A Comparative Study of the Science and Technology Innovation Performance of Three Global Science and Technology Clusters
周牧之 東京経済大学教授
■ 編集ノート: イノベーションと企業発展との関係は如何に?周牧之東京経済大学教授が論文の後半で、東京-横浜、広州-深圳-香港、北京の世界三大科学技術クラスターにおける企業発展を比較分析し、それぞれの特色を解き明かす。さらに北京の課題を整理し対策について提案する。
(※論文前半はこちらから)
1 .広州-深圳-香港:メインボード上場企業数が最多
イノベーションと企業との関係を探るため、本論は三大クラスターの企業パフォーマンスも比較した。
上場企業は最も活力のある経済主体の一つである。上場企業数は地域の総合的な経済力を表している。
北京証券取引所が2021年11月15日に開設され、上海証券取引所、深圳証券取引所に続く中国本土の3番目の証券取引所となった[1] 。
本論は、中国本土の三大証券取引所と香港証券取引所、そして東京証券取引所に上場する三大クラスターの企業数を抽出して比較した。
メインボードにおいては、広州-深圳-香港の上場企業数は1,596社と最も多く、東京-横浜はそれに続き1,517社であった。一方、北京の上場企業数は447社と、他の二つの科学技術クラスターの三分の一に過ぎなかった。
2 .東京-横浜:ベンチャー企業上場企業数が最多
主要な証券取引所はメインボード以外にも、ベンチャーや中小企業などを受け入れる市場を併設している。上海証券取引所の科創板[2] 、深圳証券取引所の創業板[3] 、そして東京証券取引所のグロース市場[4] がこれに相当する。本論は、これらの市場に上場する三大クラスターの企業数も抽出し比較した。
東京-横浜は、東京証券取引所グロース市場の上場企業数が383社に達している。
一方、広州-深圳-香港と、北京は、上海証券取引所科創板と深圳証券取引所創業板のいずれかに上場する企業数が、それぞれ210社と169社であった。
図1 三大クラスターメインボード上場企業数、グロース上場企業数、フォーチュン・グローバル500企業数比較
注1:ここでのメインボード上場企業数は、日本企業の場合、東京証券取引所のプライム市場に上場する企業のデータを使用している。 注2:ここでのグロース上場企業数は、中国企業の場合、上海証券取引所の科創板、深圳証券取引所の創業板に上場する企業のデータを使用している。 出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2021』より作成。
3 .北京のフォーチュン・グローバル500企業数:広州-深圳-香港の2.8倍
世界的に評価されている企業の中で、三大クラスターに立地する企業数を比較した。本論は2022年版「フォーチュン・グローバル500」[5] から、三大クラスターに立地する企業を抽出した。「フォーチュン・グローバル500」は、世界の企業間での収益ランキングとしての認識が高い。同ランキングに名を連ねることは、企業の国際的な競争力と認知度を示している。
フォーチュン・グローバル500の企業数は、北京が最も多く、56社にのぼる。広州-深圳-香港は20社で、二つのクラスターの同企業数は中国全体145社の半分を占めている。
一方、東京-横浜の同企業数は36社で、日本全体47社の77%を占めている。
以上の分析から、三大クラスターの中で、北京の上場企業数は最少だが、フォーチュン・グローバル500企業数は最多であることが見て取れる。
4 .北京のユニコーン企業数:東京-横浜の12倍
ユニコーン企業とは、企業の評価額が10億ドル以上に達しながら上場していないスタートアップ企業を指す[6] 。ユニコーン企業の数は、地域が新興企業やベンチャーキャピタルを引き付ける能力を示す指標として注目されている。
本論は、米国の研究機関であるCB Insights社[7] による2022年のデータに基づき、三大クラスターのユニコーン企業数を抽出し分析した。
ユニコーン企業数では、北京が圧倒的に多く、61社に達している。広州-深圳-香港地域は30社である。両クラスターが、中国のユニコーン企業全168社の約54%を占めている。東京-横浜のユニコーン企業は5社にとどまり、北京の8%に過ぎない。
5 .北京:本社機能が集中する一方で、研究開発への投資は低水準
大手企業の本社が北京に集中していることは、中国経済の一つの特徴である。前述したように、北京には56社のフォーチュン・グローバル500企業がある。これは中国の同企業数の39%に当たる。政府が所有する大手国有企業、特にいわゆる「中央企業」の半数以上が、北京に本社を構えている。
しかし、北京に集中する本社機能の中で、研究開発の機能は低い。
北京市と全国各都市の研究開発経費の内訳を比較分析した結果、2021年の北京の研究開発経費に占める企業、政府研究機関、大学の割合は、それぞれ43.2%、43.6%、11.1%となった。これに対して全国平均の企業、政府研究機関、大学の同割合は、それぞれ76.9%、13.3%、7.8%となっている。
全国平均と比べ、北京の研究開発経費支出の内訳は、政府研究機関が突出し、企業の比重は低い。
本論では、GIIのレポートが公表する世界のPCT申請件数トップ50企業の所在地を抽出し、分析した。2021年には、同トップ50に、中国から13社がランクインした。うち深圳は7社で、全国の半数以上を占めた。これに対して本社が集中する北京からは、わずか3社のランクインとなった。
これに対して、広州-深圳-香港は、実践的なイノベーションが地域の活力を盛り立てている。特に深圳を代表するハイテク企業であるファーウェイ[8] 、ZTE[9] 、DJI[10] 、テンセント[11] などが研究開発への大規模な投資を行い、研究成果の実用化も進んでいる。
6 .北京市への提案
本研究で得られた分析結果や知見をもとに、筆者は北京市政府に改善の政策提案を行った。本論の最後にこれらの提案について簡単に紹介する。
(1)社会実装戦略
「北京のイノベーションは、学術研究レベルは高いが、実戦能力は相対的に弱い」というジンクスに対して筆者は、社会実装でイノベイティブな企業を育てる戦略を提示した。
北京は巨大なエリアと経済力を持つ。その強みを活かし、北京で新エネルギーシステム、LRT[12] を始めとする次世代公共交通システム、スマートシティ技術による都市デジタル化[13] 、新型省エネ建築[14] などの実装を積極的に進め、北京の都市インフラ水準を向上させると同時に、これらの領域において、イノベイティブな企業を発展させる。
実装戦略の成功例として、新幹線が挙げられる。1964年に日本が世界で初めて新幹線を実装し、国土経済の高速化を実現するとともに、多数の新幹線関連企業を発展させた。同様に、中国も大規模な高速鉄道(新幹線)の実装を通じて、巨大な高速鉄道経済生態圏を育成した。現在、その高速鉄道システムを海外へも輸出している。一方、アメリカは高速鉄道の実装を行わなかったため、同分野で関連企業をほとんど育てられなかった。
新エネルギー産業の発展も実装と密接に関連している。例えば、東京では新エネルギー技術の実装計画が進行中である。現状の、周辺地域で大規模に発電し、それを長距離輸送して東京で消費する電力供給構造に対して、東京都は屋根での太陽光発電パネルを普及させることで、「大規模集中発電+長距離送電」から「電力自産自消」への転換を図る計画を立てている。これによりエネルギー構造の転換、効率と安全性の向上を図りつつ、太陽エネルギー、水素エネルギー、ITなどの関連企業の発展を促す[15] 。
北京の電力供給構造が東京と類似していることを考慮し、北京は東京が現在電力構造転換に向けて実施する政策的、制度的な試みを研究し、新エネルギー技術を用いて電力構造を改革する実装案を、早急に実施すべきであると提案した。
(2)税制政策で研究開発機能を強化
イノベーションの促進には、産学官の連携が欠かせない。日本の経験は、この点で参考になる。
日本政府は主要な研究開発分野で産学官協力を推進し[16] 、企業と研究機関が共同で研究開発体制を築くことを重視している。強力な「国家チーム」の形成、政府資金を投じた研究開発の成果を関連企業で共有、該当分野での技術力の総体的な向上、国際的な競争力の向上などが図られている。
例として、東京都が水素エネルギーの開発を進める際の取り組みは、注目に値する。福島県にある国の水素エネルギー研究基地と協力し[17] 、さらに都内の各区、大学、協会、企業など100以上の団体と共同で「Tokyoスイソ推進チーム」を設立し[18] 、産学官間の協力を一層強化している。北京市でも類似の取り組みが検討できる。
筆者はさらに北京政府に、企業本社機能における研究開発機能を強化するための税制政策を講じるべきであると提案した。
(3)北京証券取引所をイノベイティブな中小企業の資本市場に
北京の上場企業数は三大クラスターの中で最も少ない。その一因として、北京にはつい最近まで証券取引市場が存在しなかったことが考えられる。東京、香港、深圳にはそれぞれ証券取引所があり企業の成長を引っ張ってきた。資本市場の重要性は無視できない。
北京のユニコーン企業数は、三大クラスターの中で圧倒的に多い。これは北京のベンチャーキャピタルを引き付ける魅力を示している。北京における証券取引所の設置は、イノベイティブな企業に更なるチャンスをもたらすであろう。
北京証券取引所の設立から1年以上が経過した。その実績は、上場企業のうち中小企業の割合は93%、民間企業は92%となっている。上場企業の80%以上がいわゆる「戦略的新興産業」[19] や「先進製造業」[20] である。
北京にはもともと「新三板」と呼ばれる全国中小企業株式移転システムがある[21] 。これは、北京証券取引所の上場予備軍として巨大なポテンシャルを蓄えている。実際、これまで北京証券取引所に上場した企業の多くは、新三板から昇格した。2022年の新三板には6,580社が上場しており、総時価総額は約42兆円(2.1兆元)に達している。新三板に上場する北京の企業は913社にのぼり、広州-深圳-香港の1.5倍である。
筆者は、北京が資本市場の役割を更に重視し、新三板に上場する企業を活かし、北京証券取引所をイノベイティブな中小企業の資金調達市場として発展させることを提案した。そのため、北京証券取引所を中心に、中小企業の発展を支援するベンチャーキャピタル、証券会社、法律事務所などのエコシステムの形成をも重視すべきである。
さらに、北京証券取引所を「一帯一路」[22] につながる国と地域に開放し、北京を中小企業発展の国際的なプラットフォームとすることが望ましい。
(4)北京をアジア最大の国際会議センターに
グローバリゼーションが進む時代において、分業を重視する製造業は交易経済であるのに対して、IT産業などイノベーションを重視する産業は、交流経済である。人的交流を重視するイノベイティブな企業はいま、世界経済を牽引し、都市の革新的な発展のエンジンとなっている。2023年6月末現在、世界時価総額企業トップ10の中で、アップル、マイクロソフト、グーグル、アマゾン、NVIDIA、テスラ、フェイスブック、TSMCの8社がまさしくこうしたイノベイティブなIT企業である。
「中国都市総合発展指標」の「中国都市IT産業輻射力2022」[23] ランキングでは、北京、上海、深圳、杭州、広州、成都、南京、重慶、福州、武漢がトップ10に名を連ねている[24] 。首位の北京は中国IT従業者の19%、メインボード上場IT企業の28.7%を占め、圧倒的な優位性を誇っている。
本論は、「中国都市製造業輻射力」と「中国都市IT産業輻射力」の、都市インフラやサービスとの相関関係分析を行った。両輻射力が都市に求めるインフラとサービスが異なることが明らかとなった。広域交通インフラについては、製造業輻射力は主にコンテナ港との関係が深く[25] 、IT産業輻射力は国際空港との関連性が高かった。
また、製造業輻射力は、貿易との相関関係が高く、IT産業輻射力は国際会議との相関関係が高い。これは、製造業が交易経済で、IT産業が交流経済であることを示している。
さらに、IT産業輻射力は、飲食・ホテル業輻射力、高等教育輻射力、文化・娯楽輻射力、医療輻射力との関連性も高いのに対して、製造業輻射力は、これらの都市機能との相関関係が低い。
こうした分析から、交流経済の代表格としてのIT産業従業者による教育水準及び都市サービスへの要求は、製造業従事者のそれと比べ、はるかに高いことがわかった。
上記の分析に基づき、筆者は、北京をアジア最大の国際会議センターとするよう目指し、国際交流を促し、交流経済を一層発展させるよう提案した。
[1] 現在、中国本土には上海証券取引所、深圳証券取引所、そして北京証券取引所の三大証券取引所がある。上海証券取引所は、1990年11月26日に上海の浦東新区に設立された。同取引所は、主に大手企業や業界の先導的企業を対象とし、メインボード(主板)を中心にサービスを提供している。さらに、2019年にはハイテク企業の成長をサポートするための新しい市場、科学技術イノベーションボード(科創板)が開始された。深圳証券取引所は、1990年12月1日に広東省の深圳市で設立された。同取引所は、中国の多様な経済ニーズに応えるため、メインボード、中小企業ボード、そしてベンチャーボード(創業板)という三つの市場を有している。特に、中小企業や新興企業をサポートすることを重視している。北京証券取引所は、中小企業のイノベイティブな発展をサポートしている。同取引所は、イノベーション型、創業型、成長型の中小企業向けの株式市場として2021年9月2日に設立された。
[2] 上海証券取引所の科創板(科技創新板)は、2019年に新設され、イノベイティブな企業を対象とし、特に新興のテクノロジー企業やスタートアップにとって、資金調達の新たな場となっている。従来の取引板と比べて上場要件が緩和されている。
[3] 深圳証券取引所の創業板は2009年に設立され、成長性の高い中小企業を対象とする。特にイノベイティブなスタートアップにとって、資金調達の場となっている。従来のメインボードに比べ上場要件が緩和され、黒字化していない企業や業績履歴の短い企業でも上場が可能となっている。
[4] 東京証券取引所のグロース市場は、2022年4月4日に導入された新市場区分の一部であり、比較的規模の小さい企業などが参加する市場である。同新市場区分は、企業の流動性、ガバナンス水準、経営成績、財政状態などの項目に基づいて「プライム市場」、「スタンダード市場」、「グロース市場」の3つに区分されている。グロース市場は「高い成長可能性を有する企業向けの市場」と位置づけられている。
[5] フォーチュン・グローバル500は、アメリカの経済誌「フォーチュン」が毎年発表する、総収益を基にランキングした世界の上位500社の企業リストである。同ランキング2022年版では、国別数で1位が中国で136社、2位がアメリカで124社、3位が日本で47社だった。フォーチュン・グローバル500について詳しくは、フォーチュン誌のホームページ(https://fortune.com/ranking/global500/ )(最終閲覧日:2023年8月14日)を参照。
[6] ユニコーン企業とは、未上場のスタートアップ企業の中で、創業から10年以内、企業評価額が10億ドル以上で、テクノロジー分野に属するものを指す。
[7] CB Insights社は、テクノロジー産業やスタートアップのトレンド、投資、マーケット動向に関するデータと分析を提供するアメリカの市場調査会社である。同社は、ベンチャーキャピタル、企業、投資家、政府機関などのクライアントに対して、データベース、調査レポート、市場予測などの情報サービスを提供する。CB Insights社について詳しくは、同社ホームページ(https://www.cbinsights.com/ )(最終閲覧日:2023年8月14日)を参照。
[8] ファーウェイ(華為技術)は、深圳市に本社を置く、通信機器および情報通信技術ソリューションの提供を行う新興企業である。1987年に創業し、現在はスマートフォン、タブレット、PC、ネットワーク機器、クラウドサービスなどの製品やサービスを提供している。同社は、通信ネットワークや、5G技術、スマートフォンなどにおいて世界の先頭を行く。そのためアメリカからかなり制約をかけられている。それにも関わらず、同社は積極的なイノベーションとグローバル展開を続け、情報通信技術産業における主要なプレイヤーとしての地位を確立している。PCT申請件数ランキングで、ファーウェイは5年連続で世界第1位を維持している。
[9] ZTE(中興通訊)は、深圳市に本社を置く、ファーウェイと並ぶ大手通信機器メーカーである。ZTEは、1985年に創業され、モバイル通信機器、ネットワーク機器、通信ソリューションなどの製品やサービスを提供しており、世界中での通信ネットワークの構築や研究開発において活動している。1997年に深圳証券取引所および2004年に香港証券取引所に上場し、2023年8月11日の時点で、ZTEの市場時価総額は約1,693億元(約3兆3,860億円)である。同社は、約7万人の従業員を抱えている。ZTEは、その技術力とグローバル展開を通じて、情報通信技術産業における主要なプレイヤーとしての地位を確立している。しかし、ZTEもアメリカから制裁を受けた。
[10] DJI(大疆創新科技)は2006年に創業した深圳市に本社を置くドローン製造企業である。同社は、高い技術力とブランド力で世界のドローン産業発展を牽引してきた。
[11] テンセント(腾訊)は、1998年に設立された深圳市に本社を置くハイテクノロジー企業である。同社の事業は、インターネット関連サービスやエンターテインメント、AIに及ぶ。特にソーシャルメディアプラットフォーム「WeChat」やオンラインゲームで知られる。
[12] 次世代型路面電車システム(LRT: Light Rail Transit)は、近年の都市交通の発展とともに注目される交通手段である。LRTは、都市の中心部や郊外を結ぶ軽軌道交通システムを指し、その特徴は、低床設計、環境に優しい電気駆動、そして都市の景観や歩行者空間との調和を重視したデザインにある。次世代型としてのLRTは、従来の路面電車やトラムとは異なり、より高速で効率的な運行を可能とし、騒音や振動が少ないことから、都市部での導入が進められている。また、バスや自動車と比べても大量の乗客を一度に輸送できるため、交通渋滞の緩和や公共交通の利便性向上に貢献している。筆者はLRTの中国での普及を提唱してきた。筆者が総合プロデューサー・総括を務めた「中国江蘇省鎮江生態ニューシティマスタープラン」ではLRTをベースにした100万人都市の計画をまとめた。
[13] スマートシティ技術の導入により、都市の運営やサービスが効率化され、市民生活の質の向上がはかられる。IoT、ビッグデータ、AIのような先進技術を利用した都市管理システムの開発と導入は、都市経済の新しい成長エンジンと成り得る。
[14] 建築のエネルギー消費を削減するための新しい技術や材料の採用は、都市のエネルギー効率を向上させる鍵となる。
[15] 東京都は、2050年までの温室効果ガス排出量を実質0%にする目標「2050年ゼロエミッション」と、2030年までの排出量を2000年基準で50%削減する目標「2030年カーボンハーフの実現」を掲げている。この取り組みの一環として、2025年4月から「新築建物を対象とした太陽光発電の設置義務化精度」を導入する予定である。この制度の対象は、延べ床面積2000平方メートル未満の新築建物で、年間延べ床面積2万平方メートル以上を施工・販売する業者約50社に限定される。地域の日照量に応じて、設置すべき建物の割合が区分され、都心部は30%、区部の大半は70%、市部の多くは85%と定められている。ただし、屋根面積20平方メートル未満の建物や日当たりの不良な建物は対象外とされる。義務達成が困難な場合、罰則は設けられていないが、都が指導や勧告、事業者名の公表を行うこととなっている。また、2000平方メートル以上の大規模建物や駐車場付きの住宅には、電気自動車の充電設備の設置も義務付けられている。
[16] 日本政府は、産学官の連携を強化するため2000年に制定の「産業技術力強化法」をはじめとする、研究者への特許料の減免措置や技術移転の促進など、具体的な施策を実施してきた。さらに、第2期(2001~2005年度)と第3期(2006年~2010年度)の科学技術基本計画では、大学における産学官連携や知財管理の部門設置が進められ、イノベーションの創出を重視している。
[17] 東京都は水素社会の実現を目指しており、その一環として燃料電池自動車の普及や水素ステーションの整備を進めている。さらに2016年5月に東京都は、再生可能エネルギーの導入を推進する先駆けの地として水素の研究開発を行う福島県、そして産業技術総合研究所と共に、CO2 フリー水素や再生可能エネルギーの研究開発に関する協定を締結した。
[18] 東京都は水素エネルギーの普及を目的とし、官民連携の「Tokyoスイソ推進チーム」を2017年11月に設立した。同チームは、民間企業、業界団体、自治体、学校など、水素エネルギーの普及に関心を持つ119の団体から成る。都は同チームを通じて水素エネルギーの利活用を拡大し、情報の共有や共通の情報発信を行うことを目指す。
[19] ここでの「戦略的新興産業」とは、重要な先端科学技術の進展を基盤とし、未来の科学技術や産業の新たな方向性を示唆するとして中国政府が指定した産業である。同産業は、省エネ・環境保護、新世代情報技術、生物、ハイエンド設備製造、新エネルギー、新材料、そして新エネルギー自動車の7分野に区分される。
[20] ここでの「先進製造業」は、産業の高度化とイノベーションを代表するものとして中国政府が指定した分野であり、新世代情報技術、新素材、生物医学薬学、ハイエンド医療機器、高品質かつ高機能消費財、新エネルギー、インテリジェントネットワーク自動車などに及ぶ。
[22] 一帯一路は、2017年から中国が提唱する経済協力の枠組みである。具体的には、陸上の「シルクロード経済帯(一帯)」と海上の「21世紀の海上シルクロード(一路)」の2つのルートから成る。同枠組みは、アジア、ヨーロッパ、アフリカを結ぶ広域経済圏の形成を目指し、インフラ整備、貿易、投資、資源開発など多岐にわたる協力が進んでいる。
[21] 「新三板」とは、中国における「全国中小企業株式転換システム」の通称である。これは、中小企業の資本を調達するための非公開株の取引プラットフォームとして、2006年に設立された。新三板は、上海と深圳の証券取引所に上場する前のステップとして、中小企業が資本市場にアクセスするための橋渡しの役割を果たす。
[23] 「中国都市総合発展指標」で使用する「輻射力」とは都市の広域影響力の評価指標であり、都市のある業種の商品やサービス移出・移入量を、当該業種従業者数と全国の当該業種従業者数の関係、および当該業種に関連する主なデータを用いて複合的に計算した指標である。
[24] IT産業輻射力について詳しくは、雲河都市研究院「【ランキング】中国IT産業スーパーシティはどこか?〜2020年中国都市IT産業輻射力ランキング」(https://cici-index.com/3957/)(最終閲覧日:2023年8月14日)を参照。
[25] 製造業輻射力について詳しくは、雲河都市研究院「【ランキング】中国で最も輸出力の高い都市はどこか? 〜2020年中国都市製造業輻射力ランキング」(https://cici-index.com/3888/)(最終閲覧日:2023年8月14日)を参照。
(本論文では栗本賢一、甄雪華、趙建の三氏がデータ整理と図表作成に携わった)
本論文は、周牧之論文『世界三大科学技術クラスターパフォーマンスに関する比較分析』より抜粋したものである。『東京経大学会誌 経済学』、319号、2023年。