巡る闘争はなくなるから、世界が目指すべきは経済関係の相互依存で、相互依存が深まれば、核兵器もいらない、お互い豊かに平和になれる、と信じられていた。

 相互依存を最も果敢にやった国は欧州だ。EUは最初6つの国から始まり、12カ国に増えた。イギリスがその後入り離脱した。

 北米では北太平洋自由貿易協定(NAFTA)が締結された。東南アジア諸国連合(ASEAN)も自由貿易地域の設立を宣言した。相互依存の枠を1990年代から2000年代にかけてどんどん作り、近い人とはより強力に、遠い人とも諍いなく関係を深化させようとした。

 日本では経済安全保障法が制定された。自国が生産しない物が輸入できなくなると、国の運営に関わる。自分で作る力を持つ或いは確実に輸入できる手段を作る。そのキーワードは輸出からサプライチェーンへの転換だ。相互依存の時代は輸出は自分の所得になるからそこに力点を置いていた。今は、輸入が途絶えたらどうするかに政策の力点を置いている。

周牧之:1990年代、私は中国で「開発輸入」を提唱した。これは、後の政策を大きくシフトさせたコンセプトだ。当時、中国でこのまま経済成長や都市化が進むといずれエネルギーや食糧は足りなくなると考え、安全保障の概念が非常に強かった。足りないから輸入したいがエネルギーや食糧輸入はさまざまな理由から不安定だ。輸入に頼ってはいけないというムードが強かった。そこで「開発輸入」だと主張し、「ユーラシアランドブリッジ構想」をぶち上げた。同構想はカスピ海から中国沿岸部に至るガス・石油パイプライン、鉄道、高速道路、光ファイバー網の整備を含み、主な目的は、中国そして東アジアの発展に必要なエネルギー資源や食糧の安定供給を図り、来るべき世界の需給ひっ迫を緩和することであった。

 開発輸入することで相互のベネフィットは固くなる。安定的な輸入ができる。当時そのコンセプトは中国であまり知られていなかった。一生懸命に話しをして徐々に普遍的になった。1999年4月1日、私は『現代版「絹の道」、構想推進を―欧州から日本まで資源の開発・輸送で協力―』とのタイトルで日本経済新聞「経済教室」欄に記事を寄稿し、この構想を公開、国際的な注目を集めた。いま中国は、開発輸入事業が世界で最大になった。

岸本:そうだ。日本の石油自給率はゼロ、天然ガスもゼロ、鉄鉱石もゼロ、小麦と砂糖は10パーセントあるかどうか、銅はゼロ。石炭はゼロ、バナナもゼロ。日本は開発輸入の国で、必死でその努力をした。開発輸入は相互依存の基本だ。

周:そうだ。相互依存を進めることは、最大の安全保障だ。

岸本:いまは半導体、外貨、データ、鉱物資源、食物は、開発輸入では満足できないかもしれない。例えば今、銅の年間生産量は2400万トン。2030年の世界の需要が3000万トンと言われている。8年で600万トンの増産ができなければ、銅を使うのを諦める人たちが出てくる。銅が高くなって需要が減るから問題がないというのは、大学の教室の中の経済学の話であって、銅の値段がもし2割3割と上がったら困る。今だってみんな困っている。サンドイッチや自動車の値段が2割も3割も上がるのは困る。経済安全保障と開発輸入は、これからどうなるか。肝心なところに来ている。

周:忘れてはいけないのは相互依存の世界が、最も富が作れる世界だということ。それをやめてしまうこと自体、人類にとって最大のリスクといっていい。岸本さんは、一度私に電話をかけてきて、ロシアとウクライナの戦争について話をされ、相互依存は最大の安全保障だとおっしゃったことに、私は大いに賛同する。いまは相互依存を否定する論調が横行し、おかしな状況だ。

出所:周牧之『現代版「絹の道」、構想推進を―欧州から日本まで資源の開発・輸送で協力―』日本経済新聞、1999年4月1日。

勝者のない時代


岸本:アメリカとソ連は、軍事上の違いがある。ロシアの国境線は陸地で隣接している国がいくつもあり、相手国と緊張関係にある国はいくつもある。ロシアはいつまでたっても平和な配当をもらえない。

 アメリカの場合は、カナダもメキシコも武力を持っているかもしれないがアメリカと領土の脅威はない。国境は軍事的には脅威ではない。ソビエト連邦が崩壊した瞬間、平和の配当を世界が得た。

周:冷戦後、平和の配当を最も得た国は中国とアメリカだ。なぜかアメリカはこの平和の配当を否定しはじめている。

岸本:そうだ。「平和の配当」という言葉は、ゴルバチョフがソビエトを解体したときにアメリカが言い始めた。核兵器や軍事力を持つ意味がなくなり、それに費やしていた金を社会発展、産業発展に使うという思想だ。

周:もう一つ、平和の配当をたくさんもらった国はドイツだ。ドイツはロシアを身内に取り込み懸命に経済的利益を作ろうとした。今それ自体を否定しようとしていることが理解できない。

 冷戦の時代はソビエトとアメリカの指導者は、互いに緊張感があり敬意もあった。いまのアメリカのやり方を見ていると、危なくて仕方がない。何千発もの核弾頭を持っている国に対して、どこまでやるのか、と思う。核の時代は勝者がない。いまの時代が「勝者がない時代」であることを分かっていないのだろうか。

岸本:ロシアとウクライナの紛争が続いている。元は同じ国だった同士の戦争という意味では、1990年台のユーゴスラビアがそうだった。ロシアとウクライナの紛争は、他地域に軍事的な問題を波及しかねない。

周:外部の勢力が煽っている。

岸本:相互依存を深め、軍事的な問題を起こすまいとの国際的合意がかつてあった。「平和の配当」が言われた1990年代だ。ロシアとウクライナの紛争が始まったから、そうした時代は終わったという人がいる。終わったという人がいるから終わったと思うのか、そう思わないのか。私たち次第だ。

 周先生が「過去をどう見て、未来に投射する」と仰った。いろいろなものの見方があり、隣の人とは価値観が違う。自然観も一人ひとり違う。歴史観も違う。ある国、ある場所に住んでいれば自然と共通化するものもある。皆さんが80年間、同じ村に隣り合わせて住んだら歴史観や自然観が似てくるだろう。他人が聞いて、あなたの言う通りだと共感を呼ぶことが大切だ。

 同じことは二度とおきない。しかし同じことを繰り返している。

周:歴史は人間が作り出すものだ。本質的に捉えると歴史は時代や空間を超えて繰り返される。

岸本:だから歴史を学ぶことで、この辺に来るのではないかという大雑把なことはわかる。

ロシアのウクライナ侵攻で被害を受けた市街地

■ 通商産業政策は「任せる」が基本


岸本:今年度、兵庫県の甲南大学でアダム・スミスについて一年間の講座が開かれている。中村聡一准教授が指導官。1952年からの日本の通商産業政策をアダム・スミスの国富論を参照しながら論じてほしいとの依頼だった。『国富論(中公文庫、2020年)』の全2000ページを通読してみた。300年前、アダム・スミスは通商産業政策を明快に提唱していた。通商産業政策は、幾つもの選択肢があり、どのあり方が国の富を増やすかを論じている。当時、イギリス、フランス、オランダ、スペインなどの王国が競争していた。植民地争いで負けないために国家の財政を豊かにしようと切磋琢磨していた。輸出を増やし、輸入を減らす方法論を競っていた。重商主義の時代だった。アダム・スミスはイギリス、フランス、スペイン、オランダの競い合いを見て、イギリスがこのゲームに勝つにはどうしたらいいか日々考え、書き連ねた。それが『国富論』だ。

 彼は提言は三つある。一つ目は、商売は、王様や官僚にはわからないのだから、商人に任せて好きにやってもらおう。国が許可した特別の商社を設けること、輸出入を政府の許可制にすることはやめた方がいい。

 二つ目は、商人が仕事をしやすくなるためにビジネスインフラを整備する。裁判制度、外国為替制度といった制度は、政府が責任を持つ。

 三つ目は、一般の民間人を徴兵するのはやめて軍隊を持ち、国が職業軍人を雇って軍隊を創設しよう。

 アダムスミスの提言の一部は通商産業政策、一部は社会政策だ。インターネットで詐欺をする人がいるから、インターネット詐欺防止法を作るというのは、通商産業政策、社会政策どちらの面もある。規制が強すぎると個人の創意工夫が削がれてしまう。

周:バランスは政策のミソだ。先ほどの経済安全保障政策と相互依存政策の関係もそうだ。

アダム・スミス

■ SNSが誰一人残さない社会を引き寄せる


岸本:誰ひとり取り残さないことを政策として標榜する日本の役所は、デジタル庁だ。日本の全ての省庁が、誰一人取り残さないためにある。

 SNS社会は、誰一人取り残さないことと深く連動している。どんな境遇にいてもSNSがあれば他人とコミュニケーションできる。知らない人から来たメッセージに返信できるのがSNSの強みだ。SNSは誰一人取り残さない社会を引き寄せる力がある。

 この10年で10回ぐらい中東に出張した。中東の男性はひげがあり、女性はベールで顔が見えない。すんなり仲良くなったわけではないが、中東の人は驚くほど日本人に親しみを持っている。イスラム教といえばアラーの唯一の神を拝み、超越した存在と個人とが対話をしていると考えがちだが、彼らもご先祖様を数珠で拝み、母親孝行を何より大切にしている。中東の文化と日本文化に通じるものがあり、通商文化交流の将来性を感じている。

 中国と日本もそうだ。懐かしいものが目の前に現れるという経験は、中国を訪れる日本人、日本を訪れる中国人が等しく経験することだ。

周:私は国際結婚をしていまして、妻とは互いを外国人だと思ったことがない。

岸本:あーやっぱり。

周:私の親友は、今は日本人にも中国人にも大勢いる。昔、日本にはいろいろな国があった。中国にもいろいろな国があった。ヨーロッパだって現にいろいろな国がEUになり統合していく最中だ。我々はもっと大きなスケールで物事を考えた方がいい。

岸本:そうだ。ジョンレノンさんの「イマジン」は、世界はわかり合えるという歌だ。私はそのことに子供の頃から憧れた。きっかけは8歳の時、大阪万博に何度も通ったことだ。インド人、ドイツ人、アメリカ人、世界中の人がいた。世界がこんなに繋がる時代になり、自分が20歳の頃にはもっと世界中から人々が日本に来るだろう。世界中に行く仕事をしようと私は思った。その頃ベトナム戦争があった。世界平和のために関わりのある仕事に就きたいと思っていた。

 これからはSNSの時代だ。個人の発するメッセージ、データによって互いの感覚で分かり合える。イマジンの歌詞の願いが叶う日は近くまで来ている。

周:但し、デジタル・ディバイドの問題があり、SNS時代の恩恵に預かれる個人格差や世代格差がある。そこを如何に解消していくかが大きな問題だ。

ジョン・レノン

■ 客が喜んで金を払う商売、自分はつらくても頑張れる商売を


岸本:2018年からスタートアップのエコシステムを研究した。日本は世界で最もスタートアップが少ない先進国の一つだとされてきた。成長する社会では良い勤め先がたくさんあったし、大企業に就職した方が中小企業より良いという人が多かった。

 客は喜んでお金を払うのか、仕方がないから金を払うのか。喜んで金を払う客がいるなら、規模の大小は別でも商売にはなる。仕方なく払っている客が多ければ、もっといい売り手があれば客が移っていく。喜んでお金を払っているなら、客はよっぽどのことがなければ移らない。

 喜んでお金を払う客を作る方法はアメリカでは学校の教室で教えられる時代に入っている。ピーター・F・ドラッカーは、1940年台に自動車会社GMから、「会社をもっと発展させるため提案を書いてくれ」と言われ「あなたの会社はこのままでは駄目になる。なぜなら」と、いくつかの理由を書いた。過激な提案だったために出入り禁止になったが、同社はドラッカーが言ったことをやらざるを得なくなった。

ピーター・ドラッカー

周:1946年、ドラッカーはGMでの経験を題材に『Concept of the Corporation 』(邦訳『企業とは何か(ダイヤモンド社、2008)』)を刊行した。企業の存在意義は、社会的な目的、使命を実現し、社会、コミュニティー、個人のニーズを満たすことにあると提唱した。

岸本:顧客の喜びはどこにあるのか。顧客が喜び、かつ、あなたにとってそれが正しいことであれば、つらくても頑張れる。

 アメリカの100年前の映画『モダンタイムス』では、工場労働者が9時から5時まで黙々と仕事をした。今はコンピュータがあり、SNSもあれば、リモートワークもできる。クリエイティブな仕事をただで発信することができる。この仕事の時間と稼ぎの時間をどうデザインするか。そのときどきの仕事の時間から稼ぎが生まれるパターンが増える。お金にならないと思ってやっていることがビジネスになるかもしれない。

周:情報革命は人間という個体の創造力、コミュニケーション力を無限に伸ばした。スマートフォンの計算能力は20年前の大型コンピュータの数台分にも匹敵する。このような文明の力を活かし、世界とどう繋がるのか、どう富を増やすか。それは世界の相互依存をどう深めるのかにかかっている。

講義をする岸本氏と周牧之教授

プロフィール

岸本 吉生

ものづくり生命文明機構常任幹事

 1985年東京大学法学部卒業後通商産業省入省。経済産業省環境経済室長、中小企業庁経営支援課長、愛媛県警察本部長、中小企業基盤整備機構理事、九州経済産業局長、中小企業庁政策統括調整官、経済産業研究所理事、中小企業基盤整備機構シニアリサーチャー、中小企業庁国際調整官を経て現職。コロンビア大学国際関係学修士、日本デザインコンサルタント協会会員。

【対談】岸本吉生 Vs 周牧之(Ⅲ):格差是正を時代目標に

2023年1月5日、東京経済大学周牧之ゼミでゲスト講義をする岸本吉生氏

■ 編集ノート:

 岸本吉生氏は経産官僚として、経済産業省環境経済室長、中小企業庁経営支援課長、愛媛県警察本部長、中小企業基盤整備機構理事、九州経済産業局長、中小企業庁政策統括調整官、経済産業研究所理事を歴任、経済産業政策を幅広く研究し、推進した。現在、ものづくり生命文明機構常任幹事。

 東京経済大学の周牧之教授の教室では、リアルな学びの一環として第一線の経営者やジャーナリスト、官僚らをゲスト講師に招き、グローバル経済社会の最新動向を議論している。2023年1月5日、岸本吉生氏を迎え、講義をして頂いた。


■ 結党3度目の渾身の「決議」


岸本吉生:周先生と私は同い年で、同じ頃に大学を出て、ほぼ同じころに私は経済産業省、周先生は中国の機械工業省、日本でいう経産省に入った。もう20年以上のお付き合いになる。

 私が大学に入ったのは1981年で、語学の授業は中国語を選んだ。1000人の東京大学の文系学生のうち、中国語を履修したのは80人。8%の学生が中国語を選んだ動機は大きく二つに分かれていた。一つは、21世紀は中国の世紀になるから先行投資だという人。もう一つは、中国語を専攻すれば大学の友達と麻雀ができるという人(笑)。1981年は中国で改革開放が始まって3年目の頃だ。大学1年生の教科書の内容は、ほとんどが共産党と毛沢東のことだった。30年経って大学生に中国語が一番人気だった時期は、1000人のうち300人ぐらいが中国語を選んだ。時代は変わり、今はスペイン語が一番人気だと聞いている。

 SNSでもマスメディアでも、話題にのぼる国として中国は世界のトップ3に入る。アメリカの関心は相対的に下がったと感じる。音楽、政治、経済などさまざまがアメリカ中心だとしても、アメリカと中国の両方を見る時代になった。

 皆さんは周先生と勉強され、いろいろな感覚を身につけられたと思う。今日はまず習近平国家主席の「歴史決議」について話したい。

周牧之:「歴史決議」には意味がないという感覚の人が多い中、「歴史決議」を真剣に読み解いた方は私の周りでは岸本さんだけだ。

岸本:歴史決議に関心を寄せた理由はシンプルだ。1921年に中国共産党が結党して100年の間に、中国共産党の主席が渾身の力で書いた「歴史決議」は二つある。一つは1945年に毛沢東が書いた「若干の歴史問題に関する決議」。二つ目は改革開放をした鄧小平が1981年に書いた「建国以来の党の若干の歴史問題に関する決議」。結党100年目に習近平が書く歴史決議を楽しみにしていた。

 一昨年の11月20日に歴史決議が発表されると、日本ではNHKと読売新聞など何社かが短いニュースを流した。しかし3日経っても1週間経っても日本語の翻訳が出ない。全体の文章を誰も報道しない。中国に対する関心がないのか、中身が読むに値しないのか、訝しんでいたところ新華社通信が日本語で全文を発表した。A4版63ページ。私は3回読んだ。共産党の歴史は1回ではわからなかった。これは大変な文章だと思った。日本の公文書でここまで質の高いものはない。

 昨年の周先生の中国経済論のゲスト講義で、その全体について話をした。今回は全63ページを8ページぐらいに抜粋した。私の主観が入り、説明を省いてあるため、理解できないところがあるかもしれないが皆さんと一緒に考えたいことを抜粋した。

1945年「若干の歴史問題に関する決議」と1981年「建国以来の党の若干の歴史問題に関する決議」報告書

■ 経済と社会のバランスを重んじる


岸本:明確に思った一つは、共産党結党からの100年を振り返り、未来の50年を展望している点だ。日本の歴代の総理で、100年前を回顧し50年後を展望するロングスパンの文書を書いた人はいない。

 二つ目に、100年前、毛沢東は共産主義が必要だと考え闘争を始めた。100年前の課題は、民の貧困、社会の動乱、権力の腐敗で、これを是正するために、共産主義が必要だとした。何かを良くするためのものであった。習近平は、中国は世界一の発展途上国だと言う。国家の目標は共同富裕だとはっきり書いている。

 アヘン戦争にまみれた1840年代の清王朝当時、中華民族は欧米から劣った民族だと言われていた。そこから脱却するために中国が選んだ道は中華人民共和国だったと決議では明快に論じている。

 鄧小平の決議が出たのは1980年代だ。1960〜70年代、中国共産党が結党して50年ぐらいのころ、毛沢東政権は文化大革命という過ちを犯した。1920年ないしは国が出来たころ目指した方向を、時代に合わせて調整するのを怠ったためだ。その過ちを正すために、鄧小平がやった改革開放は間違ってないと、決議ははっきり言っている。その後の32年間の改革開放路線は間違ってない。今後も継続する。しかしそれだけでは足りない。

 ロシアを見ても中国を見ても国家体制の問題は根深い。ソ連が解体されてロシアは資本主義の国になった。中国以上に改革開放されたと言ってもよい。しかし社会の病理はある。どんな国にも社会の病理があるがロシアのようになってはいけないということだろう。社会的な問題を解決しながら改革開放を続ける。社会政策と自由経済政策のバランスをとる。それが中国共産党の課題だ。

鄧小平中国共産党総書記

■ 1980年代は自由主義経済が世界の潮流に


岸本:皆さんがまだ生まれていない1980年代、世界に3人の自由主義経済のリーダーが出てきた。この3人は、社会の安定は多少犠牲にしても経済の自由化が必要だと言った。西側諸国でも1970年代までは社会の安定にウエートを置いていた。1980年代に入り自由主義経済を推し進め政府の役割を小さくするのがいいとなった。

周:アメリカのレーガン、イギリスのサッチャー、そして中国の鄧小平に引っ張られ、自由主義経済がその時期の世界の潮流となった。

岸本:鉄鋼、電力、セメントなど重化学産業のウエートが高く、環境問題も、働く人の健康問題も酷かった。そこのバランスをとるための新しい産業が出てくる。コンピュータの出現で、情報化の時代になった。情報化で、小さい企業も成長できることになった。

周:当時は、社会主義の中国と、資本主義の日本、アメリカ、イギリスすべてが国営企業の改革をした。

岸本:それまでは、大きい企業は資本が足りず国から資本を投入していた。日本は1980年代、例えば電電公社がNTTへ民営化し、国有鉄道がJRへと民営化した。中国の国営企業も元気になった。

周:元気がないところは切り捨てられた。

岸本:自由と社会のバランスをどうとるかについては、この30〜40年間、いろいろなアプローチ、アイディアが出された。日本が20年前にやったのは、日本中にインターネットがただで使える環境を作った。光ファイバーを稚内から八重山諸島まで引いたのが20年ぐらい前。Wi-Fiを家に引いたらほとんどお金かからない。

 大学でベンチャーの社長になる人を育て始めたのもこの20〜30年だ。スタンフォード大学では、ビジネススクールを出て大企業へ入ったら「成績悪かったの」と言われる。教育内容を改め情報化社会で活躍する人作りを進めた。

マーガレット・サッチャー首相とロナルド・レーガン大統領

■ 30年間の中国の変化と新しい時代の目標設定


岸本:今の中国は民主主義の国ではないとする人もいるが、憲法を見ると民主主義でないわけではない。

周:中国はこの30年間は変わっていない、とアメリカの一部の人は言う。私は、中国は相当変わったと思う。

岸本:変わった。

周:なぜ変わらないと言われるのかわからない。

岸本:それは政権交代がないように見えるからだ。政権を選択する自由がない。

周:しかし、30年前の日本も同じことを言われた。政治改革をやり、小選挙区をやり、果たしてこれが正しかったのかどうか、非常に疑問を持っている。「歴史決議」の一番大事なところは総括と、新たなテーマ設定だ。

岸本:そうだ。

周:正しい総括と、正しい時代目標の設定が、いま中国の直面する課題だ。実際はアメリカも中国も日本も直面する問題は似ている。制度は民主主義だといっても、不平等、生活格差の問題がある。鄧小平時代は活力はあったものの富の分配に問題があった。共同富裕はそこを意識している。

岸本:習近平は、中国共産党ではエリート中のエリートだ。若いときには文化大革命で父とともに苦労され、共産党入党後は早くから大きな仕事をやってきた。だからある意味、苦しむ人の気持や、貧しい人の気持ちは、自分の体験として知っている。

周:毛沢東の教育を最も受けていた世代だ。文化大革命は何のためだったのか。私はいまこれに関する本を書こうとしているが、文化大革命の本質の一つは人作りだった。今の中国の指導者は、文化大革命の中で教育された世代だ。

 私の歴史観からすると、中国の改革開放が始まったのは1972年、ニクソン訪中と日中国交正常化があった年だ。新中国建国からそこへ持っていくまで相当時間がかかった。毛沢東のリーダーシップの元で世界が中国を受け入れた。今の北朝鮮は、世界に受け入れられないから苦しんでいる。

岸本:そうだ。

周:改革開放は6年後の1978年代に始まったというのが通説になっているが、毛沢東の偉大さを見落とし、鄧小平に改革開放の功績を全部持っていかれた故だ。

1972年2月、ニクソン大統領の中国訪問

■ 時代が決めた目標に応え、人民が採点


岸本:「決議」の抜粋の最後に、新時代の共産党101年目から150年まで、とある。中国共産党は結党以来の最盛期にあり、二つ目の100周年の奮闘目標、中長期的な目標に向けて歩き出した。何をすべきかは時代が決め、答えを書くのは共産党だ。採点するのは12億人の人民だ。これは建前かもしれないが、共産党の公式文書で明快に民主主義を謳っている。

周:本音で書いていると思う。

岸本:そうでなければ共産党が続くはずがない。

周:中国のリーダーは歴史評価を意識している。古来、中国の指導者は、皇帝も宰相も誰もが猛烈に意識するのが、後世に何を言われるのか、だ。

岸本:中国の普遍的な考えだ。中国が抱える課題は、12億人が素晴らしい生活をするために必要なものを供給できる社会だ。中華民族はずいぶん豊かになって発展したように見えても、需要と発展の不均衡があり「まだ道半ばで私達は世界最大の発展途上国」としている。経済成長が7%未満になったなど数字的な問題の先に課題があるとはっきり書いている。そのために次世代の育成をすると言う。清廉潔白で愛国心があり献身的で責任を果敢に負う次世代だ。そうした青年を育てるのは至極真っ当だ。

周:業績重視の幹部育成を非常に意識している。アメリカのように一期目の議員経験しかない人物が大統領になるのを幸せなこととは思えない。

岸本:そう思う。だから習近平も末端からのし上がた。引き抜き、飛び越えは一回もない。

 公式文書が拝金、享楽、自己中心、ニヒリズムの四つを打破すると言うのはインパクトがある。国家が人心に踏み込んでいる。

周:鄧小平、江沢民の時代は経済発展を優先した。

岸本:私も覚えている。習近平は経済優先はよくないと是正しようとしている。「歴史決議」にはいろいろな意味があるが、日本人の私からすると、この部分が一番強い印象を与える。

 習近平が目指しているのは助け合うことだ。助け合うから共同富裕に到達する。格差は社会主義で是正していく。清王朝を振り返ると、皇帝がいて民は貧しい階級社会、格差社会だった。共産党が国家を担い社会を指導もする方が良かったと思うか。

周:レーガン、サッチャー、そして鄧小平のリーダーシップで1980年代から始まった自由主義経済の推進が、経済の効率化やグローバリゼーションそしてIT革命を加速し、人類規模の富の生産拡大をもたらした。中国も一気に豊かになった。しかし格差の拡大が中国のみならずアメリカ、日本にも広がり、世界的な課題になっている。日本は一億総中流社会から格差社会になった。アメリカでは格差拡大により、トランプを大統領に押し上げた。 

講義をする岸本氏と周牧之教授

周:2010年、中国国家発展改革委員会の秘書長だった楊偉民氏をはじめとする政策当局の幹部を集め『第三の三十年』という本を出した。新中国の発展段階を1949年から1979年、1980年から2009年、2010年から2039年の三つの三十年に分け、政策目標の違いを明らかにした。この本では、第三番目の三十年において格差の是正を大きな目標とするべきだと主張した。

 中国はもちろんアメリカもヨーロッパも日本も、格差の是正が大きな課題となっている。

(※後半はこちらから)

周牧之、楊偉民主編『第三個三十年』

プロフィール

岸本 吉生

ものづくり生命文明機構常任幹事

 1985年東京大学法学部卒業後通商産業省入省。経済産業省環境経済室長、中小企業庁経営支援課長、愛媛県警察本部長、中小企業基盤整備機構理事、九州経済産業局長、中小企業庁政策統括調整官、経済産業研究所理事、中小企業基盤整備機構シニアリサーチャー、中小企業庁国際調整官を経て現職。コロンビア大学国際関係学修士、日本デザインコンサルタント協会会員。

【論文】周牧之:世界三大科学技術クラスターパフォーマンスに関する比較分析(Ⅱ)

A Comparative Study of the Science and Technology Innovation Performance of Three Global Science and Technology Clusters

周牧之 東京経済大学教授

■ 編集ノート: 
 イノベーションと企業発展との関係は如何に?周牧之東京経済大学教授が論文の後半で、東京-横浜、広州-深圳-香港、北京の世界三大科学技術クラスターにおける企業発展を比較分析し、それぞれの特色を解き明かす。さらに北京の課題を整理し対策について提案する。

(※論文前半はこちらから)


1.広州-深圳-香港:メインボード上場企業数が最多


 イノベーションと企業との関係を探るため、本論は三大クラスターの企業パフォーマンスも比較した。

 上場企業は最も活力のある経済主体の一つである。上場企業数は地域の総合的な経済力を表している。

 北京証券取引所が2021年11月15日に開設され、上海証券取引所、深圳証券取引所に続く中国本土の3番目の証券取引所となった[1]

 本論は、中国本土の三大証券取引所と香港証券取引所、そして東京証券取引所に上場する三大クラスターの企業数を抽出して比較した。

 メインボードにおいては、広州-深圳-香港の上場企業数は1,596社と最も多く、東京-横浜はそれに続き1,517社であった。一方、北京の上場企業数は447社と、他の二つの科学技術クラスターの三分の一に過ぎなかった。

2.東京-横浜:ベンチャー企業上場企業数が最多


 主要な証券取引所はメインボード以外にも、ベンチャーや中小企業などを受け入れる市場を併設している。上海証券取引所の科創板[2]、深圳証券取引所の創業板[3]、そして東京証券取引所のグロース市場[4]がこれに相当する。本論は、これらの市場に上場する三大クラスターの企業数も抽出し比較した。

 東京-横浜は、東京証券取引所グロース市場の上場企業数が383社に達している。

 一方、広州-深圳-香港と、北京は、上海証券取引所科創板と深圳証券取引所創業板のいずれかに上場する企業数が、それぞれ210社と169社であった。

図1 三大クラスターメインボード上場企業数、グロース上場企業数、フォーチュン・グローバル500企業数比較

注1:ここでのメインボード上場企業数は、日本企業の場合、東京証券取引所のプライム市場に上場する企業のデータを使用している。
注2:ここでのグロース上場企業数は、中国企業の場合、上海証券取引所の科創板、深圳証券取引所の創業板に上場する企業のデータを使用している。
出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2021』より作成。

3.北京のフォーチュン・グローバル500企業数:広州-深圳-香港の2.8倍


 世界的に評価されている企業の中で、三大クラスターに立地する企業数を比較した。本論は2022年版「フォーチュン・グローバル500」[5]から、三大クラスターに立地する企業を抽出した。「フォーチュン・グローバル500」は、世界の企業間での収益ランキングとしての認識が高い。同ランキングに名を連ねることは、企業の国際的な競争力と認知度を示している。

 フォーチュン・グローバル500の企業数は、北京が最も多く、56社にのぼる。広州-深圳-香港は20社で、二つのクラスターの同企業数は中国全体145社の半分を占めている。

 一方、東京-横浜の同企業数は36社で、日本全体47社の77%を占めている。

 以上の分析から、三大クラスターの中で、北京の上場企業数は最少だが、フォーチュン・グローバル500企業数は最多であることが見て取れる。

4.北京のユニコーン企業数:東京-横浜の12倍


 ユニコーン企業とは、企業の評価額が10億ドル以上に達しながら上場していないスタートアップ企業を指す[6]。ユニコーン企業の数は、地域が新興企業やベンチャーキャピタルを引き付ける能力を示す指標として注目されている。

 本論は、米国の研究機関であるCB Insights社[7]による2022年のデータに基づき、三大クラスターのユニコーン企業数を抽出し分析した。

 ユニコーン企業数では、北京が圧倒的に多く、61社に達している。広州-深圳-香港地域は30社である。両クラスターが、中国のユニコーン企業全168社の約54%を占めている。東京-横浜のユニコーン企業は5社にとどまり、北京の8%に過ぎない。

5.北京:本社機能が集中する一方で、研究開発への投資は低水準


 大手企業の本社が北京に集中していることは、中国経済の一つの特徴である。前述したように、北京には56社のフォーチュン・グローバル500企業がある。これは中国の同企業数の39%に当たる。政府が所有する大手国有企業、特にいわゆる「中央企業」の半数以上が、北京に本社を構えている。

 しかし、北京に集中する本社機能の中で、研究開発の機能は低い。

 北京市と全国各都市の研究開発経費の内訳を比較分析した結果、2021年の北京の研究開発経費に占める企業、政府研究機関、大学の割合は、それぞれ43.2%、43.6%、11.1%となった。これに対して全国平均の企業、政府研究機関、大学の同割合は、それぞれ76.9%、13.3%、7.8%となっている。

 全国平均と比べ、北京の研究開発経費支出の内訳は、政府研究機関が突出し、企業の比重は低い。

 本論では、GIIのレポートが公表する世界のPCT申請件数トップ50企業の所在地を抽出し、分析した。2021年には、同トップ50に、中国から13社がランクインした。うち深圳は7社で、全国の半数以上を占めた。これに対して本社が集中する北京からは、わずか3社のランクインとなった。

 これに対して、広州-深圳-香港は、実践的なイノベーションが地域の活力を盛り立てている。特に深圳を代表するハイテク企業であるファーウェイ[8]、ZTE[9]、DJI[10]、テンセント[11]などが研究開発への大規模な投資を行い、研究成果の実用化も進んでいる。

6.北京市への提案


 本研究で得られた分析結果や知見をもとに、筆者は北京市政府に改善の政策提案を行った。本論の最後にこれらの提案について簡単に紹介する。

(1)社会実装戦略

 「北京のイノベーションは、学術研究レベルは高いが、実戦能力は相対的に弱い」というジンクスに対して筆者は、社会実装でイノベイティブな企業を育てる戦略を提示した。

 北京は巨大なエリアと経済力を持つ。その強みを活かし、北京で新エネルギーシステム、LRT[12]を始めとする次世代公共交通システム、スマートシティ技術による都市デジタル化[13]、新型省エネ建築[14]などの実装を積極的に進め、北京の都市インフラ水準を向上させると同時に、これらの領域において、イノベイティブな企業を発展させる。

 実装戦略の成功例として、新幹線が挙げられる。1964年に日本が世界で初めて新幹線を実装し、国土経済の高速化を実現するとともに、多数の新幹線関連企業を発展させた。同様に、中国も大規模な高速鉄道(新幹線)の実装を通じて、巨大な高速鉄道経済生態圏を育成した。現在、その高速鉄道システムを海外へも輸出している。一方、アメリカは高速鉄道の実装を行わなかったため、同分野で関連企業をほとんど育てられなかった。 

 新エネルギー産業の発展も実装と密接に関連している。例えば、東京では新エネルギー技術の実装計画が進行中である。現状の、周辺地域で大規模に発電し、それを長距離輸送して東京で消費する電力供給構造に対して、東京都は屋根での太陽光発電パネルを普及させることで、「大規模集中発電+長距離送電」から「電力自産自消」への転換を図る計画を立てている。これによりエネルギー構造の転換、効率と安全性の向上を図りつつ、太陽エネルギー、水素エネルギー、ITなどの関連企業の発展を促す[15]

 北京の電力供給構造が東京と類似していることを考慮し、北京は東京が現在電力構造転換に向けて実施する政策的、制度的な試みを研究し、新エネルギー技術を用いて電力構造を改革する実装案を、早急に実施すべきであると提案した。

(2)税制政策で研究開発機能を強化

 イノベーションの促進には、産学官の連携が欠かせない。日本の経験は、この点で参考になる。

 日本政府は主要な研究開発分野で産学官協力を推進し[16]、企業と研究機関が共同で研究開発体制を築くことを重視している。強力な「国家チーム」の形成、政府資金を投じた研究開発の成果を関連企業で共有、該当分野での技術力の総体的な向上、国際的な競争力の向上などが図られている。

 例として、東京都が水素エネルギーの開発を進める際の取り組みは、注目に値する。福島県にある国の水素エネルギー研究基地と協力し[17]、さらに都内の各区、大学、協会、企業など100以上の団体と共同で「Tokyoスイソ推進チーム」を設立し[18]、産学官間の協力を一層強化している。北京市でも類似の取り組みが検討できる。

 筆者はさらに北京政府に、企業本社機能における研究開発機能を強化するための税制政策を講じるべきであると提案した。

(3)北京証券取引所をイノベイティブな中小企業の資本市場に

 北京の上場企業数は三大クラスターの中で最も少ない。その一因として、北京にはつい最近まで証券取引市場が存在しなかったことが考えられる。東京、香港、深圳にはそれぞれ証券取引所があり企業の成長を引っ張ってきた。資本市場の重要性は無視できない。

 北京のユニコーン企業数は、三大クラスターの中で圧倒的に多い。これは北京のベンチャーキャピタルを引き付ける魅力を示している。北京における証券取引所の設置は、イノベイティブな企業に更なるチャンスをもたらすであろう。

 北京証券取引所の設立から1年以上が経過した。その実績は、上場企業のうち中小企業の割合は93%、民間企業は92%となっている。上場企業の80%以上がいわゆる「戦略的新興産業」[19]や「先進製造業」[20]である。

 北京にはもともと「新三板」と呼ばれる全国中小企業株式移転システムがある[21]。これは、北京証券取引所の上場予備軍として巨大なポテンシャルを蓄えている。実際、これまで北京証券取引所に上場した企業の多くは、新三板から昇格した。2022年の新三板には6,580社が上場しており、総時価総額は約42兆円(2.1兆元)に達している。新三板に上場する北京の企業は913社にのぼり、広州-深圳-香港の1.5倍である。

 筆者は、北京が資本市場の役割を更に重視し、新三板に上場する企業を活かし、北京証券取引所をイノベイティブな中小企業の資金調達市場として発展させることを提案した。そのため、北京証券取引所を中心に、中小企業の発展を支援するベンチャーキャピタル、証券会社、法律事務所などのエコシステムの形成をも重視すべきである。

 さらに、北京証券取引所を「一帯一路」[22]につながる国と地域に開放し、北京を中小企業発展の国際的なプラットフォームとすることが望ましい。

(4)北京をアジア最大の国際会議センターに

 グローバリゼーションが進む時代において、分業を重視する製造業は交易経済であるのに対して、IT産業などイノベーションを重視する産業は、交流経済である。人的交流を重視するイノベイティブな企業はいま、世界経済を牽引し、都市の革新的な発展のエンジンとなっている。2023年6月末現在、世界時価総額企業トップ10の中で、アップル、マイクロソフト、グーグル、アマゾン、NVIDIA、テスラ、フェイスブック、TSMCの8社がまさしくこうしたイノベイティブなIT企業である。

 「中国都市総合発展指標」の「中国都市IT産業輻射力2022」[23]ランキングでは、北京、上海、深圳、杭州、広州、成都、南京、重慶、福州、武漢がトップ10に名を連ねている[24]。首位の北京は中国IT従業者の19%、メインボード上場IT企業の28.7%を占め、圧倒的な優位性を誇っている。

 本論は、「中国都市製造業輻射力」と「中国都市IT産業輻射力」の、都市インフラやサービスとの相関関係分析を行った。両輻射力が都市に求めるインフラとサービスが異なることが明らかとなった。広域交通インフラについては、製造業輻射力は主にコンテナ港との関係が深く[25]、IT産業輻射力は国際空港との関連性が高かった。

 また、製造業輻射力は、貿易との相関関係が高く、IT産業輻射力は国際会議との相関関係が高い。これは、製造業が交易経済で、IT産業が交流経済であることを示している。

 さらに、IT産業輻射力は、飲食・ホテル業輻射力、高等教育輻射力、文化・娯楽輻射力、医療輻射力との関連性も高いのに対して、製造業輻射力は、これらの都市機能との相関関係が低い。

 こうした分析から、交流経済の代表格としてのIT産業従業者による教育水準及び都市サービスへの要求は、製造業従事者のそれと比べ、はるかに高いことがわかった。

 上記の分析に基づき、筆者は、北京をアジア最大の国際会議センターとするよう目指し、国際交流を促し、交流経済を一層発展させるよう提案した。


[1] 現在、中国本土には上海証券取引所、深圳証券取引所、そして北京証券取引所の三大証券取引所がある。上海証券取引所は、1990年11月26日に上海の浦東新区に設立された。同取引所は、主に大手企業や業界の先導的企業を対象とし、メインボード(主板)を中心にサービスを提供している。さらに、2019年にはハイテク企業の成長をサポートするための新しい市場、科学技術イノベーションボード(科創板)が開始された。深圳証券取引所は、1990年12月1日に広東省の深圳市で設立された。同取引所は、中国の多様な経済ニーズに応えるため、メインボード、中小企業ボード、そしてベンチャーボード(創業板)という三つの市場を有している。特に、中小企業や新興企業をサポートすることを重視している。北京証券取引所は、中小企業のイノベイティブな発展をサポートしている。同取引所は、イノベーション型、創業型、成長型の中小企業向けの株式市場として2021年9月2日に設立された。

[2] 上海証券取引所の科創板(科技創新板)は、2019年に新設され、イノベイティブな企業を対象とし、特に新興のテクノロジー企業やスタートアップにとって、資金調達の新たな場となっている。従来の取引板と比べて上場要件が緩和されている。

[3] 深圳証券取引所の創業板は2009年に設立され、成長性の高い中小企業を対象とする。特にイノベイティブなスタートアップにとって、資金調達の場となっている。従来のメインボードに比べ上場要件が緩和され、黒字化していない企業や業績履歴の短い企業でも上場が可能となっている。

[4] 東京証券取引所のグロース市場は、2022年4月4日に導入された新市場区分の一部であり、比較的規模の小さい企業などが参加する市場である。同新市場区分は、企業の流動性、ガバナンス水準、経営成績、財政状態などの項目に基づいて「プライム市場」、「スタンダード市場」、「グロース市場」の3つに区分されている。グロース市場は「高い成長可能性を有する企業向けの市場」と位置づけられている。

[5] フォーチュン・グローバル500は、アメリカの経済誌「フォーチュン」が毎年発表する、総収益を基にランキングした世界の上位500社の企業リストである。同ランキング2022年版では、国別数で1位が中国で136社、2位がアメリカで124社、3位が日本で47社だった。フォーチュン・グローバル500について詳しくは、フォーチュン誌のホームページ(https://fortune.com/ranking/global500/)(最終閲覧日:2023年8月14日)を参照。

[6] ユニコーン企業とは、未上場のスタートアップ企業の中で、創業から10年以内、企業評価額が10億ドル以上で、テクノロジー分野に属するものを指す。

[7] CB Insights社は、テクノロジー産業やスタートアップのトレンド、投資、マーケット動向に関するデータと分析を提供するアメリカの市場調査会社である。同社は、ベンチャーキャピタル、企業、投資家、政府機関などのクライアントに対して、データベース、調査レポート、市場予測などの情報サービスを提供する。CB Insights社について詳しくは、同社ホームページ(https://www.cbinsights.com/)(最終閲覧日:2023年8月14日)を参照。

[8] ファーウェイ(華為技術)は、深圳市に本社を置く、通信機器および情報通信技術ソリューションの提供を行う新興企業である。1987年に創業し、現在はスマートフォン、タブレット、PC、ネットワーク機器、クラウドサービスなどの製品やサービスを提供している。同社は、通信ネットワークや、5G技術、スマートフォンなどにおいて世界の先頭を行く。そのためアメリカからかなり制約をかけられている。それにも関わらず、同社は積極的なイノベーションとグローバル展開を続け、情報通信技術産業における主要なプレイヤーとしての地位を確立している。PCT申請件数ランキングで、ファーウェイは5年連続で世界第1位を維持している。

[9] ZTE(中興通訊)は、深圳市に本社を置く、ファーウェイと並ぶ大手通信機器メーカーである。ZTEは、1985年に創業され、モバイル通信機器、ネットワーク機器、通信ソリューションなどの製品やサービスを提供しており、世界中での通信ネットワークの構築や研究開発において活動している。1997年に深圳証券取引所および2004年に香港証券取引所に上場し、2023年8月11日の時点で、ZTEの市場時価総額は約1,693億元(約3兆3,860億円)である。同社は、約7万人の従業員を抱えている。ZTEは、その技術力とグローバル展開を通じて、情報通信技術産業における主要なプレイヤーとしての地位を確立している。しかし、ZTEもアメリカから制裁を受けた。

[10] DJI(大疆創新科技)は2006年に創業した深圳市に本社を置くドローン製造企業である。同社は、高い技術力とブランド力で世界のドローン産業発展を牽引してきた。

[11] テンセント(腾訊)は、1998年に設立された深圳市に本社を置くハイテクノロジー企業である。同社の事業は、インターネット関連サービスやエンターテインメント、AIに及ぶ。特にソーシャルメディアプラットフォーム「WeChat」やオンラインゲームで知られる。

[12] 次世代型路面電車システム(LRT: Light Rail Transit)は、近年の都市交通の発展とともに注目される交通手段である。LRTは、都市の中心部や郊外を結ぶ軽軌道交通システムを指し、その特徴は、低床設計、環境に優しい電気駆動、そして都市の景観や歩行者空間との調和を重視したデザインにある。次世代型としてのLRTは、従来の路面電車やトラムとは異なり、より高速で効率的な運行を可能とし、騒音や振動が少ないことから、都市部での導入が進められている。また、バスや自動車と比べても大量の乗客を一度に輸送できるため、交通渋滞の緩和や公共交通の利便性向上に貢献している。筆者はLRTの中国での普及を提唱してきた。筆者が総合プロデューサー・総括を務めた「中国江蘇省鎮江生態ニューシティマスタープラン」ではLRTをベースにした100万人都市の計画をまとめた。

[13] スマートシティ技術の導入により、都市の運営やサービスが効率化され、市民生活の質の向上がはかられる。IoT、ビッグデータ、AIのような先進技術を利用した都市管理システムの開発と導入は、都市経済の新しい成長エンジンと成り得る。

[14] 建築のエネルギー消費を削減するための新しい技術や材料の採用は、都市のエネルギー効率を向上させる鍵となる。

[15] 東京都は、2050年までの温室効果ガス排出量を実質0%にする目標「2050年ゼロエミッション」と、2030年までの排出量を2000年基準で50%削減する目標「2030年カーボンハーフの実現」を掲げている。この取り組みの一環として、2025年4月から「新築建物を対象とした太陽光発電の設置義務化精度」を導入する予定である。この制度の対象は、延べ床面積2000平方メートル未満の新築建物で、年間延べ床面積2万平方メートル以上を施工・販売する業者約50社に限定される。地域の日照量に応じて、設置すべき建物の割合が区分され、都心部は30%、区部の大半は70%、市部の多くは85%と定められている。ただし、屋根面積20平方メートル未満の建物や日当たりの不良な建物は対象外とされる。義務達成が困難な場合、罰則は設けられていないが、都が指導や勧告、事業者名の公表を行うこととなっている。また、2000平方メートル以上の大規模建物や駐車場付きの住宅には、電気自動車の充電設備の設置も義務付けられている。

[16] 日本政府は、産学官の連携を強化するため2000年に制定の「産業技術力強化法」をはじめとする、研究者への特許料の減免措置や技術移転の促進など、具体的な施策を実施してきた。さらに、第2期(2001~2005年度)と第3期(2006年~2010年度)の科学技術基本計画では、大学における産学官連携や知財管理の部門設置が進められ、イノベーションの創出を重視している。

[17] 東京都は水素社会の実現を目指しており、その一環として燃料電池自動車の普及や水素ステーションの整備を進めている。さらに2016年5月に東京都は、再生可能エネルギーの導入を推進する先駆けの地として水素の研究開発を行う福島県、そして産業技術総合研究所と共に、CO2フリー水素や再生可能エネルギーの研究開発に関する協定を締結した。

[18] 東京都は水素エネルギーの普及を目的とし、官民連携の「Tokyoスイソ推進チーム」を2017年11月に設立した。同チームは、民間企業、業界団体、自治体、学校など、水素エネルギーの普及に関心を持つ119の団体から成る。都は同チームを通じて水素エネルギーの利活用を拡大し、情報の共有や共通の情報発信を行うことを目指す。

[19] ここでの「戦略的新興産業」とは、重要な先端科学技術の進展を基盤とし、未来の科学技術や産業の新たな方向性を示唆するとして中国政府が指定した産業である。同産業は、省エネ・環境保護、新世代情報技術、生物、ハイエンド設備製造、新エネルギー、新材料、そして新エネルギー自動車の7分野に区分される。

[20] ここでの「先進製造業」は、産業の高度化とイノベーションを代表するものとして中国政府が指定した分野であり、新世代情報技術、新素材、生物医学薬学、ハイエンド医療機器、高品質かつ高機能消費財、新エネルギー、インテリジェントネットワーク自動車などに及ぶ。

[22] 一帯一路は、2017年から中国が提唱する経済協力の枠組みである。具体的には、陸上の「シルクロード経済帯(一帯)」と海上の「21世紀の海上シルクロード(一路)」の2つのルートから成る。同枠組みは、アジア、ヨーロッパ、アフリカを結ぶ広域経済圏の形成を目指し、インフラ整備、貿易、投資、資源開発など多岐にわたる協力が進んでいる。

[21] 「新三板」とは、中国における「全国中小企業株式転換システム」の通称である。これは、中小企業の資本を調達するための非公開株の取引プラットフォームとして、2006年に設立された。新三板は、上海と深圳の証券取引所に上場する前のステップとして、中小企業が資本市場にアクセスするための橋渡しの役割を果たす。

[23] 「中国都市総合発展指標」で使用する「輻射力」とは都市の広域影響力の評価指標であり、都市のある業種の商品やサービス移出・移入量を、当該業種従業者数と全国の当該業種従業者数の関係、および当該業種に関連する主なデータを用いて複合的に計算した指標である。

[24] IT産業輻射力について詳しくは、雲河都市研究院「【ランキング】中国IT産業スーパーシティはどこか?〜2020年中国都市IT産業輻射力ランキング」(https://cici-index.com/3957/)(最終閲覧日:2023年8月14日)を参照。

[25] 製造業輻射力について詳しくは、雲河都市研究院「【ランキング】中国で最も輸出力の高い都市はどこか? 〜2020年中国都市製造業輻射力ランキング」(https://cici-index.com/3888/)(最終閲覧日:2023年8月14日)を参照。


(本論文では栗本賢一、甄雪華、趙建の三氏がデータ整理と図表作成に携わった)


 本論文は、周牧之論文『世界三大科学技術クラスターパフォーマンスに関する比較分析』より抜粋したものである。『東京経大学会誌 経済学』、319号、2023年。

【論文】周牧之:世界三大科学技術クラスターパフォーマンスに関する比較分析(Ⅰ)

A Comparative Study of the Science and Technology Innovation Performance of Three Global Science and Technology Clusters

周牧之 東京経済大学教授

■ 編集ノート: 
 世界で最も集積度の高い科学技術クラスターは何処か?周牧之東京経済大学教授が論文の前半で、東京-横浜、広州-深圳-香港、北京という世界三大科学技術クラスターのパフォーマンスを比較分析し、それぞれの特色を解き明かす。


始めに


 世界知的所有権機関(以下、WIPO)[1]は2022年9月、「グローバル・イノベーション・インデックス(以下、GII)」[2]報告書を公開し、世界の科学技術クラスター(以下、クラスター)のランキングを発表した。これは、各国・地域における科学技術の集積を評価するものである。同年、東京-横浜、広州-深圳-香港、そして北京がこの評価でトップ3に名を連ね、イノベーションにおけるアジアの存在感を示した[3]

 GIIによるクラスター評価は2017年に始まって以来、毎年公表されている。東京-横浜、広州-深圳-香港の2つのクラスターは、これまでのランキングでも常に第1位と第2位を維持してきた。一方、北京は2017年の第7位から2021年の第3位へと大きく順位を上げている。

 GIIランキングは、PCT出願件数[4]とクラリベイト・アナリティクス[5]が提供する「Science Citation Index Expanded(SCIE)」[6]に掲載される科学論文出版数を主要な指標として使用する。

 本論は、この二つの指標に、『中国都市総合発展指標』[7]のデータシステムをも活用し、三大クラスターのイノベーション活動のより包括的な評価を試みた。さらに北京のイノベーションセンターとしての在り方についていくつかの提案を行った[8]

1.異なる強みを示す三大クラスター


 GIIランキングは、発明者や科学論文著者の所在地情報から各クラスターを評価しているのが特徴である。GII の2017年版では、PCT出願件数のみが評価の基準として採用されていた。2018年から科学論文の指標が追加された。

 本論はまず、この二つの指標で、三大科学技術クラスターの実績を詳しく比較分析し、各クラスターの特性を明らかにする。

表1 2018年の三大科学技術クラスターの実績

注:科学論文の発表データは2012年~2016年のものである。
出典:世界知的所有権機関(WIPO)「グローバル・イノベーション・インデックス」報告書より作成。

表2 2022年の三大科学技術クラスターの実績

注:科学論文の発表データは2012年~2016年のものである。
出典:世界知的所有権機関(WIPO)「グローバル・イノベーション・インデックス」報告書より作成。

(1)東京-横浜:科学論文の発表よりも特許申請が活発

 表1および表2に示すように、東京-横浜は、日本のイノベーションセンターとして、特にPCT出願において強みを持つ。

 東京–横浜の特許申請数は2018年には104,746件となり、世界の11%を占め、2位の広州-深圳-香港を約6ポイント上回った。2022年には特許申請件数が122,526件に達し、世界シェア第1位を保持した。但し、広州-深圳-香港の追い上げを受け、同クラスターとの差は2.5ポイントにまで縮小している。

 一方、東京-横浜の科学出版物論文発表数における優位性は近年、著しく低下している。2018年には、141,584件の科学論文が発表され、1.8%の世界シェアで、世界第2位だった。しかし、2022年には同発表数が2018年比で20%減少し、世界シェアも1.6%に下がり、世界第5位にまで落ち込んだ。

 つまり、東京-横浜においては、科学論文の発表よりも特許申請の方がより活発であり、イノベーションの実用性が重視されている。

 三大クラスター間のギャップは、この4年間で縮小している。この傾向は、東アジアにおけるテクノロジー競争の激化を反映している。

(2)広州-深圳-香港:特許申請と論文発表で急速に追い上げ

 広州-深圳-香港は、近年の中国経済の発展により、イノベーションセンターとしての地位を急速に上げてきた。特に深圳は、「中国のシリコンバレー」とも称される。

 同クラスターは、特許と科学論文の両面で急成長している。2018年のPCT出願件数は48,084件、5.1%の世界シェアで、世界第2位であった。2022年には、PCT出願件数が2018年の倍に達し、世界シェアが8.2%となり、東京-横浜との差が大幅に縮まった。

 同クラスターが発表した科学論文は2018年には40,920件で、世界シェアはわずか0.5%、世界第32位だった。しかし、2022年には科学論文の発表数が2018年の3倍以上に激増し、世界シェアが1.9%に上昇、東京-横浜を超えて世界第3位に躍進した。

(3)北京:科学論文の発表で優位に

 中国の首都北京は、国のイノベーションセンターであり、科学論文の発表において圧倒的な強みを持っている。

 北京の科学論文発表数は2018年、197,175件に達し、世界シェア2.5%で、東京-横浜の1.4倍となり、世界第1位を獲得した。2022年には、北京の科学論文発表数は2018年に比べ24%増加し、世界シェアを3.7%に伸ばし、世界第1位を維持した。

 これに対して、北京の特許申請はまだ追い上げ途上にある。2018年のPCT出願件数は18,041件で、世界シェア1.9%、世界第8位だった。2022年には世界シェアを2.8%に伸ばし、世界第6位に上昇した。

 中国科学院[9]、清華大学、北京大学など一流の大学と研究機関が、北京の科学論文力の強固な基盤を作り上げている。科学論文発表数の持続的な増加が、世界的な科学技術クラスターとしての北京の地位を固めている。

2.北京:行政地区の面積が最大、人口規模が第二、経済規模が最小


 図1が示すように、三大クラスターの中で、北京の行政地区面積は最大で、16,410平方キロメートルに達し、広州-深圳-香港の1.3倍、東京-横浜の6.2倍となる。

 人口規模は、広州-深圳-香港の人口が最も多く4,390.5万人で、これは北京の2倍、東京-横浜の2.5倍である。

 経済規模は、広州-深圳-香港のGDPが東京-横浜をわずかに上回り、約171兆円(8兆5,506億元、1元=20円換算、以下同様)に達する。対する北京の経済規模は、広州-深圳-香港の半分程度にすぎない。

 三大クラスターの中では、東京-横浜の人口一人当たりGDPが最も高く、926万円(約46.3万元)である。これに対して、広州-深圳-香港と、北京の一人当たりGDPはそれぞれ約390万円(19.5万元)、約380万円(19.0万元)である。東京-横浜の人口一人当たりGDPはこの二つのクラスターのそれぞれ約2.4倍となっている。

図1 三大科学技術クラスター行政区域面積・人口規模・GDP比較

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2021』などより作成。

3.北京:研究開発強度は最高


(1)研究開発費:東京-横浜が最大

 三大クラスターの中で、東京-横浜の研究開発費が最も多く、105.9兆円(約5兆2,950億元)に達している。これは広州-深圳-香港の1.2倍、北京の2倍である。一方、広州-深圳-香港の研究開発費は北京の1.7倍となっている。

 北京は三大クラスターの中で研究開発費総額が最も少ない。

(2)研究開発強度:北京が最大

 国や地域の経済規模は異なるため、研究開発費を比較する際、研究開発費とGDPの比率、即ち「研究開発強度」[10]という指標が利用されることが多い。

 三大クラスターの中で、北京の研究開発費の総額は最も少ないにも関わらず、その研究開発強度は6.5%と最も高く、東京-横浜をわずかに上回り、広州-深圳-香港を1.2ポイント上回る。

(3)研究開発人員数:北京が最少

 研究開発を推進する上で、人員の投入は非常に重要な要素である。三大クラスターの中で、広州-深圳-香港と東京-横浜の研究開発人員数はそれぞれ643,000人、629,000人と、大きな差は見られない。北京の同人員数は473,000人で、他の2つのクラスターの四分の三に過ぎない。

(4)研究開発人員1人当たり研究開発費:東京-横浜が最多

 研究開発人員1人当たり研究開発費から見ると、東京-横浜が最も多い1,684万円(約84.2万元)である。広州-深圳-香港の約1,368万円(68.4万元)が続き、北京は約1,112万円(55.6万元)と最も少なく、東京-横浜の66%にすぎない。

図2 三大クラスター研究開発人員・研究開発費・研究開発強度比較

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2021』などより作成。

4.北京:アジア随一の大学を持ちながら大学数と大学生数は最少


 大学はイノベーション人材を育成する“ゆりかご”であり、同時に研究開発の重要な拠点である。本論は、三大クラスターの大学リソースについても比較する。

(1)大学数:東京-横浜が最多

 東京-横浜には、大学が159校あり、三大クラスターの中で大学数が最も多い。次いで広州-深圳-香港が113校、北京は92校で東京-横浜の58%に過ぎない。

(2)大学生数:広州-深圳-香港が最多

 広州-深圳-香港は、在籍する大学生数が170.2万人と最も多い。東京-横浜は85.1万人、北京は59万人で広州-深圳-香港の35%に過ぎない。これは、中国が北京での大学設置と定員数を厳しく制約していることを反映している。

(3)北京:トップ500の大学数は最少

 タイムズ・ハイアー・エデュケーション[11]が2022年に発表した「世界大学ランキング」[12]によれば、トップ500にランクインした大学数では、東京-横浜が42校で、広州-深圳-香港の16校、北京の14校を圧倒した。

 北京は同ランキング内でアジアトップ10大学第1位の清華大学と第2位の北京大学を有している。東京-横浜は、同アジアトップ10大学に東京大学が第6位と1校がランクインしている。広州-深圳-香港は、第4位に香港大学、第7位に香港中文大学、第9位に香港科技大学の3校が入った。

 すなわちアジアトップ10大学には三大クラスターから6校も占めている。

図3 三大クラスター大学数・在籍大学生数・世界トップクラス大学数比較

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2021』などより作成。

5.北京:学術研究レベルは高いが、実戦能力は相対的に弱い


 前述までの分析から、北京は、三大クラスターの中で研究開発人員数、研究開発経費、研究開発人員1人当たり研究開発費が最も少ない。しかし、研究開発強度が最も高い。中国の地級市以上の297都市[13]の中でも北京は、研究開発強度が最高である。これは北京のイノベーションに対する積極姿勢を表している。

 さらに北京には、清華大学、北京大学、中国科学院を始めとする一流の大学及び研究機関が集積し、中国の三分の一の「国家重点実験室」[14]を配している。また「二院院士(中国科学院・中国工程院士)」[15]の半数近くが北京に在職している。

 結果、北京は科学論文の発表数で他のクラスターを圧倒し、特許のPCT出願件数でも追い上げている。

 だが、東京-横浜と広州-深圳-香港に比べ、北京のイノベーションの産業界との協働はやや弱い。


[1] 世界知的所有権機関(WIPO: World Intellectual Property Organization)は、国際連合の専門機関として知的所有権に関する国際協力を促進している。WIPOは、1970年に設立され、本部はスイスのジュネーヴにある。

[2] グローバル・イノベーション・インデックス(GII: Global Innovation Index)とは、WIPOや欧州経営大学院、コーネル大学などの協力のもと、2007年から毎年発表され、132国・地域のイノベーション能力や実績を評価する指標である。同インデックスでは、2017年から「科学技術クラスター」の100位までのランキングを公表している。GII科学技術クラスターについて詳しくは、WIPOのホームページ(https://www.wipo.int/about-wipo/ja/offices/japan/news/2022/news_0034.html)(最終閲覧日:2023年8月14日)を参照。

[3] 2022年度版のGII科学技術クラスターランキング上位10地域は、東京-横浜が第1位、広州-深圳-香港が第2位、北京が第3位、ソウルが第4位、サンノゼ-サンフランシスコが第5位、上海-蘇州が第6位、大阪-神戸-京都が第7位、ボストン-ケンブリッジが第8位、ニューヨークが第9位、パリが第10位と続く。日本では他に名古屋が第12位にランクインし、金沢が第80位、浜松が第85位となっている。

[4] PCT出願とは、「特許協力条約(PCT: Patent Cooperation Treaty)」に基づく国際特許出願を指す。PCTは、1970年に締結され1978年に発効、2023年現在、157カ国・地域が加盟。特許出願者が一つの出願を行うことで、PCT加盟国であるすべての国や地域での特許保護を求めることができる国際的な制度である。

[5] クラリベイト・アナリティクス(Clarivate Analytics)は、研究情報や特許情報、学術出版情報などの分析・提供を行う国際的な企業である。同社は、多くのデータベースやツールを提供しており、その中でも学術論文の引用情報を中心にした研究情報データベース「Web of Science」や特許情報の包括的なデータベース「Derwent World Patents Index」などは、学術研究や特許情報の分析に広く利用されている。

[6] Science Citation Index Expandedとは、学術論文の引用情報を中心に収集・提供するデータベースである。SCIEは、クラリベイト・アナリティクス社が提供する「Web of Science」の一部として存在し、自然科学や社会科学の分野における論文の引用情報を広範囲にわたってカバーしている。同データベースは、論文の引用情報を提供することで、研究の影響度や質を評価するための重要なツールとして利用される。また、特定の研究者や研究機関の業績を評価する際の基準としても活用されている。SCIEについて詳しくは、クラリベイト・アナリティクス社のホームページ(https://clarivate.com/products/scientific-and-academic-research/research-discovery-and-workflow-solutions/webofscience-platform/web-of-science-core-collection/science-citation-index-expanded/)(最終閲覧日:2023年8月14日)を参照。

[7] 『中国都市総合発展指標』は、雲河都市研究院と中国国家発展改革委員会発展戦略和計画司(局)が共同開発した都市評価指標である。2016年以来毎年、内外で発表している。同指標は、環境・社会・経済という3つの軸(大項目)で中国の都市発展を総合的に評価している。評価対象は、中国297地級市以上都市(日本の都道府県に相当)全てをカバーし、評価基礎データは882個に及び、その内訳は31%が統計データ、35%が衛星リモートセンシングデータ、34%がインターネットビッグデータである。その意味で、同指標は、異分野のデータ資源を活用し、「五感」で都市を高度に知覚・判断できる先進的なマルチモーダル指標システムである。同指標は、中国語で『中国城市総合発展指標』人民出版社、日本語で『中国都市ランキング』NTT出版、英語で『China Integrated City Index』Pace University Pressが書籍として出版されている。『中国都市総合発展指標』について詳しくは、周牧之ら編著『環境・経済・社会 中国都市ランキング2018―大都市圏発展戦略』、NTT出版、2020年10月10日を参照。

[8] 北京市人民政府参事室の要請を受け、筆者は2023年4月に『世界三大技術クラスターの技術革新パフォーマンスに関する比較研究(全球三大科技集群科技創新表現比較研究)』レポートを提出した。

[9] 中国科学院(CAS: Chinese Academy of Sciences)は、中国の国立研究機関であり、自然科学と高度技術の研究・開発を行う最も権威ある学術機関である。1949年に設立され、現在は多数の研究所や実験室を持つ。中国科学院は、基礎研究から応用研究、技術革新に至るまでのさまざまな研究活動を行い、国内外の学術交流や協力も積極的に進める。筆者は2012年より中国科学院科技政策与管理科学研究所特任研究員を5年間務めた。

[10] 研究開発強度は、研究開発費をGDPや売上高などの経済指標で割った値として表され、研究開発への投資意欲や技術革新への取り組みの度合いを示す。

[11] タイムズ・ハイアー・エデュケーション(Times Higher Education)は、高等教育に関する専門誌である。同誌は、高等教育機関のニュース、意見、特集記事などを提供しており、教育関係者や研究者、学生などの間で広く読まれている。

[12] 「世界大学ランキング(Times Higher Education World University Rankings)」は、世界中の高等教育機関を評価・ランキングする主要な指標の一つである。同ランキングは、タイムズ・ハイアー・エデュケーション誌が毎年発表している。ランキングは、教育環境、研究(研究のボリューム、収入、評判)、論文の引用数(研究の影響)、国際的展望(スタッフ、学生、研究)、産業収入(知識移転)の指標を基に、大学の総合的な実力や影響力を評価している。特に、研究の質や影響、国際的な連携や協力の度合いなどが重視されている。世界大学ランキングについて詳しくは、タイムズ・ハイアー・エデュケーション誌のホームページ(https://www.timeshighereducation.com/world-university-rankings)(最終閲覧日:2023年8月14日)を参照。

[13] 地級市以上の297都市は、4つの直轄市、27の省都・自治区首府、5つの計画単列市と261地級市から成る。中国の都市の行政区分について詳しくは周牧之など編著『環境・社会・経済 中国都市ランキング−中国都市総合発展指標』NTT出版、2018年6月、p5を参照。

[14] 国家重点実験室とは、中国の特定研究分野や技術領域における先端的な研究を行うための研究機関である。

[15] 院士とは、中国における最高の学術称号であり、二院院士とは、中国科学院(CAS)と中国工程院(CAE)の院士を総称して呼ぶものである。この称号は、科学とエンジニアの分野で特筆すべき業績を上げた研究者や専門家に与えられる。


(本論文では栗本賢一、甄雪華、趙建の三氏がデータ整理と図表作成に携わった)


 本論文は、周牧之論文『世界三大科学技術クラスターパフォーマンスに関する比較分析』より抜粋したものである。『東京経大学会誌 経済学』、319号、2023年。

(※論文後半はこちらから)

【論文】周牧之:増え続ける世界そして中国の人口をどう養うか?(Ⅱ)

How to feed the growing world and Chinese population?

周牧之 東京経済大学教授

■ 編集ノート: 
 誰が中国を養うのか?論文の後半は、中国が巨大な人口を如何に養ってきたか、また世界最大の食糧輸入大国としての中国が何処から何を輸入しているのか、について、周牧之東京経済大学教授が解き明かす。さらに『中国都市総合発展指標』のデータシステムを活用し、衛星データのGIS解析を駆使して、中国における都市レベルの食糧生産に関する実態を分析する。中国の農業生産性が最も高い地域はどこか。そして中国は将来、食糧問題にどう取り組むべきか。

(※論文前半はこちら)


1.『誰が中国を養うのか』の衝撃


 1995年にアメリカの学者レスター・ブラウンが著書『誰が中国を養うのか』[1]を発表した。同氏は、13億人口を持つ中国の食糧供給能力、そして世界の食糧供給網に及ぼす潜在的な影響に対して強い危機感を示した。

 ブラウン氏の主張に煽られ、当時の朱鎔基首相が急進的な食糧生産拡大政策を進めた[2]。しかし、その後中国の主食である小麦とコメの供給力が国内で満たされ、ブラウン氏の予言は当たらなかった。むしろ、食糧増産政策による過度な開墾が環境問題を引き起こした。その後、中国政府は傾斜面など一部の耕地を森林に戻す「退耕還林」政策[3]を採り、朱鎔基農業政策を修正した。

 図1では、1961年を起点とし、今日までの中国の人口、穀物耕地面積、穀物生産量、そして平均単位面積穀物生産量の推移を整理した。同図が示すように、中国の穀物生産量は人口増以上に増えてきた。この間、中国人口は約2.2倍になったのに対し、中国の穀物生産量は約5.9倍となった。しかし穀物耕地面積は僅か12%しか増えていない。つまり、中国で穀物生産量を伸ばした最大の要因は、耕地の拡大ではなかった。

 中国での穀物生産量増大の最大の要因は、単収(単位面積当たりの穀物収穫量)の伸びであった。中国も開墾による耕地の拡大よりは「緑の革命」で食糧供給力を伸ばした。さらに注目すべきは、この間、耕地単位面積当たりの穀物収穫量は、世界平均が3.1倍になったのに対して、中国は同5.3倍になった。言い換えれば、中国は「緑の革命」の優等生として土地の生産性を劇的に向上させた。

図1 中国人口、穀物生産量、穀物耕地面積、単収の推移(1961〜2021年)

出所:国連食糧農業機関(FAO)、オックスフォード大学Our World in Dataデータセットより作成。

 もっともその間、中国の経済発展に伴い、中国の一人当たりカロリー供給量も顕著に増加した。図2では1947年から2018年までの中国一人当たりの一日カロリー供給量(年)を示した。現在一人当たり一日カロリー供給量は食糧難の1960年当時に比べて、2.3倍となった。

 世界の8%の耕地と6%の淡水資源で18%の人口を養えたのは、中国の農業生産性の向上に因るものであった。

 中国の穀物生産性の向上は、中国の食糧供給を安定させ、小麦、コメといった主食の国際価格の安定化にも寄与した。

図2 中国一人当たりの一日カロリー供給量(1947〜2018年)

出所:国連食糧農業機関(FAO)、オックスフォード大学Our World in Dataデータセットより作成。

2.なぜ中国は大豆とトウモロコシの一大バイヤーに


 中国が小麦とコメといった主食で自給自足であるのに対し、大豆とトウモロコシなど飼料穀物に関しては国際市場に依存している。

 図3は、2022年中国の主要穀物輸入量を示している。同図から中国の穀物輸入においては主に大豆、トウモロコシ、高粱といった飼料穀物が主体であることを確認できる。2022年、これら3種の穀物が中国の穀物輸入全体に占める割合は89.7%に達した。

図 3 中国の主要穀物輸入量(2022年)

出所:国連貿易開発会議(UNCTAD)データセットより作成。

 改革開放後、中国で肉の消費量は急激に上がり続けた。図4が示すように、2020年、中国の年間一人当たりの肉の消費量は62キロに達した。世界平均の同42.3キロをはるかに超え、肉食の比重が高いアメリカの同126.7キロには及ばないものの、日本の同54キロを超えている。中国の膨大な人口規模に鑑み、肉の消費量を支える畜産業の大発展が欠かせない。

図4 国・地域別一人当たり食肉消費と一人当たりGDP(2020年)

出所:オックスフォード大学「Our World in Data」データセットより引用、加筆。

 図5は、1979年から2022年までの中国の食肉生産量を表している。1979年改革開放直後の1,062万トンから今日2022年の9,328万トンまで大きく伸びた。

 食肉生産に使用される飼料穀物の成分として、特にトウモロコシと大豆が重要である。中国食肉生産の大きな伸びを支えたのが飼料穀物の海外調達であった。

図 5 中国の食肉生産量 (1979~2022年)

出所:中国国家統計局データセットより作成。

 図6は2022年世界地域別大豆輸入量を示している。同図で中国が78.9%のシェアを持つ世界最大のバイヤーであることが確認できる。中国の大豆輸入の59.7%はブラジルからであり、32.4%がアメリカからである。

 図7は2022年世界地域別トウモロコシ輸入量を示している。同図で中国が37.8%のシェアを持つ世界最大のバイヤーであることが確認できる。中国のトウモロコシ輸入の72.1%はアメリカからであり、25.5%がウクライナからである。

 飼料穀物の最大のバイヤーとして世界穀物貿易に依存する中国にとって、安定的な供給先の確保が重要である。その重要性は米中貿易摩擦や、ロシアによるウクライナ侵攻によって更に強まっている。

図 6 世界地域別大豆輸入量(2022年)

注:HSコード[4]は1201。
出所:国連「UN Comtrade」データセットより作成。

図 7 世界地域別トウモロコシ輸入量

注:トウモロコシのHSコードは1005。
出所:国連「UN Comtrade」データセットより作成。

3.中国穀物生産の都市別実態分析


 中国の国土の中で、経済活動が行われる主なエリアは地級市[5](日本の都道府県に相当)以上の297都市[6]から成る。これらの都市は中国の人口の94.7%、GDPの96.6%を占めている。中国における食糧生産構造を知るには、都市レベルでの実態把握が必要である。本論は、『中国都市総合発展指標』のデータシステムを活用し、衛星データのGIS解析を駆使して、中国における都市レベルの食糧生産に関する実態分析に挑む。『中国都市総合発展指標』は、雲河都市研究院と中国国家発展改革委員会発展戦略和計画司(局)が共同開発した都市評価指標である。2016年以来毎年、内外で発表してきた。同指標は、環境・社会・経済という3つの軸(大項目)で中国の都市発展を総合的に評価している。評価対象は、中国297地級市以上都市の全てをカバーし、評価基礎データは882個に及ぶ[7]

(1)耕地面積

 図8は、『中国都市総合発展指標』がGISを活用して算出した「耕地面積」[8]のランキングである。上位10都市はチチハル、重慶、ハルビン、ジャムス、綏化、フルンボイル、黒河、通遼、長春、南陽である。また、11位から30位にかけての都市は白城、松原、信陽、臨沂、鶏西、双鴨山、赤峰、駐馬店、塩城、四平、濰坊、大慶、滄州、滁州、吉林、牡丹江、荊州、周口、遵義、菏沢となっている。

 上記トップ10都市の耕地面積は全国の15.4%を、トップ30都市は同31.4%を占めている。つまり297都市の10分の1に当たるトップ30都市は、中国耕地面積の3分の1弱を占める。これら都市は主に黒竜江省、吉林省、内モンゴル自治区、山東省、河北省、河南省、安徽省、江蘇省といった東北・華北の平原地帯に位置している。これらの地域は、小麦の主要な生産地として、食糧供給の基盤となっている[9]。これに対して長江以南は、重慶と遵義の2都市のみがトップ30入りした。そもそも直轄市である重慶の行政エリアは桁違いに大きい。

図8 中国都市耕地面積ランキング トップ30都市

出所:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標』データセットより作成。

(2)穀物生産量

 図9は、中国都市の「穀物生産量」ランキングトップ30を示している。トップ10都市は、ハルビン、チチハル、長春、綏化、ジャムス、重慶、周口、通遼市、駐馬店、菏沢となる。次いで11位から30位にかけては、徳州、商丘、南陽、塩城、松原、赤峰、フルンボイル、鶏西、信陽、双鴨山、聊城、保定、邯鄲、阜陽、黒河、白城、亳州、徐州、石家荘、淮安という順序となる。

 上記トップ10都市の穀物生産量は全国の15.3%を、トップ30都市は同32.9%を占めている。つまり297都市の10分の1に当たるトップ30都市は、中国穀物生産量の3分の1を占める。これら都市は耕地面積トップ30同様、主に東北・華北の平原地帯に位置している。耕地面積トップ30と比べて、穀物生産量トップ30には江蘇省と安徽省の都市が増えたことが目立つ。これに対して、南の都市は、重慶のみになった。

図 9 中国都市穀物総生産量ランキング  トップ30都市

出所:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標』データセットより作成。

(3)耕地生産性

  しかし耕地面積当たりの第一産業のGDPでランキング分析を行うと、様相が一転する。図10は中国都市の耕地面積当たり第一次産業GDPで示した耕地生産性ランキングである。トップ10都市は三明、竜岩、福州、寧徳、舟山、汕頭、南平、漳州、楽山、麗水の順に並ぶ。11位から30位までの都市は、茂名、莆田、潮州、長沙、株洲、三亜、台州、肇慶、海口、巴中、儋州、萍郷、杭州、紹興、寧波、黄山、掲陽、泉州、広州、仏山である。

 このトップ30都市はすべて長江以南にある。名を連ねる福建省、浙江省、広東省、湖南省、海南省、四川省を中心とした南部の都市が上位にある背景として、これらの地域の温暖かつ湿潤な気候が考えられる。穀物生産はコメが中心で、さらに茶、果物、タバコ、野菜など付加価値の高い農産品生産が盛んである。また、これらの地域は北方と比べて耕地面積が小さい。豊かで資金力があるため農業生産に資金と手間を投じる傾向が強い。結果、耕地の生産性は高まる。ランキングではさらに福州、長沙、杭州、紹興、寧波、泉州、広州、仏山といった大都市の名が目立つ。これは、大都市近郊農業の優位性を示している。

図10 中国都市耕地生産性ランキング トップ30都市

出所:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標』データセットより作成。

(4)穀物生産輻射力

 本論はさらに、穀物生産に関連する都市の広域的影響力を分析するため、「穀物生産輻射力」[10]を用いた。図11は、中国都市穀物生産輻射力ランキングトップ30を示す。上位10都市は順にジャムス、チチハル、綏化、ハルビン、長春、通遼、松原、双鴨山、鶏西、周口であり、11〜30位にはフルンボイル、徳州、駐馬店、黒河、白城、赤峰、塩城、菏沢、商丘、四平、大慶、聊城、信陽、鉄嶺、滁州、鶴崗、淮安、亳州、南陽、吉林が続く。

 中国都市穀物生産輻射力ランキングトップ30にも、主に東北・華北の平原地帯の都市が中心であり、且つすべて長江以北の都市である。

 「中国都市穀物生産輻射力」と「中国都市穀物生産量」、「中国都市耕地面積」について相関分析[11]を行ったところ、相関係数は各々0.7、0.6に達した。つまり都市穀物生産輻射力は、穀物生産量と耕地面積と相関関係を持つ。

 一方、「中国都市穀物生産輻射力」と「中国都市耕地生産性」について相関分析を行ったところ、その相関係数は-0.3であった。つまり、穀物生産輻射力が高い都市は、必ずしも土地生産性は高くない。これは小麦生産を中心とする北方の穀物生産地域の収入水準が低いことを示している。北方と比べ、中国南方地域では耕地面積は狭いものの、その収入水準は高い。

図11 中国都市穀物生産輻射力ランキング トップ30都市

出所:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標』データセットより作成。

4.中国穀物供給の安定化を図るには


 上記の分析が明らかにしたのは、穀物生産量を増やすには耕地の拡大よりも農業生産性を高める方が効果的だということである。中国は「緑の革命」の優等生として小麦とコメのほぼ100%の自給を成し遂げた。しかし、過度な化学肥料と農薬使用で、土壌汚染や健康被害などの問題も引き起こした。また、農業収入の南北格差が依然として大きい。今後、農業生産に、より高い投資を注ぎ、技術とインフラレベルの向上で、生産量と品質そして収入の向上を継続して計ることが欠かせない。とくに農業生産性において南北格差が顕著であるため北方地域における農業生産性の向上が肝要である。

 一方、大豆、トウモロコシといった飼料穀物の対外依存構造は、そう簡単に変えることはできない。そのためには安定した輸入先の確保が不可欠である

図12 ユーラシアランドブリッジ構想

出所:周牧之『現代版「絹の道」、構想推進を―欧州から日本まで資源の開発・輸送で協力―』日本経済新聞、1999年4月1日。

 1990年代末、筆者は、ユーラシア大陸における広域インフラ整備構想を考案した。同構想はカスピ海から中国沿岸部に至るガス・石油パイプライン、鉄道、高速道路、光ファイバー網の整備を含み「現代版シルクロード」とも形容された。主な目的は、中国そして東アジアの発展に必要とされるエネルギー資源や食糧の安定供給を図り、来るべき世界の需給ひっ迫を緩和することであった[12]

図13 ユーラシアランドブリッジ構想(英訳版)

出所:Zhou Muzhi, Eurasian Land Bridge carries great promise, The Nikkei Weekly, 1999年5月17日.

 同構想の核心は輸出先の安定した供給能力の開発を前提とした「開発輸入」というコンセプトである。それは、冷戦後のユーラシア大陸における石油や天然ガス資源と、膨大な穀倉地帯の潜在的な可能性に鑑み、国際共同参画を前提とし、その開発と輸出入のインフラ整備を進め、中国及び東アジアのエネルギー及び食糧の安定供給を計るものであった。当時、中国はエネルギーも食糧も輸出国であったが、将来的に一大輸入国に転じると予測していた。

 同構想の国際協力において江沢民政権と小渕恵三政権の間に一時、日中両国の同意が得られたものの、その後日本の参加は見送られた。しかし同構想の予測が見事に当たり、中国はエネルギーそして食糧の一大輸出国に転じた。中国から中央アジア方面へのパイプラインの建設も着々と進んでいる。

 「開発輸入」のコンセプトは、その後中国が提唱する「一帯一路」[13]政策にも取り入れられた。中国が進める「開発輸入」は世界の農産物貿易の拡大と安定に大きく寄与するであろう。


[1] 米国民間シンクタンク・地球政策研究所元所長のレスター・R・ブラウン(Brown)氏が1994年に『ワールド・ウォッチ』誌で論文「誰が中国を養うのか」を発表した。1995年に論文名と同名の著書を発表した。Lester R. Brown, Who Will Feed China? W. W. Norton & Company, Inc., 1995を参照。

[2] 当時中国の朱鎔基首相は中国の食糧安全保障を確保するために、「‘米袋’省長責任制」、「食糧無制限買付け政策」、「食糧リスクファンドの超過備蓄への補填措置」などの制度や政策を急進的に展開した。これらの政策は中国の食糧生産能力の向上と食糧安全保障の強化に寄与したものの、過度な開墾が環境問題も引き起こした。

[3] 「退耕還林」とは、中国の環境保護および土地管理政策の一環として実施された「農地を森に戻す」政策である。同政策は1999年に開始され、一部の耕地に適さない農地を森林や草地に戻すことで、過度な開墾によってもたらされた環境問題を緩和するものであった。中国政府の発表によると1999年から2008年まで、全国で合計2,687万ヘクタール(4億300万畝)の農地が森林に戻された。

[4] HSコード(Harmonized System Code)は、国際的に統一された商品の分類・識別システムである。このコードは、6桁の数字で構成され、世界各国の税関や統計機関で使用されている。HSコードは、世界関税機構(WCO)によって管理され、定期的に見直されている。

[5] 現在、中国の地方政府には省・自治区・直轄市・特別行政区といった「省級政府」と、地区級、県級、郷鎮級という4つの階層に分かれる「地方政府」がある。都市の中にも、北京、上海のような「直轄市」、南京、広州、ラサのような「省都・自治区首府」があり、蘇州、無錫のような「地級市(地区級市)」、昆山、江陰のような「県級市」もある。なお、地級市は市と称するものの、都市部と周辺の農村部を含む比較的大きな行政単位であり、人口や面積規模は、日本の市より都道府県に近い。

[6] 地級市以上の297都市は、4つの直轄市、27の省都・自治区首府、5つの計画単列市と262地級市から成る。

[7]『中国都市総合発展指標』は2016年以来毎年、中国都市ランキングを内外で発表してきた。同指標は環境・社会・経済という3つの軸(大項目)で中国の都市発展を総合的に評価している。同指標の構造は、各大項目の下に3つの中項目があり、各中項目の下に3つの小項目を設けた「3×3×3構造」で、各小項目は複数の指標で構成される。これらの指標は、合計882の基礎データから成り、内訳は31%が統計データ、35%が衛星リモートセンシングデータ、34%がインターネットビッグデータである。その意味で、同指標は、異分野のデータ資源を活用し、「五感」で都市を高度に知覚・判断できる先進的なマルチモーダル指標システムである。現在、中国語(『中国城市総合発展指標』人民出版社)、日本語(『中国都市ランキング』NTT出版)、英語版(『China Integrated City Index』Pace University Press)が書籍として出版されている。『中国都市総合発展指標』について詳しくは、周牧之ら編著『環境・経済・社会 中国都市ランキング2018―〈大都市圏発展戦略〉』、NTT出版、2020年10月10日を参照。

[8] 『中国都市総合発展指標』の耕地面積は、「Copernicus Climate Change Service」の「Land cover classification gridded maps」データセットを用いて算出した。このデータセットは、FAOの土地利用区分22分類に基づいて構成され、解像度は300メートルメッシュである。データセットから「耕地」分類のメッシュデータを、GISを用いて中国各都市の耕地面積を集計した。

[9] 中国の小麦生産の限界緯度は、主に「秦嶺-淮河線」によって示されている。秦嶺-淮河線は中国の自然地理の分界線で、北方の寒冷な気候と南方の温暖な気候に分けている。地域的には、秦嶺-淮河線は秦嶺(Qin Mountains)と淮河(Huai River)によって形成される。秦嶺-淮河線の北側が小麦栽培地域で、南側は主に水稲が栽培されている。

[10] 『中国都市総合発展指標』で使用する「輻射力」とは広域影響力の評価指標であり、都市のある業種の周辺へのサービス移出・移入量を、当該業種従業者数と全国の当該業種従業者数の関係、および当該業種に関連する主なデータを用いて複合的に計算した指標である。穀物生産輻射力は穀物生産量も加味した。

[11] 相関分析とは、二つまたはそれ以上の変数間の関係の強さと方向を評価する統計的手法である。この分析は、変数間の相関係数を計算して行い、相関係数は-1から1の範囲の値を取る。相関係数が1に近い場合、変数間に強い正の関係があることを示し、-1に近い場合は強い負の関係を示し、0は変数間に関係がないことを示す。一般的に、相関係数は、0.9~1が「完全相関」、0.8~0.9が「極度に強い相関」、0.7~0.8が「強い相関」、0.5~0.7が「相関がある」、0.2~0.5が「弱い相関」、0.0~0.2が「無相関」であると考えられる。

[12] 同構想について、1999年4月1日に日本経済新聞の経済教室欄に筆者の署名文『現代版「絹の道」、構想推進を―欧州から日本まで資源の開発・輸送で協力―』を参照。

[13] 一帯一路(Belt and Road Initiative, BRI)は、中国が推進する広域経済圏構想である。同構想は、古代のシルクロードを現代の経済回廊に再構築し、陸上の「シルクロード経済帯」と海上の「21世紀海上シルクロード」を通じて、中国と他の参加国間の貿易と投資を促進し、地域経済の発展を支援することを目的としている。


 本論は東京経済大学個人研究助成費(研究番号21-15)を受けて研究を進めた成果である。

(本論文では栗本賢一、甄雪華、趙建の三氏がデータ整理と図表作成に携わった)


 本論文は、周牧之論文『増え続ける世界そして中国の人口をどう養うか?』より抜粋したものである。『東京経大学会誌 経済学』、321号、2024年。

【論文】周牧之:増え続ける世界そして中国の人口をどう養うか?(Ⅰ)

How to feed the growing world and Chinese population?

周牧之 東京経済大学教授

■ 編集ノート: 
 ロシア・ウクライナ戦争は、世界の食糧価格に大きな変動を引き起こし、食糧危機が国際社会で再びトピックとなった。周牧之東京経済大学教授が、論文の前半で、増え続ける地球人口を如何に養ってきたか、また世界食糧供給システムの罠、そして脆弱さを解き明かす。


 いまから半世紀前の1972年、ローマクラブという学術団体から『成長の限界』[1]と題したレポートが公開された。地球はこれ以上の人口を支えられないと警告したことで、大きな反響を巻き起こした。人口増加がもたらす食糧問題へのリスク意識を一気に高めた同レポートは当時、各国の政策立案者たちの重要な道標となった。

 『成長の限界』の警鐘にもかかわらず、いま、世界人口は1972年から倍増した。もっとも、世界の食糧供給は人口増を上回るペースで増え続けた。

 世界の食糧供給増大の要因は何か?これによって生じた不利益とは?現在の世界食糧供給システムを脅かす要因は何だろうか?本論は以上の問題意識に基づいて展開する。後半ではさらに中国の食糧問題についても言及する。

1「緑の革命」に支えられた食糧供給


 図1は1800年から今日までの世界人口を各地域別に表したものである。同図が示すように、世界人口は、『成長の限界』が発表された1972年から今日まで2倍以上増加した。同報告書の警鐘をよそに、世界人口はアジアとアフリカを中心に猛スピードで増えた。

図1 世界人口増加の推移と予測(1800〜2100年)

出所:オックスフォード大学「Our World in Data」データセットより作成。

 図2では、1961年を起点として、今日までの世界人口、世界穀物耕地面積、世界穀物生産量、そして世界平均単位面積穀物生産量の推移を整理した。同図が示すように、世界穀物生産量は人口増以上に増えてきた。この間、世界人口は約2.5倍になったのに対し、世界の穀物生産量は約3.5倍となった。しかし穀物耕地面積は僅か14%しか増えていない。つまり、穀物生産量を伸ばした最大の要因は、耕地の拡大ではなかった。

 穀物生産量増大の最大の要因は、単収(単位面積当たりの穀物収穫量)が3.1倍になったことである。言い換えれば、土地の生産性が劇的に向上した。これは「緑の革命」の成果である。

 「緑の革命」については解釈が様々あるが、基本的には、化学肥料や農薬の投入、灌漑施設の整備、遺伝子組み換えを含む高収量品種の開発、そして農業の機械化及び組織化などを指す。これらの取り組みは農業生産性を大幅に向上させた。

 「緑の革命」は『成長の限界』で取り上げられた食糧危機を回避し、増え続けた人口を養った。

図2 世界人口、穀物生産量、穀物耕地面積、単収の推移(1961〜2021年)

出所:国連食糧農業機関(FAO)、オックスフォード大学「Our World in Data」データセットより作成。

2.農業生産性における先進国と途上国の格差拡大


 「緑の革命」は、人口を養う能力を地球規模で大きく高めた。しかし、「緑の革命」が農業への資金投入度を高め、農業を「資本集約産業」にしたことで、先進国と途上国の農業生産性の格差拡大ももたらされた。

 灌漑施設の整備、品種の改良、化学肥料と農薬の大量投入、大規模な農場化、機械化、先進的な農業管理技術の導入などは、膨大な資本力を必要とする。農業、とくに小麦産業を大規模な資本投入産業へと変貌させた結果、資本力と補助金とで強い生産体制を築いたアメリカそしてEUで農業の生産性は高まり、輸出産業にまで成長した。

 一方で、多くの発展途上国、特にアフリカ諸国は、資本力の欠如により「緑の革命」の恩恵から疎外されている。図3は、世界各国を所得別に高所得国、高中所得国、低中所得国、低所得国の四つのグループ[2]に分け、其々の農業就業者一人当たり農業付加価値額、つまり農業の労働生産性を計算したものである[3]。同図が示すように、農業の労働生産性を見ると、所得の高い国ほど高い。最上位の高所得国と最下位の低所得国との間の農業労働生産性の格差が、49倍にもなった。すなわち農業は資本投入により、付加価値も相応に増える「資本集約型産業」になった。これが農業の労働生産性だけでなく、耕地の単収にそのまま反映されている。

図3 農業就業者一人当たり農業付加価値額(2019年)

注:アルゼンチンは通貨安の影響により異常値となっていることからランキングから除外。
出所:国連食糧農業機関(FAO)、オックスフォード大学「Our World in Data」データセットより引用、加筆。

3.食糧貿易の光と影


 そもそも各国の気候、地理、風土などの自然条件で農業の生産性は異なる。加えて、上記の資本力と補助金などで農業の生産性はさらに拡大した。こうした農業生産力のギャップを埋めたのは、食糧貿易であった。

 貿易がアフリカを始めとする食糧不足地域の人口増を支えた。しかし安い食糧輸入は、食糧生産コストの高い国の食糧産業を圧迫し、壊滅に追い込みさえした。これらの地域の食糧対外依存は構造的なものとなり、資本が乏しい国々では、先進国への食糧供給依存が深まった。

 なかでもアメリカの穀物生産力の捌け口として、アフリカ諸国は重要だった。しかし、中国をはじめとするアジアの飼料需要の急増や、穀物のバイオ燃料化という新ニーズの出現[4]によって、アメリカにとってのアフリカ市場の重要性が低まった。そこの穴を埋めたのがロシアとウクライナの小麦の輸出であった。

図 4 世界四大食糧輸出量の推移(1961〜2021年)

出所:国連食糧農業機関(FAO)データセットより作成。

 図4は、1961年から2021年までの60年間、世界の小麦、トウモロコシ、大豆、コメの四大穀物の輸出量の推移を表している。小麦は最も輸出比率の高い穀物である。特に、アメリカにおいては、生産される小麦の大半が輸出されている。

 中国を始めとする新興国家の輸入増大などによってトウモロコシや大豆の輸出も急速に拡大している。

 小麦、トウモロコシ、大豆の主要な輸出地域はアメリカ、EU、カナダ、およびオーストラリアであるが、21世紀に入ってからは、ロシアやウクライナも小麦の輸出において重要な地位を占めている。ロシアによるウクライナ侵攻の直前、ロシアとウクライナを合わせた小麦の輸出の世界シェアは30%に達した。また、米中貿易摩擦の影響で最近、大豆の輸出国としてブラジルも大きな存在感を示し始めた。

 一方で、コメの輸出比率は低く、大きな伸びを見ない。これは、コメが、生産地と消費地がほぼ一致する典型的な自給自足型穀物だからである。なお、近年、インドのコメ輸出が増大し、世界最大の輸出国となっているが、輸出規模はまだ限定的かつ不安定である[5]

図 5 世界農産物貿易フロー(付加価値額ベース)(2020年)

出所:英国王立国際問題研究所データベースより引用、加筆。

 図5で、2020年における付加価値額ベースの世界農産物貿易フローを整理した。農産物貿易アイテムとして、金額ベースで多いものから順に、園芸作物(野菜、果樹、花など)、油用種子、穀物、肉類、そして魚介類・水産物となる。

 農産物輸出のトップ5は、多い順にアメリカ、ブラジル、オランダ、ドイツ、中国である。同輸入のトップ5は、多い順に中国、アメリカ、ドイツ、オランダ、日本である。

 二国間の農産物貿易量で最も多いのがブラジルから中国への輸出であり、次いでアメリカから中国、メキシコからアメリカ、オランダからドイツ、そしてカナダからアメリカへの輸出が続く。中国は農産物貿易のバイヤーとしての存在が目立つ。

 各国で農業生産性の格差はあるものの、農産物貿易は世界全体の食糧供給を支えている。しかし、ロシアによるウクライナ侵攻は、世界の食糧供給システムを大混乱させた。図6は、1990年から2023年4月までの世界穀物価格の月別推移を示している。同図で分かるように世界穀物価格は同侵攻によって激しく乱高下した。中でも構造的に食糧を対外依存するアフリカ諸国への打撃が深刻である。国連食糧農業機関(FAO)や世界食糧計画(WFP)の報告[6]によると、2022年に急性飢餓人口[7]は過去最高の2億5,800万人に達し、前年比で6,500万人も増えた。これは、食糧価格の急騰が主な要因として挙げられる。ロシアとウクライナからの食糧輸出の激減で、「食糧危機」という近年忘れ去られていた政策イシューが、再び浮上してきた。

図6 世界穀物価格推移(1990〜2023年)

出所:国連食糧農業機関(FAO)データセットより作成。

4.化学肥料のグローバルトレード


 ロシアによるウクライナ侵攻は、化学肥料のグローバルトレードにも大きな影響を及ぼしている。「緑の革命」の立役者としての化学肥料の供給も国際貿易に依存している。図7は、2020年の化学肥料貿易フロー(付加価値額ベース)を整理したものである。同図によると、化学肥料輸出国のトップ5国は、多い順にロシア、中国、カナダ、モロッコ、アメリカである。一方、化学肥料輸入国のトップ5国は、多い順にブラジル、インド、アメリカ、中国、フランスである。

 二国間化学肥料貿易で最も多いのが、カナダからアメリカへの輸出である。ロシアからブラジルへ、中国からインドへ、アメリカからカナダへ、そしてモロッコからブラジルへの輸出が続く。

 化学肥料貿易の動向から、各国間で化学肥料のトレードが複雑に絡み合っていることが分かる。それは化学肥料生産資源の分布や各国の土壌特性などに因る。ロシアによるウクライナ侵攻はこうした複雑な貿易システムに打撃を与え、世界の農業生産に大きな影響を及ぼしている。

図 7 化学肥料貿易フロー(付加価値額ベース)(2020年)

出所:英国王立国際問題研究所データベースより引用、加筆。

[1] ローマクラブの『成長の限界』は、人口や経済の急激な成長が続けば地球の資源や環境に限界が訪れると予測した​​。同レポートは、資源と地球の有限性に焦点を当て、マサチューセッツ工科大学のデニス・メドウズ(Dennis Meadows)を主査とする国際チームが「システムダイナミクス」の手法を使用してまとめた研究である。詳細はドネラ・H・メドウズら著『成長の限界—ローマ・クラブ人類の危機レポート』、ダイヤモンド社、1972年を参照。

[2] 世界銀行は国々の所得水準に基づいた分類を定義しており、2023年度の基準によれば、1人あたりの国民総所得(GNI)が13,205ドル以上の国を「高所得国」とし、4,256ドルから13,205ドルまでの国を「高中所得国」とし、1,086ドルから4,255ドルまでの国を「低中所得国」とし、1,085ドル以下の国を「低所得国」として分類している​。

[3] 農業就業者一人当たりの農業付加価値額は、農業、林業、漁業から生み出される付加価値を、これらの部門で働く人の数で除したものである。このデータは米ドルで表示されており、インフレ調整済みだが、各国間の生活費の差は考慮されていない。

[4] 2021年、全世界のトウモロコシの16%がバイオ燃料として使われた。アメリカではその比率がさらに高く、34%に達している。

[5] 2023年7月、インドはコメの輸出を部分的に禁止した。同輸出制限措置は、インド国内のコメ価格の安定と供給とを目的に実施されたが、コメの輸入国、特にアフリカ諸国に食糧価格の上昇や飢餓問題の深刻化などの影響を及ぼしかねない。

[6] 「食料危機に関するグローバル報告書(Global Report on Food Crises, GRFC)」は、急性食料供給不安の状況と原因を評価し、提言を行う目的で年次発表されている。同報告書は「食料危機対策グローバルネットワーク」の事業の一環であり、国連食糧農業機関、世界食糧計画、欧州連合、ユニセフ、アメリカ、世界銀行など16のパートナー機関により支援されている。同ネットワークは、人道的および開発行動を促進するための独立したかつ合意に基づいた証拠と分析を提供する。今年5月に発表された2023年版報告書では緊急の食料と生計の支援を必要とする人々の数が増加し、ロシアのウクライナ侵攻や経済不況が影響しているとした。

[7] 急性飢餓人口とは、食料不足や栄養不十分により、健康と生命が直接脅かされている人々を指す。急性飢餓は通常、食料不足、高い食料価格、戦争や紛争、天候変動などの緊急事態により発生する。


本論は東京経大学個人研究助成費(研究番号21-15)を受けて研究を進めた成果である。

(本論文では栗本賢一、甄雪華、趙建の三氏がデータ整理と図表作成に携わった)


 本論文は、周牧之論文『増え続ける世界そして中国の人口をどう養うか?』より抜粋したものである。『東京経大学会誌 経済学』、321号、2024年。

(※論文後半はこちらから)

【深圳】中国シリコンバレーになった新興メガシティ【中国都市総合発展指標】第3位

中国都市総合発展指標2022〉第3位



 深圳は7年連続で総合ランキング第3位を獲得した。

 大項目で深圳のパフォーマンスが最も優れているのは、第1位を獲得した「環境」であった。3つの中項目の中で「空間構造」「環境品質」は第1位、「自然生態」では第16位となっている。総合ランキングトップ10都市の多くは、「環境」大項目のパフォーマンスが芳しくない中、深圳は「環境」「社会」「経済」の3つの大項目でバランスの取れた発展パターンを示した。「環境」大項目の小項目を見ると、「コンパクトシティ」「資源効率」は第1位、「交通ネットワーク」は第2位、「環境努力」は第3位であった。なお、人口集積は高い一方、利用可能国土面積が小さいため、「水土賦存」が第293位であった。

 「経済」大項目で深圳は7年連続で第3位を獲得した。中項目の「経済品質」「発展活力」「都市影響」いずれもで第3位であった。小項目から見ると、「経済効率」「広域中枢機能」が第2位を勝ち取り、「経済規模」「経済構造」「開放度」「イノベーション・起業」「都市圏」「広域輻射力」は第3位、「ビジネス環境」は第4位となり、9つの小項目はすべてトップ4位に入っている。

 「社会」大項目で深圳は、2年連続で第5位を維持した。中項目の中で「生活品質」のパフォーマンスは良好で第5位、「ステータス・ガバナンス」「伝承・交流」は第7位となった。「社会」大項目の9つの小項目の中で、深圳は、8つの小項目指標が全国平均を上回っているが、新興都市であるが故「歴史遺産」だけが第248位と引き離された。


■「世界の工場」から「中国のシリコンバレー」へ


 深圳市は広東省の南部に位置し、香港に隣接する新興都市である。面積は約1,997平方キロメートルで大阪府と同規模、2021年の常住人口は約1,768万人で中国第6位である。

 深圳市はかつて人口規模わずか3万人の漁村だったが、1980年に中国初の「経済特区」に指定されたことをきっかけに、「中国のシリコンバレー」と呼ばれるまでに飛躍的な発展を遂げた。わずか40年間強で人口は600倍近くに拡大。その世界史上類を見ない発展ぶりは「深圳速度」と称される。2021年のGDPは約3.1兆元(約62兆円、1元=20円換算)に達し、中国国内では第3位の規模となった。国別で比較すれば、これは世界32位のナイジェリアを上回る経済規模である(詳しくは、【ランキング】世界で最も経済リカバリーの早い国はどこか? 中国で最も経済成長の早い都市はどこか?を参照)。

 経済特区に指定されて以来、深圳市は輸出加工拠点として急速に発展し「世界の工場」と称されるまでになった。「中国都市製造業輻射力2021」で深圳は第1位となっている(詳しくは、【ランキング】中国で最も輸出力の高い都市はどこか?を参照)。

 「中国都市製造業輻射力」のトップ10都市は成都を除き、すべて大型コンテナ港を利用できる立地優位性を誇る。深水港、すなわち、大型コンテナ港は、グローバルサプライチェーンを支える基盤である。深圳はコンテナ港の発展も著しく、中国都市総合発展指標2022における「コンテナ港利便性」においても第2位となっている(詳しくは、【ランキング】世界で最も港湾コンテナ取扱量が多い都市はどこか?を参照)。2022年の深圳港のコンテナ取扱量は前年比4.4%増の約3,004万TEUに達し、開港以来最高の取扱量を記録した。世界の港湾別コンテナ取扱量ランキングでも第4位に輝いた。

 「世界の工場」としての地位を築き上げてきた深圳だが、現在では新興ハイテク企業が次々と生まれるイノベーション都市へと脱皮している。「中国都市IT産業輻射力2022」で深圳は第3位に上り詰めた。深圳にはアメリカの対中制裁で有名になった企業が数多く本社を構える。例えば、通信機器の中興通訊(ZTE)と華為技術(ファーウェイ)、そしてウィチャットの親会社の騰訊(テンセント)、ドローンの世界トップシェアを持つDJIである。これらは全て深圳発のITベンチャー企業である。これら企業の群生は、深圳が「世界の工場」たる製造業スーパーシティから、IT産業スーパーシティへと脱皮していることを示している(詳しくは、【ランキング】中国IT産業スーパーシティはどこか?を参照)。

■ “移民都市”


 深圳市は典型的な“移民都市”である。2021年に同市の戸籍を持たない常住人口、いわゆる「流動人口」は、約1,137万人にも達し、その規模は中国の都市の中で最大である。ちなみに流動人口規模の2位は上海、3位は広州、4位は北京であった。上海と広州では流動人口の常住人口に占める割合は4〜5割前後なのに対し、深圳の同シェアは64.4%に達している。 

 深圳の人口を年齢別で見ると、15歳未満人口(年少人口)は15.1%、15歳以上65歳未満人口(生産年齢人口)は79.5%、65歳以上人口(老年人口)はわずか7.4%である。外部から大量の生産年齢人口を受け入れているゆえに、このような若い人口構成となっている。若い人口構成と“移民都市”としてのバイタリティーが深圳の奇跡をもたらした。

■ 経済規模で広州、香港を超え


 深圳の経済規模は2018年に広州を超え、2019年には香港を超えた。いまや「アジアの奇跡」とも呼ばれる一大IT都市となった。

 しかし、「1人当たりGDP」で見ると、2022年に深圳は約18.3万元(約366万円、1元=20円換算)であるのに対して、香港は約35.3万元(約706万円)となっている。深圳と香港の格差はまだ大きい。なお、深圳は広州の同約15.4万元(約308万円)を抜いている。

 2017年に「粤港澳大湾区(広東省・香港・マカオのビッグベイエリア)構想」が公表され、深圳、広州、香港の「3都物語」の展開に注目が集まっている。米中競争ムードがヒートアップする中で、国際大交流をベースとするビッグベイエリア構想の行方が取り沙汰されている。

IT産業スーパーシティ


 中国都市総合発展指標に基づき、雲河都市研究院は中国全297地級市(地区級市、日本の都道府県に相当)以上の都市をカバーする「中国都市IT産業輻射力」を毎年モニタリングしている。輻射力とは広域影響力の評価指標である。IT産業輻射力は都市におけるIT企業の集積状況や企業力、そして、IT産業の従業者数を評価したものである。

 2020年は、IT業界にとって大発展の年であった。デジタル感染症対策、在宅勤務、オンライン授業、遠隔医療、オンライン会議、オンラインショッピングなどが当たり前になり、新型コロナウイルス禍で産業や生活のあらゆる分野におけるデジタル化が一気に進んだ。

 中国都市総合発展指標2022で見た「中国都市IT産業輻射力2022」ランキングのトップ10都市は、北京、上海、深圳、杭州、広州、成都、南京、重慶、福州、武漢となった。これら中国のIT産業スーパーシティは、すべて直轄市、省都、計画単列市からなる中心都市である。同ランキングの上位11〜30都市もほとんどが中心都市である(詳しくは【ランキング】中国IT産業スーパーシティはどこか?を参照)。

図1 2022年中国都市IT産業輻射力ランキングトップ30都市

■ 研究開発大国を牽引


 現在、世界で最も研究者を抱えているのは中国である。2020年国・地域別研究者数ランキングをみると、トップとしての中国の存在が圧倒的である。中国の研究者数(FTE)は2位のアメリカ、3位の日本と比較すると、それぞれ約1.4倍、約3.3倍の規模にまで達している。さらに8.1%という驚異的な伸び率のもと中国の研究者数は増え続けている。

 科学技術発展の実力を示すアウトカム指標として、科学論文数が挙げられる。2020年の国・地域別科学論文数ランキングでは、1位中国、2位アメリカと続く。両国の論文数は3位以下を突き放し、論文総数は両国で世界論文数の38.3%を占め、3位インドから15位イランの総論文数に相当する。中国の論文数は、世界論文数の22.8%を占めるまでに増えた。論文数の伸び率も9.7%と驚異的である。このままでは今後さらに他国・地域との差が拡大していくに違いない。

 なお、2003年までは論文数で世界2位を誇った日本は、いまや同6位に後退し、且つ論文数は伸び悩んでいる。

 科学技術発展の国際的な実力を示すアウトカム指標として、国際特許出願件数も挙げられる。2020年の国・地域別国際特許出願件数ランキングでは、1位中国、2位アメリカ、3位日本と続く。国際特許出願件数は、このトップ3が他国・地域を突き放し、3国で世界シェア64.7%を占める。なかでも、中国はその世界シェアが25.1%に達した。さらに、中国は16.5%という驚異的な伸び率でそのシェアを拡大し続けている。

 日本はこれに対して、国際特許出願件数が−4.0%とマイナス成長に陥っている。国際特許出願件数トップ10では、ドイツ、フランス、オランダも同様にマイナス成長にある。

 〈中国都市総合発展指標〉に基づき、雲河都市研究院は中国全297地級市(地区級市、日本の都道府県に相当)以上の都市をカバーする「中国都市科学技術輻射力」をモニタリングしている。輻射力とは特定産業における都市の広域影響力を評価する指標である。科学技術輻射力は都市における研究者の集積状況や国内外特許出願数、商標取得数などで評価した。

 〈中国都市総合発展指標2020〉で見た「中国都市科学技術輻射力2020」ランキングのトップ10都市は、北京、深圳、上海、広州、蘇州、杭州、東莞、南京、寧波、成都となった。特に、北京、深圳両都市の輻射力は抜きん出ている。深圳は民間企業をベースに巨大な研究開発力を持ったことが特記される。

同ランキングの上位11〜30都市は、天津、仏山、西安、武漢、無錫、合肥、長沙、青島、鄭州、紹興、温州、廈門、済南、嘉興、重慶、福州、台州、南通、大連、珠海である。これらの都市には中国の名門大学、主力研究機関、そしてイノベーションの盛んな企業が立地している(詳しくは【ランキング】科学技術大国中国の研究開発拠点都市はどこか?を参照)。

図 中国都市科学技術輻射力ランキング2020 トップ30

■ 輸出大国をリード


 2000年以降、中国の輸出は10倍以上も伸び世界第一位の輸出大国となっている。〈中国都市総合発展指標〉に基づき、雲河都市研究院は中国全297地級市(地区級市、日本の都道府県に相当)以上の都市をカバーする「中国都市製造業輻射力」を毎年モニタリングしている。輻射力とは都市の広域影響力の評価指標である。製造業輻射力は都市における工業製品の移出と輸出そして、製造業の従業者数を評価したものである。

 〈中国都市総合発展指標2020〉で見た「中国都市製造業輻射力2020」ランキングのトップ10都市は、深圳、蘇州、東莞、上海、寧波、仏山、成都、広州、無錫、杭州となった。深圳を始めとするこれら製造業スーパーシティの輸出力が世界的に見ても際立っている。特にこれらトップ10都市のうち、深圳、蘇州、東莞、寧波、仏山、無錫の6都市は改革開放前は、工業の蓄積を殆ど持たない小さな町であった。とりわけ深圳は、都市ですらない村であった。これらの町を製造業スーパーシティに仕立てたのは、グローバルサプライチェーンの躍動であった(詳しくは【ランキング】中国で最も輸出力の高い都市はどこか?を参照)。

図 2020年中国都市製造業輻射力ランキングトップ30都市

■ 米中貿易摩擦で逆風


 2018年から顕在化した米中貿易摩擦が深圳を直撃している。中国都市総合発展指標2022によると、深圳は「フォーチュントップ500中国企業」第3位、「中国トップ500企業」第3位、「中国民営企業トップ500」第3位、「中国都市製造業輻射力2022」第1位を誇る中国を代表する経済都市である。

 深圳は中国における加工貿易の先駆けの都市であり、輸出額ランキングで20年以上全国第1位の座を守り抜いている。深圳にとって米国は2番目に大きい輸出先であった。輸出型経済で成長してきた深圳は、昨今の米中貿易摩擦や新型コロナウイルスショックの逆風を受けている。

 しかし、こうした危機は、新たなチャンスの訪れとも捉えられる。それは、よりオープンな国際都市になることで実現可能だ。

 深圳が特区になってから40年間、その成果は抜きん出ていた。中国都市総合発展指標2022で同市は「経済」の「ビジネス環境」中項目では第4位、「開放度」中項目で第3位、「社会」の「人的交流」中項目で第4位を勝ち取り、高い開放性や国際性を誇る。

 広域インフラ整備についてもコンテナ港だけでなく「空港利便性」も中国で第3位の立場を築き上げた(詳しくは【ランキング】中国で最も空港利便性が高い都市はどこか?を参照)。

 深圳の、隣接する香港との国際都市としての競演が楽しみである。

■ イノベーション都市を目指して


 近年、深圳はアジアを代表するイノベーション都市としても名声が上がっている。中国都市総合発展指標2022において、「経済」の「イノベーション・起業」小項目は北京、上海に続いて全国第3位であった。大学や研究機関のストックが少ない新興都市にしては快挙である。

 しかしながら、トップ2都市と比較すると同項目の成績には、まだ大きな開きがある。その原因の1つは、やはり大学にある。中国の名門大学のほとんどは、改革開放以前に創立された。一漁村から加工貿易で身を起こし、爆発的な成長を遂げてきた深圳はこれまで、高等教育機関との縁が薄かった。現在は財力を駆使し、大学誘致に励んでいるが、旺盛な人材需要と高等教育キャパシティとのギャップはまだ大きい。「中国都市高等教育輻射力2022」ランキングにおいて同市は36位に甘んじている。

 また、国立の研究機関もあまり立地がなく、北京中関村に国の研究機関が林立するような風景は深圳では見られない。

 それにしても、経済特区としての開放感の中で、全国から集まった人々が研究に励み、次から次へと起業している。ファーウェイや、中興通訊はその代表格だ。深圳のイノベーションは、民間企業中心で進んでいる。

 優秀な人材は成功をつかもうとするだけでなく、生活のクオリティも求める。豊かになったいま、生活の質における深圳の後進性が際立つ。例えば「中国都市医療輻射力2022」のランキングは第21位と、深圳の医療態勢はかなり遅れを取っている。

 新興都市深圳は、これから都市アメニティ(都市の魅力や快適さ)でも勝負に出なければならない(都市アメニティについて詳しくは【対談】アフターコロナの時代、国際大都市は何処へ向かう? 周牧之 VS 横山禎徳対談、また【コラム】都市のアメニティを参照)。

■ 広深港高速鉄道と港珠澳大橋が開通


 2018年9月、広州・深圳と香港を結ぶ初の高速鉄道「広深港高速鉄道」の香港域内区間が正式に開通した。深圳から香港までは最速で14分、広州から香港までの走行時間も以前の100分から48分へと半分に短縮された。香港は中国本土の高速鉄道網と直接連結し、北京までの所要時間は9時間に短縮した。中国都市総合発展指標2022では深圳の「鉄道利便性」は全国第9位だが、第2位の広州に順位が近づいていくだろう。

 広深港高速鉄道の全面開通により、中国政府が進めている巨大ベイエリア構想「粤港澳大湾区(広東・香港・マカオビックベイエリア)計画」に内包される深圳、広州、香港といった主要都市がすべて高速輸送ネットワークでつながった。これにより、今後エリア内外の人的交流がさらに加速していく。

 同高速鉄道の開通に加え、「港珠澳大橋(香港・珠海・マカオ大橋)」も2018年10月23日開通した。これでベイエリア内の交通ネットワークがさらに強化され、ヒト・モノ・カネ・情報の流れが増大している。中国都市総合発展指標2022ではすでに「広域中枢機能」は深圳が全国第2位、広州が第3位であり、この順位は今後も揺るがないだろう。大ベイエリアでは、「奇跡の発展」を遂げた深圳が牽引役となっている。


社会機能が中心都市に集中:「中国城市総合発展指標2022」社会ランキング

雲河都市研究院

編者ノート:

 なぜ社会大項目のランキング上位がすべて中心都市なのか?どのメガロポリスが既に高齢化社会に入っているのか?中国で最も優れた医療リソースを持つメガロポリスはどこか?消費が最も活発なメガロポリスはどこか?雲河都市研究院は19のメガロポリスの人口構造と社会機能を分析し、これらの疑問に答える。


1.社会ランキングトップ10都市はすべて中心都市


 〈中国城市総合発展指標2022〉(以下、〈指標2022〉)の社会大項目ランキングが公表された。トップ10都市は、北京、上海、広州、成都、深圳、南京、杭州、重慶、西安、武漢で、これらはすべて国家や地域の中心都市である。さらに、トップ22都市は蘇州を除くすべてが中心都市である。

 明暁東中国国家発展和改革委員会発展戦略和計画司元一級巡視員・中国駐日本国大使館元公使参事官は、「〈指標2022〉の社会ランキングに拠り、私は初めて客観的なデータで都市の社会発展ぐあいを観察することが出来た。トップ20都市を東西で見ると、東部が12都市、中部が4都市、西部が4都市ある。南北で見ると、南部が14都市、北部が6都市である。中国の経済規模は、東・中・西部の順で減少し、南高北低の構造になっている。これは人口も同様である。〈指標2022〉社会ランキングは、中国の社会事業が経済発展と人口分布に相応していることを示している。中国の社会機能の配置は、基本的に均衡である」と指摘する。

 社会大項目は、ステータス・ガバナンス、伝承・交流、生活品質の3つの中項目、都市地位、人口資質、社会マネジメント、歴史遺産、文化娯楽、人的交流、居住環境、消費水準、生活サービスの9つの小項目、および199組のデータから構成される。

 本文は、〈指標2022〉社会大項目ランキングを用いて、19のメガロポリスの主要な社会パフォーマンスを分析する。そのため19メガロポリスに属する223の都市の〈指標2022〉社会大項目ランキング偏差値を、メガロポリス別に「箱ひげ図」と「蜂群図」を重ねて分析、メガロポリスにおける社会大項目で、ランキング偏差値の分布状況と差異を可視化した。箱ひげ図中の横線は、サンプルの中央値、箱の上辺は上位四分位点(75%)、箱の下辺は下位四分位点(25%)、箱本体は50%のサンプル分布を示している。蜂群図は、個々のサンプル分布をプロットした図である。箱ひげ図と蜂群図を重ね合わせることで、サンプルのポジションと全体の分布の双方を示した。

 この分析手法を用い、社会大項目全体の成績を俯瞰すると、珠江デルタの中央値のみが全国平均を上回り、残りの18のメガロポリスは、社会大項目における偏差値の中央値が全国平均を下回っている。全国第1位の北京、第2位の上海を擁する京津冀と長江デルタも例外ではない。

 周牧之東京経済大学教授は、「これは、行政、医療、高等教育、交流、文化娯楽など高度な社会機能が中心都市に集中していることに依る。高度な社会機能については、一般都市が中心都市に依存し、且つ中心都市との格差が拡大している。これは注目に値する現象である」と述べる。

2.少子高齢化が顕著に


 2022年に人口自然増加率がマイナスに転じたのは、遼中南(遼寧)、哈長(吉林・黒龍江)、成渝(四川・重慶)、長江デルタ、山西中部(山西)、関中平原(陝西・甘粛)、天山北坡(新疆ウイグル)、中原の8つメガロポリスである。特に遼中南と哈長は深刻で、2015年から2022年の7年間の平均人口自然増加率もマイナス成長であった。中国では少子化現象がすでに重大な社会問題となっている。

 人口自然増加率が最も高いのは珠江デルタで、黔中(貴州)、北部湾(海南・広西)、粤閩浙沿海(広東・福建・浙江)、寧夏沿黄(寧夏)、中原(山西・安徽・河南)、山東半島(山東)、滇中(雲南)、蘭州—西寧(甘粛・青海)、長江中游(湖北・湖南・江西)の10メガロポリスが続く。これらメガロポリスの7年間の人口自然増加率は10.1‰から4.6‰である。

 65歳以上の高齢者率に関して珠江デルタは、中国国内で最も高い人口自然増加率と大量の若年層の流入により、19のメガロポリス中で最低の6.5%となっている。他に、高齢者率が低いメガロポリスは、順に天山北坡、寧夏沿黄、滇中、北部湾、黔中、蘭州—西寧、呼包鄂榆(陝西・内モンゴル)、粤閩浙沿海である。

 一方、高齢者率が最も高いメガロポリスは成渝で17.4%である。遼中南、哈長、長江デルタ、山東半島、京津冀もそれぞれ17.3%、15.3%、15.3%、15.1%、14.1%と高い。これら6つのメガロポリスは近年、人口自然増加率がマイナス成長に陥ったか、大量の若年層が流出したか、あるいはその両方の理由を持つ。

 周牧之教授は「国連は”高齢社会”を、高齢者率が14%を超えた場合と定義する。中国全体の高齢者率は現在、13.7%に達し、高齢社会が目前となっている。上記6つのメガロポリスは成渝を筆頭に、既に高齢社会に入っている」と指摘している。

3.生産年齢人口の過半数が、一線および准一線のメガロポリスに集中


 一線メガロポリスである長江デルタ、珠江デルタ、京津冀の生産年齢人口の全国シェアは、それぞれ12.2%、6.5%、6.2%で、合計で全国の24.9%を占める。准一線メガロポリスである成渝、長江中游、粤闽浙沿海、関中平原の生産年齢人口の全国シェアは、それぞれ7.2%、8.6%、6.6%、2.9%で、合計で全国の25.3%を占める。3つの一線メガロポリスと4つの准一線メガロポリスは、全国の生産年齢人口の50.2%が集中している(詳しくは「中心都市がメガロポリスの発展を牽引する:中国都市総合発展指標2022」を参照)。

 長江デルタ、珠江デルタ、京津冀の大学在校生数の全国シェアは、それぞれ13.7%、5.8%、9.4%で、合計で全国の28.9%を占める。成渝、長江中游、粤闽浙沿海、関中平原の大学に在籍する学生の全国シェアは、それぞれ7.4%、12.6%、4.1%、3.7%で、合計で全国の大学生の27.8%を占める。つまり、3つの一線メガロポリスと4つの准一線メガロポリスには、未来の優秀な生産人口である全大学生の56.7%が集中している。

4.医療リソースが、一線および准一線のメガロポリスに高度に集中


 三甲病院(トップクラス病院)の数で見ると、長江デルタ、珠江デルタ、京津冀の全国シェアはそれぞれ13.2%、6.5%、9.5%で、3つの一線メガロポリス合計で全国の29.2%に達する。成渝、長江中游、粤闽浙沿海、関中平原の全国シェアはそれぞれ7.1%、10.2%、5.6%、3.3%で、4つの准一線メガロポリス合計で全国の26.2%を占める。

 医師数に関しては、長江デルタ、珠江デルタ、京津冀の全国シェアはそれぞれ13.5%、5.2%、8.6%で、3つの一線メガロポリス合計で全国の27.3%を占める。成渝、長江中游、粤闽浙沿海、関中平原の全国シェアはそれぞれ7.5%、8.6%、6%、3.1%で、4つの准一線メガロポリス合計で全国の25.2%を占める。

医療機関病床数に関しては、長江デルタ、珠江デルタ、京津冀の全国シェアはそれぞれ12.7%、4.3%、6.4%で、3つの一線メガロポリス合計で全国の23.4%を占める。成渝、長江中游、粤闽浙沿海、関中平原の全国シェアはそれぞれ8.8%、9.6%、5.7%、3.4%で、4つの准一線メガロポリス合計で全国の27.5%を占める。

一線メガロポリスと准一線メガロポリスには、全国の三甲病院の55.4%、医師数の52.5%、医療機関病床の50.9%が集中している。中国では医療リソース、特に高度医療施設は、中心都市に集中する状況が顕著である。一線および准一線の中心都市は、優れた医療リソースを用い、市民だけでなく、メガロポリス内ひいては全国の患者に高度な医療サービスを提供している。 

5.映画市場は、一線および准一線メガロポリスに集中


 映画館数では、長江デルタ、珠江デルタ、京津冀の全国シェアはそれぞれ19.1%、9.9%、6.6%で、3つの一線メガロポリス合計で全国の35.6%を占める。成渝、長江中游、粤闽浙沿海、関中平原の全国シェアはそれぞれ8.1%、9.3%、6.2%、3%で、4つの准一線メガロポリス合計で全国の26.6%を占める。

 観客動員数では、長江デルタ、珠江デルタ、京津冀の全国シェアはそれぞれ20.0%、10.4%、7.2%で、3つの一線メガロポリス合計で全国の37.6%を占める。成渝、長江中游、粤闽浙沿海、関中平原の全国シェアはそれぞれ8.8%、10.1%、6.6%、2.4%で、4つの准一線メガロポリス合計で全国の27.9%を占める。

 一線メガロポリスと准一線メガロポリスは、全国の映画館数の62.2%と観客動員数の65.5%が集中し、全国の映画興行収入の66.5%に達している。

6.ラグジュアリーブランド消費の急増


 エルメスやルイ・ヴィトンなど11の国際的なラグジュアリーブランドの店舗数では、長江デルタ、珠江デルタ、京津冀の全国シェアはそれぞれ26.8%、6.8%、16.6%で、3つの一線メガロポリス合計で全国の50.2%を占める。成渝、長江中游、粤闽浙沿海、関中平原の全国シェアはそれぞれ9.8%、6.3%、2.8%、4.3%で、4つの准一線メガロポリス合計で全国の23.2%を占める。一線メガロポリスと准一線メガロポリスには、全国の国際ラグジュアリーブランド店舗の73.4%が集中している。

 長江デルタメガロポリスは国際ラグジュアリーブランド店舗数が最も多く、京津冀がそれに続く。成渝、長江中游、遼中南、関中平原の高級品消費熱も注目に値する。豊かな珠江デルタは、意外にも内陸の成渝より3%ポイント低い。

 周牧之教授は「過去20年間、急速なグローバリゼーションは富の創造を世界的に促し、高級品の消費も急速に増加した。2022年の世界の個人高級品市場は2000年の3倍の規模に達した。新型コロナ禍直前の2019年には、中国が世界個人高級品市場シェアの33%を占めた。2030年までには中国の同シェアは40%に達すると予測されている」と指摘する。

7.社会発展格差縮小を目指して


 明暁東氏は「19のメガロポリスは中国経済成長の主要地域で、全国の80%以上の労働人口と90%以上の大学生、80%以上の医療資源と90%以上の映画館など文化施設が集中している。メガロポリスごとに見ると、トップ5のメガロポリスはすべて一線および准一線のメガロポリスである。とくに長江デルタ、珠江デルタ、京津冀は、全国の労働人口の約四分の一と大学生の約30%が集中し、中国で最も活力に満ちたイノベイティブな地域である。長江中游は、全国の大学生の12.6%、三甲病院の10.2%、映画館の9.3%を占め、中国の教育、医療、文化資源を長江デルタに次いで有する、非常に強力な発展ポテンシャルを持つメガロポリスである」と述べている。

 楊偉民中国共産党中央財経領導小組弁公室元副主任は、「〈指標2022〉社会大項目の都市およびメガロポリスの社会発展に対する総合評価を見ると、社会発展は経済発展の結果であり、人文的、歴史的、地域的、民族的など多様な要因の影響を受けている。中国の発展は人間中心の発展であり、経済発展は最終的に人々の生活水準の向上に反映されなければならない。社会大項目の評価は、メガロポリス間の生活水準の状況と消費ポテンシャルを反映している。一線および准一線メガロポリスは、国際ラグジュアリーブランド店舗の全国四分の三を占め、消費力の強さが際立つ。一線および准一線メガロポリスの映画館観客数は全国の三分の二を占め、住民の精神文化へのニーズの高さを示している。しかし、これはまた、メガロポリス間で社会発展に大きな格差があることを示している。中国は地域間および都市間の経済発展格差を縮小するだけでなく、社会発展格差を縮小する努力が欠かせない」と総括している。


【中国語版】
中国網『社会功能向中心城市高度集中:中国城市综合发展指标2022社会大项』(2023年12月27日)

【英語版】
China.org.cn「Social functions gravitate to core cities: A look at social rankings of China Integrated City Index 2022」(2024年1月22日)

China Daily「Social functions gravitate to core cities: A look at social rankings of China Integrated City Index 2022」(2024年1月24日

他掲載多数 

中国メガロポリスの環境品質と課題:「中国総合都市発展指標2022」環境ランキング

雲河都市研究院

編者ノート:

 中国の都市は現在、巨大な経済力をつけてきているものの、依然として様々な環境問題に直面している。中国で最も快適な気候条件に恵まれたメガロポリスは何処か?最も高い農業生産性を持つメガロポリスは何処か?最も良好な空気品質が保たれているメガロポリスは何処か?そして最も二酸化炭素を排出するメガロポリスはどこか?〈中国都市総合発展指標2022〉の環境ランキングの発表を機に、19メガロポリスの環境品質と課題について一連の環境データを用いて解説する。


1.大都市が環境ランキングでトップ10に


 〈中国都市総合発展指標2022〉(以下、〈指標2022〉)の環境大項目ランキングが公表され、経済力の強い大都市がトップ10に名を連ねた。トップ10都市は順に、深圳、上海、広州、厦門、北京、海口、珠海、三亜、東莞、武漢である。2021年と比較して、2022年のランキングでは都市の環境改善への取り組みに重きが置かれた。

 黄微波中国国家発展和改革委員会発展戦略和計画司元一級巡視員は、「〈指標2022〉環境大項目ランキングトップ10都市のうち武漢を除くすべてが東部地域に属している。東部地域の環境重視への姿勢が窺える。武漢は国家中心都市として中部地域の高品質発展を牽引している」と指摘した。

 明暁東中国国家発展和改革委員会発展戦略和計画司元一級巡視員・中国駐日本国大使館元公使参事官は、「〈指標2022〉の環境大項目は、452組のデータから成る水土賦存、気候条件、自然災害、汚染負荷、環境努力、資源効率、コンパクトシティ、交通ネットワーク、都市インフラの9つの小項目、そして自然生態、環境品質、空間構造の3つの中項目に基づき、297の地級市以上の都市と19のメガロポリスを評価する。このランキングの結果、経済に強い都市は高品質発展で大きな成果を上げていた。環境大項目ランキングのトップ20の都市には、4つの一線都市、6つの准一線都市、9つの二線都市が含まれている。これらの都市は、経済力をもって生態環境の改善、CO2の削減をはかっている」と評価した。

 本文は、〈指標2022〉環境大項目ランキングを用いて、19のメガロポリスの主要な環境パフォーマンスを分析する。そのため19メガロポリスに属する223の都市の〈指標2022〉環境大項目ランキング偏差値を、メガロポリス別に「箱ひげ図」と「蜂群図」を重ねて分析、メガロポリスにおける環境大項目で、ランキング偏差値の分布状況と差異を可視化した。箱ひげ図中の横線は、サンプルの中央値、箱の上辺は上位四分位点(75%)、箱の下辺は下位四分位点(25%)、箱本体は50%のサンプル分布を示している。蜂群図は、個々のサンプル分布をプロットした図である。箱ひげ図と蜂群図を重ね合わせることで、サンプルのポジションと全体の分布の双方を示した。

 この分析により、珠江デルタが最も良い環境パフォーマンスを示し、次いで粤閩浙沿海(広東・福建・浙江)、北部湾(海南・広西)、滇中(雲南)、黔中(貴州)、長江デルタ、成渝(四川・重慶)が続く。残りの12のメガロポリスの環境ランキング偏差値の中央値は全国平均以下で、特に寧夏沿黄(寧夏)が最も低かった。

 これについて明暁東氏は、「環境評価の中央値で全国平均以上の7つのメガロポリスには、2つの一線メガロポリス、2つの准一線メガロポリス、3つの二線メガロポリスが含まれている。これに対して全国平均以下の12のメガロポリスには、1つの一線メガロポリス、2つの准一線メガロポリス、7つの二線メガロポリス、2つの三線メガロポリスが含まれる。環境評価の中央値が上位のメガロポリスは、基本的に経済が発展し、自然条件が良い」としている。

2.気候快適度は人口集中の重要条件


 気候は人類が居住する上で最も重要な条件の一つである。19のメガロポリスの中で、気候快適度が最良なのは珠江デルタと北部湾である。次いで滇中、粤閩浙沿海、成渝、長江中游、黔中、長江デルタが続く。これらのメガロポリスはすべて南部地域に集中している。中国人口の45.5%は、気候快適度が全国平均を上回るこれら南部の8つのメガロポリスにある。

 残りの11のメガロポリスの気候快適度は全国平均以下で、中でも哈長(吉林・黒龍江)と天山北坡(新疆ウイグル)の気候条件は最も厳しい。

3.一線准一線の都市が降雨量の多い地域に集中


 降雨量も人間の居住にとって重要な条件の一つである。19のメガロポリスの中で、降雨量が最も多いのは珠江デルタ、粤閩浙沿海、北部湾である。全国平均を上回る降雨量を有するメガロポリスには、長江デルタ、長江中游、成渝、黔中が含まれる。この7つのメガロポリスは全て南部地域にある。

 現在、中国の一線都市4都市のうち3都市、准一線都市9都市のうち7都市は、降雨量が全国平均を上回り、上記7つのメガロポリスに集中している。

 残りの12のメガロポリスの降雨量は全国平均を下回り、中でも寧夏沿黄と天山北坡が最も少なく、呼包鄂榆(陝西・内モンゴル)、蘭州—西寧(甘粛・青海)がそれに続く。

4.農業生産性は南高北低


 19のメガロポリスの中で、耕地面積が最も広いのは哈長と中原(山西・安徽・河南)で、全国の耕地面積に占める割合はそれぞれ11.2%、10.7%に達する。一線メガロポリスの長江デルタ、珠江デルタ、京津冀の全国耕地面積に占める割合はそれぞれ4.5%、0.4%、3.1%で、珠江デルタの割合が最も小さい。准一線メガロポリスの成渝、長江中游、粤閩浙沿海、関中平原の全国耕地面積に占める割合はそれぞれ4.8%、6.6%、2.1%、2.4%で、長江中游の割合が最も大きい。

 農業生産性、即ち単位耕地面積あたりの第一次産業GDPを見ると、最も高いのは珠江デルタで、次いで粤閩浙沿海、北部湾、長江デルタ、成渝が全国平均を上回る。残りの14のメガロポリスの農業生産性は全国平均を下回り、その中には耕地面積が最も広い哈長と中原が含まれる。

 周牧之東京経済大学教授は、「農業生産性は気候、土地資源、水資源などの自然環境だけでなく、農業への投資にも左右される。農業生産性が全国平均を上回る5つのメガロポリスはすべて南部地域に位置し、且つ農業に大規模な投資を行える経済力を持つ」と指摘している。

5.炭素排出削減圧力は南部より北部が大きい


 二酸化炭素排出の削減が中国の国家戦略になった今日、二酸化炭素排出量は、地域の高品質発展を測る重要な指標となっている。中国で最も二酸化炭素排出量の大きいメガロポリスは長江デルタで、全国に占めるシェアは16%に達している。珠江デルタ、京津冀の同シェアはそれぞれ5.6%、8.6%である。三大メガロポリスの合計シェアは、30.2%を占めている。

 中国二酸化炭素排出量における成渝、長江中游、粤閩浙沿海、関中平原のシェアはそれぞれ2.9%、4.7%、4.7%、3.1%である。4つの准一線メガロポリスの合計シェアは、15.4%である。

 中国二酸化炭素排出量における中原、山東半島(山東)、哈長、呼包鄂榆、遼中南(遼寧)のシェアも高く、それぞれ8.8%、7.8%、4.9%、3.3%、2.9%である。19のメガロポリスの合計シェアは80.9%に達している。

 明暁東氏は、「メガロポリスは人口が最も密集する地域であり、二酸化炭素排出の主要地域である。ゆえにカーボンニュートラル達成の為の主戦場となっている。3つの一線および4つの准一線メガロポリスの二酸化炭素排出量は全国の45.6%にも達している。これらのメガロポリスの高品質発展に期待したい」と述べている。

 「GDP当たりの二酸化炭素排出量」、すなわち「炭素強度」は、一国あるいは地域の経済と二酸化炭素排出量の関係を測る重要な指標である。エネルギー消費量当たり二酸化炭素排出量とGDP当たりエネルギー消費量の相互作用により、炭素強度のレベルが決まる。19のメガロポリスの中で、炭素強度の成績が最も優れているのは成渝である。次いで長江中游、黔中、粤閩浙沿海、北部湾、珠江デルタ、長江デルタが続く。炭素強度の成績が全国平均を上回るこれら7つのメガロポリスは、すべて南部地域に位置している。

 他の12のメガロポリスの炭素強度の成績は全国平均を下回る。その中で炭素強度が最も低いのは哈長で、寧夏沿黄、呼包鄂榆、山西中部(山西)、天山北坡、遼中南、関中平原、京津冀が続く。これら8つのメガロポリスはすべて北部地域にある。

 周牧之教授は、「2000年と比較して、2022年中国の炭素強度は40%以上も低減し、大きな成果を上げた。しかし、先進国と比較するとまだ大きな差がある。現在、中国の炭素強度はアメリカ及び日本の2.8倍、ドイツの3.6倍、イギリスの5,5倍、フランスの6倍である。低炭素発展モデルの実現は各都市にとって、いまだ大きな課題である」と述べている。

6.北部地域の空気品質は依然として厳しい


 空気品質は地域の環境品質を測る最も重要な指標の一つである。空気品質指数(AQI)から見ると、最も空気が綺麗なメガロポリスは滇中、黔中、珠江デルタ、粤閩浙沿海、北部湾である。これら5つのメガロポリスの空気品質指数は全国平均を上回っている。

 残りの14のメガロポリスの空気品質指数は全国平均を下回る。中原が最も空気が汚れている。寧夏沿黄、山西中部、山東半島、蘭州—西寧、天山北坡、京津冀が続く。これら7つのメガロポリスはすべて北部地域に位置している。近年、中国の空気品質は大幅に改善されているが、北部地域の圧力は依然として厳しい。

7.グリーンビルディングは、一線准一線メガロポリスに集中


 グリーンビルディングの数は環境保護意識と環境への投資力を反映している。グリーンビルディング認証「LEED」プロジェクトは、主に一線および准一線のメガロポリスに集中している。中国のグリーンビルディングに占める長江デルタ、珠江デルタ、京津冀の割合はそれぞれ39.1%、15%、17.9%で、これら三つの一線メガロポリスの合計シェアは72%にも達している。

 中国のグリーンビルディングに占める成渝、長江中游、粤閩浙沿海、関中平原の割合はそれぞれ4.7%、4.1%、4.7%、1.1%で、これら四つの准一線メガロポリスの合計シェアは14.6%になる。

 黄微波氏は、「LEEDプロジェクトの分布から見ると、三大メガロポリスの全国シェアが72%を占め、カーボンニュートラルという国家戦略の実施において、これらの地域が大きな貢献をしている」と指摘する。

 楊偉民中国共産党中央財経領導小組弁公室元副主任は、「中国の現代化は多目的なものであり、持続的な経済成長の促進とともに、生態環境の根本的な改善、人々の共同富裕の実現、国家安全と社会安定の確保、カーボンニュートラルの達成を目指している。〈指標2022〉は、中国の都市とメガロポリスの環境を総合的に診断し、中国現代化プロセスを観察するために重要な視点を提供している。〈指標2022〉により、環境評価と経済評価の結果は必ずしも一致しないことがわかった。一部の指標は自然条件によるものが大きい。一部の指標は努力と関連している。都市及びメガロポリスは、経済発展を推進すると同時に、環境品質の改善にも重点を置いてバランスよく取り組む必要がある」と総括している。


【中国語版】
中国網『中国城市群的环境品质和挑战:中国城市综合发展指标2022环境大项』(2023年12月22日)

【英語版】
China.org.cn「Quality and challenges of Chinese megalopolises: A look at major environmental rankings of China Integrated City Index 2022」(2024年1月12日)

中国国務院新聞弁公室(SCIO)「Quality and challenges of Chinese megalopolises: A look at major environmental rankings of China Integrated City Index 2022」(2024年1月12日)

China Daily「Quality and challenges of Chinese megalopolises: A look at major environmental rankings of China Integrated City Index 2022」(20241月12日

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